IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人山形大学の特許一覧

<>
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図1
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図2
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図3
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図4
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図5
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図6
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図7
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図8
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図9
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図10
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図11
  • 特開-埋込型ドラッグデリバリーシステム 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024920
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】埋込型ドラッグデリバリーシステム
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
A61M37/00 550
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127909
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100196209
【弁理士】
【氏名又は名称】松崎 義邦
(74)【代理人】
【識別番号】100196829
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 言一
(72)【発明者】
【氏名】井上 健司
(72)【発明者】
【氏名】馮 忠剛
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA74
4C267BB26
4C267BB39
4C267BB40
4C267BB44
4C267CC05
4C267EE08
(57)【要約】
【課題】患部以外の他の組織等への影響を抑制し様々な疾患や部位に汎用的に対応可能で、簡便な構造を有するドラッグデリバリーシステムを提供する。
【解決手段】第1のバルブを備えた第1の磁気駆動チャンバーを備え、前記第1の磁気駆動チャンバーは、第1の材料を収容可能、且つ磁気駆動による圧縮動作で前記第1の材料を前記第1のバルブから送出可能に構成される、埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のバルブを備えた第1の磁気駆動チャンバーを備え、
前記第1の磁気駆動チャンバーは、第1の材料を収容可能、且つ磁気駆動による圧縮動作で前記第1の材料を前記第1のバルブから送出可能に構成される、
埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項2】
前記第1の磁気駆動チャンバーは、
磁気駆動する駆動バー、
前記駆動バーを磁気駆動することにより一定距離を押されて前記第1の磁気駆動チャンバーを押し込み可能に構成された押し込み部、及び
前記押し込み部が押し込み方向と逆方向に後退することを抑制するように構成された後退防止ストッパー
を備える、請求項1に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項3】
前記第1の磁気駆動チャンバーは、鉄粒子を含むポリマー製の袋形状を有し、磁場を加えると前記鉄粒子が前記磁場に引き寄せられて圧縮されるように構成される、請求項1に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項4】
前記第1の磁気駆動チャンバーが第1のpHセンサを備える、請求項1に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項5】
前記第1のpHセンサは、前記第1のpHセンサにより測定されるデータまたはそれに関連するデータを送信する無線通信部を備える、請求項4に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項6】
第2のバルブを備えた第2の磁気駆動チャンバー、
混合チャンバー、及び
ケース
をさらに備え、
前記第1の磁気駆動チャンバー及び前記第2の磁気駆動チャンバーと、前記混合チャンバーとは、前記第1のバルブ及び前記第2のバルブを介して接続されており、
前記混合チャンバーは放出口を有し、
前記ケースは、前記第1の磁気駆動チャンバー、前記第2の磁気駆動チャンバー、及び前記混合チャンバーを覆い且つ前記放出口に対応する位置に開口部を有し、
前記第2の磁気駆動チャンバーは、第2の材料を収容可能に構成され、
前記混合チャンバーは、前記第1の磁気駆動チャンバー及び前記第2の磁気駆動チャンバーの磁気駆動による圧縮動作で送出される前記第1の材料と前記第2の材料とをIn-situで混合して薬剤を形成可能、且つ前記放出口から前記薬剤を放出可能に構成される
請求項1~5のいずれか一項に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項7】
前記混合チャンバーは、前記第1の磁気駆動チャンバー及び前記第2の磁気駆動チャンバーから送出される前記第1の材料及び前記第2の材料によって、前記混合チャンバー内で形成された前記薬剤が押し出されて前記放出口から放出可能に構成される、請求項6に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項8】
前記第2の磁気駆動チャンバーは、
磁気駆動する駆動バー、
前記駆動バーを磁気駆動することにより一定距離を押されて前記第2の磁気駆動チャンバーを押し込み可能に構成された押し込み部、及び
前記押し込み部が押し込み方向と逆方向に後退することを抑制するように構成された後退防止ストッパー
を備える、請求項6に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項9】
前記第2の磁気駆動チャンバーは、鉄粒子を含むポリマー製の袋形状を有し、磁場を加えると前記鉄粒子が前記磁場に引き寄せられて圧縮されるように構成される、請求項6に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項10】
