(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024904
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】炭酸ガスレーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/036 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
H01S3/036
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127876
(22)【出願日】2022-08-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「パラメータ制御可能なCO2レーザー装置の開発と加工応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000195649
【氏名又は名称】精電舎電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】米谷 和幸
【テーマコード(参考)】
5F071
【Fターム(参考)】
5F071AA05
5F071BB05
5F071EE02
5F071JJ08
(57)【要約】
【課題】ランニングコストを大幅に低減するために、炭酸ガスのみを含むガスボンベから供給される炭酸ガスと、取り込んだ大気に含まれる窒素ガスとを混合した励起ガスで動作する炭酸ガスレーザ装置を提供する。
【解決手段】本開示の炭酸ガスレーザ装置は、励起ガスを収容する放電管と、前記放電管の第1の位置に配置され、前記励起ガスの一の主成分である炭酸ガスを前記放電管内への給気する量を調整する第1の給気バルブと、前記放電管の第2の位置に配置され、前記励起ガスの二の主成分である窒素ガスを含む大気を前記放電管内へ給気する量を調整する第2の給気バルブと、前記放電管から前記励起ガスを排気する量を調整する排気バルブと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起ガスを収容する放電管と、
前記放電管の第1の位置に配置され、前記励起ガスの一の主成分である炭酸ガスを前記放電管内へ給気する量を調整する第1の給気バルブと、
前記放電管の第2の位置に配置され、前記励起ガスの二の主成分である窒素ガスを含む大気を前記放電管内へ給気する量を調整する第2の給気バルブと、
前記放電管から前記励起ガスを排気する量を調整する排気バルブと、を備え、
前記第1の給気バルブから給気される前記炭酸ガスと前記第2の給気バルブから給気される前記大気中の窒素ガスとを主成分とする励起ガスで動作する炭酸ガスレーザ装置。
【請求項2】
前記第1の給気バルブに接続し、前記第1の給気バルブに供給する炭酸ガスの流量を測定する第1の流量計と、前記第2の給気バルブに接続し、前記第2の給気バルブに供給する窒素ガスを含む大気の流量を測定する第2の流量計とを備え、
前記第1の給気バルブは、前記第1の流量計の流量測定結果に基づいて前記放電管内に給気する炭酸ガスの量を調整し、
前記第2の給気バルブは、前記第2の流量計の流量測定結果に基づいて前記放電管内に給気する窒素ガスを含む大気の量を調整する請求項1に記載の炭酸ガスレーザ装置。
【請求項3】
前記第1の給気バルブから前記放電管に炭酸ガスを給気する第1の給気口の中心と前記放電管の端点との間の距離と、前記第2の給気バルブから前記放電管に窒素ガスを含む大気を給気する第2の給気口の中心と前記放電管の端点との距離とが等しい請求項1に記載の炭酸ガスレーザ装置。
【請求項4】
前記励起ガスに含まれる炭酸ガスと窒素ガスとの混合比は、前記第1の給気バルブが給気する炭酸ガスの量と前記第2の給気バルブが給気する窒素ガスを含む大気の量とで決定される請求項1に記載の炭酸ガスレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスフロータイプの炭酸ガスレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガスレーザは、高出力レーザ光を安定して出力できるガスレーザとして産業界に最も普及しているレーザであり、金属、非金属の切断、穴あけ、溶接、表面改質のみならず、医用・美容分野などの医療現場でも幅広く使用されている。
【0003】
