(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025008
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】モータ制御装置及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20240216BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240216BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240216BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60L15/20 J
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128080
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 修功
(72)【発明者】
【氏名】黒川 和成
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
【テーマコード(参考)】
5H125
5H770
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125DD06
5H125EE08
5H125EE09
5H125EE15
5H770BA02
5H770CA01
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770GA19
5H770HA02X
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA06X
5H770HA07Z
5H770JA17Z
5H770LB05
5H770LB09
(57)【要約】
【課題】スイッチング素子を備える電力変換器の性能を過剰に抑制することなく、ストールが発生したことに基づいてトルク制限を行うことを可能とする。
【解決手段】スイッチング素子を指令トルク値に基づいて制御することでモータを制御するモータ制御装置15であって、モータ回転数と指令トルク値とに基づいてストールが発生しているか否かを判定するストール状態判定部32と、ストールの発生開始からトルク制限を行うまでの判定期間を定める判定期間設定部33と、ストールが発生している状態が判定期間を超えた場合に、モータのトルクの上限値を制限するトルク制御部34とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を指令トルク値に基づいて制御することでモータを制御するモータ制御装置であって、
前記モータの回転数と前記指令トルク値とに基づいてストールが発生しているか否かを判定するストール状態判定部と、
前記ストールの発生開始からトルク制限を行うまでの判定期間を定める判定期間設定部と、
前記ストールが発生している状態が前記判定期間を超えた場合に、前記モータのトルクの上限値を制限するトルク制御部と
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記判定期間設定部は、前記スイッチング素子の温度測定値に基づいて、前記判定期間を定めることを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記スイッチング素子の温度測定値と前記判定期間との関係を示す判定期間マップを記憶する記憶部を備え、
前記判定期間設定部は、前記判定期間マップを参照して前記判定期間を定める
ことを特徴とする請求項2記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記記憶部は、前記スイッチング素子に応じた複数の判定期間マップを有する
ことを特徴とする請求項3記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記トルク制御部は、前記ストールが発生している状態が前記判定期間を超えた場合に、前記トルクの上限値を経時的に目標値まで低下させることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記トルク制御部は、前記トルクの上限値を制限しない状態における最大定格トルクから前記トルクの上限値を経時的に目標値まで低下させることを特徴とする請求項5記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記トルク制御部は、前記スイッチング素子の温度測定値が予め設定された上限閾値を超えた場合に、前記モータのトルクの上限値を制限することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記スイッチング素子の温度測定値が予め設定された上限閾値を超えた場合のトルクの上限値は、前記ストールが発生している状態が前記判定期間を超えた場合のトルクの上限値よりも低いことを特徴とする請求項7記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記スイッチング素子は、炭化ケイ素で形成されたパワー半導体素子からなることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
バッテリとモータとの間で電力変換を行うと共にスイッチング素子を有する電力変換器と、
前記電力変換器を制御することで前記モータを制御する請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置と
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及び電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車等の走行用のモータを備える車両では、坂道での発進時や、段差の乗り越えをする場合に、モータが固定角でトルクを出し続ける状態いわゆるストールした状態となる。車両に搭載されたモータは、スイッチング素子を含む電力変換器を介して制御する。ストールが発生すると、電力変換器のスイッチング素子に大きな電流が流れ、スイッチング素子が昇温する。例えば、特許文献1には、スイッチング素子の温度を推定しつつ、スイッチング素子の温度が許容値を超えないようにトルク制限を行う過負荷防止装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スイッチング素子の温度を閾値と比較してトルク制限を行う場合には、実際にストールが発生しているか否かの判定が行われない。このため、実際のスイッチング素子の温度と温度測定値とが乖離するような場合には、トルク制限のタイミングが遅れる可能性がある。
【0005】
これに対して、モータの回転数と指令トルク値とに基づけば、ストールの発生を判定することができる。このため、モータの回転数と指令トルク値とに基づけば、ストールが発生しているか否かの判定に基づいてトルク制限を行うことも可能である。しかしながら、車両の通常運転においてもストールは発生しており、ストール発生後にすぐにスイッチング素子の温度が上限値を超えるわけでものない。このため、回転数とトルク指令値に基づいてストールが生じたことを判定し、ストール発生後すぐにトルク制限を行う制御では、スイッチング素子の温度に余裕があってもトルク制限がされてしまう。つまり、電力変換器の性能を過剰に抑制することになる。また、このようなトルク制限が繰り返されることで、乗員にトルク変動による違和感を与える可能性がある。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、スイッチング素子を備える電力変換器の性能を過剰に抑制することなく、ストールが発生したことに基づいてトルク制限を行うことを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、スイッチング素子を指令トルク値に基づいて制御することでモータを制御するモータ制御装置であって、上記モータの回転数と上記指令トルク値とに基づいてストールが発生しているか否かを判定するストール状態判定部と、上記ストールの発生開始からトルク制限を行うまでの判定期間を定める判定期間設定部と、上記ストールが発生している状態が上記判定期間を超えた場合に、上記モータのトルクの上限値を制限するトルク制御部とを備えるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モータの回転数と指令トルク値とに基づいてストールが発生しているか否かを判定する。