(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025104
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】アンモニアの回収方法及び回収装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20240216BHJP
C02F 1/04 20230101ALI20240216BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20240216BHJP
C01C 1/10 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C02F1/28 M
C02F1/04 C
C02F1/42 F
C01C1/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128282
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】田尻 久也
【テーマコード(参考)】
4D025
4D034
4D624
【Fターム(参考)】
4D025AA09
4D025AB09
4D025BA09
4D025BA22
4D025BB01
4D025DA10
4D034AA11
4D034AA19
4D034CA12
4D624AA04
4D624AB13
4D624BA02
4D624BA07
4D624BA17
4D624BB01
4D624BC01
4D624DA08
4D624DB03
4D624DB12
(57)【要約】
【課題】低濃度のアンモニウム塩を含有する排液からアンモニアを低コストで回収することができる、アンモニアの回収方法を提供すること。
【解決手段】アンモニウム塩溶液からアンモニアを回収する方法であって、(a)アンモニウム塩溶液を吸着剤に接触させて、アンモニアを吸着剤に吸着させる工程、(b)アンモニアを吸着している吸着剤と、吸着剤接触後の溶液とを分離する工程、(c)アンモニアを吸着している吸着剤を、塩水溶液に接触させ、アンモニウム塩水溶液を形成させる工程、(d)アンモニウム塩水溶液と、塩水溶液接触後の吸着剤とを分離する工程、(e)アンモニウム塩水溶液をアルカリ成分に接触させて、アンモニア水溶液、及びアルカリ成分塩を形成させる工程、並びに(f)アンモニア水溶液及びアルカリ成分塩を含む水溶液を蒸留して、アンモニア水溶液とアルカリ成分の塩を含む水溶液とを分離する工程を含む、アンモニアの回収方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニウム塩を含有する溶液からアンモニアを回収する方法であって、
(a)前記アンモニウム塩を含有する溶液を吸着剤に接触させて、アンモニアを前記吸着剤に吸着させる工程、
(b)前記アンモニアを吸着している吸着剤と、前記吸着剤に接触した後の前記溶液とを分離する工程、
(c)アンモニアを吸着している前記吸着剤を、塩水溶液に接触させ、アンモニウム塩水溶液を形成させる工程、
(d)前記アンモニウム塩水溶液と、前記塩水溶液に接触した後の前記吸着剤とを分離する工程、
(e)前記アンモニウム塩水溶液を、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上に接触させて、アンモニア水溶液、並びにアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を形成させる工程、並びに
(f)前記アンモニア水溶液、並びに前記アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を含む水溶液を蒸留して、前記アンモニア水溶液と、前記アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を含む水溶液とを分離する工程、
を含む、アンモニアの回収方法。
【請求項2】
前述工程(d)において分離された前記吸着剤を、前述工程(a)における前記吸着剤として再利用する、請求項1に記載のアンモニアの回収方法。
【請求項3】
前述工程(d)において分離された前記吸着剤を洗浄した後に、前述工程(a)に再利用する、請求項2に記載のアンモニアの回収方法。
【請求項4】
前記塩水溶液が塩化ナトリウム水溶液である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアンモニアの回収方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上が水酸化カルシウムである、請求項1~3のいずれか一項に記載のアンモニアの回収方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上が水酸化カルシウムである、請求項4に記載のアンモニアの回収方法。
【請求項7】
アンモニウム塩を含有する溶液からアンモニアを回収するアンモニア回収装置であって、
(A)前記アンモニウム塩を含有する溶液を吸着剤に接触させて、アンモニアを前記吸着剤に吸着させる吸着部、
(B)前記アンモニアを吸着している吸着剤と、前記吸着剤に接触した後の前記溶液とを分離する第一分離部、
(C)前記第一分離部で分離された前記吸着剤を、塩水溶液に接触させて、アンモニウム塩水溶液を得る第一接触部、
(D)前記第一接触部において得られた前記アンモニウム塩水溶液と、前記塩水溶液に接触した後の前記吸着剤とを分離する第二分離部、
