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特開2024-2517連続鋳造機における鋳片の落下防止方法及び治具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002517
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】連続鋳造機における鋳片の落下防止方法及び治具
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/12 20060101AFI20231228BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20231228BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B22D11/12 G
B22D11/10 D
B22D11/16 104N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101748
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】岸本 竜介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅和
(72)【発明者】
【氏名】西 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】小山 拓弥
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MC30
(57)【要約】
【課題】引抜装置に別段の大規模な鋳片落下防止装置を追加することなく、鋳片の落下防止を可能にする連続鋳造機の鋳片の落下防止方法及び治具を提供する。
【解決手段】鋳型3内の溶融金属2を凝固させる冷材1を鋳型外に待機させ、ピンチロール6の押付け力の異常低下に対応して、前記冷材を鋳型上に支持しつつ鋳型内に投入し、そのまま鋳型上に継続して支持する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を鋳型で凝固成形してなる鋳片をガイドロールで案内しピンチロールで押付け力を加えつつ引抜く連続鋳造機における鋳片の落下防止方法であって、
鋳型内の溶融金属を凝固させる冷材を鋳型外に待機させ、前記ピンチロールの押付け力の異常低下に対応して、前記冷材を鋳型上に支持しつつ鋳型内に投入し、そのまま鋳型上に継続して支持することを特徴とする連続鋳造機における鋳片の落下防止方法。
【請求項2】
前記ピンチロールの押付け力の異常低下、駆動電源の停電、鋳片降下速度の異常上昇及び前記ピンチロールの駆動電流の異常上昇のうち少なくともいずれか1つに対応することを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造機における鋳片落下防止方法。
【請求項3】
連続鋳造機における鋳片落下防止方法に用いられ、鋳型内に投入される鋳片の落下防止治具であって、
前記鋳型内の溶融金属に浸漬される被浸漬部と、鋳型上に支持される被支持部とからなる冷材であることを特徴とする鋳片の落下防止治具。
【請求項4】
前記被支持部は鋳型の上端部を支点とすることを特徴とする請求項3に記載の鋳片の落下防止治具。
【請求項5】
前記被浸漬部は前記被支持部に繋がる縦部材と該縦部材に繋がる横部材とを有することを特徴とする請求項3又は4に記載の鋳片の落下防止治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属を鋳型で凝固成形して引抜装置で連続的に引き抜く連続鋳造機における鋳片の落下防止方法及び治具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に連続鋳造機は、溶融金属例えば溶鋼を鋳型で凝固成形しつつ引抜装置で連続的に引抜く設備である。前記引抜装置は、ガイドロールとピンチロールとをこの順に有し、鋳片をガイドロールで案内しつつピンチロールで支持し引抜くように構成され、連続鋳造機の運転初期には鋳片に先駆けてダミーバーが前記引抜装置で引抜かれる。
