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特開2024-25237保全計画支援方法及び保全計画支援装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025237
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】保全計画支援方法及び保全計画支援装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/20 20230101AFI20240216BHJP
【FI】
G06Q10/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128511
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 尚幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】原子力プラントの保全活動を適切に支援することができる保全計画支援装置を提供する。
【解決手段】原子力発電プラントにおいて、設計及び/又は現場からの情報を活用して保全計画を支援する保全計画支援装置100であって、保全計画を立案する保全計画立案部11と、原子力発電プラントの状態監視保全を管理する保全・監視管理部12と、保全計画に基づき現場作業工程を管理する現場作業計画工程管理部13と、保全計画にしたがって実行される、設備の点検、監視、パトロールにおいて、劣化、故障の不具合の状況に基づいて、これを是正するための計画立案にあたって、法規制からの保全要求期間と現場からの保全要求期間とからこれら2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定する保全計画支援部14と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラントにおいて、設計及び/又は現場からの情報を活用して保全計画を支援する保全計画支援方法において、
前記保全計画にしたがって実行される、設備の点検、監視、パトロールにおいて、劣化、故障の不具合の状況に基づいて、これを是正するための保全計画立案にあたって、法規制からの保全要求期間と現場からの保全要求期間とからこれら2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定する
ことを特徴とする保全計画支援方法。
【請求項2】
前記法規制からの保全要求期間は、劣化、故障の不具合の発生している設備において、当該設備の是正処置として想定する保全作業により、当該設備に求められる機能が喪失する期間に関する法規制の制約を、是正措置の期間として設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の保全計画支援方法。
【請求項3】
前記現場からの保全要求期間は、劣化、故障の不具合の発生している設備において、現場からの劣化、故障の不具合の状況の情報を用いて、当該設備に求められる機能が喪失する時期を評価し、不具合を発見した時期から、機能が喪失する時期までの期間を是正措置の期間として設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の保全計画支援方法。
【請求項4】
前記是正措置の期間に現場で是正措置ができない場合、作業範囲の周囲への影響を加味して再設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の保全計画支援方法。
【請求項5】
前記作業範囲の周囲への影響は、保全活動に必要となる標準的な時間、人員、部品・機材を含む、作業計画管理情報と、一旦計画した是正措置の期間における、現場において準備可能な作業員の人数と、保全活動に必要となる部品・機材の員数のいずれかまたは両方を含む、リソース準備の情報とを比較して、現場での作業成立性を評価される
ことを特徴とする請求項4に記載の保全計画支援方法。
【請求項6】
原子力発電プラントにおいて、設計及び/又は現場からの情報を活用して保全計画を支援する保全計画支援装置であって、
保全計画を立案する保全計画立案部と、
前記原子力発電プラントの状態監視保全を管理する保全・監視管理部と、
前記保全計画に基づき現場作業工程を管理する現場作業計画工程管理部と、
