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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025171
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/38 20060101AFI20240216BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240216BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20240216BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20240216BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20240216BHJP
   F16J 15/3268 20160101ALI20240216BHJP
【FI】
F16C19/38
F16C33/58
F16C33/78 Z
F16C33/46
B60B35/02 L
F16J15/3268
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128406
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 良雄
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J043AA17
3J043CA02
3J043CA05
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA20
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA23
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB13
3J216CB18
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC16
3J216CC33
3J216FA09
3J216GA03
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701BA73
3J701FA44
3J701FA48
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB13
3J701XB14
3J701XB19
(57)【要約】
【課題】外輪軌道面やアキシアル隙間等の保証を簡易に実施可能なハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【解決手段】内輪部材の外周面は、複列の内輪軌道面の軸方向における間の部分が、小鍔部が設けられない略円筒面であり。複数の円錐ころを保持するために一対の保持器にそれぞれ設けられた複数のポケットは、複数の円錐ころが一対の保持器の径方向内側に抜け出るのを防止する形状を有する。シール固定面の内径は、内輪部材を組み込む前の、外輪部材と複数の円錐ころと保持器との組立体における、複数の円錐ころを最も径方向内側に寄せたときの複数の円錐ころの外接円の外径の100~101%である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に、複列の内輪軌道面と、前記複列の内輪軌道面の軸方向両側に設けられた一対の大鍔部と、を有する内輪部材と、
内周面に、複列の外輪軌道面と、前記複列の外輪軌道面の軸方向両側に設けられた一対のシール固定面と、を有する外輪部材と、
前記複列の内輪軌道面と前記複列の内輪軌道面との間に、各列毎に設けられた複数の円錐ころと、
前記複数の円錐ころを、各列毎に転動自在に保持する一対の保持器と、
前記内輪部材の前記一対の大鍔部と、前記外輪部材の前記一対のシール固定面と、の間に設けられた一対のシール装置と、
を備えるハブユニット軸受であって、
前記内輪部材の前記外周面は、前記複列の内輪軌道面の軸方向における間の部分が、小鍔部が設けられない略円筒面であり、
前記複数の円錐ころを保持するために前記一対の保持器にそれぞれ設けられた複数のポケットは、前記複数の円錐ころが前記一対の保持器の径方向内側に抜け出るのを防止する形状を有し、
