(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025195
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】化粧シート及び化粧シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240216BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240216BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20240216BHJP
B29C 48/395 20190101ALI20240216BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20240216BHJP
B29C 48/154 20190101ALI20240216BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20240216BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 E
B29C48/305
B29C48/395
B29C48/08
B29C48/154
B29C48/88
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128440
(22)【出願日】2022-08-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐川 浩一
【テーマコード(参考)】
4F100
4F207
【Fターム(参考)】
4F100AA21B
4F100AA21C
4F100AA21D
4F100AH08B
4F100AK41A
4F100AK42B
4F100AK42C
4F100AK42D
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100EH17
4F100HB00A
4F100HB01A
4F100HB31A
4F100YY00B
4F207AA24
4F207AB16
4F207AG01
4F207AG03
4F207AH81
4F207AR06
4F207KA01
4F207KA17
4F207KB13
4F207KK64
4F207KL84
(57)【要約】
【課題】大型の設備を必要とすることなくPET樹脂を結晶化させ、印刷適性及び水蒸気バリア性能を向上させることの可能な化粧シートを提供する。
【解決手段】化粧シート10は、模様層1と、模様層1に直接積層されたポリエチレンテレフタレート樹脂層2との積層体を少なくとも含み、ポリエチレンテレフタレート樹脂層2は、アルカリ金属を含む。アルカリ金属を含むPET樹脂を用いてポリエチレンテレフタレート樹脂層2を形成する際に、Tダイ押出機を用いて製膜し、Tダイ押出機から押し出されて製膜されたPET樹脂を、120℃以上180℃以下程度のロール温度に調温された温調ロールを通すことにより、PET樹脂の結晶化及び固化が行われる。そのため、結晶化されたポリエチレンテレフタレート樹脂層2を有する化粧シート10は、良好な印刷適性及び水蒸気バリア性能を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
模様層と、当該模様層に直接積層されたポリエチレンテレフタレート樹脂層との積層体を少なくとも含み、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層は、アルカリ金属を含むことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記アルカリ金属は、ナトリウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記ナトリウム化合物は、安息香酸ナトリウムであることを特徴とする請求項2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記安息香酸ナトリウムは、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層100重量%に対して、0.05重量%以上1.0重量%以下の濃度で添加されていることを特徴とする請求項3に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層は2層以上の複層構造を有し、当該複層構造のうちの前記模様層と接する層にのみ前記アルカリ金属が添加されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層は3層以上の複層構造を有し、当該複層構造の両側の最表層にのみ前記アルカリ金属が添加されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層は、さらに酸化チタンを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項8】
