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特開2024-25049硫黄ポリマーの製造方法及びリチウム硫黄二次電池用正極材の製造方法
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  • 特開-硫黄ポリマーの製造方法及びリチウム硫黄二次電池用正極材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025049
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】硫黄ポリマーの製造方法及びリチウム硫黄二次電池用正極材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/00 20060101AFI20240216BHJP
   C07D 251/34 20060101ALI20240216BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C08G75/00
C07D251/34 B
C07D251/34 Q
H01M4/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128153
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栢木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】島端 睦美
(72)【発明者】
【氏名】大谷 聡史
【テーマコード(参考)】
4J030
5H050
【Fターム(参考)】
4J030BA02
4J030BA04
4J030BA05
4J030BA42
4J030BA43
4J030BA47
4J030BA48
4J030BA51
4J030BB07
4J030BB18
4J030BC02
4J030BC24
4J030BG05
5H050AA19
5H050BA16
5H050CA22
5H050CA25
5H050CA26
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA27
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】架橋剤としてイソシアヌル酸誘導体を用いて、硫黄とイソシアヌル酸誘導体とを反応させることにより、硫黄ポリマーを得る硫黄ポリマーの製造方法であって、硫化物ガスの発生が抑制され、且つ、得られた硫黄ポリマーのC-S結合/C-C結合比が高く、取り扱いが容易な硫黄ポリマーを製造することができる硫黄ポリマーの製造方法を提供すること。
【解決手段】硫黄と、一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体、又は一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び一般式(2)で表されるトリアジン誘導体と、を、ジチオカルバミン酸塩系触媒の存在下、120~220℃で反応させる架橋反応工程を有し、前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の合計に対する前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体の割合が80.0~100.0質量%であること、を特徴とする硫黄ポリマーの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄と、
下記一般式(1):
【化1】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、硫黄と反応可能な置換基であり、前記硫黄と反応可能な置換基は、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、スルフィド基、メルカプト基、グリシジル基、シアノ基、カルボニル基及びハロゲンを有する炭素数が1~15の直鎖又は分岐の炭化水素基からなる群から選ばれる基であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、前記硫黄と反応可能な置換基である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるイソシアヌル酸誘導体、又は前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び下記一般式(2):
【化2】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、グリシジル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるトリアジン誘導体と、
を、ジチオカルバミン酸塩系触媒の存在下、120~220℃で反応させる架橋反応工程を有し、
前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の合計に対する前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体の割合が80.0~100.0質量%であること、
を特徴とする硫黄ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体は、下記式(1A):
【化3】
で表される1,3,5-トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンであり、且つ、前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体は、下記式(2A):
【化4】
で表される2,4,6-トリス(アリルオキシ)-1,3,5-トリアジンであることを特徴とする請求項1記載の硫黄ポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記ジチオカルバミン酸塩系触媒は、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛であることを特徴とする請求項1記載の硫黄ポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記硫黄ポリマー中の硫黄含有量が50.0質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の硫黄ポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記硫黄ポリマーは、X線光電子分光法(XPS)を用いて分析したときに、C-C及びC-H結合に由来する285eV付近にピークトップを有するピークAのピーク面積に対するC-S、C-O及びC-N結合に由来する286.3eV付近にピークトップを有するピークBのピーク面積の比(B/A)が、0.40~0.95であることを特徴とする請求項1記載の硫黄ポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記硫黄ポリマーは、リチウム硫黄二次電池の正極材として用いられる硫黄ポリマーであることを特徴とする請求項1記載の硫黄ポリマーの製造方法。
