(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002478
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】半導体式のガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101674
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】300075751
【氏名又は名称】株式会社オプトラン
(74)【代理人】
【識別番号】110000464
【氏名又は名称】弁理士法人いしい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 大輝
(72)【発明者】
【氏名】朱 子誠
(72)【発明者】
【氏名】並木 恵一
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA24
2G046AA26
2G046BA01
2G046BA09
2G046BB02
2G046BC03
2G046FB02
2G046FC01
2G046FE25
2G046FE38
2G046FE46
(57)【要約】
【課題】電気化学測定の測定感度を向上できる電極及び電極チップを提供する。
【解決手段】ガスセンサ1は、絶縁性の基板2の上に形成された電極層3と、基板2の上及び電極層3の上にまたがって形成された凹凸構造層4と、凹凸構造層4の上に形成された酸化物半導体からなるガス検知層5とを備えている。凹凸構造層4は、多孔質構造を有している。ガス検知層5は、凹凸構造層4の多孔質構造に起因する多孔質構造を有している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基板の上に形成された電極層と、
前記基板の上及び前記電極層の上にまたがって形成された凹凸構造層と、
前記凹凸構造層の上に形成された酸化物半導体からなるガス検知層とを備え、
前記凹凸構造層は、多孔質構造を有しており、
前記ガス検知層は、前記凹凸構造層の多孔質構造に起因する多孔質構造を有している、
半導体式のガスセンサ。
【請求項2】
前記凹凸構造層は絶縁性材料で形成されている、
請求項1に記載の半導体式のガスセンサ。
【請求項3】
前記凹凸構造層は絶縁性の金属酸化物で形成されている、
請求項1に記載の半導体式のガスセンサ。
【請求項4】
前記凹凸構造層は、アルミナ層を温水処理によって多孔質化した絶縁性のアルミニウム化合物層で形成されている、
請求項1に記載の半導体式のガスセンサ。
【請求項5】
前記ガス検知層は、不純物を添加して負電荷に偏った三酸化タングステンで形成されている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体式のガスセンサ。
【請求項6】
前記ガス検知層は、ニッケルを添加した三酸化タングステンで形成されている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体式のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体式のガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化物半導体からなるガス検知層を備えた半導体式のガスセンサが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この種の半導体式のガスセンサは、ガス検知層を数百度の温度に加熱することで、ガス検知層表面に吸着した酸素にガス検知層中の電子が奪われてガス検知層に電気が流れにくい状態にされて使用される。この状態で、ガス検知層がアセトンや一酸化炭素等の還元性ガスに晒されると、還元性ガスがガス検知層表面の酸素と反応して、吸着酸素に捕獲されていた電子がガス検知層に戻されて、ガス検知層に電気が流れやすい状態になる。半導体式のガスセンサは、ガス検知層の電気抵抗値の変化を測定することによって、ガスの検知を行うことができる。
