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特開2024-24953太陽光発電システムの検査装置、検査方法及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024953
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】太陽光発電システムの検査装置、検査方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02S 50/00 20140101AFI20240216BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20240216BHJP
   G01W 1/00 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
H02S50/00
H02J3/38 150
G01W1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127960
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有松 健司
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
5G066
【Fターム(参考)】
5F151BA11
5F151JA30
5F151KA08
5F251BA11
5F251JA30
5F251KA08
5G066HB01
5G066HB06
(57)【要約】
【課題】太陽光発電システムの異常及びその兆候である異常兆候を経時的に捉えることができる太陽光発電システムの検査装置を提供する。
【解決手段】直列及び/又は並列に接続された複数の太陽電池モジュールと当該太陽電池モジュールにより発電された直流電力と交流電力に変換するパワーコンディショナとを備えた太陽光発電システムを検査するための太陽光発電システムの検査装置は、パワーコンディショナを制御して複数の太陽電池モジュールの電流電圧特性を測定する測定手段と、電流電圧特性を測定した期間における太陽電池モジュールの温度及び日射量を取得する取得手段と、測定手段により測定された電流電圧特性と取得手段により取得された太陽電池モジュールの温度及び日射量に基づいて、FF値を演算により求める演算手段と、演算手段により求められたFF値に基づいて、太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定する判定手段とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列及び/又は並列に接続された複数の太陽電池モジュールと当該太陽電池モジュールにより発電された直流電力と交流電力に変換するパワーコンディショナとを備えた太陽光発電システムを検査するための太陽光発電システムの検査装置において、
前記パワーコンディショナを制御して前記複数の太陽電池モジュールの電流電圧特性を測定する測定手段と、
前記電流電圧特性を測定した期間における前記太陽電池モジュールの温度及び日射量を取得する取得手段と、
前記測定手段により測定された前記電流電圧特性と前記取得手段により取得された前記太陽電池モジュールの温度及び前記日射量に基づいて、FF値を演算により求める演算手段と、
前記演算手段により求められたFF値に基づいて、前記太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定する判定手段とを備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記測定手段は、前記パワーコンディショナを発電運転モードから検査モードの運転に切り替え、前記パワーコンディショナを前記検査モードで運転させている間に、前記複数の太陽電池モジュールの電流電圧特性を測定することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記取得手段は、測定により実測値として求められる前記太陽電池モジュールの温度及び前記日射量を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記取得手段は、演算により推定値として求められる前記太陽電池モジュールの温度及び前記日射量を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項5】