kW級の大出力炭酸ガスレーザは、励起ガスとして炭酸ガス、窒素ガス、ヘリウムガスの混合ガスをガスボンベから放電管に供給する「ガスフロータイプ」のレーザ発振器が一般的であり、数百ワットレベル以下の中小出力炭酸ガスレーザは、これらの混合ガスを放電管内に封じ込めた「封じ切りタイプ」のレーザ発振器が一般的である。
【0004】
図4は、ガスフロータイプの従来の炭酸ガスレーザ装置21の全体構成図の一例である。炭酸ガスレーザ装置21は、両端に全反射鏡23-1と部分反射鏡23-2とを備えた放電管22内に励起ガスを封入し、第3の電極24-1と第4の電極24-2との間の放電により励起ガスを励起してレーザ光を発生させる。
【0005】
励起ガスは、炭酸ガス、窒素ガス、ヘリウムガスを主成分とする混合ガスであり、ガスボンベ27からニードルバルブ25を経由して放電管22内に給気される。
【0006】
励起ガスに含まれる窒素ガスは、効率よくレーザ光を出力するために必須なガスであり、窒素ガスが無い場合は十分なレーザ出力を得ることが出来ない。一方ヘリウムガスは、冷却作用があり励起ガスの温度上昇を抑制しレーザ出力を増大させる効果があるが、レーザ出力に多少の制限があってもよい場合は、励起ガスにヘリウムガスが含まれて無くても十分に実用的なレーザ出力を得ることは可能である。
【0007】
従来の炭酸ガスレーザ装置21では、ガスボンベ27に蓄えられた励起ガスは、ニードルバルブ25を経由して放電管22内に給気されたあと真空ポンプ(排気ポンプ)29を経由して放電管22外に排気され回収されることはない。励起ガスの多くはヘリウムガスで占められている。このため従来の炭酸ガスレーザ装置21は、動作することにより大量のヘリウムガスを消費する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60-113491公報
【特許文献2】特開平5-7033公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ヘリウムは地球上の限られた地域でしか産出されず、有限な資源であり高価なガスである。炭酸ガスレーザ装置21のようなガスフロータイプの場合は、放電管22から排気された励起ガスは回収されないため、大量のヘリウムガスを消費しランニングコストが極めて大きくなるという課題があった。
【0010】
そこで本開示では、ランニングコストを大幅に低減するために、炭酸ガスのみを含むガスボンベから供給される炭酸ガスと、取り込んだ大気に含まれる窒素ガスとを混合した励起ガスで動作する炭酸ガスレーザ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の炭酸ガスレーザ装置は、
励起ガスを収容する放電管と、
前記放電管の第1の位置に配置され、前記励起ガスの一の主成分である炭酸ガスを前記放電管内へ給気する量を調整する第1の給気バルブと、
前記放電管の第2の位置に配置され、前記励起ガスの二の主成分である窒素ガスを含む大気を前記放電管内へ給気する量を調整する第2の給気バルブと、
前記放電管から前記励起ガスを排気する量を調整する排気バルブと、を備え、
前記第1の給気バルブから給気される前記炭酸ガスと前記第2の給気バルブから給気される前記大気中の窒素ガスとを主成分とする励起ガスで動作する炭酸ガスレーザ装置である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ランニングコストを大幅に低減するために、炭酸ガスのみを含むガスボンベから供給される炭酸ガスと、取り込んだ大気に含まれる窒素ガスとを混合した励起ガスで動作する炭酸ガスレーザ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の第1の実施形態に係る第1の炭酸ガスレーザ装置の全体構成図の一例を示す図である。
【
図2】本開示の第1の実施形態に係る第1の炭酸ガスレーザ装置の第1の給気バルブおよび第2の給気バルブの互いの位置関係の一例を示す図である。
【
図3】本開示の第2の実施形態に係る第2の炭酸ガスレーザ装置の全体構成図の一例を示す図である。
【
図4】従来の炭酸ガスレーザ装置の全体構成図の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示に係る実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
(本開示の第1の実施形態)
図1に、本開示の第1の実施形態に係る第1の炭酸ガスレーザ装置1の全体構成図の一例を示す。
