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特開2024-25157刃物、刃物構造、および刃物の製造方法
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  • 特開-刃物、刃物構造、および刃物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025157
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】刃物、刃物構造、および刃物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B26B 3/00 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
B26B3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128375
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】504462836
【氏名又は名称】福田刃物工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】北村 雅人
(72)【発明者】
【氏名】本田 敬
【テーマコード(参考)】
3C061
【Fターム(参考)】
3C061AA02
3C061BA03
3C061BA17
3C061BB10
3C061DD15
3C061EE08
3C061EE13
(57)【要約】
【課題】材質に関わらず刃体の損傷を抑制して刃体を柄部に保持させることが可能な刃物、刃物構造、および刃物の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂口金20を介して刃体10の中子12が柄部30に取付けられている刃物1であり、刃体10は、中子12の周縁に形成されている切欠部13を有し、樹脂口金20は、柱状の本体部21と、本体部21に形成され中子12が挿入されるスリット22と、スリット22に中子12が挿入されている状態で切欠部13を通るように本体部21を貫通している貫通孔23と、貫通孔23に挿入される接続ピン24とを有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂口金を介して刃体の中子が柄部に取付けられている刃物であり、
前記刃体は、
前記中子の周縁に形成されている切欠部を有しており、
前記樹脂口金は、
柱状の本体部と、
該本体部に形成されており、前記中子が挿入されているスリットと、
該スリットに前記中子が挿入されている状態で、前記切欠部を通るように前記本体部を貫通している貫通孔と、
該貫通孔に挿入されている接続ピンと
を有している
ことを特徴とする刃物。
【請求項2】
前記刃体は、
前記中子の周縁に少なくとも一つ形成されている第二切欠部を有している
ことを特徴とする請求項1に記載の刃物。
【請求項3】
樹脂口金を介して刃体が柄部に取付けられている刃物構造であり、
前記刃体は、
前記中子の周縁に形成されている切欠部を有しており、
前記樹脂口金は、
柱状の本体部と、
該本体部に形成されており、前記中子が挿入されているスリットと、
該スリットに前記中子が挿入されている状態で、前記切欠部を通るように前記本体部を貫通している貫通孔と、
該貫通孔に挿入されて前記切欠部の内部を通っている接続ピンと
を有している
ことを特徴とする刃物構造。
【請求項4】
前記樹脂口金は、
前記本体部の外表面に開口している止り孔状の第一孔部と、
該第一孔部に挿入されており、該第一孔部の深さよりも短い長さのロックピンと、
該ロックピンと前記第一孔部の底部との間に設けられており、前記ロックピンを前記第一孔部から突出する方向へ付勢しているロックバネと
を有しており、
前記柄部は、
前記樹脂口金の前記本体部が挿入されている溝状の挿入部と、
該挿入部の内表面において前記第一孔部と一致している部位に開口しており、前記ロックピンの長さよりも短い深さで止り孔状の第二孔部と
を有しており、
前記ロックバネにより付勢されている前記ロックピンが、前記第一孔部と前記第二孔部の双方に跨るように挿入されている
ことを特徴とする請求項3に記載の刃物構造。
【請求項5】