前記シール固定面の内径は、前記内輪部材を組み込む前の、前記外輪部材と前記複数の円錐ころと前記保持器との組立体における、前記複数の円錐ころを最も径方向内側に寄せたときの前記複数の円錐ころの外接円の外径の100~101%である、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記シール固定面の内径は、前記内輪部材を前記組立体に組み込んだ後における、前記複数の円錐ころの外接円の外径以上である、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ハブユニット軸受は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する。図7は、特許文献1のハブユニット軸受101の断面図である。図7に示すように、特許文献1のハブユニット軸受101は、いわゆる第三世代のハブユニット軸受であり、ハブ輪102と、内輪103と、外輪104と、それぞれが複数個ずつの外側円錐ころ105、105及び内側円錐ころ106、106と、外側シールリング107と、内側シールリング108と、外側保持器120と、内側保持器121と、からなる。
【0002】
このようなハブユニット軸受101においては、外輪104と円錐ころ105,106と保持器120,121との組立体に、外側シールリング107を組付け後、軸方向外側(車幅方向外側)からハブ輪102を組付けると共に軸方向内側(車幅方向内側)から内輪103を組付け、最後に内側シールリング108を挿入して組み立てる。
【0003】
ここで、外輪104と円錐ころ105,106と保持器120,121との組立体に外側シールリング107を組付ける(圧入する)際には、円錐ころ105,106と保持器120,121の組立体が外輪軌道面117,118の径方向内側の空間に留まっていると、外側シールリング107の組付けが容易となる。
【0004】
そこで、特許文献1のハブユニット軸受101においては、円錐ころ105,106と保持器120,121との組立体を外輪軌道面117,118の径方向内側空間に留めるため、外輪軌道面117,118に向かって円錐ころ105,106を押さえる保持器120,121が用いられている。さらに、外輪104の内周面のうち、各外輪軌道面117、118の大径側端部に隣接する部分には、それぞれ突出部144、145が、全周にわたって形成されている。各突出部144、145の内径は、保持器120、121に保持された円錐ころ105、106の大径側端部の外接円の直径よりも小さく、これら突出部144、145によって円錐ころ105、106が軸方向に脱落することが防止される。
【0005】
この様な構造によれば、ハブ輪102や内輪103に、円錐ころ105,106の小径側端部を支持する小鍔が不要になり、ハブ輪102や内輪103の外周面の列間部を円筒面とすることができるので、列間センサ用エンコーダ(特許文献2及び3参照)や、突合せ面シ-ルの取付けが容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-056570号公報
【特許文献2】特開2008-014471号公報
【特許文献3】特開2013-154697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のように、外輪104の内周面のうち、外輪軌道面117,118の近傍に突出部144、145が設けられる場合、外輪軌道面117,118の角度の保証が困難となる。すなわち、外輪104の軸方向両側からマスターテーパを挿入して外輪軌道面117,118に載せて当たりで角度を確認する角度保証作業の実施は、マスターテーパが突出部144,145に干渉してしまうため困難であり、他の保証方法を行う必要が発生し高コストになる。
【0008】
また、複列転がり軸受のアキシアル隙間や軸方向寸法は、図8(A)及び(B)に示すような方法により測定することが知られている。先ず、図8(A)に示すように、1対の内輪208x、208yの小径側端面同士を突き合わせるとともに、1対の内輪208x、208yの周囲に円錐ころ209x、209yを配置した状態で、一方の内輪208x(又は208y)を下側に向けかつ他方の内輪208y(又は208x)を上側に向けて基準面218に載置する。そして、基準面218から上側に配置された内輪208y(又は208x)の大径側端面までの軸方向高さを、ダイヤルゲージなどの変位計219により測定し、該測定値を基準値とする(ダイヤルを0にセットする)。
