(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024844
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20240216BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240216BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M8/10 101
H01M4/86 M
H01M4/86 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127771
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友隆
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018BB13
5H018EE03
5H018EE08
5H018EE16
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】発電性能を向上する。
【解決手段】固体高分子形燃料電池用の触媒層1の製造方法である。触媒が担持された導電体、イオン伝導体、溶媒、及び、前記溶媒に可溶な造孔剤を含有する触媒インク3を塗布する工程と、前記触媒インク3から前記溶媒を揮発させることで、前記造孔剤を繊維状、角柱状、及び円柱状からなる群より選ばれる1種以上の形態の析出物8とするとともに、前記析出物8を含有する触媒層1を形成する工程と、前記触媒層1から前記析出物8を除去する工程と、を備える。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が担持された導電体、イオン伝導体、溶媒、及び、前記溶媒に可溶な造孔剤を含有する触媒インクを塗布する工程と、
前記触媒インクから前記溶媒を揮発させることで、前記造孔剤を繊維状、角柱状、及び円柱状からなる群より選ばれる1種以上の形態の析出物とするとともに、前記析出物を含有する触媒層を形成する工程と、
前記触媒層から前記析出物を除去する工程と、を備える、固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法。
【請求項2】
前記造孔剤がオリゴ糖である請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法。
【請求項3】
固体高分子電解質膜と、
請求項1又は請求項2に記載の製造方法で製造した前記触媒層と、を備え、
前記触媒層が、前記固体高分子電解質膜に接合されている、膜電極接合体。
【請求項4】
請求項3に記載の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒インクに造孔剤、例えば水溶性の物質を含有させて、複数の微細孔を有する触媒層を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。従来は、水溶性の物質として、例えば、ポリビニルアルコール等のアルコール類、デンプン等の糖類を使用している。
発電状態において電極触媒を有効に活用するためには、触媒層全体へ反応ガスが供給され、発電によって生成した水が効率的に排出されることが要求される。
しかし、従来技術で用いられる造孔剤は、造孔剤が球状に析出するもの、又はガスを放出することで球状の孔を形成するものである。これらの造孔剤で形成される空孔は、空孔同士がつながる部分が細くなることで反応ガスの供給が制限され、また発電によって生成した水が滞留しやすくなることが考えられる。
ガス供給及び生成水の排出という観点では、触媒層中に一定の径をもつ細長い空孔を形成し、その空孔を介して触媒層全体への反応ガス供給及び生成水の排出を行えることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の造孔剤を用いて触媒層を形成しても、発電性能(初期セル電圧)が必ずしも十分ではなく、改良が求められていた。
本開示は、固体高分子形燃料電池において、発電性能を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の手段を以下に示す。
[1]触媒が担持された導電体、イオン伝導体、溶媒、及び、前記溶媒に可溶な造孔剤を含有する触媒インクを塗布する工程と、
前記触媒インクから前記溶媒を揮発させることで、前記造孔剤を繊維状、角柱状、及び円柱状からなる群より選ばれる1種以上の形態の析出物とするとともに、前記析出物を含有する触媒層を形成する工程と、