樹脂口金を介して刃体が柄部に取付けられている刃物の製造方法であり、
前記刃体は、
前記中子の周縁に形成されている切欠部を有しており、
前記樹脂口金は、
柱状の本体部と、
該本体部に形成されており、前記中子が挿入されるスリットと、
該スリットに前記中子を挿入した状態で、前記切欠部を通るように前記本体部を貫通している貫通孔と、
該貫通孔に挿入される接続ピンと
を有しており、
前記中子を前記スリットに挿入して前記切欠部と前記貫通孔とを一致させた状態で、前記切欠部および前記貫通孔に前記接続ピンを挿入することにより、前記刃体を前記樹脂口金に固定する
ことを特徴とする刃物の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂口金は、
前記本体部の外表面に開口している止り孔状の第一孔部と、
該第一孔部に挿入されており、該第一孔部の深さよりも短い長さのロックピンと、
該ロックピンと前記第一孔部の底部との間に設けられており、前記ロックピンを前記第一孔部から突出する方向へ付勢しているロックバネと
を有しており、
前記柄部は、
前記樹脂口金の前記本体部がスライド挿入される溝状の挿入部と、
該挿入部の内表面において前記第一孔部と一致している部位に開口しており、前記ロックピンの長さよりも短い深さで止り孔状の第二孔部と
を有し、
前記ロックピンを前記ロックバネの付勢力に抗して前記第一孔部に没入させた状態で、前記樹脂口金の前記本体部を前記挿入部に挿入させ、前記第一孔部と前記第二孔部とが一致する部位まで前記本体部をスライドさせることにより、前記ロックバネの付勢力により前記ロックピンの一部を前記第一孔部から突出させて前記第二孔部に挿入することにより、前記樹脂口金を前記柄部に固定する
ことを特徴とする請求項5に記載の刃物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包丁やナイフなどの刃物、その刃物の刃物構造、および刃物構造が構築された刃物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
包丁やナイフなどの刃体を柄部に取り付けるために、刃体の基部には、「中子(茎子)」と称される部分が設けられている。中子は、刃体における刃部の幅より細く、平板状に突出した部分である。そして、洋包丁やナイフでは、中子を半割の柄部で挟み込み、リベット(鋲)を貫通させて中子と柄部とを一体化させる方法が多用されている。類似の方法として、中子の一部のみが柄部の外表面にあらわれるように、柄部に側方に開口するスリットを形成しておき、このスリットに中子を挿し込んだ状態で、リベットを貫通させて中子と柄部とを一体化させる方法もある。
【0003】
しかしながら、刃体が超硬合金製やセラミックス製など、鋼の刃体より硬いが脆い材質の場合、リベットを貫通させることで割れるなど損傷し易いという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、材質に関わらず刃体の損傷を抑制して刃体を柄部に保持させることが可能な刃物、刃物構造、および刃物の製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明に係る刃物は、
「樹脂口金を介して刃体の中子が柄部に取付けられている刃物であり、
前記刃体は、
前記中子の周縁に形成されている切欠部を有しており、
前記樹脂口金は、
柱状の本体部と、
該本体部に形成されており、前記中子が挿入されているスリットと、
該スリットに前記中子が挿入されている状態で、前記切欠部を通るように前記本体部を貫通している貫通孔と、
該貫通孔に挿入されている接続ピンと
を有している」
ことを特徴とする。
【0006】
「刃物」としては、包丁(和包丁、洋包丁)、ナイフ、鉈、鎌、鋸、短刀、を例示することができる。
【0007】
本構成の刃物は、刃体の中子の周縁に切欠部を有しており、その中子が樹脂口金のスリットに挿入されていると共に、樹脂口金の貫通孔に挿入されている接続ピンが切欠部を通っている。従って、中子がスリットから抜け出る方向に外力が作用したとしても、切欠部が接続ピンに当接し、中子がスリットから抜け出ることはなく、刃体と樹脂口金とが一体的に固定されている。これにより、従来の刃物とは異なり中子にリベットを貫通させていないため、刃体が超硬合金製やセラミックス製など、鋼の刃体より硬いが脆い材質であっても、割れるなど損傷することはない。従って、材質に関わらず刃体の損傷を抑制して刃体を柄部に保持させることが可能である。
