(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024961
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂用硬化剤およびエポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20240216BHJP
C08G 59/42 20060101ALI20240216BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240216BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240216BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C08G59/40
C08G59/42
C09J163/00
C09J11/06
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127976
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 江利子
【テーマコード(参考)】
4J036
4J040
4M109
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AD08
4J036DA05
4J036DB16
4J036DC35
4J036JA06
4J036JA07
4J040EC001
4J040HB29
4J040HC15
4J040JB02
4J040KA16
4J040NA19
4M109AA01
4M109BA04
4M109CA05
4M109CA26
4M109EA02
4M109EB02
4M109EB04
(57)【要約】
【課題】硬化性に優れるエポキシ樹脂組成物をもたらす、ジヒドラジド化合物を含むエポキシ樹脂用硬化剤を提供する。
【解決手段】ジヒドラジド化合物と、特定の構造を有するカルボン酸化合物とを組み合わせる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジヒドラジド化合物と、
(B)芳香族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸と、
を含む、硬化剤組成物であって、
前記芳香族カルボン酸が、1個のカルボキシ基と0~2個のヒドロキシ基とを有する芳香環を1個又は2個含み、
前記脂肪族カルボン酸が、1個のカルボキシ基と1個のヒドロキシ基とを含む、直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族カルボン酸である、
硬化剤組成物。
【請求項2】
(B)成分として前記芳香族カルボン酸を含み、前記芳香族カルボン酸が、300℃以下の融点を有する、請求項1に記載の硬化剤組成物。
【請求項3】
前記芳香族カルボン酸が、ベンゼン環又はナフタレン環構造を有する、請求項2に記載の硬化剤組成物。
【請求項4】
前記芳香族カルボン酸が、サリチル酸、メチレンジサリチル酸、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、3-メチルサリチル酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、3-フェニルサリチル酸、安息香酸及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項3に記載の硬化剤組成物。
【請求項5】
(B)成分として前記脂肪族カルボン酸を含み、前記脂肪族カルボン酸の炭素数が、2個又は3個である、請求項1に記載の硬化剤組成物。
【請求項6】
前記脂肪族カルボン酸が、乳酸である、請求項5に記載の硬化剤組成物。
【請求項7】
前記ジヒドラジド化合物が、250℃以下の融点を有する、請求項1に記載の硬化剤組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の硬化剤組成物と、(C)エポキシ樹脂とを含有する、エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のエポキシ樹脂組成物を含むエポキシ樹脂材料であって、接着剤、接合剤、導電材、磁性材、熱伝導材、絶縁材、封止材、コーティング材、制振・防振材、防音材、充填材及び塗料からなる群から選択される、エポキシ樹脂材料。
【請求項10】
接着剤又は封止材である、請求項9に記載のエポキシ樹脂材料。
【請求項11】
請求項8に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる、硬化物。
【請求項12】
請求項11に記載の硬化物を含む、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂用硬化剤およびエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジヒドラジド化合物はエポキシ樹脂の硬化剤として使用した場合、透明性の高い硬化物が得られる特徴があり、透明性が必要な電子デバイスなどのエポキシ樹脂封止材や接着剤の硬化剤として有用である。しかしながら、ジヒドラジド化合物を使用したエポキシ樹脂組成物は硬化性、特に低温での硬化性が不十分であるという問題がある。
