(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025047
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】神経モニタリングシステム、処理装置、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/389 20210101AFI20240216BHJP
A61B 5/395 20210101ALI20240216BHJP
【FI】
A61B5/389
A61B5/395
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128151
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】関本 正志
(72)【発明者】
【氏名】枝 健吾
(72)【発明者】
【氏名】市川 和樹
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA04
4C127CC04
4C127DD03
4C127HH16
(57)【要約】
【課題】周術期における神経モニタリングの支援性を高める。
【解決手段】刺激装置11は、対象者20に付与される刺激に対応する刺激信号STを生成する。処理装置12は、前記刺激に基づく対象者20の誘発電位の経時変化に対応する波形WFを取得し、所定の規則に基づき取得された波形WFの振幅値Aと、振幅値Aの基準波形RFの基準振幅値A0に対する比である振幅変化率とに基づき、複数の色のいずれかを呈する指標を表示装置13に表示させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者に付与される刺激に対応する刺激信号を生成する刺激装置と、
前記刺激に基づく前記対象者の誘発電位の経時変化に対応する波形を取得し、所定の規則に基づき取得された当該波形の振幅値と、当該振幅値の基準波形の振幅値に対する比である振幅変化率とに基づき、複数の色のいずれかを呈する指標を表示装置に表示させる処理装置と、
を備えている、
神経モニタリングシステム。
【請求項2】
前記処理装置は、前記波形とともに前記指標を前記表示装置に表示させる、
請求項1に記載の神経モニタリングシステム。
【請求項3】
前記処理装置は、前記振幅値と前記振幅変化率の一方の経時変化とともに前記指標を前記表示装置に表示させる、
請求項1に記載の神経モニタリングシステム。
【請求項4】
前記処理装置は、前記振幅変化率よりも前記振幅値を優先し前記指標の色を選択する、
請求項1に記載の神経モニタリングシステム。
【請求項5】
前記指標は図形であり、
前記処理装置は、前記基準波形の振幅値が閾値を下回る場合、前記図形の形状を変更する、
請求項1に記載の神経モニタリングシステム。
【請求項6】
前記処理装置は、前記閾値を変更する指示に基づいて前記図形の形状を変更する、
請求項5に記載の神経モニタリングシステム。
【請求項7】
前記指標は図形であり、
前記処理装置は、前記指標の色を変更する指示に基づいて前記図形の形状を変更する、
請求項1に記載の神経モニタリングシステム。
【請求項8】
前記指標は図形であり、
前記処理装置は、前記振幅値と前記振幅変化率の少なくとも一方と前記指標の色との関係を変更する指示に基づいて前記図形の形状を変更する、
請求項1に記載の神経モニタリングシステム。
【請求項9】
前記表示装置は、手術顕微鏡の視野内に提供される、
請求項1に記載の神経モニタリングシステム。
【請求項10】
対象者の誘発電位に対応する検出信号を受け付けるインタフェースと、
刺激に基づく前記誘発電位の経時変化に対応する波形を取得し、かつ所定の規則に基づき取得された当該波形の振幅値と、当該振幅値の基準波形の振幅値に対する比である振幅変化率とに基づき、複数の色のいずれかを呈する指標を表示装置に表示させるプロセッサと、
を備えている、
処理装置。
【請求項11】
処理装置に搭載されたプロセッサにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
実行されることにより、前記処理装置は、
刺激に基づく対象者の誘発電位の経時変化に対応する波形を取得し、
