(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025301
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】切断機
(51)【国際特許分類】
B27B 5/29 20060101AFI20240216BHJP
B23D 45/04 20060101ALI20240216BHJP
B23D 45/02 20060101ALI20240216BHJP
B27B 5/20 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B27B5/29 A
B23D45/04 A
B23D45/02 A
B27B5/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128649
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】今吉 正英
(72)【発明者】
【氏名】長田 淑晃
【テーマコード(参考)】
3C040
【Fターム(参考)】
3C040AA01
3C040BB01
3C040BB13
(57)【要約】
【課題】切断性能を向上する。
【解決手段】卓上丸鋸10では、ヘッド部60の後側スライド位置で且つヘッド部60の全ての揺動位置において、鋸刃66の中心線CLが、フェンス30の支持面30Aよりも後側に配置されている。つまり、ヘッド部60の後側スライド位置では、ヘッド部60の上死点と下死点との間の全て揺動位置において、鋸刃66の下端66Aが、フェンス30の支持面30Aよりも後側に配置される。これにより、溝入れ加工時における切り残しを抑制できる。したがって、卓上丸鋸10の切断性能を向上することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工材が載置されるベースと、
モータと、左右方向を板厚方向とする円板状に形成され且つ前記モータの駆動によって回転して前記加工材を切断する鋸刃と、を有する切断部と、
前記ベースに対して前記切断部を上死点と下死点との間で上下方向に揺動可能に支持する揺動支持部と、
前記ベースに対して前記切断部を前側スライド位置と後側スライド位置との間で前後方向にスライド可能に支持するスライド支持部と、
前記ベースに設けられ、前記加工材を後側から支持する支持面を有するフェンスと、
を備え、
前記切断部が前記後側スライド位置で且つ前記下死点に位置するときに、前記鋸刃の中心が、前後方向で前記支持面と同様の位置または前記支持面よりも後側に位置する切断機。
【請求項2】
前記鋸刃の下端が前記ベースの載置面より下方に位置するときに、前記鋸刃の中心が前記支持面よりも後側に位置する請求項1に記載の切断機。
【請求項3】
前記切断部の前記後側スライド位置で且つ前記上死点、前記下死点、及びその間の揺動位置において、前記鋸刃の中心が前記支持面よりも後側に位置する請求項1に記載の切断機。
【請求項4】
前記切断部が前記前側スライド位置で且つ前記上死点と前記下死点との間の任意の位置において、前記鋸刃の中心が前記支持面よりも前側に位置する請求項1に記載の切断機。
【請求項5】
前記切断部は、揺動軸を中心として上下方向に揺動可能に構成され、
前記揺動軸が、上下方向において、前記切断部が上死点に位置する際の前記鋸刃の中心の位置と、前記切断部が下死点に位置する際の前記鋸刃の中心の位置との間に位置する請求項1に記載の切断機。
【請求項6】
前記切断部の揺動により、前記鋸刃の中心が前方に膨らむ弓形の軌道を描くように構成される請求項5に記載の切断機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載の切断機では、切断部が、前後方向にスライド可能に且つ上下方向に揺動可能に、ベースに連結されている。切断部の丸鋸刃を回転させ、切断部をベースに対してスライド又は揺動させることで、ベースに載置された加工材に対して切断加工を施す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、加工材に対する切断加工の前処理として、加工材の上面に溝入れ加工を施すことで、加工材の切断面の仕上げを良好にすることができる。この溝入れ加工では、切断部を加工材に対して後側へスライドすることで、丸鋸刃によって加工材の上面に溝部を形成する。
