(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024860
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】セキュリティドキュメント、情報記録方法および偽造検出方法
(51)【国際特許分類】
B42D 25/41 20140101AFI20240216BHJP
【FI】
B42D25/41
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127799
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 達也
【テーマコード(参考)】
2C005
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005HB01
2C005HB02
2C005JB40
2C005LB07
2C005LB15
(57)【要約】
【課題】情報の記録後、記録前に関わらず、偽造や改ざんが行われたとき、それを目視により容易に確認ができるセキュリティドキュメントを提供する。
【解決手段】少なくとも基材の一表面にレーザー発色部を有し、該レーザー発色部にレーザー光を照射して発色させて所有者の情報が記録されるセキュリティドキュメントであって、その製造時に、発色が視認されないレベルのエネルギーのレーザー光が所定の照射パターンで照射されたレーザー光照射部が、前記レーザー発色部に形成されてなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材の一表面にレーザー発色部を有し、該レーザー発色部にレーザー光を照射して発色させて所有者の情報が記録されるセキュリティドキュメントであって、
その製造時に、
発色が視認されないレベルのエネルギーのレーザー光が所定の照射パターンで照射されたレーザー光照射部が、前記レーザー発色部に形成されてなることを特徴とするセキュリティドキュメント。
【請求項2】
前記照射パターンが、線状パターンの組合せで構成されているものであることを特徴とする請求項1に記載のセキュリティドキュメント。
【請求項3】
請求項1に記載のセキュリティドキュメントの情報記録方法であって、
前記レーザー発色部にレーザー光を照射して所有者の情報を記録する際、
前記レーザー発色部の、前記レーザー光照射部の部位に照射するレーザー光のエネルギーを低くし、
前記レーザー光照射部以外の部位に照射するレーザー光のエネルギーを高くすることで、両部位の発色濃度を同等とすることを特徴とする情報記録方法。
【請求項4】
請求項1に記載のセキュリティドキュメントの偽造検出方法であって、
前記レーザー発色部に一定のエネルギーのレーザー光を照射して情報の記録を行ったとき、
前記レーザー光照射部の部位では発色濃度が高く、
前記レーザー光照射部以外の部位では発色濃度が低い
ことを検出して、偽造または改竄が行われたと判定することを特徴とする偽造検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録された情報の改竄や情報の偽造を容易に目視で検出できるセキュリティドキュメント、情報記録方法および偽造検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、IDカード、パスポート等のキュリティドキュメントに記録された個人情報の改ざんや情報の偽造防止のために様々な手段が提案されている。例えば、レーザー光を用いて、カードの表面に文字や数字等の情報を、レーザーマーキングを利用して記録する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
レーザーを用いたドキュメントへの記録の際、ドキュメントの媒体の発色特性として、一定のエネルギーを超えないと目視による認識が可能な濃度まで発色が進まないことが知られている。そこでこの特性を利用して、発色に達するエネルギー以下のレーザーの事前照射により、事前照射のパターンを一種の潜像として形成しておくことで、レーザー追加照射時の発色濃度の不連続を検出する手法も提案されているが、この方法では情報記録前のブランクドキュメントを用いた偽造に対しては効力がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、情報の記録後、記録前に関わらず、偽造や改ざんが行われたとき、それを目視により容易に確認ができるセキュリティドキュメント、情報記録方法および偽造検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、
