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特開2024-24997航行支援装置、航行支援方法、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024997
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】航行支援装置、航行支援方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 79/40 20200101AFI20240216BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20240216BHJP
   B63B 43/18 20060101ALI20240216BHJP
   G08G 3/02 20060101ALI20240216BHJP
   G01C 21/36 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B63B79/40
B63B49/00 Z
B63B43/18
G08G3/02 A
G01C21/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128048
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100206391
【弁理士】
【氏名又は名称】柏野 由布子
(72)【発明者】
【氏名】石井 幹久
(72)【発明者】
【氏名】戸枝 賢吾
【テーマコード(参考)】
2F129
5H181
【Fターム(参考)】
2F129AA14
2F129BB19
2F129BB40
2F129DD13
2F129DD14
2F129DD15
2F129DD53
2F129DD65
2F129DD70
2F129EE02
2F129EE53
2F129EE55
2F129EE78
2F129EE79
2F129EE80
2F129EE95
2F129GG10
2F129GG11
2F129GG18
2F129HH02
2F129HH04
2F129HH12
2F129HH18
2F129HH20
2F129HH21
5H181AA25
5H181BB13
5H181CC14
5H181FF22
5H181FF33
5H181LL01
5H181LL04
(57)【要約】
【課題】避航ルートの適切さを把握することができる。
【解決手段】自船と相手船とについての衝突計算を行うことによって求められる、衝突リスクが生じる領域を示す注意領域を取得する取得部と、前記自船の位置に基づく初期位置から前記相手船を避航して復帰領域に到達するまでの間に設定される複数のノードを結ぶ避航ルートを求める避航ルート演算部であり、前記ノードを起点とし異なる複数の針路にそれぞれ設定される適切度のうち、前記注意領域に向かう針路の適切度が前記注意領域に向かわない針路の適切度よりも相対的に低くなるようにして当該針路の先に次ノードを設定する演算を前記復帰領域に到達するまで行い、前記避航ルートに属するノード間を結ぶ各針路の適切度に基づいて評価値を求める避航ルート演算部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自船と相手船とについての衝突計算を行うことによって求められる、衝突リスクが生じる領域を示す注意領域を取得する取得部と、
前記自船の位置に基づく初期位置から前記相手船を避航して復帰領域に到達するまでの間に設定される複数のノードを結ぶ避航ルートを求める避航ルート演算部であり、前記ノードを起点とし異なる複数の針路にそれぞれ設定される適切度のうち、前記注意領域に向かう針路の適切度が前記注意領域に向かわない針路の適切度よりも相対的に低くなるようにして当該針路の先に次ノードを設定する演算を前記復帰領域に到達するまで行い、
前記避航ルートに属するノード間を結ぶ各針路の適切度に基づいて評価値を求める避航ルート演算部と、
を有する航行支援装置。
【請求項2】
前記避航ルート演算部は、
前記複数の針路のうち、前記復帰領域に向かわない針路の適切度が前記復帰領域に向かう針路の適切度よりも相対的に低くなるように求める
請求項1に記載の航行支援装置。
【請求項3】
前記避航ルート演算部は、
前記複数の針路のうち、前記静的物標に向かう針路の適切度が前記静的物標に向かわない針路の適切度よりも相対的に低くなるように求める
請求項2に記載の航行支援装置。
【請求項4】
前記注意領域が複数であり、
前記避航ルート演算部は、
前記自船からの距離が遠い注意領域に向かう針路の適切度が、前記自船からの距離が近い注意領域に向かう針路の適切度よりも相対的に低くなるように求める
請求項1記載の航行支援装置。
【請求項5】
前記避航ルート演算部は、
前記相手船を右転ルートまたは左転ルートのいずれによって避航するかに応じて定まる第1係数と、
前記初期位置から復帰領域まで前記相手船を避航しない場合の距離と前記避航ルートに沿った距離とに応じて定まる第2係数と、
前記初期位置から前記復帰領域に近づくことに応じて定まる第3係数と、
のうち少なくともいずれか1つを用いて前記評価値を求める
請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の航行支援装置。
【請求項6】
前記評価値を表示部に表示させる出力部
を有する請求項5に記載の航行支援装置。
【請求項7】
コンピュータにより実行される船舶航行支援方法であって、
自船と相手船とについての衝突計算を行うことによって求められる、衝突リスクが生じる領域を示す注意領域を取得し、
前記自船の位置に基づく初期位置から前記相手船を避航して復帰領域に到達するまでの間に設定される複数のノードを結ぶ避航ルートを求める避航ルート演算部であり、前記ノードを起点とし異なる複数の針路にそれぞれ設定される適切度のうち、前記注意領域に向かう針路の適切度が前記注意領域に向かわない針路の適切度よりも相対的に低くなるようにして当該針路の先に次ノードを設定する演算を前記復帰領域に到達するまで行い、
前記避航ルートに属するノード間を結ぶ各針路の適切度に基づいて評価値を求める
ことを含む航行支援方法。
【請求項8】
自船と相手船とについての衝突計算を行うことによって求められる、衝突リスクが生じる領域を示す注意領域を取得し、
