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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024850
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】列車検知装置
(51)【国際特許分類】
   B61L 3/12 20060101AFI20240216BHJP
   B61L 23/14 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B61L3/12 Z
B61L23/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127781
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】飯田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】豊田 明久
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161BB02
5H161CC13
5H161DD23
5H161DD31
5H161EE04
5H161FF07
(57)【要約】
【課題】過渡的なノイズを受けても確実に列車を検知することができ、脱変周式を含む多様なATS信号に対応可能な小型かつ低コストの列車検知装置を提供する。
【解決手段】列車検知装置1では、列車から送信されるATS信号が地上子10で受信され、当該受信信号がバンドパスフィルタ32で周波数弁別された後に、直流化回路34で直流電圧に変換され、該直流電圧のレベルがウィンドウコンパレータ35により監視される。直流電圧レベルが下限しきい値より大きく且つ上限しきい値より小さい場合に、列車無しが検知されて列車検知リレー37が扛上される。一方、直流電圧レベルが下限しきい値以下または上限しきい値以上の場合に、列車有り(または機器故障有り)が検知されて列車検知リレー37が落下される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車から送信されるATS信号を受信可能な地上子での前記ATS信号の受信状態に応じて列車の有無を検知する列車検知装置であって、
前記地上子の受信信号を周波数弁別後に直流化して直流電圧を生成する信号処理部と、
前記信号処理部で生成された直流電圧のレベルが所定範囲内にある場合に列車無しを検知する一方、所定範囲外にある場合に列車有りを検知する列車検知部と、を含む、列車検知装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、
前記地上子の受信信号より前記ATS信号に対応した周波数帯域の成分を抽出するバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタで抽出された信号を増幅する増幅器と、
前記増幅器で増幅された信号を整流および平滑化して直流電圧を生成する直流化回路と、を有し、
前記列車検知部は、
前記直流化回路で生成された直流電圧が入力され、該直流電圧のレベルが下限しきい値より大きく且つ上限しきい値より小さい場合に交番信号を出力するウィンドウコンパレータと、
前記ウィンドウコンパレータから交番信号が出力されている間、接点が閉じた状態となる一方、前記ウィンドウコンパレータから交番信号が出力されなくなるとディレー時間の経過を待って接点が解放された状態となるリレーと、を有する、請求項1に記載の列車検知装置。
【請求項3】
前記地上子および前記信号処理部の故障を検知する故障検知部を含む、請求項1に記載の列車検知装置。
【請求項4】
前記地上子は、前記列車から情報波として送信されるATS-S信号と、前記列車から電力波として送信されるATS-P信号と、複数の周波数信号成分を含む脱変周式のATS信号とを受信可能に構成されている、請求項1に記載の列車検知装置。
【請求項5】
踏切に対応して列車の有無を検知する踏切バックアップ装置に使用される、請求項1に記載の列車検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車から送信されるATS信号を地上子で受信して列車の有無を検知する列車検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の列車検知装置として、例えば、踏切道に設置された踏切警報機や踏切遮断機等を自動的に制御するために、軌道回路による連続制御方式または踏切制御子による点制御方式によって列車を検知する踏切用列車検知装置が知られている。また、軌道回路や踏切制御子による列車検知のバックアップとして、列車に設置されたATS車上装置から送信されるATS信号(常時発振信号)を受信して列車の有無を検知する踏切バックアップ装置も使用されている。従来のATS信号を利用した列車検知装置(踏切バックアップ装置)としては、閉電路形に構成されて機器故障時に安全側の動作が行われるフェールセーフ性を備えた装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のような閉電路形に構成された列車検知装置では、ATS信号を受信可能な地上子の受信コイル近傍に送信コイルが設置されており、該送信コイルから、断線等の機器故障を検知するための照査信号が受信コイルに向けて常時送信されていた。そして、照査信号が受信できた場合、機器の正常を検知してリレーを扛上(励磁状態、動作状態)させ、照査信号が受信できない場合には、機器の故障を検知してリレーを落下(非励磁状態、復旧状態)させる故障検知動作が行われる。この故障検知動作と並行して、列車が地上子の上方を通過する際には、受信コイルで受信される列車からのATS信号により照査信号が抑圧され、該照査信号の受信レベルが低下することで「列車有り」を検知してリレーを落下させる列車検知動作が行われる。このようなATS信号を利用した抑圧方式の列車検知が行われる列車検知装置では、リレーの落下が「列車有り」に対応付けられていることで、機器故障時でも安全側の動作が行われるフェールセーフ性が実現されていた。
