(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024775
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】電気二重層キャパシタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 11/58 20130101AFI20240216BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20240216BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20240216BHJP
【FI】
H01G11/58
H01G11/38
H01G11/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127645
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】西下 慧
(72)【発明者】
【氏名】宮田 晋嗣
(72)【発明者】
【氏名】黄賀 啓介
【テーマコード(参考)】
5E078
【Fターム(参考)】
5E078AA05
5E078AA09
5E078AB02
5E078BA13
5E078BA21
5E078BA22
5E078CA06
5E078DA07
5E078DA16
5E078DA18
5E078DA19
5E078EA02
5E078FA14
5E078HA05
5E078ZA02
5E078ZA03
(57)【要約】
【課題】高温域であっても長期間漏れ電流を低く維持でき、高温域での信頼性が高く、装置の長寿命化が可能な電気二重層キャパシタおよびその製造方法の提供。
【解決手段】温度25℃におけるハメットの酸度関数H0が-2.8以上であり、かつ、温度100℃における蒸気圧が400mmHg以下である水溶性電解質を含む水系電解液を用いることを特徴とする電気二重層キャパシタおよびその製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度25℃におけるハメットの酸度関数H0が-2.8以上であり、かつ、温度100℃における蒸気圧が400mmHg以下である水溶性電解質を含む水系電解液を用いることを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項2】
前記水系電解液中の前記水溶性電解質の濃度が、65~77質量%である、請求項1に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項3】
分極性電極に含まれる活性炭と、前記水系電解液との質量比が、1:0.5~1:3である、請求項1に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項4】
前記水系電解液が、硫酸を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項5】
活性炭と電解液との混合物であるペーストをガスケットへ付与し、乾燥させて、乾燥後の電解液を含む分極性電極を作製する際に、
前記乾燥後の電解液は、温度25℃におけるハメットの酸度関数H0が-2.8以上であり、かつ、温度100℃における蒸気圧が400mmHg以下である水溶性電解質を含む水系電解液であり、
前記乾燥の条件は、温度20~30℃、相対湿度30~60%である、ことを特徴とする電気二重層キャパシタの製造方法。
【請求項6】
前記ペーストに用いる前記乾燥前の電解液に含まれる水溶性電解質の温度20~30℃における蒸気圧が、8~20mmHgである、請求項5に記載の電気二重層キャパシタの製造方法。
【請求項7】
前記乾燥前のペーストにおける前記活性炭と、前記電解液との質量比が、1:1~1:4である、請求項5に記載の電気二重層キャパシタの製造方法。
【請求項8】
前記分極性電極に含まれる前記活性炭と、前記電解液との質量比が、1:0.5~1:3である、請求項5に記載の電気二重層キャパシタの製造方法。
【請求項9】
前記乾燥後の電解液中の前記水溶性電解質の濃度が、65~77質量%である、請求項5に記載の電気二重層キャパシタの製造方法。
【請求項10】
