(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025305
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/10 20160101AFI20240216BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240216BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20240216BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240216BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B60W20/10
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/06 900
B60W10/08 900
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128656
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誉竜
(72)【発明者】
【氏名】大久 千華子
(72)【発明者】
【氏名】赤木 浩夫
(72)【発明者】
【氏名】福田 真人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 甲一
(72)【発明者】
【氏名】原田 直樹
【テーマコード(参考)】
3D202
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB01
3D202BB11
3D202BB53
3D202CC02
3D202CC22
3D202DD05
3D202DD16
3D202DD18
3D202DD24
3D202DD31
3D202DD32
3D202DD45
3D202FF07
3D202FF13
(57)【要約】
【課題】エンジントルクの低下に伴ってトルク配分を変化させる過渡時に、実際のトルクと目標トルクとの乖離を抑制する。
【解決手段】車両の制御装置は、モータ5と、エンジン4と、コントローラ20と、を備え、コントローラは、車両の目標トルクから目標エンジントルクを、予め定めた分配ルールに従い分配する第1制御と、所定の第1条件が成立したときに、目標エンジントルクを低下させる第2制御とをそれぞれ実行する。コントローラは、第2制御により目標エンジントルクを低下させるとき、低下後の目標エンジントルクに基づいて、未来における気筒への吸入空気量を予測すると共に、予測した吸入空気量に基づいて、第2制御開始後の未来におけるエンジンのトルクを予測し、予測したエンジンのトルクに基づいて、未来において車両の目標トルクが達成されるよう、第2制御による低下分を補完した目標モータトルクを設定する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力が供給されて車両走行用のトルクを発生させるモータと、
気筒内において燃料を燃焼させて車両走行用のトルクを発生させるエンジンと、
前記モータ又は前記エンジンから入力された回転を、選択された変速段に対応する変速比で変速させて出力する自動変速機と、
アクセル操作信号を受けると共に、アクセル操作に対応する制御信号を、前記モータ及び前記エンジンへ出力するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記アクセル操作に対応する車両の目標トルクを設定すると共に、当該車両の目標トルクから目標エンジントルクを、予め定めた分配ルールに従い分配する第1制御と、
前記エンジンのトルク変動が所定以上になる第1条件が成立したときに、前記第1制御において決定した前記目標エンジントルクを低下させる第2制御と、
をそれぞれ実行しかつ、前記エンジンへ、前記目標エンジントルクに対応する制御信号を出力する車両の制御装置であって、
前記コントローラは、前記第2制御により前記目標エンジントルクを低下させるとき、
低下後の前記目標エンジントルクに基づいて、現時点よりも未来における前記気筒への吸入空気量を予測すると共に、予測した吸入空気量に基づいて、前記第2制御開始後の未来における前記エンジンのトルクを予測し、
予測した前記エンジンのトルクに基づいて、未来において前記車両の目標トルクが達成されるよう前記第2制御による低下分を補完した目標モータトルクを設定しかつ、前記モータへ、前記目標モータトルクに対応する制御信号を出力する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記自動変速機は、前記モータ又は及び前記エンジンの少なくとも一方が発生させた走行用トルクが、トルクコンバータを介さずに入力されるように構成され、
前記コントローラと電気的に接続されかつ、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサと、
前記コントローラと電気的に接続されかつ、実エンジントルクを検出するエンジントルクセンサと、を備え、
前記コントローラは、前記エンジン回転数が第1閾値以下かつ、前記実エンジントルクが第2閾値以下であるときに、前記第1条件が成立したと判定する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両の制御装置において、
前記コントローラは、
前記目標エンジントルクに基づいて、前記第2制御によって生じる前記エンジンのスロットル弁の開度の変化を予測し、
予測した前記スロットル弁の開度と、前記エンジンのインテークマニホールドの圧力とから、前記スロットル弁を通過する空気量を予測し、
予測した前記スロットル弁を通過する空気量から、前記インテークマニホールド内の空気量を予測し、
予測した前記インテークマニホールド内の空気量から、前記気筒への吸入空気量を予測する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の制御装置において、
前記コントローラは、
前記目標エンジントルクに基づいて、前記第2制御によって生じる前記エンジンの吸気弁の開閉時期の変化を予測し、
予測した前記吸気弁の開閉時期から、充填効率を予測し、
予測した充填効率と、予測した前記インテークマニホールド内の空気量とから、前記気筒への吸入空気量を予測する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の車両の制御装置において、
前記車両に搭載され、前記モータに電力を供給する高電圧バッテリを備え、
前記コントローラは、前記高電圧バッテリのSOCが第3閾値未満の場合には、前記第2制御の実行を制限する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項2に記載の車両の制御装置において、
前記自動変速機において選択可能な変速段のうち、後退速及びニュートラルを除いた各変速段は、
最低速を含んだ第1領域と、
前記第1領域よりも高速側の第2領域と、
前記第2領域よりも高速側の第3領域と、に分類され、
前記第2領域における前記第1閾値は、前記第1領域における前記第1閾値と、前記第3領域における前記第1閾値と、の双方に比べて高く設定される
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両の制御装置において、
前記後退速における前記第1閾値は、前記第2領域における前記第1閾値と等しい
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載の車両の制御装置において、
前記第3領域は、2つ以上の変速段を含み、
前記第3領域における高速側の変速段では、低速側の変速段に比して、前記第1閾値は低く設定される
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項9】
請求項2に記載の車両の制御装置において、
前記自動変速機において選択可能な変速段のうち、後退速及びニュートラルを除いた各変速段は、
最低速を含んだ第1領域と、
前記第1領域よりも高速側の第2領域と、
前記第2領域よりも高速側の第3領域と、に分類され、
前記第2領域における前記第2閾値は、前記第1領域における前記第2閾値と、前記第3領域における前記第2閾値と、の双方に比べて高く設定される
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載の車両の制御装置において、
前記後退速における前記第2閾値は、前記第2領域における前記第2閾値と等しい
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項11】
請求項9に記載の車両の制御装置において、
前記第3領域は、2つ以上の変速段を含み、
前記第3領域における高速側の変速段では、低速側の変速段に比して、前記第1閾値は低く設定される
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項12】
請求項2に記載の車両の制御装置において、
前記コントローラと電気的に接続されかつ、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサを備え、
前記コントローラは、前記第2制御の実行に際し、前記エンジン回転数が高いときには、低いときに比して前記目標エンジントルクの低下量を低く設定する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンと、モータジェネレータと、を備えたハイブリッド車両が開示されている。このハイブリッド車両の制御装置は、ギヤの歯面にかかるトルクの変動に起因した歯打ち音の発生を抑制するために、歯打ち音抑制制御を実行する。
【0003】
具体的に、前記特許文献1に係る制御装置が歯打ち音抑制制御を実行すると、エンジントルクの平均値が低下すると共に、そのエンジントルクだけでは不足する分のトルクを、モータジェネレータが補完トルクとして出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に開示されているような歯打ち音抑制制御が実行されると、エンジントルクの低下に伴って、エンジン及びモータが発生すべき合計の目標トルク(車両の目標トルク)のうち、エンジンが出力すべきトルク(エンジントルク)と、モータが出力すべきトルク(モータトルク)と、の配分が変化することになる。
【0006】
ところが、一般的に、エンジンとモータではトルク応答が相違する。そのため、トルク配分を変化させる過渡時において、エンジン及びモータが実際に発生させた合計トルクと、合計の目標トルクとの間に乖離を招く可能性がある。そうした乖離は、いわゆるトルク段差を招くため不都合である。
【0007】
そこで、デバイス間の通信速度、空気の流動、燃料噴射、点火タイミング等、エンジンにおいて考えられ得る種々の遅延時間を予め実験で求め、その遅延時間を用いてエンジン及びモータのトルク応答を同期させることも考えられる。しかしながら、エンジンの状態に応じて応答遅れが複雑に変化することを考慮すると、上述したような遅延時間を正確に求めること自体が困難であるため、そうした遅延時間を用いて同期させるのは容易ではない。
【0008】
これに対し、エンジントルクの変化量に制限を課すことも考えられる。この場合、エンジントルクの急変が抑制され、遅延時間を用いて同期させるのが容易になるものの、トルク増大が遅れを伴う以上、車両のドライバビリティが悪くなる。
【0009】
また、エンジントルクをフィードバック制御することで、目標トルクとの間の乖離に起因したトルク段差を小さくすることも考えられるが、結局のところ後追いに過ぎず、過渡時の初期に生じた乖離については解消することはできない。
【0010】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジントルクの低下に伴ってトルク配分を変化させる過渡時に、実際のトルクと目標トルクとの乖離を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一般に、モータは、エンジンと比べて応答性に優れる。本願発明者らは、トルク配分が変化する過渡時に、エンジンが実際に出力するトルク(実エンジントルク)を検出しながら目標エンジントルクとの差分を求め、その差分がモータトルクによって補完されるよう、目標モータトルクを補正することを考えた。目標モータトルクを補正することで、過渡時に生じる乖離は、商品性が確保できる水準まで抑制できると考えられる。
【0012】
しかしながら、実エンジントルクの検出及び上記差分の算出には時間を要する。この算出を行っている間にも、実エンジントルクは刻々と変化する。そのため、目標モータ駆動力への反映は、後追いとなってしまう。
【0013】
その結果、車両全体の目標トルク(エンジン及びモータの合計の目標トルク)と、その目標トルクに対応した実トルクとの間には、大きな乖離が残ってしまう。したがって、実エンジントルクに基づいてモータ駆動力を制御する手法では、課題解決が困難である。
【0014】
そこで、本願発明者らは、エンジントルクの変化を先読みすることによって、現時点よりも未来におけるエンジントルクを予測し、予測したエンジントルクに基づいて、現時点よりも未来における目標モータトルクを設定する技術思想を着想した。本願発明者らは、その技術思想を実現する制御の構築を進め、ここに開示する技術を完成させるに至った。
【0015】
具体的に、本開示の第1の態様は、電力が供給されて車両走行用のトルクを発生させるモータと、気筒内において燃料を燃焼させて車両走行用のトルクを発生させるエンジンと、前記モータ又は前記エンジンから入力された回転を、選択された変速段に対応する変速比で変速させて出力する自動変速機と、アクセル操作信号を受けると共に、アクセル操作に対応する制御信号を、前記モータ及び前記エンジンへ出力するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記アクセル操作に対応する車両の目標トルクを設定すると共に、当該車両の目標トルクから目標エンジントルクを、予め定めた分配ルールに従い分配する第1制御と、前記エンジンのトルク変動が所定以上になる第1条件が成立したときに、前記第1制御において決定した前記目標エンジントルクを低下させる第2制御と、をそれぞれ実行しかつ、前記エンジンへ、前記目標エンジントルクに対応する制御信号を出力する車両の制御装置に係る。
【0016】
そして、前記第1の態様によれば、前記コントローラは、前記第2制御により前記目標エンジントルクを低下させるとき、低下後の前記目標エンジントルクに基づいて、現時点よりも未来における前記気筒への吸入空気量を予測すると共に、予測した吸入空気量に基づいて、前記第2制御開始後の未来における前記エンジンのトルクを予測し、予測した前記エンジンのトルクに基づいて、未来において前記車両の目標トルクが達成されるよう、前記第2制御による低下分を補完した目標モータトルクを設定しかつ、前記モータへ、前記目標モータトルクに対応する制御信号を出力する。
【0017】
この構成の車両は、モータ及びエンジンを備えている車両であり、いわゆるハイブリッド車両である。コントローラは、アクセル操作に対応する車両の目標トルクが達成されるよう、車両の目標トルクを、目標エンジントルク及び目標モータトルクに分配する。エンジンが目標エンジントルクを出力し、モータが目標モータトルクを出力する。エンジン及びモータが、車両の目標トルクを実現する。