【0004】
また、上記従来の列車検知装置には、地上子の受信コイルで受信した信号に含まれる、照査信号およびATS信号の各周波数に対応した信号成分とノイズ成分とを弁別するための周波数弁別回路(バンドパスフィルタ)が設けられていた。この周波数弁別回路は、近年、ATS-S信号(103kHz)の他に、ATS-P信号(245kHz)などの周波数が異なる複数のATS信号に対応するために、周波数弁別範囲が広げられる傾向にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4592453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来のATS信号を利用した抑圧方式の列車検知が行われる列車検知装置については、周波数弁別回路の広帯域化によって過渡的なノイズが侵入しやすくなっていた。このため、ATS信号を受信していないにも関わらず過渡的なノイズによって照査信号が抑圧された状態が一時的に発生する可能性があった。また、ATS信号を受信しているにも関わらず過渡的なノイズによって照査信号が抑圧されていないのと同等な状態が一時的に発生する可能性もあった。このような本来の想定とは異なる状態が発生した場合、抑圧方式を前提とした論理演算の条件に狂いが生じてしまい、列車や故障の誤検知が発生し得るという課題があった。
【0007】
また、従来のATS信号を利用した抑圧方式の列車検知装置は、脱変周式のATS信号に非対応であるという課題もあった。すなわち、直接拡散方式(Direct Sequence:DS)でスペクトラム拡散(Spread Spectrum:SS)されたATS信号や、周波数の異なる複数の信号成分が重畳または時分割多重されたATS信号などが地上子で受信された場合に、従来の抑圧方式によって列車検知を行うことが困難であった。脱変周式のATS信号に対応するためには、各々の周波数に対応した回路を個別に設けるなどの方法が考えられるが、既存の装置との兼ね合いから、それらの回路を小型且つ低コストに実現する必要があり、ATS信号を利用した列車検知に関して抑圧方式以外の新たな方式の実現が期待されていた。
【0008】
本発明は上記の点に着目してなされたもので、過渡的なノイズを受けても確実に列車を検知することができ、脱変周式を含む多様なATS信号に対応可能な小型かつ低コストの列車検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため本発明の一態様は、列車から送信されるATS信号を受信可能な地上子での前記ATS信号の受信状態に応じて列車の有無を検知する列車検知装置を提供する。この列車検知装置は、前記地上子の受信信号を周波数弁別後に直流化して直流電圧を生成する信号処理部と、前記信号処理部で生成された直流電圧のレベルが所定範囲内にある場合に列車無しを検知する一方、所定範囲外にある場合に列車有りを検知する列車検知部と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る列車検知装置によれば、地上子の受信信号を信号処理部で直流化し、その直流電圧のレベルが所定範囲内にある否かを列車検知部で監視するようにしたことで、過渡的なノイズを受けても確実に列車を検知することができるとともに、脱変周式を含む多様なATS信号に対応して列車検知を行うことが可能になる。また、ATS信号に含まれる複数の周波数に対応した回路を個別に設ける必要がないので、小型化および低コスト化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る列車検知装置の構成を示すブロック図である。
図2】ウィンドウコンパレータの入出力特性を説明する図である。
図3】直接拡散方式でスペクトラム拡散されたATS信号を説明する図である。
図4】周波数重畳されたATS信号を説明する図である。
図5】周波数時分割多重されたATS信号を説明する図である。
図6】従来のATS信号を利用した抑圧方式の列車検知装置における受信処理部の一例を示すブロック図である。
図7】抑圧方式における定常時の動作を説明する図である。
図8】抑圧方式におけるATS信号の受信時の動作を説明する図である。
図9】抑圧方式における過渡的なノイズの影響を説明する図である。
図10】上記実施形態の列車検知装置(非抑圧方式)における定常時の動作を説明する図である。
図11】上記実施形態の列車検知装置(非抑圧方式)におけるATS信号の受信時の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る列車検知装置の構成を示すブロック図である。
本実施形態の列車検知装置1は、例えば、図示しない踏切道に設置された踏切警報機や踏切遮断機等を自動的に制御するために、軌道回路や踏切制御子による列車検知のバックアップとして、踏切道に接近する列車および/または踏切道を通過した列車を、該列車から送信されるATS信号を利用して検知する装置(踏切バックアップ装置)として好適である。
【0013】
列車検知装置1は、図1に示すように、列車が走行する軌道上に設置された地上子10と、地上子10内に設けられている照査コイル11から照査信号を送信するための信号処理を行う送信処理部20と、地上子10内に設けられている受信コイル12で受信された照査信号およびATS信号を利用して機器故障および列車の検知を行う受信処理部30と、含んでいる。
【0014】