【0009】
次に、図8(B)に示すように、片側列の円錐ころ209x及び内輪208xを外輪207xに対して組み付けた状態で、内輪208xを上側に向けて基準面218に載置する。そして、基準面218から内輪208xの大径側端面までの軸方向高さ(Hout)を変位計219により測定する。同様に、図示は省略するが、他側列の円錐ころ209y及び内輪208yを外輪207xに対して組み付けた状態で、内輪208yを上側に向けて基準面218に載置する。そして、基準面218から内輪208yの大径側端面までの軸方向高さ(Hin)を変位計219により測定する。最後に、2つの軸方向寸法(Hin,Hout)を合計し、合計値[-(Hin+Hout)]をアキシアル隙間とする。
【0010】
通常、複列円錐ころ軸受は、内輪208x,208yと、円錐ころ209x,209yと、保持器210x,210yとが一体となり、コーンを形成している。図8(A)の状態では、コーンの状態で基準面218から上側に配置された内輪208y(又は208x)の大径側端面までの軸方向高さを測定しているが、実際に測定しているのは一対の内輪208x,208yの幅であり、円錐ころ209x,209yは関係がない。
【0011】
そして、図8(B)の状態では、片側列の円錐ころ209x及び内輪208xを外輪207xに対して組み付けた状態で、基準面218から内輪208x,208yの大径側端面までの軸方向高さが測定される。この時、図8(B)に示したように、円錐ころ209xの頭部は、重力の影響で、自然に内輪208xの大鍔と接する。
【0012】
一方、特許文献1の軸受では、外輪軌道面117,118に向かって円錐ころ105,106を押さえる保持器120,121が採用されており、円錐ころ105,106が外輪軌道面117,118に接している。さらに、外輪104の内周面のうち、外輪軌道面117,118の近傍に突出部144、145が設けている。したがって、図8(A)(B)で説明したアキシアル隙間保証方法を、特許文献1に記載の軸受に適用した場合、図8(A)の測定は可能であるが、図8(B)の測定を行う際、円錐ころは重力と形状の影響で、保持器との隙間分、正規位置より下がってしまう。そこに内輪を挿入しても、円錐ころ頭部が内輪大鍔と接触する様にならず、図8(B)の測定方法が成立しない。
【0013】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、外輪軌道面やアキシアル隙間等の保証を簡易に実施可能なハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
(1) 外周面に、複列の内輪軌道面と、前記複列の内輪軌道面の軸方向両側に設けられた一対の大鍔部と、を有する内輪部材と、
内周面に、複列の外輪軌道面と、前記複列の外輪軌道面の軸方向両側に設けられた一対のシール固定面と、を有する外輪部材と、
前記複列の内輪軌道面と前記複列の内輪軌道面との間に、各列毎に設けられた複数の円錐ころと、
前記複数の円錐ころを、各列毎に転動自在に保持する一対の保持器と、
前記内輪部材の前記一対の大鍔部と、前記外輪部材の前記一対のシール固定面と、の間に設けられた一対のシール装置と、
を備えるハブユニット軸受であって、
前記内輪部材の前記外周面は、前記複列の内輪軌道面の軸方向における間の部分が、小鍔部が設けられない略円筒面であり、
前記複数の円錐ころを保持するために前記一対の保持器にそれぞれ設けられた複数のポケットは、前記複数の円錐ころが前記一対の保持器の径方向内側に抜け出るのを防止する形状を有し、
前記シール固定面の内径は、前記内輪部材を組み込む前の、前記外輪部材と前記複数の円錐ころと前記保持器との組立体における、前記複数の円錐ころを最も径方向内側に寄せたときの前記複数の円錐ころの外接円の外径の100~101%である、
ハブユニット軸受。
(2) 前記シール固定面の内径は、前記内輪部材を前記組立体に組み込んだ後における、前記複数の円錐ころの外接円の外径以上である、
(1)に記載のハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、外輪軌道面やアキシアル隙間等の保証を簡易に実施可能なハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受の断面図である。
図2】保持器に複数の円錐ころを組み付けてなる円錐ころユニットの断面図である。
