(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024810
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】植物種子の殺菌方法及びそれに用いる装置
(51)【国際特許分類】
A01C 1/08 20060101AFI20240216BHJP
C02F 1/48 20230101ALI20240216BHJP
A61L 2/14 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
A01C1/08
C02F1/48 B
A61L2/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127714
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】515040704
【氏名又は名称】株式会社大日製作所
(71)【出願人】
【識別番号】592216384
【氏名又は名称】兵庫県
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岡 好浩
(72)【発明者】
【氏名】橋本 智裕
(72)【発明者】
【氏名】内橋 嘉一
【テーマコード(参考)】
2B051
4C058
4D061
【Fターム(参考)】
2B051AA01
2B051AB01
2B051BA09
2B051BB20
4C058AA30
4C058BB02
4C058CC05
4C058KK06
4D061DA01
4D061DB09
4D061EA13
4D061EB07
4D061EB09
4D061EB27
4D061EB28
4D061EB29
4D061EB30
4D061EB31
(57)【要約】
【課題】適用方法や適用対象に制約がなく、植物種子の殺菌の用途に広く利用できる植物種子の殺菌方法及びそれに用いる装置を提供すること。
【解決手段】キャビテーション発生機構2により、水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極31間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構3により、プラズマを発生させることによって生成した活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水に、植物種子を曝すようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビテーション発生機構により、水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構により、プラズマを発生させることによって生成した活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水に、植物種子を浸漬することを特徴とする植物種子の殺菌方法。
【請求項2】
前記水を、キャビテーション発生機構及びプラズマ発生機構に循環させて、活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を生成しながら、該水の循環経路に植物種子を配置することを特徴とする請求項1に記載の植物種子の殺菌方法。
【請求項3】
前記水の温度を、温湯種子消毒用の温度に維持することを特徴とする請求項1又は2に記載の植物種子の殺菌方法。
【請求項4】
水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構と、キャビテーション発生機構によって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、プラズマを発生させる、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構と、それによって生成した活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水に植物種子を浸漬するために水の排出部に設置した植物種子収容部とを備えることを特徴とする植物種子の殺菌に用いる装置。
【請求項5】
前記水を、キャビテーション発生機構及びプラズマ発生機構に循環させて、活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を生成しながら、該活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水に植物種子を浸漬することを特徴とする請求項4に記載の植物種子の殺菌に用いる装置。
【請求項6】