前記自船の位置に基づく初期位置から前記相手船を避航して復帰領域に到達するまでの間に設定される複数のノードを結ぶ避航ルートを求める避航ルート演算部であり、前記ノードを起点とし異なる複数の針路にそれぞれ設定される適切度のうち、前記注意領域に向かう針路の適切度が前記注意領域に向かわない針路の適切度よりも相対的に低くなるようにして当該針路の先に次ノードを設定する演算を前記復帰領域に到達するまで行い、
前記避航ルートに属するノード間を結ぶ各針路の適切度に基づいて評価値を求める
ことをコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航行支援装置、航行支援方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航海を支援するシステムとして、自船と相手船と衝突の危険性を把握可能に表示するシステムがある。例えば、自船と相手船とについて、衝突計算を行い、衝突計算の結果に基づいて、相手船による航行妨害ゾーン(OZT:Obstacle Zone by Target)を表示するシステムがある。
このようなシステムでは、航海士は、航行妨害ゾーンが表示された場合に、注意すべき範囲を具体的に把握することができる。また、航海士は、表示された航行妨害ゾーンを避けて操船すれば、相手の船舶とは衝突せずに航行することが可能である。
自船が相手船を避航するにあたり、避航針路を求めるシステムがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09-022499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自船が相手船を避航する場合、衝突を回避するだけでなく、その避航ルートが適切であることが望ましい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、避航ルートの適切さを把握することができる航行支援装置、航行支援方法、プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、自船と相手船とについての衝突計算を行うことによって求められる、衝突リスクが生じる領域を示す注意領域を取得する取得部と、前記自船の位置に基づく初期位置から前記相手船を避航して復帰領域に到達するまでの間に設定される複数のノードを結ぶ避航ルートを求める避航ルート演算部であり、前記ノードを起点とし異なる複数の針路にそれぞれ設定される適切度のうち、前記注意領域に向かう針路の適切度が前記注意領域に向かわない針路の適切度よりも相対的に低くなるようにして当該針路の先に次ノードを設定する演算を前記復帰領域に到達するまで行い、前記避航ルートに属するノード間を結ぶ各針路の適切度に基づいて評価値を求める避航ルート演算部と、を有する航行支援装置である。
【0007】
また、本発明の一態様は、コンピュータにより実行される船舶航行支援方法であって、自船と相手船とについての衝突計算を行うことによって求められる、衝突リスクが生じる領域を示す注意領域を取得し、前記自船の位置に基づく初期位置から前記相手船を避航して復帰領域に到達するまでの間に設定される複数のノードを結ぶ避航ルートを求める避航ルート演算部であり、前記ノードを起点とし異なる複数の針路にそれぞれ設定される適切度のうち、前記注意領域に向かう針路の適切度が前記注意領域に向かわない針路の適切度よりも相対的に低くなるようにして当該針路の先に次ノードを設定する演算を前記復帰領域に到達するまで行い、前記避航ルートに属するノード間を結ぶ各針路の適切度に基づいて評価値を求めることを含む航行支援方法である。
【0008】
また、本発明の一態様は、自船と相手船とについての衝突計算を行うことによって求められる、衝突リスクが生じる領域を示す注意領域を取得し、前記自船の位置に基づく初期位置から前記相手船を避航して復帰領域に到達するまでの間に設定される複数のノードを結ぶ避航ルートを求める避航ルート演算部であり、前記ノードを起点とし異なる複数の針路にそれぞれ設定される適切度のうち、前記注意領域に向かう針路の適切度が前記注意領域に向かわない針路の適切度よりも相対的に低くなるようにして当該針路の先に次ノードを設定する演算を前記復帰領域に到達するまで行い、前記避航ルートに属するノード間を結ぶ各針路の適切度に基づいて評価値を求めることをコンピュータに実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、この発明によれば、避航ルートの適切さを把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明の一実施形態による航行支援装置が用いられたシステムの構成を示す概略ブロック図である。
図2】出力部270から出力されるデータに基づいて表示装置に避航ルートが表示された表示画面100の一例を示す図である。
図3】航行支援装置20の動作を説明するフローチャートである。
図4】航行支援装置20の避航ルートを探索する動作を説明するフローチャートである。
図5】相手船に対する評価に関して説明する図である。
図6】相手船に対する評価に関して説明する図である。
図7】避航ルート演算部260によって求められた避航ルートが表示画面100に表示された場合を示す図である。
図8】避航ルートが3つ生成された場合における表示画面100に表示された場合の一例を示す図である。
図9】航行妨害ゾーンに対する係数について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態による航行支援装置について図面を参照して説明する。
図1は、この発明の一実施形態による航行支援装置が用いられたシステムの構成を示す概略ブロック図である。
航行管理システム10と航行支援装置20は、通信可能に接続される。
航行管理システム10は、例えば、レーダ(RADAR)、船舶自動識別装置(AIS;Automatic Identification System)、ジャイロ(GYRO)、船速距離計等のセンサーである。航行管理システム10は、各種センサーから得られた結果を航行支援装置20に供給する。電子海図情報表示装置(ECDIS:Electronic Chart Display and Information System)や、船舶用レーダ装置等を含む。
【0012】
