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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024907
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】硬化性組成物、硬化物および接合体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240216BHJP
   C08G 85/00 20060101ALI20240216BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20240216BHJP
   C08F 299/06 20060101ALI20240216BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240216BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240216BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20240216BHJP
   C09J 175/14 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C08L101/00
C08G85/00
C08G59/40
C08F299/06
C09J201/00
C09J163/00
C09J4/02
C09J175/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127889
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 千亜紀
(72)【発明者】
【氏名】栗村 啓之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J031
4J036
4J040
4J127
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002BG041
4J002CD051
4J002GJ01
4J031CA34
4J031CA69
4J031CB02
4J031CB09
4J036AA01
4J036AD08
4J036AJ14
4J036CB21
4J036CB23
4J036EA09
4J036HA12
4J036JA06
4J040EC001
4J040EF181
4J040FA131
4J040HC23
4J040KA11
4J040KA16
4J040KA23
4J040KA42
4J040MA02
4J040MA10
4J040MB05
4J040NA16
4J127BB031
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD471
4J127BG141
4J127BG14Y
4J127CA01
4J127DA23
4J127DA24
4J127DA52
4J127FA14
(57)【要約】
【課題】自動車製造における物品同士の接着に好ましく用いられる硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】150℃で1時間加熱し、続いて200℃で2時間加熱することで得られる硬化物を、以下[測定条件]に記載の条件で動的粘弾性測定することで得られる、横軸が温度T、縦軸が損失正接tanδであるグラフにおいて、温度Tが-70~70℃の領域と120~220℃の領域との両方に極大が認められる、硬化性組成物。[測定条件]測定温度範囲:-100~250℃、昇温速度:2℃/分、周波数:1Hz、振動モード:引張モード
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性組成物であって、
当該硬化性組成物を、150℃で1時間加熱し、続いて200℃で2時間加熱することで得られる硬化物を、以下[測定条件]に記載の条件で動的粘弾性測定することで得られる、横軸が温度T、縦軸が損失正接tanδであるグラフにおいて、温度Tが-70~70℃の領域と120~220℃の領域との両方に極大が認められる、硬化性組成物。
[測定条件]
測定温度範囲:-100~250℃
昇温速度:2℃/分
周波数:1Hz
振動モード:引張モード
【請求項2】
請求項1に記載の硬化性組成物であって、
第1モノマーと、前記第1モノマーとは異なる第2モノマーとを含む、硬化性組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の硬化性組成物であって、
前記第1モノマーを硬化させることが可能な第1硬化剤と、
前記第1の硬化剤とは異なり、前記第2モノマーを硬化させることが可能な第2硬化剤と、
を含む硬化性組成物。
【請求項4】
請求項2または3に記載の硬化性組成物であって、
前記第1モノマーがエポキシ樹脂を含み、
前記第2モノマーが多官能(メタ)アクリレートを含む、硬化性組成物。
【請求項5】
請求項2または3に記載の硬化性組成物であって、
前記第2モノマーがウレタン(メタ)アクリレートを含む、硬化性組成物。
【請求項6】
請求項2または3に記載の硬化性組成物であって、
前記第1モノマーが脂環構造および芳香環構造からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含み、
前記第2モノマーが、ポリエーテル構造、ポリブタジエン構造、ポリイソプレン構造、ポリシロキサン構造およびポリエステル構造からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、硬化性組成物。
【請求項7】
請求項2または3に記載の硬化性組成物であって、
前記第1モノマー100質量部に対する前記第2モノマーの量が、75~300質量部である、硬化性組成物。
【請求項8】
請求項3に記載の硬化性組成物であって、
前記第1硬化剤が、イミダゾール系化合物およびジシアンジアミド系化合物からなる群より選択される少なくともいずれかを含み、
前記第2硬化剤が、ラジカル重合開始剤を含む、硬化性組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の硬化性組成物であって、
前記グラフにおける損失正接tanδの2つの極大の極大値が、ともに0.10~1.00である、硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載の硬化性組成物であって、
前記硬化物の、JIS K 7161-1:2014に準じて測定される、80℃での引張弾性率が、100~2000MPaである、硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載の硬化性組成物であって、
前記硬化物の、JIS K 7161-1:2014に準じて測定される-40℃での引張伸び率が、20~100%である、硬化性組成物。
【請求項12】
請求項1または2に記載の硬化性組成物であって、
前記硬化物の、JIS K 7136:2000に従って測定されるヘーズが50%以下である、硬化性組成物。
【請求項13】
請求項1または2に記載の硬化性組成物であって、
前記硬化性組成物を用いて接着した冷間圧延鋼板について、JIS K 6850に準じて測定される引張せん断強度が、5.0~35MPaである、硬化性組成物。
【請求項14】
請求項1または2に記載の硬化性組成物であって、
熱硬化性である、硬化性組成物。
【請求項15】
請求項1または2に記載の硬化性組成物であって、
接着剤として用いられる、硬化性組成物。
【請求項16】
請求項1または2に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項17】
第1の構造部材と、
第2の構造部材と、
前記第1の構造部材と前記第2の構造部材とを接合する、請求項1または2に記載の硬化性組成物の硬化物と、を含む接合体。
【請求項18】
請求項17に記載の接合体であって、
自動車の構成部材である接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、硬化物および接合体に関する。より具体的には、特定の粘弾性特性を示す硬化性組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性組成物については、その工業的重要性から、これまで様々な観点での改良検討が行われてきている。
【0003】
硬化性組成物の重要な用途の1つとして、物品同士を接合する接着剤への応用がある。最近、自動車の製造において部品同士を硬化性組成物により接合するニーズが高まっている。
【0004】
特許文献1には、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するアクリルモノマーと、2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂と、エポキシ基及び(メタ)アクリロイル基のいずれとも反応する求核性反応基を有する化合物を含む硬化剤と、ブロック共重合体エラストマーと、を含む接着剤が記載されている。この接着剤において、ブロック共重合体エラストマーは、(i)単独で重合したときに80℃以上のガラス転移温度を有するホモポリマーを形成する第一のモノマーに由来するモノマー単位を含む第一のブロックと、(ii)単独で重合したときに-30℃以下のガラス転移温度を有するホモポリマーを形成する第二のモノマーに由来するモノマー単位を含む第二のブロックとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-191826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
硬化性組成物を自動車製造における物品同士の接着に適用する場合、硬化性組成物の硬化物は、自動車の過酷な使用環境に耐えることが求められる。一例として、自動車製造における物品同士の接着に適用される硬化性組成物の硬化物は、低温において破断しづらく、かつ、高温においても高い弾性率を示すことが好ましい。別の例として、自動車製造における物品同士の接着に適用される硬化性組成物の硬化物は、ヒートショックを受けた後においても十分な接着性能を有していることが好ましい。
しかし、本発明者らの知見によれば、従来の硬化性組成物には、上記の観点において改善の余地があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、自動車製造における物品同士の接着に好ましく用いられる硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0009】
本発明は、以下である。
1.