前記保全計画にしたがって実行される、設備の点検、監視、パトロールにおいて、劣化、故障の不具合の状況に基づいて、これを是正するための計画立案にあたって、法規制からの保全要求期間と現場からの保全要求期間とからこれら2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定する保全計画支援部と、を有する
ことを特徴とする保全計画支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所における保全活動を支援する保全計画支援方法及び保全計画支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントは、数百の系統、それを構成する多数の機器から構成され、安全性を維持しつつ、発電プラントの性能を発揮するために、信頼性を維持・向上するための保全活動を実施している。
【0003】
建設当初から、厳しい基準の下に保全活動を実施してきたが、最近の規制動向、国内外の運転実績、建設以降の技術向上等を考慮すると、よりいっそうの保全活動の最適化に取り組むニーズがある。
【0004】
特許文献1の設備保全管理装置は、生産計画を立案する上位ホスト計算機と、現場設備を運転/停止させるとともに設備稼働実績を把握する現場設備制御装置と、上位ホスト計算機及び現場設備制御装置を接続して設備保全予測に基づく事前保全指示及び生産計画支援を行う設備保全管理計算機を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-185355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、主に生産計画を基に保全管理を行っている装置であるので、原子力発電プラントの保全計画に直接適用することができない。
【0007】
震災後の国内の原子力発電所の運用では、より高い信頼性が求められている。海外事例として、米国において実績のある規制(ROP:Reactor Oversight Process)や業界のベストプラクティス(例えば、原子力の標準的なパフォーマンスモデル(SNPM:Standard Nuclear Performance Model)など)があり、いずれも、総合的な視点で、既設炉のプラントの保全を最適化するプロセスを志向している。国内においても、米国規制や運用実績は異なるものの、米国を参考に、総合的な最適化を促す保全プロセスの構築が望まれていた。
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するための発明であって、原子力プラントの保全活動を適切に支援することができる保全計画支援方法及び保全計画支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の保全計画支援方法は、原子力発電プラントにおいて、設計及び/又は現場からの情報を活用して保全計画を支援する保全計画支援方法において、前記保全計画にしたがって実行される、設備の点検、監視、パトロールにおいて、劣化、故障の不具合の状況に基づいて、これを是正するための保全計画立案にあたって、法規制からの保全要求期間と現場からの保全要求期間とからこれら2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定することを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原子力プラントの保全活動を適切に支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る保全計画支援システムの構成を示す図である。
図2】本実施形態に係る保全計画支援部の概要を示す図である。
図3】機器管理DBの構成データ例を示す図である。
図4】FMEA DBの構成データ例を示す図である。
図5】保全活動・監視項目DBの構成データ例を示す図である。
図6】フィールド保全・監視データDBの構成データ例を示す図である。
図7】作業計画管理DBの構成データ例を示す図である。
図8】フィールドリソースデータDBの構成データ例を示す図である。
図9】保全計画情報のリスト情報の例を示す図である。
図10】保全計画情報のチャート情報の例を示す図である。
図11】保全計画支援処理の詳細を示すフローチャートである。
図12】保全計画支援装置の機能ブロックの例を示す図である。
図13】工程制約情報(定検中に計画できる場合)の例を示す図である。
図14図13における現場作業計画工程情報の例を示す図である。
図15】工程制約情報(定検までに保守する必要がある場合)の例を示す図である。