前記判定手段は、異常のない状態であらかじめ測定された前記電流電圧特性及びそれに対応するFF値のデータと、前記演算手段により求められたFF値との差分に基づいて、前記太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定する請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項6】
直列及び/又は並列に接続された複数の太陽電池モジュールと当該太陽電池モジュールにより発電された直流電力と交流電力に変換するパワーコンディショナとを備えた太陽光発電システムを検査するための太陽光発電システムの検査方法において、
前記パワーコンディショナを制御して前記複数の太陽電池モジュールの電流電圧特性を測定する測定工程と、
前記電流電圧特性を測定した期間における前記太陽電池モジュールの温度及び日射量を取得する取得工程と、
前記測定工程により測定された前記電流電圧特性と前記取得工程により取得された前記太陽電池モジュールの温度及び前記日射量に基づいて、FF値を演算により求める演算工程と、
前記演算工程により求められたFF値に基づいて、前記太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定する判定工程とを備えることを特徴とする検査方法。
【請求項7】
直列及び/又は並列に接続された複数の太陽電池モジュールと当該太陽電池モジュールにより発電された直流電力と交流電力に変換するパワーコンディショナとを備えた太陽光発電システムを検査するコンピュータ装置に実行させるためのコンピュータプログラムにおいて、
前記パワーコンディショナを制御して前記複数の太陽電池モジュールの電流電圧特性を測定する測定工程と、
前記電流電圧特性を測定した期間における前記太陽電池モジュールの温度及び日射量を取得する取得工程と、
前記測定工程により測定された前記電流電圧特性と前記取得工程により取得された前記太陽電池モジュールの温度及び前記日射量に基づいて、FF値を演算により求める演算工程と、
前記演算工程により求められたFF値に基づいて、前記太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定する判定工程とを前記コンピュータ装置に実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直列及び/又は並列に接続された複数の太陽電池モジュールを備えて構成される太陽光発電システムの異常兆候を検知するための太陽光発電システムの検査装置、検査方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光などの光を受光して発電する太陽光発電システムは、再生可能エネルギーである太陽エネルギーを利用する発電方式であり、近年では、一般住宅の屋根や建物の屋上への設置が普及し、さらには、広大な用地に設置されるいわゆるメガソーラーなどの大規模な太陽光発電システムの導入も進み、多種多様な場所に多くの太陽光発電システムが設置されている。
【0003】
太陽光発電システムは、太陽電池セルを複数組み合わせた太陽電池モジュール(パネル)を基本単位として、発電出力や設置場所の広さに応じて複数枚の太陽電池モジュールを直列及び/又は並列に接続し、複数の太陽電池モジュールを直列に接続した太陽電池ストリングや、複数の太陽電池ストリングを並列に接続した太陽電池アレイを構成して太陽光発電システムを構築する。
【0004】
この太陽光発電システムの普及及び拡大に伴い、太陽光発電が電力系統に与える影響の把握、太陽光発電所における保守点検の観点等から、 太陽光発電システムにおいて重大な故障が発生する前の段階に異常兆候を検知する必要性が高まっている。太陽光発電システムを検査する技術として、下記特許文献に挙げられる技術が提案されている。
【0005】
特許文献1は、太陽光発電システムにおける電力変換器であるパワーコンディショナ(PCS)により探索した太陽電池のアレイ単位やストリング単位の電流電圧特性を二階微分する演算により変曲点という指数を出力し、その値からパネル数の差異の判別や、過去データとの差異を判別する方法について開示している。
【0006】
特許文献2、3は、パワーコンディショナに電流電圧特性の探索などをするために必要な充放電機構を設け、太陽電池のアレイ単位やストリング単位の電流電圧特性を測定し、その電流電圧特性を演算により等価的な抵抗値という指数を出力する方法について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-161815号公報
【特許文献2】特開2013-65797号公報
【特許文献3】特開2011-66329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の手法では、太陽電池モジュール(パネル)全体の故障など大きな差異の有無を捉えることは可能であるが、太陽電池モジュールの一部に発生した初期の不具合など直ちに修繕が必要とはならない異常の兆候であるような僅かな差異を捉えることは困難である。
