(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025087
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】土留め壁
(51)【国際特許分類】
E02D 17/04 20060101AFI20240216BHJP
E02D 5/06 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
E02D17/04 E
E02D5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128238
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 徹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正登
(72)【発明者】
【氏名】福田 賢司
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049EA02
2D049FB03
2D049FB12
2D049FE07
(57)【要約】
【課題】土留め壁の容易な施工を実現する。
【解決手段】所定水平方向を水平断面での長手方向D1とする土留め壁1の設計方法であって、土留め壁1は、内面から外側に窪む凹部2aと内面から内側に突出する凸部2bが長手方向D1に交互に連続する第1土留め材2と、第1土留め材2に対して長手方向D1と直交する幅方向D2に所定距離Lを離隔し、内面から外側に窪む凹部3aと内面から内側に突出する凸部3bが長手方向D1に交互に連続する第2土留め材3と、第1土留め材2と第2土留め材3の離隔した離隔空間に配置される撹拌噴射ノズル5によって改良材を放射状に撹拌噴射する改良によって形成される内部地盤4と、を有し、改良材の撹拌噴射の際に陰となる部分を含む不改良部6を設定する不改良部設定ステップS1と、不改良部6を含む土留め壁1をモデル化することで解析をするモデル化解析ステップS2と、を有する土留め壁1の設計方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定水平方向を水平断面での長手方向とする土留め壁の設計方法であって、前記土留め壁は、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第1土留め材と、前記第1土留め材に対して前記長手方向と直交する幅方向に所定距離を離隔し、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第2土留め材と、前記第1土留め材と前記第2土留め材の離隔した離隔空間に配置される撹拌噴射ノズルによって改良材を放射状に撹拌噴射する改良によって形成される内部地盤と、を有し、前記改良材の撹拌噴射の際に陰となる部分を含む不改良部を設定する不改良部設定ステップと、前記不改良部を含む前記土留め壁をモデル化することで解析をするモデル化解析ステップと、を有する土留め壁の設計方法。
【請求項2】
前記不改良部設定ステップは、前記第1土留め材と前記第2土留め材の相対的な配置を前記長手方向にずらして設定することで前記内部地盤全体に対する前記不改良部の割合である不改良率を調整する土留め材配置設定ステップを有する、請求項1に記載の土留め壁の設計方法。
【請求項3】
前記不改良部設定ステップは、前記撹拌噴射ノズルが前記離隔空間に前記長手方向に沿って間隔をあけて1列に並べて配置されるように前記撹拌噴射ノズルの配置を設定するノズル配置設定ステップを有する、請求項1又は2に記載の土留め壁の設計方法。
【請求項4】
所定水平方向を水平断面での長手方向とする土留め壁の施工方法であって、前記土留め壁は、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第1土留め材と、前記第1土留め材に対して前記長手方向と直交する幅方向に所定距離を離隔し、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第2土留め材と、前記第1土留め材と前記第2土留め材の離隔した離隔空間に配置される撹拌噴射ノズルによって改良材を放射状に撹拌噴射する改良によって形成される内部地盤と、を有し、前記改良材の撹拌噴射の際に陰となる部分を含む不改良部を設定する不改良部設定ステップと、前記不改良部を含む前記土留め壁をモデル化することで解析をするモデル化解析ステップと、前記不改良部設定ステップで設定された前記不改良部が形成されるように、前記離隔空間に前記撹拌噴射ノズルを配置して前記改良材を放射状に撹拌噴射する改良ステップと、を有する土留め壁の施工方法。
【請求項5】
