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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025247
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】フィルタベント装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/02 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
G21F9/02 511T
G21F9/02 511C
G21F9/02 511S
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128530
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 宗平
(72)【発明者】
【氏名】和田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】富永 和生
(72)【発明者】
【氏名】田中 基
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢彰
(72)【発明者】
【氏名】布川 大樹
(57)【要約】
【課題】高温高線量下において有機よう素除去材の分解および無機よう素を還元除去する化合物の分解を抑制できるフィルタベント装置を提供することにある。
【解決手段】本発明に係るフィルタベント装置30は、フィルタベント容器1が、有機よう素を捕集する有機よう素除去材2と、無機よう素を捕集するスクラビング水13と、前記スクラビング水13にpHの緩衝機能を付与するアルカリ供給材3と、を有することとした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタベント容器が、
有機よう素を捕集する有機よう素除去材と、
無機よう素を捕集するスクラビング水と、
前記スクラビング水にpHの緩衝機能を付与するアルカリ供給材と、
を有することを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項2】
フィルタベント容器が、
有機よう素を捕集する有機よう素除去材と、
無機よう素を捕集するスクラビング水にpHの緩衝機能を付与するアルカリ供給材と、
を有することを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフィルタベント装置において、
前記フィルタベント容器が、さらに、
前記無機よう素の捕集機能を高める薬液を有することを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のフィルタベント装置において、
前記フィルタベント容器内に、前記有機よう素除去材および前記アルカリ供給材を有することを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項5】
請求項1に記載のフィルタベント装置において、
注入弁を介して前記フィルタベント容器と接続された第1保管容器および第2保管容器を備え、
前記フィルタベント容器内に、前記スクラビング水および前記有機よう素除去材を有し、
前記第1保管容器に前記アルカリ供給材を収容し、
前記第2保管容器に前記無機よう素の捕集機能を高める薬液を収容する
ことを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項6】
請求項3に記載のフィルタベント装置において、
前記フィルタベント容器内に、前記薬液を有することを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項7】
請求項2に記載のフィルタベント装置において、
注入弁を介して前記フィルタベント容器と接続された第1保管容器を備え、
前記フィルタベント容器内に前記有機よう素除去材を有するとともに、前記第1保管容器内に前記アルカリ供給材を有するか、
または、
前記フィルタベント容器内に前記アルカリ供給材を有するとともに、前記第1保管容器内に前記有機よう素除去材を有する
ことを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項8】
請求項3に記載のフィルタベント装置において、
注入弁を介して前記フィルタベント容器と接続された第1保管容器を備え、
前記フィルタベント容器内に前記有機よう素除去材および前記アルカリ供給材を有するとともに、前記第1保管容器内に前記薬液を有するか、
または、
前記フィルタベント容器内に前記アルカリ供給材および前記薬液を有するとともに、前記第1保管容器内に前記有機よう素除去材を有するか、
または、
前記フィルタベント容器内に前記有機よう素除去材および前記薬液を有するとともに、前記第1保管容器内に前記アルカリ供給材を有する
ことを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項9】
請求項3に記載のフィルタベント装置において、
注入弁を介して前記フィルタベント容器と接続された第1保管容器および第2保管容器を備え、
前記フィルタベント容器、前記第1保管容器および前記第2保管容器のそれぞれに、前記有機よう素除去材、前記アルカリ供給材および前記薬液からなる群からそれぞれ1種ずつ選択されて収容されている
ことを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項10】
請求項9に記載のフィルタベント装置において、
前記第1保管容器および前記第2保管容器がそれぞれ個別に注入弁を介して前記フィルタベント容器に接続されているか、
または、
前記第2保管容器と前記第1保管容器とが注入弁を介して接続されているとともに、前記第1保管容器と前記フィルタベント容器とが注入弁を介して接続されている
ことを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項11】
請求項7に記載のフィルタベント装置において、
前記第1保管容器が前記フィルタベント容器の外に設置されていることを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項12】
