(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025011
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】コークスケーキの押出性評価方法及びコークスケーキの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 41/02 20060101AFI20240216BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20240216BHJP
【FI】
C10B41/02
G01N23/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128084
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】内田 宗宏
(72)【発明者】
【氏名】窪田 征弘
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001HA04
2G001HA07
2G001HA14
2G001KA04
2G001KA07
2G001LA03
(57)【要約】
【課題】 コークスケーキの押出性を評価する。
【解決手段】 試験コークス炉を用いて評価対象の原料炭を乾留して製造されたコークスケーキに対してX線撮影を行うことにより、三次元画像データを生成する。三次元画像データの画像解析によって、コークスケーキに含まれる隣り合う2つのコークス塊の境界に位置する亀裂面をそれぞれ抽出し、コークスケーキにおける亀裂割合を求める。予め求められた、亀裂割合及びコークスケーキのランキン係数の相関関係を用いて、求めた亀裂割合に対応するランキン係数を特定する。ここで、亀裂割合は、コークスケーキの亀裂面の総数に対して、所定のベクトル成分が閾値よりも大きい亀裂面の数が占める割合である。所定のベクトル成分とは、亀裂面がコークスケーキの押出方向及びコークス炉の炉高方向によって規定される基準平面に沿う程度を示すベクトル成分である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークスケーキの押出性を評価する方法であって、
試験コークス炉を用いて評価対象の原料炭を乾留して製造されたコークスケーキに対してX線撮影を行うことにより、三次元画像データを生成し、
前記三次元画像データの画像解析によって、前記コークスケーキに含まれる隣り合う2つのコークス塊の境界に位置する亀裂面をそれぞれ抽出し、
前記コークスケーキの前記亀裂面の総数に対して、前記亀裂面が前記コークスケーキの押出方向及びコークス炉の炉高方向によって規定される基準平面に沿う程度を示すベクトル成分が閾値よりも大きい前記亀裂面の数が占める割合である亀裂割合を求め、
予め求められた、前記亀裂割合及び前記コークスケーキのランキン係数の相関関係を用いて、求めた前記亀裂割合に対応するランキン係数を特定することを特徴とするコークスケーキの押出性評価方法。
【請求項2】
前記ベクトル成分は、前記亀裂面に対して設定された単位法線ベクトルのうち、前記基準平面と直交する方向におけるベクトル成分であることを特徴とする請求項1に記載のコークスケーキの押出性評価方法。
【請求項3】
前記閾値が0.9であることを特徴とする請求項2に記載のコークスケーキの押出性評価方法。
【請求項4】
前記相関関係は、正の相関関係を有することを特徴とする請求項1に記載のコークスケーキの押出性評価方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のコークスケーキの押出性評価方法によって特定されたランキン係数に基づいて、コークスケーキを製造するときの原料炭の銘柄及び配合比率の少なくとも1つを変更することを特徴とするコークスケーキの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークスケーキの押出性を評価する方法と、この評価に基づいてコークスケーキを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、試験コークス炉にて配合炭を乾留して得られるコークスケーキの内部に発生し、試験コークス炉の壁面に平行な向きの亀裂成分の量に基づいて、室炉式コークス炉におけるコークスケーキの押出し性を推定している。この推定においては、亀裂成分の量とコークスケーキを押出したときの押出し力との関係を予め求めておき、この関係に基づいてコークスケーキの押出し性を推定している。ここで、試験コークス炉の壁面に平行な向きの亀裂成分とは、コークスケーキの内部に形成された亀裂のうち、炉高方向に延びる亀裂成分であり、亀裂成分の量としては、炉高方向の亀裂成分における長さ及び幅から求めた面積を用いている。