少なくとも基材の一表面にレーザー発色部を有し、該レーザー発色部にレーザー光を照射して発色させて所有者の情報が記録されるセキュリティドキュメントであって、
その製造時に、
発色が視認されないレベルのエネルギーのレーザー光が所定の照射パターンで照射されたレーザー光照射部が、前記レーザー発色部に形成されてなることを特徴とするセキュリティドキュメントである。
【0007】
上記セキュリティドキュメントにおいて、
前記照射パターンが、線状パターンの組合せで構成されているものであって良い。
【0008】
本発明の別側面は、
上記セキュリティドキュメントの情報記録方法であって、
前記レーザー発色部にレーザー光を照射して所有者の情報を記録する際、
前記レーザー発色部の、前記レーザー光照射部の部位に照射するレーザー光のエネルギーを低くし、
前記レーザー光照射部以外の部位に照射するレーザー光のエネルギーを高くすることで、両部位の発色濃度を同等とすることを特徴とする情報記録方法である。
【0009】
本発明の別側面は、
上記セキュリティドキュメントの偽造検出方法であって、
前記レーザー発色部に一定のエネルギーのレーザー光を照射して情報の記録を行ったとき、
前記レーザー光照射部の部位では発色濃度が高く、
前記レーザー光照射部以外の部位では発色濃度が低い
ことを検出して、偽造または改竄が行われたと判定することを特徴とする偽造検出方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセキュリティドキュメントによれば、偽造を試みる者が、個人情報等の情報が記録された後のドキュメント、または記録される前のブランクドキュメントのいずれを入手しても、偽造や改ざんのために追加記録したパターンの濃度が均一にならず、目視により容易に偽造や改ざんが行われたことが判定できるセキュリティドキュメントが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】情報が記録される前の本発明のセキュリティドキュメントの一形態例の図である。
【
図2】本発明のセキュリティドキュメントに記録される情報を例示する図である。
【
図3】本発明のセキュリティドキュメントに情報を記録する際のエネルギーの配分を例示する図である。
【
図4】本発明のセキュリティドキュメントに正常に情報が記録された態様の平面図である。
【
図5】本発明のセキュリティドキュメントに記録された情報を改竄したときの態様を例示する図である。
【
図6】情報記録前の本発明のセキュリティドキュメントに偽造情報を記録したときの態様を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また以下に示す実施形態では、発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0013】
図1は、情報が記録される前の本発明のセキュリティドキュメントの一形態例の図であり、IDカード10とした例である。IDカード10は、少なくとも一表面にレーザー光を照射することで発色するレーザー発色部10aを有している。IDカード10の製造時においては、IDカード10にはまだ所有者個人の情報は記録されておらず、ブランク状態である。この状態のドキュメントを以下ブランクドキュメントと称する。レーザー発色部10aは、レーザー光の光または熱に反応して黒化するものなど、公知のレーザー発色材料を適宜採用して形成できる。
【0014】
IDカード10の製造時にはまた、レーザー発色部10aに、発色に至らないレベルのエネルギーでレーザー光を照射して線画を形成するレーザーマーキングを行う。線画は集合的に所定のパターンを形成する様に照射すると好ましい。以下では、この様に形成された未発色のパターンをセキュリティパターンと称する。照射のパターンは、例えば
図1に例示した市松模様であれば、線画で形成されたレーザー光照射部とレーザー光非照射部が矩形のパターンで交互に繰り返すものとなっている。セキュリティパターンはこれ以外に
も直線、曲線、同心円、円や点の分布など幾何学的な2次元パターンやその組み合わせでも良く、その他のデザイン含め適宜設計することができ、特に限定はない。
【0015】
レーザー照射により未発色のパターンのパターンを形成するには、例えば発色部の発色材料として、カーボンブラックなどを使用すると、製造時のレーザー光照射の効果が蓄積された効果として残り、個人情報等を記録する時のレーザー光照射の効果と合わせた発色効果が得られる。またレーザー光照射の方法としては、通常の発色を得る場合の照射間隔と同等、あるいは粗とし、エネルギー密度を下げるようにして照射することでこのような未発色のパターンを形成することができる。