このため、ストールが発生したことに基づいてトルク制限を行うことができる。また、本発明によれば、ストールの発生からトルク制限を行うまでの判定期間が定められ、ストールが発生している状態が判定期間中に継続した場合にモータのトルクの上限値を制限する。このため、スイッチング素子を備える電力変換器の性能を過剰に抑制することを防止できる。したがって、本発明によれば、スイッチング素子を備える電力変換器の性能を過剰に抑制することなく、ストールが発生したことに基づいてトルク制限を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態におけるモータ制御装置及び電力変換装置を備える車両システムの概略構成を示す回路図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるモータ制御装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】制限時最大定格トルクの変化の様子を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態におけるモータ制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態におけるモータ制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図7】車両が停車している状態から加速する場合において本発明の一実施形態におけるモータ制御装置を用いて制御を行う場合のモータ回転数、トルク、ストール検知カウンタ及び最大定格トルク制限状態の関係を示すタイミングチャートである。
【
図8】
図7との比較において、温度測定値応じて、判定期間と最大定格トルクとがどのように変化するかを示すタイミングチャートである。
【
図9】車両が登り坂道や段差に進入した場合において本発明の一実施形態におけるモータ制御装置を用いて制御を行う場合のモータ回転数、トルク、ストール検知カウンタ及び最大定格トルク制限状態の関係を示すタイミングチャートである。
【
図10】
図9との比較において、何らかの原因にてスイッチング素子の冷却機構が故障し、温度測定値が上昇を続ける状態にて、最大定格トルクがどのように変化するかを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明に係るモータ制御装置及び電力変換装置の一実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本実施形態のモータ制御装置及び電力変換装置を備える車両システム1の概略構成を示す回路図である。車両システム1は、電気自動車やハイブリッド自動車等の走行用のモータを備える車両に設けられる。
図1に示すように、車両システム1は、バッテリユニット2と、ドライブユニット3とを備えている。
【0012】
バッテリユニット2は、バッテリ2aと、コンタクタ2bとを備えており、ドライブユニット3に接続されている。バッテリ2aは、ドライブユニット3が備える後述の電力変換器10の一次側入出力端子(電池用端子)に接続されている。バッテリ2aは、プラス電極がコンタクタ2bを介して後述する昇降圧コンバータ10aの一次側入出力端子の一方に接続され、マイナス電極がコンタクタ2bを介して昇降圧コンバータ10aの一次側入出力端子の他方に接続されている。このバッテリ2aは、リチウムイオン電池等の二次電池であり、例えば数百ボルト程度の比較的高圧な直流電力(バッテリ電力)を昇降圧コンバータ10aに給電(放電)する。なお、本実施形態においては、昇降圧コンバータ10aを備える構成を一例として説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。昇降圧コンバータ10aを備えない構成を採用することも可能である。
【0013】
コンタクタ2bは、バッテリ2aとドライブユニット3との間に配置される開閉器であり、例えば不図示のバッテリECU(Electronic Control Unit)によって開閉動作が制御される。
図1に示すように、本実施形態ではコンタクタ2bは2つ設けられている。一方のコンタクタ2bは、一対の入出力端子の一方がバッテリ2aのプラス電極に接続され、一対の入出力端子の他方が昇降圧コンバータ10aの一次側入出力端子の一方に接続されている。また、他方のコンタクタ2bは、一対の入出力端子の一方がバッテリ2aのマイナス電極に接続され、一対の入力端子の他方が昇降圧コンバータ10aの一次側入出力端子の他方に接続されている。このようなコンタクタ2bは、バッテリ電力の昇降圧コンバータ10aの一次側入出力端子への供給(ON)/非供給(OFF)を設定する。
【0014】
ドライブユニット3は、走行用のモータ4と、電力変換装置5とを備えている。モータ4は、電力変換装置5から供給される電力によって駆動される回転電機であり、出力軸が所定の連結機を介して電動車両の駆動輪に接続されている。このモータ4は、U相巻線、V相巻線及びW相巻線からなる三相電動機であり、後述するインバータ10cから入力される三相駆動電流(U相駆動電流、V相駆動電流及びW相駆動電流)によって回転動力を発生させる。
【0015】
また、モータ4は、電動車両が制動操作された際に逆起電力(三相駆動電力)を発生させ、インバータ10cに出力する。この逆起電力は、インバータ10cから昇降圧コンバータ10aに回生電力として供給され、昇降圧コンバータ10aによってバッテリ電圧に降圧した後にコンタクタ2bを介してバッテリ2aに充電される。
【0016】
電力変換装置5は、バッテリ2aからのバッテリ電力を交流電力に変換してモータ4に供給する。この電力変換装置5は、電力変換器10と、電圧センサ11と、温度センサ12と、電流センサ13と、回転角センサ14と、モータ制御装置15とを備えている。
【0017】
電力変換器10は、昇降圧コンバータ10aと、平滑コンデンサ10bと、インバータ10cとを備えている。昇降圧コンバータ10aは、一対の一次側入出力端子と一対の二次側入出力端子とを備え、一次側入出力端子のバッテリ電力を昇圧して二次側入出力端子に出力する昇圧処理と、二次側入出力端子の回生電力を降圧して一次側入出力端子に出力する降圧処理とを択一的に行う。この昇降圧コンバータ10aは、例えば磁気結合型の多相コンバータ(磁気結合インターリーブ型チョッパ回路とも呼ばれる)であり、動作位相が異なる2つのチョッパ回路が並列接続されたものである。なお、上述のように昇降圧コンバータ10aを備えなくてもよい。
【0018】
昇圧処理は、モータ制御装置15から入力される昇圧ゲート信号に基づいてコンタクタ2bを介してバッテリ2aから入力されるバッテリ電圧を所望の昇圧比で昇圧して昇降圧コンバータ10aの二次側入出力端子に出力する処理である。一方、降圧処理は、同じくモータ制御装置15から入力される降圧ゲート信号に基づいてインバータ10cから入力される回生電圧を所望の降圧比で降圧してバッテリ2aに出力する処理である。
【0019】
平滑コンデンサ10bは、昇降圧コンバータ10aとインバータ10cとの間に設けられている。平滑コンデンサ10bは、一端が昇降圧コンバータ10aの二次側入出力端子の一方に接続され、他端が昇降圧コンバータ10aの二次側入出力端子の他方に接続されている。
【0020】
このような平滑コンデンサ10bは、昇降圧コンバータ10aの二次側入出力端子から出力された昇圧電圧のリップルを平滑化する。また、この平滑コンデンサ10bは、昇降圧コンバータ10aの二次側入出力端子から出力される力行電力やインバータ10cから入力される回生電力によって、一端が他端に比較して高電位となるように電荷を充電あるいは電荷を放電する。
【0021】
インバータ10cは、一対の一次側入出力端子と3つの二次側入出力端子(U相モータ端子、V相モータ端子及びW相モータ端子)とを備え、一次側入出力端子の入力電力を三相交流電力に変換して二次側入出力端子に出力する力行処理と、二次側入出力端子の逆起電力(三相交流電力)を直流電力に変換し回生電力として一次側入出力端子に出力する回生処理とを択一的に行う。
【0022】