前記第2の磁気駆動チャンバーが第2のpHセンサを備える、請求項6に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項11】
前記第2のpHセンサは、前記第2のpHセンサにより測定されるデータまたはそれに関連するデータを送信する無線通信部を備える、請求項10に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項12】
前記混合チャンバーが第3のpHセンサを備える、請求項6に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【請求項13】
前記第3のpHセンサは、前記第3のpHセンサにより測定されるデータまたはそれに関連するデータを送信する無線通信部を備える、請求項12に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋込型ドラッグデリバリーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤は体内に入ると、血管や粘膜などから吸収され、血液を介して体内に分布する。その後、肝臓による代謝、腎臓による尿中などへの排泄の過程を経て、いずれは体内から消失していく。これらの過程では、投与された薬剤の有効成分のうち、ごく一部しか作用部位に到達しない。
【0003】
作用部位に到達しなかった有効成分は、治療としての効果はもちろん発揮できない。そればかりか、正常である組織に対しての副作用や毒性の原因になり得る。また、有効成分がきちんと効果を発揮するためには、一定以上の期間(治療期間)に亘り、作用部位での濃度を保ち、有効濃度範囲内を維持する必要がある。
【0004】
そこで、薬剤の副作用を極力減らしながら作用効果を向上させるために、ドラッグデリバリーシステム(DDS)が提案されている。DDSとは、薬剤の効果を高め、かつ副作用を抑えることを目的として、必要最低限の量の薬剤を、必要な時間、必要な場所へ狙い通りに届ける技術である。
【0005】
これまでに、薬剤自体が徐放機能(有効成分を徐々に放出すること)を有する徐放性製剤や患部へのターゲティングDDS法を中心として、研究が活発に行われている(非特許文献1)。
【0006】
さらには、薬剤の徐放タイミングや用量を制御するために駆動式の埋込型DDSが提案されており、投薬駆動方法として、電気式等の方法が報告されている(特許文献1)。
【0007】
徐放性製剤とは、薬の成分が少しずつ長時間放出され続けるように加工された製剤であり、放出制御製剤(コントロールドリリース製剤)の一種である。徐放性製剤として挙げられる薬は、従来、経口投与型がほとんどである。投与後に剤形が崩れた後、個々の顆粒が徐放性を持つ「マルチプルユニットタイプ」と、経口投与後も剤形が崩壊せずに、製剤全体が徐放性を持ち続ける「シングルユニットタイプ」に大別される。
【0008】
徐放性製剤は、成分を少しずつ放出し続けることで、血中の有効成分濃度の急激な上昇を避け、副作用の発生頻度を下げることができ、また、薬の効果が持続する時間を延ばすことにより、薬の服用回数を減らすことができるメリットを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-107467号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nature Biotech. 2003;21:1184、JACS 2016;138:704
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ターゲティングDDS法において、患部へのターゲティングは化学物質によるものであり、薬剤を患部に集中しやすくすることはできでも、他の組織等への影響も大きい。また、疾患や部位によって異なるターゲティング物質が必要であり、様々な疾患や部位に汎用的に対応することは困難である。
【0012】
また、電気式の投薬駆動方法は、バッテリーが必要である等、装置が複雑になり小型化が困難であるといった問題点があった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、患部以外の他の組織等への影響を抑制し様々な疾患や部位に汎用的に対応可能で、簡便な構造を有する埋込型ドラッグデリバリーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)第1のバルブを備えた第1の磁気駆動チャンバーを備え、
前記第1の磁気駆動チャンバーは、第1の材料を収容可能、且つ磁気駆動による圧縮動作で前記第1の材料を前記第1のバルブから送出可能に構成される、
埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(2)前記第1の磁気駆動チャンバーは、
磁気駆動する駆動バー、
前記駆動バーを磁気駆動することにより一定距離を押されて前記第1の磁気駆動チャンバーを押し込み可能に構成された押し込み部、及び
前記押し込み部が押し込み方向と逆方向に後退することを抑制するように構成された後退防止ストッパー
を備える、上記(1)に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(3)前記第1の磁気駆動チャンバーは、鉄粒子を含むポリマー製の袋形状を有し、磁場を加えると前記鉄粒子が前記磁場に引き寄せられて圧縮されるように構成される、上記(1)に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(4)前記第1の磁気駆動チャンバーが第1のpHセンサを備える、上記(1)~(3)のいずれかに記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(5)前記第1のpHセンサは、前記第1のpHセンサにより測定されるデータまたはそれに関連するデータを送信する無線通信部を備える、上記(4)に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(6)第2のバルブを備えた第2の磁気駆動チャンバー、
混合チャンバー、及び
ケース
をさらに備え、
前記第1の磁気駆動チャンバー及び前記第2の磁気駆動チャンバーと、前記混合チャンバーとは、前記第1のバルブ及び前記第2のバルブを介して接続されており、
前記混合チャンバーは放出口を有し、
前記ケースは、前記第1の磁気駆動チャンバー、前記第2の磁気駆動チャンバー、及び前記混合チャンバーを覆い且つ前記放出口に対応する位置に開口部を有し、
前記第2の磁気駆動チャンバーは、第2の材料を収容可能に構成され、
前記混合チャンバーは、前記第1の磁気駆動チャンバー及び前記第2の磁気駆動チャンバーの磁気駆動による圧縮動作で送出される前記第1の材料と前記第2の材料とをIn-situで混合して薬剤を形成可能、且つ前記放出口から前記薬剤を放出可能に構成される
