(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025086
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】土留め壁の設計方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/04 20060101AFI20240216BHJP
E02D 5/06 20060101ALI20240216BHJP
E02D 5/08 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
E02D17/04 E
E02D5/06
E02D5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128236
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 徹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正登
(72)【発明者】
【氏名】福田 賢司
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049EA02
2D049FB03
2D049FB12
2D049FC15
2D049FE07
(57)【要約】
【課題】構造の成立性を精度良く確認し易い土留め壁の設計方法を提供する。
【解決手段】所定水平方向を水平断面での長手方向D1とする土留め壁1の設計方法であって、土留め壁1は、内面から外側に窪む凹部2aと内面から内側に突出する凸部2bが長手方向D1に交互に連続する第1土留め材2と、第1土留め材2に対して長手方向D1と直交する幅方向D2に所定距離Lを離隔し、内面から外側に窪む凹部3aと内面から内側に突出する凸部3bが長手方向D1に交互に連続する第2土留め材3と、第1土留め材2と第2土留め材3の離隔した離隔空間に改良によって形成される内部地盤4と、を有し、土留め壁1を弾塑性梁バネモデルで検討する弾塑性梁バネモデル検討ステップと、土留め壁1を弾塑性FEMモデルで検討する弾塑性FEMモデル検討ステップと、弾塑性梁バネモデルの検討と弾塑性FEMモデルの検討とから土留め壁1の構造の成立性を確認する構造成立性確認ステップと、を有する土留め壁の設計方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定水平方向を水平断面での長手方向とする土留め壁の設計方法であって、前記土留め壁は、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第1土留め材と、前記第1土留め材に対して前記長手方向と直交する幅方向に所定距離を離隔し、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第2土留め材と、前記第1土留め材と前記第2土留め材の離隔した離隔空間に改良によって形成される内部地盤と、を有し、前記土留め壁を弾塑性梁バネモデルで検討する弾塑性梁バネモデル検討ステップと、前記土留め壁を弾塑性FEMモデルで検討する弾塑性FEMモデル検討ステップと、前記弾塑性梁バネモデルの検討と前記弾塑性FEMモデルの検討とから前記土留め壁の構造の成立性を確認する構造成立性確認ステップと、を有する土留め壁の設計方法。
【請求項2】
前記弾塑性梁バネモデル検討ステップは、前記第1土留め材、前記第2土留め材及び前記内部地盤の全体と等価の複合断面諸量を算定する複合断面諸量算定ステップを有する、請求項1に記載の土留め壁の設計方法。
【請求項3】
前記弾塑性梁バネモデル検討ステップは、土質条件を設定する土質条件設定ステップと、前記第1土留め材、前記第2土留め材及び前記内部地盤それぞれの仕様を仮定する土留め壁仕様仮定ステップと、前記複合断面諸量算定ステップと、作成された弾塑性梁バネモデルで弾塑性解析を行う梁バネ解析ステップと、前記土留め壁の変位量と応力度を確認する変位量・応力度確認ステップと、を有する、請求項2に記載の土留め壁の設計方法。
【請求項4】
前記弾塑性FEMモデル検討ステップは、前記第1土留め材と前記第2土留め材と前記内部地盤との各部材間のジョイント要素の条件設定をするジョイント要素条件設定ステップを有する、請求項1に記載の土留め壁の設計方法。
【請求項5】
前記弾塑性FEMモデル検討ステップは、土質条件を設定する土質条件設定ステップと、前記第1土留め材、前記第2土留め材及び前記内部地盤それぞれの仕様を仮定する土留め壁仕様仮定ステップと、前記土留め壁の断面をモデル化する断面モデル化ステップと、前記ジョイント要素条件設定ステップと、作成された弾塑性FEMモデルで弾塑性解析を行うFEM解析ステップと、前記土留め壁の変位量と応力度を確認する変位量・応力度確認ステップと、を有する、請求項4に記載の土留め壁の設計方法。
【請求項6】