【0003】
特許文献1には、ジヒドラジド化合物と二塩基酸を組合せて使用することで、エポキシ樹脂組成物の硬化性を改善する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1のエポキシ樹脂組成物の硬化性は必ずしも十分なものとはいえず、更なる硬化性の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、硬化性に優れるエポキシ樹脂組成物をもたらす、ジヒドラジド化合物を含むエポキシ樹脂用硬化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ジヒドラジド化合物と、特定の構造を有するカルボン酸化合物とを組み合わせることによって、エポキシ樹脂組成物の硬化性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の態様を含むものである。
【0007】
〔1〕
(A)ジヒドラジド化合物と、
(B)芳香族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸と、
を含む、硬化剤組成物であって、
前記芳香族カルボン酸が、1個のカルボキシ基と0~2個のヒドロキシ基とを有する芳香環を1個又は2個含み、
前記脂肪族カルボン酸が、1個のカルボキシ基と1個のヒドロキシ基とを含む、直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族カルボン酸である、
硬化剤組成物。
〔2〕(B)成分として前記芳香族カルボン酸を含み、前記芳香族カルボン酸が、300℃以下の融点を有する、前記〔1〕に記載の硬化剤組成物。
〔3〕前記芳香族カルボン酸が、ベンゼン環又はナフタレン環構造を有する、前記〔2〕に記載の硬化剤組成物。
〔4〕前記芳香族カルボン酸が、サリチル酸、メチレンジサリチル酸、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、3-メチルサリチル酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、3-フェニルサリチル酸、安息香酸及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、前記〔3〕に記載の硬化剤組成物。
〔5〕(B)成分として前記脂肪族カルボン酸を含み、前記脂肪族カルボン酸の炭素数が、2個又は3個である、前記〔1〕に記載の硬化剤組成物。
〔6〕前記脂肪族カルボン酸が、乳酸である、前記〔5〕に記載の硬化剤組成物。
〔7〕前記ジヒドラジド化合物が、250℃以下の融点を有する、前記〔1〕~〔6〕に記載の硬化剤組成物。
〔8〕前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の硬化剤組成物と、(C)エポキシ樹脂とを含有する、エポキシ樹脂組成物。
〔9〕前記〔8〕に記載のエポキシ樹脂組成物を含むエポキシ樹脂材料であって、接着剤、接合剤、導電材、磁性材、熱伝導材、絶縁材、封止材、コーティング材、制振・防振材、防音材、充填材及び塗料からなる群から選択される、エポキシ樹脂材料。
〔10〕接着剤又は封止材である、前記〔9〕に記載のエポキシ樹脂材料。
〔11〕前記〔8〕に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる、硬化物。
〔12〕前記〔11〕に記載の硬化物を含む、電子デバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、硬化性に優れるエポキシ樹脂組成物をもたらす、ジヒドラジド化合物を含むエポキシ樹脂用硬化剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、(A)ジヒドラジド化合物と、(B)芳香族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸と、を含む、硬化剤組成物であって、前記芳香族カルボン酸が、1個のカルボキシ基と0~2個のヒドロキシ基とを有する芳香環を1個又は2個含み、前記脂肪族カルボン酸が、1個のカルボキシ基と1個のヒドロキシ基とを含む、直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族カルボン酸である、硬化剤組成物に関する。
【0010】
本発明では、硬化剤としてジヒドラジド化合物を使用することによって、透明性の高い硬化物を得ることができる。ジヒドラジド化合物は、特に限定されないが、エポキシ樹脂組成物の硬化性の観点から、融点が250℃以下のものが好ましく、硬化物の透明性の観点からは、185℃以下のものがより好ましく、170℃以下のものがさらにより好ましい。ジヒドラジド化合物の融点の下限値は特に制限されず、例えば、60℃、80℃、又は100℃であってもよい。
【0011】
