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特開2024-24773食品分析システム、食品分析システムに用いられる部材、信号発生装置、及び信号解析装置
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  • 特開-食品分析システム、食品分析システムに用いられる部材、信号発生装置、及び信号解析装置 図1
  • 特開-食品分析システム、食品分析システムに用いられる部材、信号発生装置、及び信号解析装置 図2
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  • 特開-食品分析システム、食品分析システムに用いられる部材、信号発生装置、及び信号解析装置 図10
  • 特開-食品分析システム、食品分析システムに用いられる部材、信号発生装置、及び信号解析装置 図11
  • 特開-食品分析システム、食品分析システムに用いられる部材、信号発生装置、及び信号解析装置 図12
  • 特開-食品分析システム、食品分析システムに用いられる部材、信号発生装置、及び信号解析装置 図13
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024773
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】食品分析システム、食品分析システムに用いられる部材、信号発生装置、及び信号解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/00 20060101AFI20240216BHJP
   G01N 33/02 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G01N19/00 E
G01N33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127642
(22)【出願日】2022-08-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年1月27日 AROB-ISBC-SWARM 27th 2022(オンライン集会(Zoom))における公開(ウェブサイト https://isarob.org/symposium/index.php?main_page=arob27)
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100167911
【弁理士】
【氏名又は名称】豊島 匠二
(72)【発明者】
【氏名】小川 純
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 航佑
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】川上 勝
(72)【発明者】
【氏名】古川 英光
(57)【要約】
【課題】従来に比べてより確立的な物性評価指標を与えることができる食品分析システム等を提供することを目的とする。
【解決手段】信号発生装置と信号解析装置を備える食品分析システムである。信号発生装置は、第一の基体と、第一の基体の厚み方向における一方の面側に突出している第一の突出部を有する、第一の部材と;第二の基体と、第二の基体の厚み方向における一方の面側に突出している第二の突出部を有する、第二の部材と;第二の基体の厚み方向における一方の面側に設けた載置部と;を含む。第二の突出部と載置部を利用して載置された食品サンプルを、第一の突出部と第二の突出部の間に挟み込んで圧力を加えることにより、第一の基体、第二の基体、及び載置部の少なくとも1つに設けたセンサーに信号を発生させるように構成されている。信号解析装置は、センサーを通じて得られた信号を解析する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号発生装置と信号解析装置を備える食品分析システムであって、
前記信号発生装置は、
第一の基体と、前記第一の基体の厚み方向における一方の面側に突出している第一の突出部を有する、第一の部材と、
第二の基体と、前記第二の基体の厚み方向における一方の面側に突出している第二の突出部を有する、第二の部材と、
前記第二の基体の厚み方向における前記一方の面側に設けた載置部と、
を含み、
前記第二の突出部と前記載置部を利用して載置された食品サンプルを、前記第一の突出部と前記第二の突出部の間に挟み込んで圧力を加えることにより、前記第一の基体、前記第二の基体、及び前記載置部の少なくとも1つに設けたセンサーに信号を発生させるように構成されており、
前記信号解析装置が、前記センサーを通じて得られた信号を解析する、
ことを特徴とする食品分析システム。
【請求項2】
前記第一の部材、及び/又は、前記第二の部材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂から成る、請求項1に記載の食品分析システム。
【請求項3】
前記第一の基体の厚み方向における他方の面側に第一のセンサーを設置し、及び/又は、前記第二の基体の厚み方向における他方の面側に第二のセンサーを設置した、請求項1に記載の食品分析システム。
【請求項4】
前記第二の基体の厚み方向において前記第二のセンサーを覆うように第一の伝播材を設けた、請求項3に記載の食品分析システム。
【請求項5】
前記第一の伝播材は、化学架橋ゴム又は化学架橋ゲルである、請求項4に記載の食品分析システム。
【請求項6】
前記載置部の少なくとも一部が、前記第二の部材によって形成されている、請求項1に記載の食品分析システム。
【請求項7】
前記載置部の少なくとも一部が、第二の伝播材によって形成されている、請求項1に記載の食品分析システム。
【請求項8】
前記第二の伝播材は、物理架橋ゲルである、請求項7に記載の食品分析システム。
【請求項9】
前記載置部に設けた第三のセンサーを前記第二の基体の厚み方向において前記物理架橋ゲルの内部に設けた、請求項8に記載の食品分析システム。
【請求項10】
前記第一の突出部の突端、及び/又は、前記第二の突出部の突端は、ヒトの歯状、線状、点状、面状のいずれかの形状、又は、これらの中の少なくとも2つを組み合わせた形状を有する、請求項1に記載の食品分析システム。
【請求項11】
前記第一の基体の厚み方向に沿って視たときに、前記第一の基体に設置される第一のセンサーの少なくとも一部が、前記第一の突出部の突端が形成する軌跡によって周囲を取り囲まれている、
及び/又は、
前記第二の基体の厚み方向に沿って視たときに、前記第二の基体に設置される第二のセンサーの少なくとも一部が、及び/又は、前記載置部に設置される第三のセンサーの少なくとも一部が、前記第二の突出部の突端が形成する軌跡によって周囲を取り囲まれている、請求項1に記載の食品分析システム。
【請求項12】
前記軌跡の少なくとも一部が、湾曲している、請求項11に記載の食品分析システム。
【請求項13】
前記信号解析装置が、前記信号に基づいて前記食品サンプルの特徴を推定するように機械学習を行った学習済みの学習モデルを含む、請求項1に記載の食品分析システム。
【請求項14】
前記特徴が、前記食品サンプルの種別、品質、及び再現性のいずれかである、請求項13に記載の食品分析システム。
【請求項15】
前記推定に物理リザバー計算を使用する、請求項13に記載の食品分析システム。
【請求項16】
前記第一の基体、前記第二の基体、及び前記載置部の中の少なくとも2つに設けたセンサーが、同じ構造を有する、請求項1に記載の食品分析システム。
【請求項17】
前記センサーが圧電素子であり、前記信号が時系列データである、請求項1に記載の食品分析システム。
【請求項18】
前記圧力を、前記第一の部材と前記第二の部材に取り付けたロボットのエンドエフェクタを利用して加えるように構成されている、請求項1に記載の食品分析システム。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれかに記載の食品分析システムに用いられる、前記第一の部材、前記第二の部材、前記信号発生装置、又は、前記信号解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品分析システム、特に、信号解析装置を備えた食品分析システムと、食品分析システムに用いられる部材、信号発生装置、及び信号解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分析に使用される既存技術は、官能評価と物性評価に大別される。官能評価は、人の五感(視覚、味覚、触覚、嗅覚、聴覚)や試食者へのアンケート表を用いた主観的、統計的な指標に基くものである。この評価方法は、個人の主観に依存する要素があり、この結果、汎用的な傾向を解析するために多くの調査母数が必要である等の欠点がある。一方、物性評価は、装置、圧子、ロードセルなどを用いて測定された、圧縮、引張、押しつぶし等に関する客観的、定量的な指標に基づくものである。よって、官能評価に比べて、より客観的な評価を迅速に得られるといった利点を有するが、測定された数値等は乱雑な傾向を示すことが多いため、標準的な解釈を与えることがしばしば困難になる等の欠点がある。
【0003】