前記構造成立性確認ステップは、前記弾塑性梁バネモデル検討ステップと前記弾塑性FEMモデル検討ステップの一方によって確認した前記第1土留め材、前記第2土留め材及び前記内部地盤それぞれの仕様を、前記弾塑性梁バネモデル検討ステップと前記弾塑性FEMモデル検討ステップの他方に仮定のために適用する仕様適用ステップを有する、請求項1~5の何れか1項に記載の土留め壁の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土留め壁の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定水平方向を水平断面での長手方向とする土留め壁であって、凹部と凸部が長手方向に連続する第1土留め材と、第1土留め材に対して長手方向と直交する幅方向に所定距離を離隔し、凹部と凸部が長手方向に連続する第2土留め材と、第1土留め材と第2土留め材の離隔した離隔空間に改良によって形成される内部地盤と、を有する土留め壁が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような土留め壁の有利な設計方法が求められている。
【0005】
そこで本発明の目的は、構造の成立性を精度良く確認し易い土留め壁の設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は以下のとおりである。
【0007】
[1]
所定水平方向を水平断面での長手方向とする土留め壁の設計方法であって、前記土留め壁は、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第1土留め材と、前記第1土留め材に対して前記長手方向と直交する幅方向に所定距離を離隔し、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第2土留め材と、前記第1土留め材と前記第2土留め材の離隔した離隔空間に改良によって形成される内部地盤と、を有し、前記土留め壁を弾塑性梁バネモデルで検討する弾塑性梁バネモデル検討ステップと、前記土留め壁を弾塑性FEMモデルで検討する弾塑性FEMモデル検討ステップと、前記弾塑性梁バネモデルの検討と前記弾塑性FEMモデルの検討とから前記土留め壁の構造の成立性を確認する構造成立性確認ステップと、を有する土留め壁の設計方法。
【0008】
[2]
前記弾塑性梁バネモデル検討ステップは、前記第1土留め材、前記第2土留め材及び前記内部地盤の全体と等価の複合断面諸量を算定する複合断面諸量算定ステップを有する、[1]に記載の土留め壁の設計方法。
【0009】
[3]
前記弾塑性梁バネモデル検討ステップは、土質条件を設定する土質条件設定ステップと、前記第1土留め材、前記第2土留め材及び前記内部地盤それぞれの仕様を仮定する土留め壁仕様仮定ステップと、前記複合断面諸量算定ステップと、作成された弾塑性梁バネモデルで弾塑性解析を行う梁バネ解析ステップと、前記土留め壁の変位量と応力度を確認する変位量・応力度確認ステップと、を有する、[2]に記載の土留め壁の設計方法。
【0010】
[4]
前記弾塑性FEMモデル検討ステップは、前記第1土留め材と前記第2土留め材と前記内部地盤との各部材間のジョイント要素の条件設定をするジョイント要素条件設定ステップを有する、[1]~[3]の何れか1項に記載の土留め壁の設計方法。
【0011】
[5]
前記弾塑性FEMモデル検討ステップは、土質条件を設定する土質条件設定ステップと、前記第1土留め材、前記第2土留め材及び前記内部地盤それぞれの仕様を仮定する土留め壁仕様仮定ステップと、前記土留め壁の断面をモデル化する断面モデル化ステップと、前記ジョイント要素条件設定ステップと、作成された弾塑性FEMモデルで弾塑性解析を行うFEM解析ステップと、前記土留め壁の変位量と応力度を確認する変位量・応力度確認ステップと、を有する、[4]に記載の土留め壁の設計方法。
【0012】
[6]
前記構造成立性確認ステップは、前記弾塑性梁バネモデル検討ステップと前記弾塑性FEMモデル検討ステップの一方によって確認した前記第1土留め材、前記第2土留め材及び前記内部地盤それぞれの仕様を、前記弾塑性梁バネモデル検討ステップと前記弾塑性FEMモデル検討ステップの他方に仮定のために適用する仕様適用ステップを有する、[1]~[5]の何れか1項に記載の土留め壁の設計方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、構造の成立性を精度良く確認し易い土留め壁の設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態の土留め壁の設計方法によって設計する土留め壁の一例の外観斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1に示す土留め壁の鉛直断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示す土留め壁の弾塑性梁バネモデルの一例であり、
図2(c)は、
図2(a)に示す土留め壁の弾塑性FEMモデルの一例である。
【
