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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024908
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】コークス炉の異常検知方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 41/02 20060101AFI20240216BHJP
   C10B 33/10 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C10B41/02
C10B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127891
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】飯盛 翔太
(72)【発明者】
【氏名】有村 祐紀
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高精度にコークス炉内の異常を検知することのできる、コークス炉の異常検知方法を提供する。
【解決手段】コークス炉の異常検知方法は、押出工程と、測定工程と、判定工程と、を備える。押出工程では、ラムビーム11を炉長方向に移動させ、ラムヘッド12でコークス20を炭化室80から押し出す。測定工程では、押出工程中、炉長方向におけるラムヘッド12の位置をxとしたとき、位置xにおける機関の押出負荷F(x)を測定する。判定工程では、測定工程で測定した押出負荷F(x)が、a≦x≦100の範囲でF(x)<F(a)を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。(ただし、ラムヘッドがコークスに接触を開始する直前のラムヘッドの位置をx=0、スライドシューが炭化室内に進入する直前のラムヘッドの位置をx=a、及び炭化室からのコークスの押し出しが完了した時点のラムヘッドの位置をx=100とする。)
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉長方向に延びるラムビームと、前記ラムビームの先端に固定されたラムヘッドと、前記ラムビームの下方に配置され、前記ラムビームと一体化されたスライドシューと、前記ラムビームを前記炉長方向に移動させる力を与える機関と、を含む押出機を用いて、炭化室内のコークスを前記炭化室から押し出すときの異常を検知するコークス炉の異常検知方法であって、
前記ラムビームを前記炉長方向に移動させ、前記ラムヘッドで前記コークスを前記炭化室から押し出す、押出工程と、
前記押出工程中、前記炉長方向における前記ラムヘッドの位置をxとしたとき、位置xにおける前記機関の押出負荷F(x)を測定する、測定工程と、
前記測定工程で測定した前記押出負荷F(x)が、a≦x≦100の範囲で下記の式(1)を満たす場合に、前記コークス炉に異常が発生していると判定する、判定工程と、を備える、異常検知方法。
【数1】
ただし、前記ラムヘッドが前記コークスに接触を開始する直前の前記ラムヘッドの位置をx=0、前記スライドシューが前記炭化室内に進入する直前の前記ラムヘッドの位置をx=a、及び前記炭化室からの前記コークスの押し出しが完了した時点の前記ラムヘッドの位置をx=100とする。
【請求項2】
請求項1に記載の異常検知方法であって、
前記判定工程では、さらに、a≦x≦100の範囲において前記炭化室を前記炉長方向における寸法が前記炭化室の全長の5%毎の区間に区分し、A番目の前記区間内の前記押出負荷F(x)を平均した値を押出負荷平均Fとしたとき、前記押出負荷平均Fが下記の式(2)を満たす場合に、前記コークス炉に異常が発生していると判定する、異常検知方法。
【数2】
【請求項3】
請求項2に記載の異常検知方法であって、
前記判定工程では、さらに、(A+1)番目の前記区間内の前記押出負荷F(x)を平均した値を押出負荷平均FA+1としたとき、前記押出負荷平均F及びFA+1が下記の式(3)を満たす場合に、前記コークス炉に異常が発生していると判定する、異常検知方法。
【数3】
【請求項4】
炉長方向に延びるラムビームと、前記ラムビームの先端に固定されたラムヘッドと、前記ラムビームの下方に配置され、前記ラムビームと一体化されたスライドシューと、前記ラムビームを前記炉長方向に移動させる力を与える機関と、を含む押出機を用いて、炭化室内のコークスを前記炭化室から押し出すときの異常を検知するコークス炉の異常検知方法であって、
前記ラムビームを前記炉長方向に移動させ、前記ラムヘッドで前記コークスを前記炭化室から押し出す、押出工程と、
前記押出工程中、前記炉長方向における前記ラムヘッドの位置をxとしたとき、位置xにおける前記機関の押出負荷F(x)を測定する、測定工程と、
前記測定工程で測定した前記押出負荷F(x)が、a≦x≦100の範囲で下記の式(4)を満たす場合に、前記コークス炉に異常が発生していると判定する、判定工程と、を備える、異常検知方法。
【数4】
ただし、前記ラムヘッドが前記コークスに接触を開始する直前の前記ラムヘッドの位置をx=0、前記スライドシューが前記炭化室内に進入する直前の前記ラムヘッドの位置をx=a、及び前記炭化室からの前記コークスの押し出しが完了した時点の前記ラムヘッドの位置をx=100とし、前記炭化室で過去に行った前記コークスの押し出しにおいて、前記ラムヘッドの位置をx=aからx=100まで移動させたときに前記機関がした仕事Sの最小値をSminとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コークス炉の異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄に用いるコークスは、原料となる石炭をコークス炉に装入し、石炭を高温で乾留することにより製造される。コークス炉は、例えば室炉式コークス炉である。コークス炉は、石炭をコークス化する炭化室と、炭化室に熱を供給する燃焼室とが交互に並列した構造を有し、炭化室と燃焼室とは、煉瓦で構成された炉壁で区切られている。燃焼室の内部で燃料ガスが燃焼し、炉壁の熱伝導により、燃焼室の熱が炭化室に供給される。炭化室には、常温の石炭が装入される。炭化室内の石炭は、燃焼室からの熱により炭化が促進し、乾留されてコークスとなる。炭化室の両端には、それぞれ窯口が設けられている。炭化室内のコークスは、押出機により炭化室から押し出される。具体的には、炭化室内のコークスは、押出機により炭化室の一方の窯口から他方の窯口に向かって押されて、炉外に排出される。排出されたコークスは、ガイド車により消火車に案内され、消火車で搬送される。以下では、炭化室の一方の窯口を「押出機側窯口」、他方の窯口を「ガイド車側窯口」とも言う。
