(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025288
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20240216BHJP
【FI】
H01L31/04 112B
H01L31/04 182Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128625
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田辺 克明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 裕
(72)【発明者】
【氏名】西ヶ谷 紘佑
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA02
5F151AA03
5F151AA11
5F151CB13
5F151CB30
5F151GA04
5F151GA11
(57)【要約】
【課題】全ての製造工程を常温常圧下で行うことが可能な、PEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】太陽電池の製造方法は、n型Si基板10をフッ酸に浸漬して、Si基板両面にある自然酸化膜を除去する工程(A)、Si基板の一方の表面に導電性ペーストを塗布して第1の電極30aを形成する工程(B)、Si基板の他方の表面にPEDOT:PSS溶液を塗布してp型PEDOT:PSS層20を形成する工程(C)、及びPEDOT:PSS層表面に導電性ペーストを塗布して第2の電極30bを形成する工程(D)を含み、Si基板のドーピング濃度は、5×10
18~5×10
19cm
-3の範囲にあり、工程(A)後であって、工程(C)前に、Si基板を超純水に浸漬して、Si基板の他方の表面に酸化膜を形成する工程(E)を含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池の製造方法であって、
n型のSi基板をフッ酸に浸漬して、前記Si基板の両面にある自然酸化膜を除去する工程(A)と、
前記Si基板の一方の表面に、導電性ペーストを塗布して、第1の電極を形成する工程(B)と、
前記Si基板の他方の表面に、PEDOT:PSS溶液を塗布して、p型のPEDOT:PSS層を形成する工程(C)と、
前記PEDOT:PSS層の表面に、導電性ペーストを塗布して、第2の電極を形成する工程(D)と
を含み、
前記Si基板におけるn型不純物のドーピング濃度は、5×1018cm-3~5×1019cm-3の範囲にあり、
前記工程(A)の後であって、前記工程(C)の前に、前記Si基板を超純水に浸漬して、少なくとも前記Si基板の他方の表面に酸化膜を形成する工程(E)をさらに含み、
前記工程(A)~前記工程(E)は、全て、常温常圧下で実行される、太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記工程(E)は、前記工程(B)の後に実行される、請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記工程(E)において、前記Si基板を超純水に浸漬する時間は、前記Si基板の他方の表面に形成される酸化膜の厚みが、0.1nm~1nmの範囲になるように制御される、請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記工程(C)において、前記PEDOT:PSS層の膜厚は、100nm~450nmの範囲に形成される、請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン系や化合物半導体系の太陽電池は、製造プロセスの中で、高温・低圧にする工程があるため、製造コストが高くなり、生産性も低いことから、広く普及を進めることが難しい。一方の有機半導体は、塗布によって積層できるため,従来のpn接合形成に必要な加熱が不要であり、製造工程が大幅に短縮されるため、低コスト・ハイスループットな太陽電池として注目されている。
【0003】
有機半導体を用いた太陽電池として、p型のpoly(3,4-ethylenedioxythiophene) polystyrene sulfonate(PEDOT:PSS)と、n型のSi基板とのヘテロ接合構造を有する太陽電池が開発されている(非特許文献1)。
【0004】
