(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024864
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】温度調節器
(51)【国際特許分類】
A61F 7/10 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
A61F7/10 330R
A61F7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127804
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 英治
(72)【発明者】
【氏名】平吹 諒
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸子
【テーマコード(参考)】
4C099
【Fターム(参考)】
4C099AA02
4C099CA03
4C099GA02
4C099GA08
4C099LA07
4C099LA09
4C099LA21
4C099LA26
4C099NA02
(57)【要約】
【課題】使用者に温度感を与える持続時間を改善した温度調節器を提供する。
【解決手段】温度調節器1は、多重構造布帛で形成された表地11と、表地よりも最大熱流束が高い素材で形成された裏地12と、表地11と裏地12との間において、温度調節剤を保持する保持室13とを有する。
【選択図】
図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重構造布帛で形成された表地と、
前記表地よりも最大熱流束が高い素材で形成された裏地と、
前記表地と前記裏地との間において、温度調節剤を保持する保持室と
を有する温度調節器。
【請求項2】
前記裏地は、最大熱流束が0.2W/cm2以上の素材で形成される
請求項1に記載の温度調節器。
【請求項3】
前記裏地が、ポリアミド及びポリウレタンを含む繊維からなるトリコット編地である
請求項2に記載の温度調節器。
【請求項4】
前記表地がダンボールニットである
請求項1に記載の温度調節器。
【請求項5】
前記保持室に前記温度調節剤を挿入するための、前記表地と前記裏地との間に形成された開口を有する
請求項1に記載の温度調節器。
【請求項6】
前記温度調節器は、長手方向及び短手方向を有する形状を有し、
前記長手方向の一端近傍に取り付けられた第1面ファスナーと、
前記長手方向の他端近傍に取り付けられ、前記第1面ファスナーに貼り付く第2面ファスナーと
を有する請求項1に記載の温度調節器。
【請求項7】
前記第1面ファスナー及び前記第2面ファスナーが、前記表地及び前記裏地を貫通する糸で縫い付けられる
請求項6に記載の温度調節器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体に装着して用いる温度調節器に関する。
【背景技術】
【0002】
ネッククーラーと言われる、使用者の首を冷やすための温度調節器が知られている。例えば特許文献1は、帽子に着脱自在に取り付けられる取付部を有するネッククーラーを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、ネッククーラーを構成する素材については特に言及がなく、改善の余地があった。
【0005】
これに対し本発明は、使用者に温度感を与える持続時間を改善した温度調節器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、多重構造布帛で形成された表地と、前記表地よりも最大熱流束が高い素材で形成された裏地と、前記表地と前記裏地との間において、温度調節剤を保持する保持室とを有する温度調節器を提供する。
【0007】
前記裏地は、最大熱流束が0.2W/cm2以上の素材で形成されてもよい。
【0008】
前記裏地が、ポリアミド及びポリウレタンを含む繊維からなるトリコット編地であってもよい。
【0009】
前記表地がダンボールニットであってもよい。
【0010】
この温度調節器は、前記保持室に前記温度調節剤を挿入するための、前記表地と前記裏地との間に形成された開口を有してもよい。
