(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025224
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】チタン製釘およびチタン素材
(51)【国際特許分類】
F16B 15/00 20060101AFI20240216BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20240216BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240216BHJP
C22F 1/18 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
F16B15/00 Z
C22C14/00 Z
C22F1/00 631A
C22F1/00 630A
C22F1/00 630E
C22F1/00 630K
C22F1/00 625
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 694B
C22F1/00 691C
C22F1/00 630D
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692B
C22F1/00 694Z
C22F1/18 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128488
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一浩
(72)【発明者】
【氏名】大澤 弘
(57)【要約】
【課題】曲がりおよび先端の潰れの抑制と追従性とを両立したチタン製釘を提供する。
【解決手段】頭部と、頭部に接続し、長手方向に延びる胴部とを有するチタン製釘であって、胴部の長手方向における全長をLとした場合に、胴部の、頭部側の始端から1/10L、3/10L、1/2L、7/10L、および9/10L位置での、長手方向に垂直な各断面において、中心位置での各ビッカース硬さHVと、各相対断面積Xとを、[HV=aX+b]に示されるように最小二乗法により直線近似した場合に、[-90≦a≦-50]、[190≦b≦300]、[0.65≦R2]式を満足する、チタン製釘。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業用純チタンまたはチタン合金からなり、
頭部と、前記頭部に接続し、長手方向に延びる胴部とを有するチタン製釘であって、
前記胴部の前記長手方向における全長をLとした場合に、前記胴部の、前記頭部側の始端から1/10L、3/10L、1/2L、7/10L、および9/10L位置での、前記長手方向に垂直な各断面において、
中心位置での各ビッカース硬さHVと、各相対断面積Xとを、下記(i)式に示されるように最小二乗法により直線近似した場合に、下記(ii)~(iv)式を満足する、チタン製釘。
HV=aX+b ・・・(i)
-90≦a≦-50 ・・・(ii)
190≦b≦300 ・・・(iii)
0.65≦R2 ・・・(iv)
但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
HV:試験荷重を1kgfとしたときの、前記各断面の前記中心位置におけるビッカース硬さ(HV1)
X:前記胴部の前記始端での前記長手方向に垂直な断面の断面積に対する、前記各断面の断面積の割合である、相対断面積
R2:最小二乗法により直線近似した場合に得られる寄与率
【請求項2】
前記各断面における表面から中心方向に100μmの位置でのビッカース硬さの平均値HVsと、前記各断面における前記中心位置でのビッカース硬さの平均値HVcとの差が、下記(v)式を満足する、請求項1に記載のチタン製釘。
30≦HVs-HVc≦200 ・・・(v)
但し、上記(v)式中の各記号は、以下により定義される。
HVs:試験荷重を100gfとしたときの、前記各断面の表面から中心方向に100μmの位置でのビッカース硬さの平均値(HV0.1)
HVc:前記各断面の中心位置でのビッカース硬さの平均値(HV1)
【請求項3】
前記工業用純チタンまたはチタン合金の化学組成が、質量%で、
Fe:1.5%以下、
Cr:1.5%以下、
Ni:1.5%以下、
O:0.25%以下、
N:0.05%以下、
C:0.10%以下、
H:0.015%以下、
残部:Tiおよび不純物であり、
下記(vi)式を満足する、請求項1に記載のチタン製釘。
Fe+Cr+Ni≦1.5 ・・・(vi)
但し、上記式中の各元素記号は工業用純チタンまたはチタン合金に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項4】
前記工業用純チタンまたはチタン合金の化学組成が、質量%で、
Fe:1.5%以下、
Cr:1.5%以下、
Ni:1.5%以下、
O:0.25%以下、
N:0.05%以下、
C:0.10%以下、
H:0.015%以下、
残部:Tiおよび不純物であり、
下記(vi)式を満足する、請求項2に記載のチタン製釘。
Fe+Cr+Ni≦1.5 ・・・(vi)
但し、上記式中の各元素記号は工業用純チタンまたはチタン合金に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項5】
前記工業用純チタンまたはチタン合金の化学組成が、前記Tiの一部に代えて、質量%で、
Al:2.0%以下、
Si:0.5%以下、
Sn:2.0%以下、
Zr:3.0%以下、
Cu:1.8%以下、
Nb:1.0%以下、
V:2.0%以下、
Mo:2.0%以下、
Mn:1.0%以下、
Co:1.0%以下、
Pd:0.25%以下、および
Ru:0.25%以下、
からなる群から選択される一種以上を含有する、請求項3に記載のチタン製釘。
【請求項6】
前記工業用純チタンまたはチタン合金の化学組成が、前記Tiの一部に代えて、質量%で、
Al:2.0%以下、
Si:0.5%以下、
Sn:2.0%以下、
Zr:3.0%以下、
Cu:1.8%以下、
Nb:1.0%以下、
V:2.0%以下、
Mo:2.0%以下、
Mn:1.0%以下、
Co:1.0%以下、
Pd:0.25%以下、および