【0005】
ここで、溝入れ加工では、上下方向における切断部の揺動位置によって、溝入れ加工時の切残しが発生する可能性がある。すなわち、溝部を加工材の前後方向の全体に亘って形成することができない可能性がある。この場合には、切断機の切断性能が低下する。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、切断性能を向上することができる作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、加工材が載置されるベースと、モータと、左右方向を板厚方向とする円板状に形成され且つ前記モータの駆動によって回転して前記加工材を切断する鋸刃と、を有する切断部と、前記ベースに対して前記切断部を上死点と下死点との間で上下方向に揺動可能に支持する揺動支持部と、前記ベースに対して前記切断部を前側スライド位置と後側スライド位置との間で前後方向にスライド可能に支持するスライド支持部と、前記ベースに設けられ、前記加工材を後側から支持する支持面を有するフェンスと、を備え、前記切断部が前記後側スライド位置で且つ前記下死点に位置するときに、前記鋸刃の中心が、前後方向で前記支持面と同様の位置または前記支持面よりも後側に位置する切断機である。
【0008】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、前記鋸刃の下端が前記ベースの載置面より下方に位置するときに、前記鋸刃の中心が前記支持面よりも後側に位置する切断機である。
【0009】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、前記切断部の前記後側スライド位置で且つ前記上死点、前記下死点、及びその間の揺動位置において、前記鋸刃の中心が前記支持面よりも後側に位置する切断機である。
【0010】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、前記切断部が前記前側スライド位置で且つ前記上死点と前記下死点との間の任意の位置において、前記鋸刃の中心が前記支持面よりも前側に位置する切断機である。
【0011】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、前記切断部は、揺動軸を中心として上下方向に揺動可能に構成され、前記揺動軸が、上下方向において、前記切断部が上死点に位置する際の前記鋸刃の中心の位置と、前記切断部が下死点に位置する際の前記鋸刃の中心の位置との間に位置する切断機である。
【0012】
本発明の1又はそれ以上の実施形態は、前記切断部の揺動により、前記鋸刃の中心が前方に膨らむ弓形の軌道を描くように構成される切断機である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の1又はそれ以上の実施形態によれば、切断性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る卓上丸鋸を模式的に示す左側から見た側面図である。
【
図2】
図1に示される卓上丸鋸の右側から見た側面図である。
【
図3】
図1に示される卓上丸鋸においてヘッド部を前側スライド位置にスライドした状態を示す側面図である。
【
図4】
図3に示される卓上丸鋸においてヘッド部を下死点へ揺動させた状態を示す側面図である。
【
図5】
図4に示される卓上丸鋸においてヘッド部を後側スライド位置にスライドさせた状態を示す側面図である。
【
図6】
図1に示される卓上丸鋸を用いた溝入れ加工を説明するための側面図である。
【
図7】比較例の卓上丸鋸を用いた溝入れ加工を説明するための側面図である。
【
図8】(A)は、揺動切断時に生じる毛羽立ちを説明するための説明図であり、(B)は、スライド切断時に生じる毛羽立ちを説明するための説明図であり、(C)は、溝入れ加工時に生じる毛羽立ちを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて、本実施形態に係る切断機としての卓上丸鋸10について説明する。なお、図面に適宜示される矢印UP、矢印FRは、それぞれ卓上丸鋸10の上側、前側を示している。以下の説明において、上下、前後の方向を用いて説明するときには、特に断りのない限り、卓上丸鋸10の上下方向、前後方向を示すものとする。また、
