(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025250
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】緊張材の緊張装置及び緊張方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20240216BHJP
E04C 5/12 20060101ALI20240216BHJP
E04C 5/07 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
E04G21/12 104C
E04C5/12
E04C5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128548
(22)【出願日】2022-08-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)第30回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム、令和3年10月22日 (2)発行者名:公益社団法人プレストレストコンクリート工学会、刊行物名:プレストレストコンクリート工学会第30回シンポジウム論文集、該当頁:第639~642頁、頒布日:令和3年10月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592182573
【氏名又は名称】オックスジャッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】落合 博幸
(72)【発明者】
【氏名】永元 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山形 昭博
(72)【発明者】
【氏名】東 秀洋
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164AA04
2E164AA31
2E164DA01
2E164DA22
2E164DA27
(57)【要約】
【課題】装置の大型化が抑制され、大きな作業スペースを必要としない緊張材の緊張装置及び緊張方法を提供する。
【解決手段】緊張装置は、外周面にねじを有し、前記緊張方向に沿って直列に緊張材3に連結された複数の長尺部材7と、互いに隣接する長尺部材7を互いに取り外し可能に接続し、緊張方向から見て長尺部材7の外輪郭の内側に位置する外輪郭を有する接続具8と、コンクリート躯体2に支持されたラムチェア9と、長尺部材7の外周面に螺合してラムチェア9に係止され得る第1ナット10と、ラムチェア9に支持された追加ラムチェア11と、追加ラムチェア11に支持されたジャッキ12と、長尺部材7の外周面に螺合してジャッキ12の変位部12bに係止され得る第2ナット14とを備える。第1ナット10及び第2ナット14は、接続具8を緊張方向にスライド移動可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体にプレストレスを導入するための緊張材の緊張装置であって、
緊張方向に延在し、外周面にねじを有し、前記緊張方向に沿って直列に前記緊張材に連結された複数の長尺部材と、
互いに隣接する前記長尺部材を互いに取り外し可能に接続し、前記緊張方向から見て前記長尺部材の外輪郭の内側に位置する外輪郭を有する接続具と、
前記緊張方向の弛緩側において前記コンクリート躯体に支持され、前記長尺部材が挿通されたラムチェアと、
前記長尺部材の前記外周面に螺合可能であり、前記接続具を前記緊張方向にスライド移動可能であり、前記長尺部材の前記外周面に螺合した状態で前記ラムチェアに係止され得る第1ナットと、
前記緊張方向の前記弛緩側において前記ラムチェアに支持され、前記長尺部材が挿通され、前記第1ナットを受容する追加ラムチェアと、
前記緊張方向の前記弛緩側において前記追加ラムチェアに支持された基部、並びに、第1位置及び前記第1位置よりも前記緊張方向の緊張側に位置する第2位置間を変位可能な変位部を含み、前記長尺部材を挿通可能なジャッキと、
前記長尺部材の前記外周面に螺合可能であり、前記接続具をスライド移動可能であり、前記長尺部材の前記外周面に螺合した状態で前記変位部に係止され得る第2ナットと
を備える、緊張装置。
【請求項2】
前記緊張材は、繊維強化プラスチックを含み、
