(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025031
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20240216BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/17 G
H03H9/54 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128123
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】石田 守
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB01
5J108CC04
5J108DD02
5J108EE03
5J108FF03
5J108HH05
(57)【要約】
【課題】2次高調波に起因のスプリアスを抑制する弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイス100は、基板10上に設けられた下部電極12と、下部電極12上に設けられた圧電層14と、圧電層14を挟んで下部電極12と対向する共振領域50を形成するように圧電層14上に設けられた上部電極16と、共振領域50における基板10と下部電極12の間に設けられ、低音響インピーダンス膜31と高音響インピーダンス膜32が交互に積層され、低音響インピーダンス膜31および高音響インピーダンス膜32のうち最も下部電極12に近い膜の共振領域50での平均厚みと密度の積をG1、共振領域50での下部電極12の平均厚みと密度の積をG2、共振領域50において圧電層14上に設けられた上部電極16を含む膜の共振領域50での平均厚みと密度の積をG3とした場合に0<(G3-G2)/G1<0.96を満たす音響反射膜30とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた下部電極と、
前記下部電極上に設けられた圧電層と、
前記圧電層を挟んで前記下部電極と対向する共振領域を形成するように前記圧電層上に設けられた上部電極と、
前記共振領域における前記基板と前記下部電極との間に少なくとも設けられ、1または複数の低音響インピーダンス膜と1または複数の高音響インピーダンス膜とが交互に積層され、前記1または複数の低音響インピーダンス膜および前記1または複数の高音響インピーダンス膜のうち最も前記下部電極に近い膜の前記共振領域での平均厚みと前記近い膜の密度との積をG1、前記共振領域での前記下部電極の平均厚みと前記下部電極の密度との積をG2、前記共振領域において前記圧電層上に設けられた前記上部電極を含む膜の前記共振領域での平均厚みと前記上部電極を含む膜の密度との積をG3とした場合に0<(G3-G2)/G1<0.96を満たす音響反射膜と、を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に設けられた下部電極と、
前記下部電極上に設けられた圧電層と、
前記圧電層を挟んで前記下部電極と対向する共振領域を形成するように前記圧電層上に設けられた上部電極と、
前記共振領域における前記基板と前記下部電極との間に少なくとも設けられ、酸化シリコン膜、マグネシウム膜、アルミニウム膜、およびチタン膜の少なくとも1つを含む1または複数の第1膜と、窒化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、銅膜、酸化アルミニウム膜、金膜、モリブデン膜、タングステン膜、および酸化タンタル膜の少なくとも1つを含む1または複数の第2膜と、が交互に積層され、前記1または複数の第1膜および前記1または複数の第2膜のうち最も前記下部電極に近い膜の前記共振領域での平均厚みと前記近い膜の密度との積をG1、前記共振領域での前記下部電極の平均厚みと前記下部電極の密度との積をG2、前記共振領域において前記圧電層上に設けられた前記上部電極を含む膜の前記共振領域での平均厚みと前記上部電極を含む膜の密度との積をG3とした場合に0<(G3-G2)/G1<0.96を満たす音響反射膜と、を備える弾性波デバイス。
【請求項3】
0.1≦(G3-G2)/G1≦0.75を満たす、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
0.3≦(G3-G2)/G1≦0.55を満たす、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記共振領域において前記上部電極は前記下部電極より厚い、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記1または複数の低音響インピーダンス膜は酸化シリコン膜である、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記1または複数の低音響インピーダンス膜および前記1または複数の高音響インピーダンス膜のうち最も前記下部電極に近い膜は低音響インピーダンス膜である、請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記上部電極を含む膜は、前記上部電極と前記上部電極上に設けられた絶縁膜とを含む、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記圧電層は、単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
基板と、
前記基板上に設けられた下部電極と、
前記下部電極上に設けられ、単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である圧電層と、
前記下部電極下に設けられた空隙上において前記圧電層を挟んで前記下部電極と対向する共振領域を形成するように前記圧電層上に設けられた上部電極と、
前記共振領域における前記空隙と前記下部電極との間に少なくとも設けられ、前記共振領域での平均厚みと密度との積をG1、前記共振領域での前記下部電極の平均厚みと前記下部電極の密度との積をG2、前記共振領域において前記圧電層上に設けられた前記上部電極を含む膜の前記共振領域での平均厚みと前記上部電極を含む膜の密度との積をG3とした場合に0<(G3-G2)/G1<1.6を満たす絶縁膜と、を備える弾性波デバイス。
【請求項11】
請求項1、2または10に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項12】