航行支援装置20は、コンピュータであってもよいし、モジュールとしてレーダや、ECDISに内蔵されてもよいし、航行支援装置20の出力をレーダや、ECDISに表示させるようにしてもよい。
また、航行支援装置20の機能を実現するアプリケーションソフトウェアとしてスマートフォンやタブレット等の携帯可能な端末装置にインストールされ実行されることで、航行支援装置20の機能を実現してもよい。このような航行支援装置20は、船舶に搭載される。
【0013】
航行支援装置20は、データ入力部210、操作入力部220、記憶部230、衝突計算部240、注意領域取得部250、避航ルート演算部260、出力部270を含む。
【0014】
データ入力部210は、各種データを取得する。例えば、データ入力部210は、航行管理システム10から、当該航行管理システム10における各種センサーから得られた結果を取得する。
【0015】
操作入力部220は、操作者からの操作内容に応じた操作入力を受け付ける。操作入力部220は、例えば、タッチパネル、キーボード、マウス等の各種入力装置のうち少なくともいずれか1つから入力される入力データを取得する。
【0016】
記憶部230は、各種データを記憶する。例えば、記憶部230は、データ入力部210から入力された各種データ、衝突計算部240の計算結果、避航ルート演算部260の演算結果等を記憶する。
記憶部230は、記憶媒体、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、RAM(Random Access read/write Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはこれらの記憶媒体の任意の組み合わせによって構成される。
この記憶部230は、例えば、不揮発性メモリを用いることができる。
【0017】
衝突計算部240は、自船と相手船との関係に基づいて衝突リスクがある領域(注意領域)を求める衝突計算を行う。衝突計算部240が行う衝突計算の衝突計算は、自船と相手船の各種情報(位置、速力、進行方向等)と安全航過距離との関係に基づいて、相手船による航行妨害ゾーン(OZT:Obstacle Zone by Target)を求める計算方法、自船と相手船との最接近点であるCPAを求める計算方法等があるが、いずれの計算手法であってもよいし、OZT、CPA以外の計算手法であってもよい。この実施形態においては、OZTを求める場合(特に線分OZT)について説明する。
【0018】
注意領域取得部250は、衝突計算部240によって求められた、衝突リスクがある領域を示す注意領域を取得する。例えば、注意領域取得部250は、衝突計算部240によって求められた、航行妨害ゾーンの位置を表すデータを取得する。
【0019】
避航ルート演算部260は、自船の位置に基づく初期位置から相手船を避航して復帰領域に到達するまでの間に設定される複数のノードを結ぶ避航ルートを求める避航ルート探索部であり、ノードを起点とし異なる複数の針路にそれぞれ設定される適切度のうち、注意領域に向かう針路の適切度が注意領域に向かわない針路の適切度よりも相対的に低くなるようにして当該針路の先に次ノードを設定する演算を復帰領域に到達するまで行い、避航ルートに属するノード間を結ぶ各針路の適切度に基づいて評価値を求める。
【0020】
また、避航ルート演算部260は、複数の針路のうち、復帰領域に向かわない針路の適切度が復帰領域に向かう針路の適切度よりも相対的に低くなるように求める。
また、避航ルート演算部260は、複数の針路のうち、静的物標に向かう針路の適切度が静的物標に向かわない針路の適切度よりも相対的に低くなるように求める。
また、避航ルート演算部260は、相手船を右転ルートまたは左転ルートのいずれによって避航するかに応じて定まる第1係数と、初期位置から復帰領域まで相手船を避航しない場合の距離と避航ルートに沿った距離とに応じて定まる第2係数と、期位置から復帰領域に近づくことに応じて定まる第3係数と、のうち少なくともいずれか1つを用いて評価値を求める。
【0021】
出力部270は、表示装置にデータを出力する。
出力部270は、評価値を表示部に表示させる。
例えば、出力部270は、航行支援装置20に表示装置が設けられている場合には、この表示装置に対してデータを出力することで各種データを表示させる。また、出力部270は、電子海図情報表示装置や船舶用レーダ装置に対してデータを出力することで、電子海図情報装置や船舶用レーダ装置に表示をさせてもよい。
例えば、出力部270は、衝突計算部240によって求められた注意領域を、レーダ画面が表示される表示領域に重ねて表示させるようにしてもよいし、レーダ画面に隣接する表示領域に表示させるようにしてもよい。また、出力部270は、注意領域を、操作子から入力される指示に応じて、非表示状態または表示状態のいずれかの状態とするように切り替えるようにしてもよい。
【0022】
衝突計算部240、注意領域取得部250、避航ルート演算部260は、例えばCPU(中央処理装置)等の処理装置または専用の電子回路によって構成することができる。
【0023】
図2は、出力部270から出力されるデータに基づいて表示装置に避航ルートが表示された表示画面100の一例を示す図である。
表示画面100には、自船Oと、相手船Tと、静的物標STと、相手船による航行妨害ゾーンOZTと、避航ルートE1と、避航ルートE2と、が表示されている。
自船Oの現在位置から針路0度の方向に直線状に進む経路が計画航路PRとして設定されている。復帰線分RLは、避航完了後に計画航路へ復帰する際の目標となる、計画航路PR上に設定される線分である。復帰線分RLは、初期変針点(ノードN0)から予定航路SCに沿って航行した後の位置であって、注意領域よりも先の位置に設定される。
初期変針点(ノードN0)は、注意領域を避航するために最初に針路の変更が行われる位置であり、予定航路PR上において、注意領域よりも手前側に設定される。
【0024】
避航ルートは、初期変針点N0から復帰線分RLに到達するまで、相手船Tと静的物標STに衝突しないように、一定間隔に設けられるノードN(N0、N11からN15、N21からN26)が接続されることで、避航する経路として表示される。ここでは、避航ルートは、避航ルートE1と避航ルートE2の2つが候補として表示されている。
ノードNは、避航ルートにおいて自船Oが辿る経由地を表すものであり、避航ルート演算部260が評価値を算出する対象の位置を示す。また、ノードNを起点として異なる複数の針路が設定され、この複数の針路のそれぞれに適切度が設定される。この複数の針路のうち、いずれの針路に向かうか(変針するか否か)が選択される。
