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特開2024-25176歯科用ハンドピースの異常判定装置及び異常判定方法、並びにプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025176
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】歯科用ハンドピースの異常判定装置及び異常判定方法、並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61C 1/02 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
A61C1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128412
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000150327
【氏名又は名称】株式会社ナカニシ
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊平
(72)【発明者】
【氏名】東 正浩
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA13
4C052BB02
4C052GG02
4C052GG06
4C052GG21
(57)【要約】
【課題】従来よりも更に高い精度で異常を判定可能な歯科用ハンドピースの異常判定装置及び異常判定方法、並びにプログラムを提供する。
【解決手段】歯科用ハンドピースの異常判定装置であって、歯科用ハンドピースが駆動モータ1に装着され、かつ無負荷の状態において、歯科用ハンドピースの通常治療時の回転数における無負荷電流よりも小さい試験用電流を、駆動モータ1に通電する電流出力部6aと、試験用電流の通電時における駆動モータ1の回転速度を検出する回転速度検出部7と、検出された回転速度とあらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、大小を判定する比較判定部8と、検出された回転速度が閾値回転速度より小さい場合に、歯科用ハンドピース14が異常であると判定する異常判定部5aと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用ハンドピースの異常判定装置であって、
前記歯科用ハンドピースが駆動モータに装着され、かつ無負荷の状態において、前記歯科用ハンドピースの通常治療時の回転数における無負荷電流よりも小さい試験用電流を、前記駆動モータに通電する電流出力部と、
前記試験用電流の通電時における前記駆動モータの回転速度を検出する回転速度検出部と、
検出された前記回転速度とあらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、大小を判定する比較判定部と、
検出された前記回転速度が前記閾値回転速度より小さい場合に、前記歯科用ハンドピースが異常であると判定する異常判定部と、
を備える歯科用ハンドピースの異常判定装置。
【請求項2】
前記閾値回転速度は、特定種の前記歯科用ハンドピースについての複数のサンプルに関して、前記駆動モータの回転速度と、前記歯科用ハンドピースのヘッド部の温度との関係から導き出される、
請求項1に記載の歯科用ハンドピースの異常判定装置。
【請求項3】
前記異常判定部が、前記歯科用ハンドピースが異常であると判定した場合において、前記歯科用ハンドピースのメンテナンス後に、さらに当該歯科用ハンドピースについて前記異常を判定する、
請求項1に記載の歯科用ハンドピースの異常判定装置。
【請求項4】
前記比較判定部は、前記回転速度の平均値と前記閾値回転速度とを比較する、
請求項1に記載の歯科用ハンドピースの異常判定装置。
【請求項5】
前記回転速度検出部は、前記駆動モータへの通電開始から所定時間を経過した後に前記回転速度を検出する、
請求項1に記載の歯科用ハンドピースの異常判定装置。
【請求項6】
歯科用ハンドピースの異常判定方法であって、
前記歯科用ハンドピースが駆動モータに装着され、かつ無負荷の状態において、前記歯科用ハンドピースの通常治療時の回転数における無負荷電流よりも小さい試験用電流を、前記駆動モータに通電し、
前記試験用電流の通電時における前記駆動モータの回転速度を検出し、