【請求項7】
硫黄と、
下記一般式(1):
【化5】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、硫黄と反応可能な置換基であり、前記硫黄と反応可能な置換基は、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、スルフィド基、メルカプト基、グリシジル基、シアノ基、カルボニル基及びハロゲンを有する炭素数が1~15の直鎖又は分岐の炭化水素基からなる群から選ばれる基であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、前記硫黄と反応可能な置換基である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるイソシアヌル酸誘導体、又は前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び下記一般式(2):
【化6】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、グリシジル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるトリアジン誘導体と、
を、ジチオカルバミン酸塩系触媒の存在下、120~220℃で反応させる架橋反応工程を有し、
前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の合計に対する前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体の割合が80.0~100.0質量%であること、
を特徴とするリチウム硫黄二次電池用正極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄と架橋剤とを反応させることにより得られる硫黄ポリマーの製造方法及びリチウム硫黄二次電池用正極材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄ポリマーは、硫黄と架橋剤を反応させることにより、硫黄を、架橋剤を用いてポリマー化させて得られたものであり、現在、種々の用途に用いられている、又は種々の用途への利用が期待される。
【0003】
硫黄ポリマーの用途の1つとして、例えば、リチウム硫黄電池の正極材が挙げられる。このリチウム硫黄電池は、正極材として資源的に豊富な硫黄を用いることや理論容量が高い(1672mAh/g)ことから、次世代蓄電池として期待されている。しかしながら、リチウム硫黄電池の実用化に向けた課題として、電解液への硫黄中間体Liの溶出や体積膨張が挙げられる。そして、硫黄と架橋剤を共重合しポリマー化することで、反応中間体Liの溶出の低減や硫黄の膨張収縮によるストレス緩和を実現できるので、硫黄ポリマーは、リチウム硫黄電池の正極材として、好適に用いられる。
【0004】
リチウム硫黄電池の正極材向けの硫黄ポリマーとして、例えば、特許文献1には、硫黄粉末が溶融した後に形成される液体硫黄とトリアリルイソシアヌレートを共重合反応によって形成し、化学結合の方式によって硫黄を固定化し、リチウム硫黄電池の正極材料における硫黄の含有量が50~90質量%である、リチウム硫黄電池の正極材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許第109950472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、トリアリルイソシアヌレートを架橋剤として用いて、硫黄ポリマーを製造するものであるが、本発明者らが検討したところ、硫黄とトリアリルイソシアヌレートとを250℃に加熱して反応させる必要があり、その結果、硫黄ポリマーは得られるものの、反応中に原料の硫黄と架橋剤が反応して副成する硫化物ガスが多量に発生すること、高温下で架橋剤が一部分解することがあること、また、得られた硫黄ポリマーのC-S結合/C-C結合比が低く硬質で柔軟性に乏しいため、体積変化を緩和する作用が低い等の問題があった。また、当該比を向上させるために、洗浄等を行った場合、硫黄ポリマーの収率が低くなってしまうとの懸念があることが分かった。
【0007】
そのため、特許文献1の方法では、C-S結合/C-C結合比が低く、柔軟性が求められるケースにおいて性能が発揮できない懸念があり、また、当該比を向上させるために、洗浄等を行った場合、硫黄ポリマーの収率が低くなってしまう等の懸念がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、架橋剤としてイソシアヌル酸誘導体を用いて、硫黄とイソシアヌル酸誘導体とを反応させることにより、硫黄ポリマーを得る硫黄ポリマーの製造方法であって、硫化物ガスの発生が抑制され、且つ、得られた硫黄ポリマーのC-S結合/C-C結合比が高く、取り扱いが容易な硫黄ポリマーを製造することができる硫黄ポリマーの製造方法及びリチウム硫黄二次電池用正極材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、硫黄と、イソシアヌル酸誘導体、又はイソシアヌル酸誘導体及びトリアジン誘導体と、を、特定の触媒下、特定の温度範囲で反応させると、硫化物ガスの発生を抑制でき、且つ、得られた硫黄ポリマーのC-S結合/C-C結合比が高い硫黄ポリマーが得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明(1)は、硫黄と、
下記一般式(1):
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、硫黄と反応可能な置換基であり、前記硫黄と反応可能な置換基は、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、スルフィド基、メルカプト基、グリシジル基、シアノ基、カルボニル基及びハロゲンを有する炭素数が1~15の直鎖又は分岐の炭化水素基からなる群から選ばれる基であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、前記硫黄と反応可能な置換基である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるイソシアヌル酸誘導体、又は前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び下記一般式(2):
