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  • 特開-樹脂絶縁転がり軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024881
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】樹脂絶縁転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/07 20060101AFI20240216BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20240216BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
F16C35/07
F16C33/62
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127832
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】川口 隼人
(72)【発明者】
【氏名】魚住 朋久
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 泰人
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎太郎
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA03
3J117CA06
3J117DA10
3J117DB10
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA70
3J701DA05
3J701EA73
3J701FA11
3J701GA01
3J701GA24
3J701XB03
3J701XB13
3J701XB14
3J701XB48
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電気自動車の電動モータの主軸を支持する絶縁転がり軸受の耐電食性を確保するのに必要十分な仕様の樹脂絶縁転がり軸受を提供する。
【解決手段】転動体4の直径をDw(mm)、転動体4の個数をz(個)、転動体4のピッチ円径をdp(mm)、静電容量をC(F)、電気抵抗をR(Ω)としたときに、特定の式(1)(2)で定義されるX,Yの組が、1.6<X<130、かつ、Y≧2.45×10-4を満たすか、または、1.6<X、かつ、0<Y<2.45×10-4を満たす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(2)と、
前記外輪(2)の径方向内側に同軸に配置される内輪(3)と、
前記外輪(2)と前記内輪(3)の間に組み込まれる複数の転動体(4)と、
前記外輪(2)の外周(6)および前記外輪(2)の軸方向端面(7)、または前記内輪(3)の内周および前記内輪(3)の軸方向端面に設けられた絶縁性の樹脂皮膜(8)と、を有する樹脂絶縁転がり軸受において、
前記転動体(4)の直径をDw(mm)、前記転動体(4)の個数をz(個)、前記転動体(4)のピッチ円径をdp(mm)、前記内輪(3)の内周と前記外輪(2)の外周(6)との間の前記樹脂皮膜(8)を含めた静電容量をC(F)、前記内輪(3)の内周と前記外輪(2)の外周(6)との間の前記樹脂皮膜(8)を含めた電気抵抗をR(Ω)としたときに、次式(1)(2)で定義されるX,Yの組が、1.6<X<130、かつ、Y≧2.45×10-4を満たすか、または、1.6<X、かつ、0<Y<2.45×10-4を満たすことを特徴とする樹脂絶縁転がり軸受。
【数1】
【数2】
【請求項2】
前記樹脂皮膜(8)は、前記外輪(2)の外周(6)および前記外輪(2)の軸方向端面(7)に設けられ、
前記樹脂皮膜(8)の膜厚が50μm以下に設定されている請求項1に記載の樹脂絶縁転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂絶縁転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
