(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025159
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】非水二次電池用正極板、非水二次電池、非水二次電池用正極板の製造方法及び非水二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240216BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240216BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240216BHJP
H01M 4/1391 20100101ALN20240216BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/1391
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128381
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】坂井 遼太郎
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA18
5H050EA08
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA12
5H050HA07
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】非水二次電池の特性を向上させることができる非水二次電池用正極板、非水二次電池、非水二次電池用正極板の製造方法及び非水二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】非水二次電池用正極板の製造方法は、非水二次電池用正極板の製造前において比表面積が1.5m
2/g以上3.0m
2/g以下である正極活物質の粒子が用いられ、非水二次電池用正極板の製造後における非水二次電池用正極板の比表面積と正極活物質の粒子の比表面積との差分が0.66m
2/g以上1.8m
2/g以下である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極基材と、少なくとも正極活物質を含む正極合材層とを備える非水二次電池用正極板であって、
前記非水二次電池用正極板の製造前において比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下である前記正極活物質の粒子が用いられ、
前記非水二次電池用正極板の製造後における前記非水二次電池用正極板の比表面積と前記正極活物質の粒子の比表面積との差分が0.66m2/g以上1.8m2/g以下である、
非水二次電池用正極板。
【請求項2】
正極基材と、少なくとも正極活物質を含む正極合材層とを有する正極板を備える非水二次電池であって、
前記正極板の製造前において比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下である前記正極活物質の粒子が用いられ、
前記正極板の製造後における前記正極板の比表面積と前記正極活物質の粒子の比表面積との差分が0.66m2/g以上1.8m2/g以下である、
非水二次電池。
【請求項3】
正極基材と、少なくとも正極活物質を含む正極合材層とを備える非水二次電池用正極板の製造方法であって、
前記非水二次電池用正極板の製造前において比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下である前記正極活物質の粒子が用いられ、
前記非水二次電池用正極板の製造後における前記非水二次電池用正極板の比表面積と前記正極活物質の粒子の比表面積との差分が0.66m2/g以上1.8m2/g以下である、
非水二次電池用正極板の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の非水二次電池用正極板の製造方法において、
前記非水二次電池用正極板の製造後において前記正極合材層の密度が2.2mg/cm3以上3.0mg/cm3以下である、
非水二次電池用正極板の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の非水二次電池用正極板の製造方法において、
前記正極活物質は、三元系正極活物質である、
非水二次電池用正極板の製造方法。
【請求項6】
請求項3又は請求項4に記載の非水二次電池用正極板の製造方法において、
前記正極合材層は、正極導電材を含み、
前記正極導電材は、前記非水二次電池用正極板の製造前の比表面積が150m2/g以上300m2/g以下であるカーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーのうち何れかである、
非水二次電池用正極板の製造方法。
【請求項7】
請求項3又は請求項4に記載の非水二次電池用正極板の製造方法において、