【0003】
特許文献2では、試験コークス炉で乾留したコークスケーキの炉幅方向の収縮量と、コークスケーキ内部に存在する亀裂量とを求め、この収縮量及び亀裂量に基づいてコークスケーキの押し出し性を推定している。ここで、収縮量としては、試験コークス炉の炉壁内面とコークスケーキの側面との間に生じた空隙の炉幅方向の平均距離を用いている。また、亀裂量としては、亀裂の本数、単位面積当りの亀裂の面積、又は亀裂の幅を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-332312号公報
【特許文献2】特開2005-068296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上述した特許文献1,2とは異なる手法において、コークスケーキの押出性を評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願第1の発明は、コークスケーキの押出性を評価する方法である。まず、試験コークス炉を用いて評価対象の原料炭を乾留して製造されたコークスケーキに対してX線撮影を行うことにより、三次元画像データを生成する。次に、三次元画像データの画像解析によって、コークスケーキに含まれる隣り合う2つのコークス塊の境界に位置する亀裂面をそれぞれ抽出する。
【0007】
次に、コークスケーキにおける亀裂割合を求める。亀裂割合は、コークスケーキの亀裂面の総数に対して、所定のベクトル成分が閾値よりも大きい亀裂面の数が占める割合である。所定のベクトル成分とは、亀裂面がコークスケーキの押出方向及びコークス炉の炉高方向によって規定される基準平面に沿う程度を示すベクトル成分である。次に、予め求められた、亀裂割合及びコークスケーキのランキン係数の相関関係を用いて、求めた亀裂割合に対応するランキン係数を特定する。
【0008】
ベクトル成分としては、亀裂面に対して設定された単位法線ベクトルのうち、基準平面と直交する方向におけるベクトル成分とすることができる。亀裂割合を求めるときの閾値を0.9とすることができる。すなわち、ベクトル成分が0.9よりも大きい亀裂面の数をカウントして、亀裂割合を求めることができる。
【0009】
上述した相関関係は、正の相関関係を有する。すなわち、亀裂割合が高いほど、ランキン係数が大きくなる。言い換えれば、亀裂割合が低いほど、ランキン係数が小さくなる。
【0010】
本願第2の発明であるコークスケーキの製造方法では、本願第1の発明であるコークスケーキの押出性評価方法によって特定されたランキン係数に基づいて、コークスケーキを製造するときの原料炭の銘柄及び配合比率の少なくとも1つを変更する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ベクトル成分が閾値よりも大きい亀裂面の数に着目することにより、コークスケーキの押出性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】コークス炉を上方から見たときの概略図であり、炭化室内のコークスケーキを押出機によって押出す状態を示す図である。
【
図2】コークスケーキの押出性を評価する方法を説明するフローチャートである。
【
図3】コークスケーキの三次元画像(一例)を示す図である。
【
図4】亀裂だけを示す三次元画像(一例)を示す図である。
【
図6】rzベクトルが閾値rz_th(rz_th=0.5)を超える亀裂面について、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kを示す図である。
【
