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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025091
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】インバータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/04 20060101AFI20240216BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20240216BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240216BHJP
【FI】
H02P23/04
H02P27/08
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128248
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】大沼 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】浜田 栄太
(72)【発明者】
【氏名】竹本 晴輝
(72)【発明者】
【氏名】柳生 泰秀
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE41
5H505EE48
5H505EE49
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ17
5H505JJ18
5H505JJ25
5H505JJ29
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H770BA02
5H770CA04
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA25
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA07Z
5H770LB02
(57)【要約】
【課題】モータに三相交流を与えるインバータの制御装置に関し、モータの6次トルク変動を抑える。
【解決手段】
制御装置はSW素子制御と補償制御を実行する。SW素子制御では、インバータの2個のSW素子の直列接続体の中点の目標電圧を決定し、直列接続体の2個のSW素子が同時にオフするデッドタイムを設定しつつ目標電圧から各SW素子を駆動するPWM信号を生成し、SW素子を駆動する。補償制御では、デッドタイムによって生じる出力電圧の誤差電圧を補償する補償電圧を算出し、PWM信号を生成する前に目標電圧に補償電圧を加算する。補償電圧の時間変化は、直列接続体の中点を流れる電流と同じ周波数の正弦波または当該正弦波を複数の電圧離散値で近似した近似波であり、電流の波形に対して所定の位相差を有する。位相差は、電流の周波数の6次に相当するモータのトルク変動が位相差ゼロの場合よりも小さくなるように定められている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流モータを駆動するインバータであって、2個のスイッチング素子の直列接続体が3組並列に接続されている回路を有しており、それぞれの前記直列接続体の中点から交流が出力されるインバータの制御装置であって、
前記制御装置は、それぞれの前記直列接続体に対して、
(1)前記中点の目標電圧を決定し、
(2)前記直列接続体の2個の前記スイッチング素子が同時にオフするデッドタイムを設定しつつ前記目標電圧から2個の前記スイッチング素子を駆動するPWM信号を生成し、
(3)前記PWM信号を使って2個の前記スイッチング素子を駆動する、
スイッチング素子駆動制御を実行するとともに、
(4)前記デッドタイムに起因して生じる前記目標電圧と出力電圧との誤差電圧を補償する補償電圧を算出し、
(5)前記PWM信号を生成する前に前記目標電圧に前記補償電圧を加算する、
デッドタイム補償制御を実行し、
前記補償電圧の時間変化は、前記直列接続体の前記中点を流れる電流の周波数と同じ周波数の正弦波または当該正弦波を複数の電圧離散値で近似した近似波であり、前記電流の波形に対して所定の位相差を有しており、
前記位相差は、前記周波数の6次に相当する前記三相交流モータのトルク変動が、前記位相差がゼロの場合よりも小さくなるように定められている、
制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記三相交流モータに対して進角制御を行い、
