(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024873
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240216BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20240216BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240216BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240216BHJP
G01R 31/378 20190101ALI20240216BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20240216BHJP
【FI】
H02J7/00 Q
H02J7/02 H
H02J7/00 302C
H01M10/48 P
H01M10/44 P
G01R31/378
G01R31/392
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127819
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】591198364
【氏名又は名称】アクソンデータマシン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 努
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA21
2G216BB01
5G503BA03
5G503BB02
5G503EA09
5G503HA01
5H030AA10
5H030AS08
5H030BB23
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】AIモデルによる人工頭脳の学習時間の短縮、診断が制度の向上
【解決手段】2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置であって、診断装置は、組電池を構成する各2次電池セルの製品に対応した診断用基本データを記憶する記憶部と、前記製品別診断用基本データに基づき診断のための人工知能処理を行うAI処理部と、を備え、診断装置は、AI処理部による処理対象とした製品特性許容範囲から外れた場合に、異常であると診断して警報を出すことを特徴とする電源装置。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置であって、
前記2次電池セルが複数個直列接続にされて構成される前記組電池と、
前記組電池の各前記2次電池セルの状態を計測するセル計測回路と、
前記組電池の充電動作および前記組電池から電気負荷への電力供給動作を制御するシステム制御部と、
入出力装置と、
各前記2次電池セルの診断を行う診断装置と、を有し、
前記診断装置は、前記組電池を構成する各前記2次電池セルの製品に対応した製品別診断用基本データを記憶する記憶部と、前記製品別診断用基本データに基づき診断のための人工知能処理を行うAI処理部と、を備え、
前記AI処理部による処理が前記2次電池セルの製品別に対応して行われ、
前記診断装置は、前記AI処理部による処理の対象として特定した前記製品に基づいて設定された前記製品別診断用基本データを設定するもととなった前記製品の製品特性の許容範囲に、前記2次電池セルのそれぞれの特性が入っているかどうかを診断し、前記2次電池セルの前記特性が前記製品別特性基づく前記製品特性の許容範囲から外れた場合に、前記製品特性の前記許容範囲から外れた前記2次電池セルにたいして異常であると診断し、前記入出力装置を介して警報を出す、
ことを特徴とする2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置において、
前記異常であると診断された前記2次電池セルの交換指示が前記入出力装置から入力された場合に、
前記組電池から前記電気負荷への電力供給が停止され、
前記組電池から前記診断装置への電力供給を維持するために、前記異常であると診断された前記2次電池セルの端子間にバイパス回路が形成され、
前記異常であると診断された前記2次電池セルを新たな2次電池セルに交換する作業の終了に基づき、交換された前記新たな2次電池セルの特性が、前記製品別診断用基本データに対応した製品の特性の許容範囲に入っているかどうかが診断され、交換された前記新たな2次電池セルの特性が、前記製品別診断用基本データに対応した製品の特性の許容範囲に入っている場合に、前記入出力装置を介して前記異常な前記2次電池セルの交換が完了したことが伝達される、 ことを特徴とする2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2の内の一に記載の2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置において、
