(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025064
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】SiC単結晶転写用複合基板、SiC単結晶転写用複合基板の製造方法、およびSiC接合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H01L21/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128205
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】313001309
【氏名又は名称】株式会社サイコックス
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】寺島 彰
(57)【要約】
【課題】 SiC接合基板の製造プロセスに繰り返し用いるSiC単結晶基板の反りを改善することで、搬送エラーや加工テーブルに基板を保持することができない不具合を抑制すると共に、表面活性化工程や貼り合せ工程で基板を加工テーブルに静電チャックによって保持することを可能とし、接合不良の発生を抑制することができるSiC単結晶転写用複合基板、SiC単結晶転写用複合基板の製造方法、およびSiC接合基板の製造方法を提供する。
【解決手段】 SiC単結晶基板と、体積抵抗率が10Ω・cm以下の第1SiC多結晶基板と、を備え、前記SiC単結晶基板の片面は、前記第1SiC多結晶基板の片面と共有結合によって直接接合している、SiC単結晶転写用複合基板。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC単結晶基板と、
体積抵抗率が10Ω・cm以下の第1SiC多結晶基板と、を備え、
前記SiC単結晶基板の片面は、前記第1SiC多結晶基板の片面と共有結合によって直接接合している、SiC単結晶転写用複合基板。
【請求項2】
前記第1SiC多結晶基板はウエハ形状であり、前記第1SiC多結晶基板の円周の輪郭線の最大値と、前記SiC単結晶基板と前記第1SiC多結晶基板との接合面の円周の輪郭線が同一である、請求項1に記載のSiC単結晶転写用複合基板。
【請求項3】
請求項1に記載のSiC単結晶転写用複合基板の製造方法であって、
前記SiC単結晶基板の第1接合対象面および前記第1SiC多結晶基板の接合対象面に高速原子ビームを照射して、これらの接合対象面を活性化させる第1活性化工程と、
前記第1活性化工程後、前記SiC単結晶基板の前記第1接合対象面と前記第1SiC多結晶基板の前記接合対象面を常温接合により、共有結合して直接接合する第1常温接合工程と、
を含む、SiC単結晶転写用複合基板の製造方法。
【請求項4】
前記第1常温接合工程後、前記第1SiC多結晶基板の側面を研磨して、前記SiC単結晶基板の側面、前記第1SiC多結晶基板の側面、および前記SiC単結晶基板と前記第1SiC多結晶基板との接合面の円周の輪郭によりなる凹部を除去する側面研磨工程を含む、請求項3に記載のSiC単結晶転写用複合基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のSiC単結晶転写用複合基板における前記SiC単結晶基板の第2接合対象面に対して水素イオンを注入し、前記SiC単結晶基板の内部に水素イオン注入層を形成する水素イオン注入層形成工程と、
前記SiC単結晶基板の前記第2接合対象面および第2SiC多結晶基板の接合対象面に高速原子ビームを照射して、これらの接合対象面を活性化させる第2活性化工程と、
前記第2活性化工程後、前記SiC単結晶基板の前記第2接合対象面と前記第2SiC多結晶基板の前記接合対象面を常温接合により、共有結合して直接接合する第2常温接合工程と、
前記第2常温接合工程後、前記SiC単結晶基板を前記水素イオン注入層に沿って剥離して、前記第2SiC多結晶基板にSiC単結晶薄膜を転写する剥離工程と、を含み、
前記SiC単結晶転写用複合基板および前記第2SiC多結晶基板は、静電チャックにより保持する、前記SiC単結晶薄膜を前記第2SiC多結晶基板に備えるSiC接合基板の製造方法。
【請求項6】
前記剥離工程後の前記SiC単結晶転写用複合基板を繰り返し用いて、複数の前記SiC接合基板を製造する方法であって、
前記SiC単結晶転写用複合基板の前記SiC単結晶基板の厚みが140μm未満となるまで、前記水素イオン注入層形成工程、前記第2活性化工程、前記第2常温接合工程、および前記剥離工程を繰り返す、請求項5に記載のSiC接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス等に使用するSiC単結晶基板とSiC多結晶基板を接合し、SiC単結晶基板の表面よりSiC単結晶薄膜を分離して作製するSiC単結晶薄膜とSiC多結晶基板で構成されるSiC接合基板の技術分野に関するものであり、特に、SiC単結晶転写用複合基板、SiC単結晶転写用複合基板の製造方法、およびSiC接合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(以下、「SiC」とする場合がある。)は、シリコン(以下、「Si」とする場合がある)と比較すると、3倍程度の大きなバンドギャップ(4H-SiCで、3.8eV程度、6H-SiCでは、3.1eV程度、対するSiは1.1eV程度)と高い熱伝導率(SiCは5W/cm・K程度、対するSiは1.5W/cm・K程度)を有することから、近年、パワーデバイス用途の基板材料として単結晶SiCが使用され始めている。
【0003】
通常、SiC単結晶基板は、昇華再結晶法(改良レーリー法)と呼ばれる気相法で作製され(例えば非特許文献1参照)、所望の直径および厚さに加工される。
【0004】
改良レーリー法は、SiCの固体原料(通常は粉末)を高温(2,400℃以上)で加熱・昇華させ、不活性ガス雰囲気中を昇華したシリコン原子と炭素原子が2,400℃の蒸気として拡散により輸送され、原料よりも低温に設置された種結晶上に過飽和となって再結晶化させることにより塊状の単結晶を育成する製造方法である。
【0005】