前記正極合材層は、少なくとも前記正極活物質と正極溶媒とを含む正極合材ペーストが前記正極基材に塗工された状態で乾燥されることにより前記正極基材に設けられ、
前記正極溶媒は、非水溶媒である、
非水二次電池用正極板の製造方法。
【請求項8】
正極基材と、少なくとも正極活物質を含む正極合材層とを有する正極板を備える非水二次電池の製造方法であって、
前記正極板の製造前において比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下である前記正極活物質の粒子が用いられ、
前記正極板の製造後における前記正極板の比表面積と前記正極活物質の粒子の比表面積との差分が0.66m2/g以上1.8m2/g以下である、
非水二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池用正極板、非水二次電池、非水二次電池用正極板の製造方法及び非水二次電池の製造方法に係り、詳しくは、非水二次電池の特性を向上させることができる非水二次電池用正極板、非水二次電池、非水二次電池用正極板の製造方法及び非水二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より非水二次電池は、負極板、正極板及びセパレータを有する電極体を備える。このような電極体は、負極板、正極板及びセパレータが積層方向に積層された状態で非水電解液とともに電池ケースに収容されている。各極板においては、電極基材に電極合材層が形成されており、その電極合材層には、少なくとも活物質が含まれている。各電極板として製造されたときに、電極板の比表面積は、例えば非水二次電池の容量などの非水二次電池の特性に影響を与える。
【0003】
このような非水二次電池の製造方法としては、例えば特許文献1のように、比表面積が0.6~1.5m2/gである正極活物質を用いて、正極板の比表面積が0.5~2m2/g以下となる方法が開示されている。これにより、放電特性や出力特性に優れた非水二次電池を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明において、正極板の製造における比表面積について新たな指標を用いることにより、非水二次電池の特性を更に向上させることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する非水二次電池用正極板の態様を記載する。
[態様1]正極基材と、少なくとも正極活物質を含む正極合材層とを備える非水二次電池用正極板であって、前記非水二次電池用正極板の製造前において比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下である前記正極活物質の粒子が用いられ、前記非水二次電池用正極板の製造後における前記非水二次電池用正極板の比表面積と前記正極活物質の粒子の比表面積との差分が0.66m2/g以上1.8m2/g以下である、非水二次電池用正極板。
【0007】
上記構成によれば、非水二次電池の内部抵抗の悪化を抑制しつつも、正極活物質の新生面の形成を最小限に押させることにより、非水二次電池の過充電耐性の悪化及び保存特性の悪化を抑制することができる。したがって、非水二次電池の特性を向上させることができる。
【0008】
上記課題を解決する非水二次電池の態様を記載する。
[態様2]正極基材と、少なくとも正極活物質を含む正極合材層とを有する正極板を備える非水二次電池であって、前記正極板の製造前において比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下である前記正極活物質の粒子が用いられ、前記正極板の製造後における前記正極板の比表面積と前記正極活物質の粒子の比表面積との差分が0.66m2/g以上1.8m2/g以下である、非水二次電池。
【0009】
上記課題を解決する非水二次電池用正極板の製造方法の各態様を記載する。
[態様3]正極基材と、少なくとも正極活物質を含む正極合材層とを備える非水二次電池用正極板の製造方法であって、前記非水二次電池用正極板の製造前において比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下である前記正極活物質の粒子が用いられ、前記非水二次電池用正極板の製造後における前記非水二次電池用正極板の比表面積と前記正極活物質の粒子の比表面積との差分が0.66m2/g以上1.8m2/g以下である、非水二次電池用正極板の製造方法。
【0010】
[態様4][態様3]に記載の非水二次電池用正極板の製造方法において、前記非水二次電池用正極板の製造後において前記正極合材層の密度が2.2mg/cm3以上3.0mg/cm3以下である、非水二次電池用正極板の製造方法。
【0011】
上記構成によれば、非水二次電池の内部抵抗の悪化を抑制しつつも、過充電耐性の悪化及び保存特性の悪化を抑制することができる。したがって、非水二次電池の特性を向上させることができる。
【0012】
[態様5][態様3]又は[態様4]に記載の非水二次電池用正極板の製造方法において、前記正極活物質は、三元系正極活物質である、非水二次電池用正極板の製造方法。