ところで、食品加工技術では、今日、3Dフードプリンティングといった新しい形態の食品製造方法が確立されつつある。3Dフードプリンティングによれば、形状の自由度が高い様々な食品を容易に製造することができるが、このような方法で製造された食品の品質、再現性等について、食品業界ではこれまでほとんど議論されてこなかった。3Dフードプリンタが登場したことで、食品業界等においても、今後、より客観的、定量的な指標に基づいて食品の品質、再現性等の分析を行うことができる方法論の確立、更に言えば、物性評価に基づく方法論の確立がますます重要な課題となることは明らかである。
【0004】
物性評価に関連して、近年、定量的な食感評価に関する研究として、非特許文献1に開示されているような、機械学習と食感データを組み合わせた興味深い研究結果が発表された。この非特許文献1には、複数種類の市販のポテトチップスを、奥歯に見立てた圧縮装置を用いて破砕した際に得られる時系列データを用いることによって、約80%の精度でそれらの種類を判別することに成功した、との報告がなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shunsuke Yoshida, Makoto Takemasa, “Food textureanalysis based on machine learning”, The 34th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2020
【非特許文献2】「システム工学を変革するソフトロボット学」特集号 「物理リザバー計算の射程-ソフトロボットを例に」 中嶋浩平 Vol. 63, No. 12, pp.505-511, 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来に比べてより確立的な物性評価指標を与えることができる食品分析システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様による食品分析システムは、信号発生装置と信号解析装置を備える食品分析システムであって、前記信号発生装置は、第一の基体と、前記第一の基体の厚み方向における一方の面側に突出している第一の突出部を有する、第一の部材と;第二の基体と、前記第二の基体の厚み方向における一方の面側に突出している第二の突出部を有する、第二の部材と;前記第二の基体の厚み方向における前記一方の面側に設けた載置部と;を含み、前記第二の突出部と前記載置部を利用して載置された食品サンプルを、前記第一の突出部と前記第二の突出部の間に挟み込んで圧力を加えることにより、前記第一の基体、前記第二の基体、及び前記載置部の少なくとも1つに設けたセンサーに信号を発生させるように構成されており、前記信号解析装置が、前記センサーを通じて得られた信号を解析することを特徴として有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来に比べてより確立的な物性評価指標を与えることができる食品分析システム等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の好適な一つの実施形態としての食品分析システムのブロック図である。
図2】信号発生装置をロボットアームに取り付けた状態で撮影した写真である。
図3】信号発生装置に食品サンプル載置した使用状態の一例を撮影した写真である。
図4】信号発生装置の分解斜視図を模式的に示した図である。
図5】信号発生装置の構成部材である上顎部材と下顎部材を後側から見た概略斜視図である。
図6】信号発生装置の構成部材である上顎部材と下顎部材の側面図である。
図7】信号発生装置の構成部材である上顎部材と下顎部材の正面図である。
図8】第一乃至第三のセンサーを用いて、ある1つの食品サンプルについて発生させた波形の一例を示す図である。
図9】信号解析装置による一例としての処理フローを示す図である。
図10】信号解析装置による前処理によって生成した波形データの一例を示す図である。
図11】物理レザバー計算の概念図を示す図である。
図12】実施例で使用した食品サンプルを示した図である。
図13】実施例8で用いた突出部の変形態様例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態で説明する寸法、材料、形状及び部材の相対的な位置等は任意であり、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されるものではない。
【0011】
1.食品分析システム
図1に、本発明の好適な一つの実施形態としての食品分析システムのブロック図を示す。食品分析システム1は、信号発生装置10と信号解析装置20を含む。信号発生装置10は、分析対象である食品サンプルから分析に必要とされる信号を発生させるための装置、信号解析装置20は、信号発生装置10によって発生された信号を解析するための装置である。このシステム1から得られる出力は、例えば、食品サンプルの種別、品質、再現性等の物性評価指標である。
【0012】
2.信号発生装置
(1)全体構成
【0013】
図2は、信号発生装置10をロボットアーム21に取り付けた状態で撮影した写真、図3は、信号発生装置10に食品サンプル3を載置した例示的な使用状態を撮影した写真である。
【0014】
信号発生装置10は、ヒトの口腔に類似する形状を有する。ヒトの口腔内には、歯、歯茎、舌など、それぞれ異なる物性を持つ器官が存在し、食品が口腔内に入ったときは、歯や舌の感触によって食品の食感や形状を多面的に認識することができる。この点に着目し、信号発生装置10をヒトの口腔に類似する形状とした。但し、本装置10の形状を、口腔に限定する意図はなく、以下の説明からも明らかなように、本発明の思想を用いて食品サンプル3の分析に必要な信号を発生させることができれば、ヒトの口腔に全く類似しない形状とすることができる。
【0015】
図4は、図2図3に示した信号発生装置10の分解斜視図を模式的に示した図である。更に、図5に、信号発生装置10を後側から見た概略斜視図を、図6に、その側面図を、図7に、その正面図を、それぞれ示す。
【0016】
信号発生装置10は、上顎部材(第一の部材)11、下顎部材(第二の部材)12、及び載置部を含む。上顎部材11はヒトの上顎に、下顎部材12はヒトの下顎に、更に、載置部(13等)はヒトの舌に、それぞれ相当し得る。上顎部材(第一の部材)11と下顎部材(第二の部材)12は、分離可能である。載置部(13等)は、少なくとも使用時には、下顎部材12と共に使用される。
【0017】
上顎部材11と下顎部材12は、ヒトが物を噛むのと同様に、それらの間に物を挟み込んで圧力を加えるように使用される。圧力は、例えば、上顎部材11と下顎部材12に取り付けたロボットアーム21のエンドエフェクタ22(図2図3参照)を利用して加えることができる。圧力を加えることにより、歯に相当する部分(112a、122a)や載置部(13、43)に生じた振動は、上顎部材11、下顎部材12、及び載置部を通じて、これら上顎部材11等との関係で設けた第一乃至第三のセンサー31~33に伝達され、これらのセンサーが信号を発生する。このように、複数の部材を組み合わせて信号を発生させることにより、より複雑且つ様々な情報を含んだ信号を得ることができるようになっている。
【0018】
(2)上顎部材
上顎部材11は、第一の基体111と第一の突出部112を含む。
<第一の基体>
第一の基体111は、所定の厚みを有し、厚み方向「α」と直交する「β-γ」面方向において略平坦な形状を有する。また、第一の基体111は、厚み方向「α」に沿って視たときに、一部において湾曲している略U字状の閉じた輪郭を成している。上顎部材11をロボットアーム21に装着するため、U字の上部を閉じる位置に、「β-γ」面方向において外部に突出した取付部113が設けられている。上顎部材11は、取付部113のねじ穴113aを利用して、ロボットアーム21の所定位置にネジ固定することができる。
【0019】
<第一の突出部>
第一の突出部112は、第一の基体111の厚み方向「α」における一方の面111a側に突出させた状態で設けられている。第一の突出部112の形状は、米国保健福祉省の国立衛生研究所によって公開されている顎模型に準拠するものであってもよい。第一の突出部112は段状に形成されており、上段112aは、ヒトの歯に相当する部分、下段112bは、ヒトの歯茎に相当する部分となっている。特に、上段112aは、ヒトの歯状に形成されており、従って、若干複雑な形状を有するが、このように多少複雑な形状も、3Dプリンターを用いることにより比較的簡単に造形することができる。厚み方向「α」に沿って視たとき、第一の突出部112は、一部において湾曲した略U字状の開いた輪郭を成しており、第一の突出部112の突端112cが形成する軌跡もまた、これに対応して略U字状の輪郭を成している。
【0020】
<製造材料>
上顎部材11は、食品サンプル3を第一の突出部112と第二の突出部122の間に挟み込んで圧力を加えたときに、第一の突出部112にて、分析に必要な振動を生じさせ、この振動を伝播させることにより、例えば、第一のセンサー31に伝達する機能を有する。従って、上顎部材11は、振動を減衰させにくい比較的硬質の材料で製造されるのが好ましい。上顎部材11の材料としては、例えば、PLA(ポリ乳酸)、ABS(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂)、TPU(熱可塑性ポリウレタン)等の熱可塑性樹脂、フェノール、エポキシ、ポリイミド等の熱硬化性樹脂、石膏パウダー等が好ましい。これらの材料の中でも、取り分け、熱可塑性樹脂、特に、PLAが好ましい。PLAは、硬質高分子材料であり、且つ、3Dプリンターのフィラメントとして広く一般に使用されているからである。3Dプリンターの使用を可能とするため、熱硬化性樹脂についても、例えば、フェノールやポリイミド等の3D造形可能なものが好ましい。但し、振動を生じさせ且つ伝播させる働きを有する材料であれば、他の材料を使用することもできる。
