IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人東京薬科大学の特許一覧

<>
  • 特開-微生物電気合成用バイオリアクター 図1
  • 特開-微生物電気合成用バイオリアクター 図2
  • 特開-微生物電気合成用バイオリアクター 図3
  • 特開-微生物電気合成用バイオリアクター 図4
  • 特開-微生物電気合成用バイオリアクター 図5
  • 特開-微生物電気合成用バイオリアクター 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024796
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】微生物電気合成用バイオリアクター
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/42 20060101AFI20240216BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20240216BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20240216BHJP
   C25B 3/09 20210101ALI20240216BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20240216BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240216BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20240216BHJP
   C25B 9/67 20210101ALI20240216BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20240216BHJP
【FI】
C12M1/42
C12P1/04 Z
C25B3/07
C25B3/09
C25B3/26
C25B9/00 G
C25B9/65
C25B9/67
C25B11/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127686
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 一哉
(72)【発明者】
【氏名】高妻 篤史
(72)【発明者】
【氏名】山田 祥平
(72)【発明者】
【氏名】猪鼻 将睦
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA27
4B029BB02
4B029CC01
4B029DG10
4B064CA02
4B064CC22
4B064CC30
4B064DA20
4K011AA11
4K011DA10
4K021AC04
4K021AC11
4K021CA05
4K021CA12
(57)【要約】
【課題】エネルギー効率を高めることができる微生物電気合成用バイオリアクターを提供する。
【解決手段】微生物電気合成用バイオリアクター10は、電気合成菌1に電気エネルギーを与えて物質2を合成させる微生物電気合成において使用される。微生物電気合成用バイオリアクターは、培養液21を収容する培養槽20と、培養液に浸漬されるアノード電極30と、アノード電極と電流の閉回路を形成するカソード電極40と、カソード電極とアノード電極との間に印加する電圧を制御可能な制御部60と、を有する。カソード電極は、ガス拡散電極41から構成されている。ガス拡散電極は、厚み方向の第1の面41aが培養液に接触し、厚み方向の反対側の第2の面41bがガス雰囲気70に接触した状態に培養槽に取り付けられ、ガス雰囲気中のガスを第2の面から第1の面に向けて拡散可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気合成菌に電気エネルギーを与えて物質を合成させる微生物電気合成において使用するバイオリアクターであって、
培養液を収容する培養槽と、
前記培養液に浸漬されるアノード電極と、
前記アノード電極と電流の閉回路を形成するカソード電極と、
前記アノード電極と前記カソード電極との間に印加する電圧を制御可能な制御部と、
を有し、
前記カソード電極は、ガス拡散電極から構成され、
前記ガス拡散電極は、厚み方向の第1の面が前記培養液に接触し、厚み方向の反対側の第2の面がガス雰囲気に接触した状態に前記培養槽に取り付けられ、前記ガス雰囲気中のガスを前記第2の面から前記第1の面に向けて拡散可能である、微生物電気合成用バイオリアクター。
【請求項2】
前記ガス雰囲気は、空気であり、
前記ガス雰囲気中のガスは、空気中の二酸化炭素、酸素、および窒素であり、
前記電気合成菌は、独立栄養微生物である、請求項1に記載の微生物電気合成用バイオリアクター。
【請求項3】
前記ガス拡散電極は、導電性の基材から構成される導電層と、ガス拡散層とを有する、請求項1に記載の微生物電気合成用バイオリアクター。
【請求項4】
