(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024919
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】アルコール飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20240216BHJP
【FI】
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127907
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】芳原 和希
(72)【発明者】
【氏名】松本 雄大
(72)【発明者】
【氏名】長田 知也
(72)【発明者】
【氏名】圖師 あかね
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115LH11
4B115LP01
4B115LP02
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、蒸留酒を水で希釈して得られた容器詰アルコール飲料の劣化を抑制することである。
【解決手段】蒸留酒を脱イオン処理水で希釈することと、希釈後に加熱処理を実施しないこととを組み合わせる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール含有量が1~10v/v%である容器詰アルコール飲料の製造方法であって、
脱イオン処理水を用いて蒸留酒を希釈して希釈液を得る工程、及び
希釈液を、1日以上飲用に供さないことが意図された容器に詰める工程
を含み、
希釈工程を実施した後に50℃以上かつ1分以上の加熱処理工程が実施されない、前記方法。
【請求項2】
前記蒸留酒が、ウイスキー、ブランデー、ジン、テキーラ、及び焼酎からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
容器詰アルコール飲料が含有するアルコール中の蒸留酒由来のアルコールの含有率が10v/v%以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記容器詰めアルコール飲料のアルコール含有量が3~9v/v%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記容器詰アルコール飲料が炭酸を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記容器詰アルコール飲料が保存料を含有しない、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記希釈液を膜ろ過に付す工程を含まない、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記脱イオン処理水中のマグネシウム、カルシウム、カリウム、及びナトリウムの合計含有量が5ppm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記脱イオン処理水中のマグネシウム、カルシウム、カリウム、及びナトリウムの合計含有量が1ppm以下である、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理がされていない容器詰アルコール飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイボールなどの比較的アルコール含有量が低いアルコール飲料が人気を得ている。そのような飲料は、家庭や居酒屋などで調製されることもあり、その場合には中期的・長期的な保管が意図されていない。そのため、その場合の当該アルコール飲料の調製は飲用直前に実施される。
【0003】
一方、工業的には、中期的・長期的な保管を考慮して、そのようなアルコール飲料は容器に詰めて製造・販売されており、それらの多くはReady to Drink(RTD)と呼ばれ、広く受け入れられている。RTDの多くは、アルコール含有量が比較的低く(10%以下)、衛生上の理由から、飲料と容器がともに殺菌されていることが多い。たとえば、飲料を加熱殺菌して容器に充填・密封して、レトルト殺菌するという充填・殺菌法が広く採用されている。また、特許文献1には、アルコール飲料の加熱殺菌についての報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
市場に出回っている容器詰アルコール飲料は、通常、中期的・長期的な保管を前提としている。そのため、アルコール度数が高く腐敗しにくい場合などの一部の例外を除いて、殺菌のために加熱処理が施されることが多い。
【0006】