ジヒドラジド化合物は粒子状のものが好ましい。粒子状のジヒドラジド化合物の粒子径は、エポキシ樹脂への溶解性や反応性を高める観点からメジアン径が100μm以下のものが好ましく、エポキシ樹脂組成物の粘性を下げる、あるいはエポキシ樹脂への分散性を高めるためにはメジアン径が0.1μm以上のものが好ましく、1~50μmであることがより好ましく、1~20μmであることが更により好ましい。粒子径がこの範囲外にあるもの、あるいは粒子同士が密着して凝集物を形成している場合は、エポキシ樹脂と混合する過程で3本ロールミルやプラネタリーミキサーなどで粒子を潰して、あるいは分散させて、メジアン径を上記範囲内とすることが好ましい。メジアン径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定(JIS Z 8825)により粒度分布を体積基準で作成したときの該粒度分布から求めることができる。レーザー回折散乱式粒径分布測定装置としては、堀場製作所社製「LA-500」、島津製作所社製「SALD-2200」等を使用することができる 。
【0012】
好ましいジヒドラジド化合物としては、例えば、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等を挙げることができる。ジヒドラジド化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
硬化剤組成物を100質量%とした場合、ジヒドラジド化合物は、好ましくは80~99質量%、より好ましくは85~98.5質量%、更に好ましくは90~98質量%の量で、硬化剤組成物に含まれる。ジヒドラジド化合物の量が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂と混合してエポキシ樹脂組成物とした場合に、組成物のポットライフが良好であり、また硬化反応が均一となる傾向となるので好ましい。
【0014】
本発明の硬化剤組成物は、特定の構造を有する芳香族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸を含む。芳香族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸は、ジヒドラジド化合物によるエポキシ樹脂組成物の硬化を促進する機能を有する。
【0015】
芳香族カルボン酸は、1個のカルボキシ基と0~2個のヒドロキシ基とを有する芳香環を1個又は2個含む。カルボキシ基、ヒドロキシ基及び芳香環の数が上記範囲内であれば、ジヒドラジド化合物の反応をより促進することが可能である。芳香族カルボン酸は、エポキシ樹脂組成物の硬化性の観点から、融点が300℃以下であることが好ましく、硬化物の透明性の観点から、250℃以下であることがより好ましく、220℃以下であることがさらにより好ましい。芳香族カルボン酸の融点の下限値には特に制限はないが、例えば、80℃以上、100℃以上、または120℃以上であってもよい。
【0016】
芳香族カルボン酸としては、例えば、ベンゼン環を有する化合物の他、ビフェニルやベンゾフェノンのような複数のベンゼン環が結合している芳香族多環化合物、ナフタレン環、アントラセン、フェナントレンのような縮合環化合物、ピリジン、フラン、インドールのように炭素の他、窒素、酸素などの複数の元素で環構造が構成される複素芳香族化合物等が挙げられる。エポキシ樹脂への溶解性の観点から、一分子中の環数が3以下のものが好ましい。好ましい芳香族カルボン酸としては、例えば、サリチル酸、メチレンジサリチル酸、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、3-メチルサリチル酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、3-フェニルサリチル酸、安息香酸等を挙げることができる。芳香族カルボン酸は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
脂肪族カルボン酸は、1個のカルボキシ基と1個のヒドロキシ基とを含む、直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族カルボン酸である。脂肪族カルボン酸の炭素数は、エポキシ樹脂への溶解性の観点から、2個又は3個であることが好ましい。本明細書において、脂肪族カルボン酸の炭素数とは、化合物全体に含まれる炭素のうち、カルボキシ基を構成する炭素を除いた残りの炭素の数をいう。
【0018】
好ましい脂肪族カルボン酸としては、例えば、乳酸を挙げることができる。
【0019】
硬化剤組成物を100質量%とした場合、芳香族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸は、好ましくは1~20質量%、より好ましくは1.5~15質量%、更に好ましくは2~10質量%の量で、硬化剤組成物に含まれる。芳香族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸の量が上記範囲内であれば、ジヒドラジド化合物によるエポキシ樹脂の硬化を十分に促進できる。
【0020】
本発明における芳香族カルボン酸や脂肪族カルボン酸は、エポキシ樹脂組成物の硬化促進の観点から、アミノ基、ホルミル基、カルボニル基、チオール基、スルホン酸基、ハロゲン等の、カルボキシ基及びヒドロキシ基以外の官能基を含まないことが好ましい。
【0021】
硬化剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意に、水分やジヒドラジド化合物合成時の未反応物等を含んでもよい。
【0022】
硬化剤組成物の製造方法に特に制限は無く、ジヒドラジド化合物と、芳香族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸と、任意に他の成分とを混合することによって得ることができる。
