(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025319
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】鉄骨梁の設計方法
(51)【国際特許分類】
E04C 3/06 20060101AFI20240216BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240216BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
E04C3/06
E04B1/58 505S
E04B1/24 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128685
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】仁田脇 雅史
(72)【発明者】
【氏名】石井 大吾
(72)【発明者】
【氏名】久保山 寛之
(72)【発明者】
【氏名】牛坂 伸也
(72)【発明者】
【氏名】佐野 達彦
【テーマコード(参考)】
2E125
2E163
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB01
2E125AB16
2E125AG03
2E125AG04
2E125AG32
2E125BB02
2E125BD01
2E163FA12
2E163FB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水平スチフナの補剛による鉄骨梁の耐力上昇を考慮したスチフナ補剛長さと、合理的な水平スチフナの断面を設計可能な鉄骨梁の設計方法を提供する。
【解決手段】スチフナ補剛長さ設計工程では、スチフナ補剛部におけるウェブの長さ方向の中央側の端部の位置に生じる曲げモーメントM2よりもウェブに水平スチフナが設けられていない無補剛部の耐力Ma0が大きくなるようにスチフナ補剛部の長さ寸法を設計し、水平スチフナ断面設計工程では、水平スチフナの断面二次モーメントIshが水平スチフナの必要断面二次半径reqishの二乗と水平スチフナの断面積Ashとの積に0.7を乗じた値以上となる式を満たし、水平スチフナの断面積Ashとウェブの断面積Awとの比δshが0.1以上となる式を満たすように水平スチフナの断面形状を設計する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブの長さ方向の端部から中央に向かった所定の長さ範囲に水平方向に延びる水平スチフナを接合したスチフナ補剛部が設けられた鉄骨梁における前記スチフナ補剛部の長さ寸法を算定するスチフナ補剛長さ設計工程と、
前記水平スチフナの断面形状を算定する水平スチフナ断面設計工程と、を有し、
前記スチフナ補剛長さ設計工程では、
前記スチフナ補剛部における前記ウェブの前記長さ方向の中央側の端部の位置に生じる曲げモーメントM
2よりも前記ウェブに前記水平スチフナが設けられていない無補剛部の耐力M
a0が大きくなるように前記スチフナ補剛部の長さ寸法を設計し、
前記無補剛部の耐力M
a0は、下式(1.1)および(1.2)により算定し、
前記曲げモーメントM
2は、前記ウェブの前記長さ方向の端部の位置に生じる曲げモーメントM
1を前記無補剛部の長さと鉄骨梁の内法長さの比率で減少させて算出し、前記曲げモーメントM
1は、下式(1.3)により算定し、
前記水平スチフナ断面設計工程では、
前記スチフナ補剛部における、前記水平スチフナが接合されている位置から前記ウェブの上端部までの領域、前記水平スチフナが接合されている位置から前記ウェブの下端部までの領域、前記水平スチフナが上下方向に間隔をあけて複数設けられる場合には上下に配置された前記水平スチフナの間の領域をそれぞれサブパネルと称し、
前記水平スチフナの断面二次モーメントI
shが前記水平スチフナの必要断面二次半径
reqi
shの二乗と前記水平スチフナの断面積A
shとの積に0.7を乗じた値以上となる下式(2.1)を満たし、
前記水平スチフナの断面積A
shと前記ウェブの断面積A
wとの比δ