図3】弾塑性梁バネモデル検討ステップの詳細を示すフロー図である。
【
図4】弾塑性FEMモデル検討ステップの詳細を示すフロー図である。
【
図5】
図1に示す土留め壁をモデル化する場合の一例を示す断面図である。
【
図6】
図6(a)は、
図2(c)に示すFEMモデルの一部を示し、
図6(b)は、
図6(a)に示す部分に対するジョイント要素の条件設定の一例を示す。
【
図7】
図6(b)に示すジョイント要素の垂直(剥離)特性についての条件設定の一例を示す。
【
図8】
図6(b)に示すジョイント要素のせん断(すべり)特性についての条件設定の一例を示す。
【
図9】
図9(a)は、実施例として作成したモデル(N=10相当の砂質土地盤)を示し、
図9(b)は、
図9(a)のモデルによって得られた地盤反力図であり、
図9(c)は、
図9(a)のモデルによって得られた変位分布図であり、
図9(d)は、
図9(a)のモデルによって得られた曲げモーメント図であり、
図9(e)は、
図9(a)のモデルのジョイント要素の状態を示す。
【
図10】
図10(a)は、
図9(a)のモデルによって得られた鋼矢板の深度方向の応力分布図であり、
図10(b)は、
図9(a)のモデルによって得られた改良体の深度方向の応力分布図である。
【
図11】
図10(a)に示す最大応力発生深度(-8.9m)における断面内応力分布図である。
【
図12】
図10(b)に示す剥離発生深度(-13.1m)における断面内応力分布図である。
【
図13】
図13(a)は、実施例として作成したモデル(N=2相当の粘性土地盤)を示し、
図13(b)は、
図13(a)のモデルによって得られた地盤反力図であり、
図13(c)は、
図13(a)のモデルによって得られた変位分布図であり、
図13(d)は、
図13(a)のモデルによって得られた曲げモーメント図であり、
図13(e)は、
図13(a)のモデルのジョイント要素の状態を示す。
【
図14】
図14(a)は、
図13(a)のモデルのジョイント要素の状態を示し、
図14(b)は、
図13(a)のモデルによって得られた鋼矢板の深度方向の応力分布図であり、
図14(c)は、
図13(a)のモデルによって得られた改良体の深度方向の応力分布図である。
【
図15】
図14(b)に示す最大応力発生深度(-10.9m)における断面内応力分布図である。
【
図16】
図14(c)に示す剥離発生深度(-15.1m)における断面内応力分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を例示説明する。
【0016】
本発明の一実施形態において、土留め壁1の設計方法は、所定水平方向を水平断面での長手方向D1とする土留め壁1の設計方法であって、土留め壁1は、
図1~
図2(a)に示すように、内面から外側に窪む凹部2aと内面から内側に突出する凸部2bが長手方向D1に交互に連続する第1土留め材2と、第1土留め材2に対して長手方向D1と直交する幅方向D2に所定距離Lを離隔し、内面から外側に窪む凹部3aと内面から内側に突出する凸部3bが長手方向D1に交互に連続する第2土留め材3と、第1土留め材2と第2土留め材3の離隔した離隔空間に改良によって形成される内部地盤4と、を有し、土留め壁1を弾塑性梁バネモデルで検討する弾塑性梁バネモデル検討ステップと、土留め壁1を弾塑性FEM(Finite Element Method、有限要素法)モデルで検討する弾塑性FEMモデル検討ステップと、弾塑性梁バネモデルの検討と弾塑性FEMモデルの検討とから土留め壁1の構造の成立性を確認する構造成立性確認ステップと、を有する土留め壁1の設計方法である。
【0017】
本実施形態では第1土留め材2は、複数の鋼製の矢板(鋼矢板)によって構成される。なお、矢板は鋼製に限らない。第1土留め材2は矢板に限らず、例えば、SMW(Soil Mixing Wall)などの柱列式連続壁によって構成してもよい。
【0018】
本実施形態では第2土留め材3は、複数の鋼製の矢板(鋼矢板)によって構成される。なお、矢板は鋼製に限らない。第2土留め材3は矢板に限らず、例えば、SMW(Soil Mixing Wall)などの柱列式連続壁によって構成してもよい。
【0019】
図2(a)に示すように第1土留め材2を地山側の土留め材とし、第2土留め材3を掘削側の土留め材としてもよいし、その逆に、第1土留め材2を掘削側の土留め材とし、第2土留め材3を地山側の土留め材としてもよい。
【0020】
なお、土留め壁1の水平断面形状は特に限定されず、例えば、I形、円弧形、波形、環形などであってよい。また、環形の場合、環形の外側が地山側、環形の内側が掘削側であってもよいし、その逆に、環形の外側が掘削側、環形の内側が地山側であってもよい。
【0021】
本実施形態では内部地盤4は、地盤改良造成によって形成される地盤によって構成される。内部地盤4は例えば、高圧噴射撹拌工法などにより地盤に噴射される改良材によって改良された改良体によって構成される。内部地盤4は、改良体と、改良されていない地盤とによって構成してもよい。