【0021】
上顎部材11における振動の減衰は、粘弾性測定を通じて得られる弾性成分(貯蔵弾性率)と粘性成分(損失弾性率)といった2つの観点から考察することができる。一般に、弾性成分が大きければ、振動は減衰しにくく、粘性成分が大きければ、振動は減衰し易い。このように、減衰量は、弾性成分と粘性成分の相対量によって変化するということができる。従って、上顎部材11に使用される材料としては、弾性成分が粘性成分よりも有意に大きいことが好ましく、例えば、縦弾性率(ヤング率)及び横弾性率(剛性率あるいはずり弾性率)ともに、0.1MPa~4GPa程度のものが好ましい。
上顎部材11は型成形できるのであれば、上記のいずれかの材料により、一体的に造形することもできる。一体的に造形することにより、上顎部材11を通じて伝達される振動の減衰を抑制することができる。但し、必ずしも一体的に造形する必要はなく、例えば、第一の基体111と第一の突出部112を別々に製造した後に、それらを組み合わせてもよい。
【0022】
<第一のセンサー>
第一の基体111の上部、言い換えれば、第一の突出部112を設けた一方の面111a側の反対側である、第一の基体111の厚み方向「α」における他方の面111b側に、第一のセンサー31を設置してもよい。第一のセンサー31は、上顎部材11に生じた振動を感知して振動波形(時系列データ)を発生させるものであって、第一の突出部112とは反対側に、このようなセンサーを配置することにより、上顎部材11の表面及び内部を通過することにより生じた、周波数応答や振幅等の程度が異なるより複雑且つ様々な情報を含んだ振動波形を検出することができる。第一のセンサー31は、第一の基体111の厚み方向「α」に沿って視たときに、好ましくはいずれかの「β-γ」面において、少なくとも一部の周囲を、好ましくは図4図5によく示されるように全ての周囲を、第一の突出部112の突端112cの軌跡によって取り囲まれた状態で位置付けられる。このような位置付けとすることにより、第一のセンサー31は、第一の突出部112から派生したより多くの振動を、それらの減衰を最小限に抑制しつつ感知することができる。第一のセンサー31は、上顎部材11の製造時に上顎部材11に予め埋め込んだ状態で設けてもよいし、上顎部材11を製造した後に上顎部材11に配設してもよい。配置された第一のセンサー31の上部は、例えば、第一の基体111の厚みを利用して形成された凹部114に埋め込み部材115を埋め込むことによって保護される。但し、第一のセンサー31は、必ずしも必要なものではなく、分析すべき食品サンプルによっては、後述する他のセンサーを設ければ十分である。
【0023】
(3)下顎部材
下顎部材12は、上顎部材11と同様に、第二の基体121と第二の突出部122を含む。また、下顎部材12は、上顎部材11と同様に、食品サンプル3を第一の突出部112と第二の突出部122の間に挟み込んで圧力を加えたときに、第二の突出部122にて、分析に必要な振動を生じさせ、この振動を伝播させる機能を有する。以下、下顎部材12について、上顎部材11との相違点、及び、上顎部材11との関係を中心に説明する。特に説明しない事項については、上顎部材11と同様に考えてよい。
【0024】
<第二の基体>
第二の基体121は、所定の厚みを有し、厚み方向「α」と直交する「β-γ」面方向において略平坦な形状を有する。念のため付言すると、第二の基体121との関係でここに記載した「厚み方向「α」」及び「「β-γ」面」の語は、第二の基体121との関係で記載した厚み方向等を意味し、第一の基体111との関係で上に記載した「厚み方向「α」」等の語とは、厳密には異なる方向等を意味する。しかしながら、第一の基体111と第二の基体121の厚み方向等は図4等において共通しているため、便宜上、第一の基体111と第二の基体121の双方につき、「厚み方向「α」」等の同じ語を用いることにした。第一の基体111と同様に、第二の基体121は、厚み方向「α」に沿って視たときに、一部において湾曲している略U字状の閉じた輪郭を成している。下顎部材12をロボットアーム21に装着するため、U字の上部を閉じる位置には、上顎部材11と同様に、「β-γ」面方向において外部に突出した取付部123が設けられている。
【0025】
<第二の突出部>
第二の突出部122は、第二の基体121の厚み方向「α」における一方の面121a側に突出させた状態で設けられている。第二の突出部122の形状は、米国保健福祉省の国立衛生研究所によって公開されている顎模型に準拠するものであってもよい。第二の突出部122は段状に形成されており、上段122aは、ヒトの歯に相当する部分、下段122bは、ヒトの歯茎に相当する部分となっている。特に、上段122aは、ヒトの歯状に形成されており、第一の突出部112の上段112aとの間で、ヒトの歯の噛み合わせを再現できるような形状を有している。厚み方向「α」に沿って視たとき、第二の突出部122は、一部において湾曲した略U字状の開いた輪郭を成しており、第二の突出部122の突端122cが形成する軌跡もまた、これに対応して略U字状の輪郭を成している。
【0026】
<第二のセンサー>
第二の基体121の底部、言い換えれば、第二の突出部122を設けた一方の面121a側の反対側である、第二の基体121の厚み方向「α」における他方の面121b側に、後述する第一の伝播材42とともに第二のセンサー32を設置してもよい。尚、第二の基体121の底部の状態を明らかにするため、図6図7には、これら第二のセンサー32及び第一の伝播材42を示していない。また、特に図示していないが、これらの部材を、第二の基体121の底部に、より安定した状態で確実に設置させるため、第一の基体111の略U字状の輪郭に沿って底側に向って所定の高さで立ち上げた帯状体を設けてもよい。帯状体を設けた場合には、第二の基体121の底部と略U字状の帯状体とで形成される空間に、第二センサー32を、第一の伝播材42とともに確実に設置することができる。第二のセンサー32は、下顎部材12に生じた振動を感知して波形(時系列データ)を発生させるものであって、第二の突出部122とは反対側に、このようなセンサーを配置することにより、下顎部材12の表面及び内部、更に、後述する第一の伝播材42を設けた場合には、第一の伝播材42を通して生じた、周波数応答や振幅等の程度が異なるより複雑且つ様々な情報を含んだ振動波形を検出することができる。第二のセンサー32は、第二の基体121の厚み方向「α」に沿って視たときに、好ましくはいずれかの「β-γ」面において、少なくとも一部の周囲を、好ましくは図4図5によく示されるように全ての周囲を、第二の突出部122の突端122cの軌跡によって取り囲まれた状態で位置付けられる。このような位置付けとすることにより、第二のセンサー32は、第二の突出部122から派生したより多くの振動を、それらの減衰を最小限に抑制しつつ感知することができる。但し、第二のセンサー32は、必ずしも必要なものではなく、分析すべき食品サンプルによっては、第一のセンサー31を設ければ、または、後述する他のセンサーを設ければ十分である。
【0027】
<第一の伝播材>
第二の基体121の底部に、第二のセンサー32とともに第一の伝播材42を設けてもよい。第一の伝播材42は、食品サンプル3を第一の突出部112と第二の突出部122の間に挟み込んで圧力を加えたときに生じた振動を伝播させることができる部材であれば足りる。但し、第二のセンサー32を用いる場合には、少なくとも、この振動を第二のセンサー32に伝播させる媒質として機能する。第一の伝播材42は、厚み方向「α」に沿って視たときに、「β-γ」面において、第二の基体121の略U字の輪郭と略同じ大きさを有するものとしてもよい。尚、上述したように、図6図7に、第二のセンサー32及び第一の伝播材42は示されていない。
【0028】
一般に、軟質材料の変形を測定する場合には、材料の弾性よりも柔らかいセンサーを使用し、センサーの変形が対象物の変形を十分に捉えることができるようにする。しかしながら、食品は多種多様であるため、適切な柔らかさのセンサーを選択することは事実上不可能である。そこで、本実施形態では、ヒトが、歯や舌など、弾性の異なる器官を組み合わせて咀嚼することで、食感を認識していることに鑑みて、ヒトの口腔構造を参考に、比較的硬質の材料から成る下顎部材12をこれより柔らかい材料から成る第一の伝播材42と組み合わせることにより、食品サンプルを弾性の観点から多面的に測定することで、より多くの情報を得ることを試みた。
【0029】
一例としての第一の伝播材42の材料を以下に説明する。尚、以下の説明では、第一の伝播材42の材料を、後述する第二の伝播材43の材料、及び、上顎部材11及び下顎部材12の材料と異ならしめた例を説明するが、実施例6、7の結果からも推察することができるように、必ずしも、これらを異ならしめる必要はなく、また、いずれかの材料が第一の伝播材42の材料として常に最適というわけでもない。従って、以下の記載は、第一の伝播材42の材料を限定することを意図したものではない。
【0030】
第一の伝播材42の材料としては、例えば、シリコーン、ウレタン等の化学架橋ゴム、及び、例えば、高強度ゲル、形状記憶ゲル、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸等の化学架橋ゲルを用いることができる。これらの材料の中でも、特に、軟質ポリマー材料であるシリコーンが好ましい。シリコーンによれば、例えば、2成分の混合物として、容易に硬さを調整することもできる。