【0004】
従来のガスセンサは、ガス検知層を多数の柱状結晶の集合体で形成することで、ガス検知層の表面積を増大させ、センサ感度やガス選択性を向上させている。しかしながら、従来のガスセンサは、ガス検知層の表面積を増大させるにあたり、ガス検知層を構成する酸化物半導体を柱状結晶に形成する必要があることから、形成可能な酸化物半導体の種類に制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ガス検知層の酸化物半導体の種類にかかわらずガス検知層の表面積を増大させて、センサ感度やガス選択性を向上できる半導体式のガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半導体式のガスセンサは、絶縁性の基板の上に形成された電極層と、前記基板の上及び前記電極層の上にまたがって形成された凹凸構造層と、前記凹凸構造層の上に形成された酸化物半導体からなるガス検知層とを備え、前記凹凸構造層は、多孔質構造を有しており、前記ガス検知層は、前記凹凸構造層の多孔質構造に起因する多孔質構造を有しているものである。
【0008】
本発明の半導体式のガスセンサおいて、前記凹凸構造層は、例えば、絶縁性材料で形成されているようにしても構わない。
【0009】
また、前記凹凸構造層は、例えば、絶縁性の金属酸化物で形成されているようにしても構わない。
【0010】
また、前記凹凸構造層は、例えば、アルミナ層を温水処理によって多孔質化した絶縁性のアルミニウム化合物層で形成されているようにしても構わない。
【0011】
また、前記ガス検知層は、例えば、不純物を添加して負電荷に偏った三酸化タングステンで形成されているようにしても構わない。より具体的には、前記ガス検知層は、ニッケルを添加した三酸化タングステンで形成されているようにしても構わない。なお、三酸化タングステン(以下、単に酸化タングステンとも称する)に添加する不純物は、価数が5価以下の元素であればよく、ニッケル(Ni)以外に、例えばシリコン(Si)やインジウム(In)、アルミニウム(Al)、もしくは2種以上の元素であって構わない。また、ガス検知層を形成する酸化物半導体は、三酸化タングステン以外の金属酸化物、例えば二酸化スズや二酸化チタンなどであっても構わないし、不純物を添加した酸化物半導体であっても構わない。
【発明の効果】
【0012】
本発明の半導体式のガスセンサは、ガス検知層の酸化物半導体の種類や結晶構造にかかわらず、ガス検知層の表面積を増大できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】半導体式のガスセンサの一実施形態を示す模式的な平面図である。
【
図2】同実施形態を示す模式的な分離斜視図である。
【
図3】
図1のA-A位置に対応する模式的な断面図である。
【
図4】同実施形態の製造工程例を説明するための模式的な断面図である。
【
図5】凹凸構造層の破断面を示す走査電子顕微鏡画像である。
【
図6】凹凸構造層表面の走査電子顕微鏡画像である。
【
図7】同実施形態のガス検知層表面の走査電子顕微鏡画像である。
【
図8】実施例のガスセンサと従来のガスセンサをアセトン検知に使用した結果を示すグラフである。
【
図9】実施例のガスセンサの、アセトンに対する応答特性を示すグラフである。
【
図10】実施例のガスセンサの、エタノールに対する応答特性を示すグラフである。
【
図11】比較例のガスセンサの、アセトンに対する応答特性を示すグラフである。
【
図12】比較例のガスセンサの、エタノールに対する応答特性を示すグラフである。
【
図13】参考例1のガスセンサの、アセトンに対する応答特性を示すグラフである。
【
図14】参考例1のガスセンサの、エタノールに対する応答特性を示すグラフである。
【
図15】参考例2のガスセンサの、アセトンに対する応答特性を示すグラフである。
【
図16】参考例2のガスセンサの、エタノールに対する応答特性を示すグラフである。
【