請求項11に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサとして、圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサが知られている。圧電薄膜共振器には、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)タイプとSMR(Solid Mounted Resonator)タイプがある。FBARタイプの圧電薄膜共振器は、基板上に圧電層と圧電層を挟む下部電極および上部電極とを備え、圧電層を挟み下部電極と上部電極が対向する領域において下部電極の下に空隙が形成されている。SMRタイプの圧電薄膜共振器は、空隙の代わりに、音響インピーダンスの低い膜と高い膜が交互に積層された音響反射膜が設けられている。圧電層を挟み下部電極と上部電極が対向する領域は、弾性波が共振する共振領域である。圧電層に、電気機械結合係数の大きな単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層を用いることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電薄膜共振器では2次高調波に起因したスプリアスが発生することがある。例えば、大きな電気機械結合係数を得るために、圧電層に単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層を用いた場合、厚みすべり振動の2次高調波に起因したスプリアスが大きくなり易い。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、2次高調波に起因したスプリアスを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた下部電極と、前記下部電極上に設けられた圧電層と、前記圧電層を挟んで前記下部電極と対向する共振領域を形成するように前記圧電層上に設けられた上部電極と、前記共振領域における前記基板と前記下部電極との間に少なくとも設けられ、1または複数の低音響インピーダンス膜と1または複数の高音響インピーダンス膜とが交互に積層され、前記1または複数の低音響インピーダンス膜および前記1または複数の高音響インピーダンス膜のうち最も前記下部電極に近い膜の前記共振領域での平均厚みと前記近い膜の密度との積をG1、前記共振領域での前記下部電極の平均厚みと前記下部電極の密度との積をG2、前記共振領域において前記圧電層上に設けられた前記上部電極を含む膜の前記共振領域での平均厚みと前記上部電極を含む膜の密度との積をG3とした場合に0<(G3-G2)/G1<0.96を満たす音響反射膜と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた下部電極と、前記下部電極上に設けられた圧電層と、前記圧電層を挟んで前記下部電極と対向する共振領域を形成するように前記圧電層上に設けられた上部電極と、前記共振領域における前記基板と前記下部電極との間に少なくとも設けられ、酸化シリコン膜、マグネシウム膜、アルミニウム膜、およびチタン膜の少なくとも1つを含む1または複数の第1膜と、窒化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、銅膜、酸化アルミニウム膜、金膜、モリブデン膜、タングステン膜、および酸化タンタル膜の少なくとも1つを含む1または複数の第2膜と、が交互に積層され、前記1または複数の第1膜および前記1または複数の第2膜のうち最も前記下部電極に近い膜の前記共振領域での平均厚みと前記近い膜の密度との積をG1、前記共振領域での前記下部電極の平均厚みと前記下部電極の密度との積をG2、前記共振領域において前記圧電層上に設けられた前記上部電極を含む膜の前記共振領域での平均厚みと前記上部電極を含む膜の密度との積をG3とした場合に0<(G3-G2)/G1<0.96を満たす音響反射膜と、を備える弾性波デバイスである。
【0008】
上記構成において、0.1≦(G3-G2)/G1≦0.75を満たす構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、0.3≦(G3-G2)/G1≦0.55を満たす構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記共振領域において前記上部電極は前記下部電極より厚い構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記1または複数の低音響インピーダンス膜は酸化シリコン膜である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記1または複数の低音響インピーダンス膜および前記1または複数の高音響インピーダンス膜のうち最も前記下部電極に近い膜は低音響インピーダンス膜である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記上部電極を含む膜は、前記上部電極と前記上部電極上に設けられた絶縁膜とを含む構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記圧電層は、単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である構成とすることができる。
【0015】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた下部電極と、前記下部電極上に設けられ、単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である圧電層と、前記下部電極下に設けられた空隙上において前記圧電層を挟んで前記下部電極と対向する共振領域を形成するように前記圧電層上に設けられた上部電極と、前記共振領域における前記空隙と前記下部電極との間に少なくとも設けられ、前記共振領域での平均厚みと密度との積をG1、前記共振領域での前記下部電極の平均厚みと前記下部電極の密度との積をG2、前記共振領域において前記圧電層上に設けられた前記上部電極を含む膜の前記共振領域での平均厚みと前記上部電極を含む膜の密度との積をG3とした場合に0<(G3-G2)/G1<1.6を満たす絶縁膜と、を備える弾性波デバイスである。
【0016】
本発明は、上記に記載の弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0017】
本発明は、上記に記載のフィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、2次高調波に起因したスプリアスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、圧電層がニオブ酸リチウム層またはタンタル酸リチウム層である場合の圧電層の結晶方位について示す図である。
【
図3】
図3(a)は、シミュレーションにおける実施例1および比較例1の周波数に対するアドミタンスの絶対値|Y|を示す図、
図3(b)は、
図3(a)の領域Aの拡大図である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、シミュレーションにおける比較例1および実施例1の厚みすべり振動の2次高調波振動の変位を示す図である。
【
図5】
図5(a)は、上部電極の厚さに対する厚みすべり振動の2次高調波に起因するスプリアスの大きさのシミュレーション結果、
図5(b)は、
図5(a)における横軸を式(1)のαに変換した場合の図である。
【
図6】
図6は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図7】
図7(a)は、シミュレーションにおける実施例1の変形例1および比較例2の周波数に対するアドミタンスの絶対値|Y|を示す図、