図7】rzベクトルが閾値rz_th(rz_th=0.7)を超える亀裂面について、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kを示す図である。
【
図8】rzベクトルが閾値rz_th(rz_th=0.8)を超える亀裂面について、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kを示す図である。
【
図9】rzベクトルが閾値rz_th(rz_th=0.9)を超える亀裂面について、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(コークスケーキ)
高炉などで用いられるコークスは、原料炭をコークス炉で乾留することによって製造されたコークスケーキを破砕することによって得られる。原料炭は、1つの銘柄の石炭であってもよいし、複数の銘柄の石炭を所定の配合比率で配合した配合炭であってもよい。コークス炉は、原料炭が充填される炭化室と、炭化室を挟む位置に配置された燃焼室とから構成されており、炭化室の内壁面には耐火煉瓦が配置されている。燃焼室では、燃料ガスを燃焼させることによって原料炭の乾留に必要な熱を発生させ、炭化室では、燃焼室からの熱の供給を受けて原料炭を乾留する。一般的に、炭化室及び燃焼室は所定方向において交互に配置されており、1つのコークス炉団を構成している。
【0014】
炭化室における原料炭の乾留によってコークスケーキが製造され、押出機がコークスケーキを押し出すことによって、コークスケーキが炭化室から排出される。炭化室から排出されたコークスケーキは破砕された後、高炉に装入されるコークスとして用いられる。コークスケーキは、複数のコークス塊の集合体であり、隣り合う2つのコークス塊の間には亀裂が存在している。
【0015】
本発明では、コークスケーキで生成された複数の亀裂面について、コークスケーキの押出方向及びコークス炉の炉高方向によって規定される平面(以下、「基準平面」という)に沿う程度に着目して、コークスケーキの押出性を評価する。コークスケーキの押出性は、コークスケーキ及び炭化室(耐火煉瓦)の接触面における摩擦抵抗に依存し、この摩擦抵抗を評価する指標としてランキン係数(側圧転換率ともいう)Kが用いられている。ランキン係数Kは、炭化室の内壁面に作用する圧力Pwを、コークスケーキを押し出すときの圧力(押出力)Ppで除算した値である。圧力Pwが圧力Ppよりも高くなるほど、ランキン係数Kが大きくなり、コークスケーキの押出性が悪化することになる。
【0016】
本発明者らは、コークスケーキの押出性を悪化させる主な原因として、基準平面に沿う亀裂面に着目した。この亀裂面がコークスケーキの押出性に悪影響を与える点について、
図1を用いて説明する。
図1は、コークス炉10を上方から見たときの概略図であり、2つの燃焼室11の間に炭化室12が設けられており、この炭化室12の内部で乾留することによって製造されたコークスケーキを押出機13によって押出す状態を示す。
【0017】
図1に示すように、コークスケーキの押出方向(
図1の上下方向)及びコークス炉10の炉高方向(
図1の紙面と直交する方向)に沿った亀裂面(すなわち、基準平面に沿った亀裂面)がコークスケーキに形成されていると仮定する。この場合において、押出機13からコークスケーキに対して押出方向の押出力F1を与えると、亀裂面を境界としたコークス塊の分断が発生しやすくなる。結果として、押出力F1の一部は、コークスケーキが炭化室の内壁面を押し付ける押圧力F2に変換されやすくなる。また、基準平面に沿った亀裂面の数が多いほど、押出力F1に対して押圧力F2に変換される力の割合が高くなり、コークスケーキの押出性を悪化させてしまう。
【0018】
このため、亀裂面が基準平面に沿う程度に着目すれば、コークスケーキの押出性を評価することができる。本実施形態では、亀裂面が基準平面に沿う程度を示す指標として、後述する「rzベクトル」を規定している。なお、亀裂面が基準平面に対してどの程度沿っているのかを把握することができればよいため、後述する「rzベクトル」に限定されるものではない。
【0019】
(コークスケーキの押出性の評価方法)
以下、コークスケーキの押出性を評価する方法について、
図2に示すフローチャートを用いて説明する。
【0020】