複数の前記長尺部材は、前記緊張方向における最も前記弛緩側に配置されて、前記緊張材の端部を内部に挿通して定着した円筒形状を有する仮設定着体と、前記仮設定着体よりも前記緊張方向の前記緊張側に配置された1又は複数の延長部材とによって構成された、請求項1に記載の緊張装置。
【請求項3】
各々の前記長尺部材は、他の前記長尺部材に対向する前記緊張方向の端部に、内周面にねじを有する接続筒部を含み、
前記接続具は、前記緊張方向の両端部に設けられて、前記長尺部材の前記接続筒部に螺合するボルト部と、2つの前記ボルト部の間に配置され、前記緊張方向から見て円形の一部が切り欠かれた外周面を有する中間部とを含む、請求項1に記載の緊張装置。
【請求項4】
前記第1ナットを回転させるナット回転装置を更に備え、
前記追加ラムチェアは、互いに周方向に離間した第1溝及び第2溝を有する側周壁を含み、
前記ナット回転装置は、
支持部と、
前記支持部に回転可能に支持され、前記追加ラムチェアの外部に配置された原動部と、
前記支持部に回転可能に支持され、前記追加ラムチェアの内部に配置され、前記第1ナットの外周面に係合して前記第1ナットとともに回転可能な従動部と、
前記原動部及び前記従動部に係合して、前記原動部及び前記従動部の回転を連動させる帯状体とを含み、
前記支持部が部分的に前記第1溝及び前記第2溝に挿通されていることにより、前記ナット回転装置が前記追加ラムチェアに組み込まれている、請求項1に記載の緊張装置。
【請求項5】
前記第1溝及び前記第2溝は、互いに隣接する前記長尺部材の互いに対向する端部間距離よりも長い前記緊張方向の長さを有し、
前記追加ラムチェアの前記側周壁は、径方向に貫通し、前記弛緩側に向かって開口した窓部を有する、請求項4に記載の緊張装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の緊張装置を用いた前記緊張材の緊張方法であって、
前記第2ナットが前記変位部に係止された状態において、前記変位部を前記第1位置から第2位置に変位させ、前記第2ナットが螺合中の前記長尺部材の前記弛緩側にて隣接する前記長尺部材の前記緊張側の端部を前記第1位置における前記変位部よりも前記緊張側に移動させるステップと、
前記第1ナットが、前記長尺部材の前記外周面に螺合し、かつ前記ラムチェアに係止された状態において、前記変位部を前記第2位置から前記第1位置に変位させるステップと、
前記緊張側の前記端部が前記第1位置における前記変位部よりも前記緊張側に移動された前記長尺部材に前記第2ナットを螺合させるとともに、該長尺部材から、該長尺部材の前記緊張側に連結していた前記長尺部材を取り外すステップと
を繰り返すことを含む、緊張方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート躯体にプレストレスを導入するための緊張材の緊張装置及び緊張方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緊張材は、コンクリート躯体にプレストレスを導入するために用いられる。緊張材として、PC鋼棒やPC鋼線のような鋼材や、繊維強化プラスチック(FRP)が用いられる。FRPを素材とする緊張材は、錆が生じないため、塩害のおそれがある地域等ではPC鋼棒やPC鋼線よりも有利である。FRP緊張材は、直接に把持して緊張すると損傷するおそれがあるため、FRP緊張材に定着可能な仮設定着体を用いて緊張される(例えば、特許文献1)。
【0003】
図9に、一例として、FRP緊張材の従来の緊張装置101を示す。緊張装置101は、内部に緊張材102の端部が挿入されて定着された仮設定着体103と、仮設定着体103に連結されたPC鋼棒104と、コンクリート躯体105に支持されたラムチェア106と、仮設定着体103の外周面に設けられたねじに螺合してラムチェア106に係止された固定ナット107と、ラムチェア106に連結された追加ラムチェア108と、追加ラムチェア108に連結されたセンターホールジャッキ109と、PC鋼棒104の外周面に設けられたねじに螺合して、支圧板110を介してセンターホールジャッキに109に係止されたナット111とを備える。仮設定着体103とPC鋼棒104とは、接続具112によって互いに連結される。接続具112は、ねじが設けられた内周面を有し、この内周面が、仮設定着体103及びPC鋼棒104の外周面に設けられたねじに螺合する。センターホールジャッキ109は、追加ラムチェア108に固定されたシリンダ109aと、シリンダ109aに対して出没するピストン109bとを含む。
【0004】