【0003】
押出機は、例えば、押出機側窯口からガイド車側窯口に沿って延びるラムビームと、ラムビームの先端に固定されたラムヘッドと、ラムビームの下方に配置され、ラムビームと一体化されたスライドシューと、を備える。コークスの押出中、ラムヘッドはコークスと接触し、スライドシューは炉底と摺動しながら、ラムビームを支持する。
【0004】
炭化室及び燃焼室は、それぞれ押出機側窯口からガイド車側窯口に向かう方向に沿って延在する。以下では、炭化室及び燃焼室の延在する方向を、「炉長方向」とも言う。炭化室及び燃焼室の炉長方向における寸法は、例えば十数メートルにおよぶ。ここで、コークスの押出中には、コークスと炉壁との間に摩擦力が生じ、コークスと炉底との間に摩擦力が生じる。以下では、炉壁及び炉底を総称して「炉面」とも言う。特に、コークスが十分に乾留されていない場合や、炉壁の煉瓦に凹凸がある場合には、コークスに対して過大な摩擦抵抗が発生する。このような場合には、コークスの押出性が悪化する。
【0005】
コークスの押出性が過度に悪化すると、炉壁が損傷したり、炉壁が大規模に崩壊したりするおそれがあり、場合によってはコークスの押詰が発生するおそれがある。コークスの押詰とは、炭化室内のコークスの押出中、押出機に作用する反力が急激に大きくなり、押出機がコークスを押し出すことができなくなって、コークスが炭化室内で停止してしまう事態を指す。コークスの押詰が発生した場合には、コークス炉を停止して、手作業で炭化室内のコークスを排出し、その後炉壁の補修を行う。そのため、コークスの押詰が発生すると、コークスの生産性が低下する上、補修のコストが増加する。
【0006】
コークス炉の老朽化が進行すれば、炉体の不具合は顕著に起こる。そのため、たとえ老朽化したコークス炉が使用される場合であっても、安定して操業を行える技術の確立が求められている。コークス炉の操業を安定化するためには、コークスの押出中に押出性の悪化を早期に検知する必要がある。
【0007】
押出性の悪化を検知する技術として、例えば特許文献1が知られている。特許文献1に記載された技術では、モータによって駆動される押出ラムでコークスを押し出す際、押出ラムの炭化室内での押出位置に対するモータの負荷電流を計測した負荷電流トレンドから、コークス炉の操業状態を考慮した理想負荷電流トレンドを予め求めておく。そして、測定対象となる炭化室におけるコークス押出完了後の実績負荷電流トレンドと上記理想負荷電流トレンドとの押出位置毎の負荷電流の偏差を求める。特許文献1には、このように求めた偏差から、当該炭化室の異常を判定する、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-171791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の異常検知方法において、理想負荷電流トレンドは、5~10回分の負荷電流トレンドの平均値に各種補正係数を掛け合わせて決定される。このため、炭化室内を補修した場合等のように計測条件が大幅に変化すると、異常検知の精度は低下する。
【0010】
本開示の目的は、高精度にコークス炉内の異常を検知することのできる、コークス炉の異常検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る異常検知方法は、押出機を用いて、炭化室内のコークスを炭化室から押し出すときの異常を検知する、コークス炉の異常検知方法である。押出機は、ラムビームと、ラムヘッドと、スライドシューと、ラムビームを炉長方向に移動させる力を与える機関と、を含む。ラムビームは、炉長方向に延びる。ラムヘッドは、ラムビームの先端に固定される。スライドシューは、ラムビームの下方に配置され、ラムビームと一体化される。本開示に係る異常検知方法は、押出工程と、測定工程と、判定工程と、を備える。押出工程では、ラムビームを炉長方向に移動させ、ラムヘッドでコークスを炭化室から押し出す。測定工程では、押出工程中、炉長方向におけるラムヘッドの位置をxとしたとき、位置xにおける機関の押出負荷F(x)を測定する。判定工程では、測定工程で測定した押出負荷F(x)が、a≦x≦100の範囲で下記の式(1)を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。
【数1】
ただし、ラムヘッドがコークスに接触を開始する直前のラムヘッドの位置をx=0、スライドシューが炭化室内に進入する直前のラムヘッドの位置をx=a、及び炭化室からのコークスの押し出しが完了した時点のラムヘッドの位置をx=100とする。
【0012】
本開示に係る別の異常検知方法は、上記押出機を用いて、炭化室内のコークスを炭化室から押し出すときの異常を検知する、コークス炉の異常検知方法である。本開示に係る異常検知方法は、押出工程と、測定工程と、判定工程と、を備える。押出工程では、ラムビームを炉長方向に移動させ、ラムヘッドでコークスを炭化室から押し出す。測定工程では、押出工程中、炉長方向におけるラムヘッドの位置をxとしたとき、位置xにおける機関の押出負荷F(x)を測定する。判定工程では、測定工程で測定した押出負荷F(x)が、a≦x≦100の範囲で下記の式(4)を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。
【数2】
ただし、ラムヘッドがコークスに接触を開始する直前のラムヘッドの位置をx=0、スライドシューが炭化室内に進入する直前のラムヘッドの位置をx=a、及び炭化室からのコークスの押し出しが完了した時点のラムヘッドの位置をx=100とし、炭化室で過去に行ったコークスの押し出しにおいて、ラムヘッドの位置をx=aからx=100まで移動させたときに機関がした仕事Sの最小値をSminとする。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係るコークス炉の異常検知方法によれば、高精度にコークス炉内の異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。
図2図2は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。
図3図3は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。
図4図4は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。
図5図5は、コークス炉の全体構成を示す模式図である。
図6図6は、図5の線VI-VIにおける断面図である。
図7図7は、押出機の側面図である。
図8図8は、実施形態に係るコークス炉の異常検知方法を示すフロー図である。
図9図9は、押出工程の様子を示す模式図である。
図10図10は、押出工程の様子を示す模式図である。
図11図11は、押出工程の様子を示す模式図である。