前記人工知能処理を行うAI処理部は、前記製品別診断用基本データに基づいて、前記製品別診断用基本データに対応した製品に特化した診断のためのAI処理を行う、
ことを特徴とする2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置。
【請求項4】
請求項3に記載の2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置において、
前記診断装置は、それぞれの前記2次電池セルに関して、それぞれの前記2次電池セルの計測した特性が、前記製品別診断用基本データに対応した前記製品の特性を基準とした場合の、前記製品の特性からのずれ量に基づいて、劣化度決定する、
ことを特徴とする2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン2次電池を含む非水電解質2次電池を備えた電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来かの、2次電池として鉛2次電池が広く使用されている。鉛2次電池は単位体積当たりの電力蓄電量が少なく、2次電池の体積が大きくなる課題がある。このため単位体積当たりの電力蓄電量がより大きい、リチウムイオン2次電池などの非水電解質2次電池の使用が急激に増加している。非水電解質2次電池は小容量で大電力を蓄電できる優れた特徴を有する反面、内部短絡等を生じると発火する危険性を有している。このため過充電や過放電における非水電解質2次電池の事故を避けることに注意が注がれ、非常に安全率の高い基準で選別され、過充電や過放電状態の非水電解質2次電池が大量に廃棄される状態が生じている。しかし、廃棄された非水電解質2次電池を精密に検証すると7割から8割以上の非水電解質2次電池が、まったく異常がないことが分かった。
【0003】
非水電解質2次電池を使用する場合の安全性を高めるために、非水電解質2次電池の診断に、AI技術を利用しようとするとの試みがなされている。現在画一的に廃棄されている非水電解質2次電池の中に使用できるものが非常に多く含まれている。さらに言えば、利用できる2次電池の方がはるかに多い。診断制度と信頼性を高め、利用できる2次電池を正確に把握し、廃棄されている2次電池の無駄を無くすことが大変大切である。
【0004】
AI技術の利用方法が色々提案されているのに、なぜAI技術を利用した2次電池の正確な診断装置が作れないのが、その背景には、考え方言い換えるとAI技術の利用方法に問題がある。これについては、以下で説明する。
【0005】
なお、AI技術を利用した2次電池の診断装置は、例えば特開2022-44943号公報に開示されている。この特許文献には、AI技術に対する基本的な利用方法の考え方が示されていない。これ以外の特許文献についても、以下で述べる考え方が示されていない。
【0006】
実際にAI技術を利用した2次電池の診断装置を試作してみると、例えば2次電池の劣化診断を行おうとした場合に、診断精度が出ない。その前に、AIモデルを作って人工頭脳による学習を行おうとした場合に、非常に多くの時間が必要となり、現実的ではない。また時間を要したにもかかわらず診断制度が向上しない。改良された新製品が次々と世の中に出てくる現実に対応することがではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウムイオン2次電池で代表される非水電解質2次電池では、新製品が次々に市場に出てきている。AIモデルによる人工頭脳の学習に長時間を要していたのでは、市場の状態に対応できない。言い換えるとAI技術を利用したモデルを構築するためのAIによる学習が、市場の動向に対応できない。
【0009】
本発明の目的は、AIモデルによる人工頭脳の学習に長い時間を必要しない、短期間で学習でき、高い精度の診断が可能な診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔第1の発明〕
前記課題を解決する第1の発明は、2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置であって、
前記2次電池セルが複数個直列接続にされて構成される前記組電池と、
前記組電池の各前記2次電池セルの状態を計測するセル計測回路と、
前記組電池の充電動作および前記組電池から電気負荷への電力供給動作を制御するシステム制御部と、
入出力装置と、
各前記2次電池セルの診断を行う診断装置と、を有し、
前記診断装置は、前記組電池を構成する各前記2次電池セルの製品に対応した製品別診断用基本データを記憶する記憶部と、前記製品別診断用基本データに基づき診断のための人工知能処理を行うAI処理部と、を備え、
前記AI処理部による処理が前記2次電池セルの製品別に対応して行われ、
前記診断装置は、前記AI処理部による処理の対象として特定した前記製品に基づいて設定された前記製品別診断用基本データを設定するもととなった前記製品の製品特性の許容範囲に、前記2次電池セルのそれぞれの特性が入っているかどうかを診断し、前記2次電池セルの前記特性が前記製品別特性基づく前記製品特性の許容範囲から外れた場合に、前記製品特性の前記許容範囲から外れた前記2次電池セルに対して異常であると診断し、前記入出力装置を介して警報を出す、