上記構成によれば、例えばマンガン酸リチウム等を用いた正極活物質と比較しても、非水二次電池の充放電サイクル特性を向上させつつも、非水二次電池の内部抵抗の悪化、過充電耐性の悪化及び保存特性の悪化を抑制することができる。したがって、非水二次電池の特性を向上させることができる。
【0013】
[態様6][態様3]~[態様5]のうち何れか一つに記載の非水二次電池用正極板の製造方法において、前記正極合材層は、正極導電材を含み、前記正極導電材は、前記非水二次電池用正極板の製造前の比表面積が150m2/g以上300m2/g以下であるカーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーのうち何れかである、非水二次電池用正極板の製造方法。
【0014】
上記構成によれば、導電性の高い正極導電材を用いることにより、非水二次電池用の内部抵抗の悪化を抑制することができる。したがって、非水二次電池用の特性を向上させることができる。
【0015】
[態様7][態様3]~[態様6]のうち何れか一つに記載の非水二次電池用正極板の製造方法において、前記正極合材層は、少なくとも前記正極活物質と正極溶媒とを含む正極合材ペーストが前記正極基材に塗工された状態で乾燥されることにより前記正極基材に設けられ、前記正極溶媒は、非水溶媒である、非水二次電池用正極板の製造方法。
【0016】
上記構成によれば、水系溶媒と比較して、正極活物質量の低下を抑制し、比表面積差分を小さくすることができ、過充電耐性の悪化を抑制することができる。したがって、非水二次電池の特性を向上させることができる。
【0017】
上記課題を解決する非水二次電池の製造方法の態様を記載する。
[態様8]正極基材と、少なくとも正極活物質を含む正極合材層とを有する正極板を備える非水二次電池の製造方法であって、前記正極板の製造前において比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下である前記正極活物質の粒子が用いられ、前記正極板の製造後において前記正極合材層の密度が2.2mg/cm3以上3.0mg/cm3以下であり、かつ、前記正極板の製造後における前記正極板の比表面積と前記正極活物質の粒子の比表面積との差分が0.66m2/g以上1.8m2/g以下である、非水二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、非水二次電池の特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の斜視図である。
【
図2】リチウムイオン二次電池の電極体の積層体の構成を示す模式図である。
【
図3】リチウムイオン二次電池用電極板の源泉工程を示すフローチャートである。
【
図4】リチウムイオン二次電池の実施例及び比較例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[本実施形態]
以下、非水二次電池用正極板、非水二次電池、非水二次電池用正極板の製造方法及び非水二次電池の製造方法の一実施形態について説明する。
【0021】
<リチウムイオン二次電池10>
非水二次電池の一例としてリチウムイオン二次電池の構成を説明する。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池10は、電池ケース11を備える。電池ケース11は、蓋体12を備える。電池ケース11は、上側に図示しない開口部を備える。蓋体12は、開口部を封止する。電池ケース11は、アルミニウム合金等の金属で構成されている。蓋体12は、電力の充放電に用いられる負極外部端子13及び正極外部端子14を備える。負極外部端子13及び正極外部端子14は、任意の形状であればよい。
【0022】
リチウムイオン二次電池10は、電極体15を備える。リチウムイオン二次電池10は、負極集電体16と、正極集電体17と、を備える。負極集電体16は、電極体15の負極と負極外部端子13とを接続する。正極集電体17は、電極体15の正極と正極外部端子14とを接続する。電極体15は、電池ケース11の内部に収容される。
【0023】
リチウムイオン二次電池10は、非水電解液18を備える。非水電解液18は、電池ケース11内には図示しない注液孔から注入される。リチウムイオン二次電池10は、電池ケース11において開口部に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。このように、電池ケース11は、電極体15及び非水電解液18を収容する。
【0024】
<非水電解液18>
非水電解液18は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。本実施形態では、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)を用いることができる。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料でもよい。
