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特開2024-24842固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024842
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20240216BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240216BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20240216BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M8/10 101
H01M8/1004
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127769
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友隆
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB08
5H018BB12
5H018EE03
5H018EE08
5H126AA02
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】燃料電池において、ガス供給及び生成水の排出に有利な触媒層を形成する。
【解決手段】触媒が担持された導電体、イオン伝導体、及び溶媒を含む触媒インクを基材に塗布する工程と、塗布後に、触媒インクを前記基材に接している側から加熱して、前記触媒インクから前記溶媒を揮発させることで触媒層を形成する工程と、を備える、固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法である。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が担持された導電体、イオン伝導体、及び溶媒を含む触媒インクを基材に塗布する工程と、
塗布後に、前記触媒インクを前記基材に接している側から加熱して、前記触媒インクから前記溶媒を揮発させることで触媒層を形成する工程と、を備える、固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法。
【請求項2】
固体高分子電解質膜と、
請求項1に記載の製造方法で製造した前記触媒層と、を備え、
前記触媒層は、前記基材と接触してない側を前記固体高分子電解質膜に接触する形態で接合されている、膜電極接合体。
【請求項3】
請求項2に記載の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法が検討されている。例えば、基材上に形成される塗膜に対し、厚さ方向に温度差を与えながら溶媒を除去し、電極触媒層(以下、「触媒層」ともいう場合がある)を製造する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようにすると、触媒層は厚さ方向で細孔容積が変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-73892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガス供給及び生成水の排出という観点では、触媒層のうちガスが供給される側の細孔容積が大きい状態となっているか、又はガスが供給される側から反対側(電解質膜側)まで細孔容積がほとんど変わらない状態となっていることが有利であると推測される。
しかし、特許文献1で形成されている触媒層の細孔は理想とは異なる形態となっていた。
本開示は、固体高分子形燃料電池において、ガス供給及び生成水の排出に有利であり、発電効率を高める触媒層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の手段を以下に示す。
[1]触媒が担持された導電体、イオン伝導体、及び溶媒を含む触媒インクを基材に塗布する工程と、
塗布後に、前記触媒インクを前記基材に接している側から加熱して、前記触媒インクから前記溶媒を揮発させることで触媒層を形成する工程と、を備える、固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示の製造方法は、ガス供給及び生成水の排出に有利な触媒層を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】触媒層の製造方法を説明する模式図である。
図2】触媒層の製造方法を説明する模式図である。
図3】触媒層の製造方法を説明する模式図である。
図4】触媒層の製造方法を説明する模式図である。
図5】膜電極接合体の製造方法を説明する模式図である。
図6】膜電極接合体の製造方法を説明する模式図である。
図7】固体高分子形燃料電池の一例の模式図である。
図8】従来の製造方法での溶媒の揮発を説明する模式図である。
図9】本開示の製造方法での溶媒の揮発を説明する模式図である。
図10】発電評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の他の例を示す。
[2]
固体高分子電解質膜と、
請求項1に記載の製造方法で製造した前記触媒層と、を備え、
前記触媒層は、前記基材と接触してない側を前記固体高分子電解質膜に接触する形態で接合されている、膜電極接合体。