前記水の温度を、温湯種子消毒用の温度に維持する水温調節機構を備えることを特徴とする請求項4又は5に記載の植物種子の殺菌に用いる装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物種子の殺菌方法及びそれに用いる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、病害に感染した植物種子に対する浸透性及び殺菌力に優れ、いもち病等の種子伝染性糸状菌病や細菌病及び線虫病害の何れをも効果的に防除できる植物種子消毒剤として、金属銀水和剤が提案され(例えば、特許文献1~2参照。)、実用化されている(例えば、サンケイ化学社製「シードラック(登録商標)水和剤」。)。
【0003】
このほか、植物種子の殺菌方法としては、植物種子を殺菌用ガスに曝す方法(例えば、特許文献3参照。)や、植物種子を温湯に浸漬する方法(例えば、特許文献4参照。)が提案され、実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-263401号公報
【特許文献2】特開2007-332058号公報
【特許文献3】特開2002-51612号公報
【特許文献4】特開2011-250807号公報
【特許文献5】特開2011-41914号公報
【特許文献6】特開2015-3297号公報
【特許文献7】特開2017-176201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属銀水和剤、殺菌用ガス、温湯を使用する、上記従来の植物種子の殺菌方法は、適用方法や適用対象に制約があったり、殺菌効果が得にくいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来の植物種子の殺菌方法とはまったく異なる手法で、適用方法や適用対象に制約がなく、植物種子の殺菌の用途に広く利用できる植物種子の殺菌方法及びそれに用いる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の植物種子の殺菌方法は、キャビテーション発生機構により、水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構により、プラズマを発生させることによって生成した活性酸素種及びナノ粒子触媒(ナノ粒子が凝集して二次粒子になっているものを含む。以下、本明細書において同じ。)を含有する水に、植物種子を浸漬することを特徴とする。
【0008】
この場合において、前記水を、キャビテーション発生機構及びプラズマ発生機構に循環させて、活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を生成しながら、該水の循環経路に植物種子を配置するようにすることができる。
【0009】
また、前記水の温度を、温湯種子消毒用の温度に維持することができる。
【0010】
また、同じ目的を達成するため、本発明の植物種子の殺菌装置は、水を流動させながら
、水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構と、キャビテーション発生機構によって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、プラズマを発生させる、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構と、それによって生成した活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水に植物種子を曝すために水の排出部に設置した植物種子収容部とを備えることを特徴とする。
【0011】
この場合において、前記水を、キャビテーション発生機構及びプラズマ発生機構に循環させて、活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を生成しながら、該活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水に植物種子を浸漬することができる。
【0012】
また、前記水の温度を、温湯種子消毒用の温度に維持する水温調節機構を備えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の植物種子の殺菌方法及びそれに用いる装置によれば、原料の水を処理することで生成することができる活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水に、植物種子を浸漬することで、植物種子を殺菌することができ、植物種子の殺菌作用を発揮すると考えられる成分である活性酸素種が、その後、最終的に水に戻ることから、安心、安全なものであり、適用方法や適用対象に制約がなく、植物種子の殺菌の用途に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の植物種子の殺菌に用いる装置の一例を示す概念図である。