shが0.1以上となる下式(2.2)を満たすように前記水平スチフナの断面形状を設計し、
前記水平スチフナの断面二次モーメントI
shは、下式(2.1a)より算定し、
前記水平スチフナの必要断面二次半径
reqi
shは、下式(2.1b)および下式(2.1c)より算定する鉄骨梁の設計方法。
【数1】
【請求項2】
前記水平スチフナを前記ウェブの一方の面のみに設ける請求項1に記載の鉄骨梁の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨梁の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェブ幅厚比の大きな鉄骨梁を対象に、梁端部のヒンジ形成位置近傍のウェブのみをスチフナで補剛することによって使用する鋼材量を低減しつつ、必要な塑性変形性能を確保する薄肉ウェブスチフナ補剛工法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-094339号公報
【特許文献2】特開2021-183782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような薄肉ウェブスチフナ補剛工法における鉄骨梁の設計では、スチフナによりウェブを補剛する長さ(スチフナ補剛長さ)およびウェブを補剛する水平スチフナの断面を設計する必要がある。
スチフナ補剛長さの設計については、スチフナにより補剛された鉄骨梁の耐力上昇を適切に評価した設計が必要であるが、現状確立されていない。
また、水平スチフナの断面の設計については、必要剛性に対して水平スチフナの断面を設計する手法は提案されているが、このような手法では安全側の設計式であるため水平スチフナが過剰な断面形状になるケースがある。
【0005】
そこで、本発明は、水平スチフナの補剛による鉄骨梁の耐力上昇を考慮したスチフナ補剛長さと、合理的な水平スチフナの断面を設計可能な鉄骨梁の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄骨梁の設計方法は、ウェブの長さ方向の端部から中央に向かった所定の長さ範囲に水平方向に延びる水平スチフナを接合したスチフナ補剛部が設けられた鉄骨梁における前記スチフナ補剛部の長さ寸法を算定するスチフナ補剛長さ設計工程と、前記水平スチフナの断面形状を算定する水平スチフナ断面設計工程と、を有し、前記スチフナ補剛長さ設計工程では、前記スチフナ補剛部における前記ウェブの前記長さ方向の中央側の端部の位置に生じる曲げモーメントM2よりも前記ウェブに前記水平スチフナが設けられていない無補剛部の耐力Ma0が大きくなるように前記スチフナ補剛部の長さ寸法を設計し、前記無補剛部の耐力Ma0は、下式(1.1)および(1.2)により算定し、前記曲げモーメントM2は、前記ウェブの前記長さ方向の端部の位置に生じる曲げモーメントM1を前記無補剛部の長さと鉄骨梁の内法長さの比率で減少させて算出し、前記曲げモーメントM1は、下式(1.3)により算定し、前記水平スチフナ断面設計工程では、前記スチフナ補剛部における、前記水平スチフナが接合されている位置から前記ウェブの上端部までの領域、前記水平スチフナが接合されている位置から前記ウェブの下端部までの領域、前記水平スチフナが上下方向に間隔をあけて複数設けられる場合には上下に配置された前記水平スチフナの間の領域をそれぞれサブパネルと称し、前記水平スチフナの断面二次モーメントIshが前記水平スチフナの必要断面二次半径reqishの二乗と前記水平スチフナの断面積Ashとの積に0.7を乗じた値以上となる下式(2.1)を満たし、前記水平スチフナの断面積Ashと前記ウェブの断面積Awとの比δshが0.1以上となる下式(2.2)を満たすように前記水平スチフナの断面形状を設計し、前記水平スチフナの断面二次モーメントIshは、下式(2.1a)より算定し、前記水平スチフナの必要断面二次半径reqishは、下式(2.1b)および下式(2.1c)より算定する。
【0007】
【0008】