前記培養液に浸漬される参照電極をさらに有し、
前記制御部は、前記カソード電極の電位を前記参照電極の電位に対して制御可能なポテンショスタットから構成されてなる、請求項1に記載の微生物電気合成用バイオリアクター。
【請求項5】
前記培養液の温度を調節自在な温度調節器をさらに有する、請求項1に記載の微生物電気合成用バイオリアクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物電気合成用バイオリアクターに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物電気合成(microbial electrosynthesis, MES)とは、電気合成菌に電気エネルギーを与えて物質を合成させることをいう。微生物電気合成においては、低電位の電極から独立栄養的に増殖する微生物に電子を供給する。電子の供給によって得られる還元力と、電気エネルギーとを用いて、空気中の二酸化炭素や窒素から有機物を合成することによって微生物を増殖させる。また、微生物の増殖のためのエネルギー(アデノシン三リン酸、ATP)を十分に得るためには、電極からの電子を用いて呼吸させる必要がある。そのために、呼吸基質となる酸素などの化合物を微生物に供給する。
【0003】
ソーラーパネルによって太陽光から電気を生成し、生成した電気によって微生物電気合成による物質生産を行う場合、トータルシステムのエネルギー効率は15%(理論値)を超えると試算されている。微生物電気合成による物質生産システムのエネルギー効率は、植物と発酵菌とを用いた物質生産システム(約0.2%)や、藻類を用いた物質生産システム(約1%)と比べて格段に高いと期待されている。
【0004】
従来、2槽式の微生物電気合成用バイオリアクターが知られている(非特許文献1を参照)。このバイオリアクターは、鉄酸化細菌のAcidithiobacillusを効率よく培養するために、2つの装置を組み合わせたプロセスを有する。酸素は、空気のバブリングによって供給されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Guan et al. (2017) Development of reactor configurations for an electrofuels platform utilizing genetically modified iron oxidizing bacteria for the reduction of CO2 to biochemicals. J. Biotechnol., 245, 21-27.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、バブリングによって空気を供給するためには、ブロアーやポンプなどの動力機器が必要となる。動力機器を作動させるためには、電力が必要となる。さらに、空気のバブリングによって酸素、窒素、二酸化炭素を供給する場合、微生物を十分に増殖させることができず、微生物電気合成の効率が低下する。このため、実際の微生物電気合成による物質生産システムのエネルギー効率は、想定される値よりも悪くなる。よって、エネルギー効率を高めることができる微生物電気合成用バイオリアクターが望まれている。
【0007】
そこで本発明は、エネルギー効率を高めることができる微生物電気合成用バイオリアクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、電気合成菌に電気エネルギーを与えて物質を合成させる微生物電気合成において使用するバイオリアクターである。微生物電気合成用バイオリアクターは、培養液を収容する培養槽と、前記培養液に浸漬されるアノード電極と、前記アノード電極と電流の閉回路を形成するカソード電極と、前記カソード電極と前記アノード電極との間に印加する電圧を制御可能な制御部と、を有する。前記カソード電極は、ガス拡散電極から構成されている。前記ガス拡散電極は、厚み方向の第1の面が前記培養液に接触し、厚み方向の反対側の第2の面がガス雰囲気に接触した状態に前記培養槽に取り付けられ、前記ガス雰囲気中のガスを前記第2の面から前記第1の面に向けて拡散可能である。
【発明の効果】
【0009】
微生物電気合成用バイオリアクターのカソード電極は、ガス雰囲気中のガスを拡散可能であるガス拡散電極から構成されている。バブリングによってガスを供給する場合と比較して、ブロアーやポンプなどの動力機器を使用しない。このため、電力消費を削減できる。さらに、電気エネルギーと、ガス雰囲気中の基質となるガスとは、同じ場所から微生物に供給される。このため、微生物を効率よく増殖させることができ、微生物電気合成の効率が向上する。したがって、エネルギー効率を高めることができる微生物電気合成用バイオリアクターを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る微生物電気合成用バイオリアクターを示す概略構成図である。
図2】実施例において使用したガス拡散電極を示す写真であり、(A)は電極面を示し、(B)はガス拡散層面を示している。