【0016】
本開示の第1の実施形態に係る第1の炭酸ガスレーザ装置1は、ガラスなどの誘電体よりなる放電管2、放電管2の一端と気密接合している全反射鏡3-1、放電管2の他端と気密接合している部分反射鏡3-2、放電するための一対の電極としての第1の電極4-1と第2の電極4-2、放電管2内の励起ガスの一の主成分である炭酸ガスを放電管2内に給気する第1の給気バルブ5-1、放電管2内の励起ガスの二の主成分である窒素ガスを含む大気を放電管2内に給気する第2の給気バルブ5-2、および放電管2内の励起ガスを排気する排気ブロック9を含む。
【0017】
放電管2内には、炭酸ガスおよび窒素を主成分とする励起ガスが封入されている。励起ガスの一の主成分である炭酸ガスは、第1の給気バルブ5-1を経由して放電管2内に給気される。また励起ガスの二の主成分である窒素ガスは、第2の給気バルブ5-2を経由して大気の一部として放電管2内に給気される。
【0018】
放電管2に配置される第1の電極4-1と第2の電極4-2は、一対の相対する放電用電極であり、図示しない電源から第1の電極4-1に印加されることにより、第1の電極4-1と第2の電極4-2との間で放電が行われる。この放電により、放電管2内に封入されている励起ガスは励起され、その結果発生したレーザ光が、全反射鏡3-1および部分反射鏡3-2との間で反射を繰り返すことで増幅され、部分反射鏡3-2から外部に出力される。
【0019】
第1の給気バルブ5-1は、放電管2の第1の位置に配置され、第1のチューブ6-1を介して接続されているガスボンベ7から給気される炭酸ガスの流量を調整するためのバルブである。また第2の給気バルブ5-2は、放電管2の第2の位置に配置され、第2のチューブ6-2を介して接続されているフィルター8-1から給気される大気の流量を調整するためのバルブである。
第1の給気バルブ5-1および第2の給気バルブ5-2の開閉は、手動によるものあるいは制御手段を用いた自動制御によるものであってもよい。
【0020】
第1の給気バルブ5-1の配置位置と第2の給気バルブ5-2の配置位置は、互いに任意の位置関係でよいが、放電管2の端点から等距離の位置に配置されることが望ましい。
【0021】
図2に、本開示の第1の実施形態に係る第1の炭酸ガスレーザ装置1の第1の給気バルブ5-1および第2の給気バルブ5-2の互いの位置関係の一例を示す。第1の給気バルブ5-1から放電管2に通じる部分を第1の給気口5-3とし、第2の給気バルブ5-2から放電管2に通じる部分を第2の給気口5-4とすると、
図2は、第1の給気口5-3の中心点(黒丸の点)と放電管2の一方の端点との間の距離d1と、第2の給気口5-4の中心点(黒丸の点)と放電管2の一方の端点との間の距離d2とが等しい場合の一例を示している。
【0022】
図2に示すように本開示の第1の実施形態に係る第1の炭酸ガスレーザ装置1は、炭酸ガスが放電管2内に給気される第1の給気口5-3と大気に含まれる窒素ガスが放電管2内に給気される第2の給気口5-4とを対向させることで、給気された炭酸ガスと窒素ガスの撹拌性が向上しより均一に混合した励起ガスを放電管2内に封入することが可能となる。
【0023】
さらに第1の給気口5-3と第2の給気口5-4との間に、第1の給気口5-3から給気される炭酸ガスと第2の給気口5-4から給気される大気に含まれる窒素ガスとを均一に混合させるために、撹拌手段10を備えても良い。撹拌手段10は、例えば羽根車と羽根車を回転するモーターとから構成されていてもよい。
図2は、撹拌手段10を、第1の給気口5-3と第2の給気口5-4との中間に備えた場合の一例を示している。
【0024】
ガスボンベ7は、炭酸ガスのみを蓄えている炭酸ガスボンベである。ガスボンベ7に蓄積されている炭酸ガスは、第1のチューブ6-1を介して第1の給気バルブ5-1に給気される。
【0025】
フィルター8-1は、外気を放電管2内に取り込むための開口部8-2と接続されており、開口部8-2から流入した大気中のゴミ等の不純物を取り除くフィルターである。
【0026】
排気ブロック9は、放電管2に配置される排気バルブ9-1と真空ポンプ(排気ポンプ)9-2とを備える。排気ブロック9は、排気バルブ9-1を開き真空ポンプ(排気ポンプ)9-2を稼働させ、放電管2内の気体を外部に排気することで、放電管2内部を陰圧にする。
次に励起ガスの流れについて説明する。
【0027】