図12図12は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。
図13図13は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。
図14図14は、第1実施例に係る押出波形を示す図である。
図15図15は、ラムヘッドの位置に応じたコークス塊の堆積高さの推移を示す図である。
図16図16は、コークス塊の堆積高さと押出負荷の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、コークス炉における押出性の悪化を早期に検知するという技術的課題を解決するため、コークスの押出中に押出機に作用する反力に着目した。押出機に作用する反力は、押出機を駆動するモータのトルクに相当し、以下、「押出負荷」とも言う。具体的には、本発明者らは、押出機のラムヘッドの移動量に応じて検出される押出負荷の推移(以下、「押出波形」とも言う。)から、コークスの押出中における炉内異常(押詰等)の兆候を認識できることを見出した。
【0016】
図1は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。図1には、炉内が健全な状態のときの押出波形が示される。炉内が健全な状態とは、コークスの押詰等のような異常が発生せず、コークスの押し出しが円滑に行われる状態を指す。図1に示す押出波形は、例えば、新設されたコークス炉を用いたときの押出波形である。
【0017】
図1において、横軸は押出機側窯口を基準としたラムヘッドの位置、すなわち、炭化室の押出機側窯口からのラムヘッドの移動量を示す。図1において、ラムヘッドの移動量は、押出機側窯口からの実測値で示されている。これは、後述する図2図4においても同様である。
【0018】
図1において、縦軸は押出負荷を示す。押出負荷は、押出機の設備損傷防止や炉体保護の観点から定められている押出負荷の上限値を1.0としたときの相対値で示されている。つまり、押出負荷は、押出負荷の上限値に対する相対値で示されている。これは、後述する各図においても同様である。
【0019】
炭化室内のコークスは、乾留された後、押出機により炭化室の一方の窯口から他方の窯口に向かって押される。コークスは、押出機により押され始めると、押出機のラムヘッドによって押し潰され、全体が圧縮される。このとき、コークスと炉面との間には静止摩擦力がはたらき、コークスは静止している。その後、押出負荷が大きくなると、コークスと炉面との間の摩擦力が最大値(最大静止摩擦力)に達し、コークスが移動を開始する。コークスが移動を開始すると、コークスは最大静止摩擦力よりも小さい動摩擦力を受ける。そのため、押出負荷は最大値に達した後、急激に低下する。
【0020】
以下では、押出波形において、押出負荷が急激に上昇し始めてから、押出負荷が最大値に達した後の押出負荷の急激な低下が完了するまでの期間、すなわち、押出波形の山に相当する部分を、押出負荷の「ピーク」と言う。コークスの押し出しを開始して最初に発現するピークを、押出負荷の「初期ピーク」と言う。図1に示す押出波形の例では、ラムヘッドの移動量が0から0.9mまでの期間に初期ピークが発現している。また、ピークの中で押出負荷が最大値に達したときの押出負荷の値を「ピーク値」と言う。初期ピークにおけるピーク値は、コークスと炉面との間の最大静止摩擦力に相当する。図1に示す押出波形の例では、ラムヘッドの移動量が約0.6mのときに押出負荷が最大値に達しており、ピーク値は0.15である。
【0021】
通常、コークスの押出時、押出機のスライドシューが炭化室内に進入するよりも前に、コークスは移動を開始している。スライドシューが炭化室内に進入するよりも前に、コークスの圧縮が完了しているとも言える。したがって、押出機のスライドシューが炭化室内に進入するときには、押出負荷の初期ピークは過ぎている。
【0022】
一方、コークスが移動を開始すると、ラムヘッドの移動量が大きくなるにつれてコークスは炭化室のガイド車側窯口から排出される。すると、炭化室内のコークスの量はしだいに減少し、ラムヘッドがコークスを押すのに必要な荷重は小さくなる。つまり、押出負荷がしだいに軽減される。そのため、健全な炉の場合、図1に示す押出波形からも明らかなように、初期ピーク以降の押出負荷は、ラムヘッドの移動量が大きくなるにつれて実質的に小さくなる。健全な炉の場合、スライドシューが炭化室内に進入した後の押出負荷は、ラムヘッドの移動量が大きくなるにつれて徐々に低下するとも言える。
【0023】
ここで、新設されたコークス炉では、初期ピークでのピーク値は非常に小さい。一方、老朽化したコークス炉では、初期ピークでのピーク値は大きくなる。これは、コークス炉の老朽化に伴い炭化室の炉面が損耗し、コークスと炉面との間にはたらく摩擦力が大きくなることや、燃焼不良や伝熱の悪化によるコークスの乾留不良が発生しやすくなるためと考えられる。
【0024】
図2は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。図2には、コークス炉の老朽化が進行し、炉壁が一部で膨らんでいたとき、又は炉壁の迫出しが発生したときの押出波形が示される。図2に示す押出波形では、初期ピークでのピーク値は、図1に示す押出波形の初期ピークでのピーク値と比較して大きい。さらに、初期ピーク以降の押出負荷は、ラムヘッドの移動量が約2.0~6.5mの範囲において、ラムヘッドの移動量が大きくなってもしばらく高い状態に維持されている。これは、老朽化が進行したコークス炉では、炉内が健全な状態のコークス炉と比較して、コークスと炉面との間にはたらく動摩擦力が大きいからと考えられる。
【0025】
ただし、一般に、炭化室には水平テーパが設けられている。要するに、炭化室の幅は、押出機側窯口からガイド車側窯口に向かうにつれて大きくなる。この炭化室の水平テーパにより、コークスの押出中にラムヘッドの移動量が大きくなるにつれて、コークスと炉壁とのクリアランスは大きくなる。そのため、コークス炉の老朽化が多少進行し、炉壁の膨らみ又は迫出しが発生したとしても、焼減りが十分で堅牢なコークスであれば、図2に示すように、初期ピーク以降にラムヘッドの移動がある程度進み、ラムヘッドの移動量が約6.5m以降では、ラムヘッドの移動量が大きくなるにつれて押出負荷が徐々に低下する。
【0026】
以上、図1及び図2を参照して、コークス炉に異常が発生していないときの押出波形について説明した。本発明者らは、コークス炉に異常が発生しているときの押出波形に着目して鋭意検討した。その結果、本発明者らは、コークス炉の異常発生時、初期ピークでのピーク値(コークスと炉面との間の最大静止摩擦力)が非常に大きくなるだけでなく、後述する図3及び図4の押出波形に示すように、実押出期間における押出負荷のピークの発現又は初期ピーク以降の大幅な波形変化が起こることを突き止めた。実押出期間とは、コークス押出開始から押出完了までの期間のうち、押出負荷の初期ピーク以降の、炭化室内のコークスの排出が進行中の期間を意味する。