【0022】
土留め壁1の弾塑性梁バネモデルの一例を
図2(b)に示し、土留め壁1の弾塑性FEMモデルの一例を
図2(c)に示す。
【0023】
図3に示すように、本実施形態では弾塑性梁バネモデル検討ステップは、土質条件を設定する土質条件設定ステップS11と、第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4それぞれの仕様を仮定する土留め壁仕様仮定ステップS12と、第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4の全体と等価の複合断面諸量を算定する複合断面諸量算定ステップS13と、作成された弾塑性梁バネモデルで弾塑性解析を行う梁バネ解析ステップS14と、土留め壁1(複合土留め壁)の変位量と応力度を確認する変位量・応力度確認ステップS15と、を有する。
【0024】
本実施形態の複合断面諸量算定ステップS13では、まず、例えば
図5に示すように、第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4それぞれを滑らかな板形状に置き換えることで、土留め壁1をモデル化する。例えば土留め壁1が上述したようなI形の水平断面形状をなす場合、第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4それぞれを、滑らかな平板形状に置き換える。そして、モデル化された第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4の全体と等価の複合断面諸量を算定する。
【0025】
一例として、内部地盤4が砂質土である場合、鋼矢板に換算する場合には、変形係数E(kN/m2)は2.0×108であり、異種材料の断面二次モーメントI(cm4)は10,450,758であり、曲げ剛性(kN・m2)E・Iは20,901,516となり、内部地盤4に換算する場合には、変形係数E(kN/m2)は1,200,000であり、異種材料の断面二次モーメントI(cm4)は1,741,793,033であり、曲げ剛性(kN・m2)E・Iは20,901,516となる。内部地盤4が粘性土である場合、鋼矢板に換算する場合には、変形係数E(kN/m2)は2.0×108であり、異種材料の断面二次モーメントI(cm4)は10,417,425であり、曲げ剛性(kN・m2)E・Iは20,834,850となり、内部地盤4に換算する場合には、変形係数E(kN/m2)は400,000であり、異種材料の断面二次モーメントI(cm4)は5,208,712,500であり、曲げ剛性(kN・m2)E・Iは20,834,850となる。
【0026】
本実施形態では、土質条件設定ステップS11、土留め壁仕様仮定ステップS12、複合断面諸量算定ステップS13、梁バネ解析ステップS14及び変位量・応力度確認ステップS15をこの順に行う。また本実施形態では弾塑性梁バネモデル検討ステップは、変位量・応力度確認ステップS15で問題があることが確認された場合には変位量・応力度確認ステップS15で問題ないことが確認されるまで土留め壁仕様仮定ステップS12に戻る繰り返しステップS16を有する。
【0027】
図4に示すように、本実施形態では弾塑性FEMモデル検討ステップは、土質条件を設定する土質条件設定ステップS21と、第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4それぞれの仕様を仮定する土留め壁仕様仮定ステップS22と、土留め壁1の断面をモデル化する断面モデル化ステップS23と、第1土留め材2と第2土留め材3と内部地盤4との各部材間のジョイント要素の条件設定をするジョイント要素条件設定ステップS24と、作成された弾塑性FEMモデルで弾塑性解析を行うFEM解析ステップS25と、土留め壁1(複合土留め壁)の変位量と応力度を確認する変位量・応力度確認ステップS26と、を有する。
【0028】
本実施形態の断面モデル化ステップS23では、例えば
図5に示すように、第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4それぞれを滑らかな板形状に置き換えることで、土留め壁1をモデル化する。例えば土留め壁1が上述したようなI形の水平断面形状をなす場合、第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4それぞれを、滑らかな平板形状に置き換える。
【0029】
そして、本実施形態のジョイント要素条件設定ステップS24では、例えば
図6~
図8に示すように、第1土留め材2と内部地盤4の間及び第2土留め材3と内部地盤4の間それぞれのジョイント要素(境界面ジョイント要素)の垂直(剥離)特性とせん断(すべり)特性を設定する。垂直(剥離)特性としては、例えば、垂直方向の剛性率Kn(
図7での傾きに相当)と、引張応力が発生した時に剥離を生じる応力である引っ張り強度σtを設定する。せん断(すべり)特性としては、例えば、せん断方向の剛性率Ks(