【
図2】活性酸素種を含む各種物質の酸化電位及び結合エネルギを示す図である。
【
図3】電極の材質ごとの処理時間とpH、導電率、過酸化水素の濃度及び電極消耗量との関係を示す図である。
【
図4】条件2の電圧・電流・電力波形を示す図である。
【
図5】条件3の電圧・電流・電力波形を示す図である。
【
図6】条件5の電圧・電流・電力波形を示す図である。
【
図7】CBP装置を5min稼働(W電極及びAg電極)した水を放置した場合の水質の経時変化(経過時間とpH及び導電性の関係)を示す図である。
【
図8】CBP装置を5min稼働(W電極及びAg電極)した水を放置した場合の水質の経時変化(経過時間とORP及びH
2O
2濃度の関係)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の植物種子の殺菌方法及びそれに用いる装置の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明の植物種子の殺菌方法は、キャビテーション発生機構により、水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構により、プラズマを発生させることによって生成した活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水に、植物種子を浸漬することを特徴とするものである。
【0017】
この場合、水を、キャビテーション発生機構及びプラズマ発生機構に循環させて、活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水を生成しながら、該水の循環経路に植物種子を配置することができる。
【0018】
この植物種子の殺菌に用いる装置としては、従来公知の装置、すなわち、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構によりプラズマを発生させる機
構、より具体的には、先行技術文献の欄に記載した特許文献5-6に記載された、ノズル、障害物等によって流路断面積を変化させて水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構とプラズマ発生機構とを組み合わせた装置、同特許文献7に記載された、回転翼を回転させることによって水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構とプラズマ発生機構とを組み合わせた装置等を用いることができる。
【0019】
ここでは、植物種子の殺菌に用いる装置として、回転翼を回転させることによって水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構とプラズマ発生機構とを組み合わせた装置を用いた例について、以下説明する。
【0020】
この植物種子の殺菌に用いる装置は、
図1に示すように、水を貯留するタンク1と、キャビテーション発生機構としてのタンク1から供給された水を撹拌する撹拌装置2と、撹拌装置2によってキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡(キャビテーション気泡)を含む水中で、プラズマを発生させるプラズマ発生機構3と、これらの機構を接続して水を循環させる管路4と、生成した活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水に植物種子Sを浸漬するために管路4の水の排出部(本実施例においては、タンク1を使用している。)に設置した植物種子収容部5(本実施例においては、殺菌対象の植物種子Sよりも小さい網目のストレーナーを使用している。)とを備えて構成されている。
ここで、管路4の水の排出口をタンク1(タンク1の排出口)に対して偏心させて設置することで、植物種子収容部5内に収容し、水に浸漬した殺菌対象の植物種子Sが、タンク1内に供給される新たに生成された活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水の流れに乗って舞うようにし、これにより、処理中に殺菌対象の植物種子Sの全面に常に新たに生成された活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水が接触するようにしている。