請求項8に記載のフィルタベント装置において、
前記第1保管容器が前記フィルタベント容器の外に設置されていることを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項13】
請求項9に記載のフィルタベント装置において、
前記第1保管容器および前記第2保管容器が前記フィルタベント容器の外に設置されていることを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項14】
請求項10に記載のフィルタベント装置において、
前記第1保管容器および前記第2保管容器が前記フィルタベント容器の外に設置されていることを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項15】
請求項3に記載のフィルタベント装置において、
前記薬液がpHの緩衝機能を持たない塩基性化合物であることを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項16】
請求項1に記載のフィルタベント装置において、
前記アルカリ供給材の含有量が、前記スクラビング水に対し400ppm以上であることを特徴とするフィルタベント装置。
【請求項17】
請求項1または請求項2に記載のフィルタベント装置において、
前記アルカリ供給材の平衡pHが4~12.5であることを特徴とするフィルタベント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタベント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉施設には、原子炉から放出された放射性物質が環境中に漏洩するのを防止するために、フィルタベント装置が設置されている。原子炉の事故で炉心損傷が生じて格納容器内の圧力が異常上昇すると、格納容器が破損して大規模漏洩に至るため、フィルタベント装置により格納容器内の蒸気を未然にベントして格納容器の過圧破損を防止する。高温・高圧の蒸気は、原子炉から格納容器内に放出されると、フィルタベント装置に通され、大気中に放出される前に主要な放射性物質が捕集される。
【0003】
原子炉の事故時に発生する放射性物質としては、希ガス、エアロゾル、無機よう素、有機よう素などがある。フィルタベント装置では、希ガスを除くこれらの放射性物質が捕捉され、環境への放出が抑制される。一般的に、フィルタベント装置は、特許文献1に記載されるように、フィルタベント容器内に、湿式フィルタとして働くスクラビング水を保持し、さらに乾式フィルタである繊維フィルタを内蔵している。
【0004】
スクラビング水は、水に薬液が添加される場合があり、ベントされた蒸気は、スクラビング水中に放出される。薬液との反応により、イオン化した無機よう素(元素状よう素)やエアロゾルは、スクラビング水に溶解することで捕集される。また、スクラビング水を経て気相に放出された一部のエアロゾルは、繊維フィルタに付着・衝突して捕集される。
【0005】
一方、有機よう素は、よう化メチルをはじめとして水に難溶であり、ベント時に圧力抑制室のプール水やスクラビング水に導入されても、十分には捕集されない。また、よう化メチルなどの有機よう素は、原子炉からの排気過程で、元素状よう素の反応によって新生することもある。これらの理由で、有機よう素を効率的に捕集できるフィルタベント装置が求められている。例えば、特許文献2には、フィルタベント装置におけるベント経路上に銀ゼオライトや活性炭などの乾式フィルタを設置して有機よう素を捕集している。
【0006】
銀ゼオライトや活性炭などの有機よう素除去材は、水分が付着した場合に捕集効率が低下する可能性があるため、水分の影響が懸念される場合は水分を除去する機構を必要とし、フィルタベント装置の構造を複雑化させる。また、これらの有機よう素除去材は固体であるため、特許文献2のように特別な装置設計や複雑な装置構造を要する。
【0007】
これを解決するための技術が、例えば、特許文献3に開示されている。特許文献3には、フィルタベント装置のフィルタベント容器内に、有機よう素を捕集することが可能な不揮発性の液体(有機よう素除去材)として、イオン液体を配置することが記載されている。特許文献3に記載の発明は、この有機よう素除去材によって、複雑な装置構造を要せずフィルタベント容器のみで希ガスを除く放射性物質を補足でき、環境への放出を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2015-522161号公報
【特許文献2】特開平7-209488号公報
【特許文献3】特許第6628313号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のフィルタベント装置は、スクラビング水に無機よう素を還元除去する化合物(還元剤)を含有させて無機よう素を還元除去し、かつ、エアロゾル(粒子)を物理的に除去している。
一方、特許文献3に記載されている有機よう素除去材は、ベント時の高温高線量下においてスクラビング水のpHが低い方が分解を抑制できる。
ベント時はフィルタベント容器への放射性物質の流入により、有機よう素除去材および還元剤入りのスクラビング水が高温高線量下に晒され、スクラビング水のpHが低下する。スクラビング水のpHが6.5以下になると還元剤の分解が促進されてしまう。また、pHが低下するほどスクラビング水での無機よう素の捕集機能が低下してしまう。それらを抑制するために初期pHを高めると、有機よう素除去材(イオン液体)の分解が促進されてしまい、有機よう素の除去性能を高く維持できない。
【0010】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものである。本発明の課題は、高温高線量下において有機よう素除去材の分解および無機よう素を還元除去する化合物の分解を抑制できるフィルタベント装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決した本発明に係るフィルタベント装置は、フィルタベント容器が、有機よう素を捕集する有機よう素除去材と、無機よう素を捕集するスクラビング水と、前記スクラビング水にpHの緩衝機能を付与するアルカリ供給材と、を有することとした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温高線量下において有機よう素除去材の分解および無機よう素を還元除去する化合物の分解を抑制できるフィルタベント装置を提供できる。