具体的に、地上子10は、照査コイル11が受信コイル12の上方側に重ねて設けられている。照査コイル11は、受信コイル12と概ね同じ大きさの0の字状に巻かれている。照査コイル11には、送信処理部20で生成された駆動信号が与えられている。照査コイル11は、送信処理部20からの駆動信号に従って、故障検知用の照査信号を受信コイル12に向けて常時送信する。照査信号は、例えば、96kHz等の周波数を有している。照査信号の送信時の振幅(送信レベル)は、受信コイル12でのATS信号の受信レベルに応じて予め設定されている。
【0015】
受信コイル12は、照査コイル11から送信される照査信号を受信可能、かつ、列車から送信される周波数の異なる複数のATS信号を受信可能に構成されている。本実施形態における受信コイル12は、例えば、0の字状に巻かれた第1コイル部12Aと、第1コイル部12Aと同じ巻き方向で第1コイル部12Aよりも小さな0の字状に連続して巻かれた第2コイル部12Bと、を有している。第1および第2コイル部12A,12Bは、上下方向に重ねて配置され、かつ、各々の中心が列車の進行方向Dt(図1の破線白抜き矢印の方向)と直交する方向にずらして配置されている。
【0016】
上記のような第1および第2コイル部12A,12Bを有する受信コイル12では、列車に設置されている車上子5から情報波として送信される周波数が103kHzのATS-S信号、および、地上子用電力波として送信される周波数が245kHzのATS-P信号の双方が受信可能であると同時に、直接拡散方式等で送信される複数の周波数信号成分を含んだ脱変周式のATS信号も共通の受信コイル12で受信することができる。ただし、受信コイル12の構成は、上記の一例に限定されない。
【0017】
受信コイル12に関する他の構成例としては、車上子5のATS-P信号に対応した送信コイル5A(図1の破線)の形状に合わせて、8の字状に巻かれた受信コイル(図示省略)を使用することも可能である。なお、車上子5の0の字状の形状を有する送信コイル5B(図1の破線)はATS-S信号に対応している。このような8の字状に巻かれた受信コイルでは、ATS-S信号の受信レベルがATS-P信号の受信レベルに比べて低下するものの、ATS-S信号、ATS-P信号および脱変周式のATS信号を受信可能である。換言すると、前述した第1および第2コイル部12A,12Bを有する受信コイル12を使用すれば、8の字状に巻かれた受信コイルで発生するATS-S信号の受信レベルの低下を抑えることができ、信号対雑音比(SN比)の改善を図ることが可能になる。
【0018】
送信処理部20は、例えば、発振回路(OSC)21と、整合トランス(MT)22と、を有している。発振回路21は、照査信号の周波数(96kHz)に対応させて発振周波数が設定されており、列車検知装置1の電源がオン状態にあるときに発振信号を継続して出力する。発振回路21から出力される発振信号は、必要に応じて増幅器等でレベル調整された後に、整合トランス22を介して地上子10の照査コイル11に与えられる。整合トランス22は、発振回路21(または増幅器等)と照査コイル11のインピーダンス整合を行う変成器である。したがって、送信処理部20から出力される発振信号によって地上子10の照査コイル11が駆動されることで、96kHzの照査信号が照査コイル11から受信コイル12に向けて送信される。
【0019】
受信処理部30は、例えば、整合トランス(MT)31と、バンドパスフィルタ(BPF)32と、増幅器(AMP)33と、直流化回路(AC/DC)34と、ウィンドウコンパレータ(FS-WC)35と、タイマー回路(TIM)36と、列車検知リレー(MR)37と、故障検知回路(DET)38と、故障検知リレー(KR)39と、を有している。なお、本実施形態では、整合トランス31、バンドパスフィルタ32、増幅器33および直流化回路34が本発明の「信号処理部」に相当し、ウィンドウコンパレータ35、タイマー回路36および列車検知リレー37が本発明の「列車検知部」に相当し、故障検知回路38および故障検知リレー39が本発明の「故障検知部」に相当する。
【0020】
整合トランス31は、地上子10の受信コイル12とバンドパスフィルタ32とのインピーダンス整合を行う変成器である。地上子10の受信コイル12で受信された信号は、整合トランス31を介してバンドパスフィルタ32に入力される。
【0021】
バンドパスフィルタ32は、照査信号の周波数と、地上子10上を通過することが想定される列車の車上子5から送信されるATS信号の全ての周波数とを含む通過帯域を有している。バンドパスフィルタ32は、地上子10の受信コイル12から整合トランス31を介して入力される受信信号より、照査信号およびATS信号に対応した周波数帯域の成分を抽出して増幅器33に出力する。受信コイル12からの受信信号に含まれる通過帯域外の周波数成分(ノイズ成分)は、バンドパスフィルタ32で減衰されて増幅器33には出力されない。
【0022】
バンドパスフィルタ32の通過帯域の具体例として、96kHzの照査信号と、103kHzのATS-S信号と、245kHzのATS-P信号と、115kHzのキャリア周波数を有するスペクトラム拡散方式のATS信号とが受信コイル12で受信される場合を想定すると、バンドパスフィルタ32の通過帯域は、95kHz~290kHzの範囲に設定することが可能である。ただし、バンドパスフィルタ32の通過帯域の設定は上記具体例に限定されない。
【0023】
増幅器33は、バンドパスフィルタ32で抽出された受信信号を所要の利得で増幅する。増幅器33の利得は、受信コイル12の感度、整合トランス31およびバンドパスフィルタ32での損失などを考慮するともに、後述するウィンドウコンパレータ35の下限しきい値Vth1および上限しきい値Vth2も考慮して適宜設定することができる。なお、バンドパスフィルタ32の出力において十分な信号レベルが得られている場合には増幅器33を省略してもよい。増幅器33で増幅された受信信号は、直流化回路34および故障検知回路38にそれぞれ出力される。