【0027】
図3は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。図3には、コークス炉に異常が発生しているときの押出波形が示される。コークス炉に異常が発生している場合、図3に示すように、実押出期間において、押出負荷が突発的に上昇することがある。具体的には、初期ピーク以降にラムヘッドの移動がある程度進み、押出負荷が低下している段階において、押出負荷は、一時的に上昇して、スライドシューが炭化室に進入する直前の押出負荷よりも遥かに高くなる。押出負荷が一時的に上昇する主な原因は、主に炉壁及び炉底煉瓦の局所的な摩耗及び欠損、コークスの乾留度である。これらの原因の他には次の3つの原因が考えられる。1つ目の原因として、実押出期間の末期において、ラムヘッド近隣のコークスが崩壊し、これにより、ラムヘッドがコークスに与える力が、炉長方向と、炉長方向に垂直な炭化室の幅方向に分散する。このため、コークスを押し出すためにより大きな荷重が必要となり、押出負荷が高まる。2つ目の原因として、崩壊したコークスが、コークスケーキと炉壁との間で摩擦抵抗になり、ラムヘッドにその摩擦抵抗が与えられる。3つ目の原因として、コークスケーキが脆弱であった場合、コークスケーキが炉底と摺動するときに、コークスケーキに上向きのせん断力が作用し、コークスケーキが迫上がる。コークスケーキが迫上がると、炭化室の天井や炉壁の狭小(湾曲)部などと接触し、コークスケーキと炭化室の接触部に摩擦力が発生する。これらの原因により、コークス炉に異常が発生した場合、異常な押出波形が発生する場合がある。
【0028】
図4は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。図4には、コークス炉に異常が発生しているときの押出波形が示される。コークス炉に異常が発生している場合、初期ピーク以降の押出負荷は、低下することなくすぐに再上昇することがある。図4に示す例では、ラムヘッドの移動量が約4.0~9.5mの範囲で押出負荷が上昇している。本発明者らは、このような押出波形の場合、高確率でコークスの押詰が発生することを突き止めた。さらに、本発明者らは、図4に示すような異常な押出波形を発生させる要因は、コークスの押出中に押出機のラムヘッドと炉壁の間からこぼれ落ち、炉内に残留したコークス塊であることを新たに見出した。
【0029】
コークス塊が炉内にこぼれ落ちると、コークス塊は押出機のスライドシュー前方の炉底に堆積する。つまり、コークス塊がラムヘッドとスライドシューとの間に堆積する。そのため、炉底と摺動するスライドシューとコークス塊との間に摩擦力が生じ、押出負荷が上昇する。また、スライドシューが炉底に堆積したコークス塊を乗り上げることにより、機械的な負荷が発生する。
【0030】
一般に、コークス塊が炉底に残留した状態で次の石炭をコークス炉に装入し、その石炭を乾留したとしても、炉内に残留したコークス塊は、石炭を乾留してできた新たなコークスと一体にはならないことが知られている。したがって、コークス塊が炉底に残留した状態でコークス炉の操業を継続すると、炉底部のコークスが脆弱化して崩れやすくなり、押詰等のリスクが高まる。コークス炉において安定して操業を行うためには、これらの要因で起こるコークスの押出性の悪化を早期に検知することが必要である。
【0031】
本開示の実施形態に係るコークス炉の異常検知方法は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0032】
実施形態に係る異常検知方法は、押出機を用いて、炭化室内のコークスを炭化室から押し出すときの異常を検知する、コークス炉の異常検知方法である。押出機は、ラムビームと、ラムヘッドと、スライドシューと、ラムビームを炉長方向に移動させる力を与える機関と、を含む。ラムビームは、炉長方向に延びる。ラムヘッドは、ラムビームの先端に固定される。スライドシューは、ラムビームの下方に配置され、ラムビームと一体化される。本開示に係る異常検知方法は、押出工程と、測定工程と、判定工程と、を備える。押出工程では、ラムビームを炉長方向に移動させ、ラムヘッドでコークスを炭化室から押し出す。測定工程では、押出工程中、炉長方向におけるラムヘッドの位置をxとしたとき、位置xにおける機関の押出負荷F(x)を測定する。判定工程では、測定工程で測定した押出負荷F(x)が、a≦x≦100の範囲で下記の式(1)を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。
【数3】
ただし、ラムヘッドがコークスに接触を開始する直前のラムヘッドの位置をx=0、スライドシューが炭化室内に進入する直前のラムヘッドの位置をx=a、及び炭化室からのコークスの押し出しが完了した時点のラムヘッドの位置をx=100とする(第1の構成)。
【0033】
通常、押出機のスライドシューが炭化室内に進入するよりも前に、コークスは移動を開始しており、押出負荷の初期ピークは過ぎている。そのため、コークス炉に異常が発生していない場合、スライドシューが炭化室内に進入した後の押出負荷は、ラムヘッドの移動量が大きくなるにつれて徐々に低下する。
【0034】
第1の構成の異常検知方法では、押出負荷F(x)が、a≦x≦100の範囲で式(1)を満たす場合、コークス炉に異常が発生していると判定する。つまり、第1の構成の異常検知方法では、スライドシューが炭化室内に進入した後の押出負荷F(x)が、スライドシューが炭化室内に進入する直前での押出負荷F(a)よりも大きい場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。図3及び図4に示すように、コークス炉に異常が発生しているときの押出波形では、実押出期間における押出負荷のピークの発現又は初期ピーク以降の大幅な波形変化が起こる。第1の構成の異常検知方法では、コークスの押出中、このような押出波形が測定された場合に異常が発生していると判定することができる。したがって、第1の構成によれば、従来考慮していなかったコークス炉の異常(具体的には、コークスの押出中に押出機と炉壁との間からコークス塊がこぼれ落ち、そのコークス塊が炉内に残留することによって生じる異常)も検知することができる。そのため、第1の構成に係る異常検知方法によれば、高精度にコークス炉内の異常を検知することができる。
【0035】
第1の構成の異常検知方法において、判定工程では、さらに、a≦x≦100の範囲において炭化室を炉長方向における寸法が炭化室の全長の5%毎の区間に区分し、A番目の区間内の押出負荷F(x)を平均した値を押出負荷平均Fとしたとき、押出負荷平均Fが下記の式(2)を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定してもよい(第2の構成)。