【0031】
上記の化学架橋ゴムでは、弾性成分が粘性成分よりも大きいことから、これらの化学架橋ゴムは、振動の減衰が起きにくい性質を有する。
また、上記の化学架橋ゲルは、粘弾性について、上記の化学架橋ゴムとほぼ同じ性質を有し、振動の伝わり方もこれと同様であり、この結果、振動の減衰が起きにくい性質を有する。更に、この化学架橋ゲルは、架橋密度が高くなったり、微結晶による時間的に安定な物理架橋密度が高くなったりすると、弾性率が高く(硬く)なり、伝播速度が速くなり、硬質高分子材料(プラスチック)に近づく傾向を有する。
【0032】
上述の通り、第一の伝播材42は、上顎部材11と同様に、振動の減衰が起きにくい性質を有するものの、上顎部材11ほど振動を伝播させないことから、第一の伝播材42を用いることによって、分析に寄与しない小さな振動(雑音)を除去するフィルタ機能を有する。
【0033】
更に、以下に説明するように、第一の伝播材42は、振動を遅延させることによるフィルタ機能をも有する。よく知られているように、上顎部材11等の固体に生じる振動波形には、縦波(疎密波)と横波が含まれる。ここで、固体の剛性率G、体積弾性率K、密度ρとしたときの縦波の伝播速度(音速)cは、
c2= ( K+ 4G/ 3 )/ ρ (1)
で与えられ、一方、横波の伝播速度cは、
c2= G/ ρ (2)
で与えられる。
【0034】
上記式(1)及び式(2)から明らかなように、一般に、縦波は横波よりも伝播速度が早く、物質によっては、伝播速度の差が倍以上になることがある。例えば、第一の伝播材42の材料として上述した化学架橋ゴム又は化学架橋ゲルを用いた場合、上述した上顎部材11の材料と、第一の伝播材42の材料とでは、伝播速度について、縦波で数10%、横波で数倍の違いを生じさせることもでき、この結果、第一の伝播材42を介して第二のセンサー32に伝達される信号と、上顎部材11に設けた第一のセンサー31に伝達される信号等との間に時間差が生じ、この時間差を利用して、真に分析に必要な振動のみを抽出することもできる。
【0035】
尚、上記の点に関連して、プラスチック、ゴム、ゲルなどの密度はあまり違いはなく、おおよそ1g/cm3=103kg/m3であることから、縦波や横波の伝播速度は、大体c(m/s)=[G(Pa)/ 103ρ(g/cm3)]^(1/2)でその大まかな大きさがわかる。
例(常温,縦波;横波):鉄(3240 m/s ;1220 m/s)、氷(3230 m/s ;1600 m/s)、プラスチック(ポリエチレン)(1950 m/s ;540 m/s)、エラストマー(ゴムやゲル)(1500 m/s ;120 m/s)
【0036】
第二の基体121に第二のセンサー32を設ける場合、第一の伝播材42は、少なくとも第二の基体121の厚み方向「α」において第二のセンサー32を覆った状態で設ける。第一の伝播材42は、2つの部材42-1、42-2から形成されてもよい。第二のセンサー32は、これら2つの部材42-1、42-2によって挟み込まれた状態で設ける。第一の伝播材42は、第二のセンサー32とともに、例えば、第一の伝播材42の粘着力を利用して、また、粘着力が不十分な場合には接着剤をも利用して、第二の基体121の他方の面121bに設置される。尚、特に説明しないが、上顎部材11に同様の伝播材を設けてもよい。
【0037】
(4)載置部
載置部13(図4によく示されている)は、食品サンプルが載置される部分、更に詳細には、下顎部材12の第二の突出部122と協働して、食品サンプル3を第一の突出部112と第二の突出部122の間に挟み込んで圧力を加えることができるように支持する部分である。載置部13は、第二の突出部122に対応して、第二の基体121の厚み方向「α」における一方の面121a側に設けられている。載置部13は、第二の伝播材43と同様に、ヒトの舌に相当し得るため、第二の伝播材43と同様に、舌片状に設けてもよい。本実施形態では、載置部13は、下顎部材12の一部として、矩形板状の垂直壁131に連結された状態で片持ち梁状に設けられている。垂直壁131は、第二の基体121の厚み方向「α」における一方の面121aの上に垂設されており、第二の基体121の端部、更に言えば、「β-γ」面において略U字状の輪郭を成す第二の基体121において該U字の上部を閉じる端部に位置付けられている。載置部13の舌片の根元は、垂直壁131の幅方向「γ」に沿って垂直壁131の縁に連結されており、また、垂直壁131の幅方向「γ」における寸法よりも小さな寸法を有している。一方、載置部13の舌片の先端側は、「β-γ」面において、第二の基体121のU字の内部に向って突出させた態で設けられている。尚、載置部13は、食品サンプルを載置することができるように設けられていれば足り、必ずしも上述した態様で設ける必要はない。更に、下顎部材12の一部として設ける必要はなく、舌片状に設ける必要もない。
【0038】
<第三のセンサー>
載置部13に、第三のセンサー33を設置してもよい。第三のセンサー33は、載置部13(下顎部材12)の製造時に載置部13に予め埋め込んだ状態で設けてもよいし、載置部13を製造した後にその上面又は下面に設置してもよい。載置部13の製造後に設置する場合、第三のセンサー33は、載置部13に接着剤等で接着する他、例えば、後述する第二の伝播材43を用いて、載置部13に固定することができる。第三のセンサー33は、載置部13に生じた振動を感知して波形(時系列データ)を発生させるものであって、このようなセンサーを配置することにより、載置部13の表面及び内部、更に、後述する第二の伝播材43を設けた場合には、第二の伝播材43を通して生じた、周波数応答や振幅等の程度が異なるより複雑且つ様々な情報を含んだ振動波形を検出することができる。尚、第三のセンサー33は、必ずしも必要なものではなく、分析すべき食品サンプルによっては、第一のセンサー31、及び/又は、第二のセンサー32を設ければ十分である。
【0039】
<第二の伝播材>
載置部13に、第二の伝播材43を設けてもよい。第二の伝播材43は、食品サンプル3を第一の突出部112と第二の突出部122の間に挟み込んで圧力を加えたときに生じた振動を伝播させることができる部材であれば足りる。但し、第三のセンサー33を用いる場合には、少なくとも、この振動を第三のセンサー33に伝播させる媒質として機能する。第二の伝播材43は、厚み方向「α」に沿って視たときに、「β-γ」面において、載置部13よりも大きく、且つ、第二の突出部122の突端122cが形成する略U字の軌跡の内部に内包される大きさとしてもよい。第二の伝播材43は、載置部13と同様に舌片状に設けてもよい。第二の伝播材43を設けた場合、第二の伝播材43は、載置部13と同様に、食品サンプルが載置される部分、更に詳細には、下顎部材12の第二の突出部122と協働して、食品サンプル3を第一の突出部112と第二の突出部122の間に挟み込んで圧力を加えることができるように支持する部分となる。従って、載置部13に設けた第二の伝播材43は、載置部13と協働して載置部13としての機能を果たし、実質的に載置部の一部を形成することになる。
【0040】
載置部13に第三のセンサー33を設ける場合、第二の伝播材43は、少なくとも第二の基体121の厚み方向「α」において第三のセンサー33を覆った状態で設ける。第二の伝播材43は、2つの部材43-1、43-2から形成されてもよい。この場合、一方の部材43-1は、載置部13(載置部13に第三のセンサー33を設けている場合には、載置部13及び第三のセンサー33)の上に、他方の部材43-2は、載置部13(載置部13に第三のセンサー33を設けている場合には、載置部13及び第三のセンサー33)の下に、それぞれ配置され、載置部13とともに、2つの部材43-1、43-2によって挟み込まれた状態とされる。第二の伝播材43は、例えば、第二の伝播材43の粘着力を利用して、粘着力が不十分な場合には接着剤をも利用して、載置部13に設置される。
【0041】
一例としての第二の伝播材43の材料を以下に説明する。尚、以下の説明では、第二の伝播材43の材料を、第一の伝播材42の材料、及び、上顎部材11及び下顎部材12の材料と異ならしめた例を説明するが、実施例6、7の結果からも推察することができるように、必ずしも、これらを異ならしめる必要はなく、また、いずれかの材料が第二の伝播材43の材料として常に最適というわけでもない。従って、以下の記載は、第二の伝播材43の材料を限定することを意図したものではない。
【0042】
第二の伝播材43の材料としては、例えば、固体と液体の中間の物質形態で粘性を持つ材料、例えば、自己修復性ハイドロゲル、ポリビニルアルコールゲル、コラーゲンゲル、ゼラチンゲル、寒天ゲル等の物理架橋ゲルを用いることができる。これらの材料の中でも、特に、柔らかく粘性のある高分子材料である自己修復性ハイドロゲルが好ましい。自己修復性ハイドロゲル等の物理架橋ゲルは、粘性を有することから、振動の減衰が起きやすく、第一の伝播材42とは違った振動の伝わり方をすることが期待される。特に物理架橋ゲルは、粘弾性測定を通じて得られる弾性成分(貯蔵弾性率)と粘性成分(損失弾性率)に周波数依存性があり、これにより振動(音波の周波数)によって、減衰率に違いが生じることから、振動の分散が広がる傾向にあることも、第二の伝播材43の特徴となっている。
【0043】
特に自己修復性ハイドロゲルの固体成分は著しく少なく、その性質は液体に近い。ここで、体積弾性率K、液体の密度ρとした時の液体中の振動の伝播速度cは、