上記(1)~(5)のいずれかに記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(7)前記混合チャンバーは、前記第1の磁気駆動チャンバー及び前記第2の磁気駆動チャンバーから送出される前記第1の材料及び前記第2の材料によって、前記混合チャンバー内で形成された前記薬剤が押し出されて前記放出口から放出可能に構成される、上記(6)に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(8)前記第2の磁気駆動チャンバーは、
磁気駆動する駆動バー、
前記駆動バーを磁気駆動することにより一定距離を押されて前記第2の磁気駆動チャンバーを押し込み可能に構成された押し込み部、及び
前記押し込み部が押し込み方向と逆方向に後退することを抑制するように構成された後退防止ストッパー
を備える、上記(6)または(7)に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(9)前記第2の磁気駆動チャンバーは、鉄粒子を含むポリマー製の袋形状を有し、磁場を加えると前記鉄粒子が前記磁場に引き寄せられて圧縮されるように構成される、上記(6)または(7)に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(10)前記第2の磁気駆動チャンバーが第2のpHセンサを備える、上記(6)~(9)のいずれかに記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(11)前記第2のpHセンサは、前記第2のpHセンサにより測定されるデータまたはそれに関連するデータを送信する無線通信部を備える、上記(10)に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(12)前記混合チャンバーが第3のpHセンサを備える、上記(6)~(11)のいずれかに記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
(13)前記第3のpHセンサは、前記第3のpHセンサにより測定されるデータまたはそれに関連するデータを送信する無線通信部を備える、上記(12)に記載の埋込型ドラッグデリバリーシステム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、患部以外の他の組織等への影響を抑制し様々な疾患や部位に汎用的に対応可能で、簡便な構造を有する埋込型ドラッグデリバリーシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本埋込型ドラッグデリバリーシステムの断面模式図である。
図2図2は、本埋込型ドラッグデリバリーシステムへの体外からの磁場の印加態様を説明する模式図である。
図3図3は、磁気駆動する駆動バー、押し込み部、及び後退防止ストッパーを有する第1の磁気駆動チャンバーの外観模式図である。
図4図4は、磁気駆動する駆動バー、押し込み部、及び後退防止ストッパーを有する第1の磁気駆動チャンバーの動作原理を説明する側面模式図である。
図5図5は、磁気駆動する駆動バー、押し込み部、及び後退防止ストッパーを有する第1の磁気駆動チャンバーの動作原理を説明する側面模式図である。
図6図6は、ポリマー製の袋形状を有する磁気駆動チャンバーの一例の外観模式図である。
図7図7は、ポリマー製の袋形状を有する磁気駆動チャンバーの作製方法の一例を説明する模式図である。
図8図8は、円筒状に丸めて端部が接着された鉄粒子を含むポリウレタン膜の(A)側面写真、及び(B)正面写真である。
図9図9は、図8の円筒状の鉄粒子を含むポリウレタン膜の直径方向に磁場を印加したときの圧縮状態を示す写真である。
図10図10は、複数の磁気駆動チャンバーを備える本埋込型ドラッグデリバリーシステムの断面模式図である。
図11図11は、第1のバルブが磁気駆動により能動的に開放される能動バルブである場合の磁気駆動チャンバーの一例の側面模式図である。
図12図12は、磁気駆動する駆動バー、押し込み部、及び後退防止ストッパーを有する第1の磁気駆動チャンバーの動作原理を説明する側面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、第1のバルブを備えた第1の磁気駆動チャンバーを備え、前記第1の磁気駆動チャンバーは、第1の材料を収容可能、且つ磁気駆動による圧縮動作で前記第1の材料を前記第1のバルブから送出可能に構成される、埋込型ドラッグデリバリーシステムを対象とする。
【0018】
本開示の埋込型ドラッグデリバリーシステム(以下、本システムともいう)によれば、患部近傍に埋め込んで使用されるため、患部以外の他の組織等への影響を抑制し様々な疾患や部位に汎用的に対応可能であり、非接触の磁気駆動を利用する簡単かつ小型なシステムにより適切な任意のタイミングで適切な量の薬剤を患部に到達させることができる。
【0019】
本システムは、磁気駆動式の埋込型DDSであり、従来技術に対して下記の有利な効果を有する。
・本システムは、患部近くに埋め込み可能なので、患部をピンポイントで治療することができ、他の組織への影響を少なくできる。
・脳には血液脳関門と呼ばれる異物を排除するバリア機構があり、ガン化組織の周辺もガン細胞の旺盛な増殖により緻密な組織が構成されるため、薬剤を患部に到達させることが難しく、従来のDDSによる治療は困難である(Int. J. Mol. Sci. 2019;20:381、J. Control. Release 2017;267:15)。これに対して、本システムは患部の近傍に埋め込んで薬バリアを突破できる埋込型DDSであり、従来のDDSでは治療が困難であった患部の治療が可能である。
・本システムは、機械式の磁気駆動で動作するため、疾患や薬剤の種類によらず適用可能である。
・本システムによれば、チャンバー内で長期保存可能な薬剤を用いる場合、駆動エネルギーがいらない磁気駆動機構と合わせて長期投薬治療が可能である。
・本システムは、磁気駆動チャンバーの内部に保存された薬剤を少量ずつ患部に放出するため、長期投薬治療に適している。
・磁気駆動チャンバーは外部磁気により駆動するので、本システムは、患者の体内に設置が必要なバッテリー等のエネルギー源が不要であり、長期投薬治療に適している。
・薬剤は磁気駆動チャンバー内で保存されるため、患部の環境と薬剤が相いれない場合でも、薬剤の効果を長期間にわたって維持することができる。例えば、脳組織内部あるいはガン組織の内部と周辺は、酸性環境であり、脳のpHは5.5~6.5であり、ガンのpHは4.5~6.8であることが報告されている(J. Control. Release 2008;132:164、Neuropath. Appl. Neuro. 2009;35:329])。これに対して、例えば、アルツハイマー病治療薬のGalantamine(登録商標)、または抗ガン剤のthiotepa(登録商標)はアルカリ性の薬剤であり、上記の酸性環境に用いる場合、薬剤の安定性と有効性に大きく影響する。本システムによれば、使用環境による薬剤の安定性や有効性への影響を抑制することができ、好酸性、好アルカリ性、または好中性の治療薬の長期的な保存が可能であり、長期投薬治療を良好に行うことができる。