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、グリシジル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるトリアジン誘導体と、
を、ジチオカルバミン酸塩系触媒の存在下、120~220℃で反応させる架橋反応工程を有し、
前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の合計に対する前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体の割合が80.0~100.0質量%であること、
を特徴とする硫黄ポリマーの製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(2)は、前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体は、下記式(1A):
【0016】
【化3】
【0017】
で表される1,3,5-トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンであり、且つ、前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体は、下記式(2A):
【0018】
【化4】
【0019】
で表される2,4,6-トリス(アリルオキシ)-1,3,5-トリアジンであることを特徴とする(1)の硫黄ポリマーの製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(3)は、前記ジチオカルバミル酸塩系触媒は、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛であることを特徴とする(1)又は(2)の硫黄ポリマーの製造方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明(4)は、前記硫黄ポリマー中の硫黄含有量が50質量%以上であることを特徴とする(1)~(3)いずれかの硫黄ポリマーの製造方法を提供するものである。
【0022】
また、本発明(5)は、前記硫黄ポリマーは、X線光電子分光法(XPS)を用いて分析したときに、C-C及びC-H結合に由来する285eV付近にピークトップを有するピークAのピーク面積に対するC-S、C-O及びC-N結合に由来する286.3eV付近にピークトップを有するピークBのピーク面積の比(B/A)が、0.40~0.95であることを特徴とする(1)~(4)いずれかの硫黄ポリマーの製造方法を提供するものである。
【0023】
また、本発明(6)は、前記硫黄ポリマーは、リチウム硫黄二次電池の正極材として用いられる硫黄ポリマーであることを特徴とする(1)~(5)いずれかの硫黄ポリマーの製造方法を提供するものである。
【0024】
また、本発明(7)は、硫黄と、
下記一般式(1):
【0025】
【化5】
【0026】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、硫黄と反応可能な置換基であり、前記硫黄と反応可能な置換基は、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、スルフィド基、メルカプト基、グリシジル基、シアノ基、カルボニル基及びハロゲンを有する炭素数が1~15の直鎖又は分岐の炭化水素基からなる群から選ばれる基であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、前記硫黄と反応可能な置換基である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるイソシアヌル酸誘導体、又は前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び下記一般式(2):
【0027】
【化6】
【0028】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、グリシジル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるトリアジン誘導体と、
を、ジチオカルバミン酸塩系触媒の存在下、120~220℃で反応させる架橋反応工程を有し、
前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の合計に対する前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体の割合が80.0~100.0質量%であること、
を特徴とするリチウム硫黄二次電池の正極材の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、架橋剤としてイソシアヌル酸誘導体を用いて、硫黄とイソシアヌル酸誘導体とを反応させることにより、硫黄ポリマーを得る硫黄ポリマーの製造方法であって、硫化物ガスの発生が抑制され、架橋剤の分解を抑制でき、且つ、得られた硫黄ポリマーのC-S結合/C-C結合比が高い、硫黄ポリマーを製造することができる硫黄ポリマーの製造方法及びリチウム硫黄二次電池用正極材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、実施例1のX線光電子分光法の分析結果を示す図である。
図2図2は、比較例1のX線光電子分光法の分析結果を示す図である。
図3図3は、実施例1の硫黄ポリマーの充放電曲線を示す図である。
図4図4は、実施例1の硫黄ポリマーを用いて作製した電極の充放電グラフ(10サイクル)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の硫黄ポリマーの製造方法は、硫黄と、
下記一般式(1):
【0032】
【化7】
【0033】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、硫黄と反応可能な置換基であり、前記硫黄と反応可能な置換基は、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、スルフィド基、メルカプト基、グリシジル基、シアノ基、カルボニル基及びハロゲンを有する炭素数が1~15の直鎖又は分岐の炭化水素基からなる群から選ばれる基であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、前記硫黄と反応可能な置換基である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるイソシアヌル酸誘導体、又は前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び下記一般式(2):