【0025】
また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等を用いることができる。またこれらから選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。このように、非水電解液18は、リチウム化合物を含む。
【0026】
<電極体15>
図2に示すように、電極体15は、負極板20と、正極板30と、セパレータ40と、を備える。電極体15の長手の方向を「長さ方向Z」という。電極体15の厚さの方向を「厚み方向D」という。電極体15の長さ方向Z及び厚み方向Dに交わる方向を「幅方向W」という。幅方向Wのうち一方の方向を「第1幅方向W1」といい、幅方向Wのうち他方の方向を「第2幅方向W2」という。つまり、第2幅方向W2は、第1幅方向W1の反対の方向である。
【0027】
電極体15は、負極板20と、正極板30と、セパレータ40とが厚み方向Dに積層される。セパレータ40は、負極板20と正極板30との間に設けられる。詳しくは、電極体15は、セパレータ40、正極板30、セパレータ40、負極板20の順に積層される。
【0028】
電極体15は、負極板20と、正極板30と、セパレータ40とが厚み方向Dに積層された状態で長さ方向Zに捲回される。電極体15は、長さ方向Zの中央において厚み方向Dに扁平形状である。
【0029】
このように、負極板20と、正極板30と、セパレータ40とが積層される厚み方向Dは、積層方向ともいえる。また、負極板20と、正極板30と、セパレータ40とが捲回される長さ方向Zは、捲回方向ともいえる。電極体15は、厚み方向Dにおいて扁平形状を呈する。
【0030】
<負極板20>
負極板20は、リチウムイオン二次電池10の負極の一例として機能する。負極板20は、負極基材21と、負極合材層22とを備える。負極基材21は、負極の電極基材である。負極合材層22は、負極の電極合材層であり、負極基材21の両面に設けられる。
【0031】
負極基材21は、負極接続部23を備える。負極接続部23は、負極基材21の両面に負極合材層22が設けられていない領域である。負極接続部23は、電極体15の第1幅方向W1における端部に設けられる。負極接続部23は、第1幅方向W1において正極板30及びセパレータ40から露出する。
【0032】
本実施形態では、負極基材21は、Cu箔から構成されている。負極基材21は、負極合材層22の骨材としてのベースとなる。負極基材21は、負極合材層22から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0033】
負極合材層22は、負極活物質と、負極添加物とを有する。負極板20は、例えば、負極活物質と負極添加物とを混練し、混練後の負極合材ペーストを負極基材21に塗布した状態で乾燥させることで作製される。
【0034】
本実施形態では、負極活物質は、負極の活物質であり、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料である。負極活物質としては、例えば黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いることができる。
【0035】
負極添加物は、負極の添加物であり、負極溶媒、負極結着材(バインダー)及び負極増粘材を含む。負極溶媒としては、例えば水等を用いることができる。負極結着材としては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いることができる。負極増粘材としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。負極添加物は、例えば負極導電材等を更に含んでもよい。
【0036】
<正極板30>
正極板30は、リチウムイオン二次電池10の正極の一例として機能する。正極板30は、正極基材31と、正極合材層32とを備える。正極基材31は、正極の電極基材である。正極合材層32は、正極の電極合材層であり、正極基材31の両面に設けられる。
【0037】
正極基材31は、正極接続部33を備える。正極接続部33は、正極基材31の両面に正極合材層32が設けられていない領域である。正極接続部33は、電極体15の第2幅方向W2における端部に設けられる。正極接続部33は、第2幅方向W2において負極板20及びセパレータ40から露出する。
【0038】
本実施形態では、正極基材31は、Al箔やAl合金箔から構成されている。正極基材31は、正極合材層32の骨材としてのベースとなる。正極基材31は、正極合材層32から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0039】
正極合材層32は、正極活物質と、正極添加物とを有する。正極板30は、例えば、正極活物質と正極添加物とを混練し、混練後の正極合材ペーストを正極基材31に塗布した状態で乾燥することで作製される。
【0040】