前述した以外の課題、構成および効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係るフィルタベント装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の第2実施形態に係るフィルタベント装置の構成を示す模式図である。
図3】本発明の第3実施形態に係るフィルタベント装置の一構成例を示す模式図である。
図4】本発明の第3実施形態に係るフィルタベント装置の他の一構成例を示す模式図である。
図5】本発明の第4実施形態に係るフィルタベント装置の一構成例を示す模式図である。
図6】本発明の第5実施形態に係るフィルタベント装置の構成を示す模式図である。
図7】有機よう素除去材および薬液の分解挙動を示すグラフである。図中、横軸はpHを示し、縦軸は分解による残量[%]を示している。
図8】本発明の第6実施形態に係るフィルタベント装置の一構成例を示す模式図である。
図9】本発明の第6実施形態に係るフィルタベント装置の他の一構成例を示す模式図である。
図10】本発明の第7実施形態に係るフィルタベント装置の構成を示す模式図である。
図11】本発明に係るフィルタベント装置の一変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照して本発明の一実施形態に係るフィルタベント装置について詳細に説明する。なお、実施形態の説明において、実質的に同一または類似の構成には同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する場合がある。
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るフィルタベント装置30の構成を示す模式図である。図1において、フィルタベント装置30は、原子炉圧力容器34が破損するなどの過酷事故時において、ドライウェル31ならびにウェットウェル32が、格納容器33内の圧力を減少させるために格納容器33内の気体を大気放出する際に、気体に含まれる放射性物質を極力除去するものである。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置30は、フィルタベント容器1を有している。そして、フィルタベント容器1が、有機よう素除去材2と、スクラビング水13と、アルカリ供給材3と、を有している。
【0017】
有機よう素除去材2は、有機よう素を捕集して除去する。有機よう素除去材2は、放射性物質である有機よう素を溶解、分解させ、有機よう素をよう化物イオンとして保持する作用を有する。有機よう素除去材2を構成する物質については後述する。有機よう素除去材2は疎水性であり、スクラビング水13と相溶しない。
【0018】
スクラビング水13は、無機よう素を溶解して捕集する。なお、図1に示すフィルタベント装置30は、フィルタベント容器1内にスクラビング水13を収容している様子を図示しているが、スクラビング水13はベント時にフィルタベント容器1内に収容されていればよく、原子炉の正常運転時にはフィルタベント容器1内に収容していなくてもよい。つまり、フィルタベント容器1内のスクラビング水13はベント前に既に充填されていてもよいし、ベント時にフィルタベント容器1内に流入する蒸気の凝縮により生成してもよい。フィルタベント容器1内にスクラビング水13を予め収容しておくと、事故時に無機よう素の捕集に即応可能である。ベント時にフィルタベント容器1内にスクラビング水13を収容する場合は、有機よう素除去材2やアルカリ供給材3などが劣化し難い。
【0019】
アルカリ供給材3は、スクラビング水13にpHの緩衝機能を付与する。アルカリ供給材3は無機よう素を還元除去する化合物であり、スクラビング水13にこれを含ませることにより、スクラビング水13に無機よう素を捕集する機能を持たせることができる。アルカリ供給材3を構成する化合物については後述する。
【0020】
フィルタベント装置30は、格納容器33に連結したドライウェルベント配管7およびウェットウェルベント配管8と、一端がドライウェルベント配管7およびウェットウェルベント配管8に連結され、他端がフィルタベント容器1内の下方に配置された入口配管9と、を有している。ドライウェルベント配管7には隔離弁5が設けられている。ウェットウェルベント配管8には隔離弁6が設けられている。また、フィルタベント装置30は、フィルタベント容器1内の上方に繊維フィルタ10と、この繊維フィルタ10の下流、つまり繊維フィルタ10の上方に一端が配置され、他端がフィルタベント容器1の外部の排気筒12に連結された出口配管11と、を有している。前記構成のフィルタベント容器1は、放射性物質であるエアロゾル、無機よう素、有機よう素の捕集に用いられる。
【0021】
個々のプラント出力や事故シナリオにより異なるが、事故時に発生する放射性物質のうち、原子炉圧力容器34が破損するような燃料破損を伴う過酷事故時では、1kg程度の有機よう素および20kg程度の無機よう素が発生すると評価されている。有機よう素としては主によう化メチル(CHI)が発生すると評価されている。また、無機よう素としては主によう素分子(I)が発生すると評価されている。
【0022】
そこで、本実施形態では、有機よう素を捕集する性質を持つ疎水性の有機よう素除去材2として、カチオンとアニオンのみで構成された物質を用いる。有機よう素除去材2としては、160℃程度よりも低温で実質的に揮発しない液体が用いられる。原子炉の事故時には、100~160℃程度の蒸気のベントが想定されている。湿式フィルタとして働く液体が不揮発性であれば、ベント時に高温・高圧のガスが導入されたとしても、液体自体が揮発するのを避けることができる。有機よう素除去材2としては、200℃よりも低温で実質的に揮発しないものがより好ましい。有機よう素除去材2は、ベント時の温度において液体であればよいため、室温においては固体であってもよいが、液体であることがより好ましい。