Ru:0.25%以下、
からなる群から選択される一種以上を含有する、請求項4に記載のチタン製釘。
【請求項7】
和釘である、請求項1~6のいずれか1項に記載のチタン製釘。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のチタン製釘の素材として用いられるチタン素材であって、
工業用純チタンまたはチタン合金からなり、
室温での0.2%耐力が215MPa以上であり、
引張強さが340~510MPaであり、
伸びが23%以上である、チタン素材。
【請求項9】
請求項7に記載のチタン製釘の素材として用いられるチタン素材であって、
工業用純チタンまたはチタン合金からなり、
室温での0.2%耐力が215MPa以上であり、
引張強さが340~510MPaであり、
伸びが23%以上である、チタン素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン製釘およびチタン素材に関する。
【背景技術】
【0002】
釘の中でも和釘は、古来より、木造の建築物に用いられてきた。例えば、重要文化財等の伝統的な建築物の改修において、使用されている和釘は、再利用されている。
【0003】
このため、和釘には、非特許文献1にあるように、繰り返し打ち込んだり引き抜いたりしても、曲がりを生じにくく、特に、断面積の小さい先端が容易に曲がったり、潰れたりしにくいこと、が求められてきた。さらに、打ち込まれる木材に硬い節があると、その節に沿って曲がること、いわゆる追従性が求められてきた。追従性が悪く、木材の節まで割ってしまうと、木材自体が使い物にならなくなるからである。
【0004】
そこで、曲がりを生じにくく、先端が容易に曲がりにくいような強度を有しながらも、追従性も備える和釘とするために、従来、和釘には軟鉄が用いられてきた。一方、軟鉄の和釘は、比較的重く、多量の釘を使用する場合には、作業者の負担が大きかった。さらに、重量の観点から建築物への負荷も大きかったため、軽量化が望まれていた。また、軟鉄の和釘では、環境によっては錆が発生し、貴重な木材を変色させてしまう場合もあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】古主泰子,「建築用和釘における非金属介在物及び酸化皮膜生成への過飽和酸素の影響」,東京藝術大学 博士学位論文,2015年(平成27年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、チタン製の和釘の適応が望まれている。和釘をチタン製にすることで、軽量化を実現でき、さらに、耐食性も高めることもできるからである。しかしながら、チタンは、剛性が低く、釘に使用しても曲がりを生じたり、先端が潰れたりしてしまうことがある。その一方、チタンを硬くして、曲がりおよび先端の潰れを抑制しようとすると、上述した追従性が悪くなる。このため、チタン製の和釘においては、曲がりおよび先端の潰れの抑制と追従性との両立は、難しいという課題があった。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決し、曲がりおよび先端の潰れの抑制と追従性とを両立したチタン製釘を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のチタン製釘を要旨とする。
【0009】
(1)工業用純チタンまたはチタン合金からなり、
頭部と、前記頭部に接続し、長手方向に延びる胴部とを有するチタン製釘であって、
前記胴部の前記長手方向における全長をLとした場合に、前記胴部の、前記頭部側の始端から1/10L、3/10L、1/2L、7/10L、および9/10L位置での、前記長手方向に垂直な各断面において、
中心位置での各ビッカース硬さHVと、各相対断面積Xとを、下記(i)式に示されるように最小二乗法により直線近似した場合に、下記(ii)~(iv)式を満足する、チタン製釘。
HV=aX+b ・・・(i)
-90≦a≦-50 ・・・(ii)
190≦b≦300 ・・・(iii)
0.65≦R2 ・・・(iv)
但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
HV:試験荷重を1kgfとしたときの、前記各断面の前記中心位置におけるビッカース硬さ(HV1)
X:前記胴部の前記始端での前記長手方向に垂直な断面の断面積に対する、前記各断面の断面積の割合である、相対断面積
R2:最小二乗法により直線近似した場合に得られる寄与率
【0010】
(2)前記各断面における表面から中心方向に100μmの位置でのビッカース硬さの平均値HVsと、前記各断面における前記中心位置でのビッカース硬さの平均値HVcとの差が、下記(v)式を満足する、上記(1)に記載のチタン製釘。
30≦HVs-HVc≦200 ・・・(v)
但し、上記(v)式中の各記号は、以下により定義される。
HVs:試験荷重を100gfとしたときの、前記各断面の表面から中心方向に100μmの位置でのビッカース硬さの平均値(HV0.1)
HVc:前記各断面の中心位置でのビッカース硬さの平均値(HV1)
【0011】
(3)前記工業用純チタンまたはチタン合金の化学組成が、質量%で、
Fe:1.5%以下、
Cr:1.5%以下、
Ni:1.5%以下、
O:0.25%以下、
N:0.05%以下、
C:0.10%以下、
H:0.015%以下、
残部:Tiおよび不純物であり、
下記(vi)式を満足する、上記(1)または(2)に記載のチタン製釘。
Fe+Cr+Ni≦1.5 ・・・(vi)
但し、上記式中の各元素記号は工業用純チタンまたはチタン合金に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0012】
(4)前記工業用純チタンまたはチタン合金の化学組成が、前記Tiの一部に代えて、質量%で、
Al:2.0%以下、
Si:0.5%以下、
Sn:2.0%以下、
Zr:3.0%以下、
Cu:1.8%以下、
Nb:1.0%以下、
V:2.0%以下、
Mo:2.0%以下、
Mn:1.0%以下、
Co:1.0%以下、
Pd:0.25%以下、および
Ru:0.25%以下、
からなる群から選択される一種以上を含有する、上記(3)に記載のチタン製釘。
【0013】