硬化性組成物であって、
当該硬化性組成物を、150℃で1時間加熱し、続いて200℃で2時間加熱することで得られる硬化物を、以下[測定条件]に記載の条件で動的粘弾性測定することで得られる、横軸が温度T、縦軸が損失正接tanδであるグラフにおいて、温度Tが-70~70℃の領域と120~220℃の領域との両方に極大が認められる、硬化性組成物。
[測定条件]
測定温度範囲:-100~250℃
昇温速度:2℃/分
周波数:1Hz
振動モード:引張モード
2.
1.に記載の硬化性組成物であって、
第1モノマーと、前記第1モノマーとは異なる第2モノマーとを含む、硬化性組成物。
3.
2.に記載の硬化性組成物であって、
前記第1モノマーを硬化させることが可能な第1硬化剤と、
前記第1の硬化剤とは異なり、前記第2モノマーを硬化させることが可能な第2硬化剤と、
を含む硬化性組成物。
4.
2.または3.に記載の硬化性組成物であって、
前記第1モノマーがエポキシ樹脂を含み、
前記第2モノマーが多官能(メタ)アクリレートを含む、硬化性組成物。
5.
2.~4.のいずれかに記載の硬化性組成物であって、
前記第2モノマーがウレタン(メタ)アクリレートを含む、硬化性組成物。
6.
2.~5.のいずれかに記載の硬化性組成物であって、
前記第1モノマーが脂環構造および芳香環構造からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含み、
前記第2モノマーが、ポリエーテル構造、ポリブタジエン構造、ポリイソプレン構造、ポリシロキサン構造およびポリエステル構造からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、硬化性組成物。
7.
2.~6.のいずれかに記載の硬化性組成物であって、
前記第1モノマー100質量部に対する前記第2モノマーの量が、75~300質量部である、硬化性組成物。
8.
3.に記載の硬化性組成物であって、
前記第1硬化剤が、イミダゾール系化合物およびジシアンジアミド系化合物からなる群より選択される少なくともいずれかを含み、
前記第2硬化剤が、ラジカル重合開始剤を含む、硬化性組成物。
9.
1.~8.のいずれかに記載の硬化性組成物であって、
前記グラフにおける損失正接tanδの2つの極大の極大値が、ともに0.10~1.00である、硬化性組成物。
10.
1.~9.のいずれかに記載の硬化性組成物であって、
前記硬化物の、JIS K 7161-1:2014に準じて測定される、80℃での引張弾性率が、100~2000MPaである、硬化性組成物。
11.
1.~10.のいずれかに記載の硬化性組成物であって、
前記硬化物の、JIS K 7161-1:2014に準じて測定される-40℃での引張伸び率が、20~100%である、硬化性組成物。
12.
1.~11.のいずれかに記載の硬化性組成物であって、
前記硬化物の、JIS K 7136:2000に従って測定されるヘーズが50%以下である、硬化性組成物。
13.
1.~12.のいずれかに記載の硬化性組成物であって、
前記硬化性組成物を用いて接着した冷間圧延鋼板について、JIS K 6850に準じて測定される引張せん断強度が、5.0~35MPaである、硬化性組成物。
14.
1.~13.のいずれかに記載の硬化性組成物であって、
熱硬化性である、硬化性組成物。
15.
1.~14.のいずれかに記載の硬化性組成物であって、
接着剤として用いられる、硬化性組成物。
16.
1.~15.のいずれかに記載の硬化性組成物の硬化物。
17.
第1の構造部材と、
第2の構造部材と、
前記第1の構造部材と前記第2の構造部材とを接合する、1.~15.のいずれかに記載の硬化性組成物の硬化物と、を含む接合体。
18.