また、有機よう素除去材2は、カチオン(X)とアニオン(Y)のみの組み合わせからなる液体(X-Y)であることが好ましい。このような有機よう素除去材2であれば、後記する3段階の機構((1)溶解、(2)分解、(3)保持)により有機よう素の高い捕集性能が成り立つ。
【0023】
さらに、アルカリ供給材3は、ベント前の室温・大気圧およびベント時の高温・高圧において固体であっても液体であってもよい。アルカリ供給材3を有することでフィルタベント容器1内の高温照射環境においてスクラビング水13のpHの変動を抑制し、極度な酸性(例えばpH4以下)またはアルカリ性(pH12.5以上)になることを抑えることができる。そのため、主なベント期間中において有機よう素除去材2の分解が抑制され、高い有機よう素捕集性能が得られる。また、アルカリ供給材3は、水酸化物イオン(OH)をスクラビング水13に供給する作用や、スクラビング水13内のプロトン(H)などの酸性物質と相互作用し、pHを緩衝する作用があり、無機よう素の高い捕集性能が成り立つ。
【0024】
なお、前記した有機よう素除去材2としては、例えば、常温溶融塩、イオン液体、4級塩、界面活性材、相関移動触媒、これらの混合物質を用いることができる。また、前記したアルカリ供給材3としては、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、有機酸塩、Mg/Al系層状化合物、これらの混合物質を用いることができる。
【0025】
事故時には比較的温度の高いガスがフィルタベント容器1に流入するため、有機よう素および無機よう素はガス状であると推定される。ガス状のよう素を捕集するためには、液体中の気泡内でのよう素の拡散泳動、熱泳動、ブラウン拡散、対流を利用する。本実施形態では、有機よう素除去材2およびスクラビング水13とガス状のよう素とを接触させるため、有機よう素除去材2およびスクラビング水13は、気泡の液体中での滞留時間(気泡と液体の接触時間)が長くなるように設けることが望ましい。滞留時間(接触時間)が長いほど有機よう素除去材2と有機よう素との反応が起き易くなり、除去できる。これを具現するため、本実施形態では、例えば、フィルタベント容器1内の下方に配置された入口配管9の他端にスパージャなどの分散管を設け、細かく、数の多い気泡を発生させるようにするとよい。
【0026】
次に、図1を参照して、第1実施形態に係るフィルタベント装置30の動作原理を説明する。
事故時に原子炉圧力容器34から格納容器33へ放出された放射性物質は、隔離弁5または隔離弁6を開くことで格納容器33に接続されるドライウェルベント配管7またはウェットウェルベント配管8へ導入される。その後、放射性物質は入口配管9を経由してフィルタベント容器1内のスクラビング水13に流入する。または、蒸気の凝縮により、フィルタベント容器1内でスクラビング水13が生成し、そこに放射性物質が入口配管9を経由して流入する。これにより、無機よう素は、スクラビング水13に捕集される。
【0027】
このとき、フィルタベント容器1内のアルカリ供給材3は、スクラビング水13にpHの緩衝機能を付与することから、スクラビング水13のpHの変動を抑制し、極度な酸性(例えばpH4以下)またはアルカリ性(pH12.5以上)になることを抑えることができる。そのため、フィルタベント装置30は、主なベント期間中においてスクラビング水13と接触する有機よう素除去材2の分解を抑制できる。また、アルカリ供給材3は無機よう素を還元除去する化合物であり、前記したように、スクラビング水13に無機よう素を捕集する機能を持たせることができる。スクラビング水13で捕集されなかった有機よう素は、疎水性の有機よう素除去材2に流入し、よう化物イオンに分解され捕集される。よう素以外の放射性物質であるエアロゾルもフィルタベント容器1内のスクラビング水13により捕集される。よう素捕集後のガスは、繊維フィルタ10および出口配管11を通り排気筒12によって放射性物質が充分に除去された状態で外部に放出される。
【0028】
無機よう素の捕集は、下記式に示したように、アルカリ供給材3またはスクラビング水13またはこれらの両方が放射性無機よう素(I)を放射性よう化物イオン(I)やよう素酸イオン(IO )に分解することにより行われる(前記(2)分解)。これは後記する薬液4が含まれる場合も同様にして行われる。
3I + 6OH → 5I + IO + 3H
【0029】
また、有機よう素の捕集は、下記式に示したように、有機よう素除去材2が放射性有機よう素(RI)を放射性よう化物イオン(I)に分解することにより行われる。なお、下記式中、Rは、アルキル基などの有機物(炭化水素基)を示している(以下同様)。
-Y + RI → X-Y + I + R
【0030】
よう化物イオンは、有機よう素と比較して液相中でより安定であり、かつ有機よう素除去材2のカチオンと相互作用し、よう化物イオンの状態で安定に保持される。そのため、放射性有機よう素を液相に保持して環境への漏洩を確実に防止することができる(前記(3)保持)。有機よう素除去材2のみでも十分に有機よう素を捕集可能であるが、有機よう素除去材2とアルカリ供給材3とを併用することで有機よう素除去材2の分解が抑制でき、有機よう素の高い捕集性能がベント期間中で維持できる。
【0031】
有機よう素除去材2を構成するカチオンとしては、例えば、ホスホニウム、スルホニウム、アンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、モルホリニウムなどの有機カチオンが挙げられる。有機よう素除去材2を構成するカチオンとしては、カチオンの構造がリン元素または硫黄元素、窒素元素を中心に主に炭素などの置換基と結合していればよい。好ましくは、よう素の溶解性を高く維持するために単結合の炭素鎖で主に構成されることが好ましいが、一部が二重結合や三重結合または酸素元素で架橋されていても構わない。例えば、有機よう素であるよう化メチルは、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドには溶解せず分離するが、同じアニオン構造でカチオン構造が異なるトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドには溶解し、均一に混じり合う。炭素鎖数が1の物質であるメチル基などは160℃の高温下で分解し、揮発するため、炭素鎖数は2以上であることが好ましい。例えば、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヨージドは160℃においてカチオンのメチル基が脱離し、自己分解を起こすことがわかっている。このような観点から、炭素鎖数が長く、嵩高い有機カチオンであると、有機よう素の溶解性(前記(1)溶解)や有機カチオンの耐熱性が高くなるため、有機よう素を高い捕集効率で捕集することができるようになり好ましいと言える。