前記触媒層から前記析出物を除去する工程と、を備える、固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示の製造方法は、発電性能の向上に有利な触媒層を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図5】膜電極接合体の製造方法を説明する模式図である。
【
図6】膜電極接合体の製造方法を説明する模式図である。
【
図7】固体高分子形燃料電池の一例の模式図である。
【
図12】原料に用いたα-シクロデキストリンのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の他の例を示す。
[2]
前記造孔剤がオリゴ糖である[1]に記載の固体高分子形燃料電池用の触媒層の製造方法。
[3]
固体高分子電解質膜と、
[1]又は[2]に記載の製造方法で製造した前記触媒層と、を備え、
前記触媒層が、前記固体高分子電解質膜に接合されている、膜電極接合体。
[4]
[3]に記載の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池。
【0009】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0010】
1.固体高分子形燃料電池用の触媒層1の製造方法
固体高分子形燃料電池用の触媒層1の製造方法は、触媒インク3を塗布する工程と、触媒インク3から溶媒を揮発させることで、析出物8を含有する触媒層1を形成する工程と、触媒層1から析出物8を除去する工程と、を備える。
触媒インク3を塗布する工程では、触媒が担持された導電体、イオン伝導体、溶媒、及び、溶媒に可溶な造孔剤を含有する触媒インク3を塗布する。
触媒インク3から溶媒を揮発させることで、析出物8を含有する触媒層1を形成する工程では、造孔剤を繊維状、角柱状、及び円柱状からなる群より選ばれる1種以上の形態の析出物8とする。
図1-4には、触媒層1の製造方法の説明図が示されている。
図5,6には、膜電極接合体7の製造方法の説明図が示されている。
【0011】
(1)触媒インク3を塗布する工程(
図1,2参照)
この工程では、触媒が担持された導電体、イオン伝導体、溶媒、及び、溶媒に可溶な造孔剤を含有する触媒インク3を塗布する。この工程では、触媒インク3は、通常、基材5に塗布される。
【0012】
(1.1)触媒インク3
触媒インク3は、触媒が担持された導電体、イオン伝導体、溶媒、及び、溶媒に可溶な造孔剤を含有する。
【0013】
(1.1.1)触媒が担持された導電体
触媒が担持された導電体における触媒(触媒粒子)としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属又はこれらの合金等が使用できる。触媒の粒径は、特に限定されない。触媒の粒径は、触媒の活性の向上、触媒の安定性の観点から、0.5nm以上20nm以下が好ましく、1nm以上5nm以下がより好ましい。触媒が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)からなる群より選択される少なくとも1種の貴金属であると、電極反応性に優れ、電極反応を効率よく安定して行うことができる。
触媒の粒径は、例えば、次の方法で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により触媒を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、触媒(黒い円形の像)を球形とみなして、触媒の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3視野-5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を粒径とする。
導電体は、触媒を担持する電子伝導性の物質(触媒担持粒子)である。導電体は、特に限定されない。導電体として、カーボン粒子が好ましく用いられる。カーボン粒子の種類は、限定されない。カーボン粒子として、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン等が好適に用いられる。カーボン粒子の粒径は、特に限定されない。カーボン粒子の粒径は、良好な電子伝導パスの形成の観点、触媒層1のガス拡散性確保の観点から、10nm以上1000nm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。
