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特開2024-2508ウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法及びウルトラファインバブル含有液体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002508
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法及びウルトラファインバブル含有液体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/32 20230101AFI20231228BHJP
   A23L 3/28 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C02F1/32
A23L3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101728
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大祐
(72)【発明者】
【氏名】堀内 一輝
(72)【発明者】
【氏名】沓名 正樹
(72)【発明者】
【氏名】二井 景子
【テーマコード(参考)】
4B021
4D037
【Fターム(参考)】
4B021LA42
4B021LW06
4B021LW07
4B021LW10
4B021MC10
4B021MP10
4D037AA01
4D037AA09
4D037BA18
4D037BB01
(57)【要約】
【課題】ウルトラファインバブルの経時変化量を調整する技術を提供する。
【解決手段】ウルトラファインバブルを含有する液体に対し、UV-A波、UV-B波、及びUV-C波のうち少なくとも1つの紫外線波長領域を含む電磁波を、紫外線の積算光量が6mJ/cm以上となるように照射する、ウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルトラファインバブルを含有する液体に対し、UV-A波、UV-B波、及びUV-C波のうち少なくとも1つの紫外線波長領域を含む電磁波を、紫外線の積算光量が6mJ/cm以上となるように照射する、ウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法。
【請求項2】
容器に収容した前記液体に対して、人工光源が発する前記電磁波を照射する、請求項1に記載のウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法。
【請求項3】
前記人工光源は、殺菌灯、蛍光灯、LEDランプ、メタルハライドランプ、水銀ランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、及びブラックライトブルー蛍光ランプからなる群より選択される1種以上である、請求項2に記載のウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法。
【請求項4】
前記電磁波は250nm以上400nm以下の波長の少なくとも一部を含む、請求項1又は請求項2に記載のウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法。
【請求項5】
前記電磁波の照射時間は5秒以上である、請求項1又は請求項2に記載のウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法。
【請求項6】
前記電磁波の紫外線強度は0.035mW/cm以上である、請求項1又は請求項2に記載のウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の調整方法を行って、経時変化量が調整された前記ウルトラファインバブルを含有する前記液体を得る工程を含む、ウルトラファインバブル含有液体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法及びウルトラファインバブル含有液体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ファインバブルを含む液体を得ることができるファインバブル製造装置が開示されている。特許文献2には、殺菌不活化システムが開示されている。この殺菌不活化システムは、微細気泡を含む液体に対して、微細気泡を、さらに直径の小さい超微細気泡に変換する超微細気泡変換部と、超微細気泡変換部の後段に設けられ、超微細気泡を含む液体に紫外線を照射する紫外線照射部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-40021号公報