【0032】
有機よう素除去材2を構成するアニオンとしては、例えば、炭素元素にアニオン電荷を帯びたHなどの無機アニオンや、HRC、HR、R、NC、RCCなどの有機アニオンが挙げられる。また、硫黄元素にアニオン電荷を帯びたRSなどの有機アニオンが挙げられる。また、窒素元素にアニオン電荷を帯びたN 、Hなどの無機アニオンや、HRN、Rなどの有機アニオンが挙げられる。また、酸素元素にアニオン電荷を帯びたRO、RCO 、RPO 、RSO 、RPO 、RPO 、RCOなどの有機アニオンや、HO、NO 、FO 、ClO 、BrO 、IO 、FO 、ClO 、BrO 、IO などの無機アニオンが挙げられる。また、ハロゲン元素にアニオン電荷を帯びたF、Cl、Br、I、F 、Cl 、Br 、I などの無機アニオンが挙げられる。有機よう素除去材2を構成するアニオンとしては、有機よう素を分解する作用が強い点で、求核性が高いイオンが好ましく、特に電荷を帯びた元素が水素元素を除き末端に存在するものが好ましい。例えば、Hと比べてR(R-N-R)などの電荷を帯びた窒素元素を中心に水素元素以外で構成されたアニオン分子は求核性が低くなり、よう化メチルに対する分解性能が低下することとなる。アニオンとしては求核性が高い点、加水分解を生じ難い点、フィルタベント容器1に注入された場合にスクラビング水13のpHを変化させ難い点から、H、HRC、HR、R、NC、RCC、RS、N 、H、HRN、R、RO、RCO 、RPO 、RSO 、RPO 、RPO 、RCO、HO、NO 、FO 、ClO 、BrO 、IO 、FO 、ClO 、BrO 、IO 、F、Cl、Br、I、F 、Cl 、Br 、I などが好ましい。有機よう素を高い性能で捕集するためには、有機よう素除去材2のカチオンによるよう素の溶解(前記(1)溶解)だけでなく、アニオンのよう素への求核攻撃により生じるよう素の分解が必要である。
有機よう素除去材2の一例を挙げるなら、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロリドなどがある。
【0033】
アルカリ供給材3を構成する化合物としては、例えば、MgO、CaO、SrO、Mg(OH)、Fe(OH)、CaMg(CO、NaCO、NaHCO、Na、Na1016、NaHPO、KHPO、CKO、MgAl(OH)16CO・mHOなどが挙げられる。アルカリ供給材3がMgOなどの固体の場合は下記式に示すようにMgOがHOと反応し、OHを生成することでpHが上昇するが、OHがHと反応することでpHが低下する。MgOとHOの反応はpHが10~11で平衡に達し、MgOとHOとの反応が起こらなくなるので、pHが上昇しなくなる。従って、スクラビング水13のpHが極度なアルカリ性(pH12.5以上)になることを抑えることができる。
MgO(s) + HO → Mg2+ + 2OH
2OH + 2H → 2H
【0034】
アルカリ供給材3の含有量は、スクラビング水13に対し400ppm以上であることが好ましい。また、アルカリ供給材3は、スクラビング水13に対しアルカリ供給材3の含有量が400ppm以上となるpH緩衝液であってもよい。これらのいずれによっても、フィルタベント装置30は、主なベント期間中において有機よう素除去材2の分解および無機よう素を還元除去する化合物の分解を抑制でき、高い有機よう素捕集性能および無機よう素捕集性能が得られる。
【0035】
次に、本実施形態の効果について説明する。上述した第1実施形態に係るフィルタベント装置30は、フィルタベント容器1と、格納容器33に連結したドライウェルベント配管7、ウェットウェルベント配管8と、一端がドライウェルベント配管7およびウェットウェルベント配管8に連結され、他端がフィルタベント容器1内に導入された入口配管9と、繊維フィルタ10に連結する出口配管11と、を備えている。そして、フィルタベント装置30は、フィルタベント容器1内に有機よう素を捕集する疎水性の有機よう素除去材2を有している。また、フィルタベント装置30は、フィルタベント容器1内に無機よう素を捕集するスクラビング水13を有している。さらに、フィルタベント装置30は、スクラビング水13にpHの緩衝機能を付与するアルカリ供給材3を有している。このアルカリ供給材3は、有機よう素除去材2の分解を抑制でき、また、pHの緩衝機能により、スクラビング水13に含まれる無機よう素を還元除去する化合物(アルカリ供給材3自身のみならず後記する薬液4を含む)の分解を抑制できる。このように、第1実施形態に係るフィルタベント装置30は、フィルタベント容器1内に、有機よう素除去材2とスクラビング水13とアルカリ供給材3とを有するのみで(つまり、従来のように、フィルタベント装置におけるベント経路上に銀ゼオライトや活性炭などの乾式フィルタを設置することなく)、主なベント期間中において有機よう素除去材2の分解を抑制でき、高い有機よう素捕集性能を維持することができる。また、第1実施形態に係るフィルタベント装置30は、無機よう素を還元除去する化合物を含むアルカリ供給材3により、スクラビング水13に無機よう素を捕集する機能を持たせることができつつ、前記化合物の分解を抑制できる。さらに、有機よう素除去材2は、常温溶融塩、イオン液体、界面活性材、4級塩、相関移動触媒のうち少なくともいずれか1種を含む液体である。これらの有機よう素除去材2のうちイオン液体は一般産業向けに実用化されている。これら有機よう素除去材2の特徴は不揮発性であり、事故時にフィルタベント装置30に流入するとされるガス温度である約200℃という条件でも十分な耐熱性を持つ。また、イオン液体は、放射性物質などの基質をイオン液体中に高い濃度で捕集する性質を持つ。特に、有機よう素は水に難溶で、高揮発性の物質であるため、これを捕集するための有力な不揮発性の液体としてイオン液体を使用することにより、有機よう素を98%以上の効率で捕集できる。同様に、有機よう素除去材2には常温溶融塩、界面活性材、4級塩、相関移動触媒も好適に適用することができ、イオン液体と同様の効果が得られる。また、有機よう素除去材2は200℃以上でも液相である液体であることで、事故時においても、有機よう素除去材2を安定して液相で存在させて、有機よう素を十分に捕集させることができる。
