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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024780
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】殺菌用液体及び殺菌用液体の生成方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20240216BHJP
   C02F 1/48 20230101ALI20240216BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20240216BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20240216BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20240216BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240216BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
A01N59/16 A
C02F1/48 B
B01J13/00
A01N59/16 Z
A01N59/20
A01N25/04 102
A01P1/00
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127656
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】515040704
【氏名又は名称】株式会社大日製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岡 好浩
(72)【発明者】
【氏名】橋本 智裕
【テーマコード(参考)】
4D061
4G065
4H011
【Fターム(参考)】
4D061DA01
4D061DB09
4D061EA13
4D061EB07
4D061EB09
4D061EB27
4D061EB28
4D061EB29
4D061EB30
4D061EB31
4D061ED20
4G065AA01
4G065BB01
4G065CA01
4G065DA01
4G065DA02
4G065DA03
4G065DA07
4G065FA02
4H011AA01
4H011AA03
4H011AD02
4H011BB18
4H011DA15
4H011DD01
(57)【要約】
【課題】安全で適用方法や適用対象に制約がなく、殺菌の用途に広く利用できる殺菌用液体、殺菌用液体の生成方法及び殺菌方法を提供すること。
【解決手段】キャビテーション発生機構2により、水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、殺菌力を有する金属からなる電極31間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構3により、プラズマを発生させることによって殺菌性を発揮するナノ粒子を含有する水を生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ発生機構の電極に由来するナノ粒子を含有する水からなることを特徴とする殺菌用液体。
【請求項2】
キャビテーション発生機構により、水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、殺菌力を有する金属からなる電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構により、プラズマを発生させることによってナノ粒子を含有する水を生成することを特徴とする殺菌用液体の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌用液体及び殺菌用液体の生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、植物に病害を発生させる植物病原菌(ウイルス、細菌、真菌、原虫等を含む。本明細書において、単に、「植物病原菌」という。)に対して、殺菌作用を発揮する各種農薬が、その予防や治療のために用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-41914号公報