導電体の粒径は、例えば、次の方法で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により導電体を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、導電体を球形とみなして、導電体の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3視野-5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を粒径とする。
触媒インク3における触媒が担持された導電体の配合量は、空気極(カソード)の触媒層1、燃料極(アノード)の触媒層1において触媒が所望の量になるように適宜調整される。
空気極(カソード)の触媒層1の場合には、導電体の配合量は、例えば、触媒インク全体を100質量部とした場合に、0.04質量部以上5.7質量部以下となるように調整される。
燃料極(アノード)の触媒層1の場合には、導電体の配合量は、例えば、触媒インク全体を100質量部とした場合に、0.04質量部以上5.7質量部以下となるように調整される。
【0014】
(1.1.2)イオン伝導体
触媒インク3に含まれるイオン伝導体としては、プロトン伝導性を有するものが用いられる。イオン伝導体としては、例えば、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、ペルフルオロ炭化水素系電解質(例えばデュポン社製Nafion(登録商標))を用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリイミド(SPI)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリフェニルスルホン(SPPSU)、スルホン化ポリエーテルスルホン(SPES)等の電解質を用いることができる。イオン伝導体としてフッ素系高分子電解質を好適に用いることができる。
尚、イオン伝導体は、触媒層1と固体高分子電解質膜13の密着性を考慮すると、固体高分子電解質膜13と同一の材料を用いることが好ましい。
イオン伝導体の配合量は、触媒層1における十分なプロトン伝導性を確保する観点から、触媒インク全体を100質量部とした場合に、0.02質量部以上8.6質量部以下が好ましく、0.2質量部以上6.4質量部以下がより好ましく、0.4質量部以上4.3質量部以下が更に好ましい。
【0015】
(1.1.3)溶媒
溶媒は、触媒インク3の分散媒として使用される。
溶媒は、特に限定されないが、溶媒の沸点が10℃以上100℃以下であることが好ましく、15℃以上100℃以下であることがより好ましく、25℃以上100℃以下であることが更に好ましい。溶媒には、揮発性の有機溶媒が少なくとも含まれることが好ましい。有機溶媒としては、アルコール、ケトン、及び、エーテルからなる群より選択される少なくとも一種を好適に使用できる。
アルコールとしては、イオン伝導体の溶解性及び揮発性の観点から、炭素数1-5のアルコールが好適に用いられる。炭素数1-5のアルコールとしては、エタノール、メタノール、1-プロパノ―ル、2-プロパノ―ル、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、1-ペンタノール、及び、3-ペンタノールからなる群より選択される少なくとも一種を好適に使用できる。これらの中でも、環境負荷を低減する観点から、エタノールを用いることが好ましい。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンが好適に例示される。
エーテルとしては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテルが好適に例示される。
溶媒としては、上記に記載された以外に、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等の極性溶剤も使用できる。溶媒は、二種以上を混合させて用いてもよい。
溶媒の配合量は、溶媒の揮発によってガス供給及び生成水の排出に有利な触媒層1を形成する観点から、触媒インク全体を100質量部とした場合に、80質量部以上99.9質量部以下が好ましく、85質量部以上99質量部以下がより好ましく、80質量部以上98質量部以下が更に好ましい。
有機溶媒は、溶媒の揮発によってガス供給及び生成水の排出に有利な触媒層1を形成する観点から、水と混合した混合溶媒が好ましい。
溶媒として、有機溶媒と水の混合溶媒を用いる場合には、有機溶媒の量と、水の量の割合は特に限定されない。