【0009】
また、太陽電池の電流電圧特性に大きく影響する太陽電池の温度や太陽電池に照射される日射量については考慮されておらず、あくまでも電流電圧特性を探索した時点の等価的な抵抗値という指数を出力しているに過ぎないため、経時的に異常兆候を捉えることは困難である。
【0010】
また、特許文献2及び3の手法では、ストリング毎など電流電圧特性の探索に必要な単位で充放電機構を設ける必要があるとともに、太陽電池の種類により構成を変更する必要があるため実用的には煩雑となる。
【0011】
また、太陽電池の電流電圧特性に大きく影響する太陽電池の温度や太陽電池に照射される日射量については考慮されておらず、あくまでも電流電圧特性を探索した時点の指数を出力しているに過ぎないため、経時的に異常兆候を捉えることは困難である。
【0012】
また、発電を長時間にわたり一旦停止させる必要があることや経時的に異常兆候を捉えることが困難であるなど、異常の兆候を検出して早期の段階から保守点検の対応をしたり、また、太陽光発電システムの運用上の観点からは有用性が低いといえる。
【0013】
そこで、本発明の目的は、太陽光発電システムの異常及びその兆候である異常兆候を経時的に捉えることができる太陽光発電システムの検査装置、検査方法、コンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明の太陽光発電システムの検査装置は、直列及び/又は並列に接続された複数の太陽電池モジュールと当該太陽電池モジュールにより発電された直流電力と交流電力に変換するパワーコンディショナとを備えた太陽光発電システムを検査するための太陽光発電システムの検査装置において、前記パワーコンディショナを制御して前記複数の太陽電池モジュールの電流電圧特性を測定する測定手段と、前記電流電圧特性を測定した期間における前記太陽電池モジュールの温度及び日射量を取得する取得手段と、前記測定手段により測定された前記電流電圧特性と前記取得手段により取得された前記太陽電池モジュールの温度及び前記日射量に基づいて、FF値を演算により求める演算手段と、前記演算手段により求められたFF値に基づいて、前記太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定する判定手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の太陽光発電システムの検査方法は、直列及び/又は並列に接続された複数の太陽電池モジュールと当該太陽電池モジュールにより発電された直流電力と交流電力に変換するパワーコンディショナとを備えた太陽光発電システムを検査するための太陽光発電システムの検査方法において、前記パワーコンディショナを制御して前記複数の太陽電池モジュールの電流電圧特性を測定する測定工程と、前記電流電圧特性を測定した期間における前記太陽電池モジュールの温度及び日射量を取得する取得工程と、前記測定工程により測定された前記電流電圧特性と前記取得工程により取得された前記太陽電池モジュールの温度及び前記日射量に基づいて、FF値を演算により求める演算工程と、前記演算工程により求められたFF値(Fill Factor)に基づいて、前記太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定する判定工程とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明のコンピュータプログラムは、直列及び/又は並列に接続された複数の太陽電池モジュールと当該太陽電池モジュールにより発電された直流電力と交流電力に変換するパワーコンディショナとを備えた太陽光発電システムを検査するコンピュータ装置に実行させるためのコンピュータプログラムにおいて、前記パワーコンディショナを制御して前記複数の太陽電池モジュールの電流電圧特性を測定する測定工程と、前記電流電圧特性を測定した期間における前記太陽電池モジュールの温度及び日射量を取得する取得工程と、前記測定工程により測定された前記電流電圧特性と前記取得工程により取得された前記太陽電池モジュールの温度及び前記日射量に基づいて、FF値を演算により求める演算工程と、前記演算工程により求められたFF値に基づいて、前記太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定する判定工程とを前記コンピュータ装置に実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、太陽光発電システムの僅かな不具合を含む異常兆候を経時的に捉えることができる。
【0018】