【特許文献2】特開2020-116294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ウルトラファインバブルを含む液体の有用性が注目されている。しかしながら、ウルトラファインバブルを含む液体を保管すると、経時的にウルトラファインバブルの量が減少するという課題があった。
【0005】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ウルトラファインバブルの経時変化量を調整する技術を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法は、ウルトラファインバブルを含有する液体に対し、UV-A波、UV-B波、及びUV-C波のうち少なくとも1つの紫外線波長領域を含む電磁波を、紫外線の積算光量が6mJ/cm以上となるように照射する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ウルトラファインバブルの経時変化量を調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ウルトラファインバブル含有液体の製造及び保管に関する工程図である。
図2図2は、ウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法を説明する説明図である。
図3図3は、ウルトラファインバブルが減少する推定メカニズムを説明する図である。
図4図4は、電磁波の照射された場合の推定メカニズムを説明する図である。
図5図5は、実験4における積算光量と残留率の関係を示すグラフである。
図6図6は、実験3及び実験4における経過時間とウルトラファインバブル濃度の関係を示すグラフである。
図7図7は、実験3及び実験4における積算光量と濃度変化速度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
・容器に収容した前記液体に対して、人工光源が発する前記電磁波を照射することが好ましい。
・前記人工光源は、殺菌灯、蛍光灯、LEDランプ、メタルハライドランプ、水銀ランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、及びブラックライトブルー蛍光ランプからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
・前記電磁波は265nm以上400nm以下の波長の少なくとも一部を含むことが好ましい。
・前記電磁波の照射時間は5秒以上であることが好ましい。
・前記電磁波の紫外線強度は0.035mW/cm以上であることが好ましい。
・ウルトラファインバブル中の気体が水素を含むことが好ましい。
・本開示のウルトラファインバブル含有液体の製造方法は、上記の調整方法を行って、経時変化量が調整されたウルトラファインバブル含有液体を得ることが好ましい。
【0010】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0011】
1.ウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法
ウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法は、ウルトラファインバブルを含有する液体に対し、UV-A波、UV-B波、及びUV-C波のうち少なくとも1つの紫外線波長領域を含む電磁波を、紫外線の積算光量が6mJ/cm以上となるように照射する。以下、ウルトラファインバブル(Ultra Fine Bubble;UFB)を含有する液体をUFB液体とも称する。
【0012】
(1)UFB液体