【0018】
コントローラは、目標エンジントルクを、予め定めた分配ルールに従い分配する(第1制御)。分配ルールは、例えばバッテリのSOCに基づくルールである。バッテリは、モータへ電力を供給するために車両に搭載される。コントローラは、SOCが高い場合は、バッテリの放電を優先するため、目標エンジントルクが小さくかつ、目標モータトルクが大きくなるようにし、SOCが低い場合は、バッテリの充電を優先するため、目標エンジントルクが大きくかつ、目標モータトルクが小さくなるようにしてもよい。コントローラは、エンジンへ、目標エンジントルクに対応する制御信号を出力する。エンジンは、目標エンジントルクを出力するよう運転する。
【0019】
コントローラは、所定の第1条件が成立したときに、第1制御において決定された目標エンジントルクを低下させる(第2制御)。この制御は、ギヤの歯面にかかるトルクの変動に起因した歯打ち音の発生を抑制するための、いわゆる歯打ち音抑制制御に相当する。コントローラ20は、第2制御の実行に際し、車両の目標トルクを保持したまま、目標エンジントルクを低下させる。目標エンジントルクが変わると、エンジンは、例えばスロットル弁の開度を変更させ、それによって、気筒への吸入空気量が変わる。気筒への吸入空気量が変わるとエンジントルクが変わる。
【0020】
ここで、車両の目標トルクを保持するためには、目標エンジントルクを低下させた分、モータトルクを増加させることが求められる。目標トルクの配分を変更してから、スロットル弁の開度変更及び吸入空気量の変更を経て、エンジントルクが実際に変わるまでには、タイムラグが生じる。
【0021】
目標エンジントルクの変更に対する、スロットル弁の開度変化は、例えばスロットル弁の特性(例えば機械的な特性を含む)を予め特定しておくことによって予測できる。現時点よりも未来におけるスロットル弁の開度変化が予測できれば、未来における吸入空気量が予測でき、吸入空気量が予測できれば、未来におけるエンジンのトルクが予測できる。コントローラは、目標エンジントルクに基づいて、未来におけるエンジンのトルクを予測する。
【0022】
コントローラはまた、未来におけるエンジンのトルクを予測すれば、未来において車両の目標トルクが達成されるよう、第2制御による低下分を補完した目標モータトルクを設定する。その際、車両の目標トルクは、第1条件の成立前の値に保持してもよい。そうして設定される目標モータトルクは、トルク配分を変化させた後(第2制御の開始後)における、エンジンのトルク応答の遅れを補完する。
【0023】
コントローラは、モータへ、目標モータトルクに対応する制御信号を出力する。モータのトルク応答は一般的に早いため、モータは、未来において目標モータトルクに対応するトルクを出力できる。その結果、車両の目標トルクを保持しつつ、エンジントルクとモータトルクとの配分を変化させることができる。
【0024】
高応答のモータがエンジンの応答遅れを補完するため、前記の制御装置では、トルク配分の変化に対するトルク変化の応答遅れが抑制される。
【0025】
また、実際のエンジントルクではなく、未来におけるエンジントルクを予測し、予測した未来におけるエンジントルクに基づいて、目標モータトルクが設定される。設定される目標モータトルクは、実際のエンジントルクの変化に対する後追いではない。前記の制御装置では、エンジントルクの低下に伴ってトルク配分を変化させる過渡時であっても、実際のトルクと目標トルクとの乖離を無くす、又は、実質的に無くすことができる。
【0026】
その結果、前記の車両の制御装置は、運転者のドライバビリティを向上させる。
【0027】
また、本開示の第2の態様によれば、前記自動変速機は、前記モータ又は及び前記エンジンの少なくとも一方が発生させた走行用トルクが、トルクコンバータを介さずに入力されるように構成され、前記コントローラと電気的に接続されかつ、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサと、前記コントローラと電気的に接続されかつ、実エンジントルクを検出するエンジントルクセンサと、を備え、前記コントローラは、前記エンジン回転数が第1閾値以下かつ、前記実エンジントルクが第2閾値以下であるときに、前記第1条件が成立したと判定する、としてもよい。
【0028】
自動変速機は、いわゆるトルコンレス型の自動変速機である。一般に、トルコンレス型の自動変速機は、トルクコンバータを具備する自動変速機に比して歯打ち音が懸念される。
【0029】
これに対し、前記第2の態様によると、簡易な条件設定でありながらも、高精度かつ適切なタイミングで第2制御を行うことができる。これにより、歯打ち音を抑制する上で有利になる。
【0030】
また、本開示の第3の態様によれば、前記コントローラは、前記目標エンジントルクに基づいて、前記第2制御によって生じる前記エンジンのスロットル弁の開度の変化を予測し、予測した前記スロットル弁の開度と、前記エンジンのインテークマニホールドの圧力とから、前記スロットル弁を通過する空気量を予測し、予測した前記スロットル弁を通過する空気量から、前記インテークマニホールド内の空気量を予測し、予測した前記インテークマニホールド内の空気量から、前記気筒への吸入空気量を予測する、としてもよい。
【0031】
第2制御後のスロットル弁の開度の変化は、例えばスロットル弁の機械特性を予め特定しておくことによって予測できる。現時点よりも未来におけるスロットル開度が予測できれば、スロットル弁よりも下流のインテークマニホールドの圧力とスロットル弁よりも上流の吸気圧力とから、例えばベルヌーイの式を用いて、現時点よりも未来において、スロットル弁を通過する空気量が予測できる。尚、インテークマニホールドの圧力は、後述するインテークマニホールド内の空気量を、圧力に換算してもよい。また、例えば圧力センサが、スロットル弁よりも上流の吸気圧力を計測してもよい。
【0032】
スロットル弁を通過する空気量が予測できれば、インテークマニホールド内の空気量が予測でき、インテークマニホールド内の空気量が予測できれば、気筒への吸入空気量が予測できる。コントローラは、現時点よりも未来における気筒への吸入空気量を予測できる。
【0033】
また、本開示の第4の態様によれば、前記コントローラは、前記目標エンジントルクに基づいて、前記第2制御によって生じる前記エンジンの吸気弁の開閉時期の変化を予測し、予測した前記吸気弁の開閉時期から、充填効率を予測し、予測した充填効率と、予測した前記インテークマニホールド内の空気量とから、前記気筒への吸入空気量を予測する、としてもよい。
【0034】
第2制御後の吸気弁の開閉時期の変化は、吸気弁の開閉時期を変更する動弁機構の特性(例えば機械特性を含む)を予め特定しておくことによって予測できる。また、当該エンジンについて、吸気弁の開閉時期とエンジンの運転状態と充填効率との関係を、予め特定しておくことにより、予測した開閉時期に基づいて、コントローラは、充填効率を予測できる。
【0035】
充填効率が予測できれば、前述したインテークマニホールド内の空気量と、充填効率とから、気筒への吸入空気量が、より高精度に予測できる。コントローラは、現時点よりも未来における気筒への吸入空気量を、精度良く予測できる。
【0036】
また、本開示の第5の態様によれば、前記制御装置は、前記車両に搭載され、前記モータに電力を供給する高電圧バッテリを備え、前記コントローラは、前記高電圧バッテリのSOCが第3閾値未満の場合には、前記第2制御の実行を制限する、としてもよい。
【0037】
前記第5の態様によると、SOCが不足していてモータによる補完が困難であると考えられる場合、コントローラは、第2制御の実行を制限する。これにより、SOCが不足している場合であっても、車両の目標トルクを達成することができる。
【0038】
また、本開示の第6の態様によれば、前記自動変速機において選択可能な変速段のうち、後退速及びニュートラルを除いた各変速段は、最低速を含んだ第1領域と、前記第1領域よりも高速側の第2領域と、前記第2領域よりも高速側の第3領域と、に分類され、前記第2領域における前記第1閾値は、前記第1領域における前記第1閾値と、前記第3領域における前記第1閾値と、の双方に比べて高く設定される、としてもよい。
【0039】
本願発明者らが鋭意検討した結果、実験的に得られた知見によれば、トルコンレス型の自動変速機の場合、前述のように定義される第2領域では、自動変速機のギヤ比とイナーシャとの関係から、ねじり共振の発生が懸念される。高周波数域に共振点が存在するため、歯打ち音が発生し易い。
【0040】
そこで、前記第2領域では、第1閾値を相対的に高く設定することで、より早いタイミングで第2制御を開始したり、第2制御の実行を促したりすることができる。これにより、歯打ち音を抑制する上で有利になる。ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図ることができる。
【0041】
また、本開示の第7の態様によれば、前記後退速における前記第1閾値は、前記第2領域における前記第1閾値と等しい、としてもよい。
【0042】
本願発明者らが鋭意検討した結果、実験的に得られた知見によれば、トルコンレス型の自動変速機の場合、後退速は、前記第2領域と同様に、歯打ち音が発生し易い。
【0043】
そこで、前記後退速では、第1閾値を相対的に高く設定することで、より早いタイミングで第2制御を開始したり、第2制御の実行を促したりすることができる。これにより、歯打ち音を抑制する上で有利になる。ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図ることができる。
【0044】
また、本開示の第8の態様によれば、前記第3領域は、2つ以上の変速段を含み、前記第3領域における高速側の変速段では、低速側の変速段に比して、前記第1閾値は低く設定される、としてもよい。
【0045】
本願発明者らが鋭意検討した結果、実験的に得られた知見によれば、高速側の変速段では、暗騒音が隠れた結果、歯打ち音は運転者に届きにくくなる。また、共振点を考慮してもなお、歯打ち音の大きさは、問題無いレベルだった。
【0046】
そこで、前記第3領域の高速側では、第1閾値を相対的に低く設定する。これにより、第2制御の実行を抑制することができる。これにより、ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図る上で有利になる。
【0047】
また、本開示の第9の態様によれば、前記自動変速機において選択可能な変速段のうち、後退速及びニュートラルを除いた各変速段は、最低速を含んだ第1領域と、前記第1領域よりも高速側の第2領域と、前記第2領域よりも高速側の第3領域と、に分類され、前記第2領域における前記第2閾値は、前記第1領域における前記第2閾値と、前記第3領域における前記第2閾値と、の双方に比べて高く設定される、としてもよい。
【0048】
本願発明者らが鋭意検討した結果、実験的に得られた知見によれば、トルコンレス型の自動変速機の場合、前述のように定義される第2領域では、自動変速機のギヤ比とイナーシャとの関係から、ねじり共振の発生が懸念される。高周波数域に共振点が存在するため、歯打ち音が発生し易い。
【0049】
そこで、前記第2領域では、第2閾値を相対的に高く設定することで、より早いタイミングで第2制御を開始したり、第2制御の実行を促したりすることができる。これにより、歯打ち音を抑制する上で有利になる。ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図ることができる。
【0050】
また、本開示の第10の態様によれば、前記後退速における前記第2閾値は、前記第2領域における前記第2閾値と等しい、としてもよい。
【0051】
本願発明者らが鋭意検討した結果、実験的に得られた知見によれば、トルコンレス型の自動変速機の場合、後退速は、前記第2領域と同様に、歯打ち音が発生し易い。
【0052】
そこで、前記後退速では、第2閾値を相対的に高く設定することで、より早いタイミングで第2制御を開始したり、第2制御の実行を促したりすることができる。これにより、歯打ち音を抑制する上で有利になる。ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図ることができる。
【0053】
また、本開示の第11の態様によれば、前記第3領域は、2つ以上の変速段を含み、前記第3領域における高速側の変速段では、低速側の変速段に比して、前記第1閾値は低く設定される、としてもよい。
【0054】
本願発明者らが鋭意検討した結果、実験的に得られた知見によれば、高速側の変速段では、暗騒音が隠れた結果、歯打ち音は運転者に届きにくくなる。また、共振点を考慮してもなお、歯打ち音の大きさは、問題無いレベルだった。
【0055】
そこで、前記第3領域の高速側では、第2閾値を相対的に低く設定する。これにより、第2制御の実行を抑制することができる。これにより、ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図る上で有利になる。
【0056】
また、本開示の第12の態様によれば、前記制御装置は、前記コントローラと電気的に接続されかつ、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサを備え、前記コントローラは、前記第2制御の実行に際し、前記エンジン回転数が高いときには、低いときに比して前記目標エンジントルクの低下量を低く設定する、としてもよい。
【0057】
本願発明者らが鋭意検討した結果、実験的に得られた知見によれば、エンジン回転数が高いときには、低いときに比して歯打ちが発生にくい。したがって、エンジン回転数が高いときには、目標エンジントルクの低下量を、エンジン回転数が低いときに比して低く設定することが許容される。これにより、ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図る上で有利になる。
【発明の効果】
【0058】
以上説明したように、本開示に係る車両の制御装置は、エンジントルクの低下に伴ってトルク配分を変化させる過渡時に、実際のトルクと目標トルクとの乖離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図4】
図4は、車両の制御装置のブロック図である。
【
図5】
図5は、ハイブリッド自動車のモードに係るマップを示している。
【
図6】
図6は、コントローラの機能ブロックを示している。
【
図7】
図7は、トルク分配部の機能ブロックを示している。
【
図8】
図8は、エンジン制御部の機能ブロックを示している。
【
図9】
図9は、エンジン回転数と遅延時間との関係を示している。
【
図11】
図11は、エンジン回転数とトルク低下量との関係を示している。
【
図14】
図14は、第1条件の判定に係るフローチャートである。
【
図15】
図15は、制御装置の制御に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、車両の制御装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する制御装置は、例示である。
【0061】
(ハイブリッド自動車)
