(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025069
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】紙箱
(51)【国際特許分類】
B65D 5/56 20060101AFI20240216BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20240216BHJP
B32B 3/28 20060101ALI20240216BHJP
D21H 19/10 20060101ALI20240216BHJP
D21H 19/18 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B65D5/56 D
B32B29/00
B32B3/28 B
D21H19/10 Z
D21H19/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128210
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100163234
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 順子
(72)【発明者】
【氏名】川真田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】大根田 真也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】畠山 知也
【テーマコード(参考)】
3E060
4F100
4L055
【Fターム(参考)】
3E060BC02
3E060BC04
3E060DA21
4F100AJ11B
4F100AK03B
4F100AK12B
4F100AK25B
4F100AL01B
4F100BA02
4F100DG10A
4F100EH46B
4F100EJ42B
4F100EJ86B
4F100JB06B
4F100JD04A
4F100JK05
4F100JK08
4F100JK15B
4F100JL03
4F100YY00
4L055AA02
4L055AA11
4L055AC06
4L055AG08
4L055AG51
4L055AG58
4L055AG63
4L055AG71
4L055AH09
4L055AH11
4L055AJ02
4L055BE08
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA09
4L055EA10
4L055EA12
4L055EA14
4L055GA05
4L055GA06
(57)【要約】
【課題】紙基材に防水塗工層を設けた紙材料を用い、軽量で防水性に優れ、使用後のリサイクル性が良好である紙箱を提供する。
【解決手段】紙基材と、前記紙基材の少なくとも一方の面に設けられた防水塗工層とを有する紙材料を有し、前記防水塗工層を有する面のコッブ吸水度が、30分で50g/m
2以下であり、少なくとも1つの孔を有する、紙箱。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、前記紙基材の少なくとも一方の面に設けられた防水塗工層とを含む紙材料を有し、
前記防水塗工層を有する面のコッブ吸水度が、30分で50g/m2以下であり、
少なくとも1つの孔を有する、紙箱。
【請求項2】
前記防水塗工層が、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種と、ワックスとを含む、請求項1に記載の紙箱。
【請求項3】
前記防水塗工層を、紙箱の内面に有する、請求項1または2に記載の紙箱。
【請求項4】
前記孔を底部に有する、請求項1または2に記載の紙箱。
【請求項5】
前記孔を底部と側壁部とを連接する折線上に有する、請求項1または2に記載の紙箱。
【請求項6】
前記底部における前記孔の総面積が、前記底部全体の面積に対して0.1~10%である、請求項4に記載の紙箱。
【請求項7】
前記紙材料の透湿度が、500g/m2・24h以下である、請求項1または2に記載の紙箱。
【請求項8】
前記紙材料における前記防水塗工層を有する面の、紙パルプ試験方法No.68に規定する撥水度が、R8以上である、請求項1または2に記載の紙箱。
【請求項9】
前記紙材料が、中芯をさらに有する、請求項1または2に記載の紙箱。
【請求項10】
前記中芯が、耐水中芯である、請求項9に記載の紙箱。
【請求項11】
前記紙材料と前記中芯とを、耐水性接着剤で貼合した、請求項9に記載の紙箱。
【請求項12】
前記紙材料が、片面段ボールである、請求項9に記載の紙箱。
【請求項13】
前記紙材料が、両面段ボール、複両面段ボール、または複々両面段ボールである、請求項9に記載の紙箱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙箱に関し、特に防水性を有する紙製の組み立て紙箱に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水分を含む内容物に対して使用する、あるいは水に曝される容器としては、プラスチック等の材料が用いられるが、脱プラスチックの流れの中でプラスチック製品を代替する紙製品が要求されており、そのような容器を製造するために耐水撥水ライナが注目されている。
【0003】
一般に、紙製の容器や梱包材は、紙基材をベース素材とすることから、軽量で、使用時以外は折りたたむことが可能であるが、水分の浸透が極めて容易であり、強度低下を来すことがある。
このため、紙基材の表面に、撥水性を有するワックス組成物を塗工してワックス層を形成する方法、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等をラミネートして樹脂被膜を形成する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、紙の少なくとも片面に、ワックスエマルジョンおよび水不溶性合成樹脂エマルジョンと共に界面活性剤を加えた混合液を塗布して層を形成し、該層を加熱処理して最外層に界面活性剤の層を形成した防湿紙が記載されている。また、特許文献2には、基紙の少なくとも片面に、少なくとも2層の塗工層を有する防湿ライナーにおいて、上記防湿ライナーの最表層に設けられる塗工層は、マイクロカプセル状のワックスを含有し、また、塗工量が、固形分換算で片面あたり0.5g/m2以上2.5g/m2以下であり、上記基紙と上記塗工層との間に設けられる塗工層はアクリル系共重合体および/またはスチレン系共重合体を含有する防湿ライナーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-266096号公報