【特許文献2】特開2015-3297号公報
【特許文献3】特開2017-176201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の農薬を使用する植物病原菌の殺菌方法は、適用方法や適用対象に制約があった。
【0005】
本発明は、従来の農薬を使用する植物病原菌の殺菌方法とはまったく異なる手法で、安全で適用方法や適用対象に制約がなく、殺菌の用途に広く利用できる殺菌用液体及び殺菌用液体の生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の殺菌用液体は、プラズマ発生機構の電極に由来するナノ粒子(ナノ粒子が凝集して二次粒子になっているものを含む。以下、本明細書において同じ。)を含有する水からなることを特徴とする。
【0007】
また、同じ目的を達成するため、本発明の殺菌用液体の生成方法は、キャビテーション発生機構により、水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、殺菌力を有する金属からなる電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構により、プラズマを発生させることによってナノ粒子を含有する水を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の殺菌用液体及び殺菌用液体の生成方法によれば、原料の水を処理することで生成することができるプラズマ発生機構の電極に由来する極めて微量のナノ粒子により殺菌を行うことができることから、安心、安全なものであり、適用方法や適用対象に制約がなく、植物病原菌の殺菌の用途に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の殺菌用液体の生成に用いる装置の第1の例を示す概念図である。
図2】活性酸素種を含む各種物質の酸化電位及び結合エネルギを示す図である。
図3】本発明の殺菌用液体の生成に用いる装置の第2の例を示す概念図である。
図4】電極の材質毎の処理時間とpH、導電率、過酸化水素の濃度及び電極消耗量との関係を示す図である。
図5】走査電子顕微鏡(表面SEM)による菌(Botrytis cinerea)の観察写真である。
図6】走査電子顕微鏡(断面SEM)による菌(Botrytis cinerea)の観察写真である。
図7】走査電子顕微鏡(表面SEM)による菌(Erwinia carotovora)の観察写真である。
図8】走査電子顕微鏡(断面SEM)による菌(Erwinia carotovora)の観察写真である。
図9】本発明の殺菌用液体を用いた微細藻類(アオコ)の増殖抑制効果試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の殺菌用液体及び殺菌用液体の生成方法の実施の形態を説明する。
【0011】
本発明の殺菌用液体は、プラズマ発生機構の電極に由来するナノ粒子を含有する水からなることを特徴とするものである。
【0012】
そして、この殺菌用液体は、キャビテーション発生機構により、水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、殺菌力を有する金属からなる電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構により、プラズマを発生させることによってナノ粒子を含有する水を生成することにより得ることができる。
【0013】
殺菌用液体の生成に用いる装置としては、従来公知の装置、すなわち、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構によりプラズマを発生させる機構、より具体的には、先行技術文献の欄に記載した特許文献1-2に記載された、コンバージェントノズル、障害物等によって流路断面積を変化させて水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構とプラズマ発生機構とを組み合わせた装置や、同特許文献3に記載された、回転翼を回転させることによって水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構とプラズマ発生機構とを組み合わせた装置等を用いることができる。
【0014】