(E)前記アンモニウム塩水溶液と、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上とを接触させ、アンモニア水溶液、及びアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を形成させる、第二接触部、並びに
(F)前記アンモニア水溶液と、前記アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上の水溶液を蒸留して、アンモニア水溶液と、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を含む水溶液とを分離する、第三分離部
を含む、アンモニアの回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの回収方法及び回収装置に関する。
詳しくは、工場等から排出されるアンモニウム塩を含む排水から、アンモニアを回収するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銅アンモニアレーヨン製造プラント、半導体工場、メッキ工場、食品製造工場、飲料水製造工場等の工場から排出される排水には、比較的低濃度のアンモニウム塩が含まれる。環境に対する負荷を軽減するためには、排水に含まれるアンモニウム塩が低濃度である場合でも、排水からアンモニウム塩を回収したうえで環境に放出する必要がある。
【0003】
この点、アンモニアを含むガスからアンモニアを除去する方法については、例えば、アンモニアを含むガスを固体吸着剤に接触させて、アンモニアを固体吸着剤に吸着させる工程、及びアンモニアを吸着した固体吸着剤を酸性水溶液に接触させて、アンモニアを溶出させ、アンモニア水溶液を形成させる工程を含む方法が知られている(特許文献1)。
特許文献1では、固体吸着剤としては金属シアン錯体が好ましく、酸性水溶液中の酸としては塩酸、硫酸等が好ましいと説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、比較的低濃度のアンモニウム塩を含有する排液から、高濃度のアンモニアを低コストで回収することができ、好ましくは回収に使用する薬剤の再生性にも優れる、アンモニアの回収方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明は、以下のとおりである。
《態様1》アンモニウム塩を含有する溶液からアンモニアを回収する方法であって、
(a)前記アンモニウム塩を含有する溶液を吸着剤に接触させて、アンモニアを前記吸着剤に吸着させる工程、
(b)前記アンモニアを吸着している吸着剤と、前記吸着剤に接触した後の前記溶液とを分離する工程、
(c)アンモニアを吸着している前記吸着剤を、塩水溶液に接触させ、アンモニウム塩水溶液を形成させる工程、
(d)前記アンモニウム塩水溶液と、前記塩水溶液に接触した後の前記吸着剤とを分離する工程、
(e)前記アンモニウム塩水溶液を、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上に接触させて、アンモニア水溶液、並びにアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を形成させる工程、並びに
(f)前記アンモニア水溶液、並びに前記アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を含む水溶液を蒸留して、前記アンモニア水溶液と、前記アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を含む水溶液とを分離する工程、
を含む、アンモニアの回収方法。
《態様2》前述工程(d)において分離された前記吸着剤を、前述工程(a)における前記吸着剤として再利用する、態様1に記載のアンモニアの回収方法。
《態様3》前述工程(d)において分離された前記吸着剤を洗浄した後に、前述工程(a)に再利用する、態様2に記載のアンモニアの回収方法。
《態様4》前記塩水溶液が塩化ナトリウム水溶液である、態様1~3のいずれか一項に記載のアンモニアの回収方法。
《態様5》
前記アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上が水酸化カルシウムである、態様1~4のいずれか一項に記載のアンモニアの回収方法。
《態様6》
アンモニウム塩を含有する溶液からアンモニアを回収するアンモニア回収装置であって、
(A)前記アンモニウム塩を含有する溶液を吸着剤に接触させて、アンモニアを前記吸着剤に吸着させる吸着部、
(B)前記アンモニアを吸着している吸着剤と、前記吸着剤に接触した後の前記溶液とを分離する第一分離部、
(C)前記第一分離部で分離された前記吸着剤を、塩水溶液に接触させて、アンモニウム塩水溶液を得る第一接触部、
(D)前記第一接触部において得られた前記アンモニウム塩水溶液と、前記塩水溶液に接触した後の前記吸着剤とを分離する第二分離部、
(E)前記アンモニウム塩水溶液と、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上とを接触させ、アンモニア水溶液、及びアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を形成させる、第二接触部、並びに