【0025】
避航ルートE1は、ノードN0、ノードN11、ノードN12、ノードN13、ノードN14、ノードN15を通る経路である。
避航ルートE2は、ノードN0、ノードN21、ノードN22、ノードN23、ノードN24、ノードN25、ノードN26を通る経路である。
ここでは、避航ルートE1に属するノードの数よりも避航ルートE2に属するノードの数の方が1つ多い。
ここで、避航ルートに属するノードの数は、初期変針点(ノードN0)から復帰線分RLに到達するまでの時間の上限値(例えば1時間)に応じて決まる。例えば、ノードの間隔は予め決められた単位時間(例えば6分)に航行する距離に応じて決まる。そのため、例えば、初期変針点から復帰線分RLまで1時間以内に復帰する場合、ノードの数は最大で10個設定される。これにより、避航ルートは、最大で60分以内に予定航路SCに戻るような経路が選定される。
この表示画面100では、2つの避航ルートが表示されている場合について示されているが、避航ルート演算部260によって得られた避航ルートであれば、2以外の数の避航ルートが表示されてもよい。また、避航ルートの数が多すぎると、利用者にとって、いずれの避航ルートを採用するかを選択する負担が大きくなり、また、航行支援装置20の演算負荷が高くなるため、表示する避航ルートの数の上限値を航行支援装置20の計算能力に応じて設定するようにしてもよい(例えば4つ)。
【0026】
ノードを起点として、複数の針路が設定される。ここでは、ノードを起点として0度である針路と、右舷側と左舷側のそれぞれにおいて、片舷60度の範囲が変針探索範囲として設定されており、この変針探索範囲において所定の角度毎に、評価値を算出する対象の針路が設定される。例えば、1つのノードからは、右舷側に15度、30度、45度、60度の針路が計算対象の針路として設定され、左舷側に-15度、-30度、-45度、-60度の針路が計算対象の針路として、合計9つの針路が設定される。
ここで、変針探索範囲が片舷において60度である場合について説明したが、60度に限られるものではなく、60度よりも狭い範囲であってもよいし、広い範囲であってもよい。また、変針探索範囲において設定される針路の数は両舷4つである場合について説明したが、1以上であればよい。ただし、変針探索範囲を広くしたり、変針探索範囲において設定される角度の数を増やすことで、評価結果としてより避航ルートが得られる確率を高めることができるが、航行支援装置20における計算負荷が高くなるため、計算能力に応じた数を適用してもよい。
この表示画面100では、これら複数の針路うち、1つの針路の先端部に次のノードが設定され、最終的に復帰線分RLに到達すると、次のノードの設定は行われない。
【0027】
次に、上述した航行支援装置20の動作を説明する。図3は、航行支援装置20の動作を説明するフローチャートである。
航行支援装置20のデータ入力部210は、航行管理システム10から、各種データを取得する(ステップS10)。ここで取得されるデータは、例えば、自船Oの速力、相手船(相手船T)の速力、自船Oの位置、相手船Tの位置、自船Oの針路、相手船Tの針路、安全航過距離を含む。
【0028】
衝突計算部240は、航行管理システム10から得られた各種データに基づいて、自船Oと相手船Tとの衝突計算をする(ステップS11)。衝突計算が行われると、避航ルート演算部260は、避航ルートを探索し(ステップS12)、探索された避航ルートについて評価する(ステップS13)。
【0029】
図4は、図3ステップS12における、航行支援装置20の避航ルートを探索する動作を説明するフローチャートである。
【0030】
航行支援装置20の避航ルート演算部260は、初期変針位置(初期変針点)にノードを生成する(ステップS101)。例えば、避航ルート演算部260は、自船Oの現在の針路上において航行妨害ゾーン(OZT)があるか否かを判定し、航行妨害ゾーンがある場合には避航ルートの生成が必要であると判定する。そして避航ルート演算部260は、自船Oの現在位置と航行妨害ゾーンとに基づいて、初期変針点と復帰線分を求める。初期変針点と復帰線分の位置を求める手法は、既存の手法を用いるようにしてもよい。
避航ルート演算部260は、初期変針点が得られると、得られた初期変針点をノードN0として決定する。
【0031】
次に、避航ルート演算部260は、生成されたノードを起点として探索する針路を1つ以上決定する(ステップS102)。例えば、避航ルート演算部260は、ステップS101において生成されたノードN0の位置を起点として、0度の針路、右舷側に設定される60度の変針探索範囲、左舷側に設定される60度の変針探索範囲から、探索する針路を複数決定する。ここでは、0度、右舷側の15度、30度、45度、60度、左舷側の-15度、-30度、-45度、-60度の合計9つの針路が計算対象の針路として設定される。
ここで、ノードN0(初期変針点)については、ノードN0を起点して設定される複数の角度のそれぞれについて探索する対象の針路として決定するが、2つ目以降のノードについては、当該ノードを起点として設定される複数の針路のうち1つの針路を探索する対象の針路として決定する。これにより、ノードN0を起点とした複数の針路毎に避航ルートを検討することができ、2つ目以降のノードから針路が複数に分かれないようにして避航ルートを検討することができるため、計算量が過大にならないようにしつつ、種々の避航ルートを検討することができる。
【0032】
次に、避航ルート演算部260は、ノードに割り当てられたノード番号と、このノードから探索する針路の組み合わせを探索リストとして記憶部230に書き込むことで保存する(ステップS103)。例えば、避航ルート演算部260は、ノード番号「N0」と、9つの針路「-60度、-45度、-30度、-15度、0度、15度、30度、45度、60度」とを対応付けて、探索リストとして記憶部230に書き込む。
【0033】
次に、避航ルート演算部260は、記憶された探索リストからノード番号と探索する対象の針路との組み合わせを1つ選択する(ステップS104)。