ここでは、殺菌用液体の生成に用いる装置として、以下説明する。
【0015】
この殺菌用液体の生成に用いる装置は、図1に示すように、水を貯留するタンク1と、キャビテーション発生機構としてのタンク1から供給された水を撹拌し、水流を発生させる撹拌装置2と、撹拌装置2によってキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡(キャビテーション気泡)を含む水中で、プラズマを発生させるプラズマ発生機構3と、これらの機構を接続して水を循環させる管路4とを備えて構成されている。
ここで、水を循環させることは必須ではなく、例えば、プラズマ発生機構を複数設けたり、電極対を複数組設置したりすることによって、より処理効率を高めることができれば、1パス処理でもよい。
【0016】
撹拌装置2は、ケーシング21の内部に同心状で回転可能に設けられたロータ22と、ロータ22を回転駆動するモータ23等を備えて構成されている。
【0017】
また、プラズマ発生機構3は、導体からなる電極31と、電極31間に、例えば、放電開始電圧以上の電圧、パルス幅1.5μs以下、繰り返し周波数100kHz以上のパルス電圧を印加するパルス電源32等を備えて構成され、絶縁性の気泡領域で、パルス電圧
による高電圧絶縁破壊放電により気化物が電離(プラズマ化)して液中プラズマ(キャビテーションプラズマ。本明細書において、「CBP(Cavitation bubble plasma)」という場合がある。)を発生させるものである。
パルス電圧によって生起される放電形態は、グロー放電であることが好ましく、電極31の消耗成分に起因する金属や金属酸化物、液中プラズマによって生成される水に含まれる不純物に起因する硫化物、塩化物等の無機化合物等からなる、結晶、準結晶、アモルファス等の形態のナノ粒子の合成を、低温で、かつ、エネルギ効率よく行うことができる。すなわち、ナノ粒子は、電極31の成分のナノ粒子であり、電極が金属の場合、ナノ粒子ができた瞬間は金属ナノ粒子となり、金属の種類によって、そのナノ粒子が酸化されたり、水に塩素や硫黄が含まれているとナノ粒子が塩化されたり硫化されたりする(不純物に含まれる物質によってその物質との化合物になる場合がある。)。
ここで、プラズマ発生機構3内の電極31付近の水の流速は約10m/sであり、5m/s以上が望ましい。
電極31は、水の流れに対して垂直方向に、対向させて配置することが好ましいが、プラズマが生成できる限りにおいて、ハの字等の配置形態を採用することができる。
電極31の形状は、円柱のほか、角柱、楕円柱、円錐、角錘であってもよい。電極31は、1対あれば問題ないが、より処理効率を上げるために2対以上設置してもよい。また、プラズマ発生機構は1セットあれば問題ないが、より処理効率を上げるために2セット以上設置してもよい。
電極31の片側は接地してもよいし、接地しなくてもよい。
【0018】
電極31の材料には、プラズマが生成できるという観点からは、タングステン、銅、鉄、銀、金、白金のほか、アルミニウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、インジウム、錫、アンチモン、ランタノイド、ハフニウム、タンタル、レニウム、オスミウム、イリジウム、タリウム、ビスマス、ポロニウム等の金属、カーボン、導電性ダイヤモンド、それらの合金や複合材料(メッキやドライコーティング等の手法で薄膜で被覆したものを含む。)や酸化物(電極31の表面が水と反応したものを含む。)等の導体材料を、用途に応じて、任意に選択することができる。対向させて配置する電極31で、金と銀など、用いる材料や電極サイズを異ならせることもできる。
なお、電極31の消耗成分に起因する金属や金属酸化物等のナノ粒子は、ナノ粒子が凝集して二次粒子になっているものを含むほか、電極31の材料によっては、液中プラズマによってナノ粒子と同時に生成される過酸化水素(H)等によって、最終的にそのほとんどが水に溶解してしまっている場合(例えば、タングステン。)があるが、本発明は、これを排除しないものとする。
【0019】
その一方で、電極31の材料には、後述の殺菌試験の結果から、この殺菌用液体の生成に用いる装置で生成した電極31の成分由来のナノ粒子を含有する水を、植物病原菌の殺菌の用途に使用できるようにするためには、ナノ粒子が殺菌作用を発揮するものであることが分かっている。