模様層と、当該模様層と接して設けられアルカリ金属を含むポリエチレンテレフタレート樹脂層との積層体を含む化粧シートの製造方法であって、
前記アルカリ金属を含むポリエチレンテレフタレート樹脂の溶融樹脂をTダイ押出機により押し出す工程と、
前記Tダイ押出機により押し出された前記溶融樹脂を、金属製の温調ロールを用いて固化する工程と、
を含むことを特徴とする化粧シートの製造方法。
【請求項9】
前記温調ロールのロール温度は、120℃以上180℃以下の範囲内であることを特徴とする請求項8に記載の化粧シートの製造方法。
【請求項10】
ポリエチレンテレフタレート樹脂層と安息香酸ナトリウムとを含み、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層100重量%に対して、前記安息香酸ナトリウムは0.05重量%以上1.0重量%以下の濃度で添加されていることを特徴とする化粧シート製造用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート、化粧シートの製造方法及び化粧シート製造用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PET樹脂ともいう。)を用いた化粧シートが知られている(例えば、特許文献1参照。)。PET樹脂には、非結晶化PET樹脂と結晶化PET樹脂とがある。
例えば建装材化粧シート用途では、加飾のために有機溶剤系の印刷を用いているが、結晶化していないPET樹脂では、耐溶剤性に乏しく、緻密な印刷模様の上に非結晶化PET樹脂を積層した場合には、滲みなどが発生してしまい、意匠性の高い化粧シートを作成することが困難である。そのため、有機溶剤系の印刷物の上にPET樹脂を積層する場合には結晶化PET樹脂を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、非結晶化PET樹脂を結晶化するためには、結晶化PET樹脂を延伸する必要がある。しかしながら、PET樹脂は結晶化しにくく、公知のTダイ押出法で製膜しただけではほとんど結晶化しない。また、PET樹脂を延伸するためには大型の延伸装置が必要となる。さらに、延伸する際には、熱をかけてPET樹脂を延ばすため、結晶化PET樹脂に熱をかけると伸びていたPET樹脂が縮んでしまう。
一方、化粧シートとして、紙又はオレフィン樹脂をベースにした化粧シートも汎用的に用いられている。しかしながら、紙又はオレフィン樹脂をベースにした化粧シートにあっては、水蒸気バリア性を付与することが難しく、化粧シートを貼り合わせる木質基材が外気の湿度の影響を受け、反りや割れ等が生じる可能性が懸念されており、一部のユーザからはより高い水蒸気バリア性能を有する化粧シートが望まれていた。
【0005】
そこで、本発明は、上記未解決の課題を解決するためになされたものであり、大型の設備を必要とすることなくPET樹脂の結晶化を図ることができ、印刷適性及び水蒸気バリア性能を向上させることの可能な化粧シート、化粧シートの製造方法及び化粧シート製造用樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するべく、本発明の一態様によれば、模様層と、模様層に直接積層されたポリエチレンテレフタレート樹脂層との積層体を少なくとも含み、ポリエチレンテレフタレート樹脂層は、アルカリ金属を含む化粧シート、が提供される。
【0007】
また、本発明の他の態様によれば、模様層と、模様層と接して設けられアルカリ金属を含むポリエチレンテレフタレート樹脂層との積層体を含む化粧シートの製造方法であって、アルカリ金属を含むポリエチレンテレフタレート樹脂の溶融樹脂をTダイ押出機により押し出す工程と、Tダイ押出機により押し出された溶融樹脂を、金属製の温調ロールを用いて固化する工程と、を含む化粧シートの製造方法、が提供される。
【0008】