しかし、この方法は、プロセス温度が2,400℃以上と非常に高いため、結晶成長の温度制御や対流制御、結晶欠陥の制御が非常に難しい。そのため、この方法で作製されたSiC単結晶基板には、マイクロパイプと呼ばれる結晶欠陥やその他の結晶欠陥(積層欠陥等)が多数存在し、電子デバイス用途に耐え得る高品質な単結晶基板を歩留まりよく製造することが難しい。
【0006】
高品質な単結晶基板製造のため、様々な工夫がされている。例えば、CVD法を用いてSiC単結晶基板を作製することができる。しかし、この方法で作製されたSiC単結晶は電子デバイス用に用いることの出来る結晶欠陥の少ない高品質であるものの高額であり、その結果、そのようなSiC単結晶を用いたデバイスも高額なものになっており、SiC単結晶基板の普及の妨げとなっていた。
【0007】
そこで、デバイス形成層部のみ品質の良いSiC単結晶を用いて、それを支持基板(デバイス製造工程に耐えうる強度・耐熱性・清浄度を持つ材料:例えば、SiC多結晶)に、接合界面における酸化膜の形成を伴わない接合手法にて固定することにより、低コスト(支持基板部)と高品質(SiC部)を兼ね備えたSiC接合基板を製造する技術が提供されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0008】
このSiC接合基板の製造工程について具体的に説明する。まず、平坦化工程において、研削、研磨またはラッピングなどの機械研磨によってSiC多結晶の支持基板表面が平坦化される。また、平坦化工程では、単結晶SiC基板の表面も同様に平坦化されるが、SiC単結晶基板は、異なる結晶方位を有する結晶粒が基板面内に存在しないため、上記の機械研磨の後に、化学機械研磨を用いて基板の表面をさらに平坦化することが可能である。次に、イオン注入工程では、平坦化後のSiC単結晶基板表面から水素イオンを注入する。これにより、SiC単結晶基板表面から所定の深さに、水素イオン注入層が形成される。後述する水素原子のアブレーションによる分離技術により、この部分より分離される。水素イオン注入層の深さは、イオン注入する水素イオンのエネルギーにより制御出来るが、通常、0.5~1.0μmの範囲である。
【0009】
さらに、平坦化された多結晶SiCおよび単結晶SiC基板の表面に表面活性化手法を用いて、表面を貼り合わせる。そして、互いに貼り合わされた状態の多結晶SiCおよび単結晶SiC基板を加熱する。これにより、上記の水素イオン注入層で単結晶SiC基板が破断し分離する。支持基板であるSiC多結晶基板の表面に厚さ0.5~1.0μmの高品質のSiC単結晶薄膜が転写され貼り合わされた状態で、SiC接合基板が得られる。
【0010】
そして、水素イオン注入層での分離により厚みが1μm程度薄くなったSiC単結晶基板は、転写に用いるために十分な厚みがある場合には、再び接合する側の基板表面を平坦加工し、接合基板を製造するために繰り返し供される。
【0011】
特許文献1に係る製造法を用いてSiC接合基板を作製する場合、繰り返し使用するSiC単結晶基板は、接合と分離を行う度に徐々に薄くなる。基板の厚みが薄くなると、SiC単結晶基板の反りが大きくなってくる。特に、上記イオン注入工程において水素イオン注入層が形成されたことにより生じる基板内部の応力によって、水素イオン注入後のSiC単結晶基板の反りが顕著に大きくなり、搬送エラーや加工テーブルに基板を保持することができない不具合が発生する。加えて、表面活性化工程や貼り合せ工程では装置内は真空状態となり基板を真空吸着法による加工テーブルへの保持は不可であり、上記のSiC多結晶基板との接合が均一に出来ない等の接合不良も発生し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Yu. M. Tairov and V. F. Tsvetkov: J.of Cryst.Growth 43(1978)209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、SiC接合基板の製造プロセスに繰り返し用いるSiC単結晶基板の反りを改善することで、搬送エラーや加工テーブルに基板を保持することができない不具合を抑制すると共に、表面活性化工程や貼り合せ工程で基板を加工テーブルに静電チャックによって保持することを可能とし、接合不良の発生を抑制することができるSiC単結晶転写用複合基板、SiC単結晶転写用複合基板の製造方法、およびSiC接合基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明のSiC単結晶転写用複合基板は、SiC単結晶基板と、体積抵抗率が10Ω・cm以下の第1SiC多結晶基板と、を備え、前記SiC単結晶基板の片面は、前記第1SiC多結晶基板の片面と共有結合によって直接接合している、SiC単結晶転写用複合基板である。
【0016】
前記第1SiC多結晶基板はウエハ形状であり、前記第1SiC多結晶基板の円周の輪郭線の最大値と、前記SiC単結晶基板と前記第1SiC多結晶基板との接合面の円周の輪郭線が同一であってもよい。
【0017】
また、上記の課題を解決するため、本発明のSiC単結晶転写用複合基板の製造方法は、前記SiC単結晶基板の第1接合対象面および前記第1SiC多結晶基板の接合対象面に高速原子ビームを照射して、これらの接合対象面を活性化させる第1活性化工程と、前記第1活性化工程後、前記SiC単結晶基板の前記第1接合対象面と前記第1SiC多結晶基板の前記接合対象面を常温接合により、共有結合して直接接合する第1常温接合工程と、を含む、SiC単結晶転写用複合基板の製造方法である。
【0018】
前記第1常温接合工程後、前記第1SiC多結晶基板の側面を研磨して、前記SiC単結晶基板の側面、前記第1SiC多結晶基板の側面、および前記SiC単結晶基板と前記第1SiC多結晶基板との接合面の円周の輪郭によりなる凹部を除去する側面研磨工程を含んでもよい。
【0019】
また、上記の課題を解決するため、本発明のSiC接合基板の製造方法は、本発明のSiC単結晶転写用複合基板における前記SiC単結晶基板の第2接合対象面に対して水素イオンを注入し、前記SiC単結晶基板の内部に水素イオン注入層を形成する水素イオン注入層形成工程と、前記SiC単結晶基板の前記第2接合対象面および第2SiC多結晶基板の接合対象面に高速原子ビームを照射して、これらの接合対象面を活性化させる第2活性化工程と、前記第2活性化工程後、前記SiC単結晶基板の前記第2接合対象面と前記第2SiC多結晶基板の前記接合対象面を常温接合により、共有結合して直接接合する第2常温接合工程と、前記第2常温接合工程後、前記SiC単結晶基板を前記水素イオン注入層に沿って剥離して、前記第2SiC多結晶基板にSiC単結晶薄膜を転写する剥離工程と、を含み、前記SiC単結晶転写用複合基板および前記第2SiC多結晶基板は、静電チャックにより保持する、前記SiC単結晶薄膜を前記第2SiC多結晶基板に備えるSiC接合基板の製造方法である。