図7(b)は、
図7(a)の領域Aの拡大図である。
【
図8】
図8は、実施例1の変形例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図9】
図9(a)は、シミュレーションにおける実施例1の変形例2および比較例1の周波数に対するアドミタンスの絶対値|Y|を示す図、
図9(b)は、
図9(a)の領域Aの拡大図である。
【
図10】
図10は、シミュレーションにおける比較例3および比較例4の周波数に対するアドミタンスの絶対値|Y|を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図13】
図13(a)は、上部電極の厚さTに対するスプリアスの大きさのシミュレーション結果、
図13(b)は、
図13(a)における横軸を式(3)のαに変換した場合の図である。
【
図15】
図15は、実施例4に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例0021】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイス100の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(a)では、図の明瞭化のために、付加膜28にハッチングを付している。圧電層14の厚さ方向をZ方向、圧電層14の平面方向のうち共振領域50から下部電極12が引き出される方向を+X方向、上部電極16が引き出される方向を-X方向、X方向に直交する方向をY方向とする。X方向、Y方向、およびZ方向は、圧電層14の結晶方位のX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向とは必ずしも対応しない。
【0022】
図1(a)および
図1(b)に示すように、弾性波デバイス100は、圧電薄膜共振器であり、基板10上に音響反射膜30が設けられ、音響反射膜30上に圧電層14が設けられている。圧電層14の上面および下面は略平坦である。圧電層14の上下に上部電極16および下部電極12が設けられている。上部電極16の厚さは、例えば下部電極12の厚さより厚い。圧電層14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが平面視において重なる領域は共振領域50である。
【0023】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板、またはGaAs基板等である。圧電層14は、例えば単結晶ニオブ酸リチウム層、単結晶タンタル酸リチウム層、窒化アルミニウム層、酸化亜鉛層、チタン酸ジルコン酸鉛層、またはチタン酸鉛層等である。圧電層14の厚さは例えば200nm~1000nm程度である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜である。下部電極12および上部電極16の厚さは例えば20nm~150nm程度である。
【0024】
下部電極12と上部電極16との間に高周波電力が印加されると、共振領域50内の圧電層14に弾性波が励振する。弾性波の波長は圧電層14の厚さのほぼ2倍である。圧電層14が単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である場合、圧電層14には弾性波の変位がZ方向にほぼ直交する方向(すなわち厚さに対して歪み方向)に振動する弾性波が励振される。この振動を厚みすべり振動という。厚みすべり振動の変位の最も大きい方向(厚みすべり振動の変位方向)を厚みすべり振動の振動方向60とする。ここでは、厚みすべり振動の振動方向60はY方向である。下部電極12および上部電極16は、厚みすべり振動の振動方向60に交差(例えば直交)する方向に共振領域50から引き出されている。共振領域50の平面形状は略矩形である。略矩形はほぼ直線の4つの辺を有する。4つの辺のうち一対の辺はY方向に伸び、別の一対の辺はX方向に伸びている。圧電層14が窒化アルミニウム層、酸化亜鉛層、チタン酸ジルコン酸鉛層、またはチタン酸鉛層である場合では、圧電層14には主に厚み縦振動モードの弾性波が励振される。
【0025】
共振領域50は、中央領域54と、中央領域54に対してX方向両側のエッジ領域52と、を有する。エッジ領域52はほぼY方向に伸びている。エッジ領域52のX方向の幅はY方向においてほぼ一定である。エッジ領域52の上部電極16上に付加膜28が設けられている。共振領域50のうちエッジ領域52に挟まれた中央領域54には付加膜28は設けられていない。付加膜28は、下部電極12および上部電極16において例示した金属膜、もしくは、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化タンタル膜、または酸化ニオブ膜等の絶縁膜である。付加膜28の材料は下部電極12および上部電極16の材料と同じでもよいし、異なっていてもよい。付加膜28が設けられることで、ピストンモードが実現される。
【0026】
音響反射膜30は、音響インピーダンスの低い低音響インピーダンス膜31と音響インピーダンスの高い高音響インピーダンス膜32とが交互に設けられている。低音響インピーダンス膜31および高音響インピーダンス膜32の厚さは例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。これにより、音響反射膜30は弾性波を反射する。低音響インピーダンス膜31と高音響インピーダンス膜32の積層数は任意に設定できる。音響反射膜30は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜30の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜30は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。平面視において、音響反射膜30は共振領域50に重なり、音響反射膜30は共振領域50と同じ大きさまたは共振領域50より大きい。
【0027】
低音響インピーダンス膜31は例えば酸化シリコン(SiO2)膜などの誘電体膜であるが、マグネシウム(Mg)膜、アルミニウム(Al)膜、またはチタン(Ti)膜などの金属膜でもよい。金属膜は、複数の低音響インピーダンス膜31のうち下部電極12に接する膜以外に用い、下部電極12に接する膜には誘電体膜を用いる。このように、低音響インピーダンス膜31は、酸化シリコン膜、マグネシウム膜、アルミニウム膜、およびチタン膜の少なくとも1つを含む膜とすることができる。高音響インピーダンス膜32は例えばタングステン(W)膜、銅(Cu)膜、金(Au)膜、またはモリブデン(Mo)膜等の金属膜、もしくは、窒化シリコン(SiN)膜、窒化アルミニウム(AlN)膜、酸化アルミニウム(Al2O3)膜、または酸化タンタル(Ta2O5)膜等の誘電体膜である。このように、高音響インピーダンス膜32は、窒化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、銅膜、酸化アルミニウム膜、金膜、モリブデン膜、タングステン膜、および酸化タンタル膜の少なくとも1つを含む膜とすることができる。音響反射膜30は、例えば下部電極12に最も近い膜が低音響インピーダンス膜31である。