前記三相交流モータの回転数と前記電流の振幅と進角を変数として前記位相差を決定するマップを備えている、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記近似波は、絶対値が同じで極性の異なる二値を交互に繰り返す矩形波であって前記電流の波形に対して所定の前記位相差を有している矩形波である、請求項1または2に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、三相交流モータを駆動するインバータの制御装置に関する。特に、2個のスイッチング素子の直列接続体が3組並列に接続されている回路を有しているインバータの制御装置に関する。制御装置が各スイッチング素子を適宜にオンオフすることによってそれぞれの直列接続体の中点から交流が出力される。以下では、説明を簡単にするため、三相交流モータを単にモータと表記する場合がある。
【背景技術】
【0002】
インバータの制御装置は、直列接続体の正極と負極の短絡を防止するためにデッドタイムを設定することが多い。デッドタイムとは、直列接続体の一方のスイッチング素子をオンからオフに切り換えてから他方のスイッチング素子をオフからオンに切り換えるまでの時間であって2個のスイッチング素子が共にオフに保持される時間を意味する。一方、デッドタイムを設定すると、インバータの各相の目標電圧と出力電圧の間に誤差が生じることが知られている。デッドタイムに起因して生じる誤差電圧(目標電圧と出力電圧の差)を補償する制御はデッドタイム補償と呼ばれる。デッドタイム補償を正確に行うことできれば、インバータが出力する交流(別言すれば、モータに流れる交流)の周波数の6次成分に相当するトルク変動が小さくなることが知られている(例えば特許文献1)。以下では、説明の便宜上、インバータの出力交流(別言すればモータに流れる交流電流)の周波数の6次に相当する周波数のトルク変動を単に6次トルク変動と称する。
【0003】
デッドタイム補償の一例が特許文献2に開示されている。特許文献2に開示された制御装置は、インバータの各相の目標電圧に対して補償電圧を加算する。補償電圧dVは、数式:dV=Vdc×DT×fc×sign(I)で与えられる。ここで、Vdcはインバータの直流端に印加される電圧であり、DTはデッドタイムであり、fcはPWM信号を生成するのに用いられるキャリア信号の周波数であり、sign(I)は、インバータの該当相の出力電流の正負の符号である。なお、直列接続体の中点からモータへ向かって電流が流れる場合が「正値の電流」として定義され、モータから中点へ電流が戻ってくる場合が「負値の電流」として定義される。
【0004】
上記の数式から理解されるように、補償電圧dVは、絶対値が同じで極性の異なる二値を交互に繰り返す矩形波であって直列接続体の中点から出力される電流の周波数と同じ周波数で同一位相の矩形波となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-90495号
【特許文献2】特開2022-53640号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、デッドタイム補償を正確に実施することで、6次トルク変動を抑えることができるとされている。しかし、6次トルク変動は、デッドタイムに起因するのみならず、三相交流モータの電気的特性(巻線のインダクタンスや逆起電力の大きさなど)に起因しても生じ得る。本明細書は、デッドタイム補償を巧みに利用して三相交流モータの6次トルク変動を抑える技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する制御装置は、インバータの三相(3個の直列接続体)のそれぞれに対して、スイッチング素子駆動制御とデッドタイム補償制御を実行する。スイッチング素子駆動制御は、(1)直列接続体の中点の目標電圧を決定する。(2)直列接続体の2個のスイッチング素子が同時にオフするデッドタイムを設定しつつ目標電圧から2個のスイッチング素子を駆動するPWM信号を生成する。(3)PWM信号を使って2個のスイッチング素子を駆動する。デッドタイム制御は、(4)デッドタイムに起因して生じる出力電圧の誤差電圧(中点の目標電圧と出力電圧の差)を補償する補償電圧を算出する。(5)PWM信号を生成する前に目標電圧に補償電圧を加算する。
【0008】
上記デッドタイム補償制御において、補償電圧の時間変化は、直列接続体の中点を流れる電流の周波数と同じ周波数の正弦波(あるいはその正弦波を複数の電圧離散値で近似した近似波)であり、電流の波形に対して所定の位相差を有している。この位相差は、中点を流れる電流の周波数の6次に相当する三相交流モータのトルク変動が位相差ゼロの場合よりも小さくなるように定められている。別言すれば、デッドタイム補償制御に起因する6次トルク変動が三相交流モータの電気的特性に起因する6次トルク変動を相殺するように位相差が定められている。
【0009】
近似波の典型は、絶対値が同じで極性が異なる二値を交互に繰り返す矩形波である。その矩形波は、直列接続体の中点を流れる電流の波形に対して上記した位相差を有する。
【0010】
多くの場合、三相交流モータに対して進角制御が実施される。6次トルク変動を抑えるための位相差は、モータの電気的特性(モータのインダクタンスや逆起電力)に依存するが、モータの電気的特性は、三相交流モータの回転数と電流(対象の相を流れる電流)の振幅と進角(進角制御で決定される進角)に依存して変化する。それゆえ、制御装置は、三相交流モータの回転数と電流の振幅と進角を変数として位相差(電流波形に対する矩形波の位相差)を決定するマップを備えているとよい。マップは、三相交流モータを用いた評価試験やシミュレーションなどを用いて予め決定される。