【0020】
本発明のSiC接合基板の製造方法は、前記剥離工程後の前記SiC単結晶転写用複合基板を繰り返し用いて、複数の前記SiC接合基板を製造する方法であって、前記SiC単結晶転写用複合基板の前記SiC単結晶基板の厚みが140μm未満となるまで、前記水素イオン注入層形成工程、前記第2活性化工程、前記第2常温接合工程、および前記剥離工程を繰り返してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明であれば、SiC接合基板の製造プロセスに繰り返し用いるSiC単結晶基板の反りを改善することで、搬送エラーや加工テーブルに基板を保持することができない不具合を抑制すると共に、表面活性化工程や貼り合せ工程で基板を加工テーブルに静電チャックによって保持することを可能とし、接合不良の発生を抑制することができるSiC単結晶転写用複合基板、SiC単結晶転写用複合基板の製造方法、およびSiC接合基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のSiC単結晶転写用複合基板の製造方法、およびSiC接合基板の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】本発明における第1活性化工程(S1)の一例を示す図である。
【
図3】本発明における第1常温接合工程(S2)の一例を示す図である。
【
図4】本発明における側面研磨工程(S3)の一例、および本発明のSiC単結晶転写用複合基板の概略側面図を示す図である。
【
図5】本発明における水素イオン注入層形成工程(S4)の一例を示す図である。
【
図6】本発明における第2活性化工程(S5)の一例を示す図である。
【
図7】本発明における第2常温接合工程(S6)の一例を示す図である。
【
図8】本発明における剥離工程(S7)の一例を示す図である。
【
図9】本発明における第2接合対象面研磨(S8)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例について説明する。
【0024】
[SiC単結晶転写用複合基板]
本発明のSiC単結晶転写用複合基板は、SiC接合基板の製造に用いることのできる基板であり、SiC多結晶基板に転写するSiC単結晶の薄膜の素となる基板である。
図4に、本発明のSiC単結晶転写用複合基板100~103の側面図を示す。
【0025】
SiC単結晶転写用複合基板100は、SiC単結晶基板200と、第1SiC多結晶基板300とを備えており、SiC単結晶基板200の片面201は、第1SiC多結晶基板300の片面301の全面と共有結合によって直接接合している。
【0026】
〈SiC単結晶基板200〉
SiC単結晶基板200としては、例えば昇華法によって作製された、4H-SiC単結晶基板を用いることができる。SiC単結晶基板200の形状は、例えばオリエンテーションフラットを備える略円盤状であり、直径が4~8インチの基板を用いることができる。なお、形状は円盤状(ウエハ状)に限定されず、多角形状であってもよい。
【0027】
また、SiC単結晶基板200の厚みが薄くなると、SiC単結晶基板200の反りが大きくなっていき、その結果としてSiC単結晶転写用複合基板100が反ることによってSiC単結晶転写用複合基板100を搬送できない搬送エラーや、加工テーブルにSiC単結晶転写用複合基板100を保持できない、またはSiC単結晶転写用複合基板100を挟めない等の不具合が発生する場合がある。そのため、SiC単結晶転写用複合基板100全体の厚みを、反りが許容できる300μm以上とすることが好ましく、当該厚みが300μm以上であることにより、SiC単結晶転写用複合基板100を搬送することや、加工テーブルに保持することが可能となる。なお、SiC単結晶基板200の初期の厚みは、一般的には300μm~600μmである。
【0028】
なお、SiC単結晶基板200は、第1SiC多結晶基板300と接合される前に、予め側面の角の面取り、両面ラッピング、ポリッシング、洗浄等を行い、SiC単結晶基板200の表面の加工変質層やウネリを無くしたものを用いることが好ましい。
【0029】
〈第1SiC多結晶基板300〉
第1SiC多結晶基板300は、SiC単結晶基板200と共有結合によって直接接合することにより、SiC単結晶基板200を補強することができる基板である。SiC単結晶基板200を補強することで、例えばSiC単結晶基板200が繰り返し使用されて水素イオン注入層で剥離されて厚みが薄くなっても、後述する水素イオン注入層形成工程等においてのSiC単結晶基板200の反りを抑制することができ、反りを抑制することでSiC単結晶基板200の保持や搬送等が可能となる。
【0030】
SiC単結晶基板200との熱膨張差や耐熱性、高剛性、繰り返し使用するための耐久性等を考慮して、第1SiC多結晶基板300としては、例えば化学的気相蒸着法によりSiC多結晶を成膜して得た、3C-SiC多結晶基板を用いることができる。第1SiC多結晶基板300の形状は、SiC単結晶基板200とほぼ同形状であってよく、例えばオリエンテーションフラットを備える略円盤状であり、直径が4~8インチの基板を用いることができる。なお、形状は円盤状に限定されず、多角形状であってもよい。
【0031】
また、第1SiC多結晶基板300の厚みが薄くなると、SiC単結晶基板200の反りを緩和する補強効果が弱くなり、その結果としてSiC単結晶転写用複合基板100が反ることによってSiC単結晶転写用複合基板100を搬送できない搬送エラーや、加工テーブルにSiC単結晶転写用複合基板100を保持できない、またはSiC単結晶転写用複合基板100を挟めない等の不具合が発生する場合がある。そのため、SiC単結晶転写用複合基板100全体の厚みを、反りが許容できる300μm以上とすることにより、SiC単結晶転写用複合基板100を搬送することや、加工テーブルに保持することが可能となる。第1SiC多結晶基板300の厚みは、300μm以上、好ましくは、350μm以上とすることにより、SiC単結晶転写用複合基板100の保持や搬送等がより容易となる。なお、第1SiC多結晶基板300の厚みの上限は本発明の課題の解決に影響なく、特に限定されないが、一般的には500μmである。