【0028】
付加膜28の厚さをT28とする。上部電極16の厚さをT16とする。圧電層14の厚さをT14とする。下部電極12の厚さをT12とする。平面視において共振領域50に重なる箇所での低音響インピーダンス膜31の厚さをT31とする。平面視において共振領域50に重なる箇所での高音響インピーダンス膜32の厚さをT32とする。上部電極16の厚さT16は、下部電極12の厚さT12より厚くなっている。
【0029】
[結晶方位]
図2(a)および
図2(b)は、圧電層14がニオブ酸リチウム層またはタンタル酸リチウム層である場合の圧電層14の結晶方位について示す図である。
図2(a)および
図2(b)における左側の矢印は圧電層14の結晶軸の方位である。右側の実線矢印は
図1(a)および
図1(b)のX方向、Y方向、およびZ方向に対応する。ここでまず、オイラー角(φ、θ、ψ)の定義について説明する。右手系のXYZ座標系において、圧電層14の上面の法線方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向であって圧電層14の上面の面方向で互いに直交する方向をX方向およびY方向とする。まず、X方向、Y方向、およびZ方向をそれぞれ結晶方位のX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向とする。次に、Z方向を中心に+X方向から+Y方向に角度φ回転させる。角度φ回転後のX方向を中心に+Y方向から+Z方向に角度θ回転させる。角度θ回転後のZ方向を中心に+X方向から+Y方向に角度ψ回転させる。このように回転させたときのオイラー角は(φ、θ、ψ)となる。なお、(φ、θ、ψ)を用い表現されるオイラー角は、等価なオイラー角を含む。
【0030】
図2(a)に示すように、+X方向、+Y方向、および+Z方向をそれぞれ結晶方位の+X軸方向、+Y軸方向、および+Z軸方向とする。
図2(b)に示すように、
図2(a)の状態から、X方向を中心にYZ平面上において+Y方向および+Z方向を+Y方向から-Z方向に105°回転させる。このように回転させると、結晶方位の+Z軸方向を+Y軸方向に向かって105°回転させた方向が+Z方向となる。このとき、Y方向が厚みすべり振動の振動方向60となる。オイラー角では(0°、-105°、0°)となる。
【0031】
圧電層14の上面の法線方向(Z方向)はY軸Z軸平面内の方向である。これにより、圧電層14の平面方向に厚みすべり振動が生じる。X軸方向は、圧電層14の平面方向から±5°の範囲内とすることが好ましく、±1°の範囲内とすることがより好ましい。圧電層14の上面の法線方向(Z方向)を結晶方位の+Z軸方向を+Y軸方向に向かって105°回転した方向とする。これにより、厚みすべり振動の振動方向60およびその直交方向が圧電層14の平面方向となる。+Z方向は、+Z軸方向を+Y軸方向に向かって105°回転した方向から±5°の範囲内とすることが好ましく、±1°の範囲内とすることがより好ましい。オイラー角では(0°±5°、-105°±5°、0°±5)とすることが好ましい。
【0032】
[シミュレーション]
実施例1および比較例1についてシミュレーションを行った。実施例1は、上述したように、上部電極16の厚さT16が下部電極12の厚さT12より厚い。一方、比較例1は、上部電極16の厚さT16と下部電極12の厚さT12とが同じ厚さとなっている。シミュレーション条件は以下である。
実施例1および比較例1の共通の条件
弾性波の波長λ:圧電層14の厚さT14の2倍
付加膜28:厚さT28が65nmの酸化シリコン膜
圧電層14:厚さT14が470nmのニオブ酸リチウム層(結晶方位のX軸方向がX方向であり、+Z軸方向を+Y軸方向に向かって105°回転させた方向が+Z方向である)
下部電極12:厚さT12が47nmのアルミニウム膜
低音響インピーダンス膜31:厚さT31が192nmの酸化シリコン(SiO2)膜
高音響インピーダンス膜32:厚さT32が151nmのタングステン膜
X方向の条件:共振領域50のX方向の幅を30λとする。
Y方向の条件:Y方向の幅を0.5λとし、境界条件は無限に連続とする。
実施例1の条件
上部電極16:厚さT16が100nmのアルミニウム膜
比較例1の条件
上部電極16:厚さT16が47nmのアルミニウム膜
【0033】
図3(a)は、シミュレーションにおける実施例1および比較例1の周波数に対するアドミタンスの絶対値|Y|を示す図、
図3(b)は、
図3(a)の領域Aの拡大図である。アドミタンスの絶対値|Y|では、共振周波数frおよび反共振周波数faのピークが観察される。
図3(a)および
図3(b)に示すように、比較例1では、反共振周波数faより高い周波数においてスプリアス80が発生した。比較例1におけるスプリアス80の大きさは約18dBであった。一方、実施例1では、比較例1に比べて、反共振周波数faより高い周波数におけるスプリアス80が低減された。実施例1におけるスプリアス80の大きさは約1dBであった。スプリアス80は、詳しくは後述するが、厚みすべり振動の2次高調波に起因したものであると考えられる。なお、比較例1および実施例1において、スプリアス80より低い周波数においてスプリアス81が発生している。スプリアス81は、厚み縦振動の2次高調波に起因したものであると考えられる。
【0034】
図4(a)および
図4(b)は、シミュレーションにおける比較例1および実施例1の厚みすべり振動の2次高調波振動82の変位を示す図である。
図4(a)および
図4(b)において、横方向は2次高調波振動82の変位方向であり、2次高調波振動82の横方向への振幅が大きいほど変位が大きいことが示されている。縦方向は基板10上に形成された音響反射膜30、下部電極12、圧電層14、および上部電極16の積層方向である。
図4(b)は、図の明瞭化のために、
図4(a)と比べて横方向のスケールを3倍にして図示している。なお、
図4(a)および
図4(b)において、2次高調波振動82の変位方向が反対となっているのは、入力された高周波信号の振幅が反対のときを図示しているためである。
【0035】
図4(a)に示すように、比較例1では、2次高調波振動82は、下部電極12と圧電層14との間の境界83と、上部電極16と圧電層14との間の境界84と、で変位がずれた結果であった。これは、音響反射膜30は、基本波に対して設計されているため、2次高調波に対しては反射膜として機能し難くなる。このため、2次高調波は、上部電極16側では上部電極16上の空気層により反射されるに対し、下部電極12側では音響反射膜30で反射され難いことから、上下でのバランスが崩れたためと考えられる。
【0036】
図4(b)に示すように、実施例1では、比較例1に比べて、下部電極12と圧電層14との間の境界83での2次高調波振動82の変位と、上部電極16と圧電層14との間の境界84での2次高調波振動82の変位と、のずれが小さくなった。これは、上部電極16の厚さT16を下部電極12の厚さT12より厚くしたことで、2次高調波の上部電極16側と下部電極12側とでのバランスが改善されたためと考えられる。
【0037】