本発明では、スチフナ補剛部における長さ方向の中央側の端部、すなわち無補剛部との境界に生じる曲げモーメントM2よりも無補剛部の耐力Ma0が小さい場合、スチフナ補剛部と無補剛部との境界に生じる曲げモーメントM2が無補剛部の耐力Ma0に達するとスチフナ補剛部と無補剛部との境界に塑性ヒンジが形成され、2ヒンジ状態となり塑性変形能力が急激に低下する変形状態になる虞がある。これに対し、本発明では、スチフナ補剛部と無補剛部との境界に生じる曲げモーメントM2よりも無補剛部の耐力Ma0が大きくなるようにスチフナ補剛部の長さ寸法を設計しているため、上記のような変形状態になる虞が無く、水平スチフナの補剛による耐力上昇を考慮したスチフナ補剛長さの設計が可能である。
また、本発明では、従来の水平スチフナの断面の設計手法と比較して,補剛効果を確保しつつより合理的な断面設計が可能である。
【0009】
本発明に係る鉄骨梁の設計方法では、前記水平スチフナを前記ウェブの一方の面のみに設けるようにしてもよい。
【0010】
このようにすることにより、鉄骨梁の設計及び製作が容易となるとともに鋼材料削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水平スチフナの補剛による鉄骨梁の耐力上昇を考慮したスチフナ補剛長さと、合理的な水平スチフナの断面を設計可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態による鉄骨梁の斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態による鉄骨梁を幅方向から見た側面図である。
【
図3】文献1による最大耐力近似式と本実施形態の鉄骨梁の設計方法における無補剛部梁耐力を示すグラフである。
【
図4】スチフナ補剛部が設けられた鉄骨梁の設計用曲げ応力を示す図である。
【
図5】文献1による最大耐力近似式と本実施形態の鉄骨梁の設計方法における梁端部想定耐力の近似式を示すグラフである。
【
図6】FEM解析によるスチフナ補剛長さの設計式の検証に用いた解析ケースの諸元を示す表である。
【
図11】スチフナの配置と各寸法の定義を示す図である。
【
図13】水平スチフナの断面二次モーメントの算定位置である。
【
図14】水平スチフナの断面設計式の検証に用いた解析ケースの諸元を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による鉄骨梁の設計方法について、
図1-
図16に基づいて説明する。
図1、
図2に示すように、本実施形態による鉄骨梁1は、H形鋼である。鉄骨梁1は、上フランジ2と下フランジ3と、ウェブ4と、を有している。鉄骨梁1は、水平方向に延び、両端部が柱12に接合されている。以下では、鉄骨梁1が延びる水平方向を長さ方向と表記する。長さ方向に直交する水平方向を幅方向と表記する。鉄骨梁1の説明において鉛直方向を高さ方向と表記する。
図1、
図2では、鉄骨梁1の長さ方向の一方の端部1aの近傍を示している。
【0014】
鉄骨梁1のウェブ4の長さ方向の端部4aから長さ方向の中央に向かう所定の領域には、スチフナ5が接合されている。鉄骨梁1のウェブ4は、スチフナ5によって補剛されている。スチフナ5は、ウェブ4の一方の面のみに接合されている。本実施形態では、スチフナ5は、2つの水平スチフナ51,52および1つの縦スチフナ53である。
【0015】
ウェブ4におけるスチフナ5が接合されて補剛されている領域を「スチフナ補剛部6」と表記し、スチフナ補剛部6の長さ方向の長さ寸法を「スチフナ補剛長さLst」と表記する。「スチフナ補剛長さLst」は、本発明の「スチフナ補剛部の長さ寸法」に相当する。
スチフナ補剛部6は、ウェブ4の長さ方向の両方の端部近傍に設けられている。ウェブ4におけるスチフナ補剛部6以外の領域を「無補剛部7」と表記する。無補剛部7は、ウェブ4の長さ方向の中間部に設けられている。
スチフナ補剛部6の長さ方向の端部のうち、柱12に近接する側の端部を第1端部6aと表記する。スチフナ補剛部6の長さ方向の端部のうち、柱12と離間する側、すなわち、無補剛部7側の端部を第2端部6bと表記する。第1端部6aは、ウェブ4の長さ方向の端部4aに位置している。
【0016】
2つの水平スチフナ51,52は、それぞれ長尺の平板状の鋼材で、板面が水平面となり、長さ方向に延びる向きでウェブ4に接合されている。2つの水平スチフナ51,52の形状および強度は同一である。2つの水平スチフナ51,52は、高さ方向に間隔をあけて配置されている。上側の水平スチフナ51と上フランジ2との間隔と、下側の水平スチフナ52と下フランジ3との間隔は、同じ寸法である。