図1における紙面手前方向を卓上丸鋸10の左側としており、
図2における紙面手前方向を卓上丸鋸10の右側としている。
【0016】
図1~
図5に示されるように、卓上丸鋸10は、加工材Wに切断加工を施す装置として構成されている。卓上丸鋸10は、ベース20と、フェンス30と、丸鋸本体40と、を含んで構成されている。以下、卓上丸鋸10の各構成について説明する。
【0017】
(ベース20について)
ベース20は、卓上丸鋸10の下端部を構成し、加工材Wを載置する台として構成されている。ベース20は、ベース本体22及びターンテーブル24を有している。ベース本体22は、上下方向を厚み方向とする略平盤状に形成されており、ベース本体22の左右方向中央部には、上側へ開放された凹部22Aが形成されている。
【0018】
ターンテーブル24は、前後方向に延在されている。ターンテーブル24の中央部が、ベース本体22の凹部22A内に収容され、上下方向を軸方向としてベース本体22に回転可能に支持されている。ターンテーブル24の上面は、ベース本体22の上面と面一に配置されている。
【0019】
(フェンス30について)
フェンス30は、左右方向に延在された略矩形ブロック状に形成されて、ベース20の上側に配置されている。フェンス30の前面は、支持面30Aとして構成されており、支持面30Aは、前後方向に対して直交する面に沿って配置されている。加工材Wに対する切断加工時には、加工材Wをベース20の上面(載置面)に載置し、加工材Wを支持面30Aに前側から押し当てて、ベース20及びフェンス30に対する加工材Wの位置を決定するようになっている。
【0020】
(丸鋸本体40について)
丸鋸本体40は、支持機構42と、切断部としてのヘッド部60と、を含んで構成されている。
【0021】
支持機構42は、第1ヒンジ機構44、スライド支持部としてのスライド機構50、及び揺動支持部としての第2ヒンジ機構56を有している。第1ヒンジ機構44は、上下方向に延在された支持柱45を主要部として構成されている。支持柱45は、前後方向を軸方向とする連結軸46によって、ターンテーブル24の後端部に回転可能に連結されている。支持柱45には、クランプ機構47が設けられており、クランプ機構47によって、支持柱45がターンテーブル24に固定されている。そして、作業者が、クランプ機構47のノブ48を操作することで、支持柱45に対する固定状態を解除して、ベース20に対する支持柱45の角度を設定できるように構成されている。支持柱45の上部は、上側へ向かうに従い右側に傾斜しており、支持柱45の上端部が、支持柱45の下端部に対して右側にずれた位置に配置されている。
【0022】
スライド機構50は、上下一対のスライド軸51と、スライダ53と、を含んで構成されている。スライド軸51は、前後方向を軸方向として配置され、スライド軸51の後端部が支持柱45の上端部に固定されて、スライド軸51が支持柱45から前側へ延出している。スライド軸51の前端部には、上下方向に延在された軸連結部材52が設けられており、軸連結部材52によって、上下一対のスライド軸51が連結されている。
【0023】
スライダ53は、スライダ本体部53Aと、スライダ本体部53Aから左側へ延出されたヒンジベース部53Bと、を有しており、ヒンジベース部53Bが、後述する第2ヒンジ機構56の一部を構成している。スライダ本体部53Aは、スライド軸51に前後方向にスライド可能に連結されている。具体的には、スライダ本体部53Aは、支持柱45の上端部の前側に隣接配置される後側スライド位置(
図1、
図2、及び
図5に示される位置)と、軸連結部材52の後側に隣接配置される前側スライド位置(
図3及び
図4に示される位置)と、の間を移動可能に構成されている。スライダ本体部53Aには、スライド軸51に当接可能に構成された固定ネジ54(
図2参照)設けられており、固定ネジ54の先端部がスライド軸51に当接することで、スライダ53が、前側スライド位置と後側スライド位置との間の任意のスライド位置で固定されるようになっている。
【0024】
第2ヒンジ機構56は、スライダ53に設けられたヒンジベース部53Bと、ヘッド部60を揺動可能に支持するための揺動軸としてのヒンジ軸57と、を含んで構成されている。ヒンジ軸57は、左右方向を軸方向として、ヒンジベース部53Bの上側に配置されると共に、スライダ53に固定されている。そして、ヘッド部60の後端部が、ヒンジ軸57によって、ヒンジベース部53Bに揺動可能に支持されている。具体的には、ヘッド部60が、上死点(