図1に、開示する技術を適用した自動車1(車両の一例)を示す。この自動車1は、電力を利用した走行が可能なハイブリッド自動車である。自動車1は、前輪2F及び後輪2Rの合計4つの車輪を有している。
【0062】
自動車1には、駆動源として、エンジン4及びモータ5が搭載されている。これらが協働して、後輪2Rを駆動する。それにより、自動車1は走行する。自動車1は、後輪駆動車両である。モータ5はまた、駆動源としてだけでなく、回生時には発電機としても利用される。
【0063】
この自動車1は、高電圧バッテリ9を搭載している。モータ5は、この高電圧バッテリ9から電力が供給されることにより、自動車1の走行用のトルク(車両走行用のトルク)を発生させる。高電圧バッテリ9には、給電口3を介して外部電源31が接続される。高電圧バッテリ9は、外部電源31によって充電される。自動車1は、いわゆるプラグインハイブリッド車である。なお、自動車1は、給電口3を省略したハイブリッド車であってもよい。
【0064】
この自動車1の場合、エンジン4は車体の前側に配置されており、駆動輪は車体の後側に配置されている。すなわち、この自動車1は、いわゆるFR車である。エンジン4は、気筒内において燃料を燃焼させて車両走行用のトルクを発生させる。
【0065】
自動車1には、エンジン4、モータ5の他、駆動系の装置として、K0クラッチ6、インバータ7、自動変速機8が備えられている。自動車1にはまた、制御系の装置として、コントローラ20が備えられている。
【0066】
(駆動系の装置)
エンジン4は、例えば化石燃料を燃焼させる内燃機関である。エンジン4はまた、吸気、圧縮、膨張、排気の各サイクルを繰り返すことで回転動力を発生させる、いわゆる4サイクルエンジンである。
【0067】
エンジン4は、火花点火式エンジンである。なお、エンジン4は、圧縮着火式エンジンであってもよい。エンジン4は、複数の気筒を有している。なお、エンジン4の気筒数は、特定の数に制限されない。
【0068】
この自動車1では、エンジン4は、回転動力を出力するクランクシャフト4aを、車体の前後方向に向けた状態で、車幅方向の略中央部に配置されている。自動車1には、吸気システム、排気システム、燃料供給システム、点火システムなど、エンジン4に付随した様々な装置や機構が設置されている。エンジン4については、後で説明する。
【0069】
モータ5は、三相の交流によって駆動する永久磁石型の同期モータである。モータ5は、K0クラッチ6を介してエンジン4の後方に直列に配置されている。モータ5はまた、自動変速機8の前方に直列に配置されている。
【0070】
K0クラッチ6は、モータ5のシャフト5aの前端部と、エンジン4のクランクシャフト4aとの間に介在するように設置されている。K0クラッチ6は、クランクシャフト4aとシャフト5aとが連結された状態(接続状態)と、クランクシャフト4aとシャフト5aとが分離した状態(分離状態)とに切り替わる。
【0071】
モータ5のシャフト5aの後端部は、自動変速機8の入力軸8aに連結されている。したがって、エンジン4は、K0クラッチ6及びシャフト5aを介して、自動変速機8と連結されている。K0クラッチ6を分離状態にすることで、エンジン4は自動変速機8から切り離される。
【0072】
自動車1の走行中、K0クラッチ6は、接続状態と分離状態との間で切り替えられる。例えば、自動車1の減速時には、K0クラッチ6を分離状態にし、エンジン4を切り離した状態での回生が行われる場合がある。
【0073】
モータ5は、インバータ7及び高電圧ケーブル40を介して、駆動電源として車載されている高電圧バッテリ9と接続されている。高電圧ケーブル40には、コンタクタ90が介設している。
【0074】
高電圧バッテリ9は、インバータ7に高電圧の直流電力を供給する。インバータ7は、その直流電力を3相の交流に変換してモータ5に通電する。それにより、モータ5が回転駆動する。また、モータ5は、回生エネルギを、高電圧バッテリ9へ供給する。
【0075】
高電圧バッテリ9は、高電圧ケーブル40を介してDCDCコンバータ10とも接続されている。DCDCコンバータ10は、高電圧の直流電力を12Vの低電圧の直流電力に変換して出力する。DCDCコンバータ10(その出力側)は、低電圧ケーブル45を介して低電圧バッテリ11(いわゆる鉛蓄電池)と接続されている。
【0076】
低電圧バッテリ11は、低電圧ケーブル45を介して様々な電装品と接続されている。DCDCコンバータ10はまた、低電圧ケーブル45を介してCAN12(Controller Area Network)とも接続されている。それにより、DCDCコンバータ10はCAN12に低電圧の直流電力を供給する。
【0077】
自動変速機8は、油圧制御式の多段式自動変速機(いわゆるAT)である。この自動変速機8は、モータ5又はエンジン4に接続される入力軸8a、及び、自動車1の駆動輪(後輪2R)に接続される出力軸8bを有している。この自動変速機8は、モータ5又はエンジン4から入力軸8aに入力された回転を、ドライバーによって選択された変速段に対応する変速比で変速させて出力することができる。
【0078】
詳しくは、入力軸8aは、自動変速機8の前端部に配置されている。この入力軸8aは、本実施形態では上述したようにモータ5のシャフト5aと連結されている。出力軸8bは、自動変速機8の後端部に配置されている。この出力軸8bは、入力軸8aから独立した状態で回転する。
【0079】
これら入力軸8aと出力軸8bとの間には、複数の遊星歯車機構、及び複数の摩擦締結要素などからなる変速機構が組み込まれている。各摩擦締結要素は、油圧によって締結状態と非締結状態とに切り替わる。
【0080】
自動変速機8は、モータ5及びエンジン4の少なくとも一方が発生させた走行用トルクが、トルクコンバータを介さずに入力されるように構成されている。自動変速機8は、いわゆるトルコンレス型の自動変速機である。
【0081】
-変速機の詳細-
図2に、自動変速機8の構成を示す。この自動変速機8は、FR車に搭載される縦置き式の自動変速機である。
【0082】
自動変速機8は、変速機ケース81と、変速機ケース81内に挿入されかつ自動車1の駆動源(エンジン、モータ等)からの動力が入力される入力軸8aと、変速機ケース81内に収容されかつ入力軸8aを介して駆動源からの動力が伝達される変速機構84と、変速機ケース81内に挿入されかつ変速機構84からの動力をプロペラシャフトに出力する出力軸8bと、を有している。
【0083】
上述したように、自動変速機は、トルクコンバータを介さずに前記駆動源に接続されている。すなわち、入力軸8aは、前記駆動源の出力軸に直接接続されている。
【0084】
入力軸8aと出力軸8bとは、車両前後方向に沿って同軸上に配置されており、自動変速機8が上記車両に搭載された状態で、入力軸8aが車両前側に位置しかつ出力軸8bが車両後側に位置している。以下の説明では、入力軸8aの軸方向(出力軸8bの軸方向)における上記駆動源側(
図1の左側)を前側といい、入力軸8aの軸方向における上記駆動源とは反対側(
図1の右側)を後側という。
【0085】
変速機構84は、入力軸8aの軸方向に並ぶ、第1プラネタリギヤセットPG1(以下、第1ギヤセットPG1という)、第2プラネタリギヤセットPG2(以下、第2ギヤセットPG2という)、第3プラネタリギヤセットPG3(以下、第3ギヤセットPG3という)、及び、第4プラネタリギヤセットPG4(以下、第4ギヤセットPG4という)を有している。これら第1ギヤセットPG1、第2ギヤセットPG2、第3ギヤセットPG3及び第4ギヤセットPG4は、前側からこの順に並んでいて、入力軸8aから出力ギヤ13への複数の動力伝達経路を形成する。第1~第4ギヤセットPG1~PG4は、入力軸8a及び出力軸8bと同一軸線上に配置されている。
【0086】
第1ギヤセットPG1は、回転要素として、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1及び第1キャリヤC1を有する。第1ギヤセットPG1は、シングルピニオン型であって、第1キャリヤC1に支持されかつ第1ギヤセットPG1の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンPi1が第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1の両方に噛み合わされている。
【0087】
第2ギヤセットPG2は、回転要素として、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2及び第2キャリヤC2を有する。第2ギヤセットPG2も、シングルピニオン型であって、第2キャリヤC2に支持されかつ第2ギヤセットPG2の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンPi2が第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2の両方に噛み合わされている。
【0088】
第3ギヤセットPG3は、回転要素として、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3及び第3キャリヤC3を有する。第3ギヤセットPG3も、シングルピニオン型であって、第3キャリヤC3に支持されかつ第3ギヤセットPG3の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンPi3が第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3の両方に噛み合わされている。
【0089】
第4ギヤセットPG4は、回転要素として、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4及び第4キャリヤC4を有する。第4ギヤセットPG4も、シングルピニオン型であって、第4キャリヤC4に支持されかつ第4ギヤセットPG4の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンPi4が第4サンギヤS4及び第4リングギヤR4の両方に噛み合わされている。
【0090】
第1ギヤセットPG1の第1サンギヤS1は、入力軸8aの軸方向に2分割されており、相対的に前側に配置された前側第1サンギヤS1aと相対的に後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。つまり、第1ギヤセットPG1は、ダブルサンギヤ型のギヤセットである。前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、同じ歯数の歯を有して、第1キャリヤC1に支持されたピニオンPi1に噛合しているため、これら前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの回転数は常に等しくなる。すなわち、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、常に同じ回転速度で回転し、一方のギヤの回転が停止しているときには他方のギヤの回転も停止する。
【0091】
第1サンギヤS1(厳密には、後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時転結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。また、入力軸8aは第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸8bは第4キャリヤC4に常時連結されている。具体的には、入力軸8aは、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの間を通る動力伝達部材88を介して第1キャリヤC1と連結されている。後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達軸85を介して連結されている。第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とは、動力伝達部材86を介して連結されている。
【0092】
変速機構84はまた、第1~第4ギヤセットPG1~PG4により形成される上記複数の動力伝達経路の中から1つを選択して動力伝達経路を切り換えるための5つの摩擦締結要素(第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2)を有している。
【0093】
第1クラッチCL1は、入力軸8a及び第1キャリヤC1と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第1クラッチCL1は、第1ギヤセットPG1の前側に配設されている。
【0094】
第2クラッチCL2は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第2クラッチCL2は、第1クラッチCL1の前側に配設されている。
【0095】
第3クラッチCL3は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第3クラッチCL3は、第2クラッチCL2の前側に配設されている。
【0096】
第3サンギヤS3と、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2及び第3クラッチCL3の全てとが、動力伝達部材805及び動力伝達部材808を介して連結され、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第2クラッチCL2とが、第2クラッチCL2の動力伝達部材806を介して連結され、第2リングギヤR2と第3クラッチCL3とが、第3クラッチCL3の動力伝達部材807を介して連結されている。
【0097】
具体的に、第1クラッチCL1は、第1キャリヤC1に結合された回転可能な内側保持部材と、内側保持部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、第3サンギヤS3に動力伝達部材805,808を介して結合された回転可能な外側保持部材と、外側保持部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP1とを有している。ピストンP1の隣接位置には、バルブボディ(不図示)から供給される油圧が導入される油圧室F1が画成されており、この油圧室F1への油圧の給排に応じて前記ハブ側摩擦板及びドラム側摩擦板が圧接または圧接解除される。そして、当該圧接または圧接解除により、前記内側保持部材及び外側保持部材が互いに連結または分離され、これに伴って入力軸8a及び第1キャリヤC1と、第3サンギヤS3とが断接される。
【0098】
第2クラッチCL2は、第3サンギヤS3に動力伝達部材805,808を介して結合された回転可能な内側保持部材と、内側保持部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2に動力伝達部材807を介して結合された回転可能な外側保持部材と、外側保持部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP2とを有している。ピストンP2の隣接位置には、前記バルブボディから供給される油圧が導入される油圧室F2が画成されており、この油圧室F2への油圧の給排に応じて前記ハブ側摩擦板及びドラム側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と、第3サンギヤS3とが断接される。