【0011】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例の制御装置が組み込まれたモータシステムのブロック図である。
図2】実施例の制御装置の制御ブロック図である。
図3】デッドタイム付きPWM信号の生成プロセスの一例を説明する図である。
図4】補償電圧を算出する式である。
図5】補償電圧の矩形波の位相差により6次トルク変動が抑制できることを説明する図である(インバータの出力交流と誤差電圧と補償電圧のグラフ)。
図6】補償電圧の矩形波の位相差により6次トルク変動が抑制できることを説明する図である(電流変動のグラフ)。
図7】位相差を決定するマップの一例である。
図8】デッドタイム補償部が実行する処理のフローチャートである。
図9】デッドタイム補償部が実行する処理のフローチャートである(図8の続き)。
図10】位相差と6次トルク変動の関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照しつつ実施例の制御装置を説明する。図1に実施例の制御装置20が組み込まれたモータシステム2のブロック図を示す。モータシステム2は、例えば電気自動車に搭載されており、モータ6は、車輪を駆動する走行用の三相交流モータである。
【0014】
モータシステム2は、直流電源3、インバータ10、モータ6、制御装置20を備えている。
【0015】
インバータ10は、2個のスイッチング素子の直列接続体を3組備えている(直列接続体12u、12v、12w)。以下では説明を簡単にするために、「スイッチング素子」を「SW素子」と表記する。SW素子12uH、12uLが直列に接続されており、SW素子12vH、12vL(SW素子12wH、12wL)も直列に接続されている。直列接続体の高電位側のSW素子12uH、12vH、12wHは、上アームSW素子と呼ばれることがあり、低電位側のSW素子12uL、12vL、12wLは、下アームスイッチング素子と呼ばれることがある。
【0016】
各SW素子にはダイオード17が逆並列に接続されている。ダイオード17は、SW素子が構造的に内包するものであってもよい。
【0017】
3組の直列接続体12u、12v、12wは、インバータ10の直流端正極10pと直流端負極10nの間に並列に接続されている。直流端正極10pと直流端負極10nに直流電源3が接続される。直流電源3は例えばリチウムイオンバッテリや燃料電池でよい。
【0018】
直流端正極10pと直流端負極10nの間には、電圧センサ15と平滑コンデンサ16が接続されている。電圧センサ15は、インバータ10の直流端(直流端正極10pと直流端負極10n)に印加される電圧を計測する。平滑コンデンサ16は、直流端に流れる電流の脈動を抑えるために備えられている。電圧センサ15の計測値は制御装置20へ送られる。
【0019】
制御装置20には、モータ6の目標出力を伝える上位制御装置8が接続されている。上位制御装置8は、電気自動車の速度とアクセル開度からモータ6の目標出力を決定し、制御装置20に送信する。制御装置20は、目標出力に対応したPWM信号を生成し、そのPWM信号で各SW素子を駆動する。PWM信号は、直列接続体の2個のSW素子を適宜にオンオフさせるパルス信号である。直列接続体12uの2個のSW素子12uH、12uLが適宜にオンオフすることで、直列接続体12uの中点13uから交流が出力される。同様に、直列接続体の2個のSW素子12vH、12vL(12wH、12wL)を適宜にオンオフすることで、直列接続体12v(12w)の中点13v(13w)から交流が出力される。なお、モータ6は、3相Y結線タイプであるため、3個の中点13u、13v、13wのうち、1個乃至2個の中点から交流が出力され、モータ6を流れた交流は残りの中点に戻ってくる。
【0020】
よく知られているように、直列接続体12uの上側(高電位側)のSW素子12uHと下側(低電位側)のSW素子12uLを互いに逆位相でオンオフすると、中点13uから交流が出力される。直列接続体12u、12v、12wが出力する3種類の交流が三相交流に相当する。制御装置20は、三相の交流が互いに120度の位相差を有するように、6個のSW素子を適宜にオンオフする。
【0021】
インバータ10は三相各相の電流を計測する電流センサ14u、14v、14wを備えている。電流センサ14u、14v、14wの計測値も制御装置20へ送られる。また、モータ6にはロータの角度(電気角)を計測するための角度センサ7が備えられており、角度センサ7の計測値も制御装置20へ送られる。
【0022】
図2に、制御装置20の制御ブロック図を示す。制御装置20は、目標値変換部21、差分器22、dq軸目標電圧演算部23、dq/三相変換部24、加算器25u、25v、25w、PWM信号生成部26、補償電圧生成部27、dq軸電流計算部28を備える。これらのモジュールは全てプログラムで実現されている。あるいは、これらのモジュールの一部がプログラムで実現され、残りはハードウエアで実現される。