また、水を循環させることは必須ではなく、例えば、プラズマ発生機構を複数設けたり、電極対を複数組設置したりすることによって、より処理効率を高めることができれば、1パス処理でもよい。
【0021】
撹拌装置2は、ケーシング21の内部に同心状で回転可能に設けられたロータ22と、ロータ22を回転駆動するモータ23等を備えて構成されている。
【0022】
また、プラズマ発生機構3は、導体からなる電極31と、電極31間に、例えば、放電開始電圧以上の電圧、パルス幅1.5μs以下、繰り返し周波数100kHz以上のパルス電圧を印加するパルス電源32等を備えて構成され、絶縁性の気泡領域で、パルス電圧による高電圧絶縁破壊放電により気化物が電離(プラズマ化)して液中プラズマ(キャビテーションプラズマ。本明細書において、「CBP(Cavitation bubble plasma)」という場合がある。)を発生させるものである。
パルス電圧によって生起される放電形態は、グロー放電であることが好ましく、電極31の消耗成分に起因する金属や金属酸化物、液中プラズマによって生成される水に含まれる不純物に起因する硫化物、塩化物等の無機化合物等からなる、結晶、準結晶、アモルファス等の形態のナノ粒子触媒の合成を、低温で、かつ、エネルギ効率よく行うことができる。すなわち、ナノ粒子触媒は、電極31の成分のナノ粒子であり、電極が金属の場合、ナノ粒子ができた瞬間は金属ナノ粒子となり、金属の種類によって、そのナノ粒子が酸化されたり、水に塩素や硫黄が含まれているとナノ粒子が塩化されたり硫化されたりする(不純物に含まれる物質によってその物質との化合物になる場合がある。)。
ここで、プラズマ発生機構3内の電極31付近の水の流速は約10m/sであり、5m/s以上が望ましい。
電極31は、水の流れに対して垂直方向に、対向させて配置することが好ましいが、プラズマが生成できる限りにおいて、ハの字等の配置形態を採用することができる。
電極31の材料には、タングステン、銅、鉄、銀、金、白金のほか、アルミニウム、ス
カンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、インジウム、錫、アンチモン、ランタノイド、ハフニウム、タンタル、レニウム、オスミウム、イリジウム、タリウム、ビスマス、ポロニウム等の金属、カーボン、導電性ダイヤモンド、それらの合金や複合材料(メッキやドライコーティング等の手法で薄膜で被覆したものを含む。)や酸化物(電極31の表面が水と反応したものを含む。)等の導体材料を、用途に応じて、任意に選択することができる。対向させて配置する電極31で、金と銀など、用いる材料や電極サイズを異ならせることもできる。
なお、電極31の消耗成分に起因する金属や金属酸化物等のナノ粒子触媒は、ナノ粒子が凝集して二次粒子になっているものを含むほか、電極31の材料によっては、液中プラズマによってナノ粒子と同時に生成される過酸化水素(H2O2)等によって、最終的にそのほとんどが水に溶解してしまっている場合(例えば、タングステン。)があるが、本発明は、これを排除しないものとする。
電極31の形状は、円柱のほか、角柱、楕円柱、円錐、角錘であってもよい。電極31は、1対あれば問題ないが、より処理効率を上げるために2対以上設置してもよい。また、プラズマ発生機構は1セットあれば問題ないが、より処理効率を上げるために2セット以上設置してもよい。
電極31の片側は接地してもよいし、接地しなくてもよい。接地しない方が放電路は電極間に限定されるため、安全である。
【0023】
この植物種子の殺菌に用いる装置は、稼働することにより、循環する水の水温が上昇することになるが、必要に応じて、水温調節機構として冷却手段(及び/又は加熱手段)、例えば、撹拌装置2に設けたジャケット冷却手段(及び/又は加熱手段)(図示省略)を備えることによって、水を所定の温度に維持することができる。
【0024】
そして、水温調節機構により、循環する水の水温を、種子消毒効果のある温湯種子消毒用の温度(例えば、水稲種子のもみ枯細菌病、苗立枯細菌病、いもち病、イネシンガレセンチュウに対しては、60℃の温湯に10分間又は58℃の温湯に15分間浸漬する。)に維持することにより、温湯種子消毒を併せて実施することができる。
【0025】
そして、このようにして液中プラズマによって生成された水には、ナノ粒子触媒に加えて、活性酸素種としての過酸化水素等が存在することで、その作用により、植物種子の殺菌作用を発揮することができる。
この液中プラズマによって生成された水は、長寿命の活性酸素種(スーパーオキシドアニオンラジカル(・O2
-)、ヒドロペルオキシラジカル(HOO・)、過酸化水素(H2O2))による殺菌作用に加えて、過酸化水素(H2O2)が、ナノ粒子触媒の触媒作用によって、活性酸素種の中で最も酸化力の高いヒドロキシルラジカル(・OH)等の活性酸素種を持続的に生成させることにより、より増強され、植物種子の殺菌作用を発揮することができる。