さらに、本発明の他の態様によれば、ポリエチレンテレフタレート樹脂層と安息香酸ナトリウムとを含み、ポリエチレンテレフタレート樹脂層100重量%に対して、安息香酸ナトリウムは0.05重量%以上1.0重量%以下の濃度で添加されている化粧シート製造用樹脂組成物、が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、大型の設備を必要とすることなくPET樹脂の結晶化を図ることができ、且つ印刷適性及び水蒸気バリア性能を向上させることの可能な化粧シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る化粧シートの概略構成の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明に係る化粧シートの製造装置の要部の一例を示す概略構成図である。
【
図3】本発明に係る化粧シートの変形例の概略構成を示す断面図である。本発明に係る化粧板用裏面防湿紙の構成のその他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各厚みの比率などは現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状などを下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
<化粧シートの構成>
図1は、本発明に係る化粧シートの一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、化粧シート10は、模様層1と、ポリエチレンテレフタレート樹脂層(以下、PET樹脂層ともいう。)2と、表面保護層3とがこの順に積層された積層体で構成される。なお、化粧シート10は、模様層1とPET樹脂層2とが接して設けられていればよく、例えば、模様層1のPET樹脂層2とは逆側の面、又はPET樹脂層2と表面保護層3との間、又は表面保護層3のPET樹脂層2と逆側の面に他の層が設けられていてもよい。
【0013】
模様層1は、木目柄、石目柄等、加飾のための印刷がなされた層であり有機溶剤系のインキを用いて、PET樹脂層2の一方の面に印刷することで形成される。模様層1は、絵柄模様層とベタインキ層とを含んでいてもよく、いずれか一方のみを含んでいてもよい。模様層1の形成方法は特に制限されるものではなく、例えばグラビア印刷法、オフセット印刷方法等の各種の印刷方法を適用することができる。
PET樹脂層2は、模様層1に接するように直接積層される。PET樹脂層2は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む層であり、造核剤としてアルカリ金属が添加されている。
【0014】
アルカリ金属としては、例えばナトリウム化合物が挙げられる。
ナトリウム化合物としては安息香酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等を適用することができる。安息香酸ナトリウムは、ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量%中に、0.05重量%以上1.0重量%以下の濃度となるように添加される。ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量%中に含まれる安息香酸ナトリウムが0.05重量%以下である場合には、安息香酸ナトリウムが結晶核として機能せず、1.0重量%以上である場合には、安息香酸ナトリウムを増量することに伴い得られる効果が飽和してしまうと共に、安息香酸ナトリウムの過剰添加に伴い分散不良が生じ、化粧シート10の意匠低下が生じる。
【0015】
PET樹脂層2は次の手順で成形する。なお、PET樹脂層2は公知のTダイ押出機を用いて成形するが、本実施形態においては、
図2に示すように、Tダイ押出機11の押出側に、金属製の温調ロール12と、温調ロール12のロール表面の温度(以下、ロール温度ともいう。)を調整する温調器13とを備えている。温調器13は、温調ロール12のロール温度を120℃以上180℃以下程度に調整する。
【0016】
すなわちまず、安息香酸ナトリウムが添加されたPET樹脂を、Tダイ押出機を用いて押出し、Tダイ押出機から押出された溶融樹脂(安息香酸ナトリウムが添加されたPET樹脂)を温調ロール12にかける。このとき、温調ロール12のロール温度を120℃以上180℃以下程度となるように温調器13で調整しておく。このため、Tダイ押出機から押出された溶融樹脂は、ロール温度が、120℃以上180℃以下程度に維持された状態で温調ロール12を通過する。その後、温調ロール12を通過した溶融樹脂が巻き取り可能な温度まで低下した後、図示しない巻き取り器で巻き取る。これにより、PET樹脂層2となるPET樹脂フィルムの成形工程において、フィルム成形と共にフィルムの結晶化及び固化が行われ、結晶化されたPET樹脂が形成される。つまり、Tダイ押出機から溶融樹脂を押し出すことによりPET樹脂フィルムが成形され、さらに120℃以上180℃以下に維持された温調ロール12を通過することでPET樹脂フィルムの結晶化及び固化が行われ、PET樹脂フィルムの製膜とPET樹脂フィルムの結晶化とが、PET樹脂フィルム製膜工程において共に行われたことになる。