このような構造の太陽電池は、Si基板にPEDOT:PSS溶液を塗布、乾燥させることによって、容易にpn接合を形成することができる。また、電極も、Si基板及びPEDOT:PSS層の表面に、それぞれ、導電性ペーストを塗布することによって、容易に形成することができる。これにより、太陽電池を、低コストで、ハイスループットに製造することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. P. Thomas et al., Adv. Funct. Mater. 24, 4978 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池では、発電性能を得るために、ドーピング濃度が、1016cm-3程度の半絶縁性のSi基板が用いられている。そのため、Si基板の表面に導電性ペーストを塗布して電極を形成する場合、Si基板と電極との界面で、実用に適した低抵抗なオーミックコンタクトを得るためには、導電性ペーストを塗布した後、高温でアニールを行う必要がある。そのため、全ての製造工程を、常温常圧下で行って、太陽電池を製造する方法は、未だ確立されていない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、その主な目的は、全ての製造工程を、常温常圧下で行い、発電効率が高く、低コスト、かつハイスループットに製造することが可能な、PEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る太陽電池の製造方法は、PEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池の製造方法であって、n型のSi基板をフッ酸に浸漬して、Si基板の両面にある自然酸化膜を除去する工程(A)と、Si基板の一方の表面に、導電性ペーストを塗布して、第1の電極を形成する工程(B)と、Si基板の他方の表面に、PEDOT:PSS溶液を塗布して、p型のPEDOT:PSS層を形成する工程(C)と、PEDOT:PSS層の表面に、導電性ペーストを塗布して、第2の電極を形成する工程(D)とを含み、Si基板におけるn型不純物のドーピング濃度は、5×1018cm-3~5×1019cm-3の範囲にあり、工程(A)の後であって、工程(C)の前に、Si基板を超純水に浸漬して、少なくともSi基板の他方の表面に酸化膜を形成する工程(E)をさらに含み、工程(A)~工程(E)は、全て、常温常圧下で実行される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、全ての製造工程を、常温常圧下で行い、発電効率が高く、低コスト、かつハイスループットに製造することが可能な、PEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】n型Si基板に電極を形成し、伝送線路法を用いて電気抵抗率を測定した結果を示したグラフである。
【
図2】本発明の一実施形態におけるPEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池の構造を模式的に示した断面図である。
【
図3】PEDOT:PSS層の構造式を示した図である。
【
図4】太陽電池の電流-電圧特性を測定した結果を示したグラフである。
【
図5A】製造プロセスAで作製した太陽電池の構造を模式的に示した図である。
【
図5B】製造プロセスBで作製した太陽電池の構造を模式的に示した図である。
【
図5C】製造プロセスCで作製した太陽電池の構造を模式的に示した図である。
【
図5D】製造プロセスDで作製した太陽電池の構造を模式的に示した図である。
【
図6A】Si基板のドーピング濃度を10
16cm
-3にした場合のPEDOT:PSS/Si接合のバンド構造を示した図である。
【
図6B】Si基板のドーピング濃度を10
19cm
-3にした場合のPEDOT:PSS/Si接合のバンド構造を示した図である。
【
図6C】Si基板のドーピング濃度を10
19cm
-3にすると共に、PEDOT:PSS層とSi基板との界面に酸化膜が形成された場合のPEDOT:PSS/Si接合のバンド構造を示した図である。
【
図7】本発明の一実施形態における太陽電池の製造方法を模式的に示した断面図である。
【
図8】製造プロセスDで作製した太陽電池において、Si基板を超純水に浸漬した時間を変えたときの発電効率の変化を測定した結果を示したグラフである。
【
図9】製造プロセスDで作製した太陽電池において、PEDOT:PSS層の膜厚を変えたときの発電効率の変化を測定した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を説明する前に、本願発明者等が、本発明を想到するに至った経緯を説明する。
【0012】
上述したように、PEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池では、十分な発電効率を得るために、ドーピング濃度が、1016cm-3程度の半絶縁性のSi基板が用いられている。
【0013】
図1は、ドーピング濃度を変化させたn型Si基板に、銀ペーストを塗布して電極を形成し、伝送線路法を用いて電気抵抗率を測定した結果を示したグラフである。矢印Aで示したグラフは、Si基板におけるn型不純物のドーピング濃度が、2×10
15cm
-3の場合のグラフで、矢印Bで示したグラフは、ドーピング濃度が、2×10
19cm
-3の場合のグラフである。
【0014】
図1に示すように、電極間隔を変えても電気抵抗率が変わらないことから、測定した電気抵抗率は、Si基板のバルク抵抗よりも、Si基板と電極との界面抵抗を反映しているもと考えられる。従って、