c2= K/ ρ (3)
で与えられる。例えば、常温において、海水の伝播速度cは、1513 m/s、水(淡水)は、1500 m/s、エタノールは、1207 m/sであるとされており、自己修復性ハイドロゲルのようなゲルの縦波の伝播速度は、水の縦波の伝播速度と大体同じであることが知られている。また、自己修復性ハイドロゲルは、弾性率が非常に小さいために横波は生じたとしても非常に小さなものとなる。
【0044】
これらの性質により、例えば自己修復性ハイドロゲルのような第二の伝播材43は、第一の伝播材42と同様に、分析に寄与しない小さな振動(雑音)を取り除くフィルタ機能を発揮し得る。また、例えば自己修復性ハイドロゲルのような第二の伝播材43を伝播する振動の伝播速度は、第一の伝播材42を伝播する振動の伝播速度よりも遅くなることから、第一の伝播材42と同様に、第二の伝播材42を介して第三のセンサー33に伝達される信号と、第一の伝播材42を介して第一のセンサー31に伝達される信号等との間に時間差が生じ、この時間差を利用して、真に分析に必要な振動のみを抽出するフィルタ機能をも発揮し得る。
【0045】
尚、物理架橋ゲルは、第一の伝播材42の材料として用いた化学架橋ゲルと異なり、粘性成分が弾性成分と同程度ぐらいになると、振動が吸収され、物体の体積が変化したり、変形する際に粘性による摩擦が熱となりエネルギー散逸されるため、振動の減衰現象が起きる。
【0046】
また、物理架橋ゲルと化学架橋ゴムでは、振動の減衰率に違いがあるため、振動の伝わり方に違いが発生する。更に、弾性率の違いは伝播速度の違いになることから、やわらかいほど、相対的に振動の伝わり方が遅くなるので、同じ化学架橋であっても、相対的に化学架橋ゴムが硬く、化学架橋ゲルがやわらかければ、化学架橋ゲルを伝わる音波の方が遅くなり、伝わる時間に違いが発生する。
これらの性質も、フィルタ機能を発揮させるために役立つものとなる。
【0047】
自己修復性ハイドロゲルによれば、例えば、第二の伝播材43を、2つの部材43-1、43-2から形成した場合、これらの部材43-1、43-2を、載置部13を挟み込むように上下方向に合わせて配置するだけで,時間の経過とともに互いに接着されことになる。従って、接着剤等は不要である。尚、自己修復性ハイドロゲルで製造された第二の弾性材43の弾性率は、シリコーン等の化学架橋ゴムで製造された第一の弾性材のそれより小さく、且つ、これらの弾性率は共に、上顎部材11及び下顎部材12の弾性率より小さい。
【0048】
(5)センサー
第一乃至第三のセンサー31~33は、振動を感知して振動波形(時系列データ)を発生させる。図8に、第一乃至第三のセンサー31~33を用いて、ある1つの食品サンプルについて発生させた波形の一例を示す。この波形は、同じ構造を有する第一乃至第三のセンサー31~33によって発生されたものである。図8において、「PLA」で表示した波形は、第一のセンサー31によって、「シリコーン」で表示した波形は、第二のセンサー32によって、「ゲル」で表示した波形は、第三のセンサー33によって、それぞれ発生されたものである。この図から明らかなように、本構成によれば、第一乃至第三のセンサー31~33が全て同じ構造を有している場合であっても、第一乃至第三のセンサー31~33が、装置の異なる場所に設置されている場合には、各場所においてそれぞれが異なる波形を発生させることになり、この結果、様々な情報を同時に得ることができる。
【0049】
第一乃至第三のセンサー31~33としては、例えば、圧電素子を用いることができる。圧電素子の中でも、取り分け、圧電フィルムセンサーのような薄型のものが好ましい。薄型のものを用いることにより、第一の基体111や第一及び第二の伝播材42、43への組み込みが容易となり、また、装置が大型となるのを防ぐことができる。但し、振動を感知して波形を発生させることができれば、圧電素子以外の様々なセンサーを用いることができる。
【0050】
(6)ロボット
食品サンプルに圧力を付与する際は、従来の圧縮試験機に代えて、ロボットアーム21を用いるのが好ましい。よく知られているように、ロボットのエンドエフェクタ22(図2図3参照)には、圧縮器具がモジュールとして実装されている。このため、従来の圧縮機で採用されていた固定化された一軸圧縮に限定されることなく、圧縮方向をサーボモータの回転で制御することができ、食品サンプル3をヒトと同様の方法で噛ませて、よりヒトに近い触覚検出を実現することができる。尚、使用の自由度を高めるため、エンドエフェクタ22を固定するロボットアーム21は、5つの自由度と360°の回転を可能とするものが好ましい。
【0051】
2.信号解析装置
信号解析装置20は、信号発生装置10によって発生された信号、例えば、第一乃至第三のセンサー31~33に発生させた振動波形に、適当な処理を施して解析を行う装置である。信号解析装置20による解析事項及び解析方法は、装置設計者が自由に設定できる。
信号解析装置20は、学習モデルを含んでもよい。この学習モデルには、信号発生装置10によって発生された信号に基づいて食品サンプルの特徴を推定するように機械学習が行われている。このような学習済みモデルによって推定できる特徴としては、例えば、分析対象である食品サンプルの種別、品質、及び再現性を挙げることができる。勿論、機械学習を通じて、これら以外の他の特徴を推定させることもできる。
【0052】
(1)信号解析装置による処理
図9に、信号解析装置20による一例としての処理フローを示す。
先ず、「I. データ処理」において、第一乃至第三のセンサー31~33に発生させた振動波形(時系列データ)を、時系列のデジタルデータに変換して収集する。
次いで、「II.前処理」において、収集した時系列デジタルデータを正規化し、且つ、ノイズを除去する。ノイズを除去したデータをフーリエ変換し、ローパスフィルタを適用して高周波成分を減衰させる。その後、図10に示すような波形データの複数のピーク点(図10において「×」印で示した点)を検出し、これらのピーク点を用いて特徴量を抽出する。
最後に、「III.分類」において、抽出した特徴量を学習済みモデルに適用し、公知の分類器であるサポートベクトルマシン(SVM)、k最近傍法(KNN)、ランダムフォレスト等の複数の分類モデルを用いて分類精度を比較しつつ、評価し、特徴の推定を行う。
【0053】
(2)学習済みモデルの生成
学習済みモデルは、信号発生装置10により発生された特徴量に基づいて食品サンプルの特徴を推定するように教師あり機械学習によって生成する。このような学習済みモデルは、物理レザバー計算を含むニューラルネットワークなどの公知の機械学習アルゴリズムを利用して生成することができる。言い換えれば、この学習済みモデルを用いた特徴の推定には、物理レザバー計算が使用される。
【0054】
(3)物理レザバー計算
非特許文献2及びその他多くの文献に開示されているように、物理レザバー計算は公知の技術であるが、念のため、概要を以下に説明する。
図11に、物理レザバー計算を、従来のリカレントニューラルネットワークと比較した概念図で示す。時系列変化データに対する機械学習方式には、従来、リカレントニューラルネットワーク(RNN)が適していると考えられてきた。物理レザバー計算は、このリカレントニューラルネットワークから導出されたものであり、リカレントニューラルネットワークの学習において、最後の出力層付近以外を学習しない機械学習手法、言い換えれば、レザバー計算の非線形変換関数を時系列データの高速機械学習に適した計算を行う物理システムに置き換える手法である。更に言えば、ニューラルネットワークの構造自体が十分な汎化性を持つため、最後の出力層においてのみ帳尻合わせるだけで十分な計算が可能であることが明らかになったことにより開発された技術である。物理レザバー計算は、ソフトウェアで実装するよりも高速かつ低電力であり、特に、物理システムから取得した時系列データをリアルタイムに処理する能力については、産業応用への期待が高まっており、様々な研究が報告されている。特に、ソフトマター物理レザバー計算は、実際の物理系をソフトマター材料に置き換えたもの、一方、マルチソフトマター物理レザバー計算は、実際の物理系を複数のソフトマター材料に置き換えたものであり、本装置では、物理記憶計算とソフトマターの食感評価を組み合わせることで、食品の微細な違いも高精度に分類できる新しいソフトマシンを構成している。
【0055】
3.実施例
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
1)食品サンプル
形状及び硬さが異なる異種のお菓子類、具体的には、図12のグループIに示した市販のお菓子類、即ち、(a)クラッカー(せんべい)、(b)どらやき、(c)チョコレート、(d)スナック、(e)クッキーについて、それらの種別の判別精度を検証した。
【0057】
2)信号発生装置
図1乃至7を参照して説明した装置を使用した。特に、図2図3、及び図5乃至図7には、各部材における構造がよく示されている。
上顎部材11及び下顎部材12の材料には、PLA(ポリ乳酸)フィラメント(Polymaker社製のPolymax)を用い、3Dプリンターによって一体的に造形した。また、上顎部材11及び下顎部材12には、第一乃至第三のセンサー31~33、及び、第一及び第二の伝播材42、43を設けた。
【0058】
<上顎部材>