有機溶媒と水の混合比率(質量比)は、溶媒の揮発によってガス供給及び生成水の排出に有利な触媒層1を形成する観点から、有機溶媒:水で、20:80-80:20が好ましく、30:70-70:30がより好ましく、40:60-60:40が更に好ましい。
【0016】
(1.1.4)溶媒に可溶な造孔剤
溶媒に可溶な造孔剤は、繊維状及び/又は角柱状に析出可能なものであれば特に限定されない。造孔剤としては、繊維状及び/又は角柱状の析出物8を析出させることが可能で、かつ、人体及び環境に対する安全性が高いという観点から、水に可溶な環状オリゴ糖等のオリゴ糖が好ましい。オリゴ糖は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンが例示される。
本開示において、繊維状及び/又は角柱状に析出可能であり、かつ、溶媒に可溶な造孔剤を用いた背景について説明する。固体高分子形燃料電池31の中核をなす膜電極接合体7は、[1]水素をプロトン(H+)と電子に分けるアノード、[2]プロトン、電子、酸素を使って水を生成するカソード、[3]アノードとカソードを分け、ガスと電子は通さずにプロトンを通す固体高分子電解質膜13で構成される。アノードとカソードは一般的にPtを担持したカーボン(触媒)及び電解質で構成される触媒層1として存在する。アノード反応とカソード反応ではカソード反応が律速になり、発電性能向上のためカソード反応が起こりやすい状態を作ることが求められている。カソード反応を起こしやすくするためには、カソードの触媒層1の厚さ方向に酸素供給と生成水の排出を可能にするパスを形成することが必要であると考えられ、造孔剤の添加が行われてきた。造孔剤としては金属塩などが用いられ、乾燥時に粒子状に析出したものを除去することで触媒層1に空隙を形成していた。この方法で形成される孔は等方的なものである。一方、カソード反応には電子やプロトンの供給も必要であり、電子は触媒のカーボンのネットワーク、プロトンは電解質のネットワークによって輸送される。これらは触媒層1が密であるほど輸送に使われる面積が大きくなり、抵抗が小さくなる。空隙が形成されているにも関わらず密な触媒層を実現するためには、細長い空隙を形成することが要求される。しかし、従来の造孔剤では、細長い形状を作り、固体高分子電解質膜13にダメージを与えない方法で除去可能なものは提示されていない。本開示の技術では固体高分子電解質膜13にダメージを与えない、水洗によって除去可能な物質である造孔剤(例えば、環状オリゴ糖)を、細長い形状で析出・除去することで固体高分子形燃料電池31の発電性能を向上させることに成功したのである。好ましい例である環状オリゴ糖は食物繊維として知られる物質であり、取り扱いに特殊な作業環境を必要としない利点もある。
尚、本開示では、溶媒に不溶な造孔剤は、用いられない。理由は以下の通りである。触媒インク3中で繊維状の固体となり、撹拌時に破壊等され、塗工時のムラや不良の原因になるからである。
【0017】
(1.1.5)その他の成分
導電体を分散させるために、触媒インク3に分散剤が含まれていても良い。分散剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等を挙げることができる。
【0018】
(1.1.6)触媒インク3の固形分濃度
触媒インク3の固形分濃度は、特に限定されない。固形分濃度は、塗布量のばらつきを抑える等の観点から、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、2質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
【0019】
(1.1.7)造孔剤の量
造孔剤の量は、繊維状及び/又は角柱状に析出させる観点から、触媒インク全体を100質量部とした場合に、0.1質量部以上5質量部以下が好ましく、0.2質量部以上2質量部以下がより好ましく、0.5質量部以上1.5質量部以下が更に好ましい。
【0020】
(1.2)基材5
基材5(転写用基材)は、少なくとも片面に触媒インク3を塗布可能であること、加熱によって触媒インク3を乾燥させることが可能であること(所望の耐熱性を有すること)、及び、触媒層1を固体高分子電解質膜13に転写することが可能であること(所望の剥離性を有すること)を満たすものであればよい。基材5として、例えば、高分子フィルムが例示される。高分子フィルムに含まれる高分子は、特に限定されない。高分子として、例えば、フッ素樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパルバン酸アラミド等が例示される。これらの高分子の中でも、耐熱性を有し、転写性が高いという観点からフッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が例示される。
