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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025043
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】天然イモゴライトの分離・精製方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/26 20060101AFI20240216BHJP
   B07B 1/00 20060101ALI20240216BHJP
   B03B 5/00 20060101ALI20240216BHJP
   B03B 7/00 20060101ALI20240216BHJP
   B03B 5/28 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C01B33/26
B07B1/00 B
B03B5/00 Z
B03B7/00
B03B5/28 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128144
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】393003837
【氏名又は名称】株式会社アステック
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】和田 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】家永 陽二郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 愛
(72)【発明者】
【氏名】松岡 哲也
【テーマコード(参考)】
4D021
4D071
4G073
【Fターム(参考)】
4D021AA03
4D021DB20
4D021EA10
4D021EB01
4D071AA02
4D071AA62
4D071AB15
4D071AB23
4D071CA01
4D071CA03
4D071DA20
4G073BA02
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA75
4G073BD18
4G073BD21
4G073CE01
4G073FB46
4G073FD05
4G073FD20
4G073FD25
4G073GB08
(57)【要約】
【課題】イモゴライトの分離・精製に関する上記のような問題を解決しようとするものであり、皮膜状イモゴライトを含む風化浮石層において、目視観察によらずにイモゴライト含有量の高い部分を選択的に採取し、採取された部分の風化軽石粒子から皮膜状イモゴライトを分離して集め、集められた皮膜状イモゴライトから、イモゴライト自身の損失を避けながら、皮膜に包含された軽石粒子やその他の二次鉱物粒子を効率よく除去することができるようなイモゴライトの分離・精製方法を提供すること。
【解決手段】掘削した風化浮石を、目開きが浮石粒子の平均直径の10倍ないしそれ以上の大きさの格子からなる篩で、篩別することによって、イモゴライト含有量が相対的に高い部位を選別することを特徴とするイモゴライトの分離・精製方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削した風化浮石を、目開きが浮石粒子の平均直径の10倍ないしそれ以上の大きさの格子からなる篩で、篩別することによって、イモゴライト含有量が相対的に高い部位を選別することを特徴とするイモゴライトの分離・精製方法。
【請求項2】
請求項1に記載する篩別で、前記篩を通過しなかった風化軽石集合体を、水中で解きほぐした後、撹拌した後、放置し、上澄み部分を前記篩に通すことによって皮膜状イモゴライトを採集することを特徴とするイモゴライトの分離・精製方法。
【請求項3】
請求項2に記載される工程で、前記篩上に捕集された皮膜状イモゴライトを、ローラー間の間隔0.1mm~0.5mmの1対のローラーで圧砕した後、前記篩上で洗浄することを特徴とするイモゴライトの分離・精製方法。
【請求項4】
請求項3の工程を経た皮膜状イモゴライトを、クエン酸ナトリウムの存在下、炭酸水素ナトリウムでpHを7.0~7.5に調節した後、