【0017】
スチフナ補剛部6における、上側の水平スチフナ51が接合されている位置からウェブ4の上端部までの領域および下側の水平スチフナ52が接合されている位置からウェブ4の下端部までの領域をそれぞれ外側パネル41,41と表記し、上側の水平スチフナ51が接合されている位置から下側の水平スチフナ52が接合されている位置までの領域を内側パネル42と表記する。外側パネル41,41および内側パネル42は、それぞれサブパネル43と表記する。
【0018】
2つの水平スチフナ51,52の長さ方向の端部のうち、柱12に近接する側の端部を第1端部51a,52aと表記し、柱12と離間する側の端部を第2端部51b,52bと表記する。2つの水平スチフナ51,52の第1端部51a,52aは、ウェブ4の長さ方向の端部4aの位置すなわち、スチフナ補剛部6の第1端部6aの位置に配置されている。2つの水平スチフナ51,52の第2端部51b,52bは、スチフナ補剛部6の第2端部6bの位置に配置されている。
【0019】
縦スチフナ53は、平板状の鋼材で、板面が長さ方向を向き高さ方向に延びる向きでウェブ4に接合されている。縦スチフナ53は、スチフナ補剛部6の第2端部6bの位置に配置されている。
【0020】
本実施形態による鉄骨梁の設計方法では、スチフナ補剛長さLstを算定するスチフナ補剛長さ設計工程と、水平スチフナ51,52の断面形状を算定する水平スチフナ断面設計工程と、を有する。
【0021】
(スチフナ補剛長さ設計工程)
スチフナ補剛長さ設計工程では、必要となるスチフナ補剛長さLstを以下のように設計する。
スチフナ補剛長さLstは、スチフナ補剛部6の第2端部6bに生じる曲げモーメントM2よりも無補剛部7の耐力Ma0が大きくなるように設計する。無補剛部7の耐力Ma0は、下式(1.1)および(1.2)により算定する。
ウェブ4の幅厚比が大きくなり、鉄骨梁1の最大耐力(WF0による無補剛部耐力Mmax)が無補剛部断面の全塑性モーメントMpを下回る場合についても適切な耐力評価が可能である。
【0022】
【0023】
スチフナ補剛部6の第2端部6bに生じる曲げモーメントM2は、鉄骨梁1の端部1aの曲げモーメントM1を鉄骨梁1の無補剛部7の長さ(鉄骨梁1の内法長さL0-スチフナ補剛長さLst×2)と鉄骨梁1の内法長さL0の比率で減少させたものとして算出する。
ここで、スチフナ補剛長さLstの設計用の鉄骨梁1の端部1aの曲げモーメントM1は、下記の文献1による幅厚比指標WFを用いた最大耐力の評価式を用いて算定する。
文献1 五十嵐規矩夫、末國良太、篠原卓馬、王韜:鋼構造H形断面梁の耐力及び塑性変形能力評価のための新規幅厚比指標と幅厚比区分、日本建築学会構造系論文集(668)、pp.1865-1872、2011.10)
スチフナ補剛長さLstの算定においては、端部応力を大きく評価し安全側の設計をするため、最大耐力の下限値を取る形で導出された文献1の最大耐力の評価式を、最大耐力の上限値を取るように修正した下式(1.3)を用いて算出する。
【0024】
【0025】
図3に、文献1による最大耐力近似式と本実施形態の鉄骨梁の設計方法における無補剛部梁耐力との比較したグラフを示す。
図4に、スチフナ補剛部6が設けられた鉄骨梁1の設計用曲げ応力を示す。なお、上記の文献1においては最大耐力近似式をせん断耐力として表現しているが、本実施形態の鉄骨梁の設計方法においては、両辺にせん断スパンを乗じることで曲げモーメントに変換して表現している。
図5に、文献1による最大耐力近似式と本実施形態の鉄骨梁の設計方法における梁端部想定耐力の近似式を示す。
【0026】
(FEM解析によるスチフナ補剛長さL
stの設計式の検証)
上記の鉄骨梁の設計方法によるスチフナ補剛長さL
stの設計式の妥当性を検証するために大変形非線形解析(FEM解析)を実施し、スチフナ補剛長さL
stと塑性変形能力との関係を確認した。
図6に解析ケースを示す。いずれのケースにおいても鉄骨梁はH形鋼である。梁断面は、H-650×200×6×13、せん断スパンは、4000mmと設定した。本解析ではスチフナ補剛長さL