このため、液中プラズマによって生成された水中に存在する過酸化水素及びナノ粒子触媒の量が重要であり、本発明によって、原料は水だけで簡単、高速、かつ、大量に同時に生成することができる。
【0026】
図2に、活性酸素種を含む各種物質の酸化電位及び結合エネルギを示す。
図2からも明らかなように、ヒドロキシルラジカル(・OH)等の活性酸素種は、有機物(微生物(ウイルス、細菌、真菌、原虫等を含む。))の大きな分解作用(殺菌作用)を有するため、植物種子の殺菌作用を発揮することができる。
【実施例0027】
次に、植物種子の殺菌に用いる装置(具体的には、日本スピンドル製造社製「キャビテーションプラズマ装置」。)を使用して行った試験について説明する。
【0028】
[植物種子の殺菌に用いる装置の処理条件について]
表1に、植物種子の殺菌に用いる装置の処理条件(好ましい範囲)を、
図3に、電極の材質ごとの処理時間とpH、導電率、過酸化水素の濃度及び電極消耗量との関係を、それぞれ示す。
【0029】
【0030】
ここで、表1及び
図3において、以下のことがいえる。
・初期(「プラズマ処理前」を意味する。他の項目も同じ。)の導電率は低い方がプラズマ生成率(印加したパルス数に対するプラズマが生成したパルス数の割合。)が高くなり、効率よく植物種子の殺菌に用いる水を生成することができる。
・初期CODが高いと、生成される活性酸素種が消費されてしまい好ましくない。
・初期導電率、初期pH、初期CODが好ましい範囲内であれば、他の混雑物は影響しない。このため、処理原料となる水としては、イオン交換水(本明細書において、「DIW」という場合がある。)等の精製水を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
・撹拌装置の回転数は高い方がキャビテーション気泡が増えるので、プラズマ生成率が高くなり、効率よく植物種子の殺菌に用いる水を生成することができる。
・印加電圧は低すぎるとプラズマが点灯せず、高くなるとプラズマ生成率が高くなるが、高すぎると好ましいグロー放電からアーク放電に移行してしまい好ましくない。
・パルス幅は短すぎるとプラズマが点灯せず、長くなるとプラズマ生成率が高くなるが、長すぎるとアーク放電に移行してしまい好ましくない。
・繰り返し周波数は高いほどプラズマ生成率が高くなり、安定してプラズマが生成できる
。
・パルス電圧の極性は、両極性でも正極性でも負極性でもよい。
・電極材質は、水中で安定な導体であればよい。金属でも合金でもカーボンでもよい。
・植物種子の殺菌に用いる水に不純物として電極成分等のナノ粒子触媒が混入するため、使用方法によって材料を選ぶ必要が生じる場合がある。
・電極直径は細すぎると電界が集中してプラズマが点灯しやすいが、アーク放電に移行しやすくなり、太すぎるとプラズマが点灯しにくくなる。
・電極のギャップ長は短すぎるとアーク放電に移行しやすくなる、長すぎるとプラズマが点灯しにくくなる。
・処理時間は短すぎると生成される活性酸素種及びナノ粒子触媒が少なくなり、長すぎると生成される活性酸素種及びナノ粒子触媒によって導電率が高くなり、プラズマ生成率が低下する。処理時間は、通常は、5-60分程度、好ましくは、10-45程度、より好ましくは、30分程度である。ここで、植物種子の殺菌に用いる装置は、撹拌装置の回転数が7200rpmの場合、1秒間に260mLの水が装置内を1回循環するようにされている。
【0031】
[植物種子の殺菌試験]
次に、以下の試験方法で、モデルとしていもち病水稲種子試験を行った。
【0032】
(1)植物種子の殺菌に用いる装置の操作(1)
植物種子の殺菌に用いる装置(本明細書において、「CBP装置」という場合がある。)に精製水(イオン交換水)を投入し、植物種子収容部5に水稲種子(いもち病罹病種子)を収容し、タンク1内に設置し、水に浸漬させ、表2に示す処理条件で植物種子の殺菌に用いる装置を稼働した。
【0033】
【0034】
(1-1)条件1:対照1(水循環のみ)
CBP装置を稼働(電極の装着及び電圧の印加せず(プラズマ非生成)、水循環のみ)し、30min処理した。
(1-2)条件2:CBP処理水(W電極)
CBP装置を稼働(W電極)し、30min処理した。
W電極の消耗量を測定した。
(1-3)条件3:CBP処理水(Ag電極)
CBP装置を稼働(Ag電極)し、30min処理した。
Ag電極の消耗量を測定した。
【0035】
(2)植物種子の殺菌に用いる装置の操作(2)
(2-1)条件4:対照2(精製水(イオン交換水))
精製水(イオン交換水)に、水稲種子(いもち病罹病種子)を、15℃、暗黒条件で24時間浸漬処理した。