【0003】
このピンチロールは、鋳片を支持し引抜くため押付け用油圧シリンダーと駆動用モーターとを備えている。
【0004】
また、連続鋳造機には、垂直型、湾曲型、垂直曲げ型及び水平型の4種類があるが、このうち、特に垂直型の場合、鋳片の重量の大半がピンチロールにかかるので、ピンチロールの役割は非常に大きい。しかしこの垂直型では前記押付け用油圧シリンダーの油圧源又は油圧系統の故障、あるいは鋳片とピンチロール間の油脂類の付着による摩擦係数の低下などによって鋳片が落下する危険性が高い。
【0005】
また、湾曲型又は垂直曲げ型においてもシーケンス上の誤動作、油圧系統の故障、あるいは鋳片とピンチロール間の油脂類の付着による摩擦係数の低下などによって鋳片が落下する危険性がある。これらのいずれの場合においても、万一鋳片が落下すると人的災害には至らないまでも種々の機械設備に重大な被害が及ぶことは避けられない。
【0006】
そこで、従来、上述の鋳片又はダミーバーの落下を防止するための技術が提案されている(特許文献1~5)。
【0007】
特許文献1の技術は、鋳片降下速度検出値の異常上昇又はピンチロール圧下用油圧回路の圧力検出値の異常低下の発生時に非常用油圧回路でピンチロール圧下用油圧回路の油圧を補償するというものである。
【0008】
特許文献2の技術は、ガイドロールの案内区間に、鋳片に当接するローラと、鋳片を挟む一対又は複数対のカムと、該カムを鋳片に圧接させる駆動手段とを設け、前記ローラの回転速度の異常上昇時に前記駆動手段で前記カムを鋳片に圧接させるというものである。
【0009】
特許文献3の技術は、鋳片を挟む固定ローラと可動ローラの複数対のうち、或る可動ローラの鋳片圧接力の減少に応動する応動部材と、該応動部材によって起動して押圧装置の発生力を補償すると同時に他の可動ローラの鋳片圧接力を増大させる圧力増加系統を有するというものである。
【0010】
特許文献4の技術は、鋳片を挟むピンチロール対の内の一方を付勢する弾性部材(コイルばね)を備え、鋳片の降下速度の異常上昇時に、降下速度が正常に戻るように前記弾性部材の付勢力を増幅させるというものである。
【0011】
特許文献5の技術は、ダミーバーに次いで鋳片を保持する複数の固定側、圧着側のロール対のうち、圧着側ロールに夫々ダミーバー保持圧力付与用の油圧シリンダーを備え、かつダミーバー保持圧低下が検出された油圧シリンダーの元圧側管路を、ダミーバー保持圧低下が検出されていない油圧シリンダーの元圧側管路へ迂回させる迂回機構を有するというものである。
【0012】
また、上述の鋳片の落下防止技術とは別に、連続鋳造を終了する際に、鋳型内に冷材(冷却金物ともいう。)を浸漬することで、最終的に鋳型に注がれた溶鋼の表面近傍(トップという。)を強制的に冷却し、未凝固の溶鋼を凝固殻の内側に完全に封じ込めようとする技術が知られている(例えば、特許文献6、7)。
【0013】
特許文献6では、溶鋼の表面を広範囲に覆う投影面積を有する鋼材をリング材で囲んでなる冷却金物を鋳型内へ転がし落とすようにしている。
【0014】
特許文献7では、トップ鋳片の頭端部を特許文献6の場合よりもより確実に封止するために、一対の側壁部の上端に天板部、側面に突出部を有する断面台形形状の頭端部用冷材を用い、溶鋼の浴面と上記天板との間に空洞を形成させて、上記頭端部用冷材の下端側を溶鋼に浸漬させるようにしている。
【0015】
上記の特許文献6の冷却金物及び特許文献7の頭端部冷却用冷材はいずれも、溶鋼に浸漬後は鋳片以外との接続はなくて鋳片と共に下降するから、鋳片の落下防止に対しては全く効力がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開昭52-109431号公報
【特許文献2】特開昭53-011126号公報
【特許文献3】特開昭54-015423号公報
【特許文献4】特開昭61-253154号公報