このため、電極31の材料には、殺菌力が強いといわれている、銅、銀、金、白金、アルミニウム、バナジウム、コバルト、ニッケル、亜鉛、モリブデン、パラジウム、錫、ジルコニウム、チタン等の金属を好適に用いることができる。
【0020】
この殺菌用液体の生成に用いる装置は、稼働することにより、循環する水の水温が上昇することになるが、必要に応じて、水温調節機構として冷却手段、例えば、撹拌装置2に設けたジャケット冷却手段(図示省略)を備えることによって、水を所定の温度に維持することができる。
【0021】
そして、このようにして液中プラズマによって生成された水には、電極31の成分由来のナノ粒子に加えて、活性酸素種としての過酸化水素等が存在することで、その作用により、殺菌作用を発揮することが期待できる。
この液中プラズマによって生成された水は、長寿命の活性酸素種(スーパーオキシドアニオンラジカル(・O )、ヒドロペルオキシラジカル(HOO・)、過酸化水素(H))による殺菌作用に加えて、過酸化水素(H)が、ナノ粒子の触媒作用によって、活性酸素種の中で最も酸化力の高いヒドロキシルラジカル(・OH)等の活性酸素種を持続的に生成させることにより、より増強され、殺菌作用を発揮することができる。
このため、液中プラズマによって生成された水中に存在する過酸化水素及びナノ粒子の量が重要であり、本発明によって、原料は水だけで簡単、高速、かつ、大量に同時に生成することができる。
【0022】
図2に、活性酸素種を含む各種物質の酸化電位及び結合エネルギを示す。
図2からも明らかなように、ヒドロキシルラジカル(・OH)等の活性酸素種は、有機物(植物病原菌)の大きな分解(殺菌)作用を有するため、殺菌作用を発揮することが期待できる。
【0023】
ところで、殺菌用液体の生成に用いる装置には、図1に示す装置のほか、図3に示すような、コンバージェントノズル5(又は障害物)によって流路断面積を変化させて水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構を備えた装置を用いることができる。
この場合、撹拌装置2は、キャビテーション発生機構として併用してもよいが、図3に示す装置のように、キャビテーションを発生せず、タンク1から供給された水を撹拌し、水流のみを発生させる機構とすることもできる。
なお、図3に示す装置のその他の構成及び作用は、図1に示す装置と同様である。
【実施例0024】
次に、図1及び図3に示す殺菌用液体の生成に用いる装置を使用して行った試験について説明する。
【0025】
[殺菌用液体の生成に用いる装置の処理条件について]
表1に、図1に示す殺菌用液体の生成に用いる装置の処理条件(好ましい範囲)を、図4に、電極の材質毎の処理時間とpH、導電率、過酸化水素の濃度及び電極消耗量との関係を、それぞれ示す。
【0026】
【表1】
【0027】
ここで、表1及び図4において、以下のことがいえる。
・初期(「プラズマ処理前」を意味する。他の項目も同じ。)の導電率は低い方がプラズマ生成率(印加したパルス数に対するプラズマが生成したパルス数の割合。)が高くなり、効率よく殺菌用液体を生成することができる。
・初期CODが高いと、生成される活性酸素種が消費されてしまい好ましくない。
・初期導電率、初期pH、初期CODが好ましい範囲内であれば、他の混雑物は影響しない。このため、処理原料となる水としては、イオン交換水等の精製水を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
・撹拌装置の回転数は高い方がキャビテーション気泡が増えるので、プラズマ生成率が高くなり、効率よく殺菌用液体を生成することができる。
・印加電圧は低すぎるとプラズマが点灯せず、高くなるとプラズマ生成率が高くなるが、高すぎると好ましいグロー放電からアーク放電に移行してしまい好ましくない。
・パルス幅は短すぎるとプラズマが点灯せず、長くなるとプラズマ生成率が高くなるが、長すぎるとアーク放電に移行してしまい好ましくない。
・繰り返し周波数は高いほどプラズマ生成率が高くなり、安定してプラズマが生成できる。
・パルス電圧の極性は、両極性でも正極性でも負極性でもよい。
・電極材質は、水中で安定な導体であればよい。
・電極直径は細すぎると電界が集中してプラズマが点灯しやすいが、アーク放電に移行しやすくなり、太すぎるとプラズマが点灯しにくくなる。
・電極のギャップ長は短すぎるとアーク放電に移行しやすくなる、長すぎるとプラズマが点灯しにくくなる。