図3図2のIII-III断面図である。
図4図2のIV-IV断面図である。
図5】外輪部材の外輪軌道面の角度保証の方法を説明するための図である。
図6】第2実施形態に係るハブユニット軸受の断面図である。
図7】特許文献1のハブユニット軸受の断面図である。
図8図8(A)及び図8(B)は、従来から知られているアキシアル隙間の測定方法を工程順に説明するために示す、断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
自動車等の車輪を支持するハブユニット軸受は、車輪を取り付けるためのハブ輪を転がり軸受を介して回転自在に支承するものであり、駆動輪用と従動輪用とがある。構造上の理由から、駆動輪用では内輪回転方式がされ、従動輪用では内輪回転と外輪回転の両方式が一般的に採用されている。このハブユニット軸受には、懸架装置を構成するナックルとハブ輪との間に複列円錐ころ軸受を嵌合させた第1世代と称される構造や、外輪部材の外周に直接車体取付フランジまたは車輪取付フランジが形成された第2世代構造や、ハブ輪の外周に複列の内輪軌道面のうちの一方が直接形成された第3世代構造が存在する。
【0018】
[第1実施形態]
以下の第1実施形態においては、第1世代構造の円錐ハブユニット軸受を構成する複列円錐ころ軸受について説明するが、本発明は、第2世代構造や第3世代構造の円錐ハブユニット軸受にも適用可能である。
【0019】
図1は、第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受の断面図である。図1に示す複列円錐ころ軸受1は、円錐ハブユニット軸受を構成する。複列円錐ころ軸受1は、内輪部材10と、外輪部材20と、複数の円錐ころ30と、一対の保持器40,40と、一対のシール装置50,50と、を備える。
【0020】
内輪部材10は、一対の内輪10a,10aが軸方向に突き合わされて構成される。内輪10aの外周面は、円錐ころ30が転動可能なテーパ状の内輪軌道面11と、内輪軌道面11の大径側端部に対して軸方向に隣り合うように設けられた大鍔部13と、を有する。内輪10aの外周面のうち、内輪軌道面11の小径側端部に対して軸方向に隣り合う部分は、小鍔部が設けられない略円筒面15である。
【0021】
したがって、一対の内輪10a,10aからなる内輪部材10の外周面は、複列の内輪軌道面11,11と、複列の内輪軌道面11の軸方向両側に設けられた一対の大鍔部13、13と、を有する。内輪部材10の外周面は、複列の内輪軌道面11,11の軸方向における間の部分が、小鍔部が設けられない略円筒面15である。
【0022】
大鍔部13は、内輪10aの軸方向一方側面(図1の左右外側の面)を構成する大鍔側面13aと、大鍔部13の外径面である大鍔外径面13bと、大鍔外径面13bと内輪軌道面11とを接続する大鍔面13cと、を有する。大鍔外径面13bにはシール装置50が設けられる。大鍔面13cには、円錐ころ30の頭部31が摺接する。大鍔部13によって、円錐ころ30の軸方向移動が規制される。
【0023】
1対の内輪10a,10aは、略円筒面15側の軸方向他方側面16(図1の左右内側の面)同士が軸方向に当接して組み合わされる。したがって、軸方向他方側面16は、所謂「突合わせ面」である。なお、軸方向他方側面16,16同士の間には間座が介在してもよい。
【0024】
外輪部材20の内周面は、円錐ころ30が転動可能なテーパ状の複列の外輪軌道面21,21と、複列の外輪軌道面21,21の軸方向両側に設けられた略円筒面である一対のシール固定面23,23と、を有する。一対のシール固定面23,23は、外輪部材20の内周面の軸方向両端部に位置する。
【0025】
一対のシール装置50,50はそれぞれ、内輪部材10の一対の大鍔部13の大鍔外径面13bと、外輪部材20の一対のシール固定面23と、の間に設けられる。これにより、一対のシール装置50,50は、内輪部材10及び外輪部材20との間の軸受空間の軸方向両側を密封する。
【0026】
図2は、保持器に複数の円錐ころを組み付けてなる円錐ころユニット3の断面図である。図3は、図2のIII-III断面図である。図4は、図2のIV-IV断面図である。図2図4に示すように、保持器40は、複数の円錐ころ30を、各列毎に転動自在に保持する。保持器40には、周方向に所定間隔で複数のポケット41が設けられており、当該ポケット41内に円錐ころ30が収容される。保持器40に複数の円錐ころ30が収容されて、円錐ころユニット3が構成される。