インバータ10cは、一対の一次側入出力端子の一方が昇降圧コンバータ10aにおける二次側入出力端子の一方に接続され、一対の一次側入出力端子の他方が昇降圧コンバータ10aにおける二次側入出力端子の他方に接続されている。また、インバータ10cは、U相モータ端子がモータ4のU相巻線に接続され、V相モータ端子がモータ4のV相巻線に接続され、またW相モータ端子がモータ4のW相巻線に接続されている。
【0023】
このようなインバータ10cは、U相モータ端子からU相巻線にU相駆動電流を供給し、V相モータ端子からV相巻線にV相駆動電流を供給し、またW相モータ端子からV相巻線にV相駆動電流を供給する。つまり、インバータ10cは、U相駆動電流、V相駆動電流及びW相駆動電流を用いてモータ4を回転駆動する。
【0024】
図1に示すように、インバータ10cは、6つのスイッチング素子(第1スイッチング素子21、第2スイッチング素子22、第3スイッチング素子23、第4スイッチング素子24、第5スイッチング素子25、及び第6スイッチング素子26)を備えている。これらのスイッチング素子の各々は、例えば、SiC-MOSFETを用いることができる。つまり、炭化ケイ素で形成されたパワー半導体素子からなるスイッチング素子を用いることができる。ただし、スイッチング素子は、SiC-MOSFETに限られるものではなく、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)であってもよい。なお、本実施形態では、各々のスイッチング素子がSiC-MOSFETである例について説明する。
【0025】
第1スイッチング素子21及び第2スイッチング素子22は、U相駆動用スイッチングレグを構成する半導体スイッチング素子である。また、第3スイッチング素子23及び第4スイッチング素子24は、V相駆動用スイッチングレグを構成する半導体スイッチング素子である。さらに、第5スイッチング素子25及び第6スイッチング素子26は、W相駆動用スイッチングレグを構成する半導体スイッチング素子である。
【0026】
第1スイッチング素子21及び第2スイッチング素子22のうち、第1スイッチング素子21は、ドレイン端子が第3スイッチング素子23のドレイン端子及び第5スイッチング素子25のドレイン端子に接続されている。また、第1スイッチング素子21は、ソース端子が第2スイッチング素子22のドレイン端子及びモータ4のU相巻線に接続されている。
【0027】
また、第1スイッチング素子21は、ゲート端子がモータ制御装置15に接続されている。このような第1スイッチング素子21は、モータ制御装置15から入力されるゲート信号に基づいてON/OFF動作が制御される。
【0028】
第1スイッチング素子21及び第2スイッチング素子22のうち、第2スイッチング素子22は、ドレイン端子が第1スイッチング素子21のソース端子及びモータ4のU相巻線に接続されている。また、第2スイッチング素子22は、ソース端子が第4スイッチング素子24のソース端子及び第6スイッチング素子26のソース端子に接続されている。
【0029】
また、第2スイッチング素子22は、ゲート端子がモータ制御装置15に接続されている。このような第2スイッチング素子22は、モータ制御装置15から入力されるゲート信号に基づいてON/OFF動作が制御される。
【0030】
第3スイッチング素子23及び第4スイッチング素子24のうち、第3スイッチング素子23は、ドレイン端子が第1スイッチング素子21のドレイン端子及び第5スイッチング素子25のドレイン端子に接続されている。また、第3スイッチング素子23は、ソース端子が第4スイッチング素子24のドレイン端子及びモータ4のV相巻線に接続されている。
【0031】
また、第3スイッチング素子23は、ゲート端子がモータ制御装置15に接続されている。このような第3スイッチング素子23は、モータ制御装置15から入力されるゲート信号に基づいてON/OFF動作が制御される。
【0032】
第3スイッチング素子23及び第4スイッチング素子24のうち、第4スイッチング素子24は、ドレイン端子が第3スイッチング素子23のソース端子及びモータ4のV相巻線に接続されている。また、第4スイッチング素子24は、ソース端子が第2スイッチング素子22のソース端子及び第6スイッチング素子26のソース端子に接続されている。
【0033】
また、この第4スイッチング素子24は、ゲート端子がモータ制御装置15に接続されている。このような第4スイッチング素子24は、モータ制御装置15から入力されるゲート信号に基づいてON/OFF動作が制御される。
【0034】
第5スイッチング素子25及び第6スイッチング素子26のうち、第5スイッチング素子25は、ドレイン端子が第1スイッチング素子21のドレイン端子及び第3スイッチング素子23のドレイン端子に接続されている。また、第5スイッチング素子25は、ソース端子が第6スイッチング素子26のドレイン端子及びモータ4のW相巻線に接続されている。
【0035】
また、この第5スイッチング素子25は、ゲート端子がモータ制御装置15に接続されている。このような第5スイッチング素子25は、モータ制御装置15から入力されるゲート信号に基づいてON/OFF動作が制御される。
【0036】
第5スイッチング素子25及び第6スイッチング素子26のうち、第6スイッチング素子26は、ドレイン端子が第5スイッチング素子25のソース端子及びモータ4のW相巻線に接続されている。また、第6スイッチング素子26は、ソース端子が第2スイッチング素子22のソース端子及び第4スイッチング素子24のソース端子に接続されている。
【0037】
また、この第6スイッチング素子26は、ゲート端子がモータ制御装置15に接続されている。このような第6スイッチング素子26は、モータ制御装置15から入力されるゲート信号に基づいてON/OFF動作が制御される。
【0038】
このようなインバータ10cにおいて、相互に共通接続されたU相駆動用スイッチングレグ、V相駆動用スイッチングレグ及びW相駆動用スイッチングレグの両端は、インバータ10cの一次側入出力端子である。また、U相駆動用スイッチングレグ、V相駆動用スイッチングレグ及びW相駆動用スイッチングレグにおける3つの中点は、インバータ10cの二次側入出力端子である。
【0039】
すなわち、第1スイッチング素子21のソース端子と第2スイッチング素子22のドレイン端子との接続点、第3スイッチング素子23のソース端子と第4スイッチング素子24のドレイン端子との接続点、また第5スイッチング素子25のソース端子と第6スイッチング素子26のドレイン端子との接続点は、上記中点であり、インバータ10cの二次側入出力端子である。
【0040】
また、インバータ10cの一次側入出力端子の一方つまり第1スイッチング素子21のドレイン端子、第3スイッチング素子23のドレイン端子及び第5スイッチング素子25のドレイン端子は、昇降圧コンバータ10aにおける二次側入出力端子の一方に接続されている。
【0041】
さらに、インバータ10cの一次側入出力端子の他方つまり第2スイッチング素子22のソース端子、第4スイッチング素子24のソース端子及び第6スイッチング素子26のソース端子は、昇降圧コンバータ10aにおける二次側入出力端子の他方に接続されている。
【0042】
電圧センサ11は、昇降圧コンバータ10aの二次側入出力端子の一方と他方とに接続されている。昇降圧コンバータ10aからインバータ10cに供給される電力あるいはインバータ10cから昇降圧コンバータ10aに供給される電力の電圧を検出する。電圧センサ11は、検出した電圧を示すDC電圧値をモータ制御装置15に向けて出力する。
【0043】
温度センサ12は、各々のスイッチング素子(第1スイッチング素子21、第2スイッチング素子22、第3スイッチング素子23、第4スイッチング素子24、第5スイッチング素子25、及び第6スイッチング素子26)に対して設けられている。
【0044】
各々の温度センサ12は、スイッチング素子の温度を検出し、その結果を示す温度測定値を出力する。つまり、第1スイッチング素子21に対して設けられた温度センサ12は、第1スイッチング素子21の温度を示す温度測定値を出力する。第2スイッチング素子22に対して設けられた温度センサ12は、第2スイッチング素子22の温度を示す温度測定値を出力する。第3スイッチング素子23に対して設けられた温度センサ12は、第3スイッチング素子23の温度を示す温度測定値を出力する。第4スイッチング素子24に対して設けられた温度センサ12は、第4スイッチング素子24の温度を示す温度測定値を出力する。第5スイッチング素子25に対して設けられた温度センサ12は、第5スイッチング素子25の温度を示す温度測定値を出力する。第6スイッチング素子26に対して設けられた温度センサ12は、第6スイッチング素子26の温度を示す温度測定値を出力する。