(5)和釘である、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載のチタン製釘。
【0014】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1項に記載のチタン製釘の素材として用いられるチタン素材であって、
工業用純チタンまたはチタン合金からなり、
室温での0.2%耐力が215MPa以上であり、
引張強さが340~510MPaであり、
伸びが23%以上である、チタン素材。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、曲がりおよび先端の潰れの抑制と追従性とを両立したチタン製釘を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態のチタン製釘の形状の一例を模式的に示した図である。
【
図2】
図2は、長手方向に垂直な方向からみたチタン製釘の模式図である。
【
図3】
図3は、中心位置のビッカース硬さHVと相対断面積Xとをプロットした場合の模式図である。
【
図4】
図4は、和釘の一例を模式的に示した図である。
【
図5】
図5は、釘の評価方法を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、チタン製釘の曲がりおよび先端の潰れならびに追従性について検討を行い、以下の(a)~(c)の知見を得た。
【0018】
(a)曲がりおよび先端の潰れを抑制するためには、素材のヤング率を高めることが有効である。一方、チタン材は、その物性等から鋼並みにヤング率を高めることが難しい。このため、釘全体を硬くすることが考えられる。しかしながら、釘全体を硬くすると、上述した追従性が失われ、釘を節に沿って曲がらせながら打ち込むことが、難しくなる。
【0019】
(b)以上を踏まえ、本発明者らは、釘の長手方向に沿って、硬度差を設けることを検討した。釘の形状は、一般的に、頭部の方が、断面積が大きく、先端になるにつれ、断面積が小さくなる。このため、断面積が小さい先端側は曲がりやすい。従って、断面積が小さい先端側をより硬質に、断面積が大きい頭部側をより軟質になるよう、硬度差を設けることで、曲がり、特に、局所的な曲がりおよび先端の潰れを抑制しつつ、追従性を向上させることができる。
【0020】
(c)先端になるにつれ、硬質になるような釘を得るためには、製造条件を制御することが有効である。最初に、素材となるチタン材を750~875℃に加熱した後、温度が500℃以下になるまで、釘胴部の頭部側から先端へ向かって熱間鍛造を行う。続いて、室温~200℃の温度域まで冷却する。その後、釘の頭部を加熱し、頭部を成形するための熱間鍛造を行う。通常、釘は、頭部から先端に至るまで、硬さはおおよそ一定になるが、これらの工程により、先端になるにつれ、硬質になるようなチタン製釘を得ることができる。なお、硬度差の勾配は、所定の範囲に制御するのが望ましい。
【0021】
本発明の一実施形態は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本実施形態のチタン製釘の各要件について詳しく説明する。
【0022】
1.素材
本実施形態の釘は、チタン製釘である。ここで、チタン製釘とは、チタン素材からなる釘である。すなわち、工業用純チタンまたはチタン合金からなる釘である。
【0023】
1-1.工業用純チタンまたはチタン合金
ここで、工業用純チタンとは、例えば、意図的に添加した元素を含まず、不純物とTiとからなるチタン材であり、通常、Ti含有量は、98質量%以上となる。工業用純チタンには、例えば、JIS 1種~4種、またはASTM/ASME Grade1~4といった種類の規格がある。これらの種類の工業用純チタンの不純物として、例えば、C、H、O、N、およびFeが一般的である。
【0024】
また、チタン合金は、通常、Tiを70質量%以上含む合金である。チタン合金としては、α型チタン合金、α+β型チタン合金またはβ型チタン合金が挙げられる。α型チタン合金としては、例えば、高耐食性合金(JIS規格の11種~13種、17種、19種~22種、およびASTM規格のGrade7、11、13、14、17、30、31で規定されるチタン合金やさらに種々の元素を少量含有させたチタン合金)、Ti-0.5Cu、Ti-1.0Cu、Ti-1.0Cu-0.5Nb、Ti-1.0Cu-1.0Sn-0.3Si-0.25Nb等がある。
【0025】
α+β型チタン合金としては、例えば、Ti-3Al-2.5V、Ti-5Al-1Fe、Ti-6Al-4Vなどがある。β型チタン合金としては、例えば、Ti-11.5Mo-6Zr-4.5Sn、Ti-8V-3Al-6Cr-4Mo-4Zr、Ti-13V-11Cr-3Al、Ti-15V-3Al-3Cr-3Sn、Ti-20V-4Al-1Sn、Ti-22V-4Al等がある。
【0026】
1-2.工業用純チタンまたはチタン合金の化学組成
本実施形態のチタン製釘において、素材となる工業用純チタンまたはチタン合金の種類は、特に、限定されないが、例えば、化学組成、すなわち、各元素の含有量の範囲が以下の範囲であるのが好ましい。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0027】
Fe:1.5%以下
Feは、β相安定化元素であり、引張強さを向上させる効果を有する。また、β相を増加させ、熱間加工性を向上させる効果も有する。しかしながら、Feを過剰に含有させると、偏析が生じやすくなる結果、特性が低下し、割れが生じやすくなる場合がある。このため、Fe含有量は、1.5%以下とするのが好ましく、1.3%以下とするのがより好ましい。一方、下限は特に限定されないが、工業的な原料の純度から、Fe含有量は、0.02%以上とするのが好ましく、0.03%以上とするのがより好ましい。
【0028】
Cr:1.5%以下
Crは、Feと同様、引張強さおよび熱間加工性を向上させる効果を有する。しかしながら、Crを過剰に含有させると、偏析が生じやすくなる結果、延性が低下し、割れが生じやすくなる場合がある。このため、Cr含有量は、1.5%以下とするのが好ましく、1.3%以下とするのがより好ましい。一方、下限は特に限定されないが、工業的な原料の純度から、Cr含有量は、0.003%以上とするのが好ましく、0.004%以上とするのがより好ましい。