作業員が、シリンダ109aからピストン109bを突出させることにより、緊張材102が緊張されるとともに伸びる。ピストン109bの突出長が所定の長さに達したら、作業員は、ラムチェア106に固定ナット107を係止させた状態で、シリンダ109aにピストン109bを没入させる。この時、固定ナット107がラムチェア106に係止されているため、緊張材102の緊張状態は維持される。この作業を繰り返すことによって、緊張材102が所定の緊張力をもって緊張される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の緊張装置による緊張方法では、緊張材が長い場合、緊張材の伸び量が大きくなるため、装置が過剰に大きくなるという問題や、架設定着体及びPC鋼棒が移動するための大きな作業空間が必要となるという問題があった。装置の大型化は、緊張時における緊張装置の軸心が偏心することによる緊張装置が倒れるおそれを生じさせ、製造が困難な長い仮設定着体が必要となった。
【0007】
特に、緊張材としてFRPを使用する場合に、この問題が顕著であった。例えば、アラミドFRPの弾性係数は、PC鋼より線と比べて約1/4程度であるため、アラミドFRPのプレストレス導入による伸び量は、PC鋼より線に比べて約4倍となり、緊張材が比較的短くとも、上記の問題が生じた。
【0008】
本発明は、以上の背景に鑑み、装置の大型化が抑制され、大きな作業スペースを必要としない緊張材の緊張装置及び緊張方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、コンクリート躯体(2)にプレストレスを導入するための緊張材(3)の緊張装置(1)であって、緊張方向に延在し、外周面にねじを有し、前記緊張方向に沿って直列に前記緊張材に連結された複数の長尺部材(7)と、互いに隣接する前記長尺部材を互いに取り外し可能に接続し、前記緊張方向から見て前記長尺部材の外輪郭の内側に位置する外輪郭を有する接続具(8)と、前記緊張方向の弛緩側において前記コンクリート躯体に支持され、前記長尺部材が挿通されたラムチェア(9)と、前記長尺部材の前記外周面に螺合可能であり、前記接続具を前記緊張方向にスライド移動可能であり、前記長尺部材の前記外周面に螺合した状態で前記ラムチェアに係止され得る第1ナット(10)と、前記緊張方向の前記弛緩側において前記ラムチェアに支持され、前記長尺部材が挿通され、前記第1ナットを受容する追加ラムチェア(11)と、前記緊張方向の前記弛緩側において前記追加ラムチェアに支持された基部(12a)、並びに、第1位置及び前記第1位置よりも前記緊張方向の緊張側に位置する第2位置間を変位可能な変位部(12b)を含み、前記長尺部材を挿通可能なジャッキ(12)と、前記長尺部材の前記外周面に螺合可能であり、前記接続具をスライド移動可能であり、前記長尺部材の前記外周面に螺合した状態で前記変位部に係止され得る第2ナット(14)とを備える。ここで、「緊張側」及び「弛緩側」という用語は、着目している部材における緊張方向における相対的な位置を示すものであり、「緊張側」は、緊張材の緊張方向における緊張を強める向きの位置を意味し、「弛緩側」は、緊張を緩める向きの位置を意味する。
【0010】
この態様によれば、複数の長尺部材が直列に連結されるため、緊張作業を行う上で必要な緊張装置の軸心の確保が可能である。また、複数の長尺部材の連結が解除可能であるため、ジャッキよりも緊張側に移動して役割を終えた延長部材を取り外すことができ、ジャッキよりも緊張側に必要な作業スペースの増大が抑制される。第1ナット及び第2ナットが共通の長尺部材の外周面に螺合するため、第1ナットが螺合していた部分を、緊張作業が進むにつれて第2ナットに螺合させることができ、第1ナットと第2ナットとが螺合する部分を別体とする場合に比べて、緊張装置の緊張方向の長さを短くでき、緊張装置の大型化が抑制される。
【0011】
上記の態様において、前記緊張材(3)は、繊維強化プラスチックを含み、複数の前記長尺部材(7)は、前記緊張方向における最も前記弛緩側に配置されて、前記緊張材の端部を内部に挿通して定着した円筒形状を有する仮設定着体(5)と、前記仮設定着体よりも前記緊張方向の前記緊張側に配置された1又は複数の延長部材(6)とによって構成されても良い。
【0012】
この態様によれば、繊維強化プラスチックを含む緊張材を損傷させずに、緊張材を緊張することができる。
【0013】