ウルトラファインバブルは直径が1μm未満の気泡である(ISO 20298-1)。ウルトラファインバブルは、ナノサイズの微小気泡の公知の製造方法に従って調製することができる。例えば、微細孔方式、気液混合せん断方式、スタティックミキサー式、ベンチュリ式、キャビテーション式、蒸気凝縮式、超音波方式、旋回流方式、加圧溶解方式等の方式によって製造することができる。これらの中でも、得られるウルトラファインバブル含有液体の有用性の観点から、微細孔方式が好ましく、シリカ、アルミナ(γ-アルミナ)、及びゼオライト等から選ばれるセラミックス多孔質体を用いた微細孔方式がより好ましい。
【0013】
ウルトラファインバブル中の気体は特に限定されない。ウルトラファインバブル中の気体は、水素、空気、水蒸気、三重水素、希ガス、酸素、二酸化炭素、窒素、フッ化ガスからなる群より選ばれることが好ましい。希ガスとしては、ヘリウム(He),ネオン(Ne),アルゴン(Ar),クリプトン(Kr),キセノン(Xe),ラドン(Rn)が挙げられる。フッ化ガスとしては、CF,C,C,C,CHF,SF,NF等が挙げられる。本開示の技術は、気体の種類によらず適用可能な汎用性の高い技術であると言える。ウルトラファインバブル中の気体として、例えば、得られるウルトラファインバブル含有液体の有用性の観点から、水素を用いることができる。
【0014】
液体は、ウルトラファインバブルを生成でき、上記の紫外線波長領域を含む電磁波の照射が許容される液体であれば特に限定されない。このような液体としては、例えば水(水道水、精製水、イオン交換水、純水、超純水、脱イオン水、蒸留水等)を用いることができる。液体は、ウルトラファインバブル以外の成分を含んでいてもよく、ウルトラファインバブル以外の成分を含んでいなくてもよい。
【0015】
電磁波を照射する前におけるUFB液体のウルトラファインバブル濃度(以下、UFB濃度とも称する)は、特に限定されない。電磁波を照射する前におけるUFB液体のUFB濃度は、好ましくは1×10個/mL以上であり、より好ましくは1×10個/mL以上であり、更に好ましくは1×10個/mL以上である。また、電磁波を照射する前におけるUFB液体のUFB濃度は、好ましくは1×1014以下であり、さらに好ましくは1×10個/mL以下である。UFB濃度は、ナノ粒子解析システムを用いて測定できる。
【0016】
(2)電磁波
本開示における電磁波は、UV-A波、UV-B波、及びUV-C波のうち少なくとも1つの紫外線波長領域を含んでいる。本開示において紫外線波長領域は、400nm以下の波長領域とする。UV-A波の波長領域は、315nmより大きく400nm以下とする。UV-Bの波長領域は、280nmより大きく315nm以下とする。UV-Cの波長領域は、100nmより大きく280nm以下とする。本開示における電磁波は、例えば、250nm以上400nm以下の波長の少なくとも一部を含んでいるとよい。電磁波としては、紫外線の積算光量のコントロールし易さの観点から、人工光源が発する電磁波が好適である。
【0017】
人工光源は、殺菌灯、蛍光灯、LEDランプ、メタルハライドランプ、水銀ランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、及びブラックライトブルー蛍光ランプからなる群より選択される1種以上であることがより好ましい。例えば、UV-C波の紫外線波長領域を含む電磁波を照射する人工光源としては、殺菌灯を好適に用いることができる。また、UV-A波の紫外線波長領域を含む電磁波を照射する人工光源としては、LEDランプを好適に用いることができる。
【0018】
本開示における紫外線の積算光量は、6mJ/cm以上であり、10mJ/cm以上、30mJ/cm以上、60mJ/cm以上、100mJ/cm以上であってもよい。紫外線の積算光量としては、例えば、260mJ/cmが示される。紫外線の積算光量の上限値は特に限定されない。紫外線の積算光量の上限値は、例えば1000mJ/cm以下とすることができる。上記の紫外線の積算光量は、ウルトラファインバブルを含有する液体全体における少なくとも一部において上記範囲であれば、ウルトラファインバブルの経時変化量を調整する作用を奏し得る。
紫外線の積算光量は、紫外線強度(mW/cm)と照射時間(秒)の積算値として算出される。紫外線の積算光量は、紫外線強度及び照射時間の少なくとも一方を調整してコントロールできる。
【0019】