【0024】
直流化回路34は、増幅器33で増幅された信号を、図示しない整流回路および平滑回路を用いて直流電圧に変換する。整流回路では、全波整流または半波整流が行われる。平滑回路では、コンデンサの蓄放電を利用して、整流後の波形の平滑化が行われる。直流化回路34で変換された直流電圧は、ウィンドウコンパレータ35に入力される。
【0025】
ウィンドウコンパレータ35は、下限しきい値Vth1および上限しきい値Vth2を有するフェールセーフな比較回路である。ウィンドウコンパレータ35は、図2に示すように、入力信号Sinの直流電圧レベルが下限しきい値Vth1より大きく且つ上限しきい値Vth2より小さい場合に、出力信号Soutとして交番信号を出力する。ウィンドウコンパレータ35から出力される交番信号は、タイマー回路36に入力される。一方、入力信号Sinの直流電圧レベルが下限しきい値Vth1以下または上限しきい値Vth2以上の場合には、ウィンドウコンパレータ35は出力停止となり、交番信号がタイマー回路36へ出力されなくなる。また、ウィンドウコンパレータ35は、その構成部品に故障が発生した時にも出力停止となる。
【0026】
上記のような入出力特性を有するウィンドウコンパレータ35の具体例としては、米国特許第5,345,138号明細書、同4,661,880号明細書、同5,027,114号明細書等で開示されているフェールセーフ・ウィンドウコンパレータ/ANDゲートを使用することが可能である。ただし、ウィンドウコンパレータ35は上記具体例に限定されない。
【0027】
タイマー回路36は、時素設定に従って定められたディレー時間(例えば、7msec等)の経過を計測する回路である。タイマー回路36は、ウィンドウコンパレータ35からの交番信号が入力されている場合にカウンタがリセットされ、交番信号が入力されなくなるとカウント動作を開始し、当該カウンタ値がディレー時間に対応する値に達した場合に、後段の列車検知リレー37を落下(非励磁状態、復旧状態)させるように構成されている。換言すると、タイマー回路36は、ウィンドウコンパレータ35からの交番信号が入力されている場合に列車検知リレー37を扛上(励磁状態、動作状態)させ、交番信号が入力されなくなるとディレー時間の経過を待って列車検知リレー37を落下させ、再び交番信号が入力されるまで列車検知リレー37の落下状態を維持する。つまり、タイマー回路36は、ウィンドウコンパレータ35からの交番信号の出力状態に応じてオフディレー動作するように構成されている。
【0028】
列車検知リレー37は、上記のようにオフディレー動作するタイマー回路36からの出力信号に従って接点の状態が切り換えられる。すなわち、列車検知リレー37は、ウィンドウコンパレータ35から交番信号が出力されている間、接点が閉じた状態(扛上)となる一方、ウィンドウコンパレータ35から交番信号が出力されなくなるとディレー時間の経過を待って接点が解放された状態(落下)となるように構成されている。また、後述する故障検知回路38で機器の故障が検知されて故障検知リレー39が落下された場合、ウィンドウコンパレータ35からの交番信号の出力状態に関係なく強制的に列車検知リレー37は落下される。したがって、列車検知リレー37の接点が閉じた状態は、列車が検知されていない状態を表し、列車検知リレー37の接点が解放された状態は、列車が検知されているか、或いは、機器の故障が発生している状態を表している。
【0029】
故障検知回路38は、増幅器33で増幅された信号の振幅レベルを基に、地上子10の照査コイル11および受信コイル12の断線、並びに、発振回路21、整合トランス22,31、バンドパスフィルタ32および増幅器33の故障が発生しているか否かを検知する。故障の発生を検知した場合、故障検知回路38は、後段の故障検知リレー39を落下(非励磁状態、復旧状態)させる。一方、回路や機器の正常状態を検知した場合、故障検知回路38は、故障検知リレー39を扛上(励磁状態、動作状態)させる。故障検知回路38により故障が検知されて故障検知リレー39が落下されると、前述したように列車検知リレー37が強制的に落下される。
【0030】
上記のように構成された本実施形態の列車検知装置1では、列車の車上子5から送信される、情報波としてのATS-S信号(103kHz)および地上子用電力波としてのATS-P信号(245kHz)に加えて、複数の周波数信号成分を含んだ脱変周式のATS信号にも対応した列車検知が行われる。上述したように脱変周式のATS信号には、直接拡散方式でスペクトラム拡散されたATS信号や、周波数の異なる複数の信号成分が重畳または時分割多重されたATS信号などがある。以下では、脱変周式のATS信号の概略について図3図5を参照しながら説明する。
【0031】
直接拡散方式でスペクトラム拡散されたATS信号は、図3に示すように、所定のキャリア周波数(例えば、115kHz等)に対してランダムな符号(PN符号)を乗算して生成されている。このようにして生成されたATS信号は、キャリア周波数を中心にして広い周波数帯域にエネルギーが拡散された信号となる。このため、ペクトラム拡散されたATS信号のパワースペクトルにおけるピーク周波数の振幅値は、照査信号やATS-S信号、ATS-P信号と比べて小さくなるものの、拡散された周波数帯域全体のトータルパワーは、ATS-S信号、ATS-P信号と同程度に大きい。
【0032】
上記のようなスペクトラム拡散されたATS信号に対して、受信処理部30は、バンドパスフィルタ32の通過帯域が該ATS信号の周波数帯域を含むように設定されている。このため、ペクトラム拡散されたATS信号が地上子10の受信コイル12で受信されたときに、受信処理部30のバンドパスフィルタ32で抽出される信号成分のトータルパワーは、該ATS信号が受信される前の照査信号だけのときと比べて大きく変化する。