所定の規則に基づき取得された前記波形の振幅値と、当該振幅値の基準波形の振幅値に対する比である振幅変化率とに基づき、複数の色のいずれかを呈する指標を表示装置に表示させる、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、周術期における神経モニタリングを支援するシステムに関連する。本開示は、当該システムに含まれる処理装置、および当該処理装置に搭載されたプロセッサにより実行可能なコンピュータプログラムにも関連する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、外科手術の周術期における神経モニタリングを支援するシステムを開示している。刺激に基づく対象者の運動誘発電位の経時変化に対応する波形が取得される。基準波形の振幅に対する当該波形の振幅変化率に基づいて、複数の色のいずれかを呈する指標が表示装置に表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
周術期における神経モニタリングの支援性を高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示により提供される態様例の一つは、神経モニタリングシステムであって、
対象者に付与される刺激に対応する刺激信号を生成する刺激装置と、
前記刺激に基づく前記対象者の誘発電位の経時変化に対応する波形を取得し、所定の規則に基づき取得された当該波形の振幅値と、当該振幅値の基準波形の振幅値に対する比である振幅変化率とに基づき、複数の色のいずれかを呈する指標を表示装置に表示させる処理装置と、
を備えている。
【0006】
本開示により提供される態様例の一つは、処理装置であって、
対象者の誘発電位に対応する検出信号を受け付けるインタフェースと、
刺激に基づく前記誘発電位の経時変化に対応する波形を取得し、かつ所定の規則に基づき取得された当該波形の振幅値と、当該振幅値の基準波形の振幅値に対する比である振幅変化率とに基づき、複数の色のいずれかを呈する指標を表示装置に表示させるプロセッサと、
を備えている。
【0007】
本開示により提供される態様例の一つは、処理装置に搭載されたプロセッサにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
実行されることにより、前記処理装置は、
刺激に基づく対象者の誘発電位の経時変化に対応する波形を取得し、
所定の規則に基づき取得された前記波形の振幅値と、当該振幅値の基準波形の振幅値に対する比である振幅変化率とに基づき、複数の色のいずれかを呈する指標を表示装置に表示させる。
【0008】
上記の各態様例に係る構成によれば、基準波形に対する波形の振幅変化率に加えて波形の振幅値が誘発電位の評価項目として導入されることにより、対象者の神経機能の低下に係るより細分化された評価を提供できる。二つの項目の組合せに基づく評価の結果は指標の色を通じてユーザに提供されるので、波形や複数の数値に基づくよりも迅速かつ直感的な状況把握を可能にできる。結果として、周術期における神経モニタリングの支援性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る神経モニタリングシステムの機能構成を例示している。
【
図2】
図1の表示装置に表示される画面の一例を示している。
【
図3】誘発電位波形の振幅値および振幅変化率と指標の色の関係を例示している。
【
図4】
図1の処理装置により実行される処理の流れを例示している。
【
図5】
図1の表示装置に表示される画面の別例を示している。
【
図6】
図1の表示装置に表示される画面の別例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例を以下詳細に説明する。
【0011】
図1は、一実施形態に係る神経モニタリングシステム10の機能構成を例示している。神経モニタリングシステム10は、例えば外科手術の周術期において刺激に基づく対象者20の誘発電位の経時変化をモニタすることにより、神経損傷に起因する麻痺の予防を図るためのシステムである。
【0012】
本例においては、対象者20への電気的刺激を通じて、運動誘発電位(MEP;Transcranial Motor Evoked Potentials)の経時変化がモニタされる。
【0013】
したがって、神経モニタリングシステム10は、刺激装置11を含んでいる。刺激装置11は、対象者20に装着された電極21を通じて付与される電気的刺激に対応する刺激信号STを生成する。
図1においては単一の電極21が例示されているが、実際には複数の電極21がモニタする誘発電位に応じて定められた複数の身体部位に装着されている。
【0014】
電気的刺激への応答として得られる対象者20のMEPは、対象者20に装着された筋電図電極22を通じて検出される。すなわち、筋電図電極22は、MEPに対応する検出信号DTを出力する。検出信号DTは、アナログ信号であってもよいし、デジタル信号であってもよい。