図1~
図3に示される位置)と下死点(
図4及び
図5に示される位置)との間を上下方向に揺動可能に構成されている。ヒンジ軸57には、トーションスプリングとして構成された付勢バネ58が装着されており、付勢バネ58によってヘッド部60が上側(上支点側)へ付勢されている。また、ヘッド部60は、図示しない保持機構によって、上死点に保持されており、作業者の操作によってヘッド部60が上死点から下死点へ揺動される。ヘッド部60は、前後方向においてスライダ53と一体移動可能に連結されているため、ヘッド部60が、ベース20に対して前側スライド位置と後側スライド位置との間を前後方向にスライド可能に構成されている。
【0025】
ヘッド部60には、ヘッド部60の下死点の位置を調整するための下死点位置調整ボルト61が設けられている。下死点位置調整ボルト61は、スライド軸51の前方側において略上下方向を軸方向として配置され、ヘッド部60に螺合されている。そして、ヘッド部60の下死点において、下死点位置調整ボルト61の下端部がヒンジベース部53Bに当接することで、ヘッド部60の下側への揺動が規制される構成になっている(
図4及び
図5参照)。これにより、下死点位置調整ボルト61を回転させて、ヘッド部60に対する下死点位置調整ボルト61の上下位置を調整することで、ヘッド部60の下死点位置を調整できるようになっている。
【0026】
また、ヘッド部60には、後述する鋸刃66の加工材Wに対する切込み深さを調整するための切込み用調整ボルト62及びストッパ70が設けられている。切込み用調整ボルト62は、下死点位置調整ボルト61と平行に配置され、下死点位置調整ボルト61に回転可能に連結された回転部材63に螺合されている。ストッパ70は、左右方向を軸方向として所定の角度範囲で回転(揺動)可能となっている。
図1、
図3、
図4、及び
図5では、ストッパ70は、退避位置(後方位置)に位置し、
図6では、ストッパ70が、規制位置(前方位置)に位置している。後述する溝入れ加工時には、回転部材63を回転させて、切込み用調整ボルト62を下死点位置調整ボルト61の後側に配置し、ヘッド部60の上死点と下死点との間の位置において、ストッパ70を介して切込み用調整ボルト62の下端部をヒンジベース部53Bに当接させることで、鋸刃66の下側への揺動を規制し、溝入れ加工時における加工材Wに対する切込み深さを調整するようになっている。なお、ストッパ70を退避位置とした場合には、少し深い溝入れ加工となる。
【0027】
ヘッド部60の上端部には、左側へ突出したモータ収容部60Aが形成されており、モータ収容部60A内には、モータ64が収容されている。ヘッド部60の前端部には、ハンドル部60Bが形成されており、ハンドル部60Bには、トリガ65が引き操作可能に設けられている。また、ハンドル部60B内には、図示しないスイッチが設けられており、トリガ65が引き操作されたときには、スイッチがオンされる構成になっている。スイッチ及びモータ64は、図示しないコントローラに電気的に接続されている。これにより、トリガ65の引き操作時には、コントローラによってモータ64が駆動する。
【0028】
ヘッド部60には、ハンドル部60Bの後側で且つモータ収容部60Aの下側において、鋸刃66が設けられている。鋸刃66は、左右方向を板厚方向とする略円板状に形成されている。鋸刃66の中央部は、鋸刃固定ボルト67によって、ヘッド部60に設けられた伝達機構68に固定されており、伝達機構68は、モータ64の駆動力を鋸刃66に伝達して、鋸刃66を鋸刃66の中心線(回転軸心)CL回りに回転方向一方側(
図1の矢印A方向側)へ回転させる構成になっている。ヘッド部60の上死点では、鋸刃66(
図2の上側に配置された鋸刃66を参照)の中心線CLは、ヒンジ軸57の中心よりも上側に位置し、ヘッド部60の下死点では、鋸刃66(
図2の下側に配置された鋸刃66を参照)の中心線CLが、ヒンジ軸57の中心よりも下側に位置している。このように構成した本実施の形態における、上死点から下死点にヘッド部60を動作させた際の中心線CLの軌道(位置変化)をTとして2点鎖線で図示する(