【特許文献5】特開2012-125820号公報
【特許文献6】特開2002-263804号公報
【特許文献7】特開2017-080773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述の従来の鋳片の落下防止技術はいずれも、鋳片が今にも落下しそうな非常事態(降下速度の異常上昇、ピンチロール圧下用油圧の異常低下など)が生じた際に作動して鋳片(又はダミーバー)への押付け力を維持又は補強させる鋳片落下防止機構(特許文献1では非常用油圧回路、特許文献2では鋳片挟圧用カム、特許文献3では応動部材及び圧力増加系統、特許文献4ではピンチロール付勢用弾性部材、特許文献5ではダミーバー保持圧力付与用の油圧シリンダー及び迂回機構)を、引抜装置に追加したものである。
【0018】
そのため、引抜装置に上記鋳片落下防止機構を追加するための設備費が発生する問題があり、また上記鋳片落下防止機構の保全のために追加の点検が必要になって作業員の負担が増す問題もある。
【0019】
そこで、本発明は、引抜装置に別段の大規模な鋳片落下防止装置を追加することなく、鋳片の落下防止を可能にする連続鋳造機の鋳片の落下防止方法及び治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討し、その結果、冷材を鋳型外に待機させ、鋳片落下の危険性が高まった際に、前記冷材を鋳型上で支持しつつ鋳型内に投入して鋳型内溶融金属を凝固させ前記冷材に固着させることを着想し、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] 溶融金属を鋳型で凝固成形してなる鋳片をガイドロールで案内しピンチロールで押付け力を加えつつ引抜く連続鋳造機における鋳片の落下防止方法であって、
鋳型内の溶融金属を凝固させる冷材を鋳型外に待機させ、前記ピンチロールの押付け力の異常低下に対応して、前記冷材を鋳型上に支持しつつ鋳型内に投入し、そのまま鋳型上に継続して支持することを特徴とする連続鋳造機における鋳片の落下防止方法。
[2] 前記ピンチロールの押付け力の異常低下、駆動電源の停電、鋳片降下速度の異常上昇及び前記ピンチロールの駆動電流の異常上昇のうち少なくともいずれか1つに対応することを特徴とする[1]に記載の連続鋳造機における鋳片の落下防止方法。
[3] 連続鋳造機における鋳片の落下防止方法に用いられ、鋳型内に投入される鋳片の落下防止治具であって、
前記鋳型内の溶融金属に浸漬される被浸漬部と、鋳型上に支持される被支持部とからなる冷材であることを特徴とする鋳片の落下防止治具。
[4] 前記被支持部は鋳型の上端部を支点とすることを特徴とする[3]に記載の鋳片の落下防止治具。
[5] 前記被浸漬部は前記被支持部に繋がる縦部材と該縦部材に繋がる横部材とを有することを特徴とする[3]又は[4]に記載の鋳片の落下防止治具。
[6] 前記溶融金属は溶鋼であり、前記冷材は鋼製であることを特徴とする[3]~[5]のいずれか1つに記載の鋳片の落下防止治具。
[7] 前記冷材の浸漬深さ部の長さは、溶鋼の湯面から鋳型下端までの長さの26%以上とすることを特徴とする[6]に記載の鋳片の落下防止治具。
[8] 前記冷材の浸漬深さ部の体積は、溶鋼の湯面から鋳型下端までの体積の1%以上とすることを特徴とする[6]又は[7]に記載の鋳片の落下防止治具。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、連続鋳造機の鋳型上に冷材の被支持部を支持し、前記冷材の被浸漬部で鋳型内溶融金属を凝固させて前記冷材に固着できるので、引抜装置に別段の鋳片落下防止装置を追加することなく、鋳片の落下防止が可能である。特に、停電等により、鋳片又はダミーバーにピンチロールの押付け力がかからなくなり、あるいは、鋳片の上部と下部とを仕切り材等で繋いだ部位(繋ぎ部)の破断により上部の鋳片にピンチロールの押付け力がかからなくなるといった場合、直ちに前記冷材を鋳型上端で支えつつ鋳型内に投入し、鋳型内溶融金属を凝固させて冷材に固着させることができて、迅速に鋳片又はダミーバーの落下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態の1例における冷材の投入手順を示す模式図である。