このように、比較例1では、下部電極12と圧電層14との間の境界83での2次高調波振動82の変位と、上部電極16と圧電層14との間の境界84での2次高調波振動82の変位と、のずれが大きいために、
図3(b)のように、大きなスプリアス80が発生したと考えられる。一方、実施例1では、下部電極12と圧電層14との間の境界83での2次高調波振動82の変位と、上部電極16と圧電層14との間の境界84での2次高調波振動82の変位と、のずれが小さくなったために、
図3(b)のように、スプリアス80が低減されたと考えられる。このように、比較例1および実施例1で発生したスプリアス80は厚みすべり振動の2次高調波に起因したものであると考えられる。
【0038】
表1は、シミュレーションにおける比較例1および実施例1の各層の厚さ(平均厚さ)、各層の材料と密度、および各層の単位面積当たりの重さを示している。単位面積当たりの重さは、(平均厚さ×密度)により算出している。なお、付加膜28は、共振領域50のエッジ領域52に設けられ、幅が共振領域50に対して十分狭いことから、2次高調波への影響が小さい。このため、表1では付加膜28については省略している(以下の同様な表においても同じ)。
【表1】
【0039】
表1に示すように、比較例1では、上部電極16は厚さT16が47nmのアルミニウム膜であるため、単位面積当たりの重さは0.1269g/m2である。圧電層14は厚さT14が470nmのニオブ酸リチウム層であるため、単位面積当たりの重さは2.1855g/m2である。下部電極12は厚さT12が47nmのアルミニウム膜であるため、単位面積当たりの重さは0.1269g/m2である。低音響インピーダンス膜31は厚さT31が192nmの酸化シリコン膜であるため、単位面積当たりの重さは0.4224g/m2である。高音響インピーダンス膜32は厚さT32が151nmのタングステン膜であるため、単位面積当たりの重さは2.6878g/m2である。
【0040】
一方、実施例1では、上部電極16は厚さT16が100nmのアルミニウム膜であるため、単位面積当たりの重さは0.27g/m2である。圧電層14、下部電極12、低音響インピーダンス膜31、および高音響インピーダンス膜32の単位面積当たりの重さについては、比較例1と同じである。
【0041】
図4(a)および
図4(b)のように、音響反射膜30を構成する複数の低音響インピーダンス膜31および複数の高音響インピーダンス膜32のうち最も下部電極12に近い低音響インピーダンス膜31は他の膜に比べて2次高調波振動82の変位が大きい。したがって、下部電極12に最も近い低音響インピーダンス膜31は2次高調波に対する影響が大きいと考えられる。以下において、下部電極12に最も近い低音響インピーダンス膜31を低音響インピーダンス膜31aとする。
【0042】
実施例1では、
図4(b)のように、下部電極12と圧電層14との間の境界83での2次高調波振動82の変位と、上部電極16と圧電層14との間の境界84での2次高調波振動82の変位と、のずれが小さい。弾性波は各層の重さの影響を受けることから、境界83と境界84とでの2次高調波振動82の変位のずれが小さいことは、上部電極16側の重さと下部電極12側の重さとが2次高調波にとって同程度になっていると考えられる。
【0043】
下部電極12に最も近い低音響インピーダンス膜31aは2次高調波に対する影響が大きいことから、下部電極12側の重さは下部電極12の単位面積当たりの重さと低音響インピーダンス膜31aの単位面積当たりの重さとの和を考える。付加膜28は2次高調波に対する影響が小さいことから、上部電極16側の重さは上部電極16の単位面積当たりの重さを考える。この場合、上部電極16の単位面積当たりの重さは0.27g/m2、下部電極12の単位面積当たりの重さと低音響インピーダンス膜31aの単位面積当たりの重さとの和は0.1269+0.4224=0.5493g/m2となり、上部電極16側の重さと下部電極12側の重さとが大きく異なってしまう。このことから、2次高調波に対しては低音響インピーダンス膜31aの一部のみが影響していると考え、共振領域50での各層の単位面積当たりの重さに関して以下の式(1)を仮定した。
上部電極16の単位面積当たりの重さ=下部電極12の単位面積当たりの重さ+(低音響インピーダンス膜31aの単位面積当たりの重さ×α)・・・(1)
【0044】
実施例1において、式(1)から、0.27=0.1269+(0.4224×α)となり、αは約0.34となる。したがって、低音響インピーダンス膜31aの厚さ192nmのうち0.34倍の約66nmが2次高調波に対して大きく影響していると考えられる。
【0045】
上記シミュレーションは、3.7GHzの周波数帯を対象とし、下部電極12および上部電極16がアルミニウム膜である場合について行った。以下に、周波数帯または下部電極12と上部電極16の材料を異ならせた場合のシミュレーション結果を示す。表2は3.0GHzの周波数帯を対象とした場合、表3は4.7GHzの周波数帯を対象とした場合における、実施例1の各層の厚さ(平均厚さ)、各層の材料と密度、および各層の単位面積当たりの重さを示している。
【0046】
【表2】
表2に示すように、3.0GHzの周波数帯を対象とした場合、上部電極16の厚さT16が125nm、圧電層14の厚さT14が587.5nm、下部電極12の厚さT12が58.7nm、低音響インピーダンス膜31の厚さT31が240nm、高音響インピーダンス膜32の厚さT32が190nmである場合に、厚みすべり振動の2次高調波に起因するスプリアス80が低減された。この場合、式(1)から、0.3375=0.15849+(0.528×α)となり、αは約0.34となった。したがって、下部電極12に最も近い低音響インピーダンス膜31aの厚さ240nmのうち0.34倍の約82nmが2次高調波に対して大きく影響していると考えられる。
【0047】
【表3】
表3に示すように、4.7GHzの周波数帯を対象とした場合、上部電極16の厚さT16が80nm、圧電層14の厚さT14が366nm、下部電極12の厚さT12が36nm、低音響インピーダンス膜31の厚さT31が150nm、高音響インピーダンス膜32の厚さT32が118nmである場合に、厚みすべり振動の2次高調波に起因するスプリアス80が低減された。この場合、式(1)から、0.216=0.0972+(0.33×α)となり、αは0.36となった。したがって、下部電極12に最も近い低音響インピーダンス膜31aの厚さ150nmのうち0.36倍の54nmが2次高調波に対して大きく影響していると考えられる。
【0048】
表4は下部電極12および上部電極16にチタン膜を用いた場合、表5は下部電極12および上部電極16にルテニウム膜を用いた場合における、実施例1の各層の厚さ(平均厚さ)、各層の材料と密度、および各層の単位面積当たりの重さを示している。
【0049】
【表4】
表4に示すように、下部電極12および上部電極16にチタン膜を用いた場合、上部電極16の厚さT16が80nm、圧電層14の厚さT14が470nm、下部電極12の厚さT12が47nm、低音響インピーダンス膜31の厚さT31が192nm、高音響インピーダンス膜32の厚さT32が151nmである場合に、厚みすべり振動の2次高調波に起因するスプリアス80が低減された。この場合、式(1)から、0.36048=0.211782+(0.4224×α)となり、αは約0.35となった。したがって、下部電極12に最も近い低音響インピーダンス膜31aの厚さ192nmのうち0.35倍の約68nmが2次高調波に対して大きく影響していると考えられる。
