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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002505
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ナノホウ素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 35/02 20060101AFI20231228BHJP
   C01G 1/00 20060101ALI20231228BHJP
   C01B 35/04 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C01B35/02
C01G1/00 S
C01B35/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101724
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】ミリアラ ムラリダ
(72)【発明者】
【氏名】アルヴァパッリー サイ スリカンス
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047JA02
4G047JC16
4G047KA01
4G047KA18
4G047KB02
4G047KB04
4G047KB13
4G047KB17
4G047LB10
(57)【要約】
【課題】不純物となる酸化ホウ素(B)が形成・混入することなく、微細な粒径及び結晶化度を維持することができるナノホウ素の製造方法を提供すること。
【解決手段】(1)ホウ素を0.5CP以上の粘度を有する溶媒に分散させた混合物を調製する調製工程と、(2)前記混合物に超音波を照射して前記混合物中のホウ素の少なくとも一部をナノ化させてナノホウ素とする超音波処理工程と、(3)前記混合物からナノホウ素を回収する回収工程と、を含むこと、を特徴とするナノホウ素の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ホウ素を0.5CP以上の粘度を有する溶媒に分散させた混合物を調製する調製工程と、
(2)前記混合物に超音波を照射して前記混合物中のホウ素の少なくとも一部をナノ化させてナノホウ素とする超音波処理工程と、
(3)前記混合物からナノホウ素を回収する回収工程と、
を含むこと、
を特徴とするナノホウ素の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒の粘度が2.0CP以上であること、
を特徴とする請求項1に記載のナノホウ素の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒が2-プロパノールであること、
を特徴とする請求項2に記載のナノホウ素の製造方法。







【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノホウ素の製造方法に関する。より具体的には、本発明は、低コストで高性能のバルクMgB超伝導体を得るために用いることのできるナノホウ素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素は、単体で利用されることは少ないものの、ラス及びセラミックをはじめ、音響機器、半導体、磁石、超硬度材料といった化合物や合金の形で様々な用途で利用されている。
【0003】
上記の磁石のなかでも、二ホウ化マグネシウム(MgB)は、比較的高い温度でも超電導を示すことが知られており、液体窒素を利用することなく冷凍機を用いて超電導を示すことができ、また、セラミックス系と比較して実用のコストパフォーマンスが優れることから、超電導リニアモータカーなど様々な場面で利用されている。
【0004】
ところで、二ホウ化マグネシウムを利用した磁石の性能は、磁石中により細かな二ホウ化マグネシウムを形成することが重要となり、磁石の素材に細かなホウ素を利用することが好ましい。
【0005】
これに関し、一般的な粒子精製技術として、例えば特許文献1に記載されているようなボールミル粉砕によりホウ素を細かくすることが考えられるが、ボールミル粉砕に起因する不純物の混入、ボールミル粉砕時間に依存する結晶化度の喪失及び粒子の接続性低下、及び酸化ホウ素(B)の形成、粉砕の臨界時間経過後の粒径の増大という問題がある。また、熱分解によるナノホウ素の製造にはコストがかかり、やはり不純物の形成に改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-291853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、上記の従来技術の問題点に鑑みて、ボールミル技術とは異なって二酸化ホウ素の形成を阻止しつつ短時間でホウ素をナノサイズに微細化(精製)できる他の方法について鋭意検討した結果、超音波処理技術を用いれば上記問題点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の目的は、不純物となる酸化ホウ素(B)が形成・混入することなく、微細な粒径及び結晶化度を維持することができるナノホウ素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、
(1)ホウ素を0.5CP以上の粘度を有する溶媒に分散させた混合物を調製する調製工程と、
(2)前記混合物に超音波を照射して前記混合物中のホウ素の少なくとも一部をナノ化させてナノホウ素とする超音波処理工程と、
(3)前記混合物からナノホウ素を回収する回収工程と、
を含むこと、
を特徴とするナノホウ素の製造方法、を提供する。
【0010】