【0034】
【化8】
【0035】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、グリシジル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるトリアジン誘導体と、
を、ジチオカルバミン酸塩系触媒の存在下、120~220℃で反応させる架橋反応工程を有し、
前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の合計に対する前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体の割合が80.0~100.0質量%であること、
を特徴とする硫黄ポリマーの製造方法である。以下、前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体を「化合物(1)」とも記載し、また、前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体を「化合物(2)」とも記載する。
【0036】
本発明の硫黄ポリマーの製造方法に係る架橋反応工程は、硫黄と、一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体、又は一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び一般式(2)で表されるトリアジン誘導体と、を、触媒の存在下、120~220℃で反応させる工程である。つまり、架橋反応工程では、(i)硫黄と、一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体と、を、触媒の存在下、120~220℃で反応させるか、あるいは、(ii)硫黄と、一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び一般式(2)で表されるトリアジン誘導体と、を、触媒の存在下、120~220℃で反応させる。
【0037】
架橋反応工程において、原料として用いられる硫黄(硫黄分子)は、通常、Sの環状分子として存在している。原料として用いられる硫黄(硫黄分子)は、加熱により又は加熱及び触媒の作用により、分子鎖の一部が開裂して、開環し又は開環後の更なる分子鎖の開裂によって、8原子以下の鎖状の硫黄鎖が生じる。原料して用いられる硫黄(硫黄分子)は、特に制限されず、如何なる製造原料から製造されたものでもよく、また、如何なる製造方法で製造されたものでもよい。硫黄の結晶形は、特に制限されず、α硫黄(斜方硫黄)、β硫黄(単斜硫黄)、γ硫黄(単斜硫黄)のいずれでもよく、また、これらの混合物であってもよい。
【0038】
架橋反応工程では、硫黄と反応させる架橋剤として、化合物(1)、あるいは、化合物(1)及び化合物(2)を用いる。
【0039】
一般式(1)中、R、R及びRは、次の(i)~(iii)のいずれかであり、これらのうち、(i)が好ましい。
(i)R、R及びRの全てが、硫黄と反応可能な置換基、すなわち、炭素数が2~15、好ましく2~10、特に好ましくは3の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、スルフィド基、メルカプト基、グリシジル基、シアノ基、カルボニル基及びハロゲンを有する炭素数が1~15の直鎖又は分岐の炭化水素基からなる群から選ばれる基である。
(ii)R、R及びRのうち、2つが、硫黄と反応可能な置換基、すなわち、炭素数が2~15、好ましく2~10、特に好ましくは3の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、スルフィド基、メルカプト基、グリシジル基、シアノ基、カルボニル基及びハロゲンを有する炭素数が1~15の直鎖又は分岐の炭化水素基からなる群から選ばれる基であり、且つ、1つが、炭素数が1~15、好ましくは1~10の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15、好ましくは2~10の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20、好ましくは6~10のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。
(iii)R、R及びRのうち、1つが、硫黄と反応可能な置換基、すなわち、炭素数が2~15、好ましく2~10、特に好ましくは3の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、スルフィド基、メルカプト基、グリシジル基、シアノ基、カルボニル基及びハロゲンを有する炭素数が1~15の直鎖又は分岐の炭化水素基からなる群から選ばれる基であり、且つ、2つが、炭素数が1~15、好ましくは1~10の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15、好ましくは2~10の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20、好ましくは6~10のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。
なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。また、硫黄と反応可能な置換基とは、架橋反応工程において、ジチオカルバミン酸塩系触媒の存在下、120~220℃で加熱されることにより、硫黄と反応することができる基を指し、例えば、炭素数が2~15、好ましくは120~220℃の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15、好ましくは2~10の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、スルフィド基、メルカプト基、グリシジル基、シアノ基、カルボニル基、ハロゲンを有する炭素数が1~15、好ましくは1~10の直鎖又は分岐の炭化水素基が挙げられる。また、ハロゲン元素を含んでいてもよいとは、基の水素原子がハロゲン原子で置換されていないものと、基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換されたものの両方を指す。
例えば、アルキル基としては、メチル基又はクロロメチル基、アルケニル基としては、2-プロペン-1-イル基(アリル基)、2-メチル-2-プロペン-1-イル基又は2-ブテン-1-イル基、アルキニル基としては、エチニル基、アルコキシ基としては、2-ヒドロキシエチル基、メルカプト基としては、2-メルカプトエチル基が挙げられる。