検出された前記回転速度とあらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、大小を判定し、
検出された前記回転速度が前記閾値回転速度より小さい場合に、前記歯科用ハンドピースが異常であると判定する、
歯科用ハンドピースの異常判定方法。
【請求項7】
歯科用ハンドピースの異常判定方法の手順を実行するプログラムであって、
コンピュータに、
前記歯科用ハンドピースが駆動モータに装着され、かつ無負荷の状態において、前記歯科用ハンドピースの通常治療時の回転数における無負荷電流よりも小さい試験用電流を、前記駆動モータに通電する手順と、
前記試験用電流の通電時における前記駆動モータの回転速度を検出する手順と、
検出された前記回転速度とあらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、大小を判定する手順と、
検出された前記回転速度が前記閾値回転速度より小さい場合に、前記歯科用ハンドピースが異常であると判定する手順と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ハンドピースの異常判定装置及び異常判定方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙等を切削するためにモータに接続して使用される歯科用ハンドピースは、モータの回転を回転軸や歯車を介してハンドピース先端の切削を行う先端工具部分(切削バー)まで伝達している。先端工具部分は、例えば毎分20万回転という高速な回転を可能にしている。この先端工具部分が洗浄、注油等のメンテナンスが正しく行われて正常状態にある場合は異常発熱を生じないが、メンテナンスが正しく行われていない場合は、歯車部分やベアリング等の駆動部分に異物の付着、油切れ等の発生に起因して、先端工具部分が異常発熱を起こす等の不具合が発生することがある。
【0003】
特許文献1は、歯科用ハンドピースを無負荷の状態で動作させたときの駆動モータの電流値(無負荷電流値)を計測し、歯科用ハンドピースの異常判定を行う技術を開示している。この異常判定によれば、ハンドピースの無負荷電流値から、ハンドピースのメンテナンス状態を推測して使用者への注意喚起を行う。また、その無負荷電流値を使用して係数換算し、異常なハンドピースで駆動モータの負荷が増大しないように制御側も併せて制御することにより、ハンドピースの異常発熱を未然に防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-7366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、ハンドピース内の駆動軸の折損のように、比較的大きな電流変化が生じる異常を判定しているが、近年になり、ハンドピースの高性能化に伴って更なる異常検出精度の向上が望まれるようになった。そのため、例えばハンドピース内の軸受、ギヤ等の僅かな劣化が生じた場合のように電流変化が微小である場合でも、十分な精度で異常を判定することが要望されている。
【0006】
そこで本発明は、従来よりも更に高い精度で異常を判定可能な歯科用ハンドピースの異常判定装置及び異常判定方法、並びにプログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の構成からなる。
(1)歯科用ハンドピースの異常判定装置であって、
前記歯科用ハンドピースが駆動モータに装着され、かつ無負荷の状態において、前記歯科用ハンドピースの通常治療時の回転数における無負荷電流(=歯科用ハンドピースが駆動モータに装着され切削時相当の回転数で動作しているが、切削行為が行われていない状態のときの電流)よりも小さい試験用電流を、前記駆動モータに通電する電流出力部と、
前記試験用電流の通電時における前記駆動モータの回転速度を検出する回転速度検出部と、
検出された前記回転速度とあらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、大小を判定する比較判定部と、
検出された前記回転速度が前記閾値回転速度より小さい場合に、前記歯科用ハンドピースが異常であると判定する異常判定部と、
を備える歯科用ハンドピースの異常判定装置。
(2)歯科用ハンドピースの異常判定方法であって、
前記歯科用ハンドピースが駆動モータに装着され、かつ無負荷の状態において、前記歯科用ハンドピースの通常治療時の回転数における無負荷電流よりも小さい試験用電流を、前記駆動モータに通電し、