【0099】
第3クラッチCL3は、第3サンギヤS3に動力伝達部材805,808を介して結合された回転可能な内側保持部材と、内側保持部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、第2リングギヤR2に動力伝達部材806を介して結合された回転可能な外側保持部材と、外側保持部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP3とを有している。ピストンP3の隣接位置には、バルブボディVBから供給される油圧が導入される油圧室F3が画成されており、この油圧室F3への油圧の給排に応じて前記ハブ側摩擦板及びドラム側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが断接される。
【0100】
第1ブレーキBR1は、第1サンギヤS1(厳密には前側第1サンギヤS1a)と変速機ケース81との間を断接するように構成されている。第1ブレーキBR1は、第3クラッチCL3の前側における変速機ケース81の近傍に配置されている。第1ブレーキBR1の締結時には、第1サンギヤS1が変速機ケース81に固定される。
【0101】
第2ブレーキBR2は、第3リングギヤR3と変速機ケース81との間を断接するように構成されている。第2ブレーキBR2の締結時には、第3リングギヤR3が変速機ケース81に固定される。
【0102】
具体的に、第1ブレーキBR1は、前側第1サンギヤS1aに動力伝達部材87を介して結合された回転可能な内側保持部材と、内側保持部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、変速機ケース81に結合された回転不能な外側保持部材と、外側保持部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP4とを有している。ピストンP4の隣接位置には、バルブボディから供給される油圧が導入される油圧室F4が画成されており、この油圧室F4への油圧の給排に応じて前記ハブ側摩擦板及びドラム側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、変速機ケース81と第1サンギヤS1とが断接される。
【0103】
第2ブレーキBR2は、第3リングギヤR3に結合された回転可能な内側保持部材と、内側保持部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、変速機ケース81に結合された回転不能な外側保持部材と、外側保持部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP5とを有している。ピストンP5の隣接位置には、バルブボディから供給される油圧が導入される油圧室F5が画成されており、この油圧室F5への油圧の給排に応じて前記ハブ側摩擦板及びドラム側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、変速機ケース81と第3リングギヤR3とが断接される。
【0104】
変速機ケース81は、第1ブレーキBR1と第3クラッチCL3との間の軸方向位置に、変速機ケース81の内周面81bから径方向内側に延びる環状の縦壁部W1を有するとともに、縦壁部W1の内周端から後方に延びる円筒状の円筒壁部W2を有している。円筒壁部W2は、動力伝達部材808の内周面に沿って同心状に延びるように形成されている。
【0105】
動力伝達部材808の径方向外側には、軸方向に並ぶ3つのハウジングが形成されており、これら3つのハウジングに、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第3クラッチCL3の各ピストンP1,P2,P3がそれぞれ収容されている。
【0106】
縦壁部W1、円筒壁部W2、及び動力伝達部材808には、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第3クラッチCL3の各油圧室F1,F2,F3にそれぞれ油圧を供給するための油路が形成されている。具体的に、縦壁部W1及び円筒壁部W2には油路aが形成され、動力伝達部材808には油路b,c,dが形成されている。そして、油路a及び油路bを通じて第1クラッチCL1の油圧室F1に油圧が供給され、油路a及び油路cを通じて第2クラッチCL2の油圧室F2に油圧が供給され、油路a及び油路dを通じて第3クラッチCL3の油圧室F3に油圧が供給される。
【0107】
なお、図示しないが、円筒壁部W2の外周面と動力伝達部材808の内周面との間における油路aと油路b,c,dとの連通部は、それぞれシールリングによりシールされている。
【0108】
第1ブレーキBR1のピストンP4は、縦壁部W1の前側に形成されたハウジングに収容されている。当該ハウジングにより区画された油圧室F4には、変速機ケース81の外側(バルブボディ)から油路eが直接に連通している。
【0109】
第2ブレーキBR2のピストンP5は、変速機ケース81の後部の内周面81bに嵌合されたハウジングに収容されている。当該ハウジングにより区画された油圧室F5には、変速機ケース81の外側(バルブボディ)から油路fが直接に連通している。
【0110】
以上のような構成の自動変速機8によると、前記5つの摩擦締結要素(CL1,CL2,CL3,BR1,BR2)は、油圧室F1~F5への作動油の供給により締結される。
【0111】
図3に、この自動変速機8の締結表を示す。表中の丸印は締結を示している。上述したように、この自動変速機8には、摩擦締結要素として、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び、第3クラッチCL3からなる3つのクラッチと、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2からなる2つのブレーキとが組み込まれている。
【0112】
自動変速機8は、油圧制御により、3つのクラッチと2つのブレーキとの中から3つの要素を選択して締結する。そうすることにより、自動変速機の変速段は、1速から8速までの前進用の変速段、及び、後退用の変速段(後退速)のいずれかに切り替わる。
【0113】
具体的には、第1クラッチCL1、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2の締結により、1速が形成される。第2クラッチCL2、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2の締結により、2速が形成される。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2及び第2ブレーキBR2の締結により、3速が形成される。第2クラッチCL2、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2の締結により、4速が形成される。第1クラッチCL1、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2の締結により、5速が形成される。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2及び第3クラッチCL3の締結により、6速が形成される。第1クラッチCL1、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1の締結により、7速が形成される。第2クラッチCL2、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1の締結により、8速が形成される。第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2の締結により、後退速が形成される。
【0114】
そして、例えば1速からシフトアップする場合、第1クラッチCL1に代えて第2クラッチCL2を締結することで、変速段は1速から2速に切り替わる。第1ブレーキBR1に代えて第1クラッチCL1を締結することで、変速段は2速から3速に切り替わる。第1クラッチCL1に代えて第3クラッチCL3を締結することで、変速段は3速から4速に切り替わる。
【0115】
5速へのシフトアップも、これらと同様に行われる。シフトダウンする場合は、シフトアップでの切り替えと逆の手順になる。
【0116】
各変速段において締結されるべき要素が締結されないと、入力軸8aと出力軸8bとの間が切り離された状態になる(いわゆるニュートラル)。自動変速機8に駆動源から回転動力が入力されても、その回転動力は自動変速機8から出力されない。
【0117】
図1に示すように、自動変速機8の出力軸8bは、車体の前後方向に延びるプロペラシャフト15を介してデファレンシャルギヤ16に連結されている。デファレンシャルギヤ16には、車幅方向に延びて、左右の後輪2R,2Rに連結された一対の駆動シャフト17,17が連結されている。プロペラシャフト15を通じて出力される回転動力は、デファレンシャルギヤ16で振り分けられた後、これら一対の駆動シャフト17,17を通じて各後輪2Rに伝達される。
【0118】
-エンジンの詳細-
本実施形態に係るエンジン4は、後述の
図4に示すように、点火プラグ41、インジェクタ42、スロットル弁43、及び、吸気S-VT(Sequential-Valve Timing)44を有している。
【0119】
点火プラグ41は、エンジン4に取り付けられる。点火プラグ41は、コントローラ20からの制御信号を受けて、気筒内の混合気に、強制的に点火をする。
【0120】
インジェクタ42は、エンジン4に取り付けられる。インジェクタ42は、コントローラ20からの制御信号を受けて、燃料を、例えば気筒内へ噴射する。燃料と、気筒内へ吸入された空気とは、混合気を形成する。
【0121】
スロットル弁43は、エンジン4の吸気通路に取り付けられるバタフライ弁である。スロットル弁43は、コントローラ20からの制御信号を受けて開度を変える。スロットル弁43の開度が変わると、気筒内へ吸入される空気量が変わる。スロットル弁43の開度が大きくなると、吸入空気量が増える。スロットル弁43の開度が小さくなると、吸入空気量が減る。
【0122】
吸気S-VT44は、吸気弁の開閉時期を、例えば連続的に変更する。吸気S-VT44は、油圧駆動式又は電動式である。吸気S-VT44は、コントローラ20からの制御信号を受けて、吸気弁の開閉時期を、進角方向又は遅角方向へ変える。吸気S-VT44が吸気弁の開閉時期を変えると、充填効率が変わる。スロットル弁43の開度変化と、吸気弁の開閉時期の変化とが組み合わさって、気筒内への吸入空気量が変わる。
【0123】
(車両の制御装置)
図4は、車両の制御装置のブロック図である。自動車1には、運転者の操作に応じて、エンジン4、モータ5、K0クラッチ6、自動変速機8などを制御し、自動車1の走行をコントロールするために、上述したコントローラ20が設置されている。コントローラ20は、プロセッサ、メモリ、インターフェースなどのハードウエアと、データベースや制御プログラムなどのソフトウエアとで構成されている。なお、
図4の制御装置には、一つのコントローラ20が示されているが、制御装置のコントローラは、駆動源(エンジン4及びモータ5)の作動を主に制御するユニット(PCM)と、K0クラッチ6及び自動変速機8の作動を主に制御するユニット(TCM)とに分かれていてもよい。PCM及びTCMは、CAN12によって接続されていて、互いに電気通信可能に構成される。
【0124】
制御装置は、車両の走行に関係する各種のパラメータを計測するセンサを備えている。具体的に、制御装置は、アクセルポジションセンサ51、吸気圧力センサ52、水温センサ53、エンジン回転数センサ54、エンジントルクセンサ55、車速センサ56、及び、SOCセンサ57を備えている。これらのセンサは、CAN12を介してコントローラ20と電気的に接続されている。
【0125】
アクセルポジションセンサ51は、運転者が操作をするアクセルペダル19(
図1参照)の操作に対応する信号(アクセル操作信号)を出力する。
【0126】
吸気圧力センサ52は、エンジン4の吸気通路においてスロットル弁43の上流部分の圧力に対応する信号を出力する。水温センサ53は、エンジン4の冷却水の温度に対応する信号を出力する。
【0127】
エンジン回転数センサ54は、エンジン4の回転数(エンジン回転数)を検出し、その検出値に対応する信号を出力する。エンジントルクセンサ55は、エンジン4から実際に出力されるトルク(実エンジントルク)に対応する信号を出力する。尚、自動車1において、K0クラッチ6が接続状態となって、エンジン4及びモータ5のそれぞれがトルクを出力している場合、エンジン4の回転数とモータ5の回転数とは一致する。
【0128】
車速センサ56は、自動車1の車速に対応する信号を出力する。SOCセンサ57は、高電圧バッテリ9のSOCに対応する信号を出力する。
【0129】
コントローラ20は、これらのセンサが出力した信号を、CAN12を介して受ける。コントローラ20は、CAN12を通じて、エンジン4、インバータ7、K0クラッチ6、及び、自動変速機8へ制御信号を出力する。これにより、コントローラ20は、エンジン4、モータ5、K0クラッチ6、及び、自動変速機8を制御する。
【0130】
例えば、コントローラ20は、前記アクセル操作信号を受けると共に、アクセル操作に対応する制御信号を、モータ5(具体的にはインバータ7)及びエンジン4へ出力する。
【0131】
また、コントローラ20は、変速制御として、入力軸8aの回転数に応じた変速信号を自動変速機8へ出力することにより、該自動変速機8の変速段を変更する制御を行うことができる。変速段を変更することで、前述のシフトアップ及びシフトダウンを実現することができる。その際、コントローラ20は、入力軸8aと出力軸8bとの回転数の差を調整することで、変速段の変更を実行する。
【0132】
(駆動力制御の詳細)
図5は、自動車1のモードに係るマップ91を示している。自動車1は、EVモードと、HEVモードとを有している。EVモードは、Electric Vehicleモードであって、モータ5のみが車両走行用のトルクを出力するモードである。HEVモードは、Hybrid Electric Vehicleモードであって、エンジン4及びモータ5の両方が車両走行用のトルクを出力するモードである。エンジン水温が比較的高くかつ、高電圧バッテリ9のSOCが比較的高い場合、自動車1は、EVモードである。高電圧バッテリ9の電力を用いることによって燃費性能が向上する。エンジン水温が低い場合、自動車1は、HEVモードである。エンジン1の運転によって温度が高まったエンジンの冷却水を利用して、車室内の暖房を行う。自動車1のエネルギ効率が向上する。高電圧バッテリ9のSOCが比較的低い場合、自動車1は、HEVモードである。エンジン4の運転は、高電圧バッテリ9の電力消費を抑制しながら高電圧バッテリ9を充電させる。高電圧バッテリ9のSOCが回復する。
【0133】
コントローラ20は、マップ91を記憶している。コントローラ20は、自動車1の目標トルクを目標エンジントルクと目標モータトルクとの両方に分配するか(つまり、HEVモード)、又は、自動車1の目標トルクを目標モータトルクのみに分配するか(つまり、EVモード)を、マップ91に従って切り替える。