【0020】
本システムは、上記効果を有するため、特に、アルツハイマー病やガン等の長期投薬治療が必要な疾患に好適に用いることができる。
【0021】
図1に、本埋込型ドラッグデリバリーシステム100の断面模式図を示す。本システム100は、第1のバルブ11を備えた第1の磁気駆動チャンバー1(以下、磁気駆動チャンバー1またはチャンバー1ともいう)を備える。チャンバー1は、第1の材料を収容可能に構成されればよく、形状は特に限定されず、立方体、直方体、球体、それらの組み合わせ等の形状であることができる。第1の材料は、特に限定されず、任意の薬剤または薬剤の元になる材料であることができる。また、第1の材料の形態は、第1の磁気駆動チャンバー1から絞りだせる材料なら特に限定されず、例えば液状、ゲル状、ペースト状、固形粉末等であることができる。
【0022】
第1のバルブ11は逆止弁として機能し、磁気駆動によりチャンバー1が圧縮されると圧力がかかって開放され、チャンバー1に収容される第1の材料が排出されるように排出タイミングを制御することができる。チャンバー1を圧縮する磁場が印加されると同時に、第1のバルブ11が磁気駆動により能動的に開放されるように構成されてもよい。
【0023】
図11に、第1のバルブ11が磁気駆動により能動的に開放される能動バルブである場合の磁気駆動チャンバー1の一例の側面模式図を示す。図11(A)が第1のバルブ11が閉じているときの態様、図11(B)が第1のバルブ11が開いているときの態様を示す。
【0024】
図11に示す例においては、第1のバルブ11は、リンク機構によりスライダの移動に連動して開閉する。チャンバー1はケース54を備え、ケース54は、リンク63、64、及びジョイント65、66、67を含むリンク機構を備える。リンク63には、ジョイント65を介して、ケース54に圧縮バネ62を介して接続されケース54に沿って移動可能にガイドされた磁性体金属のスライダ61が接続される。磁石71をスライダ61に近づけることにより、スライダ61が移動して圧縮バネ62が伸縮し、ケース54に接続されたジョイント67が回転軸として回転してリンク64が開閉することにより、第1のバルブ11が開閉する。すなわち、図11に示す態様では、リンク64が第1のバルブ11として機能する。図11に示す態様において、磁気駆動する駆動バー51、押し込み部52、及び後退防止ストッパー53は、後述する図12に示す構成と同じであるが、これに限られず他の態様であることができ、例えば後述する図3~5に示す構成をとることもできる。
【0025】
図2に示すように、本システム100への磁場の印加は、磁石等の磁場発生装置8を本システム100近傍の身体表面に近づけて体外から行うことができる。
【0026】
好ましくは、第1の磁気駆動チャンバーは、磁気駆動する駆動バー、駆動バーを磁気駆動することにより一定距離を押されて第1の磁気駆動チャンバーを押し込み可能に構成された押し込み部、及び押し込み部が押し込み方向と逆方向に後退することを抑制するように構成された後退防止ストッパーを備える。
【0027】
図3は、磁気駆動する駆動バー51、押し込み部52、及び後退防止ストッパー53を有する第1の磁気駆動チャンバー1の一例の外観模式図を示す。第1の磁気駆動チャンバー1は、ケース54を備えてもよい。ケース54は、第1の磁気駆動チャンバー1を覆い且つ第1の磁気駆動チャンバー1の第1のバルブ11に対応する位置に開口部を備える。
【0028】
ケース54を構成する材料は、チャンバー1を収容し、第1の磁気駆動チャンバー1の第1のバルブ11に対応する位置に開口部を備え、外部からの磁気をケース54の内部に伝達可能であり、且つ本システム100を体内に埋め込んだときに人体に影響がないものであれば特に限定されず、例えば、ポリマー製、プラスチック製、ステンレス等の金属製等であることができる。ケース54は、磁場をより良好に伝達するための窓または開口部を備えてもよい。窓は、ガラス製、プラスチック製などの磁場を伝達可能な材料で構成される。ケース54は、後述するケース4と実質的に同じ機能を有し、ケース54は1個のチャンバーを含む態様を示し、ケース4は3個のチャンバーを含む態様を示す。
【0029】
図4及び図5に、磁気駆動する駆動バー51、押し込み部52、及び後退防止ストッパー53を有する第1の磁気駆動チャンバー1の動作原理の一例を説明する側面模式図を示す。押し込み部52は、図4及び図5に例示するような駆動バー51で押すことができ且つ後退防止ストッパー53で後退を防止することができる凸部521を備える。駆動バー51は、固定部516でケースに固定される。押し込み部52を構成する材料は、チャンバー1を押し込み可能であればよく、金属製、樹脂製等であることができる。図3~5に例示する駆動バー51は、トーションばね等を使った回転式の駆動バー(駆動レバー)であるが、これに限られず、図11及び図12に例示するような板ばね等を使ったスライド式の駆動バーでもよい。図3~5に例示する後退防止ストッパーは、コイルを使っているが、これに限られず、図11及び図12に例示するような板ばね等を使ったスライド式の後退防止ストッパーでもよい。
【0030】
図12に、板ばね等を使ったスライド式の駆動バー及び後退防止ストッパーを備える第1の磁気駆動チャンバーの例の側面模式図を示す。図12に例示する駆動バー51は、ケース54に圧縮バネ62を介して接続されケース54に沿って移動可能にガイドされた磁性体金属のスライダ61に接続された板ばねである。スライダ61は、後述する磁石71に引き寄せ可能であるように少なくとも一部が磁性体金属で構成されていればよい。図12に例示する後退防止ストッパー53は、ケース54に接続された板ばねである。図12(A)の初期態様では、スライダ61はスライダ可動範囲を定めるケース端部541に接している。
【0031】
図12(B)に示すように(1)スライダ61に磁石71を近づけると、(2)磁石71に引き寄られてスライダ61がスライドし、(3)板ばねの駆動バー51が押し込み部52を押し、(4)チャンバー1が圧縮されて第1の材料が放出され、(5)圧縮ばね62が縮み、(6)板ばねの後退防止ストッパー53が押し上げられる。
【0032】
そのままスライダ61をスライドさせると、図12(C)に示すように、(7)スライダ61は、押し込み部52の凸部521を1つ分移動してスライダ可動範囲を定めるケース端部542に接する位置まで進み、(8)板ばねの後退防止ストッパー53が下がり押し込み部52をロックする。
【0033】
次いで、図12(D)に示すように、(9)磁石を取り除くと、(10)圧縮ばね62がスライダ61を押し戻し、(11)板ばねの駆動バー51が押し上げられ、そのままスライダ61を端部541まで押し戻すと、押し込み部52の凸部521が1つ分移動した状態で図12(A)の態様に戻り、チャンバー内の第1の材料が全て放出されるまで上記(A)~(D)を繰り返すことができる。
【0034】