【0023】
「d軸」、「q軸」は、モータ制御ではよく知られた技術用語であり、ここでは説明は割愛する。d軸とq軸を使ったモータ制御もよく知られているので、以下ではその概要のみを説明する。
【0024】
dq軸電流計算部28は、三相各相の電流を計測する電流センサ14u、14v、14wと、モータ6の電気角を計測する角度センサ7の計測値を受け、それらの計測値から、d軸電流とq軸電流を算出する。角度センサ7の計測値は目標値変換部21にも送られる。
【0025】
目標値変換部21は、上位制御装置8からモータ6の目標出力を受ける。目標値変換部21は、角度センサ7の計測値を用いて、モータ6の目標出力をd軸電流目標値とq軸電流目標値に変換する。
【0026】
差分器22は、d軸電流目標値と現在のd軸電流の差分を計算してdq軸目標電圧演算部23へ送る。差分器22は、また、q軸電流目標値と現在のq軸電流の差分を計算してdq軸目標電圧演算部23へ送る。先に述べたように、現在のd軸電流とq軸電流は、dq軸電流計算部28により算出される。
【0027】
dq軸目標電圧演算部23は、差分器22の出力と電圧センサ15の計測値から、dq軸目標電圧を算出する。dq軸目標電圧は、dq/三相変換部24に送られ、そこで三相各相の目標電圧に変換される。
【0028】
なお、三相各相の目標電圧とは、インバータ10の3個の直列接続体12u、12v、12wのそれぞれの中点13u、13v、13wにおける目標電圧を意味する。
【0029】
補償電圧生成部27は、電流センサ14u、14v、14wと角度センサ7と電圧センサ15の計測値に基づいて、三相各相の目標電圧の補正値(補償電圧)を生成する。補償電圧については後述する。加算器25u、25v、25wにより、三相各相の目標電圧に補償電圧が加算される。補償電圧が加算された目標電圧はPWM信号生成部26に送られる。PWM信号生成部26は、三相各相に対応したPWM信号を生成し、インバータ10へ送る。
【0030】
三相各相のPWM信号は、2個のSW素子の直列接続体の上アームSW素子に対するPWM信号と下アームSW素子に対するPWMで構成される。u相に対応する直列接続体12uの上アームSW素子(SW素子12uH)と下アームSW素子(SW素子12uL)を駆動する一対のPWM信号を図2では記号「PWM_u」で表している。同様に、v相の2個のSW素子12vH、12vLを駆動する一対のPWM信号を記号「PWM_v」で表し、w相の2個のSW素子12wH、12wLを駆動する一対のPWM信号を記号「PWM_w」で表している。
【0031】
インバータ10の直列接続体の2個のSW素子は、理想的には相補的なPWM信号で駆動される。PWM信号はLO電位とHIGH電位の二値からなるパルス波であり、上アームSW素子に対するPWM信号のLOとHIGHを反転させた信号が下アームSW素子用のPWM信号となる。ただし、一対のPWM信号の一方がHIGHからLOに切り替わるときに他方の信号がLOからHIGHに切り替わると、直列接続体の2個のSW素子が一瞬だけともにオンし、直列接続体が短絡するおそれがある。そこで、PWM信号生成部26では、3個の直列接続体のそれぞれに対して、2個のSW素子がともにオフするデッドタイムを設定しつつ、2個のSW素子を駆動するPWM信号を生成する。
【0032】
デッドタイムが設定されたPWM信号はよく知られているが、図3を用いてその概要を説明する。
【0033】
図3は、三相のうちの一つの相のPWM信号の生成プロセスを模式的に示している。残りの二相のPWM信号生成プロセスも同様である。
【0034】
PWM信号は、目標電圧とキャリア波から生成される。なお、先に述べたように、目標電圧には補償電圧が加算されている。キャリア波は、特定の周波数を有する三角波である。
【0035】
PWM信号生成部26は、目標電圧とキャリア波を比較し、目標電圧の電位がキャリア波の電位よりも高い期間がHIGH電位でそれ以外の期間(目標電圧の電位がキャリア波の電位よりも低い期間)がLO電位の基本PWM信号を生成する。この基本PWM信号が上アームSW素子用の基本PWM信号となる(図3(A))。
【0036】
PWM信号生成部26は、上アームSW素子用の基本PWM信号の立ち上がりタイミング(LO電位からHIGH電位に切り替わるタイミング)をデッドタイムDTだけ遅らせる。図3の例の場合、時刻T2、T4で上アームSW素子用の基本PWM信号がLO電位からHIGH電位に切り替わる。図3の(B)では、時刻T2+DT、時刻T4+DTに、LO電位からHIGH電位に切り替わるPWM信号が生成される。この信号が、デッドタイムDTで補正された上アームSW用のPWM信号となる(図3(B))。
【0037】
PWM信号生成部26は、上アームSW素子用の基本PWM信号を反転させた信号を生成する。この信号が下アームSW素子用の基本PWM信号となる(図3(C))。さらに、PWM信号生成部26は、下アームSW素子用の基本PWM信号の立ち上がりタイミング(LO電位からHIGH電位に切り替わるタイミング)をデッドタイムDTだけ遅らせる。図3の例の場合、時刻T1、T3で下アームSW素子用の基本PWM信号がLO電位からHIGH電位に切り替わる。図3の(D)では、時刻T1+DT、時刻T3+DTに、LO電位からHIGH電位に切り替わるPWM信号が生成される。この信号が、デッドタイムDTで補正された下アームSW用のPWM信号となる(図3(D))。