(F)前記アンモニア水溶液と、前記アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上の水溶液を蒸留して、アンモニア水溶液と、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を含む水溶液とを分離する、第三分離部
を含む、アンモニアの回収装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、比較的低濃度のアンモニウム塩を含有する排液からアンモニアを回収する際に、高濃度のアンモニアを低コストで回収することができ、好ましくは回収に使用する薬剤の再生性にも優れる、アンモニアの回収方法及び装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明のアンモニアの回収方法の全体像の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明のアンモニアの回収装置の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《アンモニアの回収方法》
本発明のアンモニアの回収方法は、
アンモニウム塩を含有する溶液からアンモニアを回収する方法であって、
(a)前記アンモニウム塩を含有する溶液を吸着剤に接触させて、アンモニアを前記吸着剤に吸着させる工程(吸着工程)、
(b)前記アンモニアを吸着している吸着剤と、前記吸着剤に接触した後の前記溶液とを分離する工程(第一分離工程)、
(c)アンモニアを吸着している前記吸着剤を、塩水溶液に接触させ、アンモニウム塩水溶液を形成させる工程(第一接触工程)、
(d)前記アンモニウム塩水溶液と、前記塩水溶液に接触した後の前記吸着剤とを分離する工程(第二分離工程)、
(e)前記アンモニウム塩水溶液を、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上に接触させて、アンモニア水溶液、並びにアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を形成させる工程(第二接触工程)、並びに
(f)前記アンモニア水溶液、並びに前記アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を含む水溶液を蒸留して、前記アンモニア水溶液と、前記アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を含む水溶液とを分離する工程(第三分離工程)、
を含む、アンモニアの回収方法である。
【0010】
本発明のアンモニアの回収方法では、(d)第二分離工程において分離された吸着剤を、(a)吸着工程における吸着剤として再利用してもよい。
以下、本発明のアンモニアの回収方法の工程について、順に説明する。
【0011】
〈(a)吸着工程〉
(a)吸着工程では、アンモニウム塩を含有する溶液を吸着剤に接触させて、アンモニアを吸着剤に吸着させる。
本発明のアンモニアの回収方法によって処理される溶液(原料排水)は、アンモニウム塩を含む。このアンモニウム塩が強酸のアンモニウム塩であると、本発明の各工程がスムースに進行するため、好ましい。本発明のアンモニアの回収方法によって処理される溶液に含まれるアンモニウム塩としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等が好ましい。
【0012】
本発明のアンモニアの回収方法では、比較的低濃度のアンモニウム塩を含む原料排水からアンモニアを回収することを予定している。したがって、本発明のアンモニアの回収方法によって処理される原料排水におけるアンモニウム塩の濃度は、例えば、1,000ppm以下であり、800ppm以下、又は500ppm以下であってもよい。発明のアンモニアの回収方法によって処理される原料排水におけるアンモニウム塩の濃度は、例えば、10ppm以上であり、50ppm以上又は100ppm以上であってもよい。
【0013】
(a)吸着工程で使用される吸着剤は、後述の(b)第一分離工程において、原料排水と分離されて回収される。その後、更に、後述の(c)第一接触工程において塩水溶液と接触することにより、吸着したアンモニアを放出して元の吸着剤が再生され、好ましくはその後再利用される。したがって、吸着剤は、水に不溶又は難溶の固体状又はゲル状であることが好ましい。
吸着剤としては、例えば、イオン交換樹脂、ゼオライト、活性炭等が挙げられる。これらのうち、アンモニアの吸着性に優れる点から、酸性カチオン交換樹脂が好ましく、強酸性カチオン交換樹脂がより好ましく、スルホン酸型カチオン交換樹脂が特に好ましい。
【0014】
吸着剤の形状は、特に限定されず、任意の形状であってよい。吸着剤の形状としては、例えば、粒子状、多角形状、円柱状、楕円柱状、多角柱状、円錐状、楕円錐状、不定形状等、及びこれらに孔を形成した形状(例えば円筒状等)、並びにこれらの組合せが挙げられる。ここで、粒子状とは、球状、楕円体状、及びこれらに類似する形状をいう。これらの形状のうち、比表面積が大きいため液体中におけるアンモニウム塩との接触効率が高く、回収操作が容易であり、流体中での圧力損失が小さいという観点から、粒子状が好ましい。
【0015】
吸着剤の平均粒子径は、回収装置のスケール、吸着剤の単位重量当たりの排水の接触量、所望の回収率等に応じて適宜に設定することができる。吸着剤の平均粒子径は、300μm以上1,200μm以下が好ましく、360μm以上1,000μm以下がより好ましく、430μm以上850μm以下が更に好ましく、600μm以上700μm以下が特に好ましい。