上記の態様において、各々の前記長尺部材(7(5,6))は、他の前記長尺部材に対向する前記緊張方向の端部に、内周面にねじを有する接続筒部(5b,6a)を含み、前記接続具(8)は、前記緊張方向の両端部に設けられて、前記長尺部材の前記接続筒部に螺合するボルト部(8b)と、2つの前記ボルト部の間に配置され、前記緊張方向から見て円形の一部が切り欠かれた外周面を有する中間部(8a)とを含む。
【0014】
この態様によれば、接続具が長尺材と同軸になり、かつ接続具の最大外径を、長尺部材の外径よりも小さくすることができる。このため、緊張方向から見て、接続具の外輪郭が長尺部材の外輪郭の内側に位置し、長尺部材の外周面に螺合する第1ナット及び第2ナットを接続具上で緊張方向にスライド移動させることができる構造が、簡易な構成で実現できる。
【0015】
上記の態様において、前記第1ナット(10)を回転させるナット回転装置(15)を更に備え、前記追加ラムチェア(9)は、互いに周方向に離間した第1溝(11b)及び第2溝(11c)を有する側周壁(11a)を含み、前記ナット回転装置は、支持部(17)と、前記支持部に回転可能に支持され、前記追加ラムチェア(11)の外部に配置された原動部(18)と、前記支持部に回転可能に支持され、前記追加ラムチェアの内部に配置され、前記第1ナットの外周面に係合して前記第1ナットとともに回転可能な従動部(19)と、前記原動部及び前記従動部に係合して、前記原動部及び前記従動部の回転を連動させる帯状体(20)とを含み、前記支持部が部分的に前記第1溝及び前記第2溝に挿通されていることにより、前記ナット回転装置が前記追加ラムチェアに組み込まれていても良い。
【0016】
この態様によれば、ナット回転装置が追加ラムチェアに組み込まれているため、作業員が第1ナットを回転させる力を人為的に加えても危険性は高まらない。
【0017】
上記の態様において、前記第1溝(11b)及び前記第2溝(11c)は、互いに隣接する前記長尺部材(7)の互いに対向する端部間距離よりも長い前記緊張方向の長さを有し、前記追加ラムチェア(11)の前記側周壁(11a)は、径方向に貫通し、前記弛緩側に向かって開口した窓部(11d)を有する。
【0018】
この態様によれば、第1溝及び第2溝に沿ってナット回転装置が移動可能であるため、追加ラムチェアに受容された第1ナットの、一の長尺部材から接続具を介して連結した他の長尺部材への移動を一度に行うことができる。また、第1ナットはラムチェアから離間し得るが、作業員は、窓部を介して第1ナットがラムチェアに係止されているか否かを確認できる。
【0019】
本発明のある態様は、上記の態様の緊張装置(1)を用いた前記緊張材(3)の緊張方法であって、前記第2ナット(14)が前記変位部(12b)に係止された状態において、前記変位部を前記第1位置から第2位置に変位させ、前記第2ナットが螺合中の前記長尺部材(7)の前記弛緩側にて隣接する前記長尺部材の前記緊張側の端部を前記第1位置における前記変位部よりも前記緊張側に移動させるステップと、前記第1ナット(10)が、前記長尺部材の前記外周面に螺合し、かつ前記ラムチェア(9)に係止された状態において、前記変位部を前記第2位置から前記第1位置に変位させるステップと、前記緊張側の前記端部が前記第1位置における前記変位部よりも前記緊張側に移動された前記長尺部材に前記第2ナットを螺合させるとともに、該長尺部材から、該長尺部材の前記緊張側に連結していた前記長尺部材を取り外すステップとを繰り返すことを含む。
【0020】
この態様によれば、複数の長尺部材が直列に連結されるため、緊張作業を行う上で必要な緊張装置の軸心の確保が可能である。また、役割を終えた延長部材を取り外すことにより、ジャッキよりも緊張側に必要な作業スペースが増大することが抑制される。第1ナット及び第2ナットが共通の長尺部材の外周面に螺合するため、上述の通り、緊張装置の緊張方向の長さを短くでき、緊張装置の大型化が抑制される。
【発明の効果】
【0021】
以上の態様によれば、装置の大型化が抑制され、大きな作業スペースを必要としない緊張材の緊張装置及び緊張方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る緊張装置を用いた緊張材の緊張方法を示す一部断面側面図
【
図2】実施形態に係る仮設定着体を示す図(A:B図におけるA-A線に沿った断面図、B:正面図(緊張方向から見た図))
【
図3】実施形態に係る延長部材を示す図(A:B図におけるA-A線に沿った断面図、B:正面図(緊張方向から見た図))
【
図4】実施形態に係る接続具を示す図(A:側面図、B:A図におけるB-B線に沿った断面図)