【数4】
【0036】
第2の構成の異常検知方法では、式(1)に加えて式(2)を満たす場合に、コークス炉内が異常と判定する。式(2)を満たす場合、炭化室を炉長方向における寸法が5%毎の区間に区分して、A番目の区間内の押出負荷F(x)を平均した押出負荷平均Fの値が、スライドシューが炭化室内に進入する直前での押出負荷F(a)よりも大きくなる。要するに、第2の構成の異常検知方法では、押出負荷F(x)が瞬間的にF(a)よりも大きくなるだけでなく、押出負荷F(x)を区間内で平均した値がF(a)よりも大きい場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。したがって、第2の構成の異常検知方法によれば、誤検知のリスクを低減することができる。
【0037】
第2の構成の異常検知方法において、判定工程では、さらに、(A+1)番目の区間内の押出負荷F(x)を平均した値を押出負荷平均FA+1としたとき、押出負荷平均F及びFA+1が下記の式(3)を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定してもよい(第3の構成)。
【数5】
【0038】
第3の構成の異常検知方法では、式(1)及び式(2)に加えて式(3)を満たす場合に、コークス炉内が異常と判定する。式(3)を満たす場合、炭化室を炉長方向における寸法が5%毎の区間に区分して、A番目の区間内の押出負荷F(x)を平均した押出負荷平均F、及び(A+1)番目の区間内の押出負荷F(x)を平均した押出負荷平均FA+1が、いずれもスライドシューが炭化室内に進入する直前での押出負荷F(a)よりも大きくなる。さらに、(A+1)番目の区間内の押出負荷平均FA+1は、A番目の区間内の押出負荷平均Fよりも大きい。要するに、第3の構成の異常検知方法では、相互に隣り合うA番目の区間から(A+1)番目の区間までコークスの押し出しが進行するにつれて、押出負荷F(x)が上昇している場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。したがって、第3の構成の異常検知方法によれば、誤検知のリスクをさらに低減することができる。
【0039】
実施形態に係る別の異常検知方法は、上記押出機を用いて、炭化室内のコークスを炭化室から押し出すときの異常を検知する、コークス炉の異常検知方法である。本開示に係る異常検知方法は、押出工程と、測定工程と、判定工程と、を備える。押出工程では、ラムビームを炉長方向に移動させ、ラムヘッドでコークスを炭化室から押し出す。測定工程では、押出工程中、炉長方向におけるラムヘッドの位置をxとしたとき、位置xにおける機関の押出負荷F(x)を測定する。判定工程では、測定工程で測定した押出負荷F(x)が、a≦x≦100の範囲で下記の式(4)を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。
【数6】
ただし、ラムヘッドがコークスに接触を開始する直前のラムヘッドの位置をx=0、スライドシューが炭化室内に進入する直前のラムヘッドの位置をx=a、及び炭化室からのコークスの押し出しが完了した時点のラムヘッドの位置をx=100とし、炭化室で過去に行ったコークスの押し出しにおいて、ラムヘッドの位置をx=aからx=100まで移動させたときに機関がした仕事Sの最小値をSminとする(第4の構成)。
【0040】
第4の構成の異常検知方法では、押出工程中、押出負荷F(x)がa≦x≦100の範囲で式(4)を満たす場合、コークス炉に異常が発生していると判定する。つまり、第4の構成の異常検知方法では、スライドシューが炭化室内に進入した後に押出機がした仕事が、Sminの1.2倍よりも大きい場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。図3及び図4に示すような、コークス炉に異常が発生しているときの押出波形では、実押出期間における押出負荷のピークの発現又は初期ピーク以降の波形変化が起こる。このような押出波形のときに押出機がした仕事は、コークス炉が健全な状態のときに押出機がした仕事と比較して非常に大きくなる。そのため、第4の構成の異常検知方法では、コークスの押出中、このような押出波形が測定された場合に異常が発生していると判定することができる。したがって、第4の構成によれば、第1の構成に係る異常検知方法と同様に、高精度にコークス炉内の異常を検知することができる。
【0041】
以下、本開示の実施形態に係るコークス炉の異常検知方法について、図面を参照しながら説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0042】
[第1実施形態]
[コークス炉]
図5及び図6を参照して、コークス炉の全体構成を説明する。図5は、コークス炉の全体構成を示す模式図である。図6は、図5の線VI-VIにおける断面図である。つまり、図6は、炉長方向に垂直な断面図である。コークス炉は、炭化室80と燃焼室90とが交互に並列した構造を有する。炭化室80には、石炭が投入される。燃焼室90は、炭化室80に熱を供給する。燃焼室90から供給された熱により、炭化室80内の石炭は乾留されてコークスとなる。コークスは、押出機10によって炭化室80の押出機側窯口81からガイド車側窯口82に向かって押されて、炭化室80から排出される。排出されたコークスは、図示しないガイド車により消火車70に案内される。その後、コークスは消火車70で次工程に搬送される。
【0043】
炭化室80及び燃焼室90は、天井部83と、炉底84とにより構成される。隣接する炭化室80と燃焼室90とは、炉壁85で区切られている。これらの炉壁85は、それぞれ天井部83と炉底84とを接続する。炭化室80の各々の天井部83には、石炭を装入するための装炭口86が設けられる。装炭口86は天井部83を貫通する。
【0044】
[押出機]
図7は、押出機10の側面図である。図7を参照して、押出機10は、ラムビーム11と、ラムヘッド12と、スライドシュー13と、モータ14と、を含む。ラムビーム11は、炉長方向に延びる。ラムビーム11の上部には、ラックギア15が設けられている。ラックギア15は、炉長方向に延在する。ラムヘッド12は、ラムビーム11の先端に固定される。
【0045】
スライドシュー13は、ラムビーム11の下方に配置され、ラムビーム11と一体化されている。コークス炉が大型化すると、コークス炉内のコークスを押し出すための押出機10の全長(ラムビーム11の炉長方向の長さ)も大きくなる。スライドシュー13は、ラムビーム11が下方にたわむのを防止するために設けられる。典型的には、スライドシュー13は、ラムビーム11の先端付近に配置される。
【0046】