上記の本発明においては、前記溶媒が2-プロパノールであること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不純物が混入することなく、微細な粒径及び結晶化度を維持することができ、また、不純物としての酸化ホウ素(B)の形成を伴わない、ナノホウ素の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例においてホウ素混合物1~4から得たホウ素粉末1~4の粒径と、これらホウ素粉末1~4を用いて製造した二ホウ化マグネシウム(MgB)の臨界電流密度Jcとの関係を示すグラフである。
図2】溶媒として2-プロパノールを用いたホウ素混合物4を用い、超音波処理時間を15分間、30分間、45分間又は60分間に変えた場合について、最終的に得られた粉末(ナノホウ素粉末)4のX線回折(XRD)分析を行った結果を示すグラフである。
図3】2-プロパノールを用いた場合について、超音波処理を実施しなかったホウ素混合物から回収されたホウ素(超音波処理時間0分間)と、ホウ素混合物4から最終的に得られた粉末(ナノホウ素粉末)4(超音波処理時間45分間)についての、電界放出型走査電子顕微鏡(FE)と透過型電子顕微鏡(SEM)観察及び粒径の結果を示す画像及びグラフである。
図4】ナノホウ素(0分間、15分間、30分間、45分間又は60分間)から作製されたバルク二ホウ化マグネシウム(MgB)超伝導体のTc及びJcを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ナノホウ素の製造>
本発明に係るナノホウ素の製造方法は、主として、(1)ホウ素混合物調製工程、(2)超音波処理工程及び(3)ナノホウ素回収工程を含む。以下、本発明に係るナノホウ素の製造方法の詳細について、工程順に説明する。
【0014】
(1)ホウ素混合物調製工程
まず、ホウ素を0.5CP以上の粘度を有する溶媒に分散させた混合物を調製する。
ホウ素としては、市販の安価なホウ素を用いることができ、例えばフルウチ(株)製のもの(粒子状、300メッシュ、純度99%)等を挙げることができる。ホウ素の粒径に関しては、概ね280~350メッシュであればよく、300~325メッシュが好ましい。
【0015】
溶媒としては、得られるナノホウ素の粒径を確実に微細化させることができ、また、高い臨界電流密度を有するMgB超伝導体を確実に得ることができるという観点から、粘度が0.5CP以上のものであればよく、1.0CP以上のものが好ましく、1.5CP以上のものが更に好ましく、2.0CP以上であるのが特に好ましい。なお、粘度の上限は、概ね7.0CP程度である。
また、具体的な溶媒としては、例えばヘキサン、蒸留水、エタノール、2-プロパノール、t-ブチルアルコール、ベンジルアルコール、1-ヘプタノール、1-オクタノール等が挙げられる。
【0016】
ホウ素を溶媒に分散させる方法としては、ビーカー等の容器中、常温及び常圧下において、ホウ素と溶媒とを混合し、必要に応じて、スターラー等で攪拌すればよく、これによりホウ素混合物を得ることができる。
【0017】
なお、本工程で得られるホウ素混合物においては、ホウ素粒子が、少なくとも部分的に凝集しつつ、溶媒に分散している。また、上記ホウ素混合物含まれるホウ素粒子の粒径は、例えば概ね1μm~10μmの範囲である。
【0018】
(2)超音波処理工程
次に、上記ホウ素混合物調製工程(1)で得たホウ素混合物を超音波処理に供する。超音波処理工程により、ホウ素混合物に分散するホウ素粒子(凝集粒子を含む)を更に分散・解砕して、微粒子化させる。
【0019】
本工程においては、市販の超音波処理装置を用いることができ、例えば三井電気精機(株)製の超音波ホモジナイザー(超音波分散機)を好適に用いることができる。
【0020】
超音波処理装置の金属プローブをホウ素混合物中に浸漬し、強力な振動を伴う超音波によって混合物中のホウ素粒子に高エネルギー波を付与すると、ホウ素粒子が互いに衝突し、破損及びせん断を生じ、いわゆるナノホウ素粒子(粉末)を形成させることができる。本工程後のホウ素粒子の粒径は、例えば概ね50nm~500nmの範囲である。
【0021】
ここで、超音波処理の条件としては、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定することができ、例えば、5kHz~50kHzであればよいが、10kHz~30kHzであるのが好ましい。超音波を付与する時間は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定することができ、例えば15分間~60分間であればよいが、30分間~45分間でるのが好ましい。また、電力(出力)としても、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定することができ、例えば50~400Wの範囲であればよい。超音波処理時のホウ素混合物の温度は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定することができ、例えば常温でよいが、上限は35℃であればよく、下限は-50℃であればよい。
【0022】
(3)ナノホウ素回収工程
本工程においては、上記超音波処理工程(2)後のナノホウ素を含むホウ素混合物から、ナノホウ素粒子(粉末)を回収する。具体的には、例えばナノホウ素を含むホウ素混合物を加熱(及び乾燥)することによって、溶媒を除去して、ナノホウ素粒子(粉末)を得る。
【0023】
この加熱は、例えばマッフル炉等の加熱炉を用い、加熱条件としては、溶媒が十分に蒸発し得る加熱温度及び加熱時間とすればよい。
【0024】
このようにしてナノホウ素回収工程により得られるナノホウ素は、従来のボールミル技術において不純物として生成・混入する酸化ホウ素(B)を含まない。
【0025】