図16】現場の点検・監視の情報から「機器の機能喪失(故障等)が想定される時間」を評価する方法を説明する図である。
図17図15における現場作業計画工程情報の例(その1)を示す図である。
図18図15における現場作業計画工程情報の例(その2)を示す図である。
図19】CM(構成管理)、ER(設備信頼性)、WM(作業管理)の3つのプロセスの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
<保全計画支援システム>
図1は、本実施形態に係る保全計画支援システム300の構成を示す図である。保全計画支援システム300は、保全計画支援装置100と、外部記憶装置のデータベース装置200を有する。保全計画支援装置100は、処理部10、記憶部20、入力部30、出力部40、通信部50を有する。処理部10は、保全計画を立案する保全計画立案部11、原子力発電プラントの状態監視保全を管理する保全・監視管理部12、保全計画に基づき現場作業工程を管理する現場作業計画工程管理部13、保全計画支援部14等を有する。なお、状態監視保全は、予防保全の方法の一種で、対象となる設備(系統、機器)を一定の監視下におき、その故障や劣化、あるいはその兆候に基づき、必要に応じて保全を実施することで安全を確保する保全手法である。
【0013】
保全計画支援部14は、保全計画にしたがって実行される、設備の点検、監視、パトロールにおいて、劣化、故障などの不具合の状況に基づいて、これを是正するための計画の立案(計画立案)を行う。この計画立案にあたって、法規制からの保全要求期間と現場からの保全要求期間とからこれら2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定する。詳細については図2を参照して後述する。
【0014】
記憶部20には、構成管理抽出情報21、FMEA抽出情報22、保全活動・監視項目抽出情報23、フィールド保全・監視抽出情報24、作業計画管理抽出情報25、フィールドリソース抽出情報26、保全計画情報27、工程制約情報28(構成管理による制約28a、保全活動・監視項目による制約28bを含む)、現場作業計画工程情報29等が記憶されている。構成管理抽出情報21、FMEA抽出情報22、保全活動・監視項目抽出情報23、フィールド保全・監視抽出情報24、作業計画管理抽出情報25、フィールドリソース抽出情報26は、データベース装置200から関連するデータを抽出した情報である。保全計画情報27、工程制約情報28、現場作業計画工程情報29は、図2図9図18を参照して後述する。
【0015】
図1において、処理部10は、中央演算処理装置(CPU)であり、RAMやHDD等に格納される各種プログラムを実行する。記憶部20は、HDDであり、保全計画支援装置100が処理を実行するための各種データを保存する。入力部30は、キーボードやマウス等のコンピュータに指示を入力するための装置であり、プログラム起動等の指示を入力する。出力部40は、ディスプレイ等であり、保全計画支援装置100による処理の実行状況や実行結果等を表示する。通信部50は、ネットワークNWを介して、他の装置と各種データやコマンドを交換する。
【0016】
データベース装置200には、構成管理DB210、FMEA DB220、保全活動・監視項目DB230、フィールド保全・監視データDB240、作業計画管理DB250、フィールドリソースデータDB260等を有する。なお、DBはデータベースを意味する。FMEAは、Failure Mode and Effect Analysisの略称であり、故障・不具合の防止を目的とした、潜在的な故障の体系的な分析方法である。
【0017】
各DBに格納されるデータについて説明する。
構成管理DB210は、発電プラントに対する設計要求、設計図書、実体のデータから構成されるデータベースである。
【0018】
FMEA DB220は、発電プラントを構成する機器に対する、劣化モード、すなわち、故障部位、劣化メカニズム、劣化の影響、劣化の重大度、劣化の頻度、および、有効な保全活動・監視項目等を含むデータベースである。
【0019】
保全活動・監視項目DB230は、発電プラントの保全活動と監視項目の情報、すなわち、その内容、頻度、対象となる劣化事象を含むデータベースである。ここで、保全対象の機器の保全活用・監視項目は、構成管理DB210の法令・規制等で定められたものを含んでおり、安全性の維持の観点でより重要な機器(設備、系統)に対する機能の維持のための保全・監視という背景がある。