【0023】
本発明はまた、硬化剤組成物と、(C)エポキシ樹脂とを含有する、エポキシ樹脂組成物に関する。
【0024】
エポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂を特に制限なく使用できる。エポキシ樹脂は、用途や硬化物の所望の性質に応じて適宜選択でき、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。エポキシ樹脂は液状であっても、固形状であってもよい。また液状樹脂と固形状樹脂の混合物を用いてもよい。ここで、「液状」および「固形状」とは、常温(25℃)でのエポキシ樹脂の状態を指す。
【0025】
液状エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、及びブタジエン構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。液状エポキシ樹脂の具体例としては、DIC社製の「HP4032」、「HP4032D」、「HP4032SS」(ナフタレン型エポキシ樹脂)、三菱化学社製の「828US」、「jER828EL」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、「jER807」(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、「jER152」(フェノールノボラック型エポキシ樹脂)、「YL7760」(ビスフェノールAF型エポキシ樹脂)、新日鉄住金化学社製の「ZX1059」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合品)、ナガセケムテックス社製の「EX-721」(グリシジルエステル型エポキシ樹脂)、ダイセル社製の「セロキサイド2021P」(エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂)、「PB-3600」(ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂)が挙げられる。
【0026】
固体状エポキシ樹脂としては、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂が好ましい。固体状エポキシ樹脂の具体例としては、DIC社製の「HP4032H」(ナフタレン型エポキシ樹脂)、「HP-4700」、「HP-4710」(ナフタレン型4官能エポキシ樹脂)、「N-690」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、「N-695」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、「HP-7200」(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂)、「HP-7200HH」、「EXA7311」、「EXA7311-G3」、「EXA7311-G4」、「EXA7311-G4S」、「HP6000」(ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂)、日本化薬社製の「EPPN-502H」(トリスフェノール型エポキシ樹脂)、「NC7000L」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂)、「NC3000H」、「NC3000」、「NC3000L」、「NC3100」(ビフェニル型エポキシ樹脂)、新日鉄住金化学社製の「ESN475V」(ナフトール型エポキシ樹脂)、「ESN485」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂)、三菱化学社製の「YX4000H」、「YL6121」(ビフェニル型エポキシ樹脂)、「YX4000HK」(ビキシレノール型エポキシ樹脂)、「YX8800」(アントラセン型エポキシ樹脂)、大阪ガスケミカル社製の「PG-100」、「CG-500」、三菱化学社製の「YL7800」(フルオレン型エポキシ樹脂)、三菱化学社製の「jER1010」(固体状ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、「jER1031S」(テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0027】
エポキシ樹脂は、硬化剤組成物との均一混合のしやすさや接着性の観点から、使用するエポキシ樹脂全体の少なくとも10質量%以上が液状であるのが好ましく、少なくとも30質量%以上が液状であるのがより好ましく、少なくとも50質量%以上が液状であるのがさらに好ましく、少なくとも80質量%以上が液状であるのが特に好ましい。
【0028】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、50~1000g/eq、好ましくは100~500g/eq、より好ましくは150~300g/eqである。ここで、エポキシ当量とは、1当量のエポキシ基あたりのエポキシ樹脂の質量であり、JIS K7236(2009)に準拠して測定することができる。
【0029】
