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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002526
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】フェンシング用手袋
(51)【国際特許分類】
   A63B 71/14 20060101AFI20231228BHJP
   A63B 69/02 20060101ALI20231228BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20231228BHJP
   A41D 19/015 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A63B71/14 Z
A63B69/02 G
A41D19/00 C
A41D19/015 210A
A41D19/015 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101764
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】500150285
【氏名又は名称】大前 護
(74)【代理人】
【識別番号】100092875
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 孝治
(72)【発明者】
【氏名】大前 護
【テーマコード(参考)】
3B033
【Fターム(参考)】
3B033AA12
3B033AA31
3B033AB02
3B033AB08
3B033AC04
(57)【要約】
【課題】フェンシング用手袋におけるハンド部とカフ部間における縫い目による段差をなくし、剣先が突き当てられるのを回避する。
【解決手段】
ハンド部及びカフ部を備えてなるフェンシング用手袋であって、その甲部面側の外装生地が、少なくともハンド部の甲部からカフ部の袖口部後端まで一体に連続するように構成し、その外周面を途中の手首に対応する部分を含めて長手方向に段差のないフラット面とすることにより、競技中において、対戦相手の剣先が段差部に突き当てられることがないようにした。これにより、エペ競技におけるポイント上のハンデを解消すると共に、手袋自体の損傷を生じさせないようにし、またデザイン性をも向上させた。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンド部及びカフ部を備えてなるフェンシング用手袋であって、甲部面側の外装生地が、少なくともハンド部の甲部からカフ部の袖口部後端まで一体に連続し、その途中の手首に対応する部分を含めて長手方向に段差のないフラット面を形成していることを特徴とするフェンシング用手袋。
【請求項2】
ハンド部における甲部と反対側のパーム部は、滑り止め機能の高い合成生地を用いて構成されている一方、カフ部における甲部と反対側の面は、カフ部の甲部面側の生地を一側部側から他側部側に筒状に延設し、同延接端部分で他側部側の生地と面ファスナーで接合されるようになっていることを特徴とする請求項1記載のフェンシング用手袋。
【請求項3】
一側部側から他側部側に筒状に延設されたカフ部の甲部面側の生地は、その前端部側でパーム部後端の合成生地と縫い合わされて一体化されていることを特徴とする請求項2記載のフェンシング用手袋。
【請求項4】