図2のみ)。軌跡Tは、前方へ膨らむような弓形の形状を成す。すなわち、本実施の形態では、ヘッド部60の上死点から下死点への揺動時には、鋸刃66の中心線CLが一旦前側へ変位するように設定されている。このように構成することで、ヘッド部60の揺動に伴う中心線CL(鋸刃66の中心位置)の前後方向にかかる移動量を小さくすることができる。例えば、ヒンジ軸57の中心が、ヘッド部60の下死点時における中心線CLよりも下側に位置する場合、ヘッド部60の揺動によって中心線CLの位置は後方から前方にかけて大きく動くこととなり、中心線CLの位置を支持面30Aよりも後方に位置させることが困難となる可能性があるが、本実施の形態ではこのような課題を解決できる。また、ヘッド部60の下死点では、鋸刃66の下端66Aが、ベース20の上面よりも下側に位置するように設定されて、鋸刃66によって加工材Wに対する切断加工が施される。なお、ターンテーブル24の上面には、切断加工時に鋸刃66が挿入される溝部(図示省略)が形成されている。フェンス30は、鋸刃66との干渉を回避するための左右方向に2分割されている。
【0029】
ヘッド部60には、鋸刃66の後側において、ダクト部69が一体に形成されている。ダクト部69は、ゴム等の弾性材によって構成されると共に、略筒状に形成されている。ダクト部69の一端部は、ダクト入口部69Aとして構成され、ダクト入口部69Aは、前側から見て上側へ開放された略U字形状に形成されて、鋸刃66側へ開口している。ダクト部69の他端部69Bには、図示しないダストバッグが取付けられるように構成されている。そして、切断加工時において、鋸刃66から後側へ飛散する切り粉等の粉塵が、ダクト入口部69Aからダクト部69内に挿入され、ダストバッグ内に排出されるようになっている。
【0030】
(前後方向における鋸刃66とフェンス30との位置関係について)
次に、前後方向における鋸刃66とフェンス30との位置関係について説明する。卓上丸鋸10におけるヘッド部60の後側スライド位置では、ヘッド部60の上死点と下死点との間の何れの位置においても、鋸刃66の中心線CLが、フェンス30の支持面30Aよりも後側に位置している(
図1、
図2、及び
図5参照)。また、卓上丸鋸10におけるヘッド部60の前側スライド位置では、ヘッド部60の上死点と下死点との間の何れの位置においても、鋸刃66の中心線CLが、フェンス30の支持面30Aよりも前側に位置している(
図3及び
図4参照)。
【0031】
(作用効果)
次に、本実施の形態の作用及び効果について説明する。
【0032】
上記のように構成された卓上丸鋸10の切断加工では、ヘッド部60をベース20に対して上下方向に揺動させて加工材Wを切断する揺動切断と、ヘッド部60をベース20に対して前後方向にスライドさせて加工材Wを切断するスライド切断と、の2つの切断がある。また、加工材Wにおける切断面の仕上げを良好にするため、揺動切断又はスライド切断の前処理として、溝入れ加工を行う場合がある。以下、揺動切断、スライダ切断、及び溝入れ加工について説明する。なお、卓上丸鋸10の切断加工では、加工材Wをフェンス30の前側においてベース20の上面に載置する。そして、加工材Wを後側へ移動して、加工材Wの後面をフェンス30の支持面30Aに押し当てる。これにより、切断加工時等におけるベース20及びフェンス30に対する加工材Wの位置が決定される。
【0033】
(揺動切断について)
卓上丸鋸10の揺動切断では、
図1に示されるように、ヘッド部60及びスライダ53を後側スライド位置に配置すると共に、固定ネジ54によってスライダ53を後側スライド位置に固定する。なお、この状態では、ヘッド部60が、上死点に保持されている。そして、作業者によって、ヘッド部60を、上死点から下死点に揺動させる(
図5参照)。これにより、鋸刃66によって、加工材Wが上方側から切断される。
【0034】
(スライド切断について)
卓上丸鋸10のスライド切断では、
図3に示されるように、ヘッド部60及びスライダ53を前側スライド位置に配置すると共に、スライダ53の後側へのスライドを許容した状態にする。なお、この状態では、ヘッド部60が、上死点に保持されている。そして、作業者によって、ヘッド部60を、上死点から下死点に揺動させる(
図4参照)。この状態で、ヘッド部60及びスライダ53を、後側へスライドさせて、後側スライド位置に配置させる(
図5参照)。これにより、鋸刃66によって、加工材Wが前方側から切断される。
【0035】