【0045】
なお、温度センサ12は、各々のスイッチング素子に対して設けられなくてもよい。例えば、同一の駆動用スイッチングレグを構成するスイッチング素子が同一基板に設けられる場合には、これらのスイッチング素子に対して1つの温度センサ12を設けるようにしてもよい。
【0046】
例えば、U相駆動用スイッチングレグを構成する第1スイッチング素子21及び第2スイッチング素子22に対して1つの温度センサ12を設けてもよい。この場合、この温度センサ12は、第1スイッチング素子21と第2スイッチング素子22の温度を示す温度測定値を出力する。また、例えば、V相駆動用スイッチングレグを構成する第3スイッチング素子23及び第4スイッチング素子24に対して1つの温度センサ12を設けてもよい。この場合、この温度センサ12は、第3スイッチング素子23と第4スイッチング素子24の温度を示す温度測定値を出力する。例えば、W相駆動用スイッチングレグを構成する第5スイッチング素子25及び第6スイッチング素子26に対して1つの温度センサ12を設けてもよい。この場合、この温度センサ12は、第5スイッチング素子25と第6スイッチング素子26の温度を示す温度測定値を出力する。
【0047】
電流センサ13は、三相(U、V、W)の相電流ごとに設けられている。各々の電流センサ13は、相電流を検出する。つまり、U相巻線に流れる相電流値を出力する電流センサ13と、V相巻線に流れる相電流値を出力する電流センサ13と、W相巻線に流れる相電流値を出力する電流センサ13とが設けられている。
【0048】
電流センサ13は、インバータ10cとモータ4との間に設けられてもよいし、インバータ10cの内部に設けられてもよい。電流センサ13は、各相の相電流を検出する構成であれば特に限定されないが、例えば、トランスを備えたカレントトランス(CT)やホール素子を備えた電流センサを用いることができる。また、電流センサ13は、シャント抵抗を備え、シャント抵抗の両端の電圧から相電流を検出してもよい。
【0049】
回転角センサ14は、モータ4の回転角を検出する。回転角センサ14は、ホールIC等のホール素子、および磁気抵抗素子等である。回転角センサ14は、検出した回転角を示す回転角度値をモータ制御装置15に向けて出力する。
【0050】
モータ制御装置15は、各々のスイッチング素子を指令トルク値に基づいて制御することでモータ4を制御する。モータ制御装置15は、トルク指令値に基づいてインバータ10cのスイッチング素子をPWM(Pulse Width Modulation)制御するインバータ制御を行う。モータ制御装置15は、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)などのプロセッサ及び不揮発性または揮発性の半導体メモリ(例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory))を備えてもよい。例えば、モータ制御装置15は、MCUなどのマイクロコントローラを有してもよい。また、モータ制御装置15は、昇降圧コンバータ10a及びインバータ10cの各ドライバ回路を有してもよい。
【0051】
モータ制御装置15は、上述した電圧センサ11の検出値(DC電圧値)、温度センサ12の検出値(温度測定値)、電流センサ13の検出値(相電流値)、回転角センサ14の検出値(回転角度値)、不図示の上位制御装置から入力される制御指令(指令トルク値等)及び予め記憶された制御プログラムに基づいてインバータ10cを制御する。
【0052】
モータ制御装置15は、ソフトウエア資源とハードウエア資源と協働によって構成される複数の機能構成要素を備える。
図2は、モータ制御装置15の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2に示すように、本実施形態のモータ制御装置15は、モータ回転数算出部31と、ストール状態判定部32と、判定期間設定部33と、トルク制御部34と、モータ制御部35と、記憶部36とを備える。
【0053】
モータ回転数算出部31は、回転角センサ14から入力される回転角度値に基づいてモータ4の回転数(以下、モータ回転数と称する)を算出する。ストール状態判定部32は、モータ回転数と指令トルク値とに基づいて、ストールが発生しているか否かを判定する。ストール状態判定部32は、モータ回転数が記憶部36に記憶されたストール判定用回転数閾値より低くなり、かつ、指令トルク値が記憶部36に記憶されたストール判定用トルク閾値以上となった場合に、ストールが発生していると判定する。
【0054】
ストール判定用回転数閾値及びストール判定用トルク閾値は、ストールが発生しているか否かの判定を行うための閾値であり、予め実験やシミュレーションによって設定されている。ストール判定用回転数閾値及びストール判定用トルク閾値は、モータ回転数がストール判定用回転数閾値より低くなり、かつ、指令トルク値がストール判定用トルク閾値以上となった場合に、実際にストールが発生していることを条件に各々設定されている。
【0055】
なお、ストールが発生しているとは、モータ4においてステータ側の回転磁界にロータが追従できなくなり、スイッチング素子に直流電流が流れることでスイッチング素子が加熱される状態が発生していることを示す。このようなストールが発生している状態では、一定の指令トルク値が入力されているにも関わらず、モータ4がロックして回転数が0となるか、モータ4の回転数が指令トルク値に対して極端に低くなる。つまり、ストールは、車両が停止している状態あるいは極低速である場合に発生する。
【0056】
ストール状態判定部32は、ストール判定用回転数閾値及びストール判定用トルク閾値に基づいてストールが発生していると判定した場合には、ストール判定フラグを0から1に変更する。一方、ストール状態判定部32は、ストールが発生している状態から復帰した場合には、ストール判定フラグを1から0に変更する。ストール状態判定部32は、モータ回転数が記憶部36に記憶されたストール判定用回転数復帰閾値以上となるか、指令トルク値が記憶部36に記憶されたストール判定用トルク解除値より小さくなった場合に、ストールが発生している状態から復帰したと判定する。このようなストール状態判定部32における判定結果は、判定期間設定部33及びトルク制御部34に入力される。
【0057】
なお、ストール判定用回転数復帰閾値及びストール判定用トルク解除値は、ストールが発生している状態から復帰した否かの判定を行うための閾値である。ストール判定用回転数復帰閾値は、ストール判定用回転数閾値よりも高く設定されている。また、ストール判定用トルク解除値は、ストール判定用トルク閾値よりも低く設定されている。このようにストール判定用回転数復帰閾値及びストール判定用トルク解除値を設定することで、ストール判定用回転数閾値の近傍で回転数が変動している場合や、ストール判定用トルク閾値の近傍で指令トルク値が変動している場合に、ストール状態とストール復帰状態との間で状態変移が繰り返されることを防止できる。
【0058】
判定期間設定部33は、ストールの発生開始からトルク制限を行うまでの判定期間を定める。ここで言うトルク制限とは、実トルクを制限する場合に限られるものではなく、最大定格トルクを低減させることも含む。本実施形態のモータ制御装置15では、ストールが発生したと判定された場合であっても、すぐにモータ4のトルクを通常状態に対して制限することはせず、待機期間を設ける。判定期間設定部33は、この待機期間である判定期間を設定する。
【0059】
判定期間設定部33で設定される判定期間は、スイッチング素子の温度が許容温度を超えないことを条件として任意に定めることができる。例えば、現在のスイッチング素子の温度と許容温度の差分に基づいて、判定期間を求めることができる。このため、本実施形態においては、判定期間設定部33は、各々の温度センサ12から入力される温度測定値に基づいて、判定期間を設定する。判定期間設定部33で設定された判定期間は、トルク制御部34に入力される。本実施形態においては、判定期間設定部33は、記憶部36に記憶された判定期間マップMを参照して判定期間を定める。