例えば、避航ルート演算部260は、ノード番号に対応づけされた9つの針路のそれぞれについて、適切度を計算し、9つ針路に対してそれぞれ求められた適切度に基づいて、当該適切度が最も高い針路を選択(探索)することで、ノード番号と探索する針路の組み合わせを1つ選択する。ここでは、9つの針路のなかから適切度に基づいて1つの針路を選択するようにした。これにより、9つの針路の全てにそれぞれノードがされると、次のノードに進む毎に針路の数が9の累乗で増えてしまうため、適切度が低い針路については、次段以降において計算対象から除外することができ、計算負荷を軽減することができる。
なお、ここでは適切度が高い針路を1つ選択する場合について説明するが、複数の針路を選択するようにしてもよい。この場合、どの程度の数の針路を選択するかについては、計算負荷や計算時間を考慮して決めるようにしもよい。また、複数の針路を選択する場合、各針路に対して求められた適切度が高い針路から順に所定の数(例えば4つ等)の針路を選択するようにしてもよい。
【0034】
ここで、避航ルート演算部260は、次のようにして適切度qを求める。
避航ルート演算部260は、適切度qを求める対象の針路に対し、適切度qの初期値として予め決められた値を付与し、その針路について下記の(1)から(3)の評価項目に基づく計算を行うことで適切度qを得る。適切度q値は、針路の適切さの度合いを表す。
適切度の初期値は、例えば100である。避航ルート演算部260は、初期値から、下記の評価項目において定められた条件に応じて適切度から減算することで、対象の針路における適切度を求める。適切度は、0から100の間のいずれかの値である。ここで、初期値は100であるが、100以外の初期値を用いてもよい。また、ここでは適切度を初期値から減算する場合について説明するが加算してもよいし、条件に応じて加算と減算の少なくともいずれか一方を行うようにしてもよい。
【0035】
(1)相手船に対する評価
避航ルート演算部260は、相手船と衝突しないような針路の適切度が高くなり、相手船と衝突するような針路の適切度が低くなるように適切度qを求める。例えば、自船Oと相手船Tとの間において求められた注意領域に向く針路については、減点する度合いを高くし、注意領域とは異なる領域に向く針路については減点する度合いを低くする。より具体的には、避航ルート演算部260は、注意領域に向く針路については「-100」の減点をし、注意領域の近傍の領域に向く針路については、注意領域からの距離に応じて「-100」よりも0に近い値の減点をし、注意領域から離れた領域に向く針路については、減点しない。ここでいう注意領域は、例えば航行妨害ゾーン(OZT)である。そのため、航行妨害ゾーンを避航することが可能な針路については、航行妨害ゾーンに向かう針路よりも適切度が高くなる(より適切である)ように計算される。
また、相手船を避航する方法としては、注意領域を避航する他に、相手船の針路に変動があった場合の航行妨害ゾーン、つけ回しに応じて、適切度を計算するようにしてもよい。
【0036】
図5は、相手船に対する評価に関して説明する図である。
ここでは、自船Oと相手船T1と相手船T2とが存在している。航行妨害ゾーンOZT1は、相手船T1に対する注意領域であり、航行妨害ゾーンOZT2は、相手船T2に対する注意領域である。
針路Co1は、航行妨害ゾーンOZT1に向かう針路であり、針路Co2は、航行妨害ゾーンOZT2に向かう針路であるため、これら針路Co1、針路Co2は、それぞれ航行妨害ゾーンに向かう針路であるため、適切度qの値が低くなるように減点される。一方、針路Co3は、いずれの航行妨害ゾーンにも向かうものではないため、適切度qについて減点されない。
【0037】
(2)静的物標に対する評価
避航ルート演算部260は、静的物標と衝突しないような針路の適切度が高くなり、静的物標と衝突するような針路の適切度が低くなるように適切度qを求める。これにより、静的物標を避けるようにした避航ルートを得ることができる。
静的物標としては、陸地、浅瀬等がある。静的物標の位置は、電子海図データを参照することで特定することができる。電子海図データは、例えば、ECDISから取得することができる。
【0038】
(3)自船に関する評価
避航ルート演算部260は、復帰線分RLに向かう針路の適切度が高くなり(より適切である)、復帰線分RLから離れるような針路の適切度が低くなる(適切ではない)ように適切度qを求める。これにより、避航するにあたり、復帰線分RLから離れすぎないようにすることができ、航行距離が必要以上に増大してしまうことを抑制することができる。
より具体的に、避航ルート演算部260は、復帰線分RLに向かう針路については減点せず、復帰線分RLから離れるほど減点数が大きくなるようにして適切度qを求める。例えば、初期変針点において自船Oの針路が右舷側に10度変針される場合は、右舷側に30度変針される場合に比べて、減点されにくいように求める。また、変針角度が小さいほど、自船Oの操船の負担が少なくてすむ。
【0039】
図6は、相手船に対する評価に関して説明する図である。
ここでは、自船Oを起点として針路Co1、針路Co2、針路Co3があり、そのうち、針路Co1と針路Co3については、復帰線分RLに向かう針路ではないため、適切度qが減点され、針路Co2については、復帰線分RLに向かう針路であるため、適切度qは減点されない。
【0040】
避航ルート演算部260は、上述の(1)から(3)の各評価項目に基づいて、算出対象のノードを起点とした複数の針路についてそれぞれ適切度qを求める。ここでは、(1)から(3)の全ての評価を含むように適切度qを求めるようにしてもよいし、(1)のみ、または(1)と(2)について算出するようにしてもよい。
【0041】
避航ルート演算部260は、上述した(1)から(3)の各評価項目に基づいて得られる適切度qを各針路について求め、得られた適切度のうち、最も大きな適切度が求められた針路を1つ選択する。
【0042】
避航ルート演算部260は、選択された1つの針路において、一定時間航行した場合の位置に次のノードを生成し、生成されたノードにノード番号を付与する(ステップS105)。
そして避航ルート演算部260は、次のノードとして生成されたノードが復帰線分RLに到達したか否かを判定し(ステップS106)、復帰線分RLに到達した場合(ステップS106-YES)には、処理をステップS107に進め、復帰線分RLに到達していない場合(ステップS106-NO)には、処理をステップS102に進める。ここで、処理をステップS102に進めることで、復帰線分RLに到達するまで、次のノードが順次設定される。
【0043】