【
図5】実施形態に係る第1及び第2ナットを示す図(A:側面図、B:正面図(緊張方向から見た図))
【
図8】実施形態に係るナット回転装置及び第1ナットを示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、実施形態に係る緊張装置1を説明する。
図1に示すように、緊張装置1は、コンクリート躯体2にプレストレスを導入する緊張材3を緊張するために使用される。緊張材3は、アラミド繊維、炭素繊維又はガラス繊維等の繊維強化プラスチック(FRP)を含むロッドによって構成される。コンクリート躯体2内には、ダクト4が設けられており、1つのダクト4に複数の緊張材3が配置されても良い。緊張装置1は、緊張材3の一端側において、緊張材3を引っ張ることにより緊張する。説明にあたって、緊張方向における緊張材3の緊張が強まる向き(
図1の右向き)を緊張側と記載し、緊張材3の緊張が緩まる向き(
図1の左向き)を弛緩側と記載する。
【0024】
緊張装置1は、緊張材3の端部に定着された仮設定着体5、及び仮設定着体5に直列に連結された1又は複数の延長部材6を含む長尺部材7と、互いに隣接する前記長尺部材7を互いに接続する接続具8と、弛緩側の端部においてコンクリート躯体2に支持されたラムチェア9と、長尺部材7に螺合してラムチェア9に係止される第1ナット10と、弛緩側の端部においてラムチェア9に支持された追加ラムチェア11と、弛緩側の端部において追加ラムチェア11に支持されたジャッキ12と、長尺部材7に螺合して支圧板13を介してジャッキ12に係止される第2ナット14と、第1ナット10を回転させるナット回転装置15(
図6参照)とを備える。なお、
図1(A)の仮設定着体5及び
図1のラムチェア9は、コンクリート躯体2と同じ断面で示され、
図1(B)~
図1(F)の仮設定着体5及び
図1の緊張装置1の他の部材は、側面で示される。
【0025】
緊張方向に沿って直列に連結された複数の長尺部材7の内、最も弛緩側に配置された1つの長尺部材7が仮設定着体5であり、仮設定着体5よりも緊張側に配置された1つ又は複数の長尺部材7が延長部材6である。
【0026】
図1及び
図2に示すように、仮設定着体5は、緊張方向に延在する円筒形状の鋼管によって構成される。仮設定着体5は、緊張方向において、弛緩側に位置して緊張材3を定着させるために使用される定着筒部5aと、緊張側に位置して延長部材6との接続のために使用される接続筒部5bとに区画される。定着筒部5aは、接続筒部5bよりも長い。仮設定着体5の外周面には、第1ナット10が螺合可能なねじが設けられている。定着筒部5aの内部には、緊張材3の端部が挿通された後、無収縮モルタル等の充填材16が充填される。これにより、緊張材3の端部が仮設定着体5に定着する。なお、仮設定着体5は、鋼材以外の素材、例えば樹脂によって構成されても良い。
【0027】
図1及び
図3に示すように、各々の延長部材6は、緊張方向に延在する円筒形状の鋼管によって構成される。延長部材6は、緊張方向の両端部に設けられた2つの接続筒部6aと、2つの接続筒部6aの間に画定された中間部6bとに区画される。延長部材6の外周面には、第1ナット10及び第2ナット14が螺合可能なねじが設けられている。接続筒部6aは、仮設定着体5又は他の延長部材6との接続のために使用される。各々の延長部材6は、互いに同一の形状であることが好ましい。なお、延長部材6は、鋼材以外の素材、例えば樹脂によって構成されても良い。
【0028】
図1及び
図4に示すように、接続具8は、中間部8aと、中間部8aから緊張方向の両端部に突出したボルト部8bとを含む。中間部8aは、緊張方向から見て、長尺部材7の外径よりも小さな径の円形を、中心軸を挟んで互いに平行に配置された2本の直線で切り欠いた切り欠き部8cを有する形状をなす。仮設定着体5の接続筒部5b(
図2参照)及び延長部材6の接続筒部6a(
図3参照)は、内周面にねじが形成されており、ボルト部8bは、これらの接続筒部6aに螺合可能である。接続具8の2つのボルト部8bが、接続筒部5b,6aに螺合することにより、仮設定着体5と延長部材6とが互いに連結され、又は、2つの延長部材6が互いに接続される。中間部8aは、外周にねじがない平滑な面である。これにより、互いに接続する2つの長尺部材7に設けられたねじ位置に影響されずに、第1ナット10及び第2ナット14が、一方の長尺部材7から離間し、中間部8a上を緊張方向にスライド移動し、他方の長尺部材7へ円滑に勘合できる。
【0029】