図1に示すように、導電性のSi基板(2×10
19cm
-3)の界面抵抗率は、絶縁性のSi基板(2×10
15cm
-3)の界面抵抗率よりも、2桁以上低いことが分かる。すなわち、導電性のSi基板を用いることによって、銀ペーストを塗布した後、高温でアニールを行わなくても、常温で、Si基板と電極との界面で、実用に適した低抵抗なオーミックコンタクトを得ることが可能となる。
【0015】
なお、Si基板と電極との界面で、実用に適した低抵抗なオーミックコンタクトを得るためには、Si基板におけるn型不純物のドーピング濃度は、5×1018cm-3~5×1019cm-3の範囲にあることが好ましい。
【0016】
しかしながら、導電性のSi基板を用いた場合、p型のPEDOT:PSS層と、n型のSi基板とのヘテロ接合を形成しても、十分な空乏層の幅が得られない。そのため、光によって空乏層で励起した電子は、トンネル効果によって、Si基板とPEDOT:PSS層との界面のエネルギー障壁を乗り越えて、PEDOT:PSS層に移動するため、十分な発電効率を得ることができない。
【0017】
そこで、本願発明者等は、Si基板とPEDOT:PSS層との界面に、電位障壁となる酸化膜を設けることによって、トンネル効果の影響を抑制し、これにより、発電効率を高めることができると考えた。すなわち、導電性のSi基板を用いた場合でも、Si基板の表面に、電位障壁となる酸化膜を設けることによって、発電効率の高い、PEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池を、常温常圧下で製造することが可能になると考え、本発明を想到するに至った。
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態におけるPEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池の構造を模式的に示した断面図である。
【0020】
図2に示すように、本実施形態における太陽電池1は、n型のSi基板10と、Si基板10の下面(一方の表面)に形成された下部電極(第1の電極)30aと、Si基板10の上面(他方の表面)に形成されたp型のPEDOT:PSS層20と、PEDOT:PSS層20の表面に形成された上部電極(第2の電極)30bとを備えている。
【0021】
PEDOT:PSS層20は、
図3に示す構造式のように、PEDOT(poly(3,4-ethylenedioxythiophene))と、PSS(polystyrene sulfonate)との複合体(PEDOT:PSS)からなり、PEDOTのカチオンがキャリアとなってp型の導電性を示す。
【0022】
PEDOT:PSS層20は、Si基板10に、PEDOT:PSSに有機溶媒を添加したPEDOT:PSS溶液を塗布することによって形成することができる。また、PEDOT:PSS層20の導電性を高めるために、PEDOT:PSSに、DMSO(dimetyl sulfoxide)を添加してもよい。
【0023】
下部電極30a及び上部電極30bは、それぞれ、Si基板の下面、及びPEDOT:PSS層の表面に、導電性ペーストを塗布することにより形成することができる。導電性ペーストは、例えば、熱硬化性樹脂(例えば、アクリル樹脂等)に、導電性粉末(例えば、銀粉末等)を配合したものを使用することができる。
【0024】
このような構造の太陽電池を製造する製造プロセスは、以下の3つの工程に大別できる。
【0025】
A.n型のSi基板10の下面に、導電性ペーストを塗布して、下部電極30aを形成する工程
B.Si基板10の表面に、PEDOT:PSS溶液を塗布して、p型のPEDOT:PSS層20を形成する工程
C.PEDOT:PSS層20の上面に、導電性ペーストを塗布して、上部電極30bを形成する工程
ただし、上部電極30bを形成する工程Cは、PEDOT:PSS層20を形成する工B程の直後に行わなければならないという制約があるため、工程順序としては2つだけとなる。
【0026】
Si基板10とPEDOT:PSS層20との界面に、電位障壁となる酸化膜を設けることによる効果を検証するために、表1に示す製造プロセスA~Dに従って太陽電池を作製し、作製した太陽電池の特性を評価した。なお、酸化膜の形成は、Si基板10を、超純水に一定時間浸漬することにより行った。
【0027】
【0028】
表1に示すように、まず、最初に、全ての製造プロセスA~Dにおいて、前処理工程として、Si基板10をフッ酸に浸漬して、Si基板10の両面にある自然酸化膜を除去する工程(フッ酸処理工程)を行った。
【0029】
製造プロセスAは、フッ酸処理工程の後、PEDOT:PSS塗布工程、上部電極形成工程、及び下部電極形成工程の順序で行った。
【0030】
製造プロセスBは、フッ酸処理工程の後、下部電極形成工程、PEDOT:PSS塗布工程、及び上部電極形成工程の順序で行った。
【0031】
製造プロセスCは、製造プロセスBにおいて、下部電極形成工程の前に、Si基板10を超純水に浸漬する工程(超純水処理工程)を行った。
【0032】