【特許文献2】特開2011-162899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のワックス層を形成する方法では、充分な防水性を付与するためには、ワックス組成物を多数回塗工することが必要となり、製造工程が著しく煩雑になる。また、特許文献2のような樹脂被膜でラミネートする方法では、ラミネート加工のための製造工程が必要となることに加え、樹脂被膜でラミネートした紙または板紙は、使用後に古紙として回収使用する際の離解性が著しく悪く、再利用化が困難であった。
【0007】
また、撥水ライナのような撥水性を有する紙基材に防水塗料を塗工する場合は、従来から開示されている技術では防水塗料の溶媒が水滴状になりやすく、均一に防水塗料を塗布することができなかった。
【0008】
以上から、本発明は、紙基材に防水塗工層を設けた紙材料を用い、軽量で防水性に優れ、使用後のリサイクル性が良好である紙箱を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を行った結果、本発明により、当該課題を解決できることを見出して本発明を完成するに至った。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0010】
[1] 紙基材と、前記紙基材の少なくとも一方の面に設けられた防水塗工層とを含む紙材料を有し、前記防水塗工層を有する面のコッブ吸水度が、30分で50g/m2以下であり、少なくとも1つの孔を有する、紙箱。
[2] 前記防水塗工層が、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種と、ワックスとを含む、上記[1]に記載の紙箱。
[3] 前記防水塗工層を、紙箱の内面に有する、上記[1]または[2]に記載の紙箱。
[4] 前記孔を底部に有する、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の紙箱。
[5] 前記孔を底部と側壁部とを連接する折線上に有する、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の紙箱。
[6] 前記底部における前記孔の総面積が、前記底部全体の面積に対して0.1~10%である、上記[4]または[5]に記載の紙箱。
[7] 前記紙材料の透湿度が、500g/m2・24h以下である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の紙箱。
[8] 前記紙材料における前記防水塗工層を有する面の、紙パルプ試験方法No.68に規定する撥水度が、R8以上である、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の紙箱。
[9] 前記紙材料が、中芯をさらに有する、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の紙箱。
[10] 前記中芯が、耐水中芯である、上記[9]に記載の紙箱。
[11] 前記紙材料と前記中芯とを、耐水性接着剤で貼合した、上記[9]または[10]に記載の紙箱。
[12] 前記紙材料が、片面段ボールである、上記[9]~[11]のいずれか1つに記載の紙箱。
[13] 前記紙材料が、両面段ボール、複両面段ボール、または複々両面段ボールである、上記[9]~[11]のいずれか1つに記載の紙箱。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紙基材に防水塗工層を設けた紙材料を用い、軽量で防水性に優れ、使用後のリサイクル性が良好である紙箱を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る紙箱を上部より撮影した外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(紙箱)
本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」と略記することがある)に係る紙箱は、紙基材と、当該紙基材の少なくとも一方の面に設けられた防水塗工層とを含む紙材料を有し、当該紙材料の当該防水塗工層を有する面のコッブ吸水度が、30分で50g/m2以下であり、少なくとも1つの孔を有することを要する。紙基材と防水塗工層とを含む紙材料を用いることで、使用後の処分が容易となる。具体的には、防水塗工層を有する紙は細かく溶解できるとともに、該防水塗工層は紙から剥がれやすいため、例えば、パルパーで古紙を溶解する際に、ラミネートフィルムによって防水加工した場合と比較して、回収時の離解性に優れ、リサイクルが容易である。また、本発明の紙箱は軽量であり、強度にも優れ、さらに発泡スチロール製の箱等と比較し、保管時や使用時のスペースを大幅に少なくすることができるため、運搬上のメリットも大きい。
【0014】
本実施形態の紙箱は、1枚のブランクシートを折り曲げることにより形成されてもよい。紙箱が、1枚のブランクシートから形成される場合、底部とすべての側壁部が折線を介し連接しており、また、側壁部のすべてが折線を介して連接していることが好ましい。側壁部の連接部については、箱内側高さのうち底部より50%以上の部分が連接していることが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、側壁部の高さ部分相当すべてが連接していることが最も好ましい。
【0015】
本実施形態の紙箱は、少なくとも1つの孔を有するが、2つ以上の孔を有することが好ましく、3つ以上の孔を有することがより好ましい。孔の位置は特に限定されないが、液体を排出する観点からは、底部に有することが好ましく、例えば底部中央に有していてもよい。
紙箱が1枚のブランクシートから形成される場合、折り目に水が溜まりやすくなることから、底部と側壁部とを連接する折線上に孔を有することが好ましく、さらに底部中央にも有していてもよく、折線上及び/または底部に複数の孔を箱底の強度が落ちない程度に設けることが好ましい。また、さらに排水効率を向上させるため、排水の導線となるように、孔同士を結ぶ罫線を箱の底部に設けてもよい。
【0016】
底部に孔を有する場合、個数の上限は特に規定されないが、紙箱の強度の観点から、孔の総面積が、底部全体の面積に対して、0.1~10%であることが好ましく、0.2~8%であることがより好ましく、0.3~5%であることがさらに好ましい。上記折線上に孔を有する場合、紙箱の強度の観点から、当該孔の底部にかかる部分の総面積が、上記範囲内であることが好ましい。また、底部及び上記折線上に孔を有する場合、底部の孔の総面積と、上記折線上の孔の底部にかかる部分の総面積との合計が、上記範囲内であることが好ましい。