亜二チオン酸ナトリウムで酸化水酸化鉄及び二酸化マンガンを除去し、
引き続いて過酸化水素処理によって、クエン酸イオン、亜二チオン酸イオンおよび元々含まれていた腐植物質を含む有機物を除去することを特徴とするイモゴライトの分離・精製方法。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載される工程で使用される水のpHを9以上に保ち、水のイオン強度を0.01mol/L以上に保つことを特徴とするイモゴライトの分離・精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風化した火山放出物堆積層から皮膜状のイモゴライトを分離し精製する天然イモゴライトの分離・精製方法することに関する。
ここで本発明における皮膜状のイモゴライトの「分離」とは、風化した火山放出物堆積層を構成成分である風化した火山灰粒子、風化した浮石粒子、風化の過程で生成したイモゴライト以外の二次鉱物の大部分が混入しないようにして、皮膜状のイモゴライトを取り出すことを指す。
また、皮膜状のイモゴライトの「精製」とは、皮膜状イモゴライトから、それに包含された火山灰粒子、軽石粒子、風化の過程で生成したイモゴライト以外の二次鉱物の大部分を除去することを指す。
【背景技術】
【0002】
イモゴライトは AlSiO(OH)という化学組成を持つアルミニウムケイ酸塩であり、その構造単位は、内径約1nm、外径約2nmの中空管状という特異な形態を持つ。この中空管の外側にはアルミニウムに配位したヒドロキシ基が、そして内側にはケイ素に配位したヒドロキシ基が露出・整列している。そのため、内表面、外表面共に親水性である。
【0003】
特許文献1には、この特異な形態と表面の性質を利用し、親水性高分子と複合させて含水性エラストマーを製造する方法が記載されている。また特許文献2には、イモゴライトを充填した耐圧容器をメタン貯蔵に用いることができることが記載されている。さらに特許文献3には、イモゴライトは電場応答性強誘電性液晶として利用可能なことが記載されている。
【0004】
このようにイモゴライトは、無機物からなる中空ナノチューブという特性を利用した産業利用が可能である。しかし、イモゴライトは風化した火山放出物堆積層には広く分布するものの、その含有量が極めて低いため天然のイモゴライトを採集して産業利用することは容易ではない。
【0005】
特許文献1~3で示されているようなイモゴライトの利用においては、人工的に合成されたものを利用することが暗黙に仮定されている。
イモゴライトは人工的に合成することができる。たとえば特許文献4にはイモゴライトの合成法が示されているが、この方法は1回あたり0.5日~3日を要するバッチ式での合成法であり、仕込液1mあたりのイモゴライトの収率は最大300g程度である。
【0006】
人工合成によれば、純度の高いイモゴライトを得ることができるが、利用目的によって必要とされる純度は異なる。特許文献3に示されている電場応答性強誘電性液晶としての利用においては高い純度が必要である。一方、特許文献2に示されているようなメタン貯蔵体としての応用においては、液晶として利用する場合よりも低い純度のイモゴライトも利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61-051017号公報
【特許文献2】特開2002-159850号公報
【特許文献3】特開2020-112753号公報
【特許文献4】特開2011-042520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
イモゴライトは風化した火山放出物堆積層には広く分布するが、一般にその含有量は極めて低く、そこから、合成によって得られるイモゴライトと同等の純度のイモゴライトを大量に得ることは難しい。
【0009】
しかし、火山放出物の堆積環境、風化期間などによって、イモゴライト含量が比較的高くなっている場合もある。特に風化浮石層においては、浮石粒子の間隙を充填する皮膜としてイモゴライトが生成している場所があることが知られている。ただし、そのような浮石層においてもイモゴライトの分布は不均一であり、イモゴライトをほとんど含まない部分もある。
【0010】
風化浮石層において、イモゴライトの含有率が比較的高い部位においても、その含有量はたかだか2質量パーセント程度である。