所定水平方向を水平断面での長手方向とする土留め壁であって、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第1土留め材と、前記第1土留め材に対して前記長手方向と直交する幅方向に所定距離を離隔し、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第2土留め材と、前記第1土留め材と前記第2土留め材の離隔した離隔空間に改良によって形成される内部地盤と、を有し、前記第1土留め材と前記第2土留め材の前記長手方向の相対的な位置が、前記凹部同士と前記凸部同士が幅方向に正対する位置からずれ、前記内部地盤が不改良部を有する土留め壁。
【請求項6】
前記土留め壁は自立土留め壁である、請求項5に記載の土留め壁。
【請求項7】
前記土留め壁は環状の水平断面形状をなす、請求項5又は6に記載の土留め壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土留め壁に関する。
【背景技術】
【0002】
所定水平方向を水平断面での長手方向とする土留め壁であって、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が長手方向に交互に連続する第1土留め材と、第1土留め材に対して長手方向と直交する幅方向に所定距離を離隔し、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が長手方向に交互に連続する第2土留め材と、第1土留め材と第2土留め材の離隔した離隔空間に改良によって形成される内部地盤と、を有する土留め壁が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような土留め壁は施工が容易であることが望ましい。
【0005】
そこで本発明の目的は、土留め壁の容易な施工を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は以下のとおりである。
【0007】
[1]
所定水平方向を水平断面での長手方向とする土留め壁の設計方法であって、前記土留め壁は、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第1土留め材と、前記第1土留め材に対して前記長手方向と直交する幅方向に所定距離を離隔し、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第2土留め材と、前記第1土留め材と前記第2土留め材の離隔した離隔空間に配置される撹拌噴射ノズルによって改良材を放射状に撹拌噴射する改良によって形成される内部地盤と、を有し、前記改良材の撹拌噴射の際に陰となる部分を含む不改良部を設定する不改良部設定ステップと、前記不改良部を含む前記土留め壁をモデル化することで解析をするモデル化解析ステップと、を有する土留め壁の設計方法。
【0008】
[2]
前記不改良部設定ステップは、前記第1土留め材と前記第2土留め材の相対的な配置を前記長手方向にずらして設定することで前記内部地盤全体に対する前記不改良部の割合である不改良率を調整する土留め材配置設定ステップを有する、[1]に記載の土留め壁の設計方法。
【0009】
[3]
前記不改良部設定ステップは、前記撹拌噴射ノズルが前記離隔空間に前記長手方向に沿って間隔をあけて1列に並べて配置されるように前記撹拌噴射ノズルの配置を設定するノズル配置設定ステップを有する、[1]又は[2]に記載の土留め壁の設計方法。
【0010】
[4]
所定水平方向を水平断面での長手方向とする土留め壁の施工方法であって、前記土留め壁は、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第1土留め材と、前記第1土留め材に対して前記長手方向と直交する幅方向に所定距離を離隔し、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第2土留め材と、前記第1土留め材と前記第2土留め材の離隔した離隔空間に配置される撹拌噴射ノズルによって改良材を放射状に撹拌噴射する改良によって形成される内部地盤と、を有し、前記改良材の撹拌噴射の際に陰となる部分を含む不改良部を設定する不改良部設定ステップと、前記不改良部を含む前記土留め壁をモデル化することで解析をするモデル化解析ステップと、前記不改良部設定ステップで設定された前記不改良部が形成されるように、前記離隔空間に前記撹拌噴射ノズルを配置して前記改良材を放射状に撹拌噴射する改良ステップと、を有する土留め壁の施工方法。
【0011】
[5]