上顎部材11の第一の基体111の厚み方向「α」における厚みは、9.6mmとした。また、第一の突出部112の厚み方向「α」における長さ、更に言えば、上段112aと下段112bの厚み方向「α」における総長は、最も大きい部分で30.6mm、最も小さい部分で24.5mmとした。第一の突出部112の形状は、米国保健福祉省の国立衛生研究所が提供する下記情報源から得られるモデルデータに準拠している。尚、以下に示す情報は、出願日現在におけるものである。

URL: https://3dprint.nih.gov/discover/3dpx-003002
Model ID
3DPX-003002
Category Medical/Anatomical
Keyword(s) teeth, dental, anatomy, maxilla, tooth, dental model, orthodontics
Model of a patient's upper teeth, with printable base

Coutrsey:
Michael D Scherer, DMD, MS, FACP
Diplomate, American Board of Prosthodontics
Practice: URL: www.SonoraModernDental.com
Personal/Consulting: URL: www.MichaelSchererDMD.com
【0059】
<下顎部材>
下顎部材12の第二の基体121の厚み方向「α」における厚みは、9.6mmとした。また、第二の突出部122の厚み方向「α」における長さ、更に言えば、上段122aと下段122bの厚み方向「α」における総長は、最も大きい部分で30.6mm、最も小さい部分で24.5mmとした。第二の突出部122の形状は、米国保健福祉省の国立衛生研究所が提供する下記情報源から得られるモデルデータに準拠している。尚、以下に示す情報は、出願日現在におけるものである。

URL: https://3dprint.nih.gov/discover/3dpx-003003
Model ID
3DPX-003003
Category Medical/Anatomical
Keyword(s) teeth, dental, anatomy, maxilla, tooth, dental model, orthodontics
Model of a patient's upper teeth, with printable base

Coutrsey:
Michael D Scherer, DMD, MS, FACP
Diplomate, American Board of Prosthodontics
Practice: URL: www.SonoraModernDental.com
Personal/Consulting: URL: www.MichaelSchererDMD.com
【0060】
<第一のセンサー>
上顎部材11において、第一のセンサー31を設ける凹部は、深さを1.0mmとし、埋め込み部材115の大きさ、形状は、この凹部に対応する厚み等とした。尚、埋め込み部材115を埋め込んだとき、第一の基体111の厚み方向「α」における他方の面111bは、図2図3等によく示されているように略平坦となるものとした。
【0061】
<第一の伝播材>
第一の伝播材42として、第二の基体121の底部には、Smooth-on社から提供されたEcoflex00-30(シリコーン)により製造した2つの部材42-1、42-2を設置した。これらの部材42-1、42-2は、第二の基体121の底部の形状に合わせて予め造形した型に入れて硬化させることにより製造した。部材42-1については、厚さを3.0mmとし、部材42-2については、厚さを3.0mmとした。第二の基体121の底部への設置は、シリコーン自体の粘着力を利用し、接着剤は使用しなかった。
【0062】
<載置部>
載置部13は、垂直壁131を利用することにより下顎部材12の一部として一体的に形成するものとし、図4に示す形状の舌片状とした。垂直壁131に連結された舌片の根元の幅方向「γ」における寸法は、22.4mmとし、「β-γ」面における、舌片の根元から先端までの寸法は、44.2mmmとした。また、垂直壁131の幅方向「γ」における寸法は、15.2mmとし、厚み方向「α」に沿う高さ寸法は、1.0mmとし、板厚は、1.0mmとした。
【0063】
<第三のセンサー>
第三のセンサー33は、載置部13を製造した後に、載置部13の上面に設置した。載置部13に対する第三のセンサー33の固定には、第二の伝播材43を利用した。
【0064】
<第二の伝播材>
載置部13には、第二の伝播材43として、図2に示す舌片状の2つの部材43-1、43-2を設置した。これらの部材43-1、43-2は、ユシロ化学工業株式会社製のウィザードゲル(Wizard Gel)を用いて、図2に示す形状となるように予め造形した型に入れて硬化させることにより、同じ大きさ及び形状を有するものとして製造した。これらの部材43-1、43-2の各舌片の根元の幅方向「γ」における寸法は、47.5mmとし、「β-γ」面における、舌片の根元から先端までの寸法は、60.7mmmとした。ウィザードゲルは、自己修復性ハイドロゲルの一種であるため、載置部13を挟み込むように上下方向に合わせることだけで接着可能である。尚、ウィザードゲル(Wizard Gel)の弾性率(ヤング率:32.37kPa)は、Ecoflex00-30(シリコーン)の弾性率(ヤング率:87.43kPa)より小さく、且つ、これらの弾性率は共に、上顎部材11及び下顎部材12の材料に用いたPLA(ポリ乳酸)フィラメントの弾性率(ヤング率:23.98×103kPa)より小さい。尚,材料のヤング率、JIS K 6272に準拠し、直径 29.5±0.5mm、厚さ 12.5±0.5mmの比で作成した円柱に対して、機械の移動速度を 5mm/minとした圧縮試験機で合計3 回の圧縮試験を施した 後に平均をとった値となっている。
【0065】
<第一乃至第三のセンサー>
第一乃至第三のセンサー31~33には、全て、TE Connectivity Ltd.社製のピエゾフィルムセンサーTE Connectivity Measurement Specialties DT1-028Kを使用した。
【0066】
<ロボット>
Trossen Robotics社製のViper X 300を使用した。ロボットのロボットアーム21及びエンドエフェクタ22等の動作制御には、Ubuntu Linux ROSパッケージで利用可能なソフトを用いた。尚、このソフトは、出願日現在、以下のリンクから利用可能である。”URL: https://github.com/Interbotix/interbotix_ros_arms”
食品サンプルを第一の突出部112と第二の突出部122の間に挟み込んで圧力を加える際、上顎部材11と下顎部材12を、それらの厚み方向「α」が垂直方向に沿うように設置し、また、食品サンプルは、下顎部材12の第二の突出部122と載置部(13等)を利用して載置し、第一の突出部112を、固定した第二の突出部122に対して、1秒間に15回、上下に反復運動させるようにして、上顎部材11と下顎部材12を噛み合わせる動作を行なわせた。
噛み合わせ動作の際、第一の突出部112と第二の突出部122が厚み方向「α」において最も離れたときの、第一の突出部112の突端112cと第二の突出部122の突端122cとの距離は、34.0mmになるように設定し、一方、第一の突出部112と第二の突出部122が厚み方向「α」において最も接近したときの、第一の突出部112の突端112cと第二の突出部122の突端122cとの距離は、0.0mmになるように設定した。また、第一の突出部112と第二の突出部122の間で挟み込む力は、エンドエフェクタのサーボモータの速度23.0rev/minに起因している。
【0067】
3)信号解析装置
3-1)信号処理
第一の突出部112を、固定した第二の突出部122に対して上下に反復運動させている間、第一乃至第三のセンサー31~33であるピエゾフィルムセンサーから、1秒間に120回、波形が送信されるように設定し、この波形を、16ビットの時系列波形データに変換した。変換後のデータは、正規化し、且つ、ノイズ除去した後、ローパスフィルタ(40Hz閾値)を適用して高周波の成分を減衰させた。その後、データが極大になるピーク点(図10中の「×」印参照)を自動検出し、これらのピーク点から計30のピークデータ点を取得し、これを一噛み分のデータとして用いて、複数の一噛み分のデータそれぞれから特徴量を抽出した。この特徴量は、対象物である食品サンプルの特徴を数値化したものであり、本実施例では、特徴量として主に角周波数成分値を用いた。こうして抽出した特徴量を、機械学習アルゴリズムに適用して、評価、特徴の推定を行った。尚、学習器には、SVM、k最近傍法、ランダムフォレストの3種類を用い、これらの中で最良の結果が得られる学習器からの結果を採用した。
【0068】
3-2)学習済みモデルの生成
ロボットに食品サンプルを1秒間隔で15回噛ませるプログラムを作成し、各食品サンプルを5セット、合計75回噛ませてデータを取得し、半分を学習データとして、残りの半分をテストデータとして収集した。その後、学習データと正解ラベルである食品サンプルの名称を教師データとして、物理レザバー計算を含む公知の機械学習アルゴリズムを利用して学習済みモデルを生成した。
【0069】
4)解析結果
学習済みモデルの生成時に収集したテストデータを用いて、食品サンプルの種別について検証を行ったところ、チョコレートの以外の判定精度(正解率)は100%であり、チョコレートのみ、判定精度は96.4%であった。尚、平均の判定精度は、99.3%である。
【0070】