この点に関し、本発明者は、蒸留酒を水で希釈して加熱処理を施すと、得られた飲料の劣化が進行しやすいことを見出した。
本発明の課題は、蒸留酒を水で希釈して得られた容器詰アルコール飲料の劣化を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、蒸留酒を脱イオン処理水で希釈することと、希釈後に加熱処理を実施しないこととを組み合わせると、得られた容器詰アルコール飲料の劣化を効率よく抑制することができることを見出した。
【0008】
本発明は、以下のものに関するが、これらに限定されない。
1.アルコール含有量が1~10v/v%である容器詰アルコール飲料の製造方法であって、
脱イオン処理水を用いて蒸留酒を希釈して希釈液を得る工程、及び
希釈液を、1日以上飲用に供さないことが意図された容器に詰める工程
を含み、
希釈工程を実施した後に50℃以上かつ1分以上の加熱処理工程が実施されない、前記方法。
2.前記蒸留酒が、ウイスキー、ブランデー、ジン、テキーラ、及び焼酎からなる群から選択される少なくとも一種である、1に記載の方法。
3.容器詰アルコール飲料が含有するアルコール中の蒸留酒由来のアルコールの含有率が10v/v%以上である、1又は2に記載の方法。
4.前記容器詰めアルコール飲料のアルコール含有量が3~9v/v%である、1~3のいずれか一項に記載の方法。
5.前記容器詰アルコール飲料が炭酸を含有する、1~4のいずれか一項に記載の方法。
6.前記容器詰アルコール飲料が保存料を含有しない、1~5のいずれか一項に記載の方法。
7.前記希釈液を膜ろ過に付す工程を含まない、1~6のいずれか一項に記載の方法。
8.前記脱イオン処理水中のマグネシウム、カルシウム、カリウム、及びナトリウムの合計含有量が5ppm以下である、1~7のいずれか一項に記載の方法。
9.前記脱イオン処理水中のマグネシウム、カルシウム、カリウム、及びナトリウムの合計含有量が1ppm以下である、8に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蒸留酒を水で希釈して得られた容器詰アルコール飲料の劣化を抑制することができる。当該劣化とその抑制は、例えば、オフフレーバー、例えばビニール臭の生成抑制の程度、味、例えば味の厚みの維持の程度などを指標として評価することができる。この効果は、蒸留酒に含まれる成分、例えばフーゼル成分に対して本発明が低減抑制効果を発揮し、それによりもたらされると考えられる。
【0010】
本明細書における「ビニール臭」とは、ビニール様の人工的な臭いを意味する。また、本明細書における「味の厚み」とは、複雑さや持続性、広がりが感じられる味わいのことを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の、アルコール含有量が1~10v/v%である容器詰アルコール飲料の製造方法について、以下に説明する。
(希釈工程)
本発明の方法は、脱イオン処理水を用いて蒸留酒を希釈して希釈液を得る工程を含む。
【0012】
希釈をする際には、脱イオン処理水を蒸留酒と混合する。希釈の程度は特に限定されないが、例えば、蒸留酒を体積で3倍~50倍、3倍~10倍、又は3倍~6倍に希釈する。
【0013】
本明細書における「脱イオン処理水」は、水を脱イオン処理工程に付して得られた水を意味し、当該水におけるミネラルの含有量は低減されている。脱イオン処理水中のミネラルの含有量は限定されないが、マグネシウム、カルシウム、カリウム、及びナトリウムの合計含有量は好ましくは5ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。
【0014】
本発明の飲料に含有されるミネラルの含有量又は濃度は、ICP発光分光分析装置や原子吸光分析装置を用いて公知の方法により測定することができる。
脱イオン処理水を製造する手段は限定されず、例えば、イオン交換樹脂、電気脱イオン装置、膜処理などの手段を用いることができる。
【0015】
希釈工程で用いる蒸留酒の種類は、特に限定されないが、例えば、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ(例えば、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、アクアビット)、テキーラ、ニュートラルスピリッツ、リキュール類、焼酎が挙げられる。これらの内の一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、当該蒸留酒は、ウイスキー、ブランデー、ジン、テキーラ、及び焼酎からなる群から選択される少なくとも一種である。当該蒸留酒は、特に好ましくは、ウイスキー又はブランデーである。
【0016】
希釈工程を実施する温度は、好ましくは50℃未満、より好ましくは40℃以下、より好ましくは3~35℃である。この温度は液温を意味する。