所定水平方向を水平断面での長手方向とする土留め壁であって、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第1土留め材と、前記第1土留め材に対して前記長手方向と直交する幅方向に所定距離を離隔し、内面から外側に窪む凹部と内面から内側に突出する凸部が前記長手方向に交互に連続する第2土留め材と、前記第1土留め材と前記第2土留め材の離隔した離隔空間に改良によって形成される内部地盤と、を有し、前記第1土留め材と前記第2土留め材の前記長手方向の相対的な位置が、前記凹部同士と前記凸部同士が幅方向に正対する位置からずれ、前記内部地盤が不改良部を有する土留め壁。
【0012】
[6]
前記土留め壁は自立土留め壁である、[5]に記載の土留め壁。
【0013】
[7]
前記土留め壁は環状の水平断面形状をなす、[5]又は[6]に記載の土留め壁。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、土留め壁の容易な施工を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】正対する凸部同士の間に撹拌噴射ノズルを配置した場合の不改良率を説明するための説明図である。
【
図2】正対する凹部同士の間に撹拌噴射ノズルを配置した場合の不改良率を説明するための説明図である。
【
図3】凸部同士と凹部同士を正対させた配置での不改良率を説明するための説明図である。
【
図4】
図3に示す配置から第2土留め材を長手方向に凹凸形状の1/8ピッチ分だけずらした配置での不改良率を説明するための説明図である。
【
図5】
図3に示す配置から第2土留め材を長手方向に凹凸形状の2/8ピッチ分だけずらした配置での不改良率を説明するための説明図である。
【
図6】
図3に示す配置から第2土留め材を長手方向に凹凸形状の3/8ピッチ分だけずらした配置での不改良率を説明するための説明図である。
【
図7】
図3に示す配置から第2土留め材を長手方向に凹凸形状の4/8ピッチ分だけずらした配置での不改良率を説明するための説明図である。
【
図8】本発明の第1実施形態の土留め壁の設計方法の手順を示すフロー図である。
【
図9】
図9(a)は、環状の土留め壁の鉛直方向の平面視であり、
図9(b)は、
図9(a)に示す土留め壁の鉛直方向に沿う断面図であり、
図9(c)は、
図9(a)のA部拡大図である。
【
図10】
図10(a)は、
図9に示す環状の土留め壁の斜視図であり、
図10(b)は、
図10(a)に示す環状の土留め壁に作用するリングばねを説明するための説明図である。
【
図11】本発明の第2実施形態の土留め壁の設計方法の手順を示すフロー図である。
【
図12】第1実施例として作成したモデル(N=10相当の砂質土地盤)の断面を示す説明図である。
【
図13】
図13(a)は、
図12に示したモデル(不改良率=50%)の幅方向に沿う断面を示し、
図13(b)は、
図13(a)のモデルによって得られた地盤反力図であり、
図13(c)は、
図13(a)のモデルによって得られた変位分布図であり、
図13(d)は、
図13(a)のモデルによって得られた曲げモーメント図であり、
図13(e)は、
図13(a)のモデルのジョイント要素の状態を示す。
【
図15】
図15(a)は、
図14に示す抽出位置Iでの改良体の応力度を示し、
図15(b)は、
図14に示す抽出位置IIでの改良体の応力度を示し、
図15(c)は、
図14に示す抽出位置IIIでの改良体の応力度を示し、
図15(d)は、
図14に示す抽出位置IVでの改良体の応力度を示し、
図15(e)は、モデルのジョイント要素の状態を示す。
【
図16】第2実施例として作成したモデル(改良体の間引き案)の断面を示す説明図である。
【
図17】
図18で着目した位置を説明するための説明図である。
【
図18】
図18(a)は、
図16のモデルによって得られた変位分布図であり、
図18(b)は、
図16のモデルによって得られた曲げモーメント図であり、
図18(c)は、モデルのジョイント要素の状態を示す。
【
図19】
図20で着目した位置を説明するための説明図である。
【
図20】
図20(a)は、
図16のモデルによって得られた改良位置での鋼矢板の応力度分布図であり、
図20(b)は、
図16のモデルによって得られた改良位置での改良体の応力度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を例示説明する。
【0017】
図1に示すように、本発明の第1実施形態において、土留め壁1の設計方法は、所定水平方向を水平断面での長手方向D1とする土留め壁1の設計方法であって、土留め壁1は、
図1に示すように、内面から外側に窪む凹部2aと内面から内側に突出する凸部2bが長手方向D1に交互に連続する第1土留め材2と、第1土留め材2に対して長手方向D1と直交する幅方向D2に所定距離Lを離隔し、内面から外側に窪む凹部3aと内面から内側に突出する凸部3bが長手方向D1に交互に連続する第2土留め材3と、第1土留め材2と第2土留め材3の離隔した離隔空間に配置される撹拌噴射ノズル5によって改良材を放射状に撹拌噴射する改良によって形成される内部地盤4と、を有し、