[3]
[2]に記載の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池。
【0009】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0010】
1.固体高分子形燃料電池用の触媒層1の製造方法
固体高分子形燃料電池用の触媒層1の製造方法は、触媒インク3を基材5に塗布する工程と、溶媒を揮発させることで触媒層1を形成する工程と、を備える。
触媒インク3を基材5に塗布する工程では、触媒が担持された導電体、イオン伝導体、及び溶媒を含む触媒インク3を基材5に塗布する。
溶媒を揮発させることで触媒層1を形成する工程では、塗布後に、触媒インク3を基材5に接している側から加熱して、触媒インク3から溶媒を揮発させることで触媒層1を形成する。
溶媒を揮発させることで触媒層1を形成する工程では、例えば、塗布後に、触媒インク3が塗布されていない側から基材5を加熱して、触媒インク3から溶媒を揮発させることで触媒層1を形成する。
図1図4には、触媒層1の製造方法の説明図が示されている。図5図6には、膜電極接合体7の製造方法の説明図が示されている。
【0011】
(1)触媒インク3を基材5に塗布する工程(図1,2参照)
この工程では、触媒が担持された導電体、イオン伝導体、及び溶媒を含む触媒インク3を基材5に塗布する。
【0012】
(1.1)触媒インク3
触媒インク3は、触媒が担持された導電体、イオン伝導体、及び溶媒を含む。
【0013】
(1.1.1)触媒が担持された導電体
触媒が担持された導電体における触媒(触媒粒子)としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属又はこれらの合金等が使用できる。触媒の粒径は、特に限定されない。触媒の粒径は、触媒の活性の向上、触媒の安定性の観点から、0.5nm以上20nm以下が好ましく、1nm以上5nm以下がより好ましい。触媒が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)からなる群より選択される少なくとも1種の貴金属であると、電極反応性に優れ、電極反応を効率よく安定して行うことができる。
触媒の粒径は、例えば、次の方法で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により触媒を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、触媒(黒い円形の像)を球形とみなして、触媒の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3視野-5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を粒径とする。
導電体は、触媒を担持する電子伝導性の物質(触媒担持粒子)である。導電体は、特に限定されない。導電体として、カーボン粒子が好ましく用いられる。カーボン粒子の種類は、限定されない。カーボン粒子として、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン等が好適に用いられる。カーボン粒子の粒径は、特に限定されない。カーボン粒子の粒径は、良好な電子伝導パスの形成の観点、触媒層1のガス拡散性確保の観点から、10nm以上1000nm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。
導電体の粒径は、例えば、次の方法で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により導電体を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、導電体を球形とみなして、導電体の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3視野-5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を粒径とする。
触媒インク3における触媒が担持された導電体の配合量は、空気極(カソード)の触媒層1、燃料極(アノード)の触媒層1において触媒が所望の量になるように適宜調整される。
空気極(カソード)の触媒層1の場合には、導電体の配合量は、例えば、触媒インク全体を100質量部とした場合に、0.04質量部以上5.7質量部以下となるように調整される。
燃料極(アノード)の触媒層1の場合には、導電体の配合量は、例えば、触媒インク全体を100質量部とした場合に、0.04質量部以上5.7質量部以下となるように調整される。
【0014】
(1.1.2)イオン伝導体
触媒インク3に含まれるイオン伝導体としては、プロトン伝導性を有するものが用いられる。イオン伝導体としては、例えば、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、ペルフルオロ炭化水素系電解質(例えばデュポン社製Nafion(登録商標))を用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリイミド(SPI)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリフェニルスルホン(SPPSU)、スルホン化ポリエーテルスルホン(SPES)等の電解質を用いることができる。イオン伝導体としてフッ素系高分子電解質を好適に用いることができる。