製造プロセスDは、製造プロセスBにおいて、下部電極形成工程の後、上部電極形成工程の前に、Si基板10を超純水に浸漬する工程(超純水処理工程)を行った。
【0033】
なお、各工程は、全て、常温常圧下において、以下の条件で行った。
【0034】
(1)Si基板
片面研磨されたn型Siウェハ(厚さ:280mm、結晶面方位:<100>、ドーパント:リン、ドーピング濃度:2×1019cm-3)を用意し、このSiウェハを、8mm角のSi片(以下、Si片を「Si基板」という)に切り出した。
【0035】
(2)フッ酸処理工程
Si基板を、フッ酸水溶液(10wt%)に60秒浸漬して、Si基板の両面にある自然酸化膜を除去した。
【0036】
(3)PEDOT:PSS塗布工程
PEDOT:PSS水溶液(3.0-4.0w/v%、Sigma-Aldrich社製) に、DMSO(富士フィルム和光純薬社製)を5v/v%の濃度に混合し、このPEDOT:PSS溶液を、Si基板の研磨された面に、スピンコーターで、2000rpmの回転速度で60秒間塗布した。その後、Si基板を室温、大気中で30分間放置し、PEDOT:PSS層を乾燥させた。
【0037】
(4)上部電極及び下部電極形成工程
Agペースト(ドータイト(D-362)、藤倉化成社製)を、Si基板及びPEDOT:PSS層の下面、及び、PEDOT:PSSの表面に、平筆を用いて塗布した。
【0038】
(5)超純水処理工程
PEDOT:PSS塗布工程の前であって、下部電極形成工程の前、または下部電極形成工程の後に、Si基板を、超純水に60秒浸漬した。
【0039】
[太陽電池の特性評価]
図4は、作製した太陽電池の電流-電圧特性を測定した結果を示したグラフである。測定は、エアマス1.5で、照度強度が100mW/cm
2の条件で行った。矢印A、B、C、及びDで示したグラフは、それぞれ、製造プロセスA、B、C、及びDで作製した太陽電池の測定結果を示す。
【0040】
また、表2は、製造プロセスA、B、C、及びDで作製した太陽電池の特性パラメータを示す。
【0041】
【0042】
図4及び表2に示すように、製造プロセスC及びDで作製した太陽電池は、製造プロセスA及びBで作製した太陽電池よりも、発電効率が高く、電池性能が優れていることが分かる。
【0043】
図5A、5B、5C、及び5Dは、それぞれ、製造プロセスA、B、C、及びDで作製した太陽電池の構造を模式的に示した図で、Si基板10の表面状態を示したものである。
【0044】
図5A及び5Bに示すように、製造プロセスA及びBで作製した太陽電池では、Si基板10の表面をフッ酸処理して、自然酸化膜を除去した後、Si基板10の上面に、PEDOT:PSS層20を形成した結果、PEDOT:PSS層20と接するSi基板10の表面は、水素(H)で終端されている。
【0045】
一方、
図5C及び5Dに示すように、製造プロセスC及びDで作製した太陽電池では、Si基板10の表面をフッ酸処理した後、Si基板10の上面にPEDOT:PSS層20を形成する前に、Si基板10の上面を超純水処理した結果、PEDOT:PSS層20と接するSi基板10の表面の一部は、水酸基(OH)で終端されている。すなわち、PEDOT:PSS層20と接するSi基板10の表面は、緩やかに酸化されている。
【0046】
図6A~6Cは、PEDOT:PSS/Si接合のバンド構造を示した図で、
図6Aは、Si基板10のドーピング濃度を10
16cm
-3にした場合を示し、
図6Bは、Si基板10のドーピング濃度を10
19cm
-3にした場合、
図6Cは、Si基板10のドーピング濃度を10
19cm
-3にするとともに、PEDOT:PSS層20とSi基板10との界面に酸化膜(SiO
2)が形成された場合を示す。
【0047】
図6Aに示すように、ドーピング濃度が10
16cm
-3の半絶縁性のSi基板10を用いた場合、PEDOT:PSS/Si接合において、空乏層の幅が広くなっているため、十分な発電効率が得られる。しかしながら、
図6Bに示すように、ドーピング濃度が10
19cm
-3の導電性のSi基板10を用いた場合、空乏層の幅が狭くなっているため、空乏層で励起した電子は、トンネル効果によって、エネルギー障壁を乗り越えて、PEDOT:PSS層20に移動し、その結果、十分な発電効率が得られない。
【0048】
一方、
図6Cに示すように、ドーピング濃度が10
19cm
-3の導電性のSi基板10を用いた場合でも、PEDOT:PSS層20と接するSi基板10の表面に、電位障壁となる酸化膜を形成することによって、トンネル効果の影響を抑制し、高い発電効率を得ることが可能となる。
【0049】
このような理由から、製造プロセスC及びDで作製した太陽電池は、
図5C及び5Dに示すように、PEDOT:PSS層20とSi基板10との界面に酸化膜が存在することによって、製造プロセスA及びBで作製した太陽電池よりも、高い発電効率が得られたものと考えられる。
【0050】
また、
図4及び表2に示すように、製造プロセスDで作製した太陽電池は、製造プロセスCで作製した太陽電池よりも、発電効率がさらに高いことが分かる。これは、製造プロセスCでは、下部電極を形成する前に、超純水処理を行っているため、