【0016】
またセキュリティパターンは、特に限定するものではないが、ブランクドキュメントに内蔵のICチップのUIDや、ブランクドキュメントに印刷などにより記録されている通し番号などのデータをもとにして計算されて導き出されたパターンなども好ましいものとして例示できる。同一の寸法、形状の出現頻度が少なく、繰り返しパターンとならないようなデザインとなるため、偽造者にパターンを察知されにくく、より好ましい。なお、説明のために図ではセキュリティパターンが見える様に記載しているが、実際には発色していないので目視されない。
【0017】
この様なブランクドキュメントにカード所有者の個人情報等を記録して個別化(以下、個人化とも称する)する発行時に、レーザー発色部10aにレーザーマーキングにより個人情報などの情報を記録する。ここでは
図2に示すような個人情報パターン11を形成する場合を例として説明する。すなわち、ブランクドキュメントの一形態であるIDカード10表面に濃度ムラのない目視可能な個人情報パターン11が記録される状態となるようにする。このとき、IDカード10には、製造時に
図1に示した様な市松模様のセキュリティパターンが発色しないレベルのレーザー光照射により不可視の状態で形成されている。
【0018】
個人情報パターン11を記録する際には、
図3に示す様に、あらかじめレーザー光が照射されている領域であるレーザー光照射部では、比較的弱いエネルギーのレーザー光を照射して個人情報パターン11を形成する。レーザー光照射部にはIDカード10の製造時にあらかじめレーザー光が照射されているので、弱いエネルギーのレーザー光を照射することで十分な発色濃度が得られる。
【0019】
一方、あらかじめレーザー光が照射されていない領域であるレーザー光非照射部では、より強いエネルギーのレーザー光を照射して、すなわちレーザー光照射部と同等の発色濃度となる様な強さとして照射し、個人情報パターン11を形成する。従って
図3は、個人情報パターン11を記録する際のレーザー光の照射強度の分布の態様を色の濃さの差として示したものである。
【0020】
このように、IDカード10の製造時のセキュリティパターンのレーザー光照射の有無に応じて、発行時に個人情報パターン11を記録する際のレーザー光の照射強度を制御することで、
図4に示す様に、均一な濃度の個人情報パターン11が記録されたIDカード10が得られる。正規の発行者であれば、製造時に形成したセキュリティパターンを当然に知ることができるので、セキュリティパターンの情報を基に個人情報パターン11を記録する際のレーザー光照射強度の分布を適切なものに設定することができる。
【0021】
続いて、本実施形態の、セキュリティパターンが製造時に予め形成されたセキュリティドキュメントであるIDカードに対して、改竄や偽造がなされた場合の態様について説明する。
【0022】
上述のように、本発明のセキュリティドキュメントは、製造時に発色に至らないレベルのエネルギーでレーザー照射が行われて所定のセキュリティパターンが形成され、それが一般には公開されない状態で出荷される。偽造、改竄を試みる者は、当然にセキュリティパターンの情報を有しないので、(1)個人化後のIDカードに改ざんを試みた場合、(2)不正入手したブランクカードで偽造を試みた場合、のそれぞれの場合において、以下のような結果となる。
【0023】
(1)個人化後のIDカードに改ざんを試みた場合
図5に示す様に、例えば個人情報パターン12である文字列「一郎」を、「三郎」に改ざんするために均一なエネルギーでレーザー光照射を行うと、レーザー光照射部の部位14では過剰な発色濃度となってしまい、レーザー光非照射部の部位13では、過小な発色濃度となってしまうため、改竄した部分の文字の濃度が均一とならないため、改竄されたことが目視で容易に検出される。
【0024】
(2)不正入手したブランクカードで偽造を試みた場合
偽造を試みる者は、発色エネルギー以下のレーザー光照射が行われてセキュリティパターンが形成されていること自体を知らず、またそのパターンがどのようなパターンであるかも知りえない。また、そのパターンが、ドキュメントに内蔵されたICのUIDや、生産工程で印刷されたシリアルナンバーなど、どの様な情報を基に、またどのような情報が組み合わされ、どの様なアルゴリズムで生成されたかを知ることもできない。
【0025】
上記のように、偽造しようとする者にとって未知の情報やアルゴリズムに基づきセキュリティパターンがあらかじめ形成されたブランクカードを入手しても、セキュリティパターンの影響を加味したエネルギー補正は困難である。そのため、入手したブランクカードにレーザー光照射により個人情報パターンを記録して偽造を行っても、