本実施形態の紙箱は、少なくとも1つの孔を有することで、液体を取り出したり排出したりすることができ、また、通気性にも優れるため、特に、貯水用タンクや、氷及び/または鮮魚等の生鮮食品や冷凍品等の運搬用の箱、花き・青果物をはじめとする植物運搬用トレー、紙箱に直接土を入れたプランター等に好適に使用できる。また、孔の断面部分は、耐水糊やホットメルト等の熱溶融性樹脂、耐水性を有するテープ等で養生することで防水性をより高めることができる。
【0017】
氷及び/または鮮魚等の生鮮食品や冷凍品等の運搬用の箱として利用する場合、収納品を積載した後、運搬前後や使用に至るまでの間、内容物や保管環境の影響により水分が発生し、底部に水が滞留すると、紙箱の強度低下や品質低下を招くおそれがある。本実施形態の紙箱は、防水性に優れ、また水分を排出しやすい構造を有するため、上記のような収納品を運搬する用途の箱としても実用上充分な強度を有することができる。
植物運搬用トレーや紙箱に直接土を入れたプランターとして利用する場合、水分を含むポット等を積載した後、運搬前後や、販売に至るまでの間、苗への散水等が行われるため、水に曝される期間が長期間となる。本実施形態の紙箱は、防水性に優れるため、このような植物運搬用トレーや紙箱に直接土を入れたプランターとして好適に用いることができる。また、本実施形態の紙箱は孔を有するため、湿気等によるカビの発生も抑制することができ、毎日散水しても実用上十分な強度を有することができる。
【0018】
また、孔の径は、箱底の強度が落ちない程度であれば、底部全体の面積に応じて適宜調整することができ、例えば真円形の孔とする場合、5~100mmとしてもよく、15~80mmとしてもよく、30~50mmとしてもよい。また、孔の形状についても真円形に限定されず、機能性や意匠性を考慮して、楕円形等の曲線により形成される形状や、四角形をはじめとした多角形や星型等の直線により形成される形状、長円形等の曲線と直線の組み合わせにより形成される形状としてもよい。特に、孔を底部と側壁部とを連接する折線上に有する場合、細長い長円形であることが好ましい。
【0019】
本実施形態の紙箱は、その用途に応じてスペーサーを内包してもよい。本発明においてスペーサーとは、少なくとも紙箱に入れる内容物と紙箱が接触しないようにする部品を指す。本発明の一利用方法として、例えば、スペーサー上に内容物を置くことで、紙箱の底部と内容物が接触することを防ぐことができる。
【0020】
スペーサーの材質は、使用後のリサイクル性の観点から、紙製であることが好ましく、また、防水性の観点から、紙基材と、当該紙基材の少なくとも一方の面に設けられた防水塗工層とを有する紙材料であることがより好ましい。
【0021】
スペーサーの形状としては、例えば、格子状や波状のものを利用することができる。格子状である場合、内容物をスペーサー上に配置することで、内容物とスペーサーの接触面積を小さくでき、且つ、底部と内容物との間に空間を設けることができる。また、格子の一辺の長さは、内容物の大きさによって適宜調整することができる。例えば、内容物がポットに入った苗である場合、ポットの号数に合わせて、1~15cmの範囲で調整することができる。ポットの直径より格子の一辺の長さを短くすることで、スペーサー上にポットを配置することができ、底部と直接ポットが接触することを防ぐことができる。内容物が食品等である場合、格子の一辺の長さは、運搬上それぞれの食品等の性質に合わせた範囲に調整することができる。
【0022】
スペーサーの形状が波状である場合、波状スペーサーの波の繰り返し単位の幅(波長)は、内容物の大きさによって適宜調整することができる。例えば、内容物が上記同様ポットに入った苗である場合、ポットの号数に合わせて、1~15cmの範囲で調整することができ、ポットの直径より波長を短くすることで、スペーサー上にポットを安定的に配置することができ、底部と直接ポットが接触することを防ぐことができる。また、紙材料が後述する片面段ボールである場合、内側に中芯が配されるようにすることで、該中芯を波状スペーサーとすることもできる。また、紙箱が底部に孔を有する場合に、波状スペーサーも孔を有することが好ましい。内容物が食品等である場合、波長は、運搬上それぞれの食品等の性質に合わせ調整することができる。
【0023】
本発明の紙箱は、製函機を用いて製造することもできる。使用する製函機は特に制限されず、例えば、垂直式や水平式の製函機を用いることができる。
【0024】
(紙材料)
本実施形態における紙材料は、紙基材と、当該紙基材の少なくとも一方の面に設けられた防水塗工層とを含み、当該防水塗工層を有する面のコッブ吸水度は、30分で50g/m2以下であり、好ましくは40g/m2以下であり、より好ましくは30g/m2以下である。これにより、本発明の紙材料自体が防水性を持ち、組み立て後の防水加工を必要としない。なお、本発明においてコッブ吸水度は、JIS P 8140:1998に規定されたコッブ法に準拠して、100mlの蒸留水を防水塗工層に接触させ、規定時間後に吸収された水の単位面積当たりの質量を測定することにより測定できる。
【0025】
本実施形態の紙箱において、紙材料の防水塗工層は少なくとも内側に面していることが好ましい。防水塗工層を紙箱の内側に有していることにより、紙箱の防水性を向上させることができる。また、さらに紙箱の外側にも防水塗工層を有していてもよく、この場合、防水性及び防湿性をさらに向上させることができる。
【0026】
紙材料の坪量は、例えば、30~800g/m2とすることができる。紙基材が単層紙である場合、紙材料の坪量は、例えば、30~350g/m2とすることができる。また、紙基材が2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、紙材料の坪量は、75~800g/m2とすることができる。なお、本発明において坪量は、JIS P 8124:2011に準拠して、測定することができる。
【0027】
紙材料における防水塗工層を有する面の撥水度は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.68「紙及び板紙-はっ水性試験方法」に準拠して測定することができ、R8以上が好ましく、R9以上がより好ましい。これにより、本発明の紙箱の防水性を向上させることができる。
【0028】
紙材料の透湿度は、500g/m2・24h以下が好ましく、300g/m2・24h以下がより好ましく、100g/m2・24h以下がさらに好ましく、50g/m2・24h以下が最も好ましい。なお、本発明において透湿度は、JIS Z 0208:1976に準拠して、測定することができ、数値が小さいほど、防湿性が優れていることを意味する。