【0017】
なお、温調ロール12のロール温度が120℃より低い場合には結晶化が進行せず、180℃を上回ると、Tダイ押出機から溶融押出された安息香酸ナトリウムが添加されたPET樹脂が固化せず、PET樹脂フィルムの製膜が不安定となる。
【0018】
表面保護層3は、耐候性や耐汚染性等の表面物性を付与するために設けられるものである。表面保護層3の形成方法は特に限定されるものではなく、グラビアコート等の公知の塗工方法で形成することができる。
表面保護層3の材料としては、特に制限は無く、従来の化粧紙で表面保護層として使用されている材料と同様のものを使用することができる。表面保護層3としては、例えば、アクリルウレタン系樹脂、電離放射線硬化型樹脂を用いることができる。
【0019】
<化粧シートの製造方法>
まず、PET樹脂層2となる結晶化されたPET樹脂を形成する。具体的には、まず、ポリエチレンテレフタレート樹脂層100重量%に対して、安息香酸ナトリウムを0.05重量%以上1.0重量%以下の濃度で添加した、化粧シート製造用樹脂組成物を用意する。この化粧シート製造用樹脂組成物をTダイ押出機11に投入し、溶融押出された樹脂を、120℃以上180℃以下程度に調整された温調ロール12にかけ、押出された溶融樹脂の温度を120℃以上180℃程度に保った状態で温調ロール12を通過させた後、巻き取る。溶融押出を行うことによって製膜が行われると共に、温調ロール12を通過することによってPET樹脂層フィルムの結晶化が行われて、最終的に、結晶化されたPET樹脂フィルムが形成される。
【0020】
次に、PET樹脂フィルムの一方の面に、たとえばグラビア印刷法により模様層1を印刷する。
次いで、PET樹脂フィルムの他方の面に、たとえばグラビアコートによりアクリルウレタン系樹脂を塗布し、表面保護層3を積層する。
これにより、模様層1と結晶化されたPET樹脂層2と表面保護層3とがこの順に積層された積層体が形成され、すなわち化粧シート10が形成される。
【0021】
<効果>
(1)
図2に示すように、Tダイ押出機11の溶融押出側に温調ロール12を設け、溶融押出されたPET樹脂を、温調ロール12を通過させている。そのため、溶融押出されたPET樹脂フィルムが温調ロール12を通過する際に、PET樹脂に添加された安息香酸ナトリウムが結晶核となり、PET樹脂フィルムの結晶化を図ることができる。つまり、PET樹脂層2となるPET樹脂フィルムの製膜工程において、フィルム成形と同時に結晶化を行うことができる。その結果、PET樹脂を延伸して結晶化する場合のように、延伸装置のような大型の設備を必要とすることなくPET樹脂の結晶化を図ることができると共に、この結晶化されたPET樹脂フィルムを用いて化粧シートを形成することによって、化粧シート10に印刷適性及び水蒸気バリア性を付与することができる。
【0022】
そのため、このようなPET樹脂層2を含む化粧シート10を、建材表層装飾用のシートとして採用した場合に、空気中の水分が建材の木質基材に影響を及ぼすことを抑制することができ、木質基材の反りや割れ、カビ等の影響を防止することができる。
つまり、PET樹脂層2は、結晶化されたPET樹脂で形成される。結晶化されたPET樹脂は、耐溶剤性を有するため、PET樹脂層2に有機溶剤系のインキを用いて模様層1を形成しても、模様層1に滲み等が発生することを抑制することができる。その結果、印刷適性の高いPET樹脂層2を得ることができ、このPET樹脂層2を用いて化粧シート10を作成することによって、意匠性の高い模様を有する化粧シート10を得ることができる。
【0023】
また、PET樹脂をベースとした化粧シート10は、紙やオレフィン樹脂をベースにした化粧シートに比較して、より水蒸気バリア性を有する。そのため、印刷適性及び水蒸気バリア性が共に優れたPET樹脂層2を形成することができ、その結果、印刷適性及び水蒸気バリア性に優れた化粧シートを、延伸装置といった大型の設備を必要とすることなく容易に製造することができる。
【0024】
(2)PET樹脂は比較的結晶化しにくいが、