前記試験用電流の通電時における前記駆動モータの回転速度を検出し、
検出された前記回転速度とあらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、大小を判定し、
検出された前記回転速度が前記閾値回転速度より小さい場合に、前記歯科用ハンドピースが異常であると判定する、
歯科用ハンドピースの異常判定方法。
(3)歯科用ハンドピースの異常判定方法の手順を実行するプログラムであって、
コンピュータに、
前記歯科用ハンドピースが駆動モータに装着され、かつ無負荷の状態において、前記歯科用ハンドピースの通常治療時の回転数における無負荷電流よりも小さい試験用電流を、前記駆動モータに通電する手順と、
前記試験用電流の通電時における前記駆動モータの回転速度を検出する手順と、
検出された前記回転速度とあらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、大小を判定する手順と、
検出された前記回転速度が前記閾値回転速度より小さい場合に、前記歯科用ハンドピースが異常であると判定する手順と、
を実行させるプログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも更に高い精度で歯科用ハンドピースの異常を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態の歯科用治療装置の外観図である。
図2図2は、歯科用治療装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、歯科用ハンドピースの軸方向に沿った断面図である。
図4図4は、歯科用ハンドピースの異常判定方法の手順を示すフローチャートである。
図5図5は、歯科用ハンドピースの正常品と異常品とを含むサンプルに関して、駆動モータの回転速度と歯科用ハンドピースのヘッド部の温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した歯科用ハンドピースの異常判定装置、異常判定方法、異常判定プログラムについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、歯科用ハンドピースを含む歯科用治療装置の外観図である。歯科用治療装置100は、駆動モータ1と、駆動モータ1に取り付け可能な歯科用ハンドピース14と、電気コード10を介して駆動モータ1に接続され、駆動モータ1の動作制御及びチェックを行うコントロール装置2とを含む。歯科用治療装置100は、コントロール装置2の制御により駆動モータ1が回転駆動し、ギヤ等を介して歯科用ハンドピース14の先端に設けられた先端工具部分(切削バー)を高速で回転駆動させ、歯牙等を切削可能にする。
【0012】
図2は、歯科用治療装置100の構成を示すブロック図である。駆動モータ1は本体部11と、本体部11の基端側の電気コード結線部12と、本体部11の先端側のハンドピース接続部13とを有する。電気コード結線部12には電気コード10が接続され、駆動モータ1と電源(不図示)、及び駆動モータ1とコントロール装置2との電気的接続が行われる。ハンドピース接続部13には、例えば歯科用ハンドピース14の具体例であるコントラアングルハンドピース14A,14B,14C及びストレートハンドピース14Dのいずれかの歯科用ハンドピース14が選択的に接続される。
【0013】
本実施の形態において、コントラアングルハンドピース14Aは増速ハンドピースであり、駆動モータ1の回転速度に対する回転速度比率は例えば5倍である。コントラアングルハンドピース14Bは等速ハンドピースである。コントラアングルハンドピース14Cは減速ハンドピースであり、駆動モータ1の回転速度に対する回転速度比率は例えば1/4倍である。ストレートハンドピース14Dは上記コントラアングルハンドピース14Aと同様、等速ハンドピースである。なお以下の説明において、ハンドピース14A,14B,14C,14D全般について説明する場合は歯科用ハンドピース14と表現する。
【0014】
コントロール装置2は、操作部3と、表示部4と、制御部5と、回転速度検出部7と、比較判定部8と、記憶部9と、モータ制御部6と、を備える。操作部3は、各種動作指示(コマンド等)が入力される入力手段であって、ボタン、液晶タッチパネル等により構成される。表示部4は、駆動モータ1のチェック内容等が表示される液晶ディスプレイ等により構成される。
【0015】