図1においては単一の筋電図電極22が例示されているが、実際には複数の筋電図電極22がモニタする誘発電位に応じて定められた複数の身体部位に装着されている。
【0015】
神経モニタリングシステム10は、処理装置12を含んでいる。処理装置12は、入力インタフェース121を備えている。入力インタフェース121は、検出信号DTを受け付けるハードウェアインタフェースとして構成されている。検出信号DTがアナログ信号である場合、入力インタフェース121は、A/Dコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0016】
処理装置12は、プロセッサ122を備えている。プロセッサ122は、入力インタフェース121により受け付けられた検出信号DTに基づき、電気的刺激に対する対象者20のMEPの経時変化に対応する波形WFを取得するように構成されている。
【0017】
加えて、プロセッサ122は、波形WFにおけるMEPの最大値と最小値の差分として規定される振幅値Aを取得するように構成されている。振幅値Aは、所定の規則に基づき取得された波形の振幅値の一例である。
【0018】
処理装置12は、ストレージ123を備えている。ストレージ123は、半導体メモリ、ハードディスク装置、磁気テープ装置などにより実現されうる記憶装置である。ストレージ123は、基準波形RF(ベースライン波形)に対応するデータを格納するように構成されている。基準波形RFは、手術前などにおける所定の条件下で検出された対象者20のMEPの経時変化に対応している。基準波形RFに対しても同様にして基準振幅値A0が定義される。すなわち、基準振幅値A0は、基準波形RFにおけるMEPの最大値と最小値の差分として規定される。
【0019】
プロセッサ122は、上記のように取得された振幅値Aとストレージ123に格納された基準振幅値A0とに基づいて、基準振幅値A0に対する振幅値Aの比である振幅変化率Pを取得するように構成されている。本例においては、振幅変化率Pは、次式により与えられる。
P=(A/A0)×100[%]
【0020】
神経モニタリングシステム10は、表示装置13を含んでいる。表示装置13は、ユーザに対して情報を視覚的に提供しうる構成を備えている。当該構成の例としては、ディスプレイ、インディケータなどが挙げられる。処理装置12と表示装置13は、同一の装置の一部であってもよいし、相互に独立した装置であってもよい。
【0021】
処理装置12は、出力インタフェース124を備えている。プロセッサ122は、上記のようにして取得された振幅値Aと振幅変化率Pとに基づいて、表示制御信号DCを出力インタフェース124から出力するように構成されている。表示制御信号DCは、複数の色のいずれかを呈する指標を表示装置13に表示させるように構成されている。表示制御信号DCは、表示装置13の仕様に応じてデジタル信号であってもよいし、アナログ信号であってもよい。出力インタフェース124は、ハードウェアインタフェースとして構成されている。表示制御信号DCがアナログ信号である場合、出力インタフェース124は、D/Aコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0022】
図2は、表示制御信号DCに基づいて表示装置13に表示される画面の一例を示している。本例に係る画面は、第一波形表示領域WD1、第二波形表示領域WD2、および第三波形表示領域WD3を含んでいる。
【0023】
第一波形表示領域WD1は、複数の筋電図電極22の一つに対応付けられた第一チャネルに係る対象者20のMEPの経時変化に対応する第一チャネル波形を表示するように構成されている。
図2においては、第一チャネル波形の図示は省略されている。
【0024】
第二波形表示領域WD2は、複数の筋電図電極22の別の一つに対応付けられた第二チャネルに係る対象者20のMEPの経時変化に対応する第二チャネル波形を表示するように構成されている。
図2においては、第二チャネル波形の図示は省略されている。
【0025】
第三波形表示領域WD3は、複数の筋電図電極22のさらに別の一つに対応付けられた第三チャネルに係る対象者20のMEPの経時変化に対応する第三チャネル波形を表示するように構成されている。
図2においては、第三チャネル波形の図示は省略されている。
【0026】
表示装置13は、第一指標表示領域ID1、第二指標表示領域ID2、および第三指標表示領域ID3をさらに含んでいる。
【0027】
第一指標表示領域ID1は、第一指標IX1を表示するように構成されている。第一指標IX1は、第一チャネル波形と基準波形RFとの比較に基づいて定められた色を呈している。第一指標表示領域ID1は、第一波形表示領域WD1と隣り合うように配置されている。換言すると、第一指標表示領域ID1は、第一指標IX1と第一チャネル波形の関連付けをユーザが認識できるように配置されている。