図1及び
図6に示すように、ラムチェア9は、仮設の鋼製架台であり、互いに対向する1対の側面が開口され、緊張方向に互いに対向する2つの底壁に長尺部材7を挿通させる貫通孔を有する箱形状又は円筒形状をなし、弛緩側の端面でコンクリート躯体2に支持される。ラムチェア9は、緊張方向に延在する長尺部材7が2つの底壁に挿通されているため、その内部に長尺部材7を部分的に受容している。ラムチェア9の緊張側の端面は、仮設定着体5又は延長部材6の外周面に螺合した第1ナット10を係止可能である。
【0030】
図5に示すように、第1ナット10及び第2ナット14は、互いに同一形状の部材であっても良い。なお、第1ナット10及び第2ナット14は、互いに異なる形状を有する部材であっても良いが、これらの内周面の設けられたねじの有効径及びピッチは、互いに共通である。また、これらが螺合できるように、仮設定着体5の外周面と全ての延長部材6の外周面とに設けられたねじの有効径及びピッチは、互いに共通である。
【0031】
図1、
図6及び
図7に示すように、追加ラムチェア11は、仮設の鋼製架台であり、筒形状をなし、弛緩側の底面でラムチェア9の緊張側の底面に支持され、仮設定着体5及び延長部材6が挿通される。追加ラムチェア11とラムチェア9との互いの当接面には、互いの中心位置を合致させるための係合構造が設けられている(図示せず)。追加ラムチェア11は、筒形状の内部に第1ナット10を受容する。追加ラムチェア11の側周壁11aには、互いに周方向に離間して緊張方向に延在する第1溝11b及び第2溝11cと、径方向に貫通し、弛緩側に向かって開口した窓部11dを有する。第1溝11b及び第2溝11cは、接続具8によって連結された状態の互いに隣接する長尺部材7の互いに対向する端部間距離よりも長い緊張方向の長さを有する。第1溝11b及び第2溝11cは、ナット回転装置15を追加ラムチェア11に組み込むために用いられる。窓部11dからは、第1ナット10がラムチェア9の緊張側の端面に係止されているか否かを作業員が視認できる。
【0032】
図1及び
図6に示すように、ジャッキ12は、それ自体は公知のセンターホールジャッキである。ジャッキ12は、弛緩側の端面において追加ラムチェア11に支持された鋼製のシリンダを含む基部12aと、基部12aに対して緊張方向に変位可能なピストンを含む変位部13bとを含む。ジャッキ12は、ねじ等の締結具(図示せず)によって追加ラムチェア11に固定される。変位部13bは、基部12aの内部に略没入した第1位置と、基部12aの内部から部分的に緊張側に突出した第2位置との間を変位する。ジャッキ12は、センターホールジャッキ以外の公知のジャッキであっても良い。
【0033】
図6及び
図8に示すように、ナット回転装置15は、支持部17と、支持部17に回転可能に支持され、追加ラムチェア11の外部に配置された原動部18と、支持部17に回転可能に支持され、追加ラムチェア11の内部に配置され従動部19と、原動部18及び従動部19に係合して、原動部18及び従動部19の回転を連動させるチェーン等の帯状体20とを含む。
【0034】
図8に示すように、支持部17は、U字形状のフレーム17aと、フレーム17aの外側に連結して作業員が把持可能な把持部17bと、フレーム17aを緊張方向から挟むようにフレーム17aにねじ等の締結具(図示せず)によって取り付けられ、原動部18及び従動部19を回転可能に支持する1対のカバー17c(
図8において、紙面の手前に配置されるカバー17cの図示は省略している)とを含む。
【0035】
原動部18は、緊張方向に直交する板部18aと、板部18aの中央から緊張方向に突出して、ラチェットレンチ等の工具21に係合する軸部18bと、板部18aの周縁に固定されて、帯状体20にかみ合うスプロケット18cとを含む。
【0036】
従動部19は、第1ナット10の外周面に係合するソケット部19aと、ソケット部19aの周縁に固定されて、帯状体20にかみ合うスプロケット19bとを含む。ソケット部19aが、フォーク形状のカバー17cに緊張方向に直交する方向から挟持されることにより、従動部19が、回転可能に支持部17に支持される。帯状体20によって、従動部19は原動部18に連動して回転するため、工具21によって原動部18を回転させることにより、従動部19が回転し、従動部19に係合した第1ナット10が螺進又は螺退する。工具21として、ラチェットレンチ以外の手動工具や、電動工具を使用しても良い。
【0037】
図6~