・処理時間は短すぎると生成される活性酸素種及びナノ粒子が少なくなり、長すぎると生成される活性酸素種及びナノ粒子によって導電率が高くなり、プラズマ生成率が低下する
。処理時間は、通常は、2-10分程度、好ましくは、3-8分程度、より好ましくは、5分程度である。ここで、殺菌用液体の生成に用いる装置は、撹拌装置の回転数が7200rpmの場合、1秒間に260mLの水が装置内を1回循環するようにされている。
【0028】
[殺菌試験]
次に、以下の試験方法で、モデルとして各種の植物病原菌に対する効果試験を行った。(1)殺菌用液体の生成に用いる装置の操作
図1及び図3に示す殺菌用液体の生成に用いる装置(本明細書において、図1に示す装置を「CBP装置」、図3に示す装置を「VBP装置」という場合がある。)に、精製水(イオン交換水)を投入し、表2及び表3に示す処理条件で装置を稼働した。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
各処理条件で装置を稼働した電極の材質毎の分流表を表4-1~表4-4に、水質を表5-1~表5-4に、電極消耗量を表6-1~表6-4に、それぞれ示す。
【0032】
【表4-1】
【0033】
【表4-2】
【0034】
【表4-3】
【0035】
【表4-4】
【0036】
【表5-1】
【0037】
【表5-2】
【0038】
【表5-3】
【0039】
【表5-4】
【0040】
【表6-1】
【0041】
【表6-2】
【0042】
【表6-3】
【0043】
【表6-4】
【0044】
(2-1)殺菌効果試験(1)
以下の手順で、表7に示す内容の殺菌効果試験を行った。
1)菌の準備
供試する糸状菌菌株は、胞子形成培地に移植し、一定期間培養する。胞子が形成されたプレートから胞子懸濁液を作製し、試験に供する。細菌は菌体を寒天培地で培養し、形成されたコロニーを掻き取って滅菌水に懸濁する。胞子の形成が不十分な菌株については、冷蔵又は冷凍保存が可能な菌株であれば、予め保存しておき、これを用いる。
2)試料水(殺菌用液体)による処理
供試菌株の胞子懸濁液又は菌液を最適な密度に調製し、マイクロチューブ6本に1mL入れ、遠心して上清を除去する。それぞれのチューブに試料水(殺菌用液体)4種、滅菌水及び対照剤を適量(500~1000μl)加え、胞子(又は菌体)を懸濁させる。そのまま30分間室温に置く。
3)培養
処理した胞子(又は菌体)懸濁液を、各菌種の最適培地で10~100倍に希釈し、十分に混ぜる。これを96穴マイクロプレートの8ウェル分に150μlずつ充填する。それぞれの菌株で2枚ずつマイクロプレートを作成し、適温で培養する。1枚は培養開始前の初期値測定用とし、もう1枚を評価用とする。
静置若しくは連続旋回(150rpm)で3~7日間培養する。
4)測定
培養開始前に、マイクロプレートリーダ(Thermoscientific社製 MULTISKAN Sky)を用いて初期値測定用プレートの吸光度を測定する(波長600nm)。
培養開始3日後に、初期値測定用プレートを再度測定し、無処理区吸光度が2倍以上に増えていたら評価用のプレートも測定する。増えていなければ、その後毎日初期値測定用プレートを測定し、増加が認められたら評価用プレートを測定する。
5)評価
培養後の各吸光度の値から初期値を引いて補正し、下記計算式から阻害率を算出する。
阻害率(%)=100×(平均無処理区補正値-平均処理区補正値)/平均無処理区補正値
*無処理区は滅菌水処理区、処理区は試料水区
【0045】
【表7】
【0046】
表8に、殺菌効果試験(1)の評価結果を示す。
【0047】
【表8】
【0048】
(2-2)殺菌効果試験(2)
以下の手順で、表9に示す内容の殺菌効果試験を行った。
1)菌の準備
供試する糸状菌菌株Bcは、胞子形成培地に移植し、一定期間培養する。胞子が形成されたプレートから胞子懸濁液を作製し、試験に供する。細菌Ecは菌体を寒天培地で培養し、形成されたコロニーを掻き取って滅菌水に懸濁する。
2)試料水(殺菌用液体)による処理
供試菌株の胞子懸濁液又は菌液を最適な密度に調製し、マイクロチューブ10本に1mL入れ、遠心して上清を除去する。それぞれのチューブに試料水(殺菌用液体)4種、滅菌水及び対照剤を1mL加え、胞子及び菌体を懸濁させる。そのまま30分間室温に置く。
3)培養
処理した胞子(又は菌体)懸濁液を、各菌種の最適培地で100倍に希釈し、十分に混ぜる。これを96穴マイクロプレートの8ウェル分に150μlずつ充填する。それぞれの菌株で2枚ずつマイクロプレートを作成し、適温で培養する。1枚は培養開始前の初期値測定用とし、もう1枚を評価用とする。