【0016】
(a)吸着工程は、バッチ法によって行われても、流通法によって行われてもよい。
(a)吸着工程をバッチ法による場合、吸着剤と溶液との割合は、溶液に含まれるアンモニア換算のアンモニウム塩の質量(以下、単に「アンモニア量」ということがある。)1g当たりの吸着剤量として、3.00g-吸着剤/g-アンモニア以上400g-吸着剤/g-アンモニア以下とすることが好ましく、3.78g-吸着剤/g-アンモニア以上378g-吸着剤/g-アンモニア以下とすることがより好ましく、11.34g-吸着剤/g-アンモニア以上37.8g-吸着剤/g-アンモニア以下とすることが更に好ましく、12.00g-吸着剤/g-アンモニア以上35.0g-吸着剤/g-アンモニア以下とすることが特に好ましい。吸着剤と溶液との接触時間は、5分以上とすることが好ましい。特に、溶液中のアンモニアの50%以上を吸着しようとする観点からは、吸着剤と溶液との接触時間を、30分以上4,320分以下とすることが好ましく、60分以上1,440分以下とすることがより好ましく、90分以上300分以下とすることが更に好ましい。
一方、(a)吸着工程を流通法による場合、吸着剤と溶液との割合は、溶液に含まれるアンモニア1gあたりの吸着剤量として、3.78g-吸着剤/g-アンモニア以上378g-吸着剤/g-アンモニア以下とすることが好ましく、37.8g-吸着剤/g-アンモニア以上11.34g-吸着剤/g-アンモニア以下とすることがより好ましい。吸着剤と溶液との接触時間は、溶液の流速として、90m/hr以下とすることが好ましく、30m/hr以下とすることがより好ましい。
【0017】
(a)吸着工程における吸着剤と溶液との接触温度は、0℃以上120℃以下とすることが好ましく、10℃以上80℃以下とすることがより好ましく、典型的には室温であってよい。
【0018】
(a)吸着工程では、原料排水に含まれていたアンモニウム塩を構成するアニオン(例えばSO4
2-)と、吸着剤のイオン交換の結果生じるカチオン(例えばNa+)との塩(例えばNa2SO4)が副生する。この塩を含む水溶液は、次工程の(b)第一分離工程において、アンモニアを吸着した後の吸着剤と分離される。
【0019】
〈(b)第一分離工程〉
(b)第一分離工程では、(a)吸着工程においてアンモニアを吸着した後の吸着剤と、吸着剤に接触した後の原料排水とを分離する。
吸着剤と原料排水との分離方法は特に限定されない。吸着剤が固体又はゲル状である場合、一般的に公知の固液分離方法を採用してよい。吸着剤と原料排水との分離方法としては、例えば、重力沈降分離法、フィルター分離法等が挙げられる。フィルター分離には、例えば、適当な孔径の金網を使用してよい。
【0020】
分離回収された吸着剤は、その表面にアンモニアを、例えばNH4
+イオンとして吸着している。
一方、分離回収された原料排水は、アンモニア塩(例えば(NH4)2SO4)の濃度が減少されている。第一分離工程で分離回収された原料排水中のアンモニア塩濃度は、例えば、10ppm以下であり、好ましくは5ppm以下である。アンモニア塩濃度が10ppm以下の溶液は、環境に放出されても、環境への影響が非常に小さいと考えられる。
【0021】
また、分離回収された原料排水中には、アンモニウム塩を構成していたアニオン(例えばSO4
2-)と、吸着剤のイオン交換の結果生じるカチオン(例えばNa+)との塩(例えばNa2SO4)が含まれる。この塩は、人体、環境等に対する影響が小さいため、環境中に排出されてよい。
【0022】
〈(c)第一接触工程〉
(c)第一接触工程では、(a)吸着工程においてアンモニアを吸着し、(b)第一分離工程において分離回収された、アンモニアを吸着している吸着剤を、塩水溶液に接触させて、アンモニウム塩水溶液を形成させる。また、これと同時に、吸着していたアンモニアを放出した吸着剤は、塩水溶液中の塩のカチオンを取り込んで、元の吸着剤が再生される。
(c)第一接触工程において使用される塩水溶液に含まれる塩としては、アルカリ金属塩、又はアルカリ土類金属の塩が好ましく、ナトリウム塩、又はマグネシウム塩がより好ましい。塩を構成するアニオンとしては、ハロゲン化物イオンが好ましい。塩として、特に、ハロゲン化物イオンのナトリウム塩が好ましい。
【0023】
(c)第一接触工程において使用される塩水溶液に含まれる好ましい塩としては、塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム等が挙げられ、特に塩化ナトリウムが好ましい。塩化ナトリウムは、アンモニアを吸着している吸着剤との接触によって形成される塩化アンモニウム(NH4Cl)が、人体、環境等に対する影響が小さい点で、特に好ましい。
【0024】
塩水溶液中の塩濃度は、アンモニアを吸着している吸着剤からアンモニアを効率よく溶出させる観点からは高い方が好ましく、安全性及び溶液の取り扱い性からは、塩濃度が当該塩の飽和濃度以下であって、塩が溶液中に完全に溶解していることが好ましい。塩水溶液が例えば塩化ナトリウム水溶液である場合には、塩濃度は、2.0重量%以上、2.7重量%以上、5.0重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上が好ましい。塩水溶液の濃度は、飽和溶解度以下が好ましい。
【0025】
(c)第一接触工程は、バッチ法によって行われても、流通法によって行われてもよい。