【0020】
フィールド保全・監視データDB240は、保全活動・監視項目DB230で規定されている保全活動や監視項目が、実際、今、現場でとうなっているかという現場状況が格納されているデータベースである。すなわち、機器の劣化状態(あるいは、劣化状態を判断するために必要な)情報である。保全活動の結果や、監視パラメータの傾向が、不具合や劣化を指示している可能性がある場合に、機能回復等の是正のための活動のリクエストが発生することとなる。なお、構成管理DB210の法令・規制等で定められた、機器(設備、系統)に対する機能の維持に係わる保全活動・監視項目の場合、後述する「工程制約情報」(図1の工程制約情報28)が規定されていることが多い。
【0021】
作業計画管理DB250は、現場作業計画を立案するためのベースとなる標準的な情報が格納されているデータベースである。具体的には、ある機器の保全に関する、1つのパッケージ化された情報(図7参照)であって、ある機器の保全を構成する複数の個々の保全活動(=ワークオーダ)の集まりである。一定の時間・人数・部品での作業計画を立案するために、当該のワークオーダ単位で、標準的な時間、作業人員、その作業に必要な部品や設備を整理した情報を含んだデータベースである。
【0022】
フィールドリソースデータDB260は、フィールド保全・監視データDB240で規定されているリソースのうち、特に、人数・部品の現場状況を含んだデータベースである。すなわち、準備できる見通しのある、人員(作業の種類、資格や期間、人数)と、交換や作業のための部品・機材(種類、員数、期間)が格納されている。ある保全作業に対する計画、すなわち、作業内容と期間が定まると、フィールド保全・監視データDB240とフィールドリソースデータDB260を対比することで、例えば、その期間にその作業が対応できるか否か、すなわち、作業成立性を判断することが可能となる。
【0023】
<保全計画支援部の概要>
図2は、本実施形態に係る保全計画支援部14の概要を示す図である。保全計画支援部14は、保全計画情報27(図9図10参照)と工程制約情報28から工程を調整し、現場作業計画工程を立案し、調整する機能を有する。前記したように、保全計画支援部14は、保全計画にしたがって実行される、設備の点検、監視、パトロールにおいて、劣化、故障の不具合の状況に基づいて、これを是正するための計画立案にあたって、法規制からの保全要求期間と現場からの保全要求期間とからこれら2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定する。なお、保全計画情報27は、図9及び図10を参照して後述する。
【0024】
工程制約情報28には、構成管理に基づく制約28a、保全活動・監視項目による制約28bがある。それぞれの制約を、図2を参照して説明する。
【0025】
構成管理に基づく制約28aに、構成管理による制約期間P1を示す。発電プラントは安全性や発電に係わる機能を満足するために、構成管理DB210の法令・規制などの設計要件を満足する必要があり、特に、安全性に係わる、機器(設備、系統)に対する機能の維持が要求されている。したがって、ある機器を分解点検する場合は、その機器が所属する系統の機能を一時的に「停止(機能喪失)」させる必要がある。たとえば、「許容待機除外時間(AOT:Allowed Outage Time)」が設定されている場合があり、所定の「期間内」に作業を終える必要がある。このように、分解点検などで、機能が喪失する「作業開始」を起点として、機能が回復する「作業終了」の時間に対する制約が、「構成管理」による「工程制約情報」の一例である。
【0026】
保全活動・監視項目による制約28bに、保全活動・監視項目による制約期間P2を示す。一方で、「保全・監視データ」による「工程制約」は、モノがいつ故障してしまうか、という「現在」を起点として、「故障が推定」されるまでの期間で保全しなさい、という指令を与えることになる。
【0027】
現場作業計画工程情報29に、保全計画支援部14が計画した、作業期間FP0(作業時間)と、現場作業として計画する分解点検作業期間FP2、万が一のときでも構成管理による制約期間P1を超えないための予備期間FP3(予備時間)を示す。すなわち、保全計画支援部14は、法規制からの保全要求期間(構成管理による制約期間P1)と現場からの保全要求期間(保全活動・監視項目による制約期間P2)とからこれら2つの期間で重複するタイミング(分解点検作業期間FP2の始点)にて是正措置の期間の実行を設定することができる。
【0028】