図2】本発明に係る冷材の一例を模式で示す立体図である。
図3図4の連続鋳造機に冷材を投入し促進凝固部を形成させた状態を示す模式図である。
図4】本発明方法が適用される連続鋳造機の1例を示す模式図である。
図5】本発明に係る冷材の寸法及び体積の好適条件を説明するための図である。
図6】鋳片の繋ぎ部での破断に応じた本発明方法の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る鋳片の落下防止方法は、溶融金属を鋳型で凝固成形してなる鋳片をガイドロールで案内してピンチロールで押付け力を加えつつ引抜く連続鋳造機に適用される。以下では、鋳造対象が鋼(溶融金属が溶鋼)である場合の実施形態について説明するが、鋼以外の金属である場合にも本発明は適用可能である。
【0024】
鋼の連続鋳造では、鋳片は断面(引抜方向である長さ方向に垂直な断面の意。以下同じ)の形状やサイズによって、スラブ(断面が長方形で厚さが120~600mm、幅が700mm以上)、ブルーム(断面がほぼ正方形で160mm角以上、ビレット(断面がほぼ正方形で160mm角未満)に大別されるが、これらのいずれに対しても本発明は適用可能である。なお、鋳型3の高さ(鋳造方向の寸法)としては、500~1300mmが挙げられる。
【0025】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。本発明が適用される連続鋳造機では、例えば図4に示すように、溶鋼2が連続鋳造用の無底の鋳型3で凝固成形されて鋳片4となる。鋳片4は鋳型3の下方のガイドロール5で案内され、続いてピンチロール6で押付け力を加えられつつ引抜かれる。一般に内部水冷される鋳型3では溶鋼2の鋳型壁面側から凝固殻7が形成・成長し鋳片4の外壁をなすが、厚さ方向の中心部は未凝固であり、中心部まで凝固が完了するのは、通常、ガイドロール5の設置領域に設けられるスプレー冷却設備(図示せず)により鋳片4を水冷する2次冷却ゾーンの途中においてである。なお、鋳型2内へは、タンディッシュ(図示せず)から鋳型3内の溶鋼2へ浸漬した浸漬ノズル20を介して溶鋼2が供給される。
【0026】
本発明に係る鋳片の落下防止方法(以下、本発明方法ともいう。)では、例えば図1に示す手順で実行される。すなわち、鋳型3内の溶鋼2を凝固させる冷材1を鋳型3の外に、例えば鋳型3の上端開口部の周囲に通常設けられる作業床上に、待機させておく(図1(a),(b))。そして、ピンチロール6(図3参照)の押付け力の異常低下に対応して、冷材1を鋳型3上に支持しつつ鋳型3内に投入し(図1(c),(d))、そのまま鋳型3上に継続して支持する(図1(e),(f))。
【0027】
ここで、冷材1の投入前には、浸漬ノズル20を閉鎖して鋳型3内への溶鋼2の供給を遮断する。
【0028】
これにより、図3の模式図で示すように、鋳型3内の溶鋼が冷材1によって凝固を促進され、促進凝固部10となって、冷材1に固着し、冷材1を介して鋳型3の上端部で支持される。すなわち、促進凝固部10は冷材1により懸垂状態に保持され、促進凝固部10に連なる鋳片4の落下を防止できる。なお、連続鋳造の初期に引き抜かれるダミーバー(図示せず)の落下も同様に防止できる。
【0029】
また、本発明方法では、前記ピンチロール6の押付け力の異常低下を、鋳片落下の危険性の高まりを示す異常事態と捉え、この異常事態に応じて冷材1の投入を行うようにしたが、前記異常事態として、ピンチロール6の押付け力の異常低下のほかに、ピンチロール6の駆動電源の停電、鋳片降下速度の異常上昇及びピンチロール6の駆動電流の異常上昇の内少なくともいずれか1つが生ずる場合であっても、同様に鋳片(又はダミーバー)の落下を防止可能である。なお、本発明方法は上記に限らず、鋼片落下の危険性がある場合であれば適用可能である。
【0030】