【0040】
一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体としては、下記式(1A):
【0041】
【化9】
【0042】
で表される1,3,5-トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンが挙げられる。また、一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体としては、1-(2-メチル-2-プロペン-1-イル)-3,5-ジ-2-プロペン-1-イル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1-メチル-3,5-ジ-2-プロペン-1-イル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3-ジ-2-ブテン-1-イル-5-メチル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1-(クロロメチル)-3,5-ジ―2―プロペン-1-イル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3-ジ-2-ブテン-1-イル-5-メチル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリエチニル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1-(2-ヒドロキシエチル)―3,5-ジ-2-プロペン-1-イル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1-(2-メルカプトエチル)―3,5-ジ-2-プロピン-1-イル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンが挙げられる。
【0043】
一般式(2)中、R、R及びRは、次の(i)~(iii)のいずれかであり、これらのうち、(i)が好ましい。
(i)R、R及びRの全てが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)である。
(ii)R、R及びRのうち、2つが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)であり、且つ、1つが、炭素数が1~15、好ましくは1~10の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15、好ましくは2~10の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15、好ましくは2~10の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15、好ましくは2~10の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20、好ましくは6~10のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、グリシジル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。
(iii)R、R及びRのうち、1つが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)であり、且つ、2つが、炭素数が1~15、好ましくは1~10の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15、好ましくは2~10の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15、好ましくは2~10の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15、好ましくは2~10の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20、好ましくは6~10のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、グリシジル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。
なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。また、炭素数が4~15の置換アリルオキシ基とは、アリルオキシ基の水素原子が、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基で置換されている基を指す。また、ハロゲン元素を含んでいてもよいとは、基の水素原子がハロゲン原子で置換されていないものと、基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換されたものの両方を指す。
例えば、アリルオキシ基としては、2-プロペン-1-イルオキシ基(アリルオキシ基)、アルキル基としては、メチル基、アルコキシ基としては、オキシエタノール基、アリール基としては、フェニル基、グリシジル基としては、2-オキシラニルメトキシ基が挙げられる。
【0044】
一般式(2)で表されるトリアジン誘導体としては、下記式(2A):
【0045】
【化10】
【0046】
で表される2,4,6-トリス(アリルオキシ)-1,3,5-トリアジンが挙げられる。また、一般式(2)で表されるトリアジン誘導体としては、2-メチル-4,6-ビス(2-プロペン-1-イルオキシ)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-プロペン―1―イルオキシ)-6-(2-プロピン-1-イルオキシ)-1,3,5-トリアジン、2-[[4,6-ビス(2-プロペン-1-イルオキシ)―1,3,5-トリアジン-2-イル]オキシ]エタノール、2-フェニル-4,6-ビス(2-プロペン-1-イルオキシ)-1,3,5-トリアジン、2-(2-オキシラニルメトキシ)-4,6-ビス(2-プロペン-1-イルオキシ)-1,3,5-トリアジン挙げられる。
【0047】
架橋反応工程では、一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の合計に対する一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体の割合((化合物(1)/(化合物(1)+化合物(2)))×100)は、80.0~100.0質量%、好ましくは90.0~100.0質量%、より好ましくは95.0~100.0質量%である。なお、上記化合物(1)及び化合物(2)の合計に対する化合物(1)の割合は、原料の硫黄に対して添加される化合物(1)及び化合物(2)の添加量に基づいて、算出される値である。また、原料の硫黄に対して、複数回に分けて、化合物(1)又は化合物(2)を添加する場合は、それぞれの合計添加量に基づいて、上記化合物(1)及び化合物(2)の合計に対する化合物(1)の割合を算出する。