【0032】
第1SiC多結晶基板300の体積抵抗率は10Ω・cm以下である。第1SiC多結晶基板300は補助基板としてSiC単結晶基板200に接合され、SiC接合基板の製造プロセスの中で接合、剥離、研磨、洗浄等を繰り返し行ってSiC接合基板の接合に繰り返し供される場合がある。そのため、第1SiC多結晶基板300の絶縁性が高いと、SiC単結晶転写用複合基板100の研磨時に発生した研磨屑や研磨粉等が第1SiC多結晶基板300に付着して後述する第2常温接合工程に持ち込まれ、SiC単結晶基板200と第2SiC多結晶基板700との接合不良が発生する原因となりやすい。第1SiC多結晶基板300の体積抵抗率を10Ω・cm以下にすることで研磨屑や研磨粉等に起因する接合不良を抑制することが可能となる。
【0033】
また、第2活性化工程や常温接合工程では、装置内が真空状態となるため、処理対象の基板を真空吸着法によって加工テーブルへ保持することは不可であり、真空吸着法以外の方法で保持する必要がある。本件では静電チャック方式を用いている。静電チャックは、誘電膜と基板の間に電位差を与え、誘電膜とウエハの間にチャージした電荷の静電気力により基板を保持するため、基板の抵抗が高いと電荷の放電時定数が大きくなって基板がなかなか剥がれないという問題が生じる。これは基板の量産工程においては、装置の製造処理能力が低下する原因となる。このため、静電チャック方式を用いるためには、保持する基板に導電性が必要である。SiC単結晶転写用複合基板100の場合、静電チャックが接するのは第1SiC多結晶基板300であるため、導電性を有する第1SiC多結晶基板300を用いる。すなわち、第1SiC多結晶基板300の体積抵抗率は10Ω・cm以下とする。これにより、第1SiC多結晶基板300を静電チャックから容易に脱着させることが出来、基板に導電性物質を塗布する手間や静電チャックの内部電極構造を格別に工夫する必要は無い。また、メカニカル・チャック方式を用いる必要が無いため、メカニカル・チャックという発塵源をSiC接合基板の製造方法から除去することができる。
【0034】
なお、第1SiC多結晶基板300の体積抵抗率の下限は本発明の課題の解決に影響なく、特に限定されないが、目安としては1Ω・cmである。また、第1SiC多結晶基板300の体積抵抗率は、測定時の基板の温度によって変動するが、本明細書において、体積抵抗率は第1SiC多結晶基板300の温度が25℃の場合の値である。
【0035】
そして、第1SiC多結晶基板300は、SiC単結晶基板200と接合される前に、予め側面の角の面取り、両面ラッピング、ポリッシング、洗浄等を行い、第1SiC多結晶基板300の表面の加工変質層やウネリを無くしたものを用いることが好ましい。
【0036】
SiC単結晶基板200と第1SiC多結晶基板300は、接合前に側面が予め面取り加工が施されていることが一般的であり、SiC単結晶転写用複合基板100を側面方向からみると、
図4(a)に示すように接合面の輪郭110で凹んでSiC単結晶転写用複合基板100の直径が小さくなっている。SiC単結晶転写用複合基板100は、SiC接合基板の製造プロセスの中で接合、剥離、研磨、洗浄等を繰り返し行ってSiC接合基板の接合に繰り返し供される場合がある。そのため、接合面の輪郭110で凹んでSiC単結晶転写用複合基板100の側面が凹んで溝状に小さくなっている形状、いわゆるポケット111がある状態では、研磨時に発生した基板の研磨屑や研磨粉等が、SiC単結晶転写用複合基板100を洗浄しても溝状のポケット111内に残り易く、SiC接合基板を製造する過程での発塵源となり得る。
【0037】
そこで、第1SiC多結晶基板300の側面112を、後述する側面研磨工程(S3)を行うことで研磨し、例えば、
図4(b)のSiC単結晶転写用複合基板101に示すように、第1SiC多結晶基板300の外周部にスロープ310を形成してもよい。スロープ310を形成することでポケット111が無くなるため、発塵源が除去することができる。SiC単結晶転写用複合基板101の接合面120とスロープ310によりなる勾配の角度Aは、第1SiC多結晶基板300の強度が弱くならないよう30°~60°とし、好ましくは45°とすることが好ましい。また、第1SiC多結晶基板300の解放面320とスロープ310によりなる勾配の角度Bは、鈍角とすることで、第1SiC多結晶基板300の解放面320とスロープ310によりなる端部330における第1SiC多結晶基板300の欠け等を防止することができる。
【0038】
なお、ポケット111が無くなる形状としては、SiC単結晶転写用複合基板101に限定されず、例えば
図4(c)に示すSiC単結晶転写用複合基板102や、
図4(d)に示すSiC単結晶転写用複合基板103が挙げられる。SiC単結晶転写用複合基板102は、側面113がSiC単結晶基板200と第1SiC多結晶基板300で合わせて半円となるように面取り加工されている。また、SiC単結晶転写用複合基板103は、SiC単結晶転写用複合基板101と似た側面形状であるが、SiC単結晶転写用複合基板101では第1SiC多結晶基板300の側面112のみが研磨されてスロープ310を形成されているのに対し、SiC単結晶転写用複合基板103では第1SiC多結晶基板300の側面112の全体とSiC単結晶基板200の側面114の一部が研磨されてスロープ130が形成されている。
【0039】
SiC単結晶転写用複合基板100の場合は、解放面320の円周の輪郭線と接合面120の円周の輪郭線は、いずれも第1SiC多結晶基板300の円周の輪郭線の最大値とはならず、かかる最大値は、解放面320と接合面120との間であってこれらの面のいずれからも等距離にある円周の輪郭線350(
図4(a)の点線)である。このように、接合面120の円周の輪郭線が、かかる最大値ではない場合にポケット111が形成される。
【0040】