(c)第一接触工程をバッチ法による場合、吸着剤と塩水溶液との割合は、吸着剤1g当たりの塩水溶液容量として、0.0001L/g以上1.0000L/g以下とすることが好ましく、0.0010L/g以上0.5000L/g以下とすることが好ましく、0.0020L/g以上、0.0500L/g以下とすることが好ましく、0.0030L/g以上、0.0050L/g以下とすることがより好ましい。また、吸着剤と塩水溶液との接触時間は、5分以上とすることが好ましく、10分以上とすることがより好ましい。
一方、(c)第一接触工程を流通法による場合、塩水溶液の流速は、20m/hr以下とすることが好ましく、5m/hr以下がより好ましい。
【0026】
(c)第一接触工程における吸着剤と塩水溶液との接触温度は、0℃以上120℃以下とすることが好ましく、10℃以上80℃以下とすることがより好ましく、典型的には室温であってよい。
【0027】
〈(d)第二分離工程〉
(d)第二分離工程では、(c)第一接触工程で形成されたアンモニウム塩水溶液と、塩水溶液に接触した後の吸着剤とを分離する。
アンモニウム塩水溶液と吸着剤との分離方法は特に限定されない。吸着剤が固体又はゲル状である場合、一般的に公知の固液分離方法を採用してよい。吸着剤とアンモニウム塩水溶液との分離方法としては、例えば、重力沈降分離法、フィルター分離法等が挙げられる。フィルター分離には、例えば、適当な孔径の金網を使用してよい。
【0028】
分離回収されたアンモニウム塩水溶液は、塩水溶液中に含まれる塩のアニオン(例えば塩化物イオン)と、アンモニウムイオンとから構成されるアンモニウム塩(例えば塩化アンモニウム)を含んでいる。
一方、分離回収された吸着剤は、その表面に吸着していてアンモニアが脱離除去され、塩のカチオンを取り込んで、元の吸着剤として再生されている。したがって、分離回収された吸着剤は、(a)吸着工程における吸着剤として再利用することができる。ここで、分離回収された吸着剤を洗浄した後に、(a)吸着工程における吸着剤として再利用してもよい。
分離回収された吸着剤の洗浄方法としては、例えば、水洗が挙げられる。水洗に用いる洗浄用水としては、例えば、工業用水、飲料水等が使用できる。
【0029】
〈(e)第二接触工程〉
(e)第二接触工程では、(d)第二分離工程で得られたアンモニウム塩水溶液を、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上(以下、「アルカリ成分」ともいう。)に接触させて、アンモニア水溶液と、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上(以下、「アルカリ塩」ともいう。)とを形成させる。
【0030】
アルカリ成分は、強塩基性のものであれば、制限なく使用できる。アンモニウム塩との反応性、及びコストを考慮すると、水酸化物として、具体的には例えば、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が例示でき、水酸化カルシウムが好ましい。水酸化ナトリウムは、アンモニウム塩との反応性の点では好ましいが、比較的高価であるため、コスト面では好ましくない。
【0031】
アルカリ成分は、固体の状態でアンモニウム塩水溶液と接触させてもよく、アルカリ成分の水溶液としてアンモニウム塩水溶液と混合することにより、アンモニウム塩水溶液と接触させてもよい。
アルカリ成分を、固体の状態でアンモニウム塩水溶液と接触させるときには、例えばスクリューフィーダー等の粉粒体定量供給装置を使用することにより、定量的、安定的な接触が可能となる。また、アルカリ土類金属水酸化物(例えば水酸化カルシウム)は、一般に水に溶け難いと考えられているが、適量を少量ずつ安定的に水に供給すると、水中に完全溶解する。したがって、本発明では、アルカリ成分としてアルカリ土類金属水酸化物を用い、これを固体の状態で供給してアンモニウム塩水溶液と接触させる場合であっても、所望の効果が容易に得られる利点がある。
【0032】
アルカリ成分を、水溶液としてアンモニウム塩水溶液と接触させる場合、アルカリ成分水溶液中のアルカリ成分の濃度は、例えば、1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、28重量%以上、又は29重量%以上が好ましく、40重量%以下、35重量%以下、32重量%以下、又は31重量%以下が好ましい。
アルカリ成分とアンモニウム塩水溶液との使用割合は、アンモニウム塩水溶液に含まれるアンモニウムイオン1mol当たりの、アルカリ成分に含まれる水酸化物イオン(OH-)の量として、0.5mol-OH-/mol-NH4
+以上、100mol-OH-/mol-NH4
+以下が好ましく、0.8mol-OH-/mol-NH4
+以上、10mol-OH-/mol-NH4
+以下が好ましく、1.0mol-OH-/mol-NH4
+以上、1.1mol-OH-/mol-NH4
+以下がより好ましい。使用するアルカリ成分が水酸化カルシウムの場合は、アンモニウムイオン1gあたり2.2g~2.4gの水酸化カルシウムを添加することが好ましい。
【0033】
(e)第二接触工程は、バッチ法によって行われても、流通法によって行われてもよい。
(e)第二接触工程をバッチ法による場合、アルカリ成分とアンモニウム塩水溶液との接触時間は、1分以上5分以下とすることが好ましく、2分以上3分以下とすることがより好ましい。
(e)第二接触工程におけるアルカリ成分とアンモニウム塩水溶液との接触温度は、10℃以上50℃以下とすることが好ましく、20℃以上40℃以下とすることがより好ましく、典型的には室温であってよい。