【0048】
架橋反応工程では、加熱前に、原料の硫黄に、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)の使用量の全量を添加することが、作業の簡便性及び再現性の向上の観点から好ましい。ただし、本発明の効果を損なわないのであれば、架橋反応工程では、加熱前に、原料の硫黄に、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)の使用量の一部を添加し、加熱開始後に、残りの化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)を1回又は複数回に分けて添加してもよい。
【0049】
架橋反応工程では、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、の反応を、ジチオカルバミン酸塩系触媒の存在下で行う。架橋反応工程において、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、の反応の際に、ジチオカルバミン酸塩系触媒を存在させることにより、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、の反応が良好に進行する。
【0050】
ジチオカルバミン酸塩系触媒は、一般式(3):
NCS (3)
で表されるアニオンと、金属カチオンとの塩である。一般式(3)中、R及びRは、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、具体的にはは、メチル、エチル、プロピルなどが挙げられる。RとRは同一構造であっても、異なる構造であっていてもよい。一般式(3)で表されるアニオンのカウンターカチオンである金属カチオンとしては、亜鉛イオン、ナトリウムイオン、銀イオン、鉄イオン、アンモニウムイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、リチウムイオン、マンガンイオンなどが挙げられる。ジチオカルバミン酸塩系触媒としては、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銀、ジメチルジチオカルバミン酸ジナトリウムなどが挙げられ、これらのうち、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸銅が好ましい。
【0051】
架橋反応工程では、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、を、120~220℃、好ましくは140~190℃、特に好ましくは140~180℃で反応させる。架橋反応工程において、反応温度が、上記範囲にあることにより、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、の反応が良好に進行する。一方、反応温度が、上記範囲未満だと、架橋反応が起こらないか又はほとんど起こらない、また、上記範囲を超えると、硫黄ラジカル種による、水素原子引き抜き反応が発生し、硫化水素等の硫化物の発生を伴う分解反応の恐れが生じる。
【0052】
架橋反応工程では、原料として用いる硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、の使用割合は、特に制限されず、製造目的とする硫黄ポリマー中の硫黄導入量により、適宜選択される。架橋反応工程における原料として用いる硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、の使用割合は、硫黄導入量が高くなる点で、好ましくは硫黄、化合物(1)及び化合物(2)の合計に対する硫黄の質量割合が、50.0~95.0質量%、より好ましくは70.0~95.0質量%となる割合である。
【0053】
架橋反応工程において、ジチオカルバミン酸塩系触媒の使用量は、特に制限されないが、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、の反応が良好になる点で、好ましくは化合物(1)及び化合物(2)の合計に対するジチオカルバミン酸塩系触媒の質量割合が、0.1~5.0質量%、より好ましくは0.5~3.0質量%となる割合である。
【0054】
架橋反応工程において、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、反応させる際の反応時間は、特に制限されないが、好ましくは0.5~24時間、特に好ましくは2~8時間である。架橋反応工程において、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、を反応させる際の雰囲気は、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気である。
【0055】
架橋反応工程では、化合物(1)及び化合物(2)以外の架橋剤を用いることができる。このような架橋剤としては、1,3-ジイソプロペニルベンゼンが挙げられる。なお、化合物(1)及び化合物(2)以外の架橋剤を用いる場合、化合物(1)と化合物(2)と化合物(1)及び化合物(2)以外の架橋剤の合計に対する化合物(1)及び化合物(2)以外の架橋剤の質量割合は2.0質量%以下が好ましい。なお、架橋反応工程では、化合物(1)及び化合物(2)以外の架橋剤を用いないことが特に好ましい。
【0056】
本発明の硫黄ポリマーの製造方法では、架橋反応工程において、硫黄ポリマーを得た後、必要に応じ、得られた硫黄ポリマーを、水、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、酢酸エチル、ヘキサン、二硫化炭素、トルエン等の有機溶媒を用いて洗浄することができる。硫黄ポリマーの洗浄については、加熱下、例えば、有機溶媒の環流下で、硫黄ポリマーの洗浄を行ってもよい。
【0057】
本発明の硫黄ポリマーの製造方法では、架橋反応工程において、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、の反応の際に、ジチオカルバミン酸塩系触媒を存在させ、且つ、反応温度を、120~220℃、好ましくは140~190℃、特に好ましくは140~180℃とすることにより、相分離物を生成させることなく、硫黄ポリマーを製造することができる。そのため、本発明の硫黄ポリマーの製造方法は、硫黄ポリマーの収率を高くすることができる。
【0058】