ことを特徴とする2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置である。
【0011】
〔第1の発明の効果〕
AI技術を利用した診断対象を拡大するのではなく、特定の狭い製品に限定してAI技術を利用することにより、AI技術の学習時間を大幅に短縮することができる。またさらに非水電解質2次電池の劣化や異常に関する診断の診断基準を、前記特定の製品に限定して設定する。このようにすることで、前記製品別診断用基本データの製品とAI技術の学習対象の製品と診断判断の製品特性の許容範囲とを明確に関連付けて設定できる。このことにより、AI技術の学習時間を短縮したにもかかわらず、高い精度で診断することが可能となる。
【0012】
〔第2の発明〕
第2の発明は、第1の発明の2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置において、
前記異常であると診断された前記2次電池セルの交換指示が前記入出力装置から入力された場合に、
前記組電池から前記電気負荷への電力供給が停止され、
前記組電池から前記診断装置への電力供給を維持するために、前記異常であると診断された前記2次電池セルの端子間にバイパス回路が形成され、
前記異常であると診断された前記2次電池セルを新たな2次電池セルに交換する作業の終了に基づき、交換された前記新たな2次電池セルの特性が、前記製品別診断用基本データに対応した前記製品の前記製品特性の前記許容範囲に入っているかどうかが診断され、交換された前記新たな2次電池セルの特性が、前記特性の前記許容範囲に入っている場合に、前記入出力装置を介して前記異常と判断した前記2次電池セルの交換が完了したことが伝達される、
ことを特徴とする2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置である。
【0013】
第3の発明は、第1の発明又は第2の発明の内の一の発明である2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置において、
前記人工知能処理を行うAI処理部は、前記製品別診断用基本データに基づいて、前記製品別診断用基本データに対応した製品に特化した診断のためのAI処理を行う、
ことを特徴とする2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置である。
【0014】
第4の発明は、第3の発明の2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置において、
前記診断装置は、それぞれの前記2次電池セルに関して、それぞれの前記2次電池セルの計測した特性が、前記製品別診断用基本データに対応した前記製品の特性を基準とした場合の、前記製品の特性からのずれ量に基づいて、劣化度決定する、
ことを特徴とする2次電池セルで構成された組電池備えた電源装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、AI処理のために必要となる学習期間を短縮でき、さらに診断精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明が適用された電源装置の実施例1を説明する回路図である。
【
図2】本発明が適用された電源装置の外観図である。
【
図3】AI技術を利用した、製品に特化した診断と、診断方法との関係を説明する説明図である。
【
図4】電源装置に関する制御全体のタスク構成図を説明する、説明図である。
【
図5】組電池を構成する各セルの診断方法を説明するフローチャートである。
【
図6】異常が検知されたセルを交換するための処理内容を説明するフローチャートである。
【
図7】2次電池セルの劣化を回復するための動作を説明するフローチャートである。
【
図8】2次電池セルの劣化原因の一つを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の実施例の説明において、同一符号が付された構成についてはその作用や効果が同じであり、重複した説明を省略する場合がある。
【0018】
1.本発明が適用された一実施例である電源装置100について
1.1 実施例における回路構成について
【0019】
図1は本発明が適用された実施例1の回路図である。外部電源10は、例えば電気自動車に電力を供給する充電装置、あるいは車両に搭載された走行用電力を発生する発電機である。接続端子12およびスイッチSW2を介して、外部電源10から電力が充電回路14に送られ、スイッチSW4を介して充電回路14から組電池30へ電力が供給される。
【0020】
電源装置100は、制御を担う制御基板102と、制御基板102からの制御指令に基づいて、電力の蓄積や出力を行う電池収納部110から構成される。電池収納部110には、外部電源10からの電力を蓄えるための組電池30が設けられている。組電池30は多数のリチウムイオン2次電池セルからなり、前記2次電池セルを一例として2次電池セルL1からLNで示す。