図17】参考例3のガスセンサの、アセトンに対する応答特性を示すグラフである。
【
図18】参考例3のガスセンサの、エタノールに対する応答特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の半導体式のガスセンサの実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、一実施形態を示す模式的な平面図である。
図2は、同実施形態を示す模式的な分離斜視図である。
図3は、
図1のA-A位置に対応する模式的な断面図である。
【0015】
図1及び2に示すように、本実施形態の半導体式のガスセンサ1は、絶縁性の基板2と、基板2の上に形成された電極層3と、基板2の上及び電極層3の上にまたがって形成された凹凸構造層4と、凹凸構造層4の上に形成された酸化物半導体からなるガス検知層5とを備えている。ガスセンサ1は、いわゆる基板型のガスセンサである。
【0016】
絶縁性の基板2は、例えば、ガラスや石英、セラミックス等の絶縁体で形成される。基板2の大きさや形状等は特に限定されない。
【0017】
電極層3は、ガス検知層5の電気抵抗値の変化を検知するためのものであり、一対の櫛型電極層3a,3bを備えている。櫛型電極層3a,3bは、例えば、電極層の形成領域に対応して開口をもつメタルマスクを使用して、スパッタリング法によって基板2上に成膜した白金(Pt)層で形成できる。ただし、電極層3の形状はこれに限定されず、例えば平行平板型、螺旋型などの任意の形状を採用できる。また、電極層3の素材についても、特に限定されるものではなく、例えば、白金の他、金、銀、チタン、ニッケル、アルミニウム、ルテニウム、タンタル、チタン、銅、白金、ニオブ、ジルコニウム、もしくはこれらの元素の合金、又はこれらの元素と炭素との合金、もしくは炭素単体などを使用できる。また、電極層3は、単層膜であってもよいし、複数の膜を積層した多層膜であってもよい。
【0018】
図3に示すように、凹凸構造層4は、基板2の上及び電極層3の上にまたがって形成されている。また、凹凸構造層4は、多数の下地細孔4aをもつ多孔質構造を有する絶縁性の金属酸化物で形成されている。本実施形態では、凹凸構造層4は、アルミナ層を温水処理によって多孔質化したアルミニウム化合物層で形成されている。本実施形態では、凹凸構造層4は、基板2の上面において、櫛型電極層3a,3bの櫛歯部分の形成領域を覆って形成されている。
【0019】
このような凹凸構造層4は、例えば、電極層3を形成後の基板2の上に、原子層体積法(ALD法)又は物理気相成長法(PVD法)によって非晶質アルミナを30nm程度の厚みで成膜し、その後、基板2を75~85℃程度の温水に数分~数十分ほど浸漬することで形成できる。この温水処理で形成される多孔質のアルミニウム化合物層は、例えば、厚み(高さ)が140~150nm程度である。このように、温水処理という至極簡単な処理を施すだけで多孔質構造を有する凹凸構造層4を形成でき、製造コストを低減できる。
【0020】
凹凸構造層4の下地細孔4aの一部は、凹凸構造層4の表面に開口するとともに電極層3に到達している。後述するガス検知層5は、下地細孔4aを介して電極層3と電気接続される。
【0021】
なお、多孔質構造を有する凹凸構造層4は、温水処理によって多孔質化させたアルミニウム化合物層に限定されず、他の絶縁性の金属酸化物で形成されていてもよい。また、凹凸構造層4は、金属酸化物以外の絶縁性材料、例えばメソポーラスシリカで形成されていてもよい。
【0022】
ガス検知層5は、凹凸構造層4の上に形成されており、凹凸構造層4の多孔質構造(多数の下地細孔4a)に起因する多孔質構造(多数の検知層細孔5a)を有している。このような多孔質構造をもつガス検知層5は、凹凸構造層4の上に酸化物半導体を積層することで形成できる。本実施形態では、ガス検知層5の素材として、三酸化タングステン(WO3、以下単に酸化タングステンとも称する)を採用した。
【0023】