太陽光発電システムが通常の発電運転を行いながら、パワーコンディショナを検査モードに切り替え、定期的に電流電圧特性を測定することで、大きな故障に至る前の異常兆候を日常的に監視することができる。
【0019】
電流電圧特性とともに太陽電池モジュールの温度と日射量のデータを取得することにより、環境条件を一致させた健全時の電流電圧特性と比較可能となり、さらに、そのFF値(Fill Factor)を求めることで、経時的な差異を容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】太陽光発電システム及びそれに接続する本発明の実施の形態における検査装置を示す図である。
図2】FF値を説明するための電流電圧特性の模式図である。
図3】基準電流電圧特性データの例を示す。
図4】本発明における太陽光発電システムの検査方法のフローチャートである。
図5】運転モードと検査モードの切替処理のフローチャートである。
図6】シミュレーション例による太陽光発電システムの発電出力と電流電圧特性との関係を示す図である。
図7】シミュレーション例による発電電流と発電電圧の時間変化を示す図である。
図8】シミュレーション例における検査モードが実行されるタイミングでの電流電圧特性を示す。
図9】シミュレーション例において求められたFF値を示す図である。
図10図9に示すFF値の演算のために測定又は演算されたデータの数値表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0022】
図1は、太陽光発電システム及びそれに接続する本発明の実施の形態における検査装置を示す図である。太陽光発電システムは、いわゆるメガソーラーと呼ばれる大規模太陽光発電システムや住宅用太陽光発電システムなど、既に設置済みの既設の太陽光発電システムにおいて、基本構成として、複数の太陽電池セルを組み合わせた太陽電池モジュール(パネル)10を複数接続した構成を有する。複数の太陽電池モジュール10を直列に接続した太陽電池ストリング12が形成され、さらに、複数の太陽電池ストリング12が接続箱16を通じて並列に配置されて、太陽電池アレイ14が構成される。接続箱16は、1つの太陽電池ストリング12を一つの回線として各太陽電池ストリング12で発電した直流電力を集める機器であって、スイッチング用の開閉器を備え、さらに、逆流防止素子、避雷素子及び出力端子など各種回路素子を有する。複数の接続箱16が配置される大規模な太陽光発電システムの場合、さらに、複数の接続箱16からの出力をまとめる集電箱(図示せず)が設けられる場合もある。
【0023】
接続箱16に集められた直流電力は、パワーコンディショナ(PCS)20に供給される。パワーコンディショナ20は、インバータを有して構成される電力変換部22及び制御部24を備え、電力変換部22により直流電力を交流電力に変換し、電力系統へ連系する。また、パワーコンディショナ20は、電力変換部22に入力される直流電流を検出する電流センサ及び電力変換部22の入力電圧(直流電圧)を検出する電圧センサを備え、コンピュータユニットである制御部24は、電力変換部22を制御するとともに、電流センサ及び電圧センサからの出力信号にもとづいて電流電圧特性を測定する。
【0024】
また、太陽光発電システムには、太陽電池モジュールの温度を測定する太陽電池温度計30、及び太陽光発電システムの設置場所の日射量を測定する日射計40が設けられる。太陽光発電システムの設置領域全体は、一様な温度環境及び日射量とみなすことができ、太陽電池温度計30は、すべての太陽電池モジュールではなく、一部の太陽電池モジュール10に取り付けられ、測定された太陽電池モジュールの温度がすべての太陽電池モジュールのパネル温度を代表する。また、日射計40は、太陽光発電システムの設置場所内の少なくとも一箇所に設置される。太陽電池温度計30により測定される温度データ及び日射計40により測定される日射量データは、パワーコンディショナ20に送信され、記録される。若しくは、これらのデータが検査装置50に直接入力される構成であってもよい。なお、太陽光発電システムには、太陽電池温度計30及び日射計40が設置されていないものもあり、その場合は、後述するように、太陽電池モジュールの温度及び日射量を演算により推定する手法を用いる。
【0025】
検査装置50は、後述する本発明の検査方法を実行するコンピュータ装置である。検査装置50は、例えば、ノートパソコンやデスクトップパソコンなどの汎用コンピュータ装置を用いることができ、本発明の検査方法を実行するためのコンピュータプログラムや各種データを格納する記憶手段(RAM、ROMなどのメモリ、磁気ディスクなど)や、コンピュータプログラムを実行する演算処理手段(CPUなど)を有して構成される。また、検査装置50は、パワーコンディショナ20と有線(ケーブル等)又は無線(インターネット又は携帯電話網等の通信ネットワークやWi-Fiなどの近距離無線通信)で接続して、パワーコンディショナ20を制御し、パワーコンディショナ22の制御部24とデータ通信を行い、また、通信ネットワーク上のサーバ装置(図示せず)とアクセス可能に接続する。