図3】実施例において使用した、ガス拡散電極方式の電気化学培養装置を示す写真であり、(A)は正面を示し、(B)は側面を示している。
図4】アシディチオバシルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)を植菌したガス拡散電極方式の電気化学培養装置における電流密度の時間変化を示す図である。
図5】比較例において使用した、空気バブリング方式の電気化学培養装置を示す概略構成図である。
図6】アシディチオバシルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)を植菌した空気バブリング方式の電気化学培養装置における電流密度の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0012】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0013】
また、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0014】
なお、本明細書において、「第1」、「第2」などの序数詞を付すこともある。しかしながら、これら序数詞に関する特段の説明がない限りは、説明の便宜上、構成要素を識別するために付したものであって、数または順序を特定するものではない。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の微生物電気合成用バイオリアクター10(以下、単に、「バイオリアクター10」ともいう)は、電気合成菌1に電気エネルギーを与えて物質2を合成させる微生物電気合成において使用される。バイオリアクター10は、概説すると、培養液21を収容する培養槽20と、培養液21に浸漬されるアノード電極30と、アノード電極30と電流の閉回路を形成するカソード電極40と、カソード電極40とアノード電極30との間に印加する電圧を制御可能な制御部60と、を有する。カソード電極40は、ガス拡散電極41から構成されている。ガス拡散電極41は、厚み方向の第1の面41aが培養液21に接触し、厚み方向の反対側の第2の面41bがガス雰囲気70に接触した状態に培養槽20に取り付けられ、ガス雰囲気70中のガスを第2の面41bから第1の面41aに向けて拡散可能である。以下、詳述する。
【0016】
本明細書において、電気合成菌とは、電気をエネルギーとして利用できる微生物を意味する。電気合成菌は、少なくとも電気をエネルギー源として代謝を行うことができる。
【0017】
電気合成菌1としては、電気をエネルギーとして利用できる微生物であれば、特に制限されない。電気合成菌1は、好ましくは独立栄養微生物である。電気合成菌1としては、例えば、アシディチオバシルス(Acidithiobacillus)属、レプトスピリラム(Leptospirillum)属などの独立栄養鉄酸化細菌、シュワネラ(Shewanella)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属などに属する微生物が挙げられる。
【0018】
一実施形態では、本発明に係る電気合成菌1は、好ましくは独立栄養鉄酸化菌であり、より好ましくは、アシディチオバシルス(Acidithiobacillus)属に属する微生物である。
【0019】
アシディチオバシルス(Acidithiobacillus)属に属する微生物としては、アシディチオバシルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans、例えばDSM 14882)、アシディチオバシルス・フェリヴォランス(Acidithiobacillus ferrivorans、例えばDSM 22755)、アシディチオバシルス・フェリデュランス(Acidithiobacillus ferridurans、例えばJCM 18981)、アシディチオバシルス・フェリフィラス(Acidithiobacillus ferriphilus、例えばJCM 7812)などが例示できる。
【0020】
本発明のより好ましい実施形態では、電気合成菌1は、アシディチオバシルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)である。
【0021】
レプトスピリラム(Leptospirillum)属に属する微生物としては、レプトスピリラム・フェリフィラム(Leptospirillum ferriphilum)、レプトスピリラム・フェロオキシダンス(Leptospirillum ferrooxidans)、レプトスピリラム・サーモフェロオキシダンス(Leptospirillum thermoferrooxidans)などが例示できる。
【0022】
シュワネラ(Shewanella)属に属する微生物としては、シュワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)、シュワネラ・ロイヒカ(Shewanella loihica)、シュワネラ・プトレファシエンス(Shewanella putrefaciens)、シュワネラ・アルガ(Shewanella algae)などが挙げられる。