なお、ガス検知層5の素材は、酸化タングステンに限定されず、他の酸化物半導体、例えば二酸化スズや二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、ITO(酸化インジウムスズ)などであっても構わないし、これらに不純物元素がドーピング(添加)されたものであっても構わない。
【0024】
ガス検知層5の多孔質構造は、凹凸構造層4の多孔質構造によるが、例えば、厚み(膜厚)が20~1000nm程度である。また、ガス検知層5の成膜膜厚を変化させることで、ガス検知層5の多孔質構造(検知層細孔5aの開口形状や開口幅、孔深さなど)を制御することが可能である。これにより、用途に合わせた多孔質構造を有するガス検知層5を備えたガスセンサ1を形成できる。
【0025】
ガス検知層5の製造方法としては、形成領域及び膜厚を高精度に制御できることから、蒸着法であることが好ましい。本実施形態では、ガス検知層5の形成領域は凹凸構造層4の形成領域と同じである。ここで、蒸着法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、反応性プラズマ蒸着法、イオンプレーティング法などの、いわゆる物理気相成長法(PVD法)や、いわゆる化学的気相成長法(CVD法)を使用できる。ただし、各層の製造方法は、蒸着法に限定されず、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法などの印刷法であってもよい。
【0026】
なお、基板2の表面に、基板2と電極層3との剥離を防止する接着層を形成してもよい。このような接着層の材料としては、基板2及び電極層3との密着性が良好なものであればよく、例えば、クロム、チタン、タングステンを使用できる。また、基板2の表面に、基板2と凹凸構造層4との剥離を防止する接着層を形成してもよい。このような接着層は、基板2の表面に凹凸構造層4との密着性を向上させ得る表面処理を施して形成した表面処理層で形成されていてもよい。このような表面処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、フレーム処理、エッチング処理、蒸気処理、イオンビーム処理などを挙げることができる。
【0027】
ガスセンサ1は、多孔質構造のガス検知層5を有しているので、ガス検知層5の表面積を平面よりも大幅に増大させることができ、センサ感度(検出感度)を向上できる。また、ガス検知層5が多孔質構造による検知層細孔5aを有することで、検知層細孔5a内でのガス成分のガス検知層5への接触を許容する一方、ガス検知層5表面における検知層細孔5aの開口幅よりも大きな不純物が検知層細孔5a内へ入り込むのを抑制する。これにより、不純物がガス検知層5に接触する面積を低減でき、ガス成分に対する選択的な感度を向上できる。
【0028】
さらに、ガス検知層5の多孔質構造(検知層細孔5a)は下層側の凹凸構造層4が有する多孔質構造(下地細孔4a)に起因したものであるから、凹凸構造層4の上に酸化物半導体材料を積層することで多孔質構造を有するガス検知層5を容易かつ確実に形成できる。換言すれば、ガスセンサ1は、ガス検知層5を形成する酸化物半導体層が柱状結晶などの表面積が大きくなる特定の結晶構造を有しない場合であっても、多孔質構造を有するガス検知層5を形成する。すなわち、ガスセンサ1は、ガス検知層5の酸化物半導体の種類や結晶構造にかかわらずガス検知層5の表面積を増大させることができ、ひいてはセンサ感度やガス選択性を向上できる。
【0029】
また、ガス検知層5の成膜膜厚を変化させることでガス検知層5の多孔質構造(検知層細孔5aの開口形状や開口幅、孔深さなど)を制御することが可能である。これにより、用途に合わせた多孔質構造を有するガス検知層5を備えたガスセンサ1を形成できる。
【0030】
次に、
図4を参照しながら、ガスセンサ1の作製例について説明する。絶縁性の基板2としての厚さ10mm程度のガラス基板の上に、スパッタリング法により、一対の櫛型電極層3a,3bを有する電極層3を形成した(