【0134】
ここで、この自動車1において、HEVモード時のエンジン4の点火タイミングは、基本的にMBTである。エンジン4は、最良の効率で運転する。モータ5は、最良の効率で運転しているエンジン4をアシストする。
【0135】
尚、HEVモードとEVモードとの切り替えは、運転者が各種スイッチを操作することで、コントローラ20が行ってもよい。例えば、エンジン水温等にかかわらず、運転者の手動操作に基づいて、HEVモードとEVモードとの切替を行うこともできる。
【0136】
尚、エンジン4の触媒装置が未活性であって、エンジン4がAWSモードで運転している場合、点火タイミングは、MBTよりも遅角する。これにより、排気損失が増大する。AWSモードの場合、エンジン4は、排気損失を使って触媒装置の早期活性化を図ることができる。モータ5は、触媒装置を活性化させているエンジン4をアシストする。
【0137】
次に、
図6-9を参照しながら、HEVモードにおける、エンジン4及びモータ5へのトルクの分配を説明する。
図6は、コントローラ20の機能ブロックを示している。コントローラ20は、機能ブロックとして、トルク変換部21、トルク調停部22、トルク分配部23、エンジン制御部24、及び、モータ制御部25を有している。
【0138】
本実施形態に係るコントローラ20は、上述した各機能ブロックを用いることで、目標エンジントルクを決定するための駆動力配分制御(第1制御)と、歯打ち音抑制制御としてのエンジン駆動力低下処理(第2制御)とをそれぞれ実行しかつ、エンジン4へ、決定した目標エンジントルクに対応する制御信号を出力する。
【0139】
ここで、第1制御において、コントローラ20は、アクセル操作に対応する自動車1の目標トルクを設定すると共に、当該目標トルクから目標エンジントルクを、予め定めた分配ルールに従い分配する。
【0140】
また、第2制御において、コントローラ20は、エンジン4のトルク変動が所定以上になる第1条件が成立したときに、第1制御において決定した目標エンジントルクを低下させる。なお、第1条件が非成立のときには、コントローラ20は、第2制御を実行しない。この場合、コントローラ20は、目標エンジントルクを低下させない。第2制御は、SOCに係る条件が満足された場合を例外とし、基本的には第1条件が成立している最中に実行される。
【0141】
第1制御は、トルク変換部21、トルク調停部22、トルク分配部23、及び、エンジン制御部24によって実行される。第2制御は、本実施形態ではトルク分配部23によって実行される。第2制御は、自動変速機8のギヤの歯面にかかるトルクの変動に起因した歯打ち音の発生を抑制するための、いわゆる歯打ち音抑制制御である。
【0142】
詳しくは、トルク変換部21は、アクセルポジションセンサ51の信号を受けて、アクセルポジションから自動車1の目標トルクを設定する。より詳細に、トルク変換部21は、運転者のアクセル操作から自動車1の目標加速度を設定すると共に、自動車1の車速及び自動変速機8の変速段に基づいて、設定した目標加速度を目標トルク(つまり、自動車1の目標トルク)に変換する。
【0143】
トルク調停部22は、トルク変換部21が設定したアクセルポジションに基づく目標トルクを受けると共に、アクセルポジション以外のトルク要求信号を受けて、最終的な目標トルクを設定する。アクセルポジション以外のトルク要求信号には、例えば自動車1の挙動を安定化させるためのトルク要求信号が含まれる。
【0144】
トルク分配部23は、トルク調停部22が設定した自動車1の目標トルクであって、最終的な目標トルクを受けて、当該目標トルクを、目標エンジントルクと目標モータトルクとに分配する。なお、自動車1がEVモードの場合、目標エンジントルクはゼロに維持されて、目標モータトルクは、自動車1の目標トルクと一致する。トルク分配部23については、後で詳細に説明する。
【0145】
エンジン制御部24は、トルク分配部23によって設定された目標エンジントルクに対応する制御信号を、エンジン4、より詳細には、点火プラグ41、インジェクタ42、スロットル弁43及び吸気S-VT44へ出力する。エンジン4は、目標エンジントルクが実現するように運転する。
【0146】
モータ制御部25は、トルク分配部23によって設定された目標モータトルクに対応する制御信号を、インバータ7へ出力する。インバータ7を通じて、モータ5が制御される。モータ5は、目標モータトルクが実現するように運転する。エンジン4がトルクを出力しかつ、モータ5がトルクを出力することによって、自動車1の目標トルクが達成される。
【0147】
図7は、トルク分配部23の機能ブロックを示している。トルク分配部23は、機能ブロックとして、SOC管理部231、第1加減算器232a、エンジントルク演算部233、位相調整部234、第2加減算器232b、制限部235、第3加減算器232c、加算器236、トルク低下量判定部237(
図7では、単に「低下量判定部」と図示)、SOC判定部238、及び、第4加減算器232dを有している。
【0148】
SOC管理部231は、トルク調停部22が設定した最終的な自動車1の目標トルクを受ける。SOC管理部231はまた、高電圧バッテリ9の情報を受ける。高電圧バッテリ9の情報には、SOCセンサ57の計測信号に基づく高電圧バッテリ9のSOC、及び、高電圧バッテリ9の温度が少なくとも含まれる。SOC管理部231は、自動車1の目標トルクとバッテリ情報とに基づいて、モータ5の目標トルクを仮設定する。SOC管理部231は、例えばSOCが高い場合、目標モータトルクを高くして、モータ5によるエンジン4のアシスト量を増やす。SOC管理部231は、例えばSOCが低い場合、高電圧バッテリ9の充電を優先するため、目標モータトルクを低くする。ここで設定される目標モータトルクは、定常分の目標モータトルクに相当する。
【0149】
第1加減算器232aは、自動車1の目標トルクから、SOC管理部231が仮設定した目標モータトルクを減算する。第1加減算器232aの出力は、第1目標エンジントルクである。第1目標エンジントルクは、少なくとも第2制御の非実行時においては、定常分の目標エンジントルクに相当する。第1目標エンジントルクは、気筒内への空気量を調整することにより達成されるトルクと言い換えることができる。トルク分配部23は、第1目標エンジントルクを、エンジン制御部24へ出力する。第1制御において決定されるべき目標エンジントルクとは、この第1目標エンジントルクに相当する。
【0150】
ここで、第1加減算器232aが出力した第1目標エンジントルクは、第4加減算器232dに入力される。第4加減算器232dは、第2制御の実行時には第1目標エンジントルクを低下させた上で出力する一方、第2制御の非実行時には第1目標エンジントルクを加減することなく出力する。簡単のため、まずは第2制御の非実行時に関連した機能ブロックについて説明する。
【0151】
運転者がアクセルペダル19の操作を行うと、自動車の目標トルクが変更される。自動車1の目標トルクが変更されると、目標エンジントルク及び目標モータトルクが変更される。目標エンジントルクが変更されると、気筒内への吸入空気量を変更させるために、目標スロットル開度及び吸気弁の目標開閉時期が変更される。スロットル弁43の開度変更、及び/又は、吸気S-VT44による吸気弁の開閉時期の変更には時間を要し、スロットル弁43の開度変更及び吸気弁の開閉時期の変更後、気筒内の吸入空気量が実際に変更されるまでにも時間を要する。さらに、気筒内の吸入空気量が実際に変更された後、エンジン4のトルクが実際に変更されるまでにも時間を要する。運転者がアクセルペダル19の操作を行った後、エンジン4のトルクが目標エンジントルクへ変更されるまでにはタイムラグが生じる。
【0152】
そこで、トルク分配部23は、エンジン4の遅いトルク応答が補完されるよう、目標モータトルクを設定する。より詳細に、トルク分配部23は、現時点よりも未来における気筒への吸入空気量を予測すると共に、予測した吸入空気量に基づいて、未来におけるエンジン4のトルクを予測する。トルク分配部23は、予測したエンジン4のトルクに基づいて、未来において自動車1の目標トルクが達成されるよう目標モータトルクを設定する。
【0153】
目標トルクが変化した過渡時において、トルク分配部23の、SOC管理部231及び第1加減算器232aは、定常分の目標エンジントルク、つまり、第1目標エンジントルクの設定に関係する。エンジントルク演算部233、位相調整部234、第2加減算器232b、制限部235、第3加減算器232c及び加算器236は、過渡分の目標エンジントルク(後述する第2目標エンジントルク)、及び、目標モータトルクの設定に関係する。
【0154】
エンジントルク演算部233は、現時点よりも未来における気筒内への吸入空気量の予測値を読み込む。吸入空気量の予測は、後述するように、エンジン制御部24が行う。エンジン制御部24は、現時点に対して予め定めた基準時間後の、吸入空気量の予測値を出力する。エンジントルク演算部233は、吸入空気量の予測値に基づいて、現時点よりも未来におけるエンジン4のトルクを予測する。より詳細に、エンジントルク演算部233は、吸入空気量の予測値に基づいて、エンジン4の運転状態から定まる最適点火タイミングで、点火プラグ41が点火を行った場合の、エンジン4のトルクを予測する。
【0155】
ここで、最適点火タイミングの一例は、前述したMBTである。つまり、エンジントルク演算部233は、吸入空気量の予測値に基づいて、点火プラグ41がMBTにおいて点火を行った場合の、エンジン4のトルクを予測する。また、エンジンがAWSモードで運転している場合、最適点火タイミングは、MBTよりも遅角したタイミングである。つまり、エンジントルク演算部233は、吸入空気量の予測値に基づいて、点火プラグ41がMBTよりも遅角したタイミングで点火を行った場合の、エンジン4のトルクを予測する場合がある。
【0156】
位相調整部234は、例えばコントローラ20の通信遅れ、モータ5の応答遅れ、エンジン4の応答遅れ等を考慮して、エンジン4のトルク変化とモータ5のトルク変化との同期を図る。一般的に、モータ5のトルク応答よりも、エンジン4のトルク応答は遅い。位相調整部234は、モータ5とエンジン4とのトルク応答差を考慮して、エンジン4のトルク予測値の位相を調整する。
【0157】
ここで、エンジン4のトルク応答は、エンジン4の回転数に応じて変化する。つまり、エンジン4の回転数が高い場合、エンジン4が有する複数の気筒についての燃焼間隔(つまり時間間隔)が短い。エンジン4の回転数が低い場合、複数の気筒についての燃焼間隔(つまり時間間隔)が長い。気筒への吸入空気量が変化してから、エンジン4のトルクが変化するまでの時間は、エンジン4の回転数に応じて変わる。エンジン4の回転数が高い場合、気筒への吸入空気量が変化してから、エンジン4のトルクが変化するまでの時間が短い。エンジン4の回転数が低い場合、気筒への吸入空気量が変化してから、エンジン4のトルクが変化するまでの時間が長い。
【0158】
エンジン制御部24は、現時点に対して基準時間(つまり、一定時間)後の、吸入空気量を予測する。基準時間後の吸入空気量がエンジン4のトルクに反映される時期は、エンジン4の回転数に応じて変化する。
【0159】
図9は、エンジン回転数と、遅延時間との関係を示している。遅延時間は、吸入空気量の変化から、エンジン4のトルク変化までの遅れに相当する。エンジン回転数が低い場合、吸入空気量の変化がエンジン4のトルク変化に反映されるまでの時間が長い。エンジン回転数が低い場合、遅延時間が長い。エンジン回転数が高い場合、遅延時間が短い。
図9では、エンジン回転数が高いほど、遅延時間が短くなるよう、エンジン回転数と遅延時間との関係が直線に設定されている。コントローラ20は、
図9に示される関係式を記憶している。なお、エンジン回転数と遅延時間との関係は、図例に限定されない。エンジン回転数と遅延時間との関係は、直線に限らず、曲線であってもよい。また、エンジン回転数と遅延時間との関係は、階段状であってもよい。
【0160】
位相調整部234は、エンジン回転数に基づいて遅延時間を設定する。予測された吸入空気量は、遅延時間後のエンジン4のトルクに反映される。コントローラ20は、現時点から設定時間後におけるエンジン4のトルクを予測することになる。トルク予測に係る設定時間は、吸入空気量の予測に係る基準時間以降の時間であれば、任意の時間に設定できる。
【0161】
エンジン4の回転数が基準回転数r0を超えると、遅延時間はゼロである。エンジン4の回転数が基準回転数r0よりも高くなれば、アクセル操作に対するエンジン4のトルク変化の応答性が十分に高いため、遅延時間を設ける必要がない。エンジン4の回転数が基準回転数よりも高い場合に、遅延時間をゼロにしても、コントローラ20は、エンジン4のトルクを精度良く予測できる。
【0162】
なお、エンジン4の回転数が基準回転数よりも高くなれば、エンジン4のトルク応答がモータ5のトルク応答と同等になる、又は、エンジン4のトルク応答よりもモータ5のトルク応答が遅くなる。そこで、エンジン4の回転数が高い場合に、エンジン4のトルク応答とモータ5のトルク応答とを同期させる目的でモータ5のトルク応答を早めることが考えられる。しかし、エンジン4の回転数が高くなればエンジン4及びモータ5の一回転に要する時間が短いため、モータ5のトルク応答を早めなくても、エンジン4のトルク応答とモータ5のトルク応答とは、実質的に同期する。
【0163】
現時点から設定時間後のエンジン4のトルクが予測されれば、第2加減算器232bは、現時点から設定時間後のエンジン4のトルクを、自動車1の目標トルクから減算する。予測された設定時間後のエンジン4のトルクには、エンジン4のトルク応答の遅れが含まれている。第2加減算器232bの出力を、現時点から設定時間後の目標モータトルクとすれば、予測されたエンジン4のトルクに、モータトルクが足し合わされることによって、自動車1の目標トルクが達成される。つまり、目標モータトルクは、エンジン4のトルク応答の遅れを補完する。
【0164】
制限部235は、第2加減算器232bが出力した目標モータトルクと、モータ5の最大トルクと、最小トルクとに基づいて、最終的な目標モータトルクを出力する。ここで、最大モータトルク及び最小モータトルクは、モータ5の性能、モータ5の温度、及び/又は、高電圧バッテリ9のSOCに応じて設定される。例えばSOCが高いと、モータ5が回生運転できないため、最小モータトルクが小に設定される。SOCが低いと、高電圧バッテリ9を充電しなければならないため、最大モータトルクが小に設定される。第2加減算器232bが出力した目標モータトルクが、最大モータトルクを超える場合、制限部235は、目標モータトルクを最大モータトルクに設定する。第2加減算器232bが出力した目標モータトルクが、最小モータトルクを下回る場合、制限部235は、目標モータトルクを最小モータトルクに設定する。第2加減算器232bが出力した目標モータトルクが、最大モータトルク以下でかつ、最小モータトルク以上である場合、制限部235は、第2加減算器232bが出力した目標モータトルクを、最終的な目標モータトルクに設定する。
【0165】
モータ制御部25は、制限部235が出力した目標モータトルクに基づいて、インバータ7を通じてモータ5を制御する。モータ5は、前述の通り、現時点から設定時間後の、自動車1の目標トルクが達成されるよう、エンジン4を補完して、トルクを出力する。運転者のアクセルペダル19の操作に対するトルク変化の応答遅れを抑制しながら、エンジン4のトルク変化とモータ5のトルク変化とが同期して、実際のトルクと目標トルクとの乖離が抑制される。