電磁波の紫外線強度は特に限定されない。電磁波の紫外線強度は、好ましくは0.035mW/cm以上であり、0.050mW/cm以上、0.080mW/cm以上、0.100mW/cm以上、0.150mW/cm以上、0.200mW/cm以上であってもよい。電磁波の紫外線強度の上限値は特に限定されない。電磁波の紫外線強度の上限値は、例えば10mW/cm以下とすることができる。
電磁波の紫外線強度は、例えば、電磁波を照射する際に液体30が存在する予定部位に紫外線強度計のプローブを置いて、大気中にて測定する。電磁波の紫外線強度は、光源の出力を変更したり、光源と液体との距離を変更したりしてコントロールできる。
【0020】
電磁波の照射時間は特に限定されない。電磁波の照射時間は、好ましくは5秒以上であり、10秒以上、30秒以上、60秒以上、120秒以上、180秒以上であってもよい。電磁波の照射時間の上限値は特に限定されない。電磁波の照射時間の上限値は、例えば1800秒以下とすることができる。
【0021】
(3)経時変化量の調整
本発明者らは、UFB液体に紫外線を照射したところ、紫外線を照射していないサンプルに比してウルトラファインバブルの寿命が優位に延びることを新たに見出し、本開示の技術を開発するに至った。ウルトラファインバブルの経時変化量の調整は、図1に示すように、準備したUFB液体に電磁波を照射することによって行われる。ウルトラファインバブルの経時変化量は、例えば、UFB液体に電磁波を照射してから所定期間経過後のウルトラファインバブルの残留率として評価できる。残留率は、電磁波を照射した直後のUFB濃度(個/mL)に対する所定時間経過後のUFB濃度(個/mL)から、下記式(1)により算出される。残留率が大きい程、ウルトラファインバブルの経時的な減少量が減衰している、すなわちウルトラファインバブルの寿命が延びていると言える。
残留率(%)=(所定時間経過後のUFB濃度/直後のUFB濃度)×100
・・・(1)
【0022】
ウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法の一例を、図2を参照しつつ説明する。ウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法は、容器22に収容した液体30に対して、人工光源20が発する電磁波を照射して行うことができる。
【0023】
人工光源20は、例えば、電磁波を出射する出射部21を備えている。出射部21は、所定の方向(図2では下方)に向けて、電磁波を出射するように設置されている。人工光源20の数及び設置態様は、容器22の大きさ、液体30の量等に応じて適宜設定できる。図2では、便宜的に1つの人工光源20を示している。人工光源20は、駆動部15によって、点灯又は非点灯の状態に変更にされる。人工光源20の点灯時間を調整することによって、電磁波の照射時間をコントロールできる。
【0024】
容器22は、人工光源20からの電磁波を、所定の紫外線強度にて照射可能に液体30を収容する。例えば、容器22は、出射部21側(図2の上側)に向けて開口している。それ以外にも、容器は、電磁波(紫外線)を透過可能な透過部を有する構成や、容器の内部に人工光源の出射部が配置される構成であってもよい。
【0025】
通常、紫外線強度は光源からの距離に応じて低減する。このため、容器22に収容された液体30は、人工光源20(出射部21)の近傍に位置することが好ましい。以下、容器22に収容された液体30と、出射部21との位置関係について具体的に説明する。容器22に収容された液体30が存在する予定部位において、図2に示すように、出射部21からの光束の中心上で出射部21に最も近い位置を予定位置P1とし、最も離れた位置を予定位置P3とし、予定位置P1と予定位置P3の中間位置を予定位置P2とする。予定位置P1は、容器22に収容した液体30の液面に対応し、予定位置P3は、容器22に収容した液体30の底に対応する。液体30と容器22がない状態にて、予定位置P1,P2,P3に紫外線強度計のプローブを置き、紫外線強度を測定する。液体30と人工光源20との位置関係は、少なくとも予定位置P1にて測定した場合の紫外線強度について積算光量が6mJ/cm以上であればよい。液体30と人工光源20との位置関係は、予定位置P2にて測定した場合の紫外線強度について積算光量が上記の下限値以上であることが好ましく、予定位置P3にて測定した場合の紫外線強度について積算光量が上記の下限値以上であることがより好ましい。
【0026】
ウルトラファインバブルの経時変化量は、例えば、実験によって、紫外線の波長毎に、積算光量と残留率の関係を予め求めておき、その関係に基づき調整できる。