これに対して、SiC単結晶転写用複合基板101、102、103に共通することは、第1SiC多結晶基板300の解放面320の円周の輪郭線が第1SiC多結晶基板300の円周の輪郭線の最小値であり、第1SiC多結晶基板300の接合面120の円周の輪郭線が第1SiC多結晶基板300の円周の輪郭線の最大値であることである。
【0041】
すなわち、第1SiC多結晶基板300の円周の最大値の輪郭線と、SiC単結晶基板200と第1SiC多結晶基板300との接合面120の円周の輪郭線が同一であることにより、SiC単結晶転写用複合基板にポケット111が存在しなくなる。
【0042】
また、第1SiC多結晶基板300が衝撃等で欠けないように、第1SiC多結晶基板300の解放面320の端部330を面取り加工してもよい。
【0043】
[SiC単結晶転写用複合基板の製造方法]
次に、本発明のSiC単結晶転写用複合基板100~103の製造方法について説明する。SiC単結晶転写用複合基板100は、
図1の第1活性化工程(S1)、第1常温接合工程(S2)により製造することができる。
【0044】
〈第1活性化工程(S1)〉
第1活性化工程は、SiC単結晶基板200の第1接合対象面260および第1SiC多結晶基板300の接合対象面360に高速原子ビームを照射して、これらの接合対象面を活性化させる工程である。
【0045】
図2に示すように、SiC単結晶基板200と第1SiC多結晶基板300を静電チャック500により吸引し、チャンバー400内にセットする。次に、静電チャック500を移動させてSiC単結晶基板200と第1SiC多結晶基板300との相対位置の位置合わせを行う。位置合わせは、後述する第1常温接合工程で両基板が正しい位置関係で接触できるように行われる。次に、チャンバー400内を真空状態にする。チャンバー400内の真空度は、例えば、1×10
-4~1×10
-7Pa程度であってもよい。
【0046】
次に、第1SiC多結晶基板300の接合対象面360およびSiC単結晶基板200の第1接合対象面260にファースト・アトミック・ビームガン(FABガン)410を用いて、高速原子ビームとしてアルゴン(Ar)の中性元素ビーム411を照射する。アルゴン(Ar)の中性元素ビーム411は、第1接合対象面260の全面および接合対象面360の全面に均一に照射される。FABガンを用いて原子または分子を基板の表面に衝突させることで、スパッタリング現象により基板の表面の酸化物や吸着層を除去することができるため、第1接合対象面260および接合対象面360の酸化膜や吸着層を除去して結合手を表出させることができる。この状態を活性状態と呼ぶ。また、中性元素ビーム411の照射は真空中での処理であるため、第1接合対象面260および接合対象面360は、酸化等されず活性状態を保持することができる。ここで、高速原子ビームとしてはアルゴン(Ar)イオンビームまたはアルゴン(Ar)中性原子ビームが用いられる。
【0047】
なお、SiC単結晶基板200および第1SiC多結晶基板300は、第1活性化工程の前に、予め側面の角の面取り、両面ラッピング、ポリッシング、洗浄等を行い、第1SiC多結晶基板300の表面の加工変質層やウネリを無くしたものを用いることが好ましい。
【0048】
〈第1常温接合工程(S2)〉
第1常温接合工程は、第1活性化工程後、SiC単結晶基板200の第1接合対象面260と第1SiC多結晶基板300の接合対象面360を常温接合により、共有結合して直接接合する工程である。直接接合には、1100℃で2時間等の条件で曝す接合方法や2000℃以上の温度で溶着する接合方法等、基板に熱を加えて接合する方法が用いられることが多いが、熱を加える方法では、生産効率が悪く、加熱時の各々の基板位置を高精度で貼合わせすることが難しい。また、加熱温度が2000℃を超えるとSiC中のシリコンが抜けて空隙となり、導電性を悪化させる。本発明では、接合方法を常温接合とすることで、生産性を向上させ、導電性を維持して、SiC単結晶基板200と第1SiC多結晶基板300の貼り合せの位置を高精度で貼り合せが可能となる。
【0049】
図3に示すように、静電チャック500を移動させることにより、SiC単結晶基板200の第1接合対象面260と第1SiC多結晶基板300の接合対象面360を、チャンバー400内において真空状態で接触させ加圧密着させる。活性状態の第1接合対象面260と接合対象面360に存在する結合手同士が結びつき、SiC単結晶基板200と第1SiC多結晶基板300とを接合することができる。これにより、SiC単結晶基板200と第1SiC多結晶基板300とが接合した構造のSiC単結晶転写用複合基板100が形成される。なお、常温とは、20℃~30℃である。
【0050】
〈側面研磨工程(S3)〉
本発明では、側面研磨工程を含んでも良く、本工程は、第1常温接合工程後、第1SiC多結晶基板300の側面112を研磨して、SiC単結晶基板200の側面114、第1SiC多結晶基板300の側面112、およびSiC単結晶基板200と第1SiC多結晶基板300との接合面120の円周の輪郭110によりなる凹部(ポケット111)を除去する工程である。
【0051】
側面研磨工程は、第1SiC多結晶基板300をSiC単結晶基板200に接合後に行うことが好ましく、すなわち、第1常温接合工程後に行うことが好ましい。接合前の第1SiC多結晶基板300の側面112を研磨すると、角度A(
図4(b))鋭角となり、SiC単結晶基板200と接合する前に第1SiC多結晶基板300が欠けてしまうおそれがある。
【0052】
本工程では、SiC単結晶転写用複合基板100(
図4(a))の側面が、既に紹介したSiC単結晶転写用複合基板101~103(
図4(b)~(d))の形状となるように研磨すれば良い。
【0053】
具体的には、ベベル機や研削装置を用いて側面研磨をすることができる。例えば、(1)ウエハ状のSiC単結晶転写用複合基板100を、その中心を回転軸として回転させた状態で、第1SiC多結晶基板300の側面112に同じく自転する砥石車の砥石を接触させて研削する、(2)回転させた状態のウエハ状のSiC単結晶転写用複合基板100の側面112を回転していない砥石に接触させて研削する、または、(3)自転すると共に貼り合わせ基板の周りを公転する砥石車の砥石をSiC単結晶転写用複合基板100の側面112に接触させて研削する、等の方法により側面研磨することができる。
【0054】
[SiC接合基板の製造方法]