前記電解液が、硫酸を含まない、請求項5~9のいずれか一項に記載の電気二重層キャパシタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気二重層キャパシタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、電荷を有する固体とそれに接触する電解液の界面に形成される厚さ数nm程度の電気二重層を誘電体として利用したものである。電気二重層キャパシタは充放電サイクルに伴う容量の劣化が少なく、通常の電池と比較して、起動後に瞬時に大きな出力を取り出すことができ、ICメモリのバックアップやアクチュエータのバックアップに使用される。
【0003】
電気二重層キャパシタは、電解液の種類により非水系(有機)電解液を用いるタイプと水系電解液を用いるタイプに分類できる。非水系電解液を用いた電気二重層キャパシタは、通常、高い耐電圧を有するという利点がある一方で、電気伝導度が低い傾向がある。
【0004】
特許文献1では、水系電解液として硫酸を含む電解液を使用した電気二重層キャパシタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
硫酸を電解液に用いた電気二重層キャパシタは、高い導電率を有するものの、高温域(例えば、85~105℃)における漏れ電流(LC:Leakage Current)値を長期間低く維持することが難しい場合があった。また、使用する硫酸は、強酸性であるため、電極やセパレータへの負担が大きく、装置の劣化が速い傾向があった。
【0007】
本開示は、このような背景を鑑みてなされたものであり、高温域であっても長期間漏れ電流を低く維持でき、高温域での信頼性が高く、装置の長寿命化が可能な電気二重層キャパシタおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る電気二重層キャパシタは、温度25℃におけるハメットの酸度関数H0が-2.8以上であり、かつ、温度100℃における蒸気圧が400mmHg以下である水溶性電解質を含む水系電解液を用いる。
前記電気二重層キャパシタは、前記水系電解液中の前記水溶性電解質の濃度が、65~77質量%であってもよい。
上記いずれかの電気二重層キャパシタは、分極性電極に含まれる活性炭と、前記水系電解液との質量比が、1:0.5~1:3であってもよい。
上記いずれかの電気二重層キャパシタにおいて、前記水系電解液は、硫酸を含まなくてもよい。
本開示に係る電気二重層キャパシタの製造方法は、活性炭と電解液との混合物であるペーストをガスケットへ付与し、乾燥させて、乾燥後の電解液を含む分極性電極を作製する際に、前記乾燥後の電解液は、温度25℃におけるハメットの酸度関数H0が-2.8以上であり、かつ、温度100℃における蒸気圧が400mmHg以下である水溶性電解質を含む水系電解液であり、前記乾燥の条件は、温度20~30℃、相対湿度30~60%である。
前記電気二重層キャパシタの製造方法は、前記ペーストに用いる前記乾燥前の電解液に含まれる水溶性電解質の温度20~30℃における蒸気圧が、8~20mmHgであってもよい。
上記いずれかの電気二重層キャパシタの製造方法は、前記乾燥前のペーストにおける前記活性炭と、前記電解液との質量比が、1:1~1:4であってもよい。
上記いずれかの電気二重層キャパシタの製造方法において、前記分極性電極に含まれる前記活性炭と、前記電解液との質量比が、1:0.5~1:3であってもよい。
上記いずれかの電気二重層キャパシタの製造方法において、前記乾燥後の電解液中の前記水溶性電解質の濃度が、65~77質量%であってもよい。
上記いずれかの電気二重層キャパシタの製造方法において、前記電解液が、硫酸を含まなくてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高温域であっても長期間漏れ電流を低く維持でき、高温域での信頼性が高く、装置の長寿命化が可能な電気二重層キャパシタおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示に係る電気二重層キャパシタの単位セルの一例を示す模式的断面図である。
【
図2】本開示に係る電気二重層キャパシタの一実施形態を示す模式的断面図である。
【
図3】漏れ電流を測定する際に用いる回路の概略図である。
【
図4】静電容量を測定する際に用いる回路の概略図である。
【