【0034】
〈(f)第三分離工程〉
(f)第三分離工程では、アンモニア(水酸化アンモニウム)水溶液、及びアルカリ塩(アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上)を含む水溶液を蒸留して、アンモニア水溶液と、アルカリ塩を含む水溶液とを分離する。
この蒸留には、公知のアンモニアストリッパー等を使用してよい。
蒸留塔は、棚段塔でも充填塔でもよい。蒸留塔が充填塔である場合、充填物としては、例えば、ラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、サドル、スルザーパッキン等、及びこれらのうちの2種以上の混合物等であってよい。
蒸留塔の材質は、金属及び非金属の双方が使用可能である。蒸留塔が金属製である場合、接液面材質としては、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、チタン、チタン合金等が好ましく、応力腐食割れ、隙間腐食等への耐性を考慮すると、SUS329J4L、NW0276等のステンレス鋼を使用することがより好ましい。蒸留塔が非金属製である場合、接液面材質としては、例えば、PTFE、PFE、FEP等のフッ素樹脂が好ましく、PTFE又はPFEの使用がより好ましい。
【0035】
この(f)第三分離工程では、(c)第一接触工程における塩水溶液中の塩の種類、及び(e)第二接触工程におけるアルカリ成分の種類によって、蒸留時の沸点上昇の程度が異なることになる。このとき、沸点上昇の程度が大きいと、少ない加熱エネルギーによって、水溶液からの水の蒸発を抑制しつつ、アンモニアを気化させることが可能となり、エネルギー消費を低減することができる。
この点、塩化カルシウムの沸点上昇効果が大きいことから、(e)第二接触工程におけるアルカリ成分として水酸化カルシウムを使用することが好ましい。
【0036】
(f)第三分離工程では、蒸留物として、高濃度のアンモニア水が得られる。
本発明のアンモニアの回収方法では、(f)第三分離工程で得られるアンモニア水の濃度を、例えば、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、又は32重量%以上とすることができる。一方、蒸留のコストメリットを考慮すると、(f)第三分離工程で得られるアンモニア水の濃度は、45質量%以下又は40質量%以下に留めることが適切である。
【0037】
また、(f)第三分離工程では、塔底から、(c)第一接触工程における塩水溶液中の塩のアニオンと、(e)第二接触工程におけるアルカリ成分のカチオンとから構成される塩を含む水溶液が得られる。この塩は、人体、環境等に対する影響が小さいため、環境中に排出されてよい。
【0038】
〈本発明の方法における反応式〉
以下、
本発明のアンモニアの回収方法に供される原料排水が硫酸アンモニウムを含有する水溶液であり、
(a)吸着工程における吸着剤がナトリウム型の強酸性カチオン交換樹脂であり、
(c)第一接触工程における塩水溶液が塩化ナトリウム水溶液であり、
(e)第二接触工程におけるアルカリ成分が水酸化カルシウムである
場合を例として、各工程において想定される反応式を以下に示す。
ただし、本発明は、特定の理論又は仮説に拘束されるものではない。
【0039】
(a)吸着工程:2R-Na+(NH4)2SO4→2R-NH4+Na2SO4
(c)第一接触工程:R-NH4+NaCl→R-Na+NH4Cl
(e)第二接触工程:2NH4Cl+Ca(OH)2→2NH4OH+CaCl2
そして、第三分離工程において、蒸留によって、アンモニア(水酸化アンモニウム)水溶液とCaCl2とを分離して、高濃度のアンモニア水を得る。
上記式におけるRは、強酸性カチオン交換樹脂のアニオン残基を示す。
【0040】
〈本発明のアンモニアの回収方法の全体像〉
上記と同じ場合を例とした、本発明のアンモニアの回収方法の全体像の一例を、
図1に示す。
図1におけるRは、強酸性カチオン交換樹脂のアニオン残基を示す。
図1に示した方法は、(d)第二分離工程において分離回収された吸着剤(R-Na)の洗浄工程を含むが、この洗浄工程は任意工程である。
【0041】
《アンモニアの回収装置》
本発明の別の観点では、アンモニアの回収装置が提供される。
本発明のアンモニアの回収装置は、
アンモニウム塩を含有する溶液からアンモニアを回収するアンモニア回収装置であって、
(A)前記アンモニウム塩を含有する溶液を吸着剤に接触させて、アンモニアを前記吸着剤に吸着させる吸着部、
(B)前記アンモニアを吸着している吸着剤と、前記吸着剤に接触した後の前記溶液とを分離する第一分離部、
(C)前記第一分離部で分離された前記吸着剤を、塩水溶液に接触させて、アンモニウム塩水溶液を得る第一接触部、
(D)前記第一接触部において得られた前記アンモニウム塩水溶液と、前記塩水溶液に接触した後の前記吸着剤とを分離する第二分離部、
(E)前記アンモニウム塩水溶液と、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上とを接触させ、アンモニア水溶液、及びアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を形成させる、第二接触部、並びに
(F)前記アンモニア水溶液と、前記アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上の水溶液を蒸留して、アンモニア水溶液と、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上を含む水溶液とを分離する、第三分離部