図4(A)~(C)の(1)~(6)に示すように、駆動バー51に磁石等の磁場発生装置を近づけることで、駆動バー51が有する鉄等の磁性体金属部分で構成された磁力吸引部512が磁石に吸引され、駆動バー51が軸511を中心に回転する。印加する磁場は、好ましくは0.3~0.5Tである。回転する駆動バー51の押しバー513に押されて押し込み部52がチャンバー1を押し込む方向に一定量移動し、チャンバー1が圧縮されて第1の材料が放出される。押し込み部52がチャンバー1を押し込みつつあるとき、押し込み部52の移動方向に対して垂直方向に後退防止ストッパー53も押されて、押し込み部52がチャンバー1を押し込み完了したときに、後退防止ストッパー53が下がり、押し込み部52が押し込み方向と逆方向に後退することを抑制するようにロックがかかる。チャンバー1は、好ましくは、弾性を有するポリマーで構成される。
【0035】
図5(D)の(7)~(8)及び図5(E)に示すように、押し込み部52がチャンバー1を押し込んだ後、磁石を遠ざけると、駆動バー51はトーションばねの力で軸511を中心に回転して元の位置に戻る。駆動バー51の押しバー513は、押しバー513が押し込み部52を押す場合は屈曲せず、駆動バー51が元の位置に戻る場合は屈曲可能な、屈曲部514と抑え部515とを備える。磁場発生装置を遠ざけると、図5(D)及び図5(E)に示すように、屈曲部514が屈曲して、駆動バー51は軸511を中心に回転して、図4(A)の元の位置に戻る。
【0036】
図4(A)~(C)及び図5(D)~(E)に示すように、磁気駆動する駆動バー51で押し込み部52を一定距離移動させて第1の磁気駆動チャンバー1を押し込むことにより、所定量の第1の材料を少量ずつ患部に送出することができる。磁気駆動のため電気駆動とは異なりバッテリーが不要で簡易な構成を有するため、本システム100の小型化が可能であり、第1の材料の送出量を高精度に制御することができる。
【0037】
図4(A)~(C)及び図5(D)~(E)を繰り返して、チャンバー1から第1の材料の放出を繰り返し行うことができる。
【0038】
好ましくは、第1の磁気駆動チャンバー1は、鉄粒子を含むポリマー製の袋形状を有し、磁場を印加すると鉄粒子が磁場に引き寄せられて圧縮されるように構成される。印加する磁場の強度は、好ましくは正常生理機能に耐える2T程度までで一般的な磁石よりは強く、より好ましくは0.5~1.0Tである。前記好ましい強度の磁場を印加することにより、鉄粒子によるより良好な磁気駆動力を得ることができる。
【0039】
ポリマー製の袋形状を有する第1の磁気駆動チャンバーが、ポリマー製袋の内部または表面に配置された鉄粒子が磁場によって引き寄せられて圧縮されることにより、所定量の第1の材料を少量ずつ患部に送出することができる。磁気駆動のため電気駆動とは異なりバッテリーが不要であり、さらにはチャンバー自体が磁気駆動して変形するので磁気駆動のための機械構造も不要であり、簡易な構成を有するため、本システム100の小型化が可能である。
【0040】
好ましくは、ポリマー製の袋形状を有する第1の磁気駆動チャンバーは弾性を有する。弾性を有することにより、磁場を切るとポリマーの弾性により元の形に戻ることができる。
【0041】
図6に、ポリマー製の袋形状を有する第1の磁気駆動チャンバーの一例の外観模式図を示す。図7に、ポリマー製の袋形状を有する第1の磁気駆動チャンバーの作製方法の一例を説明する模式図を示す。
【0042】
図6に示すように、ポリマー製の袋形状を有する第1の磁気駆動チャンバー1は、鉄粒子13を備える。鉄粒子13は、好ましくは、図6に例示するように、線状の鉄粒子が整列した複数の列を備える。線状の鉄粒子が整列した複数の列を有することにより、良好な圧縮力が得られ、大きな磁場を要することなく第1の磁気駆動チャンバー1を実質的に均等に圧縮することができる。
【0043】
鉄粒子13の線の幅は、好ましくは0.05~0.10mmである。鉄粒子13の線の厚みは、好ましくは0.05~0.10mmである。鉄粒子13の線間の間隔は、好ましくは0.1~0.3mmである。鉄粒子13が、上記好ましい鉄粒子の線幅及び/または線間の間隔を有することにより、より高い圧縮力が得られ、より小さな磁場でも第1の磁気駆動チャンバー1を圧縮することができる。ポリマー製の袋中の鉄粒子の割合は、鉄粒子を含むポリマー製の袋の全体の質量基準で、好ましくは30~60質量%である。
【0044】
図7に示すように、ポリマー製の袋形状を有する第1の磁気駆動チャンバーは、鉄粒子13を備える2枚のポリマー膜14を重ねて、開口部を残して外周部を貼り合わせて作製することができる。
【0045】
別法では、ポリマー製の袋形状を有する第1の磁気駆動チャンバーは、ポリマー膜14を円筒状に丸め、開口部を残して外周部を貼り合わせて袋状に閉じることで作製することができる。例えば、ガラスチューブ等の円筒状部材にポリマー膜14を巻くことで、円筒状に巻いて貼り合わせることができる。外周部の貼り合わせは、接着剤を用いてもよい。
【0046】
ポリマー膜14は、例えばポリウレタン膜、ポリ塩化ビニル膜、ダクロン(登録商標)等であることができる。ポリウレタンは人工血管等に利用され、生体適合性が確認されており特に好ましい。ポリマー膜14は、好ましくは50~100mmの厚みを有する。鉄粒子は、例えばカルボニル鉄粒子であることができる。鉄粒子は、好ましくは3~10μmの平均粒径を有する。鉄粒子が上記好ましい平均粒径を有することにより、鉄粒子の磁場における配列性がより良好になる。鉄粒子は、好ましくは金メッキされている。金メッキされた鉄粒子は、腐食及びイオンの溶出を抑制することができ生体への影響を小さくまたは影響がないようにすることができる。
【0047】
第1の材料を収容する鉄粒子を有するポリマー製の袋形状を有する第1の磁気駆動チャンバーに磁場を印加すると圧縮され、材料が押し出される力で開口部が開き、中の材料が排出される。磁場を取り除くとポリマーの弾性により袋が元の形状に膨らみ、開口部が閉じることができる。つまり、開口部は第1のバルブ(逆止弁)として作動する。
【0048】
線状の鉄粒子を有するポリマー膜14は、溶媒にポリウレタン等の溶質を溶解させ鉄粒子を分散させたポリマー溶液を鋳型に流し込み、鋳型の両側から磁場を印加しながら乾燥することで作製し得る。上記方法によれば、形成される磁力線に沿って鉄粒子を配列することができる。溶媒は、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を用いることができる。
【0049】
図8及び図9に、線状の鉄粒子を有する円筒状のポリマー膜が磁場で変形する例を示す。図8は、直径5mmで高さが10mmの円筒状に丸めて端部が接着された鉄粒子を含むポリウレタン膜の(A)側面写真、及び(B)正面写真である。円筒状のポリウレタン膜は、観察用に直径7mmのガラスチューブ上に固定した。ポリウレタン膜は50μmの厚みを有し、線幅が0.05mm及び厚みが0.05mmで線間の間隔が0.3mmの線状の鉄粒子が整列した複数の列を備えていた。鉄粒子は平均粒径が5μmのカルボニル鉄粒子であった。
【0050】
鉄粒子を含むポリウレタン膜は、テトラヒドロフラン溶媒40mLにポリウレタン4gを溶解させ1.6gカルボニル鉄粒子を分散させたポリマー溶液を、15mm×60mmの長方形のシリコン鋳型に流し込み、鋳型の短辺方向に0.2Tの磁場を印加しながら乾燥することで作製した。
【0051】