【0026】
太陽光発電システムは、平常時の発電運転において、太陽電池の発電出力を最大限に活かすために、パワーコンディショナ20においては、最大電力点追随制御(MPPT制御)により運転している。MPPT制御は、山登り法のように電圧値と電流値の動作点が発電出力と電圧値の関係性であるP-V特性において、その最大点に向かうような太陽電池アレイの電圧と電流を制御するものである。本発明においては、この電圧値を連続的に変化させるMPPT制御に着目し、パワーコンディショナ20の運転モードを、MPPT制御による通常運転(発電運転)モードから一時的に検査モードに切り替え、検査モードにおいて、発電出力の電圧値を連続的に変化させ、その時の電流値との関係性である電流電圧特性を測定する。
【0027】
太陽電池モジュールの部分的な影や破損などの発電出力に影響する不具合要因などの異常兆候が発生した場合には、電流電圧特性に変化が生じる。そのため、電流電圧特性を経時的に測定し、測定された電流電圧特性とあらかじめ用意される異常のない状態(健全時)における電流電圧特性のデータとを比較してその相違を検出することで、太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定することができる。なお、異常兆候は、直ちに修繕が必要な異常状態ではない僅かな不具合であるが、異常兆候を検出することで、例えば修繕が必要な程度のような異常の程度がより大きい異常状態も事前に検出することができる。
【0028】
本発明では、検査装置50は、その電流電圧特性の相違の検出のために、測定した電流電圧特性に対応するFF値(Fill Factor)を算出し、FF値を用いて太陽光発電システムの異常兆候を検出する。FF値は、曲線因子とも呼ばれ、電流電圧特性の曲線の特徴を数値化したパラメータであり、FF値を比較することで、異常兆候の経時的な変化を簡易かつ精度良く検出することができる。
【0029】
図2は、FF値を説明するための電流電圧特性の模式図である。FF値は、電流電圧特性において、最大出力点MPPでの最大出力電力Pmax(=Vmp×Imp)を開放電圧Vocと短絡電流Iscの積で除した値として求められる。すなわち、FF値は、
FF=Pmax/(Voc×Isc)=(Vmp×Imp)/(Voc×Isc)
と表され、太陽電池モジュールの電流電圧特性の良さを示す指標として用いられる。開放電圧Vocと短絡電流Iscが一定であれば、FF値が大きいほど、太陽電池モジュールの最大出力電力は向上することになる。FF値は、電流電圧特性を端的に表す数値であり、電流電圧特性全体のデータを用いることと比較して、FF値を用いることで、演算負荷を小さくしつつ、高い精度での異常兆候検出が可能となる。また、後述するように、日射量及び太陽電池モジュールの温度の実測値を用いる場合と、それらの推定値を用いる場合において、どちらの場合においてもFF値を求めることができ、このことは、FF値を用いることで、日射量及び太陽電池モジュールの温度の実測値を用いる場合と、それらの推定値を用いる場合の両方の場合に対応することを可能とする。
【0030】
太陽光発電システムが異常のない状態で運転しているときに(例えば、設置当初の異常が発生する確率が低い時期や、設計された性能が発揮されている時期など明らかに正常であると判断できる時期に)、さまざまな環境条件(太陽電池モジュールの温度及び日射量を含む)のもとでの電流電圧特性があらかじめ測定され、その測定時の太陽電池モジュールの温度及び日射量のデータとともに、太陽電池モジュールの温度及び日射量のデータに関連付けられた電流電圧特性データが蓄積される。蓄積された電流電圧特性データは、基準電流電圧特性データとして、検査装置50に保存され、また、検査装置50がアクセス可能なサーバ装置(図示せず)に保存される。
【0031】
図3は、基準電流電圧特性データの例を示す。測定ごとに得られる基準電流電圧特性データの単位データは、少なくとも太陽光発電システムの識別情報(ID)、測定日時、太陽電池モジュールの温度、日射量、電流電圧特性を含むデータであって、基準電流電圧特性データは、太陽電池モジュールの温度及び日射量に関連付けられてあらかじめ測定された健全時の電流電圧特性データの集合である。なお、基準電流電圧特性データの測定において、太陽電池モジュールの温度、日射量の測定が行われなかった場合は、太陽電池モジュールの温度及び日射量の推定値(後述する式(1)及び式(2))を演算で求めるようにしてもよい。