甲部面側に在って少なくともハンド部の甲部からカフ部の袖口部後端まで一体に連続する外装生地のカフ部における内側には、当該外装生地とは別の内装生地が設けられており、該内装生地を利用して上記甲部面の内側に衝撃吸収用パッドが設けられていることを特徴とする請求項1,2又は3記載のフェンシング用手袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、フェンシング用手袋の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェンシングは、二人の選手が向かい合って立ち、片手に持った剣で互いの体の有効面を突いて勝敗を決める競技である。攻撃を成功させるとポイントとなり、規定のポイントを先取した選手が勝利する。競技の種目には、フルーレ、エペ、サーブルの3種類がある。フルーレ、エペ、サーブルは、それぞれポイントとなる有効面の範囲が異なっており、フルーレは背中を含む胴体部分、サーブルは頭と両腕を含む上半身部分に限られているのに対し、エペは頭から爪先までの全身が有効面となっており、着用したフェンシング手袋の指部から甲部及びカフ部までも有効面となっている。また、エペ及びフルーレでは、サーブルのような剣身を使った斬りの動作によるポイントがなく、突きだけがポイントとなっている。
【0003】
フェンシング競技用の剣の先には、たとえば図8に示すような構造のポイントヘッド41が設けられており、剣先が上述した競技相手の有効面を所定の規定圧力以上の圧力(フルーレでは500g以上、エペでは750g以上)で突いたときに、このポイントヘッド41が収縮(鍔方向に後退)することにより、電気的にポイントが判定される。
【0004】
図8において、符号40は、例えばエペ又はフルーレ競技用の剣(ブレード部)を示しており、その側面には所定の深さの溝40aが設けられており、同溝40aを利用して電気配線47が配設されている。同剣40の先端には図示のように後端側の外径が絞られた漏斗筒形状のホルダー43が取り付けられており、このホルダー43を介してポイントヘッド41が伸縮可能に保持されている。
【0005】
ポイントヘッド41は、先端側に大径のヘッド部41a、その背後に所定の長さの小径の軸部41b、同軸部41bの後端に中径の係合部41cを備えて構成されている。一方、ホルダー43は、上記ポイントヘッド41の大径のヘッド部41a外径に対応した外径の中空のホルダー部内にコイルスプリング45を収納し、同コイルスプリング45により上記ポイントヘッド41の中径の係合部41cを前方に向けて押圧付勢することにより、上記ポイントヘッド41の大径のヘッド部41aが常時前方に突出した状態となるようにしている。このコイルスプリング45の付勢圧は、上述した対戦相手の有効面を突いた時のポイントとなる規定圧に対応して設定されている。
【0006】
そして、上記ポイントヘッドホルダー43のホルダー部内後端には上記コイルスプリング45の後端を支持するストッパ44、同ホルダー部内前端には直径方向に相対向する状態で側方から螺合挿入された一対のポイントネジ46,46が設けられており、これら一対のポイントネジ46,46の先端により上記ポイントヘッド41の中径の係合部41cの前方への移動が係止されている。
【0007】
これにより、通常の状態では、上記ポイントヘッド41の大径のヘッド部41aが上記ポイントヘッドホルダー43のホルダー部先端から所定の寸法突出した状態に維持され、同状態において剣40が矢印Aで示す方向に突き操作され、上記ポイントヘッド41の大径のヘッド部41aが対戦相手の所定の有効面を上記コイルスプリング45の付勢力を超える圧力で突くと、上記ポイントヘッド41が矢印Bで示すように所定の寸法後退し、その中径の係合部42と上記一対のポイントネジ46,46の先端との係合が離れ、それまでの所定の電気的な接続状態が変化する。そして、この電気的な接続状態の変化に応じて、例えばブザーを鳴らすなどの方法によりポイントが判定される。
【0008】
このようにフェンシング競技では、剣による突きが中心となっている。そのために、競技者が着用する手袋についても、全種目において、手袋の手首カバー(ガン)は、どのような状況に於いても、対戦相手の刀身がジャケットの袖に侵入するのを防止するために、選手の武器を持った腕のほぼ半分の前腕を完全に覆っていなければならない、とされている(日本フェンシング協会ルール・審判委員会の規定を参照)。このため、フェンシング用の手袋は、基本的にハンド部(手部)とカフ部(袖部)の2つの部分を備えて構成されている。
【0009】