【0033】
周波数重畳されたATS信号は、図4に示すように、周波数が互いに異なる(図4の例では、100kHz、110kHz、120kHz)複数の信号を重畳して生成されている。このようにして生成されたATS信号は、振幅が相対的に小さくなるタイミング(図4の下段に示す波形において斜線を施した箇所)が存在している。
【0034】
上記のような周波数重畳されたATS信号に対して、受信処理部30は、バンドパスフィルタ32の通過帯域が該ATS信号の周波数帯域を含むように設定されており、且つ直流化回路34における整流および平滑化により受信レベルの時間的な変動が平準化されている。このため、周波数重畳されたATS信号が地上子10の受信コイル12で受信されたときに、受信処理部30における直流化回路34の出力電圧は、該ATS信号が受信される前の照査信号だけのときと比べて大きく変化する。
【0035】
周波数時分割多重されたATS信号は、図5に示すように、周波数が互いに異なる(図5の例では、130kHz、108kHz、123kHz、103kHz)複数の信号を所定の長さ(例えば、約200μsec等)のタイムスロットに順番に割り当てて生成されている。このとき、各々の周波数の信号の送信レベルは全て同じになるように設定される。このような周波数時分割多重されたATS信号についても、前述した周波数重畳されたATS信号の場合と同様に、振幅が相対的に小さくなるタイミングが存在するが、直流化回路34における整流および平滑化により受信レベルの時間的な変動が平準化されるため、直流化回路34の出力電圧がATS信号の受信前後で大きく変化する。
【0036】
次に、本実施形態の列車検知装置1の動作について詳しく説明する。
まず、列車検知装置1の動作を理解する上で有用であるため、従来のATS信号を利用した抑圧方式の列車検知装置の概略について図6図9を参照しながら説明する。
【0037】
図6は、上記抑圧方式の列車検知装置における受信処理部の一例を示すブロック図である。図6において、抑圧方式の列車検知装置では、8の字状に巻かれた受信コイル101で受信された照査信号、ATS-S信号およびATS-P信号が、整合トランス(MT)102を介して第1バンドパスフィルタ(BPF1)103に与えられる。第1バンドパスフィルタ103は、照査信号、ATS-S信号およびATS-P信号の各周波数を含む通過帯域(例えば、95kHz~290kHz)を有している。第1バンドパスフィルタ103で抽出された受信信号は、増幅器(AMP)104で増幅された後に、振幅制限回路(LIM)105に入力される。
【0038】
振幅制限回路105には、下限レベルLv1および上限レベルLv2が設定されている。増幅器104で増幅された信号の振幅が下限レベルLv1および上限レベルLv2を超えると、振幅制限回路105によって該信号の振幅が下限レベルLv1および上限レベルLv2の範囲に制限される。振幅制限回路105を通過した信号は、照査信号の周波数に対応した通過帯域(例えば、95kHz~97kHz)を有する第2バンドパスフィルタ(BPF2)106に入力されて、照査信号の周波数成分が抽出される。
【0039】
第2バンドパスフィルタ106で抽出されえた照査信号の周波数成分は、レベル検知回路(SCH)107に入力される。レベル検知回路107では、入力レベルが所定のしきい値Lth以上であるか否かに従って列車の有無が検知され、その検知結果を示す信号がタイマー回路(TIM)108を介して列車検知リレー(MR)109に与えられる。列車検知リレー109は、オフディレー動作するタイマー回路108からの出力信号に従って接点の状態が切り換えられる。
【0040】
図7は、抑圧方式における定常時の動作を説明する図である。定常時、抑圧方式の列車検知装置では、図7(A)に示すような波形の照査信号が、地上子の受信コイル101から整合トランス102を介して第1バンドパスフィルタ103に常時入力される。照査信号の周波数(96kHz)は第1バンドパスフィルタ103の通過帯域内にあるので、照査信号は第1バンドパスフィルタ103を通過して増幅器104に与えられる。増幅器104では、図7(B)に示すように照査信号の振幅が増幅されて振幅制限回路105に出力される。振幅制限回路105に与えられる照査信号の振幅ピークは、図7(C)に示すように、振幅制限回路105の下限レベルLv1近傍および上限レベルLv2近傍に存在している。このため、振幅制限回路105に入力された照査信号は実質的に振幅制限されることなく第2バンドパスフィルタ106に出力され、第2バンドパスフィルタ106を通過してレベル検知回路107に与えられる。
【0041】
レベル検知回路107では、図7(D)に示すように、第2バンドパスフィルタ106を通過した照査信号の周波数成分の入力レベルがしきい値Lth以上であることが検知され、ハイレベルの出力信号(または交番信号)がタイマー回路108に与えられる。レベル検知回路107からのハイレベルの出力信号は、照査信号が正常に受信されている「機器故障無し」の状態を表すとともに、列車からのATS信号が受信されていない「列車無し」の状態を表している。タイマー回路108では、レベル検知回路107からのハイレベルの出力信号を受けて、列車検知リレー109を扛上させる。
【0042】
図8は、抑圧方式におけるATS信号の受信時の動作を説明する図である。上記のような定常時の状態において、列車から送信されるATS信号が地上子の受信コイル101で受信されると、抑圧方式の列車検知装置では、図8(A)に示すように互いに周波数の異なる照査信号とATS信号とが重畳された受信信号が、整合トランス102を介して第1バンドパスフィルタ103に入力される。なお、図8(A)に示す波形イメージは、照査信号の周波数>ATS信号の周波数として表現されている。