【0028】
第二指標表示領域ID2は、第二指標IX2を表示するように構成されている。第二指標IX2は、第二チャネル波形と基準波形RFとの比較に基づいて定められた色を呈している。第二指標表示領域ID2は、第二波形表示領域WD2と隣り合うように配置されている。換言すると、第二指標表示領域ID2は、第二指標IX2と第二チャネル波形の関連付けをユーザが認識できるように配置されている。
【0029】
第三指標表示領域ID3は、第三指標IX3を表示するように構成されている。第三指標IX3は、第三チャネル波形と基準波形RFとの比較に基づいて定められた色を呈している。第三指標表示領域ID3は、第三波形表示領域WD3と隣り合うように配置されている。換言すると、第三指標表示領域ID3は、第三指標IX3と第三チャネル波形の関連付けをユーザが認識できるように配置されている。
【0030】
すなわち、処理装置12は、第一指標IX1、第二指標IX2、および第三指標IX3を、第一チャネル波形、第二チャネル波形、および第三チャネル波形とともに表示装置13に表示させる表示制御信号DCを、出力インタフェース124から出力する。なお、表示装置13に表示される波形のチャネル数(すなわち指標の数)は、表示装置13の仕様に応じて適宜に定められうる。
【0031】
本例においては、第一指標IX1、第二指標IX2、および第三指標IX3の各々は、振幅値Aと振幅変化率Pの組合せについて予め定められた関係に応じて、8色のいずれかを呈する。
図3は、振幅値Aと振幅変化率Pの組合せと表示される指標の色の関係を例示している。当該関係を記述するデータは、処理装置12のストレージ123に格納されている。
【0032】
図3に示される例における色番号1から7については、番号が大きいほど対象者20の運動機能が低下している蓋然性が高くなる。したがって、番号が大きくなるほど警告性が強い表示色が対応付けられることが好ましい。例えば、番号が大きくなるにつれて、青緑系の色から黄赤系の色へ移行するように表示色が定められうる。
【0033】
図4は、処理装置12のプロセッサ122により実行される処理の流れを例示している。プロセッサ122は、入力インタフェース121により受け付けられた検出信号DTに基づいて、波形WFの振幅値Aを特定できるかを判断する(STEP1)。振幅値Aを特定できない場合の例としては、波形WFが実質的にフラットであって振幅値Aを特定するために必要なMEPの最大値、最小値、極大値、極小値などを定義できない場合、振幅値Aの特定に極大値と極小値が必要であるにも関わらずMPFが極大値をとった後にゼロへ漸減してしまい、極小値を取得できない場合などが挙げられる。
【0034】
波形WFの振幅値Aを特定できると判断されると(STEP1においてYES)、プロセッサ122は、所定の規則に基づいて波形WFの振幅値Aを取得する(STEP2)。
【0035】
続いて、プロセッサ122は、STEP2において取得された振幅値Aに基づいて指標の表示色を決定可能かを判断する(STEP3)。
図3に例示される関係においては、振幅値Aが5μV以上10μV未満である場合、および振幅値Aが5μV未満である場合に指標の表示色を決定可能である。前者の場合は色番号6が選択され、後者の場合は色番号7が選択される。振幅値Aが10μV以上である場合、振幅値Aのみでは指標の表示色を決定することができない。
【0036】
指標の表示色が決定されると(STEP3においてYES)、プロセッサ122は、当該色を呈する指標を表示装置13に表示させる表示制御信号DCを出力インタフェース124から出力する(STEP4)。
【0037】
振幅値Aのみでは指標の表示色を決定できない場合(STEP3においてNO)、プロセッサ122は、波形WFに基準波形RFに対する振幅変化率Pを取得する(STEP5)。取得された振幅変化率Pの値と
図3に例示される関係に基づき、色番号1から5のいずれか一つが選択される。プロセッサ122は、選択された色番号の色を呈する指標を表示装置13に表示させる表示制御信号DCを出力インタフェース124から出力する(STEP4)。
【0038】
図2に示される例においては、第一指標IX1の表示色として色番号1が選択されている。第二指標IX2の表示色として色番号5が選択されている。第三指標IX3の表示色として色番号7が選択されている。
【0039】
波形WFの振幅値Aを特定できないと判断された場合(STEP1においてNO)、プロセッサ122は、