図2に示すように、Tダイ押出機11の押出側に温調ロール12を設け、Tダイ押出機11から押し出された溶融樹脂をそのまま温調ロール12に通すようにしている。そのため、PET樹脂が結晶化するための時間を確保することができ、結晶化をより進めることができる。
【0025】
(3)PET樹脂フィルムの製膜工程において、製膜と共に結晶化を行うため、別途結晶化のためのアニーリング工程を設ける必要がない。そのため、結晶化したPET樹脂フィルムを効率的に製造することができる。また、別途大型の延伸装置やアニーリング工程を行うためのアニールゾーン等を確保する必要がないため、占有面積の増大を防止しつつ効率的に生産を行うことができる。
【0026】
(4)ナトリウム化合物として安息香酸ナトリウムを用いているため、脂肪酸ナトリウムを用いた場合のように分子量低下が生じることを抑制することができ、分子量低下により生じるPET樹脂層2の物性の低下を抑制することができる。
【0027】
<変形例>
(1)
図1に示す化粧シート10において、表面保護層3を、模様層1側に設けてもよい。さらに、このとき、PET樹脂層2に、さらに酸化チタンを添加してもよい。このように、酸化チタンを添加することによってPET樹脂層2を隠蔽層として機能させることができる。
【0028】
(2)
図3に示すように、PET樹脂層2が、2層以上の複層構造を有していてもよい。このように、PET樹脂層2を複層構造とした場合、PET樹脂層2が2層構造の場合には、模様層1と接する側のPET樹脂層のみに安息香酸ナトリウムを添加してもよい。また、PET樹脂層2が3層構造の場合には、模様層1と接する側のPET樹脂層のみに安息香酸ナトリウムを添加してもよく、また、PET樹脂層2を構成する3つのPET樹脂層2a~2cのうち、両面の最表層2a、2cそれぞれに対してのみに安息香酸ナトリウムを添加してもよい。両面の最表層2a、2cそれぞれのみに安息香酸ナトリウムを添加し、これら両面の最表層の特性を一致させることによって、PET樹脂層2或いは、化粧シート10に反り等が生じることを回避することができる。PET樹脂層2或いは化粧シート10に反りが生じる可能性が低い場合には、一方の面の最表層にのみ、安息香酸ナトリウムを添加してもよい。
【0029】
また、PET樹脂層2を複層構造とする場合、安息香酸ナトリウムを複数の層に添加する場合、それぞれの層への安息香酸ナトリウムの添加量は、それぞれの層毎に、ポリエチレンテレフタレート樹脂層100重量%に対して、0.05重量%以上1.0重量%以下の濃度で添加すればよい。
このように、PET樹脂層2として、結晶性のPET樹脂層と非結晶性のPET樹脂層との複層構造とすることにより、両者の利点を兼ね備えたPET樹脂フィルムを得ることができる。また、PET樹脂層2のうちの一部の層にのみ安息香酸ナトリウムを添加することによって、結晶化に伴う透明性の低下を抑制することができる。
【0030】
表1は、単層構造のPET樹脂層2、複層構造のPET樹脂層2、また、比較例として、延伸により結晶化したPET樹脂層(安息香酸ナトリウムを含まない)、延伸せず非結晶のPET樹脂層(安息香酸ナトリウムを含まない)のそれぞれについて、耐溶剤性、透明性、透湿性を比較したものである。
【0031】
【0032】
表1に示すように、単層構造のPET樹脂層2、複層構造のPET樹脂層2、延伸により結晶化したPET樹脂層は、いずれも結晶化されているため、耐溶剤性を有するが、非結晶の延伸しないPET樹脂層は耐溶剤性を持たない。また、PET樹脂層2の全体に安息香酸ナトリウムが添加された単層構造のPET樹脂層2は、PET樹脂層2全体が結晶化するため、比較的透明性が低いが、複層構造のPET樹脂層2はその一部の層にのみ安息香酸ナトリウムが添加されているため透明性は良好であり、逆に、安息香酸ナトリウムが全体に添加された単層構造のPET樹脂層2は高い透湿性を有するが、一部にのみ安息香酸ナトリウムが添加された複層構造のPET樹脂層2は透湿性が比較的小さい。
【0033】
表1に示すように、延伸により結晶化したPET樹脂層は、耐溶剤性、透明性、透湿性の全てにおいて優れているが、大型の延伸装置が必要となる。これに対し、単層構造のPET樹脂層2及び複層構造のPET樹脂層2は、大型の延伸装置は必要とせず、金属の温調ロール及び温調器を設けるだけで、それぞれ透明性又は透湿性が多少低いものの、印刷訂正及び水蒸気バリア性に優れた化粧シート用のPET樹脂層として十分適用することの可能なPET樹脂層2を容易に得ることができる。
【実施例0034】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