【0029】
紙材料の物性は特に制限されず、例えば、縦伸びが好ましくは1.0~15.0%、より好ましくは2.0~10.0%、横伸びが好ましくは2.0~12.0%、より好ましくは4.0~10.0%、圧縮強さが好ましくは250~1200N、より好ましくは350~800N、比圧縮強さが好ましくは100~350N・m2/g、より好ましくは150~300N・m2/g、比破裂強さが好ましくは2.8~5.0kPa・m2/g、より好ましくは3.0~4.5kPa・m2/gとなるように設定することができる。
なお、本発明において各物性は、それぞれ以下の方法で測定することができる。
縦伸び及び横伸びは、JIS P 8113:2006に準拠し、抄紙方向に直交する横方向、抄紙方向に対して平行な縦方向の破断伸びをそれぞれ測定することができる。
圧縮強さは、JIS P 8126:2005の規定する紙及び板紙の圧縮強さ試験方法(リングクラッシュ法)に準拠し、抄紙方向に直交する横方向において測定することができる。また、この測定値から比圧縮強さを算出することができる。
比破裂強さは、JIS P 8131:2009の規定する板紙のミューレン高圧形試験機による破裂強さ試験方法に準拠し、紙基材をゴム隔膜側にして測定した破裂強さを坪量で除した値とすることができる。
【0030】
紙材料の防水塗工層を有する面の点滴吸油度は、500秒以上が好ましく、550秒以上がより好ましく、600秒以上がさらに好ましい。点滴吸油度が上記の範囲であることにより、本発明の紙箱の耐油性を高めることができる。なお、本発明において点滴吸油度は、注射針H5号を備えたマイクロシリンジを用いて、動粘性係数を3cStに調整した軽油1号をサンプル表面に1滴滴下し、表面の光沢がみえなくなるまでの時間によって評価することができる。
【0031】
紙材料の防水塗工層を有する面の王研式平滑度は、15秒以上が好ましく、20秒以上がより好ましく、25秒以上がさらに好ましく、30秒以上がよりさらに好ましい。上限は特に限定されないが、100秒以下が好ましく、90秒以下がより好ましく、80秒以下がさらに好ましく、70秒以下が最も好ましい。紙材料の防水塗工層を有する面の平滑度が上記範囲にあることにより、本発明の紙箱表面において高い光沢が得られ、より美粧性に優れた紙箱が得られる。なお、本発明において王研式平滑度は、JIS P 8155:2010に準拠しデジタル型王研式透気度平滑度試験機を用いて測定することができる。
【0032】
紙材料の防水塗工層を有する面の水接触角は、80度以上が好ましく、85度以上がより好ましい。紙材料の防水塗工層を有する面の水接触角が上記範囲にあることにより、本発明の紙箱の強度及び剛度低下を防ぐことができる。なお、本発明において水接触角は、蒸留水をサンプル表面に1滴(50μL)滴下してから1秒後の接触角を、接触角測定装置によって測定することができる。
【0033】
紙材料は、中芯をさらに有していてもよく、片面段ボール、両面段ボール、複両面段ボール及び複々両面段ボールのいずれであってもよい。いずれの形態においても、中芯は、紙材料の紙基材側に有してもよく、防水塗工側に有してもよく、両面に有してもよい。紙材料が中芯を有することで、中芯を有しない場合よりも紙材料の強度及び剛度が高くなり、紙箱としての形状が安定しやすくなる。
【0034】
上記段ボールのライナは、本発明の紙基材を用いて製造することができる。ライナの種類としては、用途に応じてクラフトライナ、ジュートライナ等を使用することができる。
上記段ボールの中芯の種類は、特に制限されず、例えば、120g/m2、160g/m2、180g/m2、強化180g/m2、強化200g/m2等を公的に使用する事ができる。
上記段ボールの段の種類としては、Aフルート、Bフルート、Cフルート、Wフルート、Eフルート等を特に制限なく使用する事ができる。
【0035】
本実施形態における中芯は、耐水中芯であることが好ましい。中芯が耐水性を有することで、紙箱が水に一定期間曝された場合であっても、紙箱の強度低下を防ぐことができる。耐水中芯は、中芯原紙の抄紙工程において、耐水剤を添加することにより製造することができる。
【0036】
本実施形態における段ボールは、ライナと中芯原紙とをコルゲーターを用いて貼合することにより製造することができる。コルゲーターとしては、公知のものを制限なく使用することができるが、一般的なコルゲーターは、シングルフェーサ、ダブルバッカー、カッターによって構成される。また、ライナと中芯を接着するための製糊装置、さらに、糊を溶かすための熱を発生させる装置などが併せて使用される。
【0037】
本実施形態における段ボールは、ライナと中芯とが、耐水性接着剤で貼合されていること、すなわち、紙材料と中芯とを耐水性接着剤で貼合した態様であることが好ましい。耐水性接着剤とは、通常の段ボール用接着剤に、耐水化剤を加えたものである。耐水化剤としては、特に限定されず、合成樹脂エマルジョンやケトンアルデヒド樹脂等が含まれているものが挙げられる。ライナと中芯とが、耐水性接着剤で貼合されていることで、段ボールシート断面における水濡れ及び湿気等により紙箱の強度が低下しにくくなる。
【0038】
耐水接着剤の使用量は、充分な接着強度を有すれば特に制限されないが、面塗布の場合は、0.5~2000g/m2としてもよく、5~1500g/m2としてもよく、10~1000g/m2としてもよい。また、線塗布の場合は、アプリケーションのノズル径、ノズルもしくは紙基材の移動速度、塗布時の接着剤粘度、接着する紙基材の幅等に応じて塗布幅を適宜変更することができる。また、単位長さあたりの塗布量も特に限定されないが、例えば、0.1~30g/mとしてもよく、0.5~20g/mとしてもよく、1~15g/mとしてもよい。
【0039】
(紙基材)
本実施形態における紙基材は、単層紙であってよく、2層以上の紙層を有する多層抄き板紙であってもよい。また、紙基材の坪量は特に制限されず、例えば、好ましくは10~800g/m2、より好ましくは20~700g/m2とすることができる。紙基材が単層紙である場合、坪量は10~300g/m2の範囲で適宜設定することができ、例えば、紙基材がクラフト紙の場合、坪量を30~250g/m2の範囲で設定することができる。また、2層以上を有する多層抄き板紙である場合、その坪量は70~800g/m2の範囲で適宜設定することができ、例えば、段ボールのライナの場合、坪量を80~600g/m2の範囲で設定することができる。
【0040】