本実施形態のコントロール装置2は、歯科用ハンドピース14の異常を判定する歯科用ハンドピース14の異常判定装置としても機能する。この機能は、主として制御部5と、回転速度検出部7と、比較判定部8と、記憶部9と、モータ制御部6とにより実現される。
【0016】
モータ制御部6は、駆動モータ1に接続されて駆動モータ1との間で制御信号及び電流信号の送受を行う。また、モータ制御部6は、後述するように、歯科用ハンドピース14による切削時等の通常治療時の回転数における無負荷電流よりも小さい試験用電流を、駆動モータ1に通電する電流出力部6aを備える。
【0017】
回転速度検出部7は、モータ制御部6に接続され駆動モータ1の回転速度を検出する。比較判定部8は、回転速度検出部7により検出された回転速度とあらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、検出された回転速度と閾値回転速度との大小を判定する。閾値回転速度の詳細は後述する。
【0018】
制御部5は、上述したコントロール装置2の各部の制御を行う演算処理装置(コンピュータ)であり、コントロール装置2の全体の制御を司る。制御部5は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、CPUのメインメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)、さらには演算処理のクロックタイミング(例えば1GHz等)をとるタイマー等から構成される。制御部5は、試験用電流の通電時に、回転速度検出部7により検出された回転速度が閾値回転速度より小さいと比較判定部8が判定した場合に、歯科用ハンドピース14が異常であると判定する異常判定部5aを備える。
【0019】
記憶部9は、例えば、HDD(Hard disk drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュストレージ等のストレージデバイスから構成される。記憶部9は、制御部5が各種処理を行うために使用する各種プログラムおよびデータ、制御部5が各種処理を行うことにより生成又は取得した各種データを記憶する。つまり、記憶部9は、後述する歯科用ハンドピース14の異常判定のために用いられる異常判定プログラム、及び上述した閾値回転速度を記憶する。制御部5は、この異常判定プログラムを読み出して、異常判定の手順を実行する。
【0020】
図3は、歯科用ハンドピース14の軸方向に沿った断面図である。歯科用ハンドピース14は、駆動モータ1のハンドピース接続部13の設けられた出力軸201に係合して回転する第1回転軸202と、第1回転軸202に対して傾斜する第2回転軸203と、第1回転軸202と第2回転軸203の間に介在する第1歯車列204と、第2回転軸203と直交する工具回転軸205と、第2回転軸203と工具回転軸205の間に介在する第2歯車列206と、を備える。
【0021】
歯科用ハンドピースの回転速度は、駆動モータ1をパルス幅制御(PWM制御)することで調整できる。また、回転速度を増やすために、例えば第1歯車列204、第2歯車列206における速度比を1未満の値に設定し、低い速度で回転する場合には、例えば、第1歯車列における速度比を1より大きな値に設定してもよい。
【0022】
歯科用ハンドピース14のヘッド部には、歯牙を切削するための治療工具Tが着脱可能に取り付けられる。治療工具Tは、工具回転軸205に軸方向へ押し込むことで取り付けられ、高速回転可能に支持される。
【0023】
また、駆動モータ1の内部には、駆動モータ1の回転速度を計測する回転速度センサ207が設けられる。回転速度センサ207は、例えばホール素子により構成される。回転速度センサ207からの出力信号は、電気コード10を介してモータ制御部6、回転速度検出部7に送信され、回転速度検出部7が、駆動モータ1の回転速度を検出する。回転速度センサ207は、ホール素子に限らず他の方式のものでもよい。また、駆動電流や駆動電圧等の変化により回転速度を計測する場合は、回転速度センサ207は不要となる。
【0024】