17.に記載の接合体であって、
自動車の構成部材である接合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬化性組成物は、自動車製造における物品同士の接着に好ましい特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の試験片の、温度T-損失正接tanδのグラフである。
図2】比較例1の試験片の、温度T-損失正接tanδのグラフである。
図3】実施例1の試験片の透過電子顕微鏡画像である。
図4】比較例1の試験片の透過電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「官能」との表記は、反応性基を表すこともある。
【0013】
<硬化性組成物>
以下のような動的粘弾性測定を考える。
【0014】
硬化性組成物を、150℃で1時間加熱し、続いて200℃で2時間加熱することで得られる硬化物を、以下[測定条件]に記載の条件で動的粘弾性測定する。そして、この測定結果に基づき、横軸が温度T、縦軸が損失正接tanδであるグラフを得る。このとき、硬化物のサイズは、例えば0.5mm×5.0mm×40mmの短冊状とすることができる。
[測定条件]
測定温度範囲:-100~250℃
昇温速度:2℃/分
周波数:1Hz
振動モード:引張モード
【0015】
硬化性組成物として本実施形態の硬化性組成物を用いた場合、上記グラフにおいて、温度Tが-70~70℃の領域と120~220℃の領域との両方に極大が認められる。
【0016】
本実施形態の硬化性組成物、すなわち、硬化物を粘弾性測定したときに温度Tが-70~70℃の領域と120~220℃の領域との両方にtanδの極大が認められる硬化性組成物は、自動車製造における物品同士の接着に好ましく用いられる。この理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように説明することができる。
【0017】
過去の知見によれば、硬化物の動的粘弾性を測定したときにtanδが極大を示す温度は、測定系のガラス転移温度によく対応する。上記グラフに「2つの極大」が認められるということは、硬化性組成物の硬化物中に、熱運動性が異なる2種類の(またはそれ以上の)架橋構造が存在し、それが緩和したことを意味すると言える。
つまり、本実施形態の硬化性組成物の硬化物中には、(i)-70~70℃という比較的低温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造と、(ii)120~220℃という比較的高温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造と、の両方が含まれていると解釈することができる。このような2種の架橋構造が硬化物中に含まれることにより、本実施形態の硬化性組成物の硬化物は、従来技術では両立が難しいとされていた低温から高温の幅広い温度領域で高い応力緩和性を示し、自動車製造における物品同士の接着に好ましい特性を奏するものと考えられる。
【0018】
本実施形態の硬化性組成物は、以下に詳述するように、好ましくは、第1モノマー、および、第1モノマーとは異なる第2モノマーを用いることにより製造することができる。また、本実施形態の硬化性組成物は、より好ましくは、第1モノマーを硬化させることが可能な第1硬化剤、および、第2モノマーを硬化させることが可能な第2硬化剤を含む。
【0019】
ただし、上記原材料を用いれば必ず本実施形態の硬化性組成物を製造できるということではない。本実施形態の硬化性組成物は、各成分の化学構造や量を適切に選択することによって製造することができる。
【0020】
また、本実施形態の硬化性組成物を製造するにあたっては、適切な製造条件を採用することにより、各成分を十分に均一に混合することが好ましい。適切な原材料を用いたとしても、製造条件が不適切である場合、上述の粘弾性特性を満たす硬化性組成物を製造できない場合がある。製造条件の詳細については追って述べる。
【0021】
以下、本実施形態の硬化性組成物が含むことができる成分を説明する。
【0022】
(第1モノマー)
本実施形態の硬化性組成物は、1または2以上の、単官能モノマーおよび多官能モノマーからなる群より選ばれる1種以上である第1モノマーを含むことができる。ここで「単官能」とは、1官能をいう。
本実施形態の硬化性組成物は、1または2以上の多官能モノマーを含むことが好ましい。ここで「多官能」とは、通常2官能以上、好ましくは2~8官能、より好ましくは2~6官能、さらに好ましくは2~4官能、特に好ましくは2~3官能、とりわけ好ましくは2官能である。第1モノマーが多官能すぎないことにより、硬化性組成物の硬化物が硬くなりすぎず、自動車製造における物品同士の接着に好ましい特性を発揮しやすい傾向がある。
【0023】
第1モノマーは、例えば、1分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物を含むことができる。第1モノマーは、好ましくは、エポキシ樹脂を含む。エポキシ基を有する第1モノマーを用いることにより、本実施形態の硬化性組成物を、適度な加熱温度および加熱時間により硬化可能とすることができる。また、第1モノマーがエポキシ基を有する化合物を含むことで、硬化物を動的粘弾性測定したときに120~220℃の範囲内にtanδの極大がある硬化性組成物を設計しやすくなる。
【0024】
上記と別観点として、第1モノマーは、好ましくは、脂環構造および芳香環構造からなる群より選ばれる少なくともいずれかの環状構造を含む。第1モノマーがこのような剛直な化学構造を有することで、硬化物の耐熱性を一層高められる場合がある。耐熱性の一層の向上の点では、環状構造は、多環構造を含むことが好ましい。好ましい環状構造としてはナフタレン構造を挙げることができる。ただし、諸性能のバランスやコスト等の点では、第1モノマーとしてベンゼン環等の単環の環状構造を有するものを用いるほうが好ましい場合もある。
【0025】
第1モノマーの具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂等が挙げられる。
ここで、例えば「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」とは、ビスフェノールAに由来する骨格を有するエポキシ樹脂のことを意味する。他のエポキシ樹脂についても同様である。
【0026】
(第1硬化剤)
本実施形態の硬化性組成物は、好ましくは、1または2以上の、第1モノマーを硬化させることが可能な第1硬化剤を含む。第1モノマーを硬化させることが可能な限り、第1硬化剤の種類は限定されない。第1モノマーとしてエポキシ基含有化合物を用いる場合、エポキシ樹脂の硬化剤として公知の硬化剤を適宜用いることができる。エポキシ樹脂の硬化剤は、重付加型硬化剤であってもよいし、触媒型硬化剤であってもよい。エポキシ樹脂の硬化剤として具体的には、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ジシアミンジアミドのようなアミノ基を有する化合物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物のような酸無水物、フェノール樹脂のようなフェノール化合物(フェノール系硬化剤)、イミダゾール化合物等を挙げることができる。