図8に示すように、改良材の撹拌噴射の際に陰となる部分を含む不改良部6を設定する不改良部設定ステップS1と、不改良部6を含む土留め壁1をモデル化することで解析をするモデル化解析ステップS2と、を有する土留め壁1の設計方法である。
【0018】
本実施形態では第1土留め材2は、複数の鋼製の矢板(鋼矢板)によって構成される。なお、矢板は鋼製に限らない。第1土留め材2は矢板に限らず、例えば、SMW(Soil Mixing Wall)などの柱列式連続壁によって構成してもよい。第1土留め材2の凹部2aは長手方向D1に一定のピッチで並べて設けられる。第1土留め材2の凸部2bは長手方向D1に一定のピッチで並べて設けられる。第1土留め材2の凹部2aのピッチと凸部2bのピッチは等しく、
図1に示す例では800mmである。なお、当該ピッチの値は適宜設定できる。その他の寸法も適宜設定できる。
【0019】
本実施形態では第2土留め材3は、複数の鋼製の矢板(鋼矢板)によって構成される。なお、矢板は鋼製に限らない。第2土留め材3は矢板に限らず、例えば、SMW(Soil Mixing Wall)などの柱列式連続壁によって構成してもよい。第2土留め材3の凹部3aは長手方向D1に一定のピッチで並べて設けられる。第2土留め材3の凸部3bは長手方向D1に一定のピッチで並べて設けられる。第2土留め材3の凹部3aのピッチと凸部3bのピッチは等しく、
図1に示す例では800mmである。なお、当該ピッチの値は適宜設定できる。所定距離Lなど、その他の寸法も適宜設定できる。
【0020】
第1土留め材2を地山側の土留め材とし、第2土留め材3を掘削側の土留め材としてもよいし、その逆に、第1土留め材2を掘削側の土留め材とし、第2土留め材3を地山側の土留め材としてもよい。
【0021】
なお、土留め壁1の水平断面形状は特に限定されず、例えば、I形、円弧形、波形、環形などであってよい。また、環形の場合、環形の外側が地山側、環形の内側が掘削側であってもよいし、その逆に、環形の外側が掘削側、環形の内側が地山側であってもよい。
【0022】
本実施形態では内部地盤4は、撹拌噴射ノズル5によって改良材を放射状に撹拌噴射する地盤改良造成によって形成される地盤によって構成される。内部地盤4は、改良材によって改良される改良部と改良材によって改良されない不改良部6とによって構成される。不改良部6は、上記のとおり、改良材の撹拌噴射の際に陰となる部分を含む。本願において、「陰となる部分」とは、水平断面において撹拌噴射ノズル5の中心から見たときに陰となる(見えない)部分を意味する。つまり、「陰となる部分」は、水平断面において撹拌噴射ノズル5の中心から第1土留め材2の内面上の所定位置に向けて半径方向に直線を引いた時に、直線が上記所定位置に至る前に第1土留め材2の内面上の別の位置に当たることになる上記所定位置の集合である。
【0023】
図8に示すように、不改良部設定ステップS1は、撹拌噴射ノズル5が離隔空間に長手方向D1に沿って間隔をあけて1列に並べて配置されるように撹拌噴射ノズル5の配置を設定するノズル配置設定ステップS3と、第1土留め材2と第2土留め材3の相対的な配置を長手方向D1にずらして設定することで内部地盤4全体に対する不改良部6の割合である不改良率を調整する土留め材配置設定ステップS4と、を有する。本実施形態では、不改良率は、内部地盤4全体に対する不改良部6の長手方向D1の長さの割合である。なお、不改良率はこれに限らず、例えば、内部地盤4全体に対する不改良部6の水平断面積の割合であってもよい。ノズル配置設定ステップS3において設定する撹拌噴射ノズル5の配置は、撹拌噴射ノズル5が離隔空間に長手方向D1に沿って間隔をあけて1列に並ぶ配置とすることが容易な施工を実現する観点から特に好ましいが、これに限らない。土留め材配置設定ステップS4では例えば、
図8に示すように、第1土留め材2と第2土留め材3の相対的な配置を長手方向D1にずらして設定するステップと、不改良率を算定するステップをこの順に行う。
【0024】
図1~
図2に示すように、正対する凸部同士の間に撹拌噴射ノズル5を配置した場合(不改良率は17%となる)の方が、正対する凹部同士の間に撹拌噴射ノズル5を配置した場合(不改良率は35%となる)よりも、不改良率が小さくなり好ましい。また、
図3~
図7に示すように、第1土留め材2と第2土留め材3の相対的配置を、凸部同士と凹部同士を正対させた配置から長手方向D1にずらして設定することで、不改良率を小さくすることが可能である。
図3~
図7に示す例では、不改良率を17%から、少なくとも13%(