したがって産業利用のためには、まず浮石層の中でイモゴライト含有率の高い部分を特定すること、その部分を選択的に採取すること、さらに浮石粒子から皮膜状イモゴライトを分離して集めて用いることが好ましい。
【0011】
このようにして分離した部分のイモゴライト含有率は、元の風化浮石のイモゴライトの含有率と比較すると、少なくとも10倍以上となる。
分離された皮膜状イモゴライトにはほとんど例外なく、数mmないしそれより小さい浮石粒子、岩片、浮石の風化過程で2次的に生成した鉄やマンガンの酸化物などが包含されている。
したがって、皮膜からこれらの包含物を除去することができれば、イモゴライトの含有量をさらに向上させることができる。
【0012】
イモゴライトは学術研究の試料としても採取されている。特に風化浮石の皮膜状イモゴライトは、純度の高い研究試料として使用するために採取されている。
【0013】
この目的のためには、風化浮石層を観察し、イモゴライト皮膜の多い部分を手作業によって採取して実験室に持ち帰り、肉眼あるいは実体顕微鏡で観察しながらピンセットによってできるだけ大きな皮膜を分離することが行われている。さらに、分離した皮膜を肉眼あるいは実体顕微鏡で観察しながら、皮膜に包含された軽石粒子や鉄やマンガン酸化物などの二次鉱物を、ピンセットを用いて除去する。
【0014】
このような方法によって、電子顕微下でもイモゴライト以外の鉱物がほとんど認められないほど純度の高いイモゴライトを得ることができる。
しかし、このような方法によって産業利用に必要な量のイモゴライトを採取することは困難である。
【0015】
本発明は、イモゴライトの分離・精製に関する上記のような問題を解決しようとするものであり、皮膜状イモゴライトを含む風化浮石層において、目視観察によらずにイモゴライト含有量の高い部分を選択的に採取し、採取された部分の風化軽石粒子から皮膜状イモゴライトを分離して集め、集められた皮膜状イモゴライトから、イモゴライト自身の損失を避けながら、皮膜に包含された軽石粒子やその他の二次鉱物粒子を効率よく除去することができるようなイモゴライトの分離・精製方法を提供することを課題とする。
【0016】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0018】
(請求項1)
掘削した風化浮石を、目開きが浮石粒子の平均直径の10倍ないしそれ以上の大きさの格子からなる篩で、篩別することによって、イモゴライト含有量が相対的に高い部位を選別することを特徴とするイモゴライトの分離・精製方法。
(請求項2)
請求項1に記載する篩別で、前記篩を通過しなかった風化軽石集合体を、水中で解きほぐした後、撹拌した後、放置し、上澄み部分を前記篩に通すことによって皮膜状イモゴライトを採集することを特徴とするイモゴライトの分離・精製方法。
(請求項3)
請求項2に記載される工程で、前記篩上に捕集された皮膜状イモゴライトを、ローラー間の間隔0.1mm~0.5mmの1対のローラーで圧砕した後、前記篩上で洗浄することを特徴とするイモゴライトの分離・精製方法。
(請求項4)
請求項3の工程を経た皮膜状イモゴライトを、クエン酸ナトリウムの存在下、炭酸水素ナトリウムでpHを7.0~7.5に調節した後、
亜二チオン酸ナトリウムで酸化水酸化鉄及び二酸化マンガンを除去し、
引き続いて過酸化水素処理によって、クエン酸イオン、亜二チオン酸イオンおよび元々含まれていた腐植物質を含む有機物を除去することを特徴とするイモゴライトの分離・精製方法。
(請求項5)
請求項2~4のいずれか1項に記載される工程で使用される水のpHを9以上に保ち、水のイオン強度を0.01mol/L以上に保つことを特徴とするイモゴライトの分離・精製方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、風化した浮石層から、目視による観察によらず、機械的に、イモゴライト含有率が相対的に高い部分を選択的に採取することができる。
また、本発明によれば、採取した風化浮石から、イモゴライトの皮膜を効率よく分離することができ、分離されたイモゴライト皮膜に包含される軽石粒子や2次鉱物を効率よく除去し、皮膜状イモゴライトを精製することができる。