【0050】
【表5】
表5に示すように、下部電極12および上部電極16にルテニウム膜を用いた場合、上部電極16の厚さT16が58nm、圧電層14の厚さT14が470nm、下部電極12の厚さT12が47nm、低音響インピーダンス膜31の厚さT31が192nm、高音響インピーダンス膜32の厚さT32が151nmである場合に、厚みすべり振動の2次高調波に起因するスプリアス80が低減された。この場合、式(1)から、0.71746=0.58139+(0.4224×α)となり、αは約0.32となった。したがって、下部電極12に最も近い低音響インピーダンス膜31aの厚さ192nmのうち0.32倍の約62nmが2次高調波に対して大きく影響していると考えられる。
【0051】
このように、対象とする周波数帯、並びに、下部電極12および上部電極16の材料が異なる場合でも、式(1)におけるαの値はほとんど同じ値となった。
【0052】
次に、3.7GHzの周波数帯を対象とし、下部電極12および上部電極16にルテニウム膜を用いた場合について、上部電極16の厚さT16とスプリアス80の大きさとの関係をシミュレーションにより求めた。シミュレーション条件は以下である。
弾性波の波長λ:圧電層14の厚さT14の2倍
付加膜28:厚さT28が65nmの酸化シリコン膜
上部電極16:厚さT16を47nm~80nmの間で振ったルテニウム膜
圧電層14:厚さT14が470nmのニオブ酸リチウム層(結晶方位のX軸方向がX方向であり、+Z軸方向を+Y軸方向に向かって105°回転させた方向が+Z方向である)
下部電極12:厚さT12が47nmのルテニウム膜
低音響インピーダンス膜31:厚さT31が192nmの酸化シリコン(SiO2)膜
高音響インピーダンス膜32:厚さT32が151nmのタングステン膜
X方向の条件:共振領域50のX方向の幅を30λとする。
Y方向の条件:Y方向の幅を0.5λとし、境界条件は無限に連続とする。
【0053】
図5(a)は、上部電極16の厚さT16に対する厚みすべり振動の2次高調波に起因するスプリアス80の大きさのシミュレーション結果である。
図5(b)は、
図5(a)における横軸を式(1)のαに変換した場合の図である。
図5(b)において、α=0のときが、下部電極12の厚さT12と上部電極16の厚さT16がともに47nmと等しくなっている場合である。
【0054】
図5(a)に示すように、上部電極16の厚さT16が47nmより大きくかつ80nmより小さい場合に、上部電極16の厚さT16が下部電極12の厚さT12と等しい47nmの場合に比べて、スプリアス80が低減した。上部電極16の厚さT16が60nm付近までは、上部電極16の厚さT16が大きくなるに従いスプリアス80は小さくなっていったが、60nmを超えると、上部電極16の厚さT16が大きくなるに従いスプリアス80は大きくなっていった。
【0055】
図5(b)に示すように、式(1)のαの値でみると、αが0より大きくかつ0.96より小さい場合に、αが0の場合に比べて、スプリアス80は低減した。αが0.4程度までは、αが大きくなるに従いスプリアス80は小さくなっていったが、αが0.4を超えると、αが大きくなるに従いスプリアス80は大きくなっていった。
【0056】
したがって、実施例1では、式(1)から求まるαの値が0<α<0.96となるように、上部電極16の厚さを調整する。これにより、スプリアス80を低減することができる。
【0057】
図5(a)および
図5(b)は、3.7GHzの周波数帯を対象とし、下部電極12および上部電極16にルテニウム膜を用いた場合のシミュレーション結果である。しかしながら、表2から表5のように、対象とする周波数帯並びに下部電極12および上部電極16の材料が異なる場合でもαの値はほとんど変わらないことから、周波数帯および材料が異なる場合でも、0<α<0.96となるようにすることでスプリアス80を低減できると考えられる。
【0058】
[変形例1]
図6は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイス110の断面図である。
図6に示すように、弾性波デバイス110では、下部電極12は、第1層12aと、第1層12a上に設けられた第2層12bと、第2層12b上に設けられた第3層12cと、を有する。上部電極16は、第1層16aと、第1層16a上に設けられた第2層16bと、第2層16b上に設けられた第3層16cと、を有する。例えば、上部電極16の第1層16aの厚さT16aは下部電極12の第1層12aの厚さT12aより厚い。上部電極16の第2層16bの厚さT16bは下部電極12の第2層12bの厚さT12bとほぼ同じである。上部電極16の第3層16cの厚さT16cは下部電極12の第3層12cの厚さT12cより厚い。これにより、上部電極16の厚さT16は下部電極12の厚さT12より厚くなっている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0059】
[シミュレーション]
実施例1の変形例1および比較例2についてシミュレーションを行った。実施例1の変形例1は、上述したように、上部電極16と下部電極12は、第1層16aの厚さT16aが第1層12aの厚さT12aより厚く、第2層16bの厚さT16bと第2層12bの厚さT12bとは同じで、第3層16cの厚さT16cは第3層12cの厚さT12cより厚くなっている。一方、比較例2は、上部電極16と下部電極12において、第1層16aの厚さT16aと第1層12aの厚さT12aとは同じで、第2層16bの厚さT16bと第2層12bの厚さT12bとは同じで、第3層16cの厚さT16cと第3層12cの厚さT12cとは同じになっている。
【0060】
シミュレーション条件は以下である。
実施例1の変形例1および比較例2の共通の条件
弾性波の波長λ:圧電層14の厚さT14の2倍
付加膜28:厚さT28が65nmの酸化シリコン膜
圧電層14:厚さT14が470nmのニオブ酸リチウム層(結晶方位のX軸方向がX方向であり、+Z軸方向を+Y軸方向に向かって105°回転させた方向が+Z方向である)
下部電極12の第3層12c:厚さT12cが23.5nmのアルミニウム膜
下部電極12の第2層12b:厚さT12bが52nmのチタン膜
下部電極12の第1層12a:厚さT12aが23.5nmのアルミニウム膜
低音響インピーダンス膜31:厚さT31が192nmの酸化シリコン(SiO2)膜
高音響インピーダンス膜32:厚さT32が151nmのタングステン膜
X方向の条件:共振領域50のX方向の幅を30λとする。
Y方向の条件:Y方向の幅を0.5λとし、境界条件は無限に連続とする。
実施例1の変形例1の条件
上部電極16の第3層16c:厚さT16cが47.5nmのアルミニウム膜
上部電極16の第2層16b:厚さT16bが52nmのチタン膜
上部電極16の第1層16a:厚さT16aが47.5nmのアルミニウム膜
比較例2の条件
上部電極16の第3層16c:厚さT16cが23.5nmのアルミニウム膜