【0166】
ここで、制限部235において、目標モータトルクが最小モータトルクによって制限される場合、制限部235が出力する目標モータトルクは、第2加減算器232bが出力した目標モータトルクよりも大きい。このままモータ5が目標モータトルク(つまり、最小モータトルク)を出力しかつ、エンジン4が目標エンジントルクを出力すると、現時点から設定時間後の自動車1のトルクが、目標トルクを超えてしまう。
【0167】
第3加減算器232cは、第2加減算器232bが出力した目標モータトルクと、制限部235が出力した目標モータトルクとの差分を演算する。差分がゼロの場合、制限部235は、目標モータトルクを、最大モータトルク又は最小モータトルクによって制限していないことになる。差分がゼロでない場合、制限部235は、目標モータトルクを、最大モータトルク又は最小モータトルクによって制限していることになる。
【0168】
加算器236は、第3加減算器232cの出力と、エンジントルク演算部233の出力とに足し合わせることによって、第2目標エンジントルクを設定する。加算器236は、エンジン制御部24へ、第2目標エンジントルクを出力する。第3加減算器232cの出力は、前述した差分であり、エンジントルク演算部233の出力は、吸入空気量の予測値から予測したエンジン4のトルクである。第2目標エンジントルクは、点火タイミングの調整に関係する。具体的に、目標モータトルクが最小モータトルクによって制限される場合、エンジン4のトルクが下がるように、点火タイミングを、最適点火タイミング(つまり、MBT、又は、AWS時の点火タイミング)よりも遅角させる。第2目標エンジントルクは、点火タイミングを調整することにより達成されるトルクであり、過渡分の目標エンジントルクに相当する。
【0169】
エンジン制御部24は、第1目標エンジントルクと第2目標エンジントルクとに基づいて、エンジン4の吸入空気量、及び、点火タイミングを制御する。第2目標エンジントルクによって点火タイミングが遅角すれば、エンジン4のトルクが下がる。モータトルクが大きくなる分が、エンジン4のトルク低下によって相殺される。エンジン4のトルクとモータ5のトルクとによって、自動車1のトルクが、目標トルクに一致、又は、実質的に一致する。
【0170】
尚、目標モータトルクが最大モータトルクによって制限される場合は、モータ5のトルクが相対的に下がる。エンジン4のトルクを高めないと、自動車1の目標トルクが実現しない。しかし、最適点火タイミングで運転中のエンジン4において、トルクをさらに高めることは難しい。制限部235において目標モータトルクが最大モータトルクによって制限される場合、点火タイミングの調整は行われない。
【0171】
(エンジンの吸入空気量の予測)
図8は、エンジン制御部24の、吸入空気量の予測に関係する機能ブロックを示している。エンジン制御部24は、スロットル開度予測部241、スロットル通過空気量予測部242、第5加減算器243、インテークマニホールド内空気量予測部244、圧力換算部245、S-VT変化予測部246、充填効率予測部247、及び、乗算部248を有している。エンジン制御部24は、現時点に対して基準時間後の吸入空気量を予測する。基準時間は、一定時間であって、予め設定されている。基準時間は、例えば10~数十msecの間で、任意に設定できる。基準時間は、好ましくは10msec以上かつ100msec以下、さらに好ましくは、20msec以上かつ40msec以下の範囲内で設定することができる。
【0172】
スロットル開度予測部241は、トルク分配部23が設定した第1目標エンジントルクに基づいて、スロットル弁43の開度の時間経過に対する変化を予測する。スロットル開度予測部241は、スロットル弁43の目標開度とスロットル弁43の特性情報に基づいて、現時点から基準時間後のスロットル弁43の開度を予測する。目標エンジントルクとスロットル弁43の目標開度との関係は、コントローラ20に記憶されている。また、スロットル弁43の特性情報も、コントローラ20に記憶されている。スロットル弁43の特性は、例えば実機試験を行うことによって特定してもよい。
図6に例示されるように、スロットル弁43の開度は、アクセルペダル19の操作に対し遅れて変化する。
【0173】
スロットル通過空気量予測部242は、現時点から基準時間後において、スロットル弁43を通過する空気量を予測する。スロットル通過空気量予測部242は、具体的には、スロットル開度予測部241が予測したスロットル弁43の開度と、スロットル弁43よりも下流のインテークマニホールドの圧力と、スロットル弁43よりも上流の吸気圧力とから、ベルヌーイの式を用いて、スロットル弁43を通過する空気量を予測する。インテークマニホールドの圧力は、後述する、現時点から基準時間後におけるインテークマニホールド内の空気量から、圧力換算部245が圧力に換算した値が用いられる。スロットル弁43よりも上流の吸気圧力は、例えば吸気圧力センサ52の計測信号から取得できる。
【0174】
第5加減算器243は、スロットル通過空気量予測部242が予測した、現時点から基準時間後におけるスロットル弁43を通過する空気量から、後述する、気筒内への吸入空気量を減算する。
【0175】
インテークマニホールド内空気量予測部244は、第5加減算器243の出力に基づいて、現時点から基準時間後におけるインテークマニホールド内の空気量を予測する。
【0176】
圧力換算部245は、前述したように、インテークマニホールド内空気量予測部244が予測した、現時点から基準時間後におけるインテークマニホールド内の空気量を、インテークマニホールド内の圧力に換算し、スロットル通過空気量予測部242へ出力する。
【0177】
S-VT変化予測部246は、スロットル開度予測部241と同様に、第1目標エンジントルクに基づいて、吸気S-VT44による、吸気弁の開閉時期の、時間経過に対する変化を予測する。S-VT変化予測部246は、吸気弁の目標開閉時期と吸気S-VT44の特性情報に基づいて、現時点から基準時間後における、吸気弁の開閉時期を予測する。目標エンジントルクと吸気弁の目標開閉時期との関係は、コントローラ20に記憶されている。また、吸気S-VT44の特性情報も、コントローラ20に記憶されている。吸気S-VT44の特性は、例えば実機試験を行うことによって特定してもよい。
図6に例示されるように、吸気弁の開閉時期は、アクセルペダル19の操作に対し遅れて変化する。
【0178】
充填効率予測部247は、S-VT変化予測部246が予測した、現時点から基準時間後における吸気弁の開閉時期に基づいて、現時点から基準時間後における充填効率を予測する。コントローラ20は、吸気弁の開閉時期と、エンジン4の運転状態と、充填効率との関係を示すマップを予め記憶している。充填効率予測部247は、コントローラ20が記憶しているマップに基づいて、現時点から基準時間後における充填効率を予測する。
【0179】
乗算部248は、インテークマニホールド内空気量予測部244が予測した、現時点から基準時間後におけるインテークマニホールド内の空気量と、充填効率予測部247が予測した、現時点から基準時間後における充填効率とを乗算することにより、現時点から基準時間後における、気筒内への吸入空気量を予測する。予測吸入空気量は、エンジン4の制御に利用される他、前述の通り、トルク分配部23のエンジントルク演算部233へ出力される。
【0180】
(第2制御と、吸入空気量の予測に基づいた演算との関係)
ここまで、アクセル操作に対するエンジン4のトルク変化と、そのトルク変化に応じて行われる吸入空気量の予測とについて説明したが、エンジン4のトルク変化が生じるのは、アクセル操作に対するものに限定されない。歯打ち音抑制制御としての第2制御が実行されるときにも、エンジン4のトルクは変化する。
【0181】
この場合、アクセル操作時とは異なり、自動車1の目標トルク(目標エンジントルクと目標モータトルクの合計値)は、アクセルペダル18の操作を伴わないアクセル非操作時であれば、第2制御を行う前後で変化せず、一定に保たれる。コントローラ20は、目標エンジントルクを低下させるように第2制御によってトルク配分(駆動力配分)を変化させた際に、前述の吸入空気量の予測に基づいた各種演算に基づいて、その目標エンジントルクの低下分を補うよう、目標モータトルクを増加させる。
【0182】
以下、第2制御に関連した機能ブロックと、第2制御が上述した処理に及ぼす影響と、について順番に説明する。第2制御に関連した機能ブロックには、トルク低下量判定部237と、SOC判定部238と、第4加減算器232dと、が含まれる。これらの機能ブロックは、便宜上、
図7の“定常”に分類されているが、実際に行う機能は、目標エンジントルク及び目標モータトルクが変化する“過渡”に関連したものと云える。
【0183】
トルク低下量判定部237は、変速段、エンジン回転数及び第1目標エンジントルクに基づいて、トルク変動が所定以上になる第1条件が成立するか否かを判定する。第1条件の成立時、トルク低下量判定部237は、第1目標エンジントルクの低下量も算出する。
【0184】
詳しくは、本実施形態に係るトルク低下量判定部237は、エンジン回転数が第1閾値以下かつ、実エンジントルクが第2閾値以下であるときに、前記第1条件が成立したと判定する。
【0185】
第1閾値の大きさは、
図8Aの第1マップ101に例示されるように、自動変速機8の変速段に応じて変化する。同様に、第2閾値の大きさは、
図8Bの第2マップ102に例示されるように、自動変速機8の変速段に応じて変化する。第1マップ101及び第2マップ102は、予めコントローラ20に記憶されている。
【0186】
さらに詳しくは、第1マップ101は、自動変速機8の変速段ごとに、第1閾値の大きさを規定している。
図8Aに示すように、自動変速機8において選択可能な変速段のうち、後退速(R)及びニュートラル(N)を除いた各変速段は、第1領域と、第2領域と、第3領域と、に分類することができる。
【0187】
ここで、第1領域は、最低速を含んだ領域である。本実施形態では、1速のみが第1領域に分類されている。第2領域は、この第1領域よりも高速側の領域である。本実施形態では、2速のみが第2領域に分類されている。第3領域は、第2領域よりもさらに高速側の領域である。本実施形態に係る第3領域は、2つ以上の変速段を含んでいる。本実施形態では、3速~8速の6つの変速段が、第3領域に分類されている。
【0188】
そして、第1マップ101に例示するように、第2領域における第1閾値は、第1領域における第1閾値と、第3領域における第1閾値と、の双方に比べて高く設定されている。また、第1領域における第1閾値は、第3領域における第1閾値以上に設定してもよい。特に本実施形態では、第1領域における第1閾値は、第3領域における第1閾値よりも大きな値に設定されている。第2領域における第1閾値は、例えば1100rpm以上かつ1400rpm以下に設定してもよい。第1領域における第1閾値は、例えば1000rpm以上かつ1200rpm以下に設定してもよい。第3領域における第1閾値は、例えば700rpm以上かつ900rpm以下に設定してもよい。
【0189】
ここで、第3領域における高速側の変速段(4速~8速)では、低速側の変速段(3速)に比して、第1閾値は低く設定される。特に本実施形態では、高速側の4速~8速における第1閾値は、ゼロに設定されている。
【0190】
また、後退速における第1閾値は、第2領域における第1閾値と等しく設定されている。加えて、ニュートラルにおける第1閾値は、ゼロに設定されている。後退速における第1閾値は、例えば1100rpm以上かつ1400rpm以下に設定してもよい。
【0191】
同様に、第2マップ102は、自動変速機8の変速段ごとに、第2閾値の大きさを規定している。
図8Bに示すように、自動変速機8において選択可能な変速段のうち、後退速(R)及びニュートラル(N)を除いた各変速段は、第1領域と、第2領域と、第3領域と、に分類することができる。
【0192】
第1領域~第3領域の意味するところは、第1マップ101における第1領域~第3領域と同じである。特に本実施形態に係る第2マップ102では、第1マップ101と同様に、1速のみが第1領域に分類され、2速のみが第2領域に分類され、3速より高速側の2つ以上の変速段(具体的に3速~8速の6つの変速段)が第3領域に分類されている。
【0193】
そして、第2マップ102に例示するように、第2領域における第2閾値は、第1領域における第2閾値と、第3領域における第2閾値と、の双方に比べて高く設定されている。また、第1領域における第2閾値は、第3領域における第2閾値以上に設定してもよい。特に本実施形態では、第1領域における第2閾値は、第3領域における最低段(3速)における第2閾値と等しくなるよう設定されている。第2領域における第2閾値は、例えば30Nm以上かつ40Nm以下に設定してもよい。第1領域における第2閾値は、例えば20Nm以上かつ30Nm以下に設定してもよい。第3領域における第2閾値は、例えば20Nm以上かつ30Nm以下に設定してもよい。
【0194】
ここで、第3領域における高速側の変速段(4速~8速)では、低速側の変速段(3速)に比して、第2閾値は低く設定される。特に本実施形態では、高速側の4速~8速における第2閾値は、ゼロに設定されている。
【0195】
また、後退速における第2閾値は、第2領域における第2閾値と等しく設定されている。加えて、ニュートラルにおける第2閾値は、ゼロに設定されている。後退速における第2閾値は、例えば30Nm以上かつ40Nm以下に設定してもよい。
【0196】
上述したように、第1条件の成立時、トルク低下量判定部237は、第2制御を行うべく、第1目標エンジントルクの低下量(以下、単に「トルク低下量」ともいう)も算出する。トルク低下量の大きさは、
図11の第3マップ103に例示されるように、エンジン回転数に応じて変化する。第3マップ103は、予めコントローラ20に記憶されている。
【0197】
第3マップ103に例示するように、トルク低下量は、エンジン回転数が高いときには、低いときに比して大きくなる。つまり、仮に第1条件が成立したとしても、高回転側では、低回転側ほど第1目標エンジントルクは低下しないことになる。
【0198】
このように、本実施形態に係るトルク低下量判定部237は、第1条件の成立時に行われることになる第2制御の実行に際し、エンジン回転数が高いときには、低いときに比してトルク低下量を低く設定する。
【0199】
また、トルク低下量判定部237は、第1条件が非成立のときには、トルク低下量をゼロに設定してもよいし、トルク低下量をゼロに設定する代わりに、第2加減算器232bによる演算をスキップしてもよい。本実施形態では前者の構成が採用されているが、これに限定されるものではない。
【0200】
SOC判定部238は、前記第1条件が成立したときに、第1目標エンジントルクを実際に低下させるか否かを判定する。SOC判定部238による判定は、高電圧バッテリ9のSOCに基づいて行うことができる。
【0201】
具体的に、本実施形態に係るSOC判定部238は、高電圧バッテリ9のSOCが第3閾値以上の場合には、第2制御の実行を許容する。この場合、SOC判定部238は、トルク低下量判定部237が算出したトルク低下量を変更することなく、第2加減算器232bに入力する。
【0202】