【0021】
(1.3)塗布
塗布の方法は、特に限定されない。塗布の方法として、例えば、ドクターブレード法、ダイコーティング法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ラミネータロールコーティング法、及び、スプレー法等を用いることができる。
乾燥前の塗工厚は、特に限定されない。塗工厚は、塗布量のばらつきを抑える観点から、1μm以上200μm以下が好ましく、10μm以上150μm以下がより好ましく、25μm以上100μm以下が更に好ましい。
【0022】
(2)析出物8を含有する触媒層1を形成する工程
この工程では、触媒インク3から溶媒を揮発させることで、析出物8を含有する触媒層1を形成する(
図2-3参照)。すなわち、触媒インク3を乾燥させる。
繊維状、角柱状、及び円柱状からなる群より選ばれる1種以上の形態の析出物8を析出させる観点から、溶媒を揮発させるためには自然乾燥を採用することが好ましい。例えば、10℃以上50℃以下の環境下で溶媒を揮発させることが好ましい。尚、0℃以上100℃以下で加熱してもよい。
触媒層1の厚みは特に限定されない。触媒層1は、ガス供給及び生成水の排出の観点から、0.1μm以上20μmが好ましい。
析出物8が繊維状である場合のアスペクト比は、特に限定されない。アスペクト比は、析出物8を除去して形成される空孔によりガス供給及び生成水の排出をスムーズに行う観点から、3以上20以下であることが好ましく、5以上20以下であることがより好ましく、10以上15以下であることが更に好ましい。尚、アスペクト比は、析出物8の繊維軸方向の長さ(繊維長)/繊維の直径を意味する。アスペクト比は、SEMによる観察で、SEMで得られた画像内の繊維状の析出物8のうち、5つについてSEM画面上のスケールにより繊維長、最大径を読み取り、それぞれアスペクト比を計算し、その平均値から求めることができる。
析出物8が繊維状である場合の直径は、特に限定されない。直径は、析出物8を除去して形成される空孔によりガス供給及び生成水の排出をスムーズに行う観点から、0.5μm以上4μm以下が好ましく、0.5μm以上2μm以下がより好ましく、1μm以上2μm以下が更に好ましい。直径は、SEMによる観察で、SEMで得られた画像内の繊維状の析出物8のうち、5つについてSEM画面上のスケールにより最大径を読み取り、その平均値から求めることができる。
析出物8が角柱状である場合の底面積は、特に限定されない。底面積(平均値)は、析出物8を除去して形成される空孔によりガス供給及び生成水の排出をスムーズに行う観点から、0.05μm
2以上5μm
2以下が好ましく、0.5μm
2以上4μm
2以下がより好ましく、0.8μm
2以上3.1μm
2以下が更に好ましい。底面積は、SEMによる観察で、SEMで得られた画像内の角柱状の析出物8のうち、5つについてSEM画面上のスケールにより大きさを読み取り、それぞれ底面積を計算し、その平均値から求めることができる。高さは、特に限定されない。高さは、析出物8を除去して形成される空孔によりガス供給及び生成水の排出をスムーズに行う観点から、0.1μm以上40μm以下が好ましく、10μm以上40μm以下がより好ましく、20μm以上30μm以下が更に好ましい。高さは、SEMによる観察で、SEMで得られた画像内の角柱状の析出物8のうち、5つについてSEM画面上のスケールにより高さを読み取り、その平均値から求めることができる。析出物8が角柱状である場合の底面の形状は特に限定されないが、3角形、4角形、5角形、6角形、7角形、8角形等の多角形が例示される。
析出物8が円柱状である場合の底面積は、特に限定されない。底面積(平均値)は、析出物8を除去して形成される空孔によりガス供給及び生成水の排出をスムーズに行う観点から、0.05μm
2以上5μm
2以下が好ましく、0.5μm
2以上4μm
2以下がより好ましく、0.8μm
2以上3.1μm
2以下が更に好ましい。底面積は、SEMによる観察で、SEMで得られた画像内の円柱状の析出物8のうち、5つについてSEM画面上のスケールにより大きさを読み取り、それぞれ底面積を計算し、その平均値から求めることができる。高さは、特に限定されない。高さは、析出物8を除去して形成される空孔によりガス供給及び生成水の排出をスムーズに行う観点から、0.1μm以上40μm以下が好ましく、10μm以上40μm以下がより好ましく、20μm以上30μm以下が更に好ましい。高さは、SEMによる観察で、SEMで得られた画像内の円柱状の析出物8のうち、5つについてSEM画面上のスケールにより高さを読み取り、その平均値から求めることができる。