尚、イオン伝導体は、触媒層1と固体高分子電解質膜13の密着性を考慮すると、固体高分子電解質膜13と同一の材料を用いることが好ましい。
イオン伝導体の配合量は、触媒層1における十分なプロトン伝導性を確保する観点から、触媒インク全体を100質量部とした場合に、0.02質量部以上8.6質量部以下が好ましく、0.2質量部以上6.4質量部以下がより好ましく、0.4質量部以上4.3質量部以下が更に好ましい。
【0015】
(1.1.3)溶媒
溶媒は、触媒インク3の分散媒として使用される。
溶媒は、特に限定されないが、溶媒の沸点が10℃以上100℃以下であることが好ましく、15℃以上100℃以下であることがより好ましく、25℃以上100℃以下であることが更に好ましい。溶媒には、揮発性の有機溶媒が少なくとも含まれることが好ましい。有機溶媒としては、アルコール、ケトン、及び、エーテルからなる群より選択される少なくとも一種を好適に使用できる。
アルコールとしては、イオン伝導体の溶解性及び揮発性の観点から、炭素数1-5のアルコールが好適に用いられる。炭素数1-5のアルコールとしては、エタノール、メタノール、1-プロパノ―ル、2-プロパノ―ル、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、1-ペンタノール、及び、3-ペンタノールからなる群より選択される少なくとも一種を好適に使用できる。これらの中でも、環境負荷を低減する観点から、エタノールを用いることが好ましい。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンが好適に例示される。
エーテルとしては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテルが好適に例示される。
溶媒としては、上記に記載された以外に、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等の極性溶剤も使用できる。溶媒は、二種以上を混合させて用いてもよい。
溶媒の配合量は、溶媒の揮発によってガス供給及び生成水の排出に有利な触媒層1を形成する観点から、触媒インク全体を100質量部とした場合に、80質量部以上99.9質量部以下が好ましく、85質量部以上99質量部以下がより好ましく、80質量部以上98質量部以下が更に好ましい。
有機溶媒は、溶媒の揮発によってガス供給及び生成水の排出に有利な触媒層1を形成する観点から、水と混合した混合溶媒が好ましい。
溶媒として、有機溶媒と水の混合溶媒を用いる場合には、有機溶媒の量と、水の量の割合は特に限定されない。
有機溶媒と水の混合比率(質量比)は、溶媒の揮発によってガス供給及び生成水の排出に有利な触媒層1を形成する観点から、有機溶媒:水で、20:80-80:20が好ましく、30:70-70:30がより好ましく、40:60-60:40が更に好ましい。
【0016】
(1.1.4)その他の成分
導電体を分散させるために、触媒インク3に分散剤が含まれていても良い。分散剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等を挙げることができる。
【0017】
(1.1.5)触媒インク3の固形分濃度
触媒インク3の固形分濃度は、特に限定されない。固形分濃度は、塗布量のばらつきを抑える等の観点から、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、2質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
【0018】
(1.2)基材5
基材5(転写用基材)は、少なくとも片面に触媒インク3を塗布可能であること、加熱によって触媒インク3を乾燥させることが可能であること(所望の耐熱性を有すること)、及び、触媒層1を固体高分子電解質膜13に転写することが可能であること(所望の剥離性を有すること)を満たすものであればよい。基材5として、例えば、高分子フィルムが例示される。高分子フィルムに含まれる高分子は、特に限定されない。高分子として、例えば、フッ素樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパルバン酸アラミド等が例示される。これらの高分子の中でも、耐熱性を有し、転写性が高いという観点からフッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が例示される。
【0019】
(1.3)塗布
塗布の方法は、特に限定されない。塗布の方法として、例えば、ドクターブレード法、ダイコーティング法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ラミネータロールコーティング法、及び、スプレー法等を用いることができる。
乾燥前の塗工厚は、特に限定されない。塗工厚は、塗布量のばらつきを抑える観点から、1μm以上200μm以下が好ましく、10μm以上150μm以下がより好ましく、25μm以上100μm以下が更に好ましい。
【0020】
(2)触媒層1を形成する工程(図3,4参照)
この工程では、塗布後に、触媒インク3を基材5に接している側から加熱して、触媒インク3から溶媒を揮発させることで触媒層1を形成する。
この工程では、例えば、塗布後に、触媒インク3が塗布されていない側から基材5を加熱して、触媒インク3から溶媒を揮発させることで触媒層1を形成する。