図4参照)に低減することができる。
【0025】
したがって、ノズル配置設定ステップS3においては、撹拌噴射ノズル5の配置を、水平断面において撹拌噴射ノズル5が第1土留め材2と第2土留め材3の少なくとも一方の凸部と幅方向D2に正対するように設定することが好ましい。また、土留め材配置設定ステップS4においては、第1土留め材2と第2土留め材3の相対的配置を、凸部同士と凹部同士を正対させた配置から長手方向D1にずらして設定することが好ましい。
【0026】
図8に示すように、モデル化解析ステップS2は、不改良部6を含む土留め壁1の水平断面をモデル化する断面モデル化ステップS5と、第1土留め材2と第2土留め材3と内部地盤4との各部材間のジョイント要素の条件設定をするジョイント要素条件設定ステップS6と、作成された弾塑性FEM(Finite Element Method、有限要素法)モデルで弾塑性解析を行うFEM解析ステップS7と、を有する。モデル化解析ステップS2では例えば、
図8に示すように、断面モデル化ステップS5、ジョイント要素条件設定ステップS6及びFEM解析ステップS7をこの順に行う。
【0027】
本実施形態の断面モデル化ステップS5では、例えば
図12に示すように、第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4それぞれを滑らかな板形状に置き換えることで、土留め壁1をモデル化する。例えば土留め壁1が上述したようなI形の水平断面形状をなす場合、第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4それぞれを、滑らかな平板形状に置き換える。
【0028】
そして、本実施形態のジョイント要素条件設定ステップS6では、第1土留め材2と内部地盤4の間及び第2土留め材3と内部地盤4の間それぞれのジョイント要素(境界面要素)を、
図12に示すように、水平断面において改良部と不改良部6に分け、改良部と不改良部6のそれぞれについて垂直(剥離)特性とせん断(すべり)特性を設定する。垂直(剥離)特性としては、例えば、垂直方向の剛性率と、引張応力が発生した時に剥離を生じる応力である引っ張り強度を設定する。せん断(すべり)特性としては、例えば、せん断方向の剛性率と、すべりが発生する限界値である許容付着応力度を設定する。例えば、許容付着応力度f=(1/3)Cであり、Cは内部地盤4の粘着力である。
【0029】
図8に示すように、本実施形態の土留め壁1の設計方法は、より具体的には、土質条件(N値など)を設定する土質条件設定ステップS8と、第1土留め材2、第2土留め材3及び内部地盤4それぞれの仕様を仮定する土留め壁仕様仮定ステップS9と、不改良部設定ステップS1と、モデル化解析ステップS2と、土留め壁1(複合土留め壁)の変位量と応力度を確認する変位量・応力度確認ステップS10と、を有する。
【0030】
本実施形態では、土質条件設定ステップS8、土留め壁仕様仮定ステップS9、不改良部設定ステップS1、モデル化解析ステップS2及び変位量・応力度確認ステップS10をこの順に行う。また本実施形態ではモデル化解析ステップS2は、変位量・応力度確認ステップS10で問題があることが確認された場合には変位量・応力度確認ステップS10で問題ないことが確認されるまで土留め壁仕様仮定ステップS9に戻る繰り返しステップS11を有する。
【0031】
本実施形態の土留め壁1の施工方法は、上述した設計方法のステップに加えて、不改良部設定ステップS1で設定された不改良部6が形成されるように、離隔空間に撹拌噴射ノズル5を配置して改良材を放射状に撹拌噴射する改良ステップ(不図示)を有することができる。
【0032】
したがって、本実施形態の土留め壁1の設計方法によれば、施工時に、不改良部6ができないように撹拌噴射ノズル5を複雑に高密度に配置したり噴射圧などを複雑に設定したりする必要がないので、土留め壁1の容易な施工を実現できる。
【0033】
また、上述した理由から、容易な施工を実現できる好ましい土留め壁1は、所定水平方向を水平断面での長手方向D1とする土留め壁1であって、内面から外側に窪む凹部2aと内面から内側に突出する凸部2bが長手方向D1に交互に連続する第1土留め材2と、第1土留め材2に対して長手方向D1と直交する幅方向D2に所定距離Lを離隔し、内面から外側に窪む凹部3aと内面から内側に突出する凸部3bが長手方向D1に交互に連続する第2土留め材3と、第1土留め材2と第2土留め材3の離隔した離隔空間に改良によって形成される内部地盤4と、を有し、第1土留め材2と第2土留め材3の長手方向D1の相対的な位置が、凹部同士と凸部同士が幅方向D2に正対する位置からずれ、内部地盤4が不改良部6を有する土留め壁1(
図4~
図7参照)である。
【0034】