紙基材の撥水度は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.68「紙及び板紙-はっ水性試験方法」に準拠して測定することができ、R4以上が好ましく、R6以上がより好ましく、R8以上がさらに好ましい。紙基材の撥水度がR4以上であると、紙基材に塗工を行った場合、塗料に含まれる水分が紙基材へ過剰に浸透することがなく、紙材料の強度及び剛度低下を抑制することができる。
【0041】
紙基材のコッブ吸水度は、2分で5g/m2以上が好ましく、7g/m2以上がより好ましく、10g/m2以上がさらに好ましい。また、塗工を行う面のコッブ吸水度は、2分で50g/m2以下が好ましく、40g/m2以下がより好ましく、30g/m2以下がさらに好ましい。本実施形態においては、ワックス等の撥水剤や、樹脂を含むニス等の防水性を有しないコーティング剤(目止め剤)等を塗工するなどして紙基材のコッブ吸水度を調整することができる。紙基材のコッブ吸水度が上記範囲にあることにより、防水塗料の溶媒中に含まれた水分の過剰な浸透による強度低下を防止し、防水塗料中の固形分が紙基材表面に滞留して確実な被覆が行われることにより、防水性を向上させることができる。
【0042】
紙基材の透湿度は、1500g/m2・24h以上が好ましく、1750g/m2・24h以上がより好ましく、2000g/m2・24h以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、5000g/m2・24h以下が好ましく、4500g/m2・24h以下がより好ましく、4000g/m2・24h以下がさらに好ましい。紙基材の透湿度が上記範囲にあることにより、乾燥工程において効率よく塗料中の水分を紙層側へ蒸発させることから、紙基材を均一に防水塗工層で被覆することができ、防水性が向上しやすくなる。
【0043】
紙基材の物性は特に制限されず、例えば、縦伸びが好ましくは1.0~15.0%、より好ましくは2.0~10.0%、横伸びが好ましくは2.0~12.0%、より好ましくは4.0~10.0%、圧縮強さが好ましくは250~1200N、より好ましくは350~800N、比圧縮強さが好ましくは100~350N・m2/g、より好ましくは150~300N・m2/g、比破裂強さが好ましくは2.8~5.0kPa・m2/g、より好ましくは3.0~4.5kPa・m2/gとなるように設定することができる。
【0044】
紙基材の点滴吸油度は、5秒以上が好ましく、7秒以上がより好ましく、10秒以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、80秒以下が好ましく、75秒以下がより好ましく、70秒以下がさらに好ましい。点滴吸油度が上記の範囲であることにより、塗料に含まれるワックスが紙表面にとどまり紙層に浸み込みにくくなることから、紙基材の防水性を向上させることができる。
【0045】
紙基材の王研式平滑度は、12秒以上が好ましく、13秒以上がより好ましく、15秒以上がさらに好ましく、17秒以上がよりさらに好ましい。上限は特に限定されないが、100秒以下が好ましく、90秒以下がより好ましく、80秒以下がさらに好ましく、70秒以下が最も好ましい。紙基材の塗工を行う面の平滑度が上記範囲にあることにより、紙基材を均一に塗料で被覆することができ、防水性が向上する。
【0046】
紙基材の水接触角は、75度以上が好ましく、77度以上がより好ましい。水接触角が上記範囲にあることにより、塗料中の水分が紙基材へ過剰に浸透することを防ぎ、紙材料の強度及び剛度低下を防ぐことができる。
【0047】
紙基材の原料パルプとしては、特に制限されず、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、ケミカルパルプ(CP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の木材由来の各種パルプ、ケナフ、バガス、竹、麻、ワラ等から得られた非木材パルプを挙げることができる。
【0048】
紙基材は、古紙パルプを含有することができる。古紙パルプを含有する場合、紙基材が単層紙であれば、全パルプに占める古紙パルプの配合率を、10質量%以上、25質量%以上、50質量%以上、または、70質量%以上の範囲にすることができる。また、100質量%にすることもできる。紙基材が多層抄き板紙であれば、1層あたりの古紙パルプの配合率を上記範囲にすることができる。この場合、目的に応じて各層における古紙パルプの配合率を異なるものにすることができ、また、古紙パルプを含む層と含まない層との双方を含むこともできる。以上により、効率的に古紙を本発明の紙箱として再利用することができる。
【0049】
古紙パルプとしては、段ボール古紙、上白、特白、中白、白損等の未印刷古紙を離解した古紙パルプ、上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙、更紙等に印刷された古紙、及び筆記された古紙、廃棄機密文書等の紙類、雑誌古紙を離解後脱墨したパルプ(DIP)等を使用することができる。
【0050】
紙基材の抄造では、サイズ剤や撥水剤を内添または外添することができ、さらに、強度を向上させるために紙力増強剤を内添することができる。サイズ剤としては、例えば、ロジン系サイズ剤、ロジンエマルジョン系サイズ剤、中性ロジン系サイズ剤、α-カルボキシルメチル飽和脂肪酸、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)、カチオンポリマー系サイズ剤等が挙げられる。撥水剤としては、例えば、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂ワックス等が挙げられる。紙力増強剤としては、例えば、ポリアクリルアミド(PAM)、変性でん粉等が挙げられる。本実施形態においては、ワックスを含む撥水剤を外添することが好ましく、パラフィン系ワックスを含む撥水剤を外添することがより好ましい。撥水剤を外添する場合の撥水剤の塗工量は、3g/m2以下が好ましく、2g/m2以下がより好ましい。
【0051】
また、必要に応じて紙基材に公知の填料を内添させることができ、無機填料や有機填料を制限なく使用することができる。無機填料としては、例えば、カオリン、焼成カオリン、デラミネーティッドカオリン、クレー、焼成クレー、デラミネーティッドクレー、イライト、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等が挙げられる。有機填料としては、例えば、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0052】