図8に示すように、U字形状のフレーム17aの湾曲部が追加ラムチェア11の外部に配置され、U字形状のフレーム17aの一端部が追加ラムチェア11の第1溝11bに挿通され、U字形状のフレーム17aの他端部が追加ラムチェア11の第2溝11cに挿通され、U字形状のフレーム17aの両端部に追加ラムチェア11の内部に配置され従動部19が連結している。このため、ナット回転装置15は、追加ラムチェア11の側周壁11aにおける第1溝11b及び第2溝11cの間の部分を取り囲む環形状をなし、追加ラムチェア11に組み込まれている。
【0038】
図1を参照して、緊張装置1を用いた緊張材3に緊張方法について説明する。
【0039】
まず、作業員は、
図1(A)に示すように、コンクリート躯体2のダクト4内に、端部に仮設定着体5が定着された緊張材3を挿通する。
【0040】
次に、作業員は、
図1(B)に示すように、仮設定着体5に、接続具8を介して、複数の延長部材6を直列に連結するとともに、仮設定着体5及び延長部材6が内部に挿通されるように、ラムチェア9をコンクリート躯体2に当接させる。作業員は、延長部材6の外周面に第1ナット10を螺合し、第1ナット10を延長方向の緊張側からラムチェア9に係止させる。なお、緊張材3における図示されているものとは反対側の端部では、
図1(F)に示す状態と略左右対称な構成が適用されている。すなわち、緊張材3の端部が仮設定着体5に定着され、ラムチェア9がコンクリート躯体2に支持され、第1ナット10が仮設定着体5の外周面に螺合するとともにラムチェア9に係止されている。
【0041】
次に、作業員は、
図1(C)に示すように、延長部材6が追加ラムチェア11及びジャッキ12の内部に挿通されるように、ラムチェア9に対して緊張側から追加ラムチェア11を連結し、追加ラムチェア11に対して緊張側からジャッキ12を連結する。この時、ジャッキ12の変位部12bは、第1位置に配置されている。作業員は、最も緊張側に配置された延長部材6の外周面に第2ナット14を螺合させ、ジャッキ12の変位部12bの緊張側の端面に支圧板13を介して第2ナット14を係止させる。
【0042】
次に、作業員は、
図1(D)に示すように、変位部12bを第2位置に変位させる。この時、延長部材6に螺合した第2ナット14が変位部12bに係止されているため、緊張材3が、緊張方向の緊張側に引っ張られ、緊張材3に引張力が生じるとともに、緊張材3が伸びる。このため、第1ナット10の位置も緊張側に変位しようとする。このため、この作業と並行して、又はこの作業と交互に、作業員は、ナット回転装置15(
図6参照)を用いて第1ナット10を回転させ、第1ナット10(
図1(B)参照)をラムチェア9に係止させる。次いで、作業員は、第1ナット10が、延長部材6又は仮設定着体5の外周面に螺合し、かつラムチェア9に係止された状態で、変位部12bを第1位置まで変位させる。この時、第1ナット10がラムチェア9に係止されているため、緊張材3に生じている引張力が維持され、変位部12bは第2ナット14から離間する。次いで、作業員は、第2ナット14が弛緩側に移動するように第2ナット14を回転させて、変位部12bに支圧板13を介して第2ナット14を係止させる。これらの作業を、第2ナット14が、緊張側から2番目の長尺部材7に螺合するまで、すなわち、緊張側から2番目の長尺部材7の緊張側の端部が第1位置における変位部12bよりも緊張側に配置されるまで、繰り返す。なお、変位部12bを第1位置に戻す時に、第1ナット10が接続具8上をスライド移動しないように、すなわち、第1ナット10が長尺部材7に螺合した状態でラムチェア9に係合できるように、ジャッキ12は、変位部12bのストローク長さ、接続具8、延長部材6との関係を考慮して選択される。
【0043】
第2ナット14が、緊張側から2番目の長尺部材7に螺合したら、作業員は、
図1(E)に示すように、連結中の長尺部材7の内、最も緊張側に配置された延長部材6を取り外す。
【0044】
以下、作業員は、ジャッキ12による緊張材3の緊張と、連結中に長尺部材7の内の最も緊張側に配置された延長部材6の取り外しとを繰り返す。所定の引張力になるまで緊張材3を緊張したら、作業員は、第2ナット14、支圧板13,ジャッキ12及び追加ラムチェア11を取り外し、
図1(F)に示すように、緊張作業を終了する。
【0045】
この後、作業員は、ダクト4内に無収縮モルタル等の充填材(図示せず)を注入し、充填材が硬化したら、第1ナット10及びラムチェア9を取り外し、コンクリート躯体2と仮設定着体5との間で緊張材3を切断し、仮設定着体5を取り除く。