【0029】
Ni:1.5%以下
Niは、FeおよびCrと同様、引張強さおよび熱間加工性を向上させる効果を有する。しかしながら、Niを過剰に含有させると、偏析が生じやすくなる結果、延性が低下し、割れが生じやすくなる場合がある。このため、Ni含有量は、1.5%以下とするのが好ましく、1.3%以下とするのがより好ましい。一方、下限は特に限定されないが、工業的な原料の純度から、Ni含有量は、0.003%以上とするのが好ましく、0.004%以上とするのがより好ましい。
【0030】
また、上述した、Fe、Cr、およびNiを複合的に含有させる場合においては、それらの合計含有量は、下記(vi)式を満足することが好ましい。
Fe+Cr+Ni≦1.5 ・・・(vi)
但し、上記式中の各元素記号は工業用純チタンまたはチタン合金に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0031】
Fe、Cr、およびNiの合計含有量が、1.5%を超えると、偏析が生じやすくなる他、延性等の特性が低下しやすくなる。このため、Fe、Cr、およびNiの合計含有量である、(vi)式左辺値は、1.5以下とするのが好ましい。(vi)式左辺値は、1.3以下とするのがより好ましく、1.25以下とするのがさらに好ましい。なお、(vi)式左辺値の下限は、特に限定されないが、例えば、0.03以上とするのが好ましい。
【0032】
O:0.25%以下
Oは、引張強さを向上させる効果を有する。しかしながら、Oを過剰に含有させると、延性が低下し、割れが生じやすくなる場合がある。このため、O含有量は、0.25%以下とするのが好ましく、0.2%以下とするのがより好ましい。このように、所望の強度を得るために、O含有量を調整することができる。一方、Oを過剰に低減すると、原料などの製造コストが増加するため、O含有量は、0.03%以上とするのが好ましい。
【0033】
N:0.05%以下
Nは、工業用純チタンまたはチタン合金中に含まれる不純物元素である。Nを過剰に含有させると、延性が低下し、割れが生じやすくなる。このため、N含有量は、0.05%以下とするのが好ましく、0.03%以下とするのがより好ましい。Nは、極力低減するのが好ましいが、Nを過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、N含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0034】
C:0.10%以下
Cは、工業用純チタンまたはチタン合金中に含まれる不純物元素である。Cを過剰に含有させると、延性および靭性が低下し、割れが生じやすくなる。このため、C含有量は、0.10%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。Cは、極力低減するのが好ましいが、Cを過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、C含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0035】
H:0.015%以下
Hは、工業用純チタンまたはチタン合金中に含まれる不純物元素である。Hを過剰に含有させると、延性が低下し、割れが生じやすくなる。このため、H含有量は、0.015%以下とするのが好ましく、0.010%以下とするのがより好ましい。Hは、極力低減するのが好ましいが、Hを過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、H含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0036】
上記の元素に加えて、さらにAl、Si、Sn、Zr、Cu、Nb、V、Mo、Mn、Co、Pd、およびRuから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0037】
Al:2.0%以下
Alは、引張強さを向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Alを過剰に含有させると、延性および靭性が低下し、割れが生じやすくなる場合がある。そのため、Al含有量は、2.0%以下とするのが好ましい。Al含有量は、1.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
【0038】
Si:0.5%以下
Siは、耐酸化性および強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Siを過剰に含有させると、偏析が生じやすくなる結果、延性および靭性が低下し、割れが生じやすくなる場合がある。そのため、Si含有量は、0.5%以下とするのが好ましい。Si含有量は、0.3%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Si含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
【0039】
Sn:2.0%以下
Snは、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Snを過剰に含有させると、割れが生じやすくなる場合がある。このため、Sn含有量は、2.0%以下とするのが好ましい。Sn含有量は、1.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
【0040】
Zr:3.0%以下
Zrは、耐酸化性および強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrを過剰に含有させると、割れが生じやすくなる場合がある。このため、Zr含有量は、3.0%以下とするのが好ましい。Zr含有量は、2.0%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
【0041】
Cu:1.8%以下
Cuは、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cuを過剰に含有させると、偏析が生じやすくなる結果、割れが生じやすくなる場合がある。このため、Cu含有量は、1.8%以下とするのが好ましい。Cu含有量は、1.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