【0027】
保持器40に設けた各ポケット41は、複数の円錐ころ30が保持器40の径方向内側に抜け出るのを防止する形状を有する。このために本例の場合には、各ポケット41、41の周方向両側を仕切る柱部43、43を、円錐ころ30のピッチ円Pよりも径方向内側に位置させている。そして、保持器40の内周面側での各ポケット41の円周方向に関する幅を、円錐ころ30の外径よりも、これら円錐ころ30の軸方向に対応する部分で小さくしている。
【0028】
なお、図2図4に示した保持器40は、軸方向(図2の上下方向)に2分割される金型を使用した、所謂アキシャルドローによる射出成形を可能にして、製造コストを低減している。このため、各柱部43の断面形状を、軸方向並びに径方向中間部で変化させている。すなわち、円すいころ30の小径側端部に設けた小径リム部42の外周面よりも径方向外側に位置する部分は、図3に示す様に、径方向内側に向かう程円周方向に関する幅が広くなる方向に傾斜させている。これに対して、小径リム部42の外周面よりも径方向内側に位置する部分は、図4に示す様に、円周方向に関する幅を一定としている。小径リム部42の外周面から軸方向に連続し、傾斜した部分と平行な部分との境界となる角部44が、1対の金型の分離面に対応する。
【0029】
上述の様な形状を有する保持器40の各ポケット41に円錐ころ30を収容する作業は、保持器40の径方向外側から行なう。すなわち、各ポケット41に円錐ころ30を、保持器40の径方向外側から挿入し、これら各円錐ころ30を上記各ポケット41内に転動自在に収容する。この円錐ころユニット3の状態では、各円錐ころ30が各ポケット41から保持器40の径方向内側に抜け出る事はなくなる。
【0030】
図1には、外輪部材20と複数の円錐ころ30と一対の保持器40との組立体5に、内輪部材10(一対の内輪10a)を組み込んだ後の状態が示されている。内輪部材10を組み込む前に、先ず、組立体5は、以下のようにして組み立てられる。
【0031】
先ず、各保持器40,40のポケット41内に径方向外側から円錐ころ30を挿入し、図2に示したような円錐ころユニット3を一対構成する。次いで、これら一対の各円錐ころユニット3,3を、外輪部材20に対し軸方向両側から挿入し、外輪部材20の一対の外輪軌道面21,21に装着する。これにより、外輪部材20と一対の円錐ころユニット3,3(複数の円錐ころ30と一対の保持器40)とからなる組立体5が組み立てられる。
【0032】
ここで、シール固定面23の内径は、内輪部材10を組み込む前の、外輪部材20と複数の円錐ころ30と一対の保持器40との組立体5における、複数の円錐ころ30をポケット41内で最も径方向内側に寄せたときの複数の円錐ころ30の外接円(円錐ころ30の大径側端部33)の外径に対して、同一か僅かに大きく設定され、より具体的には、円錐ころ30の外接円(円錐ころ30の大径側端部33)の外径の100~101%とされる。したがって、複数の円錐ころ30をポケット41内で径方向内側に寄せた状態で、円錐ころユニット3,3は外輪部材20のシール固定面23の径方向内側を通過することができる。
【0033】
これにより、複数の円錐ころ30と一対の保持器40とからなる一対の円錐ころユニット3,3を、外輪部材20に対して軸方向両側から挿入することができ、外輪部材20と一対の円錐ころユニット3,3とからなる組立体5が構成できる。
【0034】
組立体5が構成された後は、一対の保持器40のポケット41内で円錐ころ30がランダムに(例えば径方向外側等に)移動するので、仮に円錐ころ30が軸方向外側に移動した場合であっても円錐ころ30がシール固定面23と引っ掛かり、一対の円錐ころユニット3,3が外輪部材20から抜け出てしまうことはない。なお、シール固定面23は外輪軌道面21と一体的に研削される面であるため、シール固定面23の寸法は数ミクロン単位で制御される。
【0035】
外輪部材20と一対の円錐ころユニット3,3とからなる組立体5を構成した後、当該組立体5に小鍔を有しない一対の内輪10a,10aを軸方向両側から挿入し、さらに、一対のシール装置50を装着することで、複列円錐ころ軸受1が完成する。
【0036】