図8での傾きに相当)と、すべりが発生する限界値である許容付着応力度fを設定する。例えば、f=(1/3)Cであり、Cは内部地盤4の粘着力である。
【0030】
本実施形態では、土質条件設定ステップS21、土留め壁仕様仮定ステップS22、断面モデル化ステップS23、ジョイント要素条件設定ステップS24、FEM解析ステップS25及び変位量・応力度確認ステップS26をこの順に行う。また本実施形態では弾塑性FEMモデル検討ステップは、変位量・応力度確認ステップS26で問題があることが確認された場合には変位量・応力度確認ステップS26で問題ないことが確認されるまで土留め壁仕様仮定ステップS22に戻る繰り返しステップS27を有する。
【0031】
本実施形態では、構造成立性確認ステップは、弾塑性梁バネモデル検討ステップと弾塑性FEMモデル検討ステップの一方によって確認した第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4それぞれの仕様を、弾塑性梁バネモデル検討ステップと弾塑性FEMモデル検討ステップの他方に仮定のために適用する仕様適用ステップを有する。仕様適用ステップによって、弾塑性梁バネモデル検討ステップと弾塑性FEMモデル検討ステップの他方において、土留め壁仕様仮定ステップで仮定され、問題ないことが確認された仕様は、構造成立性確認ステップにおいて、土留め壁1の構造の成立性が確認された仕様であると判断される。
【0032】
弾塑性梁バネモデルと弾塑性FEMモデルの2つのモデルを用いる本実施形態の土留め壁1の設計方法によれば、土留め壁1の構造の成立性を精度良く確認することを容易に実現できる。
【0033】
本発明は前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0034】
したがって、前述した実施形態の土留め壁1の設計方法は、所定水平方向を水平断面での長手方向D1とする土留め壁1の設計方法であって、土留め壁1は、内面から外側に窪む凹部2aと内面から内側に突出する凸部2bが長手方向D1に交互に連続する第1土留め材2と、第1土留め材2に対して長手方向D1と直交する幅方向D2に所定距離Lを離隔し、内面から外側に窪む凹部3aと内面から内側に突出する凸部3bが長手方向D1に交互に連続する第2土留め材3と、第1土留め材2と第2土留め材3の離隔した離隔空間に改良によって形成される内部地盤4と、を有し、土留め壁1を弾塑性梁バネモデルで検討する弾塑性梁バネモデル検討ステップと、土留め壁1を弾塑性FEMモデルで検討する弾塑性FEMモデル検討ステップと、弾塑性梁バネモデルの検討と弾塑性FEMモデルの検討とから土留め壁1の構造の成立性を確認する構造成立性確認ステップと、を有する土留め壁の設計方法である限り変更可能である。
【実施例0035】
図9(a)は、実施例として作成したモデル(N=10相当の砂質土地盤)を示し、
図9(b)は、
図9(a)のモデルによって得られた地盤反力図であり、
図9(c)は、
図9(a)のモデルによって得られた変位分布図であり、
図9(d)は、
図9(a)のモデルによって得られた曲げモーメント図であり、
図9(e)は、
図9(a)のモデルのジョイント要素の状態を示す。弾塑性梁バネモデル検討ステップの変位量・応力度確認ステップで確認された変位量と、弾塑性FEMモデル検討ステップの変位量・応力度確認ステップで確認された変位量が
図9(c)に示されている。弾塑性梁バネモデル検討ステップの変位量・応力度確認ステップで確認された応力度としての曲げモーメントと、弾塑性FEMモデル検討ステップの変位量・応力度確認ステップで確認された応力度としての曲げモーメントが
図9(d)に示されている。
【0036】
図10(a)は、
図9(a)のモデルによって得られた鋼矢板の深度方向の応力分布図であり、
図10(b)は、
図9(a)のモデルによって得られた改良体の深度方向の応力分布図である。弾塑性FEMモデル検討ステップの変位量・応力度確認ステップで確認された第1土留め材及び第2土留め材それぞれの垂直応力度が
図10(a)に示されている。弾塑性FEMモデル検討ステップの変位量・応力度確認ステップで確認された内部地盤の垂直応力度が
図10(b)に示されている。
【0037】
図11は、
図10(a)に示す最大応力発生深度(-8.9m)における断面内応力分布図である。断面内応力分布がほぼ直線状になっており、最大応力発生深度での断面内応力が問題ないことが確認された。
【0038】
図12は、
図10(b)に示す剥離発生深度(-13.1m)における断面内応力分布図である。断面内応力分布がほぼ直線状になっており、剥離発生深度での断面内応力が問題ないことが確認された。
【0039】
以上のように、砂質土地盤の場合について、弾塑性梁バネモデルと弾塑性FEMモデルの2つのモデルを用いて、土留め壁の構造の成立性が確認された。
【0040】
上記の砂質土地盤の場合と同様に、
図13~
図16に示すように、N=2相当の粘性土地盤の場合についても土留め壁の構造の成立性が確認された。