保全計画支援部14は、ある機器の保全に関する、ある活動(=ワークオーダ)をある時期・期間に実施する制約をベースに、万が一の予備時間を考慮して、現場作業計画を立案する。その計画で求められている、作業、期間に対して、実際に確保できる人員や部品・機材で対応が可能であるかという作業成立性を確認する必要がある。そのため、保全計画支援部14は、現場作業計画工程管理部13に問い合わせ、作業成立性が難しい場合は、制約の緩和・代替の要求というフィードバックをかける。
【0029】
<各DBの構成データ例>
図3は、構成管理DB210の構成データ例を示す図である。構成管理DB210は、カテゴリとその構成データで構成されている。カテゴリには、設計要件、施設構成情報、物理構成がある。例えば、設計要件には、法規制、設計基準図書、計算・解析結果がある。
【0030】
図4は、FMEA DB220の構成データ例を示す図である。FMEA DB220は、機器名、劣化モード、有効な保全活動・監視項目等のデータ有している。劣化モードには、故障部位、劣化メカニズム、劣化の影響、劣化の重大度、劣化の頻度がある。図4によれば、〇〇弁の場合、シール部の樹脂劣化で漏えいが発生する可能性があることがわかる。
【0031】
図5は、保全活動・監視項目DB230の構成データ例を示す図である。保全活動・監視項目DB230は、保全活動、保全の頻度、対象となる劣化事象等のデータと、監視項目、監視の頻度、対象となる劣化事象等のデータを有する。具体的には、対象機器が〇〇弁の場合に、保全活動として、○〇の非破壊検査を、〇年ごとに実施していることがわかる。
【0032】
図6は、フィールド保全・監視データDB240の構成データ例を示す図である。図6のフィールド保全・監視データDB240は、図5の保全活動・監視項目DB230に対応するデータであり、保全活動、保全の頻度、保全活動の結果(実績)等のデータと、監視項目、監視の頻度、監視結果(実績)等のデータを有する。
【0033】
図7は、作業計画管理DB250の構成データ例を示す図である。作業計画管理DB250は、作業パッケージ、標準計画値、関連図書を有する。具体的には、〇〇の非破壊検査では、ワークオーダID番号がA01であり、作業人員2名で、作業時間3時間で検査装置を用いて検査することがわかる。
【0034】
図8は、フィールドリソースデータDB260の構成データ例を示す図である。フィールドリソースデータDB260は、現場状況とその詳細情報を有する。例えば、定期検査では、各作業の人員状況、人数とその期間、部品・機材の状況、員数及び台数、その期間である。
【0035】
<保全計画情報>
図9は、保全計画情報27のリスト情報27aの例を示す図である。図10は、保全計画情報27のチャート情報27bの例を示す図である。図9のリスト情報27aには、マスター工程として、運転サイクル期間、その後の燃料交換、メンテナンスのためにプラントを停止する定期点検期間の情報を有する、また、次回の定検(定期検査)で保全する予定の機器、保全活動、員数などの情報を有する。
【0036】
図10のチャート情報27bには、定期検査での内容及び日数の情報を有する。図中、LPRMは局部出力領域モニタ、SPNMは起動領域モニタ、FMCRDは改良型制御棒駆動機構である。
【0037】
<保全計画支援処理の詳細>
図11は、保全計画支援処理S100の詳細を示すフローチャートである。保全・監視管理部12は、原子力発電プラントの計画された保全活動(運転中の監視や、プラント停止中の点検など)により保全対象の機器に不具合または不具合の兆候を発見(ステップS1)すると、不具合の是正処置の要否を評価する(ステップS2)。不具合の是正処置が不要ならば(ステップS2,不要)、処理を終了する。保全・監視管理部12は、不具合の是正措置が必要と判断したならば(ステップS2,要)、保全計画支援部14にその旨を通知し、ステップS3に進む。
【0038】
ステップS3において、保全計画支援部14は、保全計画情報27及び工程制約情報28から是正処置に関する設計要件情報を取得する。すなわち、構成管理(法令等)の制約を抽出する
【0039】
ステップS4において、保全計画支援部14は、保全・監視管理部12からフィールド情報を取得する。具体的には、対象機器がどのくらい劣化しているか、また、いつぐらいに故障すると想定するかといった情報を取得する。
【0040】
ステップS5において、保全計画支援部14は、保全計画情報27と工程制約情報28から工程を調整し、現場作業計画工程を立案し、現場作業計画工程情報29として、現場作業計画工程管理部13に送信する。