なお、ピンチロール6の駆動電流の異常上昇は、鋳片の上部と下部とを仕切り材等で繋いだ部位である繋ぎ部での破断が生じたときの衝撃によって起こる。この破断が生じた繋ぎ部より上部の鋳片にはピンチロール6の押付け力が及ばなくなり、落下の危険性が高まる。
【0031】
本発明方法に用いる冷材1は、本発明に係る鋳片の落下防止治具(以下、本発明治具ともいう。)であり、図1及び図2に示すとおり、溶鋼2に浸漬される被浸漬部12と、鋳型3上に支持される被支持部11とからなるものが好適である。鋳型3上の支持方法としては、例えば鋳型3上端部を、詳しくは鋳型3の上端開口部30の対向する2つの縁部を、支点とする支持方法が挙げられる。この支持方法にとって好適な被支持部11は棒状体であり、その長さは、鋳型3の上端開口部の対向する2つの縁部の間隔よりも大きくし、被支持部11の棒状体の両端部が前記2つの縁部を支点として被支持可能としておくとよい。
【0032】
また、被浸漬部12は、被支持部11に繋がる縦部材13と該縦部材13に繋がる横部材14とを有することが好ましい。ここで縦部材13とは、被支持部11が鋳型3上端部を支点として支持されたとき、長手方向が縦方向(鉛直方向)となる部材(図1(f)参照)のことであり、横部材14とは長手方向が横方向(水平方向)となる部材のことである。なお、図1及び図2では、横部材14を縦部材13の1本あたり1本設けた例を示したが、縦部材13の1本あたり2本以上設けてもよい。
【0033】
縦部材13に横部材14を繋げることで、促進凝固部10を冷材1が懸垂状態に保持する力を強化できる。
【0034】
また、冷材である本発明治具では、図2に示すように、冷材1の縦部材13は、2本以上設け、溶鋼2へ浸漬する際、浸漬ノズル20の外径に接触しない形状とし、平行に設けることが好ましい。さらに、横部材14は、浸漬ノズル20に接触することなく、促進凝固部10を懸垂状態に保持できれば如何なる形状でも良いが、浸漬ノズル20に対向しないよう設けることが好ましい。これにより、図1に示すように、浸漬ノズル20が溶鋼2中に浸漬された状態下でも、冷材1の被浸漬部12を浸漬ノズル20と干渉なく溶鋼2中に投入することができる。
【0035】
この場合、冷材1の投入に際しては、図1に示すように、待機位置で冷材1の被浸漬部12の先端側を鋳型3の上端開口部30に向けておき(図1(a),(b))、作業者が適宜の押し具(図示せず)で被支持部11を先端側に押しやる(図1(c))ことで、冷材1と鋳型3の上端開口部30の縁との当接位置から先端側が後端側(被支持部11側)より重くなり、冷材1が前記当接位置の周りに傾転し、被浸漬部12が溶鋼2中に落とし込まれる(図1(d))。さらに、被支持部11を浸漬ノズル20付近まで押しやることで、鋳型3の上端開口部30の縁を支点として被支持部11を支持しつつ、これに繋がる被浸漬部12を溶鋼2中に保持できる(図1(e),(f))。
【0036】
鋳型3の上端開口部の幅方向(横方向鋳型)両端を支点とする冷材1の被支持部11とする棒状材の寸法としては、安定した支持状態とする観点から、長さ=支点間距離の1.4~2.0倍、直径は材料によって異なるが機内鋳片鉛直方向荷重を支えられる断面積を確保することが条件となる。なお、図2の例では、被支持部11の断面形状を円形としたが、多角形でもよい。多角形断面の場合、その直径は、その多角形と同じ面積を有する円の直径とする。
【0037】
また、図2の形状の冷材1の被浸漬部12の寸法としては、鋳型の溶鋼注入部の寸法が例えば縦=400mm、横=310mm、高さ=810mmの場合、投入作業の容易性の観点から、縦部材13の長さ(浸漬時は鋳型高さ方向に沿う)=265mm、幅(浸漬時は鋳型横方向に沿う)=90mm、厚さ(浸漬時は鋳型横方向に沿う)=25mmが挙げられ、かつ、横部材14の長さ(浸漬時は鋳型高さ方向に沿う)=45mm、幅(浸漬時は鋳型横方向に沿う)=90mm、厚さ(浸漬時は鋳型横方向に沿う)=25mmが挙げられる。鋳型の溶鋼注入部の寸法が上記の場合から拡縮した場合、同じ拡縮率で縦部材及び横部材の寸法(長さ、幅、厚さ)を拡縮すればよい。
【0038】