走行用の原動機として電動モータを使用する自動車として、EV(バッテリー式電気自動車)やHEV(ハイブリッド電気自動車)などの電気自動車が知られている。これらの電気自動車では、電動モータに交流電力を供給するために、バッテリの直流電力を交流電力に変換するインバータが使用され、電動モータの高効率化を図るために、電動モータに供給する交流電力の周波数が高く設定される。
【0003】
ここで、電動モータに供給される交流電力の周波数が高くなると、電動モータの主軸とモータハウジングとの間に生じる電位差によって、電動モータの主軸を支持する転がり軸受に電流が流れやすくなる。そして、転がり軸受に電流が流れると、転がり軸受の軌道面と転動体の間にスパークが発生し、そのスパークによって軌道面の損傷が次第に進行する現象(電食)が生じることがある。
【0004】
そこで、電食を防止するため、一般に、電気自動車の電動モータの主軸や減速機の軸を支持する転がり軸受には、絶縁転がり軸受が使用されることがある。絶縁転がり軸受は、外輪と、外輪の径方向内側に同軸に配置される内輪と、外輪と内輪の間に組み込まれる複数の転動体と、外輪の外周および外輪の両側の軸方向端面に設けられた絶縁層とを有するものが広く使用される。そして、そのような絶縁転がり軸受として、本願の出願人は、樹脂皮膜を絶縁層として用いた絶縁転がり軸受を既に提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-042162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、電気自動車の電動モータの主軸を支持する絶縁転がり軸受の絶縁層として樹脂皮膜を用いる場合、絶縁転がり軸受の耐電食性を確保するには、樹脂皮膜の仕様(膜厚、静電容量、電気抵抗など)をどのように設定すればよいかが不明であり、そのため従来においては、耐電食性に優れた膜厚の十分に大きい樹脂皮膜を用いた絶縁転がり軸受を採用するのが一般的であった。
【0007】
この従来の絶縁転がり軸受の樹脂皮膜に関し、本願の発明者らは、電気自動車の電動モータの主軸を支持する絶縁転がり軸受の耐電食性を確保するのに必要十分な仕様に対して過剰な仕様となっており、無用のコストが発生している可能性に着目した。
【0008】
そこで、発明者らは、電気自動車の電動モータの主軸を支持する絶縁転がり軸受として樹脂絶縁転がり軸受を使用する場合に、その樹脂絶縁転がり軸受の耐電食性を確保するのに必要十分な樹脂皮膜の仕様をどう設定すればよいかを検討した。その検討の結果、樹脂絶縁転がり軸受の耐電食性は、軸受に印加される交流電圧により軌道面と転動体の間の接触部を流れる電流密度と、軌道面の定位置での転動体の総通過回数に交流電圧の周波数を積算した積算値との関係に基づいて評価することができることを発見し、その関係に基づいて、電気自動車の電動モータの主軸を支持する樹脂絶縁転がり軸受の耐電食性を確保するのに必要十分な樹脂皮膜の満たすべき条件を見出した。
【0009】
この発明が解決しようとする課題は、電気自動車の電動モータの主軸を支持する絶縁転がり軸受の耐電食性を確保するのに必要十分な仕様の樹脂絶縁転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の樹脂絶縁転がり軸受を提供する。
[構成1]
外輪と、
前記外輪の径方向内側に同軸に配置される内輪と、
前記外輪と前記内輪の間に組み込まれる複数の転動体と、
前記外輪の外周および前記外輪の軸方向端面、または前記内輪の内周および前記内輪の軸方向端面に設けられた絶縁性の樹脂皮膜と、を有する樹脂絶縁転がり軸受において、
前記転動体の直径をDw(mm)、前記転動体の個数をz(個)、前記転動体のピッチ円径をdp(mm)、前記内輪の内周と前記外輪の外周との間の前記樹脂皮膜を含めた静電容量をC(F)、前記内輪の内周と前記外輪の外周との間の前記樹脂皮膜を含めた電気抵抗をR(Ω)としたときに、次式(1)(2)で定義されるX,Yの組が、1.6<X<130、かつ、Y≧2.45×10-4を満たすか、または、1.6<X、かつ、0<Y<2.45×10-4を満たすことを特徴とする樹脂絶縁転がり軸受。