【0021】
組電池30に蓄電された電力は、システム制御部150の指令により、スイッチSW12やスイッチSW14、および接続端子18を介して、電気負荷20に供給される。電力を蓄えるための組電池30は、直列に接続された非水電解質の2次電池セルL1、2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNによって構成されている。これら各2次電池セルの電圧はセル計測回路40で計測され、計測値が信号路202や信号線205を介してシステム制御部150や診断装置250へ送信される。さらに図示を省略しているが、組電池30からの電流値や温度も計測されて、診断装置250に送られる。これらの計測結果は、組電池30を構成する2次電池セルL1、2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNの診断に利用される。
【0022】
組電池30を構成する2次電池セルL1、2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNの蓄電電力がそれぞれのセルとの比較に於いて、バランスするようにセル電圧バランス回路50が動作し、2次電池セルL1、2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNのそれぞれの端子電圧が同じになるように動作する。セル修復回路55は特別な回路であり、2次電池セルL1、2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNの内の異常と診断された2次電池セルを正常な状態に修復するための回路である。修復処理部200からの指令により動作する。詳述はしないが、50V程度までの直流電圧を所定のセルに供給することができ、また0.1アンペアから1アンペアまでの直流電流を供給する回路を備えている。
【0023】
制御基板102には、表示装置120を備えた入出力装置125やシステム制御部150、修復処理部200、診断装置250、が設けられている。これらを動作するための動作電力は組電池30からスイッチSW8および制御用電源部104を介して供給される
【0024】
入出力装置125やシステム制御部150、修復処理部200、診断装置250、はそれぞれ信号線205で接続されており、信号線接続装置204や信号線接続装置203を介して信号路202に接続され、指令の送信および受信、データの送信および受信、が、制御基板102と110との間で行われる。
【0025】
診断装置250は、製品別診断用基本データ271や製品別診断用基本データ281有し、さらにAI処理部264や電池診断部260を有している。データ選択部275は製品別診断用基本データ271を使用するのか製品別診断用基本データ281を使用するのかを選択する動作をする。製品別診断用基本データ271や製品別診断用基本データ281は、組電池30を構成する2次電池セルL1、2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNの製品により決定される。組電池30を構成する2次電池セルがそれぞれ、製品Aである場合には、製品別診断用基本データ271が選択され、製品Bである場合には、製品別診断用基本データ281が選択される。
【0026】
1.2 電源装置100の構造について
図2は電源装置100の構造を示す。組電池30を収納する本体115と制御基板102とが設けられている。本体115の内部には電池収納部110が設けられており、本体115のケースには、接続端子12や接続端子18が設けられている。また2次電池セルL1、2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNを本体115から取り出して、正常なセルと交換できるように、2次電池セルL1、2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNの一部が、本体115から外に出ている。
【0027】
本体115の蓋112側に制御基板102が設けられ、制御基板102には、指令やデータを送受信するための信号線接続装置204や、電池診断部260、AI処理部264、製品別診断用基本データ271や製品別診断用基本データ281を記憶した記憶部270、が設けられている。
【0028】
2.AI学習と診断との関係に関する説明
製品Aや製品Bの特性は、実際には多くのパラメータにより決定されるが、考え方を説明するために、関係するパラメータをパラメータ1とパラメータ2とに限定して説明する。世の中に新製品が多く出回り、また多くの製造メーカが競って製品を開発し発売するので、世の中にはいろいろな製品が存在する。基本的には類似していても、その製法や材料に差があると特性の経時変化がことなり、メーカ毎に異なった経時変化を示す。従って一見類似する製品に思えても、AI学習ではいろいろ異なってくる。このため、一見類似するように見えても、異なる製造元の製品に使用できるAI技術を利用した処理装置を作り出そうとすると長い時間が必要となる。従って製造元が異なる場合は、他のAI処理装置を使用することとし、この実施例では、適用対象に含めない。