図5】水溶性電解質として硫酸およびリン酸をそれぞれ用いた際の、電気二重層キャパシタにおける、温度25℃での漏れ電流(LC)の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図6】水溶性電解質として硫酸およびリン酸をそれぞれ用いた際の、電気二重層キャパシタにおける、温度70℃での漏れ電流(LC)の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図7】水溶性電解質として硫酸およびリン酸をそれぞれ用いた際の、電気二重層キャパシタにおける、温度85℃での漏れ電流(LC)の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図8】水溶性電解質として硫酸およびリン酸をそれぞれ用いた際の、電気二重層キャパシタにおける、温度85℃、電位差5.5Vにおける静電容量の減少率の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図9】水溶性電解質として硫酸およびリン酸をそれぞれ用いた際の、電気二重層キャパシタにおける、温度95℃、電位差5.5Vにおける静電容量の減少率の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図10】水溶性電解質として硫酸およびリン酸をそれぞれ用いた際の、電気二重層キャパシタにおける、温度105℃、電位差5.5Vにおける静電容量の減少率の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図11】水溶性電解質としてリン酸を用いた際の、電気二重層キャパシタの各温度における、静電容量の初期値からの減少率の経時変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
硫酸を電解液に用いた電気二重層キャパシタでは、高い導電率は得られるものの、硫酸は強酸であるため、装置の劣化が速い傾向があり、高温(例えば、85~105℃)での長期間の品質保証は不十分な場合があった。従来の硫酸電解液を用いた電気二重層キャパシタの使用上限温度は、通常85℃(製品寿命:約2000時間)であり、85℃でのLC値は、室温(25℃)でのLC値の約150倍にもなる。
【0012】
一方、本開示に係る電気二重層キャパシタ(以降、本キャパシタとも記す)では、温度25℃におけるハメットの酸度関数H0が-2.8以上であり、かつ、100℃における蒸気圧が400mmHg以下である水溶性電解質を含む水系電解液を用いる。当該水溶性電解質を用いた本キャパシタでは、適度な導電率を維持した状態で、電極やセパレータ等の部材へのダメージが少なく、かつ、高温域であっても電解液の蒸発を適度に抑制できる。その結果、本キャパシタは、高温域であっても長期間低いLC値を維持でき(例えば、85℃で製品寿命が6000時間~9000時間)、超高温域(例えば、105℃)でも長時間(例えば、2000時間以上)品質が保証できるスーパーキャパシタとして用いることができる。
【0013】
以下、本開示を適用した実施形態の一例について説明する。本開示は、下記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
なお、数値範囲を示す「~」は特に断りがない限り、その下限値及び上限値を含むものとする。
【0014】
<電気二重層キャパシタ>
本キャパシタは、一対の分極性電極と、水系電解液とを有することができる。なお、本キャパシタでは、温度25℃におけるハメットの酸度関数H0が-2.8以上であり、かつ、温度100℃における蒸気圧が400mmHg以下である水溶性電解質を含む水系電解液を用いる。ここで、本明細書において、「水溶性電解質」とは、溶剤(例えば、水)を含んだものを意味してもよいし、溶剤を含んでいないものを意味してもよい。例えば、電解質として後述するリン酸を用いる場合、前記「水溶性電解質」は、濃度100質量%のリン酸であってもよいし、特定の濃度のリン酸水溶液を意味してもよい。
【0015】
ハメットの酸度関数H0は、ルイス・ハメットによって提唱された、溶液等の媒体の酸性の強さを定量的に表す数値である。なお、ハメットの酸度関数は、対象となる溶液の種類と組成、濃度に固有の数値であり、温度によって変化する。ハメットの酸度関数H0が負に大きな数値であるほど、強い酸性を示す。すなわち、本キャパシタにおいて、水系電解液中に水等の溶剤を用いる場合は、前記「水溶性電解質」の「温度25℃におけるハメットの酸度関数H0」とは、この溶剤に溶解した水溶性電解質(例えば、水溶性電解質溶液(例えば、リン酸水溶液))の値であることができる。
【0016】