図4(1)参照)。例えば、電極層3は、厚さが150nm程度の白金層で形成されている。また、櫛型電極層3a,3bのうち、櫛型部分が交互配置される部分の櫛型電極層3a,3bの線幅は150μmであり、300μmピッチ(150μm間隔)で櫛型電極層3a,3bが平行かつ交互に配置されている。
【0031】
次に、櫛型電極層3a,3bの櫛歯電極部分の形成領域に対応する開口パターンを有するメタルマスクを用いて、厚さ30nm程度のアルミナ層6を、凹凸構造層4を形成するための金属酸化膜として形成した(
図4(2)参照)。なお、アルミナ層6の膜厚は30nmよりも大きくても小さくてもよい。
【0032】
電極層3とアルミナ層6を成膜した基板2を75~85℃程度の温水に7分ほど浸漬してアルミナ層6を多孔質化し、多数の下地細孔4a(多孔質構造)を有する凹凸構造層4を形成した。その後、基板2を乾燥させた。多孔質化した凹凸構造層4は厚みが200~300nm程度であった(
図4(3)参照)。
【0033】
図5は、凹凸構造層4の破断面を示す走査電子顕微鏡画像である。
図6は、凹凸構造層4表面の走査電子顕微鏡画像である。
図5、
図6から分かるように、アルミナ層6を温水処理によって多孔質化した絶縁性のアルミニウム化合物層からなる凹凸構造層4には、多数の下地細孔4aが形成されている。そして、凹凸構造層4の表面は凹凸形状になっている。凹凸構造層4の下地細孔4aの一部は、凹凸構造層4の表面に開口するとともに基板2に到達している。
図5、
図6には現れてないが、電極層3上の下地細孔4aの一部は電極層3に到達している。
【0034】
次に、反応性プラズマ蒸着法により、凹凸構造層4の形成領域(アルミナ層6の形成領域)に対応する開口パターンを有するメタルマスクを用いて凹凸構造層4の上に酸化物半導体材料を積層し、多数の検知層細孔5a(多孔質構造)を有するガス検知層5を形成した。ガス検知層5は下地細孔4aを介して電極層3と電気接続される。ここでは、酸化物半導体材料として、インジウム(In)を0.5at%(原子パーセント)で添加した酸化タングステン(WO3)を100nmの膜厚で成膜した(
図4(4)参照)。その後、ガス検知層5を焼結処理した。
【0035】
このように、蒸着法(ここでは反応性プラズマ蒸着法)により、凹凸構造層4形成用の金属酸化膜及びガス検知層5を、開口パターンを有するメタルマスクを使用して形成することで、各層の成膜後にエッチング法やリフトオフ法によるパターニングが不要であり、製造コストを低減できる。
【0036】
図7は、一実施形態のガスセンサ1における多孔質構造のガス検知層5の表面の走査電子顕微鏡画像である。
図7から分かるように、ガス検知層5の表面に、凹凸構造層4の多孔質構造に起因する多孔質構造(検知層細孔5a)が形成されている。これにより、ガス検知層5の表面積が増大されて、センサ感度が向上している。
【0037】
ガス検知層5の膜厚は、特に限定されないが、50nm以上、1000nm以下であることが好ましい。なお、ガス検知層5の膜厚が50nmよりも薄いと、ガス検知層5が高抵抗となって測定感度が低下する。また、ガス検知層5の膜厚が1000nmよりも厚いと、ガス検知層5を蒸着法(例えば反応性プラズマ蒸着法)で成膜する場合には、ガス検知層5の成膜に要する時間が長くなり、生産効率が低下する。
【0038】
なお、1枚の基板2に複数のガスセンサ1の領域を設けて、複数のガスセンサ1を同時に形成した後、各ガスセンサ1を個片化することで、製造コストを低減できる。
【0039】
次に、ガスセンサ1を使用した測定結果例について説明する。
【0040】
実施例のガスセンサ1として、ガス検知層5がインジウム0.5at%添加の酸化タングステンであり、
図4を参照しながら説明した製造工程で作製したものを使用した。アセトン濃度が25~1000ppb(10億分率)の測定ガスを使用した。比較例として、従来のガスセンサを使用した。ガスセンサ1を例えば300℃に加熱し、ガス検知層5が空気中に曝されているときのセンサ抵抗値(R
air)と、ガス検知層5が測定ガスに曝されているときのセンサ抵抗値(R
gas)とを測定して、感度(=R
air/R
gas)を求めた。
【0041】