歯科用ハンドピース14の不具合は、所定のメンテナンスにより解消可能な不具合と、メンテナンスによっても解消不可能な不具合とがある。メンテナンスにより解消可能な不具合は、例えば、上述した各種部品における汚れ、ゴミ等の付着、詰まり、油の不足等に起因する不具合である。このような不具合は、歯科用ハンドピース14の使用現場(例えば歯科医院)においても対応可能である。一方、メンテナンスによっても解消不可能な不具合は、例えば、第1回転軸202、第2回転軸203の折損、第1歯車列204、工具回転軸205、第2歯車列206の所定の歯車の摩耗のように、部品の交換、歯科用ハンドピース14そのものの交換を要する不具合である。このような不具合は、歯科用ハンドピース14の使用現場においても対応は困難であり、機器メーカー、修理業者等による対応を要する。
【0025】
従来の異常判定では、駆動モータ1の回転速度を一定にするように駆動電流を制御し、そのときの電流変化をモニタして、そのモニタリングの結果から歯科用ハンドピース14の異常の有無を判定することが一般的であった。しかし、このような制御は、駆動モータ1の回転速度を一定に保つために、回転速度のフィードバック制御を行うため、制御が複雑となる。また、もともと抵抗値の高い駆動モータ1に流す電流を測定するため、通電する電流値が必然的に大きくなる。そのため、わずかな部品の摩耗等に伴って生じる異常であって、電流の変化が小さい場合、このような微少な異常を正確に判定するのは困難であった。
【0026】
一方で、異常な箇所を有する歯科用ハンドピース14の場合、その軸回転に要するトルクが正常品に比べて増加し、無負荷時の駆動モータ1の回転速度が、正常品のものより低下する。そこで、本構成においては、無負荷時の駆動モータ1の回転速度が所定の閾値(閾値回転速度)より大きいか否かにより、対象となる歯科用ハンドピースの異常を判定する。このときの回転速度は、通常の切削負荷時におけるモータ駆動電流より小さな駆動電流にする。
以下、異常判定装置が実施する歯科用ハンドピース14の異常判定方法の手順を詳細に説明する。図4は、歯科用ハンドピースの異常判定方法の手順を示すフローチャートである。
【0027】
まず、例えば歯科医師、歯科医師助手等の歯科用ハンドピース14の使用者が操作部3を操作して、歯科用ハンドピース14の異常判定を開始するための入力を行う。なお、制御部5が、歯科用ハンドピース14の駆動時間等の所定の条件下で、使用者に異常判定を促す処理を開始し、表示部4にその旨を出力し、使用者がこれを受けて実行することでもよい。
【0028】
このとき歯科用ハンドピース14は、駆動モータ1に装着され、回転駆動可能であるが被切削対象物に接触させない、いわゆる無負荷の状態にする。治療工具Tのヘッド部への取り付けの有無は任意である。そして、操作部3への異常判定の開始入力に伴い、モータ制御部6の電流出力部6aが、歯科用ハンドピース14の通常治療時の回転数における無負荷電流、すなわち歯科用ハンドピースが駆動モータに装着され切削時相当の回転数で動作しているが、切削行為が行われていない状態のときの電流よりも小さい一定の試験用電流を、駆動モータ1に通電する(ステップS1)。
【0029】
この試験用電流は、例えば通常治療時の回転数における無負荷電流より小さく、1/10以下(例えば0.1A以下)が好ましい。また、このような試験用電流は、通常の駆動モータ1の駆動に用いるPWM(Pulse Width Modulation)制御を流用することで、特別なハードウェアを追加せずに容易に生成可能である。
【0030】
試験用電流の通電開始から所定時間を経過した後(ステップS2;Yes)は、駆動モータ1の回転が安定したと推定できる。そのため、回転速度検出部7は、駆動モータ1への通電開始から予め定めた立ち上がり時間を経過した後に、モータ制御部6に送信されてきた回転速度センサ207の出力信号に基づき、試験用電流の通電下における駆動モータ1の回転速度を検出する(ステップS3)。これにより、駆動モータ1の回転速度を正確に検出でき、異常の判定精度を向上できる。
【0031】
次に、比較判定部8は、回転速度検出部7により検出された回転速度と、あらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、検出された回転速度と閾値回転速度との大小を判定する(ステップS4)。この閾値回転速度は、無負荷時において、正常な歯科用ハンドピース14が装着された駆動モータ1が達成すべき最低限の回転速度に設定してもよい。この閾値回転速度は、特定の駆動モータ1について、装着された歯科用ハンドピース14の種類ごとに実験的、経験的に導き出すことが可能である。閾値回転速度は記憶部9に記憶される。閾値回転速度の具体例は後述する。
【0032】