PET樹脂ペレット(100重量%)に対してステアリン酸ナトリウムの粉(0.5重量%)をまぶし、単軸Tダイ押出機を用いて押出厚み70μmで押出成形を実施した。温調ロールのロール温度が160℃となるように、温調器によって温度調整を行い、単軸Tダイ押出機で押し出された溶融樹脂を温調ロールにかけることによって、押出成形されたPET樹脂フィルムの成形と同時に、PET樹脂フィルムの結晶化及び固化を実施した。
作成したPET樹脂フィルムの両面をコロナ処理し、PET樹脂フィルムの一方の面にアクリル系トップコートを厚み6g/m2でグラビアコートした。アクリル系トップコートは、DIC株式会社製UCクリヤーを用い、溶剤としてメチルエチルケトン及び酢酸エチルを使用して形成した。PET樹脂フィルムの他方の面には、ポリエステル系インキとして東洋インキ株式会社製の熱硬化型トップコートYL454URを用いて木目柄を印刷した。木目柄を印刷した後、白色の単色ベタ印刷を3回重ね塗りし、隠蔽層を設けた。さらに最後に、隠蔽層の表層にプライマーコート層(東洋インキ株式会社製 W324)を1gで塗工し、実施例1の化粧シートを作製した。
【0035】
(実施例2)
ステアリン酸ナトリウムの代わりに、安息香酸ナトリウム(PET樹脂ペレット(100重量%)に対して0.5重量%)を用いたこと以外は実施例1と同じ方法を用いて、実施例2の化粧シートを作成した。
(実施例3)
安息香酸ナトリウムの添加量をPET樹脂ペレット(100重量%)に対して0.03重量%としたこと以外は実施例2と同じ方法を用いて、実施例3の化粧シートを作成した。
(実施例4)
安息香酸ナトリウムの添加量をPET樹脂ペレット(100重量%)に対して0.1重量%としたこと以外は実施例2と同じ方法で、実施例4の化粧シートを作成した。
(実施例5)
安息香酸ナトリウムの添加量をPET樹脂ペレット(100重量%)に対して0.3重量%としたこと以外は実施例2と同じ方法で、実施例5の化粧シートを作成した。
【0036】
(実施例6)
安息香酸ナトリウムの添加量をPET樹脂ペレット(100重量%)に対して0.7重量%としたこと以外は実施例2と同じ方法で、実施例6の化粧シートを作成した。
(実施例7)
安息香酸ナトリウムの添加量をPET樹脂ペレット(100重量%)に対して0.9重量%としたこと以外は実施例2と同じ方法で、実施例7の化粧シートを作成した。
(実施例8)
安息香酸ナトリウムの添加量をPET樹脂ペレット(100重量%)に対して1.1重量%としたこと以外は実施例2と同じ方法で、実施例8の化粧シートを作成した。
(実施例9)
Tダイ押出機として2種3層のTダイ押出機を用い、3層のうちの中間層には安息香酸ナトリウムを未添加とし、両側の層のそれぞれには安息香酸ナトリウム(PET樹脂ペレット(100重量%)に対して0.5重量%)を添加し、層厚比を5μm/60μm/5μmとなるようにTダイ押出機のスクリュー回転数を調整したこと以外は、実施例2と同じ方法を用いて、実施例9の化粧シートを作成した。
【0037】
(実施例10)
温調ロールのロール温度を80℃としたこと以外は、実施例9と同じ方法で、実施例10の化粧シートを作成した。
(実施例11)
温調ロールのロール温度を115℃としたこと以外は、実施例9と同じ方法で、実施例11の化粧シートを作成した。
(実施例12)
温調ロールのロール温度を125℃としたこと以外は、実施例9と同じ方法で、実施例12の化粧シートを作成した。
(実施例13)
温調ロールのロール温度を175℃としたこと以外は、実施例9と同じ方法で、実施例13の化粧シートを作成した。
【0038】
(実施例14)
温調ロールのロール温度を185℃としたこと以外は、実施例9と同じ方法で、実施例14の化粧シートを作成した。
(実施例15)
温調ロールのロール温度を195℃としたこと以外は、実施例9と同じ方法で、実施例15の化粧シートを作成した。
(実施例16)
PET樹脂ペレット(100重量%)に代えて、PET樹脂ペレット(60重量%)に対して酸化チタンを50重量%含有したPETマスターバッチ(40重量%)を混合したPET樹脂ペレットを用い、白色の単色ベタ印刷の3回重ね塗りをしなかった(つまり、単色ベタ印刷を行わなかった)こと以外は、実施例9と同じ方法で、実施例16の化粧シートを作成した。
【0039】
(比較例1)
ステアリン酸ナトリウムを未添加としたこと以外は、実施例1と同じ方法で、比較例1の化粧シートを作成した。
(比較例2)
PET樹脂ペレットに代えて、市販の透明延伸PETフィルム(東レ株式会社製 ルミラー#75-S10 厚み75μm)(ナトリウム化合物添加せず)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、比較例2の化粧シートを作成した。