モータ14には、ピニオンギア16が接続されている。ピニオンギア16は、モータ14の駆動力で回転する。ピニオンギア16は、減速機17を介してモータ14と接続されている。ピニオンギア16は、ラックギア15と噛み合いながら回転することにより、ラムビーム11を炉長方向に移動させる。モータ14は、ラムビーム11に対し、炉長方向に移動させる力を与える機関である。
【0047】
[異常検知方法]
本実施形態に係る異常検知方法は、押出機10を用いて炭化室80内のコークスを炭化室80から押し出すときの異常を検知する、コークス炉の異常検知方法である。図8は、本実施形態に係るコークス炉の異常検知方法を示すフロー図である。図8を参照して、本実施形態の異常検知方法は、押出工程(#5)と、測定工程(#10)と、判定工程(#15)と、を備える。
【0048】
押出工程(#5)では、モータ14の駆動により、押出機10のラムビーム11を炉長方向に移動させ、ラムヘッド12でコークスを炭化室80から押し出す。押し出されたコークスは、炉外に排出される。以下、図9図11を用いて、押出工程(#5)を説明する。説明の便宜上、図9図11では、押出機10の一部の構成の図示を省略する。また、図9図11には、押出工程(#5)時における、押出機側窯口81を基準としたラムヘッド12の位置、すなわち、炭化室80の押出機側窯口81からのラムヘッド12の移動量xが示される。この移動量xは、押出機側窯口81からガイド車側窯口82までの距離、すなわち炭化室80の炉長方向の全長を100としたときの相対値で示されている。つまり、ラムヘッド12の移動量xは、炭化室80の炉長方向の全長に対する相対値で示されている。
【0049】
図9は、押出工程(#5)の様子を示す模式図である。図9には、押出工程(#5)の開始時、すなわち、ラムヘッド12が炭化室80内のコークス20に接触を開始する直前の様子が示される。図9を参照して、押出工程(#5)の開始時には、ラムヘッド12の先端の位置は、押出機側窯口81の位置と一致する。このとき、押出機側窯口81からのラムヘッド12の移動量xは0である。
【0050】
図10は、押出工程(#5)の様子を示す模式図である。図10には、スライドシュー13が炭化室80内に進入する直前の様子が示される。図10を参照して、スライドシュー13が炭化室80内に進入する直前での押出機側窯口81からのラムヘッド12の移動量xはaである。このときのラムヘッド12の移動量aは、ラムヘッド12の先端からスライドシュー13の先端までの長さに相当する。
【0051】
スライドシュー13が炭化室80内に進入する直前でのラムヘッド12の移動量aの大きさ、すなわち、ラムヘッド12の先端からスライドシュー13の先端までの長さは特に限定されるものではない。ラムヘッド12の先端からスライドシュー13の先端までの長さは、例えば3.6mである。
【0052】
通常、コークス20の押出時、スライドシュー13が炭化室80内に進入するよりも前に、コークス20は移動を開始している。スライドシュー13が炭化室80内に進入するよりも前に、コークス20の圧縮が完了しているとも言える。コークス20の圧縮は、例えば1~2mで完了する。したがって、ラムヘッド12の移動量xがaの時点では、押出負荷の初期ピークは過ぎている。
【0053】
図11は、押出工程(#5)の様子を示す模式図である。図11には、押出工程(#5)の終了時、すなわち、炭化室80からのコークス20の押し出しが完了した時点の様子が示される。図11を参照して、押出工程(#5)の終了時には、ラムヘッド12の先端の位置は、ガイド車側窯口82の位置と一致する。このとき、押出機側窯口81からのラムヘッド12の移動量xは100である。
【0054】
押出工程(#5)中、押出機10には反力が作用する。この反力は、押出機10のモータ14の押出負荷に相当する。測定工程(#10)では、押出工程(#5)中、炉長方向におけるラムヘッド12の移動量xにおけるモータ14の押出負荷F(x)を測定する。要するに、測定工程(#10)では、コークス20の押出中に押出波形を測定する。押出負荷F(x)の測定は、モータ14のトルクを検出することによって行える。
【0055】
測定工程(#10)で測定された押出波形を表示する方法は、特に限定されない。例えば、図1図4に示すように押出波形をそのまま表示してもよい。或いは、ラムヘッド12の移動量x毎の押出負荷F(x)を色分けして表現したコンター図を作成してもよい。コンター図を作成する場合、押出波形における横軸、すなわちラムヘッド12の移動量を所定の区間に区分し、その区分内での押出負荷F(x)の平均値を算出する。そして、算出した押出負荷F(x)の平均値の大きさに応じて色分けを行い、時系列順に並べて表示する。
【0056】
判定工程(#15)では、押出工程(#5)の最中に、所定の条件を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。具体的には、判定工程(#15)では、押出負荷F(x)がa≦x≦100の範囲で上記の式(1)を満たし、かつ、後述する押出負荷平均Fが上記の式(2)を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。以下、式(1)及び式(2)について説明する。
【0057】
式(1)は、スライドシュー13が炭化室80内に進入した後(a≦x≦100)の押出負荷F(x)が、スライドシュー13が炭化室80内に進入する直前(x=a)での押出負荷F(a)よりも大きいことを意味する。要するに、式(1)を用いた判定では、図10に示す状態から図11に示す状態まで押出機10を押す間に、モータ14の押出負荷F(x)がF(a)よりも大きくなるか否かを判定する。式(1)において、押出負荷F(x)は、瞬時値、すなわちラムヘッド12の移動量がxの瞬間での押出負荷を意味する。つまり、押出負荷F(x)が瞬間的にF(a)よりも大きくなれば式(1)を満たす。
【0058】
図12は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。図12に示す押出波形では、図4に示す押出波形と同様に、実押出期間において押出負荷のピークが発現している。そのため、図12では、実押出期間における押出負荷F(x)は、ラムヘッド12の移動量がaのときの押出負荷F(a)よりも大きくなっている。したがって、図12に示す例では、押出負荷F(x)は式(1)を満たす。
【0059】
図13は、コークス炉の押出波形の一例を示す図である。図13に示す押出波形は、図12に示す押出波形と同じである。図13では、横軸、すなわち炭化室80の炉長方向の全長を100としたときのラムヘッド12の移動量(a≦x≦100)を所定の区間に区分している。図13に示す例では、区分された1つの区間の幅は5である。これは、a≦x≦100の範囲において、炭化室80を炉頂方向における寸法が炭化室80の全長の5%毎の区間に区分することに相当する。
【0060】