【0008】
本発明に係る刃物は、上記の構成に加えて、
「前記刃体は、
前記中子の周縁に少なくとも一つ形成されている第二切欠部を有している」
ことを特徴としても良い。
【0009】
本構成によれば、中子の周縁に、接続ピンが通る切欠部に加えて、少なくとも一つの第二切欠部を有しているため、第二切欠部の存在により中子の周縁の表面積を増大させることができる。従って、中子の外表面とスリットの内表面とを接着剤で接着する場合、第二切欠部により接着面積が大きくなるため、中子と樹脂口金との接着強度をより高めることができる。
【0010】
本発明に係る刃物構造は、
「樹脂口金を介して刃体が柄部に取付けられている刃物構造であり、
前記刃体は、
前記中子の周縁に形成されている切欠部を有しており、
前記樹脂口金は、
柱状の本体部と、
該本体部に形成されており、前記中子が挿入されているスリットと、
該スリットに前記中子が挿入されている状態で、前記切欠部を通るように前記本体部を貫通している貫通孔と、
該貫通孔に挿入されて前記切欠部の内部を通っている接続ピンと
を有している」
ことを特徴とする。
【0011】
本構成の刃物構造によれば、上記の刃物と同様に、貫通孔に挿入されている接続ピンが中子の切欠部を通っていることから、中子がスリットから抜け出ることはなく、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0012】
本発明に係る刃物構造は、上記の構成に加えて、
「前記樹脂口金は、
前記本体部の外表面に開口している止り孔状の第一孔部と、
該第一孔部に挿入されており、該第一孔部の深さよりも短い長さのロックピンと、
該ロックピンと前記第一孔部の底部との間に設けられており、前記ロックピンを前記第一孔部から突出する方向へ付勢しているロックバネと
を有しており、
前記柄部は、
前記樹脂口金の前記本体部が挿入されている溝状の挿入部と、
該挿入部の内表面において前記第一孔部と一致している部位に開口しており、前記ロックピンの長さよりも短い深さで止り孔状の第二孔部と
を有しており、
前記ロックバネにより付勢されている前記ロックピンが、前記第一孔部と前記第二孔部の双方に跨るように挿入されている」
ことを特徴としても良い。
【0013】
「挿入部」としては、スライド挿入されるスライド方向へのみ樹脂口金がスライド可能なものであれば良く、内面の一部が外部へ開放されている溝状のもの、スライド方向へ凹んでいる孔状のもの、を例示することができる。
【0014】
本構成の刃物構造によれば、刃体が固定されている樹脂口金の本体部が、柄部の挿入部に挿入されていると共に、ロックバネにより付勢されて第一孔部から一部が突出しているロックピンが、挿入部の内面に設けられている第二孔部に挿入されているため、当該ロックピンにより樹脂口金のスライドが規制され、樹脂口金が挿入部から抜けることはない。そして、樹脂口金を介して刃体を柄部に取付けていることから、刃体の材質に応じた固定方法で樹脂口金に刃体を固定することが可能であり、材質に関わらず刃体の損傷を抑制することができる。
【0015】
本発明に係る刃物の製造方法は、
「樹脂口金を介して刃体が柄部に取付けられている刃物の製造方法であり、
前記刃体は、
前記中子の周縁に形成されている切欠部を有しており、
前記樹脂口金は、
柱状の本体部と、
該本体部に形成されており、前記中子が挿入されるスリットと、
該スリットに前記中子を挿入した状態で、前記切欠部を通るように前記本体部を貫通している貫通孔と、
該貫通孔に挿入される接続ピンと
を有しており、
前記中子を前記スリットに挿入して前記切欠部と前記貫通孔とを一致させた状態で、前記切欠部および前記貫通孔に前記接続ピンを挿入することにより、前記刃体を前記樹脂口金に固定する」
ことを特徴とする。
【0016】
本構成の刃物の製造方法によれば、上記における刃体と樹脂口金との固定に関する刃物構造を構築することができる。
【0017】
本発明に係る刃物の製造方法は、上記の構成に加えて、
「前記樹脂口金は、
前記本体部の外表面に開口している止り孔状の第一孔部と、
該第一孔部に挿入されており、該第一孔部の深さよりも短い長さのロックピンと、
該ロックピンと前記第一孔部の底部との間に設けられており、前記ロックピンを前記第一孔部から突出する方向へ付勢しているロックバネと
を有しており、