【0029】
今仮定として、2次電池セルL1、2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNは、製造メーカAの製品Aであるとする。また近い製品で製造メーカBの製品Bが存在すると仮定する。これらの両製品に対応するように、AI技術を利用して対応しようとすると、AI技術の学習に長い時間を要する。従って製品Aに特化したAI処理装置を、この実施例では、実現目標とする。
【0030】
製品Aに関する製品A特性370および製品A特性370とほぼ同じ製品で製造バラツキを考慮した特性範囲372を
図3に示す。近い製品であるが他の製造元の製品である製品Bの製品B特性380とその製品バラツキを考慮した特性範囲382を同じく
図3に示す。診断装置250が診断動作を開始する製品別診断用基本データ271や製品別診断用基本データ281は特性範囲372や特性範囲382に基づいて作られたデータである。このため製品別診断用基本データ271は、製品Aには適用できるが製品Bには適用できない。
【0031】
製品Aに関するAI制御を行う場合に、学習対象の特性が狭い範囲なので変動パラメータの範囲が狭く、短時間に学習の成果が得られる。しかし、製品別診断用基本データ271やAI制御のための製品Aの特性に対して、診断対象の製品の特性が劣化などで変化するとAI制御を行う対象とすることが困難となる。診断対象の製品は劣化前は特性範囲372の範囲であったので、製品別診断用基本データ271を利用することができ、特性範囲372に基づくAI処理部264の処理で高い精度の診断が可能となった。しかし診断対象の製品Aが、その劣化により特性が変化すると製品別診断用基本データ271やAI処理部264の処理では対応できなくなる。診断対象製品Aの特性が、製品A特性許容範囲374の外となると、診断装置250は使用困難として、特性の復帰処理や、新しい製品との取替の指示を出す。診断対象の製品Aの特性が製品A特性許容範囲374の外であるが、製品B特性380の方に変化し、特性範囲382の範囲に入っている場合に、使用できそうに思うかもしれないが、この実施例では使用困難として警告を出す。即ち製品Aの代わりに、製品Bが使用されようとした場合に、対象の製品Bが新品であってもこの実施例では、使用不可とする。このようにすることで、AI処理が容易となり、高い精度の診断が可能となる。もし製品Bを使用する場合には、製品別診断用基本データ281を使用し、製品別診断用基本データ281をベースとしたAI処理部264の動作が実行されることになる。
【0032】
今診断対象の製品Aの特性が特性範囲372から外れた場合であっても、製品A特性許容範囲374の範囲内であれば、使用可能である。しかしこの場合は特性範囲372から外れているので、劣化が進んでいるとの警報を出す。このようにAI技術による学習の対応範囲を狭くすることで、診断のための判断が簡素化され、AI学習に必要な期間が短くなり、新製品世の中に出ても、新製品に対応した製品別診断用基本データ271や製品別診断用基本データ281に対応するデータを作成することで、新製品に追随していくことが可能となる。
【0033】
3.システム制御部150の基本フローチャートについて
図4にシステム制御部150および診断装置250による制御を行うための基本フローチャートの構成を示す。各制御あるいは処理タスクである基本動作タスク300は、緊急制御タスク350やセル診断タスク400、電力供給タスク320、セル交換処理タスク450、AI処理タスク500、セル修復処理タスク600、で構成されている。これらの各タスクは、一定時間毎に、タスクを実行するための起動が掛けられ。この実行起動は実行処理タスク304が内蔵するタイマーに基づいて行う。また割込みによる実行要求があった場合にこの割込み要求に基づいて起動が掛けられる。この割込みにより起動は、割込み処理タスク302により行われる。これらのタスクの実行が終了すると終了報告タスク310が動作して、上記タスクの実行が終了する。
【0034】
図5に、セル診断タスク400の処理内容をフローチャートの形で記載する。セル診断タスク400の実行が開始されると、ステップS404で2次電池セルL1、2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNに関して、マイクロショートの発生あるいはその兆候の有無が診断される。もしその兆候があれば、ステップS406に実行が移り、緊急制御タスク350が実行される。緊急制御タスク350では、異常と判断されたセルの蓄積電荷が、セル電圧バランス回路50を介して緊急に引き抜かれると共に、組電池30への充電や電気負荷20への電力供給が停止される。これらの処理の後終了報告タスク310が実行される。このように、マイクロショートの発生あるいはその兆候が疑われるセルの蓄積電荷を抜くことで、マイクロショートから発火に至る可能性を無くすことができる。
【0035】