【数1】
【数2】
【0011】
このようにすると、電気自動車の電動モータの主軸を支持する絶縁転がり軸受の一般的な使用条件、すなわち、軸受に印加される交流電圧の周波数が20kHz以下、電圧が1V以下、内輪の回転数が30000min-1以下、軸受に作用する動等価ラジアル荷重が基本定格荷重以下の使用条件において、電食で軸受振動が初期振動の10倍の大きさになるまでの軸受の総回転数が、軸受の基本定格寿命に対応する回転数かそれ以下となり、樹脂皮膜の仕様が、電気自動車の電動モータの主軸を支持する絶縁転がり軸受の耐電食性を確保するのに必要十分なものとなる。
【0012】
[構成2]
前記樹脂皮膜は、前記外輪の外周および前記外輪の軸方向端面に設けられ、
前記樹脂皮膜の膜厚が50μm以下に設定されている構成1に記載の樹脂絶縁転がり軸受。
【0013】
このようにすると、樹脂皮膜の膜厚が薄いので、温度変化による樹脂皮膜の膜厚の変化が小さく、高温状態のときに、樹脂皮膜の膨張により、外輪とモータハウジングの間に過大な締め代が生じたり、一方、低温状態のときに、外輪とモータハウジングの間に過大な隙間が生じたりするのを防止することができる。そのため、電気自動車の電動モータの主軸を支持する絶縁転がり軸受として使用するときに、外輪とモータハウジングの間のはめあい隙間を適切に設定することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の樹脂絶縁転がり軸受は、電気自動車の電動モータの主軸を支持する絶縁転がり軸受の一般的な使用条件、すなわち、軸受に印加される交流電圧の周波数が20kHz以下、電圧が1V以下、内輪の回転数が30000min-1以下、軸受に作用する動等価ラジアル荷重が基本定格荷重以下の使用条件において、電食で軸受振動が初期振動の10倍の大きさになるまでの軸受の総回転数が、軸受の基本定格寿命に対応する回転数かそれ以下となっており、樹脂皮膜の仕様が、電気自動車の電動モータの主軸を支持する絶縁転がり軸受の耐電食性を確保するのに必要十分であり、低コストである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施形態にかかる樹脂絶縁転がり軸受を示す断面図
図2】電食試験の結果を示す図
図3】絶縁皮膜模擬軸受の電食試験回路を模式的に示す図
図4】標準軸受の電食試験回路を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、この発明の実施形態にかかる樹脂絶縁転がり軸受1を示す。樹脂絶縁転がり軸受1は、外輪2と、外輪2の径方向内側に同軸に配置される内輪3と、外輪2と内輪3の間に組み込まれる複数の転動体4と、その複数の転動体4の周方向間隔を保持する保持器5と、外輪2の外周6と軸方向両側の端面7とに設けられた絶縁性の樹脂皮膜8とを有する。
【0017】
外輪2の内周には、転動体4が転がり接触する外輪軌道面9と、外輪軌道面9の軸方向の両側に位置する外輪肩部10とが形成されている。内輪3の外周にも、転動体4が転がり接触する内輪軌道面11と、内輪軌道面11の軸方向の両側に位置する内輪肩部12とが形成されている。転動体4は、ここでは玉である。外輪軌道面9と内輪軌道面11は、いずれも断面円弧状の溝の内面である。外輪2、内輪3、転動体4はいずれも金属(例えば軸受鋼)で形成されている。
【0018】
外輪2の外周6は、軸方向に沿って外径が変化せず一定の円筒面である。外輪2の軸方向両側の端面7は、軸方向に直角な平面である。外輪2の外周6と外輪2の軸方向両側の端面7との間には、断面円弧状の面取り部13が形成されている。樹脂皮膜8は、外輪2の外周6を被覆する外周被覆部8aと、外輪2の面取り部13を被覆する面取り被覆部8bと、外輪2の両側の軸方向端面7を被覆する端面被覆部8cとで構成されている。
【0019】