次に、本発明のSiC接合基板の製造方法について説明する。SiC接合基板は、
図1の水素イオン注入層形成工程(S4)、第2活性化工程(S5)、第2常温接合工程(S6)、剥離工程(S7)により製造することができる。なお、以下の説明ではSiC単結晶転写用複合基板100を用いた例を記載しているが、SiC単結晶転写用複合基板101~103を用いてもSiC接合基板を製造できる。
【0055】
〈水素イオン注入層形成工程(S4)〉
水素イオン注入層形成工程は、SiC単結晶転写用複合基板100におけるSiC単結晶基板200の第2接合対象面270に対して水素イオンを注入し、SiC単結晶基板200の内部に水素イオン注入層600を形成する工程である。
【0056】
SiC単結晶基板200に水素イオンを注入すると、水素イオンは入射エネルギーに応じた深さまで到達し、高濃度に分布する。これにより、
図5のSiC単結晶転写用複合基板100の側面模式図に示すように、第2接合対象面270から所定深さに、点線で示す水素イオン注入層600が形成される。例えば、第2接合対象面270から深さ0.5~1.0μm程度の位置に水素イオン注入層600が形成される。
【0057】
〈第2活性化工程(S5)〉
第2活性化工程は、SiC単結晶基板200の第2接合対象面270および第2SiC多結晶基板700の接合対象面770に高速原子ビームを照射して、これらの接合対象面を活性化させる工程である。
【0058】
基本的な工程の手順は、第1活性化工程と同様である。
図6に示すように、SiC単結晶転写用複合基板100と第2SiC多結晶基板700を静電チャック500により吸引し、チャンバー400内にセットする。次に、静電チャック500を移動させてSiC単結晶転写用複合基板100と第2SiC多結晶基板700との相対位置の位置合わせを行う。位置合わせは、後述する第2常温接合工程で両基板が正しい位置関係で接触できるように行われる。次に、チャンバー400内を真空状態にする。チャンバー400内の真空度は、例えば、1×10
-4~1×10
-7Pa程度であってもよい。
【0059】
次に、SiC単結晶基板200の第2接合対象面270および第2SiC多結晶基板700の接合対象面770にファースト・アトミック・ビームガン(FABガン)410を用いて、高速原子ビームとしてアルゴン(Ar)の中性元素ビーム411を照射する。アルゴン(Ar)の中性元素ビーム411は、第2接合対象面270の全面および接合対象面770の全面に均一に照射される。FABガンを用いて原子または分子を基板の表面に衝突させることで、スパッタリング現象により基板の表面の酸化物や吸着層を除去することができるため、第2接合対象面270および接合対象面770の酸化膜や吸着層を除去して結合手を表出させることができる。この状態を活性状態と呼ぶ。また、中性元素ビーム411の照射は真空中での処理であるため、第2接合対象面270および接合対象面770は、酸化等されず活性状態を保持することができる。
【0060】
〈第2SiC多結晶基板700〉
第2SiC多結晶基板700は、SiC接合基板における支持基板である。第2SiC多結晶基板700としては、例えば化学的気相蒸着法によりSiC多結晶を成膜して得た、3C-SiC多結晶基板を用いることができる。第2SiC多結晶基板700の形状は、SiC単結晶転写用複合基板100とほぼ同形状であってよく、例えばオリエンテーションフラットを備える略円盤状であり、直径が4~8インチの基板を用いることができる。なお、形状は円盤状に限定されず、多角形状であってもよい。
【0061】
そして、第2SiC多結晶基板700の厚みは、SiC接合基板の支持基板として一般的な厚みであればよく、例えば300μm~500μmである。また、第2SiC多結晶基板700の体積抵抗率は、導電性を考慮して0.005~10Ω・cmであってもよく、SiCの一般的な体積抵抗率である105Ω・cm以上のSiC多結晶基板を使用しても良い。
【0062】
なお、第2SiC多結晶基板700は、第2活性化工程の前に、予め側面の角の面取り、両面ラッピング、ポリッシング、洗浄等を行い、第2SiC多結晶基板700の表面の加工変質層やウネリを無くしたものを用いることが好ましい。
【0063】
〈第2常温接合工程(S6)〉
第2常温接合工程は、第2活性化工程後、SiC単結晶基板200の第2接合対象面270と第2SiC多結晶基板700の接合対象面770を常温接合により、共有結合して直接接合する工程である。
【0064】
基本的な工程の手順は、第1常温接合工程と同様である。
図7に示すように、静電チャック500を移動させることにより、SiC単結晶基板200の第2接合対象面270と第2SiC多結晶基板700の接合対象面770を、チャンバー400内において真空状態で接触させる。活性状態の第2接合対象面270と接合対象面770に存在する結合手同士が結びつき、SiC単結晶転写用複合基板100と第2SiC多結晶基板700とを接合することができる。なお、常温とは、20℃~30℃である。
【0065】
〈剥離工程(S7)〉
剥離工程は、第2常温接合工程後、SiC単結晶基板200を水素イオン注入層600に沿って剥離して、第2SiC多結晶基板700にSiC単結晶薄膜280を転写する工程である。
【0066】
剥離工程では、SiC単結晶基板200に熱が加わることによって、水素イオン注入層600に微小気泡層が形成され、その微小気泡層を剥離面として第2SiC多結晶基板700に厚さが0.5~1.0μm程度のSiC単結晶薄膜280が転写され、SiC接合基板800となる。
【0067】
具体的には、互いに接合されたSiC単結晶転写用複合基板100と第2SiC多結晶基板700を800℃程度以上に加熱する。剥離の雰囲気は、アルゴン(Ar)や窒素(N)等の不活性ガス、真空の少なくとも何れか1つの雰囲気であってもよい。剥離は、ラピッド・サーマル・アニーリング(RTA)や、ファーネス炉を用いて実行されてもよい。これにより、SiC単結晶基板200を、水素イオン注入層600で分離させることができる。
図8に、剥離後のSiC単結晶転写用複合基板100とSiC接合基板800の側面模式図を示す。
【0068】
本発明のSiC接合基板の製造方法は、剥離工程後のSiC単結晶転写用複合基板100を繰り返し用いて、複数のSiC接合基板800を製造する方法であってもよく、SiC単結晶基板200を有するSiC単結晶転写用複合基板100の厚みが300μm未満となるまで、水素イオン注入層形成工程、第2活性化工程、第2常温接合工程、および剥離工程を繰り返してもよい。