ステップS101では、評価対象となるコークスケーキを製造するための原料炭を試験コークス炉に充填して乾留することにより、コークスケーキを製造する。試験コークス炉としては、例えば、電気乾留炉を用いることができる。原料炭を乾留するときの条件(昇温速度や最高到達温度など)は、実機のコーク炉において原料炭を乾留するときの条件と同一とし、使用される原料炭は、評価対象となる原料炭と同一とする。
【0021】
ステップS102では、X線透過撮影装置を用いて、ステップS101の処理で製造したコークスケーキの三次元画像データを生成する。
図3には、コークスケーキの三次元画像の一例を示す。
図3において、X軸はコークスケーキの押出方向に延びる軸であり、Y軸は炭化室の炉高方向に延びる軸であり、Z軸は炭化室の炉幅方向に延びる軸である。X軸、Y軸及びZ軸は、互いに直交する軸である。
【0022】
ステップS103では、ステップS102の処理で生成した三次元画像データに対して画像解析を行うことにより、後述するように亀裂面毎にrzベクトルを抽出する。まず、コークスケーキは、上述したように、複数のコークス塊と、隣り合う2つのコークス塊の間に形成された亀裂とを有するため、コークスケーキを示す三次元画像を、コークス塊だけを示す三次元画像と亀裂だけを示す三次元画像とに分離する。
図4は、
図3に示すコークスケーキの三次元画像から亀裂だけを示す三次元画像を抽出した図(一例)である。
図4に示すX軸、Y軸及びZ軸は、
図3と同じである。
【0023】
次に、亀裂だけを示す三次元画像から複数の亀裂面を抽出する。ここで、亀裂面の規定方法について、
図5を用いて説明する。
図5は、コークスケーキの一部分の断面を示す概略図であり、
図5では、3つのコークス塊A,B,Cを示す。亀裂面は、上述したように、隣り合う2つのコークス塊の境界を形成するものであるため、コークス塊A,Bの境界を形成する亀裂面CS1と、コークス塊B,Cの境界を形成する亀裂面CS2と、コークス塊A,Cの境界を形成する亀裂面CS3とが抽出される。
【0024】
次に、コークスケーキに含まれるすべての亀裂面を抽出した後、この亀裂面の固有ベクトルを算出して、固有値の最も小さな固有ベクトルと同じ方向ベクトルの面を亀裂面とし、各亀裂面において単位法線ベクトルを設定する。そして、単位法線ベクトルをX軸成分、Y軸成分及びZ軸成分に分離する。ここで、単位法線ベクトルの各成分を規定するX軸、Y軸及びZ軸は、
図3や
図4に示す軸(X,Y,Z)と同じであり、本実施形態では、Z軸成分を「rzベクトル」という。これにより、コークスケーキに含まれるすべての亀裂面のそれぞれについて、rzベクトルが求められる。
【0025】
なお、亀裂面の形状によっては、単位法線ベクトルが3つの軸成分で構成されていなく、1つ又は2つの軸成分で構成されている場合もある。例えば、亀裂面がX軸及びY軸に沿った平面(基準平面)内にのみ存在している場合には、単位法線ベクトルがrzベクトルだけとなり、rzベクトルが「1.0」を示す。本実施形態では、単位法線ベクトルを設定しているため、rzベクトルが1.0に近づくほど、亀裂面は、X軸及びY軸に沿った平面(基準平面)に近づくことになる。本実施形態では、亀裂面に対して「単位法線ベクトル」を設定しているが、これに限るものではなく、例えば、亀裂面に対する「法線ベクトル」を設定することもできる。
【0026】
図2に示すステップS104では、コークスケーキに含まれるすべての亀裂面の数(以下、「総亀裂数Nt」という)に対して、rzベクトルが閾値rz_thを超える亀裂面の数(以下、「対象亀裂数Nrz」という)が占める割合(以下、「亀裂割合」という)Rrz(Rrz=100×Nrz/Nt)を求める。ステップS103の処理で説明したように、コークスケーキの亀裂の三次元画像(
図4)から亀裂面を抽出することにより、総亀裂数Ntを求めることができる。また、亀裂面毎にrzベクトルが求められるため、各亀裂面において、rzベクトルが閾値rz_thを超えているか否かを判別し、閾値rz_thを超えるrzベクトルを示す亀裂面をカウントすることにより、対象亀裂数Nrzを求めることができる。
【0027】