【0027】
第1硬化剤は、好ましくは、イミダゾール系化合物およびジシアンジアミド系化合物からなる群より選択される少なくともいずれかを含む。本発明者らの知見によれば、特にこれら硬化剤を用いることで、本実施形態の硬化性組成物を接着剤として用いる場合の硬化条件において、(i)第1モノマーの硬化速度と、(ii)後掲の第2モノマー(好ましくは多官能(メタ)アクリレート)の硬化速度と、を「揃える」ことができると考えられる。これら(i)および(ii)の硬化速度が揃うことにより、前述の「比較的低温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」と「比較的高温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」とが、硬化物中で均質・連続的に存在しやすくなると考えられる。その結果、硬化物の性能を、自動車製造における物品同士の接着に一層好ましいものとすることができると考えられる。
【0028】
イミダゾール系化合物としては、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート等を挙げることができる。
ジシアンジアミド系化合物としては、ジシアンジアミドまたはその誘導体を挙げることができる。ジシアンジアミドの誘導体としては、例えばジシアンジアミドと、エポキシ樹脂、ビニル化合物、アクリル化合物、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド等の各種化合物を結合させたものが挙げられる。
【0029】
(第2モノマー)
本実施形態の硬化性組成物は、1または2以上の、単官能モノマーおよび多官能モノマーからなる群より選ばれる1種以上である第2モノマーを含むことができる。ここで、第2モノマーが、第1モノマーと「異なる」とは、第2モノマーの化学構造が第1モノマーのそれとは異なるということを意味する。
第2モノマーは、第1モノマーとは異なるものである限り、特に限定されない。ここで、第2モノマーが、第1モノマーと「異なる」とは、第2モノマーの化学構造が第1モノマーのそれとは異なるということを意味する。
第2モノマーは、好ましくは、第1モノマーが有する反応性基とは異なる反応性基を有する。例えば、第1モノマーが反応性基としてエポキシ基を有する場合、第2モノマーは反応性基としてエポキシ基以外の官能基であることが好ましい。「エポキシ基以外の官能基」としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の重合性炭素-炭素二重結合含有基であることができる。
【0030】
第2モノマーは、好ましくは多官能モノマーを含み、より好ましくは多官能(メタ)アクリレートを含む。ここで「多官能」とは、通常2官能以上、好ましくは2~8官能、より好ましくは2~6官能、さらに好ましくは2~4官能、特に好ましくは2~3官能、とりわけ好ましくは2官能である。第2モノマーが多官能すぎないことにより、硬化性組成物の硬化物が硬くなりすぎず、自動車製造における物品同士の接着に好ましい特性を発揮しやすい傾向がある。
第2モノマーとして多官能(メタ)アクリレートを用いることにより、本実施形態の硬化性組成物を、適度な加熱温度および加熱時間により硬化可能とすることができる。また、第2モノマーが多官能(メタ)アクリレートを含むことで、硬化物を動的粘弾性測定したときに-70~70℃の範囲内にtanδの極大がある硬化性組成物を設計しやすくなる。
【0031】
特に、第1モノマーとしてエポキシ基含有化合物を用いる場合、第2モノマーとして多官能(メタ)アクリレートを用いることで、お互いの重合反応が阻害せずに進行し、硬化性組成物の硬化物中に、前述の「比較的低温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」と「比較的高温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」とを共存させやすくなると考えられる。そしてその結果、硬化物の性能を、自動車製造における物品同士の接着に一層好ましいものとすることができると考えられる。
【0032】
硬化物が低温においても柔軟であり、低温における破断を特に抑制する観点から、第2モノマーは、以下(i)および(ii)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。このような第2モノマーは、熱運動しやすい柔軟な化学構造を含む。よって、このような第2モノマーを用いることで、低温における硬化物の柔軟性を一層高められる傾向がある。また、このような第2モノマーを用いることで、硬化物を動的粘弾性測定したときに-70~70℃の範囲内にtanδの極大がある硬化性組成物を一層設計しやすくなる。
(i)第2モノマーは、ウレタン(メタ)アクリレートを含む。
(ii)第2モノマーは、ポリエーテル構造、ポリブタジエン構造、ポリイソプレン構造、ポリシロキサン構造およびポリエステル構造からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む。
【0033】
「ウレタン(メタ)アクリレート」とは、ウレタン結合と(メタ)アクリロイル基とを有する化合物である。硬化物の適度な柔軟性の観点から、ウレタン(メタ)アクリレートは、好ましくは2官能である。
ウレタン(メタ)アクリレートは、ウレタン結合と(メタ)アクリロイル基のほか、ソフトセグメントと呼ばれる柔軟な骨格を有することが好ましい。ポリイソシアネート(好ましくはジイソシアネート)とポリオール(好ましくはジオール)とを反応させてウレタン結合を形成する際に、ソフトセグメント構造を有するポリオールを用いることで、ウレタン(メタ)アクリレート中にソフトセグメントを導入することができる。ソフトセグメントの構造の具体例としては、前述の、ポリエーテル構造、ポリブタジエン構造、ポリイソプレン構造、ポリシロキサン構造、ポリエステル構造からなる群より選ばれる少なくともいずれかを挙げることができる。これらの構造の中でも、化合物の入手容易性やコストの観点等から、ポリエーテル構造が好ましい。ポリエーテル構造の具体例としては、ポリエチレンオキシ構造、ポリプロピレンオキシ構造等のポリアルキレンオキシ構造を挙げることができる。
【0034】
ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリマーまたはオリゴマーであることができる。
ウレタン(メタ)アクリレートがポリマーまたはオリゴマーである場合、ウレタン(メタ)アクリレートの数平均分子量は、例えば3000~20000、好ましくは4000~15000である。数平均分子量は、例えばサイズ排除クロマトグラフィーによる測定を通じて求めることができる。
サイズ排除クロマトグラフィーによる数平均分子量の測定方法として、以下が挙げられる。下記の条件にて、溶剤としてテトラヒドロフランを用い、GPCシステム(東ソー社製HLC-8320GPC)を使用し、市販の標準ポリスチレン検量線を作成して求めることができる。
流速:1.0ml/min
設定温度:40℃
カラム構成:東ソー社製「GMHHR-H」を2本直列接続。