【0032】
図4は、本発明の実施の形態における太陽光発電システムの検査方法のフローチャートである。本検査方法は、検査装置50により実行される処理であり、以下の工程を有する。
【0033】
S100:検査装置50が、パワーコンディショナ20を検査モードに切り替える制御を行い、パワーコンディショナ20により電流電圧を測定し、その電流電圧特性のデータを取得する電流電圧特性測定工程。
【0034】
S102:検査装置50が、電流電圧特性を測定した期間における日射量及び太陽電池モジュールのパネル温度を取得する取得工程。
【0035】
S104:検査装置50が、測定された電流電圧特性と取得された日射量及び太陽電池モジュールの温度に基づいて、FF値を演算により求める演算工程。
【0036】
S106:検査装置50が、求められたFF値に基づいて異常兆候の有無を判定する判定工程。
【0037】
以下、各工程について説明する。
【0038】
<電流電圧特性測定工程(S100)>
検査装置50は、定期的に、具体的にはあらかじめ設定された定時(例えば、毎日朝・昼・夜の3つの時間帯)に、パワーコンディショナ20の運転モードを通常の発電運転である運転モードから検査モードに切り替えて、パワーコンディショナ20に電流電圧特性の測定を指示する。検査モードに切り替えられたパワーコンディショナ20は、太陽電池の直流端の発電電圧値を0V~開放電圧付近まで変化させ、そのときの電流電圧特性を測定する。
【0039】
ここで、運転モードと検査モードについて説明する。
【0040】
図5は、運転モードと検査モードの切替処理のフローチャートである。検査装置50からの指令に従って、パワーコンディショナ(PCS)20を運転モードから検査モードに切り替える。運転モードは、上述の通り、発電運転するモードであり、発電電圧値と電流値の動作点が発電出力と電圧値の関係性であるP-V特性において、その最大電力点に向かうよう山登り法と呼ばれる最大電力点追従制御(MPPT制御)するものである。太陽電池モジュールからの出力電流を増やした時に出力電力が増えればさらに出力電流を増やし、逆に増やして出力電力が減れば出力電流を減らす方法によって最大電力点に到達する制御によって発電する。
【0041】
検査モードは、パワーコンディショナ20に接続される太陽電池アレイの直流端の発電電圧値を0V~開放電圧付近まで変化させ、その時の電流電圧特性を取得するモードである(S100)。出力電流が最大となるように制御し電圧値を連続的に変化させる制御が行われる。実行時間は1分程度であり、計測誤差やノイズへの対応として1往復する制御として計測してもよい。なお「検査モード」は、 「運転モード」に適宜あるいは定時(例えば毎日の朝・昼・夕方)に割り込みでパワーコンディショナ20を制御するものである。
【0042】
このように、すなわち、検査装置50がパワーコンディショナ20を運転モードから検査モードに切り替える制御を行って電流電圧特性の測定を行い、電流電圧特性のデータを取得する。パワーコンディショナ20を定期的且つ継続的、そして相対的に高い頻度で(あらかじめ決められた時刻で少なくとも1日1回、好ましくは1日複数回)検査モードによる測定を行うことで、経時的な変化をよりきめ細かく診断し、異常兆候を素早く検出することができる。
【0043】
なお、後述する取得工程(S102)、演算工程(S104)、判定工程(S106)については、検査装置50の処理であり、パワーコンディショナ20が検査モードの状態で行ってもよいし、運転モードの状態で行ってもよい。
【0044】
太陽光発電システムに異常兆候がある状態における電流電圧特性と太陽光発電システムが健全な状態の電流電圧特性との相違について図6及び図7を参照して説明する。
【0045】
図6は、シミュレーションによる太陽光発電システムの発電出力と電流電圧特性との関係を示す図であり、図7は、シミュレーションによる発電電流と発電電圧の時間変化を示す図である。図6及び図7に示す例は、モデル化された太陽光発電システムの発電出力と電流電圧特性をシミュレーションにより求めたデータである。具体的には、太陽光発電システムは、9つの太陽電池モジュールを直列に接続した太陽電池ストリングを2つ並列に接続した太陽電池アレイにより構成されたものとし、異常のない状態(健全時)と、一部の太陽電池モジュールに故障を模擬した異常兆候のある状態(異常兆候あり時)の2つの場合についてモデル化したシミュレーション結果である。発電出力については、宮城県仙台市において快晴日に実際に測定した1日分の太陽電池モジュールの温度及び日射量のデータを用いた。このため図7に示す発電電流は実際に測定した日射量のデータを用いたことにより10時45分付近に日射量が瞬間的に減少と増加したため、同様に5.2A程度から3.7A程度に瞬間的に減少と増加をしたものとなっている。また、この際の発電電圧は図6に示すように電流電圧特性上、ほぼ変化しない。なお、シミュレーションに用いた太陽光発電システムの各種諸元データを以下の表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