【0036】
本実施形態において、原子炉の形式は、特に制限されるものではない。原子炉としては、例えば、沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor:BWR)、改良型沸騰水型原子炉(Advanced Boiling Water Reactor:ABWR)、加圧水型原子炉(Pressurized Water Reactor:PWR)などの各種の形式のものが挙げられる。放射性物質で汚染されたイオン液体などは、例えば、特表2003-507185号公報に記載された方法などで処理・再生することができる。
【0037】
<第2実施形態>
図2は、本発明の第2実施形態に係るフィルタベント装置30の構成を示す模式図である。
図2に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置30は、図1に示す第1実施形態に係るフィルタベント装置30に対して、アルカリ供給材3が液体である点で相違している。その他の構成・動作は前述した第1実施形態に係るフィルタベント装置30と同様である。なお、図2にはスクラビング水13は図示していないが、ベント時にフィルタベント容器1内に導入される蒸気の凝縮によりスクラビング水13が生成される。このような構成とすることにより、ベント前にアルカリ供給材3とスクラビング水13とが接触して、アルカリ供給材3が分解されてしまうのを抑制できる。
【0038】
<第3実施形態>
図3は、本発明の第3実施形態に係るフィルタベント装置30の一構成例を示す模式図である。図4は、本発明の第3実施形態に係るフィルタベント装置30の他の一構成例を示す模式図である。
図3および図4に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置30は、注入弁16(具体的には、第1注入弁16a)を介してフィルタベント容器1と接続された第1保管容器14aを備えている点で、図1に示す第1実施形態に係るフィルタベント装置30と相違している。つまり、本実施形態に係るフィルタベント装置30は、第1保管容器14aがフィルタベント容器1の外に設置されている点で、第1実施形態に係るフィルタベント装置30と相違している。また、図3および図4に示すように、フィルタベント容器1はスクラビング水13を収容していない点で第1実施形態に係るフィルタベント装置30と相違している。その他の構成・動作は前述した第1実施形態に係るフィルタベント装置30と同様である。従って、スクラビング水13はベント時にフィルタベント容器1内に収容される。なお、フィルタベント容器1と第1保管容器14aとは、第1注入配管15aで接続されている。第1注入弁16aは、第1注入配管15aに設けられている。
【0039】
そして、第3実施形態では、図3に示すように、フィルタベント容器1内に有機よう素除去材2を有するとともに、第1保管容器14a内にアルカリ供給材3を有する態様とすることができる。
または、第3実施形態では、図4に示すように、フィルタベント容器1内にアルカリ供給材3を有するとともに、第1保管容器14a内に有機よう素除去材2を有する態様とすることができる。
図3および図4に示す第3実施形態に係るフィルタベント装置30の態様とすると、有機よう素除去材2とアルカリ供給材3とが異なる容器に保管されている。そのため、事故時におけるフィルタベント装置30の使用時までの長期保管において有機よう素除去材2およびアルカリ供給材3の分解可能性をなくすことができる。
【0040】
第3実施形態では、ベント時に、隔離弁5および隔離弁6よりも前のタイミングで第1注入弁16aを開く。このようにすると、格納容器33からフィルタベント装置30に蒸気が導入される直前に、フィルタベント容器1内に有機よう素除去材2およびアルカリ供給材3が存在することになる。そして、フィルタベント装置30は、その状態で放射性物質を含む蒸気がフィルタベント容器1内に導入され、凝集してスクラビング水13(図3および図4において図示せず)を生成して処理を行う。従って、フィルタベント装置30は、有機よう素除去材2による有機よう素の除去と、スクラビング水13による無機よう素の捕集と、をより確実に行うことができる。
【0041】
<第4実施形態>
図5は、本発明の第4実施形態に係るフィルタベント装置30の一構成例を示す模式図である。
図5に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置30は、注入弁16(具体的には、第1注入弁16a)を介してフィルタベント容器1と接続された第1保管容器14aを備えている点で、図2に示す第2実施形態に係るフィルタベント装置30と相違している。また、本実施形態に係るフィルタベント装置30は、第1保管容器14aがフィルタベント容器1の外に設置されている点で、図2に示す第2実施形態に係るフィルタベント装置30と相違している。さらに、本実施形態に係るフィルタベント装置30は、フィルタベント容器1が無機よう素の捕集機能を高める薬液4を有する点で、第2実施形態に係るフィルタベント装置30と相違している。なお、薬液4については、第5実施形態で説明する。その他の構成・動作は前述した第2実施形態に係るフィルタベント装置30と同様である。フィルタベント容器1と第1保管容器14aとは、第1注入配管15aで接続されている。第1注入弁16aは、第1注入配管15aに設けられている。
【0042】
そして、第4実施形態では、(i)フィルタベント容器1内に有機よう素除去材2およびアルカリ供給材3を有するとともに、第1保管容器14a内に薬液4を有する態様とすることができる。この態様の場合、アルカリ供給材3は、固体でも液体でもよい(図5は液体のアルカリ供給材3を図示している)。
または、第4実施形態では、(ii)フィルタベント容器1内にアルカリ供給材3および薬液4を有するとともに、第1保管容器14a内に有機よう素除去材2を有する態様とすることができる。この態様の場合も、アルカリ供給材3は、固体でも液体でもよい。