サンプル注入量:100μl(試料液濃度1mg/ml)
検出器:RI検出器
【0035】
ウレタン(メタ)アクリレートがポリマーまたはオリゴマーである場合、ウレタン(メタ)アクリレートの硬化物のガラス転移温度は、例えば-80~50℃、好ましくは-70~50℃、より好ましくは-65~30℃である。ここで、ウレタン(メタ)アクリレートの「硬化物」とは、ウレタン(メタ)アクリレート97質量部と、光開始剤(IGM Resins B.V製、Omnirad 651)3質量部との混合物に、メタルハライドランプで硬化に十分な量の紫外線を照射することにより得ることができる。
このガラス転移温度が適当なウレタン(メタ)アクリレートを用いることで、硬化性組成物の硬化物の柔軟性等の性能を一層高めることができる場合がある。ガラス転移温度は、例えば動的粘弾性測定を通じて求めることができる。測定されたガラス転移温度の値がブロードであるために一義的にガラス転移温度を決められない場合は、測定されたガラス転移温度の下限値をT、上限値をTとして、(T+T)/2の値をガラス転移温度とみなす。
動的粘弾性によるガラス転移温度の測定方法として、以下が挙げられる。
作製した混合物を、1mm厚のシリコンシートを型枠とし、PETフィルムに挟み込む。そして、混合物を、メタルハライドランプにより、365nmの波長の積算光量500mJ/cmの条件にて上面から硬化させる。その後、更に下から365nmの波長の積算光量500mJ/cmの条件にて硬化させ、厚さ1mmの混合物の硬化物を作製する。作製した硬化物をカッターにて長さ50mm幅5mmに切断しガラス転移温度測定用硬化体とする。SII社製の動的粘弾性測定装置「DMS7100」を用いて、窒素雰囲気中にて硬化体に1Hzの引張方向の応力及び歪みを加え、昇温速度毎分2℃の割合で-150℃から250℃まで昇温しながらtanδを測定する。そしてtanδのピークトップの温度をガラス転移温度とする。
【0036】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては市販品が使用できる。市販品としては以下を挙げることができる。
【0037】
根上工業社製の、UN-350、UN-352、UN353、UN-1255、UN-2600、UN-2700、UN-5500、UN-5590、UN-5507、UN-6060PTM、UN-6060S、UN-6200、UN-6202、UN-6303、UN-6304、UN-6305、UN-6306、UN-6307、UN-7600、UN-7700、UN-9000PEP、UN-9200A、UN-3320HA、UN-3320HC、UN-3320HS、UN-904、UN-906S、UN-901T、UN-905、UN-952等。
【0038】
ダイセル・オルネクス社製の、EBECRYL 210、EBECRYL 220、EBECRYL 4500、EBECRYL 230、EBECRYL 270、EBECRYL 280/15IB、EBECRYL 284、EBECRYL 4491、EBECRYL 4683、EBECRYL 4858、EBECRYL 8307、EBECRYL 8402、EBECRYL 8411、EBECRYL 8413、EBECRYL 8804、EBECRYL 8807、EBECRYL 9270、EBECRYL 7735、KRM8961、EBECRYL 8800、EBECRYL 1259、294/25HD、EBECRYL 4100、EBECRYL 4220、EBECRYL 4513、EBECRYL 4740、EBECRYL 4820、EBECRYL 8311、EBECRYL 8465、EBECRYL 9260、EBECRYL 8701、EBECRYL 8667、EBECRYL 8701、KRM 8667、KRM 8296、EBECRYL 4587、EBECRYL 4200、EBECRYL 4666、EBECRYL 4680、EBECRYL 8210、EBECRYL 8405、KRT 8528、EBECRYL 1290、EBECRYL 5129、EBECRYL 8254、EBECRYL 8301R、KRM 8200、KRM 8200AE、KRM 8530、KRM 8904、KRM 8531BA、KRM 8452等。
【0039】
共栄社化学株式会社の、AH-600、UA-306H、UA-306T、UA-306I、UA-510H、UF-8001G、DAUA-167、BPZA-66、UF-C052、UF-07DF等。
【0040】
アルケマ株式会社の、CN9004、CN8899、CN966、CN9021、CN973、CN9023、CN972、CN965、CN9782等。
【0041】
ウレタン(メタ)アクリレート以外の好ましい第2モノマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレートには該当しないが、ポリエーテル構造、ポリブタジエン構造、ポリイソプレン構造、ポリシロキサン構造、ポリエステル構造およびポリウレタン構造からなる群より選ばれる少なくともいずれか(ソフトセグメント構造)を含む多官能(メタ)アクリレートを挙げることができる。
このような多官能(メタ)アクリレートしては、例えば、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の、(メタ)アクリル酸とポリアルキレングリコールのジエステルを挙げることができる。
【0042】
(第2硬化剤)
本実施形態の硬化性組成物は、好ましくは、1または2以上の、第2モノマーを硬化させることが可能な第2硬化剤を含む。第2モノマーを硬化させることが可能な限り、第2硬化剤の種類は限定されない。特に第2モノマーとして多官能(メタ)アクリレートを用いる場合、第2硬化剤は、好ましくは、ラジカル重合開始剤を含む。
【0043】
適切な第2硬化剤を選択することで、本実施形態の硬化性組成物を接着剤として用いる場合の硬化条件において、(i)第1モノマーの硬化速度と、(ii)第2モノマーの硬化速度と、を「揃える」ことができると考えられる。これら2つの硬化速度が揃うことにより、前述の「比較的低温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」と「比較的高温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」とが、硬化物中で均質・連続的に存在しやすくなると考えられる。その結果、硬化物の性能を、自動車製造における物品同士の接着に一層好ましいものとすることができると考えられる。
【0044】
ラジカル重合開始剤としては、熱または光によりラジカルが発生する化合物を特に制限なく用いることができる。硬化性組成物を自動車製造における接着剤として用いることを考慮すると、ラジカル重合開始剤は、熱によりラジカルが発生する化合物(熱ラジカル重合開始剤)であることが好ましい。
【0045】
熱ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、すなわちペルオキシド構造を有する化合物や過カルボン酸構造を有する化合物を挙げることができる。本実施形態においては特にペルオキシ酸エステルを好ましく挙げることができる。
【0046】