【0041】
ステップS6において、現場作業計画工程管理部13は、現場作業計画工程情報29を受信すると、フィールド情報を取得する。具体的には、ステップS5での計画において、是正のための機能回復の作業、期間で人員、部品や機材などのリソース、現場での準備状況に関する情報を取得する。
【0042】
ステップS7において、現場作業計画工程管理部13は、立案された現場作業計画についてステップS6の情報を加えて、作業が成立するか(作業成立性)の可否を評価する。作業が成立する場合(ステップS7,工程成立可能)、保全計画支援部14及び作業現場に通知し処理を終了する。一方、作業が成立しない場合(ステップS7,成立不可)、現状のリソース等で実施できる現場作業計画工程表29A(図12参照)を、保全計画支援部14に送信する。
【0043】
ステップS8において、保全計画支援部14は、現場作業計画工程表29Aを受信するとスケジュールの再調整(再設定)し、ステップS5に戻る。ステップS8において、作業成立性が否と判断された場合に、機器の部分負荷運転、系統の切り替え、劣化状況の再評価などの制約側に再評価を求める。
【0044】
図12は、保全計画支援装置100の機能ブロックの例を示す図である。保全計画支援部14は、保全計画立案部11と保全・監視管理部12と現場作業計画工程管理部13との各部の調整機能を有する。図11のフローチェートで説明したように、保全計画支援部14は、保全・監視管理部12から不具合の兆候の旨を受けると、保全計画情報27及び工程制約情報28から工程を調整し、現場作業計画工程情報29を立案し(1次案を立案し)、現場作業計画工程管理部13に送信する。現場作業計画工程管理部13は、作業の成立性を評価し、工程NGの場合、現場作業計画工程表29Aを保全計画支援部14に送信する(再調整依頼)。保全計画支援部14は、再調整依頼を受けると、保全計画立案部11及び保全・監視管理部12にその旨を連絡し再調整(2次案を立案)する。
【0045】
また、保全計画支援部14は、1次案の立案時に、工程制約条件を満たすことができないと判断した場合は、保全計画立案部11及び保全・監視管理部12にその旨を連絡し、調整案(2次案)を立案する。
【0046】
<現場作業計画工程例>
現場作業計画工程の1次案の例を図13図14を参照して説明する。現場作業計画工程の2次案の例を、図15図18を参照して説明する。
【0047】
図13は、工程制約情報(定検中に計画できる場合)の例を示す図である。図14は、図13における現場作業計画工程情報の例を示す図である。図13及び図14の例は、例えば、運転中の監視で見つかった劣化の進行が遅く、次の定検まで当該機器が機能すると判断されるケースである。すなわち、定検期間中に、当該機器のメンテナンスを実行する。
【0048】
図13において、保全計画支援部14は、保全計画情報27、工程制約情報28(構成管理による制約28a、保全活動・監視項目による制約28b)を取得し、設計要求からの制約期間P1、保全・監視の結果からの制約期間P2を満たすように、2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定するができている。是正措置期間として現場作業として計画する分解点検作業期間FP2及び遅延等のリスクを考慮した予備期間FP3が、設計要求からの制約期間P1、保全・監視の結果からの制約期間P2を満たしている。なお、作業期間FP0は、現場作業計画において、準備等を含めた点検作業開始から撤収を含めて点検作業終了までの期間である。
【0049】
図14は、図13における現場作業計画工程情報の詳細を示す。〇〇ポンプの分解点検における作業期間FP0は、準備期間FP1、分解点検作業期間FP2、予備期間FP3、撤収期間FP4から構成されている。
【0050】
図15は、工程制約情報(定検までに保守する必要がある場合)の例を示す図である。例えば、運転中に、運転中の監視で見つかった劣化の進行が早く、次の定検まで当該機器が機能しないと判断されるケースである。
【0051】
図15には、保全計画情報27として、運転サイクル期間PS0、工程制約情報28(構成管理による制約28a、保全活動・監視項目による制約28b)が示されている。保全活動・監視項目による制約28bにおいて、運転サイクル期間PS0中に機器の機能喪失が想定される時間が含まれる。なお、機器の機能喪失が想定される時間は、図16で説明する。
【0052】