(比較例3)
ステアリン酸ナトリウムに代えてステアリン酸カルシウム(PET樹脂ペレット(100重量%)に対して0.5重量%)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、比較例3の化粧シートを作成した。
【0040】
<性能評価>
(1)実施例及び比較例の各化粧シートについて、化粧シートの印刷柄の鮮鋭性を目視評価した。滲みの確認できないものを〇、僅かに確認できるものを△、明確に確認できるものを×とした。
(2)実施例及び比較例の各化粧シートについて、印刷柄の上に隠蔽層を形成する前に、セロテープ(登録商標)密着試験を行った。すなわち、印刷柄を、80℃環境下で500時間加熱した後、碁盤目カットにより2mm角のカットセルを25個作成し、粘着性テープを貼った後に剥がすことを、粘着性テープを取り替えながら複数回繰り返し、印刷柄が剥離した個数をカウントし、剥離した個数から密着性を評価した。
【0041】
(3)実施例及び比較例の各化粧シートを木質基材に貼り合わせ、隠蔽性を確認した。隠蔽性の評価方法は目視検査とし、木質基材の質感が確認できるものは×、僅かに確認できるものは△、確認できないものは〇とした。
(4)実施例及び比較例の各化粧シートについて、スガ試験機製のサンシャインウェザーメーター耐候試験機(120分中18分間の噴水有)を用いて500時間、1000時間、1500時間、2000時間の耐候試験を実施し、外観変化が確認できる時間を検出した。
【0042】
(5)実施例及び比較例の各化粧シートについて、JIS Z 0208-1976に準拠したカップ法を用いて、実施例及び比較例の各化粧シートの透湿度を測定した。
(6)実施例及び比較例の各化粧シートについて、コロナ処理前の状態でヘイズ(曇り度)を測定した。測定に際しては、株式会社島津製作所製の分光光度計(UV-3600)のヘイズ測定機能を用いた。
【0043】
上記(1)~(6)の評価結果又は測定結果を、表2に示す。
【0044】
【0045】
表2の評価結果又は測定結果から、非結晶化PET樹脂層に安息香酸ナトリウムが添加された実施例1~16の化粧シートは、印刷の鮮鋭性、インキの密着性及び透湿性の全てが比較的良好であるが、非結晶化PET樹脂層に安息香酸ナトリウムが添加されていない場合(比較例1)、或いは、非結晶化PET樹脂層にステアリン酸カルシウムが添加されている場合(比較例3)、或いは安息香酸ナトリウムが添加されていない市販の透明延伸PETフィルムを用いた場合(比較例2)は、印刷の鮮鋭性とインキの密着性と透湿性のうちの少なくとも何れか一つが劣ることがわかる。つまり、非結晶化PET樹脂層に安息香酸ナトリウムが添加されていない場合(比較例1)は結晶化せず、安息香酸ナトリウムが添加されていない市販の透明延伸PETフィルムを用いた場合(比較例2)は配向結晶によりインキ密着性が低下する。さらに、PET樹脂に添加する金属を、ステアリン酸カルシウムに変更した場合には、結晶化しない。そのため、印刷の鮮鋭性、インキの密着性及び透湿性の全てが良好となる化粧シートを得ることができない。
【0046】
また、実施例2から実施例8に示すように、PET樹脂ペレット(100重量%)に対する安息香酸ナトリウムの添加量のみを変化させた場合、印刷の鮮鋭性、また、インキの密着性の観点から、PET樹脂ペレット(100重量%)に対する安息香酸ナトリウムの添加量は、0.03重量%よりも多く、1.1重量%よりも少ないことが好ましいことがわかる。
また、実施例1は、ステアリン酸ナトリウムがポリエステルの分解を促進させる為、耐候性能がやや低め(1500h)の傾向にあるが、実施例2~実施例16は、界面活性剤効果が無いため、耐候試験でインキ密着性が持続し外観変化が生じない傾向にある。また、実施例2~実施例16の場合、安息香酸ナトリウムの添加量が少ないと(実施例3)透湿性能が低い傾向にあり、安息香酸ナトリウムの添加量が多いと(実施例8)、安息香酸ナトリウムが表層に析出し、インキ密着性や耐候性を低下させ、ヘイズ(透明性)を低下させる傾向にある。
【0047】
また、PET樹脂層が複層の場合(実施例9~実施例16)、PET樹脂層が単層の場合(実施例1~実施例8)よりも、透湿性は比較的劣る傾向にあるが、ヘイズ(透明性)は、PET樹脂層が複層の場合(実施例9~実施例16)の方が優れている傾向にある。
また、温調ロール12のロール温度が比較的低い場合(実施例10)には、PET樹脂層の結晶化が不充分となり透湿性能が比較的低くなる傾向にある。逆に温調ロール12のロール温度が比較的高い場合(実施例15)には、PET樹脂層の結晶化が進みすぎてヘイズ(透明性)を低下させる傾向にある。