を含む、アンモニアの回収装置である。
【0042】
本発明のアンモニアの回収装置は、上記(A)~(F)各部の他に、原料及び使用薬剤を貯蔵するためのタンク、上述の(A)~(F)各部及びタンク間を流体的に接続するための配管、配管内の流体を移動させるためのポンプ、適宜の撹拌装置、各種計器等を、更に備えていてよい。
本発明のアンモニアの回収装置では、(D)第二分離部において分離された吸着剤を、(A)吸着部における吸着剤として再利用してもよい。この場合のアンモニアの回収装置は、吸着剤を(D)第二分離部から回収するための吸着剤回収部、回収された吸着剤を洗浄するための吸着剤洗浄部、及び洗浄後の吸着剤を(A)吸着部に供給するための吸着剤供給部、並びにこれらに付随する配管、ポンプ、計器等を、更に有していてよい。
【0043】
以下、図面を参照しつつ、本発明のアンモニアの回収装置の構成の一例について説明する。
図2のアンモニアの回収装置は、(A)吸着部、(B)第一分離部、(C)第一接触部、(D)第二分離部、(E)第二接触部、及び(F)第三分離部を含み、これら以外に、
アンモニアの回収に供されるアンモニウム塩を含有する溶液を貯蔵し、(A)吸収部に供給するためのアンモニウム塩含有溶液タンク、
塩水溶液を貯蔵し、(C)第一接触部に供給するための塩溶液タンク、
第二分離部で分離された塩水溶液に接触した後の吸着剤を洗浄するための洗浄槽、及び
アルカリ成分を収納し、第二接触部に供給するためのアルカリ成分フィーダー、並びに
各部を連結するための配管類
を有する。
しかしながら
図2では、送液のためのポンプ、温度調整のための熱交換器、各種計器類、点検及び清掃のためのドレイン配管等は、描画が省略されている。
【0044】
(E)第二接触部、アンモニウム塩含有溶液タンク、塩溶液タンク、及び洗浄槽は、適当な撹拌装置を備えていてよい。アルカリ成分フィーダーは、例えばスクリューフィーダー等の粉粒体定量供給装置を備えていてよく、これにより、アルカリ成分は、粉体状で(E)第二接触部に供給されてよい。
【0045】
図2の(A)吸着部は、上部にホッパーを有しており、このホッパーから(A)供給部内に、フレッシュな又は(D)第二分離部において分離され、任意的に洗浄槽で洗浄された吸収剤(R-Na)が供給される。(A)吸着部はホッパーを有さなくてもよい。
一方、アンモニアの回収に供される原料排水は、アンモニウム塩含有溶液タンク内に貯蔵され、ここから(A)吸着部に供給される。
そして、(A)吸着部内において、アンモニウム塩を含有する溶液を吸着剤に接触させて、アンモニアを吸着剤に吸着させる、(a)吸着工程が行われる。これにより、アンモニアを吸着している吸着剤、及び吸着剤に接触した後の溶液が生成する。これらは、(B)第一分離部に送られる。
【0046】
図2の(B)第一分離部は、上部にホッパーを有しており、このホッパーから(B)第一分離部内に、(A)吸着部から送られてきた、アンモニアを吸着している吸着剤、及び吸着剤に接触した後の溶液が供給される。(A)吸着部はホッパーを有さなくてもよい。
(B)第一分離部内では、(b)第一分離工程が行われ、アンモニアを吸着している吸着剤と、吸着剤に接触した後の原料排水とが分離される。
そして、アンモニアを吸着している吸着剤は、(C)第一接触部に送られ、吸着剤に接触した後の溶液は排水として廃棄される。
【0047】
(C)第一接触部には、(B)第一分離部からアンモニアを吸着している吸着剤が送られてくる他、塩溶液タンクから供給された塩溶液が供給される。そして、(C)第一接触部内で、(c)第一接触工程が行われ、アンモニアを吸着している吸着剤と、塩水溶液とが接触して、アンモニウム塩水溶液が形成されるとともに、吸着剤からアンモニアが脱離して吸着剤が再生される。これらは、(D)第二分離部に送られる。
【0048】
図2の(D)第二分離部は、上部にホッパーを有しており、このホッパーから(D)第二分離部内に、(C)第一接触部から送られてきた、アンモニウム塩水溶液、及び再生された吸着剤が供給される。(D)第二分離部はホッパーを有さなくてもよい。
(D)第二分離部内では、(d)第二分離工程が行われ、アンモニウム塩水溶液と、塩水溶液に接触した後の吸着剤(再生された吸着剤)とが分離される。
そして、アンモニウム塩水溶液は(E)第二接触部に送られる。一方、再生された吸着剤は、必要に応じて洗浄槽で洗浄された後に、(A)吸着部における吸着剤として再利用されてよい。
【0049】
任意的な構成要素である洗浄槽では、(D)第二分離部から送られてきた吸着剤を、例えば洗浄水によって洗浄する。洗浄後の吸着剤は、(A)吸着部において再利用されてよく、洗浄排液は廃棄されてよい。
【0050】
(E)第二接触部には、(D)第二分離部からアンモニウム塩水溶液が送られてくる他、アルカリ成分フィーダーからアルカリ成分(アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上)が、好ましくは粉体状で供給される。そして、(E)第二接触部内で、(e)第二接触工程が行われ、アンモニウム塩水溶液とアルカリ成分とが接触して、アンモニア水溶液、及びアルカリ成分塩(アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上)が形成される。これらは、(F)第三分離部に送られる。
【0051】
(F)第三分離部では、(f)第三分離工程が行われ、蒸留により、アンモニア水溶液から、アルカリ成分塩が分離されて、高濃度のアンモニア水溶液が得られる。