水溶性電解質の温度25℃におけるハメットの酸度関数H0が-2.8以上であれば、適度な酸性度を有するため、電極等の部材へのダメージを少なくすることができる。また、H0が-2.8以上の水溶性電解質は、適度な反応性を有するため、電解液の分解による液量減少を抑制できる。また、水溶性電解質の温度25℃におけるハメットの酸度関数H0は、反応性および高温信頼性の観点から、-2.5以上であることが好ましく、-2.2以上であることがより好ましい。さらに、水溶性電解質の温度25℃におけるハメットの酸度関数H0は、導電率の観点から、0以下であることが好ましく、-1.0以下であることがより好ましい。
【0017】
なお、電気二重層キャパシタで通常使用される硫酸電解液における硫酸濃度は、45~60質量%であり、その際の、温度25℃におけるハメットの酸度関数H0は-4.46~-2.85である。したがって、電気二重層キャパシタに従来使用されてきた硫酸水溶液は、本キャパシタに用いる水溶性電解質を含む水系電解液よりも酸性が強いことが分かる。
【0018】
水溶性電解質の温度25℃におけるハメットの酸度関数H0は、以下の方法により測定することができる:測定対象(酸度関数を求めたい酸性溶液(HA))に、解離定数が既知のニトロアニリン系中性塩基(B)(例:p-ニトロアニリン)を少量加え、溶液中でのプロトン化体と非プロトン化体の濃度比をNMRスペクトルの積分値や吸光光度法によって求めることで、ハメットの酸度関数H0を以下の式により算出する。
H0 = pKBH+ - log[BH+]/[B]
ここでpKBH+はBH+(プロトン(H+)化された塩基B)の酸解離定数、[BH+]はBH+のモル濃度、[B]は塩基Bのモル濃度を表す。
なお、電気二重層キャパシタに含まれる電解液中の水溶性電解質の温度25℃におけるハメットの酸度関数H0を求める場合は、まず、電気二重層キャパシタに含まれる電解液を同定する。そして、同定された水溶性電解質の濃度や組成比率に基づき、水溶性電解質の上記H0を特定する。
【0019】
また、水溶性電解質の温度100℃における蒸気圧が400mmHg以下であれば、高温での電解液の蒸発が適度に抑制できる。また、100℃における蒸気圧は、電解液の蒸発抑制の観点から、370mmHg以下であることが好ましく、350mmHg以下であることがより好ましい。水溶性電解質の100℃における蒸気圧は、低ければ低い程、製品特性には有利であるが、50mmHg以上であることが好ましい。水溶性電解質の100℃における蒸気圧が50mmHg以上であれば、製造時に水系電解液中の水溶性電解質の濃度を適度に保ちやすく、製造環境(温度:20~30℃)において、水系電解液の粘度を適度に保ちやすい。その結果、調製した電極ペーストのスキージングを容易に行うことができ、製造容易性が向上する。同様の観点から、水溶性電解質の100℃における蒸気圧は、100mmHg以上であることがより好ましい。
【0020】
水溶性電解質の温度100℃における蒸気圧は、静止法により測定することができる。具体的には、圧力計を備えた容器中に試料を密封し、内部を充分に排気して試料とその蒸気のみにし、100℃の恒温浴中に容器を静置し、そのときの蒸気が示す圧力を測定する。なお、本キャパシタにおいて、水系電解液中に水等の溶剤を用いる場合は、前記「水溶性電解質」の「温度100℃における蒸気圧」とは、この溶剤に溶解した水溶性電解質(例えば、水溶性電解質溶液(例えば、リン酸水溶液))の値であることができる。
【0021】
25℃におけるハメットの酸度関数H0が-2.8以上でありかつ100℃における蒸気圧が400mmHg以下である水溶性電解質としては、例えば、以下のものを挙げることができる:酢酸、ホウ酸、リン酸、シュウ酸、酪酸、ジクロロ酢酸。これらの酸以外のものであっても、上記酸度関数および蒸気圧の条件を満たすものであれば、制限なく使用できる。
しかしながら、これらの中でも、導電率および上述した製造容易性の観点から、酢酸、シュウ酸およびリン酸から選ばれる酸を当該水溶性電解質として用いることが好ましい。また、同様の観点から、リン酸を水溶性電解質として用いることが特に好ましい。
【0022】
なお、各水溶性電解質の濃度(本キャパシタに含有される水系電解液中での濃度)は、上記条件、すなわち、25℃におけるハメットの酸度関数H0が-2.8以上を満たし、かつ、100℃における蒸気圧が400mmHg以下を満たす範囲で適宜設定できる。
例えば、水系電解液中のリン酸濃度は、ハメットの酸度関数H0を-2.8以上に調整する観点から、77質量%以下であることが好ましく、導電率の観点から、75質量%以下であることがより好ましい。さらに、100℃における蒸気圧を400mmHg以下に調整する観点から、65質量%以上であることが好ましく、電解液の蒸発抑制の観点から、70質量%以上であることがより好ましい。