【0043】
照査信号およびATS信号の各周波数はいずれも第1バンドパスフィルタ103の通過帯域内にあるので、照査信号およびATS信号を含む受信信号は第1バンドパスフィルタ103を通過して増幅器104に与えられる。増幅器104では、図8(B)に示すように照査信号およびATS信号を含む受信信号が増幅されて振幅制限回路105に出力される。振幅制限回路105に与えられた受信信号は、振幅制限回路105の下限レベルLv1および上限レベルLv2を超えるような大きな振幅を有しているため、図8(C)に示すように、振幅制限回路105によって受信信号の振幅が下限レベルLv1および上限レベルLv2に制限されて、波形が飽和した信号が生成される。この振幅制限された受信信号には、図8(C)において斜線を施した一部の範囲にのみ照査信号の周波数成分が存在している。
【0044】
振幅制限回路105で振幅制限された受信信号は、第2バンドパスフィルタ106で照査信号の周波数成分のみが抽出される。該抽出された照査信号の周波数成分は、振幅制限回路105によって存在範囲が縮小されているため信号のレベル(振幅)が低下している。つまり、列車からのATS信号を受信したことで照査信号が抑圧される。抑圧された照査信号は、レベル検知回路107に入力される。
【0045】
レベル検知回路107では、図8(D)に示すように、第2バンドパスフィルタ106で抽出された照査信号の周波数成分の入力レベルがしきい値Lthよりも低いことが検知され、ローレベルの出力信号(または出力停止)がタイマー回路108に与えられる。レベル検知回路107からのローレベルの出力信号は、列車からのATS信号が受信されている「列車有り」の状態を表している。なお、断線等の機器故障により照査信号が正常に受信できていない場合にも、レベル検知回路107の出力信号はローレベルとなる。レベル検知回路107からのローレベルの出力信号を受けたタイマー回路108は、ディレー時間の経過を待って列車検知リレー109を落下させる。
【0046】
上記のように動作する抑圧方式の列車検知装置では、列車から送信されるATS-S信号(103kHz)およびATS-P信号(245kHz)の双方に対応するために、第1バンドパスフィルタ103が広帯域化されることで、過渡的なノイズが侵入しやすくなっていた。このため、ATS信号を受信していないにも関わらず過渡的なノイズによって照査信号が抑圧された状態が一時的に発生する、或いは、ATS信号を受信しているにも関わらず過渡的なノイズによって照査信号が抑圧されていないのと同等な状態が一時的に発生する可能性があった。
【0047】
具体的に、後者の場合について図9を参照しながら説明すると、列車からのATS信号の受信中、第2バンドパスフィルタ106で抽出される照査信号の周波数成分のレベル(振幅)は抑圧されて低下するため、レベル検知回路107の出力信号はローレベルとなる(図9の上側)。このとき、第2バンドパスフィルタ106の通過帯域内の周波数を有する過渡的なノイズが侵入すると、抑圧された照査信号とノイズを足し合わせたレベルがレベル検知回路107でのしきい値Lth以上になる場合がある。この場合、レベル検知回路107の出力信号が一時的にローレベルからハイレベルに変化する。この一時的な変化を受けてタイマー回路108のカウンタ値がリセットされるため、本来であればディレー時間の経過後に落下されるはずの列車検知リレー109が扛上されたままとなり、列車の誤検知が生じてしまう。
【0048】
また、抑圧方式の列車検知装置において、直接拡散方式でスペクトラム拡散されたATS信号が受信されると、上述の図3を参照して説明したように、スペクトラム拡散されたATS信号のパワースペクトルにおけるピーク周波数の振幅値がATS-S信号やATS-P信号と比べて小さいため、照査信号が十分に抑圧されない。このため、スペクトラム拡散されたATS信号が受信されているにも関わらず、第2バンドパスフィルタ106で抽出される照査信号のレベルがレベル検知回路107でのしきい値Lth以上となり、列車検知が正しく行われない。
【0049】
さらに、抑圧方式の列車検知装置において、周波数重畳または周波数時分割多重されたATS信号が受信されると、上述の図4または図5を参照して説明したように、周波数重畳または周波数時分割多重されたATS信号は、振幅が相対的に小さくなるタイミングが存在するため、該タイミングで照査信号が十分に抑圧されない。このため、スペクトラム拡散されたATS信号の場合と同様に、周波数重畳または周波数時分割多重されたATS信号が受信されているにも関わらず、第2バンドパスフィルタ106で抽出される照査信号のレベルがレベル検知回路107でのしきい値Lth以上となり、列車検知が正しく行われない。上記のように抑圧方式の列車検知装置は、脱変周式のATS信号に非対応である。
【0050】
以上説明したような従来のATS信号を利用した抑圧方式の列車検知装置に対して、本実施形態の列車検知装置1では、広帯域化されたバンドパスフィルタ32を通過して増幅器33で増幅された受信信号が、直流化回路34で整流および平滑化された後にウィンドウコンパレータ35に入力される。このような回路構成の工夫により非抑圧方式で列車を検知するようにしたことによって、過渡的なノイズの影響による列車の誤検知を回避することが可能になるとともに、スペクトラム拡散等の脱変周式のATS信号にも対応して列車検知を行うことができる。
【0051】
図10は、本実施形態の列車検知装置1(非抑圧方式)における定常時の動作を説明する図である。列車検知装置1では、定常時、図10(A)に示すような波形の照査信号が、地上子10の受信コイル12から整合トランス31を介してバンドパスフィルタ32に常時入力される。照査信号の周波数(96kHz)はバンドパスフィルタ32の通過帯域内にあるので、照査信号はバンドパスフィルタ32を通過して増幅器33に与えられる。増幅器33では、図10(B)に示すように照査信号の振幅が増幅されて直流化回路34に出力される。