ステップS105では、ステップS104の処理で求められた亀裂割合Rrzに基づいて、ランキン係数Kを特定する。ここで、ランキン係数Kを特定するときには、予め求められた亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kを用いる。後述する実施例から分かるように、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの間には、所定の相関関係Rrz-Kが成り立つため、この相関関係Rrz-Kを用いることにより、ステップS104の処理で求められた亀裂割合Rrzに対応するランキン係数Kを特定することができる。
【0028】
後述する実施例で示すように、相関関係Rrz-Kは正の相関関係を有しており、亀裂割合Rrzが高いほど、ランキン係数Kが大きくなる。言い換えれば、亀裂割合Rrzが低いほど、ランキン係数Kが小さくなる。なお、相関関係Rrz-Kを求める方法については、後述する。
【0029】
ステップS105の処理において、ランキン係数Kを特定することにより、コークスケーキの押出性を評価することができる。ここで、ランキン係数Kが大きいほど、コークスケーキの押出性が悪化することを評価できる。言い換えれば、ランキン係数Kが小さいほど、コークスケーキの押出性が良好であることを評価できる。
【0030】
(相関関係Rrz-Kの求め方)
相関関係Rrz-Kを求めるときには、まず、
図2に示すステップS101~S104で説明した処理を行うことにより、亀裂割合Rrzを求める。亀裂割合Rrzを求めるときの閾値rz_thは、
図2に示す処理によってコークスケーキの押出性を評価するときにおいて、
図2に示すステップS104で用いられる閾値rz_thと同じ値に設定する。
【0031】
一方、亀裂割合Rrzを求めたコークスケーキについて、ランキン係数Kを求める。ランキン係数Kは、公知の手法によって求めることができる。例えば、冷間圧縮試験装置を用いてランキン係数Kを求めることができる。具体的には、冷間圧縮試験装置の各壁面に対して圧力を測定するロードセルを設けておき、コークスケーキに押圧力を付与したときのロードセルの測定値(圧力)とコークスケーキの押圧力とに基づいてランキン係数Kを求めることができる。
【0032】
上述した方法により、1つのコークスケーキについて、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kを得ることができる。この相関関係Rrz-Kでは、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kが1:1である。ここで、後述する実施例に示すように、原料炭を試験コークス炉に充填するときの充填嵩密度を変化させることにより、ランキン係数Kを変化させることができる。このため、複数の充填嵩密度のそれぞれについて、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kを求めることにより、亀裂割合Rrzの変化に対するランキン係数Kの変化を把握することができる。
【0033】
後述する実施例で示すように、閾値rz_thの設定内容に応じて、相関関係Rrz-Kの決定係数R2が変化する。このため、押出性を評価するときの精度を考慮して、閾値rz_thを適宜決めることができる。例えば、新しいコークス炉を用いてコークスケーキを製造する場合には、押出性の評価において、高い精度が求められないことがあるため、決定係数R2が低い相関関係Rrz-Kを用いることができる。一方、コークス炉の稼働開始から長時間が経過した老朽化のコークス炉を用いてコークスケーキを製造する場合には、押出性の評価において、高い精度が求められることがあるため、決定係数R2が高い相関関係Rrz-Kを用いることができる。
【0034】
本実施形態によれば、実機のコークス炉でコークスケーキを製造してコークスケーキの押出を行う前に、相関関係Rrz-Kを用いて亀裂割合Rrzからランキン係数Kを求めることにより、ランキン係数Kに基づくコークスケーキの押出性を評価することができる。このように、コークスケーキの押出性を事前に評価することができれば、例えば、以下に説明するような不具合を回避することができる。
【0035】