【0011】
前記温度調節器は、長手方向及び短手方向を有する形状を有し、前記長手方向の一端近傍に取り付けられた第1面ファスナーと、前記長手方向の他端近傍に取り付けられ、前記第1面ファスナーに貼り付く第2面ファスナーとを有してもよい。
【0012】
前記第1面ファスナー及び前記第2面ファスナーが、前記表地及び前記裏地を貫通する糸で縫い付けられてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、使用者に温度感を与える持続時間を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係る温度調節器1の概要を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.構造
図1は、一実施形態に係る温度調節器1の概要を示す図である。温度調節器1は、人間の身体の一部に装着して(この例では首に巻き付けて)使用するものである。温度調節器1は、後述するように内部に温度調節剤を有する。この温度調節剤により、使用者に温度感が与えられる。温度調節剤として蓄冷剤 又は保冷剤を用いると、使用者には冷感が与えられる。すなわち温度調節器1はいわゆるネッククーラーとして機能する。また、温度調節剤として蓄熱材又は使い捨てカイロを用いると、使用者に温感が与えられる。すなわち温度調節器1はいわゆるネックウォーマーとして機能する。
【0016】
図2は、温度調節器1の構造を例示する分解図である。温度調節器1は、表地11、裏地12、及び蓄冷剤パック21を有する。表地11は、使用状態において主に外気に露出する部分であり、裏地12は、使用状態において主に使用者に触れる部分である。表地11は、長手方向及び短手方向を有する形状を有する。長手方向及び短手方向を有する形状とは、表地11を広げた状態において、面積が最小となる外接矩形がほぼ長方形となる形状をいう。「ほぼ長方形」とは、目的となる部位に装着する(この例では首に巻き付ける)ことができる程度に長辺が短辺よりも長い形状をいう。表地11は、帯の形状を有するということもできる。裏地12も同様である。
【0017】
表地11は布であり、高断熱性の素材で形成される。高断熱性とは、裏地12よりも断熱性が高い、すなわち熱伝導率が低いことをいう。外気に触れる表地11に高断熱性の素材を用いることにより、蓄冷剤パック21の冷却効果を長持ちさせることができる。
【0018】
表地11は、熱伝導率が低い繊維、例えばポリエステル、羊毛、ナイロン、又は絹を含む。表地11の素材は、熱伝導率が高い繊維以外の他の素材を含んでもよい。他の素材としては、例えば、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアセタール、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン、アセテート、キュプラ、又はビスコースなどのレーヨン、ポリ乳酸、ポリイミド又はポリフェニレンサルファイドなどの化学繊維、綿又は麻などの天然繊維との混紡、混繊、交織、交編、さらに芯鞘構造を有する繊維が用いられる。
【0019】
表地11を構成する繊維は、長繊維および短繊維のいずれであってもよい。また、この繊維を用いた糸は、生糸、撚糸、および加工糸のいずれであってもよい。加工糸についても、特に限定されるものではなく、仮撚加工糸(ウーリー加工糸、DTY、改良仮撚加工糸など)、押込加工糸、賦型加工糸、擦過加工糸、タスラン加工糸、糸長差引きそろえ加工糸、複合加工糸、毛羽加工糸、交絡集束糸、及び交絡混繊糸のいずれであってもよい。
【0020】
この繊維の断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば、丸型、三角、星形、扁平、C型、中空、井形、及びドックボーンなどどのような形状でもよい。
【0021】