【0052】
直流化回路34では、増幅器33で増幅された照査信号が、図10(C)に示すように整流(図示の例では全波整流)および平滑化されて直流電圧に変換される。この直流化された照査信号の電圧レベルは、後段のウィンドウコンパレータ35の下限しきい値Vth1より大きく且つ上限しきい値Vth2より小さくなっている。このため、直流化回路34で直流化された照査信号を受けたウィンドウコンパレータ35では、出力信号として交番信号が生成され、該交番信号がタイマー回路36に与えられる。タイマー回路36では、ウィンドウコンパレータ35からの交番信号を受けて、列車検知リレー37を扛上させる。
【0053】
図11は、本実施形態の列車検知装置1(非抑圧方式)におけるATS信号の受信時の動作を説明する図である。上記のような定常時の状態において、列車から送信されるATS信号が地上子10の受信コイル12で受信されると、非抑圧方式の列車検知装置1では、図11(A)に示すように互いに周波数の異なる照査信号とATS信号とが重畳された受信信号が、整合トランス31を介してバンドパスフィルタ32に入力される。なお、図11(A)に示す波形イメージについても、前述した図8(A)と同様に、照査信号の周波数>ATS信号の周波数として表現されている。
【0054】
照査信号およびATS信号の各周波数はいずれもバンドパスフィルタ32の通過帯域内にあるので、照査信号およびATS信号を含む受信信号はバンドパスフィルタ32を通過して増幅器33に与えられる。増幅器33では、図11(B)に示すように照査信号およびATS信号を含む受信信号が増幅されて直流化回路34に出力される。直流化回路34では、増幅器33で増幅された照査信号が、図11(C)に示すように全波整流および平滑化されて直流電圧に変換される。
【0055】
直流化回路34により直流化された照査信号およびATS信号を含む受信信号の直流電圧レベルは、ATS信号が受信されていない定常時の直流電圧レベルよりも上昇しており、後段のウィンドウコンパレータ35の上限しきい値Vth2以上になっている。このため、ウィンドウコンパレータ35では、交番信号の出力が停止される。ウィンドウコンパレータ35の出力停止により、タイマー回路36は、ディレー時間の経過を待って列車検知リレー37を落下させる。
【0056】
上記のように動作する本実施形態の列車検知装置1では、バンドパスフィルタ32の広帯域化によって過渡的なノイズが侵入しやすくなっていても、直流化回路34の平滑回路におけるコンデンサの蓄放電を利用した受信信号の平滑化によって、過渡的なノイズが該平滑回路の時定数分吸収される。このため、過渡的なノイズに起因した列車の誤検知を防止することができる。
【0057】
また、本実施形態の列車検知装置1において、直接拡散方式でスペクトラム拡散されたATS信号が受信された場合、直流化回路34の出力電圧レベルはスペクトラム拡散されたATS信号の全周波数帯域に亘るトータルパワーに応じて変化する。このため、スペクトラム拡散されたATS信号のパワースペクトルにおけるピーク周波数の振幅値がATS-S信号やATS-P信号と比べて小さくても、直流化回路34の出力電圧レベルは、スペクトラム拡散されたATS信号の受信によって上昇して、ウィンドウコンパレータ35の上限しきい値Vth2を超過するようになる。
【0058】
さらに、本実施形態の列車検知装置1において、周波数重畳または周波数時分割多重されたATS信号が受信された場合、直流化回路34の出力電圧レベルは周波数重畳または周波数時分割多重されたATS信号の時間的に平準化されたパワーに応じて変化する。このため、周波数重畳または周波数時分割多重されたATS信号の振幅が相対的に小さくなるタイミングが存在しても、直流化回路34の出力電圧レベルは、周波数重畳または周波数時分割多重されたATS信号の受信によって上昇して、ウィンドウコンパレータ35の上限しきい値Vth2を超過するようになる。
【0059】
したがって、直流化回路34の出力電圧レベルの変化をウィンドウコンパレータ35の下限しきい値Vth1および上限しきい値Vth2の範囲で監視することによって、スペクトラム拡散されたATS信号や、周波数の異なる複数の信号成分が重畳または時分割多重されたATS信号などの脱変周式のATS信号に対応した列車検知を行うことが可能になる。このような本実施形態の列車検知装置1における非抑圧方式の列車検知では、列車からのATS信号の受信によって、信号レベル(直流化回路34の出力電圧レベル)が上昇するという特徴がある。一方、従来の抑圧方式の列車検知では、列車からのATS信号の受信によって、信号レベル(第2バンドパスフィルタ106で抽出される照査信号レベル)が低下するという特徴がある。
【0060】
また、本実施形態の列車検知装置1における非抑圧方式の列車検知では、断線等の機器故障時、直流化回路34の出力電圧レベルが低下して、ウィンドウコンパレータ35の下限しきい値Vth1以下となり、列車検知リレー37が落下、すなわち、接点が解放される。なお、増幅器33などの故障時に電源電圧の上限で出力電圧レベルが固定になることも考えられるが、その場合、ウィンドウコンパレータ35の入力電圧レベルは上限しきい値Vth2を超過するため、ATS信号の受信時と同様に、列車検知リレー37を落下させて安全側の状態とすることができる。
【0061】
上記のような列車検知リレー37が落下された状態に関しては、ATS信号の受信による「列車有り」の状態であるか、「機器故障有り」の状態であるかを区別することが困難である。そこで、本実施形態の列車検知装置1では、ウィンドウコンパレータ35とは別系統で、故障検知回路38および故障検知リレー39が設けられている。故障検知回路38では、増幅器33で増幅された信号の振幅レベルを基に断線等の機器故障が検知され、故障発生時には故障検知リレー39が落下される。そして、故障検知リレー39の落下に連動して列車検知リレー37が強制的に落下されることで、機器故障時に列車検知リレー37が確実に安全側の状態となるようにしてフェールセーフ性を高めている。