さらに、紙基材の品質に影響のない範囲で、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩基性アルミニウム化合物、水溶性アルミニウム化合物、多価金属化合物、シリカゾル等を内添してもよい。
上記の内添及び/または外添する成分(内添薬品、外添薬品)の合計の添加量は、特に限定されないが、原料パルプ(絶乾質量)100質量部あたり10質量部以下であることが好ましい。
【0053】
紙基材は、公知の抄紙方法で製造することができる。例えば、長網抄紙機、ギャップフォーマー抄紙機、ハイブリッドフォーマー抄紙機、オントップフォーマー抄紙機、丸網抄紙機等を用いて製造することができるが、これらに限定されない。
【0054】
(防水塗工層)
本実施形態における防水塗工層は、合成樹脂及びワックスを含むことが好ましく、当該合成樹脂は、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、スチレン系樹脂及び/またはアクリル系樹脂であることがさらに好ましい。
【0055】
防水塗工層に含有され得るスチレン系樹脂は、構造中にスチレン骨格を有するスチレン系単量体の共重合割合が50質量%以上である樹脂が好ましく、スチレン系単量体の重合体のみからなる樹脂であってもよい。
【0056】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等が挙げられる。スチレン系樹脂は、これらのスチレン系単量体から選ばれる1種以上の単量体を重合したものであってもよい。
【0057】
スチレン単量体と共重合可能な単量体として、例えば、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸、マレイン酸、イタコン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等の共役ジエン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上の組み合わせを用いてもよい。
【0058】
防水塗工層に含有され得るアクリル系樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体であるアクリル系単量体の共重合割合が50質量%以上である樹脂であり、アクリル系単量体の重合体のみからなる樹脂であってもよい。
【0059】
アクリル系単量体としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル等を挙げることができる。アクリル系樹脂は、これらのアクリル系単量体から選ばれる1種以上の単量体を重合したものであってもよい。
【0060】
アクリル系単量体と共重合可能な単量体としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上の組み合わせを用いてもよい。
【0061】
防水塗工層に含有され得るポリオレフィン系樹脂は、オレフィン単量体の共重合割合が50質量%以上であることが好ましく、オレフィン単量体の重合体のみからなるものであってもよい。
【0062】
オレフィン単量体としては、例えば、エチレンやプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、これらのオレフィン単量体から選ばれる1種以上の単量体を重合したものであってもよい。
【0063】
防水塗工層が含有するワックスとしては、例えば、ポリエチレン系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、油脂系合成ワックス(脂肪酸エステル系、脂肪酸アミド、ケトン・アミン類)、水素硬化油等の合成ワックス、蜜蝋、木蝋、パラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス等の天然ワックス等を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上の組み合わせを用いてもよい。特に、パラフィンを含む炭化水素系ワックスが好ましい。
【0064】
本実施形態において、防水塗工層は、防水性を損なわない範囲で顔料を含有してもよい。この場合、顔料を有しない場合と比較して、1%以上白色度が高くなる量で含むことが好ましい。このような顔料としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーティッドクレー、タルク、硫酸バリウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイト、マイカ、モンモリロナイト等の無機顔料を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上の組み合わせを用いてもよい。これらの顔料の中で、特に、粒子が扁平な形状であるカオリン、炭酸カルシウム、マイカは、防水性を阻害しにくいため特に好適である。このような扁平形状の無機顔料は、アスペクト比が10以上であることが好ましい。防水塗工層における顔料の含有量は、5~40質量%が好ましく、10~35質量%がより好ましい。顔料の含有量が5質量%以上であれば、白色度の向上効果が十分に得られ、40質量%以下であれば、合成樹脂成分が有する防水塗工層の防湿性、防水性の機能に悪影響を与えない。
【0065】
本実施形態において、防水塗工層は、防水性を損なわない範囲で保温材(断熱材)を含有してもよい。防水塗工層が当該保温材を含むことにより、紙箱内の保温性(断熱性)を良好に保つことができる。保温材としては、特に限定されないが、熱膨張性マイクロカプセルもしくは中空粒子を用いることができる。
熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂の外殻を持ち、内部に膨張剤で
ある低沸点炭化水素を内包したものである。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリル酸またはその塩、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル等を、低沸点炭化水素としては、例えば、イソブタン、ノルマルブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、ネオペンタン、プロパン、プロピレン、ブテン、メタンのハロゲン化物(塩化メチル、塩化メチレン等)、テトラアルキルシラン等を例示することができるが、これらに限定されない。