一方、硫黄と化合物(1)又は化合物(2)との反応に、触媒を用いない場合、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、の反応を、140℃以下で行っても、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、の反応が、起こらないか、あるいは、起こり難い。また、触媒を用いない場合に、反応温度を250℃を超える温度にすると、反応性が高くなるので、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)と、の反応が進行するものの、反応の際に硫化水素等の硫化物が副成し、一部分解生成物が生じてしまう。
【0059】
本発明の硫黄ポリマーの製造方法では、ジチオカルバミン酸塩系触媒の存在下で、硫黄と、化合物(1)とを、120~220℃で加熱しているため、250℃付近の高温での分解反応が抑制される。そのため、本発明の硫黄ポリマーの製造方法では、反応中の硫化物ガスの生成が抑制され、且つ、得られる硫黄ポリマーの粘着性が高過ぎず回収が容易なものになると推測される。また、本発明の硫黄ポリマーの製造方法では、化合物(1)及び化合物(2)の合計に対する化合物(1)の割合が20.0質量%未満の割合の化合物(2)は、ジチオカルバミン酸塩系触媒の存在下で、硫黄と、120~220℃で加熱されると、トリアジン誘導体(2)は、イソシアヌル酸誘導体に転化し、硫黄と反応していると推測される。
【0060】
本発明の硫黄ポリマーの製造方法を行い得られる硫黄ポリマーは、硫黄(硫黄分子)を、架橋剤として化合物(1)又は化合物(2)を用いて架橋させて得られたものなので、硫黄原子が鎖状に繋がった硫黄鎖が多数、架橋剤である化合物(1)又は化合物(2)の反応残基で繋がっている分子構造を有する。つまり、本発明の硫黄ポリマーの製造方法を行い得られる硫黄ポリマーは、多数の硫黄鎖と、複数の硫黄鎖に結合する化合物(1)又は化合物(2)の反応残基と、を有する。
【0061】
本発明の硫黄ポリマーの製造方法は、硫黄と、化合物(1)、又は化合物(1)及び化合物(2)とを反応の際に、硫化物ガスの副成が少ないので、得られる硫黄ポリマー中の硫黄含有量を高くすることができる。本発明の硫黄ポリマーの製造方法を行い得られる硫黄ポリマー中の硫黄含有量は、好ましくは50.0質量%以上、特に好ましくは75.0~95.0質量%である。特に本発明の硫黄ポリマーをリチウム硫黄電池正極材として用いる場合には、電池性能の面で硫黄ポリマー中の硫黄含有量は75.0~95.0質量%であることが好ましく、85.0~95.0質量%であることが特に好ましい。
【0062】
本発明において、上記硫黄ポリマー中の硫黄含有量は、元素分析により求められる値である。よって、上記硫黄ポリマー中の硫黄含有量の測定に当たっては、製造後の硫黄ポリマーを、不活性ガス雰囲気下で常温になるまで静置した後に、乳鉢等の粉砕機で微粒子化した試料を、元素分析の測定対象試料とする。測定回数はN=5とし、ばらつきが十分に小さいことを確認し、その平均値を硫黄含有量とする。
【0063】
本発明の硫黄ポリマーの製造方法では、ジチオカルバミン酸塩系触媒の作用により、化合物(1)又は化合物(2)の反応点が増えるため、触媒を用いない前記特許文献1等に比べ、C-S結合が多く形成される。本発明の硫黄ポリマーの製造方法を行い得られる硫黄ポリマーを、X線光電子分光法(XPS)を用いて分析したときに、C-C及びC-H結合に由来する285eV付近にピークトップを有するピークAのピーク面積に対するC-S、C-O及びC-N結合に由来する286.3eV付近にピークトップを有するピークBのピーク面積の比(B/A)が、好ましくは0.45~0.95、特に好ましくは0.50~0.80である。
【0064】
本発明において、硫黄ポリマーの上記XPS分析によるピーク面積比(B/A)は、XPS測定により、試料最表面の定性分析(ワイドスペクトル)で元素を確認後、注目元素(C、N、O、S)について複数回の状態分析を行い、ピーク分離はC1s スペクトルについて実施し、C1s スペクトルは3~4成分(285、286、288、289.5eV付近)とし、半値幅をいずれも同じと仮定して算出することより求められる値である。
【0065】
本発明の硫黄ポリマーの製造方法を行い得られる硫黄ポリマーの用途は特に制限されず、硫黄ポリマーの使用が可能な用途に適宜用いられる。
【0066】
本発明の硫黄ポリマーの製造方法を行い得られる硫黄ポリマーは、例えば、リチウム硫黄二次電池の正極材として用いられる。つまり、本発明のリチウム硫黄二次電池用正極材の製造方法は、硫黄と、
前記一般式(1):
【0067】
【化11】
【0068】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、硫黄と反応可能な置換基であり、前記硫黄と反応可能な置換基は、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、スルフィド基、メルカプト基、グリシジル基、シアノ基、カルボニル基及びハロゲンを有する炭素数が1~15の直鎖又は分岐の炭化水素基からなる群から選ばれる基であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、前記硫黄と反応可能な置換基である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるイソシアヌル酸誘導体、又は前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び前記一般式(2):
【0069】
【化12】
【0070】
(式中、R、R及びRのうち、1つ、2つ又は全てが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)であり、R、R及びRのうち、1つ又は2つが、アリルオキシ基又は炭素数が4~15の置換アリルオキシ基(置換基は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)である場合は、残りは、炭素数が1~15の直鎖又は分岐のアルキル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルケニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルキニル基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が2~15の直鎖又は分岐のアルコキシ基(ハロゲン元素を含んでいてもよい)、炭素数が6~20のアリール基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、グリシジル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基及び水素原子からなる群から選ばれる基である。なお、R、R及びRは、同一であっても、異なってもよい。)