作製した図8の円筒状の鉄粒子を含むポリウレタン膜の直径方向に0.4Tの磁場を印加すると、図9に示すように、直径方向に1mmまで圧縮された。
【0052】
第1の磁気駆動チャンバーは、好ましくは、第1の材料の残量を測定する残量センサを備える。残量センサにより測定される第1の材料の残量データは、無線通信または有線通信により外部端末に送信され得る。残量センサは、後述するpHセンサと同様の無線通信部、記憶部、及び処理部を有することができる。残量データを受信する外部端末も、後述するpHデータを受信する外部端末と同様の構成を有することができる。
【0053】
好ましくは、第1の磁気駆動チャンバーは第1のpHセンサ15を備える。第1の磁気駆動チャンバー内で第1の材料を長期保存している際に、第1のpHセンサ15により測定した第1の材料のpH値に基づいて第1の材料の品質を把握することができる。
【0054】
第1の材料のpH値が所定範囲内の値である場合、品質が保たれていると判断して第1の材料を放出可能にする。第1の材料のpH値が所定範囲外の値である場合は、品質が劣化したと判断して、第1の材料の放出を停止することができる。本システム100は、第1の材料のpH値が所定範囲外の値である場合、磁気駆動により第1のバルブが閉じられ、磁場が誤って印加されても、チャンバー1から第1の材料が放出されないように構成された誤動作防止装置を有することができる。誤動作防止装置は、例えば、第1のpHセンサからの電気信号によって駆動バー51の磁力吸引部512が上がらないように押さえるストッパーが出てくる等の構成を備え得る。
【0055】
本システム100は、第1のpHセンサ15からpH値またはそれに関連するデータを直接受信して第1のバルブを磁気駆動してもよく、または第1のpHセンサ15により測定されるpH値またはそれに関連するデータが、無線通信または有線通信により外部端末に送信され、外部端末からの第1のバルブの磁気駆動に関する信号を受信して磁気駆動してもよい。
【0056】
第1のpHセンサ15により測定されるデータまたはそれに関連するデータは、好ましくは、pH値、pH値が所定範囲外になったことを知らせる信号、またはそれらの組み合わせである。第1のpHセンサ15で測定される第1の材料のpHデータまたはそれに関連するデータに基づいて、第1のバルブを磁気駆動させ、または第1のバルブを磁気駆動させるタイミングを外部端末に通知することができる。
【0057】
好ましくは、第1のpHセンサ15は、第1のpHセンサにより測定されるデータまたはそれに関連するデータ(以下、pHデータともいう)を送信する無線通信部を備える。無線通信部が第1のpHセンサ15により測定されるデータを送信することにより、第1のpHセンサ15により測定されるデータを無線通信により外部端末で受信することができる。無線通信は特に限定されず、Wi-Fi、bluetooth(登録商標)等であることができる。無線通信より送信されたデータは、インターネット等の通信ネットワークを介して外部端末に送信されてもよい。
【0058】
pHデータを受信する外部端末は、第1のpHセンサ15から第1のpHセンサにより測定されるデータまたはそれに関連するデータを受信すると、第1のバルブの磁気駆動のタイミングを表示または音声で患者等に知らせることができる。
【0059】
pHデータを受信する外部端末は、本ドラッグデリバリーシステムを使用する患者の端末、患者をサポートする家族若しくは知人の端末、または医師、看護師等の医療従事者の端末であることができる。
【0060】
外部端末は、スマートフォン、タブレット、パソコン等の携帯端末または情報端末であることができる。
【0061】
第1のpHセンサ15はまた、記憶部及び処理部を備えることができる。
【0062】
記憶部には、送信するpHデータが記憶され得、ドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム等のプログラムも記憶され得る。
【0063】
処理部は、一個または複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。処理部は、サーバの全体的な動作を統括的に制御するものであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。処理部は、pHデータの記憶部への格納、記憶部に格納されるpHデータに基づき、各種集計が実行されるように、通信部及び記憶部の動作を制御することができる。
【0064】
処理部は、記憶部に記憶されているプログラム(ドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて各種処理を実行する。また、処理部は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行できる。データベースは、サーバの記憶部であってもよい。
【0065】
本システムは、好ましくは、第2のバルブを備えた第2の磁気駆動チャンバー、混合チャンバー、及びケースをさらに備え、
前記第1の磁気駆動チャンバー及び前記第2の磁気駆動チャンバーと、前記混合チャンバーとは、前記第1のバルブ及び前記第2のバルブを介して接続されており、
前記混合チャンバーは放出口を有し、
前記ケースは、前記第1の磁気駆動チャンバー、前記第2の磁気駆動チャンバー、及び前記混合チャンバーを覆い且つ前記放出口に対応する位置に開口部を有し、
前記第2の磁気駆動チャンバーは、第2の材料を収容可能に構成され、
前記混合チャンバーは、前記第1の磁気駆動チャンバー及び前記第2の磁気駆動チャンバーの磁気駆動による圧縮動作で送出される前記第1の材料と前記第2の材料とをIn-situで混合して薬剤を形成可能、且つ前記放出口から前記薬剤を放出可能に構成される。
【0066】
本システムが第1の磁気駆動チャンバー及び第2の磁気駆動チャンバーの複数の磁気駆動チャンバーを備える場合、薬剤形成用材料(薬剤の元になる材料)を、第1の磁気駆動チャンバー及び第2の磁気駆動チャンバーの中に個別に保存し、磁気駆動による圧縮動作で各チャンバーから混合チャンバーに材料を送出してIn-situで混合して薬剤を生成し、患部に放出することができる。本システムは、3つ以上の磁気駆動チャンバーを備えてもよい。
【0067】
複数の磁気駆動チャンバーを備えることにより、薬剤の元になる材料が単独でないと長期保存できない材料であるときに、薬剤の元になる材料を各磁気駆動チャンバー内に単独で収容して劣化を抑制することができる。
【0068】
第1の磁気駆動チャンバー及び第2の磁気駆動チャンバーが収容し得る第1の材料及び第2の材料は、薬剤形成用材料(薬剤の元の材料)であることができ、第1の材料及び第2の材料が溶液の場合は酸性溶液、アルカリ性溶液、または中性溶液のいずれでもよく、それぞれが長期間保存できるため、本埋込型ドラッグデリバリーシステム100によれば、長期間にわたる治療が可能となる。第1の材料及び第2の材料は、特に限定されず、薬剤形成用材料(薬剤の元の材料)または任意の薬剤であることができる。また、第1の材料及び第2の材料の形態は、第1の磁気駆動チャンバー及び第2の磁気駆動チャンバーから絞りだせる材料なら特に限定されず、例えば液状、ゲル状、ペースト状、固形粉末等であることができる。