上部電極16の第2層16b:厚さT16bが52nmのチタン膜
上部電極16の第1層16a:厚さT16aが23.5nmのアルミニウム膜
【0061】
図7(a)は、シミュレーションにおける実施例1の変形例1および比較例2の周波数に対するアドミタンスの絶対値|Y|を示す図、
図7(b)は、
図7(a)の領域Aの拡大図である。
図7(a)および
図7(b)に示すように、比較例2では、反共振周波数faより高い周波数においてスプリアス80が発生した。一方、実施例1の変形例1では、比較例2に比べて、反共振周波数faより高い周波数におけるスプリアス80が低減された。
【0062】
このように、下部電極12および上部電極16が複数の層の積層膜である場合でも、上部電極16の厚さT16を下部電極12の厚さT12より厚くすることで、スプリアス80が低減された。
【0063】
表6は、シミュレーションにおける実施例1の変形例1の各層の厚さ(平均厚さ)、各層の材料と密度、および各層の単位面積当たりの重さを示している。
【表6】
【0064】
表6に示すように、実施例1の変形例1では、式(1)から、(0.12825+0.234312+0.12825)=(0.06345+0.234312+0.06345)+(0.4224×α)となり、αは約0.31となる。したがって、低音響インピーダンス膜31aの厚さ192nmのうち0.31倍の約60nmが2次高調波に対して大きく影響していると考えられる。このように、下部電極12および上部電極16が複数の層の積層膜の場合でも、式(1)におけるαの値は下部電極12および上部電極16が積層膜でない場合とほとんど同じ値となった。したがって、実施例1の変形例1においても、0<α<0.96となるようにすることでスプリアス80を低減できると考えられる。
【0065】
[変形例2]
図8は、実施例1の変形例2に係る弾性波デバイス120の断面図である。
図8に示すように、弾性波デバイス120では、上部電極16上に絶縁膜18が設けられている。絶縁膜18は、共振領域50の中央領域54からエッジ領域52にわたって上部電極16上に設けられている。すなわち、絶縁膜18は、共振領域50の全体にわたって上部電極16上に設けられている。付加膜28は絶縁膜18上に設けられている。絶縁膜18は、例えば酸化シリコン膜または窒化シリコン膜等である。絶縁膜18の厚さT18は、例えば30nm~100nm程度である。上部電極16の厚さT16と下部電極12の厚さT12とは、ほぼ同じとなっている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0066】
[シミュレーション]
実施例1の変形例2についてシミュレーションを行った。シミュレーション条件は以下であり、絶縁膜18以外は上述した比較例1のシミュレーション条件と同じである。
実施例1の変形例2の条件
弾性波の波長λ:圧電層14の厚さT14の2倍
付加膜28:厚さT28が65nmの酸化シリコン膜
絶縁膜18:厚さT18が65nmの酸化シリコン(SiO2)膜
上部電極16:厚さT16が47nmのアルミニウム膜
圧電層14:厚さT14が470nmのニオブ酸リチウム層(結晶方位のX軸方向がX方向であり、+Z軸方向を+Y軸方向に向かって105°回転させた方向が+Z方向である)
下部電極12:厚さT12が47nmのアルミニウム膜
低音響インピーダンス膜31:厚さT31が192nmの酸化シリコン(SiO2)膜
高音響インピーダンス膜32:厚さT32が151nmのタングステン膜
X方向の条件:共振領域50のX方向の幅を30λとする。
Y方向の条件:Y方向の幅を0.5λとし、境界条件は無限に連続とする。
【0067】
図9(a)は、シミュレーションにおける実施例1の変形例2および比較例1の周波数に対するアドミタンスの絶対値|Y|を示す図、
図9(b)は、
図9(a)の領域Aの拡大図である。
図9(a)および
図9(b)に示すように、実施例1の変形例2では、比較例1に比べて、スプリアス80が低減された。このように、上部電極16の厚さT16と下部電極12の厚さT12とが同じ大きさの場合でも、上部電極16上に絶縁膜18が設けられることで、スプリアス80が低減された。
【0068】
表7は、シミュレーションにおける実施例1の変形例2の各層の厚さ(平均厚さ)、各層の材料と密度、および各層の単位面積当たりの重さを示している。
【表7】
【0069】
実施例1の変形例2では、実施例1および実施例1の変形例1と比べて、上部電極16上に絶縁膜18が設けられているとの違いがあることから、上記の式(1)の代わりに、共振領域50での各層の単位面積当たりの重さに関する以下の式(2)を仮定した。
上部電極16の単位面積当たりの重さ+絶縁膜18の単位面積当たりの重さ=下部電極12の単位面積当たりの重さ+(低音響インピーダンス膜31aの単位面積当たりの重さ×α)・・・(2)
【0070】
実施例1の変形例2において、式(2)から、0.1269+0.143=0.1269+(0.4224×α)となり、αは約0.34となった。このように、上部電極16上に絶縁膜18が設けられている場合には式(2)を用いることで、αの値は上記の式(1)におけるαの値とほとんど同じ値となった。したがって、実施例1の変形例2においても、式(2)におけるαの値が0<α<0.96となるようにすることでスプリアス80を低減できると考えられる。
【0071】
以上のように、実施例1およびその変形例1によれば、式(1)から求まるαの値を0<α<0.96の範囲内にする。実施例1の変形例2によれば、式(2)から求まるαの値を0<α<0.96の範囲内にする。すなわち、下部電極12に最も近い低音響インピーダンス膜31aの共振領域50での単位面積当たりの重さ(平均厚さ×密度)をG1とし、共振領域50での下部電極12の単位面積当たりの重さ(平均厚さ×密度)をG2とする。共振領域50において圧電層14上に設けられた上部電極16を含む膜(実施例1およびその変形例1では上部電極16、実施例1の変形例2では上部電極16と絶縁膜18の積層膜)の共振領域50での単位面積当たりの重さ(平均厚さ×密度)をG3とする。この場合に、0<(G3-G2)/G1<0.96となるようにする。これにより、スプリアス80を低減することができる。
【0072】
なお、実施例1およびその変形例では、付加膜28は2次高調波に対する影響が小さいため、共振領域50において圧電層14上に設けられた上部電極16を含む膜に付加膜28を加えていないが、付加膜28を加える場合でもよい。この場合でも、付加膜28は共振領域50の大きさに対して十分小さいことから、共振領域50において圧電層14上に設けられた上部電極16を含む膜の共振領域50での単位面積当たりの重さG3は、付加膜28の有無でほとんど変わらない。
【0073】
図5(b)のように、αが0.1以上0.75以下の場合に、スプリアス80の大きさは3dB以下になった。
図3(b)のように、実施例1において、厚み縦振動の2次高調波に起因するスプリアス81の大きさは3dB程度である。このことから、αが0.1以上0.75以下の場合に、厚みすべり振動の2次高調波に起因するスプリアス80の大きさを厚み縦振動の2次高調波に起因するスプリアス81の大きさ以下にできる。すなわち、0.1≦(G3-G2)/G1≦0.75にすることで、厚みすべり振動の2次高調波に起因するスプリアス80の大きさを厚み縦振動の2次高調波に起因するスプリアス81の大きさ以下にできる。