静置若しくは連続旋回(150rpm)で1~4日間培養する。
4)測定
培養開始前に、マイクロプレートリーダ(Thermoscientific社製 MULTISKAN Sky)を用いて初期値測定用プレートの吸光度を測定する(波長600nm)。
Ecは培養開始1日後に、Bcは4日後に初期値測定用プレートを再度測定する。無処理区吸光度が2倍以上に増えていたら評価用のプレートも測定する。増えていなければ、その後毎日初期値測定用プレートを測定し、増加が認められたら評価用プレートを測定する。
5)評価
培養後の各吸光度の値から初期値を引いて補正し、下記計算式から阻害率を算出する。
阻害率(%)=100×(平均無処理区補正値-平均処理区補正値)/平均無処理区補正値
*無処理区は滅菌水処理区、処理区は試料水区
【0049】
【表9】
【0050】
表10に、殺菌効果試験(2)の評価結果を示す。
【0051】
【表10】
【0052】
(2-3)殺菌効果試験(3)
以下の手順で、表11に示す内容の殺菌効果試験を行った。
1)菌の準備
供試する糸状菌菌株Bcは、胞子形成培地に移植し、一定期間培養する。胞子が形成されたプレートから胞子懸濁液を作製し、試験に供する。細菌Ecは菌体を寒天培地で培養し、形成されたコロニーを掻き取って滅菌水に懸濁する。
2)試料水による処理(殺菌用液体)
供試菌株の胞子懸濁液又は菌液を最適な密度に調製し、マイクロチューブ10本に1mL入れ、遠心して上清を除去する。それぞれのチューブに試料水(殺菌用液体)4種、滅
菌水及び対照剤を1mL加え、胞子及び菌体を懸濁させる。そのまま30分間室温に置く。
3)培養
処理した胞子(又は菌体)懸濁液を、各菌種の最適培地で100倍に希釈し、十分に混ぜる。これを96穴マイクロプレートの8ウェル分に150μlずつ充填する。それぞれの菌株で2枚ずつマイクロプレートを作成し、適温で培養する。1枚は培養開始前の初期値測定用とし、もう1枚を評価用とする。
静置若しくは連続旋回(150rpm)で1-4日間培養する。
4)測定
培養開始前に、マイクロプレートリーダ(Thermoscientific社製 MULTISKAN Sky)を用いて初期値測定用プレートの吸光度を測定する(波長600nm)。
Ecは培養開始1日後に、Bcは4日後に初期値測定用プレートを再度測定する。無処理区吸光度が2倍以上に増えていたら評価用のプレートも測定する。増えていなければ、その後毎日初期値測定用プレートを測定し、増加が認められたら評価用プレートを測定する。
5)評価
培養後の各吸光度の値から初期値を引いて補正し、下記計算式から阻害率を算出する。
阻害率(%)=100×(平均無処理区補正値-平均処理区補正値)/平均無処理区補正値
*無処理区は滅菌水処理区、処理区は試料水区
【0053】
【表11】
【0054】
表12に、殺菌効果試験(3)の評価結果を示す。
【0055】
【表12】
【0056】
殺菌効果試験(1)~(3)の評価結果(阻害率)から、以下のことが分かった。
・各種の植物病原菌に対する阻害率(殺菌効果)の大きさは、電極の材質に応じて変化し、概ね、Ag、Cu、W、Feの順であることが分かった。特に、Agは、10倍に希釈(Agの濃度:1.5ppm程度)しても、十分な殺菌効果があることが分かった。このことから、各種の植物病原菌に対して殺菌効果を発揮するためには、電極の成分由来のナノ粒子を含有する電極の材料に、ナノ粒子が殺菌作用を発揮するもの、具体的には、殺菌力が強いといわれている、銀、銅、金、白金、アルミニウム、バナジウム、コバルト、ニッケル、亜鉛、モリブデン、パラジウム、錫、タングステン等の金属を用いる必要があるといえる。
・各種の植物病原菌に対する阻害率(殺菌効果)は、殺菌用液体の保管期間が長期間(例えば、2ヶ月。)になっても維持されることが分かった。
・殺菌用液体を希釈するとの各種の植物病原菌に対する阻害率(殺菌効果)が低下することが分かった。
【0057】
(3)走査電子顕微鏡(SEM)観察
上記殺菌効果試験後に、以下の手順で、走査電子顕微鏡(SEM)観察を行った。
(3-1)表面SEM観察試験
1)1次固定:2.5%グルタールアルデヒドin0.1Mリン酸バッファー
2)洗浄:0.1Mリン酸バッファー×5回
3)2次固定:1.5%四酸化オスミウムin0.1Mリン酸バッファー
4)洗浄:蒸留水×3回
5)脱水:エタノール脱水(上昇系列)各10-30分浸漬