図3に例示される色番号8の色を呈する指標を表示装置13に表示させる表示制御信号DCを出力インタフェース124から出力する(STEP4)。
【0040】
上記のような構成によれば、基準波形RFに対する波形WFの振幅変化率Pに加えて波形WFの振幅値AがMEPの評価項目として導入されることにより、対象者20の運動機能の低下に係るより細分化された評価を提供できる。例えば、
図3に示される関係においては、振幅変化率Pが10%未満である状況が、振幅値Aに基づいて3段階に区分されている。二つの項目の組合せに基づく評価の結果は指標の色を通じてユーザに提供されるので、波形や複数の数値に基づくよりも迅速かつ直感的な状況把握を可能にできる。結果として、周術期における運動機能モニタリングの支援性を高めることができる。
【0041】
図4を参照して説明したように、本実施形態においては、まず新たに導入された振幅値Aに基づいて指標の表示色の選択がなされる。換言すると、振幅変化率Pよりも振幅値Aを優先して指標の表示色が選択される。
【0042】
このような構成によれば、特に振幅値Aが対象者20の運動機能の低下の評価に及ぼす影響が相対的に高くなる状況下において、処理装置12のプロセッサ122による演算負荷と処理時間の増大を抑制できる。これにより、運動機能の低下に係る評価の支援性を高めることができる。
【0043】
図2に例示されるように、表示装置13に表示される指標は、矩形状を呈している。矩形は、図形の一例である。プロセッサ122は、基準波形RFの基準振幅値A0が閾値を下回る場合、表示される指標の形状を変更するように構成されている。具体的には、プロセッサ122は、矩形の左上角が切り欠かれた形状を呈するように指標の形状を変更する表示制御信号DCを、出力インタフェース124から出力する。
図2に示される例においては、第二指標IX2と第三指標IX3の形状がそのように変更されている。
【0044】
基準波形RFの基準振幅値A0がある程度小さい場合、波形WFの振幅値Aもまた小さくなる傾向にあるので、振幅値Aに基づく評価結果に対する注意が必要になる。上記のような指標の形状変更はユーザによって容易に視認されうるので、評価結果に対する注意をユーザに促すことができる。したがって、運動機能モニタリングの支援性をさらに高めることができる。
【0045】
図1に例示されるように、神経モニタリングシステム10は、ユーザインタフェース14を含みうる。ユーザインタフェース14は、表示装置13に表示された指標の色を変更する指示をユーザから受け付けるように構成されている。処理装置12による運動能力の低下に係る評価が対象者20の実状に即していない場合もありうる。指標の表示色の変更は、そのような場合により適切な評価結果を記録するために事後的になされうる。
【0046】
ユーザインタフェース14は、機械的な操作が可能なスイッチなどにより実現されてもよいし、マウスやキーボードなどの入力装置を介して、あるいはタッチパネル操作を通じて操作可能なGUIとして実現されてもよい。あるいは、当該指示は、ユーザの音声やジェスチャを通じて入力されてもよい。
【0047】
ユーザインタフェース14は、受け付けた指示に応じた指示信号ISを出力するように構成されている。指示信号ISは、ユーザインタフェース14の仕様に応じてアナログ信号であってもよいし、デジタル信号であってもよい。指示信号ISは、処理装置12の入力インタフェース121により受け付けられる。指示信号ISがアナログ信号である場合、入力インタフェース121は、A/Dコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0048】
プロセッサ122は、指標の表示色を変更する指示に対応する指示信号ISが入力インタフェース121によって受け付けられると、表示される指標の形状を変更するように構成されている。具体的には、プロセッサ122は、矩形の右上角が切り欠かれた形状を呈するように指標の形状を変更する表示制御信号DCを、出力インタフェース124から出力する。
図2に示される例においては、第三指標IX3の形状がそのように変更されている。
【0049】
あるユーザにより指標の表示色が事後的に変更された場合、波形WFと変更後の色を呈する指標を見た他のユーザが違和感を覚える可能性がある。したがって、あるユーザにより指標の表示色が変更された事実は、他のユーザに周知されることが好ましい。上記のような指標の形状変更は他のユーザによって容易に視認されうるので、指標の表示色の変更がなされたことの認識を他のユーザに促すことができる。したがって、運動機能モニタリングの支援性をさらに高めることができる。
【0050】