好ましい熱ラジカル重合開始剤として具体的には、t-アミルペルオキシベンゾエート(t-ペンチルペルオキシベンゾエート)、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、t-ヘキシルペルオキシモノイソプロピルカーボネート、t-アミルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート、ジベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0047】
(各成分の量/比率)
第1モノマーと第2モノマーとの量比を適切とすることで、硬化性組成物の硬化物の2つのtanδの極大温度を所望の数値範囲内に設計しやすい。そして、ひいては硬化性組成物の性能を向上させやすい。
第1モノマー100質量部に対する第2モノマーの量は、好ましくは75~300質量部、より好ましくは85~275質量部、さらに好ましくは95~250質量部である。
【0048】
第1硬化剤を用いる場合、その量は、第1モノマー100質量部に対して、特に、第1モノマー100質量部に対して、好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは0.2~12質量部、さらに好ましくは0.5~10質量部である。
第2硬化剤を用いる場合、その量は、第2モノマー100質量部に対して、特に、第2モノマー100質量部に対して、好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは0.2~12質量部、さらに好ましくは0.3~10質量部である。
【0049】
各多官能モノマーに対する各硬化剤の量を適切に調整することで、硬化反応が適切に制御されると考えられる。そして、前述の「比較的低温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」と「比較的高温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」とが、硬化物中で均質・連続的に存在しやすくなると考えられる。その結果、硬化物の性能を、自動車製造における物品同士の接着に一層好ましいものとすることができると考えられる。
【0050】
(その他成分)
本実施形態の硬化性組成物は、上記以外の任意の成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。任意の成分としては、例えば以下を挙げることができる。
・充填剤:シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ等。充填剤は寸法安定性のために用いられることがある。
・エラストマー:ニトリルブタジエンラバー。MBS樹脂等。エラストマーは靭性付与のため添加されることがある。
・シランカップリング剤、界面活性剤、密着付与剤等。
・粘度調整用に、単官能エポキシモノマーや単官能(メタ)アクリルモノマーが添加されることがある。
【0051】
本実施形態の硬化性組成物は、有機溶剤等の溶剤を含むことを排除しないが、基本的には溶剤を含まなくてもよい。
【0052】
前述の「比較的低温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」と「比較的高温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」を硬化物中に均質・連続的に形成する観点から、本実施形態の硬化性組成物の不揮発成分全体中、第1モノマーまたは第2モノマーに該当する成分の比率は、好ましくは80~99.5質量%、より好ましくは90~99.5質量%、さらに好ましくは95~99質量%である。
【0053】
(諸特性)
上述のように、本実施形態の硬化性組成物を、150℃で1時間加熱し、続いて200℃で2時間加熱することで得られる硬化物を、上述の[測定条件]に記載の条件で動的粘弾性測定して得られた、横軸が温度T、縦軸が損失正接tanδであるグラフにおいては、「温度Tが-70~70℃の領域」と「120~220℃の領域」との両方に極大が認められる。
【0054】
性能の一層の向上の観点からは、グラフにおいて、温度Tが-60~50℃の領域と、140~210℃の領域との両方に極大が認められることが好ましく、温度Tが-60~30℃の領域と、160~200℃の領域との両方に極大が認められることがより好ましい。
【0055】
ちなみに、上記グラフにおける、tanδの2つの極大の極大値は、好ましくはともに0.10~1.00、より好ましくはともに0.15~0.90、さらに好ましくはともに0.20~0.85である。
本実施形態の硬化性組成物の硬化物で観測されるtanδの極大はその値が十分に観測できるほど大きいことから、観測される極大は、副分散(β緩和、γ緩和)ではなく、ガラス転移に伴う主分散(α緩和)を表していると考えられる。
【0056】
既に述べたように、本実施形態の硬化性組成物の硬化物は、高温においても高い弾性率を示すという点で、自動車製造における物品同士の接着に好ましく適用される。
「高温においても高い弾性率を示す」という点について、定量的には以下のように表すことができる。別の言い方として、硬化物の引張弾性率が以下の数値範囲内になるように硬化性組成物を設計することで、性能を一層高めうる。
【0057】
硬化性組成物を、150℃で1時間加熱し、続いて200℃で2時間加熱することで硬化物を得る。このとき、硬化物の形状はJIS K 7161-2:2014に記載の1BA型試験片形状とすることができる。
得られた硬化物の、JIS K 7161-1:2014に準じて測定される、80℃での引張弾性率は、好ましくは100~2000MPa、より好ましくは100~1000MPa、さらに好ましくは100~200MPaである。
【0058】
また、これも既に述べたように、本実施形態の硬化性組成物の硬化物は、低温においても破断しづらいという点で、自動車製造における物品同士の接着に好ましく適用される。
「低温において破断しづらい」という点について、定量的には以下のように表すことができる。別の言い方として、硬化物の引張伸び率が以下の数値範囲内になるように硬化性組成物を設計することで、性能を一層高めうる。
【0059】
硬化性組成物を、150℃で1時間加熱し、続いて200℃で2時間加熱することで硬化物を得る。このとき、硬化物の形状はJIS K 7161-2:2014に記載の1BA型試験片形状とすることができる。
得られた硬化物の、JIS K 7161に準じて測定される、-40℃での引張伸び率は、好ましくは20~100%、より好ましくは20~50%、さらに好ましくは20~40%である。
【0060】
上述の観点とはさらに別の観点として、本発明者らは、硬化性組成物の硬化物の「透明性」が、硬化物の性能と関係しているらしいことを見出した。
硬化物の透明度が高いということは、硬化物中での光の乱反射が少なく、硬化物が比較的均質であることを意味すると考えられる。このことから、本実施形態においては、硬化物の透明度が高いということは、「比較的低温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」と「比較的高温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」とが、硬化物中で特に均質・連続的に存在することを意味すると考えられる。前述のように、これら2つの架橋構造が硬化物中で均質・連続的に存在することにより、硬化物の性能を、自動車製造における物品同士の接着に一層好ましいものとすることができると考えられる。つまり、硬化物の透明度が高くなるように硬化性組成物を設計することにより、性能の一層の向上を図ることができる。