中空粒子としては、固体の外殻を持ち、その内部が空隙となっている(いわゆるバルーン構造を有する)微細粒子を用いることができる。外殻を構成する物質としては、無機元素もしくは無機化合物であることが好ましく、例えば、アルミニウムまたはその化合物、ケイ素またはその化合物、アルカリ金属またはその化合物、2族元素またはその化合物、4族元素またはその化合物、ホウ素またはその化合物等の1種以上を用いることができる。保温効果を向上させる効果を高めるため、空隙部を真空状態にした真空バルーン構造の中空粒子を使用することが好ましい。中空粒子の平均粒子径および粒子の外殻の平均厚さは特に限定されず、例えば、平均粒子径が5~200μm、外殻部の平均厚さが0.1~20μmの中空粒子を使用することができる。
【0066】
また、防水塗工層は、その他添加剤として、例えば、バインダー、安定剤、消泡剤、粘性改良剤、保水剤、防腐剤、着色剤等を含有させてもよい。
【0067】
防水塗工層は、上記のような成分を含有する塗料を紙基材上に塗工し、乾燥することにより形成することができる。塗料を塗布するに際して、より均一に塗布することができるよう粘度調整等の目的で、溶媒を用いることもできる。当該溶媒は、塗料が均一に分散、溶解するものであれば特に限定されない。塗料の塗工量は、紙材料の防水性及び製造コストの観点から、4~20g/m2とすることが好ましく、5~15g/m2とすることがより好ましい。20g/m2を超えると、防水性のさらなる向上は望めない一方で、製造コストの増大を来すことがある。
【0068】
防水塗工層の平均膜厚は、紙材料の防湿性及び防水性の観点から、5.5~20μmが好ましく、6.0~17μmがより好ましく、6.5~15μmがさらに好ましい。ここで、防水塗工層の平均膜厚は、サンプルを短冊状に切断し、その断面の任意の10箇所を電子顕微鏡で観察し、測定した防水塗工層の厚みの平均値である。
【0069】
防水塗工層の形成は、公知の塗工方式を使用して塗料を塗工して行うことができる。例えば、エアナイフ塗工、カーテン塗工、ブレード塗工、ゲートロール塗工、ダイ塗工等の塗工方式を用いることができる。また、防水塗工層は、単層であっても複数層であってもよく、複数の塗工層を順次塗工してもよく、カーテン塗工等により、2層以上を同時に塗工してもよい。複数の塗工層を設ける場合は、少なくとも1層が防水性を有する防水塗工層であればよく、その場合には、最表面の防水塗工層が防水性を有することが好ましい。塗料を塗工する際の塗工速度は、塗料の粘度、目標塗工量等を考慮して適宜設定することができる。
【0070】
本発明の一態様において、上記のエアナイフ塗工やカーテン塗工といった輪郭塗工方式を用いることが好ましい。上記輪郭塗工方式を用いると、紙基材表面への塗料の塗工量が均一となるため、塗工厚みが均一となる。そのため、後工程である乾燥工程において、防水塗工層におけるブリスターの発生を抑制することができる。また、接触塗工方式に比べて塗料の使用量を低減することができ、製造コストを抑えることができる。
【0071】
塗工方式にて防水塗工層を形成する場合、上記の乾燥工程を設けることが好ましい。この場合、乾燥工程は、出口の防水塗工層温度が120℃未満とすることが好ましく、100℃以下とすることがより好ましい。出口での防水塗工層温度が120℃以上であると、防水塗工層におけるブリスターの発生率が高くなることがあり、また、防水塗工層が形成された後に巻き取られた紙材料にブロッキングが発生することがある。一方、出口での防水塗工層温度は、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上とすることもできる。出口での防水塗工層温度が60℃未満であると、場合によっては、防水塗工層が形成された後に巻き取られた紙材料にブロッキングが発生することがあるだけでなく、防水塗工層の乾燥が不十分であるために、防水機能を十分に発現できないことがある。
【0072】
乾燥工程出口での防水塗工層温度の設定は、紙基材の坪量及び紙厚を考慮して適宜設定することができる。例えば、紙基材が多層抄き板紙であって坪量及び紙厚の大きい段ボールライナの場合、単層紙であって坪量及び紙厚が相対的に小さいクラフト紙に比べて、防水塗工層の表面にブリスターが発生し易い傾向にある。その理由は限定されないが、クラフト紙と比べて段ボールライナは、坪量及び紙厚が大きいと共に透気性が低いことが多く、クラフト紙と同じ紙中水分値であっても、乾燥工程において紙基材内部で気化した多くの水分が十分に逃げきれず、防水塗工層の表面にブリスターが発生し易くなると考えられる。このため、紙基材の坪量及び紙厚が大きいほど、乾燥工程出口での防水塗工層温度を、乾燥ができる範囲内で低めに調整することが好ましい。
【0073】
ここで、乾燥工程出口とは、乾燥工程における乾燥ゾーンが1個の場合、当該乾燥ゾーンの出口を意味し、乾燥工程における乾燥ゾーンが複数個の場合、最も下流側の乾燥ゾーンの出口を意味する。
【0074】
乾燥工程出口での防水塗工層温度の調整は、乾燥時間、乾燥ゾーンの温度の調節により行うことができる。乾燥時間は、紙基材の送り速度、乾燥ゾーンの個数、長さ、乾燥ゾーンの機器能力(風量、赤外線出力)等で決定される。乾燥方式としては、公知の乾燥方式を用いることができ、例えば、蒸気シリンダ加熱乾燥方式、熱風乾燥方式、ガス式赤外線乾燥方式、電気式赤外線乾燥方式等を挙げることができ、これらのいずれか1種を単独で使用することができ、2種以上の組み合わせを使用することもできる。
【実施例0075】
以下、具体例を用いて本発明を説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(紙基材の製造)
下記表1に示す配合率となるように原料パルプを抄き合わせ、ドライヤにて乾燥後パラフィン系ワックス及びロジンを含む撥水剤を表層側に片面塗工し、再度ドライヤにて乾燥後、カレンダを用いて平滑化処理を行い、多層紙の紙基材a、b及びcを製造した。なお、内添薬品及び外添薬品の添加量は、原料パルプの合計量100質量部に対する質量部で示す。
【0077】
(紙基材の評価)
<坪量>
JIS P 8124:2011に準拠して測定した。結果を下記表1に示す。
【0078】
<紙厚>
JIS P 8118:2014に準拠して測定した。結果を下記表1に示す。
【0079】
<コッブ吸水度>
JIS P 8140:1998に準拠し、コッブ法により測定を行った。すなわち、100mlの蒸留水を接触させ、規定時間後に吸収された水の単位面積当たりの重量を測定した。なお測定時間は、通常の規定時間である120秒(2分)に加え、30分でも測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0080】
<撥水度>
JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.68「紙及び板紙-はっ水性試験方法」に準拠し、測定した。結果を下記表1に示す。