第1の給気バルブ5-1および第2の給気バルブ5-2を閉じた状態で、排気バルブ9-1を開き、真空ポンプ(排気ポンプ)9-2を動作させると、放電管2内は真空排気される。この真空排気された状態で、第1の給気バルブ5-1および第2の給気バルブ5-2を開く。これにより真空排気されている放電管2内に、ガスボンベ7に蓄えられている炭酸ガスと大気中に含まれる窒素ガスとが所定量給気され、互いに混合して励起ガスとして放電管2内に封入される。
【0028】
励起ガスに含まれる炭酸ガスと窒素ガスとの混合比は、所定の値として決められている。この所定の混合比になるように、第1の給気バルブ5-1と第2の給気バルブ5-2との開く量を調整する。
【0029】
また励起ガスに含まれる炭酸ガスと窒素ガスとの混合比の所定の値は、複数種類あってもよい。本開示の第1の実施形態に係る第1の炭酸ガスレーザ装置1は、励起ガスに含まれる炭酸ガスと窒素ガスの混合比を変える場合、第1の給気バルブ5-1から給気される炭酸ガスの量と第2の給気バルブ5-2から給気される窒素ガスの量だけを調整すればよく、ガスボンベ7の付け替えは不要である。したがって本開示の第1の実施形態に係る第1の炭酸ガスレーザ装置1は、励起ガスに含まれる炭酸ガスと窒素ガスの混合比を非常に簡易に変えることが可能である。
【0030】
放電管2内に励起ガスが必要量封入されると第1の炭酸ガスレーザ装置1は、図示しない電源から第1の電極4-1に印加されることにより、第1の電極4-1と第2の電極4-2との間で放電が行われ、この放電により励起ガスは励起されレーザが出力される。
【0031】
以降第1の電極4-1と第2の電極4-2との間で放電が行われている間は、励起により高温となった励起ガスは、排気ブロック9の真空ポンプ(排気ポンプ)9-2により排気され、排気ブロック9の排気により不足した励起ガスは、第1の給気バルブ5-1から炭酸ガスが給気され、第2の給気バルブ5-2から窒素ガスが給気されることにより、放電管2内に励起ガスが入れ替わり充填される。
排気ブロック9から排気される励起ガスの量は、放電管2内部が適切な陰圧になるように、排気バルブ9-1の開く量によって調整される。
【0032】
以上のように、本開示の第1の実施形態に係る第1の炭酸ガスレーザ装置1は、励起ガスにヘリウムガスを含まないためレーザ出力に多少の制限はあるが、炭酸ガスのみが蓄えられたガスボンベ7から給気される炭酸ガスと取り込んだ大気に含まれる窒素ガスとを主成分として励起ガスとするため、ランニングコストを大幅に低減することが可能となる。
【0033】
(本開示の第2の実施形態)
図3に、本開示の第2の実施形態に係る第2の炭酸ガスレーザ装置11の全体構成図の一例を示す。
【0034】
第2の炭酸ガスレーザ装置11は、第1の炭酸ガスレーザ装置1に対して、第1の給気バルブ5-1とガスボンベ7との間に第1の流量計12-1を追加し、第2の給気バルブ5-2と開口部8-2との間に第2の流量計12-2を追加したものである。
【0035】
第1の流量計12-1および第2の流量計12-2を加えることで、第1の給気バルブ5-1を流れる炭酸ガスの量および第2の給気バルブ5-2を流れる窒素ガスの量を定量的に把握することが可能となり、炭酸ガスの流量を絞り込むための第1の給気バルブ5-1の調整および窒素ガスの流量を絞り込むための第2の給気バルブ5-2の開閉量の調整を容易に行うことが可能となる。
【0036】
例えば、制御手段の制御により、第1の給気バルブ5-1は、第1の流量計12-1の流量測定結果に基づいて放電管2内に給気する炭酸ガスの量を調整し、第2の給気バルブ5-2は、第2の流量計12-2の流量測定結果に基づいて放電管2内に給気する窒素ガスを含む大気の量を調整する。
【0037】
本開示のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
1:第1の炭酸ガスレーザ装置
2:放電管
3-1:全反射鏡
3-2:部分反射鏡
4-1:第1の電極
4-2:第2の電極
5-1:第1の給気バルブ
5-2:第2の給気バルブ
5-3:第1の給気口
5-4:第2の給気口
6-1:第1のチューブ
6-2:第2のチューブ
7:ガスボンベ
8-1:フィルター
8-2:開口部
9:排気ブロック
9-1:排気バルブ
9-2:真空ポンプ(排気ポンプ)
10:攪拌手段
11:第2の炭酸ガスレーザ装置
12-1:第1の流量計
12-2:第2の流量計
21:従来の炭酸ガスレーザ装置
22:放電管
23-1:全反射鏡
23-2:部分反射鏡
24-1:第3の電極
24-2:第4の電極
25:ニードルバルブ
27:ガスボンベ
29:真空ポンプ(排気ポンプ)