また上述した土留め壁1は、土留め支保工が不要な自立土留め壁であることが好ましい。
【0035】
図9に示すように土留め壁1が環状の水平断面形状をなす場合、
図10に示すように、土留め壁1には地盤ばねに加えて、複合土留め壁のリングばねが作用する。したがって、このリングばねも算定して解析に用いることが好ましい。具体的には、
図11に示す第2実施形態の土留め壁1の設計方法のように、断面モデル化ステップS5とFEM解析ステップS7の間で、ジョイント要素条件設定ステップS6と、リングバネを算定するリングばね算定ステップS12とを行うようにすることが好ましい。リングばねのばね定数Kは、例えば次の式で算定できる。
K=(A・E
m)/R
2
K(kN/m
2):複合土留め壁のリングばねのばね定数
A(m
2):地盤改良体の有効断面積
E
m(kN/m
2):地盤改良体の変形係数
R(m):改良体軸線位置での円形立坑半径
【0036】
本発明は前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0037】
したがって、前述した実施形態の土留め壁1の設計方法は、所定水平方向を水平断面での長手方向D1とする土留め壁1の設計方法であって、土留め壁1は、内面から外側に窪む凹部2aと内面から内側に突出する凸部2bが長手方向D1に交互に連続する第1土留め材2と、第1土留め材2に対して長手方向D1と直交する幅方向D2に所定距離Lを離隔し、内面から外側に窪む凹部3aと内面から内側に突出する凸部3bが長手方向D1に交互に連続する第2土留め材3と、第1土留め材2と第2土留め材3の離隔した離隔空間に配置される撹拌噴射ノズル5によって改良材を放射状に撹拌噴射する改良によって形成される内部地盤4と、を有し、改良材の撹拌噴射の際に陰となる部分を含む不改良部6を設定する不改良部設定ステップS1と、不改良部6を含む土留め壁1をモデル化することで解析をするモデル化解析ステップS2と、を有する土留め壁1の設計方法である限り変更可能である。
【実施例0038】
図13(a)は、第1実施例として作成した
図12に示したモデル(不改良率=50%)の幅方向に沿う断面を示し、
図13(b)は、
図13(a)のモデルによって得られた地盤反力図であり、
図13(c)は、
図13(a)のモデルによって得られた変位分布図であり、
図13(d)は、
図13(a)のモデルによって得られた曲げモーメント図であり、
図13(e)は、
図13(a)のモデルのジョイント要素の状態を示す。変位量・応力度確認ステップで確認された変位量が
図13(c)に示されている。変位量・応力度確認ステップで確認された応力度としての曲げモーメントが
図13(d)に示されている。地盤反力や変位、曲げモーメントは、
図14に示す抽出位置I~IVによる差はほとんどないことが分かる。
【0039】
【0040】
図15(a)は、
図14に示す抽出位置Iでの改良体の応力度を示し、
図15(b)は、
図14に示す抽出位置IIでの改良体の応力度を示し、
図15(c)は、
図14に示す抽出位置IIIでの改良体の応力度を示し、
図15(d)は、
図14に示す抽出位置IVでの改良体の応力度を示し、
図15(e)は、モデルのジョイント要素の状態を示す。剥離深度において未改良部がない個所(IとIV)の改良体に応力が伝達される傾向があることが分かる。
【0041】
以上の結果から、第1実施例について変位量・応力度に問題ないことが確認され、構造の成立性が確認された。
【0042】
図16は、第2実施例として作成した、改良体の間引き案としてのモデルの断面を示す説明図である。内部地盤4について改良を行う領域(
図16において「改良体」と表示)と改良を行わない領域(
図16において「現地盤」と表示)を長手方向に交互に並べて設定した。
【0043】
図17は、
図18で着目した位置を説明するための説明図である。
【0044】
図18(a)は、
図16のモデルによって得られた変位分布図であり、
図18(b)は、
図16のモデルによって得られた曲げモーメント図であり、
図18(c)は、モデルのジョイント要素の状態を示す。改良を行う領域(
図18において「改良位置」と表示)と改良を行わない領域(
図18において「不改良位置」と表示)とで、変位、曲げモーメントに差がほとんどないことが分かる。
【0045】
図19は、
図20で着目した位置を説明するための説明図である。
【0046】
図20(a)は、
図16のモデルによって得られた改良位置での鋼矢板の応力度分布図であり、
図20(b)は、
図16のモデルによって得られた改良位置での改良体の応力度分布図である。剥離深度において不改良位置から改良位置に応力が伝達される傾向があることが分かる。
【0047】
以上の結果から、第2実施例について変位量・応力度に問題ないことが確認され、構造の成立性が確認された。