【0081】
<透湿度>
JIS Z 0208:1976に準拠し、測定した。結果を下記表1に示す。
【0082】
<点滴吸油度>
注射針H5号を備えたマイクロシリンジを用いて、動粘性係数を3cStに調整した軽油1号をサンプル表面に1滴滴下し、表面の光沢が見えなくなるまでの時間を測定した。ただし、測定時間は600秒(10分)で打ち切り、600秒経過しても表面に光沢が見えた場合は「600秒以上」と評価した。結果を下記表1に示す。
【0083】
<王研式平滑度>
JIS P 8155:2010に準拠し、デジタル型王研式透気度平滑度試験機(旭精工)を用いて王研式平滑度を測定した。結果を下記表1に示す。
【0084】
<水接触角>
蒸留水をサンプル表面に1滴(50μL)滴下してから1秒後の接触角を、接触角測定装置(DAT1100 FIBRO System AB製)により測定した。結果を下記表1に示す。
【0085】
<縦伸び・横伸び>
JIS P 8113:2006に準拠し、抄紙方向に直交する横方向、抄紙方向に対して平行な縦方向の破断伸びをそれぞれ測定した。結果を下記表1に示す。
【0086】
<比圧縮強さ>
JIS P 8126:2005の規定する紙及び板紙の圧縮強さ試験方法(リングクラッシュ法)に準拠し、抄紙方向に直交する横方向における圧縮強さを測定し、この測定値から比圧縮強さを算出した。結果を下記表1に示す。
【0087】
<比破裂強さ>
JIS P 8131:2009の規定する板紙のミューレン高圧形試験機による破裂強さ試験方法に準拠し測定した破裂強さの値を、坪量で除した値を比破裂強さとした。結果を下記表1に示す。
【0088】
【0089】
紙基材a~cの表層側に、エアナイフを用いて、スチレン・アクリル系樹脂とワックスとを含有する塗料(マイケルマン VaporCoat2200)を、それぞれ表2に記載の塗工量で塗布し、乾燥工程出口における防水塗工層の温度が80℃となるよう熱風乾燥して紙材料A~Cを得た。
【0090】
(紙材料の評価)
坪量及び紙厚は、紙基材a~cと同様にして測定した。コッブ吸水度、撥水度、透湿度、点滴吸油度、王研式平滑度、水接触角、縦伸び、横伸び及び圧縮強さは、防水塗工層側から測定したこと以外は紙基材a~cと同様にして測定した。破裂強さは、測定時に紙基材をゴム隔膜側にして測定したこと以外は、紙基材a~cと同様にして測定した。
防水塗工層の平均膜厚は、サンプルを短冊状に切断し、その断面を任意の10箇所において電子顕微鏡を用いた観察により防水塗工層の厚みを測定し、平均値を算出して防水塗工層の平均膜厚とした。
以上の結果を、上記防水塗工層を有さない紙基材a~cの結果とあわせて表2に示す。
【0091】
【0092】
表2に示す結果より、紙材料A~Cは、優れた防水性を有し、紙基材a~cと比較しても機械的強度が維持され、紙箱の材料に好適に利用できることを確認した。一方、防水塗工層を有さない紙基材は、本発明の紙材料と比較して、防水性に劣ることを確認した。
【0093】
(紙箱の作製)
[実施例1]
段古紙パルプ100重量%のパルプスラリーに、防水剤0.4%を添加して紙料を調製した。この紙料から単層で抄紙し、ドライヤにて乾燥後カレンダを用いて平滑化処理を行って中芯原紙(中芯原紙A)を製造した。
その後、紙材料Aをライナとし、中芯原紙Aとから、コルゲーターを用いて両面段ボールを製造した。具体的には、シングルフェーサ部にて中芯原紙AをAフルート状に加工し(凸凹の波の高さ:5mm)、段頂に耐水糊を塗布してからライナの裏側(非塗工面)と接着・乾燥して片面段ボールシートとした後、ダブルフェーサ部にて、中芯原紙Aの非接着側とライナの裏側を耐水糊で接着・乾燥した(合計厚さ:約6mm)。
得られた両面段ボールの底部となる面の中央に1箇所、直径30mmの孔をあけ、塗工面が内側となるようにして、紙箱1を作製した(本体の内寸:縦540mm×横180mm×深さ100mm)。
【0094】
[実施例2]
両面段ボールの底部となる面の中央に1箇所、及び底部端の各辺中央となる位置に4箇所、計5箇所に直径30mmの孔をそれぞれあけたこと以外は、実施例1と同様にして、紙箱2を作製した。
【0095】
[実施例3]
紙材料Aを用いて、10mm×540mmの紙板を6枚、10mm×180mmの紙板を2枚製造し、全体の寸法が、紙箱本体の内寸となるようにそれぞれ組み合わせ、格子状スペーサーを作製した。なお、格子状スペーサーの格子の一辺の長さが90mmとなるように、それぞれの紙板に5mmの切り込みを入れ、それぞれの切り込みが噛み合うように組み合わせて作製した。作製したスペーサーを紙箱2と同様に作製した紙箱の底部に設置し、紙箱3を作製した。
【0096】
[比較例1]
ライナに紙基材aを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、紙箱4を作製した。
【0097】
(紙箱の評価方法A)
植物運搬用トレーを想定し、紙箱1~4に、土を満杯に入れた直径90mm×高さ75mmの市販のポリエチレン製苗用ポット(土を入れた状態での1個あたりの重さは約650g)を12個敷き詰め、14日間、1日2回、水3L/回を紙箱上部から苗用ポットに対してジョウロを用いて散水した。
14日間経過後、それぞれの紙箱底部の水の浸漬を確認した後、苗用ポットを入れたまま、紙箱を持ち上げ、それぞれの紙箱の強度を確認した。具体的には、水の浸漬について、底部に水の浸み込みが目視で確認される場合は、不可(×)とし、紙箱の強度について、紙箱を持ち上げた際に紙箱が破壊される場合は、不可(×)とした。いずれも上記に該当しない場合を可(〇)とした。評価結果を表3に示す。
【0098】
(紙箱の評価方法B)
鮮魚運搬用トレーを想定し、紙箱1~4に氷を満杯に入れた後、簀子を設けた長方形のバケツに入れた状態で5℃の冷蔵庫に入れ、1日1回、バケツ内にたまった水を排出しながら7日間保管した。
7日間経過後、それぞれの紙箱底部の水の浸漬を確認した後、氷を入れたまま、紙箱を持ち上げ、それぞれの紙箱の強度を確認した。具体的には、水の浸漬について、底部に水の浸み込みが目視で確認される場合は、不可(×)とし、紙箱の強度について、紙箱を持ち上げた際に紙箱が破壊される場合は、不可(×)とした。いずれも上記に該当しない場合を可(〇)とした。評価結果を表3に示す。
【0099】
【0100】
表3に示す結果より、本発明の紙箱は、優れた防水性及び強度を有し、一定期間水に曝された後でも、水の浸漬が見られず、また、紙箱としての強度が担保されていることを確認した。
本発明の紙箱は、特に、貯水タンクや、氷及び/または鮮魚等の生鮮食品や冷凍品等を入れた運搬用の箱、花き・青果物をはじめとする植物運搬用トレーや、紙箱に直接土を入れたプランター等に好適に使用できる。