なお、内輪部材10(一対の内輪10a,10a)を、外輪部材20と複数の円錐ころ30と一対の保持器40,40との組立体5に組み込んだ後において、すなわち図1に示す複列円錐ころ軸受1の状態において、シール固定面23の内径は、複数の円錐ころ30の外接円(円錐ころ30の大径側端部33)の外径以上であることが好ましい。寸法関係をこのように設定することで、複数の円錐ころ30と一対の保持器40とからなる一対の円錐ころユニット3,3を、外輪部材20に対して軸方向両側から挿入する際に、円錐ころ30がシール固定面23に接触することを抑制できる。
【0037】
図5は、外輪部材の外輪軌道面の角度保証の方法を説明するための図である。本実施形態の複列円錐ころ軸受1の場合、外輪部材20に特許文献1のような突出部が設けられないため、外輪軌道面21の保証に、図5に示す様な、マスターテーパ7を利用できる。
【0038】
一般に、テーパ内径の寸法を測定することは難しいので、マスターテーパ7と外輪軌道面21を光明丹などの顔料を使って当たり確認して、外輪軌道面21の角度の保証を行う。マスターテーパ7は、全体として円筒状の部材であり、略円筒面状の外周面7aと、軸方向から見て略円形の平面状の先端面7bと、外周面7aの軸方向端部と先端面7bの外周縁に接続し、外周面7aから先端面7bに向かうにしたがって小径となるテーパ面7cと、を含む。
【0039】
マスターテーパ7の外径、すなわち外周面7aの外径は、シール固定面23の内径と同一か僅かに小さく設定されており、マスターテーパ7を外輪部材20に挿入可能とされている。テーパ面7cに光明丹などの顔料を塗布し、測定面となる外輪軌道面21に押し当て、外輪軌道面21への顔料の付着具合で、外輪軌道面21の角度の保証を行うことができる。テーパ面7cを外輪軌道面21に押し当てた際、先端面7bは、外輪軌道面21の小径側端部21bよりも軸方向内側に入り込む。なお、マスターテーパ7による角度保証は、図5中の左右一対の外輪軌道面21に対し、片側ずつ行われる。
【0040】
なお、図5に示す様に、外輪軌道面21の大径側端部21aは、シール固定面23の内径よりも大きい。したがって、マスターテーパ7の外径(外周面7aの外径)を、シール固定面23の内径と同一として、シール固定面23を通過可能な最大寸法としても、マスターテーパ7のテーパ面7cを外輪軌道面21の全面に当てることはできない。しかしながら、上述したように、内輪部材10(一対の内輪10a,10a)を、外輪部材20と複数の円錐ころ30と一対の保持器40,40との組立体5に組み込んだ後において、シール固定面23の内径を、複数の円錐ころ30の外接円(円錐ころ30の大径側端部33)の外径以上とすれば、外輪軌道面21のうちころ転走面となる部分にマスターテーパ7のテーパ面7cを当てることができるので、外輪軌道面21のうちころ転走面となる部分の角度を保証することが可能である。
【0041】
また、本実施形態の複列円錐ころ軸受1の場合、外輪部材20に特許文献1のような突出部が設けられないため、アキシアル隙間の保証に、図8(A)及び(B)を参照して説明した様な方法を適用できる。
【0042】
[第2実施形態]
図6は、本発明の第2実施形態に係るハブユニット軸受の断面図である。
【0043】
なお、第2実施形態において、「インボード側」とは、車体に取り付けた際のハブユニット軸受1Aの車体側を表し、図6中の右側である。「アウトボード側」とは、車体に取り付けた際のハブユニット軸受1Aの車輪側を表し、図6中の左側である。「軸方向」とは、ハブユニット軸受1Aの回転軸Oが延びる方向を表し、図6中の左右方向である。「径方向外側」とは、回転軸Oから遠ざかる方向を表す。「径方向内側」とは、回転軸Oに近づく方向を表す。「周方向」とは、回転軸Oを中心に旋回する方向を表す。
【0044】
図6に示すように、ハブユニット軸受1Aは、第3世代構造のハブユニット軸受であり、内周面に複列の外輪軌道面21,21が形成された外輪部材20と、外周面に複列の内輪軌道面11,61が形成された内輪部材10(ハブ輪60及び内輪10a)と、複列の外輪軌道面21,21と複列の内輪軌道面11,61との間に各列毎に複数個ずつ配置される複数の円錐ころ30と、を備える。
【0045】
外輪部材20の内周面は、円錐ころ30が転動可能なテーパ状の複列の外輪軌道面21,21と、複列の外輪軌道面21,21の軸方向両側に設けられた略円筒面である一対のシール固定面23,23と、を有する。一対のシール固定面23,23は、外輪部材20の内周面の軸方向両端部に位置する。外輪部材20の内周面に形成された複列の外輪軌道面21,21は、互いに軸方向に離間している。外輪部材20の外周面には、懸架装置を構成する図示しないナックルに結合固定されるフランジ62が形成される。
【0046】