【0069】
混合チャンバーで第1の材料と第2の材料とが混合され生成され得る薬剤は、液状、ゲル状、ペースト状、固形粉末等の薬剤であることができ、好ましくはゲル状の薬剤、より好ましくはゲル状の徐放性製剤であることができる。ゲル状の薬剤は、薬剤がゲルに包まれているので、直接的に拡散することなくピンポイントで患部を治療することができる。局所的な徐放性は特定の疾患に適用することができる。
【0070】
例えば、酸性溶液中のコラーゲン分子がアルカリ性または中性の緩衝液(酸性液を加えても、pHが大きく変化しない溶液)と混合するとゲル化する性質を利用して、好アルカリ性または好中性の薬剤を第1の磁気駆動チャンバー1に、酸性コラーゲン溶液を第2の磁気駆動チャンバー2(以下、磁気駆動チャンバー2またはチャンバー2ともいう)に保存することができる。体外から磁場をかけて磁気駆動チャンバー1及び磁気駆動チャンバー2を圧縮し、両液を混合チャンバー3に放出して混合し、In-situでゲル化した徐放性製剤を形成することができる。上記例示における磁気駆動チャンバー1内の薬剤はアルカリ性または中性の状態にあるため、長期保存が可能となる。チャンバー1及びチャンバー2を有する本システムによればまた、混合して生成される薬剤が徐放性製剤であるときに、In-situで混合して生成することができる点が特に効果的である。混合されて形成された徐放性製剤の有効期間は比較的短いが、混合される前のチャンバー1及びチャンバー2に収容された状態では材料の劣化が比較的少なく長期保存が可能となるので、In-situで混合して少しずつ徐放性製剤を形成することが効果的である。これらの効果を有するため、チャンバー1及びチャンバー2を有する本システムは、体外で製造した徐放性製剤を体内に入れる従来のドラッグデリバリーシステムでは治療が困難なアルツハイマー病やガン等の長期投薬治療が必要な疾患に、より良好に適用することができる。
【0071】
図10に、第1の磁気駆動チャンバー1及び第2のバルブ21を備えた第2の磁気駆動チャンバー2を備える本システム100の断面模式図を示す。本システム100は、第1のバルブ11を備えたチャンバー1、第2のバルブ21を備えたチャンバー2、混合チャンバー3、及びケース4を備える。本システム100は、さらに別の磁気駆動チャンバーを備えてもよい。
【0072】
第1の磁気駆動チャンバー1及び第2の磁気駆動チャンバー2と、混合チャンバー3とは、第1のバルブ11及び第2のバルブ21を介して接続される。チャンバー1及びチャンバー2はそれぞれ、第1の材料及び第2の材料を収容可能に構成されればよく、形状は特に限定されず、立方体、直方体、球体、それらの組み合わせ等の形状であることができる。
【0073】
チャンバー1と混合チャンバー3とは、第1のバルブ11を間に介して直接接続されてもよく、または接続部12をさらに介して接続されてもよい。チャンバー2と混合チャンバー3とは、第2のバルブ21を間に介して直接接続されてもよく、または接続部22をさらに介して接続されてもよい。
【0074】
第1のバルブ11及び第2のバルブ21は逆止弁として機能し、磁気駆動させるときだけチャンバー1に収容される第1の材料及びチャンバー2に収容される第2の材料が排出されるように排出タイミングを制御すること、及び混合チャンバー3で混合されて形成された薬剤が、チャンバー1及びチャンバー2に戻らないようにすることができる。チャンバー1及びチャンバー2を圧縮する磁場が印加されると同時に、第1のバルブ11及び第2のバルブ21が磁気駆動により能動的に開放されるように構成されてもよい。第2のバルブ21が能動的に動作する場合については、上述の能動的に動作する第1のバルブ11と同様の機構を備えることができる。
【0075】
混合チャンバー3は、2種以上の材料を混合するチャンバーである。混合チャンバー3は放出口31を有する。混合チャンバー3は、チャンバー1及びチャンバー2の磁気駆動による圧縮動作で送出される第1の材料と第2の材料とをIn-situで混合して薬剤を形成可能、且つ放出口31から薬剤を放出可能に構成される。混合チャンバー3の放出口31から放出される薬剤は患部に供給され得る。本システムにより薬剤を到達させることができる患部は、例えば、アルツハイマー脳、ガン組織等の酸性環境であり得る。
【0076】
混合チャンバー3は、好ましくは、放出口31にバルブを有する。混合チャンバー3で混合して生成される薬剤が常に外部に放出されて患部に拡散してもよい場合、バルブは必要ないが、バルブを有することにより混合して生成される薬剤の放出タイミングを制御することができる。
【0077】
好ましくは、混合チャンバー3は、チャンバー1及びチャンバー2から送出される第1の材料及び第2の材料によって、混合チャンバー3内で形成された薬剤が押し出されて放出口31から放出可能に構成される。チャンバー1及びチャンバー2から送出される第1の材料及び第2の材料によって、混合チャンバー3の中にある1サイクル前に混合して生成された薬剤を患部に放出することができる。
【0078】
混合チャンバー3は、好ましくは、混合チャンバー3から放出する薬剤1回分の体積を有し、チャンバー1及びチャンバー2から混合チャンバー3に放出される第1の材料及び第2の材料の合計体積は混合チャンバー3の体積と同じである。これにより、次にチャンバー1及びチャンバー2を磁気駆動させることにより、混合チャンバー3中の薬剤が押し出されて1回分の薬剤を混合チャンバー3から放出することができる。チャンバー1及びチャンバー2から混合チャンバー3に放出される第1の材料の体積と第2の材料の体積とは同じでもよく異なってもよい。
【0079】
混合チャンバー3の形状は、混合液を収容及び放出可能に構成されればよく、形状は特に限定されず、立方体、直方体、球体、それらの組み合わせ等の形状であることができる。
【0080】
混合チャンバー3は、磁気駆動してもよい。チャンバー1及びチャンバー2の動作とは独立して混合チャンバー3を磁気駆動する場合は、チャンバー1及びチャンバー2の動作とは別個に、混合チャンバー3から薬剤を患部に向けて放出することができる。混合チャンバー3は、好ましくは、磁場発生装置を近づけると広がり、磁場発生装置を遠ざけると圧縮される磁気駆動の構造を有する。これにより、磁場発生装置を近づけるとチャンバー1及びチャンバー2から第1の溶液及び第2の溶液が、広がったチャンバー3に放出され、磁石を遠ざけると、チャンバー3から混合されて形成された薬剤が患部に放出される。
【0081】
ケース4は、第1の磁気駆動チャンバー1、第2の磁気駆動チャンバー2、及び混合チャンバー3を覆い且つ放出口31に対応する位置に開口部41を備える。
【0082】
ケース4の材料は、チャンバー1、チャンバー2、及び混合チャンバー3を収容し、放出口31に対応する位置に開口部41を備え、外部からの磁気をケース4の内部に伝達可能であり、且つ本システム100を体内に埋め込んだときに人体に影響がないものであれば特に限定されず、例えば、ポリマー製、プラスチック製、ステンレス等の金属製等であることができる。ケース4は、磁場をより良好に伝達するための窓または開口部を備えてもよい。窓は、ガラス製、プラスチック製などの磁場を伝達可能な材料で構成される。