または、第4実施形態では、(iii)フィルタベント容器1内に有機よう素除去材2および薬液4を有するとともに、第1保管容器14a内にアルカリ供給材3を有する態様とすることができる。この態様の場合も、アルカリ供給材3は、固体でも液体でもよい。
なお、図5には、これらを代表して、(i)の態様を図示している((ii)および(iii)の態様については図示を省略している)。
図5に示す第4実施形態に係るフィルタベント装置30の態様とすると、有機よう素除去材2、アルカリ供給材3および薬液4のうちの1つが異なる容器に保管されている。そのため、事故時におけるフィルタベント装置30の使用時までの長期保管においてこれらの各要素の分解可能性をなくすことができる。
【0043】
第4実施形態も第3実施形態と同様、ベント時に、隔離弁5および隔離弁6よりも前のタイミングで第1注入弁16aを開く。このようにすると、格納容器33からフィルタベント装置30に蒸気が導入される直前に、フィルタベント容器1内に有機よう素除去材2、薬液4およびアルカリ供給材3が収容されることになる。そして、フィルタベント装置30は、その状態で放射性物質を含む蒸気がフィルタベント容器1内に導入され、蒸気が凝集してスクラビング水13(図3および図4において図示せず)を生成して処理を行う。従って、フィルタベント装置30は、有機よう素除去材2による有機よう素の除去と、スクラビング水13および薬液4による無機よう素の捕集と、を確実に行うことができる。
【0044】
<第5実施形態>
図6は、本発明の第5実施形態に係るフィルタベント装置30の構成を示す模式図である。
図6に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置30は、図1に示す第1実施形態に係るフィルタベント装置30に対して、スクラビング水13の代わりに薬液4がフィルタベント容器1内に充填されている点で相違している。その他の構成・動作は前述した第1実施形態に係るフィルタベント装置30と同様である。
【0045】
薬液4は、pHの緩衝機能を持たない塩基性化合物であり、還元剤として機能する。薬液4は、薬液4とアルカリ供給材3との混合物質を用いることもできる。薬液4としては、例えば、NaOH、KOH、NHOH、NOHなどの水酸化物や、(NHS、HNCSHなどの窒素・硫黄化合物などが挙げられ、よう素捕集機能を高める作用を持つ。ここで、図7は、有機よう素除去材2および薬液4の分解挙動を示すグラフである。高温照射環境においてpH12を超えると有機よう素除去材2の分解が促進され、pH6の中性付近を下回ると薬液4の分解が促進される。有機よう素除去材2と薬液4の両方の分解を抑制するためには、高温高線量下の主なベント期間中において、図7に示すように、アルカリ供給材3の平衡pHを4~12.5の間(pHの変動許容範囲)に保つことが好ましい。pHを4~12.5の間に保つ機能をアルカリ供給材3が担うことで、薬液4による無機よう素捕集機能を高く維持するとともに、有機よう素除去材2による有機よう素除去機能を高く維持できる。なお、アルカリ供給材3がない状態で高温高線量下に晒されると、図7中の矢印Aに示すように、薬液4やスクラビング水13、有機よう素除去材2の各pHは低下する。
【0046】
<第6実施形態>
図8は、本発明の第6実施形態に係るフィルタベント装置30の一構成例を示す模式図である。
図8に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置30は、第1保管容器14aおよび第2保管容器14bがフィルタベント容器1の外に設置されている。具体的には、本実施形態に係るフィルタベント装置30は、注入弁16(第1注入弁16a)を介してフィルタベント容器1と接続された第1保管容器14aと、注入弁16(第2注入弁16b)を介してフィルタベント容器1と接続された第2保管容器14bとを備えている。つまり、本実施形態に係るフィルタベント装置30は、第2注入弁16bを介してフィルタベント容器1と接続された第2保管容器14bを備えている点で、図3に示す第3実施形態に係るフィルタベント装置30と相違している。その他の構成・動作は前述した第3実施形態に係るフィルタベント装置30と同様である。
【0047】
なお、フィルタベント容器1と第1保管容器14aとは、第3実施形態と同様に、第1注入配管15aで接続されている。第1注入弁16aは、第1注入配管15aに設けられている。フィルタベント容器1と第2保管容器14bとは、第2注入配管15bで接続されている。第2注入弁16bは、第2注入配管15bに設けられている。つまり、第6実施形態では、第1保管容器14aおよび第2保管容器14bがそれぞれ個別に注入弁16(具体的には、それぞれ第1注入弁16aおよび第2注入弁16b)を介してフィルタベント容器1に接続されている。このようにすると、第1注入弁16aおよび第2注入弁16bをベント時に適宜に開にして、第1保管容器14aに収容されているアルカリ供給材3および第2保管容器14bに収容されている薬液4を個別にフィルタベント容器1に注入できる。
【0048】
そして、第6実施形態では、フィルタベント容器1、第1保管容器14aおよび第2保管容器14bのそれぞれに、有機よう素除去材2、アルカリ供給材3および薬液4からなる群からそれぞれ1種ずつ選択されて収容されている。図8は、その態様のうち、フィルタベント容器1に有機よう素除去材2を収容し、第1保管容器14aにアルカリ供給材3を収容し、第2保管容器14bに薬液4を収容している様子を代表的に図示している。第6実施形態の態様とすると、有機よう素除去材2とアルカリ供給材3と薬液4とが異なる容器に保管されており、事故時におけるフィルタベント装置30の使用時(ベント時)までの長期保管において有機よう素除去材2とアルカリ供給材3と薬液4との分解可能性をなくすことができる。
【0049】
図9は、本発明の第6実施形態に係るフィルタベント装置30の他の一構成例を示す模式図である。
図9に示すフィルタベント装置30は、図8に示すフィルタベント装置30に対して、第2保管容器14bと第1保管容器14aとが注入弁16(具体的には、第2注入弁16b)を介して接続されているとともに、第1保管容器14aとフィルタベント容器1とが注入弁16(具体的には、第1注入弁16a)を介して接続されている点で相違している。つまり、図9に示すフィルタベント装置30は、第1保管容器14aと第2保管容器14bとが直列に接続されている。その他の構成・動作は前述した図8に示すフィルタベント装置30と同様である。