【0074】
図5(b)のように、αが0.15以上0.7以下の場合に、スプリアス80の大きさは2dB程度以下となり、αが0.25以上0.65以下の場合に、スプリアス80の大きさは1dB程度以下となった。αが0.3以上0.55以下の場合に、スプリアス80の大きさは0.5dB程度以下となった。したがって、スプリアス80を低減する点から、0.15≦(G3-G2)/G1≦0.7にすることが好ましく、0.25≦(G3-G2)/G1≦0.65にすることがより好ましく、0.3≦(G3-G2)/G1≦0.55にすること更に好ましい。
【0075】
また、実施例1およびその変形例1では、
図1(b)および
図6のように、共振領域50において上部電極16は下部電極12より厚い。これにより、0<(G3-G2)/G1<0.96にすることを容易に実現できる。
【0076】
また、実施例1およびその変形例1、2では、低音響インピーダンス膜31は酸化シリコン膜である。この場合、
図3(b)、
図7(b)、および
図9(b)のシミュレーション結果のように、スプリアス80が低減した。なお、0<(G3-G2)/G1<0.96となるようにすれば、低音響インピーダンス膜31が酸化シリコン膜以外の誘電体膜の場合でも、スプリアス80を低減できると考えられる。
【0077】
また、実施例1およびその変形例1では、
図1(b)および
図6のように、上部電極16上に絶縁膜18が設けられてなく、共振領域50の中央領域54からエッジ領域52にわたって圧電層14上に設けられた膜は上部電極16のみである。実施例1の変形例2では、
図8のように、上部電極16上に絶縁膜18が設けられていて、共振領域50の中央領域54からエッジ領域52にわたって圧電層14上に設けられた膜は上部電極16と上部電極16上に設けられた絶縁膜18との積層膜である。いずれの場合であっても、0<(G3-G2)/G1<0.96となるようにすることで、スプリアス80を低減できる。
【0078】
[シミュレーション]
圧電層14にニオブ酸リチウム層を用いた場合と窒化アルミニウム層を用いた場合とにおいて、反共振周波数より高い周波数のスプリアスを評価するシミュレーションを行った。シミュレーションは、
図1(a)および
図1(b)と同様のモデルを用い、圧電層14にニオブ酸リチウム層を用いた比較例3と、圧電層14に窒化アルミニウム層を用いた比較例4と、に対して行った。シミュレーション条件は以下である。
比較例3の条件
弾性波の波長λ:圧電層14の厚さT14の2倍
付加膜28:厚さT28が65nmの酸化シリコン膜
上部電極16:厚さT16が47nmのアルミニウム膜
圧電層14:厚さT14が470nmのニオブ酸リチウム層(結晶方位のX軸方向がX方向であり、+Z軸方向を+Y軸方向に向かって105°回転させた方向が+Z方向である)
下部電極12:厚さT12が47nmのアルミニウム膜
低音響インピーダンス膜31:厚さT31が192nmの酸化シリコン膜
高音響インピーダンス膜32:厚さT32が151nmのタングステン膜
X方向の条件:共振領域50のX方向の幅を30λとする。
Y方向の条件:Y方向の幅を0.5λとし、境界条件は無限に連続とする。
比較例4の条件
弾性波の波長λ:圧電層14の厚さT14の2倍
付加膜28:なし
上部電極16:厚さT16が168nmのルテニウム膜とクロム膜の積層膜(厚さ148nmのルテニウム膜上に厚さ20nmのクロム膜)
圧電層14:厚さT14が520nmの窒化アルミニウム層
下部電極12:厚さT12が176nmのルテニウム膜とクロム膜の積層膜(厚さ55nmのクロム膜上に厚さ121nmのルテニウム膜)
低音響インピーダンス膜31:厚さT31が235nmの酸化シリコン膜
高音響インピーダンス膜32:厚さT32が520nmのタングステン膜
X方向の条件:共振領域50のX方向の幅を70λとする。
Y方向の条件:Y方向の幅を0.5λとし、境界条件は無限に連続とする。
【0079】
図10は、シミュレーションにおける比較例3および比較例4の周波数に対するアドミタンスの絶対値|Y|を示す図である。
図10に示すように、圧電層14にニオブ酸リチウム層を用いた比較例3は、圧電層14に窒化アルミニウム層を用いた比較例4と比べて、反共振周波数faより高い周波数において大きなスプリアスが発生した。このことから、厚みすべり振動モードの弾性波を励振するニオブ酸リチウム層を圧電層14に用いた場合は、厚み縦振動モードの弾性波を主に励振する窒化アルミニウム層を圧電層14に用いた場合に比べて、大きなスプリアスが発生することが分かる。
【0080】
したがって、厚みすべり振動モードの弾性波を励振する単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層を圧電層14に用いた場合、高い周波数において大きなスプリアスが発生しやすいことから、この場合に、実施例1およびその変形例1、2のように、0<(G3-G2)/G1<0.96となるようにすることが好ましい。
【0081】
なお、0<(G3-G2)/G1<0.96にすることで、2次高調波の上部電極16側と下部電極12側とでのバランスが改善されることから、圧電層14に厚み縦振動モードの弾性波を主に励振する窒化アルミニウム層等を用いた場合でも、2次高調波に起因するスプリアスを低減する効果は得られると考えられる。
【0082】
なお、実施例1およびその変形例1、2では、上部電極16は共振領域50を完全に覆うように圧電層14上に設けられている場合を例に示したが、この場合に限られない。
図11(a)から
図11(d)は、上部電極16の他の例を示す平面図である。なお、
図11(a)から
図11(d)では、図の明瞭化のために、上部電極16にハッチングを付している。
図11(a)から
図11(d)のように、0<(G3-G2)/G1<0.96となることを満たせば、上部電極16に円形状または矩形状等の開口20が設けられていてもよい。開口20は、上部電極16を貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。開口20は、規則的に設けられていてもよいし、不規則に設けられていてもよい。
付加膜28の厚さをT28とする。上部電極16の厚さをT16とする。圧電層14aの厚さをT14aとする。下部電極12の厚さをT12とする。絶縁膜22の厚さをT22とする。上部電極16の厚さT16は、下部電極12の厚さT12より厚くなっている。
したがって、実施例2では、式(3)から求まるαの値が0<α<0.96となるように、上部電極16の厚さT16を調整する。これにより、スプリアスを低減することができる。
以上のように、実施例2によれば、式(3)から求まるαの値を0<α<1.6の範囲内にする。すなわち、共振領域50での絶縁膜22の単位面積当たりの重さ(平均厚さ×密度)をG1とし、共振領域50での下部電極12の単位面積当たりの重さ(平均厚さ×密度)をG2とする。共振領域50において圧電層14上に設けられた上部電極16を含む膜(実施例2では上部電極16)の共振領域50での単位面積当たりの重さ(平均厚さ×密度)をG3とする。この場合に、0<(G3-G2)/G1<1.6となるようにする。これにより、スプリアスを低減することができる。