一方、SOC判定部238は、高電圧バッテリ9のSOCが第3閾値未満の場合には、第2制御の実行を制限する。例えば本実施形態では、SOC判定部238は、トルク低下量判定部237が算出したトルク低下量をゼロに変更したり、トルク低下量に基づいた第2加減算器232bによる演算をスキップしたりすることで、第2制御の実行を禁止する。
【0203】
このように、本実施形態では、「第2制御の実行を禁止する」ことが、「第2制御の実行を制限する」ことに相当するが、より一般には、そうした構成には限定されない。「制限する」の語は、広義で用いることができる。例えば、トルク低下量の大きさ(絶対値)を減らすことで、第2制御の実行を制限してもよい。
【0204】
第2加減算器232bは、第1目標エンジントルクから、SOC判定部238が出力したトルク低下量を減算する。第2加減算器232bの出力は、第2制御によって低下させた後の第1目標エンジントルクであって、上述したように、気筒内への空気量を調整することにより達成されるトルクとして、エンジン制御部24へ出力することができる。
【0205】
そして、コントローラ20は、第2制御により目標エンジントルク(第1目標エンジントルク)を低下させるとき、その低下後の第1目標エンジントルクに基づいて、現時点よりも未来における気筒への吸入空気量を予測する。この予測の詳細は、
図8を用いて説明した通りである。この場合、スロットル開度予測部241に入力される目標エンジントルクは、第2制御によって低下させた後の第1目標エンジントルクとなる。エンジン制御部24が出力する予測吸入空気量は、第2制御による第1目標エンジントルクの低下量に応じて、減少することになる。
【0206】
ただし、この場合、スロットル開度予測部241は、第2制御によって低下させた後の第1目標エンジントルクに基づいて、アクセルペダル操作後のスロットル弁43の開度変化ではなく、第2制御によって生じるスロットル弁43の開度の変化を予測することになる。同様に、S-VT変化予測部246は、第2制御によって低下させた後の第1目標エンジントルクに基づいて、第2制御によって生じる吸気弁の開閉時期の変化を予測することになる。
【0207】
その後、コントローラ20は、エンジン制御部24が予測した吸入空気量に基づいて、第2制御開始後の未来におけるエンジン4のトルクを予測する。この予測の詳細は、
図7を用いて説明した通りである。この場合、エンジントルク演算部233に入力される予測吸入空気量は、第2制御の影響を反映したものとなる。エンジントルク演算部233が出力するエンジントルクの予測値は、第2制御による第1目標エンジントルクの低下量に応じて、減少することになる。
【0208】
その後、コントローラ20は、予測したエンジン4のトルクに基づいて、未来において自動車1の目標トルクが達成されるよう、第2制御による低下分を補完した目標モータトルクを設定しかつ、モータ5へ、この目標モータトルクに対応する制御信号を出力する。第2目標エンジントルク及び目標モータトルクの設定の詳細は、
図7を用いて説明した通りである。自動車1の目標トルクは、第2制御開始前の値を保持するようになっている。コントローラ20は、自動車1の目標トルクを維持しつつ、第2制御による第1目標エンジントルクの低下分を補う。そのために、第2加減算器232bが出力する目標モータトルクは、第2制御による第1目標エンジントルクの低下分を補完するように、第2制御の非実行時と比べて高くなる。これに伴い、制限部235及び加算器236の出力も、第2制御による第1目標エンジントルクの低下量を結果的に考慮したものとなる。
【0209】
(制御例)
図12は、車両の制御装置による制御例を示している。
図12のタイムチャートには、アクセルペダル19の操作、自動車1の目標トルクの変化、エンジン回転数の変化、第1目標エンジントルクの変化、歯打ち音抑制フラグの変化、エンジントルク予測値の変化、及び、目標モータトルクの変化が含まれている。歯打ち音抑制フラグは、第1条件の非成立時にゼロとなり、第1条件の成立時に1となるフラグである。
図12の横軸が、時間である。
【0210】
この制御例は、自動車1がHEVモードで走行している場合に、運転者が時刻t1及び時刻t3でアクセルペダル19を踏むことによって自動車1が加速する場合と、その後の時刻t5で第1条件が成立する場合と、を示している。
【0211】
先ず、時刻t1に運転者がアクセルペダル19を踏む。このアクセルペダル19の操作に対応するよう、トルク変換部21及びトルク調停部22は、自動車1の目標トルクを設定する。この目標トルクは、エンジン4のトルク及びモータ5のトルクによって実現するトルクである。
図8の制御例において、目標トルクは、時刻t1においてステップ状に高まる。
【0212】
トルク分配部23は、目標トルクの変化に対応するよう、目標エンジントルクを設定する。第1目標エンジントルクは、目標トルクと同様に、ステップ状に高まる。第1目標エンジントルクに対応するよう、エンジン4の目標吸入空気量が設定される。目標吸入空気量も、時刻t1においてステップ状に高まる(不図示)。目標吸入空気量が実現されるよう、スロットル弁43の開度が変わる(不図示)。前述したように、スロットル弁43の開度変化は、アクセルペダル19の操作に対して遅れるため、スロットル開度は、時間経過に対して徐々に変化する。
【0213】
前述したように、エンジン制御部24は、スロットル開度の変化を予測し、それに基づいて、現時点に対して基準時間後における、吸入空気量を予測する。予測吸入空気量は、スロットル開度の変化に対応するよう、時刻t1から遅れた所定時刻から、時間の経過と共に次第に増える。
【0214】
トルク分配部23のエンジントルク演算部233は、予測された吸入空気量からエンジントルクを演算する。エンジントルク演算部233は、例えば点火プラグ41がMBTにおいて点火を行った場合の、エンジン4のトルクを予測する。位相調整部234は、エンジン4のトルクの位相を調整する。
図12の制御例では、エンジン4の回転数が比較的低いため、遅延時間が設定されている。予測されたエンジントルクは、前記所定時刻からさらに遅れた時刻t2から、時間の経過と共に次第に増える。吸入空気量が増えることに対応して、時刻t2以降において、点火タイミングが変化する(不図示)。尚、点火タイミングは、時刻t3以降においても、MBTであるとする。
【0215】
トルク分配部23は、目標トルクと、エンジントルク予測値とから、目標モータトルクを設定する。目標モータトルクは、エンジン4のトルク変化の遅れが補完されるように、設定される。時刻t1からt2の間は、エンジン4のトルクが変化しない(つまり、トルクが上昇しない)。そのため、目標モータトルクが、時刻t1においてステップ状に高まることにより、目標トルクを実現する。アクセルペダル19の操作に対する、自動車1のトルク変化の応答遅れが抑制される。
【0216】
時刻t2以降において、エンジン4のトルクが次第に高まることに対応して、目標モータトルクが次第に下がる。エンジン4のトルク変化とモータ5のトルク変化が同期する。これにより、自動車1の実際のトルクと目標トルクとの乖離が抑制される。時刻t2以降も、目標トルクが達成される。
【0217】
尚、
図12とは異なり、運転者が踏んでいたアクセルペダル19を戻して、自動車1が減速する場合も、この制御装置は、モータ5が、エンジン4のトルク低下の遅れを補完する。アクセルペダル19の操作に対する、自動車1のトルク変化の応答遅れが抑制されると共に、自動車1の実際のトルクと目標トルクとの乖離が抑制される。尚、エンジン4のトルクを低下させる場合に、モータ5が補完するから、エンジン4は、点火タイミングをリタードさせずにMBTを維持しながら、吸入空気量を減少させることによりトルクを低下できる。自動車1の燃費性能が向上する。
【0218】
その後、時刻t3及び時刻t4において、それぞれ、時刻t1及び時刻t2と同様の変化が生じる。ここで、先程とは異なり、時刻t3からエンジン回転数が低下し始めたものとする。また、実エンジントルクは、時刻t1以降、前述の第2閾値以下の値に保たれているものとする。そして、エンジン回転数が低下し続けた結果、時刻t5において、エンジン回転数が第1閾値以下になったものとする。
【0219】
この場合、コントローラ20は、第1条件が成立したものと判定し、歯打ち音抑制フラグを0から1に変更する。これにより、第2制御が開始される。第2制御が開始されると、アクセルペダル開度を大きくした場合とは反対に、第1目標エンジントルクは、ステップ状に低下する。その際、トルク変換部21及びトルク調停部22が設定する自動車1の目標トルクは、第2制御の開始前から変化せずに保持される。
【0220】
つまり、アクセル操作に対応した処理の場合、目標トルクの変化に併せて第1目標エンジントルクが変化するところ、第2制御に際しては、目標トルクを保持しつつ第1目標エンジントルクが変化する。
【0221】
エンジン制御部24は、第2制御時におけるスロットル開度の変化を予測し、それに基づいて、現時点に対して基準時間後における、吸入空気量を予測する。予測吸入空気量は、スロットル開度の変化に対応するよう、時刻t5から遅れた所定時刻から、時間の経過と共に次第に増える。
【0222】
トルク分配部23のエンジントルク演算部233は、予測された吸入空気量からエンジントルクを演算する。トルク分配部23は、目標トルクと、エンジントルク予測値とから、目標モータトルクを設定する。その際、前述の遅延時間が、適宜、考慮される。目標モータトルクは、エンジン4のトルク変化の遅れが補完されるように、設定される。時刻t5から時刻t6の間は、エンジン4のトルクが変化しない(つまり、トルクが上昇しない)。しかしながら、自動車1全体の目標トルクが一定に保たれているため、時刻t1~時刻t2等とは異なり、目標モータトルクは、時刻t5においてステップ状に変化しない。
【0223】
時刻t6以降において、エンジン4のトルクが次第に低下することに対応して、目標モータトルクが次第に高まる。エンジン4のトルク変化とモータ5のトルク変化が同期する。これにより、自動車1の実際のトルクと目標トルクとの乖離が抑制される。
【0224】
その後、時刻t7においてエンジン回転数が第1閾値よりも高くなったとすると、コントローラ20は、第1条件が非成立になったと判定し、歯打ち音抑制フラグを1から0に変更する。これにより、第2制御が終了する。
【0225】
第2制御が終了すると、第1目標エンジントルクは、第2制御の非実行時の値に変化する。この変化に応じて、エンジン4のトルク及びモータ5のトルクが、次第に、第2制御の実行前の値に戻る。
【0226】
(変形例)
図13は、トルク分配部230の変形例を示している。
図9は、トルク分配部230の一部の機能ブロックを示している。トルク分配部230は、SOC管理部231と、第1加減算器232a(
図13では省略)と、エンジントルク演算部233と、位相調整部234と、第2加減算器232bと、制限部235と、第3加減算器232cと、加算器236と、第2加算器239と、を有している。
【0227】
さらに、
図13では省略するが、トルク分配部230は、トルク低下量判定部237と、SOC判定部238と、第4加減算器232dと、を有している。これらの機能ブロックが果たすべき機能は、
図7を用いて説明したものと同じである。
【0228】
エンジントルク演算部233は、前述の通り、エンジン制御部24が予測した吸入空気量に基づいて、未来におけるエンジン4のトルクを予測する。位相調整部234は、エンジン4のトルクの位相を、エンジン4の回転数に応じて調整する。
【0229】
第2加減算器232bは、
図7のトルク分配部23の第2加減算器232bとは異なり、予測したエンジントルクと第1目標エンジントルクとの差分を演算する。第2加減算器232bは、エンジン4のトルク応答の遅れ分を演算する。この差分は、モータ5が補完すべきトルクに相当する。なお、ここで演算されるべき第1目標エンジントルクは、第2制御の実行時には、該第2制御の非実行時に比して低下させたものとなる。
【0230】
第2加算器239は、第2加減算器232bの出力と、SOC管理部231の出力とを加算する。第2加減算器232bの出力は、予測したエンジントルクと第1目標エンジントルクとの差分である。SOC管理部231の出力は、前述したように、自動車1の目標トルクとバッテリ情報とに基づいて設定された目標モータトルクである。第2加算器239は、言い換えると、SOC管理部231が設定した目標モータトルクを、エンジン4のトルク応答の遅れ分が補完されるように、補正している。ここでの補正には、第2制御による第1目標エンジントルクの低下分も反映される。
【0231】
尚、第2加減算器232bにおいて差分がゼロであれば、SOC管理部231が設定した目標モータトルクは、補正されない。
【0232】
制限部235は、第2加算器239によって補正された目標モータトルクと、最大モータトルクと、最小モータトルクとに基づいて、前記と同様に、最終的な目標モータトルクを設定する。第3加減算器232c及び加算器236は、前述したように、目標モータトルクが最小モータトルクによって制限された場合に、エンジン4のトルクが下がるよう、第2目標エンジントルクを設定する。第2目標エンジントルクの設定には、第2制御による第1目標エンジントルクの低下分も反映される。
【0233】
変形例においても、目標モータトルクは、エンジン4のトルク応答の遅れを補完するように設定されるため、アクセルペダル19の操作に対する、自動車1のトルク変化の応答遅れが抑制される。また、現時点よりも未来におけるエンジン4のトルク予測に基づくため、第2制御に実行時にあっても、実際のトルクと目標トルクとの乖離を無くす、又は、実質的に無くすことができる。
【0234】
図14は、第1条件の判定に係るフローチャートである。
図15は、制御装置の制御に係るフローチャートである。
図14の制御フローは、
図7に例示したトルク分配部23と共通である。
図15は、変形例に特有の制御フローである。
図14において、ステップS2及びステップS3の順番を入れ替えてもよいし、各ステップを並行して進めてもよい。
【0235】
まず、ステップS1において、コントローラ20は、エンジン回転数センサ54、エンジントルクセンサ55及びSOCセンサの検出信号と、現在の変速段と、を読み込む。コントローラ20は、第1マップ101及び第2マップ102を参照し、第1閾値及び第2閾値を決定する。
【0236】
続くステップS2において、コントローラ20は、エンジン回転数が第1閾値以下であるか否かを判定する。続くステップS3において、コントローラ20は、実エンジントルクが第2閾値以下であるか否かを判定する。
【0237】
コントローラ20は、ステップS2及びステップS3の判定が両方ともYESの場合、制御プロセスをステップS4に進める。コントローラ20は、ステップS2及びステップS3の少なくとも1つがNOの場合、制御プロセスをステップS5に進める。
【0238】
ステップS4において、コントローラ20は、第1条件が成立していると判定し、前述の歯打ち音抑制フラグを1に設定する。ステップS5において、コントローラ20は、第1条件が成立していないと判定し、前述の歯打ち音抑制フラグを0に設定する。歯打ち音抑制フラグの設定は、
図15の制御フローに用いられる。
【0239】
具体的に、
図15の制御フローにおいて、制御プロセスは、ステップS14~ステップS18と、ステップS13及びステップS19~ステップS25と、が並列に進行する。
【0240】