外周被覆部8aの膜厚は、50μm以下に設定されている。面取り被覆部8bおよび端面被覆部8cの膜厚も、50μm以下に設定されている。外周被覆部8aの膜厚と端面被覆部8cの膜厚は同じ大きさである。樹脂皮膜8は、エポキシ樹脂をベースとする樹脂またはポリアミドイミド樹脂をベースとする樹脂を採用すると、一般的に0.01kV/μm以上の耐電圧を有することができる。
【0020】
図2に、本願の発明者らが行なった電食試験の結果を示す。この電食試験の試験条件は、以下のとおりである。
軸受型番:6207(内径35mm、外径72mm、幅17mm)
軸受への印加電圧:AC±5V、AC±10V、AC±20Vの3通り
電圧の周波数:10kHz
軸受への負荷荷重:ラジアル荷重1500N
回転数:内輪3000min-1
試験方法:図3に示すように、交流電源31で標準軸受32の内輪と外輪の間に交流電圧を印加する試験回路に、6.5nFの静電容量をもつコンデンサ33と、200Ωの電気抵抗をもつ抵抗器34とを組み込むことで、絶縁層として25μm程度の膜厚をもつポリアミドイミド樹脂の樹脂皮膜8を用いた樹脂絶縁転がり軸受1を模擬した(絶縁皮膜模擬軸受)。また、図4に示す試験回路で、標準軸受32についても同様の試験を行なった(標準軸受)。そして、試験装置35で標準軸受を運転し、電食により軸受振動が初期振動の2倍となった時点で運転停止させ、試験中の振動データに基づいて軸受振動が初期振動の10倍となるまでの時間を算出した(図2)。なお、絶縁皮膜模擬軸受の5Vおよび標準軸受の20Vのプロットは、10V時の標準軸受/絶縁皮膜模擬軸受の試験時間比率から推定したものである。
【0021】
この電食試験の結果に示されるように、軸受1に交流電圧を印加した状態で軸受1を運転し、電食により軸受振動が初期振動の10倍の大きさになったときの、軸受1に印加される交流電圧により軌道面と転動体4の間の接触部を流れる電流密度(縦軸)と、軌道面の定位置での転動体4の総通過回数に交流電圧の周波数を積算した積算値(横軸)との間には一定の関係がある。
【0022】
図2において、「絶縁皮膜模擬軸受」の折れ線グラフよりも右側および上側の領域は、電気自動車の電動モータの主軸20を支持する絶縁転がり軸受1の耐電食性を確保できない領域である。また、OK領域1およびOK領域2は、電気自動車の電動モータの主軸20を支持する絶縁転がり軸受1の耐電食性を確保するのに必要十分な仕様に対して過剰な仕様となる領域である。ここで、OK領域1は、横軸において1.6×1010(回×Hz)を上回り、かつ、1.3×1012(回×Hz)を下回る領域である。また、縦軸において9.8×10-6(A/mm)以上の領域である。一方、OK領域2は、横軸において1.6×1010(回×Hz)を上回り、縦軸において9.8×10-6(A/mm)を下回る領域である。
【0023】
ここで、軌道面の定位置での転動体4の総通過回数に交流電圧の周波数を積算した積算値(横軸)は、軸受1に印加される交流電圧の周波数をf(Hz)、内輪3の回転数をNi(min-1)、転動体4の直径をDw(mm)、転動体4の個数をz(個)、転動体4のピッチ円径をdp(mm)、軸受1の運転時間をh(min)としたときに、次式で求めることができる。
【数3】
【0024】
また、軸受1に印加される交流電圧により軌道面と転動体4の間の接触部を流れる電流密度(縦軸)は、軸受1の静電容量(具体的には内輪3の内周と外輪2の外周6との間の樹脂皮膜8を含めた静電容量)をC(F)、軸受1の電気抵抗(具体的には内輪3の内周と外輪2の外周6との間の樹脂皮膜8を含めた電気抵抗)をR(Ω)、軸受1に印加される交流電圧の周波数をf(Hz)、軌道面と転動体4の間の接触部(接触楕円)の面積をA(mm)、軸受1に印加される交流電圧をV(V)としたときに、次式で求めることができる。
【数4】
【0025】
そして、上記(横軸)の式を、OK領域1の横軸の範囲をあらわす1.6×1010<(横軸)<1.3×1012の不等式に代入すると、次式となる。
【数5】
【0026】
また、上記(縦軸)の式を、OK領域2の縦軸の範囲をあらわす0<(縦軸)<9.8×10-6の不等式に代入すると、次式となる。
【数6】
【0027】