【0046】
緊張装置1を使用した緊張材3の緊張方法の作用効果について説明する。
【0047】
図1に示すように、複数の長尺部材7が直列に連結されるため、緊張作業を行う上で必要な緊張装置1の軸心の確保が可能である。仮設定着体5を介して緊張材3を緊張するため、緊張材3を損傷させずに緊張することができる。
【0048】
複数の長尺部材7の連結が解除可能であるため、ジャッキ12よりも緊張側に移動して役割を終えた延長部材6を取り外すことができる。このため、ジャッキ12よりも緊張側に必要な作業スペースの増大が抑制される。
【0049】
第1ナット10が、仮設定着体5だけでなく、第2ナット14が螺合する延長部材6にも螺合可能であるため、仮設定着体5の長さを短くでき、緊張装置1の大型化が抑制される。
【0050】
外周面にねじが設けられた互いに異なる部材を連結させると、両者のねじが互いにずれ易く、部材の連結部分でナットの回転が阻害されてしまう。上記実施形態では、互いに隣接する長尺部材7を互いに連結する接続具8が、緊張方向から見て、長尺部材7の外輪郭よりも小さな外輪郭を有するため、第1ナット10及び第2ナット14は、長尺部材7を連結している接続具8を緊張方向にスライド移動できる。このため、一の長尺部材7から、接続具8を介して連結した他の長尺部材7への第1ナット10及び第2ナット14の移動が円滑になる。また、接続具8の中間部8aの表面が平滑であるため、第1ナット10及び第2ナット14の中間部8a上のスライド移動が更に円滑になる。また、長尺部材7の接続筒部5b,6aに接続具8のボルト部8bが螺合している。すなわち、必然的に、ボルト部8bが、緊張方向から見て長尺部材7の外輪郭の内側に位置する。従って、後は、緊張方向から見て中間部8aの外輪郭が長尺部材7の外輪郭の内側に配置されるように、接続具8を形成すれば、第1ナット10及び第2ナット14が接続具8上を緊張方向にスライド移動可能となる。このように、第1ナット10及び第2ナット14が接続具8上を緊張方向にスライド移動する構造を簡素な構成で実現することができる。
【0051】
図4に示すように、接続具8の中間部8aに切り欠き部8cが設けられているため、スパナ(図示せず)等を中間部8aに係合でき、長尺部材7の連結及び取り外し作業を容易に行える。
【0052】
図6に示すように、ナット回転装置15が追加ラムチェア11に組み込まれているため、作業員が緊張装置1を倒す方向、すなわち緊張方向に交差する方向に誤って力を加えるリスクが低減され、作業の安全性が高まる。
【0053】
図1、
図6及び
図7に示すように、追加ラムチェア11の第1溝11b及び第2溝11cが、互いに隣接する長尺部材7の互いに対向する端部間距離よりも長い緊張方向の長さを有するため、追加ラムチェア11に受容された第1ナット10の、一の長尺部材7から接続具8を介して連結した他の長尺部材7への移動を一度に行うことができる。
【0054】
追加ラムチェア11に窓部11dが設けられているため、作業員は、ジャッキ12の変位部12bを第1位置に変位させる時に、第1ナット10がラムチェア9に係止されていることを容易に確認できる。
【0055】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。緊張材として、FRPロッドに代えて、PC鋼棒やPC鋼より線等のPC鋼材を用いても良い。例えば、緊張材としてPC鋼棒を用いる場合は、仮設定着体を使用せず、PC鋼棒の端部に雌ねじが形成された内周面を有する接続筒部を形成し、この接続筒部に接続具を螺合させることにより、PC鋼棒である緊張材と延長部材とを連結しても良い。また、緊張材としてPC鋼より線を用いる場合は、PC鋼より線の外周に仮設定着体を取り付け、仮設定着体を本設の定着体として使用しても良い。帯状体としてチェーンに代えて歯付ベルトが用いられ、原動部及び従動部におけるスプロケットが歯付プーリであっても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 :緊張装置
3 :緊張材
5 :仮設定着体
5b :接続筒部
6 :延長部材
6a :接続筒部
7 :長尺部材
8 :接続具
8b :ボルト部
8c :切り欠き部
9 :ラムチェア
10 :第1ナット
11 :追加ラムチェア
11b :第1溝
11c :第2溝
11d :窓部
12 :ジャッキ
12a :基部
12b :変位部
14 :第2ナット
15 :ナット回転装置
17 :支持部
18 :原動部
19 :従動部