正極活物質は、正極の活物質であり、リチウムを吸蔵・放出可能な材料である。正極活物質としては、例えば、ニッケル、マンガン及びコバルトを含有する三元系(NMC)リチウム含有複合酸化物であり、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO2)を用いることができる。正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)の何れか一つを用いてもよい。正極活物質としては、例えば、ニッケル、コバルト及びアルミニウム(NCA)を含有するリチウム含有複合酸化物を用いてもよい。
【0041】
正極添加物は、正極の添加物であり、正極溶媒、正極導電材及び正極結着材(バインダー)を含む。正極溶媒としては、例えばNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液等、非水溶媒を用いることができる。正極導電材としては、例えばカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)等の炭素繊維等を用いることができるが、黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を用いてもよい。正極結着材としては、例えば負極結着材と同様のものを用いることができる。正極添加物は、例えば正極増粘材等を更に含んでもよい。
【0042】
<セパレータ40>
セパレータ40は、負極板20と正極板30との間に設けられる。セパレータ40は、非水電解液18を保持する。セパレータ40は、多孔性樹脂であるポリプロピレン製等の不織布である。セパレータ40としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。非水電解液18に電極体15に浸漬させるとセパレータ40の端部から中央部に向けて非水電解液18が浸透する。
【0043】
<リチウムイオン二次電池10の製造工程>
ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池10の製造工程について説明する。
本実施形態では、源泉工程が行われる。詳しく後述するが、源泉工程は、リチウムイオン二次電池10の電池要素の作製の工程である。具体的に、源泉工程は、リチウムイオン二次電池10の電池要素を構成する負極板20及び正極板30をそれぞれ作製する工程である。
【0044】
源泉工程が終了すると、組立工程が行われる。組立工程は、リチウムイオン二次電池10を組み立てる組立工程である。組立工程では、初めに電極体15を製造する。具体的に、まず、正極板30と負極板20とをセパレータ40を介して積層した後、捲回し、さらに、偏平に押圧する。その後、負極接続部23を圧接するとともに、正極接続部33を圧接する。以上の手順により、電極体15が製造される。
【0045】
次いで、電極体15を電池ケース11内に収容する。このとき、正極接続部33は、正極集電体17を介して正極外部端子14と電気的に接続される。負極接続部23は、負極集電体16を介して負極外部端子13と電気的に接続される。電池ケース11において開口部が蓋体12によって塞がれる。そして、電池ケース11内に非水電解液18が注入される。電池ケース11内への非水電解液18の注入が完了したら、電池ケース11を密封する。以上の手順により、リチウムイオン二次電池10が組み立てられる。
【0046】
<源泉工程>
ここで、
図3を参照して、本実施形態の源泉工程について説明する。以降、正極板30を作製する工程について説明し、負極板20を作製する工程については説明を省略する。
【0047】
図3に示すように、ステップS11において、調合工程を行う。調合工程は、正極合材層32の原材料である正極活物質及び正極添加物の調合を行う工程を含む。これにより、正極合材ペーストが生成される。そして、ステップS12において、混練工程が行われる。混練工程は、正極合材ペーストを混練する工程を含む。
【0048】
混練工程が終了すると、ステップS13において、塗工工程が行われる。塗工工程は、正極基材31の両面において、幅方向Wの両端に正極接続部33を構成するように正極合材ペーストを塗工する。そして、ステップS14において、乾燥工程が行われる。乾燥工程は、正極基材31に塗工された正極合材ペーストを乾燥させて正極合材層32を形成する。
【0049】
乾燥工程が終了すると、ステップS15において、プレス工程が行われる。プレス工程は、正極基材31の両面に形成された正極合材層32を押圧することで、正極基材31に対する正極合材層32の密着強度を高め、正極合材層32の厚みを調整する。
【0050】
プレス工程が終了すると、ステップS16において、裁断工程が行われる。裁断工程は、正極板30を幅方向Wの中央で切断する。以上の工程によって、一度に2条の正極板30が製造される。
【0051】
<正極板30の製造方法>
ここで、正極板30の製造方法について詳しく説明する。
正極板30は、正極板30の製造前における正極活物質の比表面積と、正極板30の製造後における正極板30の比表面積とに基づいて作製される。なお、比表面積は、例えば、BET式を用いた気体吸着測定法、つまりはBET法により測定される。