透明性について、定量的には、以下のように表すことができる。別の言い方として、硬化物の引張伸び率が以下の数値範囲内になるように硬化性組成物を設計することで、性能を一層高めうる。
【0061】
硬化性組成物を、150℃で1時間加熱し、続いて200℃で2時間加熱することで硬化物を得る。このとき、硬化物のサイズは、例えば50mm×50mm×0.5mmとすることができる。「50mm×50mm」というサイズはJIS K 7136:2000が推奨する寸法である。
得られた硬化物の、JIS K 7136:2000に従って測定されるヘーズは、好ましくは50%以下、より好ましくは5~50%、さらに好ましくは5~40%である。
【0062】
(硬化性組成物の製造方法)
本実施形態の硬化性組成物は、上述の各成分を十分均一に混合することで製造することができる。混合が不十分であると、tanδについて上記条件を満たす硬化性組成物を製造できないことがある。
【0063】
各成分を十分均一に混合するため、適切な装置を用いることが好ましい。具体的には、各原材料を計量し、軽く攪拌した混合物を、自転・公転方式ミキサーにセットして、混練および脱泡を行う。好ましく用いられる自転・公転方式ミキサーとしては、株式会社シンキーの「あわとり練太郎」シリーズを挙げることができる。あわとり練太郎を用いた具体的な混練および脱泡の条件については、例えば後掲の実施例に記載した条件を採用することができる。
【0064】
(硬化性組成物の用途)
本実施形態の硬化性組成物は、好ましくは、接着剤として、物品同士を接合する用途に用いられる。特に、本実施形態の硬化性組成物は、自動車製造における物品同士の接着に好ましく用いられる。これについては前述のとおりである。
念のため述べておくと、本実施形態の硬化性組成物は、自動車製造における物品同士の接着のみに限られない、各種部品同士の接着に好ましく用いられる。例えば、モーター中の磁石と金属部材との接着に本実施形態の硬化性組成物を適用することが考えられる。モーターも熱を発して高温となる場合があるため、モーターの製造に際して本実施形態の硬化性組成物を用いることは好ましいと言える。
【0065】
<硬化物および接合体>
本実施形態の硬化性組成物を硬化させることで、硬化物を得ることができる。
具体例として、本実施形態の硬化性組成物を接着剤として用いることで、第1の構造部材と、第2の構造部材と、第1の構造部材と第2の構造部材とを接合する硬化性組成物の硬化物と、を含む接合体を得ることができる。
第1の構造部材と第2の構造部材の材質は、それぞれ、鉄、非鉄金属、樹脂(プラスチック)等、任意の材質であることができる。自動車製造における物品同士の接着という点で、第1の構造部材と第2の構造部材の材質は、それぞれ、鉄および/または非鉄金属であることが好ましい。
接合体は、好ましくは、自動車の構成部材、例えばボディパネルやピラー等であることができる。
【0066】
硬化条件は、硬化性組成物が十分に硬化する限り特に限定されない。硬化は、通常、加熱により行われる。加熱温度は、好ましくは60~200℃、より好ましくは100~200℃である。加熱時間は、好ましくは20分~3時間、より好ましくは30分~2時間である。
【0067】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0068】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0069】
<硬化性組成物の製造>
表1に記載の、第1モノマー、第2モノマー、第1硬化剤および第2硬化剤を、表1に記載の量(単位:質量部)準備し、容器内で軽く攪拌して予備混合物を得た。
得られた予備混合物を、大気圧下で、株式会社シンキーの自転・公転方式ミキサー「あわとり練太郎ARE-250」にセットし、以下条件で混合した。これにより硬化性組成物を製造した。
混練モード:2,000rpm×15min、その後、脱泡モード:2,200rpm×5min
【0070】
【表1】
【0071】
使用した成分の化学構造、品番および入手先は表1に記載のとおりである。参考のため、第2モノマーとして用いたウレタン(メタ)アクリレートについて、追加の情報を表2に示す。
表2において、数平均分子量の値は、以下のサイズ排除クロマトグラフィーによる測定結果(標準ポリスチレン換算)に基づく。
溶剤:テトラヒドロフランを使用
GPCシステム:東ソー社製HLC-8320GPCを使用
流速:1.0ml/min
設定温度:40℃
カラム構成:東ソー社製「GMHHR-H」を2本直列接続。
サンプル注入量:100μL(試料液濃度1mg/mL)
検出器:RI検出器
【0072】
また、ガラス転移温度は、ウレタン(メタ)アクリレート97質量部と、光開始剤(IGM Resins B.V製、Omnirad 651)3質量部との混合物に、メタルハライドランプで硬化に十分な量の紫外線を照射することで得た硬化物を、動的粘弾性測定した結果に基づく。具体的には以下の通りである。
作製した混合物を、1mm厚のシリコンシートを型枠とし、PETフィルムに挟み込んだ。その後、メタルハライドランプを用いて、365nmの波長の積算光量500mJ/cmの条件にて上面から混合物を硬化させた。その後、更に下面から365nmの波長の積算光量500mJ/cmの条件にて硬化させ、厚さ1mmの混合物の硬化物を作製した。
作製した硬化物をカッターにて長さ50mm幅5mmに切断し、ガラス転移温度測定用硬化体とした。
SII社製の動的粘弾性測定装置「DMS7100」により、窒素雰囲気中にて硬化体に1Hzの引張方向の歪みを加えつつ、昇温速度2℃/分で-150℃から250℃まで昇温しながらtanδを測定した、そして、tanδのピークトップの温度をガラス転移温度とした。
【0073】
【表2】
【0074】
<試験片の作製>
以下手順により、各実施例および各比較例の硬化性組成物の硬化物からなる試験片を作製した。
(1)硬化性組成物を、PETフィルム上に塗布した。PETフィルムとしては、アズワン社製易剥離PETフィルム「SFL-A4」を用いた。
(2)塗布された硬化性組成物を、もう一枚のPETフィルムで挟んで、PETフィルム-硬化性組成物-PETフィルムの積層体を得た。具体的には、(i)PETフィルムの上に0.5mm厚のシリコンシート型枠を敷き、型枠内に硬化性組成物を流し込んだ。(ii)流し込んだ硬化物の上からもう一枚のPETフィルムを貼り合わせ、上から1kgの重りを載せた。このようにして、最終的に得られる硬化物の厚みが0.5mmとなるようにした。
(3)上記(2)で得られた積層体をオーブンに入れ、150℃で1時間加熱し、続いて200℃で2時間加熱した。その後、自然冷却した。
(4)冷却された積層体のPETフィルムを剥がし、硬化性組成物の硬化物を取り出した。この硬化物をカットして試験片を得た。試験片の形状は、以下の各測定・評価の項目にて示す。
【0075】
<動的粘弾性測定>
上記<試験片の作製>で得られた試験片について、以下の測定条件で動的粘弾性を測定した。試験片の形状は、0.5mm×5.0mm×40mmの短冊状とした。