さらに本発明によれば、分離および生成過程でのイモゴライトの損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1工程から第3工程までの操作を説明する模式図。図1の<1>は、格子による軽石集合体の分別を説明する図、図1の<2>は、軽石集合体の解きほぐしを説明する図、図1の<3>は、水簸による被膜の補修を説明する図、図1の<4>は、ローラー通過による包含粒子の破砕と水洗を説明する図である。
図2】各工程における、イモゴライト皮膜の分離の様子を示す図。<2-1>は、選別した軽石集合体を示す図。軽石集合体を入れた容器の大きさは55cm×85cm×深さ20cmである。<2-2>は、解きほぐされた軽石集合体を示す図。<2-3>は、水簸により篩上に集められたイモゴライト皮膜を示す図。<2-4>は、ローラーを通過させ水洗されたイモゴライト皮膜を示す図。<2-5>は、還元処理後のイモゴライト皮膜を示す図。
図3】示差熱分析曲線であり、図3(A)は、元の軽石の乾燥粉砕物の示差熱分析曲線を示し、図3(B)は、分離されたイモゴライト皮膜の乾燥粉砕物の示差熱分析曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のイモゴライトの分離・精製方法の実施の形態を説明する。
【0022】
本発明においては、風化浮石層から、皮膜状イモゴライトの含有率の高い部分を選択的に採取し、採取した風化浮石から皮膜状イモゴライトを分離して集める。
次いで、集められた皮膜状イモゴライトから、それに包含される軽石粒子や2次鉱物粒子を除去してイモゴライト皮膜を精製する。
さらに、還元剤を用いた化学処理によって、イモゴライト皮膜に固着している酸化水酸化鉄、二酸化マンガンを除去し、それに続く酸化剤処理によって有機物を除去する。
【0023】
以下、本発明の分離・精製方法を詳述する。
〔第1工程〕
第1工程では、風化浮石層から人力ないし油圧ショベルによって掘削した浮石から、イモゴライト含有率の高い部分を選別する。
【0024】
選別は、掘削した浮石を、目開きが浮石粒子の平均直径の10倍ないしそれ以上の大きさの格子で篩別することにより行う。
具体的には、掘削した浮石を、風化浮石層を構成する個々の浮石の平均的な直径の10倍程度以上の目開きを持つ格子の上に落下させ、格子上に残留した風化浮石の集合体を集める。
格子の目開きの下限は、風化浮石層を構成する個々の浮石の平均的な直径の10倍程度であるが、上限は、50倍以下であることが好ましい。上限値が大きすぎると、イモゴライト含有量が相対的に高い部位を捕集できないおそれがあるからである。
この場合、採取した風化浮石を、ほぼ水平に保った格子に落下させた後、格子に振動を加えてもよい。
また、図1の<1>に示すような傾斜させた格子の法上部に採取した軽石を落下させ、法下部まで転がり移動した集合体を集めることもできる。
【0025】
この選別法は、皮膜状イモゴライトが浮石粒子同士を接着する傾向があることを利用したものである。つまり、イモゴライトを含まない風化浮石は、浮石粒子同士が接着しておらず、バラバラに存在しているのに対し、イモゴライトが生成している部分では、皮膜状イモゴライトによって浮石粒子同士が接着され、外力を加えなければ浮石粒子がバラバラにならない程度に集合体化している。このため皮膜状イモゴライトの含有率の高い部分は、個々の軽石粒子の直径よりもはるかに大きい目開きの格子の上に落下させても、格子を通過しない。
【0026】
学術研究においては、風化浮石においてイモゴライト含有率の高い部分とそうでない部分は、注意深く目視による観察を行うことによって行われてきたが、識別のためには経験を必要とする。本発明における選別は、識別のために何らの経験を必要とせず、適当な目開きの格子を通過しない部分を採取するという機械的な方法で行うことができる。
【0027】
一般に、風化浮石は園芸用培地などとして利用されているが、培地を調製するためには、軽石の集合体をときほぐして単位粒子とした後、篩分けによって粒度調整したのち利用される。この場合、皮膜状イモゴライトの含有率が高く、外力を加えなければ単位粒子化しにくい部分は園芸用培地の製造目的には適していない。本発明における、皮膜状イモゴライト含有率の高い風化浮石の選別法は、従来の風化浮石の利用にとっても好都合である。
【0028】
〔第2工程〕
第2工程では、採取した塊状の風化浮石集合体から皮膜状イモゴライトを分離する。
図1の<2>に示すように、前工程で採取した塊状の風化浮石を適当な容器に入れ、風化浮石の見かけ体積の10倍程度以上の体積の水を加える。