本発明は、溶融金属を溶鋼とする鉄鋼業への適用を想定しており、その場合、冷材1は、鋼鋳片を懸垂状態に保持しうる強度を有し、融点が鋼と同程度又はそれ以上である材料で構成し、中でも製作コスト面で有利な鋼製とすることが好ましい。
【0039】
溶鋼2に鋼製の冷材1を投入する場合、冷材1の浸漬深さ部16(図5参照)の長さL1は、溶鋼2の湯面から鋳型3の下端までの部分(鋳型内溶鋼部18ともいう)の長さL2の26%以上とすることが好ましい。L1がL2の26%を下回ると促進凝固部10の生成量が不足し鋳片の落下防止が困難な場合がある。なお、冷材1の設備制約の観点から、L1は投入方向鋳型幅以下の長さである。L1が鋳型巾より大きい場合、投入時に指示部を起点として傾転した際に鋳型と干渉するため、被浸漬部12が溶鋼2中に落とし込まれることが阻害される。
【0040】
また、上記と同様、溶鋼2に鋼製の冷材1を投入する場合、冷材1の浸漬深さ部16(図5参照)の体積V1は、鋳型内溶鋼部18の体積V2の1%以上とすることが好ましい
。V1がV2の1%を下回ると促進凝固部10の生成量が不足し鋳片の落下防止が困難な
場合がある。
【実施例0041】
[実施例1]
図1に示した実施形態で本発明方法を実施したうち、実施例1では、湾曲型の連続鋳造機を用いた。鋳型へ注入する時の溶鋼温度は1520℃とした。鋳型3の溶鋼注入部の寸法は、縦400mm×横310mm×高さ810mmとした。引き抜き速度は0.7m/分とした。本発明治具である冷材1は軟鋼製とし、図2の形状(被支持部11及び被浸漬部12を有する形状)に製作した。
【0042】
被支持部11は直径600mm×長さ40mmの丸棒とした。被浸漬部12は板状で、縦部材13の長さ(浸漬時は鋳型高さ方向に沿う)=265mm、幅(浸漬時は鋳型横方向に沿う)=45mm、厚さ(浸漬時は鋳型横方向に沿う)=25mmとし、かつ横部材14の長さ(浸漬時は鋳型高さ方向に沿う)=45mm、幅(浸漬時は鋳型横方向に沿う)=90mm、厚さ(浸漬時は鋳型横方向に沿う)=25mmとした。
【0043】
被浸漬部12の2本の縦部材13の間隔は浸漬ノズル20の外径(106mm)の1.13倍とした。
【0044】
冷材1の浸漬深さ部16の長さL1は、鋳型内溶鋼部18の長さL2の26%とし、冷材1の浸漬深さ部16の体積V1は、鋳型内溶鋼部18の体積V2の1%とした。
【0045】
連続鋳造の操業前に、冷材1を鋳型3の周囲の作業床上に待機させておいた(図1(a),(b))。そして、操業中にピンチロール6の押付け力の異常低下があったことに対応して、浸漬ノズル20を閉鎖(上端部のストッパを閉じる)し、冷材1を鋳型3上に支持しつつ鋳型3内に投入し(図1(c),(d))、そのまま鋳型3上に継続して支持する(図1(e),(f))ようにした。なお、冷材1の投入にあたっては、専用に用意した押し具(図示せず)で、作業者が被支持部11を押すことにより被浸漬部12を鋳型3内に落とし込むようにした。
【0046】
その結果、冷材1の投入後約10分で促進凝固部10が形成し、被浸漬部12及び被支持部11を介して鋳型上端部で支持され、それにより鋳片4の落下を防止できた(図3参照)。
[実施例2]
実施例1において、冷材1の投入を、連続鋳造の操業中に、鋳片が繋ぎ部で破断したことを反映するピンチロール6の駆動電流の異常上昇があったことに対応して行った。これら以外は実施例1と同様とした。
【0047】
その結果、冷材1の投入後約10分で促進凝固部10が形成し、被浸漬部12及び被支持部11を介して鋳型上端部で支持され、それにより鋳片4の破断した繋ぎ部より上部の落下を防止できた(図6参照)。
【符号の説明】
【0048】
1 冷材
2 溶鋼(溶融金属)
3 鋳型
4 鋳片
5 ガイドロール
6 ピンチロール
7 凝固殻
10 冷材による促進凝固部
11 被支持部(冷材)
12 被浸漬部(冷材)
13 縦部材(冷材)
14 横部材(冷材)
16 浸漬深さ部
20 浸漬ノズル
30 鋳型の上端開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6