ところで、このようなハンド部(手部)とカフ部(袖部)の2つの部分からなるフェンシング用の手袋を構成するに際し、従来のものは、例えば図7に示すように、ハンド部(手部)Aとカフ部(袖部)Bをそれぞれ別個独立に縫製し、その後、ハンド部(手部)Aの後端内にカフ部(袖部)Bの前端を所定寸法挿入することによって、手首に対応する部分で所定幅上下(内外)に重ね合わせる。そして、その重ね合わせた部分の全周を縫い合わせることによって連結一体化する構成が採用されていた(例えば特許文献1の構成を参照。特許文献1の図面は極めてシンプルにしか描かれていないが、図1及び図8の構成における手首対応部分の左右方向のラインは、当該縫い合わせ部を示している。)。
【0010】
このような構成の場合、ハンド部(手部)A及びカフ部(袖部)Bをその必要とする機能に応じてそれぞれ独自に構成(縫製)することができ、最後に相互の重ね合わせ部の全周を縫い合わせるだけで良いので、一体化も容易である。例えばハンド部(手部)Aの場合だと、通常甲部2内に衝撃吸収用のパッド(方形形状)を縫い込む必要があり(図7中の符号21,22は、その縫い目部を示す)、またパーム部(手の平)側には滑り止め機能の高い合成生地(合皮等)を採用し、特に補強が必要な部分には、さらに強度の高い補強材を縫い付けるなど、カフ部(袖部)Bと違った複雑な構成を採用する必要がある。これに対してカフ部(袖部)Bの場合には、そのような複雑な構成を採用する必要はないが、手首部のタイトさを調節するために、分割構造にして面ファスナーで所望に接合できるようにする必要があるなど(図示省略)、構成上の相違がある。
【0011】
したがって、それらを最初から一体の状態で仕上げるのは難しい。しかし、別々に縫製して最後に手首部の全周を縫い合わせるだけなら比較的容易に仕上げることができる。そして、この縫い合わせ部30(図7の例では縫い目部31,32の2カ所)での縫い合わせには、図示のように、通常所定の絞りを入れて縫い合わせる構成が採用されており、それにより手首部の径を縮小して装着後のフィット感を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実用新案登録第3226455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、以上のように、ハンド部(手部)Aとカフ部(袖部)Bをそれぞれ別個独立に縫製し、その後、それら2組の部材の後端と前端を相互に重ね合わせて、その全周を手首に対応する部分3で縫い合わせて一体化するようにした従来の構成の場合、次に述べる問題がある。
【0014】
すなわち、図7から明らかなように、上記縫い合わせ部30は、ハンド部(手部)Aとカフ部(袖部)Bの生地がそれぞれ重ねられ、生地自体の厚さが厚くなっている(2倍)。そこに縫い目部31,32が入るので、同部分には縫い目部31,32を底とする相当の高低差の段差が生じる。そして、競技中において、この段差部分に対戦相手の剣先が突き当てられ、上述したポイントヘッド41が後方に収縮するケースがある。同部分は、自らも相手の有効面を目掛けて前方に突き出す部分であるため、対戦相手の剣先が突き当たった時の圧力が大きくなりやすい。この現象は、当然ながらハンド部(手部)Aの甲部面側及びそれに続くカフ部(袖部)Bの上面側で起こりやすい。
【0015】
もちろん、サーブルやフルーレ競技では、手首や腕の部分は有効面ではないので、仮にポイントヘッド41が収縮作動したとしても問題にはならない。しかし、エペ競技の場合には、手首や腕の部分も有効面であるので、上述のように750g以上の圧力でポイントヘッド41が収縮作動すると、相手のポイントと判定されてしまうことになる。つまり、エペ競技において、上述のような縫い目による段差のある手袋を使用することは大きなハンデとなっていた。
【0016】
また、上記のように相手の剣先が接触しやすい手袋の表面に段差があるということは、ポイントになるかならないかの問題とは別に剣先による手袋の損傷が生じやすく、手袋自体の耐久性を悪くする問題がある。この問題は、必ずしもエペ競技には限らない。
【0017】