この(F)第三分離部としては、上述したような公知のアンモニアストリッパー等を使用してよい。
【0052】
図2のアンモニアの回収装置において、(A)吸着部と(B)第一分離部とが一体のものとして構成されていてもよく、(B)第一分離部と(C)第一接触部とが一体のものとして構成されていてもよく、(C)第一接触部と(D)第二分離部とが一体のものとして構成してもよい。更に、(A)吸着部と(B)第一分離部と(C)第一接触部とが一体のものとして構成されていてもよく、(B)第一分離部と(C)第一接触部と(D)第二分離部とが一体のものとして構成されていてもよく、(A)吸着部と(B)第一分離部と(C)第一接触部と(D)第二分離部とが一体のものとして構成されていてもよい。
例えば、(A)吸着部と(B)第一分離部とが一体である場合、一つの反応器内で、(a)吸着工程と(b)第一分離工程とが、引き続いて行われてよい。
他の場合も同様に理解されてよい。
【0053】
図2には、更に、
アンモニアの回収に供される原料排水が硫酸アンモニウムを含有する水溶液であり、
(A)吸着部において使用される吸着剤がナトリウム型の強酸性カチオン交換樹脂であり、
(C)第一接触部において使用される塩水溶液が塩化ナトリウム水溶液であり、
(E)第二接触部において使用されるアルカリ成分が水酸化カルシウムである
場合を例にとり、装置の各部に供給され、又は装置の各部から排出される成分が付記されている。
図2におけるRは、強酸性カチオン交換樹脂のアニオン残基を示す。
【0054】
《コスト比較》
上述したとおり、本発明のアンモニア回収方法において、
回収に供される原料排水が硫酸アンモニウムを含有する水溶液であり、
(a)吸着工程における吸着剤がナトリウム型の強酸性カチオン交換樹脂であり、
(c)第一接触工程における塩水溶液が塩化ナトリウム水溶液であり、
(e)第二接触工程におけるアルカリ成分が水酸化カルシウムである
場合、(a)吸着工程、(c)第一接触工程、及び(e)第二接触工程において想定される反応式は、それぞれ以下のとおりである。
【0055】
(a)吸着工程:2R-Na+(NH4)2SO4→2R-NH4+Na2SO4
(c)第一接触工程:R-NH4+NaCl→R-Na+NH4Cl
(e)第二接触工程:2NH4Cl+Ca(OH)2→2NH4OH+CaCl2
そして、第三分離工程において、蒸留によって、アンモニア(水酸化アンモニウム)水溶液とCaCl2とを分離して、高濃度のアンモニア水を得る。
上記式におけるRは、強酸性カチオン交換樹脂のアニオン残基を示す。
【0056】
一方、第一接触工程において、塩水溶液の代わりに水酸化ナトリウムの水溶液を使用することも考えられる。このようなアンモニアの回収方法(以下、「水酸化ナトリウム法」という。)は、以下のように表すことができる。
(a’)アンモニウム塩を含有する溶液を吸着剤に接触させて、アンモニアを前記吸着剤に吸着させる工程(吸着工程)、
(b’)前記アンモニアを吸着している前記吸着剤と、前記吸着剤に接触した後の溶液とを分離する工程(第一分離工程)、
(c’)前記アンモニアを吸着している前記吸着剤を、水酸化ナトリウム水溶液に接触させ、アンモニウム塩水溶液を形成させる工程(第一接触工程)、
(d’)前記アンモニウム塩水溶液と、前記塩水溶液に接触した後の前記吸着剤とを分離する工程(第二分離工程)、
(f’)前記アンモニウム塩水溶液を蒸留して、高濃度アンモニア水を得る工程(濃縮工程)、
を含む、アンモニアの回収方法である。
水酸化ナトリウム法では、本発明の「(e)第二接触工程」に相当する工程は不要である。
【0057】
水酸化ナトリウム法の各工程において想定される反応式は、それぞれ以下のとおりである。
(a’)吸着工程:2R-Na+(NH4)2SO4→2R-NH4+Na2SO4
(c’)第一接触工程:R-NH4+NaOH→R-Na+NH4OH
そして、「(f’)濃縮工程」において、蒸留によって、アンモニア(水酸化アンモニウム)水溶液を濃縮して、高濃度のアンモニア水を得る。
上記式におけるRは、強酸性カチオン交換樹脂のアニオン残基を示す。
【0058】
本発明のアンモニアの回収方法、及び水酸化ナトリウム法によるアンモニアの回収について、回収に供されるアンモニウム塩を含有する溶液の供給量が、アンモニア換算量として、1時間当たり1,000kg(1,000kg/h)の場合のランニングコストを比較した結果を下記表1に示す。表1に示した「単価」欄の数値は、参考値である。
本発明のアンモニアの回収方法と水酸化ナトリウム法との主な違いは、以下の2点である:
本発明では塩化ナトリウム及び水酸化カルシウムを使用するのに対して、水酸化ナトリウム法ではこれらの代わりに水酸化ナトリウムを用いること;並びに
本発明では、(f)第三分離工程において、CaCl2の共存により、大きな沸点上昇が見込まれるのに対して、水酸化ナトリウム法の(f’)濃縮工程では、そのような効果が期待されないこと。
なお、(f)第三分離工程における沸点上昇が大きいと、少ない加熱エネルギーによって、水溶液からの水の蒸発を抑制しつつ、アンモニアを気化させることが可能となるので、エネルギー消費を低減することができる。下記の表1では、加熱エネルギー量は、蒸気量に換算して示されている。
【0059】
【0060】
表1から理解されるとおり、本発明のアンモニアの回収方法は、水酸化ナトリウム法に比べて、使用薬剤の種類が多く、かつ、工程が1つ増えているにもかかわらず、アンモニア回収のコスト面で大きな利点を有する。