(溝入れ加工について)
卓上丸鋸10を用いた溝入れ加工では、加工材Wの上面に所定深さの溝を形成する。この加工では、切込み用調整ボルト62を用いて、溝入れ加工時の深さを設定する。そして、スライド切断と同様に、ヘッド部60及びスライダ53を前側スライド位置に配置すると共に、スライダ53の後側へのスライドを許容した状態にする。なお、この状態では、ヘッド部60が、上死点に保持されている。そして、作業者によって、ヘッド部60を、上死点から下側へ揺動させ、切込み用調整ボルト62がヒンジベース部53Bに当接した位置に配置する。この状態で、ヘッド部60及びスライダ53を、後側へスライドさせて、後側スライド位置に配置させる(
図6参照)。これにより、鋸刃66によって、加工材Wの上面に溝部(
図6においてハッチングが施された部分を参照)が形成される。つまり、溝入れ加工は、ヘッド部60の揺動位置を上死点と下死点との間の位置で固定した状態でのスライド切断である。なお、詳細は後述するが、溝入れ加工は単に材料の表面に溝を形成するための加工のほか、切断時における毛羽立ち発生を抑制するための前処理加工としても行われるものである。
【0036】
ここで、本実施形態の卓上丸鋸10では、ヘッド部60の後側スライド位置で且つヘッド部60の全ての揺動位置において、鋸刃66の中心線CLが、フェンス30の支持面30Aよりも後側に配置されている。つまり、ヘッド部60の後側スライド位置では、ヘッド部60の上死点と下死点との間の全て揺動位置において、鋸刃66の下端66A(
図2参照)が、フェンス30の支持面30Aよりも後側に配置される。これにより、溝入れ加工時における切り残しを抑制できる。したがって、卓上丸鋸10の切断性能を向上することができる。
【0037】
すなわち、
図7に示される比較例の卓上丸鋸100のように、仮に、ヘッド部60の後側スライド位置で且つ全ての揺動位置において、鋸刃66の中心線CLが、フェンス30の支持面30Aよりも前側に配置された場合には、鋸刃66の下端66Aが、フェンス30の支持面30Aよりも前側に配置される。このため、比較例の卓上丸鋸100のように、ヘッド部60の後側スライド位置において、支持面30Aと鋸刃66の中心線CLとの間の前後距離が長くなると、溝入れ加工時における切り残しが、加工材Wの上面に発生する。この場合には、加工材Wを前後に反転させて、切り残し部に溝部を形成する必要がある。したがって、比較例の卓上丸鋸100では、切断性能が低下する可能性がある。なお、
図7に示される卓上丸鋸100では、本実施の形態と同様に構成されている部材に同一の符号を付している。
【0038】
これに対して、本実施形態の卓上丸鋸10では、上述のように、ヘッド部60の後側スライド位置で且つヘッド部60の全ての揺動位置において、鋸刃66の中心線CLが、フェンス30の支持面30Aよりも後側に配置されている。これにより、溝入れ加工時にヘッド部60が後側スライド位置に到達したときには、鋸刃66の下端66Aが、加工材Wよりも後側に配置される。その結果、溝入れ加工時おける切り残しを抑制又は防止できる。したがって、卓上丸鋸10の切断性能を向上することができる。なお、鋸刃66は、所定の半径を有する円板状に形成されている。このため、比較例の卓上丸鋸100では、下死点において、鋸刃66の中心線CLが、フェンス30の支持面30Aよりも前側に配置されても、鋸刃66の後部(中心線CLよりも後側部分)によって、加工材Wに対する切断加工を完了することができる。
【0039】
また、本実施形態の卓上丸鋸10では、加工材Wの化粧面に応じて、揺動切断又はスライド切断を選択して、加工材Wのベース20に対する向きを変更する必要がなくなる。すなわち、例えば、比較例の卓上丸鋸100では、揺動切断において、切断加工による毛羽立ち(
図8(A)の2点鎖線にて示される矢印参照)が加工材W(
図8(A)の2点鎖線にて示される加工材Wを参照)の上面に発生し、スライド切断において、切断加工による毛羽立ち(
図8(B)の2点鎖線にて示される矢印参照)が加工材W(
図8(B)の2点鎖線にて示される加工材Wを参照)の上面に発生する。すなわち、比較例の卓上丸鋸100では、揺動切断及びスライド切断の何れの切断加工においても、毛羽立ちが加工材Wの上面に発生する。このため、比較例の卓上丸鋸100では、加工材Wの化粧面が下面となるように、加工材Wをベース20に対して配置する必要がある。これに対して、本実施形態では、揺動切断において、切断加工による毛羽立ち(