ステップS404でマイクロショートの恐れが無い場合に、組電池30を構成する2次電池セルL1、2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNに対する診断が開始される。先ずNがゼロから開始され、2次電池セルLN-1の診断から開始される。ステップS412で、2次電池セルLN-1の計測された特性が特性範囲372を逸脱していないかを判断する。逸脱していない場合には、劣化が無いと判断され、ステップS414が実行され、2次電池セルLNまでの全ての診断が完了したかが判断される。2次電池セルLNまでの診断が完了している場合には、終了報告タスク310で完了の報告がなされ、セル診断タスク400が終了する。次の実行時間になると再びセル診断タスク400の実行が開始される。
【0036】
全てのセルに対する診断が終了していない場合には、診断ステップS414からステップS412へ実行が移る。ステップS412で、次の順番のセルである2次電池セルL2の診断が開始される。2次電池セルL2の計測された特性が、特性範囲372の範囲内かが診断され、仮に次電池セルL2の計測された特性が特性範囲372の範囲を出ていると診断されると、次にステップS420で、
図3に示す製品A特性許容範囲374から外に出ていないかが診断される。2次電池セルL2の計測された特性が製品A特性許容範囲374を出ていない場合には、特性範囲372の外なので、劣化していると判断され、特性範囲372からの逸脱量の最も大きいパラメータを基準にして、劣化度が求められ、ステップS422で記憶および入出力装置を介して表示および外部への通知がなされる。これを繰り返すことにより、2次電池セルLNまでの全ての診断が完了した場合に、この後終了報告タスク310でタスクの実行が終了する。
【0037】
ステップS420で、2次電池セルL2の計測された特性が製品A特性許容範囲374の外に存在すると判断されると、蓄電池セルとしての使用が困難であるとして、ステップS430へ実行が移る。この時、ステップS440を実行して、2次電池セルL2が使用不可である旨通知しても良い。この実施例では、ステップS430やステップSセル修復処理タスク600で、2次電池セルL2の修復動作を実施する。修復動作を実施については以下で詳述する。
【0038】
簡単に説明すると、ステップS610で電気負荷20を切り離し、ステップS640で修復対象のセルのみに、本来なら3Vから4Vのところを、10Vから50Vの高電圧で、0.1アンペアから1程度の微小電流を長時間供給する。このような修復作業をステップS640で実行し、それでも修復できない場合に、ステップS440で、使用不可の警報を入出力装置から出力する。
【0039】
以上説明したように、ステップS404でマイクロショートの発生に関する診断を行う。次にステップS410からステップS422で劣化の有無を判断する。使用困難な程度に劣化が大きいことも、ステップS420で、製品A特性許容範囲374との比較を行うことで、診断可能である。劣化が小さい場合は、特性範囲372と比較することで劣化の程度が判断可能となる。
【0040】
4.セル交換処理について
図6のフローチャートにより、使用不可の警告が出された2次電池セルの交換処理について説明する。
図5に記載のステップS440に基づき、入出力装置から使用不可のセルを交換するための指示入力を行うと、
図4に示すセル交換処理タスク450が動作する。ステップS452で、使用不可電池セルの交換のための捜査員からの指示により、ステップS454で電気負荷20が切り離される。ただし、制御基板102に設けられた回路を動作し続けるようにするために、組電池30からの電力がスイッチSW8から制御用電源部104を介して供給され続ける。このために、使用不可電池セルに対してステップS456で並列にバイパス回路が形成される。このあとステップS458で、使用不可電池セルの交換準備完了の表示が出る。
【0041】
作業員は、
図2に記載の2次電池セルL2、・・・2次電池セルLN-1、2次電池セルLNの内、使用不可電池セルを引き抜き、正常な電池セルを挿入する。この作業が完了すると、作業員は作業の完了を入出力装置から入力する。この操作が、ステップS460で検知されると、ステップS462が実行される。ここで交換された新しい電池セルの特性が計測される。ステップS464で交換されたセルの特性が、特性範囲372に入っているかが検査される。交換されたセルの特性が特性範囲372に入っている場合には、ステップS472で正常な状態に戻ったとして、通常の動作に戻り、ステップS終了報告タスク310で作業が終了する。
【0042】
しかしステップS464で交換されたセルの特性が特性範囲372から逸脱している場合には、ステップS466で交換に不備があることが警報として出力される。例えば製品Aの代わりに誤って製品Bが使用された場合に、警報が出る。この場合はセル交換処理タスク450をやり直すこととなる。従来の診断装置は、色々な製品に対応しようとしているので、製品Aの代わりに誤って製品Bが使用されても、判断できない場合が出る。この場合に、製品Aのセルと製品Bのセルが混ざって使用されることとなる。一時的には動作しても、急速に経時変化するなどの問題が生じる。本実施例ではそのようなことが生じない。
【0043】