【0023】
(3)触媒層1から析出物8を除去する工程
この工程では、触媒層1から析出物8を除去することで、空隙12が形成される(
図4参照)。空隙12の形状は、析出物8に対応する形状と推測される。
触媒層1から析出物8の除去は、造孔剤を可溶な溶媒を用いて析出物8を溶解することで行うことが好ましい。
析出物8を除去は、膜電極接合体7を作製後にも行う場合があるため、造孔剤を溶解する溶媒は、固体高分子電解質膜13を溶解させないものが好ましく、水が好適に採用される。
この工程では、例えば、触媒層1の表面を水(例えば超純水)で洗浄することで析出物8が除去される。
この工程は、次のいずれか一方又は両方のタイミングで行ってもよい。
(i)触媒層1を基材5上に形成後(
図3参照)
(ii)膜電極接合体7を作製後(
図6参照)
【0024】
2.膜電極接合体7(MEA (membrane electrode assembly))
膜電極接合体7は、
図6に示すように、固体高分子電解質膜13と、触媒層1と、を備える。
膜電極接合体7は、例えば次のように製造される。
図4の触媒層1が形成された基材5を、固体高分子電解質膜13の両面に接合する。この際、
図5に示すように、触媒層1が固体高分子電解質膜13に面するようにして接合する。その後、基材5を剥離して
図6に示す膜電極接合体7が製造される。
膜電極接合体7では、触媒層1は、基材5と接触してない側S1を固体高分子電解質膜13に接触する形態で接合されている。触媒層1は、基材5と接触した側S2は固体高分子電解質膜13には接触していない(
図5,6参照)。
触媒層1の一方が、後述するアノードの触媒層1Aであり、他方がカソードの触媒層1Bとなる。
【0025】
3.固体高分子形燃料電池31
固体高分子形燃料電池31(PEFC)は、
図7に示すように、膜電極接合体7を備えている。固体高分子電解質膜13の両側には、これを挟むようにアノードの触媒層1A、カソードの触媒層1Bが設けられている。固体高分子電解質膜13と、これを挟む一対のアノードの触媒層1A、カソードの触媒層1Bとにより、膜電極接合体7が構成されている。
【0026】
アノードの触媒層1Aの外側には、ガス拡散層20が設けられている。ガス拡散層20は、カーボンペーパー、カーボンクロス、金属多孔体等の多孔質材から構成され、セパレータ22側から供給されたガスを触媒層1Aに均一に拡散させる機能を有する。同様に、カソードの触媒層1Bの外側には、ガス拡散層24が設けられている。ガス拡散層24は、セパレータ26側から供給されたガスを触媒層1Bに均一に拡散させる機能を有する。本図においては、上記のように構成された膜電極接合体7、ガス拡散層20,24、セパレータ22,26を1組のみ示したが、実際の固体高分子形燃料電池31は、膜電極接合体7、ガス拡散層20,24がセパレータ22,26を介して複数積層されたスタック構造を有している場合もある。
【実施例0027】
実施例により本開示を更に具体的に説明する。
1.実施例1
(1)触媒層1の作製
(1.1)材料
・触媒(触媒が担持された導電体):田中貴金属工業(株)製 TEC10E50E (担体カーボン:ケッチェンブラック、白金含有率:46.8質量%)
・アイオノマー分散液(イオン伝導体分散液):富士フィルム和光純薬(株)製 20質量%ナフィオン分散溶液DE2020 CSタイプ
・エタノール(溶媒):富士フィルム和光純薬(株)製 試薬特級エタノール(99.5)
・水(溶媒):超純水
・電解質膜(固体高分子電解質膜):Chemours (ケマーズ)製 ナフィオン NR-211 (厚さ:25μm)
【0028】
(1.2)触媒インク組成
・固形分(触媒+アイオノマー) 7質量%
・水:エタノール比率=1:1
・アイオノマー/カーボン重量比(I/C)0.75(質量比)
・α-シクロデキストリン添加割合 触媒インク全質量(100質量部)に対して1.0質量部
【0029】
(1.3)触媒層転写シート(触媒層が形成された基材)の作製手順
ビーカーに、触媒、超純水、アイオノマー分散液、エタノール(α-シクロデキストリン含有)の順に投入し、超音波ホモジナイザーで攪拌した。攪拌後の溶液(触媒インク)をガラスに貼り付けたPTFEシート上に滴下した。アプリケーターで塗り広げ、自然乾燥させた。室温が25℃程度になるようにエアコンで調整した。このようにして触媒層を形成した。その後、触媒層の表面を超純水で洗浄した。
【0030】
(1.4)使用機材、備品
・超音波ホモジナイザー:(株)エスエムテー製 UH-50
・卓上コーター:三井電気精機(株)製 TC-3型