【0023】
ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属に属する微生物としては、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、ロドシュードモナス・カプスラタ(Rhodopseudomonas capsulata)、ロドシュードモナス・ビリディス(Rhodopseudomonas viridis)、ロドシュードモナス・スルフォビリディス(Rhodopseudomonas sulfoviridis)、ロドシュードモナス・ブラスチカ(Rhodopseudomonas blastica)、ロドシュードモナス・スフェロイデス(Rhodopseudomonas spheroides)、ロドシュードモナス・アシドフィラ(Rhodopseudomonas acidophila)などが挙げられる。
【0024】
上記微生物は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)、理化学研究所 微生物材料開発室(JCM)、米国菌培養収集所(ATCC)、ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ)などから入手することができる。
【0025】
なお、上記菌株において、自然的または人工的手段によって変異させて得られ、かつ電気をエネルギーとして利用できる変異体もまた、本発明に用いられる。
【0026】
電気合成菌1の培養は、通常の方法によって行うことができる。例えば、使用する微生物の種類によって、好気的条件下または嫌気的条件下で、微生物を培養する。前者の場合には、微生物の培養は、振とうあるいは通気攪拌などによって行われる。また、培養の条件(培養温度、培養時間、培地のpHなど)は、培地の組成や培養法によって適宜選択され、電気合成菌1が増殖できる条件であれば特に制限されず、培養する微生物の種類に応じて適宜選択できる。
【0027】
例えば、電気合成菌1として、鉄酸化細菌を使用する場合、ターゲット物質2の種類に応じて、9K培地、Fe9K培地などの培地の組成を適宜改変して使用できる。また、培養液21の温度は、20~40℃であり、pHは、1.5~4.0であればよい。
【0028】
電気合成菌1は、バイオリアクター10での培養に用いる前に、あらかじめ前培養してもよい。前培養では、上記と同じ培養方法を使用できる。
【0029】
本実施形態において、ガス雰囲気70は空気とすることができる。ガス雰囲気70中のガスは、空気中の二酸化炭素、酸素、および窒素である。電気合成菌1は、独立栄養微生物である。独立栄養微生物としては、上記のように、アシディチオバシルス(Acidithiobacillus)属などの独立栄養鉄酸化菌などが挙げられる。
【0030】
培養液21は、適用する微生物に応じて選択できる。電気合成菌1として、鉄酸化細菌を使用する場合、培養液21は、上記のように、ターゲット物質2の種類に応じて、9K培地、Fe9K培地などの培地の組成を適宜改変して使用できる。例えば、ターゲット物質2がアンモニアである場合、培養液21は、グルタミン合成酵素阻害剤(例えばメチオニンスルホキシミンなど)を含む(特開2018-138006号公報参照)。また、培養液21の温度は、20~40℃であり、pHは、1.5~4.0であればよい。
【0031】
培養槽20の容積や形状は、限定されず、適宜の容積や形状を選択できる。
【0032】
アノード電極30は、対極であり、培養液21に浸漬される。アノード電極30の材質としては、特に制限されないが、白金などが用いられる。
【0033】
カソード電極40は、作用極であり、アノード電極30と電流の閉回路を形成する。
【0034】
カソード電極40は、ガス拡散電極41(Gas diffusion electrode,GDE)から構成されている。ガス拡散電極41は、厚み方向の第1の面41aが培養液21に接触し、厚み方向の反対側の第2の面41bが空気に接触した状態に培養槽20に取り付けられている。ガス拡散電極41は、空気中のガスを第2の面41bから第1の面41aに向けて拡散可能である。
【0035】
本明細書において、「ガス拡散電極41」とは、電気エネルギーと、基質となるガスとを同じ場所から微生物に供給することができる機能を有する電極であることを意味する。本発明の「ガス拡散電極41」は、微生物燃料電池において一般的に使用されるエアカソードと異なり、酸化還元触媒を担持しない。
【0036】
ガス拡散電極41は、導電性の基材から構成される導電層と、ガス拡散層とを有することができる。導電性の基材は、特に制限されないが、例えば、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト、ステンレス、チタンまたはカーボン被覆金属などが例示できる。ガス拡散層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂を導電性の基材に塗布、乾燥、焼結することによって形成することができる。ガス拡散層はまた、ガス透過膜から形成することができる。ガス透過膜は、ガスを透過する性質を有するものであれば構造は特に限定されない。ガス透過膜として、例えば、多孔質膜などが例示できる。ガス透過膜の材質は、特に制限されないが、例えば、PTFE、ポリエチレンもしくはポリプロピレン、またはこれらの組み合わせなどが例示できる。