5.組電池30を構成する2次電池セルの修復処理について
上述したように、組電池30を構成する2次電池セルが使用困難なほどに劣化している場合には、ステップSセル修復処理タスク600により修復を試みることができる。またステップS420で製品A特性許容範囲374を超えていない、使用の継続が可能な場合であっても、ステップS424でセル修復処理タスク600を起動することにより、修復処理を実行することができる。ステップS424やステップS430で、
図4に記載の割り込み処理割込み処理タスク302を動作させると、割込み処理タスク302がセル修復処理タスク600を起動する。これにより、
図7に示すセル修復処理タスク600が実行される。
【0044】
2次電池セルの劣化の代表的な事例および修復の考え方を、
図8を用いて説明する。2次電池セルは陽極72と陰極78との間で電力を蓄える動作をなし、この蓄電動作に於いて、劣化は、陰極78に使用される黒煙と電解液74のエチレンカーボネートが反応し、マイナス電極の表面に個体電解質相であるSEI皮膜76が成長することで電流が流れにくくなく現象である。SEI皮膜が成長度合いをAIで判断させて度合いに応じた回復充電治療パターンで修復することが好ましい。AI充電パターンすなわち印加電流と印加電圧の制御パターンは個々の製品に合わせることが好ましい。
【0045】
個体電解質相であるSEI被膜76からなる絶縁被膜を破壊するには、充電回路60から通常の2次電池セル70の端子電圧の50倍から100倍の高電圧を印加し、2次電池セル70の通常の動作電流の0.1倍から0.001倍の超小電流で時間をかけ供給することが望ましい。2次電池セル70に印加する電圧パターンや電流パターンは、AI処理で求められたパターンを使用して行う。このAI処理は、
図1に記載のAI処理部264でおこなう。このAI処理部264で求められたパターンにより、セル修復回路55から電圧や電流が修復対象のセルに供給される。
【0046】
図7に上述の動作を実行するためのフローチャートを示す。セル修復処理タスク600が実行されると、ステップS612で修復動作の開始の指示が入出力装置から出力される。ステップS614で、組電池30を構成する他のセルから修復対象のセルが切り離される。またステップS616で、電気負荷20が切れ離される。ステップS618で、修復対象のセルに対して、
図8に記載の充電回路60や定電流回路62から電圧と電流を供給する。この充電回路60や定電流回路62は、
図1に記載のセル修復回路55の内部に設けられている。修復対象のセルである2次電池セル70に印加する電圧は、2次電池セル70の通常の動作電圧が4ボルトの場合に、例えば50ボルトから100ボルトとすることが望ましい。また供給する電流が0.1アンペアから0.5アンペアであることが望ましい。電流値を大きくすると2次電池セル70の内部で発熱して発火する恐れがある。上述の電圧と電流の供給を10時間から30時間程度続ける。ステップS620でこの時間を計測して、設定した時間が経過すると、ステップS630で改善の有無を計測し、ステップS640で改善を入出力装置から出力する。
【0047】
ステップS642で、修復対象のセルである2次電池セル70の特性が特性範囲372の範囲内になった時点で、修復が完了したとして、ステップS650で修復完了の報告を入出力装置125から報告する。次にステップS654で通常の動作に戻る。
【0048】
ステップS630で改善が見られない場合は、ステップS632で、修復の試みを繰り返し、この試みの回数を計測し、規定回数繰り返しても回復しない場合にステップS440で、修復対象のセルである2次電池セル70の交換が必要である内容を入出力装置125から出力する。
【符号の説明】
【0049】
10・・・外部電源、12・・・接続端子、14・・・充電回路、18・・・接続端子、20・・・電気負荷、30・・・組電池、40・・・セル計測回路、50・・・セル電圧バランス回路、55・・・セル修復回路、70・・・2次電池セル、74・・・電解液、76・・・SEI皮膜、78・・・陰極、100・・・電源装置、102・・・制御基板、104・・・制御用電源部、110・・・電池収納部、112・・・蓋、115・・・本体、120・・・表示装置、125・・・入出力装置、150・・・システム制御部、200・・・修復処理部、202・・・信号路、203・・・信号線接続装置、204・・・信号線接続装置、205・・・信号線、250・・・診断装置、260・・・電池診断部、264・・・AI処理部、270・・・記憶部、271・・・製品別診断用基本データ、272・・・製品別診断用基本データ、275・・・データ選択部、281・・・製品別診断用基本データ、300・・・基本動作タスク、302・・・割込み処理タスク、304・・・実行処理タスク、タスク310・・・終了報告、320・・・電力供給タスク、350・・・緊急制御タスク、370・・・製品A特性、372・・・特性範囲、374・・・製品A特性許容範囲、380・・・製品B特性、382・・・特性範囲、400・・・セル診断タスク、450・・・セル交換処理タスク、500・・・AI処理タスク、600・・・セル修復処理タスク。