【0083】
第2の磁気駆動チャンバー2は、上述の第1の磁気駆動チャンバー1と同じ構成を有することができるが、異なる構成を有してもよい。
【0084】
例えば、第2の磁気駆動チャンバー2は、磁気駆動する駆動バー、駆動バーを磁気駆動することにより一定距離を押されて第2の磁気駆動チャンバーを押し込み可能に構成された押し込み部、並びに前記押し込み部が押し込み方向と逆方向に後退することを抑制するように構成された後退防止ストッパーを備えることができる。磁気駆動のため電気駆動とは異なりバッテリーが不要で簡易な構成を有するため、本システム100の小型化が可能であり、第2の材料の混合チャンバー3への送出量を高精度に制御することができる。
【0085】
あるいは、第2の磁気駆動チャンバー2は、鉄粒子を含むポリマー製の袋形状を有し、磁場を印加すると鉄粒子が磁場に引き寄せられて圧縮されるように構成されてもよい。磁気駆動のため電気駆動とは異なりバッテリーが不要であり、さらにはチャンバー自体が磁気駆動して変形するので磁気駆動のための機械構造も不要であり、簡易な構成を有するため、本システム100の小型化が可能である。
【0086】
好ましくは、ポリマー製の袋形状を有する第1の磁気駆動チャンバー及び第2の磁気駆動チャンバーは弾性を有する。弾性を有することにより、磁場を切るとポリマーの弾性により元の形に戻ることができる。
【0087】
第2の磁気駆動チャンバーは、好ましくは、第2の材料の残量を測定する残量センサを備える。混合チャンバーは、好ましくは、生成される薬剤量を測定する残量センサ、または混合チャンバーから送出される薬剤量を測定する流量センサを備える。第2の磁気駆動チャンバー及び混合チャンバーが備え得る残量センサは、上述の第1の磁気駆動チャンバーが備え得る残量センサと同様の構成を有することができる。
【0088】
好ましくは、第2の磁気駆動チャンバーは第2のpHセンサを備える。第2のpHセンサ及び第2のpHセンサからpHデータを受信する外部端末は、第1のpHセンサ及びその外部端末と同様の構成を有することができる。例えば、第2のpHセンサは、第2のpHセンサにより測定されるデータまたはそれに関連するデータを送信する無線通信部を備えてもよい。
【0089】
好ましくは、混合チャンバーは第3のpHセンサ35を備える。薬剤の形成用材料(元となる材料)を混合してから所望の反応が進んで薬剤が形成されるまで時間がかかる場合、第3のpHセンサ35により測定した混合液のpH値に基づいて、薬剤の生成度合いを把握することができる。
【0090】
第3のpHセンサ35により混合液のpHを測定することにより、生成される薬剤の放出タイミングを決定することができる。混合液のpHが所定範囲内の値である場合は薬剤が生成されていると判断して薬剤を放出し、混合液のpHが所定範囲外の値である場合は、薬剤の生成が完了していないと判断して、所定範囲内の値になるまで薬剤の放出を遅らせることができる。
【0091】
好ましくは、本システム100は、第3のpHセンサ35により測定されるpH値またはそれに関連するデータに基づいてチャンバー1及びチャンバー2を磁気駆動して混合チャンバー3からの薬剤の放出を制御する。第3のpHセンサ35により測定される混合チャンバー3内の薬剤のpH値またはそれに関連するデータが所定範囲内に入ると本システム100のチャンバー1及びチャンバー2が磁気駆動して混合チャンバー3から薬剤を放出し患部に供給することができる。第3のpHセンサ35により測定されるpH値またはそれに関連するデータが所定範囲外の場合は、第1のバルブ及び第2のバルブを閉じるか、及び/または混合チャンバー3が第3のバルブを有する場合は第3のバルブを閉じて、磁場が誤って印加されても、チャンバー3から薬剤が放出されない誤動作防止装置を有することができる。
【0092】
本システム100は、第3のpHセンサ35からpH値またはそれに関連するデータを直接受信して磁気駆動してもよく、またはpHセンサにより測定されるpH値またはそれに関連するデータが、無線通信または有線通信により外部端末に送信され、外部端末からの磁気駆動に関する信号を受信して磁気駆動してもよい。
【0093】
薬剤を患部に供給する時間間隔と薬剤が所定のpH値に到達するまでの時間を一致させることができる薬剤の場合は、直接受信して本システム100を磁気駆動することにより、自動的に薬剤を患部に供給することができる。
【0094】
本システム100が、第3のpHセンサ35により測定されるpH値またはそれに関連するデータが無線通信または有線通信により外部端末に送信されて外部端末からの磁気駆動に関する信号を受信して磁気駆動する場合は、外部端末を操作する患者等が任意のタイミングで本システム100を磁気駆動させて、薬剤を患部に供給することができる。
【0095】
第3のpHセンサ35により測定されるデータまたはそれに関連するデータは、好ましくは、pH値、pH値が所定範囲内に入ったことを知らせる信号、またはそれらの組み合わせである。第3のpHセンサ35で測定される混合液のpHデータまたはそれに関連するデータに基づいて、本システム100を磁気駆動させ、または本システム100を磁気駆動させるタイミングを外部端末に通知することができる。
【0096】
好ましくは、第3のpHセンサ35は、pHセンサにより測定されるデータまたはそれに関連するデータ(以下、pHデータともいう)を送信する無線通信部を備える。無線通信部がpHセンサにより測定されるデータを送信することにより、pHセンサにより測定されるデータを無線通信により外部端末で受信することができる。無線通信は特に限定されず、Wi-Fi、bluetooth(登録商標)等であることができる。無線通信より送信されたデータは、インターネット等の通信ネットワークを介して外部端末に送信されてもよい。
【0097】
第3のpHセンサ35及び第3のpHセンサからpHデータを受信する外部端末は、第1のpHセンサ及び第1のpHセンサからpHデータを受信する外部端末と同様の構成を有することができる。
【符号の説明】
【0098】
100 埋込型ドラッグデリバリーシステム
1 第1の磁気駆動チャンバー
11 第1のバルブ
12 接続部
13 鉄粒子
14 鉄粒子を備えるポリマー膜
15 第1のpHセンサ
2 第2の磁気駆動チャンバー
21 第2のバルブ
22 接続部
3 混合チャンバー
31 混合チャンバーの放出口
35 第3のpHセンサ
4 ケース
41 ケースの開口部
51 駆動バー
511 駆動バーの軸
512 駆動バーの磁力吸引部
513 駆動バーの押しバー
514 駆動バーの屈曲部
515 駆動バーの抑え部
516 固定部
52 押し込み部
521 押し込み部の凸部
53 後退防止ストッパー
54 ケース
541 スライダ可動範囲を定めるケース端部
542 スライダ可動範囲を定めるケース端部
61 スライダ
62 圧縮ばね
63 リンク
64 リンク
65 ジョイント
66 ジョイント
67 ジョイント
71 磁石
8 磁場発生装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12