【0042】
Nb:1.0%以下
Nbは、耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbを過剰に含有させると、製造コストが増加する。このため、Nb含有量は、1.0%以下とするのが好ましい。Nb含有量は、0.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
【0043】
V:2.0%以下
Vは、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vを過剰に含有させると、延性および靭性が低下したり、加熱時に酸化されやすくなったりし、割れが生じやすくなる場合がある。このため、V含有量は、2.0%以下とするのが好ましい。V含有量は、1.0%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
【0044】
Mo:2.0%以下
Moは、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Moを過剰に含有させると、偏析が生じやすくなる結果、割れが生じやすくなる場合がある。このため、Mo含有量は、2.0%以下とするのが好ましい。Mo含有量は、1.0%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
【0045】
Mn:1.0%以下
Mnは、引張強さを向上させる効果を有する。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、偏析が生じやすくなる結果、延性が低下し、割れが生じやすくなる場合がある。このため、Mn含有量は、1.0%以下とするのが好ましい。Mn含有量は、0.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mn含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
【0046】
Co:1.0%以下
Coは、引張強さと耐食性とを向上させる効果を有する。しかしながら、Coを過剰に含有させると、偏析が生じやすくなる結果、延性が低下し、割れが生じやすくなる場合がある。このため、Co含有量は、1.0%以下とするのが好ましい。Co含有量は、0.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
【0047】
Pd:0.25%以下
Pdは、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Pdを過剰に含有させると、製造コストが増加する。このため、Pd含有量は、0.25%以下とするのが好ましい。Pd含有量は、0.20%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Pd含有量は、0.04%以上とするのが好ましい。
【0048】
Ru:0.25%以下
Ruは、Pdと同様、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ruを過剰に含有させると、製造コストが増加する。このため、Ru含有量は、0.25%以下とするのが好ましい。Ru含有量は、0.20%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ru含有量は、0.04%以上とするのが好ましい。
【0049】
本実施形態の化学組成において、残部はTiおよび不純物である。ここで「不純物」とは、工業用純チタンまたはチタン合金を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。例示すれば、精錬工程等で混入するCl、Na、Mg、Ca、Bおよびスクラップ等から混入するTaであるが、これらには限られない。不純物は、各元素の含有量が0.1%以下、かつ総量で0.5%以下であれば問題無いレベルである。
【0050】
なお、上記化学組成は、表面から深さ方向に1mm以上内部の平均の化学組成である。各元素の含有量については、不活性ガス溶融赤外線吸収法、不活性ガス溶融熱伝導度法、高周波燃焼赤外線吸収他、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により、測定すればよい。
【0051】
1-3.チタン素材の強度
本実施形態のチタン製釘に用いられるチタン素材の強度は、例えば、以下の範囲とするのが好ましい。チタン素材の室温での0.2%耐力は、215MPa以上とするのが好ましい。また、チタン素材の引張強さは、340~510MPaの範囲とするのが好ましく、チタン素材の伸びは23%以上とするのが好ましい。これら特性値は、JIS Z 2241:2011に準拠した引張試験により求めればよい。
【0052】
2.硬さの分布
2-1.長手方向における硬さの分布
本実施形態のチタン製釘は、
図1に示すように、頭部1と、頭部1に接続し、長手方向に延びる胴部2とを有する。胴部2は、先端4側になるにつれ、先細りの形状になっている。なお、
図1では、胴部2の断面を略矩形にしているが、胴部の断面は、必ずしも略矩形でなくてもよい。例えば、略円形状であってもよい。
【0053】
ここで、胴部2の長手方向における全長をLとした場合に、胴部の、頭部側の始端3から1/10L、3/10L、1/2L、7/10L、および9/10L位置での、長手方向に垂直な各断面を、
図2に示すように定める。
【0054】
そして、本実施形態のチタン製釘は、上記各断面において、中心位置での各ビッカース硬さHVと、各相対断面積Xとを、下記(i)式に示されるように最小二乗法により直線近似する。以下、具体的に説明する。
【0055】
HV=aX+b ・・・(i)
但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
HV:試験荷重を1kgfとしたときの、各断面の中心位置におけるビッカース硬さ(HV1)
X:胴部の頭部側の始端での長手方向に垂直な断面の断面積に対する、各断面の断面積の割合である、相対断面積