<ナノホウ素を用いた二ホウ化マグネシウムの製造>
上記のように本発明に係るナノホウ素の製造方法により得られるナノホウ素を用いれば、好適な二ホウ化マグネシウム(MgB)超伝導体が得られる。
【0026】
例えば、アモルファスMg粉末とナノホウ素粉末とを、モル比1:2で混合し、得られた混合物を、酸化を防ぐためにグローブボックス内で粉砕処理に供する。その後、上記混合物をペレット状にプレスし、得られたペレットを加熱して焼結することにより、二ホウ化マグネシウム(MgB)超伝導体を得る。
【0027】
このようにナノホウ素を用いて製造した二ホウ化マグネシウム(MgB)超伝導体は、高い臨界電流密度を有する。
【0028】
以上、本発明に係るナノホウ素の製造方法について説明したが、以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によって何ら制限を受けるものではない。
【実施例0029】
[ナノホウ素の製造]
フルウチ(株)製のホウ素(粒子状、300メッシュ、純度99%)を、溶媒であるヘキサン(粘度:0.297CP)、蒸留水(粘度:0.89CP)、エタノール(粘度:1.095CP)又は2-プロパノール(粘度:2.07CP)と常温下で混合し、ホウ素混合物1~4を調製した(ホウ素混合物調製工程)。
【0030】
次に、上記のようにして得られたホウ素混合物1~4のそれぞれに、三井電気精機(株)製の超音波ホモジナイザー(超音波分散機)の金属プローブを浸漬させ、常温下、処理時間を15分間、30分間、45分間又は60分間、電力50%(150W)、及び周波数20kHzの条件で、超音波を付与した(超音波処理工程)。
【0031】
超音波処理後のホウ素混合物1~4を、マッフル炉内で、加熱温度70℃及び加熱時間12時間で加熱することにより、溶媒を除去して、粉末1~4を得た。
【0032】
[評価]
(1)粒径
上記のようにしてホウ素混合物1~4から得た粉末1~4について、透過型電子顕微鏡(SEM)及びBET法を用いて、粒径を測定した。その結果を図1に示した。
図1から、粘度が高い溶媒を利用するほど、粒径の小さいホウ素粉末が得られることがわかる。
【0033】
(2)超音波処理時間の影響
(2-1)不純物の形成
得られた粉末中に不純物である酸化ホウ素(B)が含まれるか否かについて、超音波処理時間がどう影響するかを評価した。具体的には、溶媒として2-プロパノールを用いたホウ素混合物4を用い、超音波処理時間を15分間、30分間、45分間又は60分間に変えた場合について、最終的に得られた粉末(ナノホウ素粉末)4のX線回折(XRD)分析を行った。その結果を図2に示した。
図2から、いずれの場合も粉末4に不純物である酸化ホウ素(B)に対応するピークが見受けられず、不純物が形成されていないことが確認できる。
【0034】
(2-2)粒径への影響
2-プロパノールを用いた場合について、超音波処理を実施しなかったホウ素混合物から回収されたホウ素と、ホウ素混合物4から最終的に得られた粉末(ナノホウ素粉末)4(超音波処理時間45分間)について、電界放出型走査電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡を使用して粒子の観察及び粒径の測定を行った。その結果を図3に示した。
図3から、2-プロパノールを溶媒に用いて超音波処理時間を45分間にした場合、得られたホウ素粒子の粒径が確実に小さくなっていることがわかる。
【0035】
(2-3)二ホウ化マグネシウム(MgB)超伝導体への影響
上記ホウ素混合物4(溶媒2-プロパノール)から得たナノホウ素を用いて二ホウ化マグネシウム(MgB)超伝導体を作製した。
【0036】
例えばアモルファスMg粉末(純度99.9%、200メッシュ)とナノホウ素粉末4とを、モル比1:2で混合し、得られた混合物を、酸化を防ぐためにグローブボックス内で粉砕した。その後、上記混合物を、約20kNの力で一軸油圧プレスを使用して、直径20mm、厚さ7mmのペレットにプレスした。ペレットはすぐにチタン(Ti)フォイルで包み、Ar雰囲気下の管状炉で775℃及び3時間の条件で加熱して焼結させ、二ホウ化マグネシウム(MgB)超伝導体を得た。
【0037】
ナノホウ素(0分間、15分間、30分間、45分間又は60分間)から作製されたバルク二ホウ化マグネシウム(MgB)超伝導体の臨界温度(Tc)及び臨界電流密度(Jc)を、SQUID磁力計(日本カンタム・デザイン(株)製のモデルMPMS5)を使用して測定した。なお、Jcは、拡張Bean臨界状態モデル式を使用して、磁化ヒステリシスループ(M-H)から計算した。その結果を図4に示した。
図4の左のグラフから、超音波処理時間を変えた場合、バルク二ホウ化マグネシウム(MgB)超伝導体の超電導特性が失われていないことがわかる。また、図4の右のグラフから、超音波処理時間を変えた場合、バルク二ホウ化マグネシウム(MgB)超伝導体の臨界電流密度が、超音波処理無しのものと比較して、格段に上昇していることがわかる。
【0038】
また、表1に示す溶媒を用い、45分間超音波処理により得られたナノホウ素を用いて得られた二ホウ化マグネシウム(MgB)超伝導体のJc及び平均粒径等のデータを、表1に示した。表1から、2-プロパノールを用いた場合にJcの著しい増加がみられることがわかる。
【表1】
【0039】
なお、506kA/cmおよび380kA/cmのセルフフィールドJcがそれぞれ10k及び20kで観察され、安価な市販のホウ素を使用する場合に比べて、Jcが大幅に増加していた。そして、マトリックス内にナノMgB粒子があり、平均粒径が150nm程度であることから、微細構造が得られていることもわかる。これらにより、本発明に係る超音波処理を用いたナノホウ素の製造方法は、ナノホウ素前駆体の安価な精製及び強化されたJcを有するバルクMgB粒子の安価な製造に有益であることがわかる。


図1
図2
図3
図4