図8は、一実施例のガスセンサと従来のガスセンサをアセトン検知に使用した結果を示すグラフである。
図8において、縦軸は感度(任意単位)、横軸は測定ガスのアセトン濃度を示す。
図8からわかるように、実施例のガスセンサ1(「実施例」参照)は、従来のガスセンサ(「従来センサ」参照)に比べて10倍程度の測定感度が得られた(アセトン濃度が1000ppbの測定結果を参照)。また、実施例のガスセンサ1は、500ppbのアセトン濃度に対する感度が約8であり、アセトンに対する高い検出感度が得られた。また、実施例1のガスセンサ1は、濃度が25ppbのアセトンの検出も可能であり、アセトンに対する検出感度が高いことが分かる。
【0042】
ところで、糖尿病患者の呼気はアセトン濃度が上昇することが知られており、このアセトン濃度の上昇をガスセンサを用いて検知することで、糖尿病診断を可能とすることが試みられている。この糖尿病診断において、ガスセンサには、500~1000ppb程度の低濃度のアセトン検知性能と、呼気中に含まれるアセトン以外の成分(特にエタノール)との選択性が要求される。
【0043】
上記実施例のガスセンサ1の、アセトンとエタノールに対する検出感度を検証した。
図9、
図10は、実施例のガスセンサ1のアセトン、エタノールに対する応答特性を示すグラフである。測定ガスとして、アセトン濃度が1000ppb(1ppm)のものと、エタノール濃度が1000ppbのものを使用した。
図9、
図10の各グラフにおいて、横軸は相対時間(秒)、縦軸は感度(任意単位)を示す。
【0044】
図9に示すように、実施例のガスセンサ1は、濃度が1000ppbのアセトンに対する検出ピークが24.0程度であり、濃度が1000ppbのエタノールに対する検出ピークが25.0程度であった。これらの結果から、インジウムを添加した酸化タングステンからなるガス検知層5を有する実施例のガスセンサ1は、アセトンとエタノールの両方に高い検出感度を示すことがわかった。
【0045】
次に、凹凸構造層4の上にガス検知層5を形成したことによる効果を検証した結果を説明する。比較例のガスセンサとして、
図4を参照しながら説明した製造工程において、(1)基板2上に電極層3を形成した後、(2)アルミナ層6の形成工程と(3)温水処理工程を経ずに、(4)基板2上及び電極層3上にガス検知層5を形成したセンサを作製した。比較例のガスセンサの、アセトンとエタノールに対する検出感度を検証した。
【0046】
図11、
図12は、比較例のガスセンサのアセトン、エタノールに対する応答特性を示すグラフである。測定条件は、
図9、
図10に示した、実施例のガスセンサ1の応答特性を測定したときの条件と同じである。
【0047】
図11に示すように、比較例のガスセンサは、濃度が1000ppbのアセトンに対する検出ピークが12.5程度であった。また、
図12に示すように、比較例のガスセンサは、濃度が1000ppbのエタノールに対する検出ピークが18.7程度であった。
図9、
図10に示す実施例のガスセンサ1の応答特性と比較すると、実施例のガスセンサ1は、比較例のガスセンサよりも、アセトン、エタノールの両方に対して検出感度が高いことが分かった。
【0048】
次に、酸化タングステンに添加する不純物の種類について検証した結果を説明する。検証用のガスセンサとして、上記比較例のガスセンサと同様の構造を有し、ガス検知層(酸化タングステン)に添加する不純物を変更した参考例1~3の3種類のガスセンサを作製した。酸化タングステンに添加した不純物は、ニッケル0.5at%添加(参考例1)、シリコン0.5at%添加(参考例2)、アルミニウム0.5at%添加(参考例3)である。
【0049】
図13、
図14は、酸化タングステンにニッケルを添加したガス検知層を有する参考例1のガスセンサの、アセトン、エタノールに対する応答特性を示すグラフである。
図15、
図16は、酸化タングステンにシリコンを添加したガス検知層を有する参考例2のガスセンサの、アセトン、エタノールに対する応答特性を示すグラフである。
図17、