希釈工程で得られた希釈液は、必要に応じて追加の処理をしたうえで、容器詰め工程に付される。
【0017】
(容器詰め工程)
容器詰め工程においては、希釈液を、1日以上飲用に供さないことが意図された容器に詰める。本明細書において、希釈液に関して用いられる「容器に詰める」との用語は、希釈液を容器に入れて、そしてその容器を気密又は密封状態にすることを意味する。そして、そのようにして得られた飲料を、本明細書においては「容器詰飲料」と呼ぶ。
【0018】
「1日以上飲用に供さないことが意図された容器」とは、典型的には、工場で生産されて販売のために市場へ輸送される飲料が入れられる容器である。そのような場合、当該飲料は輸送や保管のために1日以上飲用できないことが通常である。飲用に供さない期間は、3日以上、1週間以上、又は2週間以上であってもよい。そして、そのような容器に詰められた飲料は、本願発明がなければ、長期保存を意図して加熱殺菌されることが多いものと考えられる。当該容器の形態は特に限定されないが、例えば、缶等の金属容器、ペットボトル、紙パック、ガラス瓶、パウチなどが挙げられる。好ましくは、当該容器は缶等の金属容器、ペットボトル、又はガラス瓶である。
【0019】
本発明において、希釈工程を実施した後は、容器詰め工程を含めて、加熱処理工程を実施しない。背景技術の項に記載したとおり、本発明のように比較的低いアルコール含有量を有する飲料を容器詰飲料の形態で販売する際には、衛生上の理由から、加熱殺菌を実施することが多い。そのため、そのような飲料を加熱処理せずに保管する動機づけはほとんどなかった。それにもかかわらず、本発明では、加熱処理を実施しない。そして、加熱処理を実施しないことを、脱イオン処理水を用いることと組み合わせると、効率的に容器詰アルコール飲料の劣化を抑制することができる。
【0020】
実施すべきでない当該加熱処理工程の条件は、例えば、加熱温度が50℃以上、処理時間が1分以上、加熱温度が50℃以上、処理時間が5分以上である。この温度は液温を意味する。
【0021】
(アルコール含有量)
本発明の方法で得られる飲料は、アルコールを含有するアルコール飲料である。本発明の飲料におけるアルコール含有量は、好ましくは1~10v/v%、より好ましくは3~9v/v%である。
【0022】
本明細書に記載の「アルコール」との用語は、特に断らない限りエタノールを意味する。
本明細書においては、飲料のアルコール含有量は、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、飲料から濾過又は超音波によって必要に応じて炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を水蒸気蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。あるいは、HPLCやガスクロマトグラフィーを用いてアルコール含有量を測定することもできる。
【0023】
ある態様において、本発明の方法で得られるアルコール飲料が含有するアルコール中の蒸留酒由来のアルコールの含有率は、10v/v%以上、好ましくは20v/v%以上、より好ましくは40v/v%以上、より好ましくは80v/v%以上、より好ましくは90v/v%以上、より好ましくは100v/v%である。
【0024】
(炭酸ガス)
本発明におけるアルコール飲料は、炭酸ガスを含んでもよい。炭酸ガスは、当業者に通常知られる方法を用いて飲料に付与することができ、例えば、これらに限定されないが、二酸化炭素を加圧下で飲料に溶解させてもよいし、ツーヘンハーゲン社のカーボネーター等のミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と飲料とを混合してもよいし、また、二酸化炭素が充満したタンク中に飲料を噴霧することにより二酸化炭素を飲料に吸収させてもよい。これらの手段を適宜用いて炭酸ガス圧を調節する。
【0025】
本発明の飲料が炭酸ガスを含有する場合、その炭酸ガス圧は、特に限定されないが、好ましくは0.7~4.5kgf/cm2、より好ましくは0.8~2.8kgf/cm2である。本発明において、炭酸ガス圧は、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA-500Aを用いて測定することができる。例えば、試料温度を20℃にし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定する。本明細書においては、特に断りがない限り、炭酸ガス圧は、20℃における炭酸ガス圧を意味する。
(他の工程)
本発明の製造法は、本発明の効果を損なわない限り、追加の工程を含んでもよい。例えば、蒸留酒や希釈液に、追加的な成分を添加することができる。当該追加的な成分の例は、以下の「他の成分」の項に示されるとおりである。