図6及び図7に示すように、発電出力については、異常兆候あり時の発電出力は、健全時の発電出力よりも低下し、異常兆候あり時と健全時の発電電流値はほぼ同一であるものの、異常兆候あり時の発電電圧は健全時と比較して低下する。そして、電流電圧特性(STC(基準状態))についても、異常兆候あり時の電流電圧特性は、特性曲線に段差部分が生じ、発電電圧の動作点が低電圧側に偏って分布する。
【0048】
図8は、上記シミュレーション例における検査モードが実行されるタイミングでの電流電圧特性を示し、具体的には、図7における朝7時(図8(a))、11時半(図8(b))、16時(図8(c))の各時刻(タイミング)での電流電圧特性を示す。それぞれにおいて、異常兆候あり時の電流電圧特性は、健全時の電流電圧特性と比較して、発電電圧の動作点が低電圧側にずれて、発電出力が低下する。電流電圧特性は、太陽電池モジュールの温度及び日射量によって異なるものとなるため、健全時の電流電圧特性と異常兆候あり時の電流電圧特性の相違を見る場合は、太陽電池モジュールの温度及び日射量の条件を一致させることで電流電圧特性を比較することができる。
【0049】
<取得工程(S102)>
図8における各タイミングの健全時の電流電圧特性と異常兆候あり時の電流電圧特性のシミュレーション結果では、太陽電池モジュールの温度及び日射量を同一条件とすることが必要となる。そのため、検査モードによる電流電圧特性を測定するタイミングの太陽電池モジュールの温度及び日射量のデータを取得する。取得される太陽電池モジュールの温度及び日射量のデータは、その実測値又は推定値である。
【0050】
検査装置50は、S100における電流電圧特性の測定タイミングにおいて、太陽電池温度計30が測定する太陽電池モジュールの温度データ、及び日射計40が測定する日射量データの実測値を取得する。または、太陽光発電システムに太陽電池温度計30及び日射計40及びが設置されていない場合は、検査装置50は、太陽電池モジュールの温度及び日射量それぞれの推定値を演算により求める。
【0051】
太陽電池モジュールの温度及び日射量の各推定値は、太陽光発電システムのパワーコンディショナ20の最大電力点追随制御(MPPT)による発電出力の値から求めることができる。具体的には、太陽光発電システムのパワーコンディショナ20の最大電力点追随制御(MPPT)により、電流値と電圧値は電力値が最大となる最大出力点MPP(Imp、Vmp)にあるように制御される。太陽電池モジュールのシングル・ダイオード等価回路モデルから最大出力点MPPにおいては、発電出力の電圧値に関する微分係数が0(ゼロ)になる条件となることから、太陽電池モジュールの温度の推定値Testは、以下の式(1)で表すことができ、この方程式をNewton-Raphson法により解くと、推定値Testが求められる。
【0052】
【数1】
【0053】
ここで、基準状態(STC)の短絡電流Isc,n、STCの開放電圧Voc,n、直列抵抗Rs、シャント抵抗Rp、電気素量q [C]、ボルツマン定数k、ダイオード理想係数a、セル直列数Ns、電流の温度係数KI、電圧の温度係数KV、基準温度Tn(=298.15K)、基準日射量Gn(=1000 W/m2) であり、これらの仕様値は既知である。
【0054】
また、最大出力点MPPにおける太陽電池モジュールの回路方程式より、日射量の推定値Gestは、以下の式(2)により求めることができる。
【0055】
【数2】
【0056】
ここで、基準状態(STC)の短絡電流Isc,n、STCの開放電圧Voc,n、直列抵抗Rs、シャント抵抗Rp、電気素量q [C]、ボルツマン定数k、ダイオード理想係数a、セル直列数Ns、電流の温度係数KI、電圧の温度係数KV、基準温度Tn(=298.15K)、基準日射量Gn(=1000 W/m2) であり、これらの仕様値は既知である。
【0057】
<演算工程(S104)>
検査装置50は、上記測定工程により測定した電流電圧特性と上記取得工程により取得した太陽電池モジュールの温度及び日射量のデータに基づいて、測定した電流電圧特性に対応するFF値を演算する。
【0058】
太陽電池モジュールの温度の実測値Tmea及び日射量の実測値Tmeaを用いる場合は、FF値の実測値FFmeaは、以下の式(3)により求めることができる。
【0059】
【数3】
【0060】