図9に示すフィルタベント装置30は、前記した構成としているので、例えば、薬液4を固体のアルカリ供給材3に流入させて簡便にフィルタベント容器1に注入することができる。
【0050】
<第7実施形態>
図10は、本発明の第7実施形態に係るフィルタベント装置30の構成を示す模式図である。
図10に示すように、第7実施形態に係るフィルタベント装置30は、図3に示す第3実施形態に係るフィルタベント装置30に対して、第1保管容器14aの代わりに、フィルタベント容器1内にメッシュ容器17が設置され、そして、このメッシュ容器17内にアルカリ供給材3が設置されている点で相違している。メッシュ容器17は、フィルタベント容器1内における有機よう素除去材2の液面よりも高い位置に設置されている。その他の構成・動作は前述した第3実施形態に係るフィルタベント装置30と同様である。
【0051】
第7実施形態に係るフィルタベント装置30は、第3実施形態に係るフィルタベント装置30のように、フィルタベント容器1の外に第1保管容器14aを有し、この第1保管容器14a内にアルカリ供給材3を有する態様と比較して、構成が簡易である。また、ベント時にフィルタベント容器1内に蒸気が導入されて凝縮し、スクラビング水13となって液面が上昇することにより液中にアルカリ供給材3が溶解する。従って、第7実施形態に係るフィルタベント装置30は、第3実施形態に係るフィルタベント装置30と比較して、第1注入弁16aを開く操作(注入作業)を行う必要がない。そのため、第7実施形態に係るフィルタベント装置30は、操作が容易でありながら、有機よう素除去材2による有機よう素の除去およびスクラビング水13による無機よう素の捕集を確実に行うことができる。
【0052】
次に、図10を参照して、第7実施形態に係るフィルタベント装置30の動作原理を説明する。
事故時に原子炉圧力容器34から格納容器33へ放出された放射性物質は、隔離弁5または隔離弁6を開くことで格納容器33に接続されるドライウェルベント配管7またはウェットウェルベント配管8へ導入される。その後、放射性物質は入口配管9を経由してフィルタベント容器1内に導入され、蒸気の凝縮によりスクラビング水13(図10において図示せず)が生成し、スクラビング水13の液面が上昇することでアルカリ供給材3がスクラビング水13と接触する。アルカリ供給材3とスクラビング水13との接触でスクラビング水13はpHが過度に上昇することなくアルカリ供給材3の平衡pHとなる。また、無機よう素は、スクラビング水13で捕集される。フィルタベント容器1内のアルカリ供給材3は、pHの緩衝作用を有することからスクラビング水13のpHの変動を抑制し、極度な酸性(例えばpH4以下)またはアルカリ性(pH12.5以上)になることを抑えることができ、主なベント期間中においてスクラビング水13と接触する有機よう素除去材2の分解を抑制できる。
【0053】
また、本実施形態では、メッシュ容器17内に薬液4を設置することもでき、メッシュ容器17内にアルカリ供給材3と薬液4との混合物質を設置することもできる(いずれも図10において図示せず)。これらの態様とする場合は、例えば、蓋部をメッシュ構造とし、底部および側壁部にはメッシュ構造を採用しないことが挙げられる。これらの態様でも、有機よう素および無機よう素の捕集機能を高めることができる。
【0054】
以上、本発明に係るフィルタベント装置について実施形態により詳細に説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、それぞれの実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0055】
例えば、図11は、本発明に係るフィルタベント装置30の一変形例を示す模式図である。図11に示すように、フィルタベント装置30は、フィルタベント容器1が、有機よう素除去材2と、アルカリ供給材3と、スクラビング水13と、薬液4と、を有していてもよい。具体的には、図11に示すように、フィルタベント容器1内に有機よう素除去材2およびスクラビング水13を有し、第1保管容器14aにアルカリ供給材3を収容し、第2保管容器14bに薬液4を収容してもよい。図11に示す態様では、第1保管容器14aは、注入弁16(具体的には、第1注入弁16a)を介して第1注入配管15aによりフィルタベント容器1と接続されている。第2保管容器14bは、注入弁16(具体的には、第2注入弁16b)を介して第2注入配管15bによりフィルタベント容器1と接続されている。
この変形例では、アルカリ供給材3および薬液4がそれぞれフィルタベント容器1とは異なる容器に保管されている。従って、この変形例に係るフィルタベント装置30は、事故時におけるフィルタベント装置30の使用時(ベント時)までの長期保管において、アルカリ供給材3および薬液4の分解を抑制できる。
【0056】
また、本実施形態においては、フィルタベント容器1と注入配管およびこの注入配管に設けられた弁を介して接続されたスクラビング水保管容器(いずれも図示せず)を備え、このスクラビング水保管容器にスクラビング水13を貯蔵することもできる。このようにすると、フィルタベント装置30は、ベント時に迅速にスクラビング水13をフィルタベント容器1に注入することができ、無機よう素の捕集に備えることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 フィルタベント容器
2 有機よう素除去材
3 アルカリ供給材
4 薬液
5 隔離弁
6 隔離弁
7 ドライウェルベント配管
8 ウェットウェルベント配管
9 入口配管
10 繊維フィルタ
11 出口配管
12 排気筒
13 スクラビング水
14a 第1保管容器
14b 第2保管容器
15a 第1注入配管
15b 第2注入配管
16 注入弁
16a 第1注入弁
16b 第2注入弁
17 メッシュ容器
30 フィルタベント装置
31 ドライウェル
32 ウェットウェル
33 格納容器
34 原子炉圧力容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11