また、表地11の素材は、温度調節器1の温度調節機能を阻害しない限りにおいて、各種機能性剤が適用されたものであってもよい。機能性剤としては、染料・顔料などの着色剤、酸化チタンなどの艶消し剤、酸化防止剤、安定剤、変色防止剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱剤、抗菌防臭剤、制菌剤、抗ウイルス剤、SR剤、無機粒子、染色助剤、冷感剤、保湿剤、吸湿剤、撥水剤、及び香料が挙げられる。これらの機能性剤は、単独で用いられてもよいし複数組み合わせて用いられてもよい。また、表地11の素材に各種機能性剤を「適用する」とは、繊維の材料にこれらの機能性剤を添加するすなわち混ぜ込むこと、及び(溶液への浸漬、溶液の吹きつけなどにより)繊維の表面にこれらの添加剤を付着させることを含む概念である。
【0022】
表地11は、多重構造布帛である。具体的には、例えば、織物、編物、不織布を積層したものや、第1の布帛と第2の布帛とを中間糸で連結した構造を有する布帛が挙げられる。多重構造布帛を用いることにより、内部に空気をため込むことができ、断熱効果を高めることができる。着用した際の違和感が抑えられる薄地でありながらも内部に空気をため込む構造としやすいとの観点から、裏地12はダブルラッセル編地又はダンボールニットであることが好ましい。特に、伸縮性が高いダンボールニットがより好ましい。ダンボールニットとは、丸編みで作られる編地で、表と裏の二枚の生地を重ねて表面糸と裏面糸を中糸で繋いだ生地のことをいう。
【0023】
裏地12は布であり、表地11よりも接触冷感 が高い素材で形成される。接触冷感が高いとは、最大熱流速(qmax又は最大熱吸収速度ともいう)が高いことをいう。具体的には、裏地12は、最大熱流速が0.2W/cm2以上の材料で形成される。最大熱流速は、JIS L1927に従って測定される。最大熱流速は、生地の接触冷感性を表す特性値であり、皮膚と生地とが接触した時の初期熱流束の極大値を示す。裏地12の最大熱流束の値が高ければ高いほど、使用者はより蓄冷剤の冷たさや蓄熱材の温かさを感じる。
【0024】
裏地12は、熱伝導率が高い繊維、例えばポリアミド繊維を含む。一例において、素材の60質量%以上がポリアミド繊維である。裏地12の素材は、ポリアミド繊維以外の他の素材を含んでもよい。他の素材としては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアセタール、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン、アセテート、キュプラ、又はビスコースなどのレーヨン、ポリ乳酸、ポリイミド又はポリフェニレンサルファイドなどの化学繊維、綿、麻、絹又は羊毛などの天然繊維との混紡、混繊、交織、交編、さらに芯鞘構造を有する繊維が用いられる。
【0025】
ポリアミド繊維と組み合わせる他の素材として、熱伝導率及び/又は親水性が(ポリアミド繊維よりも)高い素材が用いられてもよい。具体的には、ポリアミド繊維よりも熱伝導率及び/又は親水性が高い素材としては、アセテート、キュプラ、又はビスコースなどのレーヨン、ポリアセタール、芯にポリエステルを用い鞘にEVOHを用いた芯鞘構造の繊維、又は超高分子量ポリエチレン繊維などが挙げられる。
【0026】
裏地12(すなわち温度調節器1)と使用者の身体との密着性を高めるため、(ポリアミド繊維よりも)伸縮性の高い素材、例えばポリウレタン弾性糸が組み合わせて用いられてもよい。裏地12の伸縮性が高ければ、温度調節器1と使用者の身体との接触面積が大きくなり、接触冷感作用をより強調することができる。
【0027】
裏地12を構成する繊維は、長繊維および短繊維のいずれであってもよい。また、この繊維を用いた糸は、生糸、撚糸、および加工糸のいずれであってもよい。加工糸についても、特に限定されるものではなく、仮撚加工糸(ウーリー加工糸、DTY、改良仮撚加工糸など)、押込加工糸、賦型加工糸、擦過加工糸、タスラン加工糸、糸長差引きそろえ加工糸、複合加工糸、毛羽加工糸、交絡集束糸、及び交絡混繊糸のいずれであってもよい。
【0028】
この繊維の断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば、丸型、三角、星形、扁平、C型、中空、井形、及びドックボーンなどどのような形状でもよい。
【0029】