stをパラメータにした解析検討を実施した。
【0027】
解析ケースCase1は、実際に水平スチフナ51,52による補剛を行う領域の長さ方向の寸法(以下、スチフナ補剛長さlstと表記する)が上記の鉄骨梁の設計方法によって算出される必要となるスチフナ補剛長さLst(以下、必要スチフナ補剛長さLstと表記する)より短い場合を想定した解析ケースである。必要スチフナ補剛長さLstに対するスチフナ補剛長さlstの比率(スチフナ補剛長さlst/必要スチフナ補剛長さLst)は、0.69である。
解析ケースCase2は、スチフナ補剛長さlstが必要スチフナ補剛長さLstを超える場合を想定した解析ケースである。必要スチフナ補剛長さLstに対するスチフナ補剛長さlstの比率は、1.00である。
【0028】
図7-
図10に、解析結果の荷重変形関係と変形性状を示す。
図7、
図8に示すように、スチフナ補剛長さl
stが必要スチフナ補剛長さL
stより短いCase1は、スチフナ補剛部と無補剛部との境界におけるフランジとウェブの連成座屈が発生していることが確認できる。一方で、
図9、
図10に示すように、スチフナ補剛長さl
stが必要スチフナ補剛長さL
stを超えるCase2は、梁端部での破壊が支配的であることが確認できる。
梁端部の耐力上昇に伴い、スチフナ補剛部6と無補剛部7の境界に作用する曲げモーメントが全塑性耐力に達すると、スチフナ補剛部6と無補剛部7の境界に塑性ヒンジが形成され、2ヒンジ状態となるため、塑性変形能力が急激に低下するCase1のような変形状態になる可能性がある。このような破壊状況を防ぐために端部の応力上昇を考慮して存在応力が全塑性耐力を下回る位置まで水平スチフナ51,52を確保する上記のスチフナ補剛長さL
stの設計(本実施形態の鉄骨梁の設計方法)は有効であることが確認できる。
【0029】
(水平スチフナ断面設計工程)
水平スチフナ断面設計工程では、水平スチフナ51,52の断面を以下のように設計する。
図11に、スチフナ5の配置と各種寸法の定義を示す。
図12、
図13に、水平スチフナの断面二次モーメントの算定位置を示す。
【0030】
水平スチフナ51,52の断面二次モーメントIshが水平スチフナの必要断面二次半径reqishの二乗と水平スチフナの断面積Ashとの積に0.7を乗じた値以上となる下式(2.1)を満たし、水平スチフナ51,52の断面積Ashとウェブの断面積Awとの比δshが0.1以上となる下式(2.2)を満たすように設計する。
水平スチフナの断面二次モーメントIshは、下式(2.1a)より算定し、水平スチフナの必要断面二次半径reqishは、下式(2.1b)および下式(2.1c)より算定する。
【0031】
下式(2.2)にあるサブパネルとは、上述しているように、スチフナ補剛部における、上側の水平スチフナが接合されている位置からウェブの上端部までの領域、下側の水平スチフナが接合されている位置からウェブの下端部までの領域、上下の水平スチフナの間の領域それぞれを示す。
【0032】
断面二次モーメントの算定は、「鋼構造許容応力度設計規準(S基準)」(下記の文献2)に準拠する。水平スチフナ51,52の断面積とウェブ4の断面積との比は、下記文献3、文献4に準拠する。
文献2 日本建築学会:鋼構造許容応力度設計基準 第1版 2019年10月
文献3 五十嵐規矩夫、柳下義博:曲げせん断力を受ける補剛平板の弾性座屈性状と最適補剛剛性、日本建築学会構造系論文集、第80巻 第708号、pp.321-331、2015.2
文献4 五十嵐規矩夫、井川直大、柳下義博、三井和也:水平スチフナにより補剛されたウェブの座屈性状および水平スチフナの設計法、日本建築学会構造系論文集、第85巻 第773号、pp.957-967、2020.1
【0033】
なお、水平スチフナ51,52を片側に配置する断面2次半径iの回転中心は、ウェブ4の面44を主軸として算定する(
図13参照)。
【0034】
【0035】
(FEM解析による水平スチフナの断面の設計式の検証)
上記の鉄骨梁の設計方法による水平スチフナ51,52の断面の設計式の妥当性を検証するために大変形非線形解析(FEM解析)を実施した。