例えば、後述する実施例の実験4の結果から、UV-C波(紫外線強度 0.214mW/cm)を含む電磁波を照射してから160時間経過後の残留率を80%以上に調整する場合について説明する。図5のグラフは、実験4における、積算光量と残留率の関係を示すグラフである。このグラフから、積算光量0mW/cm-256.8mW/cmの範囲において、積算光量に比例して残留率が高くなることが分かる。そして、積算光量と残留率の関係から、残留率が80%となる積算光量の下限値が概ね187mW/cmと算出される。すなわち、187mW/cm以上の積算光量に設定することによって、残留率が80%以上に調整されたUFB液体を得ることができる。
【0027】
なお、上記の調整方法は一例であり、ウルトラファインバブルの経時変化量は、後述する図6のグラフに示されるような、電磁波を照射してからの経過時間とUFB濃度の関係に基づいて調整してもよい。その他、ウルトラファインバブルの経時変化に関するパラメータについて、線形近似、対数近似等の近似曲線を求めて、近似曲線に基づき調整してもよい。
【0028】
(4)推測されるメカニズム
所定値以上の紫外線の積算光量にて電磁波を照射して、ウルトラファインバブルの経時変化量を調整できる理由は定かではないが、次のように推測される。なお、本開示の技術は、この推測理由によって限定解釈されない。
ウルトラファインバブルはマイナスのゼータ電位を有しており、プラス帯電の物質を吸着する特性がある。一方、有機物コンタミなどの多くはプラスのゼータ電位を有しており、ウルトラファインバブルに吸着する特性があることが知られている。UFB濃度の経時変化、特に、ウルトラファインバブルが経時的に減少する一因はこれらのコンタミと接触することでウルトラファインバブルがブドウの房のように凝集する為であると考えらえる(図3参照)。すなわち、ウルトラファインバブルが凝集した状態、また凝集したウルトラファインバブル同士が合体した状態では、浮力が増加してバブルが浮上し消失すると考えられる。所定値以上の紫外線の積算光量にて電磁波を照射すると、紫外線によって液体中の有機物コンタミが分解し、液体中のプラス帯電粒子の量を減らすことができると考えられる(図4参照)。そして、コンタミとの接触に起因したウルトラファインバブルの凝集を抑制でき、ウルトラファインバブルの消失も抑制されたと推測される。なお、有機物コンタミは超純水中にも僅かに入っており、またウルトラファインバブルを生成する装置内部の部品の摩耗や雑菌、空気中に浮遊するホコリなどに由来すると考える。
【0029】
なお、所定の条件で電磁波を照射した場合において、残留率が100%を超える現象が観察されている。残留率が100%を超える理由は定かではないが、例えば、検出限界以下の径のウルトラファインバブルが、電磁波照射後の保管を経て、検出されるようになった可能性がある。
【0030】
2.ウルトラファインバブル含有液体の製造方法
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法は、上記の調整方法を行って、経時変化量が調整されたUFB液体を得る工程を含む。例えば、ウルトラファインバブル含有液体の製造方法は、図1に示すように、UFB液体を準備するUFB液体準備工程と、上記の調整方法を行う照射工程とを含んでいる。以下、経時変化量が調整されたUFB液体を、調整済みUFB液体とも称する。
【0031】
UFB液体準備工程において、ウルトラファインバブルの生成方法は特に限定されない。ウルトラファインバブルの生成は、例えば、多孔質の構造体(エレメント)を備えた装置を用いて行うことができる。多孔質の構造体(エレメント)を備えた装置としては、特開2018-86632号公報に記載の装置、国際公開第2020/004653号に記載の装置、特開2021-154262公報に記載の装置等を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0032】
照射工程は、上記のウルトラファインバブルの経時変化量の調整方法と同様にして行うことができ、その説明を援用する。照射工程は、UFB液体準備工程の後であって、容器22に収容された液体に対して行われるとよい。このようにすれば、ウルトラファインバブルの生成から容器22に収容するまでの過程で混入した有機物コンタミや、容器22内に存在していた有機物コンタミに対しても電磁波を照射できる。