前記柄部は、
前記樹脂口金の前記本体部がスライド挿入される溝状の挿入部と、
該挿入部の内表面において前記第一孔部と一致している部位に開口しており、前記ロックピンの長さよりも短い深さで止り孔状の第二孔部と
を有し、
前記ロックピンを前記ロックバネの付勢力に抗して前記第一孔部に没入させた状態で、前記樹脂口金の前記本体部を前記挿入部に挿入させ、前記第一孔部と前記第二孔部とが一致する部位まで前記本体部をスライドさせることにより、前記ロックバネの付勢力により前記ロックピンの一部を前記第一孔部から突出させて前記第二孔部に挿入することにより、前記樹脂口金を前記柄部に固定する」
ことを特徴としても良い。
【0018】
本構成の刃物の製造方法によれば、上記における樹脂口金と柄部との固定に関する刃物構造を構築することができる。また、刃体が固定されている樹脂口金を、柄部の挿入部にスライド挿入させて第一孔部と第二孔部とを一致させるだけで、ロックピンにより樹脂口金のスライドを規制して柄部に取付けることができるため、樹脂口金と柄部との組立てが容易である。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の効果として、材質に関わらず刃体の損傷を抑制して刃体を柄部に保持させることが可能な刃物、刃物構造、および刃物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)は本発明の一実施形態である刃物の側面図であり、(b)は(a)の刃物を背面から見た斜視図である。
図2図1の刃物の分解斜視図である。
図3】(a)は刃体が固定されている樹脂口金の軸線上に柄部が位置している状態を断面で示す説明図であり、(b)は(a)の状態から樹脂口金を柄部の挿入部内にスライド挿入させている途中の状態を示す説明図であり、(c)は(b)の状態から樹脂口金の第一孔部と柄部の第二孔部とが一致してロックバネにより付勢されたロックピンの一部が第二孔部に挿入されている状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態である刃物1、刃物構造、および当該刃物1の製造方法について、図1図3を参照して詳細に説明する。刃物1は、刃体10と、樹脂口金20と、柄部30とを備えており、樹脂口金20を介して刃体10が柄部30に取付けられている。本実施形態の刃物1は、包丁である。
【0022】
刃体10は、切り刃が形成されている片刃の刃部11と、刃部11の切っ先(剣先)とは反対側の端部から板状に延出している中子12(茎子)と、中子12の周縁に形成されている切欠部13と、中子12の周縁で切欠部13とは異なる部位に形成されている複数の第二切欠部14と、を有している。
【0023】
中子12は、刃部11の幅よりも細い幅で延出しており、周縁におけるみね(背)側が刃部11のみねと連続するように設けられている。中子12と刃部11との境界部分におけるみねとは反対側の角部分は、R形状に形成されている。これにより、使用時における荷重の集中を低減させることができる。
【0024】
切欠部13は、中子12の周縁の延長線を底辺とし刃部11側が角部となる略直角三角形状に凹んでおり、角部が当該直角三角形の高さを直径とする円弧状に丸められている。複数の第二切欠部14は、半円弧状に凹んでいる。この複数の第二切欠部14の存在により、中子12の周縁の表面積が増加している。
【0025】
樹脂口金20は、柱状の本体部21と、本体部21の長手方向の一端に開口しているスリット22と、本体部21においてスリット22と交差するように貫通している貫通孔23と、貫通孔23に挿入される接続ピン24と、を有している。
【0026】
本体部21は、円柱状に延出している第一柱状部21aと、第一柱状部21aと同軸上で間隔をあけて設けられている円柱状の第二柱状部21bと、第一柱状部21aと第二柱状部21bそれぞれの外周面の一部を繋いでいるガイド板部21cと、を有している。第二柱状部21bは、第一柱状部21aの直径よりも小さい直径で円柱状に延出している。ガイド板部21cは、第二柱状部21bの直径よりも小さい厚さの帯板状で、一方の板厚面が第一柱状部21aと第二柱状部21bとに接しており、第一柱状部21aと第二柱状部21bとに跨る長さに形成されている。
【0027】