ここで、最大出力点MPPにおける電流値Imp及び電圧値Vmp、短絡電流Isc、開放電圧Voc、日射量の実測値Gmea、太陽電池モジュールの温度の実測値Tmeaであり、短絡電流Iscと開放電圧Vocは、日射量の実測値Tmea、太陽電池モジュールの温度の実測値Tmeaに応じた所定の補正係数により補正された数値が用いられる。
【0061】
太陽電池モジュールの温度の推定値Test及び日射量の推定値Gestを用いる場合は、FF値の推定値FFestは、以下の式(4)により求めることができる。
【0062】
【数4】
【0063】
ここで、最大出力点MPPにおける電流値Imp及び電圧値Vmp、短絡電流Isc、開放電圧Voc、日射量の実測値Gmea、太陽電池モジュールの温度の実測値Tmeaであり、短絡電流Iscと開放電圧Vocは、日射量の推定値Gest、太陽電池モジュールの温度の推定値Testに応じた所定の補正係数により補正された数値が用いられる。
【0064】
電流電圧特性とともに太陽電池モジュールの温度と日射量のデータを取得することにより、環境条件を一致させた健全時の電流電圧特性と比較可能となり、さらに、そのFF値を求めることで、経時的な差異を容易に検出することができる。
【0065】
<判定工程(S106)>
検査装置50は、上記演算工程により求められたFF値に基づいて、太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定する。
【0066】
検査装置50は、上記図3に例示した基準電流電圧特性データ(太陽電池モジュールの温度及び日射量に関連付けられてあらかじめ測定された健全時の電流電圧特性データの集合)から、上記取得工程において取得した太陽電池モジュールの温度及び日射量に対応する健全時の電流電圧特性データを抽出し、そのFF値を求める。基準電流電圧特性データのFF値(健全時FF値)は、上記式(3)又は式(4)より求めることができる。なお、蓄積されている基準電流電圧特性データとして、FF値をあらかじめ演算により求めて格納しておいてもよい。その場合は、健全時FF値は、基準電流電圧特性データから読み出される。
【0067】
そして、検査装置50は、その健全時FF値と上記演算工程により求めたFF値との差異に基づいて、太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定する。例えば、差異が所定値より大きいかどうかを判断し、差異が所定値より大きい場合に異常兆候ありと判定する。若しくは、所定期間のFF値を積算した積算FF値を比較し、積算FF値の差分が所定のしきい値を超えた場合に異常兆候ありと判定してもよい。FF値を積算することで、ある時刻でのFF値同士の比較では差異検出困難な程度の小さな不具合について、各タイミングでのわずかなFF値の差異を所定期間にわたって測定ごとに積み重ねることで顕在化させ、異常兆候を検出することができる。
【0068】
図9は、上記シミュレーション例において求められたFF値を示すグラフ(図9(a))及び対応する数値データ(図9(b))であり、図10は、図9に示すFF値の演算のために測定又は演算されたデータの数値表である。図9の例では、図6図7及び図8のシミュレーション例における異常のない状態(健全時)と異常兆候のある状態(異常兆候あり時)それぞれについて、毎日定時(ここでは、11時30分)に検査モードにより測定した電流電圧特性(I-V特性)から求めた1ヶ月分(30日)のFF値が示される。図9の横軸は日射量であり、日射量が比較的小さい領域では、健全時のFF値と異常兆候あり時のFF値の差は小さいが、日射量が比較的大きい領域(例えば400W/m2以上)では、有意な差が生じており、この差異により太陽光発電システムの異常兆候の有無を判定することができる。
【0069】
本実施の形態における検査モードでは、パワーコンディショナを制御して、太陽光発電システムが発電運転を行っている通常運転モードを一時的に検査モードに切り替えることで、継続的に定期的なタイミングで電流電圧特性を測定し、大きな故障に至る前の異常兆候の有無を経時的に監視することができる。検査モードによる電流電圧特性の測定後は、通常運転モードに戻り、検査やメンテナンスのために、長時間にわたって大掛かりに発電運転を停止することなく、簡易に検査を実施することができ、平時の運転状態を維持したまま異常兆候を検出することができる。
【0070】
本発明は、上述の実施の形態例に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0071】
10:太陽電池モジュール、12:太陽電池ストリング、14:太陽電池アレイ、16:接続箱、20:パワーコンディショナ、22:電力変換部、24:制御部、30:太陽電池温度計、40:日射計、50:検査装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10