測定装置としては、SII社製の動的粘弾性測定装置DMS7100を用いた。測定により得られた生データに基づき、横軸が温度T、縦軸が損失正接tanδであるグラフを描いた。そして、そのグラフから、tanδの極大の数、tanδの極大位置およびtanδの極大値を読み取った。
[測定条件]
測定温度範囲:-100~250℃
昇温速度:2℃/分
周波数:1Hz
振動モード:引張モード
【0076】
参考のため、実施例1の試験片の、温度T-損失正接tanδのグラフを図1に示す。また、比較例1の試験片の、温度T-損失正接tanδのグラフを図2に示す。
【0077】
<透明性の測定/観察>
上記<試験片の作製>で得られた試験片について、JIS K 7136:2000に従って測定されるヘーズの値を測定した。測定にはヘーズメーターHZ-2A(スガ試験機株式会社製)を使用した。試験片の形状は、50mm×50mm×0.5mmの正方形状とした。
また、試験片が透明であるか不透明であるかを、試験片の外観を目視で観察することで判断した。
さらに、実施例1の試験片および比較例1の試験片については、透過電子顕微鏡(倍率20,000倍)による観察を行った。そして、試験片が均質か、試験片中に相分離が確認されるか、等を確認した。ちなみに、透過電子顕微鏡の観察に際しては、試験片をミクロトームで切断して断面を作製し、さらに0.5%四酸化オスミウム水溶液で染色した。実施例1の試験片の透過電子顕微鏡画像を図3に、比較例1の試験片の透過電子顕微鏡画像を図4に示す。
【0078】
<評価:硬化物の機械特性>
(80℃での引張弾性率)
80℃雰囲気下で、JIS K 7161-1:2014に従い、引張弾性率を測定した。試験片の形状としてはJIS K 7161-2:2014の附属書Aに規定される1BA型ダンベル試験片形状を採用した。
万能試験機Instron model 3365(Instron社製、恒温槽付き)を用いて引張試験を行い、引張弾性率をMPa単位で求めた。なお、試験片は予め80℃オーブン中に30分静置して試験片自体の温度が80℃であることを確認した後、供試した。3個の試験片を用いて試験を行い、その平均値を記載した。
【0079】
(-40℃での引張伸び率)
-40℃雰囲気下で、JIS K 7161-1:2014に従い、引張弾性率を測定した。試験片の形状としてはJIS K 7161-2:2014の附属書Aに規定される1BA型ダンベル試験片形状を採用した。
万能試験機Instron model 3365(Instron社製、恒温槽付き)を用いて引張試験を行い、引張伸び率を%単位で求めた。なお、試験片は予め-40℃オーブン中に30分静置して試験片自体の温度が-40℃になる事を確認した後、供試した。3個の試験片を用いて試験を行い、その平均値を記載した。
【0080】
(引張せん断接着強度)
引張せん断接着強度の測定は、JIS K 6850:1999に準拠して行った。
試験片は、一方の被着体(100mm×25mm×1.6mmのSPCC-SD、JIS G 3141:2017)の片面に、硬化性組成物を塗布し、他方の被着体(100mm×25mm×1.6mmのSPCC-SD、JIS G 3141:2017)と直ちに重ね合わせて貼り合わせた。貼り合わせた試験片をオーブンに入れ、150℃で1時間加熱し、続いて200℃で2時間加熱した。この際、一方の被着体に厚み0.25mmのシリコーンテープを貼り、接着層の厚さが0.25mmになるように調整した。加熱後、放冷して試験片を得た。
上記の試験片を、温度23℃、湿度50%の環境下、引張速度10mm/分の条件で引張ることで、引張せん断接着強度を測定した。3個の試験片を用いて試験を行い、その平均値を記載した。
【0081】
<評価:耐ヒートサイクル性>
以下の手順でヒートサイクル試験を実施して、耐ヒートサイクル性を評価した。
(1)上記(引張せん断接着強度)に記載と同様の方法で、試験片を作製した。なお、ヒートサイクル試験の前後での状態変化を観察するため、1つの硬化性組成物について6個の試験片を作製した。
(2)試験片を、JIS K 6850:1999に従い、引張速度:10mm/minで破断するまで引っ張った。そして、JIS K 6866:1999に従い、破断後の接着面の破壊状態を記録した。
(3)試験片(上記(2)で破断させた試験片とは異なる)を、ヒートショック試験機(エスペック製TSA-102ES-W)にセットした。そして、低温:-40℃×1h、高温:95℃×1hを1サイクルとして、300サイクルのヒートショックを与えた。
(4)ヒートショック後の引張せん断試験片を23℃50RH%の室内に1h静置して室温まで冷却した。その後、上記(2)に記載のようにして試験を実施し、結果(接着面の破壊状態)を記録した。
【0082】
上記(2)および(4)において、接着面の破壊状態が「凝集破壊」である(硬化物が破壊され、硬化物-SPCC間の接着は維持されている)場合、接着状態は良好といえる。一方、接着面の破壊状態が「界面破壊」である(硬化物はほとんどまたは全く破壊されず、硬化物-SPCC間で剥離が起こる)場合、接着状態は不良といえる。
【0083】
測定/評価結果をまとめて表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示されるとおり、硬化物を動的粘弾性測定したときに、温度Tが-70~70℃の領域と120~220℃の領域との両方にtanδの極大が認められる硬化性組成物(実施例1~7)については、機械特性の評価において、80℃という高温においても引張弾性率が大きく、また、-40℃という低温においても破断しにくい、という結果であった。
また、実施例1~7の硬化性組成物の耐ヒートサイクル性の評価においては、ヒートサイクル試験後においても接着面の破壊状態が「凝集破壊」であった。つまり、耐ヒートサイクル性も良好であった。
以上、実施例1~7のような粘弾性特性を示す硬化性組成物は、自動車製造における物品同士の接着に好ましく用いられることが示された。
【0086】
一方、-60~250℃の範囲内でtanδの極大が1つしか認められなかった比較例1および2については、自動車製造における物品同士の接着に好ましい評価結果は得られなかった。
比較例1の組成は、実施例1と、第1硬化剤の種類が異なる。また、比較例2の組成は、実施例1~7では用いていないウレタン(メタ)アクリレート:CN980NS(サートマー社)を含んでいる。これらのことに起因して、比較例1および2においては、硬化時に「比較的低温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」と「比較的高温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」の両構造が適切に形成されなかったものと推測される。
【0087】
ちなみに、硬化物の「透明性」の結果、特に実施例1と比較例1との、ヘーズおよび透過電子顕微鏡観察結果の対比から、ヘーズが小さいことは、「比較的低温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」と「比較的高温で分子運動性が高まり軟化する架橋構造」とが、硬化物中で均質・連続的に存在していることを表していると解釈可能である。
図1
図2
図3
図4