・アプリケーター:ヨシミツ精機(株)製 YBA-2型
・PTFEシート:中興化成工業(株)製 MSF-100
【0031】
(2)電子顕微鏡による観察
洗浄前の触媒層の表面を走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM6510LV)で観察した。
【0032】
(3)発電性能の評価
(1)で得られた触媒層転写シートを用いて膜電極接合体を作製した。膜電極接合体を作製後、触媒層の表面を超純水で洗浄した。膜電極接合体の両側に、ガス拡散層としてのカーボンペーパーを貼りあわせて、発電評価セル内に設置した。燃料電池測定装置を用いて、セル温度80℃で、電流電圧測定を行った。燃料ガスとして水素、酸化剤ガスとして空気を用い、利用率一定による流量制御を行った。尚、背圧は100kPaとした。
【0033】
2.実施例2
α-シクロデキストリン添加割合を触媒インク全質量(100質量部)に対して2.0質量部にした以外は実施例1と同様にして触媒層を形成した。
【0034】
3.比較例1
α-シクロデキストリン添加しないこと以外は実施例1と同様にして触媒層を形成した。
【0035】
4.比較例2
α-シクロデキストリン添加割合を触媒インク全質量(100質量部)に対して0.5部にした以外は実施例1と同様にして触媒層を形成した。
【0036】
5.電子顕微鏡による観察結果
実施例及び比較例の洗浄前の触媒層のSEM画像を示す。実施例1では、
図8に示すように繊維状の析出物8が確認された。実施例2では、
図9に示すように角柱状の析出物8が確認された。
他方、比較例1,2ではいずれも繊維状又は角柱状の析出物は確認することができなかった。
参考として、
図12に原料として用いた試薬のα-シクロデキストリンを示すが、繊維状、角柱状のいずれの形態でもないことが確認された。
このように、実施例1,2では、触媒インクの乾燥によって、α-シクロデキストリンが析出することで繊維状又は角柱状となっていることが分かる。
【0037】
6.発電性能の評価結果
評価結果を
図13及び表1に示す。発電性能は触媒として機能するPtの目付が大きいほど高くなることが知られている。本技術で作製した実施例1は、比較例1(従来技術)よりもPt目付が約5%小さいにも関わらず、出力が大きかった。また、実施例2も、発電性能が良好であった。
出力を大きくするためには、出力低下要因となる過電圧の低減が必要になる。活性化過電圧は触媒の種類によってある程度決まった値になる。抵抗過電圧と濃度過電圧を同時に低減することは難しい。実施例1,2では、抵抗過電圧と濃度過電圧を同時に低減することで、出力増を達成できた。尚、抵抗過電圧には、電気抵抗とプロトン輸送抵抗が影響する。また、濃度過電圧には、反応物質の供給が影響する。
実施例1,2で、出力増を達成できた要因は、次のように推測される。繊維状又は角柱状の析出物が除去されて形成された細長い空隙を介して触媒層全体への反応ガス供給及び生成水の排出が行われたものと推測される。
尚、実施例1,2は、以下に説明する特許文献1の技術とは全く相違する。すなわち、特許文献1等で用いられていた従来の造孔剤では、造孔剤が球状に析出するもの、又はガスを放出することで球状の孔を形成するものである。これらの造孔剤で形成される空隙では、空隙同士がつながる部分が細くなることで反応ガスの供給が制限され、また、発電によって生成した水が滞留しやすくなることが考えられる。
【0038】
【0039】
7.実施例の効果
実施例によれば、ガス供給及び生成水の排出に有利な触媒層とすることで発電効率を向上できる。
【0040】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本開示を限定するものと解釈されるものではない。本開示を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本開示の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本開示の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本開示の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本開示をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本開示は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0041】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。