【0056】
ここで、例えば、頭部側の始端から1/10Lの位置で、かつ長手方向に垂直な断面での中心位置でのビッカース硬さHVとは、この断面の重心位置でのビッカース硬さのことである。なお、重心位置は、例えば、断面が矩形であれば、対角線の交点であり、断面が、円形状であれば、円の中心である。なお、略矩形、略円形の場合、断面形状を矩形、円形に近似し、重心位置を求めればよい。
【0057】
このように、中心位置でのビッカース硬さHVを、他の位置(頭部側の始端から3/10L、1/2L、7/10L、および9/10L)で、長手方向に垂直な断面においても測定する。すなわち、中心位置でのビッカース硬さHVは、5点あることになる。
【0058】
また、相対断面積Xとは、胴部の頭部側の始端での長手方向に垂直な断面の断面積に対する各断面の断面積の割合である。すなわち、胴部において、最も断面積が大きい始端3での、長手方向に垂直な断面の断面積を1とし、それに対するそれぞれの位置でかつ長手方向に垂直な断面の断面積の割合である。相対断面積も、それぞれの断面ごとにあるため、5つあることになる。
【0059】
そして、一つの断面の中心位置でのビッカース硬さHVと、それに対応する相対断面積Xをすべてプロットし、
図3のように整理する。得られた
図3を用い、中心位置でのビッカース硬さHVと、相対断面積Xとの関係を、最小二乗法により直線近似し、上記(i)式における、傾きa、切片b、および寄与率Rを求めると、本実施形態のチタン製釘は、傾きa、切片b、および寄与率R
2の範囲が、下記(ii)~(iv)式を満足する。
【0060】
-90≦a≦-50 ・・・(ii)
190≦b≦300 ・・・(iii)
0.65≦R2 ・・・(iv)
但し、上記式中のR2は、以下のように定義される。
R2:最小二乗法により直線近似した場合に得られる寄与率
【0061】
なお、寄与率R2とは、中心位置でのビッカース硬さHVと相対断面積Xとの間にどの程度相関があるかを示す指標であり、下記(a)式で算出される。
【0062】
【0063】
ここで、傾きであるaの値が、-90未満であると、頭部が軟質過ぎて、局所的な曲がりが生じるだけでなく、所望する強度が得られないか、または、先端が硬質になりすぎて、追従性が低下する。このため、aの値は、-90以上とする。aの値は、-85以上とするのが好ましい。なお、局所的な曲がりとは、釘の胴部に軟質または硬質な部分が存在することで、胴部の一部で大きく湾曲したり、変形したりすることをいう。一方、aの値が-50を超えると、傾きが小さくなり、先端から頭部において、硬度差を設けることが困難になる。この結果、局所的な曲がりが生じたり、追従性が低下したりする。このため、aの値は、-50以下とする。aの値は、-55以下とするのが好ましい。
【0064】
また、切片であるbの値が、190未満であると、所望する強度が得られない。また、先端の潰れが生じる場合がある。このため、bの値は、190以上とする。bの値は、200以上とするのが好ましい。一方、bの値が300を超えると、過剰に釘全体の硬度が上昇し、追従性が低下する。このため、bの値は、300以下とする。bの値は、260以下とするのが好ましい。
【0065】
寄与率であるR2が、0.65未満であると、中心位置でのビッカース硬さHVと、相対断面積Xとの相関が小さく、釘の中に局所的に非常に軟質な部分および非常に硬質な部分を含むと考えられる。この結果、局所的な曲がりが生じやすくなる。このため、R2は、0.65以上とする。R2は、0.70以上とするのが好ましい。
【0066】
なお、本実施形態のチタン製釘では、実際の硬さは、特に限定されない。局所的な曲がりおよび先端の潰れを抑制するとともに、追従性を確保する観点から、例えば、断面の中心位置でのビッカース硬さは、100~300HV1の範囲となることが多い。なお、より好ましくは、110~260HV1である。本実施形態のチタン製釘は、頭部が軟質であることから、下限値が頭部側、上限値が、先端側の硬さとなる。
【0067】
本実施形態のチタン製釘では、最も頭部側の測定位置が、胴部の頭部側の始端から1/10L位置になる。このため、この位置の長手方向に垂直な断面の中心位置でのビッカース硬さが100HV1以上であるのが好ましい。同様に、最も先端側の測定位置が、胴部の頭部側の始端から9/10L位置である。このため、この位置の長手方向に垂直な断面の中心位置でのビッカース硬さが300HV1以下であるのが好ましい。なお、他の位置の硬さにおいても、100~300HV1の範囲内であるのが好ましい。
【0068】
中心位置でのビッカース硬さHVを測定するために、硬さ試験を行う必要があるが、硬さ試験は、試験荷重を1kgfとし、JIS Z 2244:2009に準拠して行えばよい。
【0069】
2-2.中心方向への硬さの分布
上述したように、釘は、繰り返し引き抜いたり打ち込まれたりすることがある。このため、耐摩耗性に優れているのが好ましい。チタン製釘の耐摩耗性を向上させるためには、表面に硬度の高い硬化層を設け、内部になるにつれ、軟質になるのがよい。
【0070】
硬化層は、通常、表面から100μm以上の厚さとなる。このため、上述した各断面における表面から中心方向に100μmの位置でのビッカース硬さの平均値HVsと、各断面における前記中心位置でのビッカース硬さの平均値HVcとの差が、下記(v)式を満足するのが好ましい。
【0071】
30≦HVs-HVc≦200 ・・・(v)
但し、上記(v)式中の各記号は、以下により定義される。
HVs:試験荷重を100gfとしたときの、各断面の表面から中心方向に100μmの位置でのビッカース硬さの平均値(HV0.1)
HVc:各断面の中心位置でのビッカース硬さの平均値(HV1)
【0072】
表面から中心方向に100μmの位置でのビッカース硬さの平均値HVsと、各断面における中心位置でのビッカース硬さの平均値HVcを算出するため、硬さ試験を行う必要がある。この際、表面から中心方向に100μmの位置でのビッカース硬さを測定する場合には、試験荷重を100gfとし、各断面における中心位置でのビッカース硬さを測定する場合には、試験荷重を1kgfとする。なお、硬さ試験は、所定の試験荷重とし、JIS Z 2244:2009に準拠して行えばよい。
【0073】