【0038】
図3の(B)と(D)のPWM信号により、時刻T1からT1+DTの間、時刻T2から時刻T2+DTの間、2個のSW素子がともにオフとなる。同様に、時刻T3からT3+DTの間、時刻T4から時刻T4+DTの間、2個のSW素子がともにオフとなる。このように、2個のSW素子の直列接続体において一方のSW素子がオンからオフに切り替わってから他方のSW素子がオフからオンに切り替わるまでの間にデッドタイムDTを設ける。デッドタイムDTを設けることで、直列接続体の正極と負極が短絡することを防ぐことができる。
【0039】
制御装置20は、デッドタイムDTが設定された一対のPWM信号をインバータの直列接続体の2個のSW素子に送る。一対のPWM信号により、2個のSW素子は交互にオンオフし(ただし、一瞬は両者ともオフとなる)、直列接続体の中点から交流が出力される。
【0040】
以上の制御がSW素子の駆動制御である。SW素子の駆動制御をまとめると次の通りである。制御装置20(PWM信号生成部26)は、(1)直列接続体の中点の目標電圧を決定し、(2)直列接続体の2個のスイッチング素子が同時にオフするデッドタイムを設定しつつ目標電圧から2個のスイッチング素子を駆動するPWM信号を生成し、(3)PWM信号を使って2個のスイッチング素子を駆動する。制御装置20は、三相の各相に対して、すなわち、3個の直列接続体12u、12v、12wのそれぞれに対して上記のSW素子駆動制御を実施する。
【0041】
なお、図3に示したデッドタイムDTの付し方は一例であり、別のアルゴリズムで基本PWM信号にデッドタイムDTを付してもよい。例えば、基本PWM信号の立ち上がりのタイミングをDT/2(デッドタイムDTの半分)だけ遅らせ、立ち下がりのタイミングをDT/2だけ早めるようにしてもよい。
【0042】
先に述べたように、モータ6は3相Y結線タイプであるため、3個の中点13u、13v、13wのうち、1個乃至2個の中点から交流電流が出力され、モータ6を流れた交流電流は残りの中点に戻ってくる。
【0043】
目標電圧とキャリア波から生成された基本PWM信号(図3(A)、(C))で2個のSW素子を駆動すれば、中点の電圧は目標電圧に追従する。デッドタイムDTを設定したPWM信号を用いると、中点の電圧は目標電圧からずれてしまう。なお、通常、制御装置20はモータ6に対して進角制御を実施する。進角制御はよく知られた技術であるので、説明は省略する。進角制御を導入すると、モータへの印加電圧と誘起電圧に時間差が生じるが、ここでは、進角制御の影響は無視して説明する。
【0044】
デッドタイムDTの間、別言すれば、2個のSW素子がともにオフの間、直列接続体の中点を電流が流れ続ける。直列接続体の中点からモータへ向けて電流が流れている場合、デッドタイムの間は下アームSW素子に付随するダイオードを通じて中点からモータへ電流が流れ続ける。その結果、中点の電圧が下がる。逆に、モータから直列接続体の中点へ向けて電流が流れている場合、デッドタイムDTの間は上アームSW素子に付随するダイオードを通じてモータから中点へ電流が流れ続ける。その結果、中点の電圧が上がる。このように、PWM信号は中点の目標電圧に基づいて生成されるが、デッドタイムDTを設定したことで中点の電圧が目標電圧と異なってしまう。そこで、制御装置20は、デッドタイムDTを設定したことに起因して生じる誤差電圧(中点の目標電圧と実際の電圧の差)を解消する処理(デッドタイム補償制御)を行う。
【0045】
制御装置20は、誤差電圧を補償するためのオフセットを目標電圧に加える。このオフセットが前述した補償電圧である。補償電圧dVは、図4に示した式で与えられる。図4に示すように、補償電圧dVは、インバータ10の直流端(直流端正極10pと直流端負極10n)の電圧Vdcと、デッドタイムDTと、キャリア波の周波数fcと、直列接続の中点を流れる電流Iacの向きで定まる。別言すれば、図4に示した補償電圧dVの符号を反転させた値が、デッドタイムDTに起因して中点で生じる誤差電圧に相当する。
【0046】
制御装置20は、それぞれの直列接続体に対して、補償電圧dVを加えた目標電圧を使ってPWM指令値を生成する。そうすることで、デッドタイムDTを設定したことに起因する電圧誤差(中点の目標電圧と実際の電圧の差)を解消することができる。さらに、制御装置20は、この補償電圧dVを巧みに用いてモータ6の6次トルク変動を抑制する。先に述べたように、6次トルク変動とは、三相交流の周波数の6次に相当するモータのトルク変動を意味する。
【0047】
図4の式から理解されるように、補償電圧dVの時間変化は、絶対値が同じで極性(正負)が異なる二値を交互に繰り返す矩形波となる。なお、厳密には、補償電圧dVは、インバータ10の直流端の電圧やキャリア波の周波数に依存して変化し得る。しかし、中点を流れる電流の波形の数周期分の時間幅(あるいは制御装置20の数制御周期分の時間幅)では事実上、補償電圧dVは一定とみなすことができる。