図18は、酸化タングステンにアルミニウムを添加したガス検知層を有する参考例3のガスセンサの、アセトン、エタノールに対する応答特性を示すグラフである。測定条件は、
図9、
図10に示した、実施例のガスセンサ1の応答特性を測定したときの条件と同じである。
図13~
図18の各グラフにおいて、横軸は相対時間(秒)、縦軸は感度(任意単位)を示す。
【0050】
図13に示すように、酸化タングステンにニッケルを添加したガス検知層を有する参考例1のガスセンサは、濃度が1000ppbのアセトンに対する検出ピークが3.9程度であり、アセトンに対する検出感度が非常に高いことが分かる。一方、
図14に示すように、参考例1のガスセンサは、濃度が1000ppbのエタノールに対する検出ピークが、アセトンに対する検出感度のおおよそ半分である2.3程度であり、アセトンとエタノールに対する検出感度に差が見られた。
【0051】
この結果から、凹凸構造層4上に形成したガス検知層5としてニッケルを添加した酸化タングステンを有するガスセンサ1は、アセトンとエタノールとに対する検出感度に差をもつ可能性が高いことがわかる。
【0052】
図15に示すように、酸化タングステンにシリコンを添加したガス検知層5を有する参考例2のガスセンサは、濃度が1000ppbのアセトンに対する検出ピークが4.7程度であった。一方、
図16に示すように、参考例2のガスセンサは、濃度が1000ppbのエタノールに対する検出ピークが3.7程度であった。参考例2のガスセンサは、アセトンとエタノールに対する検出感度に差が見られた。
【0053】
図17、
図18に示すように、酸化タングステンにアルミニウムを添加したガス検知層を有する参考例3のガスセンサは、濃度が1000ppbのアセトン、濃度が1000ppbのエタノールに対する検出ピークがともに3.0程度であり、アセトンとエタノールに対する検出感度はほぼ同じであった。
【0054】
以上のように、ガス検知層としてニッケル又はシリコンを添加した酸化タングステン(WO3)を有するガスセンサは、アルミニウムを添加した酸化タングステンを有するガスセンサに比べて、アセトンに対する良好な検出感度を示すことが分かった。また、ニッケルを添加した酸化タングステンからなるガス検知層を有するガスセンサは、アセトンとエタノールとに対する検出感度に大きな差を示すことが分かった。
【0055】
本発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば、絶縁性の基板2の上に形成された多孔質構造を有する凹凸構造層4は、その多孔質構造に起因してガス検知層5に多孔質構造が形成される構造を有するものであればよい。このような凹凸構造層は、例えば、酸化チタン、酸化スズ、酸化マグネシウムなどの多孔質膜であってもよいし、複数の金属元素を含む多孔質な金属酸化物であってもよいし、絶縁性金属酸化物からなる多数の微小粒子が接合することで多孔質構造の層が形成されているものであってもよい。なお、多孔質構造を有する凹凸構造層4は、凹凸構造層4上に形成されるガス検知層5と、凹凸構造層4の下層の電極層3とを、細孔を介して電気接続可能なものであればよい。
【0056】
このような凹凸構造層4は、例えば、基板2の上及び電極層3の上にまたがって形成した膜(例えば絶縁性材料からなる膜)に対して多数の下地細孔4aを形成する処理(エッチング処理等)を施して多孔質構造にしたものであっても構わない。また、凹凸構造層4における多数の下地細孔4aは、不規則に形成されていてもよいし、規則的に形成されていてもよい。
図1~3を参照して説明した上記実施形態でも同様である。なお、凹凸構造層4の上面に開口する下地細孔4aの全部が凹凸構造層4の下面に到達していなくてもよい。すなわち、凹凸構造層4は、少なくとも一部の下地細孔4aが凹凸構造層4下面に到達していて、上層側のガス検知層5と下層側の電極層3とを電気接続可能な構成になっていればよい。
【符号の説明】
【0057】
1 ガスセンサ
2 基板
3 電極層
3a,3b 櫛型電極層
4 凹凸構造層
4a 下地細孔
5 ガス検知層
5a 検知層細孔
6 アルミナ層