(2-2)条件5:CBP処理水(W電極)
CBP装置に精製水(イオン交換水)を投入し、CBP装置を表3に示す処理条件で稼働してCBP処理水を得た後、5時間放置した。このCBP処理水に、水稲種子(いもち病罹病種子)を、15℃、暗黒条件で24時間浸漬処理した。
【0036】
【0037】
表4にCBP装置を30min稼働したときの電極消耗量を、表5にCBP装置を5min稼働したときの電極消耗量を、
図4~
図6に条件2~3及び5の電圧・電流・電力波形、
図7~
図8にCBP装置を5min稼働(W電極、Ag電極(参考))した水を放置した場合の水質の経時変化を示す。
【0038】
【0039】
【0040】
(3)いもち病罹病種子に対する種子消毒試験
ろ紙を2枚敷き、蒸留水で湿らせたガラスシャーレ内に、条件1~3及び条件4~5で処理した水稲種子(イネいもち病罹病種子)条件1~3は50粒×3シャーレ計150粒、条件4~5は50粒×3シャーレ×3(反復数)計450粒を置き、グロースインキュベータにて、25℃、12h日照条件で3日間培養し、実体顕微鏡及び生物顕微鏡を用いていもち病胞子形成種子数をカウントした。
表6及び表7に各シャーレのいもち病胞子形成種子数を示す。
【0041】
【0042】
【0043】
表5及び表7に示す、いもち病罹病種子に対する種子消毒試験の結果から、以下のことが分かった。
・精製水(イオン交換水)(DIW)と比較して、CBP処理水(CBPTW)は、水稲種子(いもち病罹病種子)のいもち病胞子形成種子率を抑制する(殺菌作用を発揮する。)。
・使用するCBP処理水の放置時間t
S(CBP処理水を生成してからの経過時間)が長くなる(
図8に示すように、水に含まれる活性酸素種が分解され、減少する。)と、水稲種子(いもち病罹病種子)のいもち病胞子形成を抑制する効果が消失する。
・
図8に示すAgのデータから、特に、Agナノ粒子触媒が存在すると過酸化水素(H
2O
2)の分解速度が極端に速くなることが分かる。過酸化水素の分解過程でOHラジカルが生成され、そのOHラジカルの酸化力やOHラジカルが水と反応して生成された各種活性酸素種によって殺菌作用が発揮されると推定できる。また、Agの場合、Agナノ粒子触媒が植物種子の表面に付着することで、Agイオンによる殺菌作用も併せて期待できる
ため、例えば、発芽処理のために水に浸漬した植物種子の水交換は、必要最小限にし、その際、植物種子を水洗いしないことが推奨される。
このことから、水に含まれる活性酸素種の量が殺菌作用に影響している(CBP処理水の放置時間が長くなる程、活性酸素種の量が減少し、殺菌作用が低下する。)と推定できる。
このため、水稲種子(いもち病罹病種子)のいもち病胞子形成種子率を抑制する(殺菌作用を発揮させる)ためには、CBP処理水は、CBP装置で処理した直後のCBP処理水を使用することが必要であり、CBP装置でCBP処理水を生成しながら、当該CBP処理水の循環経路に水稲種子を配置して殺菌処理を行うようにすることが好ましいといえる。
【0044】
以上、本発明の植物種子の殺菌方法及びそれに用いる装置について、その実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
本発明の植物種子の殺菌方法及びそれに用いる装置は、原料の水を処理することで生成することができる活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水に、植物種子を曝すことで、植物種子を殺菌することができ、植物種子の殺菌作用を発揮すると考えられる成分である活性酸素種が、その後、最終的に水に戻ることから、安心、安全なものであり、適用方法や適用対象に制約がなく、植物種子の殺菌の用途に広く利用することができる。
このため、殺菌の対象は、実施例に記載した、水稲種子のいもち病に限定されず、水稲種子のもみ枯細菌病、苗立枯細菌病、褐条病、ばか苗病、ごま葉枯病、イネシンガレセンチュウのほか、コムギなまぐさ黒穂病、黒節病、オオムギ斑葉病、さらには、トウモロコシ等のイネ科、ナス、トマト等のナス科、キュウリ、カボチャ、メロン等のウリ科、ブロッコリー、ミズナ、レッドキャベツ、ターサイ、レッドケール等のアブラナ科、グリーンロメイン、レッドロメイン、トレビス、エンダイブ、アイスバーグレタス等のキク科、マスタード、クレス、緑豆、ブラックマッペ、大豆、アルファルファ、豆苗等のスプラウト類、グリーンマスタード、ビートルビークイーン、レッドオーク、レッドサラダ、ロロロッサ、レッドマスタード、スピナッチ、ロログリーン、ルッコラロケット、ピノグリーン等のベビーリーフ類等の種々の植物種子の殺菌(微生物(ウイルス、細菌、真菌、原虫等を含む。)の殺菌)の用途に広く利用することができる。