図16は、現場の点検・監視の情報から「機器の機能喪失(故障等)が想定される時間」を評価する方法を説明する図である。説明図161は、過去のトレンドが取得できている場合は、トレンドから外挿して故障時期を推定する。トレンドからの外挿値が劣化管理指標の管理しきい値に達したとき、機器の機能喪失(故障等)が想定される時間である。劣化管理指標は、例えば、ゴム製のOリングの場合、圧縮永久歪である。
【0053】
説明図162は、過去のトレンドが取得できてない場合は、文献値や過去の実績から故障時期(あるいは保全時期)を推定する。例えば、文献値や、業界の知見として5年の設計寿命がある場合は、使用して2年経過していたら、あと3年は持つ、と判断する場合に相当する。
【0054】
図15に戻り、保全計画支援部14は、保全計画情報27、工程制約情報28(構成管理による制約28a、保全活動・監視項目による制約28b)を取得し、設計要求からの制約期間P1、保全・監視の結果からの制約期間P2を満たすように、2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定することができるか評価する。是正措置期間として現場作業として計画する分解点検作業期間FP2及び遅延等のリスクを考慮した予備期間FP3が、設計要求からの制約期間P1、保全・監視の結果からの制約期間P2を満たす必要があるが、現場作業として計画する分解点検作業期間FP2が制約条件を満たしていない。すなわち1次案が成立せず、2次案を検討する必要がある。2次案として、プラントを停止して保全する場合(図16参照)、系統を切り替えて運用する場合(図17参照)等を、以下に示す。
【0055】
図17は、図15における現場作業計画工程情報の例(その1)を示す図である。図16は、プラントを停止して保全する場合である。当初の運転サイクル期間PS0に対し、機器の機能喪失が想定される時間までに、プラントを停止させ、変更後の期間は、運転サイクル期間PS0Aである。図17の場合、設計要求からの制約期間P1、保全・監視の結果からの制約期間P2を満たすように、2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定している。
【0056】
図18は、図15における現場作業計画工程情報の例(その2)を示す図である。図17は、系統を切り替えて運用する場合であり、図15の定検中に対応できない場合に、劣化のある機器を含む系統を切り替えて運用することで運転サイクルは計画通りで、途中でプラント停止はせずに、定期検査中に是正処置を実施するケースである。
【0057】
図18の上図に工程制約情報28を示している。この場合、「保全・監視の結果からの制約」の想定故障時間が運転サイクル中に来てしまう。この対応として、運転中に是正処置(オンラインメンテナンス等)を実施することも、規制上の許可と適合していれば、その可能性はゼロでないと考えられる。ただし、その他の選択肢として、例えば、劣化が検知された当該機器を含む系統の切り替え(系統運用)や、当該機器の部分負荷運転等の手段の可能性を検討した後、「機器の機能喪失が想定される時間」の制約を遅らせることで、現場作業工程の成立性を獲得できる場合がある。
【0058】
図18の中図に調整後の工程制約情報28Aを示す。調整後の工程制約情報28Aにおいて、「保全・監視の結果からの制約」の想定故障時間が伸びているのは、系統を切り替えることで、当該機器を「使用」しない、あるいは、当該機器を部分負荷で運転することで、劣化が進行する環境を緩和したことによる。
【0059】
図18において、保全計画支援部14は、設計要求からの制約期間P1A、保全・監視の結果からの制約期間P2Aを満たすように、2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定するができている。是正措置期間として現場作業として計画する分解点検作業期間FP2及び遅延等のリスクを考慮した予備期間FP3が、設計要求からの制約期間P1、保全・監視の結果からの制約期間P2を満たしている。なお、作業期間FP0は、現場作業計画において、準備等を含めた点検作業開始から撤収を含めて点検作業終了までの期間である。作業期間FP0は、準備期間FP1、分解点検作業期間FP2、予備期間FP3、撤収期間FP4から構成されている。
【0060】
<効果>
次に、保全計画支援部14の位置づけとして、実施形態で利活用される情報を、CM(Configuration Management;構成管理)、ER(Equipment Reliability;設備信頼性)、WM(Work Management;作業管理)の3つのプロセスにマッピングしたものを説明する。