また、本体部21は、ガイド板部21cにおける第一柱状部21aおよび第二柱状部21bとは反対側の板厚面と接すると共に第一柱状部21aにおける第二柱状部21bとは反対側の端面と接するように設けられている口金部21dと、第一柱状部21aと第二柱状部21bとの間に設けられている空隙である保持部21eと、を有している。
【0028】
口金部21dは、ガイド板部21cと接している部分が、ガイド板部21cの板厚よりも幅広に形成されている。また、口金部21dは、第一柱状部21aと接している部分の幅長さが、第一柱状部21aの直径よりも大きく形成されている。この口金部21dは、スリット22が開口している端面側では本体部21の全周にわたっており、スリット22が開口している端面へ向かって先細りに形成されている。保持部21eは、後述するウエイト28を保持するための空隙である。
【0029】
スリット22は、本体部21における口金部21dの先細りした端面において細長く開口しており、その奥行き長さは第一柱状部21aの保持部21e側の端部付近まで至っている。このスリット22には、刃体10の中子12が挿入される。貫通孔23は、本体部21における第一柱状部21aにおいて、スリット22に刃体10の中子12を挿入した状態で切欠部13を通る部位に形成されている。接続ピン24は、貫通孔23の両端の開口から突出しない長さの円柱状に形成されている。
【0030】
また、樹脂口金20は、第二柱状部21bにおいてガイド板部21cとは反対側の外周面に開口した止り孔状の第一孔部25と、第一孔部25に挿入されているロックピン26と、ロックピン26と第一孔部25の底部との間に設けられておりロックピン26を第一孔部25から突出する方向へ付勢しているロックバネ27と、を有している。
【0031】
ロックピン26は、第一孔部25の深さよりも短く、ロックバネ27の付勢力に抗して第一孔部25に没入可能な長さの円柱状に形成されている。ロックバネ27は、本実施形態では、圧縮コイルバネである。
【0032】
更に、樹脂口金20は、本体部21に保持されているウエイト28を有している。ウエイト28は、第二柱状部21bと同じ直径の円柱状であり、第一柱状部21aと第二柱状部21bとの間の保持部21eに保持されている。
【0033】
柄部30は、棒状の柄本体31と、柄本体31に形成されている溝状の挿入部32と、挿入部32の内表面に開口する止り孔状の第二孔部33と、を有している。
【0034】
挿入部32は、柄本体31の長手方向の両端面のうちの一方に開口している端面開口部32aと、柄本体31の外周面において端面開口部32aから柄本体31の長手方向へ細長く開口している周面開口部32bと、を有している。この挿入部32の内表面は、樹脂口金20の本体部21の一部(第一柱状部21a、第二柱状部21b、およびガイド板部21c)が軸方向へスライド挿入されるように、その外周面と対応した形状に形成されている。
【0035】
第二孔部33は、挿入部32に本体部21の一部を挿入した状態で、挿入部32の内表面において第一孔部25と一致する部位に形成されている。第一孔部25の深さは、接続ピン24の長さよりも短い。
【0036】
本実施形態では、刃体10が超硬合金であり、樹脂口金20がポリアミド(PA)のような合成樹脂であり、柄部30が天然木材である。また、接続ピン24、ロックピン26、およびウエイト28は、ステンレス鋼である。更に、中子12の表面とスリット22の内面とは、エポキシ系の接着剤により接着されている。なお、刃体10は、鋼、ステンレス鋼、セラミックス、などとしても良い。
【0037】
続いて、上記の刃体10と樹脂口金20と柄部30とを組立てて刃物1を製造する刃物の製造方法について説明する。まず、刃体10と樹脂口金20との固定について説明する。刃体10のみねと、樹脂口金20の口金部21dにおけるガイド板部21cと沿って延びている部位とを、同じ方向へ向けた状態で、刃体10の中子12をスリット22に挿入する。この際に、中子12の表面に接着剤を塗布しておく。スリット22は、中子12を完全に挿入したときに、切欠部13が貫通孔23と一致する形状に形成されている。そこで、中子12の挿入後、切欠部13を通るように接続ピン24を貫通孔23に挿入し、接続ピン24をカシメる。これにより、樹脂口金20に刃体10が固定された状態となる。なお、中子12の表面に接着剤を塗布しているため、接続ピン24をカシメずに、当該接着剤により接着するようにしても良い。
【0038】