【0048】
矩形波の周波数は、直列接続体の中点を流れる電流の周波数(すなわち、三相交流の周波数)と同じとなる。制御装置20は、中点を流れる電流の波形に対して補償電圧dVの矩形波の位相をずらすことで、6次トルク変動を抑制する。なお、後述するように、より精密に6次トルク変動を抑えるには、補償電圧dVは矩形波よりも正弦波(あるいは、正弦波を複数の電圧離散値で近似した近似波)であるとよい。上記した矩形波は、正弦波を2個の電圧離散値(絶対値が同じで極性(正負)が異なる二値)で近似した近似波に相当する。
【0049】
図5図6を参照して、中点の電流波形と補償電圧の矩形波に位相差を設けるによって6次トルク変動が抑えられることを説明する。図5は、PWM信号にデッドタイムを導入したときの中点電流と誤差電圧と補償電圧の時間変化を示している。図6は、PWM信号にデッドタイムを導入したときに生じるモータの6次トルク変動を示している。図5図6の(A)列は、デッドタイムは導入したがデッドタイム補償を行わない場合の6次トルク変動を示している。なお、モータのトルク変動は、モータを流れる電流の脈動に起因する。図5のグラフG14、G15、G16(G24、G25、G26、G34、G35、G36)の縦軸は電流であるが、これらのグラフの変動がモータのトルク変動に対応する。
【0050】
図5図6の(B)の列は、デッドタイムを導入し、かつ、中点を流れる電流に対して同位相の矩形波(補償電圧の矩形波)を目標電圧に加算した場合の6次トルク変動を示している。図5図6の(C)の列は、デッドタイムを導入し、かつ、中点を流れる電流に対して所定の位相差の矩形波(補償電圧の矩形波)を目標電圧に加算した場合の6次トルク変動を示している。
【0051】
インバータ10は三相の交流を出力するが、図5のグラフG11、G12、G13、G21、G22、G23、G31、G32、G33は三相交流のうちの一つの相の電流/電圧変化を示している。他の相の電流/電圧変化も同じである。また、図6のグラフG14、G15、G16、G24、G25、G26、G34、G35、G36は、d軸とq軸のうち一方の軸の電流変化を示している。他方の軸の電流変化も同様である。
【0052】
グラフG11は、2個のSW素子の直列接続体の中点を流れる電流の波形である。時刻T1、T2、T3、T4がゼロクロスのタイミングである。別言すれば、時刻T1からT3までが電流波形の1周期に相当する。先に述べたように、デッドタイムDTを付したことによって、図4の式のdVの符号を反転させたものが誤差電圧(中点の目標電圧と実際の電圧との差)となる。図5のグラフG12が誤差電圧を示している。図5(A)の列はデッドタイム補償を行わない場合であるから、補償電圧は常にゼロである(グラフG13)。このとき、PWM信号にデッドタイムDTを導入したことに起因して生じる6次の電流変動はグラフG14となる。なお、6次とは、中点を流れる電流の周波数の6次成分を意味する。図5図6は時間軸のスケールが異なっており、誤差電圧に起因する6次電流変動の周波数は中点電流の周波数の6倍であるが、図上では、6倍に見えないことに留意されたい。
【0053】
モータの6次トルク変動は、デッドタイムに起因するのみならず、三相交流モータの電気的特性(巻線のインダクタンスや逆起電力の大きさなど)に起因しても生じ得る。図6のグラフG14に示すPWM信号にデッドタイムDTを導入したことに起因して生じる6次の電流変動は、中点電流に対する位相差が一意に決定する。一方、図5のグラフG15が、モータの電気的特性に起因して生じる6次電流変動を示している。左記、モータの電気的特性は、コアの非線形磁気特性により変化する。即ち、中点電流の振幅および進角に応じて、磁気経路および磁気経路上の透磁率分布が変化する。従って、モータの電気的特性に起因して生じる6次電流変動は、中点電流に対する位相差が中点電流の振幅および進角に応じて変化する。d軸電流とq軸電流のトータルの6次電流変動(グラフG16)は、グラフG14とグラフG15を足し合わせた波形となるため、グラフG14とグラフG15が同位相となるモータ駆動条件(中点電流の振幅、進角)において、トータルの6次電流変動(グラフG16)の振幅は最大となり、モータの6次変動トルクが最大となる。
【0054】
中点の電流波形と同位相の矩形波(補償電圧の矩形波)を目標電圧に加えた場合を説明する(図5図6の(B)の列)。中点の電流波形とデッドタイムに起因する誤差電圧の波形は(A)の場合と同じである(グラフG21、G22)。
【0055】
図5図6の(B)の場合、補償電圧の矩形波は、中点の電流波形と同位相である(グラフG23がグラフG21と同位相である)。時刻T1、T2、T3、T4が電流波形のゼロクロスのタイミングであり、同じタイミングで矩形波の正負が反転する。補償電圧を目標電圧に加えるため、デッドタイムの誤差電圧に起因する6次電流変動は完全に抑えられる(グラフG24)。しかし、モータの電気的特性に起因する6次電流変動は図5図6の(A)の場合と同じである(グラフG25はグラフG15と同じである)。
【0056】