また、上述した従来の構成の場合(図7の構成の場合)、ハンド部(手部)Aの甲部2の内側(裏側)に相手と衝突した時の衝撃を和らげる方形形状の衝撃吸収用パッド(低反発マットなどを使用)を設け、その外周囲四方を甲部2を形成している外装生地(表面側生地)に縫い付けて固定しているので、図7に示すように、その前後の縫い目部21、22部分に上記手首部に対応する部分3の縫い目部31,32と同様の段差が生じることになる。この場合、前部側(指部1側)の縫い目部21による段差は鍔部で十分にカバーされるし、剣を握ることにより展張されてフラットになるが、後部側(手首対応部3側)の縫い目部22による段差は上記手首対応部3における縫い目部31,32による段差と全く同様の問題を招く。
【0018】
さらに、上記のように、ハンド部(手部)Aとカフ部(袖部)Bをそれぞれ別個独立に縫製し、その後、それら2組の部材を相互に縫い合わせて連結した構成、そして、その縫い合わせ部や衝撃吸収用パッド設置部の外周に段差がある構成の手袋は、デザイン的にも煩雑で、スマートさ、洗練さに欠ける問題がある。このため、フェンシング競技特有の爽やかですっきりとしたデザインの手袋が求められている。
【0019】
この出願の発明は、このような問題を解決するためになされたもので、ハンド部及びカフ部を備えてなるフェンシング用手袋において、甲部面側の外装生地が、少なくともハンド部の甲部からカフ部の袖口部後端まで一体に連続し、その途中の手首に対応する部分を含めて長手方向に段差のないフラット面を形成するようにすることにより、上述の問題を解決したフェンシング用手袋を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この出願の発明は、上記の課題を解決するために、次のような課題解決手段を備えて構成されている。
【0021】
(1)請求項1の発明の課題解決手段
この請求項1の発明の課題解決手段は、ハンド部及びカフ部を備えてなるフェンシング用手袋であって、甲部面側の外装生地が、少なくともハンド部の甲部からカフ部の袖口部後端まで一体に連続し、その途中の手首に対応する部分を含めて長手方向に段差のないフラット面を形成するようにしたことを特徴としている。
【0022】
この発明の課題解決手段の場合、ハンド部及びカフ部を備えたフェンシング用手袋において、その甲部面側の外装生地が、少なくともハンド部の甲部からカフ部の袖口部後端まで一体に連続し、その途中の手首に対応する部分を含めて長手方向に段差のないフラット面を形成するように構成されている。
【0023】
したがって、同構成の場合、ハンド部の甲部からカフ部の袖口部後端に至るフェンシング用手袋の甲部面に対して、対戦相手の剣先が所定の突き刺し角(侵入角)をもって侵入して来たとしても、その外装生地の外周面には当該剣先が突き当てられる段差がないので、何ら係合されることなくそのまま後方に摺動し、外方に逸れてしまう。
【0024】
そのため、従来のフェンシング用手袋のような、剣先を段差部に突き当てられて対戦相手がポイントを獲得する問題を確実に解消することができる(エペ競技の場合)。また、段差部での手袋の損傷を回避することができるので、エペ、フルーレ、サーブル各競技を通じて手袋自体の耐久性を向上させ、使用年数を長期化することができる。また、見栄えの中心となる手袋の甲部面側がハンド部甲部からカフ部袖口部後端までフラットに連続する一つの面となり、手袋全体として非常にシンプルですっきりとした美しいデザインになる。
【0025】
(2)請求項2の発明の課題解決手段
この請求項2の発明の課題解決手段は、上記請求項1の発明の課題解決手段の構成において、ハンド部における甲部と反対側のパーム部は、滑り止め機能の高い合成生地を用いて構成されている一方、カフ部における甲部と反対側の面は、カフ部の甲部面側の生地を一側部側から他側部側に筒状に延設し、同延接端部分で他側部側の生地と面ファスナーで接合されるようになっていることを特徴としている。
【0026】