式(2)は、区分された区間のうち、A番目の区間内の押出負荷F(x)を平均した値を押出負荷平均Fとして、この押出負荷平均Fが、スライドシュー13が炭化室80内に進入する直前(x=a)での押出負荷F(a)よりも大きいことを意味する。押出負荷平均Fは、瞬時値である押出負荷F(x)とは異なり、A番目の区間内の押出負荷F(x)の平均値である。式(2)を用いた判定では、図10に示す状態から図11に示す状態まで押出機10を押す間に、いずれかの区間内の押出負荷平均がF(a)よりも大きくなるか否かを判定する。図13に示す例では、A番目の区間の押出負荷平均Fは式(2)を満たす。
【0061】
本実施形態の例では、判定工程(#15)において、押出負荷F(x)が式(1)を満たし、かつ、押出負荷平均Fが式(2)を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。しかしながら、式(1)及び式(2)の両方を必ずしも満たす必要はない。例えば、コークス炉の異常の判定に式(1)のみを用いてもよい。要するに押出負荷F(x)が式(1)を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定してもよい。
【0062】
押出工程(#5)中、判定工程(#15)でコークス炉に異常が発生していると判定した場合、コークス20の押出中に押出機10のラムヘッド12と炉壁85との間からこぼれ落ちたコークス塊が炉底84に堆積していると推察される。この場合、必ずしもただちに押出機10を停止する必要はない。判定工程(#15)でコークス炉に異常が発生していると判定した場合、現在行っているコークス20の押し出しを完了させた後、コークス炉内のコークス塊を排出してもよい。或いは、現在行っているコークス20の押し出しを完了させた後、補修又は交換により、押出機10のラムヘッド12の幅を大きくしてもよい。ラムヘッド12の幅が大きくなると、押出工程(#5)中においてラムヘッド12と炉壁85との間のクリアランスが小さくなるため、コークス塊がこぼれ落ちにくくなるからである。
【0063】
[効果]
本実施形態に係る異常検知方法では、判定工程(#15)において、押出負荷F(x)が、a≦x≦100の範囲で式(1)を満たす場合、コークス炉に異常が発生していると判定する。つまり、本実施形態に係る異常検知方法では、スライドシュー13が炭化室80内に進入した後(a≦x≦100)の押出負荷F(x)が、スライドシュー13が炭化室80内に進入する直前(x=a)での押出負荷F(a)よりも大きい場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。図3及び図4に示すように、コークス炉に異常が発生しているときの押出波形では、実押出期間における押出負荷F(x)のピークの発現又は初期ピーク以降の波形変化が起こる。本実施形態に係る異常検知方法では、コークス20の押出中、このような押出波形が測定された場合に異常が発生していると判定することができる。したがって、本実施形態に係る異常検知方法によれば、従来考慮していなかったコークス炉の異常(具体的には、コークス20の押出中に押出機10と炉壁85との間からコークス塊がこぼれ落ち、そのコークス塊が炉内に残留することによって生じる異常)も検知することができる。そのため、本実施形態に係る異常検知方法によれば、高精度にコークス炉内の異常を検知することができる。
【0064】
本実施形態に係る異常検知方法では、式(1)に加えて式(2)を満たす場合に、コークス炉内が異常と判定してもよい。式(2)を満たす場合、区分された区間内の押出負荷F(x)を平均した押出負荷平均Fが、スライドシュー13が炭化室80内に進入する直前(x=a)での押出負荷F(a)よりも大きくなる。要するに、本実施形態の異常検知方法では、押出負荷F(x)が瞬間的にF(a)よりも大きくなるだけでなく、押出負荷F(x)を区間内で平均した値がF(a)よりも大きい場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。本実施形態に係る異常検知方法では、押出負荷F(x)が瞬間的にF(a)よりも大きくなった状態のみでは、異常と判定しない。この状態は、押出負荷F(x)が瞬間的に上昇しているだけであることから、正常な範囲内かもしれず、必ずしも異常が起こっているとは言えない。したがって、本実施形態の異常検知方法によれば、誤検知のリスクを低減することができる。
【0065】
[第2実施形態]
本実施形態に係る異常検知方法は、第1実施形態の異常検知方法と比較して、判定工程(#15)でのコークス炉に異常が発生していると判定する条件が異なる。具体的には、本実施形態の異常検知方法の判定工程(#15)では、押出負荷F(x)がa≦x≦100の範囲で式(1)及び式(2)に加えて式(3)を満たす場合に、コークス炉内が異常と判定する。
【0066】
式(3)は、区分された区間のうち、A番目の区間内の押出負荷F(x)を平均した押出負荷平均F及び(A+1)番目の区間内の押出負荷F(x)を平均した押出負荷平均FA+1は、いずれもスライドシュー13が炭化室80内に進入する直前(x=a)での押出負荷F(a)よりも大きいことを意味する。押出負荷平均FA+1は、瞬時値である押出負荷F(x)とは異なり、(A+1)番目の区間内の押出負荷F(x)の平均値である。式(3)は、さらに、(A+1)番目の区間内の押出負荷平均FA+1は、A番目の区間内の押出負荷平均Fよりも大きいことを意味する。
【0067】
式(3)を用いた判定では、図10に示す状態から図11に示す状態まで押出機10を押す間に、2つの区間で連続して押出負荷平均がF(a)よりも大きくなるか否かを判定する。さらに、式(3)を用いた判定では、その連続する区間をA番目の区間及び(A+1)番目の区間としたとき、(A+1)番目の区間内の押出負荷平均FA+1が、A番目の区間内の押出負荷平均Fよりも大きいか否かを判定する。
【0068】
本実施形態に係る異常検知方法では、式(1)及び式(2)に加えて式(3)を満たす場合に、コークス炉内が異常と判定する。要するに、本実施形態に係る異常検知方法では、第1実施形態の異常検知方法と比較して、コークス炉内を異常と判定する条件がより厳しい。そのため、本実施形態に係る異常検知方法によれば、誤検知のリスクがさらに低減する。
【0069】
[第3実施形態]
本実施形態に係る異常検知方法は、第1実施形態の異常検知方法と比較して、判定工程(#15)でのコークス炉に異常が発生していると判定する条件が異なる。具体的には、本実施形態の異常検知方法の判定工程(#15)では、押出負荷F(x)がa≦x≦100の範囲で上記の式(4)を満たす場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。
【0070】