【0033】
経時変化量が調整されたUFB液体は、残留率の保持の観点から、所定の条件にて静置保管されるとよい。保管条件は特に限定されない。保管温度は、室温であってもよく、好ましくは0℃を超え10℃以下の一定の温度である。保管期間は、例えば、12時間以上、1日以上、3日以上、5日以上であってもよい。保管期間の上限値は特に限定されず、例えば、3年以下、1年以下、6か月以下、30日以下、10日以下であってもよい。換言すれば、本開示の技術によれば、残留率を高度に保持でき、長期の保管を経てもウルトラファインバブルを残存させる効果が期待できる。
【0034】
調整済みUFB液体の所定時間経過後のウルトラファインバブルの残留率は、特に限定されない。調整済みUFB液体の64時間経過後の残留率は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上であり、更に好ましくは95%以上であり、特に好ましくは98%以上である。調整済みUFB液体の64時間経過後の残留率の上限値は特に限定されず、例えば120%以下であってもよい。
【0035】
3.調整済みUFB液体の用途
調整済みUFB液体の用途は特に限定されない。調整済みUFB液体を含有する製品としては、例えば、化粧品、飲食品、健康食品、医薬品、医薬部外品、医薬関連材料、医療関連用品、日用品、バイオ関連用品、飼料、餌料、ペットフード、養殖水、及び植物育成水からなる群より選択される製品が挙げられる。
より具体的には、液体状の製品にUFBを添加する下記の用途で実用が可能である。
化粧品:美容液、化粧水、パック、乳液、育毛剤、発毛剤、ヘアケア用品、身体洗浄剤(洗顔料、シャンプー、ボディソープ)、香水、香料等
飲食品:飲料、酒類、調味料類、スープ類、レトルト食品(液体状の食品など)、サプリメント、ミネラルウォーター、健康食品等
医薬品、医薬部外品、医薬関連材料、医療関連用品:注射用水、生理食塩水、細胞外液補充液、人工膠質液、人工血液、輸血液、血液製剤、身体洗浄液(洗眼液、鼻洗浄液、胃洗浄液、肺洗浄液、腸洗浄液)、コンタクトレンズ洗浄液、点眼薬、注射製剤、注射液、ネブライザー薬液、経口補水液、輸液(点滴用)、ドラッグデリバリー用薬剤等
日用品:洗浄剤、温泉水、風呂水等
バイオ関連用品:培養液等
産業用途:化学合成用途、試薬
農水産用途:養殖水(魚介類)、飼育水(家畜及び魚介類)、農業用水、水耕栽培用養液
【0036】
本開示の技術によれば、電磁波の照射によってUFBの経時変化量を調整できる。
本開示の技術は、液体の成分、UFBを生成する装置、UFB液体を収容する容器等を改変しなくても、UFBの経時変化量を調整可能であるため画期的である。
電磁波を照射する技術は、簡単なプロセスで実施可能であり、また安価であるため産業上の利用の可能性が高い。
【実施例0037】
実施例により本開示を更に具体的に説明する。
【0038】
1.実験1:UV-A波
(1)サンプルの作製
セラミックス多孔質体のエレメントを備えた装置を用いて、微細孔方式にて純水中に水素ガスのウルトラファインバブルを発生させ、ウルトラファインバブルを含有する水(UFB水)を準備した。
【0039】
電磁波の照射には、LEDランプ(懐中電灯型ブラックライト、品名:LEDブラックライト 100LED、紫外線波長:390nm-395nm)を用いた。このLEDランプは、UV-A波を含む電磁波を照射する人工光源の一例である。電磁波の紫外線強度は、紫外線強度計(FUSO社製、品番:YK-37UVSD)を用いて、0mW/cmから19.99mW/cmまでの測定レンジにて測定した。電磁波は、図2に示すように、ビーカーの上方から照射した。電磁波の紫外線強度の測定位置は、図2の予定位置P3とした。電磁波の紫外線強度は、0.266W/cmであった。
【0040】
ビーカーに入れたUFB水に、LEDランプが発する電磁波を3分(180秒)、7分(420秒)、15分(900秒)のいずれかの照射時間にて照射した。LEDランプからの電磁波を照射しなかったサンプル、すなわち照射時間0秒のサンプルを1-1とした。照射時間180秒、420秒、900秒のサンプルを1-2,1-3,1-4とした。
【0041】