【0037】
導電層の厚さやガス拡散層の厚さは、特に限定されない。ガス拡散層の厚さを最適化することによって、電気合成に用いる独立栄養微生物に適量の二酸化炭素、酸素、および窒素を供給できる。
【0038】
ガス拡散電極41の第1の面41aは、培養液21に接触する。PTFEなどのフッ素樹脂によって撥水処理を施すことできる。なお、透気性を有する防水フィルムを導電層およびガス拡散層の積層体表面にさらに積層することができる。この構成では、第1の面41aは、防水フィルムから構成することができる。ガス拡散電極41の第2の面41bは、空気に接触する。空気中の二酸化炭素、酸素、および窒素は、第2の面41bからガス拡散層に取り込まれ、第1の面41aに向けて拡散する。
【0039】
制御部60は、カソード電極40(作用極)とアノード電極30(対極)との間に印加する電圧を制御することによって、カソード電極40とアノード電極30との間で電流を流す。
【0040】
バイオリアクター10は、培養液21に浸漬される参照電極50をさらに有することができる。そして、制御部60は、カソード電極40の電位を参照電極50の電位に対して制御可能なポテンショスタット61から構成することができる。参照電極50は、特に制限されないが、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極などが用いられる。作用極、対極、および参照極の3つの電極を用いるポテンショスタット61は、参照電極50(参照極)の電位に対するカソード電極40(作用極)の電位が設定された値となるように、カソード電極40(作用極)とアノード電極30(対極)との間に印加する電圧を制御することができる。ポテンショスタット61はまた、カソード電極40(作用極)とアノード電極30(対極)との間に流れる電流を測定することができる。
【0041】
バイオリアクター10は、培養液21の温度を調節自在な温度調節器80をさらに有することができる。温度調節器80によって、培養液21の温度を所望の温度に設定できる。温度調節器80は、例えば、ヒーターと、クーラーとを有することができる。ヒーターの形式は、特に限定されないが、例えば、電気式ヒーターなどを使用できる。クーラーの形式は、特に限定されないが、例えば、ペルチェ素子を有する電気式クーラーや、冷媒を使用する冷却装置などを使用できる。
【0042】
実施形態の作用を説明する。
【0043】
バイオリアクター10の培養槽20に培養液21を加え、温度調節器80によって培養液21の温度を設定温度(例えば、20~40℃)に調節する。空気は、カソード電極40を構成するガス拡散電極41の第2の面41bに接する。ポテンショスタット61は、3つの電極が接続され、参照電極50(参照極)の電位に対するカソード電極40(作用極)の電位が設定された値となるように、カソード電極40(作用極)とアノード電極30(対極)との間に印加する電圧を制御する。培養液21に、電気合成菌1として独立栄養微生物(例えばA.フェロオキシダンス)を植菌し、電気培養を開始する。これによって、微生物電気合成の一つのターゲット物質2であるアミノ酸(例えばグルタミン酸)、イソ酪酸、エチレン、アンモニアなどを生産することができる。
【0044】
実施形態の効果を説明する。
【0045】
以上説明したように、実施形態の微生物電気合成用バイオリアクター10は、カソード電極40がガス拡散電極41から構成されている。ガス拡散電極41は、厚み方向の第1の面41aが培養液21に接触し、厚み方向の反対側の第2の面41bがガス雰囲気70に接触した状態に培養槽20に取り付けられ、ガス雰囲気70中のガスを第2の面41bから第1の面41aに向けて拡散可能である。
【0046】
このように構成することによって、バブリングによってガスを供給する場合と比較して、ブロアーやポンプなどの動力機器を使用しない。このため、電力消費を削減できる。さらに、電気エネルギーと、ガス雰囲気70中の基質となるガスとは、同じ場所から微生物に供給される。このため、微生物を効率よく増殖させることができ、微生物電気合成の効率が向上する。微生物電気合成の効率が向上する点については、後述する実験によって確認されている。したがって、エネルギー効率を高めることができる微生物電気合成用バイオリアクター10を提供できる。
【0047】
ガス雰囲気70は、空気であり、ガス雰囲気70中のガスは、空気中の二酸化炭素、酸素、および窒素であり、電気合成菌1は、独立栄養微生物である。このように構成すれば、電気エネルギーと、空気中の基質となるガス(酸素、窒素、二酸化炭素)とは、同じ場所から独立栄養微生物に供給され、独立栄養微生物を効率よく増殖させることができる。
【0048】