【0060】
図3は、判定期間マップMの概念を示すグラフである。
図3に示すように、判定期間マップMは、温度測定値と、判定期間との関係を示すマップである。例えば、判定期間マップMは、スイッチング素子ごと(第1スイッチング素子21、第2スイッチング素子22、第3スイッチング素子23、第4スイッチング素子24、第5スイッチング素子25、及び第6スイッチング素子26ごと)に、設けられている。このように、スイッチング素子に応じた複数の判定期間マップMが記憶部36に記憶されることで、各々のスイッチング素子に応じて判定期間を適切に設定することができる。ストール発生時における各々のスイッチング素子の昇温時間は、スイッチング素子自体の特性の個体差や、スイッチング素子の配置環境(周囲の部材の熱容量等)によって異なる。このため、スイッチング素子に応じた複数の判定期間マップMが記憶部36に記憶されるとよい。なお、判定期間マップMは、スイッチング素子の最大温度に応じた1つのマップとしてもよい。
【0061】
また、例えば、SiC-MOSFETやIGBT等のスイッチング素子の種類ごとに判定期間マップMが設けられてもよい。記憶部36に、スイッチング素子の種類ごとに判定期間マップMを設けておくことで、インバータ10cに設置されるスイッチング素子の種類が設計変更等で変わった場合でも、判定期間を適切に設定することができる。このような場合には、判定期間設定部33は、スイッチング素子の種類において、複数の判定期間マップMから用いる判定期間マップMを選択する。
【0062】
図3に示すように、判定期間マップMでは、温度測定値が低くなるほど、判定時間が長くなる。スイッチング素子の現在の温度が低ければ、許容温度に到達するまでの時間が長くなる。このため、判定期間マップMでは、温度測定値が低くなるほど、判定時間を長くできる。
【0063】
トルク制御部34は、入力される指令トルク値に基づいて制御トルク値を生成する。制御トルク値は、モータ制御部35に入力される信号である。モータ制御部35では、制御トルク値に基づいてゲート信号が生成される。本実施形態において、トルク制御部34は、第1トルク制限部34aを備える。第1トルク制限部34aは、ストールが発生している状態が判定期間を超えた場合に、モータ4のトルクの上限値を制限するトルク制限処理を行う。トルク制御部34は、ストール状態判定部32から入力される判定結果に基づいて、ストールが発生している状態であるか否かを判断できる。トルク制御部34は、ストールが発生してからの経過時間が判定期間を超えた場合に、制御トルク値の上限(すなわちモータ4のトルクの上限値)を、ストールが発生していない状態の制御トルク値の上限よりも低くする。
【0064】
なお、以下の説明では、上限値が上述のように制限されている場合の制御トルクの上限値を制限時最大定格トルクと称する。また、上限値が制限されていない場合の制御トルクの上限値を通常時最大定格トルクと称する。つまり、本実施形態においてトルク制御部34は、ストールが発生してからの経過時間が判定期間を超えた場合に、通常時最大定格トルクよりも低く設定された制限時最大定格トルクを制御トルクの上限値とする。
【0065】
また、本実施形態においてトルク制御部34は、ストールが発生している状態が判定期間を超えた場合に、制限時最大定格トルクを経時的に目標値まで低下させる。ここで言う目標値とは、ストール発生時であってもスイッチング素子が許容温度以上に加熱されない値に設定されている。トルク制御部34は、トルクを制限する場合であっても、制限時最大定格トルクを急激に低下させずに、徐々に低下させる。
【0066】
図4は、制限時最大定格トルクの変化の様子を示すグラフである。
図4に示すように、トルク制御部34は、トルク制限処理を開始すると、制限時最大定格トルクを通常時最大定格トルクから経時的に目標値まで低下させる。なお、制限時最大定格トルクの単位時間あたりの変化量は、スイッチング素子の温度が許容温度を超えることがない範囲で車両の乗員が感じるトルク変動による違和感が抑制されるように予め設定されている。例えば、走行中における指令トルク値が通常時最大定格トルクよりも低い場合には、
図4に示すように、トルク制限処理が開始されてもすぐに制御トルク値が減少せずに、制御トルク値が制限時最大定格トルクとなるまで実トルクが維持される。
【0067】
制限時最大定格トルクの単位時間あたりの変化量がスイッチング素子の温度が許容温度を超えることがない範囲で定められているため、トルク制限処理の開始後に、制御トルク値が制限時最大定格トルクとなるまで実トルクが維持されてもスイッチング素子の温度が許容温度を超えることはない。したがって、上述のようにトルク制限処理の開始後に、制御トルク値が制限時最大定格トルクとなるまで実トルクが維持されることで、インバータ10cの性能を過剰に抑制することを防止できる。
【0068】
また、本実施形態においてトルク制御部34は、スイッチング素子の温度測定値が予め設定された上限閾値を超えた場合に、モータ4のトルクの上限値を制限する。トルク制御部34は、温度センサ12から入力される温度測定値が、記憶部36に記憶された上限閾値(以下、温度上限閾値と称する)を超えた場合に、モータ4のトルクの上限値を制限する。この温度上限値は、スイッチング素子の許容温度または許容温度より僅かに低く設定されており、スイッチング素子の冷却をすぐに要することを示す温度値である。
【0069】
トルク制御部34は、温度測定値が温度上限閾値を超えた場合の制限時最大定格トルクの目標値を、ストールが発生している状態が判定期間を超えた場合の制限時最大定格トルクの目標値よりも低く設定する。つまり、温度測定値が温度上限閾値を超えた場合のトルクの上限値は、ストールが発生している状態が判定期間を超えた場合のトルクの上限値よりも低い。
【0070】
例えば、単にストールが発生した場合においては、上述のように制限時最大定格トルクを設けることで、スイッチング素子の温度が許容温度を超えることを防ぐことができる。しかしながら、何らかの原因で不図示の冷却機構が故障する等で、スイッチング素子が冷却されていないような状態では、スイッチング素子の温度が許容温度を超える可能性がある。このような場合には、単にストールが発生した場合よりも強力にスイッチング素子の加熱を防止する必要がある。温度測定値が温度上限閾値を超えた場合のトルクの上限値が、ストールが発生している状態が判定期間を超えた場合のトルクの上限値よりも低いことで、より強力にスイッチング素子の加熱を防止することができる。また、スイッチング素子の温度に対し温度センサ12の応答により温度検出が遅れるような製品仕様においても、ストールが発生している状態が判定期間を超えた場合のトルクの制限により、温度上昇レートが低減される。このため、スイッチング素子が許容温度に到達する前に異常過熱であることを検出することができる。
【0071】
また、トルク制御部34は、第2トルク制限部34bを備える。第2トルク制限部34bは、既にトルク制限処理が行われているか否かに関係なく、温度測定値が温度上限閾値を超えた場合には、トルクの制限を行う。つまり、ストールが発生していない状態や、ストールの発生期間が判定期間を超えていない場合であっても、トルク制御部34は、温度測定値が温度上限閾値を超えた場合には、トルクの制限を行う。
【0072】
モータ制御部35は、指令トルク値及びモータ回転数に加え、電圧センサ11から入力されるDC電圧値及び電流センサ13から入力される回転角度値に基づいて、各々のスイッチング素子に入力するゲート信号を生成する。また、モータ制御部35は、トルク制御部34から制限トルク値が入力されると、指令トルク値が制限トルク値を上回っている場合に、制限トルク値に基づいてゲート信号を生成する。
【0073】
記憶部36は、プログラムやデータを記憶する。本実施形態において記憶部36は、上述の複数の判定期間マップMを記憶している。また、記憶部36は、ストール判定用回転数閾値、ストール判定用トルク閾値及び温度上限閾値を記憶する。また、記憶部36は、ストール判定用回転数復帰閾値及びストール判定用トルク解除値を記憶する。
【0074】
続いて、
図5及び
図6を参照して、モータ制御装置15の動作について説明する。
図5及び
図6は、モータ制御装置15の動作を説明するためのフローチャートである。
【0075】