上記した試験用電流の通電下において、回転速度検出部7により検出された回転速度が閾値回転速度以上である場合(ステップS4;Yes)、駆動モータ1が達成すべき最低限の回転速度を満足しており、装着された歯科用ハンドピース14は正常であると推定される。よって、制御部5の異常判定部5aは、歯科用ハンドピース14が正常であると判定し、この判定を受けて、表示部4に、判定結果が正常である旨の出力を行う(ステップS5)。
【0033】
一方、試験用電流の通電下において、回転速度検出部7により検出された回転速度が閾値回転速度より小さい場合(ステップS4;No)、駆動モータ1が達成すべき最低限の回転速度を満足しておらず、装着された歯科用ハンドピース14は異常であると推定される。よって、異常判定部として機能する制御部5は、歯科用ハンドピース14が異常であると判定し、この判定を受けて、表示部4に、判定結果が異常である旨の出力を行う(ステップS6)。
【0034】
以上のステップS1~S6の手順が、異常判定の基本の手順である。使用者は、この手順によって歯科用ハンドピース14の異常を高い精度で判定できる。すなわち、試験用電流は、通常治療時の回転数における無負荷電流より小さい値であるため、わずかな異常により生ずる回転速度の異常(回転速度の低下)をも容易に検出でき、異常判定の精度が高められる。
【0035】
また、この判定手順は、制御部5が異常判定プログラムを記憶部9から読み出し、電流出力部6aを含むモータ制御部6、回転速度検出部7、比較判定部8、異常判定部5aを含む制御部5のそれぞれを、プログラムの実行により動作させることで実現する。つまり、使用者は記憶部9に記憶された異常判定プログラムを書き換えるだけで、既存の装置のハードウェアを改変することなく、種々の状況に応じた異常判定を容易に実施できる。
【0036】
ステップS6で異常判定が出力された後、本実施形態では、まず、今回の異常判定が1回目かどうかを判定する(ステップS7)。この判定は、使用者が経過を記憶したうえで行ってもよく、異常判定装置が経過を記憶し、表示部4等を介して使用者に異常判定の実施回数を報知させてから行ってもよい。
【0037】
今回の判定が1回目の判定である場合(ステップS7;Yes)、使用者は、異常判定がなされた歯科用ハンドピース14についてメンテナンスを行う(ステップS8)。メンテナンスは、滅菌、洗浄、注油等一連の調整工程を含む。メンテナンスにはオートクレーブのような装置を用いてもよい。
【0038】
メンテナンス後、異常判定装置は、再びステップS1~ステップS4の手順を実行する。メンテナンスにより歯科用ハンドピース14が正常状態となり、回転速度検出部7により検出された回転速度が閾値回転速度以上である場合(ステップS4;Yes)、制御部5は、歯科用ハンドピース14が正常であると判定し、この判定を受けて、表示部4は判定結果が正常である旨の出力を行う(ステップS5)。
【0039】
一方、メンテナンス後であっても、回転速度検出部7により検出された回転速度が閾値回転速度より小さい場合(ステップS4;No)、その歯科用ハンドピース14は異常であると推定される。よって、制御部5の異常判定部5aは、歯科用ハンドピース14が異常であると判定し、この判定を受けて、表示部4は、判定結果が異常である旨の出力を行う(ステップS6)。
【0040】
上記のメンテナンス後の判定は2回目の判定である(ステップS7;No)。メンテナンス後でも歯科用ハンドピース14は異常状態のままの場合、歯科用ハンドピース14にメンテナンスによっても回復しない不具合(部品の欠落、欠損等)が生じており、修理または交換が必要であると推定される。この場合、使用者は歯科用ハンドピース14の修理又は交換が必要であると判断する(ステップS9)。また、表示部4が、修理、交換等を使用者に促す表示出力をしてもよい。
【0041】
上記手順においては、1回目の判定において、歯科用ハンドピース14が異常であると判定された場合、歯科用ハンドピース14のメンテナンス後(ステップS8)、異常判定装置は、さらにその歯科用ハンドピース14について、異常を判定する(ステップS1~ステップS4)。これにより、使用者は一度メンテンナンスを行うことにより正常状態に回復した歯科用ハンドピース14については、そのまま使用を続行できると判断し、正常状態に回復せずに異常なままの歯科用ハンドピース14については、修理又は交換といったプロセスの適用が必要と判断できる。
【0042】