30%⇒50%⇒60%⇒70%⇒80%⇒90%⇒95%⇒100%⇒100%
6)乾燥:臨界点乾燥処理(臨界点乾燥処理装置(山友技術))
7)帯電防止膜成膜:Osコート(数nm)(蒸着装置(HPC-20、真空デバイス))
(3-2)断面SEM観察試験
1)1次固定:2.5%グルタールアルデヒドin0.1Mリン酸バッファー
2)洗浄:0.1Mリン酸バッファー×5回
3)2次固定:1.5%四酸化オスミウムin0.1Mリン酸バッファー
4)洗浄:蒸留水×3回
5)脱水:エタノール脱水(上昇系列)各10-30分浸漬
30%⇒50%⇒60%⇒70%⇒80%⇒90%⇒95%⇒100%⇒100%
6)樹脂包埋:Spurr Low-Viscosity Embedding Media(Polyscience)
7)薄片加工:200nm厚(UltraCut UCT Type 706200、Leica)
8)Siウェハに載台
【0058】
図5図8に走査電子顕微鏡(SEM)観察写真を示す。
観察写真から、以下のことが分かった。
図5において、二次電子像及び反射電子像から、滅菌水(対照)に比べて、CBPTW(Cu)及びCBPTW(Ag)は胞子の表面が荒れており、殺菌効果を反映していると考えられる。
また、反射電子像からCBPTW(Ag)では、胞子表面の微小な白い点々部分にAgナノ粒子が存在していることが分かる。
図6において、断面SEM写真の反射電子像は白黒反転させており、密度が低い部分が白く、密度が高い部分が黒く見えている。
滅菌水(対照)では、胞子内部の組織がきれいに残っているが、CBPTW(Cu)及びCBPTW(Ag)では胞子内部のほとんどすべての組織が破壊されており、殺菌効果を反映していると考えられる。
Cuイオン及びAgイオンによる殺菌効果であると考えられる。
図7において、二次電子像から、滅菌水(対照)に比べて、CBPTW(W)では細菌の表面にブツブツとした小さな球体が優位に多く観測される。これは、細胞壁に穴が空き、菌体の内容物が外部に流出していると思われる。
また、CBPTW(Fe)では一部の細菌の表面がブツブツと荒れており、殺菌効果を反映していると考えられる。
反射電子像から、滅菌水(対照)では細胞の両端が薄く見えており、密度の低い領域が存在している。CBPTW(W)では、その密度の低い領域が消えており、殺菌効果を反映していると考えられる。
CBPTW(Fe)では、一部の細菌に密度の低い領域が確認され、殺菌効果を反映していると考えられる。
図8において、断面SEM写真の反射電子像は白黒反転させており、密度が低い部分が白く、密度が高い部分が黒く見えている。
滅菌水(対照)では細胞の両端がはっきりと薄く見えており、密度の低い領域が存在している。CBPTW(W)及びCBPTW(Ag)では、その密度の低い領域が消え、内部の組織が破壊されており、殺菌効果を反映していると考えられる。
ここで、表面SEMは保管期間の影響を評価した殺菌試験後、断面SEMは希釈倍率の影響を評価した殺菌試験後のサンプルを利用したため、Erwinia carotovoraに適用した殺菌水の種類が異なる。
【0059】
(4)ラット急性経口毒性試験
殺菌用液体の毒性について、以下の手順で、表13に示す内容のラット急性経口毒性試験を行った。
[試験動物]
1)種・系統・性別:ラット・Crl:CD(SD)・雌
2)購入先:ジャクソン・ラボラトリー・ジャパン株式会社
3)動物入荷日:2021年12月6日
4)入荷時週齢:7週齢
5)投与時週齢:8週齢
6)供試動物数:5匹/群
[飼育条件]
1)飼育方法:前・床面ステンレス網、壁面アルミニウム・ステンレス製懸垂式ケージを用いて1ケージに最大3匹を収容した。
2)飼料及び飲料水:マウス・ラット用固型飼料及び自動給水装置を介した水道水をそれぞれ自由摂取させた。
3)飼育環境:温度22~26℃、相対湿度40~70%、照明時間12時間(8時~20時)、換気回数10回以上/時間に設定した。
[試験方法](OECD420テストガイドライン参考)
1)投与経路:経口
2)絶食時間:投与前約20時間及び投与後4時間
3)観察期間:投与後14日間
4)一般症状観察:投与後10及び30分、1、2及び4時間、以降1日1回
5)体重測定:投与日(投与直前)、投与後7及び14日(観察期間終了時)
6)剖検:察期間終了時
【0060】
【表13】
【0061】
表14に、ラット急性経口毒性試験の結果を、表15に、ラット急性経口毒性試験の評価結果を、それぞれ示す。
【0062】
【表14】
【0063】