次に、樹脂口金20において、本体部21の保持部21eにウエイト28を保持させる。この際に、円柱状のウエイト28の軸芯を第一柱状部21a(第二柱状部21b)の軸芯と同軸上にする。保持部21eへのウエイト28の保持は、ウエイト28を接着しても良いし、第一柱状部21aと第二柱状部21bとの間に圧入しても良い。また、ウエイト28は、樹脂口金20に刃体10を固定する前に保持させても良い。
【0039】
次に、刃体10が固定されている樹脂口金20を柄部30に取付ける。具体的には、樹脂口金20における本体部21の第二柱状部21b側を、柄部30における挿入部32の端面開口部32aへ向けると共に、樹脂口金20の口金部21dにおいてガイド板部21cに沿って延びている部位と、挿入部32の周面開口部32bとを同じ方向へ向けた状態にする。更に、樹脂口金20の第一孔部25にロックバネ27とロックピン26を挿入し、ロックピン26をロックバネ27の付勢力に抗して第一孔部25に没入させた状態にする(図3(a)を参照)。
【0040】
この状態で、樹脂口金20を柄部30側へ移動させ、その本体部21の一部(第一柱状部21a、第二柱状部21b、およびガイド板部21c)を端面開口部32aから挿入部32に挿入して、挿入部32内でスライドさせる。本体部21が挿入部32内をスライドしている状態では、ロックバネ27により付勢されているロックピン26の先端が挿入部32の内表面に接触しており、ロックピン26が第一孔部25から抜けることはない(図3(b)を参照)。
【0041】
そして、本体部21の一部が挿入部32の奥へ向かうように、樹脂口金30をスライドさせ、第一孔部25と第二孔部33とが一致すると、ロックバネ27の付勢力によりロックピン26の先端が第一孔部25から突出して第二孔部33に挿入された状態になる(図3(c)を参照)。この際に、第二孔部33の深さは、ロックピン26の長さよりも短い(浅い)ため、ロックピン26は第二孔部33の底部に押し付けられつつ、第一孔部25と第二孔部33の双方に跨っている状態となる。これにより、樹脂口金20は、柄部30に対してスライド方向(柄部30の長手方向)への移動が規制され、端面開口部32a側へ抜けることはない。また、樹脂口金20の本体部21における第一柱状部21aおよび第二柱状部21bそれぞれの直径は、挿入部32における周面開口部32bの幅よりも大きいため、周面開口部32b側へも抜けることはない。つまり、第二孔部33にロックピン26が入り込んだ時点で、樹脂口金20が柄部30に固定(ロック)される。
【0042】
このように、樹脂口金20が柄部30に固定されて刃物1が製造された状態となる。つまり、本発明の刃物構造を構築することができる。この状態では、樹脂口金20の貫通孔23が、柄部30の挿入部32内に位置しており、貫通孔23や接続ピン24が外部から見えることはない。また、この状態では、柄部30における挿入部32の端面開口部32aと周面開口部32bとが、樹脂口金20における本体部21の口金部21dによって閉鎖されている。ここで、樹脂口金20および柄部30は、樹脂口金20が柄部30に固定された状態で、両者の外周面が連続する形状に形成されている。
【0043】
なお、ロックピン26による取付けに加えて、樹脂口金20と柄部30とを接着剤により接着するようにしても良い。また、挿入部32の内表面における第一柱状部21aと第二柱状部21b(及びウエイト28)とにそれぞれ対応している部位の境界部分にある段の部分を、第二柱状部21b側へ傾斜させるようにしても良い。これにより、本体部21の一部を挿入部32へ挿入してスライドさせている途中で、ロックバネ27の付勢力によりロックピン26の先端が第一孔部25から突出しても、当該傾斜させた部分によりロックピン26をロックバネ27の付勢力に抗して第一孔部25に没入させることができ、第一孔部25と第二孔部33とが一致する部位まで確実にスライドさせることができる。
【0044】
本実施形態によれば、刃体10の中子12の周縁に切欠部13を有しており、その中子12が樹脂口金20のスリット22に挿入されていると共に、樹脂口金20の貫通孔23に挿入されている接続ピン24が切欠部13を通っている。従って、中子12がスリット22から抜け出る方向に外力が作用したとしても、切欠部13が接続ピン24に当接し、中子12がスリット22から抜け出ることはなく、刃体10と樹脂口金20とが一体的に固定されている。これにより、従来の刃物とは異なり中子12にリベットを貫通させていないため、刃体10が超硬合金のような鋼の刃体より硬いが脆い材質であっても、割れるなど損傷することはない。そして、樹脂口金20は、その貫通孔23が覆われるように柄部30に取付けられているため、外部から貫通孔23や接続ピン24が見えることはなく、リベットを貫通させている従来の刃物よりも外観の良いものとなっている。