図8(A)の実線にて示される矢印参照)が加工材W(
図8(A)の実線にて示される加工材Wを参照)の下面に発生し、スライド切断において、切断加工による毛羽立ち(
図8(B)の実線にて示される矢印参照)が加工材W(
図8(B)の実線にて示される加工材Wを参照)の上面に発生する。このため、本実施形態の卓上丸鋸10では、加工材Wの化粧面に対応する揺動切断又はスライド切断を選択することで、加工材Wのベース20に対する向きを変更する必要がなくなる。換言すれば、加工材W(の特に後端部分)における毛羽立ちの発生方向を、前後方向のスライド位置の変更、及び切断方法(揺動切断またはスライド切断)の選択によって変えることができ、作業性が向上する。特に、本実施の形態では、鋸刃66の中心線CLが、フェンス30の支持面30Aよりも前側に位置する状態と、後側に位置する状態の両方で、スライダ53の位置を固定ネジ54によって固定可能である。従って、毛羽立ちの発生方向をスライダ53の前後方向位置によって調整した揺動切断が可能となる。
【0040】
また、切断時においては、鋸刃66の一部(刃先)が加工材Wに入り込み、加工材Wの表面から出ていく様態となる。この「加工材Wの表面から鋸刃66が出ていく」際に、加工材Wの表面に毛羽立ち(バリ、ささくれ)が発生する。発生した毛羽立ちの数、大きさ、高さは、加工材Wから鋸刃66(の刃先)がどの方向に出ていくかに影響する。より詳細には、加工材Wの表面から、鋸刃66(の刃先)が垂直に出ていく場合には毛羽立ちが起こりやすい(数が多く、または大きく、または高くなりやすい)。一方、加工材Wの表面に沿って鋸刃66が出ていく場合には毛羽立ちが起こりにくい。つまり、
図8(B)で示すように、下死点でのスライド切断は加工材Wの上面に毛羽立ちが起こりやすく、
図8(C)で示すように溝入れ加工では毛羽立ちが起こりにくい(鋸刃66の出ていく方向が、
図8(C)の破線矢印となる)。このため、一度溝入れ加工を施してから、(下死点での)スライド切断を行うことで、加工材Wの上面での毛羽立ち発生を抑制しながら加工材Wを切断することができる。従って、溝入れ加工はスライド切断時における前処理として有効である。前述したように、従来では溝入れ加工の際は切り残しが発生してしまい、これによって加工材Wの向きを変えるなどの対応を取る必要があったが、本実施の形態ではこのような対応を省略できるため、作業性が向上する。すなわち、溝入れ加工の後、そのままヘッド部60の揺動位置規制を解除してスライド切断に移行できるため、作業性なお、本実施の形態では、切込み用調整ボルト62を回転させて位置変更することで、溝入れ加工の際の溝入れ深さが微調整可能となっている。
【0041】
なお、本実施形態では、ヘッド部60の後側スライド位置で且つヘッド部60の全ての揺動位置において、鋸刃66の中心線CLが、フェンス30の支持面30Aよりも後側に配置されているが、少なくとも、ヘッド部60の後側スライド位置で且つ下死点において、鋸刃66の中心線CLをフェンス30の支持面30Aよりも後側に配置するように設定してもよい。換言すると、少なくとも、ヘッド部60が後側スライド位置に位置し且つ鋸刃66の下端66Aがヘッド部60の上面(載置面)よりも下側に位置するときに、鋸刃66の中心線CLが、フェンス30の支持面30Aよりも後側に配置するように設定してもよい。すなわち、本実施の形態では、上述のように、ヘッド部60の上死点から下死点への揺動時には、ヘッド部60が一旦前側へ変位する。一方、鋸刃66は、所定の半径を有する円板状に形成されている。このため、溝切り加工では、鋸刃66の下端66Aよりも後側部分の刃部(
図6の矢印Bにて示される部分を参照)によって溝を形成することができる。よって、ヘッド部60が一旦前側へ変位する変位量を、
図6の矢印Bで示される範囲よりも短くなるように設定することで、ヘッド部60の後側スライド位置で且つ下死点において、鋸刃66の中心線CLをフェンス30の支持面30Aよりも後側に配置させても、溝切り加工時における切り残しを抑制できる。
【符号の説明】
【0042】
10 卓上丸鋸(切断機)
20 ベース
30 フェンス
30A 支持面
50 スライド機構(スライド支持部)
56 第2ヒンジ機構(揺動支持部)
57 ヒンジ軸(揺動軸)
60 ヘッド部(切断部)
64 モータ
66 鋸刃
W 加工材