【0061】
図19は、CM(構成管理)、ER(設備信頼性)、WM(作業管理)の3つのプロセスの関係を示す図である。CM、ER、WMというプロセスには、CMには設備が要件を満たしていることの管理、ERには設備の信頼性・可用性などの管理、WMには作業の安全性・生産性などの管理などそれぞれのプロセス目的があるが、3つのプロセスで相互に参照する情報を活用することで、総合的、統合的に、保全活動を最適化できる効果が得られる。すなわち、本実施形態の保全計画支援部14は、CM、ER、WMというプロセスの調整機能を有しており、保全活動を最適化できる効果がある。
【0062】
以上説明した本実施形態の保全計画支援方法及び保全計画支援装置100は、次の特徴を有する。
(1)原子力発電プラントにおいて、設計及び/又は現場からの情報を活用して保全計画を支援する保全計画支援方法において、保全計画にしたがって実行される、設備の点検、監視、パトロールにおいて、劣化、故障の不具合の状況に基づいて、これを是正するための保全計画立案にあたって、法規制からの保全要求期間と現場からの保全要求期間とからこれら2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定することを特徴とする。これによれば、原子力プラントの保全活動を適切に支援することができる。
【0063】
(2)法規制からの保全要求期間は、劣化、故障の不具合の発生している設備において、当該設備の是正処置として想定する保全作業により、当該設備に求められる機能が喪失する期間に関する法規制の制約を、是正措置の期間として設定される。
【0064】
(3)現場からの保全要求期間は、劣化、故障の不具合の発生している設備において、現場からの劣化、故障の不具合の状況の情報を用いて、当該設備に求められる機能が喪失する時期を評価し、不具合を発見した時期から、機能が喪失する時期までの期間を是正措置の期間として設定される。
【0065】
(4)是正措置の期間に現場で是正措置ができない場合、作業範囲の周囲への影響を加味して再設定することができる。
【0066】
(5)作業範囲の周囲への影響は、保全活動に必要となる標準的な時間、人員、部品・機材を含む、作業計画管理情報と、一旦計画した是正措置の期間における、現場において準備可能な作業員の人数と、保全活動に必要となる部品・機材の員数のいずれかまたは両方を含む、リソース準備の情報とを比較して、現場での作業成立性を評価される。
【0067】
(6)原子力発電プラントにおいて、設計及び/又は現場からの情報を活用して保全計画を支援する保全計画支援装置100であって、保全計画を立案する保全計画立案部11と、原子力発電プラントの状態監視保全を管理する保全・監視管理部12と、保全計画に基づき現場作業工程を管理する現場作業計画工程管理部13と、保全計画にしたがって実行される、設備の点検、監視、パトロールにおいて、劣化、故障の不具合の状況に基づいて、これを是正するための計画立案にあたって、法規制からの保全要求期間と現場からの保全要求期間とからこれら2つの期間で重複するタイミングにて是正措置の期間の実行を設定する保全計画支援部14と、を有することを特徴とする。これによれば、原子力プラントの保全活動を適切に支援することができる。
【0068】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0069】
10 処理部
11 保全計画立案部
12 保全・監視管理部
13 現場作業計画工程管理部
14 保全計画支援部
20 記憶部
21 構成管理抽出情報
22 FMEA抽出情報
23 保全活動・監視項目抽出情報
24 フィールド保全・監視抽出情報
25 作業計画管理抽出情報
26 フィールドリソース抽出情報
27 保全計画情報
28 工程制約情報
29 現場作業計画工程情報
30 入力部
40 出力部
50 通信部
100 保全計画支援装置
200 データベース装置
210 構成管理DB
220 FMEA DB
230 保全活動・監視項目DB
240 フィールド保全・監視データDB
250 作業計画管理DB
260 フィールドリソースデータDB
300 保全計画支援システム
S100 保全計画支援処理
CM 構成管理(Configuration Management)
ER 設備信頼性(Equipment Reliability)
WM 作業管理(Work Management)
図1
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