上記の構成に加えてあるいは代えて、ユーザインタフェース14は、基準振幅値A0に係る上記の閾値を変更する指示をユーザから受け付け、当該指示に対応する指示信号ISを出力するように構成されうる。
【0051】
プロセッサ122は、基準振幅値A0に係る閾値を変更する指示に対応する指示信号ISが入力インタフェース121により受け付けられると、表示される指標の形状を変更するように構成されうる。具体的には、プロセッサ122は、矩形の右下角が切り欠かれた形状を呈するように指標の形状を変更する表示制御信号DCを、出力インタフェース124から出力する。
図2に示される例においては、第二指標IX2の形状がそのように変更されている。
【0052】
基準振幅値A0に係る閾値の変更は、前述した指標の形状変更がなされるか否かについての結果に影響を及ぼしうる。したがって、当該閾値の変更がなされた事実は、ユーザに周知されることが好ましい。上記のような指標の形状変更もまたユーザによって容易に視認されうるので、閾値の変更がなされたことの認識をユーザに促すことができる。したがって、運動機能モニタリングの支援性をさらに高めることができる。
【0053】
上記の構成に加えてあるいは代えて、ユーザインタフェース14は、
図3に例示された振幅値Aと振幅変化率Pと指標の表示色に係る各閾値を変更する指示をユーザから受け付け、当該指示に対応する指示信号ISを出力するように構成されうる。
【0054】
この場合、プロセッサ122は、振幅値Aと振幅変化率Pの少なくとも一方と指標の表示色に係る閾値を変更する指示に対応する指示信号ISが入力インタフェース121により受け付けられると、表示される指標の形状を変更するように構成されている。具体的には、プロセッサ122は、矩形の右下角が切り欠かれた形状を呈するように指標の形状を変更する表示制御信号DCを、出力インタフェース124から出力する。
図2に示される例においては、第二指標IX2の形状がそのように変更されている。
【0055】
振幅値Aと振幅変化率Pの少なくとも一方と指標の表示色に係る閾値の変更は、対象者20の運動機能に係る評価結果に影響を及ぼしうる。したがって、当該閾値の変更がなされた事実は、ユーザに周知されることが好ましい。上記のような指標の形状変更もまたユーザにより容易に視認されうるので、閾値の変更がなされたことの認識をユーザに促すことができる。したがって、運動機能モニタリングの支援性をさらに高めることができる。
【0056】
なお、振幅値Aと振幅変化率Pの少なくとも一方と指標の表示色に係る閾値を変更する指示に基づく指標形状の変更態様は、基準波形RFの基準振幅値A0に係る閾値を変更する指示に基づく指標形状の変更態様と異なっていてもよい。例えば、プロセッサ122は、振幅変化率Pに係る閾値を変更する指示に対応する指示信号ISが入力インタフェース121により受け付けられると、矩形の左下角が切り欠かれた形状を呈するように指標の形状を変更する表示制御信号DCを、出力インタフェース124から出力しうる。
【0057】
表示装置13に表示される指標の形状変更は、任意の手法が採用されうる。上記のように初期状態の図形の一部を除去する変更だけでなく、初期状態の図形に別の図形を付加するような変更もなされうる。あるいは、矩形から円形、三角形、星型など、名称が相違するような図形への変更もなされうる。
【0058】
図5は、処理装置12から出力される表示制御信号DCに基づいて表示装置13に表示される画面の別例を示している。本例に係る画面は、グラフ表示領域GR、第一現在値表示領域CV1、第二現在値表示領域CV2、値履歴表示領域VH、および指標表示領域IDを含んでいる。
【0059】
グラフ表示領域GRは、波形WFに基づいて取得された振幅変化率Pの経時変化を、いわゆるトレンド形式で表示するように構成されている。グラフ表示領域GRにおける左右方向は、時間の経過に対応している。具体的には、右方向へ向かうほど、より近い過去に対応している。グラフ表示領域GRにおける上下方向は、振幅変化率Pの値に対応している。具体的には、上方向へ向かうほど、より大きな値に対応している。中央線CLは、P=100%を表している。
【0060】
振幅変化率Pが取得される度に、グラフ表示領域GRの左右方向における取得時点に対応する位置にプロットがなされる。より新しい振幅変化率Pは、より古い振幅変化率Pよりも右方にプロットされる。左右方向に隣り合うプロット同士が接続線によって結ばれることにより、グラフが形成される。現時点がグラフ表示領域GRの右端に到達すると、グラフ全体が左方へ移動しつつ、プロットが継続される。
【0061】