避航ルート演算部260は、避航ルート候補リストに、初期変針点から復帰線分RLまでのノード番号、針路、適切度qを保存する(ステップS107)。
そして、避航ルート演算部260は、探索リストに記憶されている探索対象の針路について全て探索を行ったか否かを判定し(ステップS108)、全て探索した場合には(ステップS108-YES)処理を終了し、残りの針路がある場合(ステップS108-NO)には、処理をステップS104に進める。
【0044】
図7は、避航ルート演算部260によって求められた避航ルートが表示画面100に表示された場合を示す図である。
表示画面100の左側には、表示領域70が配置されている。
表示領域70には、自船Oと、相手船Tと、相手船による航行妨害ゾーンOZT、復帰線分RLとが表示されている。また、自船Oを中心として同心円状の目盛りも表示されている。これらから、自船Oと、相手船T、航行妨害ゾーンOZT、復帰線分RLとの位置関係が把握できるようになっている。
【0045】
表示画面100の右側には、表示領域71、表示領域72、表示領域73が配置されている。
【0046】
表示領域71において、横軸が変針角度を表し、縦軸が適切度qを表す。
ここでは、自船Oの現在位置から復帰線分RLに向かう方向を針路0度として設定されている。
針路において、適切度qの値が低いほど、その針路の適切さの度合いが低いことを表し(適切ではない度合いが高い)、適切度qの値が高いほど、その針路の適切さの度合いが高いことを表す(適切である度合いが高い)。
ここでは、一例として、初期変針点(ノードN0)の場合における計算結果に応じたグラフが表示領域71、表示領域72、表示領域73に表示されている。
例えば、針路0度と右舷側の針路20度とを比べた場合、針路0度の適切度qが42程度であり、右舷側の針路20度の適切度qが75程度であるため、右舷側の針路20度の方がより適切である(安全性を確保しやすい)ことを示している。
【0047】
表示領域72において、横軸が変針角度を表し、縦軸が「(3)自船に関する評価」に応じた減点数を表す。
針路0度については減点が「0」であり、減点されないことを示し、針路が0度から離れるほど、減点される度合いが増大する。つまり、針路が復帰線分RLから離れるほど、その針路について減点されやすくなっている。また、仮に復帰線分RLが針路-20度の方向にある場合には、針路-20度における減点数が0であり、針路が針路-20度から離れるほど、減点される度合いが増大する。針路と減点数との関係を示す点数データは、予め決められており、記憶部230に記憶されている。避航ルート演算部260は、自船Oの針路と、自船Oから見た復帰線分RLの針路との関係に応じた点数データを読み出し、出力部270によって、表示画面100に表示させる。
【0048】
表示領域73において、横軸が変針角度を表し、縦軸が「(1)相手船に対する評価」に応じた減点数を表す。
針路0度については減点数が-58であり、変針探索範囲において最も減点される度合いが大きいことを示している。これは、針路0度の方向に航行妨害ゾーンOZTがあるため、針路としては適切ではないことを示している。
針路0度から離れる針路については、針路0度から離れるほど減点される度合いが低くなっている。つまり、相手船と衝突するリスクが低減するため、適切度qも高くなることを示している。
例えば、針路0度と右舷側の針路20度とを比べた場合、針路0度の減点数が-58であり、右舷側の針路20度の減点数が-22であるため、針路0度の方が適切ではない(安全性が確保しにくい)ことを示している。
避航ルート演算部260は、自船Oに対する航行妨害ゾーンOZTの針路との関係から、航行妨害ゾーンOZTに向かう針路の減点数が最も大きくなり、針路が航行妨害ゾーンOZTから離れるほど減点数が小さくなるように算出し、算出結果を表示領域73に出力部270によって表示させる。
なお、この図7に示す例では、相手船Tを避航するために航行妨害ゾーンOZTを避ける場合について説明したが、DCPA(相手船との最接近距離)に基づいて減点数を定め、適切度qを求めるようにしてもよい。例えば、DCPAが0マイルとなる針路は相手船Tと衝突する針路であることを示すため、DCPAが0の針路は減点数を大きくし、DCPAが1マイルである針路については、自船Oから相手船Tまでの距離が1マイルであり、一定の安全性を確保できていることを示すため、その針路についての減点数は小さくするようにして、適切度qを求めるようにしてもよい。また、OZTとDCPAとの両方に基づいて適切度qを求めるようにしてもよい。
【0049】
避航ルート演算部260は、上述した表示領域72に表示された減点数と、表示領域73に表示された減点数と、適切度qの初期値とを元に適切度qを求める。
避航ルート演算部260は、針路0度における適切度q値(初期値100)から、表示領域72における針路0度に応じた減点数を引くとともに、表示領域73における針路0度における減点数を引くことで、針路0度に対する適切度qを求める。
例えば、針路0度については、表示領域72における減点数(自船に関する評価)が0であり、表示領域73における減点数が-58であるため、初期値100からそれぞれ引くことで針路0度の適切度qが42であることを求める(q=100-0-58)。
また例えば、針路20度については、表示領域72における減点数(自船に関する評価)が-3.8であり、表示領域73における減点数が-22であるため、初期値100からそれぞれ引くことで針路0度の適切度qが74.2であることを求める(q=100-3.8-22)。
避航ルート演算部260は、このようにして、変針探索範囲における探索する対象の針路のそれぞれについて適切度qの計算を行い、その計算結果に基づいて、表示領域71のように適切度qを針路毎に示すグラフを生成して表示する。
【0050】
また、避航ルート演算部260は、初期変針点(ノードN0)において、針路毎の適切度qを求めると、その適切度が最も大きい針路を選択し、その選択された針路の先に次のノード(例えばノードN1)を設定し、その新たに設定されたノードN1における針路後の適切度qを求める。
ここで図7では、初期変針点(ノードN0)における適切度qが求められた場合について表示画面100に表示された場合について図示されているが、避航ルート演算部260は、ノードN0以外のノードにおいて適切度qが求められた場合について表示画面100に表示させることもできる。また、ノードN0から復帰線分RLに到達するノードまでの適切度qが求められた表示画面を一定時間毎に順に表示するようにしてもよい。