次に、撹拌棒などによって風化浮石集合体を、風化浮石の単位粒子は破壊せず、風化浮石集合体が解きほぐされる程度に圧砕する。
次いで、図1の<2>に示すように、全体を、軽石同士が軽く擦れあう程度に撹拌する。この操作によって、軽石粒子に付着した皮膜状イモゴライトが剥離する。
【0029】
この工程では、図1の<3>に示すように、水簸によって、固体粒子によって水中での沈降速度に差があることを利用して、被膜の補修を行うこともできる。
図1の<2>で、イモゴライト粒子が剥離したら、全体をゆっくりと撹拌した後、撹拌を停止する。
目視によって、軽石粒子の大部分が沈降したのを確認した後、図1の<3>に示すように、容器を傾斜させて上澄み部分を目開き1mmの篩上にこぼす。
この操作を数度繰り返す。この操作によって剥離したイモゴライトを篩上に集めることができる。図1の<3>では、黒丸が、軽石粒子を示しており、方形状物がイモゴライトを示している。図1の<3>の右側の図は、イモゴライトが篩上に集められている状態が示されている。
【0030】
この操作においては、水道水や脱イオン水を用いることもできるが、好ましくは水溶性の塩類を添加してイオン強度を0.01mol/L以上に調節し、かつpHを9以上に調節したものであることが好ましい。pHの上限は格別限定されない。
このことによって、皮膜中のイモゴライトの分散を抑制することができ、イモゴライトの歩留まりを向上させることができる。
【0031】
水のイオン強度調節のために用いる塩類としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物塩、硫酸塩が好ましい。中でも、分離・精製後のイモゴライトの利用において差しさわりがなければ、硫酸塩がより好ましい。
【0032】
水のpH調節のために用いるアルカリとしては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。
【0033】
〔第3工程〕
第3工程では、第2工程で分離された皮膜状イモゴライトを、ローラー間の間隙を0.1mm~0.5mm、好ましくは0.2mm~0.5mmに調節した1対のローラーを通し、イモゴライト皮膜に包含される軽石粒子や2次鉱物粒子を圧砕する。
図1の<4>に示すように、ローラー通過による包含粒子(軽石粒子や2次鉱物粒子)を破砕し、これにより軽石粒子や2次鉱物粒子は細粒化し、水洗により容易に皮膜から除去される。
ローラーの材質は、皮膜に包含された軽石粒子やその他の鉱物粒子を破砕できるだけの硬度を持つものであれば何でもよいが、金属製のものが好ましい。
【0034】
図1の<4>に示すように、ローラーを通過させたイモゴライト皮膜は目開き1mmの篩上に載置される。
流水で洗浄するか、適当な容器中に水とともに入れて撹拌した後、1分間ないし数分間放置した後、容器を傾斜させ、浮遊するイモゴライトフィルムを目開き1mmの篩上に捕集する。
【0035】
この工程で用いる水も第2工程で用いた水と同じでよく、pHを9以上、イオン強度を0.01mol/L以上に調節したものであることが好ましい。
【0036】
〔第4工程〕
この工程では、力学的な分離・精製処理を経たイモゴライト皮膜を、還元剤によって処理し、イモゴライト皮膜に付着している酸化水酸化鉄や二酸化マンガンを除去する。
さらに、還元処理過程で吸着された有機物や、もともと皮膜に付着していた腐食物質などを含む有機物を酸化処理によって還元溶解して除去する。
この処理は、分離・精製したイモゴライトの使用上の必要性に応じて行うべきであり、必ず行わなければならないものではない。
【0037】
第3工程を経たイモゴライト皮膜を80℃の加熱に耐える非金属容器に入れ、皮膜全体完全に浸漬する量の水を加える。その水に対し、最終濃度が0.3mol/Lになるようにクエン酸三ナトリウムを加えて溶解する。
その後、pHが7になるように炭酸水素ナトリウムを加えて溶解し、液温が80℃になるように加温する。
液温が80℃に達したら、容器中の溶液1Lにつき25gの亜二チオン酸ナトリウムを2回~3回に分けて加え、その都度撹拌して溶解し、15分以上80℃に保つ。
この工程で、イモゴライト皮膜に付着していた酸化水酸化鉄や二酸化マンガンは還元されて溶解除去され、皮膜は無色(白色)になる。
実験例では図2の<2-5>に示すように白色になっていることが例証されている。