例えば、濃度が65~75質量%のリン酸水溶液は、凝固点は-20℃以下であるため、-20℃以下の低温度であっても氷結せずに使用可能であり、高温から低温まで非常に幅広い温度環境で使用できる電気二重層キャパシタを提供できる。
【0023】
本キャパシタにおいて、上記水溶性電解質は、1種を単独で用いても良いし、複数種を併用してもよい。しかしながら、複数種の水溶性電解質を用いた場合は、これらの水溶性電解質全体の性質(例えば、水系電解液全体の性質)が、上記H0及び蒸気圧の条件を満たすようにする。
【0024】
水系電解液は、本開示の効果が得られる範囲で、上述した水溶性電解質および当該電解質の溶媒となる水等の他に、他の成分も含むことができる。この他の成分としては、例えば、以下のものを挙げることができる:グリセリン、ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール、スルホラン等の水溶性有機溶媒。
なお、他の成分を水系電解液に含む場合には、水系電解液全体が、上述したH0および100℃における蒸気圧等の種々の条件を満たすことが好ましい。また、水系電解液は、上述した水溶性電解質の水溶液から構成されてもよい。
【0025】
なお、本キャパシタは、硫酸電解液を用いた電気二重層キャパシタの課題点を解決すべく発明されたものであるため、本開示の優れた効果をより発揮する観点から、水系電解液に硫酸を含まないことが好ましい。
【0026】
上述したように、本キャパシタは、上記水系電解液の他に、一対の分極性電極を含むことができる。本キャパシタは、例えば、
図1に示すような単位セル10を有することができる。単位セル10は、正極集電体1およびその上に設けられた正極としての分極性電極3と、負極集電体2およびその上に設けられた負極としての分極性電極4を備える。分極性電極3、4は、電気二重層を形成する部分である。なお、
図1は、本開示に係る電気二重層キャパシタの単位セルの一例を示す模式的断面図である。
【0027】
ここで、電気二重層キャパシタの容量は、1cm2あたり数十μFであるが、表面積が数千m2にも及ぶ活性炭を電極の主成分として用いることにより、数百~数千Fの極めて大きな容量を得ることができる。なお、主成分とは、ある対象物(ここでは、電極)に含まれる成分のうち、最も多く含まれる成分のことを意味する。したがって、本キャパシタが有する分極性電極は、公知の材料から適宜選択できるが、一対の分極性電極の少なくとも一方(例えば、正極)または両方に、活性炭を含むことが好ましい。以下に、本キャパシタの一実施形態を示すが、本開示は当該実施形態に限定されるものではない。
【0028】
分極性電極3、4は、活性炭粉末を含み、水系電解液を混合することでペースト状となっている。活性炭としては、フェノール、レーヨン、アクリル、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂系活性炭;やし殻、ハードウッドなどの天然材料系活性炭;ピッチ、コークスなどの石炭・石油系活性炭を用いることができる。これらの中でも、活性炭としては、フェノール樹脂系活性炭、やし殻活性炭もしくは石油コークス系活性炭を好適に用いることができる。
【0029】
ここで、本キャパシタにおいて、分極性電極に含まれる活性炭と、水系電解液(溶質(例えば、リン酸)および溶媒(例えば、水)を含むもの)との質量比は、体積あたりの容量の観点から、1:0.5~1:3とすることが好ましい。なお、活性炭の配合割合は、用いる活性炭の形状や粒度に応じて適宜選択することができる。
【0030】
図1に示す電気二重層キャパシタでは、正極の分極性電極3と、負極の分極性電極4とが、セパレータ5を介して対向配置される。セパレータ5は、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布や、ポリプロピレン微多孔膜などからなり、分極性電極3、4同士の短絡を防止できる。
【0031】
正極集電体1と負極集電体2は、分極性電極3、4よりも平面視上のサイズが大きく、分極性電極3、4に対して、平面視上、額縁領域が存在する。正極集電体1と負極集電体2の額縁領域である外周端には絶縁性のガスケット6(電極ガスケット)が配置される。すなわち、分極性電極3、4およびセパレータ5の外周端にガスケット6が配され、ガスケット6、分極性電極3、4およびセパレータ5を介して正極集電体1と負極集電体2が対向配置される。ガスケット6により、正極集電体1と負極集電体2の短絡を防止することができる。