内輪部材は、ハブ輪60と、ハブ輪60とは別体である内輪10aと、を有する。ハブ輪60の外周面及び内輪10aの外周面には、それぞれ内輪軌道面11,61が形成されている。ハブ輪60及び内輪10aの内輪軌道面11,61はそれぞれ、外輪部材20の外輪軌道面21,21と径方向に対向している。
【0047】
ハブ輪60と内輪10aとからなる内輪部材10の外周面は、複列の内輪軌道面61,11と、複列の内輪軌道面61,11の軸方向両側に設けられた一対の大鍔部68、13と、を有する。内輪部材10の外周面は、複列の内輪軌道面61,11の軸方向における間の部分が、小鍔部が設けられない略円筒面69,15である。
【0048】
外輪軌道面21,21及び内輪軌道面11,61で構成される複列の軌道には、複数の円錐ころ30が周方向に等間隔で配置されている。複数の円錐ころ30は、保持器40によって転動可能に保持される。保持器40は、第1実施形態の保持器(図2図4参照)と同様の構造を有しており、保持器40に設けた各ポケット41は、複数の円錐ころ30が保持器40の径方向内側に抜け出るのを防止する。
【0049】
複数の円錐ころ30は、互いに所定の接触角をなして外輪軌道面21,21及び内輪軌道面11,61に接触して、背面組み合わせ型(DB)軸受が構成される。これにより、ハブ輪60及び内輪10aは、外輪部材20に対して回転可能となる。
【0050】
ハブ輪60のインボード側端部には、小径段部63が形成されている。小径段部63には、内輪10aが外嵌固定される。
【0051】
なお、本実施形態のハブユニット軸受1Aは駆動輪用であるため、ハブ輪60は軸方向に貫通する貫通孔64(セレーション孔又はスプライン孔)を有する略円筒形状である。
【0052】
ハブ輪60は、当該ハブ輪60のアウトボード側端部に設けられた、筒状のパイロット部65と、パイロット部65のインボード側に隣り合うように配置され、ホイールを支持するためのフランジ部66が形成される。フランジ部66は、ハブ輪60の外周面から径方向外側に延出する円盤状である。フランジ部66には、軸方向に貫通する複数の貫通孔66aが周方向に等間隔で設けられる。それぞれの貫通孔66aには、不図示のホイール及びブレーキロータなどを締結するための複数のハブボルト67が固定される。
【0053】
外輪部材20と内輪部材(ハブ輪60、内輪10a)との間の軸受内部空間のアウトボード側にはシール装置51が設けられ、軸受内部空間のインボード側にはシール装置52が設けられる。一対のシール装置51,52はそれぞれ、内輪部材10(ハブ輪60及び内輪10a)の一対の大鍔部68,13と、外輪部材20の一対のシール固定面23,23と、の間に設けられる。一対のシール装置51,52は、軸受内部空間に封入したグリースが外部空間に漏洩することを防止するとともに、泥水などの異物が外部空間から軸受内部空間に侵入することを防止するために、軸受内部空間のアウトボード側及びインボード側の開口部を塞いでいる。
【0054】
外輪部材20は、一対の外輪軌道面21,21の間において、外輪部材20の外周面から内周面に貫通する取付孔25を有している。取付孔25には、センサSが挿入される。センサSは、ハブ輪60の外周面の略円筒面69上に配置された被検出部としてのエンコーダ70に対して径方向に対向させた状態で、取付孔25に固定されている。また、センサSは、例えば渦電流式の変位センサにより構成されたものであり、被検出部19との間に磁界を発生させるとともに、軸受回転に応じた磁界の磁束密度の変化を検出部によって検出する。そして、その変化を検出(電圧)信号として、不図示のハーネスから、車両のECU等の制御部(図示せず)に出力するように構成されている。また、センサSは、ゴム磁石からなる磁気エンコーダとMR素子やホール素子からなるセンサ(所謂アクティブセンサ)や、パルサギアやトーンホイル(表面に穴や切欠きが設けられた環状のプレス製リング)とコイルと永久磁石からなるセンサ(所謂パッシブセンサ)であってもよい。
【0055】
特に本実施形態では、内輪部材10(ハブ輪60及び内輪10a)の一対の内輪軌道面11,61の間の部分が、小鍔部が設けられない略円筒面69,15であるので、エンコーダ70に磁気タイプを用いた場合であっても、エンコーダ70からの磁束信号が小鍔部に吸収されることが防止でき、速度信号精度を向上できる。
【0056】