このような構成の場合、甲部面側で共通の外装生地によりハンド部及びカフ部を実質的に一体に構成するようにした場合にも、その反対側のパーム部面側では、従来同様にハンド部とカフ部を別々の部材として構成し、その後相互に縫い合わせて一体化する構成とすることができる。したがって、従来同様に比較的容易に仕上げることができる。
【0027】
(3)請求項3の発明の課題解決手段
この請求項3の発明の課題解決手段は、上記請求項2の発明の課題解決手段の構成において、一側部側から他側部側に筒状に延設されたカフ部の甲部面側の生地は、その前端部側でパーム部後端の合成生地と縫い合わされて一体化されていることを特徴としている。
【0028】
つまり、この請求項3の発明の構成の場合、手袋の甲部面側ではハンド部及びカフ部を外装生地により一体に構成しているが、その反対側のパーム部側及びカフ部下面側では、それぞれ従来同様の2部材の状態で縫製することができる。
【0029】
そのため、例えばハンド部の甲部内側にカフ部側内装生地を利用して衝撃吸収用のパッドを縫い付け、またパーム部に滑り止め機能の高い合成生地を採用し、特に補強が必要な部分に、さらに所定の形状、所定の材質の補強用の生地を縫い付けるなどの作業も容易に行うことができる。
【0030】
また、パーム部後端の合成生地との縫い合わせ部により、ハンド部とカフ部との間に絞りを入れると共に、カフ部を手首部のタイトさを調節するために分割構造にして面ファスナーで所望に接合できるようにすることも容易に行える。
【0031】
(4)請求項4の発明の課題解決手段
この請求項4の発明の課題解決手段は、上記請求項1,2又は3の発明の課題解決手段の構成において、甲部面側に在って少なくともハンド部の甲部からカフ部の袖口部後端まで一体に連続する外装生地のカフ部における内側には、当該外装生地とは別の内装生地が設けられており、該内装生地を利用して上記甲部面の内側に衝撃吸収用パッドが設けられていることを特徴としている。
【0032】
このような構成によると、少なくとも上記外装生地側における衝撃吸収用パッドのカフ部側後端部の縫い目部をなくすことができ、衝撃吸収用パッドのカフ部側後端部の縫い目部による甲部面の段差もなくすことができる。そのため、より有効に上述した作用効果を実現することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上の結果、この出願の発明によると、エペ競技におけるハンデを確実に解消し、しかも耐久性に優れたフェンシング用の手袋を低コストに提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】この出願の発明の実施の形態に係るフェンシング用手袋の甲部面側の全体構成を示す正面図である。
図2】同フェンシング用手袋の甲部面内側における衝撃吸収用パッドの配置状態を示す図1と同様の正面図である。
図3】同フェンシング用手袋の甲部面内側における衝撃吸収用パッドの縫い付け状態を示す要部の拡大背面図(図2の要部裏面図)である。
図4】同フェンシング用手袋の甲部面内側における衝撃吸収用パッド後端部のカフ部内装生地前端部に対するオーバーロック構成を示す要部の拡大断面図(図2のX-X線切断部拡大断面図)である。
図5】同フェンシング用手袋のパーム部面側の全体構成を示す図1の背面図である。
図6】同フェンシング用手袋の全体構成を示す側面図(親指側から見た側面図)である。
図7】従来のフェンシング用手袋の全体構成を示す側面図(親指側から見た側面図)である。
図8】従来一般のフェンシング用の剣に用いられているポイントヘッドの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図1図6を参照して、この出願の発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0036】
先ず、図1図6は、この出願の発明の実施の形態に係るフェンシング用手袋の全体及び要部の構成を示している。
【0037】