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂の含有量は特に制限されないが、50~95質量%であるのが好ましく、60~90質量%であるのがより好ましく、65~85質量%であるのが更に好ましい。
【0030】
エポキシ樹脂と硬化剤組成物は、(C)エポキシ樹脂のエポキシ当量1に対し、(A)ジヒドラジド化合物と(B)芳香族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸との合計の当量が、好ましくは0.8~1.2、より好ましくは0.9~1.1となる量で配合する。配合量が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂の未反応物の残留を抑制することができる。
【0031】
エポキシ樹脂組成物は、さらに、(A)成分以外の硬化剤、(B)成分以外の硬化促進剤、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、無機充填材、有機充填材、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤、着色剤、有機溶剤および水からなる群から選択される1以上を含有することができる。
【0032】
硬化剤としては、本発明の(A)成分以外のエポキシ樹脂硬化剤を意味し、潜在性硬化剤であることが好ましく、例えば、ウレア化合物、アミン系化合物、チオール化合物、酸無水物化合物、グアニジン化合物、ヒドラジド化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物、活性エステル化合物、ベンゾオキサジン化合物、シアネートエステル化合物、及びカルボジイミド化合物などが挙げられる。
【0033】
ウレア化合物は、ウレア基を有するものでエポキシ樹脂と反応し得る化合物であれば特に制限はないが、好ましくは芳香族ジメチルウレア又は脂肪族ジメチルウレアが挙げられる。好ましい芳香族ジメチルウレアとしては、例えば、N,N-ジメチル-N’-フェニルウレア、N,N-ジメチル-N’-(3,4-ジクロロフェニル)ウレア、4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、トルエンビスジメチルウレア等を挙げることができる。好ましい脂肪族ジメチルウレアとしては、ジメチルアミノカルボキシルアミノメチルトリメチルシクロヘキシルジメチルウレア等を挙げることができる。
【0034】
アミン系化合物は、イミダゾール化合物、イミダゾールと酸性化合物の塩、アミン化合物、アミン化合物と酸性化合物の塩、及びアミンアダクト化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0035】
エポキシ樹脂組成物の調製は、特別の困難はなく、従来公知の方法に準じて行うことができる。例えば、硬化剤組成物の各成分、エポキシ樹脂、及び任意に他の成分を混合して、エポキシ樹脂組成物を調製することができる。混合手段には、従来公知の混合手段を特に制限なく使用することができる。例えば、市販の公転自転撹拌機を用いて撹拌してもよい。
【0036】
本発明の硬化剤組成物を使用することで、硬化性に優れるエポキシ樹脂組成物を得ることができる。エポキシ樹脂組成物の硬化性は、例えば、ホットプレート式ゲル化試験機(GT-D:日新化学社製)を用い、特定の温度(例えば、100~150℃の間の温度)に加熱したホットプレート上に約0.5gの樹脂組成物を直径25mmの範囲内となるように乗せ、先端幅約5mmのスパチュラで混ぜながら1秒間に1回転となるように攪拌し、ホットプレート上面から30mmの高さにスパチュラで持ち上げて糸を引かなくなるまでの時間(ゲルタイム)により評価することができる。ゲルタイムが短いほど硬化性が高く、特に100℃でのゲルタイムが短いほど、低温硬化性に優れている。
【0037】
エポキシ樹脂組成物は、例えば、建築、土木、自動車、船舶、宇宙航空、産業機械、ロボット、通信、電気電子、半導体、ディスプレイ等の各分野におけるエポキシ樹脂材料等として用いることができる。より具体的には、接着剤、接合剤、導電材、磁性材、熱伝導材、絶縁材、封止材、コーティング材、制振・防振材、防音材、充填材及び塗料、等として用いることができる。
【0038】
本発明は、また、エポキシ樹脂組成物を含む接着剤に関する。ここで接着剤は、好ましくは、電子部品の接着剤の分野で使用できる接着剤である。上記接着剤は、本発明のエポキシ樹脂組成物以外に、任意にA成分及びB成分以外のエポキシ樹脂用硬化剤、硬化促進剤、難燃剤、保存安定性向上剤、充填剤、希釈剤、溶剤、顔料、可撓性付与剤、カップリング剤、酸化防止剤、沈降防止剤、分散剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0039】
本発明は、また、エポキシ樹脂組成物を含む封止材に関する。ここで封止材とは、フリップチップ実装時のアンダーフィル剤、チップオンボード用封止剤などの封止用材料である。上記封止材は、本発明のエポキシ樹脂組成物以外に、任意にA成分及びB成分以外のエポキシ樹脂用硬化剤、硬化促進剤、難燃剤、保存安定性向上剤、充填剤、希釈剤、溶剤、顔料、可撓性付与剤、カップリング剤、酸化防止剤、沈降防止剤、分散剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0040】