【0026】
ある態様において、本発明の製造法は、希釈液を除菌のための膜ろ過に付す工程を含まない。当該膜ろ過の例は、PVDF、セルロースエステル、酢酸セルロース、PES(ポリエーテルスルホン)等を材料とする濾過用の膜フィルターを用いた膜ろ過である。当該フィルターの孔径は、特に限定されないが、0.10μm超から1.00μmまでの範囲が適用されうる。
【0027】
ある態様において、本発明の製造法は、希釈液を、加熱殺菌以外の殺菌処理に付す工程を含まない。そのような殺菌工程の例は、パルス殺菌工程、高圧殺菌工程である。ここで、パルス殺菌工程とは、液体に短い幅の高電圧パルスをかけることによって殺菌する手法である。高圧殺菌工程とは、液体に超高圧をかけることによって殺菌する方法である。
【0028】
(他の成分)
本発明におけるアルコール飲料は、他にも、本発明の効果を損なわない限り、飲料に通常配合する添加剤、例えば、香料、ビタミン、色素類、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を含有してもよい。
【0029】
ある態様において、本発明におけるアルコール飲料は、保存料を含有しない。当該保存料の例は、安息香酸、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸エステルである。
(数値範囲)
明確化のために記載すると、本明細書における数値範囲は、その端点、即ち下限値及び上限値を含む。例えば、「1~2」により表される範囲は、1及び2を含む。
【実施例0030】
以下に試験例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
(試験例1) 水の種類及び加熱処理の影響
蒸留酒を希釈して得られる飲料は、時間と共に劣化して味の厚みが低下し、又はオフフレーバーが生成する。
【0031】
一方、蒸留酒に含まれるフーゼルと呼ばれる成分(n-プロパノール、イソブタノール、act-アミルアルコール(2-メチル-1-ブタノール)、イソアミルアルコール)は、蒸留酒のオフフレーバーをマスキングし、又は味の厚みに寄与することができるものと考えられる。
【0032】
本試験例においては、水の種類と加熱処理が、フーゼルの含有量、飲料の味の厚み、及びオフフレーバーの経時変化に与える影響を確認した。
具体的には、非脱イオン処理水である炭酸入り天然水(以下、「非脱イオン」と記載することがある。マグネシウム、カルシウム、カリウム、及びナトリウムの合計含有量は22.8ppm。)と、炭酸入り脱イオン処理水(以下、「脱イオン」と記載することがある。マグネシウム、カルシウム、カリウム、及びナトリウムの合計含有量は4.5ppm。)の二種類の各々について、以下の実験を実施した。ここで、炭酸入り天然水は、天然水に炭酸を加えて調製し、炭酸入り脱イオン処理水は、脱イオン処理水に炭酸を加えて調製した。
【0033】
水を用いて、蒸留酒である市販のウイスキー(ジョニーウォーカーの赤ラベル)を希釈して、希釈液を得た。希釈は、4℃で実施した。次いで、得られた希釈液を容器に詰めて、アルコール含有量が7v/v%である容器詰アルコール飲料を調製した。この際に、飲料は、複数本調製した。得られた飲料の炭酸ガス圧は、2.0kgf/cm2であった。
【0034】
得られた容器詰アルコール飲料の一部をそのまま保存試験に供し(4℃5日間と35℃5日間の二種類の条件下で)、その後に成分分析と官能評価に付した。
比較のため、当該飲料の他の一部を、加熱処理工程(50℃で5分間)に付し、その後に、上記の保存試験と、成分分析及び官能評価に付した。
【0035】
(成分分析)
成分分析においては、味の厚みと劣化臭マスキングに貢献すると考えられるフーゼルであるn-プロパノール、イソブタノール、act-アミルアルコール(2-メチル-1-ブタノール)、イソアミルアルコールを対象とした。以下の分析条件でガスクロマトグラフィーを実施した。
【0036】
(分析条件)
使用機器:アジレント・テクノロジー社 GC:6890N
使用カラム:SUPELCO 5% CARBOWAX 20Mon 80/120 Carbopack B AW 8FT x 1/4IN x2mmID GLASS Packed Column
キャリアガス:窒素ガス
Flow:19.5mL/min
注入口温度:200℃
カラム温度:70℃(0分間保持)~154℃(10分間保持)、昇温速度4℃/min
注入量:1.0μL
検出器:FID
検出温度:210℃
分析結果を以下の表に示す。成分量はppm(重量/容量)で表される。また、表中の「Alc.7%」は、アルコール含有量が7v/v%であることを意味する。
【0037】
【0038】
この結果から、以下のことが明らかとなった。