モータ制御装置15は、モータ回転数がストール判定用回転数閾値よりも低いか否かの判定を行う(ステップS1)。ここでは、ストール状態判定部32がモータ回転数とストール判定用回転数閾値とを比較し、ストール状態判定部32によってモータ回転数がストール判定用回転数閾値よりも低いか否かの判定が行われる。
【0076】
ステップS1においてモータ回転数がストール判定用回転数閾値よりも低い場合には、モータ制御装置15は、指令トルク値がストール判定用トルク閾値以上であるか否かの判定を行う(ステップS2)。ここでは、ストール状態判定部32が指令トルク値とストール判定用トルク閾値とを比較し、ストール状態判定部32によって指令トルク値がストール判定用トルク閾値以上であるか否かの判定が行われる。
【0077】
一方で、ステップS1においてモータ回転数がストール判定用回転数閾値よりも低くない場合には、モータ制御装置15は、モータ回転数がストール判定用回転数復帰閾値以上であるか否かの判定を行う(ステップS3)。ここでは、ストール状態判定部32がモータ回転数とストール判定用回転数復帰閾値とを比較し、ストール状態判定部32によってモータ回転数がストール判定用回転数復帰閾値以上であるか否かの判定が行われる。
【0078】
ステップS3でモータ回転数がストール判定用回転数復帰閾値以上である場合には、モータ制御装置15は、ストール判定フラグを0に設定し(ステップS4)、ストール経過時間を0に設定し(ステップS5)、その後、後述のステップS13に移行する。ここでは、ストール状態判定部32がストール判定フラグを0に設定する。また、トルク制御部34がストール経過時間を0に設定する。なお、ストール経過時間とは、ストール状態判定部32によってストールが発生していると判定されてからの経過時間であり、トルク制御部34によってカウントされる。一方で、ステップS3でモータ回転数がストール判定用回転数復帰閾値以上でない場合には、モータ制御装置15は、後述のステップS13に移行する。
【0079】
ステップS2で指令トルク値がストール判定用トルク閾値以上であると判定された場合には、モータ制御装置15は、ストール判定フラグが0であるか否かの判定を行う(ステップS6)。ここでは、トルク制御部34によってストール判定フラグが0であるか否かの判定が行われる。
【0080】
一方で、ステップS2で指令トルク値がストール判定用トルク閾値以上でないと判定された場合には、モータ制御装置15は、指令トルク値がストール判定用トルク解除値よりも低いか否かの判定を行う(ステップS7)。ここでは、ストール状態判定部32が指令トルク値とストール判定用トルク解除値とを比較し、ストール状態判定部32によって指令トルク値がストール判定用トルク解除値よりも低いか否かの判定が行われる。
【0081】
ステップS7で指令トルク値がストール判定用トルク解除値よりも低い場合には、モータ制御装置15は、ストール判定フラグを0に設定し(ステップS8)、ストール経過時間を0に設定し(ステップS9)、その後、後述のステップS13に移行する。ここでは、ストール状態判定部32がストール判定フラグを0に設定する。また、トルク制御部34がストール経過時間を0に設定する。
【0082】
ステップS6でストール判定フラグが0であると判定された場合には、モータ制御装置15は、判定期間を設定する(ステップS10)。ここでは、判定期間設定部33が、温度測定値及び判定期間マップMに基づいて、判定期間を設定する。なお、判定期間設定部33は、例えば、スイッチング素子の各々に対して判定期間を設定する。
【0083】
ステップS10で判定期間が設定されると、モータ制御装置15は、ストール経過時間のカウントを開始する(ステップS11)。ここでは、トルク制御部34が、ストール経過時間のカウントを開始する。なお、ステップS6でストール判定フラグが0でないと判定された場合には、モータ制御装置15は、ステップS11に移行する。
【0084】
さらに、ステップS11でストール経過時間のカウントが開始されると、モータ制御装置15は、ストール判定フラグを1に設定する(ステップS12)。ここでは、ストール状態判定部32がストール判定フラグを1に設定する。つまり、ストール状態判定部32は、ストール判定用回転数閾値及びストール判定用トルク閾値に基づいてストールが発生していると判定した場合には、ストール判定フラグを0から1に変更する。なお、ステップS11とステップS12との順序は反対であってもよい。
【0085】
ステップS12でストール判定フラグが1に設定された後、モータ制御装置15は、ストール判定フラグが1であるか否かの判定を行う(ステップS13)。ここでは、トルク制御部34によってストール判定フラグが1であるか否かの判定が行われる。なお、ステップS12に続いてステップS13を行うのは、上述のステップS3やステップS7の処理を経由した場合に、ストール判定フラグが1であるか否かの判定を行う必要があるためである。
【0086】
ステップS13でストール判定フラグが1である場合には、モータ制御装置15は、ストール経過時間が判定期間以上であるか否かの判定を行う(ステップS14)。ここでは、トルク制御部34によってストール経過時間がステップS10で設定された判定期間以上であるか否かの判定が行われる。例えば、トルク制御部34は、各々のスイッチング素子に対して、ストール経過時間がステップS10で設定された判定期間以上であるか否かの判定を行う。また、ステップS13でストール判定フラグが1でないと判定された場合には、モータ制御装置15は、後述のステップS17に移行する。
【0087】
ステップS14でストール経過時間が判定期間以上であると判定された場合には、モータ制御装置15は、制限時最大定格トルクを求める(ステップS15)。ここでは、トルク制御部34によって制限時最大定格トルクが求められる。なお、トルク制御部34は、目標値を設定し、制限時最大定格トルクが目標値に至るまでは、経過時間が長いほど制限時最大定格トルクを小さく設定する。また、モータ制御装置15は、例えば、ステップS14において、ストール経過時間がいずれかの判定期間以上となった場合にステップS15に移行する。
【0088】
続いて、モータ制御装置15は、ステップS14で設定された制限時最大定格トルクに基づいて、制御トルク値を算出する(ステップS16)。ここでは、トルク制御部34によって制御トルク値が算出される。なお、ステップS14でストール経過時間が判定期間以上でないと判定された場合にも、モータ制御装置15は、ステップS17に移行する。例えば、トルク制御部34は、ステップS15で制限時最大定格トルクが求められており、指令トルク値が制限時最大定格トルクを上回る場合には、制限時最大定格トルクを制御トルク値とする。また、トルク制御部34は、指令トルク値が制限時最大定格トルク以下である場合には、指令トルク値を制御トルク値とする。一方、ステップS15で制限時最大定格トルクが求められていない場合には、指令トルク値を制御トルク値とする。
【0089】
ステップS16で制御トルク値が算出されると、モータ制御装置15は、温度測定値が温度上限閾値を超えているか否かを判定する(ステップS17)。ここでは、トルク制御部34によって温度測定値が温度上限閾値を超えているか否かが判定される。
【0090】
ステップS17で温度測定値が温度上限閾値を超えている場合には、モータ制御装置15は、制限時最大定格トルクを求める(ステップS18)。ここでは、トルク制御部34によって制限時最大定格トルクが求められる。なお、トルク制御部34は、ステップS18で設定する目標値をステップS15で設定する目標値よりも低くする。また、モータ制御装置15は、例えば、ステップS17において、いずれかの温度測定値が温度上限閾値を超えている場合にステップS18に移行する。
【0091】
続いて、モータ制御装置15は、改めて制御トルク値を算出する(ステップS19)。ここでは、トルク制御部34によって制御トルク値が算出される。例えば、トルク制御部34は、指令トルク値が制限時最大定格トルクを上回る場合には、制限時最大定格トルクを制御トルク値とする。また、トルク制御部34は、指令トルク値が制限時最大定格トルク以下である場合には、指令トルク値を制御トルク値とする。
【0092】
ステップS19で制御トルク値が算出された場合、あるいは、ステップS17で温度測定値が温度上限閾値を超えていない場合には、モータ制御装置15は、制御トルク値に基づいてモータ4の制御を行う(ステップS20)。ここでは、モータ制御部35が制御トルク値等に基づいてゲート信号を生成し、スイッチング素子にゲート信号を入力することでモータ4を制御する。モータ制御装置15は、ステップS20が完了すると、再びステップS1に戻る。