図5Cに示すように、Si基板10と下部電極30aとの界面にも酸化膜が存在するのに対し、製造プロセスDでは、下部電極30aを形成した後、超純水処理を行っているため、
図5Dに示すように、Si基板10と下部電極30aとの界面には酸化膜が存在していないため、Si基板10と下部電極30aとの界面抵抗が低かったためと考えられる。このことから、製造プロセスDは、PEDOT:PSS層20とSi基板10との界面に酸化膜を存在させ、Si基板10と下部電極30aとの界面には酸化膜が存在させない最適な製造プロセスと考えられる。
【0051】
図7は、本実施形態における太陽電池の製造方法を模式的に示した断面図である。
【0052】
まず、
図7(a)に示すように、n型のSi基板10をフッ酸(HF)に浸漬して、Si基板10の両面にある自然酸化膜を除去する。
【0053】
次に、
図7(b)に示すように、Si基板10の下面(一方の表面)に、導電性ペーストを塗布して、第1の電極30aを形成する。
【0054】
次に、
図7(c)に示すように、Si基板10を超純水(H
2O)に浸漬して、Si基板10の上面(他方の表面)に酸化膜(不図示)を形成する。
【0055】
次に、
図7(d)に示すように、Si基板10の上面に、PEDOT:PSS溶液を塗布して、p型のPEDOT:PSS層20を形成する。
【0056】
最後に、
図7(e)に示すように、PEDOT:PSS層20の表面に、導電性ペーストを塗布して、第2の電極30bを形成する。
【0057】
ここで、Si基板10は、導電性を有し、n型不純物のドーピング濃度は、5×1018cm-3~5×1019cm-3の範囲にある。また、上記工程は、全て、常温常圧下で実行される。なお、本実施形態において、「常温」とは、特に冷却や加熱をしない状態の温度を意味し、代表的には、室温を指す。また、「常圧」とは、特に加圧や減圧をしない状態の圧力を意味し、代表的には大気圧を指す。
【0058】
本実施形態によれば、導電性のSi基板10を用いた場合でも、PEDOT:PSS層20と接するSi基板10の表面に、電位障壁となる酸化膜を形成することによって、発電効率の高い、PEDOT:PSS/Siヘテロ接合構造を有する太陽電池を、常温常圧下で製造することが可能になる。
【0059】
なお、上記の製造方法において、Si基板10を超純水に浸漬して、Si基板10の上面に酸化膜を形成する工程は、Si基板10をフッ酸に浸漬して、Si基板10の両面にある自然酸化膜を除去する工程の後であって、Si基板10の下面に、導電性ペーストを塗布して、第1の電極30aを形成する工程の前に行ってもよい。
【0060】
[超純水浸漬時間と発電効率との関係]
図8は、製造プロセスDで作製した太陽電池において、下部電極30aを形成した後に、Si基板10を、超純水に浸漬した時間を変えたときの発電効率の変化を測定した結果を示したグラフである。
【0061】
図8に示すように、浸漬時間を長くすると、発電効率は増加するが、浸漬時間が60秒を超えると、発電効率は徐々に低下していく。これは、上述したように、PEDOT:PSS層20と接するSi基板10の表面に、電位障壁となる酸化膜を形成することによって、発電効率が増加するが、浸漬時間が長くなって、形成される酸化膜が厚くなると、直列抵抗が高くなるため、発電効率が徐々に低下したものと考えられる。
【0062】
高い発電効率を得るためには、浸漬時間を、酸化膜の厚みが、0.1nm~1nmの範囲になるように制御することが好ましい。酸化膜の厚みが、0.1nm未満だと、トンネル効果の影響を抑制する効果が生じないため、好ましくない。また、酸化膜の厚みが、1nmを超えると、電気的絶縁性が高くなり発電効率が低下してしまうため、好ましくない。
【0063】
[PEDOT:PSS層の膜厚と発電効率との関係]
図9は、製造プロセスDで作製した太陽電池において、PEDOT:PSS層20の膜厚を変えたときの発電効率の変化を測定した結果を示したグラフである。PEDOT:PSS層20の膜厚は、Si基板10にPEDOT:PSS溶液を塗布するときのスピンコーターの回転速度を変えることによって調整した。また、PEDOT:PSS層20の膜厚は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した。
【0064】
図9に示すように、高い発電効率を得るためには、PEDOT:PSS層20の膜厚を、100nm~450nmの範囲に制御することが好ましい。PEDOT:PSS層20の膜厚が100nm未満だと、キャリアが電極に到達するための水平方向の十分な導電率、あるいは、十分な空乏層の幅が得られないため、好ましくない。また、PEDOT:PSS層20の膜厚が450nmを超えると、PEDOT:PSS層による光の吸収による損失が大きくなるため、好ましくない。
【0065】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 太陽電池
10 Si基板
20 PEDOT:PSS層
30a 下部電極(第1の電極)
30b 上部電極(第2の電極)