このようなハブユニット軸受1Aにおいては、外輪部材20と円錐ころ30と一対の保持器40,40との組立体5に、アウトボード側のシール装置51を組付け後、アウトボード側からハブ輪60を組付けると共にインボード側から内輪10aを組付け、最後にインボード側のシール装置51を挿入して組み立てる。
【0057】
ここで、一対の円錐ころユニット3,3(円錐ころ30と一対の保持器40,40)と外輪部材20との組立体5にアウトボード側のシール装置51を組付ける(圧入する)際には、円錐ころ30と一対の保持器40,40とからなる一対の円錐ころユニット3,3が外輪軌道面21,21の径方向内側の空間に留まっていると、シール装置51の組付けが容易となる。
【0058】
そこで、本実施形態の一対の保持器40,40は、上述した通り、第1実施形態と同様の構造を有しており、複数の円錐ころ30が保持器30の径方向内側に抜け出るのを防止する形状を有する。
【0059】
また、シール固定面23の内径は、内輪部材10を組み込む前の、外輪部材20と複数の円錐ころ30と一対の保持器40との組立体5における、複数の円錐ころ30をポケット41内で最も径方向内側に寄せたときの複数の円錐ころ30の外接円(円錐ころ30の大径側端部33)の外径に対して、同一か僅かに大きく設定され、より具体的には、円錐ころ30の外接円(円錐ころ30の大径側端部33)の外径の100~101%とされる。したがって、複数の円錐ころ30をポケット41内で径方向内側に寄せた状態で、複数の円錐ころ30と保持器40とからなる円錐ころユニット3は外輪部材20のシール固定面23の径方向内側を通過することができる。これにより、複数の円錐ころ30と一対の保持器40とからなる一対の円錐ころユニット3,3を、外輪部材20に対して軸方向両側から挿入することができ、外輪部材20と一対の円錐ころユニット3,3とからなる組立体5が構成できる。組立体5が構成された後は、一対の保持器40のポケット41内で円錐ころ30がランダムに(例えば径方向外側等に)移動するので、仮に円錐ころ30が軸方向外側に移動した場合であっても円錐ころ30がシール固定面23と引っ掛かり、一対の円錐ころユニット3,3が外輪部材20から抜け出てしまうことはない。
【0060】
なお、内輪部材10(一対の内輪10a,10a)を、外輪部材20と複数の円錐ころ30と一対の保持器40,40との組立体5に組み込んだ後において、すなわち図6に示すハブユニット軸受1Aの状態において、シール固定面23の内径は、複数の円錐ころ30の外接円(円錐ころ30の大径側端部33)の外径以上であることが好ましい。寸法関係をこのように設定することで、複数の円錐ころ30と一対の保持器40とからなる一対の円錐ころユニット3,3を、外輪部材20に対して軸方向両側から挿入する際に、円錐ころ30がシール固定面23に接触することを抑制できる。
【0061】
本実施形態のハブユニット軸受1Aの場合も、第1実施形態と同様、外輪部材20に特許文献1のような突出部が設けられないため、外輪軌道面21の保証に、図5で示したようなマスターテーパ7を利用できる。
【0062】
また、図6では、ハブユニット軸受1Aを駆動輪用として説明したが、従動輪用とする場合には、外輪部材20のインボード側のシール固定面23に固定されるシール装置52としては、エンドキャップとすることも可能である。
【0063】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形及び改良が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 複列円錐ころ軸受
1A ハブユニット軸受
3 円錐ころユニット
5 組立体
7 マスターテーパ
7a 外周面
7b 先端面
7c テーパ面
10 内輪部材
10a 内輪(内輪部材)
11 内輪軌道面
13 大鍔部
13a 大鍔側面
13b 大鍔外径面
13c 大鍔面
15 略円筒面
16 軸方向他方側面
20 外輪部材
21 外輪軌道面
21a 大径側端部
21b 小径側端部
23 シール固定面
25 取付孔
30 円錐ころ
31 頭部
33 大径側端部
40 保持器
41 ポケット
42 小径リム部
43 柱部
44 角部
50,51,52 シール装置
60 ハブ輪
61 内輪軌道面
62 フランジ
63 小径段部
64 貫通孔
65 パイロット部
66 フランジ部
66a 貫通孔
67 ハブボルト
68 大鍔部
69 略円筒面
70 エンコーダ
P ピッチ円
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8