すなわち、胴部の、頭部側の始端から1/10L、3/10L、1/2L、7/10L、および9/10L位置での、長手方向に垂直な各断面において、表面から中心(重心)方向に100μmの位置でのビッカース硬さを求め、その5点の平均値がHVsとなる。同様に、胴部の、頭部側の始端から1/10L、3/10L、1/2L、7/10L、および9/10L位置での、長手方向に垂直な各断面において、中心(重心)位置でのビッカース硬さを求め、その5点の平均値がHVcとなる。
【0074】
そして、HVsとHVcとの差である、(v)式中辺値が、30未満であると、十分な硬さの硬化層が形成しておらず、耐摩耗性を向上させにくい。このため、(v)式中辺値は、30以上とするのが好ましく、50以上とするのがより好ましい。一方、(v)式中辺値が、200超であると、硬化層が過剰に形成しており、靭性および延性が低下しやすくなる。このため、(v)式中辺値は、200以下とするのが好ましく、150以下とするのがより好ましい。なお、HVsとHVcの測定については、上述した硬さ測定の方法と同様に行えばよい。
【0075】
なお、(v)式を満足する場合、硬化層が形成しており、表面から中心方向に100μm位置のOの濃度が、中心位置のOの濃度の1.5倍以上になると考えられる。
【0076】
3.和釘
本実施形態のチタン製釘は、和釘にも適応し得る。和釘とは、伝統建築、木製和船、醸造用樽および桶、焼成瓦固定等に用いられてきた釘である。和釘は、製品寸法を尺貫法の「寸」単位、およびその補助単位である「分」で寸法が指定される釘である。和釘とする場合、胴部2の加工において、例えば、胴部2のコーナー部分の面取り等を行い、Rを有する形状としてもよい。また、胴部2のコーナー部分がチャンファー状であっても、突起状であってもよい。なお、
図4のように、頭部の形状が巻頭7、または階折8である和釘でもよい。
【0077】
なお、
図1に示すように、胴部の、頭部側の始端から1/10L位置における長手方向に垂直な断面の長辺の長さまたは直径(長径)を胴部の断面長さとした場合に、和釘の全長(mm)に対する、胴部の断面長さ(mm)の比(以下、「断面形状比」ともいう。)が以下の関係を満足するのが好ましい。すなわち、和釘の全長が1寸2分(約36mm)未満の場合には、断面形状比は、0.100~0.050の範囲にするのが好ましい。また、和釘の全長が1寸2分(約36mm)以上である場合には、断面形状比は、0.035~0.065の範囲にするのが好ましい。
【0078】
また、和釘においては、表面に槌目模様を有することが好ましい。槌目模様とは、一定間隔に続く波状の模様のことであり、波状の部分は、それぞれ大きさが異なる。これにより深さが0.05~0.30mm程度の凹凸が形成している模様である。槌目模様の小さな凹凸が接触面での摩擦係数を高め、釘のゆるみや抜けの可能性を低減させることができ、腐食の防止にもつながる。
【0079】
4.製造方法
本実施形態のチタン製釘は、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。
【0080】
4-1.一次熱間鍛造
釘の素材となるチタン素材(工業用純チタンまたはチタン合金)を用意する。チタン素材の化学組成は、上述した範囲とするのが好ましい。また、チタン素材は、線材とし、室温での0.2%耐力が215MPa以上で、引張強さが340~510MPaであり、伸びが23%以上であるのが好ましい。なお、チタン素材の断面は、特に限定されない。矩形でも円形でもよい。
【0081】
このチタン素材を、750~875℃に加熱した後、温度が500℃以下になるまで、熱間鍛造して、主として胴部を成形する。一次熱間鍛造においては、胴部において、頭部側から先端の順で熱間鍛造する。頭部側から先端の順で熱間鍛造することで、aおよび/またはbの値の範囲を本実施形態の範囲内とすることができるからである。この熱間鍛造を一次熱間鍛造と呼ぶ。
【0082】
一次熱間鍛造の際の加熱温度が750℃未満であると、加熱温度が低く、ひずみを十分導入できない結果、aおよび/またはbの値の範囲が本実施形態の範囲外となる場合がある。このため、一次熱間鍛造の際の加熱温度は、750℃以上とする。
【0083】
一方、一次熱間鍛造の際の加熱温度が875℃を超えると、加熱しすぎることで軟質になり、その後、aの値の範囲が本実施形態の範囲外になる場合がある。また、製造性も低下する。このため、一次熱間鍛造の際の加熱温度は、875℃以下とする。なお、この際の加熱時間は、特に限定されないが、30秒超としてもよい。適宜、必要に応じて、選択すればよい。
【0084】
上記範囲にチタン素材を加熱後、チタン素材の温度が500℃以下になるまで、熱間鍛造を行う。チタン素材の温度が500℃超で、一次熱間鍛造を完了すると、aおよび/またはbの値の範囲が本実施形態の範囲外となる場合がある。一次熱間鍛造を上記条件で行うことで、断面積が小さい部分程、歪が蓄積され、顕著に加工硬化する。また、ひずみが蓄積されることで、結晶粒も細粒になり、強度の向上が進む。
【0085】
なお、一次熱間鍛造の際の雰囲気は、特に限定されない。例えば、大気、炭、ガス、オイル等の燃焼雰囲気でよい。また、一次熱間鍛造の際に、再加熱をしてもよい。再加熱の回数は、特に限定されない。また、再加熱の際の加熱時間は、30秒以下とするのが好ましく、5秒以下とするのが好ましい。再加熱の際の加熱時間が30秒を超えると、軟質化し過ぎて、aおよび/またはbの値の範囲が本実施形態の範囲外となる場合がある。その他、熱間鍛造の条件も、特に限定されない。所望する特性を得られるよう、調整すればよい。
【0086】
ここで、(v)式を満足し、耐摩耗性が向上したチタン製釘を得るためには、必要に応じて、上記熱間鍛造の工程の前に、大気雰囲気中で粗鍛造を行うのが好ましい。粗鍛造では、チタン素材全体を850℃以上に加熱し、熱間鍛造を行うのが好ましい。また、この際の加熱時間は、10分以上とするのが好ましい。高温で、加熱して、熱間鍛造を行うことで、大気雰囲気中のOをチタン素材が取り込み、固溶強化が生じて硬化層が形成するからである。なお、加熱による著しい酸化を抑制するために、粗鍛造の際の加熱温度は、920℃以下とするのが好ましい。
【0087】