【0062】
上述したように本実施形態の列車検知装置1では、地上子10の受信コイル12による受信信号がバンドパスフィルタ32で周波数弁別された後に直流化回路34で直流電圧に変換され、該直流電圧のレベルがウィンドウコンパレータ35で監視されて、所定範囲内にある場合に「列車無し」が検知される一方、所定範囲外にある場合に「列車有り」が検知される。これにより、過渡的なノイズを受けても確実に列車を検知することができるとともに、脱変周式を含む多様なATS信号に対応して列車検知を行うことが可能になる。
【0063】
このような列車検知装置1は、ATS信号に含まれる複数の周波数にそれぞれ対応した回路を個別に設ける必要がなく、且つウィンドウコンパレータ35の出力信号を用いて既存の装置と同様なタイマー回路36および列車検知リレー37を動作させることができるので、列車検知装置1の小型化および低コスト化を図ることが可能である。特に、従来の抑圧方式の列車検知において、受信信号から照査信号のみを抽出するために使用されていた狭帯域で高価な第2バンドパスフィルタ106が、非抑圧方式の列車検知では不要になるので、列車検知装置1の低コスト化に有効である。
【0064】
また、本実施形態の列車検知装置1では、バンドパスフィルタ32で抽出された信号が増幅器33で増幅され、該増幅された信号が直流化回路34で整流および平滑化される。これにより、地上子10の受信コイル12によるATS信号の受信レベルがATS信号の種類によって低下していても、ATS信号の受信によるレベル変化を確実に捉えることができるとともに、過渡的なノイズの侵入を直流化回路34での整流および平滑化によって簡易に吸収することができる。特に、ATS信号の種類による受信レベルの低下に関しては、大きさの異なる0の字状に連続して巻かれた第1および第2コイル部12A,12Bを有する受信コイル12を使用すれば、受信レベルの低下を効果的に抑えることができるので、各種ATS信号を利用して列車をより確実に検知することが可能になる。
【0065】
さらに、本実施形態の列車検知装置1におけるウィンドウコンパレータ35は、入力電圧レベルが下限しきい値Vth1より大きく且つ上限しきい値Vth2より小さい場合に交番信号を出力し、列車検知リレー37は、ウィンドウコンパレータ35から交番信号が出力されている間、接点が閉じた状態となる一方、ウィンドウコンパレータから交番信号が出力されなくなるとディレー時間の経過を待って接点が解放された状態となる。このようにウィンドウコンパレータ35および列車検知リレー37が構成されていることによって、ATS信号が受信されていな定常時には、列車検知リレー37を確実に扛上させることができるとともに、ATS信号の受信時または機器故障の発生時には、列車検知リレー37を確実に落下させて安全側の状態にすることができ、列車検知装置1のフェールセーフ性を高めることが可能になる。特に、ウィンドウコンパレータ35とは別系統で、故障検知回路38および故障検知リレー39を設け、故障検知リレー39の落下に連動して列車検知リレー37が強制的に落下されるようにすれば、列車検知装置1のフェールセーフ性を更に高めることができるのと同時に、列車検知装置1の保守作業の効率化を図ることも可能になる。
【0066】
加えて、本実施形態の列車検知装置1では、地上子10がATS-S信号、ATS-P信号および脱変周式のATS信号を受信可能に構成されていることによって、多くの列車に設置されているATS車上装置に対応して非抑圧方式で列車検知を行うことができるので、汎用性の高い列車検知装置1を実現することが可能になる。
【0067】
上記のような本実施形態の列車検知装置1が踏切バックアップ装置に使用されるようにすれば、踏切道に接近する列車および/または踏切道を通過した列車を、脱変周式を含む多様なATS信号を利用して確実に検知することができるようになる。これにより、踏切保安装置の自動制御がより正確に行われるようになるので、踏切道の安全性を高めることが可能になる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。例えば、上述した実施形態では、踏切用列車検知装置(踏切バックアップ装置)の一例について説明したが、踏切以外の場所に本発明の列車検知装置を適用して列車検知を行うことも勿論可能である。
【0069】
また、上述した実施形態では、ウィンドウコンパレータ35とは別系統で、故障検知回路38および故障検知リレー39が設けられる構成例を説明したが、故障検知回路38および故障検知リレー39を省略して、ウィンドウコンパレータ35による直流電圧レベルの監視だけで故障検知を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…列車検知装置、10…地上子、11…照査コイル、12…受信コイル、20…送信処理部、21…発振回路、22,31…整合トランス、30…受信処理部、32…バンドパスフィルタ、33…増幅器、34…直流化回路、35…ウィンドウコンパレータ、36…タイマー回路、37…列車検知リレー、38…故障検知回路、39…故障検知リレー、5…車上子、5A,5B…送信コイル
図1
図2
図3
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図5
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図8
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