また、裏地12の素材は、温度調節器1の温度調節機能を阻害しない限りにおいて、各種機能性剤が適用されたものであってもよい。機能性剤としては、染料・顔料などの着色剤、酸化チタンなどの艶消し剤、酸化防止剤、安定剤、変色防止剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱剤、抗菌防臭剤、制菌剤、抗ウイルス剤、SR剤、無機粒子、染色助剤、冷感剤、保湿剤、吸湿剤、撥水剤、体温付近で相転移する相転換物質、及び香料が挙げられる。これらの機能性剤は、単独で用いられてもよいし複数組み合わせて用いられてもよい。また、裏地12の素材に各種機能性剤を「適用する」とは、繊維の材料にこれらの機能性剤を添加するすなわち混ぜ込むこと、及び(溶液への浸漬、溶液の吹きつけなどにより)繊維の表面にこれらの添加剤を付着させることを含む概念である。
【0030】
裏地12は、織物又は編物である。織物は、平織、綾織、又は朱子織などである。編物は、経編、緯編(横編又は丸編)などである。織物又は編物は不織布と比較すると長い糸が使用されるので、ポリアミド繊維の高い熱伝導性をより効果的に発現させることができる。接触冷感作用を強調するためには裏地12の伸縮性を高めて気密性及び装着感を向上させることが有効である。この観点から、裏地12は編物であることが好ましい。編物の中でも、トリコット編地など、片面(例えば使用者の身体に触れる面)に畝、反対の面(例えば使用者の身体に触れない面)が平滑な編地であることがより好ましい。
【0031】
表地11と裏地12とは、例えば縫い付けにより固定される。表地11と裏地12とを縫い付ける際は、内部に蓄冷剤パック21を保持する空間(以下「保持室」という。詳細は後述)、及び保持室に蓄冷剤パック21を出し入れする開口を形成するように縫い線が形成される。
【0032】
図3A及び
図3Bは、温度調節器1の外観を示す図である。
図3Aは表地11を正面から見た図(すなわち表側)を、
図3Bは裏地12を正面から見た図(すなわち裏側)を、それぞれ示す。表地11と裏地12とを縫い付ける縫い線Sにより保持室13が形成される。この例において縫い線Sは表地11及び裏地12の四辺全てに渡って形成されているわけではない。一辺の一部は縫い線Sが形成されておらず、開口14が形成される。開口14は、保持室13に蓄冷剤パック21を出し入れするための開口であり、保持室13と通じており、蓄冷剤パック21を通すことができる大きさを有する。このように、開口14を介して温度調節剤を出し入れ可能な構造とすることにより、夏は蓄冷剤又は保冷剤を入れてネッククーラーとして、冬は蓄熱材又は発熱材を入れてネックヒーターとして、使用することができる。また、温度調節剤を取り出すことができるので、温度調節器1を洗濯することができる。なお、保持室13内には蓄冷剤パック21が収められるが、
図3A及び
図3Bにおいては蓄冷剤パック21の図示を省略している。
【0033】
温度調節器1のうち、一端側の表地11及び他端側の裏地12に、それぞれ面ファスナー111及び面ファスナー121が固定される。面ファスナー111及び面ファスナー121は、一方がループ面であり、他方がフック面である。面ファスナー111及び面ファスナー121は、例えば縫い付けにより表地11及び裏地12に固定される。この例では、面ファスナー111及び面ファスナー121のいずれにおいても縫い糸は表地11から裏地12まで、又は裏地12から表地11まで貫通している。面ファスナー111及び面ファスナー121をいずれも表地11及び裏地12の双方に対して固定することにより、面ファスナー111を表地11だけに、面ファスナー121を裏地12だけに縫い付ける例と比較して、より強固に固定することができる。
【0034】
使用者は、温度調節器1を身体の所定部位(例えば首)に巻いて面ファスナー111と面ファスナー121とを固定する。こうして使用することにより、温度調節器1が身体から離脱してしまうことを抑制することができる。
【0035】
一例において、面ファスナー111と面ファスナー121とは、(長手方向の)長さが異なっている。このように片側の面ファスナーを長くしておくことにより、巻き付ける部位の太さに合わせて温度調節器の径を調節することができる。
【0036】