この実施の形態に係るフェンシング用手袋は、例えば図1図2及び図5図6に示すように、ハンド部(手部)Aとカフ部(袖部)Bとを備えて構成されている。そして、これらハンド部Aとカフ部Bの外装面は、その甲部面側(以下、カフ部Bの上部面側をも含めて単に甲部面側と表現する)では同一の生地を用いた相互に一体に連続する1ピース部材により構成されている一方、反対側のパーム部面側(以下、カフ部Bの下部面側をも含めて単にパーム部面側と表現する)ではパーム部Cとカフ部Bが生地を異にする相互に別体の2ピース部材により構成され、手首部(リスト部)に対応する部分3で相互に縫い合わされることにより一体に連結されている。
【0038】
すなわち、ハンド部Aとカフ部Bの甲部面側外装面は、例えば図1図2及び図4に示すように、ハンド部Aの指部1(親指部1aを除く、人差し指部1bから小指部1eまでの4本の指部)から甲部2、ハンド部A及びカフ部B間の手首対応部3、カフ部Bの袖口部4後端までの全体に連続する上下2枚の外装生地5により形成されている。
【0039】
この上下2枚の外装生地5は、例えば上部側の生地(表面側の生地)51が強度が高く、撥水性能、防水性能に優れた透湿防水素材、下部側の生地(裏面側の生地)52が抗菌防臭機能を備えた吸水速乾素材により形成されている(図4参照)。
【0040】
一方、上記ハンド部Aの指部1(親指部1aを除く、人差し指部1bから小指部1eまでの4本の指部)から甲部2、ハンド部A及びカフ部B間の手首対応部3、カフ部Bの袖口部4の内側は、上記ハンド部Aの指部1(親指部1aを除く、人差し指部1bから小指部1eまでの4本の指部)部分では特に内装生地が設けられておらず、上述した上下2枚の外装生地5(51,52)のみで構成されている。しかし、上記ハンド部Aの甲部2の内側には、例えば図2及び図4に示すように、相手と衝突した時の衝撃を和らげる衝撃吸収用パッド90が設けられている。また、カフ部Bの内側には、上中下3枚の生地121,122,123よりなる内装生地12が設けられている(図4参照)。
【0041】
この上中下3枚の生地よりなる内装生地12の上部側の生地121は、例えば経編みメリヤスなどの生地により形成され、また中部側の生地122は、立体編み物等の粗いゲージで編んだ弾性のあるメッシュ生地により形成され、さらに下部側の生地123は、綿などの生地により形成されている。この上中下3枚の生地121~123よりなる内装生地12は、カフ部B後端側で上記上下2枚の生地51、52よりなる外装生地5と縫い合わせて一体化されている(縫い目部12c参照)。
【0042】
上記ハンド部Aの甲部2内側の衝撃吸収用パッド90は、甲部2のほぼ全体をカバーし得る大きさの平面方形の部材よりなり、例えば図2図4に示すように、その縫い代部9の前部辺9aと左右一対の側部辺9b、9bの3辺を内側から上記上下2枚の生地51,52よりなる外装生地5に縫い付けて固定する一方、後部辺9cは、上記上中下3枚の生地121~123よりなる内装生地12の前部辺12aに縫い付けて固定している(甲部2の上面に現れる縫い目部91a,91b,91bと甲部2の上面に現れない内装生地12側の縫い目部91cを参照)。
【0043】
上記衝撃吸収用パッド90は、例えば図4に示すように、低反発ウレタンなどの衝撃吸収部材90dを上部側第1、第2、第3の3枚の生地90a,90b,90cと下部側第4の生地90eで挟みこみ、その外周囲を縫い合わせて構成されており、縫い合わせた後の前部及び左右の各フランジ部(4枚の生地90a~90c,90eの重合部)が上記上下2枚の生地5a,5bよりなる外装生地5への縫い合わせ部(縫い代)、後部のフランジ部が上記上中下3枚の生地121,122,123よりなる内装生地12への縫い合わせ部(縫い代)となっている。
【0044】
そして、この実施の形態の場合、上記上中下3枚の生地121,122,123よりなる内装生地12への縫い合わせ部である後部フランジ部は、例えば当該後部フランジ部を上にする形で、下側にカフ部B側の上記上中下3枚の生地121,122,123よりなる内装生地12を所定幅(必要な縫い代)だけ重合し、同重合部を図3及び図4に示すようにオーバーロックすることによって縫い合わせる(例えば二本針で4本の糸を使用)。これによって、衝撃吸収用パッド90は、その後部辺側では上記上下2枚の生地5a,5bよりなる外装生地5には全く縫い合わされることなく(縫い目を生じさせることなく)、上中下3枚の生地121,122,123よりなる内装生地12によって安定した状態に固定される。