[実施例2]
1)食品サンプル
異なる調理法により生成された比較的硬い同種のお菓子類、より具体的には、図12の上段グループIIに示した市販のお菓子類、即ち、(f)~(j)クラッカーについて、それらの種別の判別精度を検証した。
2)信号発生装置
実施例1と同じ装置を用いた。
3)信号解析装置
実施例1と同じ装置を用いた。学習済みモデルも、実施例1と同じ方法で生成した。
4)解析結果
学習済みモデルの生成時に収集したテストデータを用いて、特に、食品サンプルの種別について検証を行ったところ、(f)クラッカー及び(i)クラッカー以外の判定精度は100%であり、(f)クラッカーの判定精度は、90%、(i)クラッカーの判定精度は、94.4%であった。尚、平均の判定精度は、96.9%である。
【0071】
[実施例3]
1)食品サンプル
異なる調理法により生成された比較的軟らかい同種のお菓子類、より具体的には、図12の上段グループIIに示した市販のお菓子類、即ち、(k)~(o)パンケーキについて、それらの種別の判別精度を検証した。
2)信号発生装置
実施例1と同じ装置を用いた。
3)信号解析装置
実施例1と同じ装置を用いた。学習済みモデルも、実施例1と同じ方法で生成した。
4)解析結果
学習済みモデルの生成時に収集したテストデータを用いて、特に、食品サンプルの種別について検証を行ったところ、(l)パンケーキの判定精度のみ100%であり、(k)パンケーキについては、95.0%、(m)パンケーキについては、95.0%、(n)パンケーキについては、68.4%、(o)パンケーキについては、72.2%であり、少なくとも、(k)乃至(n)パンケーキについては良好な結果が得られた。尚、平均の判定精度は、86.1%である。
【0072】
[実施例4]
1)食品サンプル
同種のお菓子類、より具体的には、図12のグループIIIに示した市販のお菓子類、即ち、(p)~(t)クラッカーであって、それらのクラッカーの密封パッケージを開封する時期を同時期に設定したものについて、それらの品質の判別精度を検証した。
2)信号発生装置
実施例1と同じ装置を用いた。
3)信号解析装置
実施例1と同じ装置を用いた。学習済みモデルも、実施例1と同じ方法で生成した。
4)解析結果
学習済みモデルの生成時に収集したテストデータを用いて、特に、食品サンプルの種別について検証を行ったところ、(p)クラッカーの判定精度のみ100%であり、(q)クラッカーについては、95.0%、(r)クラッカーについては、90.0%、(s)クラッカーについては、80.0%、(t)クラッカーについては、90.0%であった。尚、平均の判定精度は、91.0%である。
【0073】
[実施例5]
1)食品サンプル
実施例1乃至4における、図12に示した全てのお菓子類について、それらの種別又は品質の判別精度を検証した。
2)信号発生装置
実施例1と同じ装置を用いた。但し、解析には、第一乃至第三のセンサー31~33の一部又は全部を通じて得られた信号を用いた。更に詳細には、以下の表1の「センサー」の欄において、「〇」で示したセンサーを用いた。これにより、第一乃至第三のセンサー31~33が結果に与える影響、例えば、第一のセンサー31に振動波形を生じさせるPLA、第二のセンサー32に振動波形を生じさせる第一の伝播材42,第三のセンサー33に振動波形を与える第二の伝播材43が結果に与える影響を評価した。尚、表1に示した判定精度は、各グループにおける平均の判定精度を示している。例えば、グループIについて平均の判定精度は、グループIに属する各お菓子(a)乃至(e)について求めた判定精度を、お菓子の種類である5で除算した値を示す。表1に、結果を示す。
【0074】
【表1】

3)信号解析装置
実施例1と同じ装置を用いた。学習済みモデルも、実施例1と同じ方法で生成した。
4)解析結果
学習済みモデルの生成時に収集したテストデータを用いて、食品サンプルの種別(グループI及びII)又は品質(グループIII)について検証を行ったところ、グループI以外のグループについては、第一乃至第三のセンサー31~33全ての信号を使用した場合に、最も高い判定精度が得られた。一方、グループIについては、第一のセンサー31からの信号だけを使用したときに、最も高い判定精度が得られた。従って。第一乃至第三のセンサーは、常に全てを使用するのではなく、分析すべき食品サンプルに応じて、選択的に使用するのがよいと考えられる。
【0075】
[実施例6]
1)食品サンプル
図12のグループIに示したお菓子類の中、(a)クラッカー、(b)どらやき、(c)チョコレート、(e)クッキーについて、実施例1等と同様に、それらの種別の判別精度を検証した。
2)信号発生装置
実施例1の装置で使用した第二の伝播材43の材料を変更して使用した。更に詳細には、実施例1における第二の伝播材43の材料であるウィザードゲルに代えて、第一の伝播材44の材料であるEcoflex00-30(シリコーン)、又は、上顎部材11及び下顎部材12の材料であるPLAを使用して比較した。
3)信号解析装置
実施例1と同じ装置を用いた。学習済みモデルも、実施例1と同じ方法で生成した。
4)解析結果
学習済みモデルの生成時に収集したテストデータを用いて、食品サンプルの種別について検証を行ったところ、第二の伝播材43の材料として、ウィザードゲルを使用した場合の平均の判定精度は、96.5%、Ecoflex00-30(シリコーン)を使用した場合の平均の判定精度は、93.3%、上顎部材11及び下顎部材12の材料であるPLAを使用した場合の平均の判定精度は、88.4%であった。
【0076】
[実施例7]
1)食品サンプル
実施例4と同様に、図12のグループIIIに示した市販のお菓子類、即ち、(p)~(t)クラッカーについて、それらの品質の判別精度を検証した。
2)信号発生装置
実施例6と同様に、実施例1で使用した第二の伝播材43を変更して使用した。更に詳細には、実施例1における第二の伝播材43の材料であるウィザードゲルに代えて、第一の伝播材44の材料であるEcoflex00-30(シリコーン)、及び、上顎部材11及び下顎部材12の材料であるPLAを使用して比較した。
3)信号解析装置
実施例1と同じ装置を用いた。学習済みモデルも、実施例1と同じ方法で生成した。
4)解析結果
学習済みモデルの生成時に収集したテストデータを用いて、食品サンプルの種別について検証を行ったところ、第二の伝播材43の材料として、ウィザードゲルを使用した場合の平均の判定精度は、59.2%、Ecoflex00-30(シリコーン)を使用した場合の平均の判定精度は、68.1%、上顎部材11及び下顎部材12の材料であるPLAを使用した場合の平均の判定精度は、71.1%であった。
【0077】
[実施例8]
1)食品サンプル
実施例2と同様に、図12の上段グループIIに示した市販のお菓子類、即ち、(f)~(j)クラッカーについて、それらの種別の判別精度を検証した。
2)信号発生装置
実施例1の装置で使用した、上顎部材11の第一の突出部112及び下顎部材12の第二の突出部122について、実施例1で使用した歯状の突出部に代えて、図13の(a)乃至(c)に示した様々な種類の突出部を使用した。即ち、実施例1の第一の突出部112及び第二の突出部122に代えて、図13の(a)乃至(c)の斜視図に示した突出部を使用して比較した。尚、図13に示した突出部は、第一の突出部112のように、段状(112a、112b)に形成されておらず、従って、全体で、第一の突出部112に相当する部分を成している。また、図13には、上顎部材のみ、従って、第一の突出部しか示されていないが、下顎部材の第二の突出部については、図13に明示した上顎部材の第一の突出部と同様に考えてよい。以下、便宜上、上顎部材の構造を中心に説明する。特に説明しない事項、例えば、第一の基体111の形状、寸法等については、実施例1の突出部と同様に考えてよい。
【0078】
図13の(a)に示した上顎部材11Aは、第一の突出部112Aの突端112Acを点状に変更したものである。第一の突出部112Aは円錐状に形成されており、計12個の同じ大きさ及び形状を有する第一の突出部112Aが、上顎部材11Aの略U字状の第一の基体111の縁に沿って、互いに等間隔に離間した状態で配置されている。各第一の突出部112Aは、上顎部材11Aの略U字状の第一の基体111Aの縁から等距離に配置されており、縁から第一の突出部112の円形底面の中心までの距離は、29.0mm、円形底面の直径は、9.8mm、円形底面から突端112Acまでの長さ、即ち、第一の突出部112Aの厚み方向「α」における長さは、20.0mmである。点状を成している各第一の突出部112Aの突端112Acは、若干丸みを帯びており、その直径は、約0.8mmである。下顎部材の第二の突出部は、上顎部材11Aの第一の突出部112Aと、同じ数だけ、同じ形状及び対応位置に設けられており、基本的に、上顎部材11Aと同じ寸法を有するが、円形底面から突端までの長さ、即ち、第二の突出部の厚み方向「α」における長さのみ異なり、下顎部材の第二の突出部では、20.0mmに設定されている。
【0079】