で表されるトリアジン誘導体と、
を、ジチオカルバミン酸塩系触媒の存在下、120~220℃で反応させる架橋反応工程を有し、
前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体及び前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の合計に対する前記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体の割合が80.0~100.0質量%であること、
を特徴とするリチウム硫黄二次電池の正極材の製造方法である。
【0071】
本発明のリチウム硫黄二次電池の正極材の製造方法に係る架橋反応工程は、本発明の硫黄ポリマーの製造方法に係る架橋反応工程と同様である。
【実施例0072】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
ポリフルオロアルコキシ樹脂(PFA)製容器に、12.6gの硫黄(関東化学社製)、1.4gのTAIC(慣用名:トリアリルイソシアヌレート、IUPAC名:1,3,5-トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、シグマアルドリッチ社製)及び0.14gのジエチルジチオカルバミン酸亜鉛を秤量した。次いで、原料を軽くスパチュラで混合し、容器に撹拌子を入れ、マグネッチックスターラーで攪拌しながら、170℃にて加熱を行った。10~40分程度加熱を行うと試料の粘性上昇に伴い、撹拌子が停止した。その後、撹拌子を系内から取り出し、更に、スパチュラの裏で6~10分間混合を行うと全体がゲル状に変化した。次いで、ゲルをオイルバスから取り出し、140℃に設定された窒素雰囲気の恒温槽で、6時間追加熱し、硫黄ポリマーを得た。
【0074】
(比較例1)
ポリフルオロアルコキシ樹脂(PFA)製容器に、12.6gの硫黄(関東化学社製)を秤量した。マグネッチックスターラーで攪拌しながら、175~185℃に昇温して液体硫黄を得て、液体硫黄に1.4gのTAIC(慣用名:トリアリルイソシアヌレート、IUPAC名:1,3,5-トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、シグマアルドリッチ社製)を加えた後に、該温度で6時間保温して反応を進行させた。得られた材料を粉砕した後、不活性ガス雰囲気下で250℃で熱処理した。熱処理時の昇温速度は2~5℃/minであり、続いて250℃で4時間保温し、硫黄と架橋剤を共重合反応させ、硫黄ポリマーを得た。
【0075】
<硫黄含有量の分析方法>
硫黄分析は得られたサンプルを粉砕し、LECO社製 SC832DRを用い測定した。
比較例については、二硫化炭素にて洗浄しその後桐山漏斗を用い濾過し、減圧乾燥した後、分析を行った
【0076】
<X線光電子分光法(XPS)によるピーク面積の比(B/A)の分析方法>
アルバック・ファイ製PHI-QuanteraII 走査型X線光電子分光装置を用い、測定条件:X線源 Al Kα、モノクロ 1486.6eV、25W、分析領域1.0×0.4mm帯電中和機構利用(電子中和+イオン銃)の条件で行った。試料はAl皿で測定用ホルダーに固定してXPS装置に導入した。XPS測定は試料最表面の定性分析(ワイドスペクトル)で元素を確認後、注目元素(C、N、O、S)について複数回の状態分析を行った。スペクトルの横軸補正はO1sスペクトルの一致が良く、炭素の主骨格に対してSの状態変化が検出できると思われるO1sを横軸補正に採用した。ピーク分離はC1sスペクトルについて実施した。C1sスペクトルは3~4成分(285、286、288、289.5eV付近)とし、半値幅をいずれも同じと仮定して算出した。
上記C1sスペクトルについて、C-C及びC-H結合に由来する285eV付近にピークトップを有するピークAのピーク面積と、C-S、C-O及びC-N結合に由来する286.3eV付近にピークトップを有するピークBのピーク面積を測定した。次いで、ピーク面積の比(B/A)を算出した。
【0077】
(結果)
<実施例1>
実施例1の硫黄ポリマーは、相分離することなく反応容器から容易に回収することができた。硫黄ポリマーの収率は95%程度であった。硫黄含有量は90.0質量%であった。図1に示すとおり、X線光電子分光法(XPS)によるピーク面積の比(B/A)は0.604であった。
【0078】
<比較例1>
比較例1では、硫黄ポリマーの容器に対する付着性が極めて高く、反応容器からの回収を試みたものの、付着したものを完全には回収しきれなかった。そのため、硫黄ポリマーの収率は40%程度であった。硫黄含有量は93.0質量%であった。図2に示すとおり、X線光電子分光法(XPS)によるピーク面積の比(B/A)は0.0759であった。
【0079】
次いで、以下のようにして、実施例1の硫黄電池性能試験を行った。
<硫黄ポリマーを用いた電極の作製及びコインセルの作製と充放電試験>
硫黄ポリマーと導電助剤のアセチレンブラック(デンカ社製、デンカブラックHS-100)とバインダー(カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)(ダイセル社製、品番2200)を、6:3:1の質量比率でそれぞれ測り取った。硫黄ポリマーと導電助剤をメノウ乳鉢に入れ、混合し、更にバインダーを加えて、追加混合した。次に、純水を2回に分けて加え、乳鉢で混合した。調整した試料を自転・公転ミキサー(2000rpm、3min)で混合し、スラリーを得た。アルミ箔上に膜厚200μmで電極を塗布し、40℃で一晩乾燥した。得られた電極をφ16で打ち抜いた。打ち抜いた電極を一軸プレスにて、空隙率が、30~40%程度になるようにプレスした。作製した電極をガラスチューブオーブンに入れ、50℃、14h真空乾燥した。
コインセル(CR2032)は、リチウム箔、ポリオレフィン製セパレーター、硫黄ポリマーを用いて作製した電極を高純度アルゴンで満たされたグローブボックスで組み立てて製作した。電解液は1M LiTFSI(キシダ化学社製)/0.1M LiNO(関東化学社製)を、1,3-ジオキサン(シグマアルドリッチ社製)/ 1,2-ジメトキシエタン(キシダ化学社製)に溶かしたものを用いた。電気化学測定は北斗電工株式会社HJ1001SD8を用いて行った。定電流放電/充電電圧が、1.0~3.0Vの間で0.05C(1C-1670mAh/g)で25℃で測定した。全ての放電/充電容量は、硫黄の重量に基づいて計算した。
【0080】
<電池の性能評価>
図3に示す充放電曲線、図4に示す充放電グラフから、実施例1の硫黄ポリマーはリチウム硫黄二次電池の正極材として機能するのに十分な性能を有することが確認された。
図1
図2
図3
図4