具体的に、ステップS11において、コントローラ20は、アクセルポジションセンサ51の計測信号に基づいて、運転者のアクセル操作を読み込む。さらに、コントローラ20は、歯打ち音抑制フラグを読み込む。続くステップS12において、トルク変換部21及びトルク調停部22は、自動車1の目標トルクを設定する。
【0241】
ステップS13において、SOC管理部231は、目標モータトルクを設定する。ステップS13の後、プロセスはステップS19へ進む。
【0242】
一方、ステップS14において、第1加減算器232aは、自動車1の目標トルクと目標モータトルクとから、目標エンジントルク(第1目標エンジントルク)を設定する。
【0243】
続くステップS15において、コントローラ20は、第1条件が成立しているか否かを判定する。第1条件の成立時(ステップS15:YES)、コントローラ20は、制御プロセスをステップS16に進める。ステップS16においてコントローラ20は第2制御を実行し、第1目標エンジントルクを低下させる。第1目標エンジントルクを低下後の値に差し替えた後、コントローラ20は、制御プロセスをステップS17に進める。
【0244】
一方、第1条件の非成立時(ステップS15:NO)、コントローラ20は、ステップS16をスキップし、制御プロセスをステップS17に進める。ステップS17において、エンジン制御部24は、スロットル弁43、インジェクタ42、点火プラグ41及び吸気S-VT44の制御目標値を設定する。続くステップS18において、エンジン制御部24は、ステップS17において設定した各制御目標値に基づいて、スロットル弁43、インジェクタ42、点火プラグ41及び吸気S-VT44のそれぞれへ制御信号を出力する。コントローラ20によって、エンジン4が制御される。
【0245】
ステップS19において、エンジントルク演算部233及び位相調整部234は、目標エンジントルクに基づいて、現時点よりも未来におけるエンジントルクを予測する。予測されたエンジントルクと第1目標エンジントルクとの差分が、第2加減算器232bによって演算されることにより、コントローラ20は、予測されたエンジントルクと目標エンジントルクとが一致しないか否かを判断する(ステップS20)。ステップS20において用いられる目標エンジントルクは、第1条件成立時には、第2制御によって低下させた後の第1目標エンジントルクとなる。
【0246】
ステップS20の判断がNoの場合、プロセスはステップS21へ進む。ステップS20の判断がYesの場合、プロセスはステップS22へ進む。
【0247】
ステップS22において、コントローラ20は、高電圧バッテリ9のSOCが第3閾値以上であるか否かを判断する。図示は省略したが、第1条件の非成立時、プロセスはステップS22をスキップしてステップS23に進む。ステップS22の判断は、第1条件の成立時のみ行われる。
【0248】
ステップS23において、コントローラ20は、現時点に対して設定時間後における目標モータトルクを補正する。つまり、第2加算器239が、予測されたエンジントルクと第1目標エンジントルクとの差分を、目標モータトルクに足し合わせる。ステップS23において用いられる第1目標エンジントルクは、第1条件成立時には、第2制御によって低下させた後の第1目標エンジントルクとなる。
【0249】
ステップS24において、コントローラ20は、エンジン4のトルク予測に係る設定時間に至ったか否かを判断する。ステップS24の判断がNoの場合、プロセスはステップS24を繰り返し、ステップS24の判断がYesの場合、プロセスはステップS25へ進む。
【0250】
ステップS25において、モータ制御部25は、補正された目標モータトルクに係る制御信号を、インバータ7へ出力する。これにより、モータ5のトルク変化とエンジン4のトルク変化とが同期する。アクセルペダル19の操作に対するトルク変化の応答遅れが抑制されかつ、自動車1の目標トルクと実際のトルクとの乖離が抑制される。自動車1の目標トルクが達成される。
【0251】
目標モータトルクが補正されない場合、モータ制御部25は、ステップS21において、ステップS13で設定された目標モータトルクに係る制御信号を、インバータ7へ出力する。インバータ7を通じてモータ5が制御されて、目標モータトルク、ひいては自動車1の目標トルクが達成される。図示は省略したが、第1条件成立時にステップS21に進んだ場合、コントローラ20は、第2制御を中止して、第1目標エンジントルクを、第2制御による低下前の値に戻す。
【0252】
(歯打ち音抑制制御における最適なトルク配分方法について)
以上説明したように、コントローラ20は、目標エンジントルクを、予め定めた分配ルールに従い分配する(第1制御)。分配ルールは、例えば高電圧バッテリ9のSOCに基づくルールである。高電圧バッテリ9は、モータ5へ電力を供給するために自動車1に搭載される。コントローラ20は、SOCが高い場合は、高電圧バッテリ9の放電を優先するため、目標エンジントルクが小さくかつ、目標モータトルクが大きくなるようにし、SOCが低い場合は、高電圧バッテリ9の充電を優先するため、目標エンジントルクが大きくかつ、目標モータトルクが小さくなるようにしてもよい。コントローラ20は、エンジンへ、目標エンジントルクに対応する制御信号を出力する。エンジン4は、目標エンジントルクを出力するよう運転する。
【0253】
ここで、
図7のトルク低下量判定部237、及び、
図14のフローチャートに基づいて説明したように、コントローラ20は、所定の第1条件が成立したときに、第1制御において決定された目標エンジントルクを低下させる(第2制御)。この制御は、自動変速機8のギヤの歯面にかかるトルクの変動に起因した歯打ち音の発生を抑制するための、いわゆる歯打ち音抑制制御に相当する。コントローラ20は、第2制御の実行に際し、自動車1の目標トルクを保持したまま、目標エンジントルクを低下させる。目標エンジントルクが変わると、エンジン4は、例えばスロットル弁43の開度を変更させ、それによって、気筒への吸入空気量が変わる。気筒への吸入空気量が変わるとエンジントルクが変わる。
【0254】
ここで、自動車1の目標トルクを保持するためには、目標エンジントルクを低下させた分、モータトルクを増加させることが求められる。目標トルクの配分を変更してから、スロットル弁43の開度変更及び吸入空気量の変更を経て、エンジントルクが実際に変わるまでには、タイムラグが生じる。
【0255】
例えば
図8を用いて説明したように、目標エンジントルクの変更に対する、スロットル弁43の開度変化は、例えばスロットル弁43の特性(例えば機械的な特性を含む)を予め特定しておくことによって予測できる。現時点よりも未来におけるスロットル弁43の開度変化が予測できれば、未来における吸入空気量が予測でき、吸入空気量が予測できれば、未来におけるエンジン4のトルクが予測できる。コントローラは、目標エンジントルクに基づいて、未来におけるエンジン4のトルクを予測する。
【0256】
コントローラ20はまた、未来におけるエンジン4のトルクを予測すれば、未来において自動車1の目標トルクが達成されるよう、第2制御による低下分を補完した目標モータトルクを設定する。その際、自動車1の目標トルクは、第1条件の成立前の値に保持してもよい。そうして設定される目標モータトルクは、トルク配分を変化させた後(第2制御の開始後)における、エンジン4のトルク応答の遅れを補完する。
図7及び
図8を用いて説明した処理を行うことで、目標エンジントルクの低下分が、結果的に補完される。
【0257】
コントローラ20は、モータ5へ、目標モータトルクに対応する制御信号を出力する。モータ5のトルク応答は一般的に早いため、モータ5は、未来において目標モータトルクに対応するトルクを出力できる。その結果、自動車1の目標トルクを保持しつつ、エンジントルクとモータトルクとの配分を変化させることができる。
【0258】
高応答のモータ5がエンジン4の応答遅れを補完するため、前記の制御装置では、トルク配分の変化に対するトルク変化の応答遅れが抑制される。
【0259】
また、実際のエンジントルクではなく、未来におけるエンジントルクを予測し、予測した未来におけるエンジントルクに基づいて、目標モータトルクが設定される。設定される目標モータトルクは、実際のエンジントルクの変化に対する後追いではない。前記の制御装置では、エンジントルクの低下に伴ってトルク配分を変化させる過渡時であっても、実際のトルクと目標トルクとの乖離を無くす、又は、実質的に無くすことができる。
【0260】
その結果、本開示に係る自動車1の制御装置は、運転者のドライバビリティを向上させる。
【0261】
図2を用いて説明した自動変速機8は、前述したようにトルコンレス型の自動変速機である。一般に、トルコンレス型の自動変速機8は、トルクコンバータを具備する自動変速機に比して歯打ち音が懸念される。
【0262】
これに対し、
図7のトルク低下量判定部237、及び、
図14のフローチャートに基づいて説明したように、本実施形態に係るコントローラ20は、簡易な条件設定でありながらも、高精度かつ適切なタイミングで第2制御を行うことができる。これにより、歯打ち音を抑制する上で有利になる。
【0263】
第2制御後のスロットル弁43の開度の変化は、例えばスロットル弁43の機械特性を予め特定しておくことによって予測できる。
図8を用いて説明したように、現時点よりも未来におけるスロットル開度が予測できれば、スロットル弁43よりも下流のインテークマニホールドの圧力とスロットル弁43よりも上流の吸気圧力とから、例えばベルヌーイの式を用いて、現時点よりも未来において、スロットル弁43を通過する空気量が予測できる。
【0264】
スロットル弁43を通過する空気量が予測できれば、インテークマニホールド内の空気量が予測でき、インテークマニホールド内の空気量が予測できれば、気筒への吸入空気量が予測できる。コントローラ20は、現時点よりも未来における気筒への吸入空気量を予測できる。
【0265】
第2制御後の吸気弁の開閉時期の変化は、吸気弁の開閉時期を変更する吸気S-VT44の特性(例えば機械特性を含む)を予め特定しておくことによって予測できる。また、
図8を用いて説明したように、当該エンジン4について、吸気弁の開閉時期とエンジン4の運転状態と充填効率との関係を、予め特定しておくことにより、予測した開閉時期に基づいて、コントローラ2-は、充填効率を予測できる。
【0266】
充填効率が予測できれば、前述したインテークマニホールド内の空気量と、充填効率とから、気筒への吸入空気量が、より高精度に予測できる。コントローラ20は、現時点よりも未来における気筒への吸入空気量を、精度良く予測できる。
【0267】
また、
図7のSOC判定部238、及び、
図14のフローチャートに基づいて説明したように、SOCが不足していてモータ5による補完が困難であると考えられる場合、コントローラ20は、第2制御の実行を制限する。これにより、SOCが不足している場合であっても、自動車1の目標トルクを達成することができる。
【0268】
また、本願発明者らが鋭意検討した結果、実験的に得られた知見によれば、
図2に例示した自動変速機8の場合、前述のように定義される第2領域(例えば2速)では、自動変速機8のギヤ比とイナーシャとの関係から、ねじり共振の発生が懸念される。高周波数域に共振点が存在するため、歯打ち音が発生し易い。
【0269】
そこで、
図10Aに例示したように、第2領域では、第1閾値を相対的に高く設定することで、より早いタイミングで第2制御を開始したり、第2制御の実行を促したりすることができる。これにより、歯打ち音を抑制する上で有利になる。ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図ることができる。
【0270】
また、本願発明者らが鋭意検討した結果、実験的に得られた知見によれば、
図2に例示した自動変速機8の場合、後退速は、前記第2領域と同様に、歯打ち音が発生し易い。
【0271】
そこで、
図10Aに例示したように、後退速では、第1閾値を相対的に高く設定することで、より早いタイミングで第2制御を開始したり、第2制御の実行を促したりすることができる。これにより、歯打ち音を抑制する上で有利になる。ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図ることができる。
【0272】
また、本願発明者らが鋭意実験を重ねた結果、実験的に得られた知見によれば、
図2に例示した自動変速機8の場合、高速側の変速段では、暗騒音が隠れた結果、歯打ち音は運転者に届きにくくなる。また、共振点を考慮してもなお、歯打ち音の大きさは、問題無いレベルだった。
【0273】
そこで、
図10Aに例示したように、第3領域の高速側(例えば、4速よりも高速側)では、第1閾値を相対的に低く設定する。これにより、第2制御の実行を抑制することができる。これにより、ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図る上で有利になる。
【0274】
また、本願発明者らが鋭意実験を重ねた結果、実験的に得られた知見によれば、
図2に例示した自動変速機8の場合、前述のように定義される第2領域(例えば2速)では、自動変速機8のギヤ比とイナーシャとの関係から、ねじり共振の発生が懸念される。高周波数域に共振点が存在するため、歯打ち音が発生し易い。
【0275】
そこで、
図10Bに例示したように、第2領域では、第2閾値を相対的に高く設定することで、より早いタイミングで第2制御を開始したり、第2制御の実行を促したりすることができる。これにより、歯打ち音を抑制する上で有利になる。ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図ることができる。
【0276】
また、本願発明者らが鋭意実験を重ねた結果、実験的に得られた知見によれば、
図2に例示した自動変速機8の場合、後退速は、前記第2領域と同様に、歯打ち音が発生し易い。
【0277】
そこで、
図10Bに例示したように、後退速では、第2閾値を相対的に高く設定することで、より早いタイミングで第2制御を開始したり、第2制御の実行を促したりすることができる。これにより、歯打ち音を抑制する上で有利になる。ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図ることができる。
【0278】
また、本願発明者らが鋭意実験を重ねた結果、実験的に得られた知見によれば、
図2に例示した自動変速機8の場合、高速側の変速段では、暗騒音が隠れた結果、歯打ち音は運転者に届きにくくなる。また、共振点を考慮してもなお、歯打ち音の大きさは、問題無いレベルだった。
【0279】
そこで、
図10Bに例示したように、第3領域の高速側(例えば、4速よりも高速側)では、第2閾値を相対的に低く設定する。これにより、第2制御の実行を抑制することができる。これにより、ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図る上で有利になる。
【0280】
また、本願発明者らが鋭意実験を重ねた結果、実験的に得られた知見によれば、
図2に例示した自動変速機8の場合、エンジン回転数が高いときには、低いときに比して歯打ちが発生にくい。したがって、
図11に例示したように、エンジン回転数が高いときには、目標エンジントルクの低下量を、エンジン回転数が低いときに比して低く設定することが許容される。これにより、ドライバビリティと歯打ち音の抑制との両立を図る上で
【符号の説明】
【0281】
1 自動車
4 エンジン
5 モータ
8 自動変速機
19 アクセルペダル
20 コントローラ
43 スロットル弁