図13の(b)に示した上顎部材11Bは、第一の突出部112Bの突端112Bcを線状に変更したものである。第一の突出部112Bは、上顎部材11Bの略U字状の第一の基体111Bの縁に沿って配置されている。第一の基体111Bの一方の面111Baにおける第一の突出部112Bの幅は、略U字状の輪郭の全ての部分において21.0mmである。第一の突出部112Bの突端112Bcは、第一の基体111Bの縁よりU字の内部に寄った位置に位置付けられており、「β-γ面」における第一の基体111Bの縁から第一の突出部112Bの突端112Bcまでの距離は、20.0mmである。また、第一の突出部112Bの厚み方向「α」における長さは、10.4mmである。線状を成している第一の突出部112Bの突端112Bcは、若干丸みを帯びており、その幅は、約1.0mmである。下顎部材の第二の突出部は、基本的に、上顎部材11Bの第一の突出部112Bと、同じ形状及び対応位置に設けられており、基本的に、上顎部材11Bと同じ寸法を有するが、第二の突出部の厚み方向「α」における長さのみ異なり、下顎部材の第二の突出部では、20.0mmに設定されている。
【0080】
図13の(c)に示した上顎部材11Cは、第一の突出部112Cの突端112Ccを面状に変更したものである。第一の突出部112Cは、上顎部材11Cの略U字状の第一の基体111Cの縁に沿って配置されている。第一の突出部112Cは、第一の基体111Cの一方の面111Caにおいて、厚み方向「α」に沿って同幅で垂直に延びており、第一の突出部112Cの幅は、略U字状の輪郭の全ての部分において10.5mmである。この結果、第一の突出部112Cの面状の突端112Ccの幅も、略U字状の輪郭の全ての部分において10.5mmとなっている。また、第一の突出部112Cの厚み方向「α」における長さは、20.0mである。下顎部材の第二の突出部は、基本的に、上顎部材11Cの第一の突出部112Cと、同じ形状及び対応位置に設けられており、基本的に、上顎部材11Cと同じ寸法を有するが、第二の突出部の厚み方向「α」における長さのみ異なり、下顎部材の第二の突出部では、20.0mmに設定されている。
【0081】
3)信号解析装置
実施例1と同じ装置を用いた。学習済みモデルも、実施例1と同じ方法で生成した。
4)解析結果
学習済みモデルの生成時に収集したテストデータを用いて、食品サンプルの種別について検証を行ったところ、ヒトの歯状の平均の判定精度は、81.9%、線状の平均の判定精度は、78.7%、点状の平均の判定精度は、75.0%、面状の平均の判定精度は、51.9%であり、ヒトの歯状、線状、点状、面状の順に、良好な判定精度を得た。
【0082】
[実施例9]
1)食品サンプル
実施例2、8と同様に、図12の上段グループIIに示した市販のお菓子類、即ち、(f)~(j)クラッカーについて、それらの種別の判別精度を検証した。
2)信号発生装置
実施例8の装置、即ち、実施例1の装置で使用した、上顎部材11の第一の突出部112及び下顎部材12の第二の突出部122について、実施例1で使用した歯状の突出部に代えて、図13の(a)乃至(c)に示した様々な種類の突出部を使用した。
但し、解析には、第一乃至第三のセンサー31~33のいずれか1つ又は2つを通じて得られた信号のみを用いた。更に詳細には、以下の表2に示すように、実施例8の装置で使用した、ヒトの歯状、線状、点状、面状のそれぞれの形状について、第一のセンサー31のみ、第二のセンサー32のみ、又は第一及び第二のセンサー31、32のみを用いた。これにより、第一乃至第三のセンサー31~33が結果に与える影響、例えば、第一のセンサー31に振動波形を生じさせるPLA、第二のセンサー32に振動波形を生じさせる第一の伝播材42、第三のセンサー33に振動波形を与える第二の伝播材43が結果に与える影響を評価した。
【0083】
【表2】

(単位:%)
3)信号解析装置
実施例1と同じ装置を用いた。学習済みモデルも、実施例1と同じ方法で生成した。
4)解析結果
学習済みモデルの生成時に収集したテストデータを用いて、食品サンプルの種別について検証を行ったところ、表2に示す結果を得た。尚、表2に示した判定精度は、実施例5と同様の方法で求めた平均の判定精度である。結果から明らかなように、突出部の種類に応じて、注目すべきセンサーが異なることが確認された。
【0084】
[実施例10]
1)食品サンプル
実施例2、8、9と同様に、図12の上段グループIIに示した市販のお菓子類、即ち、(f)~(j)クラッカーについて、それらの種別の判別精度を検証した。
2)信号発生装置
実施例8、9の装置、即ち、実施例1の装置で使用した、上顎部材11の第一の突出部112及び下顎部材12の第二の突出部122について、実施例1で使用した歯状の突出部に代えて、図13の(a)乃至(c)に示した様々な種類の突出部を使用した。
また、解析には、実施例9と同様に、第一乃至第三のセンサー31~33のいずれか1つ又は2つを通じて得られた信号のみを用いた。更に詳細には、以下の表3~5に示すように、実施例8の装置で使用した、ヒトの歯状、線状、点状、面状のそれぞれの形状について、第一のセンサー31のみ、第二のセンサー32のみ、又は第一及び第二のセンサー31、32のみを用いた。
更に、実施例6、7と同様に、以下の表4、5に示すように、実施例1の装置で使用した第一及び第二の伝播材42、43の材料について、伝播材を組み合わせて使用した。即ち、第一の伝播材42の材料であるEcoflex00-30(シリコーン)の代わりに、PLAを使用し、第二の伝播材43の材料であるウィザードゲルの代わりに、PLA又はEcoflex00-30(シリコーン)を使用した。
【0085】
【表3】

(単位:%)
【0086】
【表4】

(単位:%)
【0087】
【表5】

(単位:%)
【0088】
表3は、実施例1、9等で使用した基本構成、即ち、第一の伝播材42の材料として、実施例1における第一の伝播材42の材料であるシリコーンを使用し、且つ、第二の伝播材43の材料として、実施例1における第二の伝播材43の材料であるウィザードゲルを使用したもの、
表4は、第一及び第二の伝播材42、43の材料として、実施例1における上顎部材11及び下顎部材12の材料であるPLAを使用したもの、
表5は、第一及び第二の伝播材42、43の材料として、第一の伝播材42の材料であるEcoflex00-30(シリコーン)を使用したものであって、
それらの解析には、第一のセンサー31のみ、又は、第二のセンサーのみ、又は、それら第一及び第二のセンサーを使用したものである。
尚、その構成から明らかなように、表3の結果は、表2の結果と同じものであるが、表4及び表5との比較を容易にするため、それらと並べて表示した。
【0089】
3)信号解析装置
実施例1と同じ装置を用いた。学習済みモデルも、実施例1と同じ方法で生成した。
4)解析結果
学習済みモデルの生成時に収集したテストデータを用いて、食品サンプルの種別について検証を行ったところ、表3~5に示す結果を得た。尚、表3~5に示した判定精度は、実施例5と同様の方法で求めた平均の判定精度である。結果から明らかなように、第一及び第二の伝播材42、43に使用する材料によって、注目すべきセンサーが異なることが確認された。
【0090】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、その他種々の変更が可能である。
例えば、上顎部材11、下顎部材12を、ヒトの口腔以外の形状、例えば、第一の基体111の厚み方向「α」に沿って視たときに、第一の突出部112の突端によって形成される軌跡を円形、矩形等としてもよい。
【0091】
また、上顎部材11、下顎部材12の詳細構造に変更を加えてもよい。例えば、下顎部材12に設けた垂直壁131を、第二の基体121のU字の上部を閉じる位置ではなく、そのような位置から離れた位置に設け、また、板状の垂直壁ではなく、例えば、傾斜した棒状部材等としてもよい。更に、第一の伝播材42、第二の伝播材43の形状、材質についても同様である。信号解析装置において、学習モデルを用いる場合には特に、これらの変更は、機械学習によって適切に調整することができる。
【0092】
更に、上述した実施例1~3、6~10では、食品サンプルの「種別」を評価する指標を、また、実施例4では、食品サンプルの「品質」を評価する指標を、更に、実施例5では、「種別」又は「品質」を評価する指標を、それぞれ「判定精度」を介して出力させるものとしたが、信号解析装置20に改変を加えることにより、食品サンプルの「再現性」その他を評価する指標を出力させることもできるし、また、「判定精度」以外の指標を出力させることもできる。
【0093】
本発明の更に別の態様、特徴及び効果は、本発明を実施するよう意図された最良の態様を含めて、多数の特定の実施形態及び実施例を示すだけで、以下の詳細な説明から容易に明らかとなろう。又、本発明は、他の及び異なる実施形態で構成することもでき、そしてその多数の細部は、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに、種々の明らかな観点において変更することができる。従って、図面及び説明は、例示に過ぎず、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0094】
1 食品分析システム
3 食品サンプル
10 信号発生装置
11 上顎部材
12 下顎部材
13 載置部
20 信号解析装置
21 ロボットアーム
22 エンドエフェクタ
31 第一のセンサー
32 第二のセンサー
33 第三のセンサー
42 第一の伝播材
43 第二の伝播材
111 第一の基体
111a 一方の面
111b 他方の面
112 第一の突出部
112a 上段
112b 下段
112c 突端
113 取付部
114 凹部
121 第二の基体
121a 一方の面
121b 他方の面
122c 突端
122 第二の突出部
122a 上段
122b 下段
123 取付部
124 支持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13