モータの電気的特性に起因する6次電流変動(グラフG25)が、中点で生じるトータルの6次電流変動として残る(グラフG26)。グラフG26に相当する6次トルク変動がモータに生じる。
【0057】
図5図6の(C)の列が、電流波形に対して所定の位相差dPを有する補償電圧矩形波を目標電圧に加えた場合を示している。先に述べたように、中点の電流波形(グラフG31)、デッドタイムに起因する誤差電圧(グラフG32)は図5図6の(A)の場合と同じである。
【0058】
時刻T1、T2、T3、T4が、電流波形のゼロクロスタイミングである。補償電圧の矩形波は、位相差dPに相当する時間だけ遅延してゼロクロスタイミングを迎える(グラフG33)。電流波形と矩形波の位相が位相差dPだけずれていることで、誤差電圧に起因する6次電流変動が完全には抑えきれずに少し残る(グラフG34)。位相差dPを適切に選定することで、誤差電圧に起因する6次電流変動(グラフG34)を、モータの電気的特性に起因する6次電流変動(グラフG35)と逆位相にすることができる。トータルの6次電流変動はグラフG34とグラフG35の合算であるため、両者は相殺し、結果としてトータルの6次電流変動が抑えられる(グラフG36)。図5図6の(C)の列の場合、d軸電流とq軸電流の6次成分が抑えられるので、結果としてモータの6次トルク変動が抑えられる。
【0059】
モータの電気的特性に起因して生じる6次電流変動は、モータの電気的特性に依存する。それゆえ、モータの電気的特性による6次電流変動を抑えるための位相差dPは、モータの電気的特性(モータのインダクタンスや逆起電力)に依存する。モータの電気的特性は、モータの回転数と電流(対象の相を流れる電流)の振幅と、進角制御における進角(電流進角)に依存して変化する。それゆえ、制御装置20は、モータ6の回転数と電流の振幅と、進角制御の進角を変数として位相差を決定するマップを備えている。マップは、モータ6を用いた評価試験やシミュレーションなどを用いて予め決定される。図7にマップの一例を示す。図7のマップは、横軸が進角制御における電流進角を示しており、縦軸が位相差(中点電流の正弦波に対する補償電圧の矩形波の位相差)を示している。また、図7のマップでは、相電流(モータを流れる電流)の幾つかの振幅のそれぞれに対して位相差を決めるグラフが描かれている。
【0060】
モータの6次トルク変動を抑えるためのデッドタイム補償制御のフローチャートを図8、9に示す。図8、9を参照しつつデッドタイム補償制御を説明する。図8、9の処理は、制御装置20の補償電圧生成部27が主に行う。図8、9の処理は一定の周期で繰り返し実行される。図8、9の処理の周期は、SW素子駆動制御の周期と異なっていてもよい。図8、9の処理は、三相のそれぞれに対して行われる。別言すれば、図8、9の処理は、3個の直列接続体12u、12v、12wのそれぞれに対して実行される。
【0061】
制御装置20は、電圧センサ15、電流センサ14u、14v、14w、角度センサ7の計測値(すなわち、インバータ10の直流端の電圧Vdc、中点の電流Iac、モータ6のロータの電気角)を取得する(ステップS2)。電流Iacは、三相のうち、現在制御対象としている直列接続体の中点を流れる電流である。制御装置20は、図4の式に基づいて、補償電圧dVの絶対値dVm(=|dV|)を算出する(ステップS3)。
【0062】
続いて制御装置20は、前回の制御周期のときの電流Iacと今回の制御周期における電流Iacの符号(電流Iacの向き)が異なるか否かをチェックする(ステップS4)。ステップS4の処理は、中点における電流波形のゼロクロスを検知する処理である。ステップS4の判断がYESの場合、すなわち、電流波形のゼロクロスが検知された場合、制御装置20は、補償電圧の矩形波の位相差を実現する準備を行う(ステップS5、S6、S7)。
【0063】
制御装置20は、前述したマップに基づいて電流波形に対する矩形波の位相差dPを決定する(ステップS5)。続いて制御装置20は、位相差dPを遅延時間に変換する(ステップS6)。遅延時間は、位相差dPを時間空間で表した値である。例えば、中点を流れる電流Iacの波形の周期が30[msec]であり、位相差dPが36[度]の場合、位相差dPは1周期の1/10であるから、遅延時間は3[msec]となる。
【0064】
続いて制御装置20は、タイマをスタートさせる(ステップS7)。タイマは、ステップS4にてゼロクロスが検知されてからの経過時間を示す。ゼロクロスが検知されない場合、ステップS5-S7はスキップされる。
【0065】