【0048】
以上のように、表1、表2から、本発明の課題である、大型の設備を必要とすることなくPET樹脂の結晶化を図ることができ、且つ印刷適性及び水蒸気バリア性能を向上させることの可能な化粧シートを提供することが可能であることが検証できた。
【0049】
なお、本発明は、例えば、以下のような構成をとることができる。
(1)
模様層と、当該模様層に直接積層されたポリエチレンテレフタレート樹脂層との積層体を少なくとも含み、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層は、アルカリ金属を含むことを特徴とする化粧シート。
(2)
前記アルカリ金属は、ナトリウム化合物であることを特徴とする上記(1)に記載の化粧シート。
(3)
前記ナトリウム化合物は、安息香酸ナトリウムであることを特徴とする上記(2)に記載の化粧シート。
(4)
前記安息香酸ナトリウムは、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層100重量%に対して、0.05重量%以上1.0重量%以下の濃度で添加されていることを特徴とする上記(3)に記載の化粧シート。
(5)
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層は2層以上の複層構造を有し、当該複層構造のうちの前記模様層と接する層にのみ前記アルカリ金属が添加されていることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の化粧シート。
(6)
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層は3層以上の複層構造を有し、当該複層構造の両側の最表層にのみ前記アルカリ金属が添加されていることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の化粧シート。
(7)
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層は、さらに酸化チタンを含むことを特徴とする上記(1)から(6)のいずれか一項に記載の化粧シート。
(8)
模様層と、当該模様層と接して設けられアルカリ金属を含むポリエチレンテレフタレート樹脂層との積層体を含む化粧シートの製造方法であって、
前記アルカリ金属を含むポリエチレンテレフタレート樹脂の溶融樹脂をTダイ押出機により押し出す工程と、
前記Tダイ押出機により押し出された前記溶融樹脂を、金属製の温調ロールを用いて固化する工程と、
を含むことを特徴とする化粧シートの製造方法。
(9)
前記温調ロールのロール温度は、120℃以上180℃以下の範囲内であることを特徴とする上記(8)に記載の化粧シートの製造方法。
(10)
ポリエチレンテレフタレート樹脂層と安息香酸ナトリウムとを含み、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂層100重量%に対して、前記安息香酸ナトリウムは0.05重量%以上1.0重量%以下の濃度で添加されていることを特徴とする化粧シート製造用樹脂組成物。
そこで、本発明は、上記未解決の課題を解決するためになされたものであり、大型の設備を必要とすることなくPET樹脂の結晶化を図ることができ、印刷適性及び水蒸気バリア性能を向上させることの可能な化粧シート及び化粧シートの製造方法を提供することを目的としている。
上記目的を達成するべく、本発明の一態様によれば、模様層と、模様層に直接積層されたポリエチレンテレフタレート樹脂層との積層体を少なくとも含み、ポリエチレンテレフタレート樹脂層はアルカリ金属を含み、アルカリ金属は、ステアリン酸ナトリウム又は安息香酸ナトリウムとして添加され、ポリエチレンテレフタレート樹脂層は2層以上の複層構造を有し、複層構造のうちの模様層と接する層にのみアルカリ金属が添加されている化粧シート、が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、模様層と、模様層に直接積層されたポリエチレンテレフタレート樹脂層との積層体を少なくとも含み、ポリエチレンテレフタレート樹脂層はアルカリ金属を含み、アルカリ金属は、ステアリン酸ナトリウム又は安息香酸ナトリウムとして添加され、ポリエチレンテレフタレート樹脂層は3層以上の複層構造を有し、複層構造の両側の最表層にのみアルカリ金属が添加されている化粧シートが提供される。