【0045】
また、本実施形態によれば、中子12の周縁に、接続ピン24が通る切欠部13に加えて、複数の第二切欠部14を有しているため、第二切欠部14の存在により中子12の周縁の表面積を増大させることができる。従って、中子12の外表面とスリット22の内表面との接着面積が大きくなるため、中子12と樹脂口金20との接着強度をより高めることができる。
【0046】
更に、本実施形態によれば、刃体10が固定されている樹脂口金20の本体部21が、柄部30の挿入部32に挿入されていると共に、ロックバネ27により付勢されて第一孔部25から一部が突出しているロックピン26が、挿入部32の内表面に開口している第二孔部33に挿入されているため、当該ロックピン26により樹脂口金20のスライドが規制され、樹脂口金20が挿入部32から抜け出ることはない。そして、樹脂口金20を介して刃体10を柄部30に取付けていることから、刃体10の材質に応じた固定方法で樹脂口金20に刃体10を固定することが可能であり、材質に関わらず刃体10の損傷を抑制して刃体10を柄部30に保持させることができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、刃体10が固定されている樹脂口金20を、柄部30の挿入部32にスライド挿入させて第一孔部25と第二孔部33とを一致させるだけで、ロックピン26により樹脂口金20のスライドを規制して柄部30に取付けることができるため、樹脂口金20と柄部30との組立てが容易である。
【0048】
更に、本実施形態によれば、口金を合成樹脂からなる樹脂口金20としているため、口金を金属とした場合と比較して、刃体と口金それぞれのイオン化傾向の違いによる腐食の発生を回避させることができる。また、中子12を樹脂口金20に接着していることから、中子12とスリット22との隙間が接着剤により埋められているため、水分の侵入を防ぐことができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、樹脂口金20の保持部21eにウエイト28を保持させることによって、柄部30の内部にウエイト28を設けているため、ウエイト28の重さにより刃物1の重心を調整し、刃物1の使用感を高めることができる。
【0050】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0051】
例えば、上記の実施形態では、刃物1として包丁を示したが、これに限定するものではなく、刃物として、ナイフ、鉈、鎌、鋸、短刀、などとしても良い。
【0052】
また、上記の実施形態では、中子12の切欠部13に接続ピン24を通すことで刃体10が固定された樹脂口金20と、柄部30との取付けとして、樹脂口金20の本体部21がスライド挿入されている柄部30の挿入部32内において、本体部21の第一孔部25から突出させたロックピン26の先端を、挿入部32の内面の第二孔部33に挿入させて取付けるものを示したが、これに限定するものではなく、樹脂口金の本体部を柄部の挿入部内に圧入または接着して取付けるようにしても良いし、樹脂口金の本体部と柄部の柄本体とを一緒に貫通させたリベットにより取付けるようにしても良い。
【0053】
更に、上記の実施形態では、樹脂口金20の一部が挿入される柄部30の挿入部32として、柄本体31の端面と外周面とに開口している溝状のものを示したが、これに限定するものではなく、柄本体31の端面にのみ開口している孔状のものとしても良い。
【0054】
また、上記の実施形態では、ロックバネ27として圧縮コイルバネを示したが、これに限定するものではなく、ロックピン26を第一孔部25から突出する方向に付勢するバネであれば、板バネであっても良い。
【符号の説明】
【0055】
1 刃物
10 刃体
11 刃部
12 中子
13 切欠部
14 第二切欠部
20 樹脂口金
21 本体部
22 スリット
23 貫通孔
24 接続ピン
25 第一孔部
26 ロックピン
27 ロックバネ
30 柄部
31 柄本体
32 挿入部
33 第二孔部
図1
図2
図3