コークスケーキの押出性が悪化している場合には、コークスケーキが炭化室の内部で詰まってしまい、コークスケーキを炭化室の外部に排出することができない。排出できなかったコークスケーキを処理するためには、炭化室を長時間開放する必要があり、炭化室及び燃焼室を分離している耐火煉瓦を冷やすことになるため、耐火煉瓦が損傷してしまうおそれがある。また、コークス炉の稼働開始から長時間が経過した老朽コークス炉では、耐火煉瓦同士の拘束力が低下しやすくなるため、コークスケーキの押出性が悪化した場合には、耐火煉瓦が破孔してしまうおそれがある。このような不具合は、コークスケーキの押出性を事前に評価することによって回避することができる。
【0036】
一方、
図2に示す処理によって評価されたコークスケーキの押出性に基づいて、原料炭を変更することができ、変更後の原料炭を用いて、実機のコークス炉でコークスケーキを製造することができる。
【0037】
例えば、コークスケーキの押出性が悪化すると評価したときにおいて、原料炭として1つの銘柄の石炭を用いるときには、銘柄を変更して
図2に示す処理を行うことにより、コークスケーキの押出性を再び評価することができる。また、原料炭として複数の銘柄の石炭を配合した配合炭を用いるときには、少なくとも1つの銘柄を変更したり、配合比率を変更したりして
図2に示す処理を行うことにより、コークスケーキの押出性を再び評価することができる。そして、押出性が悪化しないと評価された原料炭を用いて、実機のコークス炉でコークスケーキを製造することができる。
【実施例0038】
石炭としては、銘柄が互いに異なる3種類の石炭(A炭、B炭及びC炭)を使用した。各石炭については、粉砕した後、3mm以下の粒子径の割合が85質量%以上となるように調整した。そして、45質量%のA炭と、45質量%のB炭と、10質量%のC炭を配合した配合炭を電気乾留炉(W400mm×L600mm×H420mm)に充填し、18.5hrをかけて乾留を行うことにより、コークスケーキを製造した。
【0039】
ここで、電気乾留炉に充填する配合炭の量(言い換えれば、配合炭の充填嵩密度)を変化させて4種類のコークスケーキを製造した。3種類の石炭(A炭、B炭及びC炭)の性状を下記表1に示し、配合炭の充填嵩密度を下記表2に示す。下記表2において、4つの充填嵩密度のそれぞれをサンプル1~4とした。
【0040】
【0041】
上記表1において、揮発分VMはJIS M8812の規定に準じて測定し、全膨張率TD及び最高流動度MFはJIS M8801の規定に準じて測定し、平均最大反射率RоはJIS M8816の規定に準じて測定した。
【0042】
【0043】
製造されたコークスケーキは、窒素雰囲気下において1日間かけて室温まで冷却した。そして、冷却後のコークスケーキを透過X線撮影装置にセットしてX線透過撮影を行うことにより、コークスケーキの三次元画像データ(
図1参照)を取得した。ここで、透過X線撮影装置の撮影条件としては、管電圧を120kV、管電流を350mA、スライスピッチを0.5mm、画像サイズを512×512pixel、解像度を1.132mm/pixelとした。
【0044】
次に、得られた三次元画像データに対して画像解析を行い、コークスケーキに形成された亀裂の状態を評価した。画像解析では、公知のソフトウェアAvizоを用いた。画像解析では、まず、コークスケーキの三次元画像を、コークス塊だけを示す三次元画像と亀裂だけを示す三次元画像に分離した。
図2には、コークスケーキの三次元画像からコークス塊を取り除いた三次元画像、すなわち、コークスケーキに存在する亀裂だけを示す三次元画像を示す。
【0045】
亀裂だけを示す三次元画像において、隣り合う2つのコークス塊の境界に位置する亀裂面を抽出した。1つ1つのコークス塊を識別することにより、亀裂面を特定することができる。抽出した各亀裂面について単位法線ベクトルを設定し、この単位法線ベクトルをX軸成分、Y軸成分及びZ軸成分のそれぞれに分離することにより、各亀裂面のrzベクトルを特定した。
【0046】
本実施例では、rzベクトルが0.0~1.0の範囲を10個の区分に均等に分け、各区分に属するrzベクトルを示す亀裂面の数(以下、「亀裂数」という)をカウントした。例えば、rzベクトルが0.15であるとき、このrzベクトルは、rzベクトルが0.1~0.2である区分に属することになり、この区分における亀裂数がカウントアップされる。亀裂数のカウント結果を下記表3に示す。
【0047】
【0048】