加熱方法は特に限定されない。例えば、図3に示すホットプレート17を使用できる。また、例えば、基材5の中に熱線を入れ(熱線を埋設して)、その熱線を加熱方法も採用できる。加熱温度は、特に限定されない。加熱温度は、溶媒の揮発によってガス供給及び生成水の排出に有利な触媒層1を形成する観点から、50℃以上150℃以下であることが好ましく、70℃以上140℃以下であることがより好ましく、80℃以上120℃以下であることが更に好ましい。
加熱時間は、特に限定されない。加熱時間は、溶媒の揮発によってガス供給及び生成水の排出に有利な触媒層1を形成する観点から、0.5分以上10分以下であることが好ましく、1分以上8分以下であることがより好ましく、2分以上5分以下であることが更に好ましい。
尚、触媒層1の厚みは特に限定されない。触媒層1は、ガス供給及び生成水の排出の観点から、0.1μm以上20μmが好ましい。
【0021】
2.膜電極接合体7(MEA (membrane electrode assembly))
膜電極接合体7は、図6に示すように、固体高分子電解質膜13と、触媒層1と、を備える。
膜電極接合体7は、例えば次のように製造される。図4の触媒層1が形成された基材5を、固体高分子電解質膜13の両面に接合する。この際、図5に示すように、触媒層1が固体高分子電解質膜13に面するようにして接合する。その後、基材5を剥離して図6に示す膜電極接合体7が製造される。
膜電極接合体7では、図4-6に示されるように触媒層1は、基材5と接触していなかった側S1を固体高分子電解質膜13に接触する形態で接合されている。触媒層1の基材5と接触していた側S2は、固体高分子電解質膜13には接触していない。
触媒層1の一方が、後述するアノードの触媒層1Aであり、他方がカソードの触媒層1Bとなる。
【0022】
3.固体高分子形燃料電池31
固体高分子形燃料電池31(PEFC)は、図7に示すように、膜電極接合体7を備えている。固体高分子電解質膜13の両側には、これを挟むようにアノードの触媒層1A、カソードの触媒層1Bが設けられている。固体高分子電解質膜13と、これを挟む一対のアノードの触媒層1A、カソードの触媒層1Bとにより、膜電極接合体7が構成されている。
【0023】
アノードの触媒層1Aの外側には、ガス拡散層20が設けられている。ガス拡散層20は、カーボンペーパー、カーボンクロス、金属多孔体等の多孔質材から構成され、セパレータ22側から供給されたガスを触媒層1Aに均一に拡散させる機能を有する。同様に、カソードの触媒層1Bの外側には、ガス拡散層24が設けられている。ガス拡散層24は、セパレータ26側から供給されたガスを触媒層1Bに均一に拡散させる機能を有する。本図においては、上記のように構成された膜電極接合体7、ガス拡散層20,24、セパレータ22,26を1組のみ示したが、実際の燃料電池31は、膜電極接合体7、ガス拡散層20,24がセパレータ22,26を介して複数積層されたスタック構造を有している場合もある。
【0024】
4.本開示の触媒層1が高性能である推定機構
次のうちのいずれかの推定機構により触媒層1の性能が向上すると考えられる。
(1)推定機構1
推定機構1について、図8,9を参照して説明する。急速に乾燥させると乾燥後の触媒層1がひび割れするため、ある程度の時間をかけてゆっくりと乾燥させることが必要になる。この時に大気側から乾燥させると、溶媒の残っている基材5側に導電体が沈降・凝集する(図8参照)。その結果として基材5側は大気側よりも導電体が密になる。この状態で固体高分子電解質膜13に転写されるため、図6の膜電極接合体7では、触媒層1のガス供給側S2(塗工時の基材側S2(図4))の空隙は小さくなり、ガス供給及び生成水の排出に不利な構造となると推測される。
他方、本開示のように、基材5側から加熱することで、基材5に接触している溶媒から揮発していく。結果として基材5側への導電体の沈降・凝集は起こりにくくなる(図9参照)。この状態で固体高分子電解質膜13に転写されるため、図6の膜電極接合体7では、触媒層1のガス供給側S2(塗工時の基材側S2(図4))の空隙は、塗工時の大気側から加熱した場合と比較して大きくなり、ガス供給及び生成水の排出に有利な構造となると推測される。
【0025】
(2)推定機構2
従来は次のように触媒層1を形成していた。基材5の上に触媒インク3を塗布する(図2参照)。この状態で触媒インク3の上側から(図2における上側から)、つまり解放側から熱を加えて乾燥させて触媒層1を形成していた。この場合に溶媒は触媒インク3の上側から主に気化すると推測されるため、触媒層1の上側に(図4のS1に)比較的大きな気孔が形成され、触媒層1の下側(基材5に接触しているS2)には小さな気孔が形成されると考えられる。このようにして基材5上に形成した触媒層1を、基材5に接触してないS1を固体高分子電解質膜13に接合するようにして転写する(図5参照)。すると、図6の膜電極接合体7では、触媒層1の固体高分子電解質膜13に接触していないS2は、小さな気孔が形成された部分となるため、ガスが通りにくくなり、生成水の排出にも不利となり、性能があまり良くないと推定される。
他方、本開示のように触媒層1を形成すると以下のようになると推測される。基材5の上に触媒インク3を塗布する。この状態で基材5側から熱を加えて乾燥させて触媒層1を形成する。溶媒は触媒インク3の下側(基材5に接触しているS2)から主に気化すると推測されるため、触媒層1の下側(基材5に接触しているS2)に比較的大きな気孔が形成され、触媒層1の上側(基材5に接触しているS1)には小さな気孔が形成されると考えられる。このようにして基材5上に形成した触媒層1を、基材5に接触してないS1を固体高分子電解質膜13に接合するようにして転写する(図5参照)。すると、図6の膜電極接合体7では、触媒層1の固体高分子電解質膜13に接触していないS2は、比較的大きな気孔が形成された部分となるため、ガスが通りやすく、生成水の排出にも有利となり、性能が良好となると推測される。