本発明は、また、上記のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物及び当該硬化物を含有する電子デバイスに関する。電子デバイスとしては、例えば、LED、半導体、レーザー、太陽電池、有機ELデバイス等が挙げられる。
【0041】
エポキシ樹脂組成物の硬化は、特別の困難はなく、従来公知の方法に準じて行うことができる。例えば、得られたエポキシ樹脂組成物を加熱することで硬化することができる。加熱は、例えば、60~150℃、好ましくは70~130℃、より好ましくは80~120℃の温度で、例えば1~120分、好ましくは3~100分、より好ましくは5~80分の時間行うことが適当である。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、高い透明性を有する。硬化物の透明性は、例えば、特定の硬化条件で得られた硬化物について、φ80mm積分球(型名SRS-99-010、反射率99%)を装着したファイバ式分光光度計(MCPD-7700、形式311C、大塚電子社製、外部光源ユニット:ハロゲンランプMC-2564(24V、150W仕様))を使用し、硬化物の光透過率スペクトルを測定し、得られた光透過率スペクトルから、硬化物の400nmの全光線透過率を算出することで評価することができる。全光線透過率が高いほど、透明性に優れている。
【実施例0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[エポキシ樹脂組成物の調製]
エポキシ樹脂(jER828EL、三菱化学社製、エポキシ当量190)100質量部に、ジヒドラジド化合物と、本発明の芳香族カルボン酸(実施例1~7、9~12)、本発明の脂肪族カルボン酸(実施例8)又は比較物質(比較例2~9)とを、表1~3に示される組成となるように添加し、公転自転撹拌機(株式会社シンキー製ARE-250「あわとり錬太郎」)で2分間撹拌して樹脂組成物を得た。比較例1及び10~13については、エポキシ樹脂にジヒドラジド化合物のみを添加して攪拌した。使用したジヒドラジド化合物は、以下のとおりである。
【0045】
VDH-J:1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン(味の素ファインテクノ社製、メジアン径2μm)
UDH-J:7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド(味の素ファインテクノ社製、メジアン径2μm)
ADH:アジピン酸ジヒドラジド(日本ファインケム社製、メジアン径13μm)
N-12:ドデカン二酸ジヒドラジド(日本ファインケム社製、メジアン径9μm)
IDH:イソフタル酸ジヒドラジド(日本ファインケム社製)
【0046】
[ゲルタイムの測定]
ホットプレート式ゲル化試験機(GT-D:日新化学社製)を用い、ジヒドラジド化合物としてVDH-Jを含む組成物については100℃、VDH-J以外を含む組成物については130℃、140℃又は150℃に加熱したホットプレート上に約0.5gの樹脂組成物を直径25mmの範囲内となるように乗せ、先端幅約5mmのスパチュラで混ぜながら1秒間に1回転となるように攪拌し、ホットプレート上面から30mmの高さにスパチュラで持ち上げて糸を引かなくなるまでの時間をゲルタイムとした。結果を表1~3に示す。
【0047】
[硬化物の透明性の測定]
各エポキシ樹脂組成物を直径3cmの底面が平滑な缶の容器に気泡が入らないように2ml投入し、容器の底面全面が樹脂配合物で満たされるようにスパチュラを用いて樹脂配合物を広げ、熱風循環式オーブンで、ジヒドラジド化合物としてVDH-Jを含む組成物については100℃、VDH-J以外を含む組成物については130℃、140℃又は150℃で30分加熱し、硬化したものについて、硬化物に傷がつかないように缶の容器からはがして硬化物を得た。φ80mm積分球(型名SRS-99-010、反射率99%)を装着したファイバ式分光光度計(MCPD-7700、形式311C、大塚電子社製、外部光源ユニット:ハロゲンランプMC-2564(24V、150W仕様))を使用して、硬化物の光透過率スペクトルを測定した。得られた光透過率スペクトルから、硬化物の400nmの全光線透過率を算出した。結果を表1~3に示す。
【0048】
【0049】
ジヒドラジド化合物としてVDH-Jを含む実施例1~8と比較例1~9とを比較すると、本発明のカルボン酸化合物を含む実施例1~8では、本発明のカルボン酸化合物及び比較物質を含まない比較例1や、同程度の量の比較物質を含む比較例2~9よりも、ゲルタイムが短かった。また、VDH-J以外のジヒドラジド化合物を含む実施例9~12と比較例10~13についても、同じジヒドラジド化合物を含むもの同士で比較すると、本発明のカルボン酸化合物を含む実施例9~12では、本発明のカルボン酸化合物及び比較物質を含まない比較例10~13よりも、ゲルタイムが短かった。
【0050】
硬化物の透明性の測定において、比較例1~13ではいずれも硬化性が不十分なため、測定のための硬化物が得られなかったのに対し、実施例1~12ではいずれも硬化物が得られた。硬化物が得られた実施例1~12について、透過率を求めたところ、使用したジヒドラジド化合物の融点が低いものほど透明性が高い傾向が見られ、特にVDH-Jを含む組成物からは透明性の高い硬化物が得られた。