各サンプルについて、電磁波を照射した直後のUFB水のUFB濃度と、電磁波を照射してから3日(64時間)間保管した後のUFB水のUFB濃度を計測してウルトラファインバブルの経時変化量を観察した。UFB水の保管には、ガラスバイアル瓶(容量:30mL、ビオラモねじ口バイアル、ビオラモ社製)を用いた。各サンプルのUFB水を、ガラスバイアル瓶に25mLずつ封入し、環境試験機(エスペック社製、Bench-Top Type Temperature & Humidity Chamber、型番:SH-261)を用いて、定温運転 5℃にて保管した。
【0042】
UFB濃度(個/ml)は、ナノ粒子解析システム NanoSight(Spectris PLC製、NS-300、以下単にナノサイトと記す)を用いて測定した。測定条件は以下の通りとした。
[測定条件]
周波数:405nm
CameraLevel:15
Number of caputures:5
Capture duration:60
Detection Threshold:4
【0043】
(2)結果
結果を表1に示す。積算光量(mJ/cm)は、電磁波の紫外線強度(mW/cm)に照射時間(秒)を掛けて算出した。「0day」は、電磁波を照射した直後のUFB濃度である。「3day(64h)」は、電磁波を照射してから3日間(64時間)保管した後のUFB濃度である。変化速度(濃度/h)は、以下の式に基づいて、算出した。判定は、電磁波を照射しなかったサンプルの残留率を基準として、これよりも残留率が高い場合を「合格」とした。
変化速度(濃度/h)=(直後のUFB濃度-64時間経過後のUFB濃度)/64
【0044】
【表1】
【0045】
電磁波を照射した直後において、電磁波を照射していないサンプルのUFB濃度に対する、電磁波を照射した各サンプルのUFB濃度の増減に規則性は認められなかった。
3日間保管した後のUFB濃度と直後のUFB濃度と比較した所、積算光量に比例して残留率が増加していた。積算光量と残留率の間には、高い相関があった。
変化速度を算出した所、積算光量に比例して変化速度が低減する、すなわちウルトラファインバブルの減少量が減衰することが分かった。積算光量と変化速度の間には、高い相関があった。
これらの結果から、所定の波長領域を含む電磁波を照射することによって、積算光量に応じてウルトラファインバブルの経時変化量を調整できることが示唆された。
【0046】
2.実験2:UV-C波(低エネルギー)
(1)サンプルの作製
電磁波の照射に、殺菌灯(HYBEC社製、品番:G15T8 15W、紫外線波長:253.7nm(中心波長))を用い、照射時間を3分(180秒)、15分(900秒)とした他は、実験1と同様にしてサンプル2-1,2-2,2-3を作製した。この殺菌灯は、UV-C波を含む電磁波を照射する人工光源の一例である。電磁波の紫外線強度は、0.035mW/cmであった。
【0047】
(2)結果
結果を表2に示す。変化速度(濃度/h)は、以下の式に基づいて、算出した。
変化速度(濃度/h)=(直後のUFB濃度-64時間経過後のUFB濃度)/64
【表2】
【0048】
電磁波を照射した直後において、電磁波を照射していないサンプルのUFB濃度に対する、電磁波を照射した各サンプルのUFB濃度の増減に規則性は認められなかった。
3日間保管した後のUFB濃度と直後のUFB濃度と比較した所、電磁波を照射したサンプルの残留率は電磁波を照射していないサンプルの残留率よりも高かった
変化速度を算出した所、比較的少ない積算光量(例えば、6.3mJ/cm)であっても、ウルトラファインバブルの減少量が減衰することが分かった。
これらの結果から、所定の波長領域を含む電磁波を照射することによって、ウルトラファインバブルの経時変化量を調整できることが示唆された。
【0049】
3.実験3:UV-C波(高エネルギー)
(1)サンプルの作製
電磁波の紫外線強度を高くし、照射時間を5分(300秒)、10分(600秒)、20分(1200秒)とし、保管期間を4日間(90時間)とした他は、実験2と同様にしてサンプル3-1,3-2,3-3,3-4を作製した。電磁波の紫外線強度は、0.214mW/cmであった。
【0050】
(2)結果
結果を表3に示す。「4day」は、電磁波を照射してから4日間(90時間)保管した後のUFB濃度である。変化速度(濃度/h)は、以下の式に基づいて、算出した。
変化速度(濃度/h)=(直後のUFB濃度-90時間経過後のUFB濃度)/90
【表3】
【0051】
電磁波を照射した直後において、電磁波を照射していないサンプルのUFB濃度に対する、電磁波を照射した各サンプルのUFB濃度の増減に規則性は認められなかった。