【0038】
容器を傾斜して処理後のイモゴライト皮膜を目開き1mm以下の非金属性篩上に捕集し、さらに水をかけて、溶出した鉄イオン、マンガンイオン、還元処理のために添加した薬剤やその反応生成物を洗浄除去する。
このために用いる水は、純粋または水道水でもよいが、第2工程で用いた水と同様の、イオン強度を0.01mol/L以上、pHを9以上にしたものを用いる方が、分散によるイモゴライトの損失を少なくすることができる。
【0039】
還元処理後のイモゴライト皮膜には、還元剤として用いた亜二チオン酸イオンが残留している可能性がある。
また同処理で用いたクエン酸が吸着されている。加えて、元々含まれていた腐植物質などの有機物が含まれている。
これらの有機物は過酸化水素処理によって除去する。この処理もまた、分離・精製したイモゴライトの使用上の必要性に応じて行うべきであり、必ず行わなければならないものではない。
【0040】
還元処理後水で洗浄したイモゴライト皮膜を酸化剤に耐える容器に入れ、水および過酸化水素水を加えて、過酸化水素濃度を6%以上に調節する。少なくとも30分以上、容器を沸点近くまで加熱する。
【0041】
容器を傾斜して処理後のイモゴライト皮膜を目開き1mm以下の篩上に捕集し、さらに水をかけて、残留する過酸化水素や過酸化水素による酸化反応の反応生成物を洗浄除去する。このために用いる水は、純粋または水道水でもよいが、第2工程で用いた水と同様の、イオン強度を0.01mol/L以上、pHを9以上にしたものを用いる方が、分散によるイモゴライトの損失を少なくすることができる。
【実施例0042】
以下実施例により本発明の効果を例証する。
【0043】
1.イモゴライトを含む軽石試料
栃木県下に分布する赤城鹿沼軽石層から採取した軽石試料を用いた。
【0044】
2.分離操作及びその結果
この軽石試料に対して、前記第1工程から第4工程の操作を行い、皮膜状イモゴライトを分離した。このとき、水簸や水洗に用いる水のイオン強度は硫酸ナトリウムを添加することにより約0.01 mol/Lとし、pHは水酸化ナトリウムにより調節した。
皮膜に包含された軽石粒子などを破砕するためのローラーはアルミニウム合金製のものを用い、ローラー間の間隔は0.4mmとした。
第1工程から第3工程までの操作の模式図は図1に示した。
【0045】
軽石層から格子による篩わけで、分別採取した軽石集合体を、水中で解きほぐした状態、水簸によって採取した皮膜状イモゴライト、ローラーを通過せた後、水洗したイモゴライト皮膜、亜二チオン酸による還元処理後のイモゴライト皮膜の様子を図2に示す。
図2の<2-1>には、選別した軽石集合体が示されている。また図2の<2-2>には、解きほぐされた軽石集合体が示されている。更に図2の<2-3>には、水簸により篩上に集められたイモゴライト皮膜が示され、図2の<2-4>には、ローラーを通過させ水洗されたイモゴライト皮膜が示されている。図2の<2-5>は、還元処理後のイモゴライト皮膜を示しており、無色(白色)を呈している。
工程を経るごとに、皮膜が濃縮され、還元処理後には白色の皮膜が得られている。
【0046】
図3(A)に示すグラフは、元の軽石の乾燥粉砕物で、第1工程で得られた軽石集合体の一部を風乾し、均一に粉砕して測定した示差熱分析曲線を示している。
一方、図3(B)に示すグラフは、分離されたイモゴライト皮膜の乾燥粉砕物、すなわち、第4工程後に得られた皮膜状イモゴライトを風乾し、粉砕して測定した示差熱分析曲線を示している。
図3の示差熱分析曲線によると、 分離されたイモゴライト皮膜は90℃~100℃と380℃~400℃に吸熱ピークを示した。
一方、軽石集合体は90℃~100℃に吸熱ピークを示したが、380℃~400℃の吸熱ピークはかろうじて検出できる程度に微弱であった。
【0047】
イモゴライトは90℃~100℃に、吸着水の脱水に伴う吸熱ピーク、380℃~400℃に骨格を構成するヒドロキシ基からの水の脱離に伴う吸熱ピークを示すことが知られている。また、後者はイモゴライトに特徴的なピークである。
【0048】
別途測定した高純度イモゴライトの示差熱分析曲線における、380℃~400℃の吸熱ピークの面積と、前記工程1~4を経て分離されたイモゴライトフィルムの対応する吸熱ピークの面積の比較から、分離された皮膜のイモゴライト含有率は約60%と推定された。
図1
図2
図3