蒸留酒を希釈して得られる飲料において、劣化の抑制に寄与すると考えられるフーゼル成分の量は保存により減少した。
【0039】
これに対し、非脱イオン処理水を脱イオン処理水に置き換えると、又は飲料に対する加熱処理をしないと、当該フーゼル成分の低減を抑制することができた。さらに、本発明により、これらを組み合わせると非常に効率的に当該低減を抑制することができた。
【0040】
本発明の効果が優れていることをより明確に示すため、表1のデータから理解される、脱イオン処理水、加熱処理無し、及び両者の組み合わせによるフーゼル低減抑制の度合いを以下に示す(便宜上、4℃で5日間保存して得られた結果についてだけ示す)。具体的には、非脱イオン処理水を用いて加熱処理して得られた飲料をコントロールとし、その成分濃度と、条件変更(水の変更、加熱処理の省略)により得られた飲料の成分濃度との差を、低減抑制の度合いとした。
【0041】
【0042】
この結果から、脱イオン処理水と加熱処理無しを組み合わせると、それらの相加効果を大きく上回る優れた低減抑制効果が得られたことが明らかとなった。
また、表1によると、飲料調製直後は、劣化の抑制に寄与すると考えられるフーゼル成分の量は、水の種類に影響を受けなかった。しかしながら、保存試験中に当該成分量は明らかに減少し、水の種類が異なるとその減少量に違いがみられた。したがって、本発明の劣化抑制効果は、1日以上飲用に供さないことが意図された容器に詰められた飲料において特に有用となる。
【0043】
(官能評価)
官能評価においては、得られた飲料について訓練された4名のパネラーが、「ビニール臭」、「味の厚み」、「総合評価」について評価した。
【0044】
「ビニール臭」の評価基準は以下のとおりである。
5点:強く感じる
4点:感じる
3点:やや感じない
2点:あまり感じない
1点:まったく感じない
「味の厚み」の評価基準は以下のとおりである。
【0045】
5点:強く感じる
4点:感じる
3点:やや感じない
2点:あまり感じない
1点:まったく感じない
「総合評価」の評価基準は以下のとおりである。
【0046】
5点:非常に美味しい
4点:美味しい
3点:やや美味しい
2点:あまり美味しくない
1点:美味しくない
次いで、各項目のスコアの平均値を求めた。結果を表に示す。なお、評価の個人差を少なくするために、パネラーは、各スコアに対応した標準サンプルを用いて事前に各スコアと味との関係の共通認識を確立した。
【0047】
【0048】
得られた官能評価結果は、上記のフーゼル成分に関する結果とよく一致しており、蒸留酒を脱イオン処理水で希釈することと、希釈後に加熱処理を実施しないこととを組み合わせると、蒸留酒を水で希釈して得られた容器詰アルコール飲料の劣化を効率よく抑制することができることが明らかとなった。
【0049】
なお、脱イオン処理水を用いて加熱処理せずに調製された容器詰めアルコール飲料を、28℃で30日間保存した後に中身を取り出して外観を観察したところ、異常は認められなかった。このことから、目立った微生物の増殖は生じなかったものと考えられた。
【0050】
(試験例2) アルコール含有量の影響
アルコール含有量を変更して官能評価を実施した。
具体的には、ウイスキーの使用量を変更したことを除いて試験例1と同様の操作を実施して、アルコール含有量が1v/v%、3v/v%、及び10v/v%である飲料を調製した。得られた飲料の炭酸ガス圧は、2.0kgf/cm2であった。
【0051】
次いで、試験例1と同様の官能試験を実施した。結果を以下に示す。なお、表中の「Alc.1%」は、アルコール含有量が1v/v%であることを意味する。このことは、類似の記載にも同様に当てはまる。
【0052】
【0053】
アルコール含有量を変更しても、試験例1と同様の傾向が認められた。
(試験例3) 蒸留酒の種類の影響
蒸留酒を変更した点を除いて試験例1と同様の操作を実施して、複数の容器詰めアルコール飲料を調製した。用いた蒸留酒は、ウォッカ(スミノフ)、テキーラ(エスペシャルゴールド、ホセ・クエルボ)、ジン(ボンベイ・サファイア、ボンベイ・スピリッツ)、焼酎(黒霧島、霧島酒造株式会社)であった。得られた飲料のアルコール含有量は7v/v%であった。得られた飲料の炭酸ガス圧は、2.0kgf/cm2であった。
【0054】
次いで、試験例1と同様の官能試験を実施した(ジンについては、ビニール臭に代えて柑橘のオフフレーバーを評価し、焼酎については、ビニール臭に代えて油臭を評価した)。結果を以下に示す。
【0055】
【0056】
蒸留酒の種類を変更しても、試験例1と同様の傾向が認められた。
ジンを用いた飲料、テキーラを用いた飲料、及びウォッカを用いた飲料を28℃で30日間保存した後に中身を取り出して外観を観察したところ、異常は認められなかった。このことから、目立った微生物の増殖は生じなかったものと考えられた。