【0051】
また、図7においては、(1)相手船に対する評価と、(3)自船に関する評価との2つの評価項目に基づいて適切度qを求める場合について説明した。この場合、相手船を避航するとともに、復帰線分RLからなるべく離れないことを考慮した避航ルートを求めることができる。復帰線分RLからなるべく離れないような避航ルートを求めることにより、航行時間が長引かないようにしつつ、自船Oの燃料消費量の増大を抑制するような避航ルートを求めることができる。
また、図7において、(2)静的物標に対する評価について、さらに評価項目として含めるようにして適切度qを求めるようにしてもよい。例えば、位置が固定されている障害物に向く針路については、減点数が大きくなるようにし(例えば-100)、障害物から離れた位置に向かう針路であれば減点をせず(例えば0)、障害物の近傍に向かう針路については、多少減点する(例えば-20)ようにしてもよい。
これにより、静的物標を避航することも考慮した避航ルートを求めることができる。
また、(1)相手船に対する評価の評価項目のみに基づいて適切度qを求めるようにしてもよい。この場合、復帰線分RLに近づく針路を優先的に採用するようにして、復帰線分RLに到達可能となるように避航ルート生成することで、復帰線分RLに復帰可能な避航ルートが生成される。
【0052】
このように、ノードに設定された針路毎に適切度qの初期値が付与されており、針路における状況に応じて、減点するようにしたので、より高い適切度qが得られた針路を優先的に選択することができる。
【0053】
このように、避航ルート演算部260は、ノードを起点として針路を決めるにあたり、適切度qを求め、この適切度qに基づいていずれの針路がよいかを評価し、次のノードを繋いでいくようにした。これにより、相手船に衝突するリスク、自船が航行する経済性(航行時間、燃料消費量等)、静的物標等を考慮した避航ルートを生成することができる。
【0054】
次に、図3ステップ13における評価ステップについて説明する。
図8は、避航ルートが3つ生成された場合における表示画面100に表示された場合の一例を示す図である。
ここで、予定航路PRに対して、2つの復帰線分RLa、復帰線分RLbが設定されており、復帰線分RLaの手前側に航行妨害ゾーンOZTが設定されている。
避航ルートEaは、ノードN0から自船Oの右舷側に針路を向けて航行妨害ゾーンOZTを避航して復帰線分RLaに到達する経路である。避航ルートEbは、ノードN0から自船Oの左舷側に針路を向けて航行妨害ゾーンOZTを避航して復帰線分RLaに到達する経路である。避航ルートEcは、ノードN0から自船Oの右舷側に針路を向けて航行妨害ゾーンOZTを避航して復帰線分RLbに到達する経路である。
避航ルート演算部260は、各避航ルートについて評価値を求め、その評価値に基づいて、複数の避航ルートのそれぞれに対して優先度を生成する。
【0055】
避航ルート演算部260は、下記の(1)式に基づいて避航ルートに対して評価値Eval.Val.を求める。
【0056】
【数1】
【0057】
式(1)において、
LRは、右転優先係数である。LRは、注意領域を右転するようにして避航する場合は、左転するようにして避航する場合よりも大きな係数が設定される。例えば、避航ルート演算部260は、右転する避航ルートには「1.0」、左転する避航ルートには「0.7」の値を用いる。ここでは、海上では、右転により相手船を避航するという海上衝突予防法により定められる航法規定があるため、左に舵を切るルートより右に舵を切るルートの方が優先されやすくなっている。
【0058】
(Distplanned÷Distavoidance)は、経済性係数であり、航行距離がどの程度増大したかを評価する係数である。この係数において、Distplannedは、初期変針点(ノードN0)から最終ノードまで予定航路にそって航行した場合における距離を表し、Distavoidanceは、初期変針点(ノードN0)から最終ノードまで避航ルートにそって航行した場合における距離を表す。このため、予定航路に比べて避航ルートの距離が長くなるほど、(Distplanned÷Distavoidance)の係数が小さくなり、評価値も小さくなる。
例えば経済性係数LRは、予定航路の距離が10であり、第1避航ルートの航行距離12マイル、第2避航ルートの航行距離15マイルである場合、第1避航ルートの経済性係数は約0.83、第2避航ルートの経済性係数は、約0.67である。そのため、第1避航ルートの評価値の方が高くなりやすい。
【0059】
第3項において、Nは、評価する対象の避航ルートに属するノードの番号を表す。
q(i,j)は、i番目のノードにおけるj番目の変針角度の適切度qの値を示す。
γは、時間割引率を表し、0<γ≦1である。ここでは、例えばγは0.9である。
第3項では、評価する対象の避航ルートに属する各ノードに設定された針路に対して設定された適切度qについて、第1ノードから最終ノードまでの平均値を求め、その上で、時間割引率を考慮した値を表す。例えば、避航ルートEbの場合には、i番目のノードにおいて採用された針路jにおける評価値qに対して、そのノードの順序(i番目)を示す数に応じた時間割引率γについてi乗した値を求め、ノードN0からノードN4までの5つのノード(N=5)についての平均値を求めた値が得られる。
【0060】
ここで、γを0.9とした場合、1番目のノードではγ=0.9であり、2番目のノードではγ=0.81であり、航行する距離が先であるほど、γの値が小さくなり、適切度qに対して小さい係数が乗算されることになる。そのため、先の将来のノードになるほど、適切度qを低く見積もった値を得ることができる。ここでは、先の将来となるほど、相手船Tの針路や速力が変更される可能性があることを加味することができ、自船Oの現在位置の近くのノードにおける適切度qと、自船Oの現在位置から遠くのノードにおけるq値とについては、近くのノードにおける適切度qが重視された値を得ることができる。これにより、より近い将来のノードにおける適切度qの値が高いほど、より適切な針路であると考えることができる。
【0061】
図8においては、避航ルート演算部260が、3つの避航ルートについて評価値を求めることで、避航ルートEaの評価値が69であり、避航ルートEbの評価値が55であり、避航ルートEcの評価値が72であることを表示画面100に表示させる。