4日間保管した後のUFB濃度と直後のUFB濃度と比較した所、積算光量に比例して残留率が増加していた。積算光量と残留率の間には、高い相関があった。
変化速度を算出した所、積算光量に比例して変化速度が低減する、すなわちウルトラファインバブルの減少量が減衰することが分かった。積算光量と変化速度の間には、高い相関があった。
これらの結果から、所定の波長領域を含む電磁波を照射することによって、ウルトラファインバブルの経時変化量を調整できることが示唆された。
【0052】
4.実験4:UV-C波(高エネルギー)
(1)サンプルの作製
保管期間を7日間(160時間)とした他は、実験3と同様にしてサンプル4-1,4-2,4-3,4-4を作製した。電磁波の紫外線強度は、0.214mW/cmであった。
【0053】
(2)結果
結果を表4に示す。「7day」は、電磁波を照射してから7日間(160時間)保管した後のUFB濃度である。変化速度(濃度/h)は、以下の式に基づいて、算出した。
変化速度(濃度/h)=(直後のUFB濃度-160時間経過後のUFB濃度)/160
【表4】
【0054】
電磁波を照射した直後において、電磁波を照射していないサンプルのUFB濃度に対する、電磁波を照射した各サンプルのUFB濃度の増減に規則性は認められなかった。
7日間保管した後のUFB濃度と直後のUFB濃度と比較した所、積算光量に比例して残留率が増加していた。積算光量と残留率の間には、高い相関があった。
変化速度を算出した所、積算光量に比例して変化速度が低減する、すなわちウルトラファインバブルの減少量が減衰することが分かった。積算光量と変化速度の間には、高い相関があった。
これらの結果から、所定の波長領域を含む電磁波を照射することによって、ウルトラファインバブルの経時変化量を調整できることが示唆された。
【0055】
5.実験3及び実験4のまとめ
実験3及び実験4の結果をまとめて、表5に示す。
【表5】
【0056】
実験3及び実験4の結果をまとめて、図6のグラフに示す。図6のグラフは、積算光量毎に、電磁波を照射してからの経過時間(h)と、UFB濃度(個/mL)との関係を示すグラフである。積算光量毎のグラフは以下の通りである。
[積算光量 0mJ/cm]
折れ線グラフ:黒の破線、プロット バツ印
最小二乗法によって求めた線形近似曲線:グレーの破線
線形近似曲線の式:y=-1000000x+4E+08
[積算光量 64.2mJ/cm]
折れ線グラフ:黒の実線、プロット 丸印
最小二乗法によって求めた線形近似曲線:グレーの破線
線形近似曲線の式:y=-556995x+4E+08
[積算光量 128.4mJ/cm]
折れ線グラフ:黒の1点鎖線、プロット 三角印
最小二乗法によって求めた線形近似曲線:グレーの破線
線形近似曲線の式:y=-456477x+3E+08
[積算光量 256.8mJ/cm]
折れ線グラフ:黒の2点鎖線、プロット 四角印
最小二乗法によって求めた線形近似曲線:グレーの2点鎖線
線形近似曲線の式:y=-359326x+4E+08
【0057】
経過時間(h)とUFB濃度(個/mL)との関係について、線形近似曲線の傾きの絶対値を、濃度変化速度(濃度/h)として表5に併記する。積算光量(mJ/cm)と、濃度変化速度(濃度/h)の関係を図7のグラフに示す。図7のグラフにおいて実線は折れ線グラフであり、点線は対数近似曲線である。対数近似曲線の式は、y=-33659ln(x)+618885であり、相関係数はR=0.9523であった。これらの結果から、積算光量と濃度変化速度との間に、高い相関があることが分かった。また、比較的少ない積算光量(例えば、6mJ/cm)であっても、ウルトラファインバブルの減少量を減衰する効果が期待できることが示唆された。
【0058】
6.実施例の効果
UFB水に紫外線の積算光量が6mJ/cm以上となるように電磁波を照射することによって、ウルトラファインバブルの寿命を優位に延長することができた。
以上のように、本実施例によれば、ウルトラファインバブルの経時変化量を調整できた。
【0059】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
15…駆動部
20…人工光源
21…出射部
22…容器
30…液体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7