【0069】
〈第2接合対象面研磨工程(S8)〉
剥離工程後のSiC単結晶転写用複合基板100を繰り返し用いる場合に、第2接合対象面研磨工程を行っても良い。本工程は、剥離工程後であって、水素イオン注入層形成工程前に、第2接合対象面270(
図9)を鏡面研磨する工程である。鏡面研磨は、第2接合対象面270を研削や研磨する機械研磨等によって行われてもよいし、CMP法によって行われてもよい。
【0070】
本発明のS4~S8の工程において、SiC単結晶転写用複合基板100、第2SiC多結晶基板700、およびSiC接合基板800は、静電チャックにより保持してもよい。なお、例えば、第2活性化工程(S5)や第2常温接合工程(S6)は、減圧状況下(1×10-4~1×10-7Pa程度)で実施されるので、基板の保持には真空チャックを使用することはできない。このため、メカニカル・チャック方式または静電チャック方式を用いることになるが、メカニカル・チャック方式では,保持において基板に局所的な応力が掛かり基板をフラットに保持できないだけでなく、繰り返し使用されるため基板にクラックやキズが発生することでこれらが発塵源となる可能性がある。そこで,これらを回避するために、基板の搬送や保持には、基板をストレスなく全面で保持出来る静電チャック方式を用いることが好ましい。
【実施例0071】
次に本発明の実施例を示してさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0072】
[SiC単結晶転写用複合基板の製造]
〈使用した基板〉
(SiC単結晶基板200)
SiC単結晶基板200としては、側面をR形状に面取り加工し、また、基板の両面を鏡面研磨加工および洗浄した、直径150mm、厚さ350μmであり、基板の主面方位が<0001>である4Hポリタイプの導電性を有するSiC単結晶基板を用意した。
【0073】
(第1SiC多結晶基板A(体積抵抗率3Ω・cm))
第1SiC多結晶基板300としては、側面をR形状に面取り加工し、また、基板の両面を鏡面研磨加工および洗浄した、直径150mm、厚さ350μmである立方晶の導電性を有する第1SiC多結晶基板Aを用意した。この基板の体積抵抗率は、25℃において3Ω・cmである。
【0074】
(第1SiC多結晶基板B(体積抵抗率105Ω・cm))
また、第1SiC多結晶基板300の比較のため、体積抵抗率が25℃において100Ω・cmの第1SiC多結晶基板Bを用意した。第1SiC多結晶基板Aと同様に、側面をR形状に面取り加工し、また、基板の両面を鏡面研磨加工および洗浄した、直径150mm、厚さ350μmである立方晶のSiC多結晶基板である。
【0075】
〈実施例1〉
SiC単結晶基板200と、第1SiC多結晶基板300として第1SiC多結晶基板Aを用いて、以下の第1活性化工程(S1)と第1常温接合工程(S2)を実施し、実施例1の厚さ700μmのSiC単結晶転写用複合基板100を複数枚製造した。
【0076】
(第1活性化工程(S1))
図2に示すように、SiC単結晶基板200と第1SiC多結晶基板300を静電チャック500により吸引し、チャンバー400内にセットした。次に、静電チャック500を移動させてSiC単結晶基板200と第1SiC多結晶基板300との相対位置を、第1常温接合工程で両基板が正しい位置関係で接触できるように位置合わせを行った。次に、チャンバー400内を2×10
-6Paの真空状態にした。
【0077】
そして、上記の真空状態で、第1SiC多結晶基板300の接合対象面360およびSiC単結晶基板200の第1接合対象面260にFABガン410を用いて、アルゴンの中性原子ビーム411を、第1接合対象面260の全面および接合対象面360の全面に均一に照射し、第1接合対象面260および接合対象面360の酸化膜や吸着層を除去して結合手を表出させ、活性状態とした。
【0078】
(第1常温接合工程(S2))
常温において真空状態を維持したままで、
図3に示すように、チャンバー400内で静電チャック500を移動させることにより、SiC単結晶基板200の第1接合対象面260と第1SiC多結晶基板300の接合対象面360を、チャンバー400内において真空状態で接触させて共有結合によって直接接合し、SiC単結晶転写用複合基板100を製造した。
【0079】
〈実施例2〉
実施例1のSiC単結晶転写用複合基板100に対して、更に以下の側面研磨工程を行い、ポケット111を除去して実施例2の厚さ700μmのSiC単結晶転写用複合基板101を複数枚製造した。
【0080】
(側面研磨工程(S3))
実施例1のSiC単結晶転写用複合基板100の第1SiC多結晶基板300の側面を、ベベル機により番手#400および#800のダイヤモンド電着砥石を用いて研磨し、角度Aが45°のスロープ310を形成した。
【0081】
〈比較例1〉
SiC多結晶基板Aに替えてSiC多結晶基板Bを用いた他は、実施例1と同様の方法により、比較例1の厚さ700μmのSiC単結晶転写用複合基板を複数枚製造した。
なお、第1活性化工程、第1常温接合工程、第2活性化工程、第2常温接合工程では、静電チャックに替えて、メカニカル・チャックを用いた。
【0082】
〈比較例2〉
SiC単結晶基板200にSiC多結晶基板A、Bのいずれも接合せずに、SiC単結晶基板200そのもの複数枚用意し、以下のSiC接合基板の製造に用いた。
【0083】
[SiC接合基板の製造]
実施例1のSiC単結晶転写用複合基板100、実施例2のSiC単結晶転写用複合基板101、比較例1のSiC単結晶転写用複合基板、比較例2のSiC単結晶基板200のそれぞれに対し、以下のS4~S9の工程を実施して、以下の第2SiC多結晶基板700を接合し、SiC接合基板を製造した。
【0084】
(第2SiC多結晶基板700(体積抵抗率3Ω・cm))
第2SiC多結晶基板700としては、第1SiC多結晶基板Aと同じ基板を使用した。すなわち、側面をR形状に面取り加工し、また、基板の両面を鏡面研磨加工および洗浄した、直径150mm、厚さ350μmである立方晶の導電性を有するSiC多結晶基板であり、体積抵抗率は、25℃において3Ω・cmである。
【0085】