これにより、異常のある歯科用ハンドピース14について、メンテナンス後の状態に応じて、さらに異常の度合いに応じた選別が可能となる。よって、メンテナンスにより回復しない歯科用ハンドピース14のみを選択的に抽出して、修理、交換を実施できる。よって、無用な修理、交換を未然に防止でき、現場における歯科用ハンドピース14の運用を適切かつ円滑にできる。また、上記した比較判定部8の比較対象となる回転速度は、瞬時変動を考慮して所定時間における平均値を用いても良い。これにより、異常の判定精度を向上できる。
【0043】
図5は、歯科用ハンドピース14の正常品と異常品を含むサンプルに関して、駆動モータ1の回転速度と、歯科用ハンドピース14のヘッド部の温度との関係を示すグラフである。本グラフは、上述した閾値回転速度(図4のステップS4)の決定に用いられる。
【0044】
ここでは、特定種類の歯科用ハンドピース14に関し、異常のない正常品と異常を有する異常品(不具合品)が混在した複数のサンプルについて、駆動モータ1に装着し、無負荷状態で一定値(0.1A)の試験用電流を通電した。図5はそのときの駆動モータの回転速度(rpm)と、ヘッド部の温度(℃)との関係(回転速度-温度特性)を示している。0.1Aの試験用電流は、通常治療時の回転数における無負荷電流に比べて小さい。このため、試験用電流下における回転速度は6000rpm~12000rpmの範囲に収まっており、通常治療時の回転速度(最大で200000rpm程度)より大幅に小さい。なお、温度の測定は、通常使用時を想定して、ヘッド部に送水(冷却)しながらの状態でヘッド部に配置した熱電対を用いて行った。
【0045】
図5において、それぞれのプロットされた点が各サンプルに対応し、プロットされた点の分布から所定の回帰直線Aを得た。回帰直線Aは、回転速度が小さいほどヘッド部の温度が高くなる傾向を示している。
【0046】
グラフには、温度バラツキの標準誤差をeとした場合の各回転速度における温度の+3e値を直線Bで示し、-3e値を直線Cで示している。ヘッド部の過度な温度上昇は避けるべきであり、そのため、直線B上で適正温度以下に抑えられる回転速度を示すサンプルが正常なサンプルであると判定することにする。
【0047】
その適正温度をTc(℃)に設定すると、9500rpmが閾値回転速度として設定される。この閾値回転速度を用いて異常判定を行う。すなわち、0.1Aの試験用電流の通電時において、9500rpm以上の回転速度で回転する歯科用ハンドピース14は異常がなく、9500rpm未満の回転速度で回転する歯科用ハンドピース14は異常があると判定する。なお、ハンドピースは機種によりベアリング、ギヤ等の構成部品が異なり、それにより正常品と異常品の境界である適正温度Tcも異なるため、ハンドピースの機種別に適正温度Tcを設定する必要がある。
【0048】
このように、閾値回転速度は、特定種の歯科用ハンドピース14についての複数のサンプルに関して、駆動モータ1の回転速度と、歯科用ハンドピース14のヘッド部の温度との関係から導き出される。これにより、歯科用ハンドピース14の種類に応じた閾値回転速度を適切に設定できる。
【0049】
閾値回転速度に設定した23000rpmは、負荷運転時の回転速度の1/10程度であり、本実施形態においては、低い回転速度の下で異常を判定するため、小さな摩擦、摩耗等による微弱なトルク変化も確実に検出できる。
【0050】
なお、閾値回転速度及び試験用電流は、判定対象となる歯科用ハンドピース14の種類、さらには駆動モータ1の種類によって適切な値が選択される。このような値は、図5で説明したような過程をもって設定できる。
【0051】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されず、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0052】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1)歯科用ハンドピースの異常判定装置であって、
前記歯科用ハンドピースが駆動モータに装着され、かつ無負荷の状態において、前記歯科用ハンドピースの通常治療時の回転数における無負荷電流よりも小さい試験用電流を、前記駆動モータに通電する電流出力部と、
前記試験用電流の通電時における前記駆動モータの回転速度を検出する回転速度検出部と、
検出された前記回転速度とあらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、大小を判定する比較判定部と、
検出された前記回転速度が前記閾値回転速度より小さい場合に、前記歯科用ハンドピースが異常であると判定する異常判定部と、