ステップS7にてスタートしたタイマは、図9のステップS16でストップ/リセットされる。制御装置20は、タイマが動作中の場合(ステップS12:YES)、ゼロクロス検知のタイミングからの経過時間を遅延時間と比較する(ステップS15)。ゼロクロス検知のタイミングからの経過時間が遅延時間を経過していない場合(ステップS15:NO)、制御装置20は、ステップS17の式に基づいて補償電圧dVを算出する。一方、タイマが動作中でない場合(ステップS12:NO)、制御装置20は、ステップS13の式に基づいて補償電圧dVを算出する(ステップS13)。ステップS13では、補償電圧dVの絶対値dVmに電流Iacの符号(sign(Iac))を乗じて補償電圧dVを算出する。ステップS13の算出結果は、図4の式の結果と同じとなる。一方、ステップS17の式は、図4の式の結果を正負反転させたものに相当する。すなわち、ゼロクロス検知のタイミングからの経過時間が遅延時間を経過するまでは、補償電圧dVはゼロクロス検知前の補償電圧と同じ符号を有することになる。タイマの経過時間が遅延時間を過ぎたら、制御装置20はタイマをストップ/リセットし、ステップS13の式に基づいて補償電圧dVを決定する。これらの処理により、中点における電流波形に対して位相差dPに相当する遅延時間を伴った矩形波(補償電圧の矩形波)が生成される。
【0066】
最後に制御装置20(補償電圧生成部27)は、ステップS13またはステップS17で決定した補償電圧dVを出力する(ステップS14)。補償電圧dVを出力するとは、図2で示したように、該当する相の目標電圧に補償電圧dVを加算することを意味する。一端出力された補償電圧dVは、次の周期のステップS14が実行されるまで保持される。すなわち、次の周期のステップS14が実行されるまで、前回の周期で決定された補償電圧dVが加算器25u(25v、25w)にて目標電圧に加算される。
【0067】
デッドタイム補償制御の処理をまとめると次の通りである。制御装置20は、(4)デッドタイムDTに起因して生じる出力電圧の誤差電圧を補償する補償電圧dVを算出する(ステップS3)。制御装置20は、(5)PWM信号を生成する前に中点の目標電圧に補償電圧を加算する(ステップS14)。補償電圧dVの時間変化は、図4から理解されるように、絶対値が同じで極性の異なる二値を交互に繰り返す矩形波であって直列接続体の中点を流れる電流の周波数と同じ周波数の矩形波となる。しかし、矩形波は、中点の電流の波形に対して所定の位相差dPを有している。別言すれば、矩形波は、中点の電流の波形と同じ周期を有しているが位相が位相差dPだけずれている。
【0068】
位相差と6次トルク変動の関係をシミュレーションにより求めた一例を図10に示す。このシミュレーションは所定のモータ回転数、電流振幅、進角において、位相差dPをパラメータとした計算結果である。この例の場合は、-5[度]の位相差を選択したときに6次トルク変動は最小となる。
【0069】
位相差dPは、モータ6の6次トルク変動が位相差ゼロの場合よりも小さくなるように定められる。位相差dPは、シミュレーションや実験により予め決定される。位相差dPは、モータ6の回転数と電流の振幅と、進角制御の電流進角を変数として位相差dPを決定するマップ形式で用意されているとよい。
【0070】
(その他の実施例)上記した実施例では、誤差電圧(中点の目標電圧と出力電圧の差)は、中点電流の波形と逆位相の矩形波であると説明した(図5参照)。より正確には、誤差電圧は、中点における電流波形(正弦波)と逆位相の正弦波となる。より精密に誤差電圧を相殺しようとするなら、補償電圧も正弦波(あるいは、正弦波を複数の電圧離散値で近似した近似波)とする方がよい。すなわち、補償電圧の時間変化は、直列接続体の中点を流れる電流の周波数と同じ周波数の正弦波または当該正弦波を複数の電圧離散値で近似した近似波であるとよい。そして、補償電圧の時間変化(近似波)は、中点の電流波形に対して所定の位相差を有するように決定される。位相差は、中点を流れる電流波形の周波数の6次に相当する三相交流モータのトルク変動が位相差がゼロの場合よりも小さくなるように定められる。
【0071】
実施例では、補償電圧は矩形波であった。この矩形波は、正弦波を、絶対値が同じで極性の異なる二値で近似したケースに相当する。
【0072】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。デッドタイムDTは予め制御装置20が記憶している。デッドタイムDTは、モータの回転数(あるいはモータに流れる電流の周波数)などに応じて定められるものであってもよい。補償電圧の絶対値(dVm)は、インバータ10の直流端に印加される電圧Vdc、デッドタイムDT、キャリア波の周波数に依存して定められる。インバータ10が出力する交流電流の周波数は、モータ6の回転数に比例する。具体的には、交流電流の周波数は、モータ6の回転周波数にモータの極数を乗じた値に等しくなる。
【0073】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0074】
2:モータシステム 3:直流電源 6:モータ 7:角度センサ 8:上位制御装置 10:インバータ 12u、12v、12w:直列接続体 12uU、12uL:SW素子 13u、13v、13w:中点 14u、14v、14w:電流センサ 16:平滑コンデンサ 17:ダイオード 20:制御装置 21:目標値変換部 22:差分器 23:dq軸目標電圧演算部 24:三相変換部 25u、25v、25w:加算器 26:PWM信号生成部 27:補償電圧生成部 28:dq軸電流計算部
図1
図2
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図10