【0093】
図7は、車両が停車している状態から加速する場合においてモータ制御装置15を用いて制御を行う場合のモータ回転数、トルク、ストール検知カウンタ及び最大定格トルク制限状態の関係を示すタイミングチャートである。なお、ストール検知カウンタは、ストール経過時間を示すカウント値であり、カウント値が判定期間に到達すると停止する。また、最大定格トルク制限状態は、上述の制限時最大定格トルクが設定されている状態か設定されていない状態かを示す。最大定格トルク制限状態がON状態であれば制限時最大定格トルクが設定されている状態であり、最大定格トルク制限状態がOFF状態であれば制限時最大定格トルクが設定されていない状態を示す。
【0094】
図7に示すように、車両が停車した状態で指令トルク値がストール判定用トルク閾値を下回っている場合には、最大定格トルクは高い状態(通常時最大定格トルク)となる。その後、指令トルク値が上昇しストール判定用トルク閾値以上となると実トルクも指令トルク値に応じて上昇する。ただし、車両が動き出すために時間を要するためモータ回転数は上昇しない。この状態は、指令トルク値がストール判定用トルク閾値以上であり、かつ、モータ回転数がストール判定用回転数閾値よりも低いため、ストールが発生した状態である。このため、ストール検知カウンタの増加が開始される。ただし、ストール発生から判定期間を経過していないため、最大定格トルク制限状態がOFF状態のままとなり、最大定格トルクは通常時最大定格トルクのままである。つまり、本実施形態では、ストールが発生してもすぐに最大定格トルク制限状態がON状態とならず、インバータ10cの性能を制限しない。
【0095】
ストール検知カウンタの増加が判定期間を経過するまで継続されると、最大定格トルク制限状態がON状態となり、最大定格トルクが制限された状態(制限時最大定格トルク)となる。最大定格トルクが制限時最大定格トルクとなると、制限時最大定格トルクは、通常時最大定格トルクから経時的に目標値(
図7においてはストール判定用閾値)まで低下する。
【0096】
図7に示すように、制限時最大定格トルクが低下しても、指令トルク値が制限時最大定格トルク以下である場合には、実トルクは、指令トルク値となる。一方で、指令トルク値が制限時最大定格トルクよりも高くなった場合には、実トルクは、制限時最大定格トルクとなる。つまり、本実施形態では、最大定格トルク制限状態がON状態となっても、指令トルク値が制限時最大定格トルクよりも高くなるまでは、インバータ10cの性能を制限しない。
【0097】
その後、車両が動き始めるとモータ回転数が上昇する。モータ回転数がストール判定用回転数復帰閾値以上となると、最大定格トルク制限状態がOFF状態となり、ストール検知カウンタが0となる。つまり、モータ回転数がストール判定用回転数復帰閾値以上となると、通常の状態に復帰する。この結果、最大定格トルクが通常時最大定格トルクに戻ることになる。
【0098】
図8は、
図7との比較において、スイッチング素子の温度(温度測定値)に応じて、判定期間と最大定格トルクとがどのように変化するかを示すタイミングチャートである。
【0099】
温度測定値が低い場合には、
図8に示すように、判定期間が長くなる。このため、ストールが発生してから最大定格トルク制限状態がON状態となるまでの時間が長くなる。この結果、最大定格トルクが制限時最大定格トルクとなり低下を始めるタイミングも遅くなる。したがって、温度測定値が低い場合には、インバータ10cの性能が制限されることをさらに抑制することができる。
【0100】
図9は、車両が登り坂道や段差に進入した場合においてモータ制御装置15を用いて制御を行う場合のモータ回転数、トルク、ストール検知カウンタ及び最大定格トルク制限状態の関係を示すタイミングチャートである。
【0101】
図9に示すように、走行している車両においては、指令トルク値が高く、指令トルク値がストール判定用トルク閾値以上の状態である。ただし、走行している車両においては、モータ回転数が高く、モータ回転数がストール判定用回転数閾値以上である。このため、ストールは発生しておらず、最大定格トルクは通常時最大定格トルクである。
【0102】
このような車両が登り坂道や段差に進入すると、モータ回転数が低下する。モータ回転数がストール判定用回転数閾値を下回ると、指令トルク値がストール判定用トルク閾値以上であり、かつ、モータ回転数がストール判定用回転数閾値よりも低い状態となる。つまり、ストールが発生した状態となる。このため、ストール検知カウンタの増加が開始される。ただし、ストール発生から判定期間を経過していないため、最大定格トルク制限状態がOFF状態のままとなり、最大定格トルクは通常時最大定格トルクのままである。つまり、本実施形態では、ストールが発生してもすぐに最大定格トルク制限状態がON状態とならず、インバータ10cの性能を制限しない。
【0103】
ストール検知カウンタの増加が判定期間を経過するまで継続されると、最大定格トルク制限状態がON状態となり、最大定格トルクが制限された状態(制限時最大定格トルク)となる。最大定格トルクが制限時最大定格トルクとなると、制限時最大定格トルクは、通常時最大定格トルクから経時的に目標値(
図9においてはストール判定用閾値)まで低下する。
【0104】
図9に示すように、制限時最大定格トルクが低下しても、指令トルク値が制限時最大定格トルク以下である場合には、実トルクは、指令トルク値となる。一方で、指令トルク値が制限時最大定格トルクよりも高くなった場合には、実トルクは、制限時最大定格トルクとなる。つまり、本実施形態では、最大定格トルク制限状態がON状態となっても、指令トルク値が制限時最大定格トルクよりも高くなるまでは、インバータ10cの性能を制限しない。
【0105】
その後、指令トルク値がストール判定用トルク解除値を下回ると、最大定格トルク制限状態がOFF状態となり、ストール検知カウンタが0となる。つまり、モータ回転数がストール判定用回転数復帰閾値以上となると、通常の状態に復帰する。この結果、最大定格トルクが通常時最大定格トルクに戻ることになる。
【0106】
図10は、
図9との比較において、何らかの原因にてスイッチング素子の冷却機構が故障し、スイッチング素子の温度(温度測定値)が上昇を続ける状態にて、最大定格トルクがどのように変化するかを示すタイミングチャートである。
【0107】
図10に示すように、温度測定値が上昇を続け、温度上昇閾値を超えると、制限時最大定格トルクの目標値がさらに下がる。この結果、指令トルク値が変化しない場合であっても、制限時最大定格トルク及び実トルクが低下する。したがって、スイッチング素子に流れる電流がさらに抑制され、スイッチング素子の温度を低下させることができる。
【0108】
なお、
図10に示すように、指令トルク値がストール判定用トルク解除値を下回ると、ストール検知カウンタが0に戻る。しかしながら、例えば、温度測定値が温度上昇閾値を超えている場合には、最大定格トルクの低下が継続される。つまり、温度測定値が温度上昇閾値を一度でも超えた場合には、ストールの発生状態や温度測定値に関わらず、温度測定値が温度上昇閾値を超えた場合の制限時最大定格トルクの目標値まで、最大定格トルクが低下するようにしてもよい。
【0109】
以上のような本実施形態のモータ制御装置15は、スイッチング素子を指令トルク値に基づいて制御することでモータ4を制御する。モータ制御装置15は、ストール状態判定部32と、判定期間設定部33と、トルク制御部34とを備える。ストール状態判定部32は、モータ回転数と指令トルク値とに基づいてストールが発生しているか否かを判定する。判定期間設定部33は、ストールの発生開始からトルク制限を行うまでの判定期間を定める。トルク制御部34は、ストールが発生している状態が判定期間を超えた場合に、モータ4の最大定格トルクの上限値を制限する。
【0110】
本実施形態のモータ制御装置15によれば、モータ回転数と指令トルク値とに基づいてストールが発生しているか否かを判定する。このため、ストールが発生したことに基づいてトルク制限を行うことができる。また、本実施形態のモータ制御装置15によれば、ストールの発生からトルク制限を行うまでの判定期間が定められ、ストールが発生している状態が判定期間中に継続した場合にモータ4の最大定格トルクの上限値を制限する。このため、判定期間中においてはインバータ10cの性能が制限されない。したがって、スイッチング素子を備えるインバータ10cの性能を過剰に抑制することを防止できる。よって、本実施形態のモータ制御装置15によれば、インバータ10cの性能を過剰に抑制することなく、ストールが発生したことに基づいてトルク制限を行うことが可能となる。