【実施例0026】
実施例により本開示を更に具体的に説明する。
1.実施例1
(1)触媒層1の作製
(1.1)材料
・触媒(触媒が担持された導電体):田中貴金属工業(株)製 TEC10E50E (担体カーボン:ケッチェンブラック、白金含有率:46.8質量%)
・アイオノマー分散液(イオン伝導体分散液):富士フィルム和光純薬(株)製 20質量%ナフィオン分散溶液DE2020 CSタイプ
・エタノール(溶媒):富士フィルム和光純薬(株)製 試薬特級エタノール(99.5)
・水(溶媒):超純水
・電解質膜(固体高分子電解質膜):Chemours (ケマーズ)製 ナフィオン NR-211 (厚さ:25μm)
【0027】
(1.2)触媒インク組成
・固形分(触媒+アイオノマー) 7質量%
・水:エタノール比率=1:1
・アイオノマー/カーボン重量比(I/C)0.75(質量比)
【0028】
(1.3)触媒層転写シート(触媒層が形成された基材)の作製手順
ビーカーに、触媒、超純水、アイオノマー分散液、エタノールの順に投入し、超音波ホモジナイザーで攪拌した。攪拌後の溶液(触媒インク)をガラスに貼り付けたPTFEシート上に滴下した。触媒インクをアプリケーターで塗り広げた。触媒インクが上に塗布されたPTFEシートをホットプレートに載せて、ホットプレートを100℃に加熱して溶媒を気化させて触媒層を形成した。
【0029】
(1.4)使用機材、備品
・超音波ホモジナイザー:(株)エスエムテー製 UH-50
・卓上コーター:三井電気精機(株)製 TC-3型
・アプリケーター:ヨシミツ精機(株)製 YBA-2型
・PTFEシート:中興化成工業(株)製 MSF-100
・セラミックホットプレート:アズワン(株)製 CHP-170DN
【0030】
(2)発電性能の評価
触媒層転写シートを用いて膜電極接合体を作製した。膜電極接合体の両側に、ガス拡散層としてのカーボンペーパーを貼りあわせて、発電評価セル内に設置した。燃料電池測定装置を用いて、セル温度80℃で、電流電圧測定を行った。燃料ガスとして水素、酸化剤ガスとして空気を用い、利用率一定による流量制御を行った。尚、背圧は100kPaとした。
【0031】
2.実施例2
ホットプレートの加熱温度を140℃にした以外は実施例1と同様にして触媒層を形成した。
【0032】
3.比較例1
ホットプレートを用いずに、自然乾燥させた以外は実施例1と同様にして触媒層を形成した。尚、室温は25℃程度になるようにエアコンで調整した。
【0033】
4.発電性能の評価結果
評価結果を図10及び表1に示す。発電性能は触媒として機能するPtの目付が大きいほど高くなることが知られている。本技術で作製した実施例1,2は、比較例1(従来技術)よりもPt目付が約1割小さいにも関わらず、出力が大きかった。
出力を大きくするためには、出力低下要因となる過電圧の低減が必要になる。活性化過電圧は触媒の種類によってある程度決まった値になる。抵抗過電圧と濃度過電圧を同時に低減することは難しい。実施例1,2では、抵抗過電圧と濃度過電圧を同時に低減することで、出力増を達成できた。尚、抵抗過電圧には、電気抵抗とプロトン輸送抵抗が影響する。また、濃度過電圧には、反応物質の供給が影響する。
実施例1,2で、出力増を達成できた要因は、次のように推測される。まず、触媒層の作製の際に、基材側(発電時のガス供給側)に大きな空隙が形成されたことが考えられる。また、加熱により揮発した溶媒が大気中へ抜ける通り道を形成する際に、通り道の外に触媒が押しやられて、触媒が密になった部分も形成されたと考えられる。
【0034】
【表1】
【0035】
5.実施例の効果
実施例によれば、発電効率を向上できる。
【0036】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本開示を限定するものと解釈されるものではない。本開示を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本開示の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本開示の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本開示の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本開示をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本開示は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0037】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 …触媒層
1A…触媒層
1B…触媒層
3 …触媒インク
5 …基材
7 …膜電極接合体
13…固体高分子電解質膜
17…ホットプレート
20…ガス拡散層
22…セパレータ
24…ガス拡散層
26…セパレータ
31…固体高分子形燃料電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10