ここで、電気自動車の電動モータの主軸20を支持する絶縁転がり軸受1では、軸受1に印加される交流電圧の周波数f(Hz)が20kHz以下、内輪3の回転数Niが1000~30000min-1、基本動定格荷重が負荷される場合の内輪3の回転数Ni(min-1)と軸受1の運転時間h(min)の積Ni×hが10(=基本定格寿命L10)、基本動定格荷重が負荷される場合の接触楕円の面積Aが25mm、軸受1に印加される交流電圧V(V)は1V以下である。
【0028】
したがって、OK領域1の横軸の範囲をあらわす1.6×1010<(横軸)<1.3×1012の不等式を整理すると、次式となる。
【数7】
【0029】
また、OK領域2の縦軸の範囲をあらわす0<(縦軸)<9.8×10-6の不等式を整理すると、次式となる。
【数8】
【0030】
そこで、上記実施形態においては、次式(1)(2)で定義されるX,Yの組が、1.6<X<130、かつ、Y≧2.45×10-4を満たす(つまり図2のOK領域1の範囲内にある)か、または、1.6<X、かつ、0<Y<2.45×10-4を満たす(つまり図2のOK領域2の範囲内にある)ように樹脂皮膜8の仕様が設定されている。
【数9】
【数10】
【0031】
ところで、電気自動車の電動モータの主軸20を支持する絶縁転がり軸受1の絶縁層として樹脂皮膜8を用いる場合、従来、絶縁転がり軸受1の耐電食性を確保するには、樹脂皮膜8の仕様(膜厚、静電容量、電気抵抗など)をどのように設定すればよいかが不明であった。そのため従来においては、絶縁転がり軸受1の樹脂皮膜8の仕様が、電気自動車の電動モータの主軸20を支持する絶縁転がり軸受1の耐電食性を確保するのに必要十分な仕様に対して過剰な仕様となっており、無用のコストが発生している可能性があった。
【0032】
この問題に対し、上記実施形態の樹脂絶縁転がり軸受1は、電気自動車の電動モータの主軸20を支持する絶縁転がり軸受1の一般的な使用条件、すなわち、軸受1に印加される交流電圧の周波数が20kHz以下、電圧が1V以下、内輪3の回転数が30000min-1以下、軸受1に作用する動等価ラジアル荷重が基本定格荷重以下の使用条件において、電食で軸受振動が初期振動の10倍の大きさになるまでの軸受1の総回転数が、軸受1の基本定格寿命に対応する回転数かそれ以下となっており、樹脂皮膜8の仕様が、電気自動車の電動モータの主軸20を支持する絶縁転がり軸受1の耐電食性を確保するのに必要十分であり、低コストである。
【0033】
また、上記実施形態の樹脂絶縁転がり軸受1は、樹脂皮膜8の膜厚が50μm以下に設定されているので、温度変化による樹脂皮膜8の膜厚の変化が小さく、高温状態のときに、樹脂皮膜8の膨張により、外輪2とモータハウジング21の間に過大な締め代が生じたり、一方、低温状態のときに、外輪2とモータハウジング21の間に過大な隙間が生じたりするのを防止することができる。そのため、電気自動車の電動モータの主軸20を支持する絶縁転がり軸受として使用するときに、外輪2とモータハウジング21の間のはめあい隙間を適切に設定することができる。
【0034】
上記実施形態では、外輪2の外周6および外輪2の両側の軸方向端面7に樹脂皮膜8を有する樹脂絶縁転がり軸受1を例に挙げて説明したが、この発明は、外輪2の片側の軸方向端面7にのみ樹脂皮膜8を有する樹脂絶縁転がり軸受についても同様に適用することができ、また、内輪3の内周および内輪3の両側または片側の軸方向端面に樹脂皮膜8を有する樹脂絶縁転がり軸受についても同様に適用することができる。また、上記実施形態では、外輪2の内周に樹脂皮膜が設けられていない樹脂絶縁転がり軸受1を例に挙げて説明したが、この発明は、外輪2の内周に樹脂皮膜8を追加して設けた樹脂絶縁転がり軸受についても同様に適用することができる。同様に、内輪3の内周と軸方向端面に樹脂皮膜8を設ける場合、内輪3の外周にも樹脂皮膜8を追加して設けるようにしてもよい。
【0035】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0036】
1 樹脂絶縁転がり軸受
2 外輪
3 内輪
4 転動体
6 外周
7 端面
8 樹脂皮膜
図1
図2
図3
図4