式(4)の左辺は、ラムヘッド12の位置をaからxまで移動させたとき、押出機10のモータ14がした仕事を意味する。また、式(4)の右辺において、Sminは、炭化室80で過去に行ったコークス20の押し出しにおいて、ラムヘッド12の位置をaから100まで移動させたときに押出機10のモータ14がした仕事Sの最小値を意味する。要するに、炭化室80でのコークス20の押し出しが完了するごとに、モータ14がした仕事Sを記録しておき、これまでの記録されている仕事Sの最小の値をSminとする。式(4)を用いた判定では、押出工程(#5)中、押出機10のモータ14がした仕事が、Sminの1.2倍よりも大きくなるか否かを判定する。
【0071】
本実施形態の異常検知方法では、押出工程(#5)中、a≦x≦100の範囲で押出機10のモータ14がした仕事が、Sminの1.2倍よりも大きい場合に、コークス炉に異常が発生していると判定する。図3及び図4に示すような、コークス炉に異常が発生しているときの押出波形では、実押出期間における押出負荷F(x)のピークの発現又は初期ピーク以降の波形変化が起こる。このような押出波形のときに押出機10がした仕事は、コークス炉が健全な状態のときに押出機10がした仕事と比較して非常に大きくなる。そのため、本実施形態の異常検知方法では、コークス20の押出中、このような押出波形が測定された場合に異常が発生していると判定することができる。したがって、本実施形態の異常検知方法によれば、第1実施形態に係る異常検知方法と同様に、高精度にコークス炉内の異常を検知することができる。
【実施例0072】
[第1実施例]
本実施形態に係る異常検知方法の効果を確認するため、実際に炭化室でのコークスの押し出しを行い、押出波形を測定した。コークスの押し出しを行った炭化室の寸法は、幅0.46m、炉長方向の全長16m、高さ7.125mである。また、コークスの押し出しに用いた押出機のラムヘッドの先端からスライドシューの先端までの長さaは、3.6mである。このaの値は、炭化室の炉長方向の全長を100としたときの相対値で表すと、3.6÷16×100≒22である。
【0073】
図14は、本実施例に係る押出波形を示す図である。図14では、同じ炭化室での4パターンの押出波形A~Dを示す。図14において、Aの押出波形は、炉内が健全な状態のときの押出波形である。一方、B~Dの押出波形は、炉内に異常が発生しているときの押出波形である。B~Dの押出波形では、いずれも実押出期間において押出負荷のピークが発現している。B~Dの中でも、Dの押出波形が最も押出負荷が大きくなっている。Dの押出波形では、ラムヘッドの移動量が90(炭化室の全長に対する相対値)のときにコークスの押詰が発生している。
【0074】
第1実施例では、図14に示す押出波形A~Dに対して、各実施形態に係る異常検知方法を用いた場合に、コークス炉の異常と判定されるか否かを検証した。
【0075】
表1は、第1実施例での検証結果をまとめたものである。表1には、押出波形A~Dに対して第1実施形態に係る異常検知方法を用いた場合の結果が示される。ただし、本実施例での判定においては、式(1)のみを用いた。表1において、押出波形が異常と判断された場合には有と、そうでない場合には無と記載した。
【0076】
【表1】
【0077】
表1には、各押出波形A~Dにおける押出負荷F(a)が示される。また、表1には、最初に押出波形が異常と判定したとき、すなわち、a≦x≦100の範囲で最初に式(1)を満たしたときのラムヘッドの移動量xが示される。表1の結果を参照して、第1実施形態に係る異常検知方法を用いた場合、押出波形Aに対しては異常と判定していない。一方、押出波形B~Dに対しては、異常と判定している。したがって、表1の結果から、第1実施形態に係る異常検知方法を用いれば、押出波形B~Dのような異常な押出波形の発生を検知することができる。
【0078】
表2は、第1実施例での検証結果をまとめたものである。表2には、押出波形A~Dに対して第3実施形態に係る異常検知方法を用いた場合の結果が示される。表2において、押出波形が異常と判断された場合には有と、そうでない場合には無と記載した。
【0079】
【表2】
【0080】
表2には、各押出波形A~Dにおけるa≦x≦100の範囲における押出機のモータの仕事量が示される。ただし、押出波形Dでは、ラムヘッドの移動量x=90のときに押詰が発生しているため、押出波形Dについてはa≦x≦90の範囲における押出機のモータの仕事量が示される。また、表2には、押出波形Aにおける仕事量に対する各押出波形における仕事量が示される。表2の結果を参照して、押出波形B~Dにおける仕事量は、いずれも押出波形Aにおける仕事量の1.2倍以上である。したがって、第3実施形態に係る異常検知方法を用いた場合、押出波形B~Dを異常と判定する。したがって、表2の結果から、第3実施形態に係る異常検知方法を用いれば、押出波形B~Dのような異常な押出波形の発生を検知することができる。なお、この検知方法を用いた場合は、押出工程が完了しなくても、押出波形の異常を逐次検知できる。
【0081】
[第2実施例]
本実施例では、コークスの押出中に押出機のラムヘッドと炉壁の間からこぼれ落ち、炉底に堆積したコークス塊が、コークスの押出中の押出負荷に与える影響について検証した。図15は、ラムヘッドの位置に応じたコークス塊の堆積高さの推移を示す図である。図15には、異なる測定日での同じ炭化室におけるコークス塊の堆積高さの推移が示される。図15において、横軸は押出機側窯口を基準としたラムヘッドの位置(実測値)を示し、縦軸は炉底に堆積したコークス塊の高さを示す。
【0082】
図16は、コークス塊の堆積高さと押出負荷の関係を示す図である。図16には、コークスの押出中の押出波形において、実押出期間に押出負荷のピークが発現した場合の、コークス塊の堆積高さと押出負荷のピーク値を示す。図16において、横軸は実押出期間での押出負荷のピーク値を示し、縦軸は炉底に堆積したコークス塊の高さを示す。
【0083】
図16を参照して、実押出期間において押出負荷のピークが発現した場合、コークス塊は500mm以上の高さまで堆積している。また、図15及び図16を参照して、コークスの押詰が発生した場合、コークス塊は1000mm以上の高さまで堆積している。このとき、押出負荷のピーク値は0.8程度であり、非常に大きな押出負荷が発生していることが分かる。このことから、炉底に堆積したコークス塊の高さと実押出期間の押出負荷のピーク値には良好な相関があることが分かる。そのため、炉内のコークス塊の高さが大きくなった場合には、押出波形に特徴的な変化が生じる。この変化に着目することにより、コークスの押出性の悪化を早期に検知することができる。
【0084】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0085】
10:押出機
11:ラムビーム
12:ラムヘッド
13:スライドシュー
14:モータ(機関)
80:炭化室
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