【0111】
本実施形態のモータ制御装置15において、判定期間設定部33は、スイッチング素子の温度測定値に基づいて、判定期間を定める。温度測定値によれば、各々のスイッチング素子の温度と許容温度との差を得ることができる。このため、スイッチング素子が許容温度とならない範囲で判定期間をできる限り長く設定することができる。したがって、本実施形態のモータ制御装置15によれば、インバータ10cの性能をより制限することなく発揮させることが可能となる。
【0112】
また、本実施形態のモータ制御装置15は、記憶部36を備える。記憶部36は、スイッチング素子の温度測定値と判定期間との関係を示す判定期間マップMを記憶する。また、判定期間設定部33は、判定期間マップMを参照して判定期間を定める。このため、判定期間マップMを参照することで、複雑な演算処理を行うことなく判定期間を求めることができる。
【0113】
また、記憶部36は、スイッチング素子に応じた複数の判定期間マップMを有してもよい。複数の判定期間マップMが記憶部36に記憶されることで、各々のスイッチング素子に適した判定期間マップMを用いて判定期間を設定することができる。したがって、本実施形態のモータ制御装置15によれば、インバータ10cの性能をより制限することなく発揮させることが可能となる。
【0114】
また、本実施形態のモータ制御装置15において、トルク制御部34は、ストールが発生している状態が判定期間を超えた場合に、最大定格トルクの上限値を経時的に目標値まで低下させる。このような本実施形態のモータ制御装置15によれば、トルク制限を行う場合であっても、実トルクが急激に変動することを抑制でき、車両の乗員に違和感を与えることを抑制できる。
【0115】
また、本実施形態のモータ制御装置15において、トルク制御部34は、上限値が制限されていない状態における最大定格トルクである通常時最大定格トルクから制限時最大定格トルクの上限値を経時的に目標値まで低下させる。このような本実施形態のモータ制御装置15によれば、トルク指令値が最大定格トルクよりも低い状態でトルク制限が開始された場合には、トルク指令値が制限時最大定格トルクとなるまでの期間は、実トルクが制限されない。したがって、インバータ10cの性能をより制限することなく発揮させることが可能となる。
【0116】
また、本実施形態のモータ制御装置15において、トルク制御部34は、スイッチング素子の温度測定値が温度上限閾値を超えた場合に、モータ4の最大定格トルクの上限値を制限する。このため、何らかの原因によってスイッチング素子の冷却機構が故障している場合であっても、トルク制限を行うことでスイッチング素子の温度が許容温度を超えないように抑制することが可能となる。なお、冷却機構が故障している場合には、スイッチング素子の温度が許容温度に近づくことになるが、上述のトルク制限を行うことで、スイッチング素子の温度が許容温度に到達する時間を遅らせることができる。このことにより、例えばスイッチング素子の温度に対し温度センサ12の応答により温度検出が遅れるような製品仕様においても、上述のトルク制限を行うことにより、温度上昇レートが低減される。このため、スイッチング素子が許容温度に到達する前に異常過熱であることを検出することができる。
【0117】
さらに、本実施形態のモータ制御装置15においては、温度測定値が温度上限閾値を超えた場合の最大定格トルクの上限値は、ストールが発生している状態が判定期間を超えた場合の最大定格トルクの上限値よりも低い。このため、温度測定値が温度上限閾値を超えた場合には、より強力にスイッチング素子の昇温を抑制することが可能となる。
【0118】
また、本実施形態のモータ制御装置15においては、温度センサ12がスイッチング素子より一定間隔離れた位置に配置され、スイッチング素子の温度とセンサ検出温度に時間的な遅延が発生する構造となっている。例えば、ここでのスイッチング素子は炭化ケイ素で形成されたパワー半導体素子からなる。このような本実施形態のモータ制御装置15は、SiC-MOSFETをスイッチング素子として備えるインバータ10cの性能を過剰に抑制することがない制御を行うことができる。
【0119】
また、上記実施形態の電力変換装置5は、インバータ10cと、モータ制御装置15とを備える。このため、インバータ10cの性能を過剰に抑制することがない電力変換装置5となる。
【0120】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0121】
なお、上記実施形態については、例えば以下の付記のようにも記載できる。
【0122】
(付記1)
スイッチング素子を指令トルク値に基づいて制御することでモータを制御するモータ制御装置であって、
上記モータの回転数と上記指令トルク値とに基づいてストールが発生しているか否かを判定するストール状態判定部と、
上記ストールの発生開始からトルク制限を行うまでの判定期間を定める判定期間設定部と、
上記ストールが発生している状態が上記判定期間を超えた場合に、上記モータのトルクの上限値を制限するトルク制御部と
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【0123】
(付記2)
上記判定期間設定部は、上記スイッチング素子の温度測定値に基づいて、上記判定期間を定めることを特徴とする付記1記載のモータ制御装置。
【0124】
(付記3)
上記スイッチング素子の温度測定値と上記判定期間との関係を示す判定期間マップを記憶する記憶部を備え、
上記判定期間設定部は、上記判定期間マップを参照して上記判定期間を定める
ことを特徴とする付記2記載のモータ制御装置。
【0125】
(付記4)
上記記憶部は、上記スイッチング素子に応じた複数の判定期間マップを有する
ことを特徴とする付記3記載のモータ制御装置。
【0126】
(付記5)
上記トルク制御部は、上記ストールが発生している状態が上記判定期間を超えた場合に、上記トルクの上限値を経時的に目標値まで低下させることを特徴とする付記1~4のいずれか一つに記載のモータ制御装置。
【0127】
(付記6)
上記トルク制御部は、上記トルクの上限値を制限しない状態における最大定格トルクから上記トルクの上限値を経時的に目標値まで低下させることを特徴とする付記5記載のモータ制御装置。
【0128】
(付記7)
上記トルク制御部は、上記スイッチング素子の温度測定値が予め設定された上限閾値を超えた場合に、上記モータのトルクの上限値を制限することを特徴とする付記1~6のいずれか一つに記載のモータ制御装置。
【0129】
(付記8)
上記スイッチング素子の温度測定値が予め設定された上限閾値を超えた場合のトルクの上限値は、上記ストールが発生している状態が上記判定期間を超えた場合のトルクの上限値よりも低いことを特徴とする付記7記載のモータ制御装置。
【0130】
(付記9)
上記スイッチング素子は、炭化ケイ素で形成されたパワー半導体素子からなることを特徴とする付記1~8のいずれか一つに記載のモータ制御装置。
【0131】
(付記10)
バッテリとモータとの間で電力変換を行うと共にスイッチング素子を有する電力変換器と、
上記電力変換器を制御することで上記モータを制御する付記1~9のいずれか一つに記載のモータ制御装置と
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【符号の説明】
【0132】
1……車両システム、2……バッテリユニット、2a……バッテリ、2b……コンタクタ、3……ドライブユニット、4……モータ、5……電力変換装置、10……電力変換器、10a……昇降圧コンバータ、10b……平滑コンデンサ、10c……インバータ、11……電圧センサ、12……温度センサ、13……電流センサ、14……回転角センサ、15……モータ制御装置、21……第1スイッチング素子、22……第2スイッチング素子、23……第3スイッチング素子、24……第4スイッチング素子、25……第5スイッチング素子、26……第6スイッチング素子、31……モータ回転数算出部、32……ストール状態判定部、33……判定期間設定部、34……トルク制御部、34a……第1トルク制限部、34b……第2トルク制限部、35……モータ制御部、36……記憶部、M……判定期間マップ