ガス拡散電極41は、導電性の基材から構成される導電層と、ガス拡散層とを有する。このように構成すれば、微生物燃料電池のエアカソード用に使用されている素材や製造方法を適用して、ガス拡散電極41を容易に製作することができる。微生物燃料電池のエアカソードと異なり、触媒を担持しない。したがって、微生物電気合成によって合成される物質が触媒の微粉末によって汚染されることがない。
【0049】
バイオリアクター10は、培養液21に浸漬される参照電極50をさらに有し、制御部60は、カソード電極40の電位を参照電極50の電位に対して制御可能なポテンショスタット61から構成されている。このように構成すれば、参照電極50(参照極)の電位に対するカソード電極40(作用極)の電位が設定された値となるように、カソード電極40(作用極)とアノード電極30(対極)との間に印加する電圧を制御でき、微生物電気合成のプロセスを好適に制御できる。
【0050】
バイオリアクター10は、培養液21の温度を調節自在な温度調節器80をさらに有する。このように構成すれば、培養液21の温度を所望の温度に設定でき、微生物電気合成のプロセスを好適に制御できる。
【0051】
(変形例)
ガス雰囲気70が空気である実施形態について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではない。ガス雰囲気70は、例えば、工業設備から排出され、空気の組成に比べて二酸化炭素を多く含む排ガスなどを適用することができる。
【実施例0052】
以下に具体例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0053】
[ガス拡散電極(GDE)の作製]
ガス拡散電極(Gas diffusion electrode,GDE)は、微生物燃料電池用エアカソード(Cheng et al. 2006, Electrochem Comm 8. 489-494)を改変して以下のように作製した。なお、ガス拡散電極は触媒を含まない。
(1)カーボンブラック0.25gと30%PTFE溶液(Sigma-Aldrich、perfluorinated ion-exchange resin)2.5mLとをよく混合して、混合液を調製した。
(2)混合液をカーボンクロス(10cm×10cm、日本カーボン株式会社、GF-20-S9)に塗布し、2時間室温で放置した。これを380℃のオーブンで30分焼結させた後、室温程度まで放冷した。
(3)60%PTFE溶液を一面に塗布し、10分程度室温で乾燥させ、その後380℃のオーブンで20分焼結した。
(4)同じ面に対して(3)の工程を3回行い、片面にガス拡散層を形成させた。作製したGDEの写真を図2に示す。図2(A)は電極面を示し、図2(B)はガス拡散層面を示している。
【0054】
[比較例1]
従来から用いられてきた空気バブリング(Air bubbling,AB)方式の電気化学培養装置(electrochemical cultivation device,ECD)を使用した(AB-ECD)。
【0055】
本実験に用いた空気バブリング方式の電気化学培養装置(AB-ECD)110の概略構成図を図5に示す。AB-ECD110は、培養液121を収容する培養槽120と、アノード電極130(対極)と、カソード電極140(作用極)と、参照電極150(参照極)と、ポテンショスタット161と、培養槽120内に空気をバブリングによって供給するバブリング装置170と、を有する。ポテンショスタット61は、3つの電極が接続され、参照電極150(参照極)の電位に対するカソード電極140(作用極)の電位が設定された値となるように、アノード電極130(対極)の電位を制御する。ポテンショスタット161はまた、カソード電極140(作用極)とアノード電極130(対極)との間に流れる電流を測定する。バブリング装置170は、空気を送気するエアーポンプ171を有する。エアーポンプ171は、図示しない電源から電力が供給される。
【0056】
本実験に用いたAB-ECD110では、作用極にグラファイトフェルト(3×4cm,厚さ3mm)(GF-20-3F;日本カーボン株式会社)、参照極にAg/AgCl(HX-R5;北斗電工株式会社)、対極に白金線(Φ0.30mm;株式会社ニラコ、20cm)を使用した。この培養装置に、Fe9K培地を140mL加えた。Fe9K培地は、(NHSO 0.078g、KHPO 0.083g、MgSO・7HO 0.83g、CaCl・2HO 0.016g、KCl 0.17g、FeSO・7HO 1.4g、10N HSO 2mLを含み、pHは約2である。この装置に、除菌フィルターを介して、エアーポンプ171で大気中の空気を供給した。培養装置をインキュベーター(30℃)内に設定し、作用極電位はポテンショスタット161(VMP-3;Biologic社)により参照極に対して0Vに制御した。培養装置に、Fe9K培地(Fe2+ 108mM)で定常期まで増殖させたアシディチオバシルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans DSM14882株)を初期細胞濃度が1×10cells/mLとなるように植菌することで電気培養を開始した。電流値はVMP3で測定し、培地容積(140mL)を基に電流密度を求めた。結果を図6に示す。容積当たりの最大電流密度(Jmax,mA L-1)として46mA L-1(6日目)が得られた(表1を参照)。