【0052】
正極板30の製造前において、比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下の粒子が正極活物質として用いられる。正極板30の製造前とは、源泉工程において調合工程が行われる前である。つまり、正極板30の製造前における正極活物質の比表面積は、調合工程において調合される前の正極活物質粒子の比表面積である。このように、正極板30の製造前における正極活物質の比表面積は、1.5m2/g以上3.0m2/g以下である。以降、正極板30の製造前における正極活物質の比表面積を「正極活物質比表面積」と示す場合がある。
【0053】
また、正極板30の製造後において、正極合材層32の密度が2.2mg/cm3以上3.0mg/cm3以下となるように正極板30が作製される。正極板30の製造後とは、源泉工程が行われた後である。このように、正極板30の製造後における正極合材層32の密度は、2.2mg/cm3以上3.0mg/cm3以下である。また、正極板30の製造後における正極合材層32の密度は、プレス工程が行われた後における正極合材層32の密度と等しい。以降、正極板30の製造後における正極合材層32の密度を「正極密度」と示す場合がある。
【0054】
また、これに加えて、正極板30が製造される際に、正極板30の製造後における正極板30の比表面積と、正極活物質比表面積との差分が、0.66m2/g以上1.8m2/g以下となるように正極板30が作製される。正極板30の製造後における正極板30の比表面積は、正極活物質比表面積との差分に基づいて、プレス工程において調整される。正極板30の製造後における正極板30の比表面積は、プレス工程が行われた後における正極板30の比表面積と等しい。つまり、正極板30の製造後における正極板30の比表面積は、プレス工程においてプレスされた後の正極板30の比表面積といえる。以降、正極板30の製造後における正極板30の比表面積を「正極板比表面積」と示す場合がある。また、正極板比表面積と正極活物質比表面積との差分を「比表面積差分」と示す場合がある。
【0055】
<実施例及び比較例>
ここで、
図4を参照して、リチウムイオン二次電池10についての実施例及び比較例について説明する。なお、実施例及び比較例においては、以下のような条件下において判定が行われたが、一例に過ぎず、これに限定されるものではない。実施例及び比較例において、C(Capacity)レートが50Cであり、SOC(State Of Charge)が20~90%であるリチウムイオン二次電池10を判定対象としている。
【0056】
実施例及び比較例において、正極活物質としては、三元系リチウム含有複合酸化物、又は、ニッケルコバルトアルミニウム(NCA)を含有するリチウム含有複合酸化物が用いられる。実施例及び比較例において、正極板比表面積は、プレス工程におけるプレスにより調整される。プレス工程におけるプレスについては、プレス圧として50~196kNが、プレス速度として6~60m/minがそれぞれ採用される。
【0057】
実施例及び比較例において、負極活物質としては、例えば黒鉛等からなる粉末状の炭素材料が用いられる。実施例及び比較例において、非水電解液18の溶媒としては、非水溶媒が用いられており、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート等からなる群から選択された一種または二種以上の材料が用いられる。実施例及び比較例において、非水電解液18の支持塩としては、LiPF6が用いられる。
【0058】
図4に示すように、実施例及び比較例では、上記のような条件下において、正極密度と、正極板比表面積と、正極活物質比表面積とを変化させて各種の判定結果を検証している。実施例及び比較例では、正極密度と、正極板比表面積と、正極活物質比表面積と、比表面積差分と、各種特性の判定結果との関係が示される。
【0059】
各種特性としては、正極板30の内部抵抗、過充電余裕代及び保存特性が含まれており、判定結果の指標と判定結果とがそれぞれに対応している。正極板30の内部抵抗としては、極低温時における内部抵抗が適正な範囲であるか否かが判定される。過充電余裕代としては、上限電圧である4.75Vから5.0Vまで到達するまでの時間が適正な範囲であるか否かが判定される。保存特性としては、例えば70℃等の高温環境において例えば30日等の期間に亘って保存した後の充放電が適正な範囲であるか否かが判定される。判定結果の指標としては、適正な範囲を1以上の数値として指標化したものであり、図中において指標化と示す。
【0060】
最初に、第1比較例としては、正極密度が2.2mg/cm3以上3.0mg/cm3以下であるものの、比表面積差分が1.8m2/gよりも大きく、正極活物質比表面積が1.5m2/gより小さい。このような状況において、第1比較例では、正極板30の内部抵抗、過充電余裕代及び保存特性の全てについて適正な範囲として判定されなかった。
【0061】