【0032】
正極集電体1、負極集電体2およびガスケット6は、水系電解液耐性と導電性、非導電性等を鑑みて、適宜選択することができる。例えば、正極集電体1、負極集電体2としては、導電性ブチルゴムを用いることができ、ガスケット6としては、絶縁性ブチルゴムを用いることができる。ガスケット6、正極集電体1、負極集電体2により単位セル10が密閉構造となり、容器内部に充填された水系電解液の外部漏洩を防止できる。
【0033】
単位セル10は、通常、外装体(不図示)で形成された容器内に収容される。正極集電体1は正極タブ(不図示)に接続され、負極集電体2は負極タブ(不図示)に接続される。そして、これらのタブは容器の外まで引き出されている。即ち、正極集電体1および負極集電体2は、セル外部と分極性電極3、4とを電気的に接続する媒体としての役割を担うことができる。
【0034】
水系電解液7は電気伝導性を有する、上述した条件を満たす水溶性電解質を含む溶液で、活性炭粉末と混合されたペーストとして分極性電極3、4に含浸することができ、また、セパレータ5にも含浸することができる。水系電解液7と分極性電極3、4により、電気二重層が形成される。
【0035】
電気二重層キャパシタは、単位セルが積層された構造としてもよい。単位セル10の形状は、箱型、円筒型、シート型など種々の形態を取り得る。
【0036】
<電気二重層キャパシタの製造方法>
本開示に係る電気二重層キャパシタ(キャパシタ素子)の製造方法(以降、本製造方法とも記す)は、活性炭と電解液との混合物であるペーストをガスケットへ付与し、乾燥させて、乾燥後の電解液を含む分極性電極を作製する際に、以下の条件を満たす。すなわち、前記乾燥後の電解液は、温度25℃におけるハメットの酸度関数H0が-2.8以上であり、かつ、温度100℃における蒸気圧が400mmHg以下である水溶性電解質を含む水系電解液である。また、その際の乾燥の条件が、温度20~30℃、相対湿度30~60%である。なお、本製造方法を用いない場合であっても、上述した本キャパシタを得ることができる製造方法であれば、適宜用いることができる。具体的には、本製造方法では、流動性を持たせるため、電解液の配合比が通常より過剰なペーストを調製し、ガスケットに塗り込んだ後、気液平衡により(具体的には、電解液を蒸発させることにより)、最終的な電解液量および電解液濃度を調整する、ペースト法を用いている。しかしながら、本キャパシタを得るために、乾燥した電極と電解液とをそれぞれ別途用意し、電解液を電極に滴下する方法も用いることができる。
【0037】
本製造方法は、より具体的には、以下の工程を含むことができる。
・電解液(以降、原料電解液とも記す)を調製する工程(電解液調製工程)。
・ガスケットを用意する工程(ガスケット用意工程)。
・活性炭と電解液(原料電解液)とを混合して、ペースト(電極ペースト)を調製する工程(ペースト調製工程)。
・前記ペーストを前記ガスケット上にスキージングする工程(スキージング工程)。
・スキージングした前記ペーストを乾燥し、単位セルを得る工程(乾燥工程)。
・得られた単位セルを用いて、電気二重層キャパシタを作製する工程(キャパシタ作製工程)。
これらの工程は順次行われてもよいし、複数の工程(例えば、電解液調製工程およびガスケット用意工程)が並行して行われてもよい。また、これらの工程を複数回おこなってもよい。
以下にこれらの工程について詳しく説明する。
【0038】
まず、所定の濃度の水溶性電解質(例えば、リン酸)を含む水系電解液(例えば、リン酸水溶液)を調製する(電解液調製工程)。この原料電解液は、乾燥処理後の電解液の上記ハメットの酸度関数および温度100℃における蒸気圧が上記条件を満たすものであれば、特に制限なく、水溶性電解質およびその濃度などを設定できる。すなわち、原料電解液(水溶性電解質)の温度25℃におけるハメットの酸度関数H0は-2.8以上であってもよいし、-2.8以上でなくてもよい。また、原料電解液(水溶性電解質)の温度100℃における蒸気圧は、400mmHg以下であってもよいし、400mmHg以下でなくてもよい。しかしながら、より安定したペースト電極を製造でき、後述の乾燥工程を適切に行うことができる観点から、原料電解液(乾燥前の電解液)の温度20~30℃(製造環境での温度(室温))における蒸気圧は8~20mmHgであることが好ましい。より詳しくは、当該温度における原料電解液(水溶性電解質)の蒸気圧が、8mmHg以上であれば、乾燥工程時に、ペーストの吸湿量を適切な範囲に抑えやすく、ペースト中の活性炭と電解液との質量比を適切な範囲内に抑えやすい。また、当該温度における原料電解液(水溶性電解質)の蒸気圧が、20mmHg以下であれば、電解液の蒸発量を適切な範囲に抑えやすく、ペースト中の活性炭と電解液との質量比を適切な範囲内に抑えやすい。