粗鍛造は、加熱時に形成される最表面の脆いスケール層や著しい酸素濃化層を、砕いて除去する工程である。そのため、粗鍛造を終える温度は、特に限定しないが、粗鍛造を行う場合は、500℃以下まで行うのが好ましい。なお、加工硬化によって、硬化層を形成できる場合には、加工硬化によって、硬化層を形成させてもよい。また、粗鍛造する順番は、特に問わない。
【0088】
4-2.冷却
続いて、上述した熱間鍛造を経たチタン素材を室温~200℃の温度域まで冷却する。このような冷却工程を経ることで、続く、二次熱間鍛造において、先端側の温度が、加工ひずみが抜ける650℃以上にならないようにするためである。上記温度域まで冷却しなかった場合、局所的に軟質であったり、硬質であったりする部分が生じ、R2の値が小さくなる場合がある。
【0089】
4-3.二次熱間鍛造
続いて、上記温度域まで冷却したチタン素材の頭部になる部分のみについて、再度、750~875℃の温度域で加熱し、熱間鍛造を行う。全体を加熱し、熱間鍛造してしまうと、先端が軟質化してしまい、aおよび/またはbが、本実施形態の範囲を満足しなくなる場合がある。また、局所的に軟質化し、R2の値も大きくなる場合がある。この熱間鍛造を二次熱間鍛造と呼ぶ。二次熱間鍛造においては、頭部を所望の形状に成形する。頭部の形状は、特に、限定されないが、例えば、階折、巻頭、頭巻などがある。
【0090】
二次熱間鍛造の際の加熱温度が750℃未満であると、加熱温度が低く、所望する頭部の形状にしにくくなる。このため、二次熱間鍛造の際の加熱温度は、750℃以上とする。一方、二次熱間鍛造の際の加熱温度が875℃を超えると、加熱しすぎることで頭部が軟質になり、その後、所望する特性を得にくくなる。また、製造性も低下する。このため、二次熱間鍛造の際の加熱温度は、875℃以下とする。なお、加熱時間は、特に限定されない。製造性の観点から、上記加熱時間は、30秒超としてもよい。適宜、必要に応じて、選択すればよい。
【0091】
二次熱間鍛造の際の雰囲気も、特に限定されない。例えば、大気、炭、ガス、オイル等の燃焼雰囲気でよい。また、二次熱間鍛造の際に、再加熱をしてもよい。再加熱の回数は、特に限定されない。さらに、再加熱の際の加熱時間は、30秒以下とするのが好ましく、5秒以下とするのが好ましい。なお、その他、二次熱間鍛造の条件も、特に限定されない。所望する特性を得られるよう、調整すればよい。
【0092】
このような一次熱間鍛造、冷却、二次熱間鍛造の工程を経ることで、断面積が小さい先端側ほど、二次熱間鍛造までの一連の工程を通し、再加熱の回数が少なく温度が上昇しにくくなる。この結果、先端側ほど熱間鍛造の加工ひずみが蓄積された状態が維持でき、断面積が小さい先端側ほど、加工によってより硬化する。これにより、先端側と頭部側で硬度差を有する本実施形態のチタン製釘が得られる。なお、二次熱間鍛造の際、必要に応じて形状矯正程度の加工を施してもよく、これによって、本実施形態のチタン製釘の特徴が損なわれることはない。
【0093】
以下、実施例によって本発明に係るチタン製釘をより具体的に説明するが、本実施形態のチタン製釘はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0094】
表1に示す化学組成を有するチタン素材(線材)を用意し、チタン製釘を製造した。なお、チタン素材の引張特性を調べるための引張試験を行った。試験は、JIS Z 2241:2011に準拠して行った。また、それぞれの釘の製造条件は、表2に示す通りとした。なお、一次熱間鍛造の際に再加熱を行った場合、再加熱の際の加熱温度は、最初の加熱温度と同様とした。また、一部の粗鍛造を行った例については、粗鍛造後、500℃以下まで冷却した。
【0095】
【0096】
【0097】
(硬さ試験および相対断面積Xの算出)
得られた釘について、胴部の、頭部側の始端から1/10L、3/10L、1/2L、7/10L、および9/10L位置での、長手方向に垂直な各断面を切り出し、中心の硬さと、それぞれの断面の相対断面積Xを算出した。また、上記の各断面において、表面から中心方向に100μm位置での硬さも測定した。試験荷重は、それぞれの位置に対応したものとし、硬さ試験は、JIS Z 2244:2009に準拠して行った。なお、後述する本発明例においては、全ての硬さ測定点が100~300HV1の間であった。
【0098】
(耐摩耗性試験)
先端チップが、径1mm、超硬合金材質G2からなる罫書ペンを用いて、釘の表面を複数回引っ掻き、その痕跡を目視で観察した。具体的には、上記罫書ペンを手で持ち、文字を書くように、長さ約2~5mmで5~10回引っ掻いた。その引っ掻き痕が、目視で明瞭に見える場合を×、明瞭に見えない場合は○と評価し、○の例については、耐摩耗性が良好であると評価した。
【0099】
(釘の評価試験)
木材にある節に向かって釘を打ち込んだ際の、釘先端のつぶれや曲がり、さらに硬質物への追従性について、評価を行った。今回の評価では、木材の節を模擬し、チタンおよび鉄よりも硬質で、HVで800相当である高炭素クロム鋼(JIS G 4805のSUJ2)からなる球を使用した。
【0100】
具体的には、
図5に示すように、予め、直径20mmの半球状の穴を両檜の板にあけ、その半球の穴に高炭素クロム鋼の直径20mmの球を挟み込み、その四辺に洋釘を複数本打ち込み、上下の檜板を固定した。このようにして、上と下の2つの檜の板の間に、高炭素クロム鋼の直径20mmの球を挟みこんだ状態にした。
【0101】
そして、上の檜板の上側には、炭素クロム鋼の球の中心がわかるように、マークを記載しておく。このマークの位置に本試験体となる釘を、金槌で打ち込む。釘が最後まで打ち込めた場合を合格として〇、釘が途中で打ち込めなくなった場合を不合格として×とした。なお、
図5に記載された寸法は、長さ2寸5分(75mm)に釘の評価する寸法である。以下、結果を纏めて、表3に示す。
【0102】
【0103】
試験No.1~40は、本実施形態の要件を満足した。このため、局所的な曲がり、先端の潰れが抑制されるとともに、追従性も良好であった。その一方、本実施形態の要件を満足しないNo.41~51は、局所的な曲がりまたは先端の潰れが生じたり、追従性が低下したりした。
【0104】
なお、試験No.24と試験No.3について、表層のOの濃度と、中心のO濃度、表層と中心の中間地点のO濃度を測定したところ、表4に示すとおりになった。これより、(v)式を満足する場合は、Oが濃化した硬化層が形成していることが分かる。
【0105】