第2比較例は、正極密度が2.2mg/cm3以上3.0mg/cm3以下であり、比表面積差分が0.66m2/g以上1.8m2/g以下であるものの、正極活物質比表面積が1.5m2/gより小さい。このような状況において、第2比較例では、第1比較例と同じように、正極板30の内部抵抗、過充電余裕代及び保存特性の全てについて適正な範囲として判定されなかった。
【0062】
第3比較例としては、正極活物質比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下であるものの、正極密度が3.0mg/cm3より大きく、比表面積差分が1.8m2/gより大きい。このような状況において、第3比較例では、正極板30の内部抵抗について適正な範囲として判定されたが、過充電余裕代及び保存特性については適正な範囲として判定されなかった。第4比較例も、第3比較例と同じような結果となった。
【0063】
第5比較例としては、正極密度が2.2mg/cm3以上3.0mg/cm3以下であり、正極活物質比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下であるものの、比表面積差分が0.66より小さい。このような状況において、第5比較例では、過充電余裕代及び保存特性について適正な範囲として判定されたが、正極板30の内部抵抗については適正な範囲として判定されなかった。
【0064】
その一方で、第1~第5実施例としては、正極密度が2.2mg/cm3以上3.0mg/cm3以下の範囲であり、正極活物質比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下である。そして、比表面積差分が、0.66m2/g以上1.8m2/g以下である。このような状況において、第1~第5実施例では、正極板30の内部抵抗、過充電余裕代及び保存特性の全てについて適正な範囲として判定された。
【0065】
<実施例及び比較例の検証>
このように、比較例1、2及び5では、正極板30の内部抵抗については適正な範囲として判定されなかった。これは、そもそも正極活物質比表面積が小さく、正極板30の反応面積が小さくなることが一因であると考えられる。
【0066】
特に、比較例2では、正極密度と比表面積差分とが適正な範囲であっても、正極活物質比表面積が小さく、過充電余裕代及び保存特性についても適正な範囲として判定されなかった。なお、比較例1では、正極活物質比表面積が小さいばかりではなく、比表面積差分が大きくなっている。また、比較例5では、正極活物質比表面積が小さいばかりではなく、正極密度と比表面積差分とが小さくなっている。
【0067】
また、比較例3及び4では、正極活物質比表面積が適正な範囲であっても、正極板比表面積と正極密度とが大きく、比表面積差分が大きくなってしまい、過充電余裕代及び保存特性については適正な範囲として判定されなかった。これは、プレス工程において正極合材層32がプレスされることにより、正極活物質が押しつぶされることに伴って、正極活物質の新生面が多いことが一因であると考えられる。
【0068】
また、比較例1及び2では、正極活物質比表面積が小さかったが、正極密度は、小さくはなく、プレスにより適正な範囲まで調整されている。このため、比較例1及び2でも、比較例3及び4と同じように、正極活物質の新生面が多いことを一因として、過充電余裕代及び保存特性についても適正な範囲として判定されなかったと考えられる。
【0069】
<新生面の形成>
ここで、
図5~
図7を参照して新生面の形成について説明する。なお、
図5~
図7では、発明の理解を容易とするために、新生面の形成について概略的に示されている。
【0070】
図5に示すように、正極合材層32には、正極活物質34と、正極導電材35とが含まれている。正極板30の製造前において、正極活物質34は、中空状の粒子であり、その表面が空気と接しているため、化学的に安定した状態である。
【0071】
そして、
図6及び
図7に示すように、プレス工程においてプレスされることにより、正極活物質34は、押しつぶされる。これにより、正極活物質34の表面に新生面34Aが形成される。
【0072】
新生面34Aは、正極板30の製造前において表面に露出していない面であり、プレス工程においてプレスされることにより表面に露出するように形成される面である。新生面34Aは、化学的に安定した状態ではなく、活性が高く、過充電耐性の観点から安全性を低下させる要因となり得る。また、新生面34Aは、不可逆な被膜を形成しやすく、保存特性の悪化の要因となり得る。このような新生面34Aは、比表面積差分が大きくなるほど、形成されやすい。このため、新生面34Aの形成の観点から、比表面積差分が適正な範囲内であるかという新たな指標が創出された。
【0073】
図6に示すように、プレス工程においてプレスされることにより多くの新生面34Aが形成されてしまうと、比表面積差分が大きくなり、内部抵抗の悪化を抑制できても、過充電耐性の悪化、及び、保存特性の悪化が生じるおそれがあった。
【0074】