【0045】
なお、この実施の形態の場合、親指部1aを除く、人差し指部1bから小指部1eまでの4本の指部は、それぞれ相互に隣り合う側壁部分ではソフトであるが強靭性の高い合成繊維生地17,17,17をU状に縫い合わせることによって指袋を形成しており、それによって指相互間の摺動性が高く、グリップ性が良好となる構成を実現している。
【0046】
以上の結果、この実施の形態の構成によれば、当該フェンシング用手袋の甲部面側の上記ハンド部Aの指部1(親指部1aを除く、人差し指部1bから小指部1eまでの4本の指部)から甲部2、ハンド部A及びカフ部B間の手首対応部3、カフ部Bの袖口部4後端までの全体が、相互に一体に連続する上下2枚の外装生地5で形成されるようになり、完全な1ピース構成の手袋構成とすることができ、ハンド部Aとカフ部Bとを別々に構成し、その後、両者を手首部に対応する位置で相互に縫い合わせて連結する場合のような連結用の縫い目(図7の31,32)がなくなる。したがって、そのような縫い目による段差(凹凸部)も生じない。
【0047】
また、甲部2の外周面にも、従来のような衝撃吸収用パッド90の後部辺縫い付け用の縫い目22による段差(凹凸部)がなくなり、完全なフラット面に形成することができる。図1図2図6における符号91は、衝撃吸収用パッド90縫い付け用の縫い目の全体を示しており、これを見ると明らかなように、指部1側の縫い目部91aを除いて、長手方向の段差を形成する左右方向に延びる縫い目部は全く形成されていない。
【0048】
したがって、手首部に対応する連結部での縫い合わせによる段差(凹凸部)や衝撃吸収用パッド後部辺の縫い付けによる段差(凹凸部)に対戦相手の剣先が突き当てられて相手方のポイントになる問題(エペ競技の場合)や手袋が損傷しやすく、耐久性に欠ける、縫い目や凹凸部が多くデザイン的に煩雑になるなどの問題(エペ、フルーレ、サーブルの各競技に共通)も確実に解消することができる。
【0049】
一方、この実施の形態の構成の場合、上記甲部面と反対側のパーム部面側(以下、カフ部Bの下部面側をも含めて単にパーム部面側と表現する)では、例えば図5及び図6に示すように、甲部面側とは異なって、パーム部Cとカフ部Bが生地を異にする相互に別体の2ピース部材により構成され、手首部に対応する部分3で相互に縫い合わされることにより一体に連結されている。
【0050】
この場合、パーム部C側は、親指部1aから小指部1eの各々及びパーム部Cのほぼ全体が、例えばポリウレタン(登録商標)及びナイロン(登録商標)などよりなる強靭であって、滑りにくく、柔軟性・弾力性があって手指の曲げ伸ばしが容易な合成生地(合皮等)11により形成されていて、特に強度が必要な部分には、さらに所定の形状、所定の材質の補強材12、13、14、15、16が縫い付けられている。なお、親指部1aの場合、その全体が上記甲部面と反対側のパーム部面側に位置して設けられているが、その甲部面側の全体5aは上記甲部面側の外装生地5と同じ上下2枚の生地51、52で形成されている。
【0051】
上記のようにハンド部Aにおける甲部2と反対側のパーム部Cは、例えば強靭で滑り止め機能の高い合成生地11を用いて構成されているが、一方、上記カフ部Bにおけるパーム部面側(下面側)は、上記カフ部Bの甲部面側の外装生地5(51,52)と内装生地12(121,122,123)を一側部側(図2の左側部側)から他側部側(図2の右側部側)に筒状に延設し、同延接端側部分で他側部側の生地と面ファスナー7、8を介して相互に接合されるようになっている。図5中の符号10は、面ファスナー7、8の相互に対応して係合する起毛部を示している。
【0052】