第一現在値表示領域CV1は、最新のプロットに対応する振幅変化率Pの数値を表示するように構成されている。第二現在値表示領域CV2は、最新の振幅変化率Pが取得された時点における振幅値Aの数値を表示するように構成されている。値履歴表示領域VHは、グラフ表示領域GRにおける各プロットの上方に当該プロットに対応する振幅変化率Pの数値を表示するように構成されている。
【0062】
指標表示領域IDは、
図3に例示された関係に基づく複数の色を含むスケールSCを指標として表示するように構成されている。
図5に示される例においては、グラフ表示領域GRに表示される振幅変化率Pの値に対応するように色番号2から4を含むスケールSCが表示されている。
【0063】
図6は、処理装置12から出力される表示制御信号DCに基づいて表示装置13に表示される画面の別例を示している。
図5に示される例と実質的に同一の要素については同じ参照文字を付与し、繰り返しとなる説明は省略する。
【0064】
本例に係るグラフ表示領域GRは、波形WFに基づいて取得された振幅変化率Pの経時変化を、いわゆるウォータフォール形式で表示するように構成されている。グラフ表示領域GRにおける上下方向は、時間の経過に対応している。具体的には、上方向へ向かうほど、より近い過去に対応している。グラフ表示領域GRにおける左右方向は、振幅変化率Pの値に対応している。具体的には、右方向へ向かうほど、より大きな値に対応している。中央線CLは、P=100%を表している。
【0065】
振幅変化率Pが取得される度に、グラフ表示領域GRの上端にプロットがなされる。より新しい振幅変化率Pは、より古い振幅変化率Pよりも上方にプロットされる。上下方向に隣り合うプロット同士が接続線によって結ばれることにより、グラフが形成される。グラフ全体が下方へ移動しつつ、プロットが継続される。
【0066】
値履歴表示領域VHは、グラフ表示領域GRにおける各プロットの右方に当該プロットに対応する振幅変化率Pの数値を表示するように構成されている。
【0067】
図5または
図6に例示される画面表示によれば、ユーザは、振幅値Aと振幅変化率Pの組合せに基づく対象者20の運動機能に係る評価結果の経時変化を、指標の色を通じて視覚的に把握できる。最新の評価結果に至るまでの対象者20の容態の遷移を把握できるので、運動機能モニタリングの支援性をさらに高めることができる。
【0068】
グラフ表示領域GRには、振幅値Aの経時変化を示すグラフが表示されてもよい。中央線CLは、例えばA=10μVを表しうる。この場合、第一現在値表示領域CV1は、最新のプロットに対応する振幅値Aの数値を表示するように構成される。第二現在値表示領域CV2は、最新の振幅値Aが取得された時点における振幅変化率Pの数値を表示するように構成される。値履歴表示領域VHは、グラフ表示領域GRにおける各プロットに対応する振幅値Aの数値を表示するように構成される。
【0069】
これまで説明した各種の機能を有する処理装置12のプロセッサ122は、汎用メモリと協働して動作する汎用マイクロプロセッサにより実現されうる。汎用マイクロプロセッサとしては、CPU、MPU、GPUが例示されうる。汎用メモリとしては、ROMやRAMが例示されうる。この場合、ROMには、当該機能を実現するためのコンピュータプログラムが記憶されうる。ROMは、コンピュータプログラムを記憶している非一時的なコンピュータ可読媒体の一例である。汎用マイクロプロセッサは、ROM上に記憶されたプログラムの少なくとも一部を指定してRAM上に展開し、RAMと協働して上述した処理を実行する。当該コンピュータプログラムは、汎用メモリにプリインストールされてもよいし、通信ネットワークを介して外部サーバからダウンロードされてから汎用メモリにインストールされてもよい。この場合、外部サーバは、コンピュータプログラムを記憶している非一時的なコンピュータ可読媒体の一例である。
【0070】
プロセッサ122は、当該機能を実現するためのコンピュータプログラムがプリインストールされた記憶素子を備えたマイクロコントローラ、ASIC、FPGAなどの専用集積回路によって実現されてもよい。この場合、当該記憶素子は、コンピュータプログラムが記憶された非一時的なコンピュータ可読媒体の一例である。
【0071】
プロセッサ122は、汎用マイクロプロセッサと専用集積回路の組合せによって実現されてもよい。
【0072】
これまで説明した各構成は、本開示の理解を容易にするための例示にすぎない。各構成は、本開示の趣旨を逸脱しなければ、適宜の変更や他の構成との組合せがなされうる。
【0073】
波形WFについて取得される振幅値Aは、MEPの最大値と最小値の差分であることを要しない。所定の規則に基づいて波形WFにおいて基準となりうる二点が特定されるのであれば、当該二点間のMEPの差分が振幅値Aとして取得されうる。そのような二点の例としては、極大値と極小値、最大値または最小値とベースライン電位、極大値または極小値とベースライン電位などが挙げられる。