図14に解析ケースを示す。いずれのケースにおいても鉄骨梁はH形鋼である。梁断面は、H-650×200×8×11、せん断スパンは、1550mmと設定した。
【0036】
解析ケースCase1の水平スチフナ断面は、上記の鉄骨梁の設計方法によって算出される水平スチフナの断面の概ね下限値となる形状である。
図15にCase1の解析モデルを示す。
解析ケースCase2の水平スチフナの断面は、上記の鉄骨梁の設計方法によって算出される水平スチフナの断面よりも安全側となる断面形状である。
【0037】
図16に、解析結果における梁の変形性能を表す評価指標である塑性変形倍率の表を示す。
図16の表から、設計条件の下限値となるCase1においてもCase2と同等以上の変形能力を有することが確認できる。よって、上記の鉄骨梁の設計方法によって算出される水平スチフナの断面を満たす水平スチフナで補剛することによって、鉄骨梁の変形性能を確保しつつより合理的な水平スチフナの断面設計が可能であることが確認できる。
【0038】
図1、
図2に示す縦スチフナ53は、スチフナ補剛部6の第2端部6bの位置に配置されることにより、スチフナ補剛部6のウェブ4に生じるせん断座屈波形をスチフナ補剛部6内に留め、無補剛部7へ影響を及ぼさないようにしている。
縦スチフナ53の必要剛性は、日本建築学会「鋼構造許容応力度設計規準」において、サブパネルの辺長比βが1より小さい場合と1以上の場合とで算定式が場合分けされている。本実施形態では、水平スチフナの長さを、梁せいの1.2倍以上(3.3適用範囲)と規定することにより、サブパネルの辺長比βは1より大きくなることが明らかであるため、β≧1の必要剛性の算定式(日本建築学会「鋼構造許容応力度設計規準」本文4.18式、下式参照)を準用している。
縦スチフナについては、必要剛性を満足している小梁のガセットプレートと併用することも可能である。
【0039】
縦スチフナ53は、下式に示す断面二次モーメント以上となるように設計し、スチフナ断面の幅厚比が16以下となるようにスチフナ板厚とスチフナ幅を決定する。
【0040】
【0041】
次に、本実施形態による鉄骨梁の設計方法の作用・効果について説明する。
スチフナ補剛部6における第2端部6b、すなわち無補剛部との境界に生じる曲げモーメントM2よりも無補剛部の耐力Ma0が小さい場合、スチフナ補剛部6と無補剛部7との境界に生じる曲げモーメントM2が無補剛部7の耐力Ma0に達するとスチフナ補剛部6と無補剛部7との境界に塑性ヒンジが形成され、2ヒンジ状態となり塑性変形能力が急激に低下する変形状態になる虞がある。これに対し、本実施形態では、スチフナ補剛部6と無補剛部7との境界に生じる曲げモーメントM2よりも無補剛部7の耐力Ma0が大きくなるようにスチフナ補剛長さLstを設計しているため、上記のような変形状態になる虞が無く、スチフナ補剛による耐力上昇を考慮したスチフナ補剛長さLstの設計が可能である。
また、本実施形態では、従来の水平スチフナの断面の設計手法と比較して、補剛効果を確保しつつより合理的な断面設計が可能である。これにより、水平スチフナ51,52の鋼材量を2割程度削減できる。
【0042】
本実施形態では、水平スチフナ51,52は、ウェブ4の一方の面のみに接合されている。これにより、鉄骨梁1の設計及び製作が容易となるとともに鋼材料削減を図ることができる。
【0043】
以上、本発明による鉄骨梁の設計方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、スチフナ補剛部6と無補剛部7との境界部分に縦スチフナ53が設けられているが、縦スチフナ53は設けられていなくてもよい。
上記の実施形態では、1つのスチフナ補剛部6に2つの水平スチフナ51,52が設けられているが、1つのスチフナ補剛部6に設けられる水平スチフナの数は適宜設定されてよい。
【0044】
上記の実施形態では、スチフナ5(水平スチフナ51,52、縦スチフナ53)は、ウェブ4の一方の面のみに接合されているが、剛性を考慮してウェブ4の両面それぞれに接合されていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 鉄骨梁
4 ウェブ
5 スチフナ
6 スチフナ補剛部
7 無補剛部
43 サブパネル
51 水平スチフナ
52 水平スチフナ