図6に示す個人情報パターン15の様に、レーザー光照射部とレーザー光非照射部で文字濃度がばらついてしまい、明らかに偽造されたことが目視で検出できるカードしか作成できない。
【0026】
すなわち、いずれの場合においても、改竄や偽造が行われたことが目視で容易に確認でき、偽造や改竄が行われたカードの不正な利用を防ぐことができる。
【0027】
<ブランクドキュメントの製造>
続いて、本発明のブランクドキュメントの製造工程について、特にセキュリティパターンの形成工程を中心に説明する。ブランクドキュメントの製造時に上記のセキュリティパターンを形成するためには、製造装置においては、レーザーマーキング機構における走査系のスケール補正やひずみ補正などを行わず、少なくとも0.3mm以上の描画寸法ズレを生じる走査精度のマーカーを用いると好ましい。より好ましくは、一般的に目視の容易な1mm~3mm程度の走査精度のマーカーを利用する。
【0028】
ブランクドキュメントの製造装置のレーザー光照射装置であるレーザーマーカーと個人化を行う装置のレーザーマーカーのマーキング位置精度は完全には一致しなくとも、0.2mm程度までの差であれば問題なく用いることができる。マーキング位置精度の確認と調整には、以下のような較正を行えばよい。
【0029】
まず、ブランクドキュメントの製造装置で、メッシュパターンなどの較正用パターンを較正用ブランクドキュメントに形成する。実際に製造される際のセキュリティパターンは不可視であるため、個人化を行う装置で記録される目視可能な個人情報パターンの記録位置と、ブランクドキュメントの製造装置のセキュリティパターンの記録位置のズレを、較正パターンのズレ量を測定して較正を実施する。較正用パターンは発色したパターンで形成されたものでもよい。個人化を行う装置でも同一の較正パターンを形成し、相互のズレ
量を測定することで装置間の記録位置ズレの補正を行う。あるいは、個人化を行う機器にカメラ等を内蔵し、製造機器の較正パターンを撮影し、ズレ量を測定することでズレの補正を行ってもよい。
【0030】
すなわち、ブランクドキュメントの製造装置で形成した較正パターンが形成されたドキュメントを使用してズレの補正を行うことで、的確に補正が行える。
【0031】
セキュリティパターンのデザインは、市松模様以外任意のデザインで形成して良く、
図7に例示した(a)曲線で構成された図形の組合せ16、(b)文字の組合せ17、(c)表面の一部に形成したパターン18、などといったデザインのほか、種々のデザインを採用できる。
【0032】
また、セキュリティパターンのデザインは、例えばIDカードに内蔵されたICのUIDや、製造現場で印刷されたシリアルナンバーなどに紐付けされているものとすると好ましい。例えばTypeAのICチップのUID(8桁)をABCD1234とした場合に、例えばデザインをアルキメデス螺旋とし、中心座標X,Yを(AB,CD)、ピッチを12、線幅を34から生成するような方法でもよい。あるいはUIDのABの部分をデザインの種類を示す記号として使用してもよい。例えば先頭2桁がABなら螺旋、CDなら市松模様というように使用して良い。
【0033】
以上説明したように、偽造しようとする者が、個人情報等が記録される前のブランクドキュメントを入手しても、肉眼では偽造防止用のセキュリティパターンが形成されていることには気づかないため、偽造や改ざんのためにレーザー記録を行う際、例えば、文字であれば均一のエネルギーで、顔画像であれば、正常な濃度分布データで記録を行うと、セキュリティパターン部分が濃く発色してしまう。これがブランクドキュメントを用いた偽造に対する第一の偽造検出の仕組みとなっている。
【0034】
また、仮にセキュリティパターンの存在自体は知られてしまった場合でも、どの様な情報を基に、またどのような情報が組み合わされ、どの様なアルゴリズムで生成されたかを知ることができない限りは、セキュリティパターンの位置に合わせたレーザー光照射のエネルギー補正はできない。これがブランクドキュメントを用いた偽造に対する第二の偽造防止の仕組みとなっている。
【0035】
以上のように、本発明により、個人化後のセキュリティドキュメントの改ざんの検出のみならず、個人化前のブランクドキュメントを用いて試みられた偽造、改竄も、肉眼で容易に検出が可能となる。
【符号の説明】
【0036】
10・・・IDカード
11、12、15・・・個人情報パターン
13・・・レーザー光照射が行われていない部位
14・・・レーザー光照射が行われている部位
16、17、18・・・セキュリティパターンのデザイン