すなわち、この場合、上記カフ部Bの他側部側(図2の右側部側)には、パーム部面側(下面側)にかけて所定の幅の面ファスナー7が縫い付けられている一方、上記一側部側(図2の左側部側)からこのカフ部Bの他側部側(図2の右側部側)に向けて筒状に延設される延接端にも対応する所定の幅の面ファスナー8が縫い付けられている。そして、それらを利用して相互に接合されるようになっている。甲部2の裏面側から見た図3の構成におけるカフ部B左側の縦方向の縫い合わせ部(オーバーロック部)12bは、上記カフ部Bの他側部側(図2の右側部側)面ファスナー7の縫い付け部を示している。また、図3中のカフ部B右側部の符号12dは、上記カフ部Bの一側部側から他側部側への外装生地5及び内装生地12の延設開始部(基端部)を示している。
【0053】
このような構成の場合、上述のようにハンド部A及びカフ部Bを甲部面側で一体に構成するようにした場合にも、パーム部面側(下面側)では従来同様にハンド部A及びカフ部Bを別体に構成し、その後相互に縫い合わせて一体化する場合に近い状態で構成することができる。したがって、比較的容易に仕上げることができる。
【0054】
すなわち、上記カフ部Bの甲部面側一側部からパーム部面側他側部に筒状に延設されたカフ部Aの外装生地5(51,52)及び内装生地12(121,122,123)は、それぞれその前端側で上記パーム部C後端の合成生地11と縫い合わされて一体化されている。
【0055】
つまり、この実施の形態の構成の場合、当該手袋の甲部面側ではハンド部A及びカフ部Bを完全に一体に構成しているが、その反対側のパーム部C面側及びカフ部B下面側では、それぞれ従来同様の2ピースに近い状態で縫製することができるようになっている。そのため、例えば上記ハンド部Aの甲部2外装生地5(51,51)の内側に上述した内装生地12(121,122,123)を利用して衝撃吸収用パッド90を縫い付け、またパーム部Cに強くて滑り止め機能の高いポリウレタン製の合成生地11を採用し、特に補強が必要な部分に、さらに所定の形状、所定の材質の各種の補強材12,13,14,15,16を縫い付けるなどの作業も容易に行うことができる。また、カフ部Aを手首部のタイトさを調節するために分割構造にして面ファスナー7、8で所望に接合できるようにすることも容易に実現することができる。
【0056】
つまり、この実施の形態の構成によれば、従来のハンド部Aとカフ部Bが完全に分割されたツーピース構造における縫製の容易さを失わせることなく、実質的に1ピース構造で、縫い目部による段差がなく、デザイン的にも優れた、コストパフォーマンスの良いフェンシング用手袋を容易に実現することができる。
【0057】
しかも、上記のように、甲部面側一側部からパーム部面側の他側部に筒状に延設されたカフ部Aの外装生地5(51,51)及びその内側の内装生地12(121,122,123)は、それぞれその前端側で上記パーム部C後端の合成生地11と縫い合わされて一体化されている。
【0058】
つまり、この実施の形態のフェンシング用手袋では、図5及び図6から明らかなように、ハンド部Aとカフ部B間の手首に対応する部分3の略1/2部分(パーム部側)には従来同様の縫い目部61,62を備えた縫い合わせ部6が設けられている。したがって、その縫い目部61,62部分を利用して手首部に対応した所望の絞りを入れ、従来同様に装着時における手首部のタイトさを実現することも可能である。
【0059】
もちろん、この縫い目部61,62部分には、当然ながら若干の段差部(凹凸部)が形成されるが、この段差部(凹凸部)は当該フェンシング用手袋の内側に位置し、競技時において対戦相手の剣先が届く場所ではないので、特に問題とはならない。また、ユーザーの注意を惹くフェンシング用手袋の主たるデザイン面は甲部面側であり、甲部面側のデザインをすっきりとしたものにできることは製品としても極めて有益である。
【符号の説明】
【0060】
Aはハンド部(手部)
Bはカフ部(袖部)
1は指部
2は甲部
3は手首部に対応する部分
4は袖口部
5はハンド部及びカフ部の甲部面側の外装生地
7はカフ部基端側の面ファスナー
8はカフ部延設端側の面ファスナー
12はカフ部の内装生地
90は衝撃吸収用パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8