【0057】
[実施例1]
ガス拡散電極(GDE)方式の電気化学培養装置(GDE-ECD)10の概略構成図は図1に示したとおりである。GDE-ECD10は、培養液21を収容する培養槽20と、アノード電極30(対極)と、ガス拡散電極41から構成されるカソード電極40(作用極)と、参照電極50(参照極)と、ポテンショスタット61と、を有する。実験においては、温度調節器80として、インキュベーターを使用した。ポテンショスタット61は、3つの電極が接続され、参照電極50(参照極)の電位に対するカソード電極40(作用極)の電位が設定された値となるように、アノード電極30(対極)の電位を制御する。ポテンショスタット61はまた、カソード電極40(作用極)とアノード電極30(対極)との間に流れる電流を測定する。空気は、ガス拡散電極41のガス拡散層面に接する。作製したGDE-ECD10の写真を図3に示す。図3(A)は正面を示し、図3(B)は側面を示している。
【0058】
本実験に用いたGDE-ECD10では、作用極には上記のように作製したGDE(10×10cm)。参照極にAg/AgCl(HX-R5;北斗電工株式会社)、対極に白金線(Φ0.30mm;株式会社ニラコ、25cm)を使用した。この培養装置に、Fe9K培地を100mL加えた。培養装置をインキュベーター(30℃)内に設定し、作用極電位はポテンショスタット61(VMP-3)により参照極に対して0Vに制御した。培養装置に、Fe9K培地(Fe2+ 108mM)で定常期まで増殖させたアシディチオバシルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans DSM14882株)を初期OD600が0.01となるように植菌することで電気培養を開始した。電流値はVMP3で測定し、培地容積(100mL)を基に電流密度を求めた。結果を図4に示す。容積当たりのJmaxとして54mA L-1(4日目)が得られた(表1を参照)。
【0059】
[評価]
AB-ECD110(比較例)およびGDE-ECD10(実施例)における電気化学培養の効率を比較するため、アシディチオバシルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans DSM14882株)の増殖を評価した。培養終了時に装置をよく浸透して電極などに付着した細胞を培地中に懸濁した。その後、培養液21、121を一部サンプリングし、OD600(600nmにおける濁度)を分光光度計により測定した。これを基に、文献(Kernan et al. 2016, Biotechnol. Bioeng. 113, 189-197)に記載のODと細胞濃度の換算計数(OD600=1.0のとき8.3×10cells/mL)を用いて細胞濃度(C,cells L-1)を算出した。また、各ECD10、110において発生した電流から培養期間中に電極から装置内に流入した総クーロン量(Total Coulomb,TC,C L-1)を計算した。さらに、電流値と電圧とから消費された電気エネルギーを計算するとともに、増殖した菌数から菌に蓄えられたエネルギーを計算し、文献(中園ら,1997,電気による微生物の制御(その2)電気培養法による鉄酸化細菌の高濃度培養と生産性.電力中央研究所報告.U96011)の方法に従って電気化学培養におけるエネルギー効率(energy efficiency,EF,%)を求めた。エネルギー効率は、増殖した菌体がもつエネルギー量/電極から供給した電気エネルギー量である。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すようにECD10、110に供給された総クーロン量はGDE-ECD10よりAB-ECD110の方が大きいものの、増殖した菌数は逆にGDE-ECD10の方がAB-ECD110より顕著に高い。結果としてGDE-ECD10のエネルギー効率が高くなることが分かる。このことは、GDE-ECD10を用いることで従来から用いられているAB-ECD110より効率の良い電気培養ができることを示している。
【符号の説明】
【0062】
1 電気合成菌
2 微生物電気合成された物質
10 微生物電気合成用バイオリアクター、ガス拡散電極方式の電気化学培養装置(GDE-ECD)
20 培養槽
21 培養液
30 アノード電極
40 カソード電極
41 ガス拡散電極
41a 第1の面
41b 第2の面
50 参照電極
60 制御部
61 ポテンショスタット
70 ガス雰囲気
80 温度調節器
110 空気バブリング方式の電気化学培養装置(AB-ECD)
120 培養槽
121 培養液
130 アノード電極
140 カソード電極
150 参照電極
161 ポテンショスタット
170 バブリング装置
171 エアーポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6