上記表3に示す各区分について、「0.0~0.1」の区分は、0.0以上であって、0.1以下である範囲を示し、「0.9~1.0」の区分は、0.9よりも大きく、1.0以下である範囲を示す。他の区分も、下限値よりも大きく、上限値以下である範囲を示す。例えば、「0.1~0.2」の区分は、0.1よりも大きく、0.2以下である範囲を示す。
【0049】
サンプル1~4では、総亀裂数(すべての区分の亀裂数の総数)Ntが互いに異なっているが、サンプル1~4のいずれでも総亀裂数Ntが1000を超えていた。上記表3に示す結果によれば、充填嵩密度が高いほど、総亀裂数Ntが多くなる。
【0050】
一方、サンプル1~4のコークスケーキのそれぞれについて、冷間圧縮試験装置を用いてランキン係数Kを測定した。具体的には、冷間圧縮試験装置の各壁面に対して圧力を測定するロードセルを設けておき、コークスケーキに押圧力を付与したときのロードセルの測定値(圧力)とコークスケーキの押圧力とに基づいてランキン係数Kを求めた。この結果を下記表4に示す。
【0051】
【0052】
次に、サンプル1~4のコークスケーキのそれぞれについて、総亀裂数Ntに対して対象亀裂数Nrzが占める亀裂割合Rrzを求めた。ここで、閾値rz_thとしては、0.5、0.7、0.8、0.9にそれぞれ設定した。各閾値rz_thにおける亀裂割合Rrzを下記表5に示す。
【0053】
【0054】
上記表5に示す各亀裂割合Rrzと、上述したように求めたランキン係数Kとの関係を
図6~
図9に示す。
図6は、rzベクトルが閾値rz_th(rz_th=0.5)を超える亀裂面について、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kを示す。
図7は、rzベクトルが閾値rz_th(rz_th=0.7)を超える亀裂面について、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kを示す。
図8は、rzベクトルが閾値rz_th(rz_th=0.8)を超える亀裂面について、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kを示す。
図9は、rzベクトルが閾値rz_th(rz_th=0.9)を超える亀裂面について、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kを示す。
【0055】
図6~
図9のそれぞれには、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kのプロットから求められた近似直線を示し、この近似直線は、亀裂割合Rrzからランキン係数Kを特定するときの相関関係Rrz-Kとして用いられる。また、
図6~
図9のそれぞれには、近似直線の相関係数R
2も示している。
【0056】
図6~
図9から分かるように、閾値rz_thにかかわらず、亀裂割合Rrzが増加するほど、ランキン係数Kが増加する傾向がある。言い換えれば、亀裂割合Rrzが減少するほど、ランキン係数Kが減少する傾向がある。このような相関関係(ここでは、正の相関関係)Rrz-Kを予め求めておけば、押出性を評価しようとするコークスケーキについて、三次元画像から亀裂割合Rrzを求めることにより、ランキン係数K(すなわち、コークスケーキの押出性)を把握することができる。
【0057】
一方、
図6~
図9から分かるように、閾値rz_thを大きくするほど、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの相関関係Rrz-Kにおける決定係数R
2が高くなる。本実施例では、閾値rz_thが0.9であるとき、決定係数R
2が最も高くなるため、閾値rz_thを0.9に設定して亀裂割合Rrzを求めることにより、ランキン係数Kの推定精度を向上させることができる。
【0058】
ここで、コークスケーキの押出性を評価する上では、閾値rz_thを適宜決めることができる。
図6に示すように、閾値rz_thが0.5であっても、亀裂割合Rrz及びランキン係数Kの大まかな相関関係Rrz-Kを把握することができるため、コークスケーキの押出性を厳密に評価する必要が無ければ、閾値rz_thを0.5に設定することができる。一方、コークスケーキの押出性を厳密に評価したい場合には、閾値rz_thを0.9に設定することができる。