【表15】
【0064】
表14及び表15に示すラット急性経口毒性試験の(評価)結果から、殺菌用液体に急性経口毒性がないことを確認した。
【0065】
(5)復帰突然変異試験(Ames試験)
殺菌用液体について、表16に示す試験菌株に対する、表17に示す内容の復帰突然変異試験(Ames試験)を行った。
【0066】
表17に、復帰突然変異試験(Ames試験)の評価結果を示す。
【0067】
【表16】
【0068】
【表17】
【0069】
表17に示す復帰突然変異試験(Ames試験)の評価結果から、殺菌用液体に変異原性、生育阻害の遺伝毒性がないことを確認した。
【0070】
(6)微細藻類(アオコ)の増殖抑制効果試験
以下の手順で、微細藻類(アオコ)の増殖抑制効果試験を行った。
CBPTW(Ag)は、表4-1に示すCBPTW(Ag)と同様に作製した。
導入時の水質は、処理後経過時間221h、導電率7.8μS/cm、pH7.5、Ag濃度は16.2ppmであった。
アオコ溶液(試験溶液)は、イオン交換水(DIW)に、CBPTW(Ag)をAg濃度が0.1、1ppmとなるように、アオコをChlorophyll a(Chl a)濃度が0.1μMになるように添加し、全体の0.1%分の配合肥料(ハイポネックス、ハイポネックスジャパン社製)を加え作製した。
温度25℃、照度4000luxのグロースチャンバー(MLR-352-PJ、PHcbi社製)で培養し、エアーポンプ(e-Air9000FB、GEX社製)を用いて、流量0.8L/minで空気を導入した。
対照としてDIW(Ag濃度が0)を用いて同様に実験した。
Chl a濃度は、80%アセトンによる抽出法によって測定した。アオコ溶液を濾過し、濾紙を80%アセトン溶液に浸漬させた。超音波を5min印加する時間を含め120min抽出した。5300rpmで6min遠心分離し、上澄み液のUV-Vis吸収スペクトルを測定した。Chl a濃度のCChl aは以下の式を用いて算出した。
Chl a=13.71×A663.6-2.85×A646.6
ここで、A663.6:波長663.6nmにおける吸光度
646.6:波長646.6nmにおける吸光度
である。
【0071】
図9に、アオコ溶液(試験溶液)を5日間培養した後のChl a濃度におけるAg濃度依存性を示す。
初期のChl a濃度はいずれの条件も0.1μMである。
培養後は、DIWのみで成長させたアオコ溶液のChl a濃度は2.7μMに増殖し、Ag濃度0.1ppmで成長させたアオコ溶液のChl a濃度は3.0μMに増殖しているが、Ag濃度1ppmで成長させたアオコ溶液のChl a濃度は0.9μMとなる。
以上の結果より、初期のChl a濃度が0.1μMのとき、CBPTW(Ag)には、Ag濃度が少なくとも1ppm以上で微細藻類(アオコ)の増殖を抑制する効果があることが分かった。
【0072】
以上、本発明の殺菌用液体及び殺菌用液体の生成方法について、その実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の殺菌用液体及び殺菌用液体の生成方法は、安全で適用方法や適用対象に制約がなく、各種の植物病原菌の殺菌の用途に広く利用することができる。
このため、殺菌の対象は、実施例に記載した植物病原菌に限定されず、種々の植物病原菌(ウイルス、細菌、真菌、原虫等を含む。)の殺菌の用途に広く利用することができる。
また、野菜類、花卉類、果樹類等の収穫後の農産物に発生する貯蔵病害等にも広く利用できる可能性がある。
特に、本発明の殺菌用液体は、急性経口毒性や変異原性、生育阻害の遺伝毒性がないことから、医療、衛生、健康、農業、食品、衣料、環境、建築等の分野で、あらゆる動物、植物、食品、物体に付着する、通常存在が好ましくないとされる微生物(ウイルス、細菌、菌類(酵母、カビ、キノコ等)、微細藻類、原生動物(アメーバ、ゾウリムシ等)等)、細胞(がん細胞等)等に噴霧、浸漬、混合等することによりあらゆる場面で利用できる可能性がある。また、ナノ粒子が、動物、植物、食品、物体に付着、拡散することによって、長期間効果が持続することが期待できる。
【符号の説明】
【0074】
1 タンク
2 撹拌装置(キャビテーション発生機構)
21 ケーシング
22 ロータ
23 モータ
3 プラズマ発生機構
31 電極
32 パルス電源
4 管路
5 コンバージェントノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9