(水素イオン注入層形成工程(S4))
実施例1のSiC単結晶転写用複合基板100におけるSiC単結晶基板200の第2接合対象面270に対して水素イオンを注入し、第2接合対象面270から深さ0.8μmの位置に水素イオン注入層600を形成した。
【0086】
実施例2のSiC単結晶転写用複合基板101、比較例1のSiC単結晶転写用複合基板、および比較例2のSiC単結晶基板200に対しても、同様に深さ0.8μmの位置に水素イオン注入層を形成した。
【0087】
(第2活性化工程(S5))
図7に示すように、SiC単結晶転写用複合基板100と第2SiC多結晶基板700を静電チャック500により吸引し、チャンバー400内にセットした。次に、静電チャック500を移動させて、第2常温接合工程で両基板が正しい位置関係で接触できるように、SiC単結晶転写用複合基板100と第2SiC多結晶基板700との相対位置の位置合わせを行った。次に、チャンバー400内を2×10
-6Paの真空状態にした。
【0088】
次に、SiC単結晶基板200の第2接合対象面270および第2SiC多結晶基板700の接合対象面770にFABガン410を用いて、アルゴンの中性原子ビーム411を、第2接合対象面270の全面および接合対象面770の全面に均一に照射し、第2接合対象面270および接合対象面770の酸化膜や吸着層を除去して結合手を表出させ、活性状態とした。
【0089】
実施例2のSiC単結晶転写用複合基板101、比較例1のSiC単結晶転写用複合基板、および比較例2のSiC単結晶基板200に対しても、同様に第2活性化工程を実施した。
【0090】
(第2常温接合工程(S6))
常温において真空状態を維持したままで、
図7に示すように、チャンバー400内で静電チャック500を移動させることにより、SiC単結晶基板200の第2接合対象面270と第2SiC多結晶基板700の接合対象面770を、チャンバー400内において真空状態で接触させて共有結合によって直接接合し接合基板を得た。
【0091】
実施例2のSiC単結晶転写用複合基板101、比較例1のSiC単結晶転写用複合基板、および比較例2のSiC単結晶基板200に対しても、同様に第2常温接合工程を実施して接合基板を得た。
【0092】
(剥離工程(S8))
ファーネス炉を用いて、アルゴンガスを充満させた不活性雰囲気下において接合基板を1100℃に加熱して水素イオン注入層600に微小気泡層を形成し、SiC単結晶基板200を微小気泡層で分離して、0.8μmの厚さの薄いSiC単結晶薄膜280を第2SiC多結晶基板700に転写して、SiC接合基板800を得た(
図9)。
【0093】
実施例2のSiC単結晶転写用複合基板101、比較例1のSiC単結晶転写用複合基板、および比較例2のSiC単結晶基板200における接合基板に対しても、同様に剥離工程を実施してSiC接合基板を得た。
【0094】
[評価1:搬送性の評価]
剥離工程後のSiC単結晶転写用複合基板100を繰り返し用いて、S4~S10の工程を繰り返し実施し、SiC接合基板800を繰り返し製造した。なお、第2接合対象面研磨工程(S8)は以下のとおりに実施した。
【0095】
(第2接合対象面研磨工程(S8))
剥離工程後のSiC単結晶転写用複合基板100について、水素イオン注入層形成工程前に、第2接合対象面270をCMP法によって鏡面研磨した。剥離工程後の実施例2のSiC単結晶転写用複合基板101、比較例1のSiC単結晶転写用複合基板、および比較例2のSiC単結晶基板200についても、同様に鏡面研磨した。
【0096】
〈結果〉
(実施例1、2のSiC単結晶転写用複合基板100、101)
実施例1、2のSiC単結晶転写用複合基板100、101は、SiC単結晶基板200の厚みが当初の350μmから転写により140μmまで薄くなっても、水素イオンの注入による基板の反りは320μm以内に抑えられたため、SiC単結晶転写用複合基板100、101を搬送する際に、SiC単結晶転写用複合基板100、101の、搬送エラー等の発生はなかった。
【0097】
(比較例1のSiC単結晶転写用複合基板)
SiC単結晶基板200の厚みが当初の350μmから転写により140μmまで薄くなっても、基板の反りは320μm以内に抑えられたため、SiC単結晶転写用複合基板を搬送する際に、SiC単結晶転写用複合基板の、搬送エラー等の発生はなかった。
【0098】
(比較例2のSiC単結晶基板200)
第1SiC多結晶基板300と接合していないため、SiC単結晶基板200の厚みが当初の350μmから転写により300μm未満まで薄くなると、基板の反りが1000μmを超えたことにより、SiC単結晶基板200の搬送エラーが発生した。
【0099】
以上の結果より、実施例1、2のSiC単結晶転写用複合基板100、101は、比較例2のSiC単結晶基板200と比べて、SiC接合基板800の製造に更に繰り返し使用できることから、SiC単結晶基板200のロスを減らし、かつ、SiC接合基板800の製造効率を上げることができることがわかった。
【0100】
[評価2:SiC単結晶薄膜280と第2SiC多結晶基板700との接合性]
SiC単結晶薄膜280と第2SiC多結晶基板700との接合不良について、レーザーテック株式会社製のSiCウエハ欠陥検査装置 SICA88を用いて分析した。
【0101】
その結果、実施例2のSiC単結晶転写用複合基板101を用いた場合には、ポケット111を無くすことで発塵の発生を抑制でき、かつ、第1SiC多結晶基板300の体積抵抗率が3Ω・cmであることにより研磨屑や研磨粉等が第1SiC多結晶基板300に付着し難くなった結果、比較例1のSiC単結晶基板200を用いた場合と比べて接合不良を80%抑制することができた。
【0102】
そして、実施例1のSiC単結晶転写用複合基板100を用いた場合には、第1SiC多結晶基板300の体積抵抗率が3Ω・cmであることにより研磨屑や研磨粉等が第1SiC多結晶基板300に付着し難くなった結果、比較例1のSiC単結晶基板200を用いた場合と比べて接合不良を50%抑制することができた。
【0103】
また、比較例1のSiC単結晶転写用複合基板を用いた場合には、ポケット111が存在し、かつ、第1SiC多結晶基板の体積抵抗率が100Ω・cmと絶縁性が高いことにより、研磨屑や研磨粉等が第1SiC多結晶基板に付着し易く、接合不良を抑制することができなかった。