なお、温度調節器1の一端と他端とを固定する手法は、面ファスナーを用いるものに限定されない。例えば、温度調節器1は、面ファスナーに代えて一端側に孔を有し、他端側をこの孔に挿通して身体の所定部位に固定するものであってもよい。さらに別の例において、温度調節器1は、面ファスナーに代えて紐又はバックルなどの固定具を有し、この固定具により身体の所定部位に固定するものであってもよい。
【0037】
図4は、蓄冷剤パック21の構造を例示する分解図である。図の上が表、下が裏に相当する。蓄冷剤パック21は、表から順に、外装フィルム211、断熱材212、蓄冷剤213、断熱材214、及び外装フィルム215を有する。
【0038】
外装フィルム211及び外装フィルム215は、その内部の要素をまとめ取り扱いを容易にするための部材である。外装フィルム211及び外装フィルム215は、想定される取り扱いにおいて破れることがない程度の強度、及び温度調節器1を身体に装着するのに支障の無い程度の柔軟性を有する必要がある。また、外装フィルム211及び外装フィルム215は内部に空間を有するように(すなわち袋状に)接合される。外装フィルム211及び外装フィルム215は例えば熱融着により接合される。外装フィルム211及び外装フィルム215は、これらの条件を満たすものであれば、どのような材料を用いて形成されてもよい。一例において、外装フィルム211及び外装フィルム215は、樹脂で形成される。樹脂としては、例えば、ナイロン(又はポリアミド系樹脂)、EMMA(エチレン-メタクリル酸メチル共重合体)樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、及びポリエチレンテレフタレートのうち少なくとも一種が用いられる。外装フィルム211及び外装フィルム215は内部が見えるように透明であってもよいし、内部が見えないように着色されていてもよい。
【0039】
断熱材212及び断熱材214は、蓄冷剤213に入る熱を抑制し、蓄冷剤213の持続時間を長くするための断熱材である。断熱材は、例えば熱伝導率が0.05W/m・K以下の素材で形成される。断熱材としては、例えば、発泡プラスチック系断熱材、繊維系断熱材、又はゲル中の分散媒を空気に置換したエアロゲルが用いられる。発泡プラスチック系断熱材としては、例えば、ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、及びフェノールフォームのうち少なくとも一種が用いられる。断熱材212及び断熱材214は、断熱材に加え、蒸着アルミニウム膜又はアルミニウム箔などの遮熱材を有してもよい。
【0040】
蓄冷剤213は、蓄冷剤の本体であり、物体を低温に保つために用いられる薬剤である。蓄冷剤は、水及び不凍液を外装材に封入したものである。この外装材は外装フィルム211、断熱材212、断熱材214、及び外装フィルム215と比較して小さいサイズを有しており、図の例では1つの蓄冷剤パック21に4つの蓄冷剤213が含まれる。不凍液としては、例えばエチレングリコール系の液体が用いられる。水及び不凍液の配合は、蓄冷剤を凍らせたときの狙いとなる固さに応じて設計される。水を多くするとより固くなり、不凍液を多くすると柔らかくなる。不凍液が多いと凍り付かず、冷やしても柔らかい状態を保つので、首に巻く等、身体に装着するときに扱いやすい一方、不凍液が多いと融解熱が小さくなるので蓄冷能力が低下してしまう。冷やしても柔らかかい状態を保ちつつ、十分な蓄冷能力を確保するとの観点から、不凍液の割合は0.1 質量%以上5質量%以下であるとよい。
【0041】
図5A及び
図5Bは、温度調節器1の断面構造を例示する図である。
図5Aは
図3のA-A断面を、
図5Bは
図3のB-B断面を、それぞれ示す。なおこれらの図では断面構造の説明のため、厚さ方向の長さを誇張して図示している。温度調節器1は、使用者の身体に接する側から、裏地12、外装フィルム215、断熱材214、蓄冷剤213、断熱材212、外装フィルム211、及び表地11という構造である。
【0042】
この例において、表地11と裏地12とはいわゆる袋縫いにより固定されている。縫い目は保持室13の中にあり、外には露出していない。なお
図5Bでは袋縫いの様子は省略されている。なお縫い代の処理は、折り伏せ縫いなど、他の技法が用いられてもよい。
【0043】
2.実施例