【0039】
例えば、水溶性電解質(水系電解液中に溶剤を含む場合は水溶性電解質溶液)の温度25℃における蒸気圧を、電極形成時の作業性の観点から、15mmHg以下とすることができ、10mmHg以上とすることができる。
【0040】
次に、活性炭とこの原料電解液を混合してペースト状にして、電極ペーストを作製する(ペースト調製工程)。ペーストに混合する活性炭と原料電解液(溶質(例えば、リン酸)および溶媒(例えば、水)を含むもの)の質量比は、活性炭の形状や比表面積、種類等に応じて、適宜調整する。しかしながら、体積あたりの容量の観点から、乾燥前のペーストにおける活性炭と、原料電解液との質量比は、1:1~1:4であることが好ましい。
【0041】
続いて、例えば中空円形状のガスケット6を用意する(ガスケット用意工程)。そして、このガスケット6と、円盤状の正極集電体1、負極集電体2をそれぞれ貼り合わせ、ガスケット6の径と同じサイズの打ち抜き穴のあるPE(ポリエチレン)もしくはPET(ポリエチレンテレフタレート)シート等をガスケット6上に貼り合わせ、ガスケット6の表面に電極ペーストが付着しないようにマスクする。そして、上記電極ペーストをガスケット6内に滴下し、スキージングを行い、電極ペースト塗布量を均一にする(スキージング工程)。上記電極ペーストを塗布した後、貼り付けていたPE・PETシートを剥がし、原料電解液内の水分を乾燥させて単位セルの片側を形成する(乾燥工程)。
その際、電極ペーストの乾燥は、温度20℃~30℃(室温)、相対湿度30~60%RHの条件下で平衡状態になるまで行う。この条件で平衡状態になるまで乾燥することにより、電解液濃度を容易に安定して制御できる。その際、乾燥後の電解液中の水溶性電解質の濃度は、上述したように、65~77質量%であることが好ましい。また、上述したように、分極性電極に含まれる活性炭と、電解液との質量比は、1:0.5~1:3であることが好ましい。さらに、本製造方法において、本開示の効果をより発揮させる観点から、電解液は硫酸を含まないことが好ましい。
【0042】
同様にして、単位セルのもう一方の片側を作製する。そして、これらを、セパレータ5を挟んでそれぞれを対向配置させることによって、水系電解液7を含んだ分極性電極3、4を封止する。封止の際には100Pa以下に減圧を行い内部の空気を除去して真空圧着を行う。封止を行った単位セルは6kg/cm-2程度に加圧して120℃で30~60min加硫を行い、接合部を密着させる。これらの工程を経て、単位セル10を製造することができる。必要に応じて、単位セル10を積層させて、電気二重層キャパシタを作製する(キャパシタ作製工程)。
電気二重層キャパシタは、充放電の際には分極した電極に水系電解液中のイオンが物理吸着することで容量を発現することができる。
【実施例0043】
以下、実施例および比較例を挙げて本開示を具体的に説明する。なお、これらの記載により本開示を制限するものではない。
【0044】
[実施例1]
水溶性電解質としてリン酸(PA)を70質量%濃度(乾燥工程後の濃度)で含む水系電解液(リン酸水溶液)を含有する電気二重層キャパシタを以下の手順に従い、作製した。なお、当該リン酸水溶液(水溶性電解質水溶液)の乾燥工程後の温度25℃におけるハメットの酸度関数H
0は-2.29であり、乾燥工程後の温度100℃における蒸気圧は340mmHgであった。また、当該リン酸水溶液の乾燥工程前の、すなわち、ペースト調製時の原料電解液の温度25℃における蒸気圧は8.5mmHgであった。さらに、ペースト調製時の活性炭と、原料電解液との質量比は、1:1.5であった。また、乾燥工程後の分極性電極に含まれる活性炭と、電解液との質量比は、1:1.3であった。以下に製造操作をより詳しく説明する。
まず、粒径4~14μmのフェノール樹脂系活性炭に、濃度60質量%のリン酸水溶液を加え、よく混練し、ペースト状とした。次いで、非導電性ブチルゴムからなるガスケットと導電性ブチルゴムからなる集電体とで構成されたシート(電極塗工部:厚さ0.5mm、直径6.6mm)を用意し、このシートの電極形成部にペーストを塗工し、乾燥することで電極を作製した。その際、ペーストを適度に乾燥できるよう、乾燥条件は、温度:20~30℃、相対湿度:30~60%RHを満たすように設定した。