【0074】
表示装置13は、表示機能を有する独立した装置であってもよいし、他の装置の一部として提供されてもよい。例えば
図1に示されるように、表示装置13は、手術顕微鏡30の一部でありうる。この場合、
図2、
図5、および
図6の各々に例示された画面は、手術顕微鏡30の視野内に表示されうる。このような構成によれば、対象者20の運動機能に係る評価結果を確認しながら手術に係る判断を行なうことができる。指標の色を通じて評価結果を提供する本開示に係る構成の有利性は、視野が限定される手術顕微鏡30に適用される場合においてより顕著となる。
【0075】
神経モニタリングの対象は、MEPに限られない。体性感覚誘発電位(SEP;Somatosensory Evoked Potential)、視覚誘発電位(VEP;Visual Evoked Potential)、および聴性脳幹反応(ABR;Auditory Brainstem Response)などもモニタリングの対象とされうる。SEPが対象とされる場合、刺激装置11は対象者20に電気的刺激を付与し、対象者20の感覚機能が評価される。VEPが対象とされる場合、刺激装置11は対象者20の網膜に光刺激を付与し、対象者20の視覚神経機能が評価される。ABRが対象とされる場合、刺激装置11は対象者20に音刺激を付与し、対象者20の聴覚神経機能が評価される。
【0076】
以下に列挙される構成もまた、本開示の一部を構成する。
(1):
対象者に付与される刺激に対応する刺激信号を生成する刺激装置と、
前記刺激に基づく前記対象者の誘発電位の経時変化に対応する波形を取得し、所定の規則に基づき取得された当該波形の振幅値と、当該振幅値の基準波形の振幅値に対する比である振幅変化率とに基づき、複数の色のいずれかを呈する指標を表示装置に表示させる処理装置と、
を備えている、
神経モニタリングシステム。
(2):
前記処理装置は、前記波形とともに前記指標を前記表示装置に表示させる、
(1)に記載の神経モニタリングシステム。
(3):
前記処理装置は、前記振幅値と前記振幅変化率の一方の経時変化とともに前記指標を前記表示装置に表示させる、
(1)に記載の神経モニタリングシステム。
(4):
前記処理装置は、前記振幅変化率よりも前記振幅値を優先し前記指標の色を選択する、
(1)から(3)のいずれかに記載の神経モニタリングシステム。
(5):
前記指標は図形であり、
前記処理装置は、前記基準波形の振幅値が閾値を下回る場合、前記図形の形状を第一の態様で変更する、
(1)から(4)のいずれかに記載の神経モニタリングシステム。
(6):
前記処理装置は、前記閾値を変更する指示に基づいて前記図形の形状を変更する、
(5)に記載の神経モニタリングシステム。
(7):
前記指標は図形であり、
前記処理装置は、前記指標の色を変更する指示に基づいて前記図形の形状を変更する、
(1)から(6)のいずれかに記載の神経モニタリングシステム。
(8):
前記指標は図形であり、
前記処理装置は、前記振幅値および前記振幅変化率と前記指標の色との関係が変更する指示に基づいて前記図形の形状を変更する、
(1)から(7)のいずれかに記載の神経モニタリングシステム。
(9):
前記表示装置は、手術顕微鏡の視野内に提供される、
(1)から(8)のいずれかに記載の神経モニタリングシステム。
(10):
対象者の誘発電位に対応する検出信号を受け付けるインタフェースと、
刺激に基づく前記誘発電位の経時変化に対応する波形を取得し、かつ所定の規則に基づき取得された当該波形の振幅値と、当該振幅値の基準波形の振幅値に対する比である振幅変化率とに基づき、複数の色のいずれかを呈する指標を表示装置に表示させるプロセッサと、
を備えている、
処理装置。
(11):
処理装置に搭載されたプロセッサにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
実行されることにより、前記処理装置は、
刺激に基づく対象者の誘発電位の経時変化に対応する波形を取得し、
所定の規則に基づき取得された前記波形の振幅値と、当該振幅値の基準波形の振幅値に対する比である振幅変化率とに基づき、複数の色のいずれかを呈する指標を表示装置に表示させる、
コンピュータプログラム。
【符号の説明】
【0077】
11:刺激装置、12:処理装置、121:入力インタフェース、122:プロセッサ、13:表示装置、20:対象者、30:手術顕微鏡、IX1:第一指標、IX2:第二指標、IX3:第三指標、A:振幅値、A0:基準振幅値、P:振幅変化率、RF:基準波形、SC:スケール、ST:刺激信号、WF:波形