ここでは、避航ルートEc(避航ルートNo.3)評価値が72であるため、この3つの避航ルートの中で最も評価値が高いことが示されている。
【0062】
ここで、避航ルート演算部260は、避航することが必要な場合に、表示画面100に対して避航ルートを少なくとも1つ表示させる。ここで、探索ステップ(ステップS12)において、避航ルートが多数得られる場合もあるため、表示する避航ルートの数の上限値(例えば上限値が4ルート)を予め設定しておくようにしてもよい。この場合、避航ルート演算部260は、探索ステップ(ステップS12)において得られた多数の避航ルートについてそれぞれ評価値を求め、その評価値が最も高いものから順に、上限値の数まで表示する。これにより、複数の避航ルートのうち、評価値が高い避航ルートを推奨することができる。
また、避航ルート演算部260は、表示画面100において、得られた評価値を避航ルートの近傍に表示してもよいし、評価値の高い順を表す順位を避航ルートの近傍に表示してもよい。
また、避航ルート演算部260は、評価値が基準値未満(例えば20点未満など)である避航ルートについては表示対象から除外し、非表示とするようにしてもよい。
【0063】
以上説明した実施形態において、避航ルート演算部260によって得られた避航ルートに基づいて、自動運航船における避航ルートとして採用するようにしてもよい。例えば、自動運航船は、避航ルート演算部260によって得られた避航ルートのうち最も評価値が高い避航ルートを取得し、この避航ルートに沿って運航するようにしてもよい。
また、避航ルート演算部260は、自動運航船の避航ルートが得られると、自動運航船の運航を管理する管理者の端末装置に、避航ルートを送信する。そして、管理者の端末装置には、得られた避航ルートを選択するためのダイヤログボックスの画面を表示し、管理者から、いずれの避航ルートを採用するかについて、操作入力部220を介して操作入力してもらい、選択された避航ルートを自動運航船に避航ルートとして設定するようにしてもよい。ダイヤログボックスの画面において、所定時間内に避航ルートを選択する選択入力がなされなかった場合には、その時点における自船O、相手船Tのそれぞれの位置、針路、速力等に基づいて再度衝突計算を行うとともに避航ルートの算出をするようにしてもよい。
【0064】
また、上述した実施形態において、「(1)相手船に対する評価」について、相手船Tが1隻(航行妨害ゾーンが1つ)の場合について説明したが、相手船が複数存在し、これに伴い航行妨害ゾーンも複数存在するケースもあり得る。
このような場合、避航ルート演算部260は、複数の航行妨害ゾーンに対して、航行妨害ゾーンまでの距離に基づく航行時間に応じた係数を用いることで、自船Oの現在位置から離れた航行妨害ゾーンについては、減点される度合いが低くなるようにしてもよい。例えば、避航ルート演算部260は、自船からの距離が遠い注意領域に向かう針路の適切度が、自船からの距離が近い注意領域に向かう針路の適切度よりも相対的に低くなるように求める。
図9は、航行妨害ゾーンに対する係数について説明する図である。この図において、横軸は、航行妨害ゾーンまでの距離に基づく航行時間を表し、縦軸は、係数(priority)を表す。係数(priority)は、航行妨害ゾーンに自船Oが到達するまでの時間に応じて減点数に重みを付与する、0以上1以下の係数である。自船Oから航行妨害ゾーンまでの航行時間が短い程、その航行妨害ゾーンが示す相手船との衝突までの余裕が小さいため、重みが重くなるように設定する(priorityを1に近づける)。一方、自船Oから航行妨害ゾーンまでの航行時間が長いほど、その航行妨害ゾーンが示す相手船との衝突までの余裕が大きいため、重みを軽くする(priorityを0に近づける)。
例えば、図9では、航行妨害ゾーンに自船Oが到達するまでの時間が0分から9分まで、priorityが1であり、9分以降においては、priorityが漸次小さくなるようにされており、約30分以降については0となるように設定されている。
【0065】
例えば、あるノードを起点とした各針路において、その針路における航行妨害ゾーンに到達するまでの時間を求め、その時間に応じた係数(priority)を減点数に対して乗算する。航行妨害ゾーンに対する減点数が「-100」である場合、航行妨害ゾーンに到達するまでの時間が9分である航行妨害ゾーンに対する係数として1が用いられることで「-100」となり、航行妨害ゾーンに到達するまでの時間が30分である航行妨害ゾーンに対する係数として0.3が用いられることで、「-30」となる。
このようにして、複数の相手船に対して避航操船を行う際には,priorityに基づいて、優先的に避航する相手船を決めることができる。
【0066】
なお、相手船に関する減点数は、一定以上先のノードでは計算しないようにしてもよい。ここでは、航行妨害ゾーンは、相手船の針路と速力が一定である仮定して計算していることから、あまりに将来の相手船の動静は予測しにくい。そのため、適切度qの計算において、考慮する意味が必ずしも高くないためである。ここで、相手船が針路、速力を維持した場合は、将来において衝突のリスクが高まるが、その場合、避航ルート演算部260は、一定時間が経過する毎に、再度避航ルートの生成を行う。これにより、避航ルートを安全なものに更新することができ、この更新された避航ルートに基づいて避航操船することができる。
【0067】
以上説明した実施形態によれば、避航ルート演算部260によって、自船と相手船との関係から求まる注意領域を避航する避航ルートを生成することができるため、自船の避航操船を支援することができる。
【0068】
上述した実施形態における操作入力部220、衝突計算部240、注意領域取得部250、避航ルート演算部260、出力部270の機能をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0069】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0070】
10…航行管理システム、20…航行支援装置、210…データ入力部、220…操作入力部、230…記憶部、240…衝突計算部、250…注意領域取得部、260…避航ルート演算部、270…出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9