を備える歯科用ハンドピースの異常判定装置。
この歯科用ハンドピースの異常判定装置によれば、試験用電流の通電時において検出された回転速度が閾値回転速度より小さい場合に、歯科用ハンドピースが異常であると判定するため、高い精度をもって異常を判定できる。
【0053】
(2)前記閾値回転速度は、特定種の前記歯科用ハンドピースについての複数のサンプルに関して、前記駆動モータの回転速度と、前記歯科用ハンドピースのヘッド部の温度との関係から導き出される、(1)に記載の歯科用ハンドピースの異常判定装置。
この歯科用ハンドピースの異常判定装置によれば、歯科用ハンドピースの種類に応じて、適切な閾値回転速度を設定できる。
【0054】
(3)前記異常判定部が、前記歯科用ハンドピースが異常であると判定した場合において、前記歯科用ハンドピースのメンテナンス後に、さらに当該歯科用ハンドピースについて前記異常を判定する、(1)に記載の歯科用ハンドピースの異常判定装置。
この歯科用ハンドピースの異常判定装置によれば、歯科用ハンドピースのメンテナンス後の状態に応じて、異常が回復したものと回復しないものとの選別が可能となる。
【0055】
(4) 前記比較判定部は、前記回転速度の平均値と前記閾値回転速度とを比較する、(1)に記載の歯科用ハンドピースの異常判定装置。
この歯科用ハンドピースの異常判定装置によれば、回転速度の瞬時変動の影響を受けにくくなり、異常の判定精度を向上できる。
【0056】
(5) 前記回転速度検出部は、前記駆動モータへの通電開始から所定時間を経過した後に前記回転速度を検出する、(1)に記載の歯科用ハンドピースの異常判定装置。
この歯科用ハンドピースの異常判定装置によれば、駆動モータの回転が安定した後の正確な回転速度を検出でき、異常の判定精度を向上できる。
【0057】
(6)歯科用ハンドピースの異常を判定する歯科用ハンドピースの異常判定方法であって、
前記歯科用ハンドピースが駆動モータに装着され、かつ無負荷の状態において、前記歯科用ハンドピースの通常治療時の回転数における無負荷電流よりも小さい試験用電流を、前記駆動モータに通電し、
前記試験用電流の通電時における前記駆動モータの回転速度を検出し、
検出された前記回転速度とあらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、大小を判定し、
検出された前記回転速度が前記閾値回転速度より小さい場合に、前記歯科用ハンドピースが異常であると判定する、
歯科用ハンドピースの異常判定方法。
この歯科用ハンドピースの異常判定方法によれば、試験用電流の通電時において検出された回転速度が閾値回転速度より小さい場合に、歯科用ハンドピースが異常であると判定するため、高い精度をもって異常を判定できる。
【0058】
(7)歯科用ハンドピースの異常を判定する歯科用ハンドピースの異常判定方法の手順を実行するプログラムであって、
コンピュータに、
前記歯科用ハンドピースが駆動モータに装着され、かつ無負荷の状態において、前記歯科用ハンドピースの通常治療時の回転数における無負荷電流よりも小さい試験用電流を、前記駆動モータに通電する手順と、
前記試験用電流の通電時における前記駆動モータの回転速度を検出する手順と、
検出された前記回転速度とあらかじめ決定された閾値回転速度とを比較して、大小を判定する手順と、
検出された前記回転速度が前記閾値回転速度より小さい場合に、前記歯科用ハンドピースが異常であると判定する手順と、
を実行させるプログラム。
このプログラムによれば、試験用電流の通電時において検出された回転速度が閾値回転速度より小さい場合に、歯科用ハンドピースが異常であると判定するため、高い精度をもって異常を判定できる。また、異常判定プログラムを書き換えるだけで、既存の装置のハードウェアを改変することなく、異常判定を容易に実行できる。
【符号の説明】
【0059】
1 駆動モータ
2 コントロール装置(異常判定装置)
3 操作部
4 表示部
5 制御部
5a 異常判定部
6 モータ制御部
6a 電流出力部
7 回転速度検出部
8 比較判定部
9 記憶部
10 電気コード
11 本体部
12 電気コード結線部
13 ハンドピース接続部
14 歯科用ハンドピース
14A,14B,14C コントラアングルハンドピース
14D ストレートハンドピース
201 出力軸
202 第1回転軸
203 第2回転軸
204 第1歯車列
205 工具回転軸
206 第2歯車列
207 回転速度センサ
T 治療工具
図1
図2
図3
図4
図5