次いで、電極が形成された上記シートを一対用意し、厚さ0.05mm、直径8.0mm、空孔55%のポリテトラフルオロエチレン製の多孔性セパレータを介してそれらを重ね合わせた。次に、熱圧着によりブチルゴムの加硫を促すことで、非導電性ブチルゴムからなるガスケット同士および非導電性ブチルゴムからなるガスケットと導電性ブチルゴムからなる集電体を封止することで単セルシートを作製し、単セルシートを6枚積層し、単位セル積層体を作製した。
単位セル積層体を用いて、
図2に示した構造を有する電気二重層キャパシタ11を作製した。単位セル積層体12の
図2における下側の集電体は接続端子13bと直接接続され、
図2における上側の集電体は、ステンレスなどの金属からなる有底筒状のケース15の底部に接し、開口部の縁が内側に折り曲げられてかしめ加工が施され、絶縁体14を介して配されている接続端子13aに接続されていた。
【0045】
[比較例1]
水溶性電解質として硫酸(SA)を50質量%濃度(乾燥工程後の濃度)で含む水系電解液(硫酸水溶液)を用いた以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製した。なお、当該硫酸水溶液の乾燥工程後の25℃におけるハメットの酸度関数H0は-3.38であり、100℃における蒸気圧は325mmHgであった。
【0046】
[漏れ電流]
各例で得られた電気二重層キャパシタの各温度(25℃、70℃、85℃)における漏れ電流(LC)の経時変化結果を表1~表3に示し、当該結果に基づくグラフを
図5~
図7に示す。
なお、電気二重層キャパシタの各温度におけるLCは以下の方法により測定した。すなわち、
図3に示す回路において、スイッチSWをONすることにより、電気二重層キャパシタCに定格電圧E
0を印加して、直列抵抗Rc両端の電圧VRを測定し、次式により漏れ電流を算出した。
電流:I=VR/Rc
式中、Iは漏れ電流[A]、VRは抵抗両端の電圧[V]、Rcは抵抗[Ω]を示す。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
[静電容量]
各例で得られた電気二重層キャパシタの各温度(85℃、95℃、105℃)における静電容量に関して初期値からの減少率の経時変化結果を表4~表6に示し、当該結果に基づくグラフを
図8~
図10に示す。
なお、電気二重層キャパシタの各温度における静電容量は以下の定電流放電法により測定した。すなわち、まず、
図4に示す回路において、電気二重層キャパシタの端子電圧が最大使用電圧に到達した後、30分間の充電を行った。次に、定電流負荷装置を用い、定格容量1Fあたり1mAとなるような電流で放電し、端子間電圧が定格電圧の60%から50%に下がる時間を測定し、次式により静電容量を算出した。なお、
図4中、Vは電圧計、Aは電流計、Rは可変抵抗、Cはキャパシタ(コンデンサ)、SWはスイッチを表す。
静電容量: C=I×(T2-T1) / (V1―V2)
式中、Cは静電容量[F]、Iは放電電流[A]、V1は端子間電圧が定格電圧の60%のときの電圧[V]、V2は端子間電圧が定格電圧の50%のときの電圧[V]、T1は端子間電圧が定格電圧の60%に到達した時間[秒]、T2は端子間電圧が定格電圧の50%に到達した時間[秒]を示す。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
また、実施例1による電気二重層キャパシタの各温度(85℃、95℃、105℃)における静電容量に関して初期値からの減少率の経時変化結果をまとめたものを
図11に示す。
図11を参照すると、リン酸水溶液を使用した実施例1の電気二重層キャパシタは、静電容量が初期値の-30%に到達するまで、85℃で9000時間以上(予測値)、95℃で3500時間以上、105℃で2000時間以上かかり、非常に長期間品質が保証できることが分かる。一方、硫酸水溶液を用いた比較例1の電気二重層キャパシタでは、静電容量が初期値の-30%に到達するまで、85℃で約2500時間、95℃で約1000時間、105℃で約500時間となり、実施例1の電気二重層キャパシタと比較して製品寿命が短かった。
【0055】
このように、特定の水溶性電解質を用いた本開示に係る電気二重層キャパシタは、たとえ高温域(85℃)であっても長期間漏れ電流を低く維持でき、高温域での信頼性が高く、装置の長寿命化が可能であった。さらに、本開示に係る電気二重層キャパシタは、105℃という非常に高温環境であっても、長期間高品質を保証できるスーパーキャパシタとして使用できることが分かった。