本願発明者らは、温度調節器1の試作品を作製し、その冷感持続性を評価した。発明者らは、試作品a及び試作品bの2つの試作品を作製した。各試作品における表地及び裏地の仕様は表1に示すとおりである。
【表1】
【0044】
試作品aは、表地及び裏地が同じ生地で形成された品物である。表地及び裏地はいずれも、ポリエステル100%の繊維(82dtex)を経糸及び緯糸として用いた平織物である。すなわち試作品aにおいて、表地と裏地との間で断熱性及び接触冷感に差は無い。
【0045】
試作品bは、表地と裏地とが異なる生地で形成された品物である。試作品bにおいて、裏地としては、78dtexのポリアミド86%/44dtexのポリウレタン14%の糸で編まれた、トリコット編地である。このうちポリアミドは接触冷感機能に寄与する。ポリウレタンは高伸縮性に寄与する。
【0046】
試作品a及び試作品bにおいて用いられた表地の断熱性を評価するため、本願の発明者らは以下の試験を行った。すなわち、室温が25℃の状態で表面温度50℃の熱源(ホットプレート)の上に、(ア)ポリエステル100%の平織物、(イ)ダンボールニット、及び(ウ)ポリエステル100%のダブルラッセル編地をそれぞれ接触させ、表面温度の時間経過を測定した。ダブルラッセル編地は、トリコット編地と同じく経編生地である。
【0047】
図6は、温度測定実験の結果を示す図である。図の横軸は熱源の上に生地を置いてからの経過時間を、縦軸は生地の表面(熱源に接しているのと反対の面)における温度を、それぞれ示す。ポリエステル100%の平織物は他の2つの生地と比較すると熱伝導率が高く、すぐに(約0.3秒)50℃に達した。一方でダンボールニットは15秒が経っても47.0℃までしか温度が上がらず、これら3つの生地の中では最も断熱性が高かった。ダブルラッセル編地はダンボールニットよりも断熱性が低く、15秒で49.9℃まで温度が上がった。以上から、ダブルラッセル編地やダンボールニットなどの多重構造布帛は、平織物やトリコット編地のような単層布帛よりも断熱性が高いと考えられる。
【0048】
これらの試作品を用いて、以下の冷感持続性試験を行った。室温35℃に設定された人工気象室に、冷凍庫で1日冷やした保冷剤を内部に挿入した温度調節器の試作品を静置した。この状態で、温度調節器の裏材表面、並びに環境(人工気象室)の温度を測定した。温度測定には、ボタン電池型温湿度ロガー(株式会社NKラボラトリーズ製ハイグロクロン #1923)を用いた。
【0049】
図7は、冷感持続性試験の結果を示す図である。図の横軸は時間を、縦軸は温度を示す。この試験結果によれば、25℃以下を保持できる時間が、試作品a(比較例)では約40分であったのに対し、試作品b(実施例)では約75分であった。すなわち、本願発明の実施例は、比較例と比較すると冷感持続時間が約1.8倍となるという結果が得られた。
【0050】
3.変形例
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例に記載した事項の一部が、他の一部と組み合わせて適用されてもよい。
【0051】
温度調節器1は、首に装着されるものに限定されない。温度調節器1は、頭、手首、胴、太もも、足首など、首以外の部位に装着されるものであり、装着部位に応じた形状及び大きさを有するものであってもよい。
【0052】
温度調節器1の具体的形状は実施形態において例示したものに限定されない。例えば、温度調節器1は開口14を有さず、温度調節剤を取り出しできない構造を有していてもよい。また、開口を有する場合であっても、開口の位置は実施形態において例示したものに限定されない。例えば、開口は、表地11又は裏地12のいずれか一方に形成されてもよい。
【0053】
表地11と裏地12とを固定する手法は、縫い付けによるものに限定されない。表地11と裏地12とは、例えば接着材により固定されてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…温度調節器、11…表地、12…裏地、13…保持室、14…開口、21…蓄冷剤パック、111…面ファスナー、121…面ファスナー、211…外装フィルム、212…断熱材、213…蓄冷剤、214…断熱材、215…外装フィルム