その一方で、プレス工程において可能な限り新生面34Aが形成されないようにプレスされると、比表面積差分が小さくなりすぎてしまい、過充電耐性の悪化、及び、保存特性の悪化を抑制することができても、内部抵抗の悪化が生じるおそれがあった。
【0075】
そこで、
図7に示すように、プレス工程においてプレスされることにより最低限の新生面34Aが形成されれば、比表面積差分が適正な範囲となり、内部抵抗の悪化を抑制するとともに、過充電耐性の悪化、及び、保存特性の悪化を抑制することができる。
【0076】
<本実施形態の作用及び効果>
実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)正極板30の製造前において比表面積が1.5m2/g以上3.0m2/g以下である正極活物質の粒子が用いられる。そして、正極板比表面積と正極活物質比表面積との差分が0.66m2/g以上1.8m2/g以下である。
【0077】
従来においては、プレス工程において正極合材層32がプレスされることにより正極板比表面積が調整されており、リチウムイオン二次電池10の内部抵抗の悪化を抑制できていた。しかしながら、従来においては、プレスによる新生面の形成まで考慮されておらず、リチウムイオン二次電池10の過充電耐性の悪化及び保存特性の悪化が生じてしまうことがあった。
【0078】
本実施形態においては、プレスによる新生面の形成が、リチウムイオン二次電池10の過充電耐性の悪化及び保存特性の悪化が生じる一因であることがわかり、上記のような新たな指標が創出された。これにより、リチウムイオン二次電池10の内部抵抗の悪化を抑制しつつも、正極活物質の新生面の形成を最小限に押させることにより、リチウムイオン二次電池10の過充電耐性の悪化及び保存特性の悪化を抑制することができる。したがって、リチウムイオン二次電池10の特性を向上させることができる。
【0079】
(2)正極密度が2.2mg/cm3以上3.0mg/cm3以下である。これにより、リチウムイオン二次電池10の内部抵抗の悪化を抑制しつつも、過充電耐性の悪化及び保存特性の悪化を抑制することができる。したがって、リチウムイオン二次電池10の特性を向上させることができる。
【0080】
(3)正極活物質は、三元系正極活物質である。これにより、例えばマンガン酸リチウム等を用いた正極活物質と比較しても、リチウムイオン二次電池10の充放電サイクル特性を向上させつつも、リチウムイオン二次電池10の内部抵抗の悪化、過充電耐性の悪化及び保存特性の悪化を抑制することができる。したがって、リチウムイオン二次電池10の特性を向上させることができる。
【0081】
(4)正極導電材は、正極板30の製造前の比表面積が150m2/g以上300m2/g以下であるカーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーのうち何れかである。これにより、導電性の高い正極導電材を用いることにより、リチウムイオン二次電池10の内部抵抗の悪化を抑制することができる。したがって、リチウムイオン二次電池10の特性を向上させることができる。
【0082】
(5)正極合材層32は、少なくとも正極活物質と正極溶媒とを含む正極合材ペーストが正極基材31に塗工された状態で乾燥されることにより正極基材31に設けられる。正極溶媒は、非水溶媒である。これにより、水系溶媒と比較して、正極活物質量の低下を抑制し、比表面積差分を小さくすることができ、過充電耐性の悪化を抑制することができる。したがって、リチウムイオン二次電池10の特性を向上させることができる。
【0083】
[変更例]
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0084】
○本実施形態において、例えば、正極活物質、正極導電材、正極溶媒及び正極結着材については任意の種類であってもよい。
○本実施形態において、例えば、正極活物質比表面積と比表面積差分とが適正な範囲であれば、正極密度を問わないが、正極密度が適正な範囲であることが好ましい。
【0085】
○本実施形態において、リチウムイオン二次電池10を例に本発明を説明したが、他の二次電池にも適用できる。
○本実施形態において、車載用の薄板状のリチウムイオン二次電池10を例示したが、円柱形の電池などにも適用できる。また、車載用に限らず、船舶用、航空機用、さらに定置用の電池にも適用できる。
【0086】
○本発明は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で、当業者によりその構成を付加し削除し変更し、順序を変えて実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0087】
D…厚み方向
W…幅方向
Z…長さ方向
10…リチウムイオン二次電池
11…電池ケース
12…蓋体
13…負極外部端子
14…正極外部端子
15…電極体
16…負極集電体
17…正極集電体
18…非水電解液
20…負極板
21…負極基材
22…負極合材層
23…負極接続部
30…正極板
31…正極基材
32…正極合材層
33…正極接続部
34…正極活物質
34A…新生面
35…正極導電材
40…セパレータ